(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141086
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/3207 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
A61B17/3207
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041224
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】垂永 明彦
(72)【発明者】
【氏名】桑野 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160MM36
4C160NN10
4C160NN23
(57)【要約】
【課題】湾曲した血管において内湾側の内壁に付着した物質を取り易く、その結果、血管の内壁に付着した物質を効率的に取りきることができる医療デバイスを提供する。
【解決手段】医療デバイス1は、血管70内に挿入される回転可能なシャフト50と、シャフトに配置される回転部60と、を有する。回転部は、シャフトの回転中心軸に対して質量中心軸が偏心した偏在部61と、偏在部に形成され、血管の内壁から除去した物質(例えば、血栓71)が通過可能な吸引口62と、吸引口を通して偏在部内に取り込まれた物質を吸引する吸引部63と、を有する。吸引口62は、シャフトの径方向外方に向けて開口する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内に挿入される回転可能なシャフトと、
前記シャフトに配置される回転部と、を有し、
前記回転部は、
前記シャフトの回転中心軸に対して質量中心軸が偏心した偏在部と、
前記偏在部に形成され、前記血管の内壁から除去した物質が通過可能な吸引口と、
前記吸引口を通して前記偏在部内に取り込まれた前記物質を吸引する吸引部と、を有し、
前記吸引口は、前記シャフトの径方向外方に向けて開口してなる、医療デバイス。
【請求項2】
前記吸引部は、前記シャフト内に挿通される吸引チューブを有し、
前記偏在部は、ベアリングを介して前記吸引チューブに対して独立して回転可能である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記偏在部は、前記シャフトの回転中心軸に対して質量中心軸を偏心させる偏心おもりを有する、請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記偏在部は、前記シャフトの径方向に沿う寸法が前記シャフトの長手方向に沿って漸次増大し、最大外径部を経て、漸次減少する膨出形状を有し、
前記吸引口は、前記最大外径部に位置する、請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記吸引チューブの内腔を封止する封止部を前記吸引口よりも遠位端側に有する、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記シャフトを回転駆動するモータを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスには、動脈や静脈内に形成された血栓を除去するため、あるいは石灰化した生体組織を除去するために使用される医療デバイスがある。この種の従来の医療デバイスとして、吸引カテーテルと、吸引カテーテルに挿入される駆動軸と、駆動軸の遠位端領域に配置される切断部材とを有するデバイスが知られている(例えば、特許文献1参照)。この医療デバイスは、切断部材を回転させることによって血栓を切断あるいは研摩し、削られた血栓を吸引カテーテルによって吸引して、血栓を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示される医療デバイスは、吸引カテーテルの軸方向の端部から削られた血栓を吸引している。このため、湾曲した血管において内湾側の内壁に付着した血栓を取ることが難しい。その結果、血管の内壁に付着した血栓を効率的に取りきることができない。
【0005】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、湾曲した血管において内湾側の内壁に付着した物質(血栓や石灰化した生体組織など)を取り易く、その結果、血管の内壁に付着した物質を効率的に取りきることができる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、血管内に挿入される回転可能なシャフトと、前記シャフトに配置される回転部と、を有する。前記回転部は、前記シャフトの回転中心軸に対して質量中心軸が偏心した偏在部と、前記偏在部に形成され、前記血管の内壁から除去した物質が通過可能な吸引口と、前記吸引口を通して前記偏在部内に取り込まれた前記物質を吸引する吸引部と、を有する。そして、前記吸引口は、前記シャフトの径方向外方に向けて開口してなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医療デバイスによれば、シャフトの回転に伴って偏在部がシャフトの径方向に振動して血管の内壁に押し付けられ、血管の内壁に付着した物質が除去される。血管の内壁から除去された物質は、吸引口を通して偏在部内に取り込まれ、吸引部によって吸引除去される。ここで、吸引口はシャフトの径方向外方に向けて開口していることから、除去された物質は、吸引口を通して偏在部内にすぐに取り込まれ、吸引部によって吸引される。よって、湾曲した血管において内湾側の内壁に付着した物質を取り易く、その結果、血管の内壁に付着した物質を効率的に取りきることができる医療デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の医療デバイスを示す概略構成図である。
【
図3】医療デバイスの手元操作部を示す断面図である。
【
図6】医療デバイスの手元操作部の改変例1を示す断面図である。
【
図7】医療デバイスの手元操作部の改変例2を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0010】
また、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0011】
なお、本明細書において、「第1」、「第2」などの序数詞を付すこともある。しかし、これら序数詞に関する特段の説明がない限りは、説明の便宜上、構成要素を識別するために付したものであって、数または順序を特定するものではない。
【0012】
本明細書において、シャフトを血管内に挿入する際に最初に挿入される側の端部を遠位端とし、該遠位端に対して他端側の端部を近位端とする。また、シャフト以外の要素についても、シャフトの遠位端および近位端の位置関係と同様に遠位端および近位端を定める。
【0013】
図1は、実施形態の医療デバイス1を示す概略構成図、
図2は、医療デバイス1の回転部60を示す断面図、
図3は、医療デバイス1の手元操作部40を示す断面図である。
図2における白抜き矢印は、血流の方向を示している。
【0014】
図1、
図2、および
図3に示すように、実施形態の医療デバイス1は、イントロデューサシース20とともに用いられ、ガイディングカテーテル30と、血管70内に挿入される回転可能なシャフト50と、シャフト50に配置される回転部60と、シャフト50の近位端に配置される手元操作部40と、を有する。以下の説明においては、医療デバイス1によって除去される物質が血栓71である場合を例に挙げる。
【0015】
イントロデューサシース20は、両端が開口したシース21と、シース21の近位端に連設されたハブ22と、ハブ22に連設され、例えば造影剤を導入可能なチューブ23と、を有する。
【0016】
ガイディングカテーテル30は、両端が開口した中空長尺体であるガイディングカテーテルチューブ31と、ガイディングカテーテルチューブ31の近位端に連設されたガイディングカテーテルハブ32と、を有する。なお、シャフト50は、ガイディングカテーテルハブ32の近位端からガイディングカテーテルチューブ31の中空部に挿入できる。
【0017】
手元操作部40は、術者が握るハンドル41と、シャフト50の近位端が連結されるノブ42と、チューブ43を介して接続される吸引装置44と、を有する。シャフト50は、手動によって回転できる。このとき、術者は、ハンドル41を握り、指で摘まんだノブ42を回す。吸引装置44は、吸引ポンプを有する自動式の吸引装置、あるいは手動操作のシリンジなど公知の装置を使用できる。
【0018】
シャフト50は、ガイディングカテーテルチューブ31を通して血管70内に挿入される。シャフト50は、中空部を有する中空長尺体から形成されている。シャフト50は、可撓性を有し、さらに回転するために近位端に付与された回転トルクを遠位端に伝達できるトルク伝達性を有する。シャフト50を構成する材料は特に限定されない。例えば、シャフト50は、金属、合成樹脂、シリコンゴム等の合成ゴム、エラストマー等の可撓性を有する材料によって形成される。実施形態のシャフト50は、金属製細線をコイル状に巻回して構成されている。シャフト50は、近位端側の第1シャフト部51と、遠位端側の第2シャフト部52と、を有する。回転部60は、第1シャフト部51と第2シャフト部52との間に配置される。
【0019】
図2に示すように、回転部60は、シャフト50の回転中心軸に対して質量中心軸が偏心した偏在部61と、偏在部61に形成され、血管70の内壁から除去した血栓71が通過可能な吸引口62と、吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれた血栓71を吸引する吸引部63と、を有する。吸引口62は、シャフト50の径方向外方に向けて開口している。
【0020】
吸引部63は、シャフト50内に挿通される吸引チューブ64と、手元操作部40に配置される吸引装置44と、を有する。吸引チューブ64は、シャフト50の第1シャフト部51の近位端から、偏在部61を越え、シャフト50の第2シャフト部52の遠位端まで伸びている。吸引チューブ64の内腔に、ガイドワイヤ(図示せず)を挿通するガイドワイヤチューブ65が挿通される。
【0021】
偏在部61は、シャフト50と同様に、金属製細線をコイル状に巻回して構成されている。偏在部61の外表面は、コイル状に巻回された隣り合う細線の間に微小な溝を有する。血管70の内壁に付着した血栓71は、偏在部61の外表面が接触することによって、偏在部61の溝に取り込まれるようにしてかき取られる。その結果、血管70の内壁から血栓71が除去される。
【0022】
偏在部61は、ベアリング80、81を介して吸引チューブ64に対して独立して回転可能である。偏在部61を吸引チューブ64と一緒に回転させることも可能であるが、吸引チューブ64に対して独立して偏在部61を回転させることによって、偏在部61を回転させやすくなる。このため、偏在部61の外表面を血管70の内壁に接触させ易くなり、血管70の内壁から血栓71を除去し易くなる。ベアリングは、偏在部61の近位端側に位置する基端ベアリング80と、偏在部61の遠位端側に位置する先端ベアリング81と、を有する。基端ベアリング80および先端ベアリング81のそれぞれは、外輪80a、81aと、内輪80b、81bと、外輪80a、81aと内輪80b、81bとの間に保持され外輪80a、81aと内輪80b、81bとを相対的に自由に回転させるローラと、を有する。偏在部61の近位端は、基端ベアリング80の外輪80aの遠位端に連結される。基端ベアリング80の外輪80aの近位端は、シャフト50の第1シャフト部51の遠位端に連結される。偏在部61の遠位端は、先端ベアリング81の外輪81aの近位端に連結される。先端ベアリング81の外輪81aの遠位端は、シャフト50の第2シャフト部52の近位端に連結される。
【0023】
偏在部61は、シャフト50の回転中心軸に対して質量中心軸を偏心させる偏心おもり66を有する。偏心おもり66は、偏在部61の内面に、シャフト50の回転中心軸から偏心した位置に取り付けられている。シャフト50を回転させた場合には、シャフト50の回転に伴って偏在部61は径方向に振動し血管70の内壁に押し付けられる。この結果、偏在部61は血管70の内壁に対する接触面積が増加する。
【0024】
偏在部61は、シャフト50の径方向に沿う寸法がシャフト50の長手方向に沿って漸次増大し、最大外径部61aを経て、漸次減少する膨出形状を有する。図示例の偏在部61の膨出形状は、最大外径部61aの近位端側および遠位端側の両側(
図2において最大外径部61aの左右両側)において同様の形状を有する。偏在部61の膨出形状は図示した形状に限定されない。
図2において偏在部61の下側はフラットな形状を有するが、上側と同様に、シャフト50の径方向に沿う寸法がシャフト50の長手方向に沿って漸次増大し、最大外径部61aを経て、漸次減少する膨出形状を有することができる。
【0025】
偏在部61の最大外径部61aは、シャフト50の長手方向に沿う長孔を有する切削ブロック67を有する。切削ブロック67の長孔は、血管70の内壁から除去した血栓71が通過可能な吸引口62として機能する。したがって、吸引口62は、最大外径部61aに位置することになる。切削ブロック67は、血栓71を切削除去することのできる金属、合金、ポリマー、セラミック、複合材料など適切な材料から形成されている。切削ブロック67は、ダイヤモンド粉末、セラミック材料などの研磨材料をコーティングすることができる。なお、切削ブロック67を設けることなく、偏在部61の一部を開口させ、この開口を吸引口62とすることができる。
【0026】
吸引口62は周方向に少なくとも1個あればよい。偏在部61は、複数個の吸引口62を有することができる。この場合、シャフト50の軸直交断面において見て、例えば、2個の吸引口62を対向する位置に設けたり、4個の吸引口62を90度間隔に設けたりすることができる。複数個の吸引口62を設ける場合において、シャフト50の径方向外方に向けて開口している限りにおいて、偏在部61の最大外径部61a以外の部位に形成できる。例えば、
図2において最大外径部61aから左右両側に伸びている領域に形成できる。
【0027】
吸引チューブ64は、周壁に開口部64aを有し、この開口部64aから径方向外方に向けて伸びるガイド壁64bを有する。
図2の状態に偏在部61が回転したときに、ガイド壁64bの開口端部64cは、最大外径部61aに位置する吸引口62に向かい合う。ガイド壁64bの開口端部64cが吸引口62に近接するため、吸引力は強い。このため、吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれた血栓71を効率的に吸引チューブ64内に吸引できる。偏在部61が
図2の状態以外の他の位置に回転したときは、ガイド壁64bは偏在部61の内面によって倒されるようになる。しかしながら、ガイド壁64bは柔軟であるため、ガイド壁64bの開口端部64cは、閉塞されることなく、偏在部61の内部空間と連通状態が維持される。したがって、血栓71の吸引処理に支障は生じない。
【0028】
なお、径方向に向けて伸びるガイド壁64bの長さを短くし、偏在部61の回転位置に拘わらず、ガイド壁64bが偏在部61の内面によって倒されないように構成できる。
【0029】
吸引チューブ64の内腔は、吸引口62よりも遠位端側において、封止部90によって封止される。封止部90は、吸引チューブ64の内周面とガイドワイヤチューブ65の外周面との間に配置されるOリング、あるいは吸引チューブ64とガイドワイヤチューブ65とを互いに融着させた融着部などから構成される。封止部90を設けることによって、吸引力の低下を抑え、血栓71を効率的に吸引できる。
【0030】
図3に示すように、手元操作部40において、吸引チューブ64の近位端およびガイドワイヤチューブ65の近位端は、ハンドル41の近位端を越えて長手方向外方に伸びている。吸引装置44は、チューブ43を介して吸引チューブ64の近位端に接続される。吸引チューブ64の内腔は、近位端において、封止部91によって封止される。封止部91は、Oリング、あるいは融着部などから構成される。封止部91を設けることによって、吸引力の低下を抑え、血栓71を効率的に吸引できる。
【0031】
次に、上記構成の医療デバイス1を用いて血栓71を除去する作用について説明する。
【0032】
まず、セルジンガー法を用いてガイドワイヤ(図示省略)を挿入し、続いてイントロデューサシース20を血管70内に挿入する。次に、シャフト50、回転部60を格納した状態のガイディングカテーテルチューブ31を、ガイドワイヤに沿って血栓71が形成された部位まで導入する。
【0033】
次に、ガイディングカテーテルチューブ31を近位端側に後退させて、回転部60を露出させる。シャフト50を進退移動させたり、回転させたりして、回転部60を血管70の内壁に付着した血栓71(以下、「壁在血栓71」ともいう)に接触させる。
【0034】
回転部60の偏在部61は、シャフト50の回転に伴ってシャフト50の径方向に振動し血管70の内壁に押し付けられる。この結果、偏在部61は血管70の内壁に対する接触面積が増加する。壁在血栓71は、偏在部61の外表面が接触することによって、偏在部61の溝に取り込まれるようにしてかき取られ、血管70の内壁から除去される。
【0035】
除去された壁在血栓71は、吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれ、吸引チューブ64内に吸引され、吸引装置44によって吸引除去される。ここで、吸引口62はシャフト50の径方向外方に向けて開口していることから、除去された壁在血栓71は、吸引口62を通して偏在部61内にすぐに取り込まれ、吸引チューブ64によって吸引される。よって、湾曲した血管70において内湾側の壁在血栓71を容易に取ることができる。
【0036】
偏在部61は、ベアリングを介して吸引チューブ64に対して独立して回転可能であるため、回転させやすい。このため、偏在部61の外表面を血管70の内壁に接触させ易く、壁在血栓71を容易に除去できる。
【0037】
偏在部61は、偏心おもり66によって回転させやすい。偏在部61は、シャフト50の回転に伴って血管70の内壁により強く押し付けられる。この結果、偏在部61は血管70の内壁に対する接触面積がさらに増加する。これによって、より多くの壁在血栓71が血管70の内壁から除去される。
【0038】
吸引口62は、膨出形状を有する偏在部61の最大外径部61aに位置するため、吸引口62の周囲が壁在血栓71に接触し易い。これにより、より多くの壁在血栓71が吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれ、吸引装置44によって吸引除去される。
【0039】
吸引チューブ64の内腔は、吸引口62よりも遠位端側において、封止部90によって封止されるため、吸引力の低下が抑えられ、血栓71を効率的に吸引できる。
【0040】
壁在血栓71の吸引除去が終了すると、ガイディングカテーテルチューブ31を遠位端側に前進させて、シャフト50および回転部60をガイディングカテーテルチューブ31内に格納する。そして、シャフト50および回転部60を、ガイディングカテーテルチューブ31とともに血管70外へ引き抜いて、血栓71の除去が完了する。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の医療デバイス1は、血管70内に挿入される回転可能なシャフト50と、シャフト50に配置される回転部60と、を有する。回転部60は、シャフト50の回転中心軸に対して質量中心軸が偏心した偏在部61と、偏在部61に形成され、血管70の内壁から除去した血栓71が通過可能な吸引口62と、吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれた血栓71を吸引する吸引部63と、を有する。そして、吸引口62は、シャフト50の径方向外方に向けて開口している。
【0042】
このように構成した医療デバイス1によれば、シャフト50の回転に伴って偏在部61がシャフト50の径方向に振動して血管70の内壁に押し付けられ、壁在血栓71が除去される。血管70の内壁から除去された壁在血栓71は、吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれ、吸引部63によって吸引除去される。ここで、吸引口62はシャフト50の径方向外方に向けて開口していることから、除去された壁在血栓71は、吸引口62を通して偏在部61内にすぐに取り込まれ、吸引部63によって吸引される。よって、湾曲した血管70において内湾側の内壁に付着した血栓71を取り易く、その結果、壁在血栓71を効率的に取りきることができる医療デバイス1を提供できる。
【0043】
シャフト50は、中空部を有する中空長尺体から形成され、吸引部63は、シャフト50内に挿通される吸引チューブ64を有する。偏在部61は、ベアリングを介して吸引チューブ64に対して独立して回転可能である。
【0044】
このように構成することによって、偏在部61を回転させやすいため、偏在部61の外表面を血管70の内壁に接触させ易く、壁在血栓71を容易に除去できる。
【0045】
偏在部61は、シャフト50の回転中心軸に対して質量中心軸を偏心させる偏心おもり66を有する。
【0046】
このように構成することによって、偏心おもり66よって偏在部61を回転させやすいため、偏在部61の外表面を血管70の内壁により強く押し付け、より多くの壁在血栓71を除去できる。
【0047】
偏在部61は、シャフト50の径方向に沿う寸法がシャフト50の長手方向に沿って漸次増大し、最大外径部61aを経て、漸次減少する膨出形状を有する。そして、吸引口62は、最大外径部61aに位置する。
【0048】
このように構成することによって、吸引口62の周囲が壁在血栓71に接触し易く、より多くの壁在血栓71を吸引口62を通して偏在部61内に取り込み、吸引部63によって吸引除去できる。これによって、壁在血栓71の回収効率を向上できる。
【0049】
吸引チューブ64の内腔を封止する封止部90を吸引口62よりも遠位端側に有する。
【0050】
このように構成することによって、吸引力の低下が抑えられ、血栓71を効率的に吸引できる。
【0051】
(回転部60の改変例1)
図4は、回転部60の改変例1を示す断面図である。実施形態と共通する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0052】
吸引チューブ64に形成する開口部64aは、1個に限られず、複数個でもよい。また、開口部64aを形成する位置は、偏在部61の内部空間に存在し得る血栓71を効率的に吸引除去できる観点から決めることができる。
【0053】
図4に示すように、吸引チューブ64は、開口部64a(以下、第1開口部64aという)の他に、偏在部61の遠位端近傍(先端ベアリング81の近位端近傍)の周壁に形成した第2開口部64dを有する。封止部90は、第2開口部64dよりも遠位端側に形成される。
【0054】
第2開口部64dは、偏在部61の内部空間と常時連通状態にある。このため、偏在部61の内部空間に第1開口部64aから吸引できなかった血栓71が存在していても、この血栓71を第2開口部64dから吸引除去することができ、除去した血栓71が抹消に飛ぶことを抑制できる。
【0055】
このように改変例1にあっては、偏在部61の内部空間と連通する第2開口部64dを第1開口部64aよりも遠位端側に形成したため、偏在部61の内部空間に取り込んだ血栓71が抹消に飛ぶことを抑制できる。
【0056】
(回転部60の改変例2)
図5は、回転部60の改変例2を示す断面図である。実施形態と共通する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0057】
図5に示すように、シャフト50の中空部に、吸引チューブ64およびガイドワイヤチューブ65が並列的に挿通される。吸引チューブ64は、偏在部61の近位端から偏在部61の内面に沿って立ち上がる。吸引チューブ64は、その開口端部64cが偏在部61の吸引口62に向かい合うように伸びている。吸引チューブ64は、このような湾曲形状に弾性的に戻るように賦形されている。ガイドワイヤチューブ65は、シャフト50の第1シャフト部51の近位端から、偏在部61を越え、シャフト50の第2シャフト部52の遠位端まで伸びている。吸引チューブ64およびガイドワイヤチューブ65は、基端ベアリング80よりも近位端側の位置において留め具95によって一体化されている。留め具95によって、吸引チューブ64およびガイドワイヤチューブ65が絡まることを防止する。留め具95は、長手方向に沿って複数個配置できる。
【0058】
偏心おもり66は、近位端(
図5において右端)が吸引チューブ64に接触し得る長さを有する。
図5の状態に偏在部61が回転したときに、偏心おもり66は、吸引チューブ64に接触して、吸引チューブ64の開口端部64cを吸引口62に向かい合うように誘導する。吸引チューブ64の開口端部64cが吸引口62に近接するため、吸引力は強い。このため、吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれた血栓71を効率的に吸引チューブ64内に吸引できる。偏在部61が
図5の状態以外の他の位置に回転したときは、偏心おもり66の近位端は吸引チューブ64から離れる。吸引チューブ64は、偏在部61の内面によってまっすぐに伸ばされるようになる。しかしながら、吸引チューブ64は、その開口端部64cが偏在部61の吸引口62に向かい合うように湾曲した形状に弾性的に戻るように賦形されている。偏在部61の回転に伴い、偏心おもり66が吸引チューブ64に再び接触して、吸引チューブ64の開口端部64cを吸引口62に向かい合うように誘導する。
【0059】
このように改変例2にあっては、偏心おもり66は、吸引チューブ64に接触して、吸引チューブ64の開口端部64cを吸引口62に向かい合うように誘導する機能を発揮する。これによって、吸引口62を通して偏在部61内に取り込まれた血栓71を効率的に吸引チューブ64内に吸引できる。
【0060】
(手元操作部40の改変例1)
図6は、医療デバイス1の手元操作部40の改変例1を示す断面図である。
【0061】
手元操作部40は
図3の構成に限定されず、適宜改変できる。吸引チューブ64は、ハンドル41の近位端から長手方向外方に伸ばす構成に限定されない。
図6に示すように、吸引チューブ64は、ハンドル41の外周面から径方向外方に伸ばすことができる。一方、ガイドワイヤチューブ65の近位端は、ハンドル41の近位端を越えて長手方向外方に伸びている。
【0062】
(手元操作部40の改変例2)
図7は、医療デバイス1の手元操作部40の改変例2を示す断面図である。
【0063】
シャフト50は、手動によって回転する場合に限定されない。医療デバイス1は、シャフト50を回転駆動するモータ45を有することができる。シャフト50の回転数が増加するので、偏在部61は遠心力によって血管70の内壁により強く押し付けられる。この結果、偏在部61は血管70の内壁に対する接触面積がさらに増加し、壁在血栓71をより一層効率的に取りきることができる。
【0064】
シャフト50を回転駆動するモータ45は、例えば、中空モータ45から構成される。
図7に示すように、中空モータ45はハンドル41の内部に収納される。改変例2の手元操作部40は、
図3および
図6に示されるノブ42は有していない。シャフト50の近位端は、図示しないギヤ機構等を介して、中空モータ45の出力軸に接続される。吸引チューブ64は、ハンドル41の外周面から径方向外方に伸びている。ガイドワイヤチューブ65は、中空モータ45の中空部に挿通され、ハンドル41の近位端を越えて長手方向外方に伸びている。
【0065】
図7の改変例2は、シャフト50をモータ45によってのみ回転駆動する形態であるが、
図3および
図6と同様にノブ42をさらに設けることができる。この構成の場合、モータ45による回転駆動と、手動による回転とを選択的に切り替えることができる。
【0066】
以上、実施形態および改変例を通じて本発明に係る医療デバイス1を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0067】
実施形態および改変例では、医療デバイス1によって除去される物質は血栓71である。しかしながら、本発明は、除去される物質が石灰化した生体組織である医療デバイスにも適用できることは言うまでもない。
【0068】
また、実施形態および改変例では、回転可能なシャフト50に別部材として回転部60を配置した。しかしながら、回転部は、回転可能なシャフトの径が大きい一部の領域から構成しても良い。偏在部61についても同様であり、偏在部61は、回転部に別部材として配置しても良いし、回転部の一部の領域から構成したも良い。
【符号の説明】
【0069】
1 医療デバイス、
20 イントロデューサシース、
30 ガイディングカテーテル、
40 手元操作部、
41 ハンドル、
42 ノブ、
43 チューブ、
44 吸引装置、
45 中空モータ(モータ)、
50 シャフト、
51 第1シャフト部、
52 第2シャフト部、
60 回転部、
61 偏在部、
61a 最大外径部、
62 吸引口、
63 吸引部、
64 吸引チューブ、
64a 開口部、第1開口部、
64b ガイド壁、
64c 開口端部、
64d 第2開口部、
65 ガイドワイヤチューブ、
67 切削ブロック、
70 血管、
71 血栓(物質)、
80 基端ベアリング、
81 先端ベアリング、
90 封止部、
91 封止部、
95 留め具。