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特開2022-141012乗物用ラッチ装置およびその製造方法ならびに乗物用シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141012
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】乗物用ラッチ装置およびその製造方法ならびに乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/005 20060101AFI20220921BHJP
   B60N 2/015 20060101ALI20220921BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20220921BHJP
   E05B 85/26 20140101ALI20220921BHJP
   E05B 83/00 20140101ALI20220921BHJP
【FI】
B60N2/005
B60N2/015
B60N2/90
E05B85/26
E05B83/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041125
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】立川 陽一
【テーマコード(参考)】
2E250
3B087
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250KK01
2E250LL20
3B087DA06
3B087DA10
(57)【要約】
【課題】棒状部が外れようとする外力が加わった場合の、ラッチとラチェットの接触圧力を小さくする。
【解決手段】棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置であって、筐体と、筐体に回動可能に支持され、棒状部に係合したロック状態と、棒状部から外れたロック解除状態とをとり得るラッチ30と、筐体に回動可能に支持されたラチェット40であって、ラッチがロック状態にある場合にラッチ30がロック解除状態へ回動するのを規制する解除規制面42Bを有するラチェット40と、を備える。ラッチ30は、ロック状態において、外力によりロック解除状態へ向けて回動された場合に解除規制面42Bに接触する接触面34Aを有し、当該接触面は34A、解除規制面42Bと面接触するように、解除規制面42Bに倣った形状を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置であって、
筐体と、
前記筐体に回動可能に支持され、前記棒状部に係合したロック状態と、前記棒状部から外れたロック解除状態とをとり得るラッチと、
前記筐体に回動可能に支持されたラチェットであって、前記ラッチが前記ロック状態にある場合に前記ラッチが前記ロック解除状態へ回動するのを規制する解除規制面を有するラチェットと、を備え、
前記ラッチは、前記ロック状態において、外力により前記ロック解除状態へ向けて回動された場合に前記解除規制面に接触する接触面を有し、当該接触面は、前記解除規制面と面接触するように、前記解除規制面に倣った形状を有することを特徴とする乗物用ラッチ装置。
【請求項2】
前記解除規制面は、凸曲面を有し、
前記接触面は、前記凸曲面に倣った凹曲面を有することを特徴とする請求項1に記載の乗物用ラッチ装置。
【請求項3】
前記解除規制面は、前記ラチェットの回動中心を中心とする円弧に沿った形状を有することを特徴とする請求項2に記載の乗物用ラッチ装置。
【請求項4】
前記ラッチおよび前記ラチェットと係合し、前記ラッチの動作と前記ラチェットの動作を連動させるレバー部材と、
前記レバー部材を前記ラッチに回動可能に支持させるピンと、をさらに備え、
前記ラッチの回動軸に沿って見た場合の前記解除規制面と前記接触面の接触長さは、前記ピンの直径よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗物用ラッチ装置。
【請求項5】
前記ラッチの回動軸に沿って見た場合の前記解除規制面と前記接触面の接触長さは、前記ラチェットの厚さよりも長いことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の乗物用ラッチ装置。
【請求項6】
前記ラッチは、前記ロック状態において前記棒状部と係合可能な鉤状部を有し、
前記鉤状部は、
前記ロック状態において外力がかかっていない場合に前記棒状部に最も近い第1支持面と、
前記鉤状部の先端部に位置し、前記第1支持面から突出した突出部であって、前記ロック状態にある前記ラッチが、外力により前記ロック解除状態へ向けて回動された場合に前記棒状部と係合する第2支持面を有する突出部と、を有し、
前記ラッチの回動軸に沿って見て、前記解除規制面と前記接触面の接触長さは、前記ロック状態にある前記ラッチが、外力により前記ロック解除状態へ向けて回動され、前記第1支持面および前記第2支持面に接触している状態において、棒状部が前記ラッチに接触する範囲の長さよりも長いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の乗物用ラッチ装置。
【請求項7】
シートフレームと、
前記シートフレームに固定された、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の乗物用ラッチ装置と、を備えることを特徴とする乗物用シート。
【請求項8】
棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置の製造方法であって、
前記乗物用ラッチ装置は、
筐体と、
前記筐体に回動可能に支持され、前記棒状部に係合したロック状態と、前記棒状部から外れたロック解除状態とをとり得るラッチと、
前記筐体に回動可能に支持されたラチェットであって、前記ラッチが前記ロック状態にある場合に前記ラッチが前記ロック解除状態へ回動するのを規制する解除規制面を有するラチェットと、を備え、
前記ラッチは、前記ロック状態において、外力により前記ロック解除状態へ向けて回動された場合に前記解除規制面に接触する接触面を有し、
前記製造方法は、前記ラッチを成形する際に、前記接触面を、前記解除規制面と面接触するように、前記解除規制面に倣った形状に成形することを特徴とする乗物用ラッチ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用ラッチ装置におよびその製造方法ならびに乗物用シート関し、特に、乗物用部品を固定するのに使用する乗物用ラッチ装置およびその製造方法ならびに乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車体に対しシートをロックするための乗物用ラッチ装置が知られている(特許文献1)。特許文献1のラッチ装置は、ラッチが棒状部に係合したロック状態において、ラチェットがラッチに係合し、外力によって棒状部がラッチから引き離されようとした場合でも、ロック状態が解除されないようになっている。そして、シートに大きな外力が加わった場合には、ラッチの曲面がラチェットの平面に当たることで、ラッチが回動するのが規制されている(図11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-61781公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の乗物用ラッチ装置においては、シートに大きな外力が加わった場合に、ラッチの曲面がラチェットの平面に当たるため、接触面積が狭く、接触圧力が大きいという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、棒状部が外れようとする外力が加わった場合の、ラッチとラチェットの接触圧力を小さくすることを目的とする。
また、ロック状態をしっかりと維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決する本発明は、棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置であって、筐体と、筐体に回動可能に支持され、棒状部に係合したロック状態と、棒状部から外れたロック解除状態とをとり得るラッチと、筐体に回動可能に支持されたラチェットであって、ラッチがロック状態にある場合にラッチがロック解除状態へ回動するのを規制する解除規制面を有するラチェットと、を備える。
ラッチは、ロック状態において、外力によりロック解除状態へ向けて回動された場合に解除規制面に接触する接触面を有し、当該接触面は、解除規制面と面接触するように、解除規制面に倣った形状を有する。
【0007】
このような構成によれば、ラッチの接触面は、ラチェットの解除規制面と面接触するように、解除規制面に倣った形状を有するので、ロック状態において、棒状部が引き離されるような外力が加わった場合に、接触面と解除規制面の接触圧力を小さくすることができる。
【0008】
解除規制面は、凸曲面を有し、接触面は、凸曲面に倣った凹曲面を有していてもよい。
【0009】
このような構成によれば、ロック状態において、棒状部が引き離されるような外力が加わった場合に、接触面の凹曲面に凸曲面が嵌まり込んで接触するので、接触面と解除規制面の接触が安定し、ロック状態をしっかりと維持することができる。
【0010】
解除規制面は、ラチェットの回動中心を中心とする円弧に沿った形状を有していてもよい。
【0011】
このような構成によれば、接触面が解除規制面に強く当たったとしても、その当接力がラチェットを回動させる力として働かず、ロック状態をしっかりと維持することができる。
【0012】
前記した乗物用ラッチ装置は、ラッチおよびラチェットと係合し、ラッチの動作とラチェットの動作を連動させるレバー部材と、レバー部材をラッチに回動可能に支持させるピンと、をさらに備えることができる。この場合に、ラッチの回動軸に沿って見た場合の解除規制面と接触面の接触長さは、ピンの直径よりも長いことが望ましい。
【0013】
また、ラッチの回動軸に沿って見た場合の解除規制面と接触面の接触長さは、ラチェットの厚さよりも長いことが望ましい。
【0014】
ラッチは、ロック状態において棒状部と係合可能な鉤状部を有し、鉤状部は、ロック状態において外力がかかっていない場合に棒状部に最も近い第1支持面と、鉤状部の先端部に位置し、第1支持面から突出した突出部であって、ロック状態にあるラッチが、外力によりロック解除状態へ向けて回動された場合に棒状部と係合する第2支持面を有する突出部と、を有する。そして、ラッチの回動軸に沿って見て、解除規制面と接触面の接触長さは、ロック状態にあるラッチが、外力によりロック解除状態へ向けて回動され、前記第1支持面および前記第2支持面に接触している状態において、棒状部がラッチに接触する範囲の長さよりも長いことが望ましい。
【0015】
これらの構成のように、解除規制面と接触面の接触長さが長いことで、接触面と解除規制面の接触圧力を小さくすることができる。
【0016】
前記した課題を解決する乗物用シートは、シートフレームと、シートフレームに固定された、前記した乗物用ラッチ装置を備える構成とすることができる。
【0017】
前記した課題を解決する、棒状部に係合または離脱することでロックまたはロック解除する乗物用ラッチ装置の製造方法は、乗物用ラッチ装置が、筐体と、筐体に回動可能に支持され、棒状部に係合したロック状態と、棒状部から外れたロック解除状態とをとり得るラッチと、筐体に回動可能に支持されたラチェットであって、ラッチがロック状態にある場合にラッチがロック解除状態へ回動するのを規制する解除規制面を有するラチェットと、を備え、ラッチは、ロック状態において、外力によりロック解除状態へ向けて回動された場合に解除規制面に接触する接触面を有し、前記製造方法は、ラッチを成形する際に、接触面を、解除規制面と面接触するように、解除規制面に倣った形状に成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の乗物用ラッチ装置によれば、棒状部が外れようとする外力が加わった場合の、ラッチとラチェットの接触部の接触圧力を小さくすることができる。
【0019】
また、ロック状態をしっかりと維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】乗物用ラッチ装置が設けられた乗物用シートのシートフレームの斜視図である。
図2】乗物用ラッチ装置の分解斜視図である。
図3】ラッチの接触面がラチェットの解除規制面に接触した状態の拡大図である。
図4】ロック状態にある乗物用ラッチ装置を示す断面図である。
図5】ラッチを軸支する構成を説明する断面図である。
図6】乗物用ラッチ装置の動作を説明する図であり、ロッドを少し引いた状態を示す。
図7】乗物用ラッチ装置の動作を説明する図であり、ロッドを大きく引いた状態を示す。
図8】乗物用ラッチ装置の動作を説明する図であり、ロッドを戻してラチェットがラッチに当接した状態を示す。
図9】乗物用ラッチ装置の動作を説明する図であり、ロック解除状態を示す。
図10】乗物用ラッチ装置をストライカから上方に引き離そうとした状態を示す図である。
図11図10の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る乗物用ラッチ装置の一実施形態について説明する。図1に示すように、一実施形態の乗物用ラッチ装置1は、例えば、自動車などの乗物用シートのシートフレームSのうち、背もたれを構成するサイドフレームS1などに設けられる。一例として、サイドフレームS1は、板金からなるブラケットS2が溶接されており、乗物用ラッチ装置1は、このブラケットS2に固定された溶接ナットWNにボルト90により固定されている。
【0022】
乗物用ラッチ装置1は、筐体2にラッチ30などの機構部品が収納されて構成されている。筐体2には、図1における右に開口する進入溝2Aが形成されており、ラッチ30は、鉤状部33(図3参照)が、この進入溝2Aに進出または退避することで、閉状態または開状態となる。乗物用ラッチ装置1は、ラッチ30が開いたロック解除状態から乗物本体に固定されたストライカの棒状部P1(図4参照)に押し付けられて係合することでロックできるようになっている。また、乗物用ラッチ装置1は、後に詳述するように、ロッド70を引っ張ることで、ラッチ30を閉状態から開状態へ操作してロック解除することができるようになっている。すなわち、ラッチ30は、棒状部P1に係合したロック状態と、棒状部P1から外れたロック解除状態とをとり得る。
【0023】
図2に示すように、乗物用ラッチ装置1は、筐体2と、ラッチ30と、ラチェット40と、レバー部材50と、ロッド70と、荷重受け部材80とを主に備えて構成されている。なお、以下の乗物用ラッチ装置1の構成の説明において、便宜上、上下、左右、前後は、図2に矢印で示した上下、左右、前後の方向を用いるが、乗物用ラッチ装置1を任意の姿勢で使用できることは言うまでもない。
【0024】
筐体2は、樹脂製の樹脂筐体10と、鋼板(金属)製の補強板20とを備えて構成されている。乗物用ラッチ装置1は、樹脂筐体10を採用することで大幅な軽量化を図るとともに、補強板20を部分的に設けることで必要な剛性および強度が確保されている。
【0025】
樹脂筐体10は、一方側が開口したトレイ状の下ケース10Aと上ケース10Bとが、薄肉部により構成されたヒンジ19により接続されて一体に形成されている。このような樹脂筐体10は、一組の型で一体成形により形成することができる。上ケース10Bは、下ケース10Aに対しヒンジ19を中心に回動することができ、上ケース10Bと下ケース10Aのそれぞれの開口同士を合わせることで箱状となるようになっている。
【0026】
下ケース10Aは、平板状のベース部16Aと、ベース部16Aの外縁の一部において立ち上がる側壁部17Aとを備えてトレイ状に形成されている。ベース部16Aの下側の縁には進入溝2Aに対応する進入溝15Aが形成されている。また、ベース部16Aからは、進入溝15Aの左右両側に、進入溝15Aから上側に少し離れて円筒状の第1軸11および第2軸12が内側に延出している。第1軸11と第2軸12は、ともにベース部16Aと一体になっている。
【0027】
第1軸11は、その軸方向に沿って、断面円形の貫通孔であるボルト孔11Hが形成されている。第2軸12も、その軸方向に沿って、断面円形の貫通孔であるボルト孔12Hが形成されている。ボルト孔11Hおよびボルト孔12Hは、ともにボルト90の軸部91と略同じ直径を有している。
上ケース10Bは、第1軸11および第2軸12が無い以外は、樹脂筐体10の内部については、ヒンジ19を基準として下ケース10Aと略対称に構成されている。上ケース10Bは、平板状のベース部16Bと、ベース部16Bの外縁の一部において立ち上がる側壁部17Bとを備えてトレイ状に形成されている。ベース部16Bの上側(組立後の下側)の縁には進入溝2Aに対応する進入溝15Bが形成されている。また、ベース部16Bは、進入溝15Bの左右両側に、進入溝15Aから下側(組立後の上側)に少し離れてボルト孔13P,13Qが、それぞれボルト孔11H,12Hに対応して形成されている。
【0028】
補強板20は、下ケース10Aの外側のうち、上部の一部以外を覆うように形成され、平板状のベース部21と、ベース部21の外縁のうち左端および右端から内側に向けて立ち上がる側壁部27とを備えている。詳細は図示しないが、補強板20の側壁部27は、下ケース10Aの側壁部17Aと係合することで下ケース10Aと仮組みすることが可能となっている。
【0029】
ベース部21には、前記した下ケース10Aの第1軸11および第2軸12の後方にそれぞれ突出して形成された位置決め突起(第1軸11に対応した突起11Jのみを図5に示した)と対応してこれらに嵌合する位置決め孔22,23が形成されている。また、ベース部21の下側の縁には、進入溝2Aに対応する進入溝25が形成されている。
【0030】
補強板20の外側には、上側の縁に、外側に向けて曲げ起こされたフランジ28が形成されている。フランジ28は、荷重受け部材80と当接して、荷重受け部材80がストライカPの棒状部P1(図4参照)から受ける力を支持する部分である。
【0031】
ラッチ30は、ストライカPの棒状部P1に係合・離脱して乗物用ラッチ装置1のロックまたはロック解除をする部材である。ラッチ30は、厚い金属板を打ち抜いて形成され、厚み方向に貫通する第1穴部31を有し、第1穴部31が第1軸11の外側に嵌合することで樹脂筐体10に回動可能に支持されている。ラッチ30は、詳細には、金属製のラッチ本体30Aと、ラッチ本体30Aの前側の面と側縁の一部を覆う、ラッチ本体30Aより柔軟な樹脂製のカバー30Bとから構成されている。カバー30Bは、ラチェット40との摺動性を良くするために設けられている。なお、カバー30Bは、ラッチ本体30Aに対し第1穴部31の軸方向に沿って組み合わされている。
【0032】
図3に示すように、ラッチ30は、棒状部P1を受け入れる溝32を有し、溝32の外側を形成する部分が、ロック状態において棒状部P1と係合可能な鉤状部33となっている。鉤状部33と対向する部分は、第1穴部31付近から突出した突起部39となっている。また、ラッチ30は、図4の姿勢において、右上の縁部に第1穴部31に近づくよう凹むロック凹部34が形成されている。ロック凹部34の左側に隣接する外周部分(側部)は、ラッチ30の開放時に、ラチェット40が当接してラッチ30の開状態を維持する開放当接面35である。開放当接面35は、外側に向けて凸曲面となっており、後述するラチェット40の先端部42Aが当接する全範囲において、外周の表面から曲率円の中心に向かう方向(図4の矢印参照)が、ラッチ30の回動軸線に対して一方側、ここでは右側にずれている。このため、ラッチ30が先端部42Aから受ける力は、ラッチ30を時計回り方向、つまり、開状態へ向けて回転させるように働くようになっている。
また、ラッチ30は、レバー部材50を軸支するため、前側に突出するピン36が圧入されている。
【0033】
鉤状部33は、図4のような棒状部P1が係合したロック状態において、棒状部P1に対し下側から対向し、外力が掛かっていない場合に最も近い第1支持面38Aと、第1支持面38Aよりも、鉤状部33の先端部に位置し、第1支持面38Aから突出する突出部37と、突出部37における棒状部P1に対向する面である第2支持面38Bとを有する。第1支持面38Aと第2支持面38Bとは、異なる向きを向いており、棒状部P1が同時に当接可能なように隣接して配置されている。第2支持面38Bは、ロック状態にあるラッチ30が、外力によりロック解除状態へ向けて回動された場合に棒状部P1と係合する。本実施形態において、棒状部P1は、円柱形状を有する。第1支持面38Aおよび第2支持面38Bは、棒状部P1に同時に当接可能とするため、平面、凸曲面または棒状部P1の半径よりも大きな曲率半径の凹曲面である。一例として、本実施形態において、第1支持面38Aおよび第2支持面38Bは、ともに平面である。第1支持面38Aと第2支持面38Bは、異なる向きを向き、十分な長さを有していることで、棒状部P1が第1支持面38Aと第2支持面38Bで形成される隅部に位置したときには、第1支持面38Aと第2支持面38Bとは、棒状部P1に対し同時に当接可能となっている。
【0034】
図2および図4に示すように、ラチェット40は、金属製の略板状の部材であり、厚み方向に貫通する第2穴部41が樹脂筐体10の第2軸12の外側に嵌合して、樹脂筐体10に回動可能に支持されている。ラチェット40の回動軸は、ラッチ30の回動軸と平行である。ラチェット40は、第2穴部41の左上方に略扇形の本体部42を有する。本体部42は、ラッチ30へ向けて尖った先端部42Aを有している。先端部42Aは、ラッチ30の閉状態においてラッチ30のロック凹部34に入り込む。そして、ラッチ30の開状態においては、先端部42Aは、開放当接面35に当接して開状態を維持するように機能する。
【0035】
本体部42の扇形の円弧に沿った面は解除規制面42Bである。解除規制面42Bは、ラッチ30がロック状態にある場合に、ラッチ30がロック解除状態へ回動(図4で時計回りに回動)するのを規制する。解除規制面42Bは、凸曲面である。より詳細には、解除規制面42Bは、ラチェット40の回動中心を中心とする円弧に沿った形状を有している。
【0036】
本体部42の上部からは、さらに上方に細く延びるアーム43が形成され、アーム43の先端には、付勢部材の一例としての引張バネ75の右端が引っ掛けられるフック44が形成されている。引張バネ75の端部は、アーム43の先端の形状をフック状にしてなるフック44により係止されている。また、アーム43には、図2に示すように孔48が形成され、この孔48に乗物用ラッチ装置1をロック状態からロック解除状態に操作するロッド70が、リベット71により揺動可能に結合されている。
【0037】
図4に示すように、本体部42のうち先端部42Aの若干右側には、前側に突出するピン45が圧入されている。また、図2に示すように、ラチェット40は、第2穴部41の周囲で穴の軸方向前側に突出したフランジ47を有している。フランジ47は、レバー部材50の厚みに対応した大きさで突出し、ラッチ30の閉状態において、レバー部材50が引張バネ75の付勢力によりフランジ47に当接することで、レバー部材50の遊びが防止されるようになっている。
【0038】
レバー部材50は、ラッチ30の動作とラチェット40の動作を連動させるための操作機構である。レバー部材50は、細長い板状の部材であり、長手方向の略中央に形成された孔51がラッチ30のピン36に嵌合することでラッチ30に回動可能に支持されている。
【0039】
レバー部材50は、図4の姿勢において回動軸から右下に向けて作動アーム52が延び、上方に向けて操作アーム53が延びている。作動アーム52には、変形の四角形のガイド孔52Aが形成されている。ガイド孔52Aにはラチェット40のピン45が入り込んでいる。作動アーム52の先端は、ラチェット40のフランジ47に当たってレバー部材50の遊びを防止するストッパ面52Bとなっている。操作アーム53の先端にはフック54が形成され、フック54に引張バネ75の左端が引っ掛けられている。
【0040】
引張バネ75は、前記したようにラチェット40とレバー部材50に各端部が引っ掛けられ、ラチェット40の本体部42とレバー部材50の操作アーム53とを常時引き付けるように付勢力を与えている。この付勢力は、ラチェット40の先端部42Aをラッチ30に向けて付勢する力を与えるようにも働く。
【0041】
荷重受け部材80は、ストライカPの棒状部P1に当接してストライカPからの荷重を受ける樹脂製の部材である。詳細は省略するが、荷重受け部材80の下端にある荷重受け面89Aは、ロック状態において棒状部P1に当接し、棒状部P1から荷重受け部材80に入る荷重は、補強板20のフランジ28に伝えられ、補強板20で受け止められるようになっている。
【0042】
図5に示すように、下ケース10A、上ケース10Bは、ボルト90により互いに締結されて箱形状にされ、かつ、補強板20とともにブラケットS2に固定されている。ボルト90は、軸部91と、軸部91の先端に設けられたネジ部92と、基端に設けられたフランジ付ヘッド93とを有している。
【0043】
下ケース10Aと上ケース10Bは、ラッチ30などの各部材を内部に組み付けられた上でそれぞれの開口側を向かい合わせにして箱状にされ、ボルト孔11Hにボルト90の軸部91が挿通されて、ネジ部92をブラケットS2の溶接ナットWNに螺合することでブラケットS2に固定されている。なお、フランジ付ヘッド93と補強板20の間にはスプリングワッシャ95が介装されて、スプリングワッシャ95の弾性力によりブラケットS2とフランジ付ヘッド93の間で乗物用ラッチ装置1を挟持している。なお、ここでは、図5を参照して、ボルト90により第1軸11における締結状態を説明したが、ボルト90による第2軸12における締結も全く同様である。そのため、第2軸12における締結は、説明を省略する。
【0044】
図3に戻り、ラッチ30は、ロック凹部34に、第1穴部31から離れるように延びる接触面34Aを有する。接触面34Aは、図3において、ロック凹部34の、開放当接面35に近い側に位置し、ロック凹部34の底と開放当接面35を接続する。接触面34Aは、ロック状態において、外力によりラッチ30がロック解除状態へ向けて回動された場合に解除規制面42Bに接触する面である。接触面34Aは、解除規制面42Bと面接触するように、解除規制面42Bに倣った形状を有する。そのため、乗物用ラッチ装置1を製造する場合には、ラッチ30を成形する際に、接触面34Aを、解除規制面42Bと面接触するように、解除規制面42Bに倣った形状に成形する。上述したように、解除規制面42Bは、円弧形状の凸曲面であるので、接触面34Aは、解除規制面42Bの円弧形状の凸曲面に倣った円弧形状の凹曲面である。
【0045】
ラッチ30の回動軸に沿って見た場合の解除規制面42Bと接触面34Aの接触長さL1は、できるだけ長いことが望ましい。本実施形態において、接触長さL1は、ピン36の直径よりも長い。また、接触長さL1は、ラチェット40の厚さよりも長い。また、接触長さL1は、ロック状態にあるラッチが、外力によりロック解除状態へ向けて回動された場合に、外力によりロック解除状態へ向けて回動され、前記第1支持面および前記第2支持面に接触している状態において、棒状部P1がラッチ30に接触する範囲の長さL2(図11参照)よりも長い。本実施形態のように、棒状部P1がラッチ30に2箇所で接触する場合、接触する範囲の長さは、棒状部P1が第1支持面38Aに接触する点Aから棒状部P1が第2支持面38Bに接触する点Bまでの棒状部P1に沿った長さL2とする。
【0046】
以上のように構成された乗物用ラッチ装置1の動作について説明する。
図4の作動前のロック状態において、ストライカPの棒状部P1は、筐体2の進入溝2Aの最も奥に入り込んでおり、ラッチ30の鉤状部33が棒状部P1を下から抱え込んでいる。そして、ラッチ30のロック凹部34には先端部42Aが入り込んでラッチ30の回動を規制している。このとき、引張バネ75は引張力を発生しており、ラチェット40の先端部42Aがロック凹部34の底に当接している。また、ストライカPの棒状部P1は、荷重受け部材80の荷重受け面89Aに当接しており、ストライカPから乗物用ラッチ装置1に掛かる荷重は荷重受け部材80を介して補強板20のフランジ28(図2参照)に伝わり、補強板20が受けている。
【0047】
図4のロック状態から、ロッド70を牽引すると、乗物用ラッチ装置1は、まず、図6に示すように、ラチェット40が時計回りに回動し、ラチェット40のピン45がガイド孔52Aの右上縁を押して、引張バネ75を引き伸ばしながらレバー部材50を反時計回りに回動させる。図6においてラッチ30の位置は、図4からほとんど変化が無いが、このレバー部材50に掛かる力がピン36を介してラッチ30を少しずつ時計回りに回転させようとする。
【0048】
ロッド70をさらに牽引すると、図7に示すように、ラチェット40がさらに時計回りに回動して、先端部42Aがロック凹部34から完全に離脱する。そして、ラッチ30がレバー部材50からピン36を介して受ける力により時計回りに回動し、先端部42Aがラッチ30の開放当接面35に対面する。
【0049】
図7の状態から、引張バネ75の引張力にまかせてロッド70を戻していくと、図8に示すように、ラチェット40の先端部42Aがラッチ30の開放当接面35に当接する。このとき、ラチェット40がラッチ30を押す力は、図8に太い矢印で示したように、先端部42Aと開放当接面35の接触点から開放当接面35の曲率中心に向かう。開放当接面35の曲率中心は、先端部42Aと当接する範囲においてラッチ30の回動軸に対して右側にずれているため、引張バネ75の付勢力によりラチェット40がラッチ30を押す力は、ラッチ30を時計回り、すなわち開状態へ向けて回動させる力(回転モーメント)として働く。
【0050】
そこで、この回転モーメントにより開放当接面35が先端部42Aを滑りながらラッチ30が時計回りに回動すると、図9に示すように、ラッチ30が開状態となり、ストライカPの棒状部P1が進入溝2Aから離脱することができる。すなわち、乗物用ラッチ装置1がロック解除状態となる。
【0051】
乗物用ラッチ装置1をロック解除状態からロック状態に戻す場合には、図9に示す状態からストライカPの棒状部P1を進入溝2Aに進入させ、ラッチ30の溝32に押し当ててラッチ30を反時計回りに回動させる。すると、開放当接面35に当接していた先端部42Aが開放当接面35上を滑り、十分にラッチ30が回動したところで引張バネ75の付勢力により先端部42Aがロック凹部34に入り込む。すなわち、図4のロック状態に戻る。
【0052】
ところで、図4に示すように乗物用ラッチ装置1がロック状態にあるときに、ロッド70を操作することなく、乗物用シートの背もたれのサイドフレームS1(図1参照)を急激に前方へ倒そうとすると、乗物用ラッチ装置1自体がストライカPから上方に引き離されるように移動する。すると、棒状部P1は、ラッチ30における鉤状部33の第1支持面38Aを強く押して、図10に示すようにラッチ30を時計回りに回動させる。そして、棒状部P1は、第1支持面38A上を鉤状部33の先端側(つまり、溝32の出口側)に向かって滑り、突出部37に当接する。
【0053】
このとき、図11に示す拡大図のように、棒状部P1は、第1支持面38Aと点Aで当接し、第2支持面38Bに点Bで当接する。すなわち、棒状部P1は、図11の矢印のように鉤状部33に押し付けられるが、この押し付け力は、棒状部P1が第1支持面38Aと第2支持面38Bに同時に当接することで、この2つの面に支持される。このため、本実施形態の乗物用ラッチ装置1によれば、乗物用ラッチ装置1をストライカPから外そうとする力が掛かっても、ラッチ30が棒状部P1をしっかりと保持することができる。
【0054】
そして、このとき、図10(a)(拡大した図3も参照)に示すように、ラッチ30の接触面34Aが、ラチェット40の解除規制面42Bに当接することで、ラッチ30が図10(a)の時計回りに回動することが規制される。接触面34Aは、解除規制面42Bに倣った形状を有しているので、接触面34Aと解除規制面42Bの接触圧力を小さくすることができる。
【0055】
また、解除規制面42Bが接触面34Aに接触するとき、接触面34Aの凹曲面に解除規制面42Bの凸曲面が嵌まり込んで接触するので、接触面34Aと解除規制面42Bの接触が安定し、ロック状態をしっかりと維持することができる。
【0056】
また、解除規制面42Bは、ラチェット40の回動中心を中心とする円弧に沿った形状を有しているので、接触面34Aが解除規制面42Bに強く当たったとしても、その当接力がラチェット40を回動させる力として働かず、ロック状態をしっかりと維持することができる。
【0057】
また、接触面34Aと解除規制面42Bの接触長さL1は、ピン36の直径、ラチェット40の厚さ、および、点Aから点Bまでの棒状部P1に沿った長さL2よりも長いので、接触面34Aと解除規制面42Bの接触圧力を小さくすることができる。
【0058】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することができる。
【0059】
前記実施形態においては、解除規制面42Bが凸曲面で、接触面34Aが凹曲面であったが、逆に、解除規制面が凹曲面で、接触面が解除規制面に倣った凸曲面であってもよい。また、解除規制面と接触面が、ともに平面であってもよい。
【0060】
また、乗物用ラッチ装置は、車両などの乗物用シートの背もたれに使用される場合だけでなく、乗物用シートの着座部や脚に設けられていてもよく、車両のトランクなどの開閉部分をロックする装置として使用することもできる。また、乗物用シートも、車両以外の船舶や飛行機のシートであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 乗物用ラッチ装置
2 筐体
30 ラッチ
34A 接触面
36 ピン
38A 第1支持面
38B 第2支持面
40 ラチェット
42B 解除規制面
50 レバー部材
P1 棒状部
S シートフレーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11