(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141166
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂発泡粒子、ポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/18 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
C08J9/18 CES
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041354
(22)【出願日】2021-03-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】林 達也
(72)【発明者】
【氏名】平 晃暢
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA21
4F074AB03
4F074AB05
4F074BA32
4F074BC12
4F074CA35
4F074CA39
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA12
4F074DA22
4F074DA33
4F074DA47
(57)【要約】
【課題】 本発明は、見掛け密度が小さく、外観美麗な発泡粒子成形体を成形加熱温度範囲で成形することができる発泡粒子を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のポリエチレン系樹脂発泡粒子は、無架橋の直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とし、直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であり、該ポリエチレンの密度、メルトフローレイト、及び融点(Tm)が特定範囲内であり、
発泡粒子が、特定の条件下で得られる1回目のDSC曲線に、固有ピークと、
高温ピークとが現れる結晶構造を有し、固有ピークの融解熱量(ΔH1i)と高温ピークの融解熱量(ΔH1h)との合計から求められる全融解熱量(ΔH1)が特定範囲内であり、該発泡粒子の平均気泡径が特定範囲内である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無架橋の直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とするポリエチレン系樹脂発泡粒子であって、
該直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.922g/cm3以上0.935g/cm3未満であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトが0.8g/10min以上1.5g/10min以下であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が115℃以上125℃以下であり、
該発泡粒子が、熱流束示差走査熱量測定によって該発泡粒子を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる1回目のDSC曲線に、該直鎖状低密度ポリエチレンに固有の融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークよりも高温側に現れる1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、
該固有ピークの融解熱量(ΔH1i)と高温ピークの融解熱量(ΔH1h)との合計から求められる全融解熱量(ΔH1)が110J/g以上140J/g以下であり、
該発泡粒子の平均気泡径が50μm以上220μm以下であることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
前記発泡粒子を熱流束示差走査熱量測定によって10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、次に10℃/minの冷却速度で200℃から30℃まで冷却し、再度10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる2回目のDSC曲線に現れる融解ピークの融解熱量(ΔH2)が105J/g以上125J/g以下である、請求項1に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
前記発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)に対する高温ピークの融解熱量(ΔH1h)の比(ΔH1h/ΔH1)が0.20以上0.30以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項4】
前記発泡粒子の高温ピークの融解熱量(ΔH1h)が15J/g以上50J/g以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項5】
前記直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)と前記発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)との関係が以下の式(1)を満足する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
ΔH1>10×Tm-1090・・・(1)
【請求項6】
前記直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.925g/cm3超0.930g/cm3未満であるとともに、該直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が118℃以上122℃以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項7】
前記発泡粒子の嵩密度が10kg/m3以上50kg/m3以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項8】
ポリエチレン系樹脂粒子を密閉容器中にて分散媒に分散させる分散工程と、
該分散媒中に分散している該ポリエチレン系樹脂粒子に無機系物理発泡剤を含浸させる発泡剤含浸工程と、
該ポリエチレン系樹脂粒子が分散している該分散媒を該樹脂粒子の基材樹脂の融点(Tm)より30℃低い温度以上融解終了温度以下の温度に保持する高温ピーク形成工程と、
発泡剤を含浸させたポリエチレン系樹脂粒子を分散媒とともに該密閉容器から該密閉容器内よりも低圧の雰囲気下に放出して発泡させる発泡工程とを含み、
該ポリエチレン系樹脂粒子の基材樹脂が、無架橋の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
該直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.922g/cm3以上0.935g/cm3未満であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトが0.8g/10min以上1.5g/10min以下であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が115℃以上125℃以下であり、
該ポリエチレン系樹脂粒子の融解熱量(ΔHr)が105J/g以上125J/g以下であることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂発泡粒子に関し、詳しくはエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とするポリエチレン系樹脂発泡粒子、及び該ポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系樹脂発泡粒子成形体は、優れた賦形性、緩衝性能から緩衝包装材として広く使用されており、特に被包装物に傷をつけ難いことから電気電子機器包装材などに重用されている。該発泡粒子成形体は、たとえば、ポリエチレン系樹脂発泡粒子を成形型内に充填し、スチーム等の加熱媒体で加熱することにより、発泡粒子を二次発泡させると共にその表面を溶融させることにより相互に融着させて、所望の形状を賦形して発泡粒子成形体とし、成形型内で水や空気等で冷却された後、成形型から離型することにより得られるものである(型内成形法)。
【0003】
該ポリエチレン系樹脂発泡粒子成形体の型内成形法には、従来、低密度ポリエチレンを架橋した後に発泡させた架橋ポリエチレン系樹脂発泡粒子が用いられていた。しかし、架橋ポリエチレン系樹脂発泡粒子は、リサイクルすることができない等の問題があった。これに対し、直鎖状低密度ポリエチレンは、無架橋であっても型内成形が可能な発泡粒子を得ることが容易であることから、直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とする無架橋の発泡粒子が検討されるようになった。
【0004】
該直鎖状低密度ポリエチレンとしては、エチレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体が使用されている。中でも、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体を用いて発泡粒子を得ることが試みられている。
【0005】
具体的には、特許文献1には、所定の条件で測定されたDSC曲線において、2つの吸熱ピークが現れる結晶構造を有する直鎖状低密度ポリエチレン樹脂粒子を発泡させることにより、成形性に優れる発泡粒子を安定して得ることができる技術が開示されている。特許文献2には、所定の融点、密度、MFR等を有するエチレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体を基材樹脂とし、発泡粒子の気泡径を大きくすることにより成形性を向上させる技術が開示されている。特許文献3には、発泡剤として二酸化炭素と脂肪族飽和炭化水素とを所定の割合で使用することにより見掛け密度の低い発泡粒子を得る技術が開示されている。特許文献1、特許文献2、特許文献3の実施例には、エチレンと炭素数8の1-オクテンとの共重合体を基材樹脂とした発泡粒子を製造した旨が開示されている。
【0006】
従来、ポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造に用いられる発泡剤としては、特許文献1~3に記載されているようにブタン等の飽和炭化水素やジクロロジフロロメタン等フロン類が使用されてきた。しかし、近年、環境負荷低減の観点から、無機系物理発泡剤を使用することが求められている。
【0007】
特許文献1~3の技術の場合、物理発泡剤として無機系物理発泡剤を使用して発泡粒子を製造すると、見掛け密度の小さい発泡粒子(発泡倍率の大きな発泡粒子)を安定して製造することが難しく、また、見掛け密度の低い発泡粒子を得ることができても、成形可能な温度幅が狭いという課題があった。
【0008】
物理発泡剤として無機系物理発泡剤を使用して発泡粒子を製造した例として、特許文献4と特許文献5に開示された技術がある。
具体的には、特許文献4には、所定の条件で測定されたDSC曲線が特定の形状となる無架橋ポリエチレン系樹脂を基材樹脂として用い、成形性に優れる発泡粒子を得ることができたことが記載されている。特許文献4には、DSC曲線の形状を調整する方法として、基材樹脂とは密度の異なる低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレン等を配合すること等が記載されている。
【0009】
また、特許文献5には、特定の密度、MFR、分子量分布を有する、エチレンと炭素数6又は8のα-オレフィンとの共重合体を基材樹脂とし、特定の気泡径を有する発泡粒子であって、成形性等に優れる発泡粒子を得ることができたことが記載されている。
なお、特許文献4及び5の実施例には、直鎖状低密度ポリエチレンとしてエチレンと炭素数8のα-オレフィン(1-オクテン)との共重合体を用いて、発泡粒子を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2-43206号公報
【特許文献2】特公平6-86544号公報
【特許文献3】特開平6-192464号公報
【特許文献4】特開平6-271701号公報
【特許文献5】WO2013/031745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献4に記載の技術は、見掛け密度の小さな発泡粒子を安定して製造すること、見掛け密度の小さい発泡粒子成形体を低温から高温までの広範な成形加熱温度範囲で得ること、得られる発泡粒子成形体の表面平滑性については、改善の余地を有するものであった。また、特許文献5に記載の技術においても、見掛け密度の小さな発泡粒子を安定して製造すること、見掛け密度の小さい発泡粒子成形体を低温から高温までの広範な成形加熱温度範囲で得ること、得られる発泡粒子成形体の表面平滑性については、改善の余地を有するものであった。また、発泡粒子成形体の寸法安定性についても改善の余地があった。
【0012】
本発明は、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とし、見掛け密度が小さく、外観美麗な発泡粒子成形体を低温から高温までの幅広い成形加熱温度範囲で成形することができる発泡粒子を提供することを課題とする。また、上記発泡粒子を、無機系物理発泡剤を用いて安定して製造することができる発泡粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下に示すポリエチレン系樹脂発泡粒子、ポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造方法が提供される。
[1]無架橋の直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とするポリエチレン系樹脂発泡粒子であって、
該直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.922g/cm3以上0.935g/cm3未満であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトが0.8g/10min以上1.5g/10min以下であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が115℃以上125℃以下であり、
該発泡粒子が、熱流束示差走査熱量測定によって該発泡粒子を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる1回目のDSC曲線に、該直鎖状低密度ポリエチレンに固有の融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークよりも高温側に現れる1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、
該固有ピークの融解熱量(ΔH1i)と高温ピークの融解熱量(ΔH1h)との合計から求められる全融解熱量(ΔH1)が110J/g以上140J/g以下であり、
該発泡粒子の平均気泡径が50μm以上220μm以下であることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡粒子。
[2]前記発泡粒子を熱流束示差走査熱量測定によって10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、次に10℃/minの冷却速度で200℃から30℃まで冷却し、再度10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる2回目のDSC曲線に現れる融解ピークの融解熱量(ΔH2)が105J/g以上125J/g以下である、前記1に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
[3]前記発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)に対する高温ピークの融解熱量(ΔH1h)の比(ΔH1h/ΔH1)が0.20以上0.30以下である、前記1又は2に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
[4]前記発泡粒子の高温ピークの融解熱量(ΔH1h)が15J/g以上50J/g以下である、前記1~3のいずれか一に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
[5]前記直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)と前記発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)との関係が以下の式(1)を満足する、前記1~4のいずれか一に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
ΔH1>10×Tm-1090・・・(1)
[6]前記直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.925g/cm3超0.930g/cm3未満であるとともに、該直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が118℃以上122℃以下である、前記1~5のいずれか一に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
[7]前記発泡粒子の嵩密度が10kg/m3以上50kg/m3以下である、前記1~6のいずれか一に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
[8]ポリエチレン系樹脂粒子を密閉容器中にて分散媒に分散させる分散工程と、
該分散媒中に分散している該ポリエチレン系樹脂粒子に無機系物理発泡剤を含浸させる発泡剤含浸工程と、
該ポリエチレン系樹脂粒子が分散している該分散媒を該樹脂粒子の基材樹脂の融点(Tm)より30℃低い温度以上融解終了温度以下の温度に保持する高温ピーク形成工程と、
発泡剤を含浸させたポリエチレン系樹脂粒子を分散媒とともに該密閉容器から該密閉容器内よりも低圧の雰囲気下に放出して発泡させる発泡工程とを含み、
該ポリエチレン系樹脂粒子の基材樹脂が、無架橋の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
該直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.922g/cm3以上0.935g/cm3未満であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトが0.8g/10min以上1.5g/10min以下であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が115℃以上125℃以下であり、
該ポリエチレン系樹脂粒子の融解熱量(ΔHr)が105J/g以上125J/g以下であることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とし、該直鎖状低密度ポリエチレンの密度、MFR、融点が特定の範囲内であり、発泡粒子の1回目のDSC曲線における全融解熱量が特定の範囲内であるとともに、平均気泡径が特定の範囲内であることにより、見掛け密度が小さく、寸法安定性に優れるとともに、外観美麗な発泡粒子成形体を幅広い成形加熱温度範囲で型内成形することができる発泡粒子が提供される。
また、本発明によれば、該発泡粒子を、無機系物理発泡剤を用いて安定して得ることができるポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の発泡粒子の熱流束示差走査熱量測定における1回目のDSC曲線の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の発泡粒子の熱流束示差走査熱量測定における2回目のDSC曲線の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のポリエチレン系樹脂発泡粒子、及び該ポリエチレン系樹脂発泡粒子の製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリエチレン系樹脂発泡粒子(以下、単に発泡粒子ともいう。)は、無架橋の直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とするものである。
本発明において、直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体である。なお、炭素数8のα-オレフィンとしては、1-オクテンが好ましい。
なお、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体中には、本発明の目的効果を阻害しない範囲において、エチレンと炭素数8のα-オレフィン以外の他のモノマーがさらに共重合されていてもよい。ただし、他のモノマーの含有率は、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体100質量%中の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0質量%、すなわちエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体がエチレンと炭素数8のα-オレフィン以外の他のモノマーを含まないことが最も好ましい。
【0017】
発泡粒子の基材樹脂がエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であることにより、発泡粒子の1回目の曲線における全融解熱量を所望される後述の範囲内に調整しやすく、見掛け密度の小さな発泡粒子の型内成形に優れる発泡粒子となる。かかる観点から、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体は、エチレンと1-オクテンとの共重合体であることが好ましい。
【0018】
基材樹脂中には、本発明の目的効果を阻害しない範囲内において、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体以外の直鎖状低密度ポリエチレンや、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂等の他の熱可塑性樹脂や、熱可塑エラストマー等の他の熱可塑性ポリマーが含まれていてもよい。他の熱可塑性ポリマーの含有量は、基材樹脂100質量%中の20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、最も好ましくは0質量%、すなわち基材樹脂中がポリマー成分としてエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体のみを含むことが好ましい。
【0019】
該直鎖状低密度ポリエチレンは、無架橋であることを要する。従来においては、発泡性に優れ、発泡粒子成形体の型内成形性に優れることから、架橋された低密度ポリエチレンが使用されていた。しかし、架橋された発泡粒子は、リサイクルによる再利用が難しく、環境に負荷をかけるおそれがある。これに対し、直鎖状低密度ポリエチレンは、温度変化による溶融粘度の変化が緩やかであることから、無架橋であっても、良好な発泡性、型内成形性を有している。また、無架橋のポリエチレン系樹脂発泡粒子はリサイクルが容易であり、環境負荷を低減することができる。
【0020】
本明細書でいう無架橋とは、発泡粒子の熱キシレン抽出法による不溶分が5質量%以下であることをいう。発泡粒子のリサイクルがより容易になる観点から、発泡粒子の熱キシレン抽出法による不溶分の割合は、発泡粒子中の3質量%以下が好ましく、0質量%であることが最も好ましい。発泡粒子の熱キシレン抽出法によるキシレン不溶分は、精秤した発泡粒子約1g(試験片重量をL(g)とする)を150mLの丸底フラスコに入れ、100mLのキシレンを加え、マントルヒーターで加熱して6時間還流させた後、溶け残った残渣を100メッシュの金網で速やかに濾過して分離し、80℃の減圧乾燥器で8時間以上乾燥し、この際に得られた乾燥物重量の重量:M(g)を測定し、下記式(2)により求める。
熱キシレン抽出法による不溶分(質量%)=(M/L)×100・・・ (2)
【0021】
本発明で用いられる直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.922g/cm3以上0.935g/cm3未満である。
該密度が小さすぎると、離型後の発泡粒子成形体が収縮、変形しやすく、良好な発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度範囲が狭くなるおそれがある。また、見掛け密度小さな発泡粒子を安定して製造することが難しくなるおそれがある。かかる観点から、直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.923g/cm3以上であることが好ましく、0.925g/cm3以上であることがより好ましく、0.925g/cm3超であることが更に好ましい。
一方、該密度が大きすぎると、得られる発泡粒子成形体の柔軟性が低下して、緩衝性が損なわれるおそれがある。また、見掛け密度の小さな発泡粒子を安定して製造できる発泡温度の範囲が狭くなるおそれがある。かかる観点から、直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.933g/cm3未満であることがより好ましく、0.930g/cm3未満であることが更に好ましい。
【0022】
本発明で用いられる直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイト(MFR)は、0.8g/10min以上1.5g/10min以下である。
該MFRが大きすぎる場合には、得られる発泡粒子の連続気泡率が高くなりやすく、良好な発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度の範囲が狭くなるおそれがある。かかる観点から、直鎖状低密度ポリエチレンのMFRは、1.4g/10min以下であることが好ましく、1.2g/10min以下であることがより好ましい。
一方、MFRが小さすぎると、発泡粒子の二次発泡性が低下し、得られる発泡粒子成形体の表面平滑性が損なわれるおそれがある。かかる観点から、該メルトフローレイト(MFR)は、0.9g/10min以上であることが好ましく、1.0g/10min以上であることがより好ましい。
【0023】
本明細書において、直鎖状低密度ポリエチレンのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、温度190℃、荷重2.16kgfの条件で測定されるメルトマスフローレイトの値である。
【0024】
本発明において、直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)は115℃以上125℃以下である。該融点が高すぎると、低い成形加熱温度での成形において、融着性が低下するおそれがある。また、見掛け密度の小さな発泡粒子を安定して製造できる発泡温度の範囲が狭くなるおそれがある。かかる観点から、該直鎖状低密度ポリエチレンの融点は、124℃以下であることが好ましく、122℃以下であることがより好ましい。
一方、該融点が低すぎると、離型後に発泡粒子成形体が収縮、変形しやすく、良好な発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度範囲が狭くなるおそれがある。かかる観点から、直鎖状低密度ポリエチレンの融点は、116℃以上であることが好ましく、118℃以上であることがより好ましい。
【0025】
本明細書において、直鎖状低密度ポリエチレンの融点Tmは、JIS K7121:1987に規定されたプラスチックの転移温度測定方法により測定することができる。
まず、「(2)一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」に従い、10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、次いで10℃/minの冷却速度で30℃まで冷却して試験片の状態調節を行う。その後、10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱する示差走査熱量測定を行い、DSC曲線を得る。得られたDSC曲線の吸熱ピークの頂点温度を融点Tmとする。なお、DSC曲線に複数の吸熱ピークが現れている場合には、頂点の高さが最も高い吸熱ピークの頂点温度を融点Tmとする。
【0026】
該直鎖状低密度ポリエチレンの引張弾性率は、200MPa以上350MPa以下であることが好ましい。該引張弾性率が、この範囲内であれば、型内成形性により優れる発泡粒子となる。また、得られる発泡粒子成形体は表面保護性により優れるものとなる。かかる理由により、該引張弾性率は220MPa以上280MPa以下であることが好ましい。
【0027】
本明細書における引張弾性率は、JIS K7161-2:2014に記載の測定法に準拠して測定される。
【0028】
本発明の発泡粒子は、下記要件(1)と(2)とを満足する特定の結晶構造を有する。
即ち、(1)該発泡粒子は、熱流束示差走査熱量測定において、該発泡粒子を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる1回目のDSC曲線が、前記直鎖状低密度ポリエチレンに固有の融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークよりも高温側に現れる1以上の融解ピーク(高温ピーク)とを有する。
【0029】
発泡粒子が、該1回目のDSC曲線に、高温ピークが現れる結晶構造を有することにより、該発泡粒子は型内成形性に優れるものとなる。また、得られる発泡粒子成形体の圧縮強度等の機械的物性が向上する。
【0030】
さらに、前記1回目のDSC曲線において、(2)該固有ピークの融解熱量(ΔH1i)と高温ピークの融解熱量(ΔH1h)との合計から求められる全融解熱量(ΔH1)が110J/g以上140J/g以下である。発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が上記範囲内であると、見掛け密度が小さく、外観美麗な発泡粒子成形体を幅広い成形加熱温度範囲で成形することができる。また、得られる発泡粒子成形体の収縮率が小さくなり、寸法安定性にも優れる。これは、型内成形時に融解し得る結晶が適度な量に調整されているためであると考えられる。
発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が小さすぎると、離型後に発泡粒子成形体が収縮、変形しやすく、良好な発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度範囲が狭くなるおそれがある。かかる観点から、該発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)は、115J/g以上であることが好ましく、118J/g以上であることがより好ましい。
一方、発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が大きすぎると、低い成形加熱温度では良好な発泡粒子成形体を得ることができないおそれがある。また、見掛け密度の小さな発泡粒子を安定して製造可能な発泡温度の範囲が狭くなるおそれがある。かかる観点から、該発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)は、135J/g以下であることが好ましく、130J/g以下であることがより好ましく、125J/g以下であることが更に好ましい。
【0031】
全融解熱量(ΔH1)が110J/g以上140J/g以下である発泡粒子は、主に樹脂の融解熱量(ΔHr)が105J/g以上125J/g以下の直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂として用いることにより得ることができる。また、後述する分散媒放出発泡方法において、発泡剤添加量や、高温ピーク形成工程における温度、保持時間条件によっても調整することができる。
【0032】
発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)は、発泡粒子の基材樹脂がエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であれば上記範囲内に調整しやすい。樹脂の全融解熱量(ΔHr)が上記範囲内であるエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体としては、ダウケミカル社製ダウレックス2049G、同2042G等が例示される。
【0033】
なお、上記樹脂の融解熱量(ΔHr)は、ポリエチレン系樹脂粒子を試験片とし、熱流束示差走査熱量測定によって10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、次に10℃/minの冷却速度で200℃から30℃まで冷却し、再度10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる2回目のDSC曲線に現れる融解ピークの面積から求められる値である。なお、試験片としてポリエチレン系樹脂粒子を構成する基材樹脂の原料ペレットを使用してもよい。
【0034】
図1に、本発明の発泡粒子につき、熱流束示差走査熱量測定を行って得られた1回目のDSC曲線の一例を示す。
図1において、aは低温側に現われる固有ピークを、bは高温ピークを、TEは融解終了温度であって、吸熱ピークbの高温側の据がベースラインの位置に戻ったときの温度をそれぞれ示す。
なお、高温ピークbは、1回目のDSC曲線には現れるが2回目のDSC曲線には現れない吸熱ピークであって、後述する
図2における回目のDSC曲線の吸熱ピークcより高温側に現れる吸熱ピークである。
【0035】
DSC曲線における1回目のDSC曲線における固有ピークの融解熱量(ΔH1i)、高温ピークの融解熱量(ΔH1h)は、次のように求める。
図1に示すようにDSC曲線上の80℃の点αと、発泡粒子の融解終了温度TEを示すDSC曲線上の点βとを結ぶ直線を引き、固有ピークaと高温ピークbとの間の谷の底を点γとし、点γから、図の縦軸と平行に直線を引き、該直線と点αと点βとを結ぶ直線とが交わる点を点δとする。固有ピークの融解熱量(ΔH1i)は、点αと点δとを結ぶ直線と、点αから点γまでのDSC曲線と、点γと点δとを結ぶ直線とで囲まれる領域に相当する熱量である。
高温ピークの融解熱量(ΔH1h)は、点δと点γとを結ぶ直線と、点γから点βまでのDSC曲線と、点βから点δを結ぶ直線とで囲まれる領域に相当する熱量である。
【0036】
本発明において、DSC曲線は、発泡粒子1~3mgを試験サンプルとして用い、JIS K7121:1987に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により得られる。測定装置としては、例えば、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を使用して測定することができる。
【0037】
本発明においては、該発泡粒子を、熱流束示差走査熱量測定によって10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、次に10℃/minの冷却速度で200℃から30℃まで冷却し、再度10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる2回目のDSC曲線における融解ピークの融解熱量(ΔH2)が105J/g以上125J/g以下であることが好ましい。該発泡粒子の2回目のDSCにおける融解熱量(ΔH2)が上記範囲内であると、良好な発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度の範囲をより広くすることができる。かかる観点から、該発泡粒子の2回目のDSCにおける融解熱量(ΔH2)は、105J/g以上120J/g以下であることがより好ましく、108J/g以上115J/g以下であることが更に好ましい。
【0038】
該2回目のDSC曲線における融解ピークは、単一の融解ピークであることが好ましい。なお、該単一の融解ピークは吸熱ピーク曲線にショルダーdを有していてもよい。該融解ピークが単一のピークであると、得られる発泡粒子成形体の剛性が向上する。
【0039】
従来、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体を基材樹脂とする発泡粒子において、その成形加工幅を広げるために2回目のDSC曲線に複数の融解ピークが現れるものや、DSC曲線のピーク幅の広い発泡粒子が検討されてきた。この種のポリエチレン系樹脂は、コモノマー分布が広いものである。近年、重合触媒等の発達により重合の均一性が向上しており、このようにコモノマー分布を広げて成形性が広いポリエチレン系樹脂発泡粒子を得るという手法を適用することが難しくなっている。
【0040】
本発明のエチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体を基材樹脂とする発泡粒子は、2回目のDSC曲線において単一の吸熱ピークが現れるものであり、該吸熱ピークの温度幅が比較的狭いものであるにもかかわらず、良好な発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度の範囲が広く、型内成形性優れるものである。
なお、該吸熱ピークの温度幅は、ピーク高さの1/2における温度幅を意味し、得られる発泡粒子成形体の剛性を高める観点からは、7℃以下であることが好ましく、6℃以下であることがより好ましい。
【0041】
図2に、前記2回目の測定において得られたDSC曲線の一例を示す。
図2において、cは吸熱ピークを、Tmは融点を、Teは融解終了温度を、dはショルダーをそれぞれ示す。
2回目のDSC曲線における融解ピークの融解熱量(ΔH2)は、
図2に示すように、DSC曲線上の80℃の点αと、発泡粒子の融解終了温度TEを示すDSC曲線上の点βとを結ぶ直線を引き、点αと点βとを結ぶ直線と、DSC曲線によって囲まれる部分(
図2の斜線部分)に相当する熱量である。
【0042】
該発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)に対する高温ピークの融解熱量(ΔH1h)の比(ΔH1h/ΔH1)は、0.20以上0.30以下であることが好ましい。
該比(ΔH1h/ΔH1)がこの範囲内であれば、発泡粒子の型内成形性と得られる発泡粒子成形体の物性とのバランスが良好になる。かかる観点から、該比(ΔH1h/ΔH1)は、0.22以上0.28以下であることがより好ましい。
【0043】
該高温ピークの融解熱量(ΔH1h)は、15~50J/gであることが好ましい。
該高温ピークの融解熱量(ΔH1h)が、この範囲内であると、発泡粒子は型内成形に優れるものとなる。また、得られる発泡粒子成形体の剛性が向上する。かかる理由により、熱量ΔH1hは20~45J/gであることがより好ましく、25~40J/gであることが更に好ましい。
【0044】
前記直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)と、該発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)とが、以下の式(1)を満足することが好ましい。
ΔH1>10×Tm-1090・・・(1)
該(1)式は、直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が比較的低いとともに、該発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が比較的大きいものであることを示す。本発明の発泡粒子は、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体の中でも、上記式(1)を満足させ得る樹脂を基材樹脂として用いることが好ましい。本発明の発泡粒子が上記(1)式を満足することにより、見掛け密度が小さく、外観美麗な発泡粒子成形体を成形可能な成形加熱温度の範囲をより安定して拡大することができる。
【0045】
本発明においては、発泡粒子の平均気泡径は50μm以上220μm以下である。発泡粒子の平均気泡径が小さすぎると、型内成形性が低下するおそれがある。かかる観点から、発泡粒子の平均気泡径は80μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、120μm以上であることが更に好ましい。
一方、発泡粒子の平均気泡径が大きすぎると、得られる発泡粒子成形体の表面平滑性が損なわれるおそれがある。かかる観点から、発泡粒子の平均気泡径は200μm以下であることが好ましく、180μm以下であることがより好ましく、160μm以下であることが更に好ましい。
【0046】
本発明の発泡粒子は、例えば、二酸化炭素等の無機系物理発泡剤を用いた、所謂分散媒放出発泡方法により製造することができる。該方法において、発泡剤として無機系物理発泡剤を用いて製造された発泡粒子は、気泡径が小さくなりやすく、従来から型内成形性が低下しやすいという問題があった。本発明の発泡粒子は、平均気泡径が小さいにもかかわらず、型内成形性に優れ、得られる発泡粒子成形体は、表面平滑性に優れ、外観美麗なものである。
【0047】
本明細書における発泡粒子の平均気泡径は、次のように測定される。発泡粒子を二等分した断面を顕微鏡下にて断面全体が納まるように拡大して撮影する。撮影された写真上で断面の面積が凡そ二等分となるように直線を引き、発泡粒子の周縁から対向する周縁までの線分の長さを、該線分と交差する全ての気泡の数で除した値を一つの発泡粒子の平均気泡径とする。この操作を無作為に抽出した20個の発泡粒子に対して行い、20個の発泡粒子の平均気泡径を相加平均した値を発泡粒子の平均気泡径とする。
【0048】
該発泡粒子の嵩密度は、10kg/m3以上50kg/m3以下であることが好ましい。該見掛け密度が上記範囲内であると、得られる成形体の軽量性と機械的強度とのバランスを高めることができる。この理由により、該発泡粒子の見掛け密度は15kg/m3以上40kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは18kg/m3以上30kg/m3以下である。
本発明の発泡粒子は、嵩密度の小さいものであっても、型内成形性に優れている。
【0049】
本発明において、嵩密度の小さな発泡粒子を得るため、二段発泡を行ってもよい。具体的には、後述する分散媒放出発泡方法により得られた発泡粒子を加圧可能な密閉容器に貯留し、空気などの気体を該容器内に圧入することにより加圧処理をして発泡粒子の気泡内の内圧を高める操作を行った後、該発泡粒子を該容器内から取り出し、スチームや熱風を用いて加熱することにより再度発泡させて、見掛け密度をより低下させた発泡粒子を得ることができる。
【0050】
該発泡粒子の嵩密度は、次のようにして測定される。先ず、発泡粒子を相対湿度50%、温度23℃、1atmの条件にて2日間放置して発泡粒子の状態調節を行う。次いで、任意の量の発泡粒子を容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛りまで収容する。収容された発泡粒子の質量W1[g]を収容体積V1[L]で除して(W2/V2)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の嵩密度が求めることができる。
【0051】
本発明の発泡粒子の独立気泡率は、80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。該独立気泡率が上記範囲内であると、発泡粒子の成形性、得られる発泡粒子成形体の機械的物性等をより向上させることができる。
【0052】
発泡粒子の独立気泡率は、次のようにして測定される。
発泡粒子を大気圧下、相対湿度50%、23℃の条件の恒温室内にて2日間放置し養生する。次に同恒温室内にて、養生後の発泡粒子を測定用サンプルとし下記の通り水没法により正確に見かけの体積Vaを測定する。見かけの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、東芝・ベックマン株式会社製空気比較式比重計930により測定される測定用サンプルの真の体積Vxを測定する。そして、これらの体積Va及びVxを基に、下記の式(3)により独立気泡率を計算し、発泡粒子の独立気泡率とする。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) (3)
ただし、
Vx:上記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(cm3)
Va:発泡粒子を、水の入ったメスシリンダーに沈めて、水位上昇分から測定される発泡粒子の見かけの体積(cm3)
W:発泡粒子測定用サンプルの重量(g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(g/cm3)
【0053】
次に、本発明の発泡粒子の製造方法について説明する。
該発泡粒子の製造方法は、ポリエチレン系樹脂粒子を分散媒に分散させる分散工程と、該分散媒中に分散しているポリエチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる発泡剤含浸工程と、ポリエチレン系樹脂粒子が分散している該分散媒を所定の温度に保持する高温ピーク形成工程と、発泡剤を含浸させたポリエチレン系樹脂粒子を発泡させる発泡工程とを含む、所謂分散媒放出発泡方法である。該分散媒放出発泡方法には、高温ピーク形成工程が設けられているので、得られる発泡粒子には前記高温ピークが形成される。
【0054】
該ポリエチレン系樹脂粒子は、例えば、次のような樹脂粒子製造工程によって製造される。
具体的には、押出機に前記無架橋の直鎖状低密度ポリエチレンと、必要に応じて添加される気泡調整剤等の添加剤とを供給して、これらを溶融混練する。該溶融混練物を押出機先端に付設されたダイの細孔からストランド状に押出し、該ストランド状押出物を水没させるなどして冷却した後、樹脂粒子の重量が所定重量になるようにペレタイザーで切断して樹脂粒子を製造する。或いは、水中などで、細孔から押出された押出物を、樹脂粒子の重量が所定重量になるように押出直後に切断することによっても樹脂粒子を製造できる。
【0055】
該直鎖状低密度ポリエチレンは、前記したように、次の構成を有するものである。
該直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンと炭素数8のα-オレフィンとの共重合体であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.922g/cm3以上0.935g/cm3未満であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトが0.8g/10min以上1.5g/10min以下であり、
該直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)が115℃以上125℃以下であり、
該ポリエチレン系樹脂粒子の融解熱量(ΔHr)が105J以上125J/g以下である。
【0056】
該樹脂粒子の1個当りの平均重量は、0.2~10mgが好ましく、0.5~5mgがより好ましい。該樹脂粒子の形状は、円柱状、球状、角柱状、楕円球状を採用することができる。かかる樹脂粒子を発泡して得られる発泡粒子は、発泡前の樹脂粒子形状に略対応した形状となる。
【0057】
また、前記樹脂粒子中には、得られる発泡粒子の見掛け密度及び気泡径を適切な値に調整するために気泡調整剤を予め添加しておくことができる。気泡調整剤としては、例えばタルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、ホウ酸亜鉛、水酸化アルミニウム、シリカ等の無機物や、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンワックス、ポリカーボネート、架橋ポリスチレン等の重合体を採用することができる。通常、気泡調節剤の添加量は、直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に対して、0.001~5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.005~3質量部、さらに好ましくは0.01~2質量部である。樹脂粒子には、さらに必要に応じて、結晶核剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤等の添加剤を添加できる。
【0058】
前記分散工程においては、例えば、該樹脂粒子製造工程で得られた樹脂粒子を密閉容器中で分散媒中に分散させることが行われる。
具体的には、該樹脂粒子を耐圧容器(例えば、オートクレーブ)等の密閉容器内で水などの分散媒中に分散させて加熱することが行われる。
【0059】
該樹脂粒子を分散させる分散媒としては、通常水が用いられる。また樹脂粒子を分散媒に分散させるに際し、必要に応じて分散剤を分散媒に添加することができる。分散剤としては、微粒状の酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、マイカ、クレー等が挙げられる。これら分散剤は通常、樹脂粒子100質量部当たりに対し、0.001~5質量部程度使用される。
【0060】
なお、分散剤を使用する場合、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。上記分散助剤の添加量は、上記樹脂粒子100質量部当たり、0.001~1質量部とすることが好ましい。
【0061】
前記発泡剤含浸工程においては、該分散媒中に分散している樹脂粒子に無機系物理発泡剤を含浸させることが行われる。
具体的には、該樹脂粒子が分散している密閉容器内に無機系物理発泡剤を圧入し、加熱・加圧下で該樹脂粒子に発泡剤を含浸させることが行われる。
【0062】
該発泡剤としては、無機系物理発泡剤が用いられる。無機物理発泡剤としては、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気等が挙げられ、これらは2種以上を混合して用いることができる。無機系物理発泡剤は、オゾン層破壊のおそれがなく、安価な発泡剤であり、中でも窒素、空気、二酸化炭素が好ましく、二酸化炭素がより好ましい。なお、物理発泡として有機系物理発泡剤を使用してもよいが、その配合量は物理発泡剤100質量%に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、0質量%、すなわち物理発泡剤として無機系物理発泡剤のみを用いることが最も好ましい。
【0063】
発泡剤の使用量は、得ようとする発泡粒子の見掛け密度に応じ、また基材樹脂である直鎖状低密度ポリエチレンの種類、発泡剤の種類等を考慮して決定される。通常、樹脂粒子100質量部当たり、0.5~30質量部、好ましくは1~15質量部の物理発泡剤を用いることが好ましい。
【0064】
発泡剤として二酸化炭素を用いて、分散媒放出発泡方法により発泡粒子を製造すると、気泡径が小さくなりやすい傾向があり、樹脂の種類によっては型内成形性が低下することがあった。本発明の製造方法により得られた発泡粒子は、前記構成を備えた直鎖状低密度ポリエチレンを基材樹脂とすることにより、二酸化炭素を用いた分散媒放出発泡方法により製造されているにもかかわらず、見掛け密度の小さい発泡粒子成形体を幅広い成形加熱温度範囲で成形可能なものである。
【0065】
前記高温ピーク形成工程においては、該樹脂粒子が分散している該分散媒を該樹脂粒子の基材樹脂の融点(Tm)より30℃低い温度以上融解終了温度以下の温度に保持することにより、高温ピークの形成が行われる。
具体的には、発泡粒子の高温ピークは、次のようにすれば形成することができる。即ち、該樹脂粒子を密閉容器内で水性媒体に分散させて加熱する際に、基材樹脂である直鎖状低密度ポリエチレンの融解終了温度(Te)以上とならないように昇温して、直鎖状低密度ポリエチレンの結晶の一部または大部分を融解させ、樹脂粒子の融点(Tm)よりも30℃低い温度以上、融解終了温度(Te)未満の範囲内の保持温度(Ta)で十分な時間、好ましくは1~60分程度保持して、融解した結晶部分を再結晶化させることにより、高温ピークを形成することができる。なお、上記保持温度の範囲は、発泡剤として無機物理発泡剤を使用した場合の適切な温度範囲である。
【0066】
なお、通常、発泡剤含浸工程の後に高温ピーク形成工程が設けられる。但し、発泡剤含浸工程の前に高温ピーク形成工程を設けることもできる。また、該融点(Tm)より30℃低い温度以上融解終了温度以下の温度にまで十分な時間をかけてゆっくりと昇温することにより温ピークを形成することも可能である。
【0067】
前記発泡工程においては、発泡剤を含浸させた樹脂粒子を該分散媒とともに該密閉容器内より低圧の雰囲気下に放出して発泡させる。
具体的には、高温ピーク形成工程終了後に、発泡剤を含有した樹脂粒子を水性媒体とともに発泡温度Tbで耐圧容器内から低圧の雰囲気下へ放出することにより発泡粒子が得られる。樹脂粒子を発泡させる温度(発泡温度Tb)は、基材樹脂の融点(Tm)より15℃低い温度以上融解終了温度より10℃高い温度以下の範囲であることが好ましい。
【0068】
前記保持温度Taと該温度における保持時間、及び前記発泡温度Tbなどの条件を変更することによってもその熱量の大きさを調整することができる。例えば、発泡粒子の前記高温ピークの融解熱量(ΔH1h)は、前記保持温度Tbでの保持時間が長い程、大きくなる傾向を示す。また、発泡粒子の該高温ピークの融解熱量(ΔH1h)は、該発泡発泡温度Taが低い程、大きくなる傾向を示す。
【0069】
本発明の製造方法によれば、見掛け密度が小さく、外観美麗な発泡粒子成形体を幅広い成形加熱温度範囲で型内成形することができる発泡粒子を容易に製造することができる。また、該発泡粒子を、無機系物理発泡剤を用いて安定して得ることができる。
【0070】
次に、本発明の発泡粒子の型内成形により得られるポリエチレン系樹脂発泡粒子成形体(以下、単に発泡粒子成形体、又は成形体ともいう。)について説明する。
該発泡粒子成形体は、前記発泡粒子を型内成形することにより得られるものである。
【0071】
本発明の発泡粒子の型内成形による発泡粒子成形体の製造方法は、公知の型内成形方法を例示することができる。
例えば、次のようにして型内成形が行われる。一対の発泡粒子成形用の成形型を用い、発泡粒子を大気圧下又は減圧下の成形型キャビティ内に充填し、型閉めして成形型キャビティ体積を5体積%~50体積%減少するように圧縮し、次いで、型内に水蒸気等の加熱媒体を供給して発泡粒子を加熱融着させるクラッキング成形法による方法(例えば、特公昭46-38359号公報)により成形することができる。また、発泡粒子を空気等の加圧気体により加圧処理して発泡粒子内の圧力を高めて、該発泡粒子を大気圧下又は減圧下の成形型キャビティ内に充填し型閉めし、次いで型内に水蒸気等の加熱媒体を供給して発泡粒子を加熱融着させる加圧成形法(例えば、特公昭51-22951号公報)等により成形することができる。さらに、圧縮ガスにより大気圧以上に加圧した成形型キャビティ内に、当該圧力以上に加圧しながら発泡粒子を充填した後、型内に水蒸気等の加熱媒体を供給して発泡粒子を加熱融着させる圧縮充填成形法(例えば、特公平4-46217号公報)により成形することもできる。その他に、発泡粒子を、大気圧下の一対の成形型のキャビティ内に充填した後、次いで水蒸気等の加熱媒体を供給して発泡粒子を加熱融着させる常圧充填成形法(例えば、特公平6-49795号公報)、または前記の方法を組み合わせた方法(例えば、特公平6-22919号公報)等によっても成形することができる。
【0072】
本発明の発泡粒子を型内成形することにより製造される発泡粒子成形体の密度(以下、成形体密度ともいう。)は軽量性と剛性とを両立させるために、10~50kg/m3の範囲であることが好ましく、より好ましくは18~30kg/m3である。
【0073】
該発泡粒子成形体の密度(kg/m3)は、成形体の重量(g)を該成形体の外形寸法から求められる体積(L)で除し、単位換算することにより算出される。また、発泡粒子成形体の体積は水没法によって求めることもできる。
【0074】
本発明の発泡粒子を型内成形してなる成形体は、緩衝包装材として、特に被包装物に傷をつけ難いことから電気電子機器包装材などの用途や、貨物輸送時の運搬物の緩衝材等の物流緩衝材の用途に好適に使用される。
【実施例0075】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。但し、本発明は、実施例によって限定されるものではない。
【0076】
実施例、比較例において、基材樹脂として表1に示す直鎖状低密度ポリエチレンを用いた。なお、表1中、LLDPE1は、ダウケミカル社製ダウレックス2049Gであり、LLDPE2はダウケミカル社製ダウレックス2042Gである。
【0077】
【0078】
表1中、融点及び融解熱量ΔHrの測定は次のように行った。
ペレット状の基材樹脂2mgを試験片としてJIS K7121:1987に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に基づいて、10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで加熱した後に、10℃/分の冷却速度で30℃まで冷却し、再度10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られるDSC曲線により定まる吸熱ピークの頂点温度を樹脂の融点とした。また、該吸熱ピークの面積を樹脂の融解熱量ΔHrとした。なお、測定装置は、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製:DSC7020)を用いた。
【0079】
表1中、引張弾性率の測定は、次のように行った。
JIS K7161-2:2014に準拠して直鎖状低密度ポリエチレンの引張弾性率を測定した。表1中の各々の原料を以下の方法により4mm厚みのプレスシートを作製した。具体的には、200℃に加熱したヒートプレスに厚み4mmの金型を置き、原料を金型内に入れて溶融させた後、15MPaの圧力で5分間プレスし、次いで金型を200℃のヒートプレスに移動した後に15MPaの圧力で常温となるまでプレスし、シートを作製した。得られたシートから1Aダンベル型に打ち抜きされた試験片を作製し、標準状態で24時間状態調節した後、島津製作所製オートグラフAGS-X万能試験機を用い、試験速度1mm/minで試験し、引張弾性率を求めた。
【0080】
表1中、MFRの測定は前記方法により行った。具体的には、JIS K7210-1:2014に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0081】
物理発泡剤として、二酸化炭素を用いた。
【0082】
実施例1~3、比較例1~7
(樹脂粒子の製造)
表2に示す種類の直鎖状低密度ポリエチレン100質量部と、気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛(Borex社製:Firebrake ZB Fine)0.02質量部を押出機に供給し、押出機内でこれらを溶融混練して溶融樹脂とし、該溶融樹脂をダイを通してストランド状に押し出し、水中で冷却しながら引き取り、ペレタイザーにて切断し、1個当たりの平均質量が1.5mg、L/Dが1.8の樹脂粒子を得た(樹脂粒子製造工程)。
【0083】
(分散媒放出発泡方法による発泡粒子の製造:一段発泡)
内容積5Lのオートクレーブに、分散媒としての水3Lを仕込み、分散媒中に1kgの前記樹脂粒子を仕込んだ。さらに、分散媒中の分散剤としてのマイカ(ヤマグチマイカ社製:A-11)0.3質量部、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(第一工業製薬社製:S-20F)0.03質量部を添加した(分散工程)。オートクレーブ中の内容物を攪拌しながら、表2に示す発泡温度まで加熱しつつ、表2に示すオートクレーブ内圧力となるまでオートクレーブ中に物理発泡剤としての二酸化炭素を圧入して発泡性樹脂粒子とした(発泡剤含浸工程)。その温度で10分間保持(高温ピーク形成工程)した後に、加圧した二酸化炭素により表2に記載のオートクレーブ内圧力を保持した状態で、オートクレーブの一端を開放して、発泡性樹脂粒子を分散媒と共に、大気圧下に放出して発泡性樹脂粒子を発泡せしめて一段発泡粒子を得た(発泡工程)。発泡させる際のオートクレーブ中の内容物の温度を発泡温度として表2に示した。
【0084】
実施例、比較例において、分散媒放出発泡方法で得られた一段発泡粒子の嵩密度を測定した。結果を表2に示す。なお、発泡粒子を23℃、相対湿度50%、1atmの雰囲気下に2日間静置することにより、発泡粒子の状態調節を行ってから、嵩密度の測定を行った。
【0085】
【0086】
表2中、一段発泡により得られた発泡粒子についての嵩密度は、以下の方法により測定した。
【0087】
(発泡粒子の嵩密度)
該発泡粒子の嵩密度は、上記方法により測定した。具体的には、状態調節後の、任意の量の発泡粒子を容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛りまで収容した。収容された発泡粒子の質量W1[g]を収容体積V1[L]で除して(W2/V2)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の嵩密度を求めた。
【0088】
(加圧処理による発泡粒子の製造:二段発泡)
前記分散媒放出発泡方法で得られた発泡粒子を加圧可能な密閉容器に貯留し、該容器を30℃に保ちつつ圧縮空気を該容器内に圧入することにより加圧処理を行って発泡粒子の気泡内の内圧を表2に示す値となるよう高めた。次に、該発泡粒子を該容器内から取り出し、表2に示す蒸気圧の水蒸気を用いて、表2に示す加熱時間、加熱することにより再度発泡させて、二段発泡粒子を得た。二段発泡により得られた二段発泡粒子について、嵩密度、平均気泡径、独立気泡率、全融解熱量ΔH1、高温ピーク熱量ΔH1h及び2回目のDSC曲線の融解熱量ΔH2を測定した。また、型内成形性の評価として成形可能範囲を評価した。結果を表2に示す。なお、二段発泡粒子を23℃、相対湿度50%、1atmの雰囲気下に2日間静置することにより、発泡粒子の状態調節を行ってから、これらの測定・評価を行った。
【0089】
表2中、二段発泡により得られた発泡粒子についての嵩密度は、上記一段発泡粒子と同様の方法により測定した。また、二段発泡粒子の独立気泡率、全融解熱量(△H1)、高温ピーク熱量(△H1h)、2回目DSC融解熱量(△H2)は、以下の方法により測定した。
【0090】
(平均気泡径)
発泡粒子を二等分した断面を顕微鏡下にて断面全体が納まるように拡大して撮影した。撮影された写真上で断面の面積が凡そ二等分となるように直線を引き、発泡粒子の周縁から対向する周縁までの線分の長さを、該線分と交差する全ての気泡の数で除した値を一つの発泡粒子の平均気泡径とした。この操作を無作為に抽出した20個の発泡粒子に対して行い、20個の発泡粒子の平均気泡径を相加平均した値を発泡粒子の平均気泡径とした。
【0091】
発泡粒子の独立気泡率は、上記方法により測定した。相対湿度50%、23℃の条件の恒温室内にて、養生後の発泡粒子を測定用サンプルとし下記の通り水没法により正確に見かけの体積Vaを測定した。見かけの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、東芝・ベックマン株式会社製空気比較式比重計930により測定される測定用サンプルの真の体積Vxを測定した。そして、これらの体積Va及びVxを基に、下記の式(3)により独立気泡率を計算した。上記測定を5個の測定用サンプルを用いて行い、それらの相加平均値を発泡粒子の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) (3)
ただし、
Vx:上記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(cm3)
Va:発泡粒子を、水の入ったメスシリンダーに沈めて、水位上昇分から測定される発泡粒子の見かけの体積(cm3)
W:発泡粒子測定用サンプルの重量(g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(g/cm3)
【0092】
(高温ピーク熱量ΔH1h、全融解熱量ΔH1)
発泡粒子の高温ピーク熱量ΔH1h及び全融解熱量ΔH1は、約2mgの発泡粒子を試験サンプルとして用い、JIS K7121:1987に準拠して熱流束示差走査熱量測定(DSC)により測定した。具体的には、該発泡粒子を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱して1回目のDSC曲線を取得した。該1回目のDSC曲線において、前記直鎖状低密度ポリエチレンに固有の融解ピーク(固有ピーク)の面積と、該固有ピークよりも高温側に現れる1以上の融解ピーク(高温ピーク)の面積との和を発泡粒子の全融解熱量ΔH1とした。また、該高温ピークの面積を高温ピーク熱量ΔH1hとした。測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を使用した。
【0093】
(2回目のDSC曲線の融解熱量ΔH2)
発泡粒子の2回目のDSC曲線の融解熱量ΔH2は、約2mgの発泡粒子を試験サンプルとして用い、JIS K7121:1987に準拠して熱流束示差走査熱量測定(DSC)により測定した。具体的には、該発泡粒子を10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで加熱した後に、10℃/分の冷却速度で30℃まで冷却し、再度10℃/分の加熱速度で30℃から200℃まで加熱して2回目のDSC曲線を取得した。該2回目のDSC曲線における吸熱ピークの面積を樹脂の融解熱量とした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジーティー・エイ・インスツルメント社製:DSC7020)を使用した。
【0094】
(成形可能範囲の評価)
実施例、比較例において得られた発泡粒子を用いて、後述の(成形圧を0.01MPaずつ変化させることによる型内成形)に記載の方法により、成形圧を0.08~0.15[MPa(G):ゲージ圧)]の間で0.01MPaずつ変化させて(つまり、合計8点の成形圧で)成形体を試験的に成形する型内成形を行い、成形可能範囲の評価を行った。成形可能範囲を調べることにより、型内成形性を評価できる。結果を表3に示す。結果をもとに、以下の基準で発泡粒子の成形可能範囲の評価を行った。結果を表2に示す。
◎:合格品を成形可能な成形圧が3点以上存在する
○:合格品を成形可能な成形圧が2点存在する
△:合格品を成形可能な成形圧が1点存在する
×:いずれの成形圧でも合格品を成形することができなかった
【0095】
【0096】
(成形圧を0.01MPaずつ変化させることによる型内成形)
後述の(発泡粒子成形体の製造)の方法で、成形圧(成形スチーム圧)を、表3に示すように、0.08~0.15[MPa(G):ゲージ圧)]の間で0.01MPaずつ変化させて成形体を成形した。
離型後の成形体を80℃のオーブン中で12時間静置して成形体を養生した。養生後の成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置することにより、成形体の状態調節を行った。次いで、成形体の二次発泡性、融着性、回復性をそれぞれ下記基準により5段階で評価し、表3に表示した。その結果、各項目で評価5となったものを合格とし、全ての項目で合格となったスチーム圧(つまり、合格品が成形可能であったスチーム圧)を成形可能なスチーム圧とした。なお、合格品を取得することが難しいことが明らかな成形圧条件での評価は行わず、表3中、記号「-」を表示した。
成形可能なスチーム圧の下限値から上限値までの幅が広いものほど、成形可能な成形加熱温度範囲が広いことを意味する。
【0097】
(二次発泡性)
発泡粒子成形体の中央部に100mm×100mmの矩形を描き、次いで、この矩形のいずれかの角から対角線を描いた。この対角線に重なるように形成され、一辺1mmの正方形よりも大きいボイド(つまり、発泡粒子間の間隙)の数を数え、以下の基準により5段階で評価した。
【0098】
5:ボイドの数が5個未満
4:ボイドの数が5個以上10個未満
3:ボイドの数が10個以上15個未満
2:ボイドの数が15個以上20個未満
1:ボイドの数が20個以上
【0099】
(融着性)
発泡粒子成形体を長手方向に略等分となるように折り曲げて破断させた。これにより露出した破断面を目視観察し、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数とを数えた。そして、破断面に露出している発泡粒子の総数、つまり、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数との合計に対する発泡粒子の内部で破断した発泡粒子の数の割合を算出した。この割合を百分率(%)で表した値を融着率とした。得られた融着率の値から、以下の基準により5段階で評価した。
【0100】
5:融着率が80%以上
4:融着率が60%以上80%未満
3:融着率が40%以上60%未満
2:融着率が20%以上40%未満
1:融着率が20%未満
【0101】
(回復性)
発泡粒子成形体におけるひけ、つまり、成形体の中央が成形体の端部よりもくぼんでいる状態の有無を評価した。具体的には、得られた発泡粒子成形体の中央部分と四隅部分の厚みをそれぞれ測定し、四隅部分のうち最も厚みが厚い部分に対する中央部分の厚みの比を算出した。得られた厚みの比から、以下の基準により5段階で評価した。
【0102】
5:厚み比が99%以上
4:厚み比が98%以上99%未満
3:厚み比が96%以上98%未満
2:厚み比が90%以上96%未満
1:厚み比が90%未満
【0103】
(発泡粒子成形体の製造)
二段発泡により得られた得られた発泡粒子を23℃で24時間乾燥させたものを用いて発泡粒子成形体の型内成形を行った。
まず、発泡粒子を、内圧付与を行うことなく、クラッキング量を8mm(20%)に調節した、縦200mm×横65mm×厚さ40mmの平板成形型に充填した。次に、成形金型を型締めし、両面の型のドレン弁を開放した状態で水蒸気を5秒間供給して予備加熱を行った後、0.01MPa(G)で一方加熱を行った。次いで、0.01MPa(G)で逆方向から一方加熱を行った後、表4に示す成形圧[MPa(G):ゲージ圧]の水蒸気で8秒間加熱(本加熱)した。
本加熱終了後、放圧し、成形型内面に取付けられた面圧計の値が0.02MPa(G)に低下するまで水冷した後、型を開放し成形体を型から取り出した。得られた成形体を60℃のオーブン内にて12時間養生し、その後、徐冷することにより発泡粒子成形体を得た。
【0104】
得られた発泡粒子成形体について、収縮率、成形体密度、50%圧縮応力を測定し、表面平滑性の評価を行った。結果を表4に示す。測定及び評価の対象とした発泡粒子成形体を得た成形圧を表4に示した。なお、良好な成形体を取得できなかった比較例1、3、4、5、7については、成形体密度、50%圧縮応力の測定、及び表面平滑性の評価は行わなかった。
【0105】
【0106】
表4中の、各種測定、評価は次のように行った。
【0107】
(成形体密度)
得られた発泡粒子成形体の重量を発泡粒子成形体の体積で割算することにより求めた。なお、発泡粒子成形体の体積は水没法によって求めた。
【0108】
(発泡粒子成形体の型内成形後の収縮率)
得られた発泡粒子成形体の縦方向の長さを測定し、下記式(4)により発泡粒子成形体の型内成形後の収縮率を求めた。成形体の収縮率は、寸法安定性の指標である。
(収縮率(%))=〔200[mm]-(成形体の縦方向の長さ[mm])〕/200[mm]×100 ・・・(4)
【0109】
(50%歪時圧縮応力)
発泡粒子成形体の中心部分から縦50mm×横50mm×厚み25mmの試験片をスキンを除いて切り出し、JIS K6767(1999)に基づき、圧縮速度10mm/分にて圧縮試験を行い発泡粒子成形体の50%圧縮応力を求めた。なお、この測定に使用した試験片の見掛け密度を試験片密度として表に記載した。なお、試験片密度の測定は、成形体からスキンを取り除いて切り出した試験片を用いた以外、前記発泡粒子成形体の密度の測定と同様に行った。50%圧縮応力は、発泡粒子成形体の剛性の指標である。
【0110】
(表面平滑性の評価方法)
得られた発泡粒子成形体を、目視で観察し、以下の基準で表面平滑性を評価した。
A:発泡粒子成形体の表面に粒子間隙がほとんどなく、また、金型転写、成形痕等に起因する凹凸が目立たない良好な表面状態を示す。
B:発泡粒子成形体の表面に粒子間隙がやや認められる、あるいは、金型転写、成形痕等に起因する凹凸がやや認められる。
C:発泡粒子成形体の表面に粒子間隙が認められる、あるいは、金型転写、成形痕等に起因する凹凸が認められる。
【0111】
比較例1は、直鎖状低密度ポリエチレンとして、エチレンと1-オクテンとの共重合体を基材樹脂とした発泡粒子である。基材樹脂の密度、メルトフローレイトが大きいとともに、発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が大きく、良好な成形体を成形することができなかった。
比較例2は、直鎖状低密度ポリエチレンとして、エチレンと1-オクテンとの共重合体を基材樹脂とした発泡粒子である。基材樹脂のメルトフローレイトが大きく、良好な成形体を成形可能な成形圧力の範囲が狭かった。
比較例3は、直鎖状低密度ポリエチレンとして、エチレンと1-オクテンとの共重合体を基材樹脂とした発泡粒子である。基材樹脂の密度が小さいとともに、発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が95J/gと小さく、良好な成形体を成形することができなかった。
比較例4は、直鎖状低密度ポリエチレンとして、エチレンと1-オクテンとの共重合体を基材樹脂とした発泡粒子である。基材樹脂の密度、、融点が大きいとともに、発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が145J/gと大きく、良好な成形体を成形することができなかった。
比較例5は、直鎖状低密度ポリエチレンとして、エチレンと炭素数6のαオレフィンである1-ヘキセンとの共重合体を基材樹脂とした発泡粒子である。発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が小さく、良好な成形体を成形することができなかった。
比較例6は、直鎖状低密度ポリエチレンとして、エチレンと炭素数6のαオレフィンである4-メチルペンテン-1との共重合体を基材樹脂とした発泡粒子である。基材樹脂のメルトフローレイトが大きく、良好な成形体を成形可能な成形圧力の範囲が狭かった。また、発泡粒子の平均気泡径が大きく、得られた成形体の表面平滑性が低下した。
比較例7は、直鎖状低密度ポリエチレンとして、エチレンと炭素数4の1-ブテンとの共重合体を基材樹脂とした発泡粒子である。発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)が小さく、良好な成形体を成形することができなかった。
前記発泡粒子を熱流束示差走査熱量測定によって10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱し、次に10℃/minの冷却速度で200℃から30℃まで冷却し、再度10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで加熱した際に得られる2回目のDSC曲線に現れる融解ピークの融解熱量(ΔH2)が105J/g以上125J/g以下である、請求項1に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
前記発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)に対する高温ピークの融解熱量(ΔH1h)の比(ΔH1h/ΔH1)が0.20以上0.30以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
前記直鎖状低密度ポリエチレンの融点(Tm)と前記発泡粒子の全融解熱量(ΔH1)との関係が以下の式(1)を満足する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
ΔH1>10×Tm-1090・・・(1)