IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-有用物質の生産方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140734
(43)【公開日】2022-09-27
(54)【発明の名称】有用物質の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/42 20060101AFI20220915BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220915BHJP
   C12P 21/00 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
C12N9/42
C12N1/21
C12P21/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124449
(22)【出願日】2022-08-04
(62)【分割の表示】P 2018060623の分割
【原出願日】2018-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼介
(72)【発明者】
【氏名】上垣 眞理
(57)【要約】
【課題】 菌体1個あたりの分泌生産性を高めることで、微生物により有用物質を効率よく分泌生産することができる生産方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 培養液中に含まれる微生物により有用物質を培養液中に分泌生産する有用物質の生産方法であって、培養時の培養液の600nmにおける濁度ODと、培養定常期における培養液の600nmにおける濁度ODSとの比OD/ODSが0.009~0.90の範囲にあるときに培養液中に界面活性剤(A)を添加する有用物質の生産方法である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液中に含まれる微生物により有用物質を培養液中に分泌生産する有用物質の生産方法であって、前記微生物が大腸菌であり、前記有用物質がセルラーゼであり、培養時の培養液の600nmにおける濁度ODと、界面活性剤を添加しないときの培養定常期における培養液の600nmにおける濁度ODSとの比OD/ODSが0.009~0.90の範囲にあるときに培養液中に、前記培養液の重量に基づき0.03~0.3重量%の界面活性剤(A)を添加する有用物質の生産方法。
【請求項2】
界面活性剤(A)が、HLBが0.1~16のノニオン界面活性剤(A1)、アニオン界面活性剤(A2)、両性界面活性剤(A3)及びカチオン界面活性剤(A4)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の有用物質生産方法。
【請求項3】
ノニオン界面活性剤(A1)のHLBが1~16であり、かつ数平均分子量が100~20,000である請求項2に記載の有用物質の生産方法。
【請求項4】
前記セルラーゼがペリプラズム内へ又は細胞外へ移行するセルラーゼである請求項3に記載の有用物質の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用物質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は、アミノ酸及びタンパク質等の有用物質を製造するために広く利用されている。有用物質生産に用いる微生物として、グラム陰性菌(例えば大腸菌)、グラム陽性菌及び酵母が広く利用されている。
【0003】
遺伝子工学技術の進展に伴って医薬上・産業上有用なタンパク質の遺伝子を大腸菌に導入して有用タンパク質を効率的に製造する技術が知られている。
【0004】
大腸菌を用いてタンパク質を発現した場合、目的の有用タンパク質は微生物内で生産される。生産された目的タンパク質を大腸菌の体外へ抽出するためには、超音波、高圧ホモジナイザー、フレンチプレス等の物理的破砕法が必要となり、これらの物理的破砕法はタンパク質を取り出す際、大腸菌の細胞内に存在する目的タンパク質以外の物質も大量に混入するため、純度が低下するという問題がある。
【0005】
一方で、有用物質の生産にグラム陽性菌や酵母を用いると、生産した有用物質は菌体外へ分泌され、目的の有用物質以外の物質の混入が少ない(例えば非特許文献1及び2)。しかし、グラム陽性菌や酵母は、大腸菌と比較してタンパク質の生産能力が低いという課題がある。
【0006】
これらの問題を解決するタンパク質の生産方法として、界面活性剤を用いて有用物質を分泌させる生産方法が知られている(例えば特許文献1)。分泌生産を行う際、高い生産性を持続でき、生産時間を長くすることが生産性の向上につながる。
【0007】
しかし、特許文献1の方法では菌体1個あたりの分泌生産性が低いために、菌体外に分泌されて得られるタンパク質等の有用物質の生産量が少なく、高い生産性の向上が困難という課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010/137624号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】バイオインダストリー協会、発酵ハンドブック、共立出版、2001年7月
【非特許文献2】新生物化学工学(第2版)、三共出版、2013年3月、p17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、菌体1個あたりの分泌生産性を高めることで、微生物により有用物質を効率よく分泌生産することができる生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、培養液中に含まれる微生物により有用物質を培養液中に分泌生産する有用物質の生産方法であり、培養時の培養液の600nmにおける濁度ODと、培養定常期における培養液の600nmにおける濁度ODSとの比OD/ODSが0.009~0.90の範囲にあるときに培養液中に界面活性剤(A)を添加する有用物質の生産方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有用物質の生産方法は、菌体1個あたりの分泌生産性を高めることで、微生物により有用物質を効率よく分泌生産することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の有用物質の生産方法において、界面活性剤(A)を添加する時期とそのOD、培養定常期とそのODSを説明する増殖曲線を表す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の有用物質の生産方法は、培養液中に含まれる微生物により有用物質を培養液中に分泌生産する有用物質の生産方法であって、培養時の培養液の600nmにおける濁度ODと、培養定常期における培養液の600nmにおける濁度ODSとの比OD/ODSが0.009~0.90の範囲にあるときに培養液中に界面活性剤(A)を添加することを特徴とする。
【0016】
培養液の濁度ODは下記の測定方法と計算式によって算出する。
<培養液の濁度ODの測定方法>
サンプリングした微生物を含む培養液を用いて、濁度計[例えば(株)島津製作所社製、UV-1700]を用いて、光路長1cmの石英セルを用いて濁度の測定を行う。
【0017】
培養液を、4℃で1500rpm、5分間遠心分離し、上清を破棄する。沈澱部分を破棄した上清の液量と同量の生理食塩水を加えて攪拌して再懸させ、適切な吸光度(0.1~0.8)になるように生理食塩水で希釈して600nmの吸光度を測定する。
【0018】
培養液の濁度ODは下記の計算式で算出される。
培養液の濁度(OD)=(希釈した培養液の600nmの吸光度)×培養液の希釈倍率
本発明ではこの培養液の濁度ODが相対的に培養液中の微生物の個数を表していると考えている。
【0019】
培養液中に界面活性剤(A)を添加するときの培養時の培養液の600nmにおける濁度ODと、培養定常期における培養液の600nmにおける濁度ODSとの比OD/ODSは、菌体1個当たりの有用物質の分泌生産性の観点から0.009~0.90であり、好ましくは0.009~0.80である。すなわち、OD/ODSが0.009~0.90の範囲にあるときに界面活性剤(A)を添加することにより、菌体を死滅させることなく有用物質を連続的に分泌生産することができる。
【0020】
本発明における培養定常期とは、界面活性剤を添加しない培養において、図1に示したように、栄養素の消耗,あるいは,有毒代謝物の蓄積によって対数増殖期が終わり、培養液中の微生物が増殖する一方で,一部は死滅するため,培養液の濁度に増減が起こらない時期である。
【0021】
本発明における培養定常期ODSは本検討の前にあらかじめ本検討と同じ組成及び使用量の培地、菌体を使用し、かつ同じ培養条件により培養する試験培養を一度実施することで求めることができる。試験培養では、培養開始から培養時の培養液の600nmにおける濁度ODを継時的に測定して増殖曲線を描くことで、培養定常期における培養液の600nmにおける濁度ODSを求めることができる。
【0022】
この図1で示した培養定常期の濁度ODSと濁度ODにおいてOD/ODSが0.009~0.90の範囲にあるときに界面活性剤(A)を添加する。この時期としては、微生物が分裂を開始して対数的に増殖を始める時期である対数増殖期に界面活性剤(A)を添加することが好ましい。一方、培養誘導期(微生物が培地環境に順応して増殖を開始するまでの準備時期であり、微生物はほとんど増殖していない期間)に添加すると微生物の増殖が阻害され、有用物質の分泌生産性が低下してしまう。
本発明の有用物質の生産方法で使用される界面活性剤(A)は、ノニオン界面活性剤(A1)、アニオン界面活性剤(A2)、両性界面活性剤(A3)及びカチオン界面活性剤(A4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤であるが、(A1)の場合はそのHLBが0.1~16のものが好ましい。
【0023】
ノニオン界面活性剤(A1)としては、アルコールアルキレンオキサイド(以下、アルキレンオキサイドをAOと略記することがある。)付加物(A1a)、アルキルフェノールAO付加物(A1b)、脂肪酸AO付加物(A1c)、多価アルコール型ノニオン界面活性剤(A1d)等が挙げられる。
【0024】
ノニオン界面活性剤(A1)の親水性及び疎水性を示す尺度としてHLBが知られている。HLBの値が高いほど親水性が高いことを意味する。本発明におけるHLBとは下記の数式で計算される数値である(藤本武彦著、界面活性剤入門、212頁、三洋化成工業株式会社発行)。
HLB=10×(無機性/有機性)
ノニオン界面活性剤(A1)のHLBは、分泌効率の観点から、0.1~16が好ましく、さらに好ましくは1~16である。
【0025】
ノニオン界面活性剤(A1)の数平均分子量は有用物質の分泌効率の観点から100~20,000が好ましく、さらに好ましくは200~20,000である。
【0026】
アルコールAO付加物(A1a)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリアルキレングリコールが挙げられる。
(A1a)として具体的には、炭素数8~24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコール及びオレイルアルコール等)のエチレンオキサイド(以下、エチレンオキサイドをEOと略記することがある。)0~20モル及び/又はプロピレンオキサイド(以下、プロピレンオキサイドをPOと略記することがある。)1~20モル付加物(ブロック付加物及び/又はランダム付加物を含む。以下同様)[例えば、デシルアルコールのEO8モル/PO7モルブロック付加物]が含まれる。
(A1a)としてさらに具体的には、ラウリルアルコールEO7モル付加物(HLB=12.4)、オレイルアルコールEO5モル付加物(HLB=9.0)、オレイルアルコールEO6モル付加物(HLB=10.2)、オレイルアルコールEO7モル付加物(HLB=11.0)及びオレイルアルコールEO10モル付加物(HLB=12.4)、1,2-ドデカンジオールモノオキシエチレン付加物等が挙げられる。
【0027】
アルキルフェノールAO付加物(A1b)としては、炭素数6~24のアルキル基を有するアルキルフェノールAO付加物が挙げられる。
【0028】
(A1b)として具体的には、オクチルフェノールのEO1~20モル及び/又はPO1~20モル付加物、並びにノニルフェノールのEO1~20モル及び/又はPO1~20モル付加物等が挙げられる。
【0029】
また、TRITONTMX-114(HLB=12.4)、igepalTMCA-520(HLB=10.0)及びigepalTMCA-630(HLB=13.0)等が市場から容易に入手できる。
脂肪酸AO付加物(A1c)としては、炭素数8~24の脂肪酸(デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びヤシ油脂肪酸等)のEO1~20モル及び/又はPO1~20モル付加物が挙げられる。
(A1c)として具体的には、オレイン酸EO9モル付加物(HLB=11.8)、ジオレイン酸EO12モル付加物(HLB=10.4)、ジオレイン酸EO20モル付加物(HLB=12.9)及びステアリン酸EO9モル付加物(HLB=11.9)等が挙げられる。
多価アルコール型ノニオン界面活性剤(A1d)としては、炭素数3~36の2~8価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビット及びソルビタン等)のEO及び/又はPO付加物;前記多価アルコールの脂肪酸エステル及びそのEO付加物、並びに、ショ糖の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等)及びこれらのAO付加物が挙げられる。
(A1d)として具体的には、ソルビタンテトラオレイン酸エステルEO付加物(HLB=11.4)及びソルビタンヘキサオレイン酸エステルEO付加物(HLB=10.2)等が挙げられる。
【0030】
これらのノニオン界面活性剤(A1)のうち、好ましいのはアルコールAO付加物(A1a)及び多価アルコール型ノニオン界面活性剤(A1d)である。さらに好ましいのは(A1a)のデシルアルコールEO付加物、ポリプロレングリコールEOブロック付加物(A1d)のヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドである。
アニオン界面活性剤(A2)としては、エーテルカルボン酸(A2a)及びその塩、硫酸エステル(A2b)又はその塩、エーテル硫酸エステル(A2c)及びその塩、スルホン酸塩(A2d)、スルホコハク酸塩(A2e)、リン酸エステル(A2f)及びその塩、エーテルリン酸エステル(A2g)及びその塩、脂肪酸塩(A2h)、アシル化アミノ酸塩並びに天然由来のカルボン酸及びその塩(ケノデオキシコール酸、コール酸及びデオキシコール酸等)等が挙げられる。
【0031】
エーテルカルボン酸(A2a)又はその塩としては炭化水素基(炭素数8~24)を有するエーテルカルボン酸及びその塩が挙げられる。
【0032】
(A2a)又はその塩として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸ナトリウム塩及びラウリルグリコール酢酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0033】
硫酸エステル(A2b)及びその塩としては、炭化水素基(炭素数8~24)を有する硫酸エステル及びその塩が挙げられる。
【0034】
(A2b)及びその塩として具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム塩及びラウリル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0035】
エーテル硫酸エステル(A2c)及びその塩としては、炭化水素基(炭素数8~24)を有するエーテル硫酸エステル及びその塩が挙げられる。
【0036】
(A2c)及びその塩として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0037】
スルホン酸塩(A2d)としては、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩及びナフタレンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0038】
スルホコハク酸塩(A2e)としては、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸二ナトリウム塩、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム塩及びスルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0039】
リン酸エステル(A2f)としては、オクチルリン酸二ナトリウム塩及びラウリルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0040】
エーテルリン酸エステル(A2g)としては、ポリオキシエチレンオクチルエーテルリン酸二ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0041】
脂肪酸塩(A2h)としては、オクチル酸ナトリウム塩、ラウリル酸ナトリウム塩及びステアリン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0042】
これらのアニオン界面活性剤(A2)のうち、好ましいのはエーテルカルボン酸(A2a)、スルホン酸塩(A2d)である。
【0043】
さらに好ましいのは(A2a)のポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム塩、(A2d)のドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩である。
【0044】
有用物質の分泌効率の観点から、アニオン界面活性剤(A2)のアニオン性基の水中(25℃)でのpKaは1~5が好ましく、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1~3.6である。
【0045】
pKaが1~5のアニオン性基として具体的には、カルボキシル基(-COOH)、硫酸基(-OSO3H)、スルホ基(-SO3H)、スルフィノ基(-SO2H)、スルフェノ基(-SOH)、リン酸基{-OP(=O)(-OH)2}等の酸性基及びその塩の基が挙げられる。
【0046】
なお、アニオン界面活性剤(A2)が2個以上のアニオン性基を有する場合は、いずれか1つのpKaが上記範囲であればよく、すべてのアニオン性基のpKaが上記範囲であることがさらに好ましい。
【0047】
両性界面活性剤(A3)としては、カルボン酸塩型両性界面活性剤(A3a)、硫酸エステル塩型両性界面活性剤(A3b)、スルホン酸塩型両性界面活性剤(A3c)及びリン酸エステル塩型両性界面活性剤(A3d)等が含まれる。
【0048】
カルボン酸塩型両性界面活性剤(A3a)としては、アミノ酸型両性界面活性剤(A3a1)、ベタイン型両性界面活性剤(A3a2)及びイミダゾリン型両性界面活性剤(A3a3)等が挙げられる。
【0049】
アミノ酸型両性界面活性剤(A3a1)としては、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する両性界面活性剤であり、下記一般式で示される化合物等が挙げられる。
[R-NH-(CH)n-COO]m・Mm (1)
一般式(2)中、Rは炭素数1~20の1価の炭化水素基である。nは1以上の整数である。mは1以上の整数である。Mはプロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム(アミン及びアルカノールアミン等由来のカチオンを含む)及び第4級アンモニウム等の1価又は2価のカチオンである。
(A3a1)として具体的には、アルキルアミノプロピオン酸型両性界面活性剤(コカミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム及びラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等);アルキルアミノ酢酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノ酢酸ナトリウム等)及びN-ラウロイル-N’-カルボキシメチル-N’-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等が挙げられる。
【0050】
ベタイン型両性界面活性剤(A3a2)は、分子内に第4級アンモニウム塩型のカチオン部分とカルボン酸型のアニオン部分を持っている両性界面活性剤である。
【0051】
(A3a2)は下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
R-N(CH-CH2COO (2)
一般式(2)中、Rは炭素数1~20の1価の炭化水素基である。
【0052】
(A3a2)として具体的には、アルキルジメチルベタイン(ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)、アミドベタイン(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)及びラウリン酸アミドプロピルベタイン等)及びアルキルジヒドロキシアルキルベタイン(ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)、硬化ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0053】
イミダゾリン型両性界面活性剤(A3a3)としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0054】
その他の両性界面活性剤としては、ナトリウムラウロイルグリシン、ナトリウムラウリルジアミノエチルグリシン、ラウリルジアミノエチルグリシン塩酸塩及びジオクチルジアミノエチルグリシン塩酸塩等のグリシン型両性界面活性剤;ペンタデシルスルホタウリン等のスルホベタイン型両性界面活性剤;コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)、コールアミドプロピルジメチルアンモニオ2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO);ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイド型両性界面活性剤等が含まれる。
【0055】
これらの両性界面活性剤(A3)のうち、好ましいのはカルボン酸塩型両性界面活性剤(A3a)、リン酸エステル塩型両性界面活性剤(A3d)である。
【0056】
さらに好ましいのは(A3a)のラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、コカミノプロピオン酸ナトリウム塩である。
【0057】
有用物質の分泌効率の観点から、両性界面活性剤(A3)のアニオン性基の水中(25℃)でのpKaは1~5が好ましく、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1~3.6である。また、両性界面活性剤(A3)のカチオン性基によるpKaは8~14が好ましく、さらに好ましくは9~14、特に好ましくは9.2~14である。
【0058】
pKaが1~5のアニオン性基として、両性界面活性剤(A3)で例示したものと同じである。
【0059】
pKaが8~14のカチオン性基としては、第4級アンモニオ基、第1級~第3級アミノ基等及びその塩の基が挙げられる。
【0060】
なお、両性界面活性剤(A3)が2個以上のアニオン性基を有する場合は、いずれか1つのpKaが上記範囲であればよく、すべてのアニオン性基のpKaが上記範囲であることがさらに好ましく、2個以上のカチオン性基を有する場合は、いずれか1つのpKaが上記範囲であればよく、すべてのカチオン性基のpKaが上記範囲であることがさらに好ましい。
【0061】
カチオン界面活性剤(A4)としては、アミン塩型カチオン界面活性剤(A4a)及び第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A4b)等が含まれる。
【0062】
アミン塩型カチオン界面活性剤(A4a)としては、1~3級アミンを無機酸(塩酸、硝酸、硫酸、ヨウ化水素酸など)または有機酸(酢酸、ギ酸、蓚酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、アルキル燐酸など)で中和したものが挙げられる。
【0063】
例えば、第1級アミン塩型のものとしては、脂肪族高級アミン(ラウリルアミン、ステアリルアミン、セチルアミン、硬化牛脂アミン、ロジンアミンなどの高級アミン)の無機酸塩または有機酸塩;低級アミン類の高級脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸など)塩などが挙げられる。
【0064】
第2級アミン塩型のものとしては、例えば脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物などの無機酸塩または有機酸塩が挙げられる。また、第3級アミン塩型のものとしては、例えば、脂肪族アミン(トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなど)、脂肪族アミンのエチレンオキサイド(2モル以上)付加物、脂環式アミン(N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルヘキサメチレンイミン、N-メチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセンなど)、含窒素ヘテロ環芳香族アミン(4-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、4,4’-ジピリジルなど)の無機酸塩または有機酸塩;トリエタノールアミンモノステアレート、ステアラミドエチルジエチルメチルエタノールアミンなどの3級アミン類の無機酸塩または有機酸塩などが挙げられる。
【0065】
第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A4b)としては、3級アミン類と4級化剤(メチルクロライド、メチルブロマイド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸などのアルキル化剤;エチレンオキサイドなど)との反応で得られるものが挙げられる。
【0066】
例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、セチルピリジニウムクロライド、ポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド、ステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェートなどが挙げられる。
【0067】
これらのカチオン界面活性剤(A4)のうち、好ましいのは第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A4b)であり、さらに好ましいのは塩化ラウリルトリメチルアンモニウムである。
【0068】
有用物質の分泌効率の観点から、カチオン界面活性剤(A4)のカチオン性基によるpKaは8~14が好ましく、さらに好ましくは9~14、特に好ましくは9.2~14である。
【0069】
pKaが8~14のカチオン性基としては、第4級アンモニオ基、第1級~第3級アミノ基等及びその塩の基が挙げられる。
【0070】
なお、カチオン界面活性剤(A4)が2個以上のカチオン性基を有する場合は、いずれか1つのpKaが上記範囲であればよく、すべてのカチオン性基のpKaが上記範囲であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明において界面活性剤(A)は、界面活性剤(A)をそのまま使用してもよいし、必要により水と混合して、水性希釈液(水溶液状又は水分散液状)として用いてもよい。
【0072】
水性希釈液における、界面活性剤(A)の合計濃度は、対象となる微生物、生理活性物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、有用物質の分泌性及びハンドリング性の観点から、水性希釈液の重量を基準として、0.1~99重量%が好ましく、より好ましくは1~50重量%である。
【0073】
本発明の有用物質の生産方法で使用される界面活性剤(A)の使用量(重量%)は、対象となる微生物、生産される有用物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、培養液の重量を基準として、細胞毒性、有用物質の分泌効率及びタンパク質の変性のさせにくさの観点から、0.0001~10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.001~8重量%であり、次にさらに好ましくは0.005~5重量%であり、特に好ましくは0.01~2.5重量%である。
【0074】
本発明の生産方法に用いる培養液としては、当技術分野で一般的に用いられる細胞培養用培地あれば特に制限なく用いることができ、炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0075】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。
【0076】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸あるいは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー等が挙げられる。
【0077】
その他の必須栄養素としては、無機塩類が挙げられ、無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0078】
本発明における有用物質は、特に限定されないが、タンパク質(酵素、ホルモンタンパク質、抗体及びペプチド等)、オリゴ糖及び核酸等が含まれる。
【0079】
タンパク質としては、酵素{酸化還元酵素(コレステロールオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ等)、加水分解酵素(リゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ及びグルコアミラーゼ等)、異性化酵素(グルコースイソメラーゼ等)、転移酵素(アシルトランスフェラーゼ及びスルホトランスフェラーゼ等)、合成酵素(脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ及びクエン酸シンターゼ等)及び脱離酵素(ペクチンリアーゼ等)等}、ホルモンタンパク質{骨形成因子(BMP)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子及びカルシトニン等}、抗体{1本鎖抗体、IgGラージサブユニット、IgGスモールサブユニット等}、抗原タンパク質{B型肝炎表面抗原等}、機能性タンパク質{プロネクチン(登録商標)、不凍ペプチド、抗菌ペプチド等}、蛍光タンパク質(GFP等)、発光タンパク質(ルシェラーゼ等)及びペプチド(特にアミノ酸組成を限定するものではなく、オリゴペプチド、ジペプチド及びトリペプチド等)等が挙げられる。
【0080】
オリゴ糖としては、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、ラフィノース、パノース、シクロデキストリン、ガラクトオリゴ糖及びフラクトオリゴ糖等が挙げられる。
【0081】
核酸としては、イノシン一リン酸、アデノシン一リン酸及びグアノシン一リン酸等が挙げられる。
【0082】
これらの有用物質のうち、有用物質の作成の容易さの観点から、タンパク質が好ましく、さらに好ましくは抗体、酵素及びホルモンタンパク質である。
【0083】
有用物質がタンパク質である場合、タンパク質が微生物内で発現した後、一部又は全てがペリプラズム又は細胞外へ移行する性質をタンパク質が有している事が好ましい。
【0084】
さらに好ましくはペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列をORF中にコードしているタンパク質である。
【0085】
ペリプラズムとは、微生物の細胞質膜より外側で微生物の最表面までの空間の事である。
【0086】
ペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列としては、Sec分泌シグナル配列やTAT分泌シグナル、α-シグナル配列等が挙げられる。
【0087】
本発明における微生物は、以下に例を挙げるがこれに限定するものではない。
【0088】
微生物としては細菌や最外層に多糖を含む細胞壁を有する真核生物が挙げられる。最外層とは、細胞膜より外層に位置する層で細胞の最表面で外的環境を直接接触している層である。多糖とは、単糖がグリコシド結合により多量体をとった化合物であり、リポ多糖は含まない。
【0089】
細菌は、真正細菌及び古細菌が含まれる。真正細菌は、グラム陰性菌及びグラム陽性菌が含まれる。最外層に多糖を含む細胞壁を有する真核生物は、真菌類及び藻類等が含まれる。グラム陰性菌としては、Escherichia、Thermus、Rhizobium、Pseudomonas、Shewanella、Vibrio、Salmonella、Acetobacter、Synechocystis等が挙げられる。グラム陽性菌としては、Bacillus、Streptmyces、Corynebacterium、Brevibacillus、Bifidobacterium、Lactococcus、Enterococcus、Pediococcus及びLeuconostoc等が挙げられる。真菌類としては、担子菌門(Basidiomycota)、子嚢菌門(Ascomycota)、ツボカビ門(Chytridiomycota)、ネオカリマスティクス門(Neocallimastigomycota)、コウマクノウキン門(Blastocladiomycota)、微胞子虫門(Microsporidia)、グロムス門(Glomeromycota)、ケカビ亜門(Mucoromycotina)、ハエカビ亜門(Entomophthoromycotina)、トリモチカビ亜門(Zoopagomycotina)及びキックセラ亜門(Kickxellomycotina)等が挙げられる。子嚢菌門(Ascomycota)としては、Ambrosiozyma、Arxula、Babjevia、Blastobotrys、Candida、Citeromyces、Clavispora、Debaryomyces、Dekkera、Dipodascus、Galactomyces、Geotrichum、Hanseniaspora、Hansenula、Kazachstania、Kloeckera、Kluyveromyces、Lipomyces、Lodderomyces、Metschnikowia、Myxozyma、Nadsonia、Ogataea、minuta、Pachysolen、Pichia、Saccharomyces、Saccharomycopsis、Saitoella、Saprochaete、Saturnispora、Schizoblastosporion、Schizosaccharomyces、Sporopachydermia、Starmerella、Stephanoascus、Symbiotaphrina、Sympodiomyces、Tetrapisispora、Torulaspora、Trigonopsis、Wickerhamia、Wickerhamiella、Williopsis、Yarrowia、Zygoascus、Zygosaccharomyces、Zygozyma、Bannoa、Bensingtonia、Bullera、Bulleromyces、Cryptococcus、Curvibasidium、Cystofilobasidium、Dioszegia、Erythrobasidium、Dioszegia、Erythrobasidium、Fellomyces、Fibulobasidium、Filobasidium、Filobasidiella、Guehomyces、Kockovaella、Kondoa、Kurtzmanomyces、Leucosporidium、Malassezia、Mastigobasidium、Mrakia、Occultifur、Pseudozyma、Rhodosporidium、Rhodotorula、Sakaguchia、Sirobasidium、Sporidiobolus、Sporobolomyces、Sterigmatomyces、Sterigmatosporidium、Sympodiomycopsis、Tausonia、Tilletiopsis、Trichosporiella、Trichosporon、Tsuchiyaea、Udeniomyces、及びXanthophyllomyces等の株が挙げられる。藻類としては、真正細菌であるシアノバクテリア(藍藻)、真核生物で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻及び渦鞭毛藻等)等が挙げられる。
【0090】
これらのうち、有用物質の生産性の観点から、本発明の微生物は、グラム陰性菌、グラム陽性菌、真子嚢菌門である酵母からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0091】
さらに好ましくはEscherichia、Corynebacterium、Saccharomyces、Pichia、Candida、Schizosaccharomyces、Yarrowia、Hansenula、Ogataea、Kluyveromyces及びPseudozymaからなる群より選ばれる少なくとも1種である。微生物は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
本発明の有用物質の生産方法において、培養液中の界面活性剤による分泌効率(%)は、生産性の観点から、55~100が好ましく、さらに好ましくは60~100、次にさらに好ましくは65~100、特に好ましくは70~100である。
【0093】
分泌効率とは、界面活性剤により微生物内の有用物質が微生物外(培養液中)へ分泌されることを示している。
【0094】
なお、本発明においては、下記式(5)によって定義される。
分泌効率(%)=100×(X)/{(X)+(Y)} (5)
X(培養上清):遠心分離による菌体除去後に残る培養液中の有用物質の重量
Y(菌体表面):遠心分離により集めた菌体を洗浄し、再懸濁した菌体懸濁液中の有用物質の重量
分泌効率は、例えば微生物内で生産されたタンパク質がよりペリプラズム移行するようにすれば分泌効率は上がり、よりペリプラズム移行しないようにすれば分泌効率は下がる。また、スクリーニングによって分泌効率の高い界面活性剤を選定することにより分泌効率を上げることができる。
【0095】
界面活性剤(A)と培養液との混合は、4℃~99℃で培養液に界面活性剤を添加し、撹拌羽根又はスターラー等で撹拌することで行うことができる。混合する際は、撹拌羽根等で撹拌しながら添加することで行うことができる。
【0096】
本発明の有用物質の生産方法において、有用物質の分泌生産をする生産方法には、下記工程(a)及び(b)を含む微生物外分泌生産方法が含まれる。下記工程において、有用物質を分泌生産する工程は工程(a)である。
工程(a):有用物質を生産する微生物(酵母等)を培養する培養液と界面活性剤を同時に存在させて有用物質を微生物外(培養液中)に分泌させる工程。
工程(b):工程(a)の後、培養液から有用物質を分離する工程。
【0097】
以下に本発明の界面活性剤(A)を使用する有用物質の生産方法の一例を示す。
(i)遺伝子組み換え
(i-1)目的タンパク質を発現している細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該二本鎖DNAをファージDNA又はプラスミドに組み込む。得られた組み換えファージ又はプラスミドを微生物に形質転換しcDNAライブラリーを作成する。
(i-2)目的とするDNAを含有するファージDNA又はプラスミドをスクリーニングする方法としては、ファージDNA又はプラスミドと目的タンパク質遺伝子又は相補配列の一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション法が挙げられる。
(i-3)スクリーニング後のファージ又はプラスミドから目的とするクローン化DNA又はその一部を切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって、目的遺伝子の発現ベクターを作成することができる。内膜を移行させるシグナル配列(ペリプラズムに目的物質を発現させるシグナル配列)をコードするDNAを同時に連結することもできる。
(ii)培養
(ii-1)宿主微生物を発現ベクターで形質転換して組み換え微生物を作成し、組み換え微生物を前培養する。前培養は寒天培地上で通常15~43℃で3~72時間行う。
(ii-2)有用物質の生産に用いる培養液を121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、ここに寒天培地で前培養した組み換え微生物を培養する。培養は、通常15~43℃で12~72時間行う。
(iii)精製
(iii-1)培養液中に分泌されたタンパク質は、遠心分離、中空糸分離、ろ過等で微生物及び微生物残さと分離される。
(iii-2)タンパク質を含む培養液は、イオン交換カラム、ゲルろ過カラム、疎水カラム、アフィニティカラム及び限外カラム等のカラム処理を繰り返し、エタノール沈殿、硫酸アンモニウム沈殿及びポリエチレングリコール沈殿等の沈殿処理を必要に応じ適宜行うことによって分離精製される。
【0098】
(iii-1)で分離された宿主微生物は、その後、新たに培養液を供給することにより、さらに培養することができる。その培養液等をさらに(iii)の工程に供し精製、培養を繰り返すことにより、有用物質の連続生産を行うことができる。
【0099】
上記の(iii)の精製工程においてカラム処理をおこなう場合、カラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としては、シリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド及びビニルポリマー等が挙げられ、市販品ではCaptoシリーズ、Sephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、GEヘルスケア社)、Bio-Gelシリーズ(Bio-Rad社)等が挙げられる。
【0100】
本発明の有用物質の生産方法を使用することにより、微生物が生産した有用物質を高効率で培養液中へ分泌させることができ、短時間で高い収量を得ることができるため、高生産量を達成することができる。また、本発明の有用物質の生産方法は、有用物質が培養液中に分泌されるため、有用物質の精製が容易である。
【0101】
本発明の有用物質生産方法は、界面活性剤と微生物とを同時に存在させて、有用物質を培養液中に分泌させる工程を含む。この工程において、微生物が生存している限り、微生物が有用物質を作成し培養液中に分泌することができると推測される。さらに、微生物が有用物質を作製する能力を有していれば、作製する有用物質の種類は問わず本発明の生産方法が使用できると推測される。
【0102】
本発明の有用物質生産方法は、微生物内で作成した有用物質が微生物のペリプラズムに移行している場合に特に有効である。有用物質がペリプラズムに移行していることによって、有用物質が培養液中に分泌されやすくなる。
【実施例0103】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
製造例1 <界面活性剤(A1-1)の製造>
ステンレス製加圧反応装置にサンニックスPP-2000[三洋化成(株)製;ポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量:2000)]450部と水酸化ナトリウム0.05部を仕込み、窒素置換後に110~130℃でエチレンオキサイド50部を4時間かけて圧入した後、同温度でさらに10時間反応させ、界面活性剤(A1-1)を得た。(A1-1)のHLB=1.8、Mn=2,200であった。
製造例2 <界面活性剤(A1-2)の製造>
製造例1において、サンニックスPP-2000 450部に代えてサンニックスPP-3000[三洋化成(株)製;ポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量:3200)]を101部使用し、エチレンオキサイドの圧入量を50部から399部に変更した以外は同様の操作を行い、界面活性剤(A1-2)を得た。(A1-2)のHLB=15.9、Mn=16,000であった。
【0104】
実施例及び比較例で使用した界面活性剤(A1-1)及び(A1-2)の数平均分子量Mnは下記の方法により測定した。
【0105】
数平均分子量は、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記)への可溶分に対し、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて以下の条件で測定した。
【0106】
測定装置:東ソー株式会社製の「HLC-8120」
カラム:東ソー株式会社製の「TSKgelGMHXL」(2本)と東ソー(株)製の「T SKgelMultiporeHXL-M」(1本)
試料溶液:0.25質量%のTHF溶液
カラムへの試料溶液の注入量:100μL
流速:1mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:東ソー株式会社製の標準ポリスチレン(TSK standard POLYSTYRENE)12点(数平均分子量:500、1050、2800、5970、9100、18100、37900、96400、190000、355000、1090000、2890000)。
実施例1~18及び比較例1~3 <大腸菌を用いたセルラーゼの分泌生産性と分泌効率の評価>
pET-22bプラスミド(Novagen社)をNcoI制限酵素サイトとBamHI制限酵素サイトで切断し、人工合成(Thermo社で委託合成)した両端にNcoIとBamHI切断部位を持つBacillus licheni formisのbglC遺伝子を組み込んだ。
【0107】
その後BL21(DE3)大腸菌株(Novagen社)にこのプラスミドを形質転換しセルラーゼ発現株を作製した。発現したセルラーゼがペリプラズム画分に局在することをMETHODS IN ENZYMOLOGY 353巻 2002年 121頁の方法に基づいて解析し確認した。作製したセルラーゼ発現大腸菌を白金耳を用いてLB培地[LB Broth, Miller、Difco Laboratories製]2mLに植菌して30℃で15時間、150rpmで振とう培養を行い、前培養液を作製した。作製した前培養液を最終濁度(OD)が0.03OD/mLとなるように1mLの培地〔酵母エキス[日本製薬(株)製]24mg、ポリペプトン[日本製薬(株)製]12mg、リン酸2カリウム9.4mg、リン酸1カリウム2.2mg、硫酸アンモニウム7mg、リン酸2ナトリウム12水和物13.2mg、クエン酸ナトリウム2水和物0.4mg、グリセロール4mg、ラクトアルブミン加水分解物3mg、1mM硫酸マグネシウム、微量金属溶液[塩化カルシウム0.38μg、塩化鉄(III)10μg、硫酸亜鉛7水和物0.18μg、硫酸銅0.1μg、塩化マンガン4水和物0.13μg、塩化コバルト0.1μg、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム4μg]、100mg/Lアンピシリン〕に植菌し30℃で150rpmで撹拌培養を開始した。
【0108】
培養開始から2時間後に、Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranosideを終濃度1mMとなるように添加し、撹拌培養を続けた。
【0109】
表1に記載の培養時間となった時点で表1に記載する界面活性剤(A)(比較例1では純水)を培養液の重量[培地、前培養液、Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside並びに添加する界面活性剤(A)の合計重量]を基準として、表1に記載する重量%となるように添加し、撹拌培養を続けた。
【0110】
培養開始から30時間後に培養液をサンプリングし、遠心分離機によって、培養液から菌体と培養上清を分離し、培養上清と菌体を回収した。菌体1個あたりの分泌生産性及び分泌効率(%)を評価し、結果を表1に記載した。
【0111】
なお、界面活性剤(A)を添加する培養時間はあらかじめ本比較例3と同様にして試験培養を実施することで培養定常期ODSを求めることで決定した。
【0112】
【表1】

なお、表1~3中、界面活性剤(A1-3)~(A4-1)は下記を使用した。
(A1-3):ソルビタンヤシ油脂肪酸エステル、HLB=8.5、Mn=346
(A2-1):ポリオキシエチレン(EO2.5モル)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、pKa=1.99
(A2-2):ポリオキシエチレン(EO3モル)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム、pKa=3.55
(A3-1):2-(ドデシルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウム、pKa=1.99と10.77
(A3-2):ドデシル-β-アミノプロピオン酸ナトリウム、pKa=3.55と10.77
(A3-3):ミルテホシン、pKa=2.15と14.0
(A3-4):ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、pKa=3.55と14.0
(A4-1):塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、pKa=14.0
なお、大腸菌体1個あたりのセルラーゼの分泌生産性と分泌効率の測定方法と計算方法は以下の方法で行う。
<培養液の濁度の測定方法>
サンプリングで回収した微生物を含む培養液を用いて、濁度計[(株)島津製作所社製、UV-1700]を用いて、光路長1cmの石英セルを用いて濁度の測定を行った。
【0113】
培養液は、1500rpm、5分、4℃で遠心し、上清を破棄した。沈澱をサンプル液量と同量の生理食塩水で再懸濁し、適切な吸光度(0.1~0.8)になるように生理食塩水で希釈して600nmの吸光度を測定した。培養液の濁度は下記数式(1)によって算出した。
培養液の濁度(OD)=(希釈した培養液の600nmの吸光度)×培養液の希釈倍率 (1)
<菌体1個あたりの分泌生産性の評価:分泌生産したセルラーゼの活性測定>
セルラーゼ活性としてエンド-1,4-β-グルカナーゼ活性を測定した。
【0114】
pH7.5の100mMリン酸バッファー水溶液に、17.5g/Lになるようにカルボキシメチルセルロース(和光純薬工業(株)製)を溶解し、基質溶液を調整した。
【0115】
実施例1~18及び比較例1~3で得た各培養液を遠心分離(13000G×15min)して得た培養上清5μLと、基質溶液3mLとを混合し、この混合液を、粘度計(TVE-22L粘度計、2rpm)の40℃に温調したカップに移す。
【0116】
混合直後に粘度を読み取り、更に1、2、3、4、5及び6分後に粘度を読み取り、時間(分)をX軸、粘度(mPa・s)をY軸とするX-Y座標図プロットし、最小二乗法で直線を引いた時の傾きの絶対値をセルラーゼ活性(エンド-1,4-β-グルカナーゼ活性)と定義した。
〔分泌生産したセルラーゼの活性〕=〔直線の傾き〕×希釈倍率
〔菌体1個あたりの分泌生産性〕=〔分泌生産したセルラーゼの活性〕/〔培養定常期の濁度〕
なお、表1中の「菌体1個あたりの分泌生産性(相対値)」は、比較例1(界面活性剤を用いないブランク)の上記の「菌体1個あたりの分泌生産性」を1.00とした場合の相対比で表した。
<菌体表面に残ったセルラーゼの活性測定>
実施例1~18及び比較例1~3で得た菌体に、除去した上清と同量の0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)200μLを加え、遠心することで菌体を洗浄した。洗浄した菌体に、洗浄した上清と同量の0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)200μLで再懸濁し、菌体表面のセルラーゼ活性測定用サンプルとした。
【0117】
この菌体表面のセルラーゼ活性測定用サンプル5μLに上記のカルボキシメチルセルロース基質溶液3mLを添加した混合液を試料として、「分泌生産したセルラーゼの活性測定」と同様の条件で粘度を測定し、下記式に当てはめて得られた値を菌体表面に残った有用物質のセルラーゼの活性とした。
〔菌体表面に残ったセルラーゼの活性〕=〔直線の傾き〕×希釈倍率
<セルラーゼの分泌効率の評価>
実施例1~18及び比較例1~3で得た各培養上清と菌体を用いて、各実施例における分泌効率を下記式により算出した。
分泌効率(%)=100×「分泌生産したセルラーゼの活性」/「セルラーゼ活性合計」
なお、セルラーゼ活性合計は、「分泌生産したセルラーゼの活性」+「菌体表面に残ったセルラーゼの活性」を意味する。
【0118】
なお、表1中の「分泌効率(%)」は、比較例1(界面活性剤を用いないブランク)の上記の「分泌生産したセルラーゼの活性」及び「菌体表面に残ったセルラーゼの活性」を1.00とした場合の相対比で表した。
実施例19~39及び比較例4~6<ルシフェラーゼ発現酵母を用いたルシフェラーゼの分泌生産性と分泌効率の評価>
ルシフェラーゼ発現酵母(Pichia pastoris)は、(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター)より分譲していただいたPichia pastorisを用いて形質転換を行った。
【0119】
pPICZαベクター(Thermo社製)をXhoIとXbaIで切断し、人工合成(Thermo社で委託合成)した両端にXhoIとXbaI切断部位を持つルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ。
【0120】
ルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだpPICZαベクターの酵母への形質転換は、pPICZα2ベクター取り扱い説明書に記載の方法で行った。ルシフェラーゼ発現酵母をBMGY培養液に白金耳を用いて植菌して30℃で15時間、200rpmで振とう培養して前培養液を作製した。作製した前培養液を最終ODが0.05OD/mLとなるように、125mLBMGY培養液(Difco社製Yeastextract 1wt%、Difco社製Bactopeptone 2wt%、Difco社製Yeastnitrogen base w/o amino acid 1.34wt%、グルコース2wt%、100mMリン酸水素カリウム、pH6.0)に植菌し、30℃、1100rpmで撹拌培養を開始した。
【0121】
表2に記載の培養時間となった時点で培養液を遠心(1500×g、10分)し、125mLのBMMY培養液に再懸濁し、表2に記載の界面活性剤(A)又は純水を表2に記載の重量%となるように添加し、撹拌培養を続けた。
【0122】
培養開始から30時間後に培養液をサンプリングし、遠心分離機によって、培養液から菌体と培養上清を分離し、培養上清と菌体を回収した。
【0123】
菌体1個あたりの分泌生産性(相対比)及び分泌効率(%)を評価し、結果を表2に記載した。
【0124】
なお、界面活性剤(A)を添加する培養時間はあらかじめ本比較例4と同様にして試験培養を実施することで培養定常期ODSを求めることで決定した。
【0125】
【表2】

<菌体1個あたりの分泌生産性の評価:分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性測定>
実施例19~39及び比較例4~6で得た各培養上清を0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)で10~1000倍希釈したもの20μLに、下記のルシフェリン溶液60μL添加した混合液を試料として、ルミノメーターを用いて以下の条件で測定した発光強度を、下記式に当てはめて得られた値を分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性とした。
ルミノメーター:プロメガ株式会社製の「Glomax Navigator」
ルシフェリン溶液:ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社製品測定温度:25℃
検出装置:発光検出器
検出波長:350~700nm
〔分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性〕=〔発光強度〕×希釈倍率
〔菌体1個あたりの分泌生産性〕=〔分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性〕/〔培養定常期の濁度〕
なお、表2中の「菌体1個あたりの分泌生産性(相対値)」は、比較例4(界面活性剤を用いないブランク)の上記の「菌体1個あたりの分泌生産性」を1.00とした場合の相対比で表した。
<菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性測定>
実施例19~39及び比較例4~6で得た菌体に、除去した上清と同量の0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)200μLを加え、遠心することで菌体を洗浄した。洗浄した菌体に、洗浄した上清と同量の0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)200μLで再懸濁し、0.2M Tris-HCl緩衝液(pH 7.4)で10~1000倍希釈したものを菌体表面のルシフェラーゼ活性測定用サンプルとした。
【0126】
この菌体表面のルシフェラーゼ活性測定用サンプル20μLに上記のルシフェリン溶液60μL添加した混合液を試料として、「分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性測定」と同様の条件で発光強度を測定し、測定した発光強度を、下記式に当てはめて得られた値を菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性とした。
〔菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性〕=〔発光強度〕×希釈倍率
<分泌効率の評価>
実施例19~39及び比較例4~6で得た各培養上清と菌体を用いて、各実施例における分泌効率を下記式により算出した。
【0127】
分泌効率(%)=100×「分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性」/「ルシフェラーゼ活性合計」
なお、ルシフェラーゼ活性合計は、「分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性」+「菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性」を意味する。
【0128】
なお、表2中の「分泌効率(%)」は、比較例4(界面活性剤を用いないブランク)の上記の「分泌生産した有用物質のルシフェラーゼ活性」及び「菌体表面に残った有用物質のルシフェラーゼ活性」を1.00とした場合の相対比で表した。
実施例40~60及び比較例7~9<酸性ホスファターゼ発現酵母を用いた酸性ホスファターゼの分泌生産性と分泌効率の評価>
酸性ホスファターゼ発現酵母(Candida boidinii 公知文献(Regulation and evaluation of five methanol-inducible promoters in the methylotrophic yeast Candida boidinii, H. Yurimoto et al., Biochimica et Biophysica Acta, 1493, 2000, 56-63)に記載の方法で作製した。)をBMGY培養液に白金耳を用いて植菌して30℃で15時間、200rpmで振とう培養して前培養液を作製した。作製した前培養液を最終ODが0.05OD/mLとなるように、125mLのBMGY培養液に植菌し、30℃、1100rpmで撹拌培養を開始した。
【0129】
表3に記載の培養時間となった時点で培養液を遠心(1500×g、10分)し、125mLのBMMY培養液に再懸濁し、表3に記載の界面活性剤(A)又は純水を表4に記載の重量%となるように添加し、撹拌培養を続けた。
【0130】
培養開始から30時間後に培養液をサンプリングし、遠心分離機によって、培養液から菌体と培養上清を分離し、培養上清と菌体を回収した。菌体に50mM 酢酸NaBf(pH4.0)を加え、遠心することで菌体を洗浄した。洗浄した菌体に、50mM 酢酸NaBf(pH4.0)で再懸濁し、菌体表面の酸性ホスファターゼ活性測定サンプルとした。
【0131】
菌体1個あたりの分泌生産性(相対比)及び分泌効率(%)を評価し、結果を表3に記載した。
【0132】
なお、界面活性剤(A)を添加する培養時間はあらかじめ本比較例7と同様にして試験培養を実施することで培養定常期ODSを求めることで決定した。
【0133】
【表3】

<菌体1個あたりの分泌生産性の評価:酸性ホスファターゼ活性測定>
実施例40~60及び比較例7~9で得た各培養上清に1/40量の2M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)5μLを添加した。緩衝液を添加した培養上清又は実施例40~60及び比較例7~9で得た各菌体表面測定サンプルに基質溶液(p-nitrophenylphosphate 0.64mg/mL含有 50mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.0)を容量比=1:1で混合し、35℃で10分間反応した。
【0134】
反応後、反応液と等量の10%トリクロロ酢酸溶液を添加し反応停止をした。反応停止をした溶液に、炭酸ナトリウム飽和溶液を反応液全体と等量加え、発色させた。発色させた液は、1500×g、5分で不溶画分を除去し、(Biotek社製マイクロプレートリーダーPowerWave)を用いて420nmの吸光度を測定した。参照波長には630nmを測定した。
【0135】
培養上清、菌体表面測定サンプルそれぞれについて、下記の式より算出した値を酸性ホスファターゼ活性とした。
酸性ホスファターゼ活性={(Abs420nm)-(Abs630nm)}
〔菌体1個あたりの分泌生産性〕=〔分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性〕/〔培養定常期の濁度〕
なお、表3中の「菌体1個あたりの分泌生産性(相対値)」は、比較例7(界面活性剤を用いないブランク)の上記の「菌体1個あたりの分泌生産性」を1.00とした場合の相対比で表した。
<分泌効率の評価>
実施例40~60及び比較例7~9で得た「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」及び「菌体表面に残った有用物質の酸性ホスファターゼ活性」の値を用いて、下記数式より分泌効率を算出した。結果を表4に示す。
【0136】
分泌効率(%)=100×「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」/「酸性ホスファターゼ活性合計」
なお、酸性ホスファターゼ活性合計は、「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」+「菌体表面に残った有用物質の酸性ホスファターゼ活性」を意味する。
なお、表3中の「分泌効率(%)」は、比較例4(界面活性剤を用いないブランク)の上記の「分泌生産した有用物質の酸性ホスファターゼ活性」及び「菌体表面に残った有用物質の酸性ホスファターゼ活性」を1.00とした場合の相対比で表した。
【0137】
実施例1~60及び比較例1~9で得た培養上清について、培養液の濁度、菌体1個あたりの分泌生産性(相対比)及び分泌効率(%)の評価を上記の通り行った。結果を表1~3に記載した。
【0138】
表1~3の実施例1~60は、培養時の培養液の600nmにおける濁度ODと、培養定常期における培養液の600nmにおける濁度ODSとの比OD/ODSが0.009~0.90の範囲にあるときに、界面活性剤(A)を添加することで、比較例1、4、7の菌体1個あたりの分泌生産性を1としたときの相対値が顕著に大きくなっていることがわかる。
【0139】
一方、OD/ODSが0.009未満の比較例2、5、8、及びOD/ODSが0.90を超える比較例3、6、9は、実施例に比べて菌体1個当たりの分泌生産性の相対値が低い。
【0140】
したがって、本発明の生産方法は有用物質を多量に得られることがわかる。さらに、本発明の生産方法を用いた実施例においては、分泌効率が50%よりも大きく、微生物が産生した有用物質が菌体外に分泌されやすく、菌を破砕する等の処理をしなくても有用物質を大量に得られることから、生産効率も高いことがわかる。したがって、微生物を用いた有用物質の生産量に優れ、さらに生産効率も高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の有用物質の生産方法は、タンパク質などの有用物質を微生物から生産する際に使用できる。タンパク質としては酵素、ホルモンタンパク質、抗体及びペプチド等が挙げられる。生産されるタンパク質が、酵素(プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ及びアミラーゼ等)の場合には、食品加工用、洗浄剤用、繊維処理用、製紙用途、酵素変換用途などとして好適に使用でき、特にバイオ医薬品の製造に用いる上で有用である。
図1