(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140953
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】非水二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20220921BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20220921BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0567
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041050
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】小椋 学
(72)【発明者】
【氏名】若松 直樹
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM01
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM06
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ16
5H029HJ18
5H029HJ19
(57)【要約】
【課題】LiFSO
3を添加しても、微小短絡が生じにくいリチウムイオン二次電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】本実施形態のLiFSO
3からなる添加剤が含有されたリチウムイオン二次電池の製造方法では、初期充電の後に、LiFSO
3の被膜形成電圧である2.92Vより低い十分低い2.85Vまで放電する確認準備放電(S70)の手順と、2.92Vより十分高い3.43VまでLiFSO
3被膜化確認充電(S74)をする。この場合、dQ/dVを算出することで初期充電によるLiFSO
3の消滅の確認ができ、また初期充電の充電レートより低い充電レートで充電するため、残存したLiFSO
3があった場合でも被膜化することで消費し尽くし、微小短絡が生じにくいリチウムイオン二次電池とすることができる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と非水電解液を備えた非水二次電池の製造方法であって、
前記非水電解液には、LiFSO3からなる添加剤が含有され、
初期充電の後に、LiFSO3の被膜形成電圧である2.92Vより低い第1の電圧まで放電する確認準備放電のステップと、前記第1の電圧から2.92Vより高い第2の電圧まで充電するLiFSO3被膜化確認充電のステップと、当該LiFSO3被膜化確認充電のステップにおける変化を確認しLiFSO3被膜化を確認するLiFSO3被膜化確認のステップを有するLiFSO3被膜化確認工程を備えたことを特徴とする非水二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記LiFSO3被膜化確認のステップは、前記LiFSO3被膜化確認充電のステップの最初と最後における電圧の変化に対する放電容量の変化であるdQ/dV値を算出するdQ/dV値算出のステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記LiFSO3被膜化確認のステップは、前記dQ/dV値算出のステップにおいて算出したdQ/dV値と、予め設定された閾値と比較して、LiFSO3が前記非水電解液中に残存していないかを判定する判定のステップをさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記LiFSO3被膜化確認充電のステップにおいて、前記初期充電の充電レートより低いレートで充電することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記初期充電の後にエージング工程を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記エージング工程の後にセル自己放電のステップをさらに備えたことを特徴とする請求項5に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記LiFSO3被膜化確認充電のステップの後に、充電を休止する休止のステップと、
当該休止のステップの後において設定された充電レートで設定された時間充電する安定化前充電のステップと、
当該安定化前充電のステップの最初と最後における電圧の変化に対する放電容量の変化であるdQ/dV値を確認する電池特性検査のステップと
をさらに備えたことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記休止のステップと前記安定化前充電のステップとの間で、パルス電流を印加したときの電圧に基づいて、内部抵抗値取得のステップをさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の非水二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池の製造方法に係り、詳しくは、微小短絡が生じにくい非水二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水二次電池、たとえばリチウムイオン二次電池では金属Liが析出するような場合がある。またそれ以外でも製造工程において、いろいろな理由で外部から微小金属粉が混入したりする場合がある。微小金属粉はセパレータを貫通して正極と負極の微小短絡を起こす場合がある。また、微小金属粉がセパレータを貫通しないような場合でも、金属成分が非水電解液に溶融して負極で金属析出をする化学的な微小短絡を生じる場合がある。そのような場合、OCV(Open Circuit Voltage)の低下を引き起こす要因となる。そのため、このような微小短絡を有効に抑制する技術が求められている。
【0003】
リチウムイオン電池は、電池要素の組立てが完了すると、少なくとも1回の正確に制御された初期充電/放電サイクルを施して、活物質を活性化するコンディショニング工程などが実施される。コンディショニング工程における初期充電により負極上にSEI(Solid Electrolyte Interface・固体電解質界面)が形成される。SEIの形成は、負極を保護しリチウムイオン電池又はセルの寿命のために重要である。その後、微小短絡を解消しSEI被膜を安定化するエージング工程などが行われる。
【0004】
このようなコンディショニング工程において、添加剤としてLiFSO3を添加することが良質なSEIの形成に寄与することが知られている。また、LiFSO3は、コンディショニング工程の初期充電において消費されるため消費型添加剤と呼ばれており、エージング工程完了後は、その残存量が所定量になるように添加量が調整されている。
【0005】
特許文献1に記載の発明では、コンディショニング工程の初期充電から、エージング工程までのdQ/dV値から添加剤の反応量を確認するようにしていた。ここで「dQ/dV」は、電圧の変化率dV/dtに対する放電容量(放電電気量)の変化率dQ/dtの割合であり、単位はない。「dQ/dV」は、単位電圧あたりの放電容量の変化を示し、セル電池毎の劣化判定に用いることができる。このようにコンディショニング工程でdQ/dV値を算出することで、コンディショニング工程が正常に行われたか否かを判断することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで従来は、消費型添加剤としてLiFSO3を添加した場合に、エージング工程後には消費され尽くされるものとしてその残存量が問題になることがなかった。
しかしながら、本発明者らの研究によれば消費型添加剤としてLiFSO3を添加した場合でも、これがエージング工程後でも被膜化せずに非水電解液中に残存している場合があることを見出した。またLiFSO3が非水電解液中に残存していると微小金属粉などから金属を溶出させて化学的な微小短絡を生じさせる場合があることを見出した。本発明の非水二次電池の製造方法が解決しようとする課題は、微小短絡が生じにくい非水二次電池を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の非水二次電池の製造方法は、正極と負極と非水電解液を備えた非水二次電池の製造方法であって、前記非水電解液には、LiFSO3からなる添加剤が含有され、初期充電の後に、LiFSO3の被膜形成電圧である2.92Vより低い第1の電圧まで放電する確認準備放電のステップと、前記第1の電圧から2.92Vより高い第2の電圧まで充電するLiFSO3被膜化確認充電のステップと、当該LiFSO3被膜化確認充電のステップにおける変化を確認しLiFSO3被膜化を確認するLiFSO3被膜化確認のステップを有するLiFSO3被膜化確認工程を備えたことを特徴とする。
【0009】
前記LiFSO3被膜化確認のステップは、前記LiFSO3被膜化確認充電のステップの最初と最後における電圧の変化に対する放電容量の変化であるdQ/dV値を算出するdQ/dV値算出のステップをさらに備えてもよい。
【0010】
また、前記LiFSO3被膜化確認のステップは、前記dQ/dV値算出のステップおけるdQ/dV値と、予め設定された閾値と比較して、LiFSO3が前記非水電解液中に残存していないかを判定する判定のステップをさらに備えてもよい。
【0011】
前記LiFSO3被膜化確認充電のステップにおいて、前記初期充電の充電レートより低いレートで充電することも好ましい。
前記初期充電の後にエージング工程を行ってもよい。前記エージング工程の後にセル自己放電のステップをさらに備えてもよい。
【0012】
前記LiFSO3被膜化確認充電のステップの後に、充電を休止する休止のステップと、当該休止のステップの後において設定された充電レートで設定された時間充電する安定化前充電のステップと、当該安定化前充電のステップの最初と最後における電圧の変化に対する放電容量の変化であるdQ/dV値を確認する電池特性検査のステップとをさらに備えてもよい。
【0013】
前記休止のステップと前記安定化前充電のステップとの間で、パルス電流を印加したときの電圧に基づいて、内部抵抗値取得のステップをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非水二次電池の製造方法は、微小短絡が生じにくい非水二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池のセル電池の斜視図。
【
図2】リチウムイオン二次電池の製造ラインの一部を構成する製造装置の構成を示すブロック図。
【
図3】本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を示すフローチャート。
【
図4】本実施形態の特徴であるLiFSO
3被膜化確認工程(S7)を含む、前工程である初期充電(S5)から、後工程である安定化工程(S9)までの電圧の変化を示すタイムチャート。
【
図5】本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程(S7)の前工程を示すタイムチャート。
【
図6】本実施形態の初期充電における各種の被膜の生成の電圧を示すタイムチャート。
【
図7】本実施形態の初期充電におけるdQ/dV値を示すタイムチャート。
【
図8】本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程の手順を示すフローチャート。
【
図9】本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程の電圧を示すタイムチャート。
【
図10】本実施形態のLiFSO
3被膜化確認充電から安定化前充電までの電圧と、dQ/dV値を示すタイムチャート。
【
図11】本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程の後工程のセル電圧を示すタイムチャート。
【
図12】LiFSO
3被膜化確認工程の後工程の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1~12を参照して、本発明の非水二次電池の製造方法を、リチウムイオン二次電池10の製造方法の一実施形態を例に説明する。
(本実施形態の概略)
本実施形態のリチウムイオン二次電池10の製造方法は、非水電解液25中に、LiFSO
3が残存しないようにすることを目的とするものである。
【0017】
非水電解液の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)が用いられ、初期充電によりSEIが形成される。初期充電においてのSEIの形成は、その後の負極を有効に保護するため、リチウムイオン電池又はセルの寿命のために重要である。
【0018】
そこで、良質なSEIの形成を目的の添加剤としてLiBOBなどに加えて、さらにLiFSO
3を添加している。LiFSO
3は、消費型添加剤として初期充電(
図3・S5)の初期充電時に被膜化して消費される。そのため、従来はコンディショニング工程後には非水電解液中に残存していないものと思われていた。
【0019】
しかしながら、本発明者らは、リチウムイオン二次電池の自己放電の抑制において、負極に生じる微短(微小短絡)の原因を究明した。その結果、非水電解液に溶出したFeなどに由来する金属イオンが負極で析出する化学微短が原因の一つであることを解明した。また、これらのFeイオンが正極板や負極板の製造や整形、カットなどの工程に起因して混入するコンタミネーションであるSUS304やSUS430などのステンレススチールのマルテンサイトの磁性体の微粉に由来することも解明した。しかしながら、これらの金属微粉は、そのままでは非水電解液にFeイオンを溶出しにくい。そして、本発明者らは、これらのFeイオンの原因として、これまで初期充電において被膜化し消費しつくされて残存していないと思われていた消費型添加剤であるLiFSO3が非水電解液に残存しているためであることを突き止めた。これらのLiFSO3が金属微粉からFeイオンを溶出させていたことが分かった。つまり、このような非水電解液に残存しているLiFSO3を無くすことで、たとえ金属微粉が存在しても、Feイオンが溶出しないことを見出した。
【0020】
本実施形態は、LiFSO3が非水電解液に残存しないリチウムイオン二次電池10の製造方法である。
非水電解液にLiFSO3が残存する原因としては、LiFSO3が被膜化する電圧が、2.92Vと低い電圧である。このため、従来の一般的なコンディショニング工程の初期充電では、十分に被膜化しきれていない場合があるためであることが分かった。
【0021】
そこで、本実施形態のLiFSO3からなる添加剤が含有されたリチウムイオン二次電池10の製造方法では、初期充電の後に、LiFSO3の被膜形成電圧である2.92Vより十分低い第1の電圧である例えば2.85Vまで放電する確認準備放電の手順を備える。続いて、第1の電圧から2.92Vより十分高い第2の電圧である例えば3.43VまでLiFSO3の被膜形成確認充電をする。この場合、初期充電の充電レートより低い充電レートで充電することも好ましい。もし、非水電解液中にLiFSO3が残存していた場合には、初期充電よりも被膜化しやすい条件とするためである。
【0022】
このようなLiFSO3被膜化確認充電における変化を確認しLiFSO3被膜化を確認するLiFSO3被膜化確認のような手順を備える。このような手順によるLiFSO3被膜化確認工程を備えたことで、初期充電においてLiFSO3を被膜化して消費し尽くしたことを確認している。さらに、このLiFSO3被膜化確認工程において、LiFSO3の被膜化の反応が確認された場合には、直ちには製品として出荷可能とはならないが、LiFSO3被膜化確認工程自体でも被膜化は行われるので、その後の再度の検査工程において、問題がなければ、製品として出荷ができる。
【0023】
その結果、微小短絡が生じにくいリチウムイオン二次電池とすることができた。
(本実施形態の構成)
<リチウムイオン二次電池10>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池10のセル電池の斜視図である。
図1に示すように本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、セル電池として構成される。このセル電池は、ハイブリッド自動車や燃料電池などの電気自動車に用いられる。セル電池は複数台スタックされて、樹脂ケースなどに封入され、制御装置や測定器などが装着されて車載用の電池パックとして使用される。
【0024】
リチウムイオン二次電池10のセル電池は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11は、電池ケース11を封止する蓋体12を備える。電池ケース11の内部には極板群20が収容される。極板群20は、長尺の正極板14と負極板15が、セパレータ17を挟んで巻回され捲回体を構成している。電池ケース11内には図示しない注液孔から非水電解液25が注入される。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池10は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる2つの外部端子13を備えている。
【0025】
<正極板14>
正極板14は、正極基板の表面に正極合材層が形成されている。正極合材層は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0026】
また、正極合材は導電材を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0027】
正極板21は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極基基板に塗布して乾燥することで作製される。ここで、溶媒としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。また、集電体となる正極基板として、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金からなる薄膜を用いることができる。
【0028】
<負極板15>
負極板15は、負極基板の表面に負極合材層が形成されている。負極基板は、本実施手形態では銅箔から構成されている。負極合材層4の負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0029】
<セパレータ17>
セパレータ17は、正極板14及び負極板15の間に非水電解液25を保持するためのポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ17としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液25に極板群20に浸漬させるとセパレータ17の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0030】
負極に金属Liが析出したり、コンタミネーションとして微小金属粉が混入したりした場合でも、セパレータ17の存在により正極板14及び負極板15とは、直接電気的に接続することはない。もし物理的に短絡するとリチウムイオン二次電池10の電力が減少する自己放電が生じる。微小な短絡であれば自己発熱により溶解・消滅するため、エージング工程(
図3・S6)によりこのようなLi析出や微小金属粉による微小短絡は解消される。もちろん、事後的に非水電解液にFeイオンなどの金属成分が溶出したような場合での金属析出では、セパレータ17では、微小短絡を回避することができない場合も生じうる。
【0031】
<非水電解液25>
非水電解液25は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0032】
また、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池10では、非水溶媒としてエチレンカーボネート(EC)を採用している。非水電解液25に添加剤としてのリチウム塩としてのリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を添加する。例えば、非水電解液25におけるLiBOBの濃度が0.001~0.1[mol/L]となるように、非水電解液25にLiBOBを添加する。
【0033】
また、本実施形態では、良質なSEIの形成を目的として添加剤としてLiFSO
3を添加している。LiFSO
3は、消費型添加剤としてコンディショニング工程(
図3・S5)の初期充電時に被膜化して消費される。そのため、従来はコンディショニング工程後には非水電解液中に残存していないものと思われていた。
【0034】
しかしながら、本発明者らは、コンディショニング工程後でも非水電解液中に残存している場合があることを解明した。また、非水電解液中25にLiFSO3が残存していると、非水電解液中25に存在するステンレスの微粉などからFeイオンを溶出させることを突き止めた。Feイオンが溶出すると、化学的な微小短絡を生じる。そうすると自己放電を生じてリチウムイオン二次電池10の性能を損なってしまう。このため、非水電解液25中に、LiFSO3が残存しないようにする必要がある。
【0035】
<リチウムイオン二次電池の製造装置200>
図2は、リチウムイオン二次電池10の製造ラインの一部を構成する製造装置200の構成を示すブロック図である。製造装置200は、製造中のリチウムイオン二次電池10の温度管理をしながら、セル電圧及びセル電流を監視しながら充放電を行うことができる。本実施形態のリチウムイオン二次電池10の製造装置200の構成は、周知の充放電装置203、セル電圧測定器204、セル電流測定器205、温度計206、保温装置207を備える。また、これらを制御するインタフェースを備えた周知のコンピュータからなる制御装置208を備える。制御装置208は、CPU281とメモリ282を備える。メモリ282は、RAM、ROMを備える。
【0036】
これらは、本実施形態のリチウムイオン二次電池10の充放電の制御を行う。また、セル電圧の監視、セル電流の監視、環境温度の調整を行う。さらに、これらのデータに基づき、リチウムイオン二次電池10のSOCの推定を行う。また、パルス電流を印加して電圧を測定し内部抵抗を測定する。また、区間時間内の電圧[V]値の差dVに対する電池容量[Ah]の差dQを測定して、dQ/dV値を算出する。
【0037】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法>
図3は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を示すフローチャートである。ここではまず
図3を参照して、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の概略の流れを説明する。
【0038】
<セル電池組立工程(S1)>
本実施形態のリチウムイオン二次電池10の製造方法では、最初にセル電池組立工程(S1)を行う。まず、極板群20を捲回して扁平な形状に成形する。そして、正極板14及び負極板15はそれぞれその一部が圧縮されるとともに、それら正極板14及び負極板15のうちの圧縮された部分にはそれぞれ外部端子13に接続される。
【0039】
このような極板群20を電池ケース11に収容し、十分に乾燥させたら蓋体12を電池ケース11に溶接し封止する。
<電解液注液(S2)>
電池ケース11の電槽内に蓋体12の電解液注入孔(図示略)から非水電解液25を注入する。
【0040】
<密封(S3)>
注入が完了したら電解液注入孔を溶接して封止し密閉する。
<初期充電(S4)>
次に、初期充電(S4)を行う。初期充電(S4)は、コンディショニング工程としてリチウムイオン二次電池10の充電および放電を実施する。
【0041】
<エージング工程(S5)>
初期充電(S4)が完了したら、エージング工程(S5)を行う。エージング工程(S5)は、高温下で一定時間保存し、金属異物の溶解やSEI被膜の安定化を行う。
【0042】
<セル自己放電(S6)>
エージング後にセルの自己放電を行うとともに、温度を低下させる。
これらの初期充電(S4)、エージング工程(S5)、セル自己放電(S6)が、次のLiFSO3被膜化確認工程(S7)の前提となる準備段階である「前工程」に相当する。
【0043】
<LiFSO3被膜化確認工程(S7)>
前工程により、準備が完了した段階で、非水電解液25にLiFSO3が被膜化して消費され尽くしているか否かを確認するための放電及び充電を行う。このLiFSO3被膜化確認工程(S7)により本実施形態の課題を解決することができる。
【0044】
<検査工程(S8)>
実際にリチウムイオン二次電池10が、製品として初期の性能を有しているかを検査する。
【0045】
ここでは、OCV検査やDC-IRの検査のため、分極の解消を目的に休止を行う。分極が解消したらDC-IRやOCVを検査する。さらに、安定化前充電においてdQ/dV値の検査を行うが、ここではLiFSO3被膜化確認工程(S7)とは異なり、もっと電圧が高い領域で行われる。
【0046】
<安定化工程(S9)>
その後セル電池の状態で安定化を行う。問題がなければ、複数のセル電池をスタックし、バスバーで連結し組電池として自己放電を行う。
【0047】
<電池ユニット組立工程(S10)>
自己放電が完了した組電池は、電池ユニット組立工程(S10)において制御装置や測定器などの各種の補器が装着されて樹脂ケースに収容され車両用の電池ユニットとして製品が出荷される。
【0048】
<本実施形態のLiFSO3被膜化確認の手順>
次に、本実施形態の特徴であるLiFSO3被膜化確認の手順について詳細に説明する。
【0049】
図4は、本実施形態の特徴であるLiFSO
3被膜化確認工程(S7)を含む、前工程である初期充電(S5)から、後工程である安定化工程(S9)までの電圧の変化を示すタイムチャートである。
【0050】
LiFSO3被膜化確認工程(S7)に先立って、初期充電(S5)、エージング工程(S6)、セル自己放電(S6)からなる前提となる前工程を行う。その後、非水電解液中のLiFSO3を被膜化の確認をするLiFSO3被膜化確認工程(S7)を実施する。LiFSO3被膜化確認工程(S7)の後には、製品としての安定性と性能を確認する目的も含めて、リチウムイオン二次電池10の性能を検査する検査工程(S8)の手順と安定化工程(S9)の手順からなる後工程が行われる。
【0051】
<LiFSO
3被膜化確認工程の前工程>
図5は、本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程(S7)の前工程を示すタイムチャートである。まず、セル電池組立工程(S1)、電解液注液(S2)、密封(S3)までで、リチウムイオン二次電池10の機械的な構成は完成する。この段階では、電気的には、活性化していない。そこで、コンディショニング工程(S4)及びエージング工程(S5)をLiFSO
3被膜化確認工程(S7)の前工程として行う。
【0052】
<初期充電(S4)>
初期充電(S4)は、コンディショニング工程ともいわれる工程で、組立が完了したリチウムイオン二次電池10を初めて所定の充電レート、例えば3Cで充電する。又、環境温度は20°Cに設定する。そして、本実施形態では、満充電とされているSOC100%の3.97Vまで充電する。
【0053】
初期充電(S4)の目的は、負極板15に初期充電によりSEI(Solid Electrolyte Interface・固体電解質界面)を形成することである。SEIの形成は、負極を保護する。そして、リチウムイオン電池又はセルの寿命のために重要となる。
【0054】
本実施形態では、非水溶媒としてEC(エチレンカーボネート)を採用しており、ECがSEIを形成する。また、電解液注液(S2)の段階で、添加剤としてLiFSO3が添加されている。また、添加剤としてのリチウム塩としてのLiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)が添加されている。
【0055】
図6は、本実施形態の初期充電における各種の被膜の生成の電圧を示すタイムチャートである。また、
図7は、本実施形態の初期充電におけるdQ/dVを示すタイムチャートである。
【0056】
図6に示すように、初期充電が開始され、時間が経過するとセル電圧が概ねSOC0%の約1.0Vから上昇する。初期充電における添加剤の反応開始電圧は、それぞれ異なる。LiBOBでは、まず2.2Vで被膜が形成される。この被膜が形成されている間は電圧が2.2Vに維持される。LiBOBの被膜が形成されると、次に、2.92VにおいてLiFSO
3の被膜が形成される。ここでも被膜が形成されている間は電圧が2.92Vに維持される。そして、ここでは最後に3.18Vにおいて非水溶媒であるECの被膜が形成される。ここでもやはり被膜が形成されている間は電圧が3.18Vに維持される。これらの被膜の形成が完了すると、時間とともにセル電圧は上昇し、満充電である3.97Vになったら、初充電を完了する。
【0057】
このときの反応は、
図7に示すように、およそ30~54秒付近の電圧が2.2Vのときに、dQ/dV値が上昇しており、Li-BOBの被膜の反応のためのエネルギーが使われていることがわかる。同様に、およそ72~90秒付近の電圧が2.92Vのときにも、dQ/dV値が上昇しており、LiFSO
3の被膜の反応のためのエネルギーが使われていることがわかる。さらにおよそ197秒~300秒近く付近の電圧が3.18Vのときにも再度、dQ/dV値が上昇しており、ECの被膜の反応のためのエネルギーが使われていることがわかる。
【0058】
<エージング工程(S5)>
図5に示すように、初期充電(S4)が完了すると、その後、充電を休止し、環境温度を20°Cから63±3°Cの高温環境にそのまま無負荷で放置するエージング工程をおこう(S5)。このエージング工程(S5)により、高温の環境下で反応速度を高め、微小短絡の熱溶解による解消や、SEIの安定化を図っている。
【0059】
<セル自己放電(S6)>
エージング工程(S5)が完了すると、環境温度を63±3°Cから下降させて徐々に20°Cとする、セル自己放電(S6)を行う。ここでは、エージング工程(S5)において、金属微粉などを原因とする微小短絡が十分に解消しているかを確認する。すなわち一定時間経過したときの電池容量の低下から、このリチウムイオン二次電池10の自己放電の大きさを測定し、所期の性能を発揮するかを確認することができる。
【0060】
以上で、LiFSO3被膜化確認工程の前工程を完了する。
<LiFSO3被膜化確認工程(S7)>
続いて、LiFSO3被膜化確認工程(S7)を行う。
【0061】
図8は、本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程の手順を示すフローチャートである。
図9は、本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程の電圧を示すタイムチャートである。
【0062】
LiFSO3被膜化確認工程(S7)では、まずセル自己放電(S6)が完了したら確認準備放電のステップを開始する(S70)。確認準備放電のステップでは、所定の放電レート(例えば3C)で行う。)。
【0063】
図2に示す制御装置208は、セル電圧測定器204を監視しながら、セル電圧が2.85V以下になる(S71:YES)まで、制御装置208は、充放電装置203により確認準備放電を続ける(S71:NO→S70)。セル電圧が2.85V以下になったと判断したら(S71:YES)、確認準備放電を完了する(S72)。
【0064】
制御装置208は、セル電圧測定器204、セル電流測定器205を監視しながら、セル電圧値及びセル電流値を記録する(S73)。そして、LiFSO3被膜化確認充電のステップを開始する(S74)。セル電圧が3.43V以上になる(S75:YES)まで、制御装置208は、充放電装置203によりLiFSO3被膜化確認充電を続ける(S75:NO→S74)。セル電圧が3.43V以上になったと判断したら(S75:YES)、LiFSO3被膜化確認充電を完了する(S76)。
【0065】
充電が完了したら(S76)、制御装置208は、LiFSO3被膜化確認充電の開始(S74)時及びLiFSO3被膜化確認充電の完了時(S76)におけるセル電圧の差dV及び積算した電流値の差dQとから、当該充電期間のdQ/dV値を算出するdQ/dV値算出のステップを行う(S78)。ここで算出したdQ/dV値が、未検出もしくは閾値未満で検出された場合は(S79:YES)、初期充電(S4)において非水電解液中にLiFSO3がほぼ全て被膜化され、非水電解液25中に残存するLiFSO3は許容値であると判断できる(S80)。そのため、検査工程(S8)において、電池の性能の健全性を確認することにより、製品としての適格性をさらに判断する。
【0066】
一方、ここで算出したdQ/dV値が、閾値以上に検出されると(S79:NO)、非水電解液25中にLiFSO
3が残存することを意味する。言い換えれば、初期充電(
図3:S4)においては、非水電解液中に残存するLiFSO
3が完全には被膜化されていなかったことを意味する。そうであれば、このLiFSO
3被膜化確認充電(S74)においても、完全に被膜化されたか否かは確認できないことになる。そのため、製品として後工程に進めることができない。そのため、不良品として処理することになる。或いは、LiFSO
3被膜化確認充電(S74)自体でも被膜化が進行するので、再度、LiFSO
3被膜化確認工程(S7)を行うことで、再び、生産ラインに復帰させることもできる。
【0067】
以上がLiFSO
3被膜化確認のステップに相当する。
以上で、LiFSO
3被膜化確認工程(S7)を終了する(終了)。
<LiFSO
3の被膜化について>
図10は、本実施形態のLiFSO
3被膜化確認充電から安定化前充電におけるdQ/dVを示すタイムチャートである。
図10に示すようにdQ/dV値算出(S79)の手順で、LiFSO
3被膜化確認充電のステップの期間中の電圧は、充電開始時の2.85Vから2.92Vを経て、充電完了時の3.43Vまで、充電される。
【0068】
前述のとおり、LiFSO
3の被膜化は、2.92Vにおいてなされる。このLiFSO
3の被膜が形成されるときには、電圧の上昇dVがほとんどないのに対して、電池容量dQが増大するため、dQ/dV値が上昇する。
図10に示されるように、本実施形態では、充電期間中、特に2.92Vを超した辺りで、顕著な上昇がみられる。すなわち、このdQ/dV値が上昇したところでLiFSO
3が被膜化されたことが確認できる。また、その後急速にdQ/dV値が下降し、その後ほとんどゼロとなっている。つまり、この例では初期充電(S4)においては、非水電解液中25のLiFSO
3が完全には被膜化していなかったことがわかる。
【0069】
仮に、前工程においてLiFSO
3が完全に被膜化していれば、非水電解液25中には、LiFSO
3が残存していないはずであるので、
図10に示すようなdQ/dV値の上昇は生じない。
【0070】
なお、LiFSO
3の被膜化は、主に2.92V近傍から始まる。そして、被膜化は2.92V近傍で強く反応する。しかし、その後の安定化前充電(
図12・S86)において、2.92Vから離れた3.43~3.745Vでも被膜化は進行する。但し、LiFSO
3が残存して被膜化が進行したとしてもその反応量は小さく、dQ/dV値により当該残存を検知することができない。そのため、
図10に示すようにdQ/dV値の上昇が見られなかったとしても、LiFSO
3が完全に被膜化したとすることはできない。
【0071】
<LiFSO3被膜化確認工程の後工程>
LiFSO3被膜化確認工程(S7)の手順が完了すると、LiFSO3被膜化確認工程の後工程を開始する。
【0072】
図11は、本実施形態のLiFSO
3被膜化確認工程の後工程のセル電圧を示すタイムチャートである。
図12は、LiFSO
3被膜化確認工程の後工程の手順を示すフローチャートである。後工程は、検査工程(
図3・S8)と、安定化工程(
図3・S9)を含む。
【0073】
<検査工程(S8)>
図3に示す検査工程(S8)は、
図12に示す休止(S82)、DC-IR測定(S83)、安定化前充電(S86)、安定化前充電dQ/dV測定(S88)などの手順を含む。
【0074】
<休止(S82)>
LiFSO3被膜化確認工程の後工程は、まず、LiFSO3被膜化確認充電(S74)が終了して(S76)、温度20°Cの状態のまま放置する休止のステップを行う。このように放置することで、電池内部が充電により平衡が崩れ分極の状態になっていたのを平衡状態に戻す。その後に行うDC-IR(直流内部抵抗)測定の手順(S83))における分極の解消を図る。
【0075】
<DC-IR測定(S83)>
所定時間放置したら、休止(S82)の手順を完了して、DC-IRを測定する内部抵抗値取得のステップ(S83)の手順を行う。DC-IR測定(S83)の手順では、分極が解消したリチウムイオン二次電池10に例えば50Aのパルス電流を印加して、その時のセル電圧を測定してDC-IR[Ω]を測定する。ここで測定したDC-IR[Ω]は、所定の閾値と比較され(S84)、所定の範囲から外れたものは(S84:NO)、不良品として製品から外される(S85)。所定の範囲のものは(S84:YES)、安定化前充電のステップ(S86)が行われる。
【0076】
<安定化前充電dQ/dV測定(S88)>
安定化前充電(S86)の手順は、所定の充電レートで所定の電圧(例えば、3.745V)未満では(S87:NO)、安定化前充電(S86)を続け、所定の電圧になったら(S87:YES)、その間のdQ/dV値を算出する(S88)。測定した安定化前充電におけるdQ/dV値は、所定の閾値と比較され(S89)、電池特性検査のステップを行う。所定の範囲から外れたと判定されたものは(S89:NO)、不良品として製品から外される(S90)。正常な範囲と判定されたものは(S98:YES)、安定化の手順(S91)に進む。
【0077】
なお、この3.43~3.745Vで行われる安定化前充電dQ/dV測定(S88)では、電圧が2.92[V]よりはるかに高い電圧であるので、この測定では、LiFSO3が非水電解液中に残存しているか否かを、直接確認することは困難である。
【0078】
<安定化工程(S9)>
図3に示す安定化工程(S9)では、
図11に示す安定化(S91)と、スタック自己放電(S92)を含む。
【0079】
<安定化(S91)>
安定化前充電(S86)が終了すると、安定化(S91)が行われる。安定化(S91)は、セル電池が1日以上、温度が23°Cに維持されて安定化される。安定化により、SEI被膜の安定化などが行われる。詳細な説明は省略したが、ここで、セル電池としての自己放電容量などが検査され、正常な範囲のものが選択されてスタックされる。スタックは、複数の板状のセル電池(例えば6台)が重ね合されて拘束され、パスバーなどで外部端子13が直列に接続されて組電池とされる。
【0080】
<スタック自己放電(S92)>
安定化(S91)の手順が完了したリチウムイオン二次電池10の電池セルは、複数の電池セルがスタックされた組電池の状態で、23°Cに維持されてさらに3日間自己放電がなされる(S92)。
【0081】
スタック自己放電(S92)の手順が完了したら、放電容量などが検査され正常な組電池は、制御装置やセンサなどが装着され、密閉容器に収容され車載用の電池パックとしての製品が完成する。
【0082】
(実施形態の作用)
本実施形態のリチウムイオン二次電池10の製造方法では、以下のような作用がある。
LiFSO3被膜化確認工程(S7)において、LiFSO3被膜化確認充電(S74)におけるdQ/dV値が閾値以下であれば(S79:NO)、製品として適格であると判断できる。すなわち、初期充電(S4)において、非水電解液25中のLiFSO3が被膜化され、非水電解液25中に残存するLiFSO3が許容量であることが確認できる。
【0083】
図10に示すLiFSO
3被膜化確認充電(S74)から安定化前充電(S86)までの電圧と、dQ/dV値を示すタイムチャートに示すように、本実施形態のLiFSO
3被膜化確認充電(S74)では、確実に2.92Vよりも低い電圧から充電を開始する。かつ、初期充電(S4)のときよりも低い充電レートで充電する。そのため、LiFSO
3が効果的に被膜化される2.92V近傍に滞在する時間は確実に長くなり、被膜化するために十分な電流を供給される。
【0084】
図10に示すように、被膜が形成されるときの反応エネルギーにより上昇するdQ/dV値が、LiFSO
3被膜化確認充電(S74)のときに上昇し、そして下降して、ほぼゼロに近くなっている。すなわち、この場合は、LiFSO
3被膜化確認充電(S74)中に、LiFSO
3の被膜化が進行したことがわかる。つまり、初期充電(S4)からエージング工程(S5)では、LiFSO
3が完全に被膜化して非水電解液25中から消費されて消滅しておらず、LiFSO
3被膜化確認充電(S74)時にLiFSO
3が非水電解液25中の残存していたことがわかる。
【0085】
本来は、初期充電(S4)からエージング工程(S5)により非水電解液中のLiFSO3が存在しなくなる。非水電解液中のLiFSO3が存在しなくなることで、非水電解液中にステンレススチールなどの金属微粉が存在しても、これらから非水電解液中にFeイオンなどを溶出させることがない。非水電解液中にFeイオンが溶出されなければ、これらが負極で析出することもない。したがって、負極で金属が析出することなければ、化学微短を生じることも抑制できる。よって、化学微短を原因とする自己放電を抑制する。
【0086】
しかしながら、LiFSO3被膜化確認充電時にdQ/dV値が閾値以上より大きな値であれば、LiFSO3被膜化確認充電時にLiFSO3が非水電解液中の残存していたことがわかる。かつ、LiFSO3被膜化確認充電時にLiFSO3が完全に消尽したか否かは、LiFSO3被膜化確認充電時のdQ/dV値からは判断できない。
【0087】
従って、LiFSO3被膜化確認充電時のdQ/dV値が閾値以上より大きな値であれば、製品の非水電解液25中にLiFSO3が残存していることを否定できない。よって、この場合は、製品を出荷対象から外す。あるいは、再度LiFSO3被膜化確認充電時と同じ条件で充電及びdQ/dV値の検出により非水電解液25中にLiFSO3が残存していないことを確認する必要がある。
【0088】
(実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池10の製造方法では、添加剤としてLiFSO3を添加した場合でも、LiFSO3に起因する微小短絡が生じることを抑制することができる。そのため、無用な副反応なしで、LiFSO3により良質なSEI被膜を形成することができる。
【0089】
(2)また、生産工程で生じたコンタミネーションである金属微粉に由来する化学微短を有効に抑制できる。したがって、コンタミネーションである金属微粉が不可避である場合は、あえてこれらを排除する必要はない。
【0090】
(3)所定の条件で確認準備放電(S70)及びLiFSO3被膜化確認充電(S74)を行うだけで、容易に初期充電(S4)による非水電解液25中のLiFSO3を消滅を確認することができる。
【0091】
(4)非水電解液中のLiFSO3が消滅したか否かは、LiFSO3被膜化確認充電(S74)中のdQ/dV値により確認する(S77~79)ことかできる。
(5)LiFSO3被膜化確認充電(S74)でdQ/dVが閾値以上であった場合(S79:YES)に製品から排除されることがある。しかしながら、LiFSO3被膜化確認工程(S7)それ自体が、LiFSO3を効果的に被膜化する作用がある。そのため、このような場合でも、再度LiFSO3被膜化確認工程(S7)を行い、dQ/dVが閾値未満となった場合(S79:NO)、再び生産ラインに戻すことができる。
【0092】
(別例)
上記実施形態は、本発明の一例であり、以下のように変更して実施することができる。
〇設定した各種の電圧、温度、時間等は例示であり、対象とする二次電池の組成や構成などにより、適宜変更して実施することができる。
【0093】
〇非水二次電池の例示としてリチウムイオン二次電池を挙げたが、発明が実施可能である限り、他の非水二次電池によっても実施できる。
○添加剤は、LiFSO3を挙げたが、他の成分と配合されたりしてもよく、実質的に同一の作用効果を奏するものにより発明を実施することができる。
【0094】
〇被膜形成剤は、LiBOBを例示したが、これに限定されるものではない。
○本実施形態の極板群は、捲回タイプを例示したが、積層タイプの極板群としてもよい。また、各原材料は例示であり、これらに限定されるものではない。
【0095】
○例示したリチウムイオン二次電池10は、板状のケースを備えるが、円筒形など、その形状は限定されない。
○
図3、8、12に示すフローチャートは、例示でありその手順を付加し削除し変更し、順序を変えても実施することができる。
【0096】
○本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0097】
10…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…蓋体
13…外部端子
20…極板群
14…正極板
15…負極板
17…セパレータ
25…非水電解液