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特開2022-140991弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022140991
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20220921BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041100
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108CC02
5J108EE03
5J108EE04
5J108GG03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】圧電膜等の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、基板10と、音響反射層と、複数の下部電極12a、12bと、絶縁膜18と、圧電膜14と、上部電極16とを備える。音響反射層は、空隙30、または音響特性の異なる少なくとも2種類の層が積層された音響反射膜、を含む。下部電極は、基板10上に設けられ、基板10との間に空隙30を含む1つの音響反射層を共有し、互いに溝55を介し離れて配置されている。絶縁膜18は、音響反射層上の溝55に設けられている。圧電膜14は、複数の下部電極12a、12bおよび溝55上に一体として設けられている。上部電極16は、圧電膜14上に一体として設けられ、圧電膜14を複数の下部電極12a、12bで挟むことにより複数の共振器11a、11bを形成している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、空隙、または音響特性の異なる少なくとも2種類の層が積層された音響反射膜、を含む音響反射層と、
前記基板上に設けられ、前記基板との間に1つの前記音響反射層を共有し、互いに溝を介し離れて配置された複数の下部電極と、
前記音響反射層上の前記溝に設けられた絶縁膜と、
前記複数の下部電極および前記溝上に一体として設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に一体として設けられ、前記圧電膜を前記複数の下部電極とで挟むことにより複数の共振器を形成する上部電極と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記上部電極は、平面視において前記音響反射層の外側に引き出されていない請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記複数の下部電極の各々に接する請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記絶縁膜の前記圧電膜側の面と前記複数の下部電極の前記圧電膜側の面とは略同一平面である請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記絶縁膜の前記圧電膜側の面は、前記複数の下部電極の前記圧電膜側の面より前記基板側に位置しかつ前記複数の下部電極の前記基板側の面より前記圧電膜側に位置する請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記絶縁膜の側面は前記複数の下部電極の側面に接する請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記絶縁膜の前記基板側の面は前記下部電極の前記基板側の面と略平坦である請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記絶縁膜の一部は前記複数の下部電極の前記基板側の面の少なくとも一部に設けられている請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記絶縁膜は、平面視において前記音響反射層の全てと重なる請求項8に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記音響反射層は空隙である請求項1から9のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記基板の前記空隙側の面は略平面である請求項10に記載の弾性波デバイス。
【請求項12】
前記上部電極と前記下部電極との間に挿入され、前記圧電膜の材料と異なる材料を有する挿入膜を備える請求項1から11のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項14】
請求項13に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば圧電薄膜共振器を有する弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびマルチプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する構造を有している。圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する領域が共振領域である。共振領域の下には振動を制限しないように空隙または音響反射膜が設けられる。空隙または音響反射膜は平面視において共振領域を含むように設けられる。
【0003】
分割された圧電薄膜共振器が単一の空隙または音響反射膜を共有する構造が知られている(例えば特許文献1)。この構造では、空隙または音響反射膜上において、下部電極と上部電極のいずれか一方が分割されている。圧電膜の分極方向が2次歪を抑制するように共振器を分割することが知られている(例えば特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-6919号公報
【特許文献2】特開2008-85989号公報
【特許文献3】特開2009-10932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば特許文献2、3のように2次歪を抑制するように共振器を分割する場合、特許文献1のように分割された共振器が単一の空隙または音響反射膜を共有することが考えられる。単一の空隙または音響反射膜上において下部電極を分割し、分割された下部電極上に一体として圧電膜および上部電極を形成する場合、圧電膜にクラック等の破損や結晶性が劣化した領域が発生しやすくなる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、圧電膜等の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、空隙、または音響特性の異なる少なくとも2種類の層が積層された音響反射膜、を含む音響反射層と、前記基板上に設けられ、前記基板との間に1つの前記音響反射層を共有し、互いに溝を介し離れて配置された複数の下部電極と、前記音響反射層上の前記溝に設けられた絶縁膜と、前記複数の下部電極および前記溝上に一体として設けられた圧電膜と、前記圧電膜上に一体として設けられ、前記圧電膜を前記複数の下部電極とで挟むことにより複数の共振器を形成する上部電極と、を備える弾性波デバイスである。
【0008】
上記構成において、前記上部電極は、平面視において前記音響反射層の外側に引き出されていない構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記絶縁膜は、前記複数の下部電極の各々に接する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記絶縁膜の前記圧電膜側の面と前記複数の下部電極の前記圧電膜側の面とは略同一平面である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記絶縁膜の前記圧電膜側の面は、前記複数の下部電極の前記圧電膜側の面より前記基板側に位置しかつ前記複数の下部電極の前記基板側の面より前記圧電膜側に位置する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記絶縁膜の側面は前記複数の下部電極の側面に接する構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記絶縁膜の前記基板側の面は前記下部電極の前記基板側の面と略平坦である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記絶縁膜の一部は前記複数の下部電極の前記基板側の面の少なくとも一部に設けられている構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記絶縁膜は、平面視において前記音響反射層の全てと重なる構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記音響反射層は空隙である構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記基板の前記空隙側の面は略平面である構成とすることができる。
【0018】
上記構成において、前記上部電極と前記下部電極との間に挿入され、前記圧電膜の材料と異なる材料を有する挿入膜を備える構成とすることができる。
【0019】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0020】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧電膜等の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。
図2図2(a)から図2(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
図3図3(a)から図3(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
図4図4(a)および図4(b)は、それぞれ比較例1および実施例1に係る弾性波デバイスの断面拡大図である。
図5図5(a)から図5(c)は、それぞれ実施例1の変形例1から変形例3を示す断面図である。
図6図6(a)から図6(d)は、それぞれ実施例1の変形例4から変形例7を示す断面図である。
図7図7(a)から図7(d)は、それぞれ実施例1の変形例8から変形例11を示す断面図である。
図8図8(a)から図8(d)は、それぞれ実施例1の変形例12から変形例15を示す断面図である。
図9図9(a)から図9(c)は、それぞれ実施例1の変形例16から変形例18を示す断面図である。
図10図10(a)は、実施例1の変形例19に係る弾性波デバイスの平面図、図10(b)は、図10(a)のA-A断面図である。
図11図11(a)および図11(b)は、それぞれ実施例1の変形例20および変形例21を示す断面図である。
図12図12(a)および図12(b)は、それぞれ実施例1の変形例22および変形例23を示す断面図である。
図13図13は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。
図14図14(a)は、実施例2における送信フィルタの平面図、図14(b)は、空隙の平面図である。
図15図15は、実施例3に係るフィルタの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0024】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。図1(a)において、共振領域50a、50bおよび絶縁膜18をハッチングで示す。図1(a)および図1(b)に示すように、基板10の上面に凹部が形成され、凹部内に空隙30(空気層)が設けられている。基板10および空隙30上に下部電極12aおよび12bが設けられている。空隙30上において下部電極12aと12bは分離しており、下部電極12aと12bとの間に溝55が形成されている。溝55内に絶縁膜18が設けられている。絶縁膜18は、溝55内を延伸し、空隙30の外の基板10上まで設けられている(図1(a)参照)。下部電極12a、12bおよび絶縁膜18上に圧電膜14が一体に設けられている。圧電膜14上に上部電極16が一体に設けられている。上部電極16上に周波数調整膜または保護膜が設けられていてもよい。ラダー型フィルタの並列共振器では、上部電極16に質量負荷膜が挟まれていてもよい。
【0025】
圧電膜14の少なくとも一部を挟み下部電極12aおよび12bと上部電極16とが重なる領域はそれぞれ共振領域50aおよび50bである。平面視において単一の空隙30内に複数の共振領域50aおよび50bが設けられている。共振領域50aおよび50bは、半楕円形状を有し、厚み縦振動モードまたは厚みすべり振動モードの弾性波が共振する領域である。下部電極12a、圧電膜14および上部電極16は、圧電薄膜共振器11aを形成し、下部電極12b、圧電膜14および上部電極16は、圧電薄膜共振器11bを形成する。共振器11aと11bは、下部電極12aと12bとの間に直列に接続される。
【0026】
空隙30の平面形状は楕円形状であり、楕円形状の中心は中心58である。平面視において上部電極16に重なりかつ共振領域50aと50bとの間の領域は分断領域56である。分断領域56は中心58を含む。共振領域50aおよび50bは、分断領域56の両側に設けられ、共振領域50aおよび50bと分断領域56とを合わせた平面形状は空隙30と相似する形状(すなわち楕円形状)であり、空隙30に含まれる。平面視において、共振領域50aおよび50bと分断領域56とを合わせた平面形状は空隙30と合同であり、重なっていてもよい。共振領域50aと50bとの面積は例えば略同じである。なお、空隙30の平面形状並びに共振領域50aおよび50bと分断領域56とを合わせた平面形状は、楕円形状以外に四角形状、五角形状等の多角形状でもよい。上部電極16は、空隙30の外に引き出されておらず、共振器11aおよび11b以外の共振器には接続されていない。
【0027】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、水晶基板、セラミック基板またはGaAs基板等の絶縁基板または半導体基板である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の金属の単層膜またはこれらの積層膜である。
【0028】
圧電膜14は、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)、単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO)または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO)等を主成分とした膜である。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでもよい。
【0029】
絶縁膜は、無機絶縁膜であり、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜等の金属酸化膜または金属窒化膜を用いることができる。周波数調整膜または保護膜は、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜等の絶縁膜である。質量負荷膜は、下部電極12a、12bおよび上部電極16において例示した材料を用いた金属膜、または酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜等の絶縁膜である。
【0030】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12aおよび12bは、基板10側から膜厚が100nmのクロム膜および膜厚が250nmのルテニウム膜である。圧電膜14は、膜厚が1100nmの窒化アルミニウム膜である。上部電極16は、圧電膜14側から膜厚が250nmのルテニウム膜および膜厚が50nmのクロム膜である。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0031】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から図3(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。図2(a)に示すように、基板10の上面に凹部を形成する。凹部内に犠牲層38を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜する。犠牲層38は、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)または酸化シリコン(SiO)等である。基板10および犠牲層38の上面をCMP(Chemical Mechanical Polishing )を用い平坦化する。
【0032】
図2(b)に示すように、犠牲層38および基板10上に下部電極12を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。図2(c)に示すように、下部電極12上に、開口61を有するマスク層60を形成する。マスク層60は例えばフォトレジストであり、フォトリソグラフィ法を用い形成する。マスク層60をマスクに下部電極12を除去し、下部電極12aおよび12b、溝55を形成する。下部電極12の除去には、例えばドライエッチング法を用いる。
【0033】
図3(a)に示すように、溝55内およびマスク層60上に絶縁膜18および19を形成する。絶縁膜18および19の形成には、例えばCVD法、スパッタリング法または真空蒸着法を用いる。図3(b)に示すように、マスク層60を除去することにより、溝55内に絶縁膜18が残存する。
【0034】
図3(c)に示すように、下部電極12a、12bおよび絶縁膜18上に圧電膜14を、例えばスパッタリング法または真空蒸着法を用い成膜する。圧電膜14上に上部電極16を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。上部電極16および圧電膜14を、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いパターニングする。これにより、共振領域50a、50bおよび分断領域56が形成される。その後、エッチングする媒体(エッチング液)を用い犠牲層38を除去する。エッチングする媒体は犠牲層38以外の基板10、下部電極12a、12b、圧電膜14、上部電極16および絶縁膜18をエッチングしない媒体であることが好ましい。エッチング媒体としては、例えばフッ酸または硝酸等を用いる。犠牲層38が除去されると下部電極12と基板10との間に空隙30が形成される。以上により、図1(a)および図1(b)に示した弾性波デバイスが製造される。
【0035】
図4(a)および図4(b)は、それぞれ比較例1および実施例1に係る弾性波デバイスの断面拡大図である。図4(a)に示すように、比較例1では、絶縁膜18が設けられていない。圧電膜14の下面と下部電極12aおよび12bの下面は略平坦面となる。圧電膜14は、下部電極12aおよび12bの厚さT1aおよびT1bの段差上に形成される。このため、段差の角にクラック62が形成されることがある。また、下部電極12aおよび12bの端部付近に圧電膜14の結晶性が低下した領域63が形成されることがある。図3(c)において、犠牲層38をエッチングするときに、矢印64のようにエッチング液により圧電膜14が侵食されることがある。特に、圧電膜14にクラック62または結晶性が低下した領域63が形成されているとき、圧電膜14は浸食されやすくなる。このように、比較例1では、圧電膜14が劣化することがある。
【0036】
図4(b)に示すように、実施例1では、溝55内に絶縁膜18が形成されている。絶縁膜18の厚さT2を下部電極12aおよび12b厚さT1aおよびT1bとほぼ同じとする。厚さT1aおよびT1bは略同じであり、絶縁膜18の上面と下部電極12aおよび12bの上面とは略同一平面となる。これにより、下部電極12aおよび12bの端部付近にクラックおよび結晶性の低下した領域63が形成されることを抑制できる。また、絶縁膜18が分断領域56内の圧電膜14の下面を保護する。このため、犠牲層38をエッチングするときに、圧電膜14が侵食されることを抑制できる。このように、実施例1では、圧電膜14の劣化を抑制できる。
【0037】
[実施例1の変形例1]
図5(a)から図9(c)は、実施例1の変形例1から変形例18を示す断面図である。図5(a)に示すように、実施例1の変形例1では、絶縁膜18の厚さT2が下部電極12aおよび12bの厚さT1aおよびT1bより薄い。実施例1の変形例1においても、下部電極12aおよび12bの上面と絶縁膜18の上面の段差D1は、比較例1の下部電極12aおよび12bの段差であるT1aおよびT1bよりは小さくなる。よって、クラック62および領域63の形成を抑制できる。また、絶縁膜18が分断領域56における圧電膜14の下面を保護するため、圧電膜14の浸食を抑制できる。段差D1は厚さT1aおよびT1bの3/4以下が好ましく、1/2以下がより好ましい。絶縁膜18は、下部電極12aおよび12bより厚くてもよい。この場合においても、段差D1は厚さT1aおよびT1bの3/4以下が好ましく、1/2以下がより好ましい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0038】
[実施例1の変形例2]
図5(b)に示すように、実施例1の変形例2では、絶縁膜18は、溝55内に設けられた部分18aと下部電極12a、12bおよび部分18a下に設けられた部分18bとを有する。部分18aの厚さT2aは下部電極12aおよび12bの厚さT1aおよびT2bとほぼ同じである。これにより、実施例1と同様に、クラック62および領域63の形成が抑制される。部分18bが空隙30の全体にわたり下部電極12aおよび12b下に設けられているため、共振領域50aおよび50bを補強することができる。部分18bが厚いと共振器11aおよび11bの共振特性が低下する。この観点から、部分18bの厚さT2bは下部電極12aおよび12bの厚さT1aおよびT1bより薄いことが好ましく、T1aおよびT1bの1/2以下が好ましく、1/4以下がより好ましい。T2bが薄すぎると補強とならない。この観点から、厚さT2bはT1aおよびT1bの1/10以上が好ましい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0039】
[実施例1の変形例3]
図5(c)に示すように、実施例1の変形例3では、部分18aの厚さT2aは下部電極12aおよび12bの厚さT1aおよびT2bより薄い。このように、部分18aが薄くても部分18aの上面と下部電極12aおよび12bとの段差D1は厚さT1aおよびT1bより小さい。このため、実施例1の変形例2と同様に、クラック62および領域63の形成が抑制される。段差D1の好ましい範囲は実施例1の変形例1の段差D1の好ましい範囲と同じである。部分18bが空隙30の全体にわたり下部電極12aおよび12b下に設けられている。これにより、共振領域50aおよび50bを補強することができる。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0040】
[実施例1の変形例4]
図6(a)に示すように、実施例1の変形例4では、部分18bは、分断領域56の外側の一部に設けられている。共振領域50aおよび50b内の部分18bの幅はD2である。幅D2は、下部電極12aおよび12bとの合わせ精度以上であることが好ましい。この観点から、幅D2は厚さT1aおよびT1bの1/10以上が好ましく、1/2以上がより好ましい。幅D2が大きいと共振器11aおよび11bの共振特性が劣化する。この観点から、幅D2は、厚さT1aおよびT1bの2倍以下が好ましい。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0041】
[実施例1の変形例5]
図6(b)に示すように、実施例1の変形例5では、部分18aの厚さT2aは、下部電極12aおよび12bの厚さT1aおよびT1bより薄い。その他の構成は実施例1の変形例4と同じであり説明を省略する。
【0042】
[実施例1の変形例6]
実施例1では、絶縁膜18の側面は絶縁膜18の側面に対し傾斜する。このため、絶縁膜18の側面の下端では、絶縁膜18は下部電極12aおよび12bに接するものの、絶縁膜18の上面付近では、絶縁膜18は下部電極12aおよび12bが離れる。このため、下部電極12aおよび12bの上面と絶縁膜18の上面との間に凹部が形成されてしまう。図6(c)に示すように、実施例1の変形例6では、絶縁膜18の側面と下部電極12aおよび12bの側面は接触する。これにより、実施例1に比べ、下部電極12aおよび12bと絶縁膜18の上面とはほぼ平坦となる。よって、圧電膜14へのクラック62および結晶性の低下した領域63の形成をより抑制できる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0043】
[実施例1の変形例7]
図6(d)に示すように、実施例1の変形例7では、絶縁膜18の厚さT2は、下部電極12aおよび12bの厚さT1aおよびT1bより薄い。絶縁膜18の側面と下部電極12aおよび12bの側面は接触する。これにより、実施例1の変形例1の図5(a)に比べ、下部電極12aおよび12b上面と絶縁膜18の上面との間の凹部が抑制される。よって、圧電膜14へのクラック62および結晶性の低下した領域63の形成をより抑制できる。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0044】
[実施例1の変形例8]
図7(a)に示すように、実施例1の変形例8では、下部電極12aおよび12bの側面が下部電極12aおよび12bの下面に対し傾斜している。下部電極12aおよび12bの下面と側面とのなす角度(内角)は鋭角であり、例えば20°~60°である。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0045】
[実施例1の変形例9]
図7(b)に示すように、実施例1の変形例9では、下部電極12aおよび12bの側面が下部電極12aおよび12bの下面に対し傾斜している。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0046】
[実施例1の変形例10]
図7(c)に示すように、実施例1の変形例10では、下部電極12aおよび12bの側面が下部電極12aおよび12bの下面に対し傾斜している。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0047】
[実施例1の変形例11]
図7(d)に示すように、実施例1の変形例11では、下部電極12aおよび12bの側面が下部電極12aおよび12bの下面に対し傾斜している。その他の構成は実施例1の変形例3と同じであり説明を省略する。
【0048】
[実施例1の変形例12]
図8(a)に示すように、実施例1の変形例12では、下部電極12aおよび12bの側面が下部電極12aおよび12bの下面に対し傾斜している。その他の構成は実施例1の変形例4と同じであり説明を省略する。
【0049】
[実施例1の変形例13]
図8(b)に示すように、実施例1の変形例13では、下部電極12aおよび12bの側面が下部電極12aおよび12bの下面に対し傾斜している。その他の構成は実施例1の変形例5と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例8~13のように、下部電極12aおよび12bの側面は下面に対し傾斜していてもよい。下部電極12aおよび12bの下面と側面とのなす角度は鋭角であり、絶縁膜18の下面と側面とのなす角度が鋭角の場合、下部電極12aおよび12bの側面と絶縁膜18の側面とのなす角度が、実施例1およびその変形例1から5より大きくなる。よって、圧電膜14へのクラック62および結晶性の低下した領域63の形成をより抑制できる。
【0050】
[実施例1の変形例14]
図8(c)に示すように、実施例1の変形例14では、絶縁膜18の側面が下部電極12aおよび12bの側面に接触している。これにより、下部電極12aおよび12bの上面と絶縁膜18の上面が略平坦となる。その他の構成は実施例1の変形例8と同じであり説明を省略する。
【0051】
[実施例1の変形例15]
図8(d)に示すように、実施例1の変形例15では、絶縁膜18の側面が下部電極12aおよび12bの側面に接触している。その他の構成は実施例1の変形例9と同じであり説明を省略する。
【0052】
[実施例1の変形例16]
図9(a)に示すように、実施例1の変形例16では、絶縁膜18の側面が下部電極12aおよび12bの側面に接触している。その他の構成は実施例1の変形例10と同じであり説明を省略する。
【0053】
[実施例1の変形例17]
図9(b)に示すように、実施例1の変形例17では、絶縁膜18の側面が下部電極12aおよび12bの側面に接触している。その他の構成は実施例1の変形例10と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例14~17のように、下部電極12aおよび12bの下面と側面とのなす角度が鋭角のときに、絶縁膜18の側面は下部電極12aおよび12bの側面と接触していてもよい。
【0054】
[実施例1の変形例18]
図9(c)に示すように、実施例1の変形例18では、下部電極12aおよび12bの下面と側面とのなす角度は鈍角である。絶縁膜18の側面は下部電極12aおよび12bの側面と接触している。その他の構成は実施例1の変形例16と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例18のように、下部電極12aおよび12bの下面と側面とのなす角度が鈍角のときに、絶縁膜18の側面は下部電極12aおよび12bの側面と接触していてもよい。
【0055】
[実施例1の変形例19]
図10(a)は、実施例1の変形例19に係る弾性波デバイスの平面図、図10(b)は、図10(a)のA-A断面図である。図10(a)では、挿入膜28をハッチングし図示している。図10(a)および図10(b)に示すように、圧電膜14は、下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとを備えている。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は共振領域50aおよび50bの外周領域52に設けられ、中央領域54には設けられていない。外周領域52は、共振領域50aおよび50b内の領域であって、共振領域50aおよび50bの外周を含み外周に沿った領域である。外周領域52は、例えば帯状である。中央領域54は、共振領域50aおよび50b内の領域であって、共振領域50aおよび50bの中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入膜28は、外周領域52から共振領域50aおよび50b外まで連続して設けられており、分断領域56に設けられている。下部圧電膜14aの側面は上部圧電膜14bの側面より外側に設けられており、上部圧電膜14bの外側における下部圧電膜14a上に挿入膜28が設けられている。
【0056】
挿入膜28の音響インピーダンスは、圧電膜14の音響インピーダンスを圧電膜14より小さいことが好ましい。圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とする場合、挿入膜28は、例えば酸化シリコン膜、アルミニウム膜、金膜、銅膜、チタン膜、白金膜またはタンタル膜である。共振領域50aと50bとが隣接する領域に挿入膜28を設けることで、共振器11aと11bとの間の弾性波の干渉を抑制できる。また、共振器11aと11bから弾性波が基板10に漏洩することができ、Q値を向上させることができる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0057】
[実施例1の変形例20]
図11(a)は、実施例1の変形例20に係る弾性波デバイスの断面図である。図11(a)に示すように、下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に温度補償膜26が設けられている。温度補償膜26は、共振領域50a、50bおよび分断領域56全域にわたり設けられている。温度補償膜26の弾性定数の温度係数の符号は圧電膜14の弾性定数の温度係数の符号の反対である。これにより、共振器11aおよび11bの周波数温度係数を小さくできる。温度補償膜26は、例えば不純物を意図的に添加していない酸化シリコン膜またはフッ素等の不純物を添加した酸化シリコン膜である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0058】
[実施例1の変形例21]
図11(b)は、実施例1の変形例21に係る弾性波デバイスの断面図である。図11(b)に示すように、下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に温度補償膜26および挿入膜28が設けられている。その他の構成は実施例1の変形例19および20と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例19~21のように、実施例1およびその変形例1~18に挿入膜28および/または温度補償膜26を設けてもよい。
【0059】
[実施例1の変形例22]
実施例1の変形例22および23は、空隙の構成を変えた例である。図12(a)および図12(b)は、実施例1の変形例22および23における共振領域近傍の断面図である。図12(a)に示すように、基板10の上面は平坦である。基板10の上面と下部電極12a、12bおよび絶縁膜18の下面の間にドーム状の空隙30が形成されている。ドーム状とは、空隙30の周縁では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが高くなるような形状である。ドーム状の空隙30を形成するため、下部電極12a、12b、圧電膜14および上部電極16の合計の内部応力を圧縮応力とすることが好ましい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0060】
[実施例1の変形例23]
図12(b)に示すように、実施例1の空隙30の代わりに音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれ略λ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0061】
実施例1およびその変形例1から21において、実施例1の変形例22と同様にドーム状の空隙30を形成してもよく、実施例1の変形例23と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0062】
実施例1およびその変形例1から22のように、共振器11aおよび11bは、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例23のように、共振器11aおよび11bは、SMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。このように、基板10内または上に設けられる音響反射層は、空隙30、または音響特性の異なる少なくとも2種類の層が積層された音響反射膜31を含めばよい。
【0063】
実施例1およびその変形例によれば、空隙30、または音響特性の異なる少なくとも2種類の層が積層された音響反射膜31、を含む音響反射層が基板10上に設けられている。複数の下部電極12aおよび12bは、基板10との間に1つの音響反射層を共有し、互いに溝55を介し離れて配置されている。絶縁膜18は、音響反射層上の溝55に設けられている。圧電膜14は、複数の下部電極12a、12bおよび溝55上に一体として設けられている。上部電極16は、圧電膜14上に一体として設けられ、圧電膜14を複数の下部電極12aおよび12bとで挟むことにより複数の共振器11aおよび11bを形成する。
【0064】
これにより、図4(b)を用い説明したように、図4(a)の比較例1において形成される圧電膜14内のクラック62および結晶性の低下した領域63の形成を抑制できる。また、図3(c)において犠牲層38を除去するときに、絶縁膜18が圧電膜14を保護するため、圧電膜14の浸食を抑制できる。よって、圧電膜14等の劣化を抑制できる。
【0065】
上部電極16は、平面視において音響反射層の外側に引き出されていない。すなわち、上部電極16には他の共振器が接続されていない。これにより、共振器11aと11bとは直列接続され、かつ圧電膜14の分極方向が反対となるため、特許文献1に説明されているように2次歪を抑制できる。また、上部電極16の上方は大気のため、分断領域56における上部電極16に付加される寄生容量を小さくできる。これにより、特許文献1の図4の説明のように2次歪をより抑制できる。2次歪を抑制するため、共振領域50aと50bとの面積は製造誤差程度に略同じであることが好ましい。また、共振領域50aと50bと平面形状は対称(例えば点対称、線対称または鏡面対称)であることが好ましい。共振領域50aと50bと平面形状は非対称でもよい。これにより、共振器11aと11bとの不要波が干渉することを抑制できる。
【0066】
また、上部電極16が平面視において音響反射層の外側に引き出されていないとき、平面視において上部電極16および圧電膜14が空隙30に含まれる。このため、共振器11aおよび11bは主に下部電極12aおよび12bにより基板10に支持され、支持強度が弱い。そこで、絶縁膜18を設けることで、共振器11aおよび11bを補強することができる。
【0067】
絶縁膜18は、複数の下部電極12aおよび12bの各々に接する。例えば、絶縁膜18は少なくとも下部電極12aおよび12bの下端に接する。絶縁膜18は、下部電極12aおよび12bを補強することができる。また、比較例1の図4(a)の矢印64のように圧電膜14が犠牲層38のエッチング液に曝されることを抑制できる。なお、絶縁膜18が複数の下部電極12aおよび12bの各々に接していなくても、クラック62および領域63の形成を抑制する効果は得られる。
【0068】
実施例1およびその変形例2、4、6、8、10、12、14、16および18のように、絶縁膜18の圧電膜14側の面と下部電極12aおよび12bの圧電膜14側の面とは略同一平面である。これにより、圧電膜14におけるクラック62および領域63の形成を抑制できる。なお、略同一平面とは製造誤差程度に平面であり、例えば実施例1の変形例22の図12(a)のように、空隙30をドーム状とした場合、空隙30の高さは空隙30の幅の1/100程度であり、空隙30の上面は略同一平面とみなせる。絶縁膜18の圧電膜14側の面と下部電極12aおよび12bの圧電膜14側の面との間に凹部が設けられていてもよい。
【0069】
実施例1の変形例1、3、5、7、9、11、13、15および17のように、絶縁膜18の圧電膜14側の面は、下部電極12aおよび12bの圧電膜14側の面より基板10側に位置し、かつ下部電極12aおよび12bの基板10側の面より圧電膜14側に位置する。これにより、段差D1は、厚さT1aおよびT1bより小さくなる。よって、圧電膜14におけるクラック62および領域63の形成を抑制できる。
【0070】
実施例1の変形例6、7、14~18のように、絶縁膜18の側面は複数の下部電極12aおよび12bの側面に、接する面を有するように接する。これにより、絶縁膜18の上面と下部電極12aおよび12bの上面との間に凹部が形成されないため圧電膜14におけるクラック62および領域63の形成をより抑制できる。
【0071】
実施例1の変形例6、7、14、16および18のように、絶縁膜18の圧電膜14側の面は下部電極12aおよび12bの圧電膜14側の面と製造誤差程度に略平坦である。すなわち、絶縁膜18の圧電膜14側の面と下部電極12aおよび12bの圧電膜14側の面との間に凹部が設けられていない。これにより、圧電膜14におけるクラック62および領域63の形成をさらに抑制できる。
【0072】
実施例1およびその変形例1、6~9、14および15のように、絶縁膜18の基板10側の面は下部電極12aおよび12bの基板10側の面と製造誤差程度に略平坦である。これにより、図3(b)のように、犠牲層38の上面に下部電極12a、12bおよび絶縁膜18を形成すればよいので、容易に絶縁膜18を形成できる。
【0073】
実施例1の変形例2~5、10~13、16~18のように、絶縁膜18の一部は下部電極12aおよび12bの基板10側の面に設けられている。これにより、絶縁膜18は下部電極12aおよび12bを補強することができる。
【0074】
実施例1の変形例2、3、10、11、16~18のように、絶縁膜18は、平面視において音響反射層の全てと重なる。これにより、絶縁膜18は下部電極12aおよび12bを補強することができる。
【0075】
実施例1の変形例1~22のように、音響反射層が空隙30のとき、絶縁膜18を設けないと分断領域56の強度が弱くなる。よって、分断領域56に絶縁膜18を設けることで、下部電極12aおよび12bを補強することができる。
【0076】
実施例1の変形例22のように、基板10の空隙30側の面は製造誤差程度に略平面であるとき、下部電極12aおよび12bは上方に湾曲する。絶縁膜18を設けないと分断領域56の強度が弱くなる。よって、分断領域56に絶縁膜18を設けることで、下部電極12aおよび12bを補強することができる。
【0077】
実施例1の変形例19~21のように、圧電膜14の材料と異なる材料を有する挿入膜28および/または温度補償膜26が上部電極16と下部電極12aおよび12bとの間に挿入されていてもよい。
【実施例0078】
実施例2は、デュプレクサの例である。図13は、実施例2に係るデュプレクサの回路図である。図13に示すように、共通端子Antはアンテナ44に接続される。共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。共通端子Antとグランドとの間に整合回路としてインダクタL1が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタL1は、送信フィルタ40を通過した送信信号が受信フィルタ42に漏れず共通端子Antから出力されるようにインピーダンスを整合させる。
【0079】
送信フィルタ40は、ラダー型フィルタである。共通端子Antと送信端子Txとの間に1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。共通端子Antと送信端子Txとの間に1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。並列共振器P1からP3の一端は共通にインダクタL2を介し接地されている。並列共振器P1は共振器P1aおよびP1bに直列に分割されている。
【0080】
図14(a)は、実施例2における送信フィルタの平面図、図14(b)は、空隙の平面図である。図14(a)に示すように、基板10上に直列共振器S1からS4、並列共振器P1からP3、配線45および端子46が形成されている。直列共振器S1からS4、および並列共振器P1からP3は共振領域50を有する。配線45は共振領域50同士を接続、および共振領域50と端子46とを接続する。端子46は入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgを含む。配線45および端子46は、下部電極12または上部電極16により形成されている。
【0081】
図14(a)および図14(b)に示すように、並列共振器P1以外の共振器は、単一の空隙30に単一の共振領域50が設けられている。共振器P1aおよびP1bは実施例1およびその変形例に係る共振器11aおよび11bであり、単一の空隙30aに2つの共振領域50aおよび50bと分断領域56が設けられている。共振器P1aおよびP1bが設けられた空隙30aと他の空隙30とは楕円形状を有している。このように、空隙30aと30とが同様の形状であるため、空隙30aおよび30上に圧電膜14等を形成する応力条件をほぼ同一にできる。よって、空隙30aおよび30と圧電膜14等とを容易に形成することができる。
【0082】
実施例2のように、送信フィルタ40は、実施例1およびその変形例の単一の空隙30に設けられた複数の共振領域50にそれぞれ対応する複数の圧電薄膜共振器を含む。これにより、共振器P1aとP1bとの間の配線の寄生容量を小さくできる。よって、特許文献1と同様に2次歪を抑制できる。また、下部電極12aおよび12bお間の溝55に絶縁膜18が設けられているため、圧電膜等の劣化を抑制できる。
【0083】
実施例2では、送信フィルタ40に実施例1およびその変形例を用いる例を説明したが、受信フィルタ42に実施例1およびその変形例を用いてもよい。また、ラダー型フィルタに実施例1およびその変形例を用いる例を説明したが、ラティス型フィルタまたは多重モードフィルタに実施例1およびその変形例を用いてもよい。マルチプレクサの例としてデュプレクサを説明したが。マルチプレクサはトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0084】
並列共振器P1が複数の共振器P1aおよびP1b(分割共振器)に分割されており、共振器P1aおよびP1bに対応する複数の共振領域50は空隙30aに共通に設けられている。これにより、2次歪を抑制できる。分割される共振器は、1または複数の直列共振器および1または複数の並列共振器の少なくとも1つの共振器であればよい。2次歪を抑制する観点から出力端子に最も近い直列共振器S1および/または並列共振器P1が分割されていることが好ましい。直列共振器および並列共振器の数は任意に設定できる。
【実施例0085】
実施例3は、ラダー型フィルタに実施例1およびその変形例を用いる例である。図15は、実施例3に係るフィルタの平面図である。共振領域50a~50cおよび絶縁膜18をハッチングし図示している。図15に示すように、空隙30に共通に直列共振器S1およびS2並びに並列共振器P1に対応する3つの共振領域50a~50cが設けられている。共振領域50a~50cの間は分断領域56である。下部電極12a~12cの間に溝55が設けられている。溝55に絶縁膜18が設けられている。上部電極16は共振領域50a~50cに共通に設けられている。3つの共振器は上部電極16により電気的に接続されている。下部電極12a、12bおよび12cは、それぞれ入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgに接続されている。これにより、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、直列共振器S1およびS2が直列に接続され、並列共振器P1が並列に接続される。
【0086】
実施例3によれば、1または複数の直列共振器の少なくとも1つと1または複数の並列共振器の少なくとも1つに対応する共振領域50が空隙30に共通に設けられている。これにより、直列共振器と並列共振器との間の配線の寄生容量を抑制できる。
【0087】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
10 基板
12、12a~12c 下部電極
11a、11b 共振器
14 圧電膜
16 上部電極
18 絶縁膜
18a、18b 部分
26 温度補償膜
28 挿入膜
30、30a 空隙
31 音響反射膜
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
50、50a~50c 共振領域
55 溝
56 分断領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15