(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141148
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】フレッシュコンクリートの材料分離リスク評価装置及び評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20220921BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
G01N33/38
E04G21/02 103Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041328
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 潔
(72)【発明者】
【氏名】目黒 貴史
(72)【発明者】
【氏名】石井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 悠
【テーマコード(参考)】
2E172
【Fターム(参考)】
2E172CA31
2E172DE01
2E172HA03
(57)【要約】
【課題】フレッシュコンクリートを打設する前に、簡便な方法でフレッシュコンクリート自体の材料分離リスクを評価できる、評価装置及び評価方法を提供する。
【解決手段】材料分離リスク評価装置は、流動しているフレッシュコンクリートを加振させる加振器と、前記加振器により加振された前記フレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいて、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価する評価部と、前記評価部で評価した結果を出力する出力部と、を備える。材料分離リスク評価方法は、フレッシュコンクリートを流動させ、前記流動するフレッシュコンクリートを加振させ、加振中の前記フレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出し、前記検出した結果に基づいて、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動しているフレッシュコンクリートを加振させる加振器と、
前記加振器により加振された前記フレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価する評価部と、
前記評価部で評価した結果を出力する出力部と、を備えることを特徴とする、材料分離リスク評価装置。
【請求項2】
流動している前記フレッシュコンクリートは配管内を圧送されるものであり、
前記加振器は前記配管に取り付けられており、
前記検出器は、
前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定する第一圧力計と、
前記第一圧力計よりも前記圧送される方向の下流に位置し、前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定する第二圧力計と、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記加振器が前記配管に振動を与える位置は、前記第一圧力計よりも前記圧送される方向の下流に位置し、かつ、前記第二圧力計よりも前記圧送される方向の上流に位置することを特徴とする、請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記第一圧力計及び前記第二圧力計の少なくとも一つに伝わる振動を吸収する振動吸収部を備えることを特徴とする、請求項2又は3に記載の評価装置。
【請求項5】
前記振動吸収部は、前記加振器と前記第一圧力計の間に設けられた第一防振継手、及び、前記加振器と前記第二圧力計の間に設けられた第二防振継手の少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項4に記載の評価装置。
【請求項6】
前記フレッシュコンクリートの容器と、
前記容器の中で、前記フレッシュコンクリートを流動させる回転翼と、
前記回転翼を任意の回転数で回転させる駆動部と、を備え、
前記検出器は、前記回転翼の回転トルクを測定するトルク計を備えることを特徴とする、請求項1に記載の評価装置。
【請求項7】
前記フレッシュコンクリートを輸送する輸送車であって、請求項1~6のいずれか一項に記載の評価装置を備えることを特徴とする、輸送車。
【請求項8】
フレッシュコンクリートを流動させ、
前記流動するフレッシュコンクリートを加振させ、
加振中の前記フレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出し、
前記検出した結果に基づいて、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価することを特徴とする、フレッシュコンクリートの材料分離リスク評価方法。
【請求項9】
前記フレッシュコンクリートは配管内の圧送により流動させられ、
前記流動するフレッシュコンクリートの加振は、前記配管に取り付けられた加振器により行われ、
前記フレッシュコンクリートの前記振動の伝播の程度の検出は、第一圧力計で、前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定し、
前記第一圧力計よりも下流に位置する第二圧力計で、前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定し、
前記第一圧力計の測定結果及び前記第二圧力計の測定結果から、前記フレッシュコンクリートの圧力損失を求めることにより行われることを特徴とする、請求項8に記載の評価方法。
【請求項10】
前記フレッシュコンクリートは容器内に溜められ、
前記フレッシュコンクリートの前記振動の伝播の程度の検出は、
前記容器内の前記フレッシュコンクリートに挿入された回転翼を回転することにより、前記フレッシュコンクリートを流動させ、
前記容器内の前記フレッシュコンクリートに挿入された加振器により、流動する前記フレッシュコンクリートを加振し、
前記回転翼の回転トルクを測定することにより行われることを特徴とする、請求項8に記載の評価方法。
【請求項11】
前記測定は繰り返し行われ、
繰り返し行われた前記測定の結果の代表値に基づいて、前記振動の伝播の程度を検出することを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項12】
前記測定の結果を、予め設定された規格値と比較して、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価することを特徴とする、請求項9~11のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項13】
請求項12に記載の評価方法で評価された前記材料分離リスクに基づいて、前記フレッシュコンクリートの圧送又は製造の管理をする管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレッシュコンクリートの材料分離リスク評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレッシュコンクリートは、生コン工場で材料を練り混ぜて製造される。製造されたフレッシュコンクリートは、アジテータ車に流し込まれて打設現場まで運搬される。打設現場において、フレッシュコンクリートは、アジテータ車からポンプで施工箇所まで圧送されて、打設される。
【0003】
フレッシュコンクリートを打設した後には、通常、充填したい箇所の隅々にまでコンクリートを行き渡らせるために、締固め作業を行う。締固め作業が不十分であると、充填したい箇所の隅々にまでコンクリートが行き渡らない。締固め作業が過剰であると、フレッシュコンクリートは材料分離するおそれがある。材料分離とは、フレッシュコンクリートの取扱い中に、その構成材料の分布が不均一となる現象である。例えば、フレッシュコンクリートのうち、比重の重い骨材がペーストに対して沈降し、下部では骨材が過剰に密集する現象をいう。フレッシュコンクリートに材料分離が生じると、コンクリート構造物において充填不良等の欠陥の発生や、耐久性の低下などにつながるおそれがある。
【0004】
よって、以前より、締固め作業をどの程度行うかについて管理されてきた。例えば、特許文献1及び特許文献2には、締固め作業を行う際に、打設したコンクリートの粘性を求めて、締固め時間等を判定する方法が記載されている。特許文献3には、傾斜フロー試験によって粘性に関係するレオロジー定数を測定し、コンクリートの打設現場におけるコンクリートの締固め性等の施工性を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-169003号公報
【特許文献2】特開2013-36162号公報
【特許文献3】特開2019-117093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリートの欠陥を導き得る材料分離の発生しやすさは、締固め作業の内容によってのみ決定されるものではない。例えば、フレッシュコンクリート自体の特性によっても、異なる。フレッシュコンクリート自体の特性とは、具体的には、フレッシュコンクリートの構成材料の配合比や、構成材料を混錬してからの経過時間などである。
【0007】
特許文献1,2では、打設後のコンクリートの粘性を測定するため、打設前のフレッシュコンクリートの有する材料分離の発生しやすさの程度を評価できない。よって、仮に、打設前のフレッシュコンクリートの有する材料分離の発生しやすさの程度が高くても、打設を中止することができない。特許文献3では、施工場所において、フレッシュコンクリートの測定試料を採取し、計測する手間が掛かる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて案出されたもので、フレッシュコンクリートを打設する前に、簡便な方法でフレッシュコンクリート自体の材料分離の発生しやすさの程度を評価できる、評価装置及び評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の材料分離リスク評価装置は、流動しているフレッシュコンクリートを加振させる加振器と、
前記加振器により加振された前記フレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価する評価部と、
前記評価部で評価した結果を出力する出力部と、を備える。
【0010】
本発明者らの鋭意研究の結果、コンクリートの欠陥を導き得る材料分離について、その発生しやすさの程度として材料分離リスクを観念し、これを評価できることを見出した。材料分離リスクとは、フレッシュコンクリート(材料を混合したときから、打設・締固め後に固まるときまでの固まっていない状態のコンクリートをいう。)の取扱い中における材料分離の発生しやすさの指標である。フレッシュコンクリートの供給者は、この指標の評価方法と管理値を、必要に応じて使用者と協議しながら定める。そして、定めた評価方法による指標の基準を満足するように、供給者がフレッシュコンクリートの品質を管理する。
【0011】
詳細は後述するが、この材料分離リスクは、流動しているフレッシュコンクリートの加振下における振動の伝播の程度と相関があるという知見を得た。そして、この知見より、流動しているフレッシュコンクリートを加振したときの振動の伝播の程度を検出し、材料分離リスクを評価できることに思い至った。この振動の伝播の程度は、加振下における粘性測定方法を利用することで検出できる。つまり、加振下におけるフレッシュコンクリートの粘性を測定することで、加振したときの振動の伝播の程度を検出し、この検出結果に基づいてフレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価できることに思い至った。
【0012】
フレッシュコンクリートの打設前において、流動しているフレッシュコンクリートは、例えば、以下に示す状況下に存在する。第一に、打設現場等で、圧送管の中を圧送される状況下である。第二に、生コン工場等で、容器内で撹拌される状況下である。
【0013】
よって、圧送管の中を圧送される状況下、または、生コン工場等で、容器内で撹拌される状況下などにおいて、流動しているフレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出することで、フレッシュコンクリートの打設前に材料分離リスクを評価できる。
【0014】
材料分離リスクの評価のために、施工場所で試料を採取して計測する必要はないため、この評価方法は、手間が掛からず簡便である。さらに、時間の経過とともに変化する材料分離リスクを、常時モニタリングすることも簡便に実施できる。
【0015】
流動している前記フレッシュコンクリートは配管内を圧送されるものであり、
前記加振器は前記配管に取り付けられており、
前記検出器は、
前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定する第一圧力計と、
前記第一圧力計よりも前記圧送される方向の下流に位置し、前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定する第二圧力計と、を備えても構わない。
【0016】
配管の中を圧送されるフレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出する方法として、いわゆる圧損型粘度計の原理が適用できる。つまり、配管に沿って一定距離離れた二箇所に、第一圧力計と第二圧力計を配置し、二つの圧力計の測定値から、配管内における圧力損失を算出する。圧力損失は、配管の中を流動しているフレッシュコンクリートの粘性を表す。
【0017】
前記加振器が前記配管に振動を与える位置は、前記第一圧力計よりも前記圧送される方向の下流に位置し、かつ、前記第二圧力計よりも前記圧送される方向の上流に位置しても構わない。これにより、第一圧力計が取り付けられた位置と第二圧力計が取り付けられた位置との間にあるフレッシュコンクリートに対し、効果的に振動を与えることができる。
【0018】
前記第一圧力計及び前記第二圧力計の少なくとも一つに伝わる振動を吸収する振動吸収部を備えても構わない。第一圧力計及び第二圧力計の少なくとも一つが振動を受けにくくすることで、精確な圧力測定を可能にする。
【0019】
前記振動吸収部は、前記加振器と前記第一圧力計の間に設けられた第一防振継手、及び、前記加振器と前記第二圧力計の間に設けられた第二防振継手の少なくとも一つを含んでも構わない。
【0020】
前記フレッシュコンクリートの容器と、
前記容器の中で、前記フレッシュコンクリートを流動させる回転翼と、
前記回転翼を任意の回転数で回転させる駆動部と、を備え、
前記検出器は、前記回転翼の回転トルクを測定するトルク計を備えても構わない。回転トルクは、加振器から一定距離離れた位置のフレッシュコンクリートの塑性粘度を反映している。そして、回転トルクの測定結果から、振動の伝播の程度を検出できる。
【0021】
本発明は、上述した評価装置を備える、前記フレッシュコンクリートを輸送する輸送車である。
【0022】
本発明のフレッシュコンクリートの材料分離リスク評価方法は、フレッシュコンクリートを流動させ、
前記流動するフレッシュコンクリートを加振させ、
加振中の前記フレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出し、
前記検出した結果に基づいて、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価する。
【0023】
前記フレッシュコンクリートは配管内の圧送により流動させられ、
前記流動するフレッシュコンクリートの加振は、前記配管に取り付けられた加振器により行われ、
前記フレッシュコンクリートの前記振動の伝播の程度の検出は、第一圧力計で、前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定し、
前記第一圧力計よりも下流に位置する第二圧力計で、前記配管内の前記フレッシュコンクリートの圧力を測定し、
前記第一圧力計の測定結果及び前記第二圧力計の測定結果から、前記フレッシュコンクリートの圧力損失を求めることにより行われても構わない。
【0024】
前記フレッシュコンクリートは容器内に溜められ、
前記フレッシュコンクリートの前記振動の伝播の程度の検出は、
前記容器内の前記フレッシュコンクリートに挿入された回転翼を回転することにより、前記フレッシュコンクリートを流動させ、
前記容器内の前記フレッシュコンクリートに挿入された加振器により、流動する前記フレッシュコンクリートを加振し、
前記回転翼の回転トルクを測定することにより行われても構わない。
【0025】
前記測定は繰り返し行われ、
繰り返し行われた前記測定の結果の代表値に基づいて、前記振動の伝播の程度を検出しても構わない。フレッシュコンクリートは不均一な流体であるから、圧力測定値がばらつきを生じやすい。繰り返し行われた測定結果の代表値を使用することにより、精確な圧力損失を求めることができる。なお、本明細書における「代表値」には、測定結果の集合の平均値、最頻値及び中央値を含む概念が適用できる。そして、「平均値」には、相加平均や相乗平均など、様々な平均値の概念を適用できる。
【0026】
前記測定の結果を、予め設定された規格値と比較して、前記フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価しても構わない。これにより、材料分離リスクに基づくフレッシュコンクリートの合否判定を明確化できる。
【0027】
上述した評価方法で評価された前記材料分離リスクに基づいて、前記フレッシュコンクリートの圧送又は製造の管理をしても構わない。例えば、材料分離リスクが高いと評価されたとき、フレッシュコンクリートの圧送又は製造を停止させる。
【発明の効果】
【0028】
これにより、フレッシュコンクリートの打設前に、簡便な方法でフレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価できる評価装置及び評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】打設現場においてフレッシュコンクリートを圧送する様子を示す模式図である。
【
図2】材料分離リスク評価装置の配管付近を拡大して示す模式図である。
【
図3】振動印加期間と圧力測定期間を示す図である。
【
図4】第二実施形態の材料分離リスク評価装置の模式図である。
【
図5】各試料の圧力損失と目視観察による材料分離リスク値との関係を示したグラフである。
【
図6】各試料の回転トルクと目視観察による材料分離リスク値との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係るフレッシュコンクリートの材料分離リスク評価装置及び評価方法につき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0031】
<第一実施形態>
図1は、打設現場において、フレッシュコンクリートを、ポンプ8から圧送管(11a,11b)及び排出管12を通り打設場所9まで圧送する様子を模式的に示す上面図である。フレッシュコンクリートの圧送方向は、矢符13で表される。
【0032】
圧送管(11a,11b)は、周囲から閉ざされた中空状の流路である。圧送管(11a,11b)は、必ずしも一体的な管ではなく、複数の管が接続されて形成されてよい。さらに、
図1に示されるように、圧送管(11a,11b)は、曲がりの無い直管の他に、曲がりの有るベンド管を含んでもよい。
【0033】
ポンプ8は、フレッシュコンクリートを圧送するのに使用される。ポンプ8を、輸送車に搭載してもよい。ポンプ8として、スクイーズ式、ピストン式又はスクリュー式等の種々のポンプを適用できる。なお、ポンプ8は必須の構成ではない。ポンプ以外の圧送方法として、例えば高低差を使用した重力による圧送方法を採用しても構わない。
【0034】
本実施形態において、フレッシュコンクリートには、一般的なコンクリートよりも流動性の高い中流動コンクリートを使用している。中流動コンクリートは、鉄筋が複雑に、或いは高密度に配置された場所や、複雑な形状の型枠のある場所でも、隅々にまで行き渡らせやすい。その反面、中流動コンクリートは、一般的なコンクリートよりも、高い材料分離リスクを呈する。よって、中流動コンクリートは、特に、材料分離リスクを高頻度に評価することが望まれる。
【0035】
[材料分離リスク評価装置の概要]
圧送管(11a,11b)の途中に、材料分離リスクを評価する材料分離リスク評価装置10が配置されている。フレッシュコンクリートが圧送管(11a,11b)の中を圧送されるとき、フレッシュコンクリートは流動状態にある。流動しているフレッシュコンクリートが材料分離リスク評価装置10を通過する際、当該フレッシュコンクリートの材料分離リスクが評価される。
【0036】
材料分離リスク評価装置10は、圧送管11aと圧送管11aの下流の圧送管11bとの間に位置する配管4に取り付けられた加振器1と、加振器1により加振されたフレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいて、フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価する評価部5と、評価部5で評価した結果を出力する出力部7と、評価部5及び出力部7を制御する制御部6と、を含む。本実施形態において、検出器は、圧送管11a内のフレッシュコンクリートの圧力を測定する第一圧力計2と、圧送管11b内のフレッシュコンクリートの圧力を測定する第二圧力計3とを含む。
【0037】
第一圧力計2及び第二圧力計3は、それぞれ、評価部5と電気的に接続され、フレッシュコンクリートの圧力測定結果を電気信号として評価部5に送出する。評価部5は、圧力計(2,3)の圧力測定結果から圧力損失を求める。その理由を説明する。
【0038】
[フレッシュコンクリートの粘性と材料分離リスク]
本発明者らは、鋭意研究の結果、材料分離リスクは、流動しているフレッシュコンクリートを加振したときの振動の伝播の程度と相関があるという知見を得た。振動の伝播の程度とは、振動の伝播しやすさのことを表す。
【0039】
フレッシュコンクリートは、ビンガム流体的な挙動をすることが知られている。ビンガム流体とは、せん断力と呼ばれる圧力が降伏値と呼ばれる値以下では流動せず、せん断力が降伏値を超えたとき、降伏値に対するせん断力の増分に相関する粘性を示して流動する、流体である。フレッシュコンクリートにおいて、主に、ペースト(一般的には、水、セメント、砂の混合物)と骨材(砂利)との間に生じる摩擦に起因して、このようなビンガム流体的な挙動が生じる。
【0040】
流動しているフレッシュコンクリートを加振すると、その振動によりペーストと骨材間の摩擦が小さくなる。その結果、流動しているフレッシュコンクリートの粘性が低下する。
【0041】
材料分離リスクの低いフレッシュコンクリートでは、フレッシュコンクリートを加振したときに、振動の伝播の程度が大きく(振動が伝播しやすく)、振動が広範囲に伝播する。振動が広範囲に伝播すると、ペーストと骨材間の摩擦が広範囲で低下する。その結果、フレッシュコンクリートの粘性は、全体として大きく低下する。材料分離リスクの高いフレッシュコンクリートでは、フレッシュコンクリートを加振したときに、振動の伝播の程度が小さく(振動が伝播しにくく)、振動の伝播する範囲が狭い。振動が狭い範囲に限られるため、ペーストと骨材間の摩擦が狭い範囲で低下する。その結果、フレッシュコンクリートの粘性は、全体として低下しにくい。
【0042】
本発明者らは、以上に示した知見に基づいて、流動しているフレッシュコンクリートの粘性を計測する方法を利用して、材料分離リスクを評価できることに思い至った。そして、本実施形態では、フレッシュコンクリートの粘性計測方法のひとつである、圧力損失の測定方法を使用することにした。
【0043】
[第一実施形態の材料分離リスクの評価方法]
図2を参照しながら、第一実施形態の材料分離リスクの評価方法を詳細に説明する。
図2は、
図1の材料分離リスク評価装置10において、加振器1の取り付けられる配管4付近を拡大して示す模式図である。
図2において、加振器1を中心に点線で示される半円は、加振器1の振動が周囲に伝わる様子を示している。配管4の中を圧送されるフレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出する方法として、いわゆる圧損型粘度計の原理が適用できる。
【0044】
配管4は、上流側において第一防振継手15aを介して圧送管11aと接続され、下流側において第二防振継手15bを介して圧送管11bと接続される。上流側の圧送管11aの端部には第一圧力計2が取り付けられ、下流側の圧送管11bの端部には第二圧力計3が取り付けられる。
【0045】
第一圧力計2及び第二圧力計3を使用してそれぞれ圧力を測定する。そして、第一圧力計2の圧力と第二圧力計3の圧力との圧力差は、第一圧力計2が取り付けられた位置と第二圧力計3が取り付けられた位置との間にあるフレッシュコンクリートにより生じた圧力損失を示す。この圧力損失は、圧送管(11a,11b)と配管4の中を流動しているフレッシュコンクリートの粘性を表す。つまり、圧力損失が大きいとフレッシュコンクリートの粘性が大きく、振動が広範囲に伝播していないことを示す。圧力損失が小さいとフレッシュコンクリートの粘性が小さく、振動が広範囲に伝播していることを示す。
【0046】
なお、フレッシュコンクリートの圧送を重力によって行う場合には、第一圧力計2が取り付けられた位置と第二圧力計3が取り付けられた位置との間で、フレッシュコンクリートの自重の違いにより圧力が異なってくる。よって、その場合には、第一圧力計2又は第二圧力計3の測定値に対して、フレッシュコンクリートの自重分を補正するとよい。
【0047】
図2に示されるように、配管4において、加振器1の取り付けられる位置は、第一圧力計2よりも圧送される方向の下流に位置し、かつ、第二圧力計3よりも圧送される方向の上流に位置する。すなわち、二つの圧力計(2,3)の間に加振器1を有する。これにより、第一圧力計2が取り付けられた位置と第二圧力計3が取り付けられた位置との間にあるフレッシュコンクリートに対し、効果的に加振できる。
【0048】
本実施形態の材料分離リスク評価装置10は、圧送されるフレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価できる。よって、材料分離リスクの評価を、フレッシュコンクリートの打設前に実施できる。また、材料分離リスクの評価のためだけに、試料を採取しなくてもよい。さらに、この評価方法は、材料分離リスクの経時的変化を常時モニタリングすることも簡便に実施できる。材料分離リスク評価装置10を、フレッシュコンクリートを輸送する輸送車(フレッシュコンクリートを圧送するポンプ車を含む)が備えていてもよい。
【0049】
[防振継手]
図2を参照して、防振継手(15a,15b)は、振動吸収部として機能し、加振器1の振動が、圧送管(11a,11b)に伝播するのを抑制する。これにより、圧送管(11a,11b)にそれぞれ配置されている第一圧力計2及び第二圧力計3が、加振器1からの振動を受けにくくしている。これにより、第一圧力計2及び第二圧力計3において精確に圧力測定できる。
【0050】
また、加振器1の取り付けられた配管4は、振動を受けて劣化しやすい。配管4を、防振継手(15a,15b)を介して圧送管(11a,11b)に接続することにより、劣化しやすい、加振器1の取り付けられた配管4及び防振継手(15a,15b)を、圧力計(2,3)から独立して交換できるため、交換作業を簡便にできるという効果も得られる。ただし、防振継手(15a,15b)は必須の構成ではなく、防振継手を使用しなくても構わない。
【0051】
[加振器]
加振器1は、例えば、モーターに偏心重りを装着して発生させた遠心力を振動に変換する装置を用いることができ、特に、20m/s2以上の加速度の振動を印加可能な装置を好適に用いることができる。加振器1を使用して、振動を印加する場合には、当該加振器1のコンクリートに接する面における加振器表面の振動の加速度が20m/s2以上となるような振動を印加することが好ましい。このような強い振動を与えることにより、フレッシュコンクリートの粘性を、全体として大きく低下させることができ、その結果、流動しているフレッシュコンクリートの材料分離リスクをより精確に評価できる。さらに、印加する振動の加速度は、20~50m/s2の範囲内にあると、より好ましい。締固め作業に使用する加振器の加速度に近い値となるため、締固め時の材料分離の再現性が向上する。
【0052】
振動の周波数は、締固め作業に使用する加振器と同程度である100~300Hzであることが好ましい。特に、200~260Hzであるとより好ましい。振動幅は、圧送管の管径に基づいて規定される。配管の直径/振動の振幅の値は500~20000であるとよく、より好ましくは1000~10000であるとよい。この範囲にあると、材料分離リスクの差によって振動が伝搬する範囲の違いが表れやすく、材料分離リスクを評価しやすくなる。
【0053】
加振器1の取り付けられる配管4、及び圧送管(11a,11b)の材質は、コンクリートポンプの圧送管として使用可能な強度を有するものであれば、特に限定されない。
【0054】
[圧力計]
圧力計(2,3)は、
図2に示されるような、受圧部が凸形状のものであると好ましい。また、圧力計(2,3)には、圧力変動に強いフラッシュダイヤフラム型の圧力計を使用すると好ましい。
【0055】
[評価部]
評価部5は、圧力計(2,3)の測定結果から圧力損失を求める。そして、評価部5は、求めた圧力損失からフレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価する。求めた圧力損失と予め設定された圧力損失の規格値とに基づいて、材料分離リスクを評価してもよい。例えば、圧力計の測定結果により求められる圧力損失が、予め設定された圧力損失の規格値を下回ったとき、フレッシュコンクリートを不合格と判定する。
【0056】
[出力部]
出力部7は、評価部5で評価した結果等を出力する。具体的には、圧力値、圧力損失又は材料分離リスク評価を出力する。出力部7の一例は、評価結果を作業者に伝えるためのインターフェースである。このようなインターフェースとして、ディスプレイ、警報音若しくは警報光を発生される警報器、又はプリンタ等が考えられる。
【0057】
[制御部]
制御部6は、評価部5による評価結果を出力部7に出力する。例えば、制御部6は、出力部7に不合格である旨を出力させて、作業者に伝える。作業者は、フレッシュコンクリートの圧送を停止するように管理する。制御部6がフレッシュコンクリートの圧送を停止させても構わない。具体例を示すと、制御部6は、フレッシュコンクリートが排出管12から排出されないように圧送管の流路を切り替えても構わない。
【0058】
[振動の印加方法と圧力測定方法]
図3を参照しながら、振動の印加方法と圧力測定方法について説明する。
図3は、振動印加期間と圧力測定期間を示す図である。
図3において、横軸は時間Tの経過を表す。振動印加期間をV1、V2、V3として表す。圧力測定期間をM1、M2、M3として表す。振動印加期間でない期間は、振動休止期間である。つまり、本実施形態では、断続的に振動を印加している。振動休止期間を設けることで、振動を連続的に受け続けることによる装置の劣化を抑えるとともに、フレッシュコンクリートの過剰振動による材料分離を防ぐ。
【0059】
任意の振動印加期間の開始時点から、一つの振動休止期間を含み、次の振動印加期間の開始時点までを一サイクルとして捉える。本実施形態では、振動印加期間V1の開始時点t
1から、次の振動印加期間V2の開始時点t
3までをサイクルC1として捉える。このサイクルを複数回行う。
図3では、サイクルC3の途中までしか示されていないが、サイクルを4回以上繰り返してもよい。
【0060】
一サイクルの中に、一つの圧力測定期間が存在する。振動印加期間(V1、V2、V3)のそれぞれでは、加振器1は常に振動を加えているのに対し、圧力測定期間(M1、M2、M3)は、各期間中に複数回の測定を行う。
図3の下半分では、圧力測定期間M1と振動印加期間V1を拡大して示している。圧力測定期間M1の中で、測定と休止の小サイクルを繰り返す。第一回目の測定がm1、第二回目の測定がm2と示されている。ハッチングされた領域(m1、m2、・・・)は、実際に測定している時間を表す。
【0061】
一つの圧力測定期間(例えば、M1)の中で、10回以上の測定(m1、m2、・・・)を行うとよい。フレッシュコンクリートは不均一な流体であるから、圧力測定値がばらつきを生じやすい。一定時間内で圧力を繰り返し測定して、圧力の代表値(例えば、相加平均値)を算出することで、フレッシュコンクリートの正確な圧力値を得ることができる。
【0062】
振動の印加開始から、振動の印加によるフレッシュコンクリートの圧力低下が生じるまでには時間を要する。そこで、圧力測定(M1、M2、M3)の開始時期を、振動の印加(V1、V2、V3)の開始時期より遅らせる、オフセット時間を設けるとよい。例えば、圧力測定の開始時点t2を、振動の開始時点t1より、0.5秒以上遅らせる。これにより、振動の印加によるフレッシュコンクリートの圧力低下が反映された後に、圧力測定を開始できるため、精確な測定を可能にする。
【0063】
振動の印加時間の合計(V1+V2+V3+・・・)は、フレッシュコンクリートを圧送している時間全体の10%以下であるとよい。一サイクル(例えば、サイクルC1)の周期は1~5分であるとよい。振動印加期間(例えば、V1の長さ)は1~10秒であるとよい。これにより、振動に伴うフレッシュコンクリートの材料分離を抑制できる。
【0064】
<第二実施形態>
第二実施形態を説明する。第二実施形態では、容器内で撹拌されることで流動しているフレッシュコンクリートの振動の伝播の程度を検出する方法である。この方法は、生コン工場でも採用でき、生コン工場にてフレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価できる。評価が不合格である場合には、例えば、フレッシュコンクリートの製造又は出荷を停止することができる。なお、以下に示すこと以外は、第一実施形態と同様に実施できる。
【0065】
[第二実施形態の材料分離リスクの評価方法]
図4を参照しながら、第二実施形態の材料分離リスク評価方法を説明する。
図4に記載の材料分離リスク評価装置20は、回転翼を使用して回転トルクを測定する方法である。回転トルクの値は、加振器から一定距離離れた位置のフレッシュコンクリートの塑性粘度を反映している。粘度の変化は振動によってもたらされるから、回転トルクを測定することで、振動の伝播の程度を検出できる。
【0066】
図4において、容器23には、フレッシュコンクリートF1が溜められている。容器23内部には、回転翼22と加振器21が配置されている。加振器21は、回転翼22と容器23の底との間に配置されている。本実施形態において、加振器21は棒状であり、加振器21と同径の棒24の先端に取り付けられている。棒24は、容器23側面から容器23の内部に向かって挿入されている。本実施形態において、回転翼22の中心軸、容器23の中心軸、及び加振器21の中心軸は、同軸となるように設定されている。
【0067】
回転翼22は駆動部25によって回転させられる。また、回転翼22には、振動の伝播の程度を検出する検出器として、回転トルクを測定するトルク計26を有する。駆動部25は、回転数を設定して回転翼22を回転させることができる。トルク計26は、所定の回転数で回転翼22を回転させるときの、回転トルクを測定することができる。
【0068】
加振器21の振動により、フレッシュコンクリートが流動しやすくなる。材料分離リスクの低いフレッシュコンクリートの場合、振動の伝播の程度が大きいため、加振器21から比較的広範囲のフレッシュコンクリートの粘性が低下する。そして、回転翼22付近に位置するフレッシュコンクリートの粘性低下に伴い、回転翼22の回転トルクが小さくなる。材料分離リスクの高いコンクリートの場合、振動の伝播の程度が小さいため、加振器21からの振動が減衰し、加振器21によるフレッシュコンクリートの粘性低下は限定的である。そのため、回転翼22の回転トルクは大きいままである。よって、トルク計の回転トルクの値は、流動しているフレッシュコンクリートF1の振動の伝播の程度を表す。
【0069】
上述した第二実施形態の材料分離リスクの評価方法は、第一実施形態と同様に実施できる。第二実施形態の材料分離リスクの評価方法の具体例を、第一実施形態の材料分離リスクの評価方法で使用した
図3を用いながら説明する。
【0070】
回転翼22を安定して回転させるため、まず、加振器21に振動を印加することなく、時間t0から回転翼22を回転させる。回転翼22の回転開始から一定時間経過後に、加振を開始する。加振開始時点t1から一定期間経過後の時点t2から、回転トルクの測定を開始する。トルク計の測定は複数回行い、測定結果の代表値(例えば、相加平均値)を使用するとよい。回転翼型粘度計の場合、回転翼22の安定に時間がかかる傾向がある。よって、加振開始時点t1と回転トルクの測定開始時点t2と間のオフセット時間を、第一実施形態における加振開始時点t1と圧力測定開始時点t2との間のオフセット時間に比べて、長くするとよい。
【0071】
本実施形態では、容器23は、粘度を計測するためにフレッシュコンクリートF1が投入されるが、この容器23と回転翼22を、バッチ式のミキサに使用してもよい。例えば、フレッシュコンクリートF1の構成材料を容器23に投入して、回転翼22を回転させて混錬する。混錬した後に、加振器21と回転翼22を使用して、回転トルクを測定する。測定の終了したフレッシュコンクリートF1は、容器23から排出する。また、本実施形態の材料分離リスク評価装置20を、第一実施形態で説明した、フレッシュコンクリートをポンプ8で施工箇所まで圧送する態様にも適用できる。例えば、ポンプ8の上流側にフレッシュコンクリートの滞留部を設け、滞留部に小型の回転翼を設置する構成でもよいし、ポンプ8に接続される輸送車内に回転翼を設ける構成でもよい。また、輸送車に搭載されている、回転可能なドラムに、トルク計を設けてもよい。
【0072】
以上、二つの実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【0073】
フレッシュコンクリートの材料分離リスクの評価方法に、圧損型粘度計及び回転翼型粘度計の原理を利用する例を説明したが、本発明において材料分離リスクを評価する方法は上述した二つに限定されない。上述した二つの計測方法の他に、例えば、球引上げ式粘度計を使用した粘性計測方法を使用してもよい。球引上げ式粘度計のように、検出部の振動部に対する距離が変化する粘度計の場合、検出部と振動部の距離の変化に対する粘度の変化を把握することで、高精度に材料分離のリスクを検知できる。
【実施例0074】
<実施例1>
第一実施形態の材料分離リスクの評価方法を使用して、実際に材料分離リスクが評価できるか否かを実験で確認した。実験条件は、以下のとおりである。
【0075】
ポンプ8: 真空スクイーズ式コンクリートポンプ(最大吐出量25m3/h)
圧送管(11a、11b): 管径は4インチである。圧送管は、3mの直管と、r=0.35m、角度90°のベンド管を含む。
排出管12: 5mのフレキシブルホースである。
配管4:管径4インチ、長さ40cmである。両端がフランジ加工されている。管の中間部に棒状加振器が取り付けられている。
防振継手(15a,15b): 呼び径4インチ、長さ約15cmである。
圧力計(2,3): フラッシュダイヤフラム型圧力計を使用する。第一圧力計2と第二圧力計3との間隔が、配管4を含めて1.0mとなるように圧送管(11a,11b)
加振器1: 携帯型の振動計として、昭和測器社製Model1332-Bを用いて、加振器1の、配管4の延びる方向と垂直な向きにおける加速度及び変位を8か所で測定した。8か所の平均加速度が34m/s2、平均変位が0.027mmであった。配管4の呼び径/振動幅の比は、3700であった。
【0076】
フレッシュコンクリートの構成材料、又は、原料の混合からポンプ運転開始までの経過時間を異ならせた、10個の試料を準備した。10個の試料について、原料の配合、フレッシュ性状の実測値、及び経過時間を表1に示す。表1において、Wは水、Cはセメント、Sは細骨材、Gは粗骨材、W/Cは水とセメントの重量比、s/aは全骨材における細骨材の容積率を表す。フローはスランプフロー試験の結果を表す。
【0077】
【0078】
ポンプを平均吐出量15m3/hに設定した上で、試料ごとに195秒運転した。吐出量を安定させるため、運転開始から60秒が経過するまでは振動を印加しなかった。60秒(時間t1)が経過した時点で、3秒間の加振を行った。すなわち、振動印加期間V1は3秒である。加振開始から1秒経過後から圧力測定を開始した。すなわち、圧力測定開始時点t2は61秒である。圧力測定期間M1は2秒間である。その間に、上流側と下流側それぞれにつき、応答速度100msで20点の圧力(単位N/mm2)を測定した。
【0079】
圧力測定値から圧力損失への換算は、上流側と下流側それぞれの相加平均値の差分を求め、この差分を、第一圧力計2と第二圧力計3との距離(単位:m)で除すことにより求められる。本実施例では、第一圧力計2と第二圧力計3との距離は1.0mであるため、上流側と下流側それぞれの相加平均値の差分が、圧力損失になる。
【0080】
運転開始から1分3秒~2分の間は加振及び圧力測定を行わっていない。ここまでがサイクルC1である。2分後からサイクルC2を開始した。サイクルC2の加振及び圧力測定の条件は、サイクルC1と同様である。サイクルC2終了後に、サイクルC3を行った。サイクルC3で加振及び圧力測定を終了した。
【0081】
圧力損失から材料分離リスクの導出が可能であることの確認を行うため、材料分離リスクを、NEXCO試験方法773-2008(以下、「試験法773」という。)に定められる加振変形試験方法をベースとした方法で判定した。
【0082】
試験法773に準拠する加振変形試験器(天板サイズ700×700mm、振動体呼び径32mm、最大振動数41m/s2)を水平な場所に設置し、加振変形試験器上でJIS A 1101:2020「コンクリートのスランプ試験方法」に従ってスランプ試験を行った。続いて、JIS A 1150:2020「コンクリートのスランプフロー試験方法」に従って、コンクリートのフローを測定した。
【0083】
次に、棒状の加振器の電源を入れて9.3秒の振動を与えた。この振動は、フレッシュコンクリートの単位容積質量が2.25kg/Lである場合に、板状に作用する振動エネルギーを3.7J/L与えることになる。振動を与えた後、コンクリートのフローを測定し、その状態で目視観察を行った。
【0084】
目視観察は、次の要領で行った。試験の参加者から予め選んだ判定者3名が、目視により「材料分離している(1.0点)」、「材料分離ぎみである(0.5点)」及び「材料分離していない(0点)」の3段階の中から選択した。1.0点は、打設時に締固めをしなくても材料分離するおそれがあることを示す。0点は、過剰に締固めをしてしまった場合でも材料分離しにくいことを示す。各判定者の評価点の相加平均値を、当該試料の材料分離リスク値と定めた。材料分離リスク値が大きいほど、材料が分離する可能性が高いことを表す。なお、試料の配合割合等の情報から先入観を持たないよう、判定者には、各試料の情報を伝えなかった。また、各判定者の評価が、他の判定者の意見の影響を受けないように、判定者間での相談も禁じた。
【0085】
10個の試料の圧力損失と材料分離リスク判定結果を表2に示す。C1~C3は各サイクルにおいて求められた圧力損失を表す
【表2】
【0086】
図5は、表2に示された10個の試料について、圧力損失の平均値を横軸に、目視観察による材料分離リスク値を縦軸にプロットしたグラフである。このグラフに示されるように、圧力損失が閾値4×10
-2(N/mm
2/m)を超えると、目視観察による材料分離リスクが大きく増加していることがわかる。すなわち、圧力損失と目視観察による材料分離リスクは相関している。このことから、流動しているフレッシュコンクリートを振動させたときの圧力損失を指標に、フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価することが可能であることが確認された。なお、上記の要領で得られた閾値を、材料分離リスク評価の規格値として採用してもよい。
【0087】
<実施例2>
第二実施形態の材料分離リスクの評価方法を使用して材料分離リスクが評価できるか否かを確認する。評価に使用した諸条件は以下のとおりである(
図4参照)。
【0088】
容器23:直径600mm、高さ500mm、壁面の肉厚が1.6mmの円筒容器である。棒状加振器が挿入されるように、円筒容器の底面から150mmの位置に直径40mmの孔が空けられている。
加振器21:円柱状の棒24の先端に取り付けられている。長さ175mm、直径28mmの円柱状である。加振器21が容器23の中央に来る位置まで挿入されている。加振器21を容器が空の状態で振動させたときの加速度は、振動部の中心位置で28m/s2、変位は0.024mmである。棒24から直接、容器23に振動が伝わることを抑えるため、容器23と棒24の隙間を防振ゴムで埋めている。
回転翼22:回転翼22は、径4mmの棒27の先端に取り付けられている。回転翼22は、直径100mm、高さ20mm、厚み2mmである。回転翼22の下端と加振器21の上端との距離は65mmである。なお、回転翼22の下端と加振器21の上端との距離(65mm)と、加振器21の振動の変位との比は、2708である。この比は、第一実施形態での配管4の管径と加振器1の変位との比に対応する。
フレッシュコンクリート:実施例1と同じ条件の試料番号1~10の10個の試料を、それぞれ、容器23に、350mm高さまで流し入れる。
【0089】
また、第二実施形態で説明したように、棒27には回転翼と棒を回転させるための駆動部25と回転トルクを測定するトルク計26が取り付けられている。加振器21を振動させた状態で回転翼を20rpmで回転させ、回転トルクを測定する。
【0090】
このとき、加振器21の振動によりフレッシュコンクリートが流動しやすくなる。材料分離リスクの低いフレッシュコンクリートであれば、回転翼22周辺のフレッシュコンクリートの粘性が大きく低下し、回転翼22のトルクが大きく低下する。逆に材料分離リスクの高いフレッシュコンクリートであれば、回転翼22の位置のフレッシュコンクリートに伝わる振動が減衰し、フレッシュコンクリートの粘性の低下は限定的である。その結果、回転翼22のトルクの低下幅は小さい。
【0091】
回転翼22が安定して回転できるように、回転翼22の回転開始後60秒は振動を印加しない。回転開始後、60秒経過した時点で30秒間加振した。すなわち、時間t1は60秒であり、振動印加期間V1は30秒である。振動印加後20秒経過後に、回転トルクの測定を開始した。回転トルクの測定期間M1は10秒間である。回転トルクの測定期間M1の間に、応答速度500msで20点測定した。そして、20点の回転トルク測定値の相加平均値を求め、回転トルク(N・m)とした。
【0092】
トルク値と各試料の材料分離リスク判定結果の関係を表3に示す。なお、各試料は実施例1と同じであるから、各試料の材料分離リスク判定結果も、実施例1のものと同じである。
【表3】
【0093】
図6は、表3に示された10個の試料について、平均トルクを横軸に、目視観察による材料分離リスク値を縦軸にプロットしたグラフである。このグラフに示されるように、トルクの閾値が0.75(N・m)を超えると、材料分離リスクが大きく増加していることがわかる。すなわち、回転トルクと目視観察による材料分離リスクは相関している。このことから、回転翼で流動させたフレッシュコンクリートを振動させたときの回転トルクを指標に、フレッシュコンクリートの材料分離リスクを評価することが可能であることが確認された。なお、上記の要領で得られた閾値を、材郎分離リスク評価の規格値として採用してもよい。