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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140914
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】剥離層形成用組成物及び剥離層
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20220921BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20220921BHJP
   C08F 20/32 20060101ALI20220921BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08L63/00
B32B27/38
C08F20/32
C08G59/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040975
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 潤
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J036
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AK01B
4F100AK12A
4F100AK24A
4F100AK25A
4F100AK26A
4F100AK27A
4F100AK53A
4F100AK53B
4F100BA02
4F100CA02A
4F100EH46
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JA05A
4F100JB13B
4F100JK06
4F100JL08A
4F100JL14A
4F100JN01B
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002BG071
4J002CD022
4J002CD191
4J002FD142
4J002GF00
4J002GP00
4J002GQ00
4J036AJ09
4J036AK09
4J036AK11
4J036GA22
4J036GA26
4J036JA15
4J100AB02P
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100AM48Q
4J100BA02Q
4J100BA02R
4J100BC09P
4J100BC12Q
4J100BC54Q
4J100BC54R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA25
4J100FA03
4J100FA19
4J100GC07
4J100HA53
4J100HC83
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】剥離層上に樹脂基板等から構成されるデバイスを形成でき、剥離層と樹脂基板等から構成されるデバイスとの界面で容易に剥離する剥離層を与える剥離層形成用組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ基を有するモノマー(構造単位(a))を用いて得られる重合体であり、構造単位(a)の含有量が、全モノマー単位100モル%に対して1~30モル%であり、ガラス転移点が25℃以上である重合体を含有する剥離層形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ基を有するモノマー(構造単位(a))を用いて得られる重合体であり、構造単位(a)の含有量が、全モノマー単位100モル%に対して1~30モル%であり、ガラス転移点が25℃以上である重合体を含有する剥離層形成用組成物。
【請求項2】
(A)重合体が、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、アクリルアミド化合物、アクリロニトリル、マレイン酸無水物、スチレン化合物及びビニル化合物からなる群から選ばれるモノマーを用いて得られる重合体である請求項1記載の剥離層形成用樹脂組成物。
【請求項3】
(B)架橋剤をさらに含有する請求項1又は2記載の剥離層形成用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)架橋剤が、エポキシ基を有する架橋剤である請求項1~3のいずれか1項記載の剥離層形成用樹脂組成物。
【請求項5】
(C)架橋触媒をさらに含有する請求項1~4のいずれか1項記載の剥離層形成用樹脂組成物。
【請求項6】
(C)架橋触媒が、熱酸発生剤又は光酸発生剤である請求項5記載の剥離層形成用樹脂組成物。
【請求項7】
(B)架橋剤の含有量が、(A)重合体100質量部に対し、1~50質量部である請求項3~6のいずれか1項記載の剥離層形成用樹脂組成物。
【請求項8】
(C)架橋触媒の含有量が、(A)重合体100質量部に対し、0.01~20質量部である請求項5~7のいずれか1項記載の剥離層形成用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載の剥離層形成用樹脂組成物から得られる剥離層。
【請求項10】
請求項9記載の剥離層に、波長400nmの光透過率が80%以上である樹脂基板が積層された積層体。
【請求項11】
前記樹脂基板が、エポキシ化合物を含有する熱硬化膜である請求項10記載の積層体。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物を基体に塗布し、剥離層を形成する工程、
前記剥離層上に、波長400nmの光透過率が80%以上である樹脂基板を形成する工程、及び
前記樹脂基板を、0.4N/25mm以下の剥離力で剥離する工程
を含む樹脂基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離層形成用組成物及び剥離層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスには薄型化及び軽量化という特性に加え、曲げることができるという機能を付与することが求められている。このことから、従来の重く脆弱で曲げることができないガラス基板にかわって、軽量なフレキシブルプラスチック基板を用いることが求められる。
【0003】
特に、新世代ディスプレイでは、軽量なフレキシブルプラスチック基板(以下、樹脂基板ともいう。)を用いたアクティブマトリクス型フルカラーTFTディスプレイパネルの開発が求められている。また、タッチパネル式ディスプレイは、ディスプレイパネルに組み合わせて使用されるタッチパネルの透明電極や樹脂基板等、フレキシブル化に対応する材料が開発されている。透明電極としては、従来使用されていたITOから、PEDOT等の曲げ加工が可能な透明導電性ポリマー、金属ナノワイヤ、及びその混合系等、別の透明電極材料が提案されている(特許文献1~4)。
【0004】
一方、タッチパネルフィルムの基材も、ガラスからポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、シクロオレフィン、アクリル等のプラスチックからなるシート等になり、フレキシブル性を持たせた透明フレキシブルタッチスクリーンパネルが開発されている(特許文献5~7)。
【0005】
一般的に、フレキシブルタッチスクリーンパネルは、安定して生産を行うため、ガラス基板等の支持基板上に剥離(粘着)層を作製し、その上に樹脂基板等から構成されるデバイスを作製した後、該デバイスを前記粘着層から剥離することで生産される(特許文献8)。
【0006】
剥離層としては、例えば、所定のポリマー及び架橋剤を含む硬化性樹脂化合物が記載されている(特許文献9~10)。これらの剥離層は支持基板上から容易に剥離できる一方、支持基板と剥離層との界面で剥離するため、剥離層がデバイス側に残存し、デバイス作製工程や透過性に悪影響を及ぼす場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/147235号
【特許文献2】特開2009-283410号公報
【特許文献3】特表2010-507199号公報
【特許文献4】特開2009-205924号公報
【特許文献5】国際公開第2017/002664号
【特許文献6】国際公開第2016/160338号
【特許文献7】特開2015-166145号公報
【特許文献8】特開2016-531358号公報
【特許文献9】国際公開第2018/033995号
【特許文献10】国際公開第2019/159248号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、剥離層上に樹脂基板等から構成されるデバイスを形成でき、剥離層と樹脂基板等から構成されるデバイスとの界面で容易に剥離する剥離層を与える剥離層形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)エポキシ基を有するモノマー(構造単位(a))を用いて得られる重合体であり、構造単位(a)の含有量が、全モノマー単位100モル%に対して1~30モル%であり、ガラス転移点が25℃以上である重合体を含有する剥離層形成用組成物が、剥離層上に樹脂基板等から構成されるデバイスを形成でき、剥離層と樹脂基板等から構成されるデバイスとの界面で容易に剥離する剥離層を再現性よく与え得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の剥離層形成用組成物及び剥離層を提供する。
1. (A)エポキシ基を有するモノマー(構造単位(a))を用いて得られる重合体であり、構造単位(a)の含有量が、全モノマー単位100モル%に対して1~30モル%であり、ガラス転移点が25℃以上である重合体を含有する剥離層形成用組成物。
2. (A)重合体が、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、アクリルアミド化合物、アクリロニトリル、マレイン酸無水物、スチレン化合物及びビニル化合物からなる群から選ばれるモノマーを用いて得られる重合体である請求項1記載の剥離層形成用樹脂組成物。
3. (B)架橋剤をさらに含有する1又は2の剥離層形成用樹脂組成物。
4. (B)架橋剤が、エポキシ基を有する架橋剤である1~3のいずれかの剥離層形成用樹脂組成物。
5. (C)架橋触媒をさらに含有する1~4のいずれかの剥離層形成用樹脂組成物。
6. (C)架橋触媒が、熱酸発生剤又は光酸発生剤である5の剥離層形成用樹脂組成物。
7. (B)架橋剤の含有量が、(A)重合体100質量部に対し、1~50質量部である3~6のいずれかの剥離層形成用樹脂組成物。
8. (C)架橋触媒の含有量が、(A)重合体100質量部に対し、0.01~20質量部である5~7のいずれかの剥離層形成用樹脂組成物。
9. 1~8のいずれかの剥離層形成用樹脂組成物から得られる剥離層。
10. 9の剥離層に、波長400nmの光透過率が80%以上である樹脂基板が積層された積層体。
11. 前記樹脂基板が、エポキシ化合物を含有する熱硬化膜である10の積層体。
12. 1~8のいずれかの剥離層形成用組成物を基体に塗布し、剥離層を形成する工程、
前記剥離層上に、波長400nmの光透過率が80%以上である樹脂基板を形成する工程、及び
前記樹脂基板を、0.4N/25mm以下の剥離力で剥離する工程
を含む樹脂基板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の剥離層形成用組成物を用いることで、剥離層上に樹脂基板等から構成されるデバイスを形成でき、剥離層と樹脂基板等から構成されるデバイスとの界面で容易に剥離する剥離層を再現性よく得ることできる。また、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、基体上に形成された樹脂基板や、更にその上に設けられる回路等に損傷を与えることなく、当該回路等とともに当該樹脂基板を当該基体から分離することが可能となる。したがって、本発明の剥離層形成用組成物は、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造プロセスの高速化やその歩留り向上等に寄与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
[剥離層形成用組成物]
本発明の剥離層形成用組成物は、(A)エポキシ基を有するモノマー(構造単位(a))を用いて得られる重合体であり、構造単位(a)の含有量が、全モノマー単位100モル%に対して1~30モル%であり、ガラス転移点が25℃以上である重合体を含むことを特徴とする。
【0013】
[1](A)成分
本発明の剥離層形成用組成物における(A)成分は、エポキシ基を有するモノマー(構造単位(a))を用いて得られる重合体であり、構造単位(a)の含有量が、全モノマー単位100モル%に対して1~30モル%であり、ガラス転移点が25℃以上である重合体である。
【0014】
構造単位(a)のエポキシ基を有するモノマーは、エポキシ基を分子内に有するモノマーであれば特に制限はなく、例えば、エポキシ基を有する、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、アクリルアミド化合物、アクリロニトリル、マレイン酸無水物、スチレン化合物及びビニル化合物等が挙げられる。
【0015】
構造単位(a)のエポキシ基を有するモノマーの具体例としては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、α-エチルアクリル酸グリシジル、3、4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、α-n-プロピルアクリル酸グリシジル、α-n-ブチルアクリル酸グリシジル、アクリル酸-3,4-エポキシブチル、メタクリル酸-3,4-エポキシブチル、アクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、メタクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、α-エチルアクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、o-ビニルベンジルグリシジルエーテル、m-ビニルベンジルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0016】
本発明の剥離層形成用組成物における(A)成分の重合体は、エポキシ基を有しないモノマー(構造単位(b))を含有していてもよい。
構造単位(b)のモノマーとしては、前記エポキシ基を有するモノマーと共重合可能なものであって、エポキシ基に対して不活性な、すなわち、エポキシ基と反応する基を有しないものであれば特に制限はなく、例えば、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、アクリルアミド化合物、アクリロニトリル、マレイン酸無水物、スチレン化合物、ビニル化合物等が挙げられる。
【0017】
アクリル酸エステル化合物の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、ナフチルアクリレート、アントリルアクリレート、アントリルメチルアクリレート、フェニルアクリレート、グリシジルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、2-メチル-2-アダマンチルアクリレート、2-プロピル-2-アダマンチルアクリレート、8-メチル-8-トリシクロデシルアクリレート、8-エチル-8-トリシクロデシルアクリレート等が挙げられる。
【0018】
メタクリル酸エステル化合物の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、アントリルメタクリレート、アントリルメチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、3-メトキシブチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、2-メチル-2-アダマンチルメタクリレート、γ-ブチロラクトンメタクリレート、2-プロピル-2-アダマンチルメタクリレート、8-メチル-8-トリシクロデシルメタクリレート、8-エチル-8-トリシクロデシルメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
ビニル化合物の具体例としては、メチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アリルグリシジルエーテル、3-エテニル-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,7-オクタジエンモノエポキサイド等が挙げられる。
スチレン化合物の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
マレイミド化合物の具体例としては、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0020】
構造単位(b)のモノマーとしては、耐熱性と疎水性の観点から、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物であることが望ましい。脂環式炭化水素基としては、炭素数6~20の脂環式炭化水素基がより好ましく、例えば、シクロヘキシル基、t-ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基を挙げることができる。
【0021】
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、アダマンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート等を挙げることができる。
【0022】
得られる重合体のガラス転移温度(Tg)は、25℃以上であり、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。重合体のガラス転移温度を25℃以上とすることで、剥離層の耐熱性が良好に向上する傾向にある。
【0023】
なお、前記の重合体のガラス転移温度は、下記Foxの式により算出される計算値を意味する(Bull.Am.Phys.Soc.,1(3)123(1956)参照)。下記Foxの式は、重合体がモノマーi(モノマー1、モノマー2、・・・・、及びモノマーn)の共重合体である場合の式を示す。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・・+Wn/Tgn
Tg:重合体のガラス転移温度(単位:K)
n:重合体を構成するモノマー全量に対するモノマーnの質量分率
Tgn:モノマーnの単独重合体のガラス転移温度(単位:K)
【0024】
単独重合体のガラス転移温度(Tgn)は、各種文献に記載の値を採用することができ、例えば、「POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley &Sons,Inc.発行)に記載の値を採用できる。なお、文献に記載のないものについては、モノマーを常法により重合して得られる単独重合体の、DSC法により測定されるガラス転移温度の値を採用することができる。
【0025】
(A)所定の繰り返し単位を含む重合体において、構成単位(a)のモノマーの含有率は、全繰り返し単位中、1~30モル%であり、2~25モル%が好ましい。架橋剤の構成単位(a)のモノマーの含有率が過小である場合には、剥離層の溶剤耐性及び耐熱性が低下し、剥離性が低下する。他方、含有率が過大である場合には、剥離層上の樹脂基板等と反応が進行し、剥離性が低下することがある。構成単位(a)及び構成単位(b)のモノマーは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
本発明の剥離層形成用組成物に用いる重合体を得る方法は特に限定されないが、例えば、構造単位(a)のモノマー、構造単位(b)のモノマー、及び重合開始剤等を共存させた溶剤中において、50~110℃の温度下で重合反応させて得られる。その際、用いられる溶剤は、構造単位(a)のモノマー、構造単位(b)のモノマー、及び重合開始剤等を溶解するものであれば特に限定されない。具体例としては、後述する溶剤に記載する溶剤が挙げられる。
【0027】
このようにして得られる重合体は、通常、溶剤に溶解した溶液の状態であり、本発明において(A)成分の溶液としてそのまま使用することができる。
【0028】
また、前記のようにして得られた重合体の溶液を、ヘキサンやジエチルエーテル、水等の撹拌下に投入して再沈殿させ、生成した沈殿物を濾過・洗浄した後、常圧又は減圧下で、常温あるいは加熱乾燥することで、重合体の粉体とすることができる。このような操作により、重合体と共存する重合開始剤や未反応モノマーを除去することができ、その結果、精製した重合体の粉体が得られる。一度の操作で充分に精製できない場合は、得られた粉体を溶剤に再溶解して、前記の操作を繰り返し行えばよい。
【0029】
本発明の剥離層形成用組成物においては、(A)成分として前記重合体の粉体をそのまま用いてもよく、あるいはその粉体を、例えば後述する溶剤に再溶解して溶液の状態として用いてもよい。
【0030】
なお、本発明の剥離層形成用組成物では、(A)成分の重合体として、単一種類の重合体を用いても、複数種の重合体の混合物を用いてもよい。
【0031】
[2](B)成分
本発明の剥離層形成用組成物は、必要に応じて(B)成分として架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤としては、(A)成分の重合体と反応して架橋構造を形成できる化合物、又はそれ自身が反応して架橋構造を形成できる化合物等の架橋構造の形成に寄与し得る化合物であれば特に制限はないが、本発明では、架橋剤としてエポキシ基を有する化合物を用いることが好ましい。
【0032】
エポキシ基を有する架橋剤としては、エポキシ基を2個以上有する化合物が挙げられる。このような化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
【0033】
エポキシ基を2個以上有する低分子化合物の具体例としては、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-4-(エポキシエチル)シクロヘキサン、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、2,6-ジグリシジルフェニルグリシジルエーテル、1,1,3-トリス[p-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、下記式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0034】
【化1】
(式中、kは2~10の整数、mは0~4の整数を示し、R1はk価の有機基を表す)
【0035】
式(1)で表される化合物の具体例としては、下記式(C1-1)及び(C1-2)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化2】
【0037】
エポキシ基を2個以上含有する化合物の市販品としては、エポリードGT-401、エポリードGT-403,エポリードGT-301、エポリードGT-302、セロキサイド2021、セロキサイド3000(以上、ダイセル化学工業(株)製)などのシクロヘキセン構造を有するエポキシ化合物、エピコート1001、エピコート1002、エピコート1003、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009、エピコート1010、エピコート828(以上、三菱ケミカル(株)製)などのビスフェノールA型エポキシ化合物、エピコート807(三菱ケミカル(株)製)などのビスフェノールF型エポキシ化合物、エピコート152、エピコート154(以上、三菱ケミカル(株)製)、EPPN201、EPPN202(以上、日本化薬(株)製)などのフェノールノボラック型エポキシ化合物、ECON-102、ECON-103S、ECON-104S、ECON-1020、ECON-1025、ECON-1027(以上、日本化薬(株)製)、エピコート180S75(三菱ケミカル(株)製)などのクレゾールノボラック型エポキシ化合物、デナコールEX-252(ナガセケムテックス(株)製)、CY175、CY177、CY179、アラルダイトCY-182、アラルダイトCY-192、アラルダイトCY-184(以上、CIBA-GEIGY A.G製)、エピクロン200、エピクロン400(以上、DIC(株)製)エピコート871、エピコート872(以上、三菱ケミカル(株)製)ED-5661、ED-5662(以上、セラニーズコーティング(株)製)などの脂環式エポキシ化合物、デナコールEX-611、デナコールEX-612、デナコールEX-614、デナコールEX-622、デナコールEX-411、デナコールEX-512、デナコールEX-522、デナコールEX-421、デナコールEX-313、デナコールEX-314、デナコールEX-312(以上、ナガセケムテックス(株)製)などの脂肪族ポリグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
【0038】
エポキシ基を2個以上有する化合物のうち、架橋反応性、耐熱性、耐溶剤性、耐長時間焼成耐性等の観点から、シクロヘキセンオキサイド構造を2個以上有する化合物が好ましく、上記式(1)で表される化合物が好ましく、式(C1-1)で表される化合物、式(C1-2)で表される化合物、エポリードGT-401、同GT-403、同GT-301、同GT-302、セロキサイド2021及びセロキサイド3000がより好ましい。
【0039】
これら架橋剤は、自己縮合による架橋反応を起こすことができる。また、(A)成分の重合体中のエポキシ基と架橋反応を起こすことができる。そして、このような架橋反応によって、形成される剥離層は強固になり、有機溶剤に対する耐性、耐熱性、耐長時間焼成耐性が高い剥離層となる。
【0040】
(B)成分を用いる場合、その含有量は、(A)成分の重合体100質量部に対し、1~50質量部が好ましく、2~40質量部がより好ましく、3~30質量部が更に好ましい。(B)成分の含有量が前記範囲であれば、高耐熱性と適度な剥離性を有する剥離層樹脂組成物が得られる。架橋剤の含有量が過小である場合には、剥離層の溶剤耐性及び耐熱性が低下し、剥離性が低下する。他方、含有量が過大である場合には、剥離層上の樹脂基板等との架橋反応が進行し、剥離性が低下することがある。(B)架橋剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
[3](C)成分
本発明の剥離層形成用組成物は、(C)成分として架橋触媒を含んでもよい。前記架橋触媒としては、熱酸発生剤又は光酸発生剤が好ましい。
【0042】
熱酸発生剤は、加熱によって酸が発生し、酸の作用によってエポキシ基をカチオン重合させる触媒である。
熱酸発生剤としては、熱により酸を発生することができれば特に制限はなく、例えば、スルホニウム塩、ベンゾチアゾリウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩などのオニウム塩等が挙げられる。
【0043】
熱酸発生剤の具体例としては、ベンジル(4-ヒドロキシフェニル)メチルスルホニウム、(4-アセトキシフェニル)ジメチルスルホニウム、(4-ヒドロキシフェニル)ジメチルスルホニウム、(2-メチルベンジル)(4-ヒドロキシフェニル)メチルスルホニウム、(1-ナフチルメチル)(4-ヒドロキシフェニル)メチルスルホニウムおよびベンジル(4-アセトキシフェニル)メチルスルホニウムから選ばれるカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヘキサフルオロアンチモネート、p-トルエンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、パーフルオロブタンスルホネートからなる群より選ばれるアニオンの塩等が挙げられる。
【0044】
熱酸発生剤としては、市販品を用いることができ、具体例としては、TA-60、TA-60B、TA-100、TA-120、TA-160(以上、サンアプロ(株)製)、K-PURE〔登録商標〕TAG-2678、同TAG-2681、同TAG-2689、同TAG-2690、同TAG-2700、同CXC-1612、同CXC-1614、同CXC-1615、同CXC-1616、同CXC-1733、同CXC-1738、同CXC-1742、同CXC-1802、同CXC-1821(以上、King Industries Inc.製)、サンエイドSI-45、同SI-45L、同SI-60、同SI-60L、同SI-80、同SI-80L、同SI-100、同SI-100L、同SI-110、同SI-110L、同SI-150、同SI-150L、同SI-180、同SI-180L、同SI-B2、同SI-B2A、同SI-B3、同SI-B3A、同SI-B4、同SI-B5、同SI-200、同SI-210、同SI-220、同SI-300、同SI-360(以上、三新化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0045】
光酸発生剤は、光の照射によって酸が発生し、酸の作用によってエポキシ基をカチオン重合させる触媒である。
光酸発生剤としては、スルホニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、ホスホニウム塩、ジスルホン系化合物、イミドスルホネート化合物、ハロゲン含有トリアジン化合物、アセトフェノン誘導体化合物、及び、シアノ基含有オキシムスルホネート化合物等が挙げられる。
【0046】
光酸発生剤の具体例としては、2-ブテニルジメチルスルホニウム、2-ブテニルテトラメチレンスルホニウム、3-メチル-2-ブテニルジメチルスルホニウム、4-ヒドロキシフェニルシンナミルメチルスルホニウム、α-ナフチルメチルテトラメチレンスルホニウム、シンナミルジメチルスルホニウム、シンナミルテトラメチレンスルホニウム、ビフェニルメチルジメチルスルホニウム、ビフェニルメチルテトラメチレンスルホニウム、フェニルメチルジメチルスルホニウム、フェニルメチルテトラメチレンスルホニウム、フルオレニルメチルジメチルスルホニウム、フルオレニルメチルテトラメチレンスルホニウム、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、ジフェニル-4-(フェニルチオ)フェニルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、ビス[4-(ジ(4-(2-ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、ベンジル(4-ヒドロキシフェニル)メチルスルホニウム、ジベンジル-4-ヒドロキシフェニルスルホニウム及び4-アセトキシフェニルベンジルスルホニウム等から選ばれるカチオンと、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヘキサフルオロアンチモネート、p-トルエンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート及びパーフルオロブタンスルホネートからなる群より選ばれるアニオンの塩であるスルホニウム塩;ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムメシレート、ジフェニルヨードニウムトシレート、ジフェニルヨードニウムブロミド、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムメシレート、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムトシレート、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムクロリド、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウムクロライド、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート等のヨードニウム塩;トリフェニルホスホニウムクロリド、トリフェニルホスホニウムブロミド、トリ(p-メトキシフェニル)ホスホニウムテトラフルオロボレート、トリ(p-メトキシフェニル)ホスホニウムヘキサフルオロホスホネート、トリ(p-エトキシフェニル)ホスホニウムテトラフルオロボレート等のホスホニウム塩;ジ(フェニルスルホン)等のジスルホン化合物;N-(メチルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(メチルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(メチルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(メチルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシルイミド、N-(メチルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-オキシ-2,3-ジカルボキシルイミド、N-(メチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシルイミド等のイミドスルホネート化合物;それらのイミドスルホネート化合物のメチルスルホニルオキシをプロピルスルホニルオキシ、ブチルスルホニルオキシ、カンファスルホニルオキシ、p-トルエンスルホニルオキシ、2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ、4-フルオロフェニルスルホニルオキシ及びトリフルオロメチルスルホニルオキシ基から選ばれる基に置き換えた化合物等が挙げられる。
【0047】
光酸発生剤としては、市販品を用いることができ、具体例としては、サンエイドSI-45L、サンエイドSI-60L、サンエイドSI-80L、サンエイドSI-100L、サンエイドSI-110L、サンエイドSI-150L(以上、三新化学工業(株)製)、アデカオプトマーSP-150、アデカオプトマーSP-170、アデカオプトマーSP-171(以上、(株)ADEKA製)、UVE-1014(ゼネラルエレクトロニクス社製)、CD-1012(サートマー社製)等が挙げられる。
【0048】
(C)成分を用いる場合、その含有量は、(A)成分の重合体100質量部に対し、0.01~20質量部が好ましく、0.1~20質量部がより好ましく、0.1~10質量部がより一層好ましい。(C)成分の含有量が前記範囲であれば、高耐熱性と適度な剥離性とを有する剥離層樹脂組成物が得られる。なお、(C)架橋触媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
[4]その他の添加剤
本発明の剥離層形成用組成物は、必要に応じて界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤を添加することで、基板に対する前記剥離層形成用組成物の塗布性を向上させることができる。前記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等の公知の界面活性剤を用いることができる。
【0050】
ノニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0051】
フッ素系界面活性剤の具体例としては、エフトップ(登録商標)EF301、EF303、EF352(三菱マテリアル電子化成(株)製)、メガファック(登録商標)F171、F173、F554、F559、F563、R-30、R-40、R-40-LM、DS-21(DIC(株)製)、フロラードFC430、FC431(スリーエム社製)、アサヒガード(登録商標)AG710、サーフロン(登録商標)S-382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(AGC(株)製)等が挙げられる。
【0052】
シリコーン系界面活性剤の具体例としては、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0053】
これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤を用いる場合、その使用量は、(A)重合体100質量部に対し、0.0001~1質量部が好ましく、0.001~0.5質量部がより好ましい。
【0054】
また、本発明の実施形態の剥離層形成用組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、その他の添加剤として、シランカップリング剤、レオロジー調整剤、顔料、染料、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0055】
[5]溶剤
本発明の剥離層形成用組成物は、溶剤を含んでいてもよい。
溶剤としては、(A)成分、必要に応じて用いられる(B)成分、(C)成分及びその他の添加剤の溶解能を有するものであれば、その種類及び構造等は特に限定されるものでないが、本発明では、炭素数3~20のグリコールエーテル系溶剤、炭素数3~20のエステル系溶剤、炭素数3~20のケトン系溶剤、アミド系溶剤が好ましい。
【0056】
グリコールエーテル系溶剤の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
エステル系溶剤の具体例としては、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、2-ヒドロシキイソ酪酸メチル、2-ヒドロシキイソ酪酸エチル等が挙げられる。
ケトン系溶剤の具体例としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
アミド系溶剤の具体例としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等が挙げられる。
なお、溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
溶剤の含有量は、本発明の剥離層形成用組成物中の固形分濃度が、0.1~40質量%となる量が好ましく、0.5~20質量%となる量がより好ましく、0.5~10質量%となる量がより一層好ましい。なお、固形分とは、剥離層形成用組成物の全成分のうち、溶剤以外のものの総称である。
【0058】
本発明の剥離層形成用組成物の調製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、溶剤に溶解した(A)成分の溶液に、所望により(B)成分、(C)成分、及び/又はその他の添加剤等を所定の割合で混合し、均一な溶液とする方法や、前記調製方法の適当な段階において、必要に応じてその他添加剤を更に添加して混合する方法が挙げられる。
なお、調製された剥離層形成用組成物の溶液は、孔径が0.2μm程度のフィルター等を用いて濾過した後、使用することが好ましい。
【0059】
本発明の剥離層形成用組成物の粘度は、作製する剥離層の厚み等を勘案して適宜設定するものではあるが、特に0.01~5μm程度の厚さの膜を再現性よく得ることを目的とする場合、通常、25℃で1~5,000mPa・s程度が好ましく、1~2,000mPa・s程度がより好ましい。
【0060】
ここで、粘度は、市販の液体の粘度測定用粘度計を使用して、例えば、JIS K7117-2に記載の手順を参照して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。好ましくは、粘度計としては、円錐平板型(コーンプレート型)回転粘度計を使用し、好ましくは同型の粘度計で標準コーンロータとして1°34’×R24を使用して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。このような回転粘度計としては、例えば、東機産業(株)製TVE-25Lが挙げられる。
【0061】
[剥離層]
本発明の剥離層形成用組成物を、基体上に塗布した後、100~250℃で焼成する工程を含む焼成法にて、剥離層を得ることができる。
この場合、焼成時間は、温度によって異なるため一概に規定できないが、通常1分間~5時間である。また、焼成工程は、最高温度が前記範囲となる限り、それ以下の温度で焼成する工程を含んでもよい。
【0062】
本発明における加熱態様の好ましい一例としては、50~150℃で1分間~1時間加熱した後に、そのまま加熱温度を上昇させて100~250℃で5分間~4時間加熱する態様が挙げられる。特に、加熱態様のより好ましい一例としては、50~150℃で1分間~1時間加熱し、150~250℃で5分間~2時間加熱する態様が挙げられる。更に、加熱態様のより好ましい他の一例としては、50~150℃で1分間~30分間加熱した後に、200~250℃で5分間~1時間加熱する態様が挙げられる。
【0063】
本発明の剥離層を基体上に形成する場合、剥離層は基体の一部表面に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。基体の一部表面に剥離層を形成する態様としては、基体表面のうち所定の範囲にのみ剥離層を形成する態様、基体表面全面にドットパターン、ラインアンドスペースパターン等のパターン状に剥離層を形成する態様等がある。
なお、本発明において、基体とは、その表面に本発明の剥離層形成用組成物が塗られるものであって、フレキシブル電子デバイス等の製造に用いられるものを意味する。
【0064】
基体(基材)としては、例えば、ガラス、金属(シリコンウエハ等)、スレート等が挙げられるが、特に、本発明に係る剥離層形成用組成物から得られる剥離層がそれに対する十分な密着性を有することから、ガラスが好ましい。なお、基体表面は、単一の材料で構成されていてもよく、2以上の材料で構成されていてもよい。2以上の材料で基体表面が構成される態様としては、基体表面のうち、ある範囲はある材料で構成され、その余の表面はその他の材料で構成されている態様、基体表面全体にドットパターン、ラインアンドスペースパターン等のパターン状にある材料がその他の材料中に存在する態様等がある。
【0065】
塗布方法は、特に限定されないが、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等が挙げられる。
【0066】
加熱に用いる器具としては、例えば、ホットプレート、オーブン等が挙げられる。加熱雰囲気は、空気下であっても不活性ガス下であってもよく、また、常圧下であっても減圧下であってもよい。
【0067】
剥離層の厚さは、通常0.01~50μm程度、生産性の観点から、好ましくは0.01~20μm程度、より好ましくは0.01~5μm程度であり、加熱前の塗膜の厚さを調整して所望の厚さを実現する。
【0068】
本発明の剥離層は、その上に設けられた樹脂基板と良好な剥離性を有する。このため、本発明の剥離層は、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、当該デバイスの樹脂基板に損傷を与えることなく、当該樹脂基板を、その樹脂基板上に形成された回路等とともに、基体から剥離させるために好適に用いることができる。
【0069】
本発明の剥離層を用いたフレキシブル電子デバイスの製造方法の一例について説明する。まず、本発明の剥離層形成用組成物を用いて、前述の方法によって、ガラス基体上に剥離層を形成する。この剥離層の上に、樹脂基板を形成するための樹脂基板形成用溶液を塗布し、得られた塗膜を焼成することで、本発明の剥離層を介して、ガラス基体に固定された樹脂基板を形成する。
【0070】
塗膜の焼成温度は、樹脂の種類等に応じて適宜設定されるものであるが、本発明では、この焼成時の最高温度を200~250℃とすることが好ましく、210~250℃とすることがより好ましく、220~240℃とすることがより一層好ましい。樹脂基板作製の際の焼成時の最高温度をこの範囲とすることで、剥離層と樹脂基板との剥離性をより向上させることができる。この場合も、最高温度が前記範囲となる限り、それ以下の温度で焼成する工程を含んでもよい。
【0071】
樹脂基板は剥離層を全て覆うようにして、剥離層の面積と比較して大きい面積で、樹脂基板を形成することが好ましい。樹脂基板としては、エポキシ化合物を含有する熱硬化膜からなる樹脂基板、アクリルポリマーからなる樹脂基板、シクロオレフィンポリマーからなる樹脂基板等が挙げられる。当該樹脂基板の形成方法は、常法に従えばよい。また、樹脂基板としては、波長400nmの光透過率が80%以上であるものが好ましい。
【0072】
次に、本発明の剥離層を介して基体に固定された当該樹脂基板の上に、必要に応じて所望の回路を形成し、その後、例えば剥離層に沿って樹脂基板をカットし、この回路とともに樹脂基板を剥離層から剥離して、樹脂基板と基体とを分離する。この際、基体の一部を剥離層とともにカットしてもよい。
本発明の剥離層を用いれば、樹脂基板を剥離層から0.4N/25mm以下の剥離力で剥離することができる。
【実施例0073】
以下、合成例、調製例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、下記実施例に限定されない。
【0074】
以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
【0075】
〔ポリマー原料〕
ADMA:メタクリル酸2-アダマンチル
DCPMA:メタクリル酸ジシクロペンタニル
GMA:メタクリル酸グリシジル
4HBAGE:4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル
MA:アクリル酸メチル
PhMI:N-フェニルマレイミド
St:スチレン
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
〔溶媒〕
CHN:シクロヘキサノン
〔(B)成分〕
GT-401:ブタンテトラカルボン酸 テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン[エポリードGT-401(ダイセル(株)製)]
〔(C)成分〕
SI-B3A:テトラキスペンタフルオロフェニルスルホニウムボレート塩[サンエイドSI-B3A(三新化学工業(株)製)]
【0076】
〔重合体の分子量の測定〕
重合例におけるアクリル共重合体の分子量は、(株)Shodex社製常温ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(GPC-101)、Shodex社製カラム(KD-803、KD-805)を用い以下のようにして測定した。
なお、下記の数平均分子量(以下、Mnと称す。)及び重量平均分子量(以下、Mwと称す。)は、ポリスチレン換算値にて表した。
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
検量線作成用標準サンプル:昭和電工(株)製 標準ポリスチレン(分子量約197,000、55,100、12,800、3,950、1,260、580)。
【0077】
(1)(A)成分の合成
[合成例1]
非架橋性モノマーとしてADMA5.00g(22.70mmol)、架橋モノマーとしてGMA0.17g(1.19mmol)、重合触媒としてAIBN0.12g(0.72mmol)をCHN50.0gに溶解し、加熱還流下にて20時間反応させることによりアクリル共重合体溶液を得た。アクリル共重合体溶液をヘキサン 500.0gに徐々に滴下して固体を析出させ、ろ過及び減圧乾燥することでアクリル重合体(PA-1)を得た。得られたアクリル共重合体のMwは18,000であった。
【0078】
[合成例2~8]
原料化合物の種類、配合量を下記表1のとおりとした以外は、合成例1と同様に操作し、重合体(PA-2)~(PA-8)を得た。得られた重合体のMw及びTgを表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
(2)樹脂基板形成用組成物の調製
[調製例1]
溶媒として四塩化炭素100gを入れたナスフラスコに、ゼオノア(登録商標)1020R(日本ゼオン(株)製シクロオレフィンポリマー)10g及びエポリード(登録商標)GT401((株)ダイセル製)3gを添加した。この溶液を、窒素雰囲気下、24時間攪拌して溶解し、樹脂基板形成用組成物F1を調製した。
【0081】
(3)剥離層形成用組成物の調製
[実施例1-1]
(A)成分として前記合成例1で得た重合体(PA-1)を100質量部、(C)成分としてSI-B3Aを1質量部混合し、これにCHNを加え、固形分濃度が5.0質量%の剥離層形成組成物(A-1)を調製した。
【0082】
[実施例1-2~1-7、比較例1-1~1-3]
各成分の種類と量を、それぞれ表2に記載のとおりとしたほかは、実施例1-1と同様に実施し、剥離層形成組成物(A-2)~(A-10)をそれぞれ調製した。
【0083】
【表2】
【0084】
(3)剥離層及び樹脂基板の作製
[実施例2-1]
スピンコータ(条件:回転数2,000rpmで約30秒)を用いて、剥離層形成用組成物(A-1)を、基体としてのガラス基板(コーニング社製イーグルXG、100mm×100mm×0.7mm、以下同様)の上に塗布した。得られた塗膜を、ホットプレートを用いて100℃で2分間加熱し、次いでホットプレートを用いて230℃で10分間加熱し、ガラス基板上に厚さ約0.1μmの剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。
その後、スピンコータ(条件:回転数200rpmで約15秒)を用いて、前記ガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物F1を塗布した。得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で2分間加熱し、その後、ホットプレートを用いて230℃で30分間加熱し、剥離層上に厚さ約3μmの樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。
【0085】
[実施例2-2~2-7、比較例2-1~2-3]
剥離層形成組成物として(A-2)~(A-10)を用いた以外は、実施例2-1と同様に操作し、実施例2-2~2-7、比較例2-1~2-3の樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。
【0086】
〔剥離力の評価〕
前記で得られた樹脂基板・剥離層付きガラス基板を、カッターを用いて25mm×50mmの短冊状に切り込みを入れた。更に、セロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製CT-24)を貼った後、オートグラフAGS-X500N((株)島津製作所製)を用いて、剥離角度90°、剥離速度300mm/minで剥離し、剥離力を測定した。なお、剥離できないものは、剥離不可とした。評価結果は「剥離力」とし、結果を表3にまとめて示す。
【0087】
〔剥離界面の評価〕
剥離力の評価後のガラス基板上に残存する剥離層を、触針式膜厚計で膜厚を測定した。剥離層形成時の膜厚と比較を行い、剥離界面を判別した。評価結果は「剥離界面」とし、残膜率(残膜率(%)=剥離後の剥離層膜厚/剥離層形成時の剥離層膜厚×100)が90%以上の場合は剥離層/樹脂界面、10%以上90%未満の場合は剥離層の凝集破壊、10%未満の場合はガラス基板/剥離層界面とした。評価結果を表3にまとめて示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示した結果より、実施例の剥離層は、低い剥離力を示し、剥離性に優れていることが確認された。また、実施例の剥離層は、剥離層と樹脂基板の界面で剥離することが確認された。一方、比較例の膜は、剥離層として機能しないことがわかる。