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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141088
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】電動弁制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20220921BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
F16K31/04 K
F25B1/00 304L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041227
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 智宏
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 真司
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 亮直
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖明
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB04
3H062CC02
3H062DD01
3H062EE06
3H062FF01
3H062GG02
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】 電動弁固有の基準位置を探索する。
【解決手段】 電動弁制御装置は、ロータの回転により弁開度を調整する電動弁と接続される。電動弁制御装置は、ロータの回転量を指示する回転指示部と、ロータの回転量を検出する回転検出部と、ロータに指示された回転量(指示角)に対するロータについて検出された回転量(感知角)の比率が第1閾値以下となる、いいかえればロータの指示角に対する追従性が低下するときの位置を、ロータの基準位置として特定する基準特定部を備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの回転により弁開度を調整する電動弁と接続され、
前記ロータの回転量を指示する回転指示部と、
前記ロータの回転量を検出する回転検出部と、
前記ロータに指示された回転量に対する前記ロータについて検出された回転量の比率が第1閾値以下となるときの位置を、前記ロータの基準位置として特定する基準特定部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項2】
前記基準特定部は、更に、前記基準位置を特定したときの前記ロータの回転角度を示す角度値および励磁パターンの双方または一方を含む基準情報を登録することを特徴とする請求項1に記載の電動弁制御装置。
【請求項3】
前記回転指示部は、前記ロータの回転量を単位回転量ごとに指示し、
前記回転検出部は、前記単位回転量が指示されるごとに前記ロータの回転量を検出し、
前記基準特定部は、前記単位回転量に対する前記ロータについて検出された回転量の比率が前記第1閾値以下となる状態が所定回数以上検出されたことを条件として、前記ロータの基準位置を特定することを特徴とする請求項1または2に記載の電動弁制御装置。
【請求項4】
前記回転指示部は、前記ロータに指示された回転量に対する前記ロータについて検出された回転量の比率が第2閾値以下となる状態が検出されたことを契機として、前記ロータの回転速度を低下させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電動弁制御装置。
【請求項5】
前記回転指示部は、前記ロータを第1方向に回転させることで前記基準位置を探索し、前記探索の開始時において前記ロータを前記第1方向とは逆の第2方向に所定量だけ回転させたあと、前記ロータを前記第1方向に回転させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電動弁制御装置。
【請求項6】
ロータの回転により弁開度を調整する電動弁と接続され、
前記ロータの回転量を指示する回転指示部と、
前記ロータの回転量を検出する回転検出部と、
前記ロータに指示された回転量に対する前記ロータについて検出された回転量の比率に基づいて前記ロータの基準位置を特定する基準特定部と、を備え、
前記基準特定部は、前記ロータに指示された回転量に対する前記ロータについて検出された回転量の比率が第3閾値以下となるときの位置を第1候補位置として特定し、前記第1候補位置の特定後において前記ロータに指示された回転量に対する前記ロータについて検出された回転量の比率が第4閾値以下となるときの位置を第2候補位置として特定し、前記第1候補位置において検出される前記ロータの回転角度と前記第2候補位置において検出される前記ロータの回転角度との間に所定の近接条件が成立するとき、前記第1候補位置および前記第2候補位置の双方または一方に基づいて、前記ロータの基準位置を特定することを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項7】
前記回転指示部は、前記ロータを第1方向に回転させることで前記第1候補位置を探索し、前記第2候補位置の探索を開始する前に前記ロータを前記第1方向とは逆の第2方向に所定量だけ回転させたあと、前記ロータを前記第1方向に回転させることを特徴とする請求項6に記載の電動弁制御装置。
【請求項8】
電動弁のロータの回転量を指示する機能と、
前記ロータの回転量を検出する機能と、
前記ロータに指示された回転量に対する前記ロータについて検出された回転量の比率が第1閾値以下となるときの位置を、前記ロータの基準位置として特定する機能と、をコンピュータに発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動弁に関し、特にロータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、駆動部としてモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
このような電動弁として、弁開度を検出するための磁気センサを備えるものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。ロータとともに回転する作動ロッドの一端に弁体が設けられ、他端にマグネット(センサマグネット)が設けられる。そのセンサマグネットと軸線方向に対向するように磁気センサが設けられる。ロータの回転運動は、ねじ送り機構により弁体の軸線運動に変換される。ロータの回転に伴う磁束の変化を磁気センサで捉えることによりセンサマグネットの回転角度ひいては弁体の軸線方向位置を検出でき、弁開度を算出できる。
【0004】
電動弁内において上下動する作動ロッドには、制御の基準となる基準位置が設定される。ロータが弁閉方向への回転を続けて「原点」ともよばれる基準位置に至ったとき、ロータはストッパにより回転を規制される(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
同タイプの電動弁であっても、基準位置には個体差が生じる。電動弁ごとに基準位置を一律に定めることは適切ではない。このため、電動弁の製造時においては、電動弁ごとに固有の基準位置を検出し、記録しておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-135908号公報
【特許文献2】特開2020-204344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロータがストッパによる回転規制を受けるとき、ロータを駆動するステッピングモータの逆起電力が低下する。そこで、ロータを弁閉方向に回転させつつ、ステッピングモータの逆起電力が大きく変化する地点を探ることで基準位置を特定する方法が考えられる。このとき、ロータを高速回転させる場合、基準位置においてストッパに強い衝撃が加わるため好ましくない。一方、ロータを低速回転させる場合には、逆起電力の変化を検出しづらくなる。また、ストッパではなく、金属屑など不純物によりロータの動きが規制された場合、基準位置が誤認識されてしまう可能性もある。
【0008】
本発明の主たる目的は、電動弁固有の基準位置を適切に探索するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様における電動弁制御装置は、ロータの回転により弁開度を調整する電動弁と接続される。
この電動弁制御装置は、ロータの回転量を指示する回転指示部と、ロータの回転量を検出する回転検出部と、ロータに指示された回転量に対するロータについて検出された回転量の比率が第1閾値以下となるときの位置を、ロータの基準位置として特定する基準特定部と、を備える。
【0010】
本発明の別の態様における電動弁制御装置は、ロータの回転により弁開度を調整する電動弁と接続される。
この電動弁制御装置は、ロータの回転量を指示する回転指示部と、ロータの回転量を検出する回転検出部と、ロータに指示された回転量に対するロータについて検出された回転量の比率に基づいてロータの基準位置を特定する基準特定部と、を備える。
基準特定部は、ロータに指示された回転量に対するロータについて検出された回転量の比率が第3閾値以下となるときの位置を第1候補位置として特定し、第1候補位置の特定後においてロータに指示された回転量に対するロータについて検出された回転量の比率が第4閾値以下となるときの位置を第2候補位置として特定し、第1候補位置において検出されるロータの回転角度と第2候補位置において検出されるロータの回転角度との間に所定の近接条件が成立するとき、第1候補位置および第2候補位置の双方または一方に基づいて、ロータの基準位置を特定する。
【0011】
本発明のある態様における電動弁制御プログラムは、電動弁のロータの回転量を指示する機能と、ロータの回転量を検出する機能と、ロータに指示された回転量に対するロータについて検出された回転量の比率が第1閾値以下となるときの位置を、ロータの基準位置として特定する機能と、をコンピュータに発揮させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動弁固有の基準位置を適切に探索しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
図2】ステータおよびその周辺の構成を表す図である。
図3】ロータの構成を表す図である。
図4】磁気センサとセンサマグネットおよびセンサマグネットから発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図5】センサマグネットの平面図である。
図6】センサマグネットの感知角とセンサ出力値との関係を示すグラフである。
図7】角度値とステップの関係を示すグラフである。
図8】電動弁制御装置の機能ブロック図である。
図9】原点検査処理の処理過程を示す第1のフローチャートである。
図10】原点検査処理の処理過程を示す第2のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
電動弁1は、図示しない自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を絞り膨張させて霧状に送出する膨張弁、霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器等が設けられている。電動弁1は、その冷凍サイクルの膨張弁として機能する。
【0016】
電動弁1は、弁本体2とモータユニット3とを組み付けて構成される。弁本体2は、弁部を収容したボディ5を有する。ボディ5は、「バルブボディ」として機能する。ボディ5は、第1ボディ6と第2ボディ8とを同軸状に組み付けて構成される。第1ボディ6および第2ボディ8は、ともにステンレス鋼(以下「SUS」と表記する)からなる。第2ボディ8には弁座24が設けられるため、耐摩耗性に優れた材質が選定されている。第1ボディ6は第2ボディ8よりも溶接性に優れ、第2ボディ8は第1ボディ6よりも加工性に優れている。
【0017】
第1ボディ6は、外径が下方に向けて段階的に縮径する段付円筒状をなす。第1ボディ6の上端部の外径がやや縮径され、段差による係止部52が構成されている。第1ボディ6の下部外周面には、電動弁1を図示しない配管ボディに組み付けるための雄ねじ10が形成されている。なお、配管ボディには、凝縮器側から延びる配管や、蒸発器につながる配管などが接続されるが、その詳細については説明を省略する。第1ボディ6における雄ねじ10のやや上方の外周面には、環状溝からなるシール収容部12が形成され、シールリング14(Oリング)が嵌着されている。
【0018】
第1ボディ6の下部には、円穴状の凹状嵌合部16が設けられている。第2ボディ8は有底円筒状をなし、その上部が凹状嵌合部16に圧入されている。第2ボディ8の下部外周面には環状溝からなるシール収容部18が形成され、シールリング20が嵌着されている。第2ボディ8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。第2ボディ8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。第1ボディ6および第2ボディ8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。
【0019】
ボディ5の内方には、モータユニット3のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32は、非磁性金属からなる棒材を切削加工して得られ、その下部にニードル状の弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱することにより弁部を開閉する。
【0020】
第1ボディ6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36は、非磁性金属からなる管材を段付円筒状に切削加工して得られ、その軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ガイド部材36の下端部が大径となっており、その大径部40が第1ボディ6の上部中央に圧入され、同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。
【0021】
作動ロッド32における弁体34のやや上方にばね受け42が設けられ、ガイド部材36の底部にもばね受け44が設けられている。ばね受け42,44間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0022】
一方、モータユニット3は、ロータ60とステータ64とを含む三相ステッピングモータとして構成されている。モータユニット3は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置し、外方にステータ64を配置して構成されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。
【0023】
キャン66は、非磁性金属(本実施形態ではSUS)からなり、その下部が第1ボディ6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。キャン66は、その下端が係止部52に係止されることによりその挿入量が規制される。キャン66の下端と第1ボディ6との境界に沿って全周溶接が施されることにより(図示略)、ボディ5とキャン66との固定およびシールが実現されている。ボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0024】
ステータ64は、積層コア70の内周部に複数の突極を等間隔に配置して構成される。積層コア70は、環状のコアが軸線方向に積層されて構成される。各突極には、コイル73(電磁コイル)が装着されたボビン74が組み付けられている。これらコイル73およびボビン74により「コイルユニット75」が構成される。本実施形態では、三相電流を供給するためのモータユニット3つのコイルユニット75が、積層コア70の中心軸に対して120度ごとに設けられている(詳細後述)。
【0025】
ステータ64は、モータユニット3のケース76と一体に設けられている。すなわち、ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形(「インサート成形」または「モールド成形」ともいう)により得られる。ステータ64は、その射出成形によるモールド樹脂によって被覆されている。ケース76は、そのモールド樹脂からなる。以下、ステータ64とケース76とのモールド成形品を「ステータユニット78」とも称する。
【0026】
ステータユニット78は、中空構造を有し、キャン66を同軸状に挿通しつつボディ5に組み付けられている。第1ボディ6における係止部52のやや下方の外周面には、環状溝からなるシール収容部80が形成され、シールリング82(Oリング)が嵌着されている。第1ボディ6の上部外周面とケース76の下部内周面とに間にシールリング82が介装されることにより、キャン66とステータ64との間隙への外部雰囲気(水など)の侵入が防止されている。
【0027】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。ロータコア102は、回転軸62に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。ロータマグネット104およびセンサマグネット106は、ロータコア102に一体成型されたマグネット部に後工程で着磁して得られたものであるが、その詳細については後述する。
【0028】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、その開口端を下にしてガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。
【0029】
作動ロッド32の上部が縮径され、その縮径部110が回転軸62の底部112を貫通している。縮径部110の先端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、縮径部110の基端と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0030】
モータユニット3は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。本実施形態では、回路基板118の下面に制御部や通信部として機能する各種回路が実装されている。具体的には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路(マイクロコンピュータ)、制御回路が外部装置と通信するための通信回路、各回路およびモータ(コイル)に電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端は、蓋体77により閉止されている。ケース76における蓋体77の下方の空間に回路基板118が配設されている。
【0031】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(本実施形態ではロータ60の回転角度)を検出する。制御部は、そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出する。
【0032】
それぞれのボビン74からはコイル73につながる一対の端子117が延出し、回路基板118に接続されている。回路基板118からは電源端子、グランド端子および通信端子(これらを総称して「接続端子81」ともいう)が延出し、それぞれケース76の側壁を貫通して外部に引き出されている。ケース76の側部にコネクタ部79が一体に設けられ、そのコネクタ部79の内方に接続端子81が配置されている。
【0033】
ロータ60の下方にはストッパ90が形成される。特許文献2に示すようにストッパ90の構成は既知である。最終的には、ストッパ90が、ガイド部材36の一部として形成される図示しない突部(係止部)に当接することにより、ロータ60の弁閉方向への回転が完全に規制される。以下、このときのロータ60の位置、いいかえれば、ストッパ90が突部と当接する地点を「原点」とよぶ。また、本実施形態においては原点を「基準位置」とする。
【0034】
図2は、ステータ64およびその周辺の構成を表す図である。図2(A)は図1のA-A矢視断面に対応し、ステータユニット78の断面図である。図2(B)はステータ64のみ(樹脂モールド前の状態)を表す図である。なお、図2(A)には参考のため、キャン66およびロータ60を示している(二点鎖線参照)。
【0035】
モータユニット3が三相のモータであるため、図2(A)に示すように、ロータ60の軸線Lの周りに等間隔でコイルユニット75が設けられている。図2(B)にも示すように、積層コア70の内周部に軸線Lに対して120度の間隔でスロット120a~120c(これらを特に区別しないときは「スロット120」と総称する)が設けられている。各スロット120には、その中央から半径方向内向きに突出する突極122a~122c(「突極122」と総称する)が形成され、それぞれU相コイル73a、V相コイル73b、W相コイル73c(「コイル73」と総称する)が組み付けられている。互いに隣接するスロット120の間にも、横断面U字状のスリット124が形成され、磁路の最適化が図られている。
【0036】
ロータマグネット104は、キャン66を介して突極122a~122cと対向する。本実施形態では図2(A)に示すように、ロータマグネット104が10極に磁化されているが、その極数については適宜設定できる。
【0037】
次に、ロータ60におけるマグネットの構成について詳細に説明する。
図3は、ロータ60の構成を表す図である。図3(A)は斜視図、図3(B)は正面図、図3(C)は平面図、図3(D)は図3(C)のB-B矢視断面図である。図中の「N」はN極、「S」はS極を示す。なお、同図においては、説明の便宜上、回転軸62(図1参照)の表記を省略している。
【0038】
ロータ60は、ロータコア102の外周面に沿ってロータマグネット104を有し、ロータコア102の軸端部にセンサマグネット106を有する(図3(A),図3(D))。ロータマグネット104は円筒状をなし、外周面10極着磁とされている(図3(B),図3(C))。一方、センサマグネット106は環状をなし、平面2極着磁とされている。
【0039】
図3(D)に示したように、ロータマグネット104の内周面が環状溝140に嵌合し、センサマグネット106の下面が環状溝144に嵌合している。すなわち、環状溝140は、ロータコア102からのロータマグネット104の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。同様に、環状溝144は、ロータコア102からのセンサマグネット106の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。
【0040】
以上の構成を前提として、次に、磁気センサ119がロータ60の回転角度を検出する方法について説明する。なお、以下においては、図1の紙面上下方向を「開閉方向」または「上下方向」とよぶ。
【0041】
図4は、磁気センサ119とセンサマグネット106およびセンサマグネット106から発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図4は、磁気センサ119およびセンサマグネット106を側面から見たときの模式図である。図4に示すようにセンサマグネット106(永久磁石)のNからSに磁力線が発生する。センサマグネット106の直上に位置する磁気センサ119は、センサマグネット106から発生する磁力線を検出する既知構成のロータリーセンサである。磁気センサ119は、磁力線の方向に基づいて、センサマグネット106(ロータ60)の回転角を検出する(詳細後述)。なお、本実施形態において、磁気センサ119はセンサマグネット106の回転角を検出可能であるが、磁気センサ119により、センサマグネット106までの距離、いいかえれば、作動ロッド32の開閉方向における移動量を直接検出することはできないものとして説明する。
【0042】
図5は、センサマグネット106の平面図である。
ステータ64のコイル73に後述の方法にて駆動電流を流すことにより、ロータ60に回転駆動力が与えられる。ロータ60を閉弁方向(下方向)に回転させると(以下、「下降回転」とよぶ)、ロータ60に連動して作動ロッド32は閉弁方向、すなわち、図1の図面下方に移動する。ロータ60を開弁方向に回転させると(以下、「上昇回転」とよぶ)、ロータ60と連動して作動ロッド32は開弁方向、すなわち、図1の図面上方に移動する。
【0043】
ロータ60の回転に連動して、センサマグネット106も回転する。センサマグネット106の回転にともなって、センサマグネット106の磁界方向MAも変化する。図5に示すようにXY座標系(図1における水平面に対応)を設定したとき、磁界方向MAがX軸となす角度をθとする。磁気センサ119は、特許文献1の角度センサに示す既知の方法にて、センサマグネット106の回転角度θを検出する。
【0044】
図6は、センサマグネット106の感知角とセンサ出力値との関係を示すグラフである。
横軸は、磁気センサ119により検出されたセンサマグネット106の実際の回転角度θを示す(以下、「感知角」とよぶ)。縦軸は、磁気センサ119の出力値(以下、「センサ値」とよぶ)である。センサ値は、更に、磁気センサ119により「下限値DA~上限値TA」の範囲で正規化される。下限値DA、上限値TAは任意に設定可能である。図6に示すように、磁気センサ119は感知角に対応してノコギリ型の波形にてセンサ値を出力する。以下、センサ値を上記範囲にて正規化した値を「角度値」とよぶ。角度値に基づいて、制御回路は感知角、すなわち、センサマグネット106の実際の回転角度を検出できる。
【0045】
図7は、角度値とステップの関係を示すグラフである。
本実施形態において、弁体34を最上位点(弁開)から最下位点(弁閉)まで移動させるとき、ロータ60は合計4回転する。詳細は後述するが、制御回路は3相のコイル73に供給する駆動電流を変化させることにより、各コイル73の磁界方向を変化させることでロータ60を回転させる。本実施形態においては、制御回路はロータ60をu1度単位で回転させる(詳細後述)。以下、この単位回転量のことを「ステップ」とよぶ。360度×4回転÷u1度=1440/u1=SM4より、制御回路は作動ロッド32の動作範囲においてロータ60に合計SM4ステップ分の回転を指示することになる。ロータ60の4回転に対応して、角度値はDA~TAの間で4回変化する。
【0046】
制御回路はU相コイル73aに所定レベルの駆動電流を流す。このとき、V相コイル73bおよびW相コイル73cについても同様に所定レベルの駆動電流が流される。各コイル73に駆動電流を流すことによりコイル73における磁界のバランスが変化し、ロータ60に指示する回転角度を設定する(以下、「指示角」とよぶ)。U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに与える駆動電流の電流値の組み合わせを「励磁パターン」とよぶ。本実施形態における励磁パターンはN種類である。ある励磁パターンP1を電動弁1つ隣りの励磁パターンP2に変化させることが「1ステップ」の回転、いいかえれば、単位回転量分の回転指示に対応する。
【0047】
励磁パターンの変化により、いいかえれば、1ステップずつ励磁パターンを変更することにより、指示角αが変化する。指示角αと感知角θは通常一致する。励磁パターンを変化させたあと、磁気センサ119により検出される角度値から感知角θを算出することで、制御回路は、指示角α(ロータ60に指示した回転角度)と感知角θ(磁気センサ119により検出したロータ60の実際の回転角度)が一致しているか否かを判定できる。
以下、励磁パターンにより指示される方向に感知角が追従している状態を「同調」、感知角が追従できていない状態を「脱調」とよぶ。
【0048】
励磁パターンにはN種類のパターンIDが付与される。パターンID=N1の励磁パターン(以下、「励磁パターン(N1)」のように表記する)におけるU相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれの駆動電流値をIU(N1)、IV(N1)、IW(N1)とする。すなわち、励磁パターン(N1)とは{IU(N1)、IV(N1)、IW(N1)}の組み合わせを意味する。
【0049】
制御回路が励磁パターン(N1)を励磁パターン(N1+1)、すなわち、{IU(N1+1)、IV(N1+1)、IW(N1+1)}に変更すると、3つのコイル73それぞれの磁力の強さのバランスおよび磁界方向が変化することにより、ロータ60は単位回転量だけ上昇回転する。制御回路が励磁パターン(N1)を励磁パターン(N1-1)に変更すると、ロータ60は単位回転量だけ下降回転する。N種類の励磁パターンはNステップ分に対応する。
【0050】
制御回路が励磁パターンをNステップ分進めるとき、ロータ60はF度回転する。したがって、ロータ60を1周(360度回転)させるためには、励磁パターンを(360/F)周期分変化させる必要がある。指示角の360度(1周)は、N×5ステップに対応する。逆算すると、360÷(N×5)=72/Nにより、1ステップあたりロータ60は72/N=u1度回転することになる。上述したように、4回転では合計SM4=N×5×4ステップとなる。励磁パターンを変化させることで指示角を指定し、指示角にしたがってロータ60は回転する。
【0051】
本実施形態においては、ストッパ90がガイド部材36(より厳密にはガイド部材36の突部)と当接するときのロータ60の位置を原点(基準位置)とし、制御回路はこのときの角度値および励磁パターンを「原点情報(基準情報)」として記録する。制御回路は感知角の追従性に基づいて原点を特定する。電動弁1の製造時において、後述の方法により原点の探索が行われる。回路基板118は不揮発性メモリを搭載する。原点を検出したとき、制御回路は不揮発性メモリに原点情報を記録する。
【0052】
一例として、電動弁1aの原点情報における角度値は「15」であるとする。一方、別の電動弁1bの原点情報における角度値は「23」であるとする。電動弁1には個体差があるため、原点情報も電動弁1ごとに設定される。本実施形態においては、電動弁1の製造時(工場出荷時)において、1度だけ後述の「原点検査処理」を実行することにより、制御回路は、電動弁1の原点情報を探索してこれを内蔵の不揮発性メモリに記録する。
【0053】
出荷後の電動弁1aに対して、外部から初期化コマンドが送信されたとする。回路基板118の制御回路は、初期化コマンド等の各種コマンドをマスター(外部装置)から受信する。初期化コマンドが受信されたときには、制御回路はロータ60を少しずつ下降回転させる。また、下降回転中に磁気センサ119により角度値を検出する。制御回路は、原点情報の角度値と磁気センサ119により検出した角度値を比較することにより、基準位置を探ることができる。たとえば、電動弁1aの制御回路は、下降回転中に検出した角度値が「15」となるときには作動ロッド32が原点に到達した可能性があると判断できる。同様にして電動弁1bの制御回路は、下降回転中に検出した角度値が「23」となるときには作動ロッド32が原点に到達した可能性があると判断できる。
【0054】
制御回路は、原点(弁閉位置)を基準としてステップ数を指定することにより、作動ロッド32の移動量、すなわち、電動弁1の弁開度を調整する。
【0055】
図8は、電動弁制御装置200の機能ブロック図である。
電動弁制御装置200の各構成要素は、回路基板118上における制御回路(マイクロコンピュータ)、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェア(制御回路)と、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバおよびアプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0056】
電動弁制御装置200は、回転指示部202、回転検出部204、基準特定部206および基準情報記憶部208を含む。
基準特定部206は、原点(基準位置)を特定するとともに、回転指示部202および回転検出部204を制御する。回転指示部202は、励磁パターンに応じて、U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに駆動電流を出力する。回転検出部204は、磁気センサ119から角度値(センサ値を正規化した値)を取得する。基準特定部206は、角度値に基づいて感知角を算出する。基準特定部206は指示角および感知角の追従性に基づいて原点(基準位置)を特定する。基準情報記憶部208は不揮発性メモリに構成される記憶領域である。基準特定部206は、原点情報(基準情報)を基準情報記憶部208に記録する。
【0057】
図9は、原点検査処理の処理過程を示す第1のフローチャートである。
電動弁1の製造後、工場において以下に示す原点検査処理が実行される。原点検査処理の目的は、電動弁1の基準位置である原点を探索し、原点特有のデータである原点情報を基準情報記憶部208に記録することである。
【0058】
基準特定部206は、まず、カウンタCを「0」にリセットする(S10)。カウンタCは原点候補を判定するために用意される変数である。次に、回転指示部202は、数ステップ、たとえば、Nステップ程度、ロータ60を上昇回転させる(以下、「確認上昇」とよぶ)(S12)。そのあと、回転指示部202は、ロータ60を下降回転させる。このとき、回転指示部202はロータ60の下降回転速度を回転速度V1に設定する(S14)。確認上昇により、励磁パターンによる指示角とロータ60の感知角を同調させることができる。また、ロータ60の回転開始時において、ガイド部材36とロータ60の間のねじ送り機構109に金属屑のような不純物が挟まっている可能性がある。確認上昇にともなうロータ60の逆回転により、ロータ60による不純物の噛み込みを解くことができる。このほか、確認上昇を行うことでねじ送り機構109に適度な振動を与え、不純物のねじ送り機構109からの脱落を促すことができる。
【0059】
回転指示部202は、回転速度V1にしたがって一定のペースにてロータ60を下降回転させる。回転指示部202は、ロータ60を1ステップ分だけ下降回転させる(S16)。磁気センサ119は感知角を検出し、回転検出部204は磁気センサ119から出力されるセンサ値により角度値を計算する。回転検出部204は1ステップ分の下降回転指示に対して、センサマグネット106の実際の回転変化量aを計算する。通常、1ステップ分の回転指示に対しては、上述したようにu1度の回転変化量aが想定される。基準特定部206は、回転変化量aが閾値T1未満であるか否かを判定する(S18)。いいかえれば、基準特定部206は、指示角の変化量(回転量)に対する感知角の変化量(回転量)の比率(追従性)が所定の閾値T1未満となっているか否かを判定する。閾値T1の値はu1より小さな値であれば任意に設定可能である。
【0060】
回転変化量aが閾値T1未満であるとき、原点に到達し、ストッパ90が係止されている可能性がある。あるいは、金属屑などの不純物によりロータ60が一時的な動きづらくなっている可能性も考えられる。いずれにしても、ロータ60の指示角に対する追従性がなんらかの理由により低下している。まとめると、回転変化量aが閾値T1未満であるときには、ロータ60が原点に到達した可能性もあるが、原点ではない位置で一時的にロータ60の追従性が低下している可能性も残る。
【0061】
回転変化量aが閾値T1以上のとき(S18のN)、すなわち、ロータ60が指示角に十分に追従できているときには、基準特定部206はカウンタ値Cを「0」にリセットする(S20)。また、基準特定部206は後述の第1原点候補情報HP1が保存されているときにはこれをクリアする(S22)。そのあと、処理はS16に戻り、回転検出部204は再び1ステップ分の下降回転を指示する。したがって、ロータ60が指示に追従できている限り、回転速度V1にてロータ60の下降回転が継続されることになる。
【0062】
一方、回転変化量aが閾値T1未満であって(S18のY)、カウンタ値C=0のとき(S24のY)、すなわち、初めて回転変化量aが閾値T1未満となったときには、基準特定部206は現在の角度値および励磁パターンを第1原点候補情報HP1として一時保存する(S26)。そのあと、基準特定部206はカウンタ値Cをインクリメントする(S28)。カウンタ値Cがゼロではないとき(S24のN)、すなわち、「回転変化量aが閾値T1未満となる事象(以下、「追従性低下検出」とよぶ)」が連続検出されたときには、S26の処理はスキップされる。第1原点候補情報HP1はそのまま維持される。追従性低下検出が連続する限り、第1原点候補情報HP1は維持され、カウンタ値Cは増加しつづける。
【0063】
カウンタ値Cが閾値K1未満のとき(S30のN)、第1原点候補情報HP1を保存したまま処理はS16に戻る。閾値K1は任意の自然数である。一方、カウンタ値Cが閾値K1以上、すなわち、追従性低下検出がK1回以上連続したときには(S30のY)、次の図10に示す処理に移行する。
【0064】
図10は、原点検査処理の処理過程を示す第2のフローチャートである。
基準特定部206は、カウンタ値Cを「0」に再びリセットする(S40)。回転指示部202は、再び確認上昇を実行する(S42)。S42の段階でロータ60は原点に到達している可能性がある。S42においてロータ60を所定回転量だけ上昇回転させることでロータ60をいったん原点から離す。原点ではなくロータ60が不純物のひっかかっていた場合には、S42の確認上昇により、S12と同様にして、不純物の脱落を促すことができる。確認上昇のあと、回転指示部202はロータ60の下降回転速度をV1よりも低速のV2に設定する(S44)。下降回転速度を低速化することにより、回転トルクが増加する。ロータ60を低速化して回転トルクを増加させることで、ロータ60は不純物による影響を受けにくくなり、より確実に原点に到達しやすくなる。
【0065】
回転指示部202は、ロータ60を1ステップ分だけ下降回転させる(S46)。回転検出部204は1ステップ分の下降回転指示に対して、センサマグネット106の実際の回転変化量aを計算する。基準特定部206は、回転変化量aが閾値T2未満であるか否かを判定する(S48)。閾値T2の値は任意である。閾値T1と閾値T2は同一であってもよい。
【0066】
回転変化量aが閾値T2未満であるとき、ストッパ90が突部(係止部)に当接することによりロータ60が回転規制を受けている可能性が更に濃厚となる。
【0067】
回転変化量aが閾値T2以上のとき(S48のN)、すなわち、ロータ60が指示角に十分に追従できているときには、基準特定部206はカウンタ値Cを「0」にリセットする(S50)。また、基準特定部206は後述の第2原点候補情報HP2が保存されているときにはこれをクリアする(S22)。第1原点候補情報HP1はクリアされない。そのあと、処理はS46に戻り、回転検出部204は再び1ステップ分の下降回転を指示する。
【0068】
一方、回転変化量aが閾値T2未満であって(S18のY)、カウンタ値C=0のとき(S54のY)、すなわち、S46以降で初めて追従性低下検出がなされたときには、基準特定部206は現在の角度値および励磁パターンを第2原点候補情報HP2として一時保存する(S56)。そのあと、基準特定部206はカウンタ値Cをインクリメントする(S58)。カウンタ値Cがゼロではないとき(S54のN)、S56の処理はスキップされる。この場合、第2原点候補情報HP2はそのまま維持される。
【0069】
カウンタ値Cが閾値K2未満のとき(S60のN)、第2原点候補情報HP2を保存したまま処理はS46に戻る。閾値K2は任意の自然数であり、閾値K1と同一であってもよい。一方、カウンタ値Cが閾値K2以上、すなわち、追従性低下検出がK2回以上連続したときには(S60のY)、基準特定部206は第1原点候補情報HP1と第2原点候補情報HP2を比較する(S62)。より具体的には、基準特定部206は、第1原点候補情報HP1の角度値と第2原点候補情報の角度値の差である角度差が、閾値W未満であるか否かを判定する。閾値Wは任意である。
【0070】
角度差が閾値W未満のとき(S62のY)、すなわち、第1原点候補情報HP1を登録したときの作動ロッド32の位置と、第2原点候補情報HP2を登録したときの作動ロッド32の位置が十分に近いときには、基準特定部206は第2原点候補情報HP2を正式に原点情報として基準情報記憶部208に登録する(S64)。基準特定部206は第1原点候補情報HP1の角度値および第2原点候補情報HP2の角度値の差分である角度差を計算し、角度差が閾値W未満となるときが「近接条件」が成立となり、近接条件の成立により原点が特定される。一方、角度差が閾値W以上のとき(S62のN)、基準特定部206はエラー信号を送信する(S66)。検査者は、エラー信号を受信したときには、この電動弁1を検査する。
【0071】
なお、第1原点候補情報HP1ではなく、第2原点候補情報HP2を原点情報とするのは、回転トルクを高めて原点検出を行ったときの方が、いいかえれば、S26の時点よりもS56の時点の方が、より正確に原点に到達できている可能性が高いためである。これは、ロータ60が上述したように回転トルクが高いほうが不純物による回転規制を受けづらいためである。
【0072】
[総括]
以上、実施形態に基づいて電動弁1、特に、電動弁制御装置200について説明した。
本実施形態によれば、指示角に対するロータ60の追従性の低下を磁気センサ119により検知することで、原点(基準位置)を特定できる。電動弁制御装置200は、ロータ60を1ステップずつ回転させるごとにロータ60の追従性を検査できる。
【0073】
原点情報は、電動弁1の基準情報記憶部208に記憶される。このため、機構本体に個体差に応じた原点情報を付加した上で電動弁1をユーザに提供できる。電動弁1の使用時においては、基準情報記憶部208に記録されている原点情報に基づいて、電動弁1ごとに適切に基準位置に作動ロッド32を設定できる。
【0074】
本実施形態においては、回転変化量aがK1回以上連続して閾値T1を下回り、かつ、回転変化量aがK2回以上連続して閾値T2を下回った位置を原点として特定する。K1、K2を複数回と設定することにより、不純物により作動ロッド32が一時的に動きづらくなった地点が原点と誤認されるリスクを低減している。K1、K2は1以上の任意の整数であればよい。
【0075】
第1原点候補情報HP1を検出したあとは、回転指示部202はロータ60の回転速度を低速化している。ロータ60を低速化して回転トルクを上昇させることにより、ロータ60と原点の間にある不純物の影響を抑制し、ロータ60をより確実に原点に到達させやすくなる。
【0076】
原点検査処理に際しては、ロータ60を下降回転させる前に確認上昇が実行される。確認上昇により、励磁パターンによる指示角とロータ60の感知角を同調させることができる。確認上昇にともなうロータ60の逆回転により、ロータ60による不純物の噛み込みを解くことができる。このほかにも、確認上昇を実行することにより、ねじ送り機構109に適度な振動を与えることができるので、ねじ送り機構109に残存しているかもしれない不純物を効果的に除去できる。
【0077】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0078】
[変形例]
本実施形態においては弁閉位置を原点(基準位置)と想定して説明した。変形例として弁全開位置(ロータ60の上昇限界位置)を基準位置として設定してもよい。基準位置は作動ロッド32をロータ60で駆動するための基準となるべき位置であればよい。ストッパ90によりロータ60の回転を規制可能な位置であれば任意に基準位置を定めることができる。
【0079】
本実施形態においては、ステッピングモータに供給する駆動電流を励磁パターンにより定義し、励磁パターンを1ステップずつ切り替えることでロータ60を単位回転量ずつ変化させるとして説明した。これに限らず、ロータ60を一定速度にて連続的に回転させ、基準特定部206は単位時間あたりの指示角に対する感知角の追従性に基づいて、基準位置を探索してもよい。
【0080】
本実施形態においては、回転変化量aが閾値T1,T2を連続的に下回ることを条件として基準位置を特定するとして説明した。変形例として、連続検出であるか否かに関わらず、回転変化量aが閾値T1,T2を下回る合計回数が所定回数以上となるとき、基準特定部206は基準位置を特定するとしてもよい。不純物等による誤認リスクが低いと考えられる場合には、基準特定部206は、図10のS26において特定される第1原点候補情報HP1をそのまま基準情報として登録し、以後の処理を実行しないとしてもよい。
【0081】
本実施形態においては第1原点候補情報HP1および第2原点候補情報HP2を検出し、第1原点候補情報HP1と第2原点候補情報HP2の間で近接条件が成立するときに第2原点候補情報HP2を基準情報として登録するとして説明した。変形例として、基準特定部206は第2原点候補情報HP2ではなく第1原点候補情報HP1を基準情報として登録してもよいし、第1原点候補情報HP1の角度値と第2原点候補情報HP2の角度値の平均値を基準情報の角度値として登録してもよい。
【0082】
原点情報登録後の電動弁1は、原点情報に登録されている角度値と、磁気センサ119により実際に検出される角度値を比較することで、ロータ60が原点に近づいているか否かを判断できる。変形例として、原点情報登録後の電動弁1は、原点情報に登録されている励磁パターンと実際にコイル73に設定した励磁パターンを比較することで、ロータ60が原点に近づいているか否かを判定してもよい。
【0083】
上記実施形態では、磁気センサ119をセンサマグネット106と軸線方向に対向させる構成を例示した(図1参照)。変形例においては、センサマグネットの側方(径方向外側)に磁気センサを配置してもよい。すなわち、両者を径方向に対向させてもよい。センサマグネットの外周面に着磁してもよい。その極数については、例えば弁本体2極とするなど適宜設定できる。
【0084】
上記実施形態では、ロータマグネット104とセンサマグネット106とが軸線方向に離隔する構成を例示した。変形例においては、ロータマグネットとセンサマグネットとを一体に構成してもよい。マグネット部成形工程において、ロータマグネット部とセンサマグネット部とを一体成形してもよい。その場合、磁気センサが磁束を確実に検出できるよう、センサマグネットの面積(外径)を大きくしてもよい。センサマグネットがロータコアの外周にはみ出すことになるため、センサマグネットとロータマグネットを射出成形しやすくなる。
【0085】
各実施形態では、ステータのコアとして積層コア(積層磁心)を例示した。変形例においては、圧粉コアその他のコアを採用してもよい。圧粉コアは、「圧粉磁心」とも呼ばれ、軟磁性材料を粉末にし、非導電性の樹脂等でコーティングした紛体と、樹脂バインダとを混練し、圧縮成型・加熱することで得られる。
【0086】
各実施形態では、回路基板の下面に駆動回路、制御回路、通信回路および電源回路が実装される構成を例示したが、実装される回路については適宜変更できる。例えば、駆動回路および電源回路を実装する一方、制御回路を電動弁の外部に設置してもよい。また、各回路を回路基板の上面に実装してもよい。
【0087】
各実施形態では、モータユニットとして、PM型ステッピングモータを採用したが、ハイブリッド型ステッピングモータを採用してもよい。また、上記実施形態では、モータユニットを三相モータとしたが、二相,四相、五相などその他のモータとしてもよい。ステータにおける電磁コイルの数もモータユニット3つや第1ボディ6つに限らず、モータの相数に合わせて適宜設定してよい。
【0088】
各実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC-134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0089】
各実施形態では、上記電動弁を膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない開閉弁や流量制御弁として構成してもよい。
【0090】
各実施形態では、上記電動弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用する例を示したが、車両用に限らず電動膨張弁を搭載する空調装置に適用可能である。また、冷媒以外の流体の流れを制御する電動弁として構成することもできる。
【0091】
センサマグネット106を両面4極着磁(片面弁本体2極の両面着磁)としてもよい。上面と下面で磁極の極性を反転させることで磁束を強化できる。この場合、ロータ60が閉弁方向に変位してセンサマグネット106と磁気センサ119との距離が大きくなっても、磁気センサ119の感度を良好に維持できる。
【符号の説明】
【0092】
1 電動弁、2 弁本体、3 モータユニット、5 ボディ、6 第1ボディ、8 第2ボディ、10 雄ねじ、12 シール収容部、14 シールリング、16 凹状嵌合部、18 シール収容部、20 シールリング、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、34 弁体、36 ガイド部材、38 雄ねじ、40 大径部、42 ばね受け、44 ばね受け、46 スプリング、52 係止部、60 ロータ、62 回転軸、64 ステータ、66 キャン、70 積層コア、73 コイル、73a U相コイル、73b V相コイル、73c W相コイル、74 ボビン、75 コイルユニット、76 ケース、77 蓋体、78 ステータユニット、79 コネクタ部、80 シール収容部、81 接続端子、82 シールリング、90 ストッパ、102 ロータコア、104 ロータマグネット、106 センサマグネット、108 雌ねじ、109 ねじ送り機構、110 縮径部、112 底部、114 ストッパ、116 スプリング、117 端子、118 回路基板、119 磁気センサ、120 スロット、122 突極、124 スリット、140 環状溝、142 軸端部、144 環状溝、200 電動弁制御装置、202 回転指示部、204 回転検出部、206 基準特定部、208 基準情報記憶部、L 軸線、MA 磁界方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10