(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141175
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】熱交換用パイプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 5/12 20060101AFI20220921BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20220921BHJP
C22C 47/00 20060101ALI20220921BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220921BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20220921BHJP
F28F 13/02 20060101ALI20220921BHJP
C22C 14/00 20060101ALN20220921BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
B22F5/12
C22C1/08 F
C22C47/00
B22F7/04 E
F28F21/08 Z
F28F13/02 Z
C22C14/00 Z
C22C21/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041364
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】幸 俊彦
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018BA03
4K018BA07
4K018BA08
4K018BB02
4K018BB04
4K018HA03
4K018JA21
4K018KA23
4K020AC01
4K020BB08
(57)【要約】
【課題】熱交換性に優れ、かつ、金属製多孔質体が金属製パイプから脱落しにくい熱交換用パイプを提供する。
【解決手段】金属製パイプと、金属製パイプの内壁面に接合された、複数の金属繊維を結合してなる金属製多孔質体と、を備え、金属製多孔質体の一部は金属製パイプの内壁面に接合され、金属製多孔質体の断面における凹凸度を(断面における周囲長
2/断面の面積)×1/4π、線形度を(断面における絶対最大長
2/断面の面積)×π/4とするとき、これら凹凸度及び線形度を金属製多孔質体の縦断面で求めて凹凸度と線形度とを乗じてなる繊維度を算出し、以下の式1で表される縦断面の壁面に垂直な繊維度が1.9以上である。
(内壁面に垂直な繊維度)=(繊維度)×cos(2α)・・・(式1)
α:金属繊維の傾き(ただし、45度<α<135度のときは、α=0とする)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製パイプと、前記金属製パイプの内壁面に接合された、複数の金属繊維を結合してなる金属製多孔質体と、を備え、
前記金属製多孔質体の一部は前記金属製パイプの前記内壁面に接合され、前記金属製多孔質体の断面における凹凸度を(断面における周囲長2/断面の面積)×1/4π、線形度を(断面における絶対最大長2/断面の面積)×π/4とするとき、これら凹凸度及び線形度を前記金属製多孔質体の縦断面で求めて前記凹凸度と前記線形度とを乗じてなる繊維度を算出し、以下の式1で表される縦断面の内壁面に垂直な繊維度が1.9以上である
(内壁面に垂直な繊維度)=(繊維度)×cos(2α)・・・(式1)
α:金属繊維の傾き(ただし、45度<α<135度のときは、α=0とする)
ことを特徴とする熱交換用パイプ。
【請求項2】
前記金属製多孔質体の気孔率は、80%以上90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用パイプ。
【請求項3】
複数の金属繊維を積み重ねて前駆体を形成する前駆体形成工程と、前記前駆体を金属製パイプの一端から押し込み、前記金属製パイプ内に装填するパイプ内装填工程と、前記金属製パイプ内に前記前駆体を装填した状態で焼結する焼結工程とを有し、
前記前駆体形成工程では、前記金属繊維の配向性を該金属製パイプの半径方向に向けて延びるように少量ずつ揃えながら形成した小前駆体を複数形成し、前記パイプ内装填工程では、複数の前記小前駆体を複数回に分けて前記金属製パイプ内に装填することを特徴とする熱交換用パイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体をパイプの内壁面に接合してなる熱交換用パイプ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質体をパイプの内壁面に接合してなる熱交換用パイプとして、例えば特許文献1に示すように、アルミニウムバルク体であるアルミニウム管の内周面に多孔質アルミニウム体を接合した多孔質アルミニウム複合体が開示されている。この特許文献1の多孔質アルミニウム体は、複数のアルミニウム基材が焼結されて一体化されたものであり、気孔率が30%以上90%以下の範囲内に設定されている。
【0003】
アルミニウム基材としては、アルミニウム繊維とアルミニウム粉末粒子とが用いられており、アルミニウム基材は、その外方に向けて突出する複数の柱状突起を介して相互に結合した構造とされている。この場合、アルミニウム繊維の繊維径は20μm以上1000μm以下の範囲内とされ、アルミニウム繊維同士の間に立体的かつ等方的な空隙が確保されると記載されている。
【0004】
また、このような繊維の配向性を持たせた多孔体として、特許文献2に記載の通液部材が知られている。この通液部材は、非連続強化繊維が分散した構造の少なくとも交点が熱可塑性樹脂で接着され、連通孔である空隙を30~90%有し、非連続強化繊維の面内方向の繊維配向角の平均値αが0~40°で、面外方向の繊維配向角の平均値βが0~25°であることを特徴とする多孔質複合体で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016‐006226号公報
【特許文献2】国際公開2019/065625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の多孔質アルミニウム体は、アルミニウム繊維同士の間の空隙が等方的であり、また、アルミニウム繊維の繊維径が小さいために、パイプ(アルミニウム管)の内壁面との間の熱交換が制限され、パイプ外面と多孔質アルミニウム体との間で十分に熱交換することが難しい。また、多孔質アルミニウム体とパイプとの接合が不十分であると、多孔質アルミニウム体がパイプから脱落するおそれもある。一方、特許文献2の多孔質複合体は、繊維の配向性を持たせてはいるものの、繊維同士が樹脂などによって接合されたものであるため、界面熱抵抗の発生や、接合樹脂の熱伝導が低いことなどから、繊維に熱を効率的に伝達できる構造ではない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、熱交換性に優れ、かつ、金属製多孔質体が金属製パイプから脱落しにくい熱交換用パイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱交換用パイプは、金属製パイプと、前記金属製パイプの内壁面に接合された、複数の金属繊維を結合してなる金属製多孔質体と、を備え、前記金属製多孔質体の一部は前記金属製パイプの前記内壁面に接合され、前記金属製多孔質体の断面における凹凸度を(断面における周囲長2/断面の面積)×1/4π、線形度を(断面における絶対最大長2/断面の面積)×π/4とするとき、これら凹凸度及び線形度を前記金属製多孔質体の縦断面で求めて前記凹凸度と前記線形度とを乗じてなる繊維度を算出し、以下の式1で表される縦断面の内壁面に垂直な繊維度が1.9以上である。
(内壁面に垂直な繊維度)=(繊維度)×cos(2α)・・・(式1)
α:金属繊維の傾き(ただし、45度<α<135度のときは、α=0とする)
【0009】
上記縦断面の内壁面に垂直な繊維度は、金属繊維が内壁面から垂直方向(半径方向)に如何に伸びているかを示す値であり、この数値が大きいほど、金属繊維が内壁面から垂直方向に延びている金属繊維の比率が大きくなる。なお、上記金属繊維の傾きαは、X軸と金属繊維断面における金属繊維の絶対最大長とがなす角度である。
また、上記繊維度は、上述したように、以下の式2で表される。
繊維度=凹凸度×線形度・・・(式2)
また、凹凸度及び線形度は、CT(Computed tomography)スキャン装置により検出される画像データ(CT画像)から画像解析ソフトを用いて算出され、凹凸度は以下の式3で表され、線形度は以下の式4で表される。
凹凸度=(金属繊維断面における周囲長2/面積)×1/4π ・・・(式3)
線形度=(金属繊維断面における絶対最大長2/面積)×π/4 ・・・(式4)
なお、凹凸度及び線形度で用いられる面積とは、断面の金属繊維の面積であり、凹凸度で用いられる周囲長とは断面における金属繊維外周の長さであり、これら凹凸度の面積及び周囲長は、画像データに表示された穴(具体的には、金属繊維がループ状である場合、そのループ部分に形成される穴)を含めずに計算する。一方、線形度で用いられる絶対最大長は、選択境界に沿った任意の2点間の最長距離(断面における金属繊維の最大長さ)である。これら凹凸度及び線形度は、画像データに表示される金属繊維の形状が円に近いほど1.0に近い値となり、細長いほど大きな値となる。
【0010】
本発明では、縦断面の内壁面に垂直な繊維度が1.9以上であるので、金属繊維に金属製パイプの半径方向に向けて延びるような配向性を持たせることができる。つまり、金属製パイプと金属多孔質体との接合部分から離間して延びる金属繊維の延出方向を内壁面から垂直方向に揃えることができる。
また、金属製多孔質体の一部が金属製パイプの内壁面に接合されているので、接合部分の全体で金属製パイプと金属多孔質体との間の熱交換がなされる。かつ、金属繊維の配向方向が内壁面から垂直方向に揃えられているので、金属製パイプの横断面の中心部にも効果的に金属繊維を配置することができ、金属製パイプ内を流通する流体との熱交換も良好になされる。さらに、金属繊維は端部ではなく長さ方向の一部が内壁面に接合されているから、金属製パイプから脱落するおそれがなく、長期的に安定した熱交換性能を維持することができる。
なお、縦断面の壁面に垂直な繊維度が1.9未満となると、金属製パイプの内壁面から垂直に金属繊維が配向している割合が少なくなり、熱交換性能が低下する。さらに、この値が1.0未満となると、内壁面に対して平行な金属繊維の割合が多くなることから、さらに熱交換性能が低下する。
【0011】
本発明の熱交換用パイプの好ましい態様としては、前記金属製多孔質体の気孔率は、80%以上90%以下であるとよい。
金属製多孔質体の気孔率が80%未満では、内部を流通する空気の流路が狭まり、圧力損失が高くなる可能性があり、90%を超えると金属製多孔質体の表面積を確保しにくいため、電熱効率を確保できなくなる可能性がある。
【0012】
本発明の熱交換用パイプの製造方法は、複数の金属繊維を積み重ねて前駆体を形成する前駆体形成工程と、前記前駆体を金属製パイプの一端から押し込み、前記金属製パイプ内に装填するパイプ内装填工程と、前記金属製パイプ内に前記前駆体を装填した状態で焼結する焼結工程とを有し、前記前駆体形成工程では、前記金属繊維の配向性を該金属製パイプの半径方向に向けて延びるように少量ずつ揃えながら形成した小前駆体を複数形成し、前記パイプ内装填工程では、複数の前記小前駆体を複数回に分けて前記金属製パイプ内に装填する。
【0013】
本発明では、複数の金属繊維の配向性を少量ずつ揃えながら形成した小前駆体を金属製パイプ内に複数回に分けて装填することで、前駆体がパイプ内に装填されるので、前駆体の外周部において、金属繊維は金属製パイプの内壁面で折れ曲がった後に、内壁面から離間するように垂直方向に延びた状態に設けられる。したがって、金属繊維は、金属製パイプの内壁面に部分的に接合され、横断面方向(垂直方向)に延びて配置されることから、縦断面の壁面に垂直な繊維度を1.9以上にすることができ、優れた熱交換性を有する熱交換用パイプを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱交換性に優れ、かつ、金属製多孔質体が金属製パイプから脱落しにくい熱交換用パイプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態の熱交換用パイプの縦断面図である。
【
図3】本発明の製造方法の実施形態を示すフローチャートである。
【
図4】金属製多孔質体(多孔質アルミニウム焼結体)の模式図である。
【
図6】焼結用アルミニウム原料において柱状突起が形成される状態を示す模式図である。
【
図9】前駆体をアルミニウム製パイプに押し込む状態を示す模式図である。左側の円で囲った部分は要部の拡大図である。
【
図10】熱交換用パイプの断面における金属繊維の周囲長、絶対最大長及び金属繊維の傾きを示す模式図である。
【
図11】実験例における熱交換パイプを用いた熱交換評価方法を示す模式図である。
【
図12】実施例1の熱交換パイプの横断面のCT画像である。
【
図13】実施例1の熱交換パイプの縦断面のCT画像である。
【
図14】実施例2の熱交換パイプの横断面のCT画像である。
【
図15】実施例2の熱交換パイプの縦断面のCT画像である。
【
図16】実施例3の熱交換パイプの横断面のCT画像である。
【
図17】実施例3の熱交換パイプの縦断面のCT画像である。
【
図18】比較例の熱交換パイプの横断面のCT画像である。
【
図19】比較例の熱交換パイプの縦断面のCT画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。この実施形態の熱交換用パイプ10は、
図1及び
図2に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム製パイプ(本発明の金属製パイプに相当)20と、このアルミニウム製パイプ20内に装填されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる多孔質アルミニウム焼結体(本発明の金属製多孔質体に相当。以下、「多孔質体」)30と、から構成されている。
【0017】
この熱交換用パイプ10において、多孔質体30が装填されている部位の外側に高温又は低温の熱源(図示略)が設けられ、アルミニウム製パイプ20の内部に熱媒としての気体又は液体の流体を流通させ、その流体が多孔質体30内を通過する際に熱源との間で熱交換する。
【0018】
アルミニウム製パイプ20は、A1070等の純アルミ系合金やA3003等のAl-Mn系合金等の押出成形等によって形成された一般的な横断面円形のパイプである。このアルミニウム製パイプ20は、例えば、外径が5mm~150mm、肉厚が0.8mm~10mmとされる。
【0019】
多孔質体30は、
図4に示すように、複数のアルミニウム基材(金属基材)31が焼結されて一体化されたものであり、気孔率が80%以上90%以下の範囲内に設定されている。アルミニウム基材31としては、アルミニウム繊維31a(金属繊維)とアルミニウム粉末粒子31bとの混合体が用いられている。
【0020】
このアルミニウム基材31の外表面には、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成されており、複数のアルミニウム基材31は基材結合部35を介して結合されている。この基材結合部35は、柱状突起32同士が結合した部分や、柱状突起32とアルミニウム基材31の表面とが結合した部分、さらにはアルミニウム基材31の表面同士が結合した部分である。
【0021】
基材結合部35には、Ti-Al系化合物16及びAlと共晶反応する共晶元素を含む共晶元素化合物17が存在している。本実施形態では、Ti-Al系化合物16はTiとAlの化合物であり、より具体的には、Al3Ti金属間化合物である。
【0022】
Alと共晶反応する共晶元素としては、例えば、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cd、Ce、Co、Cu、Fe、Ga、Gd、Ge、In、La、Li、Mg、Mn、Nd、Ni、Pd、Pt、Ru、Sb、Si、Sm、Sn、Sr、Te、Y、Zn等が挙げられる。このうち、Ni、Mg、Cu、Siが好適である。
【0023】
この多孔質体30の一部は、アルミニウム製パイプ20の内壁面に接合されている。具体的には、多孔質体30においては、アルミニウム基材31はアルミニウム製パイプ20の内壁面に接合されている。また、アルミニウム基材31は、他のアルミニウム基材31に接合されていてもよい。
【0024】
アルミニウム製パイプ20の内壁面に接合されているアルミニウム繊維31aは、所定長さの範囲で長さ方向に沿って接触した状態で接合しており、(換言すると、内壁面に対してアルミニウム繊維31aは長さ方向の一部分が接合されており、)アルミニウム製パイプ20の内壁面上でアルミニウム繊維31aの途中が折れ曲がり、内壁面に接触していない残部は内壁面から離間して延びており、縦断面の内壁面に垂直な繊維度が1.9以上とされている。
【0025】
上記縦断面の内壁面に垂直な繊維度は、上述したように、以下の式1で表される。
内壁面に垂直な繊維度=(繊維度)×cos(2α) ・・・(式1)
α:金属繊維の傾き(ただし、45度<α<135度のときは、α=0とする)
この縦断面の内壁面に垂直な繊維度は、金属繊維が内壁面から垂直方向(半径方向)に如何に伸びているかを示す値であり、この数値が大きいほど、金属繊維が内壁面から垂直方向に延びている金属繊維の比率が大きくなる。なお、上記金属繊維の傾きαは、
図10に示すように、X軸と金属繊維断面における金属繊維R1の絶対最大長とがなす角度である。
上記繊維度は、上述したように、以下の式2で表される。
繊維度=凹凸度×線形度・・・(式2)
また、凹凸度及び線経度は、CT(Computed tomography)スキャン装置により検出される画像データ(CT画像)から画像解析ソフトを用いて算出され、凹凸度は以下の式3で表され、線形度は以下の式4で表される。
凹凸度=(断面における周囲長
2/面積)×1/4π ・・・(式3)
線形度=(断面における絶対最大長
2/面積)×π/4 ・・・(式4)
なお、凹凸度及び線形度で用いられる面積とは、
図10に示すように、金属繊維R1の断面の面積であり、凹凸度で用いられる周囲長L1とは断面における金属繊維R1の外周の長さであり、これら凹凸度の面積及び周囲長は、画像データに表示された穴(具体的には、金属繊維がループ状である場合、そのループ部分に形成される穴)を含めずに計算する。一方、線形度で用いられる絶対最大長L2は、
図10に示すように、選択境界に沿った任意の2点間の最長距離(断面における金属繊維R1の最大長さ)である。これら凹凸度及び線形度は、画像データに表示される金属繊維の形状が円に近いほど1.0に近い値となり、細長いほど大きな値となる。本実施形態では、CTで得られるすべてのスライス画像に対して、断面内の全ての金属繊維ごとに凹凸度及び線形度を算出し、これらの平均値を断面の凹凸度、及び線形度として用いている。
なお、縦断面の凹凸度及び線形度と同じように、横断面の凹凸度及び線形度を求め、これらを乗じて横断面の繊維度を算出することも可能である。この場合、横断面の繊維度は、14以上であることが好ましい。また、横断面の繊維度は14以上21以下であることがより好ましい。
【0026】
つまり、多孔質体30の縦断面の内壁面に垂直な繊維度が大きくなるほど、多孔質体30のアルミニウム繊維31aがアルミニウム製パイプ20の内壁面への接合部から直角に折れ曲がり、アルミニウム製パイプ20の内壁面から垂直(アルミニウム製パイプ20の半径方向)に延びているアルミニウム繊維31aの比率が多くなる。この点、熱交換率を向上させる観点から、アルミニウム繊維31aは、アルミニウム製パイプ20の内壁面への接合部から直角に折れ曲がり、アルミニウム製パイプ20の内壁面から垂直に延びているのが好ましい。このため、多孔質体30の縦断面の内壁面に垂直な繊維度の値は、1.9以上とされており、好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.3以上であるとよい。
【0027】
なお、縦断面の内壁面に垂直な繊維度の値が2.0未満となると、アルミニウム製パイプ20の内壁面から垂直にアルミニウム繊維31aが配向している割合が少なくなり、熱交換性能が低下する。さらに、この値が1.0未満となると、内壁面に対して平行なアルミニウム繊維31aの割合が多くなることから、さらに熱交換性能が低下する。また、一つのアルミニウム繊維31aがアルミニウム製パイプ20の内壁面に2箇所以上で接触した状態に接合しているものも存在してよい。
【0028】
アルミニウム繊維31aがアルミニウム製パイプ20の内壁面に所定長さの範囲で接触した状態に接合されていることから、アルミニウム製パイプ20に対するアルミニウム繊維31aの接合面積(総面積)は、この多孔質体30が設けられる領域Eのアルミニウム製パイプ20の内壁面の面積に対して5%以上が好ましい。
【0029】
つまり、多孔質体30が設けられる領域Eにおいて、(アルミニウム繊維31aの接合面積)/(アルミニウム製パイプ20の内壁面の面積)の百分率を壁面に対する接合面積率とすると、接合面積率≧5%が良い。この接合面積率が5%未満では、アルミニウム製パイプ20に対するアルミニウム繊維31aの接合が弱いために接合部が剥がれて、熱伝達性を阻害するとともに、多孔質体30がアルミニウム製パイプ20の内壁面から脱落するおそれがある。
【0030】
多孔質体30は、アルミニウム製パイプ20の内壁面付近にアルミニウム基材31が偏在していると効果的な熱伝達が行われないので、アルミニウム製パイプ20の横断面積の全体に分散して配置されているのが好ましい。
【0031】
具体的には、
図2に示すように、アルミニウム製パイプ20の横断面の面積の1/2に相当する中心部の領域F内においてアルミニウム繊維31aが占める平均面積率と、横断面全体の領域Gにおけるアルミニウム繊維31aの平均面積率との差が5%以内である。この平均面積率の差が5%を超えると、多孔質体30において、アルミニウム基材31がアルミニウム製パイプ20の内壁面に偏在しているおそれがある。
【0032】
アルミニウム基材31とアルミニウム製パイプ20の内壁面とが柱状突起32を介して接合されている箇所も存在する。その接合部には、前述したTi-Al系化合物16及びAlと共晶反応する共晶元素を含む共晶元素化合物17が存在している。
【0033】
次に、本実施形態の熱交換用パイプ10の製造方法について説明する。
図3はそのフローチャートを示している。
【0034】
アルミニウム基材31としては、上述したように、アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末粒子31bとが用いられている。
【0035】
ここで、アルミニウム基材31のアルミニウム繊維31aについては、溶融紡績法により作製する。すなわち、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる材料を加熱溶融させ、ノズルから空中又は水中に一定速度で押し出し、繊維状に冷却固化させたものを、所定長さで切断する
【0036】
アルミニウム繊維31aの繊維径Rは20μm以上1000μm以下の範囲内、好ましくは50μm以上500μm以下の範囲内とされている。アルミニウム繊維31aの繊維長さLは0.2mm以上100mm以下の範囲内、好ましくは1mm以上50mm以下の範囲内とされている。
【0037】
アルミニウム繊維31aは、例えば、長さLと繊維径Rとの比L/Rが4以上2500以下の範囲内とすることができる。
【0038】
アルミニウム繊維31aの繊維径Rが20μm未満の場合には、アルミニウム繊維同士の結合面積が小さく、焼結強度が不足するおそれがある。一方、アルミニウム繊維31aの繊維径Rが1000μmを超える場合には、アルミニウム繊維同士が接触する接点の数が不足し、やはり、焼結強度が不足するおそれがある。
【0039】
アルミニウム繊維31aの長さLと繊維径Rとの比L/Rが4未満の場合には、多孔質アルミニウム焼結体の製造方法において、アルミニウム繊維31aを積層配置したときの多孔質体30の嵩密度DPをアルミニウム繊維の真密度DTの50%以下とすることが難しく、気孔率の高い多孔質体30を得ることが困難となるおそれがある。一方、アルミニウム繊維31aの長さLと繊維径Rとの比L/Rが2500を超える場合には、アルミニウム繊維を均一に分散させることができなくなり、均一な気孔率を有する多孔質体30を得ることが困難となるおそれがある。
【0040】
さらなる気孔率の増大を図る場合には、アルミニウム繊維31aの長さLと繊維径Rとの比L/Rを10以上とすることが好ましい。また、より均一な気孔率を備えた多孔質体30を得るためには、アルミニウム繊維31aの長さLと繊維径Rとの比L/Rを500以下とすることが好ましい。
【0041】
アルミニウム粉末粒子31bとしては、アトマイズ粉末を用いることができる。アルミニウム粉末粒子31bの粒径は5μm以上500μm以下の範囲内、好ましくは20μm以上200μm以下の範囲内とされている。
【0042】
アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末粒子31bとの混合比率を調整することで、気孔率を調整することが可能となる。すなわち、アルミニウム繊維31aの比率を増やすことにより、多孔質体30の気孔率を増大させることが可能となる。例えば、気孔率を80%以上90%以下とするには、アルミニウム基材31中のアルミニウム粉末粒子31bの比率を0質量%以上5質量%以下、アルミニウム繊維31aの比率を95質量%以上100質量%以下とすることが好ましい。なお、多孔質体30の気孔率が80%未満では、内部を流通する空気の流路が狭まり、圧力損失が高くなる可能性があり、90%を超えると多孔質体30の表面積を確保しにくいため、伝熱効率を大幅に向上できない可能性がある。
【0043】
アルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末粒子31bとしては、純アルミニウムの他、アルミニウム合金を用いてもよい。例えば、JISに規定されるA3003合金(Al-0.6質量%Si-0.7質量%Fe-0.1質量%Cu-1.5質量%Mn-0.1質量%Zn合金)やA5052合金(Al-0.25質量%Si-0.40質量%Fe-0.10質量%Cu-0.10質量%Mn-2.5質量%Mg合金-0.2質量%Cr-0.1質量%Zn合金)などからなるアルミニウム基材を好適に用いる事ができる。
【0044】
アルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末粒子31bが同じ組成である必要はない。例えば、純アルミニウムからなるアルミニウム繊維31aとJISA3003合金からなるアルミニウム粉末粒子31bとを用いるなど、目的に応じて適宜調整することができる。
【0045】
上記のように構成されるアルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末粒子31bからなるアルミニウム基材31に対して、チタン粉末粒子42及び共晶元素粉末粒子43を固着させて、焼結用アルミニウム原料40とする。
【0046】
この焼結用アルミニウム原料40は、
図5に示すように、アルミニウム基材31(
図5及び
図6には、左側にアルミニウム繊維31a、右側にアルミニウム粉末粒子31bを示す)と、このアルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42及び共晶元素粉末粒子(ニッケル粉末粒子、マグネシウム粉末粒子、銅粉末粒子、シリコン粉末粒子)43と、を備えている。
【0047】
チタン粉末粒子42としては、金属チタン粉末粒子及び水素化チタン粉末粒子のいずれか一方又は両方を用いることができる。共晶元素粉末粒子43としては、金属ニッケル粉末粒子、金属マグネシウム粉末粒子、金属銅粉末粒子、金属シリコン粉末粒子およびこれらの合金粉末が用いられている。
【0048】
焼結用アルミニウム原料40においては、チタン粉末粒子42の含有量が0.01質量%以上20質量%以下の範囲内とされている。
【0049】
チタン粉末粒子42の粒径は、1μm以上50μm以下の範囲内、好ましくは、5μm以上30μm以下の範囲内とされている。なお、水素化チタン粉末粒子は、金属チタン粉末粒子よりも粒径を細かくすることが可能であることから、アルミニウム基材31の外表面に固着するチタン粉末粒子42の粒径を微細にする場合には、水素化チタン粉末粒子を用いることが好ましい。
【0050】
アルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42、42同士の間隔は、5μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0051】
焼結用アルミニウム原料40における共晶元素粉末粒子43の各成分の含有量は、ニッケル粉末粒子が0.01質量%以上5.0質量%以下の範囲内、マグネシウム粉末粒子が0.01質量%以上5.0質量%以下の範囲内、銅粉末粒子が0.01質量%以上5.0質量%以下の範囲内、シリコン粉末粒子が0.01質量%以上15.0質量%以下の範囲内とされている。
【0052】
ニッケル粉末粒子は1μm以上20μm以下の範囲内、好ましくは、2μm以上10μm以下の範囲内である。マグネシウム粉末粒子は20μm以上500μm以下の範囲内、好ましくは、20μm以上100μm以下の範囲内である。銅粉末粒子は5μm以上500μm以下の範囲内、好ましくは、20μm以上100μm以下の範囲内である。シリコン粉末粒子は5μm以上200μm以下の範囲内、好ましくは、10μm以上100μm以下の範囲内とされている。
【0053】
図3に示すように、各工程を順次行う。まず、常温にて、アルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末粒子31bからなるアルミニウム基材31とチタン粉末粒子42と共晶元素粉末粒子(例えば、ニッケル粉末粒子、マグネシウム粉末粒子、銅粉末粒子、シリコン粉末粒子)43とを混合する(混合工程)。
【0054】
このとき、バインダー溶液を噴霧する。バインダーとしては、大気中で500℃に加熱した際に燃焼・分解されるものが好ましく、具体的には、アクリル系樹脂、セルロース系高分子体を用いることが好ましい。バインダーの溶剤としては、水系、アルコール系、有機溶剤系の各種溶剤を用いることができる。
【0055】
この混合工程においては、例えば、自動乳鉢、パン型転動造粒機、シェーカーミキサー、ポットミル、ハイスピードミキサー、V型ミキサー等の各種混合機を用いて、アルミニウム基材31とチタン粉末粒子42と共晶元素粉末粒子43とを流動させながら混合する。
【0056】
次に、混合工程で得られた混合体を乾燥する(乾燥工程)。この混合工程及び乾燥工程により、
図5の上段に示すアルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末粒子31bからなるアルミニウム基材31に、下段に示すようにチタン粉末粒子42及び共晶元素粉末粒子43が分散して固着され、本実施形態である焼結用アルミニウム原料40が製造される。
【0057】
次に、
図8に示す円筒状のカーボン製容器50内に焼結用アルミニウム原料40を散布して圧力を加えずに充填する(原料散布工程)。このカーボン製容器50は、例えば、円筒体51と、その底部を開閉可能な底蓋52とにより構成される。円筒体51は、アルミニウム製パイプ20の内径より大きい内径に形成される。
【0058】
底蓋52上に焼結用アルミニウム原料40を散布した後、振動を加えることにより、アルミニウム基材31のアルミニウム繊維30aは、その大部分が底蓋52上に横たわるように、言い換えれば、底蓋52の表面にほぼ平行に配置され、順次、下方から積層される。
【0059】
カーボン製容器50内に焼結用アルミニウム原料40を所定高さ(例えば、アルミニウム製パイプ20内に充填される前駆体全体の1/2以下の高さ)まで圧力をかけずに充填した状態で、これらを脱脂炉内に装入して、大気雰囲気で加熱してバインダーを除去する(脱バインダー工程)。
【0060】
以上説明した、混合工程から脱バインダー工程までが前駆体形成工程である。つまり、前駆体形成工程では、アルミニウム繊維31aの配向性を金属製パイプ20の半径方向に向けて延びるように少量ずつ揃えながら形成した小前駆体41を複数形成する。
【0061】
次いで、カーボン製容器50から焼結用アルミニウム原料40を取り出して、アルミニウム製パイプ20内に小前駆体41を複数回に分けて装填する(パイプ内装填工程)。焼結用アルミニウム原料40は、脱バインダー工程にてカーボン製容器50内で相互に固着した状態となっており、カーボン製容器50から取り出すと、その充填高さに応じて円盤状又は円柱状の小前駆体41となっている。この小前駆体41は、アルミニウム製パイプ20の内径より大きい外径を有している。その外径はアルミニウム製パイプ20の内径より、例えば1mm以上10mm以下大きく、その高さは、アルミニウム製パイプ20内に充填される前駆体の高さの1/2以下であるとよい。また、小前駆体41の高さは、より好ましくは、上記前駆体の高さの1/3以下であるとよく、さらに好ましくは、上記前駆体の高さの1/5以下であるとよい。
【0062】
これら小前駆体41がアルミニウム製パイプ20の内径より大きい外径を有しているため、
図9に示すように、押し込み棒53を用いて、小前駆体41を1個ずつ順次、又は複数個を積層状態として複数回に分けてアルミニウム製パイプ20の一端から押し込むようにアルミニウム製パイプ20内に装填すると、
図9の二点鎖線で示すように、アルミニウム製パイプ20の内壁面において小前駆体41の外周部がほぼ直角に折れ曲がり、その折れ曲がった外周部がアルミニウム製パイプ20の内壁面に密接する。
【0063】
アルミニウム製パイプ20の内壁面への接触部分では、小前駆体41のアルミニウム繊維31aはアルミニウム製パイプ20の軸方向にほぼ沿って接触する。アルミニウム製パイプ20の内側では、アルミニウム繊維31aはアルミニウム製パイプ20の内壁面から離間し、アルミニウム製パイプ20のほぼ横断面方向に沿って延びた状態となる。つまり、小前駆体41においても、縦断面の内壁面に垂直な繊維度が1.9以上となる。
【0064】
その後、複数の小前駆体41からなる前駆体を装填したアルミニウム製パイプ20を不活性ガス雰囲気の焼成炉内に装入して、添加した共晶元素粉末粒子43の種類や添加量に応じて575~665℃の温度範囲で0.5~60分間保持する(焼結工程)。保持時間は1~20分間とすることが好ましい。
【0065】
この焼結工程においては、前駆体(複数の小前駆体41)に形成されている焼結用アルミニウム原料40中のアルミニウム基材31は溶融するが、アルミニウム基材31の表面には酸化膜が形成されていることから、溶融したアルミニウムが酸化膜によって保持され、アルミニウム基材31の形状が維持される。
【0066】
アルミニウム基材31の外表面のうちチタン粉末粒子42が固着された部分においては、チタンとの反応によって酸化膜が破壊され、内部の溶融アルミニウムが外方へと噴出する。噴出した溶融アルミニウムはチタンとの反応によって融点の高い化合物を生成して固化する。
【0067】
これにより、
図6の下段に示すように、アルミニウム基材31の外表面に、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成される。柱状突起32には、Ti-Al系化合物16が存在しており、このTi-Al系化合物16によって柱状突起32の必要以上の成長が抑制される。
【0068】
なお、チタン粉末粒子42として水素化チタンを用いた場合には、300~400℃付近で水素化チタンが分解し、生成したチタンがアルミニウム基材31の表面の酸化膜と反応する。
【0069】
本実施形態では、アルミニウム基材31の外表面に固着された共晶元素粉末粒子43によって、アルミニウム基材31には局所的に融点が低くなる箇所が形成される。よって、添加した共晶元素粉末粒子43の種類や添加量に応じて、575~655℃といった比較的低温条件でも柱状突起32が確実に形成される。
【0070】
隣接するアルミニウム基材31,31同士が、互いの柱状突起32を介して溶融状態で一体化あるいは固相焼結することによって結合され、
図4に示すように、柱状突起32を介して複数のアルミニウム基材31、31同士が結合された多孔質体30が製造される。
【0071】
柱状突起32を介してアルミニウム基材31、31同士が結合された基材結合部35には、
図7に示すようにTi-Al系化合物(本実施形態では、Al
3Ti金属間化合物)16及び共晶元素化合物17が存在する。
【0072】
アルミニウム製パイプ20の内壁面においては、前駆体(複数の小前駆体41)が折れ曲がって外周部が接触しているので、アルミニウム基材31のアルミニウム繊維31aの一部が長さ方向に沿って接触しており、その状態で焼結されることによりアルミニウム繊維31aとアルミニウム製パイプ20とが結合される。したがって、アルミニウム繊維31aが線状に接触した状態で結合している。
【0073】
アルミニウム基材31の一部の柱状突起32もアルミニウム製パイプ20と結合する。アルミニウム製パイプ20の表面にチタン粉末粒子42及び共晶元素粉末粒子43が接触する場合には、アルミニウム製パイプ20の表面からも柱状突起32が形成され、アルミニウム製パイプ20と多孔質体30とが接合される。
【0074】
以上のような構成とされた熱交換用パイプ10は、縦断面の内壁面に垂直な繊維度の値が1.9以上であるので、アルミニウム繊維31aに金属製パイプ20の半径方向に向けて延びるような配向性を持たせることができる。つまり、金属製パイプ20と多孔質体30との接合部分から離間して延びるアルミニウム繊維31aの延出方向を内壁面から垂直方向に揃えることができる。また、多孔質体30の一部が金属製パイプ20の内壁面に接合している、より具体的には、多孔質体30のアルミニウム繊維31aがアルミニウム製パイプ20の内壁面において屈曲し、一部がアルミニウム製パイプ20の内壁面に線状に接触した状態で接合しているため、多孔質体30と内壁面との間で速やかに熱交換がなされる。
【0075】
アルミニウム製パイプ20の内側においては、アルミニウム繊維31aの配向方向がアルミニウム製パイプ20の内壁面から垂直方向(径方向)に揃えられているので、熱媒との間の熱交換性にも優れている。
【0076】
しかも、アルミニウム繊維31aがアルミニウム製パイプ20の内壁面に長さ方向に沿って接触した状態に接合していることから、アルミニウム製パイプ20から剥がれにくく、長期的に安定した熱交換性能を維持することができる。
【0077】
柱状突起32により結合している部分にはTi-Al系化合物16が存在しているので、このTi-Al系化合物16によってアルミニウム製パイプ20及び多孔質体30の表面の酸化膜が除去されており、アルミニウム製パイプ20と多孔質体30、あるいは多孔質体30同士の接合強度が向上する。
【0078】
また、Ti-Al系化合物16によって柱状突起32の成長が抑制されることから、溶融アルミニウムが多孔質体30側に噴出することを抑制でき、多孔質体30の気孔率を確保することができる。
【0079】
特に、本実施形態では、Ti-Al系化合物16としてAl3Tiが存在しているので、アルミニウム製パイプ20及び多孔質体30の表面に形成された酸化膜が確実に除去され、アルミニウム製パイプ20と多孔質体30との接合強度を大幅に向上させることができる。
【0080】
本実施形態では、柱状突起32に共晶元素化合物17が存在しているので、アルミニウム基材31において局所的に融点が低下し、柱状突起32が太く形成されやすく、アルミニウム製パイプ20と多孔質体30との接合強度をさらに向上させることができる。
【0081】
本実施形態では、焼結用アルミニウム原料40におけるチタン粉末粒子42の含有量が0.01質量%以上20質量%以下とされているので、アルミニウム基材31の外表面に適切な間隔で柱状突起32を形成することができ、アルミニウム製パイプ20と多孔質体30とを確実に接合することができる。
【0082】
本実施形態においては、アルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42、42同士の間隔が5μm以上100μm以下の範囲内とされているので、柱状突起32の間隔が適正であり、十分な強度と高い気孔率を有する多孔質体30を得ることができる。
【0083】
本実施形態では、焼結用アルミニウム原料40における共晶元素粉末粒子43の含有量がニッケル粉末粒子は0.01質量%以上5.0質量%以下の範囲内、マグネシウム粉末粒子は0.01質量%以上5.0質量%以下の範囲内、銅粉末粒子は0.01質量%以上5.0質量%以下の範囲内、シリコン粉末粒子は0.01質量%以上15.0質量%以下の範囲内とされているので、アルミニウム基材31における局所的に融点が低下した箇所を適切な間隔で形成することができるとともに、余分な溶融アルミニウムが流出することを抑制でき、十分な強度と高い気孔率を有する多孔質体30を得ることができる。
【0084】
また、添加した共晶元素粉末粒子の種類や添加量に応じて、575~665℃といった比較的低温条件でも柱状突起32が確実に形成されるので、焼結工程の温度条件を低く設定することが可能となる。
【0085】
本実施形態においては、アルミニウム基材31としてアルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末粒子31bを用いているので、これらの混合比を調整することにより、多孔質体30の気孔率を制御することが可能となる。
【0086】
本実施形態の多孔質体30においては、気孔率が80%以上90%以下の範囲内とされているので、伝熱部材として用いられる多孔質アルミニウム複合体30において表面積を確保することができ、伝熱効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0087】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0088】
例えば、上記実施形態ではパイプをアルミニウム製とし、アルミニウム繊維とアルミニウム粉末粒子とを有する多孔質アルミニウム焼結体を装填したが、アルミニウムに限らず、焼結可能な種々の金属を用いることができる。本発明では、金属製パイプに、複数の金属繊維を結合した金属製多孔質体が接合されている。
【0089】
上記実施形態では金属製多孔質体を金属繊維と金属粉末粒子の混合体により構成したが、金属製多孔質体は金属繊維のみからなるものとしてもよい。その場合、焼結により金属繊維同士が接合し、金属繊維と金属製パイプの内壁面とが結合した状態となる。
【0090】
また、金属製パイプも断面円形に限らず、多角形等の断面としてもよい。
【実施例0091】
JIS A1050のアルミニウム合金からなるアルミニウム製パイプと、アルミニウム基材としてアルミニウム繊維及びアルミニウム粉末と、チタン粉末と、共晶元素粉末としてMg粉末とを用意した。アルミニウム製パイプは、
図11(b)に示すように、断面50mm×50mmの矩形状で、内径を18mm、熱電対P4を内壁面から1mmの位置に3つずつ配置した。アルミニウム繊維は直径300μm、長さ10mm~25mmの範囲内で多数作製した。
【0092】
アルミニウム基材、チタン粉末及び共晶元素粉末を混合して焼結用アルミニウム原料を作製し、直径22mmの円盤状の前駆体を作製した。その前駆体をアルミニウム製パイプ内に押し込んだ後、600℃で30分焼結することにより、アルミニウム製パイプの所定長さの範囲で多孔質アルミニウム焼結体が接合した熱交換用パイプを作製した。なお、実施例1では、前駆体となる直径22mm、厚さ2mmの小前駆体を5個作成し、5回に分けてアルミニウム製パイプ内に充填し、実施例2では、前駆体となる直径22mm、厚さ3.3mmの小前駆体を3個作成し、3回に分けてアルミニウム製パイプ内に充填し、実施例3では、前駆体となる直径22mm、厚さ5mmの小前駆体を2個作成し、2回に分けてアルミニウム製パイプ内に充填し、比較例では、直径22mm、厚さ10mmの前駆体を作成し、一度でアルミニウム製パイプ内に充填した。
【0093】
得られた熱交換用パイプの横断面のX線CT(computed tomography:コンピュータ断層撮影)像について、画像処理ソフトウェア(ImageJ(1.52a))を使って以下のように解析を行った。
【0094】
実施例1~3及び比較例のそれぞれのCT像については、上記X線CT装置を用いて、各試料のX線CTデータを測定(分解能約30μm/voxel)し、多孔質体の長さ10mmに対して、約30μm間隔でのスライス画像(横断面)と、円筒部の中心を通るように10度間隔で0度~170度までスライスした画像(縦断面)を用意した。例えば、
図12が実施例1の横断面の一例であり、
図13が実施例1の縦断面の一例であり、
図14が実施例2の横断面の一例であり、
図15が実施例2の縦断面の一例であり、
図16が実施例3の横断面の一例であり、
図17が実施例3の縦断面の一例であり、
図18が比較例1の横断面の一例であり、
図19が比較例の縦断面の一例である。これら図のうち、実施例1について説明すると、
図12の最外周のリング状部分、
図13の上下の太い直線状部分を除く、黒い部分が多孔質アルミニウム焼結体である。
図13に比べて
図12は多孔質アルミニウム焼結体の長い部分(アルミニウム繊維)が多く存在している。
【0095】
これら各解析対象(CT像)に対してAnalyze Particles(粒子解析)を行い、各粒子に対して数値処理を行った。数値の2値化は大津法を用いて行い、多孔質体の部分のみを解析対象として解析を行った。凹凸度及び線形度で用いる面積、周囲長及び絶対最大長は、縦断面の粒子ごとに算出するとともに、それぞれの凹凸度は上記式3、線形度は上記式4に算出された数値を入力して算出し、これら算出された粒子ごとの凹凸度及び線形度の平均値から上記式2を用いて縦断面の繊維度を算出するとともに、上記式1を用いて縦断面の壁面に垂直な繊維度を算出した。
【0096】
次に、実施例1~3及び比較例の試料に対して、
図11に示す熱交換評価を行った。具体的には、
図11(b)に示すように、アルミニウムパイプP1内に厚さ10mmの多孔質体P2を形成し、この多孔質体P2が形成された部位の対向する部分に幅30mm角のヒーターP3を配置し、多孔質体P2の手前側及び奥側に熱電対P4を配置した上、手前側から約25℃の空気を50L/minで流通させ、手前側の熱電対P4の温度と奥側の熱電対P4の温度とを測定し、その結果を表1に示した。なお、壁面温度、入口温度及び出口温度は、
図11(b)に示す3つの熱電対P4の平均値を示した。
【0097】
熱伝達率(W/m2・K)については、以下の式6を用いて算出した。
(熱伝達率)h = Q / (A×ΔT)・・・(式6)
上記式6のQは、入口温度と出口温度で計算された空気の熱量差であり、Aは多孔質体が接合している部分のパイプの内面積(長さ10mm×φ18mm)であり、ΔTは、壁面温度から対数平均温度を引いて算出した。この対数平均温度は、以下の式7を用いて算出した。
(対数平均温度)=平均壁面温度+(出口温度-入口温度)/LN{(出口温度-平均壁面温度)/(入口温度-平均壁面温度)} ・・・(式7)
【0098】
実施例1~3及び比較例の各試料における多孔質体の気孔率は、多孔質体を接合したパイプ重量からパイプ重量を引いた値を多孔体重量として、パイプ内径の面積と多孔質体の充填長さを乗じて多孔質体の体積を算出し、多孔質体の重量を多孔質体の体積で除して多孔質体の見掛け密度を算出するとともに、多孔質体を接合したハイプを水中法で測定した密度を基材密度)として、以下の式8を用いて算出した。
気孔率={1-(多孔質体の見掛け密度)÷(基材密度)}×100・・・(式8)
【0099】
【0100】
多孔質体の縦断面の壁面に垂直な繊維度が1.9以上である実施例1~3では、熱伝達率が992(W/m2・K)以上と高くなり、熱交換性に優れていることが分かった。また、充填分割数(小前駆体の数、小前駆体のアルミニウム製パイプへの充填回数)が多いほど、熱伝達率が高いことが分かった。特に、厚さ2mmの小前駆体を5回に分けてアルミニウム製パイプに充填した実施例1は、熱伝達率が1283(W/m2・K)と、熱交換性を極めて高くすることができた。