(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140946
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】デジタルパワーアンプ、スピーカ駆動システム、及びスピーカ駆動方法
(51)【国際特許分類】
H03F 1/52 20060101AFI20220921BHJP
H03F 3/38 20060101ALI20220921BHJP
H03F 3/217 20060101ALI20220921BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20220921BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H03F1/52
H03F3/38
H03F3/217
H03F3/68 220
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041040
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 俊文
【テーマコード(参考)】
5D220
5J500
【Fターム(参考)】
5D220AA50
5J500AA01
5J500AA21
5J500AA27
5J500AA41
5J500AA66
5J500AC56
5J500AF17
5J500AK01
5J500AK26
5J500AK32
5J500AK42
5J500AK46
5J500AK53
5J500AK55
5J500AK62
5J500AM13
5J500AS05
5J500AT02
5J500AT06
5J500MV06
5J500MV11
5J500MV18
5J500MV20
5J500PF02
5J500PF05
5J500PG01
5J500WU01
(57)【要約】
【課題】高周波帯域で流れる異常電流を抑制して異常電流による不具合の発生を低減させることができるデジタルパワーアンプを提供する。
【解決手段】オペアンプ12は、反転入力端子に入力される第1のオーディオ信号と電力増幅部14の出力の帰還信号との和を積分した信号を出力する。パルス幅変調部13は、オペアンプ12の出力をパルス幅変調することによってPWM信号を生成する。復調部15は、PWM信号を復調して、オーディオ信号帯域とオーディオ信号帯域を超えるPWM信号の高周波帯域とを含み、スピーカ50aに供給される第2のオーディオ信号Soutを生成する。ハイパスフィルタ25は、第2のオーディオ信号の電流におけるオーディオ信号帯域を含む低周波成分を除去する。電流帰還回路26は、低周波成分が除去された第2のオーディオ信号の電流成分を、第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転入力端子にアナログの第1のオーディオ信号が入力されるオペアンプと、
前記オペアンプの出力に基づいてパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調部と、
前記パルス幅変調信号の電力を増幅する電力増幅部と、
前記電力増幅部の出力を前記反転入力端子へと帰還する帰還回路と、
を備え、
前記オペアンプは、前記帰還回路による帰還信号を前記反転入力端子へと帰還することによって自励発振動作を行い、
前記オペアンプが前記第1のオーディオ信号と前記帰還信号との和を積分した信号を前記パルス幅変調部がパルス幅変調することによって、前記パルス幅変調部は自励発振動作を行うパルス幅変調信号を生成し、
前記電力増幅部より出力されるパルス幅変調信号を復調して、オーディオ信号帯域と前記オーディオ信号帯域を超えるパルス幅変調信号の高周波帯域とを含み、スピーカに供給されるアナログの第2のオーディオ信号を生成する復調部と、
前記第2のオーディオ信号の電流における前記オーディオ信号帯域を含む低周波成分を除去するハイパスフィルタと、
前記低周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電流成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する第1の電流帰還回路と、
をさらに備えるデジタルパワーアンプ。
【請求項2】
前記第2のオーディオ信号の電圧における前記高周波帯域を含む高周波成分を除去する第1のローパスフィルタと、
前記高周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電圧成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する電圧帰還回路と、
前記第2のオーディオ信号の電流における前記高周波帯域を含む高周波成分を除去する第2のローパスフィルタと、
前記高周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電流成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する第2の電流帰還回路と、
をさらに備え、
前記第1の電流帰還回路における電流帰還量は、前記第2の電流帰還回路における電流帰還量よりも大きい
請求項1に記載のデジタルパワーアンプ。
【請求項3】
複数のデジタルパワーアンプが並列に接続され、並列に接続された前記複数のデジタルパワーアンプに少なくとも1つのスピーカが接続され、
各デジタルパワーアンプは、
反転入力端子にアナログの第1のオーディオ信号が入力されるオペアンプと、
前記オペアンプの出力に基づいてパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調部と、
前記パルス幅変調信号の電力を増幅する電力増幅部と、
前記電力増幅部の出力を前記反転入力端子へと帰還する帰還回路と、
を備え、
前記オペアンプは、前記帰還回路による帰還信号を前記反転入力端子へと帰還することによって自励発振動作を行い、
前記オペアンプが前記第1のオーディオ信号と前記帰還信号との和を積分した信号を前記パルス幅変調部がパルス幅変調することによって、前記パルス幅変調部は自励発振動作を行うパルス幅変調信号を生成し、
前記電力増幅部より出力されるパルス幅変調信号を復調して、オーディオ信号帯域と前記オーディオ信号帯域を超えるパルス幅変調信号の高周波帯域とを含み、前記スピーカに供給されるアナログの第2のオーディオ信号を生成する復調部と、
前記第2のオーディオ信号の電流における前記オーディオ信号帯域を含む低周波成分を除去するハイパスフィルタと、
前記低周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電流成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する電流帰還回路と、
をさらに備えるスピーカ駆動システム。
【請求項4】
オペアンプの反転入力端子にアナログの第1のオーディオ信号を入力し、
パルス幅変調部が、前記オペアンプの出力に基づいてパルス幅変調信号を生成し、
電力増幅部が前記パルス幅変調信号の電力を増幅し、
帰還回路が前記電力増幅部の出力を前記反転入力端子へと帰還し、
前記オペアンプは、前記帰還回路による帰還信号を前記反転入力端子へと帰還することによって自励発振動作を行い、
前記オペアンプが前記第1のオーディオ信号と前記帰還信号との和を積分した信号を前記パルス幅変調部がパルス幅変調することによって、前記パルス幅変調部は自励発振動作を行うパルス幅変調信号を生成し、
復調部が前記電力増幅部より出力されるパルス幅変調信号を復調して、オーディオ信号帯域と前記オーディオ信号帯域を超えるパルス幅変調信号の高周波帯域とを含み、スピーカに供給されるアナログの第2のオーディオ信号を生成し、
電流検出回路が前記第2のオーディオ信号の電流を検出し、
ハイパスフィルタが前記第2のオーディオ信号の電流における前記オーディオ信号帯域を含む低周波成分を除去し、
電流帰還回路が、前記低周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電流成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する
スピーカ駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルパワーアンプ、スピーカ駆動システム、及びスピーカ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、パルス幅変調部(PWM変調部)を備えるデジタルパワーアンプは、入力されたアナログのオーディオ信号をデジタルのPWM信号に変調して増幅した後に、アナログのオーディオ信号に復調してスピーカを駆動する。一例として、オーディオ信号を複数のスピーカに供給して所定の音声を出力する放送設備においては、並列接続された複数のデジタルパワーアンプによって並列接続された複数のスピーカを駆動することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のデジタルパワーアンプが並列接続されているとき、各デジタルパワーアンプの電圧利得が同じでないと、複数のデジタルパワーアンプ間に異常電流が流れる。特許文献1においては、増幅されたオーディオ信号におけるオーディオ信号帯域を含む低周波成分の電圧及び電流をそれぞれ帰還する電圧帰還回路及び電流帰還回路を設けることにより異常電流が流れることを防止している。
【0005】
ところが、特許文献1に記載されている構成で異常電流が流れることを防止できるのは、オーディオ信号帯域における異常電流のみである。本発明者による検証によって、並列接続されている複数のデジタルパワーアンプ間にオーディオ信号帯域を超える高周波帯域で異常電流が流れ、高周波帯域で流れる異常電流が各種の不具合を招くおそれがあることが明らかとなった。
【0006】
本発明は、オーディオ信号帯域を超える高周波帯域で流れる異常電流を抑制して、高周波帯域で流れる異常電流による不具合の発生を低減させることができるデジタルパワーアンプ、スピーカ駆動システム、及びスピーカ駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、反転入力端子にアナログの第1のオーディオ信号が入力されるオペアンプと、前記オペアンプの出力に基づいてパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調部と、前記パルス幅変調信号の電力を増幅する電力増幅部と、前記電力増幅部の出力を前記反転入力端子へと帰還する帰還回路とを備え、前記オペアンプは、前記帰還回路による帰還信号を前記反転入力端子へと帰還することによって自励発振動作を行い、前記オペアンプが前記第1のオーディオ信号と前記帰還信号との和を積分した信号を前記パルス幅変調部がパルス幅変調することによって、前記パルス幅変調部は自励発振動作を行うパルス幅変調信号を生成し、前記電力増幅部より出力されるパルス幅変調信号を復調して、オーディオ信号帯域と前記オーディオ信号帯域を超えるパルス幅変調信号の高周波帯域とを含み、スピーカに供給されるアナログの第2のオーディオ信号を生成する復調部と、前記第2のオーディオ信号の電流における前記オーディオ信号帯域を含む低周波成分を除去するハイパスフィルタと、前記低周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電流成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する第1の電流帰還回路とをさらに備えるデジタルパワーアンプを提供する。
【0008】
本発明は、複数のデジタルパワーアンプが並列に接続され、並列に接続された前記複数のデジタルパワーアンプに少なくとも1つのスピーカが接続され、各デジタルパワーアンプは、反転入力端子にアナログの第1のオーディオ信号が入力されるオペアンプと、前記オペアンプの出力に基づいてパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調部と、前記パルス幅変調信号の電力を増幅する電力増幅部と、前記電力増幅部の出力を前記反転入力端子へと帰還する帰還回路とを備え、前記オペアンプは、前記帰還回路による帰還信号を前記反転入力端子へと帰還することによって自励発振動作を行い、前記オペアンプが前記第1のオーディオ信号と前記帰還信号との和を積分した信号を前記パルス幅変調部がパルス幅変調することによって、前記パルス幅変調部は自励発振動作を行うパルス幅変調信号を生成し、前記電力増幅部より出力されるパルス幅変調信号を復調して、オーディオ信号帯域と前記オーディオ信号帯域を超えるパルス幅変調信号の高周波帯域とを含み、前記スピーカに供給されるアナログの第2のオーディオ信号を生成する復調部と、前記第2のオーディオ信号の電流における前記オーディオ信号帯域を含む低周波成分を除去するハイパスフィルタと、前記低周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電流成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還する電流帰還回路とをさらに備えるスピーカ駆動システムを提供する。
【0009】
本発明は、オペアンプの反転入力端子にアナログの第1のオーディオ信号を入力し、パルス幅変調部が、前記オペアンプの出力に基づいてパルス幅変調信号を生成し、電力増幅部が前記パルス幅変調信号の電力を増幅し、帰還回路が前記電力増幅部の出力を前記反転入力端子へと帰還し、前記オペアンプは、前記帰還回路による帰還信号を前記反転入力端子へと帰還することによって自励発振動作を行い、前記オペアンプが前記第1のオーディオ信号と前記帰還信号との和を積分した信号を前記パルス幅変調部がパルス幅変調することによって、前記パルス幅変調部は自励発振動作を行うパルス幅変調信号を生成し、復調部が前記電力増幅部より出力されるパルス幅変調信号を復調して、オーディオ信号帯域と前記オーディオ信号帯域を超えるパルス幅変調信号の高周波帯域とを含み、スピーカに供給されるアナログの第2のオーディオ信号を生成し、電流検出回路が前記第2のオーディオ信号の電流を検出し、ハイパスフィルタが前記第2のオーディオ信号の電流における前記オーディオ信号帯域を含む低周波成分を除去し、電流帰還回路が、前記低周波成分が除去された前記第2のオーディオ信号の電流成分を、前記第1のオーディオ信号に加算するよう帰還するスピーカ駆動方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のデジタルパワーアンプ、スピーカ駆動システム、及びスピーカ駆動方法によれば、オーディオ信号帯域を超える高周波帯域で流れる異常電流を抑制して、高周波帯域で流れる異常電流による不具合の発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態のデジタルパワーアンプ及びスピーカ駆動システムを示すブロック図である。
【
図2】
図1に示すパルス幅変調部13がPWM信号を生成するときのデューティ比と自励周波数との関係を示す特性図である。
【
図3】
図1に示す電圧帰還回路22の電圧帰還量β0と電流帰還回路24の電流帰還量β1aとを変化させたときの、デジタルパワーアンプ100の出力電流Ioと出力電圧Voとの関係を示す特性図である。
【
図4】
図1に示すデジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号の第1の例とそのときの異常電流を示す波形図である。
【
図5】
図1に示すデジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号の第2の例とそのときの異常電流を示す波形図である。
【
図6】
図1において仮に高周波帯域において電圧帰還量β0bで電圧を帰還する電圧帰還回路を設けて、電圧帰還量β0bと電流帰還回路26の電流帰還量β1bとを変化させたときの、デジタルパワーアンプ100の出力電流Ioと出力電圧Voとの関係を示す特性図である。
【
図7】デジタルパワーアンプ100の出力電流成分と、電流帰還回路24及び26の出力電流成分の周波数帯域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態のデジタルパワーアンプ、スピーカ駆動システム、及びスピーカ駆動方法について、添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1において、2台のデジタルパワーアンプ100a及び100bが並列接続されており、デジタルパワーアンプ100a及び100bにはスピーカ50aが接続されている。デジタルパワーアンプ100a及び100bを含む任意のデジタルパワーアンプをデジタルパワーアンプ100と称することとする。3台以上のデジタルパワーアンプ100が並列接続されていてもよい。並列接続された複数のデジタルパワーアンプ100はスピーカ駆動システムを構成する。
【0014】
図1ではデジタルパワーアンプ100a及び100bに1つのスピーカ50aのみが接続されているが、スピーカ50aと並列にスピーカ50bが接続されていてもよい。スピーカ50a及び50bを含む任意のスピーカをスピーカ50と称することとする。デジタルパワーアンプ100a及び100bに3つ以上のスピーカ50が並列接続されていてもよい。
【0015】
図1に示すデジタルパワーアンプ100はいわゆるハイインピーダンスアンプである。スピーカ50の個数に応じて、必要台数の複数のデジタルパワーアンプ100が並列接続されていればよい。並列接続された複数のデジタルパワーアンプ100に少なくとも1つのスピーカ50が接続されていればよい。
【0016】
デジタルパワーアンプ100bの構成及び動作は、デジタルパワーアンプ100aの構成及び動作と同じである。代表して、デジタルパワーアンプ100aの構成及び動作を説明する。
【0017】
図1に示すように、デジタルパワーアンプ100aは、加算器11、オペアンプ12、帰還回路17、パルス幅変調部13(以下、PWM変調部13)、電力増幅部14、復調部15、電流検出回路16、及び電源回路30を備える。また、デジタルパワーアンプ100aは、ローパスフィルタ21(以下、LPF21)、電圧帰還回路22、ローパスフィルタ23(以下、LPF23)、電流帰還回路24、ハイパスフィルタ25(以下、HPF25)、及び電流帰還回路26を備える。
【0018】
LPF21は第1のローパスフィルタであり、LPF23は第2のローパスフィルタである。電流帰還回路26は第1の電流帰還回路であり、電流帰還回路24は第2の電流帰還回路である。
【0019】
電源回路30は、図示していない商用電源に接続されており、オペアンプ12、PWM変調部13、電力増幅部14、及び電流検出回路16に電力を供給する。
【0020】
アナログのオーディオ信号Sin(第1のオーディオ信号)は、加算器11に入力される。加算器11は、後述する電圧帰還回路22による電圧帰還信号と、電流帰還回路24及び26による電流帰還信号とを加算して、オペアンプ12の反転入力端子に供給する。オペアンプ12の非反転入力端子は接地されている。PWM変調部13は、オペアンプ12より出力されるアナログ信号の振幅に応じたデューティ比を有するデジタルのパルス幅変調信号(PWM信号)を生成して出力する。PWM変調部13は、PWM信号を電力増幅部14に供給する。
【0021】
オペアンプ12は積分回路を構成する。電力増幅部14の出力を帰還回路17によってオペアンプ12の反転入力端子へと帰還することによって、オペアンプ12は自励発振動作を行う。オペアンプ12が、反転入力端子に入力されるオーディオ信号Sinと、電力増幅部14の出力を帰還回路17によって反転入力端子へと帰還した帰還信号との和を積分した信号をPWM変調部13がパルス幅変調することによって、PWM変調部13は自励発振動作を行うPWM信号を生成する。PWM変調部13は、電源回路30から電力が供給されている限り、加算器11にオーディオ信号Sinが入力されていなくても、スピーカ50が接続されていなくても、PWM信号を生成する。
【0022】
PWM変調部13は、オペアンプ12からアナログ信号が入力されないとき、即ち、アナログ信号の振幅がゼロであるとき、デューティ比50%のPWM信号を生成する。PWM変調部13は、入力されるアナログ信号の振幅の増減に応じて、デューティ比50%から増減したデューティ比のPWM信号を生成する。一例として
図2に示すように、自励発振型PWM変調部13は、デューティ比に応じた自励周波数のPWM信号を生成する。
図2に示す例では、自励周波数は100kHz~500kHzの範囲で変化する。
【0023】
図1に戻り、電力増幅部14は、PWM変調部13より供給されるPWM信号の電力を増幅して復調部15に供給する。復調部15は、インダクタL及びコンデンサCを有するローパスフィルタ(LPF)を有する。インダクタLは電力増幅部14と電流検出回路16との間に直列に接続されており、コンデンサCは、一方の端子がインダクタLの出力段に接続され、他方の端子が接地されている。復調部15は、入力されたデジタル信号の高周波成分を除去してアナログ信号に復調する。
【0024】
復調部15より出力されたアナログ信号は電流検出回路16を介して、アナログのオーディオ信号Sout(第2のオーディオ信号)としてスピーカ50aに供給される。このように、デジタルパワーアンプ100aは、入力されるアナログのオーディオ信号Sinを一旦デジタルのPWM信号に変換した上で増幅し、アナログのオーディオ信号Soutに復調してスピーカ50aを駆動する。後述するように、オーディオ信号Soutは、オーディオ信号帯域と復調部15にて除去しきれなかったオーディオ信号帯域を超えるPWM信号の高周波帯域とを含む。
【0025】
デジタルパワーアンプ100aは、オーディオ性能を改善させたり、回路の安定性を向上させたりするために、電圧帰還回路22及び電流帰還回路24を備える。なお、オーディオ性能の改善とは、出力電圧の変動を抑えること、歪み率を低減させること、ノイズを低減させることのうちの少なくとも1つを含む。LPF21は、電流検出回路16を通過した後のオーディオ信号Soutの電圧の高周波成分を除去して電圧帰還回路22に供給する。電圧帰還回路22は、高周波成分が除去された電圧成分をオーディオ信号Sinに加算するよう加算器11へと帰還する。
【0026】
電流検出回路16は、オーディオ信号Soutの電流を検出する。LPF23は、電流検出回路16が検出したオーディオ信号Soutの電流の高周波成分を除去して電流帰還回路24に供給する。電流帰還回路24は、高周波成分が除去された電流成分をオーディオ信号Sinに加算するよう加算器11へと帰還する。
【0027】
電圧帰還回路22による電圧帰還量をβ0、電流帰還回路24による電流帰還量をβ1aとする。デジタルパワーアンプ100(100a及び100b)の出力電流をIo、出力電圧をVoとする。電圧帰還量β0と電流帰還量β1aとを変化させると、出力電流Ioと出力電圧Voとの関係は
図3のように変化する。
【0028】
図3に示すように、電流帰還量β1aを小さく(例えば0)、電圧帰還量β0を大きくして電圧帰還回路22による電圧帰還を強く動作させると、出力電圧Voの変動がなくなり、オーディオ性能をより改善させることができる。このとき、デジタルパワーアンプ100の並列接続動作の安定性は悪化する。電圧帰還量β0を小さく(例えば0)、電流帰還量β1aを大きくして電流帰還回路24による電流帰還を強く動作させると、出力電流Ioの変動がなくなり、デジタルパワーアンプ100の並列接続動作の安定性を向上させる。このとき、オーディオ性能の改善の程度は悪化する。
【0029】
このように、電圧帰還回路22による電圧帰還の動作による効果と電流帰還回路24による電流帰還の動作による効果とはトレードオフの関係となる。
【0030】
デジタルパワーアンプ100aとデジタルパワーアンプ100bとの電圧利得が同じでなく、デジタルパワーアンプ100a及び100bの出力電圧Voが出力電圧Vo1及びVo2であるとき、出力電流Ioには出力電流変動幅ΔIoが生じる。すると、デジタルパワーアンプ100aとデジタルパワーアンプ100bとの間には、オーディオ信号帯域において異常電流が流れる。出力電流Ioと出力電圧Voとがなす傾きが大きいほど出力電流変動幅ΔIoを小さくすることができ、オーディオ信号帯域における異常電流を抑制することができるものの、オーディオ性能の改善の程度が悪化してしまう。
【0031】
そこで、
図3に実線で示すように、電流帰還量β1a及び電圧帰還量β0を0を超える所定の値に設定して、出力電流Ioと出力電圧Voとがなす傾き(β1a/β0の比率)を適宜の傾き(適宜の比率)に設定するのがよい。デジタルパワーアンプ100においては、オーディオ信号帯域における異常電流を極力抑制しながら、オーディオ性能の改善とデジタルパワーアンプ100の並列接続動作の安定性の向上とを両立させるβ1a/β0の比率の最適値を設定している。
【0032】
ところが、本発明者による検証によって、オーディオ信号帯域における異常電流を抑制したとしても、並列接続されている複数のデジタルパワーアンプ100間にオーディオ信号帯域を超える高周波帯域で異常電流が流れ、高周波帯域で流れる異常電流が各種の不具合を招くおそれがあることが明らかとなった。高周波帯域で流れる異常電流は、デジタルパワーアンプ100によるオーディオ信号Sinの増幅の効率を悪化させたり、オーディオ性能を悪化させたり、回路素子を発熱させて機器の低寿命化を招いたり、機器の破壊のおそれを増大させたりする不具合を招くことがある。
【0033】
図4において、(a)及び(b)はそれぞれデジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号の第1の例を示している。デジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号の周期はいずれもt1であり、両者の周波数が一致している。しかしながら、デジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号の位相がずれている。
【0034】
この場合、デジタルパワーアンプ100aとデジタルパワーアンプ100bとの間には、オーディオ信号帯域を超える高周波帯域において
図4の(c)に示す異常電流が流れる。異常電流は周期t1を有し、デジタルパワーアンプ100aからデジタルパワーアンプ100bへと、デジタルパワーアンプ100bからデジタルパワーアンプ100aへと交互に流れる。
【0035】
図5において、(a)及び(b)はそれぞれデジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号の第2の例を示している。デジタルパワーアンプ100aが生成するPWM信号の周期はt1、デジタルパワーアンプ100bが生成するPWM信号の周期はt2であり、両者の周波数が異なっている。
【0036】
この場合も、デジタルパワーアンプ100aとデジタルパワーアンプ100bとの間には、オーディオ信号帯域を超える高周波帯域において
図5の(c)に示す異常電流が流れる。異常電流は周期t1と周期t2とを交互に繰り返す周期を有し、デジタルパワーアンプ100aからデジタルパワーアンプ100bへと、デジタルパワーアンプ100bからデジタルパワーアンプ100aへと交互に流れる。
【0037】
このように、並列接続されているデジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号に位相差または周波数差が存在すると、PWM信号に由来する高周波帯域において並列接続されているデジタルパワーアンプ100間に異常電流が流れる。その異常電流は、電源回路30から電力が供給されている限り、加算器11にオーディオ信号Sinが入力されていなくても、スピーカ50が接続されていなくても、並列接続されているデジタルパワーアンプ100間に流れる。
【0038】
そこで、
図1に示すように、デジタルパワーアンプ100aにおいては、PWM信号に由来する高周波帯域における異常電流を抑制するための電流帰還回路26を設けている。電流帰還回路26による電流帰還量をβ1bとする。電流検出回路16で検出されたオーディオ信号Soutの電流は、HPF25によって低周波成分が除去されて電流帰還回路26によって加算器11へと帰還される。上記のようにPWM変調部13が生成するPWM信号の周波数は100kHz~500kHzの範囲であり、異常電流の周波数はPWM信号の周波数と同じである。HPF25は、100kHz~500kHzの周波数帯域を通過させる。
【0039】
図1では高周波帯域における電圧を帰還する電圧帰還回路は存在しないが、仮に、高周波帯域において電圧帰還量β0bで電圧を帰還したとする。電圧帰還量β0bと電流帰還量β1bとを変化させると、出力電流Ioと出力電圧Voとの関係は
図3と同様に
図6のように変化する。上記と同様に、電流帰還量β1bを大きくして電流帰還回路26による電流帰還を強く動作させると、オーディオ性能の改善の程度を悪化させるが、デジタルパワーアンプ100の並列接続動作の安定性を向上させることができる。
【0040】
ところが、オーディオ信号帯域を超える高周波帯域においてはオーディオ信号が存在しないから、オーディオ性能の改善の程度の悪化を考える必要はない。即ち、
図6に実線で示すように、電流帰還回路26による電流帰還量β1bを大きくして、並列接続動作の安定性を向上させることだけを考えればよい。そこで、電流帰還回路26は電流帰還量β1bを大きくして電流帰還を強く動作させる。電流帰還回路26における電流帰還量β1bは、電流帰還回路24における電流帰還量β1aよりも大きい。
【0041】
並列接続されているデジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号に位相差または周波数差が存在し、デジタルパワーアンプ100a及び100bの出力電圧Voが出力電圧Vo1及びVo2であるとする。このとき、高周波帯域における電流帰還を強く動作させれば、
図6に示すように出力電流変動幅ΔIoを小さくすることができる。よって、高周波帯域における異常電流を抑制することができる。
【0042】
図7を用いて、デジタルパワーアンプ100の動作を説明する。
図7の(a)に示すように、デジタルパワーアンプ100の出力電流Ioは、例えば20Hz~20kHzのオーディオ信号帯域のオーディオ信号電流成分と、100kHz~500kHzの異常電流成分とを含む。オーディオ信号電流成分はオーディオ信号帯域における異常電流を含むことがある。PWM信号の電流成分も100kHz~500kHzに存在する。なお、PWM信号の電流成分及び異常電流成分は、100kHz~500kHzの周波数帯域におけるいずれかの周波数に存在する。
【0043】
LPF23は高周波成分を除去して、20Hz~20kHzのオーディオ信号帯域を含む周波数帯域を電流帰還回路24に供給する。よって、
図7の(b)に示すように、電流帰還回路24はオーディオ信号電流成分を加算器11へと帰還する。HPF25は低周波成分を除去して、100kHz~500kHzを含む周波数帯域を電流帰還回路26に供給する。よって、
図7の(c)に示すように、電流帰還回路26は100kHz~500kHzの異常電流成分を加算器11へと帰還する。
【0044】
電流帰還回路26が異常電流成分を加算器11へと帰還することによって、自励発振型PWM変調方式のデジタルパワーアンプ100a及び100bが生成するPWM信号の位相のずれが解消され、周波数の不一致が解消されて、異常電流成分が抑制される。よって、デジタルパワーアンプ100によれば、高周波帯域で流れる異常電流による不具合の発生を低減させることができる。
【0045】
電圧帰還回路22及び電流帰還回路24は、オーディオ性能の改善及び複数のデジタルパワーアンプ100が並列接続されているときに各デジタルパワーアンプ100の電圧利得が同じでないと発生するオーディオ信号帯域における異常電流を抑制している。オーディオ性能の改善を必要とせず、各デジタルパワーアンプ100の電圧利得差が発生しないように電圧利得の調整及び管理が可能となる場合には、デジタルパワーアンプ100は、LPF21、電圧帰還回路22、LPF23、及び電流帰還回路24を設けなくてもよい。即ち、デジタルパワーアンプ100は、帰還回路として、HPF25及び電流帰還回路26のみを備えてもよい。
【0046】
ところで、デジタルパワーアンプ100の出力にトランスを設けて、オーディオ信号帯域を超える高周波帯域の異常電流が並列接続されている複数のデジタルパワーアンプ100間に流れないようにすることができる。この場合のトランスとしては、大型で高価な大電力用トランスを必要とする。よって、デジタルパワーアンプ100が大電力用トランスを備えると、装置が大型化し、高価となってしまう。
図1に示す本実施形態の構成によれば、装置が大型化することなく、安価に、オーディオ信号帯域を超える高周波帯域で流れる異常電流が並列接続されている複数のデジタルパワーアンプ100間に流れないようにすることができる。
【0047】
本発明は以上説明した本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
11 加算器
12 オペアンプ
13 パルス幅変調部(PWM変調部)
14 電力増幅部
15 復調部
16 電流検出回路
17 帰還回路
21,23 ローパスフィルタ(LPF)
22 電圧帰還回路
24,26 電流帰還回路
50a,50b スピーカ
100a,100b デジタルパワーアンプ