(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141071
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】超音波流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/66 20220101AFI20220921BHJP
【FI】
G01F1/66 A
G01F1/66 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041208
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】池 信一
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035DA04
2F035DA05
2F035DA07
2F035DA14
2F035DA19
(57)【要約】
【課題】超音波流量計の取り付けなどがより容易に実施できるようにする。
【解決手段】超音波流量計は、配管101、超音波トランスデューサ102、第1変向部103、第2変向部104、制御部105、計測部106、算出部107を備える。超音波トランスデューサ102は、配管101の管壁に固定されて超音波を送受信する。超音波トランスデューサ102は、発振する超音波の位相を各々個別に調整可能とされ、2次元的に配列(位相配列)された複数の超音波素子から構成され、ビームフォーミングにより第1変向部103の方向および第2変向部104の方向に超音波を送信する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の流体が流れる配管と、
前記配管の管壁に固定されて超音波を送受信する超音波トランスデューサと、
前記超音波トランスデューサより送信された超音波の伝搬方向を、前記配管の内壁に沿った上流側の第1方向に変える第1変向部と、
前記第1方向で前記第1変向部の上流側に配置され、前記超音波トランスデューサより送信された超音波の伝搬方向を、前記第1変向部が配置されている第2方向に変える第2変向部と、
前記超音波トランスデューサより送信される超音波の方向を、前記第1変向部または前記第2変向部に制御する制御部と、
前記超音波トランスデューサから前記第1変向部の方向に送信された超音波が前記超音波トランスデューサで受信されるまでの第1伝搬時間、および前記超音波トランスデューサから前記第2変向部の方向に送信された超音波が前記超音波トランスデューサで受信されるまでの第2伝搬時間を計測するように構成された計測部と、
前記計測部が計測した第1伝搬時間と第2伝搬時間との差により、前記流体の流量を算出するように構成された算出部と
を備え、
前記超音波トランスデューサは、発振する超音波の位相を各々個別に調整可能とされ、2次元的に配列された複数の超音波素子から構成され、ビームフォーミングにより前記第1変向部の方向および前記第2変向部の方向に超音波を送信する
ことを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
請求項1記載の超音波流量計において、
前記第1変向部と前記第2変向部との間の前記配管の内壁の領域に設けられて超音波を伝搬させる超音波伝搬部を備える
ことを特徴とする超音波流量計。
【請求項3】
請求項2記載の超音波流量計において、
前記第1変向部および前記第2変向部は、前記超音波伝搬部と前記管壁との境界で超音波を反射させることで、超音波の伝搬方向を変えることを特徴とする超音波流量計。
【請求項4】
請求項3記載の超音波流量計において、
前記超音波伝搬部は、前記配管とは異なる材料から構成されていることを特徴とする超音波流量計。
【請求項5】
請求項4記載の超音波流量計において、
前記超音波伝搬部は、前記流体の音響インピーダンスとの差が、前記管壁の音響インピーダンスとの差より小さい音響インピーダンスを有する材料から構成されていることを特徴とする超音波流量計。
【請求項6】
請求項1記載の超音波流量計において、
前記第1変向部および前記第2変向部は、前記配管の内壁の面に対して傾斜した傾斜面から構成されていることを特徴とする超音波流量計。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の超音波流量計において、
前記第1変向部および前記第2変向部による複数の変向ユニットを備え、
前記複数の変向ユニットは、前記配管の周方向に配列され、
前記超音波トランスデューサは、複数の前記変向ユニットの各々において、前記第1変向部の方向および前記第2変向部の方向に超音波を送信する
ことを特徴とする超音波流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、超音波の伝搬速度の変化を利用して、流体の流量(流速)を計測する超音波流量計がある。超音波流量計では、流体の流れを横切るように2つの超音波トランスデューサを向かい合わせて配置し、順逆方向のそれぞれで超音波を送受信して、2つの超音波トランスデューサの間における超音波の伝搬時間を測定し、順逆方向における超音波の伝搬時間の差に基づいて流体の流量を求めている。
【0003】
また、小型化のため、2方向に超音波を送信することが可能な超音波トランスデューサと、超音波の伝搬方向を変える変向部とを用いることで、順逆2つの方向で超音波を送受信することを可能とした超音波流量計が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-138667号公報
【特許文献2】特開2016-217776号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Shelton et al., "ALUMINUM NITRIDE PIEZOELECTRIC MICROMACHINED ULTRASOUND TRANSDUCER ARRAYS", Materials Science, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した技術では、1つの超音波トランスデューサにより計測を可能としているが、超音波を送信する2つの方向を後から変更することができないため、変向部の取り付けが容易ではないという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、超音波流量計の取り付けなどがより容易に実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波流量計は、測定対象の流体が流れる配管と、配管の管壁に固定されて超音波を送受信する超音波トランスデューサと、超音波トランスデューサより送信された超音波の伝搬方向を、配管の内壁に沿った上流側の第1方向に変える第1変向部と、第1方向で第1変向部の上流側に配置され、超音波トランスデューサより送信された超音波の伝搬方向を、第1変向部が配置されている第2方向に変える第2変向部と、超音波トランスデューサより送信される超音波の方向を、第1変向部または第2変向部に制御する制御部と、超音波トランスデューサから第1変向部の方向に送信された超音波が超音波トランスデューサで受信されるまでの第1伝搬時間、および超音波トランスデューサから第2変向部の方向に送信された超音波が超音波トランスデューサで受信されるまでの第2伝搬時間を計測するように構成された計測部と、計測部が計測した第1伝搬時間と第2伝搬時間との差により、流体の流量を算出するように構成された算出部とを備え、超音波トランスデューサは、発振する超音波の位相を各々個別に調整可能とされ、2次元的に配列された複数の超音波素子から構成され、ビームフォーミングにより第1変向部の方向および第2変向部の方向に超音波を送信する。
【0009】
上記超音波流量計の一構成例において、第1変向部と第2変向部との間の配管の内壁の領域に設けられて超音波を伝搬させる超音波伝搬部を備える。
【0010】
上記超音波流量計の一構成例において、第1変向部および第2変向部は、超音波伝搬部と管壁との境界で超音波を反射させることで、超音波の伝搬方向を変える。
【0011】
上記超音波流量計の一構成例において、超音波伝搬部は、配管とは異なる材料から構成されている。
【0012】
上記超音波流量計の一構成例において、超音波伝搬部は、流体の音響インピーダンスとの差が、管壁の音響インピーダンスとの差より小さい音響インピーダンスを有する材料から構成されている。
【0013】
上記超音波流量計の一構成例において、第1変向部および第2変向部は、配管の内壁の面に対して傾斜した傾斜面から構成されている。
【0014】
上記超音波流量計の一構成例において、第1変向部および第2変向部による複数の変向ユニットを備え、複数の変向ユニットは、配管の周方向に配列され、超音波トランスデューサは、複数の変向ユニットの各々において、第1変向部の方向および第2変向部の方向に超音波を送信する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、超音波トランスデューサは、発振する超音波の位相を各々個別に調整可能とされ、2次元的に配列された複数の超音波素子から構成され、ビームフォーミングにより第1変向部の方向および第2変向部の方向に超音波を送信するので、超音波流量計の取り付けなどがより容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る超音波流量計の構成を示す構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る超音波流量計の一部構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る超音波流量計について
図1を参照して説明する。この超音波流量計は、配管101、超音波トランスデューサ102、第1変向部103、第2変向部104、制御部105、計測部106、算出部107、出力部108を備える。
【0018】
配管101は、測定対象の流体121が流れる。超音波トランスデューサ102は、配管101の管壁に固定されて超音波を送受信する。超音波トランスデューサ102は、発振する超音波の位相を各々個別に調整可能とされ、2次元的に配列(位相配列)された複数の超音波素子から構成され、ビームフォーミングにより第1変向部103の方向および第2変向部104の方向に超音波を送信する。上述した超音波素子として、例えば、窒化物半導体による圧電薄膜を用いた素子がある(非特許文献1参照)。
【0019】
第1変向部103は、超音波トランスデューサ102より送信された超音波の伝搬方向を、配管101の内壁に沿った上流側の第1方向に変える。第2変向部104は、第1方向で第1変向部103の上流側に配置され、超音波トランスデューサ102より送信された超音波の伝搬方向を、第1変向部103が配置されている第2方向に変える。第1方向と第2方向とは、各々180°異なる方向である。第1変向部103および第2変向部104は、配管101の内壁の面に対して傾斜した傾斜面から構成することができる。
【0020】
また、この超音波流量計は、第1変向部103と第2変向部104との間の配管101の内壁の領域に設けられて超音波を伝搬させる超音波伝搬部109を備えることができる。例えば、第1変向部103および第2変向部104は、超音波伝搬部109と管壁との境界で超音波を反射させることで、超音波の伝搬方向を変えることができる。例えば、超音波伝搬部109は、配管101とは異なる材料から構成することができる。
【0021】
例えば、超音波伝搬部109は、流体121の音響インピーダンスと管壁の音響インピーダンスとの間の大きさの音響インピーダンスを有する材料から構成することができる。また、超音波伝搬部109は、流体121の音響インピーダンスより小さい音響インピーダンスを有する材料から構成することができる。超音波伝搬部109は、流体の音響インピーダンスとの差が、管壁の音響インピーダンスとの差より小さい音響インピーダンスを有する材料から構成されていることが重要である。
【0022】
制御部105は、超音波トランスデューサ102より送信される超音波の方向を、第1変向部103または第2変向部104に制御する。制御部105は、超音波トランスデューサ102を構成する複数の超音波素子を各々個別に制御することで、ビームフォーミングにより超音波の送信方向を変更させる。また、制御部105は、送信方向を第1変向部103または第2変向部104とした状態で、超音波トランスデューサ102を構成している複数の超音波素子の中で、中央部に配置されている超音波素子ほど、受信強度が高くなるように、送信方向を微調整することができる。このように、位相配列された複数の超音波素子から構成された超音波トランスデューサ102を用いることで、超音波流量計を設置した後で、受信感度が最も高くなる方向の決定が容易に実施できる。
【0023】
計測部106は、超音波トランスデューサ102から第1変向部103の方向に送信された超音波が超音波トランスデューサ102で受信されるまでの第1伝搬時間、および超音波トランスデューサ102から第2変向部104の方向に送信された超音波が超音波トランスデューサ102で受信されるまでの第2伝搬時間を計測する。
【0024】
算出部107は、計測部106が計測した第1伝搬時間と第2伝搬時間との差により、流体121の流量または流速を算出する。算出部107が算出した流量または流速は、例えば、出力部108に出力される。出力部108は、例えば、モニタであり、算出された流量または流速の数値が表示される。
【0025】
実施の形態によれば、まず、制御部105の制御により、超音波トランスデューサ102から第1変向部103の方向に超音波を送信する。この超音波は、第1変向部103で伝搬方向を第1方向とされ、第2変向部104で伝搬方向を超音波トランスデューサ102の方向とされ、超音波トランスデューサ102で受信される。制御部105による上述した制御を、第1制御とする。
【0026】
次に、制御部105の制御により、超音波トランスデューサ102から第2変向部104の方向に超音波を送信する。この超音波は、第2変向部104で伝搬方向を第2方向とされ、第1変向部103で伝搬方向を超音波トランスデューサ102の方向とされ、超音波トランスデューサ102で受信される。制御部105による上述した制御を、第2制御とする。
【0027】
計測部106は、制御部105が第1制御を開始し、超音波トランスデューサ102が超音波を送信してから、超音波トランスデューサ102が超音波を受信するまでの時間を計測し、これを第1伝搬時間とする。また、計測部106は、制御部105が第2制御を開始し、超音波トランスデューサ102が超音波を送信してから、超音波トランスデューサ102が超音波を受信するまでの時間を計測し、これを第2伝搬時間とする。
【0028】
制御部105は、上述した第1制御と第2制御とを、例えば、数ミリ秒の間隔で、交互に実施する。この結果、計測部106の計測結果として、複数の第1伝搬時間と第2伝搬時間との組が得られる。例えば、算出部107では、1サイクルの第1制御、第2制御の毎に、第1伝搬時間と第2伝搬時間との差を求めて一時記憶し、全てのサイクルが終了したが、一時記憶している複数の差をもとに、流体121の流量または流速を算出する。
【0029】
実施の形態によれば、超音波トランスデューサ102から送信される超音波の送信方向を、制御部105における制御のための設定値を変更することで、自由に変更できる。このため、第1変向部103、第2変向部104を配管101に設置した後で、上述した設定値を変更すれば、超音波トランスデューサ102より送信される超音波の方向を、第1変向部103または第2変向部104に制御することができる。
【0030】
このため、実施の形態によれば、高い位置精度で、第1変向部103、第2変向部104を配管101に設置する必要が無く、超音波流量計の取り付けがより容易に実施できるようになる。
【0031】
ところで、配管101内を流れる流体121に偏流が生じると、超音波流量計による流量の計測が、正確に実施できない場合がある。これに対し、配管101に複数の超音波トランスデューサの組を配置し、それぞれの超音波トランスデューサの組から得られる計測結果を元に、偏流の影響を排する技術がある(特許文献2参照)。しかしながら、この技術では、超音波トランスデューサの数か増加するため、小型化を実現することが困難となる。
【0032】
これに対し、
図2に示すように、第1変向部103および第2変向部104による複数の変向ユニット111a,変向ユニット111b,変向ユニット111c,変向ユニット111d,変向ユニット111eを用い、これらを配管101の周方向に配列することで、1つの超音波トランスデューサ102で、偏流の影響を排することが可能となる。なお、
図2に示す例では、配管101の断面視の形状を6角形とし、各辺に、超音波トランスデューサ102、変向ユニット111a,変向ユニット111b,変向ユニット111c,変向ユニット111d,変向ユニット111eを配置しているが、これに限るものではない。例えば、配管101の断面視の形状は、円形とすることができる。また、複数の変向ユニットは、5個に限るものではなく、少なくとも2つの変向ユニットを配置することができる。
【0033】
この構成において、超音波トランスデューサ102は、複数の変向ユニット111a,変向ユニット111b,変向ユニット111c,変向ユニット111d,変向ユニット111eの各々に対し、第1変向部103の方向および第2変向部104の方向に超音波を送信する。これにより、前述した第1伝搬時間と第2伝搬時間との差が、変向ユニット111a,変向ユニット111b,変向ユニット111c,変向ユニット111d,変向ユニット111eの各々において得られる。各々の第1伝搬時間と第2伝搬時間との差は、配管101に流れる流体121を横切る超音波の経路が、各々異なるものとなる。これらの差により得られる流量(流速)の差を比較することで、偏流の有無を検出し、測定の精度を向上させることができる。
【0034】
例えば、変向ユニット111a,変向ユニット111b,変向ユニット111c,変向ユニット111d,変向ユニット111eの各々において得られた、第1伝搬時間と第2伝搬時間との差により得られる流量(流速)の、例えば平均値を用いることで、偏流の影響を排して流体121の流量(流速)を算出することができる。
【0035】
以上に説明したように、本発明によれば、超音波トランスデューサは、発振する超音波の位相を各々個別に調整可能とされ、2次元的に配列された複数の超音波素子から構成され、ビームフォーミングにより第1変向部の方向および第2変向部の方向に超音波を送信するので、超音波流量計の取り付けなどがより容易に実施できるようになる。
【0036】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0037】
101…配管、102…超音波トランスデューサ、103…第1変向部、104…第2変向部、105…制御部、106…計測部、107…算出部、108…出力部、109…超音波伝搬部、111a,111b,111c,111d,111e…変向ユニット、121…流体。