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特開2022-140754麦芽発酵飲料の製造方法及び麦芽発酵飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140754
(43)【公開日】2022-09-27
(54)【発明の名称】麦芽発酵飲料の製造方法及び麦芽発酵飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/00 20060101AFI20220915BHJP
   C12C 11/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C12C7/00 A
C12C7/00 Z
C12C11/02
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124749
(22)【出願日】2022-08-04
(62)【分割の表示】P 2018009960の分割
【原出願日】2018-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 行夫
(57)【要約】
【課題】口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料の製造方法を提供すること。
【解決手段】麦芽を含む原料及び仕込水を用い、発酵前液を得る仕込工程と、発酵前液を酵母により発酵させる発酵工程と、を含む、麦芽発酵飲料の製造方法であって、酵母は、イソマルトース資化性を有し、かつ、グルコース抑制が解除されている、製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、
アルコール度数が4v/v%以上であり、
グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料。
【請求項2】
原料中の麦芽の比率が50質量%未満であり、
アルコール度数が4v/v%以上であり、
グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、150mg/L以下である、麦芽発酵飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽発酵飲料の製造方法及び麦芽発酵飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
麦芽発酵飲料の香味を改善する技術手段について様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、麦芽を酵母により発酵させた麦芽発酵飲料であって、苦味価、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、及び三糖類といった糖の含有量が所定の関係を満たすことを特徴とする麦芽発酵飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5717226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、麦芽発酵飲料において、香味の中でも特に、口当たり及びキレには未だ改善の余地があることを見出した。
【0005】
本発明は、口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、麦芽を含む原料及び仕込水を用い、発酵前液を得る仕込工程と、発酵前液を酵母により発酵させる発酵工程と、を含む、麦芽発酵飲料の製造方法であって、酵母は、イソマルトース資化性を有し、かつ、グルコース抑制が解除されている。当該製造方法によれば、イソマルトース資化性を有し、かつ、グルコース抑制が解除されている酵母を用いるため、口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料を得ることができる。
【0007】
上記製造方法は、発酵工程において酵素添加を行わなくてよい。また、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比が4.0以上であってよい。この場合、麦芽発酵飲料の口当たり及びキレがより一層改善されると共に、糖質含有量がより低減される。
【0008】
上記製造方法において、原料中の麦芽の比率が50質量%以上であってよく、50質量%以上67質量%未満であってよい。この場合、当該製造方法により得られる麦芽発酵飲料の口当たり及びキレがより一層優れたものとなる。
【0009】
本発明はまた、原料中の麦芽の比率が67質量%以上100質量%以下であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、900mg/L以下である、麦芽発酵飲料(第1の麦芽発酵飲料)に関する。
【0010】
本発明はまた、原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料(第2の麦芽発酵飲料)に関する。
【0011】
本発明はまた、原料中の麦芽の比率が50質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、150mg/L以下である、麦芽発酵飲料(第3の麦芽発酵飲料)に関する。
【0012】
第1、第2及び第3の麦芽発酵飲料は、原料中の麦芽の比率、アルコール度数、及び所定の糖類の合計含有量が特定の範囲内であるため、口当たり及びキレが改善されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[麦芽発酵飲料の製造方法]
本実施形態の麦芽発酵飲料の製造方法は、麦芽を含む原料及び仕込水を用い、発酵前液を得る仕込工程と、発酵前液を酵母により発酵させる発酵工程と、を含む。当該製造方法において、酵母は、イソマルトース資化性を有し、かつ、グルコース抑制が解除されている。
【0016】
本明細書において、麦芽発酵飲料とは、麦芽を原料の一部として発酵により製造される飲料を意味する。
【0017】
麦芽発酵飲料は、アルコール飲料でもよく、ノンアルコール飲料であってもよい。ノンアルコールとは、実質的にアルコールが含まれていないことをいう。本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0018】
麦芽発酵飲料は、アルコール飲料であることが好ましい。アルコール麦芽発酵飲料としては、例えば、日本国酒税法(昭和二十八年二月二十八日法律第六号)上のビール、発泡酒、その他の醸造酒、リキュールに分類されるものが挙げられる。アルコール麦芽発酵飲料のアルコール度数は、例えば、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上、又は5v/v%以上であってもよい。また、麦芽発酵飲料のアルコール度数の上限は、例えば、20v/v%以下、15v/v%以下、10v/v%以下、9v/v%以下、8v/v%以下、7v/v%以下、6v/v%以下、5v/v%以下、4v/v%以下、又は3v/v%以下であってもよい。
【0019】
ノンアルコール麦芽発酵飲料のアルコール含有量は、例えば1v/v%未満であればよく、0.5v/v%以下であってよく、0.1v/v%以下であってよく、0.005v/v%未満(0.00v/v%)であってもよい。また、ノンアルコールビールテイスト飲料のアルコール度数は、0.1v/v%以上、0.3v/v%以上、又は0.5v/v%以上であってもよい。
【0020】
本実施形態に係る麦芽発酵飲料は、発泡性であってもよく、非発泡性であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であることが好ましい。本明細書において発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)未満であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm)程度であってもよく、0.235MPa(2.4kg/cm)程度であってもよい。
【0021】
(仕込工程)
仕込工程は、麦芽を含む原料及び仕込水を用い、発酵前液を得る。つまり、仕込工程は、発酵に用いられる発酵前液を調製する工程である。仕込工程では、麦芽を含む原料と水との混合が行われてもよく、麦芽を含む原料と水とを混合した後、麦芽を含む原料の糖化を行ってもよく、糖化後、更にろ過、煮沸、沈殿、冷却等を行ってもよい。なお、仕込水とは、仕込工程で使用される水をいう。
【0022】
原料中の麦芽の比率は50質量%以上であってよい。原料中の麦芽の比率は、67質量%未満、66質量%以下、65質量%未満、60質量%以下、又は55質量%以下であってよい。原料中の麦芽の比率は、50質量%以上67質量%未満であってよい。原料中の麦芽の比率が上記範囲内である場合、口当たり及びキレがより一層優れたものとなる。なお、ここでいう「原料」とは、麦芽発酵飲料の製造に用いられる全原料のうち、水、ホップ及び酵素(酵素剤)以外のものを指す。
【0023】
麦芽は、麦を発芽させることにより得ることができる。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦等であってよく、大麦であることが好ましい。麦芽にはモルトエキスが含まれる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。
【0024】
原料は、麦芽以外の麦原料を含んでいてもよい。麦芽以外の麦原料としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦等の麦;麦エキス等の麦加工物が挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽以外の麦原料としては、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。
【0025】
原料は、糖類(糖質原料)を含んでいてもよい。糖類(糖質原料)としては、平成11年6月25日付けの酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達第3条において規定される「糖類」であれば特に制限されない。糖類は、単糖類、二糖類及び三糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種であってよく、更に四糖以上の糖類を含んでいてもよい。単糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、アラビノース、タガトース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、麦芽糖(マルトース)、イソマルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。三糖類としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。四糖以上の糖類としては、例えば、スタキオース、マルトテトラオース等が挙げられる。糖類の形態は、例えば、粉末状、顆粒状、ペースト状、液状等であってよい。液状の糖類としては、例えば、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖等の液糖であってもよい。糖類はグラニュー糖又は上白糖であってもよい。
【0026】
原料は、上記以外の原料を含んでいてもよい。上記以外の原料は、例えば、トウモロコシ、米類、コウリャン等の穀類、馬鈴薯、サツマイモ等のイモ類、豆類等の植物原料であってよく、スターチ、グリッツ等の澱粉原料であってもよく、果実(果実を乾燥させたもの、若しくは煮つめたもの、又は濃縮させた果汁を含む)、又は香味料(コリアンダー等一定の香味料)であってもよい。
【0027】
原料の使用量に対する仕込水の使用量の比(張り湯比)は、好ましくは2以上である。原料の使用量に対する仕込水の使用量の比は、口当たり及びキレがより改善されるという観点から、4.0以上、6.0以上、又は6.5以上であってよく、10以下、又は8以下であってよい。
【0028】
本実施形態に係る製造方法においては、仕込工程において酵素を添加することが好ましい。この場合、原料中の糖質を酵母が資化可能な糖へ分解する反応を促進することができる。仕込工程で添加される酵素は多糖分解酵素、タンパク質分解酵素等であってよく、多糖分解酵素であることが好ましい。仕込工程で添加される多糖分解酵素は、1種又は異なる複数種であってよく、異なる複数種であることが好ましい。仕込工程において多糖分解酵素を添加することにより、効率的に麦芽発酵飲料中の糖質含有量を低減することができる。なお、仕込工程において、煮沸を行う場合は、酵素を十分に作用させるために、酵素を添加するタイミングは煮沸前であることが好ましい。
【0029】
仕込工程で添加される酵素としては、例えば、グルコアミラーゼ、β-アミラーゼ、α-アミラーゼ、プルラナーゼ、α-グルコシダーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等が挙げられる。β-アミラーゼ等の酵素は、麦、豆類、イモ類等の植物原料自体に含まれている場合があるが、本実施形態に係る製造方法では、上記各酵素は、原料としての植物原料又は糖質原料の他に、外来の酵素として別途添加してもよい。
【0030】
酵素の添加は一度にまとめて行われてもよく、複数回に分けて行われてもよい。複数の酵素は一度にまとめて添加してもよく、任意の順で別々に添加してもよい。
【0031】
(発酵工程)
発酵工程では、仕込工程で調製された発酵前液を酵母により発酵させる。発酵工程では、酵母を添加してアルコール発酵が行われる。より具体的には、発酵前液に酵母を接種して発酵させ、酵母により生成するアルコールを含む発酵後液を得る。
【0032】
発酵工程では、イソマルトース資化性を有する酵母(イソマルトース資化性酵母)を使用する。本実施形態において、イソマルトース資化性酵母は、グルコース抑制が解除されている。
【0033】
イソマルトース資化性酵母は、例えば、イソマルトース資化性を指標としてスクリーニングにより得ることができる。イソマルトース資化性酵母は、例えば、イソマルトース資化性を有する市販の酵母(例えば、ビール酵母、ワイン酵母、又はパン酵母)であってよい。
【0034】
グルコース抑制が解除された酵母は、2-デオキシグルコース(2-DG)耐性を指標としてスクリーニングすることにより得ることができる。より具体的には、例えば、公知の方法(例えば、間瀬雅子他、「パン用花酵母の育種」、あいち産業科学技術総合センター 研究報告2014、p82-83)に準じ、2-DG濃度は0.02%から段階的に最大0.5%まで引き上げることによりグルコース抑制が解除された酵母を入手することができる。
【0035】
糖質含有量が低減された麦芽発酵飲料が得られやすいことから、発酵後液中の糖類の含有量は低い方が望ましい。発酵後液に含まれ得る糖類としては、例えば、スクロース、マルトース、イソマルトース等の二糖類、マルトトリオース、パノース、イソマルトトリオース等の三糖類が挙げられる。
【0036】
イソマルトースは、グルコース二分子がα-1,6結合で結合した二糖類であり、イソマルトース等のα-1,6結合を有する糖類は、麦芽発酵飲料の製造に通常使用される酵母(例えば、ビール酵母)によって、資化されずに発酵後液に残存する場合がある。発酵工程でイソマルトース資化性酵母を用いた場合であっても、グルコース抑制により、グルコース存在下では、イソマルトース等のα1,6-結合を有する炭水化物は、資化されないことがある。本実施形態の製造方法で使用するイソマルトース資化性酵母は、グルコース抑制が解除されているため、グルコース存在下であっても、イソマルトース等を資化することが可能となる。すなわち、発酵工程において、グルコース抑制が解除されたイソマルトース資化性酵母を用いることにより、イソマルトース等が資化されて、発酵後液中の糖質含有量が低減する。
【0037】
グルコース抑制(グルコース効果)とは、一般的に微生物はグルコースを炭素源とした場合に最良の増殖を示し、酵素等の生産性も高くなるが、培地中にグルコースが存在することにより、他の糖類の発酵に関わる酵素の発現が抑えられ、その生産性が著しく低下してしまうことをいう。グルコース抑制の解除とは、このようなグルコース抑制を受ける酵素を有する微生物に、変異処理を施して、グルコース抑制に関連する遺伝子へ変異を導入したり、欠損、当該遺伝子の発現の低下等を引き起こすことで、グルコース存在下でも当該酵素が高発現するという性質を獲得させることである。
【0038】
酵母による発酵の温度は、通常の麦芽発酵飲料における発酵温度を適用でき、例えば0~40℃とすることができる。発酵時間は、所望する麦芽発酵飲料の性質に応じて適宜調節できる。発酵工程では、更に熟成を行ってもよい。熟成は、発酵後の発酵液を更に所定の時間所定の温度で維持することにより行うことができる。熟成を行うことにより、発酵液中の不要物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0039】
発酵工程を経ることによって、酵母により生成されたアルコール等を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるアルコール度数(アルコール度数)は、例えば、1~20v/v%とすることができ、1~10v/v%としてもよく、3~10v/v%としてもよい。アルコール度数を1v/v%未満とする場合は、発酵工程での発酵時間を短くしたり、発酵温度を低くしたりするなど、発酵条件を適宜調節することにより、アルコール度数を下げることができる。また、アルコール度数が1~20v/v%の発酵後液を適宜希釈することにより、アルコール度数を1v/v%未満とすることもできる。
【0040】
発酵工程では、酵素添加を行ってもよいし、酵素添加を行わなくてもよい。本実施形態に係る製造方法では、酵素添加を行わないことが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る麦芽発酵飲料の製造方法は、上述の酵母を使用する他は、公知の麦芽発酵飲料の製造方法と同様の方法を適用することができる。
【0042】
麦芽発酵飲料の製造においては、ホップを用いてもよい。ホップを用いることにより、麦芽発酵飲料によりビール様の風味を付与することができる。ホップとしては、例えば、ホップペレット、ホップエキス等を用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。ホップ等の添加は、仕込工程、発酵工程、発酵後工程のいずれにおいて行われてもよく、複数回行われてもよい。仕込工程においてろ過、煮沸を行う場合には、ろ過、煮沸の前に添加されることが好ましい。ホップの添加方法としては、例えば、ケトルホッピング、レイトホッピング、ドライホッピングを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ケトルホッピングとは、発酵前液の昇温中又は煮沸初期にホップを投入することをいい、レイトホッピングとは、煮沸の終了間際にホップを投入することをいう。また、ドライホッピングとは、発酵工程開始以降にホップを投入することをいう。ホップ加工品は、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等であってよい。
【0043】
発酵工程後の発酵後工程として、最終的に麦芽発酵飲料を得るために発酵後液に所定の処理を施してもよい。発酵後工程としては、例えば、発酵工程で得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過に相当)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分、及び酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、更に発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌、残存する酵母等を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、麦芽発酵飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
【0044】
発酵後液のアルコール度数を高くしたい場合は、発酵後工程で上述のスピリッツ等のアルコールを添加してもよい。また、発酵後工程には、ビン、缶等の容器に麦芽発酵飲料を充填する工程も含まれる。製造した麦芽発酵飲料が非発泡性の場合、又は発泡性が十分でない場合には、炭酸ガス含有水の添加、又はカーボネーションを行うことによって所望の発泡性を付与してもよい。
【0045】
本実施形態においては、原料を発酵させて得られたアルコールに加えて、必要に応じ、更にアルコールを添加してもよい。添加するアルコールは飲用アルコールであればよく、種類、製法、原料などは限定されない。例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ等の各種スピリッツ、原料用アルコールなどを1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。また、原料を発酵させて得られたアルコールの濃度が高い場合は、必要に応じて所望のアルコール度数となるよう希釈してもよい。
【0046】
上記麦芽発酵飲料の製造方法によって、口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料が得られる。したがって、上述の方法は、麦芽発酵飲料の口当たり及びキレを改善する方法ということもできる。
【0047】
[麦芽発酵飲料]
本発明によれば、一実施形態として、以下で説明する第1、第2及び第3の麦芽発酵飲料が提供される。第1の麦芽発酵飲料は、原料中の麦芽の比率が67質量%以上100質量%以下であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、900mg/L以下である。第2の麦芽発酵飲料は、原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である。第3の麦芽発酵飲料は、原料中の麦芽の比率が50質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、150mg/L以下である。第1、第2及び第3の麦芽発酵飲料は、口当たり及びキレが改善されている。
【0048】
スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの含有量は、例えば、HPLCを用いて、以下の方法により測定することができる。まず濃度に応じて適宜希釈した試料500μlにアセトニトリル500μl、及び内部標準液100μlを加えて、ボルテックスでよく攪拌した後、0.45μmフィルターで濾過し、測定サンプルとする。内部標準液としては2500mg/lのmyo-イノシトール(50%アセトニトリル溶液)を使用する。この測定サンプルを以下のHPLC条件で測定する。
(HPLC測定条件)
カラム:Sugar SZ5532 SZ-G(Shodex)
検出器:荷電粒子検出器(CAD)
移動相A:超純水
移動相B:アセトニリル
カラムオーブン:60℃
サンプル注入量:10μL
流量:1.0ml/min
グラジエントB:75%(0min)-75%(30min)-10%(45min)-75%(50min)
【0049】
グルコース含有量は、HPLCを用いて、例えば以下条件で測定することができる。
(HPLC測定条件)
カラム:Shim-Pack SCR-102H
移動相:超純水
流量:0.6mL/min
温度:80℃
検出器:RID
【0050】
第1、第2及び第3の麦芽発酵飲料は、例えば上述の麦芽発酵飲料の製造方法によって得ることができる。
【0051】
第1、第2及び第3の麦芽発酵飲料のアルコール度数は、4v/v%以上であればよく、5v/v%であってもよい。アルコール度数の上限は、上記例示したものと同様であってよい。
【0052】
(第1の麦芽発酵飲料)
第1の麦芽発酵飲料において、原料中の麦芽の比率は、67質量%以上100質量%以下であり、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下又は100質量%であってよい。
【0053】
第1の麦芽発酵飲料において、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量は、900mg/L以下、850mg/L以下、830mg/L以下、820mg/L以下、又は790mg/L以下であってよく、100mg/L以上であってよい。これらの糖類の合計含有量は、例えば、原料の種類及び使用量等によって調節することができる。例えば、上記糖類の合計含有量は、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比(張り湯比)を調整することにより、調整することもできる。
【0054】
第1の麦芽発酵飲料のイソマルトースの含有量は、540mg/L以下、又は530mg/L以下であってよく、20mg/L以上であってよい。
【0055】
第1の麦芽発酵飲料の糖質含有量は、1.5g/100ml未満、1.25g/100ml未満、又は1.0g/100ml未満であってもよく、栄養表示基準における「糖質ゼロ」、すなわち0.5g/100ml未満であってもよい。糖質含有量は、0.5g/100ml以上であってよく、1.0g/100ml以上であってもよい。糖質含有量は、原料の種類及び使用量等によって調節することができる。例えば、糖質含有量は、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比を調整することにより、調整することもできる。
【0056】
本明細書における糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の質量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分の量を控除することにより算定される。タンパク質、脂質、灰分、水分、及びアルコール分の量は、例えば、以下の方法により測定する。タンパク質の量は、例えば、住化分析センター社のSUMIGRAPH NC-220Fによる全窒素(タンパク質)の定量法により測定することができる。脂質の量は、例えば、エーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法又はレーゼゴットリーブ法で測定することができる。灰分の量は、熱重量分析装置TGA701(LECO社)を用いた方法、酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法又は硫酸添加灰化法で測定することができる。アルコール分は例えば、Anton Paar社の振動式密度・比重・濃度計DMA4500Mで測定することができる。水分は例えば、LECO社の熱重量分析装置TGA701で測定することができる。食物繊維量は、例えばプロスキー法で求めることができる。
【0057】
(第2の麦芽発酵飲料)
第2の麦芽発酵飲料において、原料中の麦芽の比率は、50質量%以上67質量%未満であり、50質量%以上66質量%以下、50質量%以上60質量%以下又は50質量%以上55質量%以下であってよい。
【0058】
第2の麦芽発酵飲料において、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量は、450mg/L以下であり、350mg/L以下、250mg/L以下、200mg/L以下、又は180mg/L以下であってよく、50mg/L以上であってよいこれらの糖類の合計含有量は、例えば、原料の種類及び使用量等によって調節することができる。例えば、上記糖類の合計含有量は、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比(張り湯比)を調整することにより、調整することもできる。
【0059】
第2の麦芽発酵飲料のイソマルトースの含有量は、280mg/L以下、200mg/L以下、100mg/L以下、80mg/L以下、又は60mg/L以下であってよく、20mg/L以上であってよい。
【0060】
第2の麦芽発酵飲料の糖質含有量は、1.5g/100ml未満、0.8g/100ml未満、又は0.6g/100ml未満であってもよく、栄養表示基準における「糖質ゼロ」、すなわち0.5g/100ml未満であってもよい。糖質含有量は、0.3g/100ml以上であってよい。糖質含有量は、原料の種類及び使用量等によって調節することができる。例えば、糖質含有量は、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比を調整することにより、調整することもできる。
【0061】
(第3の麦芽発酵飲料)
第3の麦芽発酵飲料において、原料中の麦芽の比率は、50質量%未満であり、40質量%以下、30質量%以下又は25質量%以下であってよい。
【0062】
第3の麦芽発酵飲料において、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量は、150mg/L以下であり、120mg/L以下、90mg/L以下、80mg/L以下、又は75mg/L以下であってよく、5mg/L以上であってよい。これらの糖類の合計含有量は、例えば、原料の種類及び使用量等によって調節することができる。例えば、上記糖類の合計含有量は、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比(張り湯比)を調整することにより、調整することもできる。
【0063】
第3の麦芽発酵飲料のイソマルトースの含有量は、80mg/L以下、50mg/L以下又は25mg/L以下であってよく、5mg/L以上であってよい。
【0064】
第3の麦芽発酵飲料の糖質含有量は、1.5g/100ml未満、0.8g/100ml未満、又は0.6g/100ml未満であってもよく、栄養表示基準における「糖質ゼロ」、すなわち0.5g/100ml未満であってもよい。糖質含有量は、0.3g/100ml以上であってよい。糖質含有量は、原料の種類及び使用量等によって調節することができる。例えば、糖質含有量は、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比を調整することにより、調整することもできる。
【0065】
本実施形態に係る麦芽発酵飲料は、飲料に通常配合される着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類等の添加剤を含んでいてもよい。
【0066】
本実施形態に係る麦芽発酵飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【実施例0067】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0068】
[イソマルトース資化性を有する酵母の準備]
イソマルトース資化性を有する酵母として、酵母1(SBC4601)を準備した。酵母1は、イソマルトース資化性を指標としてスクリーニングして得たものである。イソマルトース資化性を有する酵母としては、酵母1に限定されない。イソマルトース資化性を有するか否かの判定は、公知の方法(例えば、村上ら、「各種醸造用酵母のオリゴ糖に対する発酵特性」、醸協、77(3)181-184、1982)に従って、行うことができる。なお、酵母1(SBC4601)は、2018年1月9日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818))に、受領番号NITE AP-02607として寄託されており、入手可能である。
【0069】
[グルコース抑制解除株の取得]
イソマルトース資化性を有し、かつ、グルコース抑制が解除されている酵母(変異株)は、イソマルトース資化性を有する酵母1を親株として用い、2-デオキシグルコース耐性株(変異株)を公知の方法(例えば、間瀬雅子他、「パン用花酵母の育種」、あいち産業科学技術総合センター 研究報告2014、p82-83)に準じ、2-DG濃度は0.02%から段階的に最大0.5%まで引き上げることにより、取得した。
【0070】
[麦芽発酵飲料の調製]
麦芽を含む原料、仕込水及び酵素剤を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液をろ過して麦汁を得た。麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)に酵母として、親株又は変異株を摂種し、所定期間発酵させた。これにより、麦芽発酵飲料のサンプル1-1~1-8を得た。なお、原料中の麦芽の比率(麦芽比率)、及び原料の使用量に対する仕込水の使用量の比(張り湯比)は、表1に示す量になるように調整した。得られた麦芽発酵飲料のアルコール度数は、表1に示す濃度であった。
【0071】
[麦芽発酵飲料の評価]
得られた麦芽発酵飲料の香味について、選抜された識別能力のあるパネル4名(パネル1~4)により官能評価を行った。香味の官能検査は、具体的には、口当たり(口に含んだ瞬間の渋味と雑味が少ない)及びキレ(口に含んだ瞬間から味に落差がある(平板でない))の項目について、以下の評価基準に基づいて、それぞれ1~5の5段階評価で行った。原料中の麦芽の比率が100質量%であり、酵母として親株を使用した麦芽発酵飲料のサンプル1-1を評点2点の比較基準とし、パネル間で評価基準の摺合せを行った後、官能評価を実施した。各評価項目についてパネルの評点の平均値を表1に示す。
(口当たり及びキレの評価基準)
5:良好
4:やや良好
3:普通
2:やや劣る
1:劣る
【0072】
(糖質含有量)
得られた各麦芽発酵飲料の重量から、各麦芽発酵飲料に含まれる、水分、アルコール分、タンパク質量、灰分量及び食物繊維量を引いた値を麦芽発酵飲料の糖質含有量(g/100ml)として算定した。アルコール分はAnton Paar社の振動式密度・比重・濃度計DMA4500Mで測定した。水分はLECO社の熱重量分析装置TGA701で測定した。タンパク質量は、住化分析センター社のSUMIGRAPH NC-220Fによる全窒素(タンパク質)の定量法により測定した。灰分量は、麦芽比率100%のサンプルはLECO社の熱重量分析装置TGA701で、それ以外のサンプルは直接灰化法による手分析で測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
イソマルトース資化性を有する酵母において、グルコース抑制が解除されている酵母を用いた麦芽発酵飲料は、グルコース抑制が解除されていない酵母を用いた麦芽発酵飲料と比べて口当たり及びキレが改善されていた。原料中の麦芽の比率(麦芽比率)が50質量%以上67質量%未満である場合に、より顕著に口当たり及びキレが改善されていた。また、原料の使用量に対する仕込水の使用量の比(張り湯比)が増加すると、口当たり及び/又はキレがより改善された。
【0075】
イソマルトース資化性を有する酵母において、グルコース抑制が解除されている酵母を用いた麦芽発酵飲料は、グルコース抑制が解除されていない酵母を用いた麦芽発酵飲料と比べて糖質含有量が低減されていた。
【0076】
(糖類の量)
原料中の麦芽比率及び張り湯比が表2に示すとおりとなるように調整し、表2に示す酵母(親株又は変異株)を用いて、麦芽発酵飲料のサンプル2-1~2-3を上記同様にして調製した。麦芽発酵飲料のサンプル1-1~1-8及び2-1~2-3について、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの含有量をHPLCにより測定した。結果を表2に示す。
【0077】
スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの含有量の測定は、以下の方法により行なった。まず濃度に応じて適宜希釈した試料500μlにアセトニトリル500μl、及び内部標準液100μlを加えて、ボルテックスでよく攪拌した後、0.45μmフィルターで濾過し、測定サンプルとした。内部標準液としては2500mg/lのmyo-イノシトール(50%アセトニトリル溶液)を使用した。この測定サンプルを以下のHPLC条件で測定した。
(HPLC測定条件)
カラム:Sugar SZ5532 SZ-G(Shodex)
検出器:荷電粒子検出器(CAD)
移動相A:超純水
移動相B:アセトニリル
カラムオーブン:60℃
サンプル注入量:10μL
流量:1.0ml/min
グラジエント B:75%(0min)-75%(30min)-10%(45min)-75%(50min)
【0078】
グルコースの含有量は、以下の条件でHPLCにより測定した。
(HPLC測定条件)
カラム:Shim-Pack SCR-102H
移動相:超純水
流量:0.6mL/min
温度:80℃
検出器:RID
【0079】
【表2】