(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141039
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】水辺法面構築方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/12 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
E02B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041164
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】瀧 寛則
(72)【発明者】
【氏名】屋祢下 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敬太
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA05
2D118FB31
2D118HA13
2D118HA18
(57)【要約】
【課題】現場での施工が容易で、植えた種子が流出せず生育性が良く、水質を悪化させない水辺法面構築工法を提供すること。
【解決手段】水辺における法面を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子を含む第1のペースト材料で被覆し、表面に略水平方向に伸びる溝を形成する工程と、
前記第1のペースト材料が固化してなる固化土壌を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子と水性植物種子を含む第2のペースト材料で被覆する工程と、
を有する水辺法面構築工法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水辺における法面を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子を含む第1のペースト材料で被覆し、表面に略水平方向に伸びる溝を形成する工程と、
前記第1のペースト材料が固化してなる固化土壌を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子と水性植物種子を含む第2のペースト材料で被覆する工程と、
を有することを特徴とする水辺法面構築工法。
【請求項2】
前記第1のペースト材料が、軽石を、粒状基盤材全量に対する体積比で30%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の水辺法面構築工法。
【請求項3】
前記第1のペースト材料が、前記第2のペースト材料と比較して、粒状基盤材に対して高分子系固化材を0.5v/v%以上多く含むことを特徴とする請求項1または2に記載の水辺法面構築工法。
【請求項4】
前記第2のペースト材料が、前記第1のペースト材料と比較して、粒状基盤材に対して親水性高分子を0.05w/v%以上多く含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水辺法面構築工法。
【請求項5】
前記第2のペースト材料が、無機イオン吸脱着材を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の水辺法面構築工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム、ため池、遊水池、堤防、用水路等の水辺における法面構築工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にダム湖外周の法面は、冠水と露出を繰り返す厳しい環境下にあるため不安定になりやすく、法面の崩落によるダム湖への土砂流入やダム湖内での津波発生、ダム寿命の短命化が懸念される。法面の崩落防止のため、法面を緑化して安定させることが試みられてきたが、従来の一般的な法面構築方法であるコンクリートや蛇籠を用いる方法では、植物が十分に根を張ることができず、緑化が難しかった。
これに対し、法面に、セメントと土壌、化成肥料などを混合してなる土壌材料を吹き付ける方法が提案されているが(特許文献1)、この方法は、セメントに由来するアルカリ分が高いため、良好な植物生育を得ることは困難であった。また、法面上流側から淡水を供給することにより豊かな植生を形成する方法や、植生シートなどに種をまきこんで植える方法が提案されているが、ダム湖外周の法面は急斜面であるため、降雨や水位変動により種が流出しやすく、緑化の達成が難しかったため、他の効果的な方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現場での施工が容易で、植えた種子が流出せず生育性が良く、水質を悪化させない水辺法面構築工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は以下のとおりである。
1.水辺における法面を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子を含む第1のペースト材料で被覆し、表面に略水平方向に伸びる溝を形成する工程と、
前記第1のペースト材料が固化してなる固化土壌を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子と水性植物種子を含む第2のペースト材料で被覆する工程と、
を有することを特徴とする水辺法面構築工法。
2.前記第1のペースト材料が、軽石を、粒状基盤材全量に対する体積比で30%以上含むことを特徴とする1.に記載の水辺法面構築工法。
3.前記第1のペースト材料が、前記第2のペースト材料と比較して、粒状基盤材に対して高分子系固化材を0.5v/v%以上多く含むことを特徴とする1.または2.に記載の水辺法面構築工法。
4.前記第2のペースト材料が、前記第1のペースト材料と比較して、粒状基盤材に対して親水性高分子を0.05w/v%以上多く含むことを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の水辺法面構築工法。
5.前記第2のペースト材料が、無機イオン吸脱着材を含むことを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の水辺法面構築工法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水辺法面構築工法は、表面を覆う第2のペースト材料が水性植物種子を含むため、水性種子は浅い位置に播種されるので、種子が芽吹く割合が高く、緑化されて生態系が構築されるまでの時間を短くすることができる。本発明の水辺法面構築工法は、水性植物種子を含む第2のペースト材料が被覆する固化土壌が、その表面に溝が形成されているため、急斜面であっても土壌と種子の流出を防ぐことができる。また、本発明の水辺法面構築工法は、急斜面での施工も想定されるが、第1のペースト材料からなる固化土壌に略水平方向に伸びる溝が形成されているため、第2のペースト材料で被覆する作業の際の作業員の安全性と作業性とに優れている。本発明の水辺法面構築工法は、現場で混練したペーストを被覆するだけで施工できるため、ダムの法面のような大面積の施工も容易に行うことができる。そのため、本発明の水辺法面構築工法は、土木現場に好適に適用することができる。
【0007】
第1のペースト材料が、軽石を粒状基盤材全量に対する体積比で30%以上含む本発明の土木現場での水辺法面構築工法は、急斜面のような保水性に劣る環境であっても、軽石の細孔内に水を保つことができるため、水性植物が枯れにくい。また、第1、第2のペースト材料の配合を調整し、第1のペースト材料からなる固化土壌を固く、第2のペースト材料からなる層を軟らかく、かつ、間隙を多く含むように形成することにより、法面を堅固に被覆するとともに、水性植物が育成しやすい環境とすることができる。第2のペースト材料からなる上層が、粒状基盤材の一部として無機イオン吸脱着材を含むことにより、水生植物の初期の生育を促進することができ、抵抗力が弱く枯れやすい期間を短くし、緑化の成功率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の水辺法面構築方法の工程を説明する図。
【
図2】実験1における土壌流出量の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ダム、ため池、遊水池、堤防、用水路等の水辺法面構築工法に関し、特に、土木現場における水辺法面構築工法に関する。
本発明において「水辺」とは、水生植物の生育域を意味する。本発明は、水辺法面構築方法に関するが、例えば、ダムは、その水位が数十メートル規模で変化する。そのため、本発明の水辺には、平常時には水中に沈む場所や、増水時にのみ水面下となる場所等も含まれる。
【0010】
本発明の水辺法面構築工法の工程を、
図1を用いて説明する。
本発明において「法面」とは、切土や盛り土によって人工的に構築された傾斜面、自然に形成された傾斜面等をいう。本発明を適用できる法面の法面勾配(法面の高さに対する水平方向の長さの比)の範囲は、特に限定されないが、下限は少なくとも0.58よりも小さい(角度が60度よりも大きい)。
【0011】
まず、水辺における法面(
図1A)を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子を含む第1のペースト材料1で被覆する(
図1B)。
第1のペースト材料1の被覆厚は、法面上に堅固な固化土壌が構築できる範囲内であれば特に制限されないが、通常3cm以上20cm以下程度である。
【0012】
第1のペースト材料1が固化する前に、略水平方向に伸びる溝11を形成する(
図1C)。
本発明において、溝が伸びる方向である略水平方向とは、厳密な意味での水平ではなく、現場環境(法面の傾きや凹凸等)により変化するが、通常、水平方向に対して±30°の範囲程度である。溝の間隔、深さは特に制限されず、例えば、間隔が3~30cm、深さ0.5~3cm程度とすることができる。また、溝の形成方法は特に制限されず、例えば、レーキで表面を掻き取る方法が挙げられる。
【0013】
次いで、この第1のペースト材料が固化してなる固化土壌を、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子と水性植物種子を含む第2のペースト材料2で被覆する(
図1D)。なお、第1のペースト材料は、晴天であれば一晩程度、曇天であれば2日程度で固化する。
第1のペースト材料が固化してなる固化土壌は、法面を被覆するものであり急斜面に構築されることがあるが、固化土壌表面に溝11が形成されているため、第2のペースト材料による被覆作業の際に、作業員が足を滑らせることを防止することができ、安全性と作業性が向上する。また、第2のペースト材料2は、この溝11により流動してずり落ちることが防止される。
第2のペースト材料2の被覆厚は、水生植物種子が発芽しやすい厚さであれば特に制限されないが、通常3cm以下程度であり、2cm以下であることが好ましい。第2のペースト材料は、表層部分のみに位置するため、水生植物種子が芽吹いた場合に、そのほとんどが地表に達し、無駄となる水生植物種子を減らすことができる。
【0014】
第1のペースト材料は、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子を含み、第2のペースト材料は、これらに加えて水生植物樹脂を含む。粒状基盤材、高分子系固化材、親水性高分子は、以下に示すものを用いることができ、第1、第2のペースト材料において、同一のものを用いることもでき、異なるものを用いることもできる。
【0015】
「粒状基盤材」
粒状基盤材とは、法面を被覆する固化土壌の主たる構成材料である。
粒状基盤材としては、例えば、土壌、砂(川砂等)、砂利、軽石(鹿沼土、日向土等)等の天然材料、パーライトなど火山岩を加工した植栽基材、発泡スチロール廃材、建設廃材、下水汚泥などに由来する溶融スラグ等の人工材料、さらには、無機イオン吸脱着材を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。ただし、土壌は、栄養分を多く含み、この栄養分が流出して環境負荷が生じる場合があるため、粒状基盤材全体に対する土壌の体積比が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、土壌を含まないことが最も好ましい。なお、本発明において、土壌とは、有機物含有量が10wt%以上であるものを意味し、土壌中の有機物含有量は、絶乾後の土壌を600度で焼成した後の重量減少量を意味する。
【0016】
粒状基盤材の粒径は、特に規定されないが、砂(粒径0.074mm~2mm)および細礫(粒径2~4mm)と同等の粒径を有するものが好ましい。例えば、砂であれば細砂(粒径0.075~0.25mm)、中砂(粒径0.25~0.85mm)、軽石(代表的なものとして鹿沼土)であれば粒径4mm以下のものが好ましい。さらに、粒径分布が狭い材料が好ましい。粒度分布が狭いと、粒子間の空隙により小さな粒子が充填されないため、固相・液相・気相の三相分布を好ましい範囲内に調整することが容易となる。
粒状基盤材としては、その粒度分布の制御が容易であること、低コストであること等から、砂と軽石とを組み合わせて使用することが好ましい。特に軽石は、その細孔内部に水分を保持できるため、急斜面等の水はけが良すぎる現場であっても保水性に優れた固化土壌を形成することができる。また、軽石の細孔や軽石間の隙間に、水性植物が根を張りやすいため、水生植物の抜けが防止できるとともに地盤の安定に繋がる。そのため、第1のペースト材料は、軽石を粒状基盤材全量に対して体積比で30v/v%以上含むことが好ましく、35v/v%以上含むことがより好ましい。
【0017】
(無機イオン吸脱着材)
無機イオン吸脱着材とは、植物の生育に有用な無機イオンを吸着することができ、かつ吸着した無機イオンを脱着、放出することができる吸着材をいう。粒状基盤材の一部として無機イオン吸脱着材を使用することにより、植物が必要とする栄養塩を効率的に供給することができるため、生長を促進することができる。
無機イオン吸脱着材は、例えば無機イオン交換体を挙げることができ、例えば、硝酸イオン吸脱着材、リン酸イオン吸脱着材が挙げられる。硝酸イオン吸脱着材は、例えば、カルシウム担持炭等の機能炭、陰イオン交換樹脂等が挙げられる。リン酸イオン吸脱着材は、例えば、トバモライトアロフェンとカオリン系粘土を含む焼成吸着材等を挙げられる。無機イオン吸脱着材として、異なるイオンの吸脱着材を併用することもできる。また、無機イオン吸脱着材は、無機イオン吸着物質を含む多孔質材料等であってもよい。
【0018】
本発明において、第2のペースト材料が、無機イオン吸脱着剤を含むことが好ましい。第2のペースト材料が、無機イオン吸脱着剤を含むことにより、植物の初期生長を促進することができ、まだ十分に生長しておらず抵抗力が弱く枯れやすい期間を短くし、緑化の成功率を高めることができる。なお、本発明において、第1のペースト材料も無機イオン吸脱着剤を含むこともできる。
第2のペースト材料における無機イオン吸脱着材の配合量は、粒状基盤材の全量に対して体積比で0.1v/v%以上30v/v%以下であることが好ましい。0.1v/v%より少ないと供給できる無機イオンが少なくなり植物生育向上効果が発揮されない場合がある。30v/v%より多くてもそれ以上の植物生育効果の向上はほとんど見られず、高コストとなる。無機イオン吸脱着材の粒状基盤材の全量に対する体積比は、0.5v/v%以上20v/v%以下であることがより好ましく、1v/v%以上15v/v%以下であることが最も好ましい。
【0019】
「高分子系固化材」
高分子系固化材は、粒子同士を結合し、構築される固化土壌が、水の流れや降雨により崩壊しないようにするものである。本発明の土木現場での水辺法面構築工法において、法面は固化土壌に被覆されているため、100mm/時程度の雨でも崩壊しない。また、本発明の固化土壌は、水生植物の根がしっかりと張ることができるため、植物全体が安定して支えられ、高分子系固化材を含まない植栽基盤と比較して、水生植物の生長を促進することができる。
【0020】
高分子系固化材としては、固化後の土壌硬度(山中式)が15mm以上35mm以下、かつ、固化後に含水させたときの土壌硬度(山中式)が15mm以上30mm以下となる材料を用いることができる。固化後の土壌硬度が上記範囲内であれば、植物の根がその内部で伸長することができる。高分子系固化材としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ロジン類等を使用することができる。なお、固化材としては、アスファルト、石膏、マグネシウム系等の無機系固化材も存在するが、無機系固化材は、粒状基盤材の粒子間の空間が埋まって水が浸透しないこと、粒状基盤材同士の結合が強くなりすぎて根の生長が阻害されること、水中に有害成分が溶解すること等の問題が生じる場合がある。
【0021】
本発明において、高分子系固化材の配合量は固化後の硬さ、求める三相分布の値等に応じて調整することができるが、通常、粒状基盤材に対して高分子系固化材3v/v%以上20v/v%以下程度である。この高分子系固化材の配合量は、4v/v%以上15v/v%以下配合することがより好ましく、5v/v%以上10v/v%以下配合することがさらに好ましい。
第1のペースト材料は、第2のペースト材料よりも、高分子固化材を多く含むことが好ましい。具体的には、第1のペースト材料が、前記第2のペースト材料と比較して、粒状基盤材に対して高分子系固化材を0.5v/v%以上多く含むことが好ましく、1.0v/v%以上多く含むことがより好ましい。第1のペースト材料が、第2のペースト材料よりも高分子固化材を多く含むことにより、第1のペースト材料から形成される下側の固化土壌を、より堅固に構築することができ、法面の崩壊を防ぐことができる。
【0022】
「親水性高分子」
親水性高分子は、雨水などを吸収、保持し、土壌基盤中の種子及び種子が生長した水生植物に水を供給するものである。親水性高分子を含むペーストから構築された固化土壌は、親水性高分子を含まないペーストから構築された固化土壌と比較して水が浸透しやすく、三相分布(実容積法)の各相の値に差が小さくなるため、水生植物の生長を促進することができる。また、親水性高分子を伝って水が昇っていくため、水面上でもある程度の高さまで給水することができる。
親水性高分子としては、固化後における三相分布(実容積法)の液相率の値(Ls(%))が、固化前のペーストの液相率の値(Lp(%))以上、すなわち、Lp≦Lsとなる材料を用いることができ、例えば、セルロース系高分子、グルカン、グアーガム、ガゼイン等が挙げられる。
【0023】
親水性高分子の配合量は、上記した液相率の関係(Lp≦Ls)を満たす範囲内であれば特に制限されないが、粒状基盤材に対して0.01w/v%以上5.0w/v%以下程度である。この親水性高分子の配合量は、0.03w/v%以上3.0w/v%以下配合することがより好ましく、0.05w/v%以上1.0w/v%以下配合することがさらに好ましい。
第2のペースト材料は、第1のペースト材料よりも、親水性高分子を多く含むことが好ましい。具体的には、第2のペースト材料における全固形分に対する親水性高分子の割合(親水性高分子/全固形分)が、前記第1のペースト材料における全固形分に対する親水性高分子の割合(親水性高分子/全固形分よりも、0.05w/v%以上大きいことが好ましく、0.1w/v%以上大きいことがより好ましい。第2のペースト材料は、下記で詳述するように水生植物種子を含むものであるが、第2のペースト材料が親水性高分子を多く含むことにより、水生植物種子に水を供給することができ、発芽率を高めることができる。
【0024】
第1のペースト材料および第2のペースト材料は、いずれも、粒状基盤材、高分子系固化材、親水性高分子の3つを必須材料として含み、均一に混合されていればよい。高分子系固化材、親水性高分子のいずれか、または両方が、ダマになりやすい場合には、予め粒状基盤材とよく混合する、または、予め水に溶解あるいは分散させてから混合すればよい。ペースト中の水の量は、左官により塗ることができる流動性と、傾斜面に塗っても流れ落ちない粘りとを有する範囲内であればよく、通常、粒状基盤材に対して容積比で1v/v%以上30v/v%以下の範囲内である。
【0025】
・水生植物種子
第2のペースト材料が含む水生植物種子としては、沈水植物、浮遊植物、浮葉植物、抽水植物(挺水植物)、湿生植物等の種子が挙げられ、1種または2種以上を用いることができる。本発明で用いる水生植物種子は、抽水植物又は湿生植物がより好ましい。抽水植物とは、水底に根を張り、茎の下部は水中にあるが茎か葉の少なくとも一部が水上に突き出ている植物をいう。湿生植物とは、水際、湿地及び湿原等の湿潤域に生育する植物をいう。また、より豊かな生態系を形成するために、2種以上の種子を混合することもでき、さらには、例えば、平常時には水に沈む部分を被覆する第2のペーストには抽水植物の種子、平常時には水際に位置する部分を被覆する第2のペーストには湿生植物の種子等、被覆する部分に応じて異なる水生植物種子を用いることもできる。
【0026】
本発明において使用することのできる抽水植物又は湿生植物としては、例えば、オランダガラシ属、ハリナズナ属、アヤメ属、フサモ属、サヤヌカグサ属、スズメノヒエ属、スズメノテッポウ属、ドジョウツナギ属、マコモ属、ヨシ属、オモダカ属、サジオモダカ属、マルバオモダカ属、ガマ属、ウキヤガラ属、ネビキグサ属、ハリイ属、ホタルイ属、ウキアゼナ属、シソクサ属、ショウブ属、コウホネ属、タデ属、イボクサ属、トクサ属、ハス属、ミクリ属、アメリカコナギ属、ミズアオイ属、ミツガシワ属、キンポウゲ属、セリ属、チョウジタデ属、ヒシ属、コウホネ属、ヒヨドリバナ属、ミゾカクシ属、ミソハギ属、テンツキ属、ギシギシ属、クワガタソウ属、アカザ属、オカトラノオ属等の水生植物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明において使用され得る抽水植物又は湿生植物の例としては、例えば、リードキャナリーグラス(クサヨシ)、ヨシ、フトイ、エゾミソハギ、ノハナショウブ、サワギキョウ、マコモ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0027】
「実験1」
下記表1に示す配合で各成分を混合し、水を2.5v/v%加えて撹拌したペーストを木箱(26.5L=77cm×57cm×深さ6cm)に充填し、雨の当たらない屋外で1週間風乾し、供試土壌を得た。
この供試土壌を45度の傾きとなるように設置し、上部から100mm/時間相当の人工降雨を60分間降らせたときの土壌の流出量を10分毎に計測した。土壌流出量の時間変化を
図1に示す。
【0028】
【表1】
荒木田
粒状基盤材1 砂
粒状基盤材2 軽石(鹿沼土)
粒状基盤材3 無機イオン吸脱着剤(機能炭)
高分子系固化材 アクリル系
親水性高分子 セルロース系
【0029】
荒木田を用いた条件では、初期(0~10分)に約300g流出し、その後約50g/10分の割合で流出が続いた。
一方、粒状基盤材と高分子系固化材と親水性高分子を含むペースト材料を固化させた固化土壌は、実験初期からほとんど土壌の流出は見られなかった。
このことから、固化土壌を用いることで、土壌の流出が起こらず、固化土壌に種子を含ませることで、種子の流出が抑制できることが示唆された。
【0030】
「実験2」
下記表2に示す配合で各成分を混合し、水を5.0v/v%加えて撹拌したペーストを、縦4cm×横6.5cm×高さ50cmの直方体に成型した。
水生植物種子(スズメノテッポウ)100粒を配合した以外は同一成分で配合したペーストを調製した。直方体の6.5cm×50cmの面の高さ方向で上から約1/3の部分に、6.5cm(横方向)×2cm(高さ方向)となるように厚さ0.5cmで塗布し、供試体を得た。
なお、参考例(荒木田)に関しては、成形後、同様の部分に深さ0.5cm程度で播種した。
【0031】
【表2】
荒木田
粒状基盤材1 砂
粒状基盤材2 軽石(鹿沼土)
粒状基盤材3 無機イオン吸脱着剤(機能炭)
高分子系固化材 アクリル系
親水性高分子 セルロース系
【0032】
水を満たした容器に、供試体を、水生植物種子を含むペーストを塗布した面が上面となるように斜めに立て掛け、かつ、水生植物種子を含むペーストを塗布した部分が水面上約5cmとなるように設置し、2週間放置した。参考例の供試体についても、同様に、水生植物種子を播種した部分が水面上5cmとなるように設置し、2週間放置した。
実験は、各条件2試験体(n=2)を作成して実施した。2週間後の発芽数を
図2に示す。
【0033】
本発明である実施例1、2は、親水性高分子を添加していない比較例1と比較して発芽数が多い結果を得た。水生植物種子は、水面より5cm以上高い位置に播種されたが、この結果から、水面上に播種しても親水性高分子の添加により発芽に必要な水分が供給されたことが確かめられた。