(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141158
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】コーティング錠
(51)【国際特許分類】
A61K 9/28 20060101AFI20220921BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20220921BHJP
A61P 3/02 20060101ALN20220921BHJP
A61K 31/375 20060101ALN20220921BHJP
A61K 31/167 20060101ALN20220921BHJP
A61K 31/192 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
A61K9/28
A61P29/00
A61P3/02 107
A61K31/375
A61K31/167
A61K31/192
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041339
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】591011384
【氏名又は名称】株式会社パウレック
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】内田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茜
(72)【発明者】
【氏名】平田 健二
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC05
4C076CC22
4C076EE23
4C076EE32
4C076EE32H
4C076FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086BA18
4C086GA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA20
4C086ZC28
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA04
4C206DA24
4C206GA02
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA55
4C206MA72
4C206NA20
4C206ZB11
(57)【要約】
【課題】製造された錠剤の間で薬物量のバラツキが生じる事態を回避すると共に、錠剤の製造コストを削減する。
【解決手段】コーティング錠1は、素錠部2と、素錠部2を被覆するコーティング膜3とを備える。素錠部2は薬物を含有しない。コーティング膜3は薬物を含有する。コーティング膜3は、薬物粒子を溶解又は分散させたコーティング液を素錠部2に噴霧して乾燥させることによって形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素錠部と、該素錠部を被覆するコーティング膜とを備えるコーティング錠において、
前記素錠部が薬物を含有せず、
前記コーティング膜が、薬物粒子を溶解又は分散させたコーティング液を前記素錠部に噴霧して乾燥させることによって形成されたことを特徴とするコーティング錠。
【請求項2】
前記コーティング液に溶解又は分散させられる薬物粒子について、体積基準の粒子径分布におけるメジアン径(D50)が、0.1μm~50μmである請求項1に記載のコーティング錠。
【請求項3】
前記コーティング膜に含有される薬物の量が、0.001mg~20mgである請求項1又は2に記載のコーティング錠。
【請求項4】
前記コーティング膜の外側又は内側に、前記コーティング膜とは異なるコーティング膜がコーティング液の噴霧と乾燥によって形成されている請求項1~3の何れか1項に記載のコーティング錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素錠部と、該素錠部を被覆するコーティング膜とを備えるコーティング錠に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品において、錠剤は最も普及している剤型である。通常、錠剤は、薬物(原薬)粒子や賦形剤粒子等を含む粉粒体に打錠(圧縮成形)工程を行うことにより製造する(例えば特許文献1参照)。また、打錠工程後の圧縮成形体(素錠)に、フィルムコーティングや糖衣コーティング等のコーティング工程を施して錠剤をコーティング錠とすることがある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-280316号公報
【特許文献2】特開2018-12662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、錠剤は、打錠工程を行う前には粉粒体の状態であるため、偏析等により粉粒体全体の中で薬物粒子が不均一に存在する可能性がある。このことに起因して、製造された錠剤の間で薬物量のバラツキが生じる可能性があるため、品質保証に多大なコストを要する。一方で、薬価の低下のために、錠剤の製造コストを削減することが求められている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、製造された錠剤の間で薬物量のバラツキが生じる事態を回避すると共に、錠剤の製造コストを削減することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を創案するに至った。すなわち、創案された本発明に係るコーティング錠は、素錠部と、該素錠部を被覆するコーティング膜とを備えるコーティング錠において、前記素錠部が薬物を含有せず、前記コーティング膜が、薬物粒子を溶解又は分散させたコーティング液を前記素錠部に噴霧して乾燥させることによって形成されたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、素錠部には薬物が含有されていないので、コーティング錠に含有される薬物の量は、このコーティング膜に含有される薬物の量で決まる。そして、薬物粒子は、コーティング液中で均一に存在することが可能である。従って、このコーティング液を乾燥させて形成したコーティング膜における薬物の含有量について、コーティング錠の間で生じるバラツキを抑制可能である。また、異なる薬物を含有するコーティング錠の製造において素錠部を共有化することにより、製造コストの削減が可能である。また、素錠部に薬物を含有させないことで、難易度の高い造粒工程から混合工程、ならびに打錠工程までの生産および品質管理を簡易化でき、これにより、製造コストの削減が可能である。すなわち、本発明に係るコーティング錠によれば、製造された錠剤の間で薬物量のバラツキが生じる事態を回避すると共に、錠剤の製造コストを削減することが可能である。
【0008】
また、従来では、薬物が素錠部に含有されているため、打錠工程での品質試験が求められるが、打錠工程は連続式製法に該当し、生産途中の1時点でサンプリングされた検体をもってロット全体の品質を保証することはできない。そのため、多くの時点でのサンプリングが必要であり、究極的には全数検査が望まれる。しかし、多くの時点でのサンプリングおよび検査はコストアップをもたらし、また非破壊試験で全数検査できる技術は未だ完成されているとはいえない。
【0009】
これに対し、本発明の上記の構成によれば、薬物がコーティング膜に含有されているため、品質試験は、コーティング工程またはコーティング錠に限ることができる。コーティング工程は、バッチ式であることから均質性が担保されており、適切にサンプリングされたコーティング錠の含量均一性試験結果は、そのバッチ全体を代表すると見なすことができるため、多くの箇所からサンプリングする必要はなく、適切にサンプリングされた1回の試験で品質を保証可能である。
【0010】
上記の構成において、前記コーティング液に溶解又は分散させられる薬物粒子について、体積基準の粒子径分布におけるメジアン径(D50)が、0.1μm~50μmであってもよい。
【0011】
この構成であれば、コーティング液への薬物粒子の溶解又は分散を容易化できる。
【0012】
上記の構成において、前記コーティング膜に含有される薬物の量が、0.001mg~20mgであってもよい。
【0013】
上記の構成において、前記コーティング膜の外側又は内側に、前記コーティング膜とは異なるコーティング膜がコーティング液の噴霧と乾燥によって形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造された錠剤の間で薬物量のバラツキが生じる事態を回避すると共に、錠剤の製造コストを削減することができる。換言すると、品質面では粉体加工に由来する品質のバラツキを解消することができ、素錠部の共有化により生産コストを削減でき、また、素錠部を生産する工程までの生産コストを大幅に削減できる。また、コーティング工程の難易度が上がることはなく、安定な生産と品質を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るコーティング錠の概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態の変形例に係るコーティング錠の概略断面図である。
【
図3】本発明の実施例3及び4に係るコーティング液についての薬物粒子の粒子径分布である。
【
図4】本発明の実施例3及び4に係るコーティング錠の溶出試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るコーティング錠の概略断面図である。このコーティング錠1は、素錠部2と、素錠部2を被覆するコーティング膜3とを備える。素錠部2は薬物を含有しない。コーティング膜3は薬物を含有する。コーティング膜3は、薬物粒子を溶解又は分散させたコーティング液を素錠部2に噴霧して乾燥させることによって形成される。
【0017】
素錠部2は、薬物を含有させない点を除けば、通常の素錠と同様の方法で製造できる。例えば、公知の賦形剤、結合剤等を混和し、これに打錠(圧縮成形)工程を行うことで製造できる。
【0018】
コーティング膜3は、薬物粒子を溶解又は分散させたコーティング液を使用する点を除けば、通常のコーティング膜と同様の方法で形成できる。例えば、公知のコーティング装置を使用することにより、薬物粒子を溶解又は分散させた公知のコーティング液を素錠部2に噴霧して乾燥させることによって形成できる。
【0019】
コーティング膜3は、例えば、溶解性ポリマーを含む。ここで示した「溶解性」は、消化管内のpHで溶解することを意味する。
【0020】
また、コーティング膜3を形成するための基剤として、例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPMC)が挙げられる。コーティング膜3には薬物と相互作用のない着色剤または滑沢効果のある添加剤を用いることができる。着色剤は医薬品添加物事典に記載のある着色剤から選ぶことができる。滑沢剤は、例えばマクロゴール、タルク等から選ぶことができる。
【0021】
また、コーティング膜3は、その物性を調整するために、例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を添加することができる。
【0022】
コーティング膜3に含有される薬物としては、特に限定されず、公知のものを使用できる。例えば、コーティング液に溶解する水溶性薬物だけでなく、水難溶性薬物もコーティング液に分散することによりコーティング膜3に含有させることができる。
【0023】
コーティング膜3に含有される薬物の量は、好ましくは、0.001mg~20mgである。薬物の量が0.001mg未満の場合には、薬物の含量の均一性が十分に得られない可能性があり、薬物の量が20mgを超える場合には、コーティング液中に薬物粒子が十分に溶解又は分散しない可能性がある。また、コーティング膜3自体の量は、例えば素錠部2の重量に対して1wt%~30wt%である。
【0024】
コーティング膜3の形成に使用されるコーティング液に溶解又は分散させられる薬物粒子について、体積基準の粒子径分布におけるメジアン径(D50)は、例えば0.1μm~50μmである。体積基準の粒子径分布は、例えば、レーザ回折/散乱法を使用した公知の測定装置による測定で得ることができる。
【0025】
なお、
図1の図示例では、素錠部2の表面に、コーティング膜3のみが形成されていたが、
図2に示すように、コーティング膜3の外側に、コーティング膜3とは異なるコーティング膜4が形成されていてもよいし、コーティング膜3の内側に、コーティング膜3とは異なるコーティング膜5が形成されていてもよい。
【0026】
コーティング膜5は、素錠部2にコーティング液を噴霧して乾燥させることによって形成される。コーティング膜4は、コーティング膜3,5に被覆された素錠部2にコーティング液を噴霧して乾燥させることによって形成される。
【0027】
コーティング膜4,5は、薬物を含有していなくてもよいし、コーティング膜3に含有されている薬物と異なる薬物を含有していてもよいし、コーティング膜3に含有されている薬物と同じ薬物を、コーティング膜3での濃度と異なる濃度で含有していてもよい。
【0028】
また、コーティング膜4,5は、コーティング膜3に含有されている薬物と同じ薬物を、コーティング膜3での濃度と同じ濃度で含有しており、且つ、コーティング膜4,5の薬物以外の成分が、コーティング膜3の薬物以外の成分と、種類又は濃度が異なっていてもよい。
【0029】
以上のように構成されたコーティング錠1では、素錠部2には薬物が含有されていないので、コーティング錠1に含有される薬物の量は、コーティング膜3に含有される薬物の量で決まる。そして、薬物粒子は、コーティング液中で均一に存在することが可能である。従って、このコーティング液を乾燥させて形成したコーティング膜3における薬物の含有量について、コーティング錠1の間で生じるバラツキを抑制可能である。また、異なる薬物を含有するコーティング錠1の製造において素錠部2を共有化することにより、製造コストの削減が可能である。また、素錠部2に薬物を含有させないことで、難易度の高い造粒工程から混合工程、ならびに打錠工程までの生産および品質管理を簡易化でき、これにより、製造コストの削減が可能である。すなわち、本実施形態に係るコーティング錠1によれば、製造された錠剤の間で薬物量のバラツキが生じる事態を回避すると共に、錠剤の製造コストを削減することが可能である。
【実施例0030】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
実施例1のコーティング液の組成を表1に示した。コーティング装置はCTS-PRC-7(株式会社パウレック製)を用いた。素錠部には、直径8.0mm、質量180mgのものを用いた。コーティング条件は、素錠部仕込量6kg、噴霧速度60g/分、ドラム回転数30回転/分、給気温度85℃で行った。コーティング量を素錠部に対して3%(5.4mg/錠)としたときの噴霧時間は24分であった。
【0032】
【0033】
コーティング錠の質量C.V.値は0.60%、色差C.V.値は1.5%だった。
【0034】
[実施例2]
実施例2のコーティング液の組成を表2に示した。コーティング装置はCTS-PRC-7(株式会社パウレック製)を用いた。素錠部には、直径8.0mm、質量180mgのものを用いた。コーティング条件は、素錠部仕込量6kg、噴霧速度70g/分、ドラム回転数30回転/分、給気温度85℃で行った。コーティング量を素錠部に対して5%(9mg/錠)としたときの噴霧時間は49分であった。
【0035】
【0036】
コーティング錠の質量C.V.値は0.57%、色差C.V.値は0.5%、個々のコーティング錠に含まれるアスコルビン酸のC.V.値は2.1%だった。
【0037】
[実施例3,4]
実施例3および実施例4のコーティング液の組成を表3に示した。イオン交換水に対し、HPMCおよびγ―シクロデクストリンを溶解し、次に、ホモジナイザ(ポリトロンPT-MR3100)(キネマチカ社製)を用いてイブプロフェンを分散し、分散液を得た(実施例3のコーティング液)。さらにこの分散液を高圧ホモジナイザー(LV1)(株式会社パウレック製)で処理し、分散液を得た(実施例4のコーティング液)。実施例3,4のコーティング液についてのイブプロフェンの体積基準の粒子径分布を
図3に示した。この粒子径分布におけるイブプロフェンのメジアン径(D50)は、実施例3のコーティング液についてが44.1μm、実施例4のコーティング液についてが22.5μmであった。
【0038】
【0039】
素錠部には、直径8.0mm、質量180mgのものを用い、コーティング装置(株式会社パウレック製、PRC-GTXmini)を用いてコーティングした。コーティング条件は、素錠部仕込量150g、噴霧速度1.5~1.8g/分、ドラム回転数15~20回転/分、給気温度72℃で行った。コーティング量を素錠部に対して約3%(6.0mg/錠)とした。
【0040】
得られた実施例3および実施例4のコーティング錠について溶出試験を行い、その結果を
図4に示した。実施例3に対して実施例4の溶出は速く、高圧ホモジナイザー(LV1)の処理によって難溶性薬物であるイブプロフェンの溶出速度が増大することが確認された。
【0041】
本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものでは無く、その技術的思想の範囲内で、様々な変形が可能である。