IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

特開2022-140917イオン液体、溶媒、製剤及び経皮吸収剤
<>
  • 特開-イオン液体、溶媒、製剤及び経皮吸収剤 図1
  • 特開-イオン液体、溶媒、製剤及び経皮吸収剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140917
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】イオン液体、溶媒、製剤及び経皮吸収剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/18 20060101AFI20220921BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 47/12 20060101ALN20220921BHJP
   A61K 8/44 20060101ALN20220921BHJP
   A61K 8/36 20060101ALN20220921BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20220921BHJP
   C12N 15/87 20060101ALN20220921BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
A61K47/18
A61K31/711
A61K48/00
A61K47/12
A61K8/44
A61K8/36
A61Q19/00
C12N15/87 Z ZNA
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040981
(22)【出願日】2021-03-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、大学発新産業創出プログラム、プロジェクト支援型「次世代経皮吸収技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】小坂 秀斗
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C083
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC12
4B065BA01
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA95
4C076BB31
4C076CC29
4C076DD41N
4C076DD49N
4C076DD51N
4C076FF12
4C076FF34
4C083AC251
4C083AC252
4C083AC621
4C083AC622
4C083AD601
4C083AD602
4C083BB11
4C083CC02
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE07
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA63
4C084NA11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA63
4C086NA11
(57)【要約】
【課題】皮膚への核酸の浸透性を向上させることができる経皮吸収剤を提供する。
【解決手段】イオン液体は、β-アラニンエチルエステルのアミノ基がイオン化したカチオンと、一般式R-COOで表されるアニオンと、を含む。一般式において、Rは置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を表し、アルケニル基を構成するエチレン基の少なくとも1つはビニレン基で置き換わっていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-アラニンエチルエステルのアミノ基がイオン化したカチオンと、
一般式R-COOで表されるアニオンと、
を含む、イオン液体。
[一般式において、Rは置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を表し、前記アルケニル基を構成するエチレン基の少なくとも1つはビニレン基で置き換わっていてもよい。]
【請求項2】
前記一般式のRの炭素数が8~22である、
請求項1に記載のイオン液体。
【請求項3】
前記一般式のRが不飽和結合を有する、
請求項1又は2に記載のイオン液体。
【請求項4】
前記一般式のRが炭素原子と水素原子のみからなる基である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン液体。
【請求項5】
疎水性である、
請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン液体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン液体を含む溶媒。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン液体を含む製剤。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン液体を含む経皮吸収剤。
【請求項9】
油相をさらに含む、
請求項8に記載の経皮吸収剤。
【請求項10】
核酸をさらに含む、
請求項8又は9に記載の経皮吸収剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体、溶媒、製剤及び経皮吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子医薬及び抗体医薬では根治が困難だった疾患に対する新しい創薬モダリティとして、核酸医薬及びmRNA医薬が注目されている。核酸医薬は、標的のRNA又は疾患の原因となるタンパク質に結合し、タンパク質を減少させ、あるいはその機能を阻害する。mRNA医薬は細胞内で目的のタンパク質を発現させることで疾患を治療する。核酸医薬及びmRNA医薬はどちらも核酸で構成されているため、有効性の高い塩基配列のスクリーニングが低分子医薬と比較して容易であることに加え、化学合成を用いるため抗体医薬と比較して低コストで製造できるといった利点を有している。
【0003】
mRNA医薬には、mRNAワクチンが含まれる。mRNAワクチンは、核酸の塩基配列を変えることで様々な抗原タンパク質を生体内で発現させることができるため、高い治療効果と多様な疾患への適用とが期待される。さらに、mRNAワクチンは、病原体由来の抗原を用いておらず、ゲノムへの挿入又は変異のリスクもないため、高い安全性が期待できる。
【0004】
例えば、非特許文献1では、mRNAワクチンによる抗腫瘍免疫について検討されている。当該mRNAワクチンは注射での投与が想定されている。注射ワクチンは、衛生面及び医療従事者の必要性等、感染症が深刻な問題となっている発展途上国における普及の妨げとなっている。また、先進国においても針刺し事故の危険性があり、痛みを伴うため、患者の生活の質(QOL)が大きく低下することが課題となっている。それに対して、皮膚に塗布するだけの経皮ワクチンは、安全性、簡便性及び低侵襲性に優れた非常に魅力的な代替法と言える。
【0005】
親水性の核酸を疎水的な皮膚表面から体内へ効率よく浸透させるのは容易ではない。経皮ワクチンを実用化するには、核酸を高効率で皮膚表面から浸透させる経皮ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が必要である。核酸の経皮DDSとして、非特許文献2、3及び4では、それぞれリポソーム、エレクトロポレーション及びクリーム剤が検討されている。経皮DDSとしてのリポソームは、細網内皮系に取り込まれやすい上、肝臓に集積することが実用化への障壁となっている。エレクトロポレーションは、非常に高価で操作が煩雑である。クリーム剤は薬剤の輸送効率が低いのが難点である。
【0006】
非特許文献5では、脂肪酸ベースのアミノ酸イオン液体による経皮DDSが検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stefano Persano,外6名,「Lipopolyplex potentiates anti-tumor immunity of mRNA-based vaccination」,Biomaterials,2017年,125,81-89
【非特許文献2】Barbara Geusens,外5名,「Ultradeformable cationic liposomes for delivery of small interfering RNA(siRNA) into human primary melanocytes」,Journal of Controlled Release,2009年,133(3),214-220
【非特許文献3】Tomoyuki Inoue,外8名,「Modulation of scratching behavior by silencing an endogenous cyclooxygenase-1 gene in the skin through the administration of siRNA」,The Journal of Gene Medicine,2007年,9(11),994-1001
【非特許文献4】M Takanashi,外10名,「Therapeutic silencing of an endogenous gene by siRNA cream in an arthritis model mouse」,Gene Therapy,2009年,16,982-989
【非特許文献5】Rahman Md Moshikur,外5名,「Design and Characterization of Fatty Acid-Based Amino Acid Ester as a New “Green” Hydrophobic Ionic Liquid for Drug Delivery」,ACS Sustainable Chemistry & Engineering,2020年,8,36,13660-13671
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献5には、上記のイオン液体によって化合物及びペプチドの皮膚浸透性が向上することが示されているものの、核酸の皮膚浸透性については検討されていない。核酸を皮膚に効率よく浸透させることができる技術が求められている。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、皮膚への核酸の浸透性を向上させることができるイオン液体、溶媒、製剤及び経皮吸収剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係るイオン液体は、
β-アラニンエチルエステルのアミノ基がイオン化したカチオンと、
一般式R-COOで表されるアニオンと、
を含む。
[一般式において、Rは置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を表し、前記アルケニル基を構成するエチレン基の少なくとも1つはビニレン基で置き換わっていてもよい。]
【0011】
この場合、前記一般式のRの炭素数が8~22である、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記一般式のRが不飽和結合を有する、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記一般式のRが炭素原子と水素原子のみからなる基である、
こととしてもよい。
【0014】
上記本発明の第1の観点に係るイオン液体は、
疎水性である、
こととしてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点に係る溶媒は、
上記本発明の第1の観点に係るイオン液体を含む。
【0016】
本発明の第3の観点に係る製剤は、
上記本発明の第1の観点に係るイオン液体を含む。
【0017】
本発明の第4の観点に係る経皮吸収剤は、
上記本発明の第1の観点に係るイオン液体を含む。
【0018】
上記本発明の第4の観点に係る経皮吸収剤は、
油相をさらに含む、
こととしてもよい。
【0019】
上記本発明の第4の観点に係る経皮吸収剤は、
核酸をさらに含む、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、皮膚への核酸の浸透性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例において定量された、皮膚に浸透したsingle strand DNA(ssDNA)の量を示す図である。PBSはリン酸緩衝生理食塩水を示す。IPMはイソプロピルミリステートを示す。ILはイオン液体を示す。IL-IPMはILとIPMとの混合物を示す。
図2】実施例における定性分析の結果を示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)は、それぞれ未処理、PBS、IPM、IL及びIL-IPMの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部又は全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0023】
(実施の形態)
本実施の形態に係るイオン液体は、下記式1に示すβ-アラニンエチルエステルのアミノ基がイオン化したカチオンと、一般式R-COOで表されるアニオンと、を含む。
【0024】
【化1】
【0025】
一般式において、Rは置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアルケニル基を表し、アルケニル基を構成する少なくとも1つのエチレン基はビニレン基で置換されていてもよい。
【0026】
Rにおけるアルキル基は、直鎖状、分枝状及び環状のいずれであってもよい。Rにおけるアルキル基の好ましい炭素数は8~22であり、より好ましくは12~22である。例えば、Rにおけるアルキル基として、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基及びドコシル基等の直鎖状アルキル基、それらの分枝状アルキル基、並びにそれらの環状アルキル基等を例示することができる。アルキル基に置換しうる置換基として、アミノ基、ベンジル基及びハロゲン原子等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。アルキル基が置換基で置換されているとき、アルキル基の炭素数と置換基の炭素数の合計は、8~22であることが好ましく、12~22であることがより好ましい。
【0027】
Rにおけるアルケニル基は、直鎖状及び分枝状のいずれであってもよい。Rにおけるアルケニル基の好ましい炭素数は8~22であり、より好ましくは12~22である。例えば、Rにおけるアルケニル基として、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基及びドコセニル基等の直鎖状アルケニル基、並びにそれらの分枝状アルケニル基等を例示することができる。アルケニル基に置換しうる置換基として、アミノ基、ベンジル基及びハロゲン原子(例えばフッ素原子)等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。アルケニル基が置換基で置換されているとき、アルケニル基の炭素数と置換基の炭素数の合計は、8~22であることが好ましく、12~22であることがより好ましい。また、Rにおけるアルケニル基は、その少なくとも1つのエチレン基がビニレン基で置換されてポリエン構造が形成されていてもよい。ポリエン構造の二重結合の数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。二重結合の位置は、特に限定されないが、少なくとも2つの単結合を隔てて二重結合同士が配置していることが好ましい。
【0028】
Rは不飽和結合を有する基であることが好ましく、置換若しくは無置換のアルケニル基や置換若しくは無置換のポリエン構造を有する基であることがより好ましい。また、Rにおけるアルキル基、アルケニル基及びポリエン構造を有する基は置換基で置換されていてもよいが、その場合にも、Rは炭素原子と水素原子のみからなることが好ましい。すなわち、アルキル基、アルケニル基及びポリエン構造が置換基で置換されている場合、その置換基も炭素原子と水素原子のみからなることが好ましい。
【0029】
R-COOとして、例えば脂肪酸のカルボキシ基から水素イオンが解離したカルボキシラートイオン又はその誘導体が挙げられる。カルボキシラートイオンを生じる脂肪酸は飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。飽和脂肪酸の例として、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)及びラウリン酸(C12:0)等を挙げることができ、不飽和脂肪酸の例として、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、α-リノレン酸(C18:3)、γ-リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)、イコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)及びエルカ酸(C22:1)等を挙げることができる。ここで、括弧内の数値は、各脂肪酸の炭素数と二重結合の数である。例えば、リノール酸の(C18:2)は、炭素数が18であり、二重結合の数が2つであることを表す。
【0030】
本実施の形態に係るイオン液体におけるアニオンの具体例として、リノール酸、オレイン酸、酢酸又はステアリン酸の各カルボキシラートイオンが挙げられる。
【0031】
次に、本実施の形態に係るイオン液体の好ましい特性について説明する。本実施の形態に係るイオン液体は、疎水性であることが好ましい。ここで、「疎水性」とは、イソプロピルミリステート(IPM)に0.1質量%以上溶解することを意味する。
【0032】
本実施の形態に係るイオン液体は、IPMに、0.1質量%以上溶解すること(疎水性であること)が好ましく、5質量%以上溶解することがより好ましく、20質量%以上溶解することがさらに好ましい。ここで、イオン液体がIPMに溶解するとは、イオン液体がIPM中に均一系を形成して溶解していることの他、逆ミセルを形成して溶解していることも含む。イオン液体がIPM中で逆ミセルを形成していることは、DLSで測定された粒子径分布にピークを認めることで確認することができる。
【0033】
本実施の形態に係るイオン液体におけるアニオンは、上記一般式で表される構造を有しており、Rにアルキル基又はアルケニル基を含むため、容易に疎水性とすることができる。疎水性であるイオン液体は、疎水性溶媒、油性基材及び疎水性薬物等に対して高い相溶性を示すことにより、これらと容易に混合することができる。また、イオン液体は、角質層の透過障壁に対する透過性が高く、容易に経皮吸収させることができる。そのため、疎水性であるイオン液体は、特に経皮DDSに活用することができる。
【0034】
本実施の形態に係るイオン液体は、融点が100℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましい。ここで、融点は、示差走査熱量測定による融点であることとする。融点が上記の範囲にあるイオン液体は、広い温度範囲で液体状態を呈するため、溶媒として好適に用いることができる。
【0035】
別の実施の形態では、本実施の形態に係るイオン液体を含む溶媒が提供される。本実施の形態に係る溶媒は、本実施の形態に係るイオン液体のみから構成されていてもよいし、その他の溶媒を含んでいてもよい。その他の溶媒は特に制限されず、公知の溶媒から適宜選択することができる。
【0036】
本実施の形態に係るイオン液体におけるアニオンは、上記一般式で表される構造を有しており、Rにアルキル基又はアルケニル基を含むため疎水性物質との相溶性が高い。また、イオン液体はカルボキシラートイオンとカチオンとを有することにより、親水性物質に対しては界面活性剤様の挙動を示す。そのため、本実施の形態に係るイオン液体は、疎水性溶媒又は親水性溶媒と組み合わせて均一に混合することができ、また、疎水性の溶質及び親水性の溶質のいずれも溶解することができる。例えば、本実施の形態に係るイオン液体を溶媒に用いれば、難溶性の薬理活性物質も溶解することが可能になる。当該イオン液体を用いることにより、組み合わせる溶媒及び溶質を問わず高い溶解性を示す溶媒を実現することができる。また、生体適合性に優れた製剤及び経皮吸収剤を実現することができる。
【0037】
別の実施の形態では、本実施の形態に係るイオン液体を含む製剤が提供される。本実施の形態に係る製剤は、本実施の形態に係るイオン液体の他に、有効成分、添加剤、賦形剤及び基剤等、製剤に通常用いられる成分を含んでいてもよい。また、本実施の形態に係る製剤の形態は特に制限されず、例えば内服薬、外用薬及び注射薬等のいずれの形態であってもよい。
【0038】
本実施の形態に係るイオン液体は、脂肪酸を基本骨格とするアニオンと、β-アラニンエチルエステルがイオン化したカチオンと、を組み合わせたものであり、いずれの基本骨格も生体関連物質である。このため、毒性が低く、生体適合性が高い。また、本実施の形態に係るイオン液体は、Rにアルキル基又はアルケニル基を含むため疎水性物質との相溶性が高く、カルボキシラートイオンとカチオンとを有することにより、親水性物質に対しては界面活性剤様の挙動を示す。そのため、本実施の形態に係るイオン液体を用いることにより、イオン液体の長所を備え、安全な製剤を容易に調製することができる。
【0039】
別の実施の形態では、本実施の形態に係るイオン液体を含む経皮吸収剤が提供される。本実施の形態に係るイオン液体は、毒性が低く、生体適合性が高い上に、アルキル基又はアルケニル基を分子内に含むことにより疎水性を示すため、皮膚の角質層を透過させることができる。そのため、本実施の形態に係るイオン液体は、イオン液体の長所を備えるとともに安全であり、良好な経皮吸収性を示す経皮吸収剤を実現することができる。
【0040】
本実施に形態に係る経皮吸収剤は、好ましくは、油相をさらに含む。油相は、液状であってもよく、流動性を有する固形状であってもよい。油相の基材は、医薬製剤での使用が許容される油性基材、好ましくは経皮送達用医薬製剤での使用が許容されるものであれば、特に制限されない。常温(25℃)で液状の油又は常温で固形状の脂のいずれも用いることができる。油相の原料の由来には制限がなく、例えば、天然物及び合成物のいずれも用いることができる。また、油相は、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油、落花生油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ナタネ油、シソ油、ウイキョウ油、カカオ油、ケイヒ油、ハッカ油及びベルガモット油等の植物性であってもよく、牛脂、豚油及び魚油等の動物性であってもよい。また、油相は、グリセリド、トリオレイン、トリリノレイン、トリパルミチン、トリステアリン、トリミリスチン、トリアラキドニン等の中性脂質、又は合成脂質であってもよい。
【0041】
油相は、コレステリルオレエート、コレステリルリノレート、コレステリルミリステート、コレステリルパルミデート及びコレスレリルアラキデート等のステロール誘導体であってもよく、IPM、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル及びステアリン酸ブチル等の長鎖脂肪酸エステルであってもよい。また、油相は、乳酸エチル、乳酸セチル、クエン酸トリエチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル及び2-エチルヘキサン酸セチル等のカルボン酸エステルであってもよいし、ワセリン、パラフィンスクワラン及び植物性スクワラン等の炭化水素類であってもよく、シリコーン類であってもよい。油性基材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
油相としては、トリグリセライド又はこれを主成分とする食物油を用いることができ、実用的には、大豆油が好ましく、高純度に精製された大豆油がより好ましい。また、中性脂質又は長鎖脂肪酸エステルも好適に使用でき、長鎖脂肪酸エステルがより好ましく、IPMがさらに好ましい。
【0043】
本実施の形態に係る経皮吸収剤における油相の含有量は、油成分の種類や他の構成成分等によって異なるが、50~99.5質量%が好ましく、80~90質量%がより好ましい。
【0044】
本実施に形態に係る経皮吸収剤は、皮膚浸透促進剤をさらに含んでもよい。皮膚浸透促進剤としては、皮膚での吸収促進作用が認められている化合物であれば任意で、例えば、炭素数6以上20以下の脂肪酸、脂肪族系アルコール、脂肪酸アミド、脂肪酸エーテル、芳香族系有機酸、芳香族系アルコール、芳香族系有機酸エステル又はエーテル、乳酸エステル類、酢酸エステル類、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、グリセリン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリソルベート系、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ショ糖脂肪酸エステル類及び植物油等が挙げられる。
【0045】
好適な皮膚浸透促進剤は、グリセリンと脂肪酸とのエステルであるグリセリン脂肪酸エステルである。グリセリンは、ポリグリセリンであってもよい。グリセリンとしては、モノグリセリン、ジグリセリン、又はトリグリセリンが好ましい。
【0046】
脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、ウンデシレン酸、リシノール酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、牛脂、豚脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、菜種油、米ぬか油、大豆油、及びヒマシ油等が挙げられる。
【0047】
グリセリン脂肪酸エステルは、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、又はトリグリセリン脂肪酸エステルである。具体的には、グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸ジグリセリル、モノステアリン酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、モノオリーブ油脂肪酸グリセリル(オレイン酸グリセリル又はMGOL-70ともいう)、モノオレイン酸ジグリセリル、モノカプリル酸グリセリル(Capmul 808G、ABITEC社製)、モノカプリン酸グリセリル、カプリン酸グリセリル、カプリル酸グリセリル、カプリン酸モノジグリセリド、カプリン酸ジグリセリド、モノラウリン酸グリセリル、モノウンデシレン酸グリセリル、モノパルミチン酸グリセリル、及びモノミリスチン酸グリセリル等が挙げられる。好適には、皮膚浸透促進剤は、オレイン酸グリセリルである。
【0048】
皮膚浸透促進剤は、1価又は多価アルコールであってもよい。1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノール等の低級アルコール、高級アルコール、ゲラニオール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール、ネロール、シトロネロール、フェンチルアルコール、カルベオール及びネオメントール等のヒドロキシル基を有するテルペン等が挙げられる。
【0049】
多価アルコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリエチレングリコール400等が挙げられる。
【0050】
高級アルコールとして、例えば、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数8~18の飽和アルコール、並びにオレイルアルコール、リノレイルアルコール及びリノレニルアルコール等の炭素数8~18の不飽和アルコール等が挙げられる。
【0051】
本実施の形態に係る経皮吸収剤における皮膚浸透促進剤の含有量は、核酸等の皮膚浸透性を向上させる観点で適宜決定されるが、例えば、1~20質量%、2~18質量%、3~16質量%、4~15質量%又は5~10質量%である、
【0052】
本実施に形態に係る経皮吸収剤は、下記実施例に示すように、皮膚にほとんど浸透しない核酸を皮膚から体内に浸透させることができる。したがって、当該経皮吸収剤は核酸の経皮DDSに好適である。経皮吸収剤は、核酸医薬及びmRNA医薬等の核酸をさらに含んでもよい。核酸は、DNAであってもRNAであってもよい。核酸は1本鎖でも2本鎖であってもよい。核酸としては、RNAを標的とするアンチセンス及びsiRNA、転写因子と結合して転写段階を抑制するデコイ核酸、タンパク質と結合して機能を阻害するアプタマー、及びToll様受容体9に作用して免疫系を活性化CpGオリゴデオキシヌクレオチド等が挙げられる。核酸の塩基長は特に限定されないが、例えば10~80塩基、15~50塩基又は20~30塩基である。核酸はその塩基配列中に修飾された核酸を含んでもよい。
【0053】
経皮吸収剤の剤形は特に制限されず、例えば液剤(ローション剤及びスプレー剤等)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、乳液剤及び貼付剤等のいずれの剤形であってもよい。また、経皮吸収剤は、本実施の形態に係るイオン液体の他に、基剤を含有することができる。基剤は、経皮吸収剤で通常用いられる基材の中から適宜選択される。また、経皮吸収剤には、必要に応じて、外用剤等の医薬品、医薬品部外品及び化粧料等に用いられる安定剤、保存剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、pH調整剤及び抗酸化剤等の添加剤を添加してもよい。
【0054】
本実施の形態に係る経皮吸収剤の投与量は、患者の年齢、症状及び適応疾患の種類等に応じて調整することができる。例えば、通常、成人1人あたり、1回の投与につき、核酸の量が、1μg~30mg、好ましくは10μg~10mg、より好ましくは30μg~3mgとなるように、数週間から数ヶ月にわたって投与することができる。
【0055】
本実施の形態に係る経皮吸収剤の適用対象としては、脊椎動物が好ましく、哺乳類動物がより好ましい。哺乳類動物としては、例えば、ヒト、チンパンジー及びその他の霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ラット、マウス及びモルモット等の家畜動物、愛玩動物及び実験用動物等が挙げられる。哺乳類動物としては、ヒトが特に好ましい。
【0056】
本実施の形態に係る経皮吸収剤は、核酸又は核酸医薬で治療が可能な疾患に用いることができる。疾患は、特にはRNAを標的とすることで疾患を治療若しくは予防、又は疾患の進行を停止若しくは抑制できる疾患である。疾患としては、例えば、皮膚癌、関節リウマチ、及びアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患等が挙げられる。また、本実施の形態に係る経皮吸収剤は、mRNAワクチンの経皮DDSにも適している。
【0057】
他の実施の形態では、治療上の有効量の核酸を含有する上記経皮吸収剤を、治療を必要とする対象に使用することを含む、上記疾患の治療方法が提供される。なお、治療上の有効量の核酸とは、上記経皮吸収剤において、核酸の投与量として示された量であり、疾患に応じて設定された投与量である。また、別の実施の形態では、上記疾患の治療のための、上記経皮吸収剤が提供される。
【0058】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0059】
[イオン液体及びサンプルの調製]
イオン液体は次のように調製した。β-アラニンをエタノールに溶解させ、塩化チオニル(1.5モル当量)を氷冷しながら1滴ずつ滴下した。10分間撹拌後、さらに室温で一晩静置することでエステル化反応を進行させた。この反応溶液について、ロータリーエバポレーターで溶媒除去することで中間体1(β-アラニンエチルエステル塩化物)を含む白色結晶を得た。この白色結晶をミリQ水に溶解した後、ジエチルエーテルを加えて相分離させ、中間体1を含む水相を回収した。この水相について、中間体1に対してアンモニア(2モル当量)を滴下することで、中和を行った。さらにジエチルエーテル50mLを加えて、2時間室温で撹拌し、中間体2(β-アラニンエチルエステル)を含むジエチルエーテル相を回収した。硫酸ナトリウムにより十分に脱水した後、ロータリーエバポレーターと真空ポンプとで溶媒除去することで中間体2を得た。中間体2にリノール酸(1モル当量)を加え、遮光した乾燥窒素雰囲気下、45℃で一晩撹拌して反応させることにより、イオン液体を得た。
【0060】
表1に示す組成で試薬を混合し、サンプルを調製した。FITCで標識したssDNA(ファスマック社製)の塩基配列を配列番号1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[定量分析]
ブタ皮膚(ユカタンマイクロピッグ皮膚、日本チャールス・リバー社製)を解凍後、脂肪除去を行い、約2cm×2cmの大きさになるように切断した。縦式フランツセル(有効面積:0.785cm)のレシーバー相に4mLのPBSを添加し、ブタ皮膚をセット後、フランツセル中の空気を抜くようにPBSを1mL添加した。レシーバー相を32.5℃に保ちながらスターラーで撹拌し、各ドナー相にサンプルを400μL添加した。48時間経過後にブタ皮膚を取り出し、ブタ皮膚表面をPBSと70%エタノールで洗浄した。皮膚組織を細断し、500μLのPBSに浸漬させ24時間振盪した。蛍光光度計を用いて、各抽出液の蛍光強度(λex=490nm、λem=520nm)を測定し、ssDNAの皮膚浸透量を算出した。
【0063】
[定性分析]
上記の定量分析と同様にサンプル400μLに暴露し、48時間経過後に取り出したブタ皮膚を、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液に4時間以上浸漬し、細胞を固定化した。有効面積に合わせて切り抜き、さらに半分に切断後、O.C.T.Compoundで凍結包理した。クリオスタットミクロトームで20μmになるように細断し、皮膚切片を作製した後、蛍光顕微鏡で観察を行った。
【0064】
[結果]
ssDNAの皮膚浸透性に関する定量分析の結果を図1に示す。PBSを除くすべてのサンプルで高い皮膚浸透量を示した。図2に示された定性分析での蛍光顕微鏡像によれば、IPMのみのサンプルと比較して、イオン液体を含むサンプルで皮膚深部での蛍光が観察された。これらの結果から、ssDNAはIPMのみのサンプルでは角層中に留まり、ILを用いることで皮膚深部への浸透が促進されることが示唆された。
【0065】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、核酸を有効成分とする経皮製剤に好適である。
図1
図2
【配列表】
2022140917000001.app