(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141211
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】型枠キット及び歯科加工用ブランクの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/00 20060101AFI20220921BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20220921BHJP
A61C 5/77 20170101ALI20220921BHJP
A61C 13/087 20060101ALI20220921BHJP
A61C 13/08 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61C13/00 Z
A61C5/70
A61C5/77
A61C13/087
A61C13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041421
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
(72)【発明者】
【氏名】山根 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159DD01
4C159HH03
4C159HH54
4C159HH55
4C159RR19
4C159SS04
(57)【要約】
【課題】 筒状体からなる複数の型枠ユニットを重ねて連結することにより連結型枠を形成する型枠キットを用い、夫々の型枠に色調の流動ペーストを充填してから重ね合わせて硬化させることにより複数のハイブリッドレジン(HR)層を有する歯科加工用ブランクを製造するに際し、硬化体の外周面に生じるモールド由来の不良が改善し、不良部を研磨除去する必要がある場合でも、その手間を大幅に低減できる方法を提供する。
【解決手段】 前記型枠キットを構成する各型枠ユニットの筒状体の側壁について、型枠ユニットの連結部となる端部領域のない壁面を面取りした型枠キットを用い、連結型枠が構成したときにおける、その内部の連結柱状空洞部において型枠ユニットの接合部が拡径するようにして、流動ペースト積層面外周部において重合収縮による窪みの発生を防止する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状の側壁を有する型枠ユニット本体を含む型枠ユニットを複数含み、当該複数の型枠ユニットを前記柱状空洞部の軸方向に連結することにより、各型枠ユニットの型枠ユニット本体及び柱状空洞部が夫々連結されて連結型枠及び連結柱状空洞部が形成される型枠キットであって、
当該型枠キットに含まれる個々の型枠ユニットは、連結型枠を構成したときにおける連結柱状空洞部が型枠ユニットの接合部において拡径するように、型枠ユニット本体の少なくとも一方の端部内側壁が面取りされている、
ことを特徴とする前記型枠キット。
【請求項2】
面取り角度が、108.0~179.6°である、請求項1に記載の型枠キット。
【請求項3】
重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体の硬化体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクの前記被切削加工部を製造するための型枠キットである、請求項1又は2に記載の型枠キット。
【請求項4】
重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体の硬化体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法において、
A: 請求項1~3の何れか1項に記載された型枠キットを準備する工程;
B:上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に充填される複数種のペースト状重合硬化性組成物を準備する工程;
C: 上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に前記ペースト状重合硬化性組成物を充填して、複数のペースト充填型枠ユニットを作製する工程;
D: 上記工程で得られた複数のペースト充填型枠ユニットを順次連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、各ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成することにより、ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;及び
E: 上記工程で加圧された前記連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させて硬化体とする硬化工程;
を含む、ことを特徴とする前記歯科加工用ブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯冠、部分歯冠、義歯等の歯科用補綴物を切削して加工する歯科加工用ブランク、特に、その被切削部が、色調等が異なるハイブリッドレジン層が積層された積層体からなる歯科加工用ブランクを製造するのに好適な型枠キット及び該型枠キットを用いた歯科加工用ブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療に用いられる歯科用補綴物は、一般に、金や銀、チタン、パラジウム合金等のように金属材料から鋳造によって成形されるか、セラミックスやハイブリッドレジン等の非金属材料を加工することによって成形されるか、又はコア部を金属材料で構成し、前装部等の表層部を非金属材料で構成することにより形成されている。なお、ハイブリッドレジンとはレジンマトリックス中に無機充填材(以下、「無機フィラー」ともいう)が高密度で分散された複合材料を意味し、通常は、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物を加圧・加熱する等して重合硬化させることによって得られる。
【0003】
非金属材料を用いて全体を構成した歯科用補綴物は、金属アレルギーの心配がなく審美性に優れるという特長を有することに加え、近年のデジタル画像技術やコンピュータ処理技術等の発達により、その加工が容易になったことも有り、その需要は急速に高まっている。例えば、特許文献1に開示されているように、口腔内の撮影画像から、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Adid Design)及びコンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)技術によるCAD/CAM装置を用いて、非金属材料からなる歯科加工用ブランクに切削加工を施して歯科用補綴物を成形するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、通常は、被切削部と、これを切削加工機に取り付け可能にするための保持部と、を有する。そして、被切削部としては、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られており、被切削部がハイブリッドレジンからなるものも知られている。
【0004】
ところで、歯冠歯列修復治療では、歯科用補綴物に天然組織と等しい、あるいは近い色調や外観等の審美性が要求される場合がある。このような審美性を確保するためには、単一の色調からなる歯科加工用ブランクではなく、異なる色調の複数の層を一体化した多層構造の歯科加工用ブランクから製作することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献2には、「多層構造の歯科加工用ブランクの製造方法において、型枠ユニットの組み合わせからなり、これらの型枠ユニットを連結することにより1つの連結型枠を形成できる型枠キットであって、前記型枠ユニットの各々は、何れも柱状空洞部を有する筒状体からなり、前記連結型枠は、前記型枠ユニットの各々を、各柱状空洞部の母線が一致するように重ねて連結することにより形成され、各柱状空洞部が連結された連結柱状空洞部を内部に有する、前記型枠キットの準備工程と、
前記型枠ユニットの各々の内部に、硬化性組成物からなり、所望の形状保持性を有する流動性ペーストを充填して、型枠ユニットの一方又は両方の端部開口に、当該開口を塞ぐ流動性ペーストの露出する面である平面状又は凸曲面状のペースト接合面を形成したペースト充填型枠ユニットを作製する充填工程と、
前記充填工程で得られた、ペースト充填型枠ユニットを重ね合わせて、前記連結型枠を形成するとともに、前記連結柱状空洞部の内部において、相互に隣接するペースト充填型枠ユニットのペースト接合面を重ね合わせてこれらペースト接合面を構成する流動性ペースト同士を密着させてペーストの積層体とする積層工程と、
前記連結柱状空洞部内部の前記ペーストの積層体を硬化させて硬化体とする硬化工程
と、を含み、前記充填工程では、前記積層工程において隣接する型枠ユニットの内部には、異なる種類の硬化性組成物からなる流動性ペーストを充填する、ことを特徴とする多層構造の歯科加工用ブランクの製造方法」が記載されている。そして、当該方法において流動性ペースト(硬化性組成物)として色調や、組成がそれぞれ異なるものを使用することで、通常では型枠に流し入れることが難しい、流動性の低いペーストを用いた場合でも、ペースト同士の界面の乱れや、ペーストの空隙、等といった欠陥の発生を抑制して、複数の色調・組成からなる多層構造の歯科加工用ブランクを作成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2016-535610号公報
【特許文献2】特開2020-151339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示された多層構造の歯科加工用ブランク(歯科補綴物加工用ブロック又は歯科CAD/CAM用切削ブロック)の製造方法(以下、「特許文献2の製造方法」ともいう。)は、上記したような優れた効果を奏するものであるが、硬化工程後に得られたブランク体表面に、型枠ユニット合わせ面の存在に由来するライン状の痕跡が生じてしまうという問題があった。つまり、流動性ペーストが充填された状態の型枠ユニット同士を接合した後、接合面の隙間から溢れた流動性ペーストが硬化することでバリとして残ることがあり、また、バリが無い部位では僅かに楔状に窪み、型枠ユニット合わせ面に沿った形で凹溝が形成されてしまうという課題(恐らく重合収縮による影響と思われる)を有していた。よって、後工程として凹溝が無くスムースな平面となるまで研磨や研削といった作業を行う必要があり、材料を無駄にするばかりでなく、加工に多くの時間を要する。
【0008】
そこで、本発明は、型枠キットから得られるブランク体の外観を改善することで、材料の無駄をなくすばかりでなく、後加工時間を大幅に短縮する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状の側壁を有する型枠ユニット本体を含む型枠ユニットを複数含み、当該複数の型枠ユニットを前記柱状空洞部の軸方向に連結することにより、各型枠ユニットの型枠ユニット本体及び柱状空洞部が夫々連結されて連結型枠及び連結柱状空洞部が形成される型枠キットであって、当該型枠キットに含まれる個々の型枠ユニットは、連結型枠を構成したときにおける連結柱状空洞部が型枠ユニットの接合部において拡径するように、型枠ユニット本体の少なくとも一方の端部内側壁が面取りされている、ことを特徴とする前記型枠キットである。
【0010】
上記形態の型枠キット(以下、「本発明の型枠キット」ともいう。)においては、面取り角度が、108.0~179.6°であることが好ましい。
【0011】
また、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体の硬化体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクの前記被切削加工部を製造するための型枠キットであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の第二の形態は、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物からなる層が複数層積層されたペースト積層体の硬化体からなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法において、
A: 本発明の型枠キットを準備する工程;
B:上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に充填される複数種のペースト状重合硬化性組成物を準備する工程;
C: 上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に前記ペースト状重合硬化性組成物を充填して、複数のペースト充填型枠ユニットを作製する工程;
D: 上記工程で得られた複数のペースト充填型枠ユニットを順次連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、各ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成することにより、ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;及び
E: 上記工程で加圧された前記連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させて硬化体とする硬化工程;
を含む、ことを特徴とする前記歯科加工用ブランクの製造方法(以下、「本発明の製造法」ともいう。)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の型枠キットは、特許文献2の製造方法における型枠キットとして好適に使用できるものであり、本発明の型枠ユニットを使用することにより、前記特許文献2の製造方法による効果を維持したまま、更に、外観を整えるための後加工工程を省略又は簡略化することが可能となる。そして、本発明の型枠キットを用いた本発明の製造法によれば、材料のロス低減や、製造に要する時間の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本図は、二層構造の歯科加工用ブランク及びそれを用いて作製された奥歯用の歯科用補綴物の概略を示す斜視図であり、夫々特許分文献2の
図13及び
図14に相当する。
【
図2】本図は、特許文献2に記載された製造方法における積層工程を説明する模式図であり、左側の図(I)及右側の図(II)は、夫々、特許分文献2の
図1及び
図12に相当する。
【
図3】本図は、型枠ユニットに流動性ペーストを充填する状態を説明する、充填具の概略断面図であり、左側の図及右側の図は、夫々、特許分文献2の
図6及び
図7の上図に相当する。
【
図4】本図は特許文献2に記載された製造方法における積層工程で、流動性ペーストが充填された型枠ユニットのうちの最下層となるものを、積層装置に配置し、流動性ペーストを型枠ユニットから充填された突出させた状態を示す斜視図であり、左側の図及右側の図は、夫々、特許分文献2の
図8及び
図9に相当する。
【
図5】本図は、積層された型枠ユニットを保持させる型枠ユニット保持具の斜視図であり、特許分文献2の
図11に相当する。
【
図6】本図は、第一型枠ユニット及び第二型枠ユニットからなる本発明の型枠キットの例であり、右側の点線円内は、両枠ユニット接合部における供給側開口側端部の部分(縦)断面を示している。
【
図7】本図は、本発明の枠キットを構成する個々の型枠ユニットにおける、面取りされている端部内側壁の好適な態様を示す、側壁の前記端部領域の断面図である。
【
図8】本図は、比較例2及び3で使用した枠キットの側壁端部領域の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の型枠キットは、特許文献2に開示されている前記型枠キット、すなわち「型枠ユニットの組み合わせからなり、これらの型枠ユニットを連結することにより1つの連結型枠を形成できる型枠キットであって、前記型枠ユニットの各々は、何れも柱状空洞部を有する筒状体からなり、前記連結型枠は、前記型枠ユニットの各々を、各柱状空洞部の母線が一致するように重ねて連結することにより形成され、各柱状空洞部が連結された連結柱状空洞部を内部に有する、前記型枠キット」の範疇に属するものである。そして、上記枠キットを構成する個々の型枠ユニットの形状、具体的には、連結型枠を構成したときにおける型枠ユニットどうしが接合する部分の形状を特定の形状とした点に特徴を有している。すなわち、各型枠ユニットは、両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状の側壁を有する型枠ユニット本体を含むものであり、連結型枠を構成したときにおける連結柱状空洞部が型枠ユニットの接合部において拡径するように、型枠ユニット本体の少なくとも一方の端部内側壁が面取りされている、ことを特徴としている。
【0016】
このような特徴点を有することにより、面取りが無い場合と比較して、型枠ユニットの接合部の表面性状のコントロールが可能である。連結柱状空洞部における型枠ユニットの接合部において拡径しているので、重合硬化の前に押圧(接合面を合わせるための加圧)したときに型枠の継ぎ目から流動性ペーストが排出され難くなり、また重合硬化時に重合収縮が起こった場合にも接合部において楔状の窪みが(凹部)発生することは無く、平面状とすることも可能である。平面状にならない場合でも僅かに凸状となりため、後加工においてはこの凸部を切削或いは研磨して除去して平面化すればよいので(凹部のまわり全体を切削或いは研磨除去して平面化する場合と比べて)後加工において無駄になる材料を削減でき、処理時間を大幅に短縮することができるようになる。
【0017】
また、また、本発明の製造法は、特許文献2の製造方法において、型枠キットの準備工程(本発明の工程Aに相当する。)で準備する型枠キットとして本発明の型枠キットを用いた点に特徴を有し、本発明の型枠キットに起因する上記効果を得ることができる。
【0018】
本発明の型枠キットおよび本発明の製造法は、前記特徴点を除けば特許文献2に開示されている前記型枠キット及び特許文献2の製造方法と特に変わる点は無い。たとえば、使用する複数のペースト状重合硬化性組成物(本発明の工程Bで準備する複数種のペースト状重合硬化性組成物に相当する。)、充填工程(本発明の工程Cに相当する。)、積層工程(本発明の工程Dに相当する。)及び硬化工程(本発明の工程Eに相当する。)については、特許文献2の製造方法と特に変わる点は無い。
【0019】
そこで、特許文献2の製造方法の概要について説明した上で、本発明の型枠キット及び本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0020】
1.特許文献2の製造方法の概要
前記したように特許文献2の製造方法は、それぞれ以下に示す型枠キットの準備工程、充填工程、積層工程及び硬化工程を含む。
【0021】
[型枠キット準備工程]: 型枠ユニットの組み合わせからなり、これらの型枠ユニットを連結することにより1つの連結型枠を形成できる型枠キットであって、前記型枠ユニットの各々は、何れも柱状空洞部を有する筒状体からなり、前記連結型枠は、前記型枠ユニットの各々を、各柱状空洞部の母線が一致するように重ねて連結することにより形成され、各柱状空洞部が連結された連結柱状空洞部を内部に有する、前記型枠キットを準備する工程。
【0022】
[充填工程]: 前記型枠ユニットの各々の内部に、硬化性組成物からなり、所望の形状保持性を有する流動性ペーストを充填して、型枠ユニットの一方又は両方の端部開口に、当該開口を塞ぐ流動性ペーストの露出する面である平面状又は凸曲面状のペースト接合面を形成したペースト充填型枠ユニットを作製する工程。
【0023】
[積層工程]: 前記充填工程で得られた、ペースト充填型枠ユニットを重ね合わせて、前記連結型枠を形成するとともに、前記連結柱状空洞部の内部において、相互に隣接するペースト充填型枠ユニットのペースト接合面を重ね合わせてこれらペースト接合面を構成する流動性ペースト同士を密着させてペーストの積層体とする工程であり、該充填工程では、前記積層工程において隣接する型枠ユニットの内部には、異なる種類の硬化性組成物からなる流動性ペーストを充填する。
【0024】
[硬化工程]: 前記連結柱状空洞部内部の前記ペーストの積層体を硬化させて硬化体とする工程。
【0025】
ここで、硬化性組成物からなり、所望の形状保持性を有する「流動性ペースト」とは、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状の重合硬化性組成物を意味する。これら材料は歯科用のハイブリッドレジンの材料として使用できるものが特に制限なく使用でき、例えば重合性単量体としては(メタ)アクリル酸系重合性単量体が、重合開始剤としては熱重合開始剤が好適に使用できる。流動ペーストの無機フィラー充填率としては、60~99wt%が好ましく、65~97wt%である事がより好ましく、70~95wt%がさらに好ましい。無機充填率を60%以上とすることで流動性が低下するものの、歯科補綴物として優れた物性をもつ歯科用ブランクが得られる。ペーストの色調、延いてはその硬化体であるハイブリッドレジンの色調は、顔料や染料等の着色物質を配合することにより調整することができる。また、目的とするブランクの性質を達成するために、上記に対してさらに任意成分を加えても良い。例えば、重合禁止剤、連鎖移動剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影剤などが挙げられるが、これらによらず歯科用ブランクとして公知の添加材を使用できる。
【0026】
図を参照して特許文献2の製造方法ついて具体的に説明すると、
図2の左側の図(I)は、互いに同一形状を有する2つの型枠ユニット3、4からなる型枠キットを用いて、これらが連結した連結型枠の連結柱状空洞部内において2つのペースト層1a、1bからなるペースト積層体を形成する方法(2ユニット積層法)の例を示している。
【0027】
この例における型枠キット準備工程では、第一型枠ユニット3及び第二型枠ユニット4の組み合わせからなる型枠キットを準備する。第一型枠ユニット3及び第二型枠ユニット4は、実質的に同一の形状を有し、共に柱状空洞部を有した筒状体からなる。そして、この筒状体の両端の開口は閉鎖側開口3b、4bと供給側開口3c、4cとされ、柱状空洞部には、該空洞部内を筒状体の軸方向に摺動自在とされた平坦な接触面を有する押出板3a、4aが収容されている。型枠ユニットの筒状体の材質としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金、ステンレス、鉄、真鍮といった金属材料や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、POM、PEK、PEKK、PEEK等といった熱硬化性や熱可塑性を有するプラスチック材料などが使用できるが、成形が容易で加熱重合を行う場合にも使用できると言う理由から耐熱温度が100℃以上の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。なお、
図2では第一型枠ユニット3及び第二型枠ユニット4として、柱状空洞部がいずれも同一形状となっているものを示したが、空洞部の形状は、母線を一致させて連結したときに連結柱状空洞部が形成される柱状のものであればよく、たとえば、一方または双方が円柱状、更には四角錐台や円錐台形状の連結柱状空洞部であってもよい。柱状空洞部内面にブランク保持ピンの固定・位置決め構造や、切削加工装置への固定構造、その他の機能性を付与するための形状を付与することもできる。
【0028】
充填工程では、
図3の右図に示されるように、充填具5を用いて前記柱状空洞部内に供給側開口3c、4cから流動性ペーストPを充填すると、上記押出板3a、4aは、流動性ペーストPによって押し上げられて閉鎖側開口3b、4bを閉じた状態とし、供給側開口3c、4cを塞ぐ流動性ペーストの露出する面である平面状のペースト接合面を形成したペースト充填型枠ユニットが作製される。
【0029】
積層工程では、第一型枠ユニット3を用いて作製されたペースト充填型枠ユニットを
図4に示す積層装置6にセットし{
図2、I(A)}、押上ロッド6b1により押出板3aを僅かに押し上げてペースト接合面を凸曲面状としてから{
図2、I(B)}、第二型枠ユニット4を用いて作製されたペースト充填型枠ユニットを接合することにより連結型枠の連結柱状空洞部内において2つのペースト層1a、1bからなるペースト積層体を形成し、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれた「ペースト積層体充填連結型枠」を作製する{
図2、I(C)及び(D)}。
【0030】
硬化工程では、上記ペースト積層体充填連結型枠を、
図5に示すような型枠ユニット保持装置7に積み重ねて保持させてから、必要に応じて押圧してから内部に充填された流動性ペーストPを硬化することにより、
図1に示されるような二層構造の歯科加工用ブランク1が作製され、これを用いてたとえば
図1に示されるような歯科用補綴物10が作製される。
【0031】
三層以上の多層構造の歯科加工用ブランクが作製する方法(3以上ユニット積層法)である場合には、第一型枠ユニット3及び第二型枠ユニット4を夫々第一端用型枠ユニット21及び第二端用型枠ユニット22とし、更にこれらの間に配置される1以上の中間用型枠ユニットと組み合わせた型枠キットを使用すればよい。
図2右側の図(II)は、第一端用型枠ユニット21、第二端用型枠ユニット22及び中間用型枠ユニット23からなる型枠キットを用いて、これらが連結した連結型枠の連結柱状空洞部内において3つのペースト層Pが積層したペースト積層体を形成する方法(3ユニット積層法)の例を示している。積層工程において第一端用型枠ユニット21用いて作製したペースト充填型枠ユニットに中間用型枠ユニット23を用いて作製したペースト充填型枠ユニットを接合して「ペースト積層体充填連結型枠」得た後に中間用型枠ユニット23の開口を塞ぐ押出板を除去して、これを「部分ペースト積層体充填連結型枠」とし、押上ロッドにより押出板21aを僅かに押し上げてペースト接合面を凸曲面状としてから{
図2、II(A)}、第二端用型枠ユニット22用いて作製したペースト充填型枠ユニットを接合する{
図2、II(B)、(C)}ようにするだけで、他は二層構造の歯科加工用ブランクを作製する場合と同様である。
【0032】
特許文献2の製造方法によれば、上記したように、流動性ペーストを型枠ユニットに充填した状態で積層するようにしたので、型枠ユニットごとに色調が異なる流動性ペーストを充填して積層することにより、多層構造の歯科加工用ブランクを製造できる。しかも、無機フィラー充填率が高く流動性の低い流動性ペーストを用いた場合であっても、各層の界面に乱れや空隙等の欠陥を生じさせることがない。また、型枠ユニットに充填した状態で硬化工程に供することができるから、型枠ユニットに流動性ペーストを充填でき、型枠ユニットとの間に間隙が生ぜず、所望の形状を成形することができる。
【0033】
2.本発明の型枠キット
本発明の型枠キットは、特許文献2に開示されている型枠キットと同様に、複数の型枠ユニットの組み合わせからなり、これらの型枠ユニットを連結することにより1つの連結型枠を形成できる型枠キットであり、前記型枠ユニットの各々は、何れも、両端が開口し、内部に柱状空洞部が形成された筒状の側壁を有する型枠ユニット本体を含む(別言すれば、柱状空洞部を有する筒状体からなる)。そして型枠ユニットを連結することにより形成される前記連結型枠は、前記型枠ユニットの各々を、各柱状空洞部の母線が一致するように重ねて連結することにより形成されるものであり、各柱状空洞部が連結された連結柱状空洞部を内部に有することになる。
【0034】
本発明の型枠キットは、型枠キットを構成する個々の型枠ユニットにおいて、連結型枠を構成したときにおける連結柱状空洞部が型枠ユニットの接合部において拡径するように、型枠ユニット本体の少なくとも一方の端部内側壁が面取りされている、ことを特徴とする。このような面取りを行うことにより、積層工程や硬化工程前の押圧によって流動性ペーストが接合面の隙間から溢出することが防止され、さらに重合収縮によって接合面の外周部が楔状に窪むことを防止することが可能となる。
【0035】
ここで、「面取り」とは、角部を削り、角面や丸面等の形状に加工することを意味する。第一型枠ユニット3及び第二型枠ユニット4の組み合わせからなる型枠キットの例を用いて説明すると、本発明では、
図6右側の点線円内の部分断面図に示されるように、型枠ユニットにおける型枠ユニット本体を構成する筒状側壁の供給側開口3c、4c側端部にける内側の角部が削られて加工されて面取り部3d、4dとなっている。なお、
図6における第一型枠ユニット及び第二型枠ユニットの面取り部3d、4d以外の部分については、特許文献2に開示されている型枠キットと対比し易いように同じ符号を付している。
【0036】
面取りの形状は、連結柱状空洞部が型枠ユニットにおいて接合部が拡径するような形状であれば限定されず、一般的にC(角・切・猿頬)面、R(丸)面、糸面、さじ面、のように呼ばれる形状を用いることが可能であるが、周方向に沿って均一に面取りされ、且つ相互に接合する型枠ユニット本体の各端部における形状は、接合面に対して対称であることが好ましい。また、上記断面図において開始点Aより下側(端面側)の領域における面取り前の面積:S0に対する面取り後の面積:Sの割合:(S/S0)×100(%)で定義される残存率は、92.50~99.98%、特に95.00~99.96%であることが好ましい。
【0037】
採用可能な代表的な面取り形状を
図7に示す。なお、
図7は、
図6右側の部分断面図に相当するものであり、図中のA及びBは、面取りされる前の形状を基準として、内壁面の高さ方向において面取りが開始される開始点A及び端面において面取りが開始される開始点Bを表している。また、Cは、内壁面の高さ方向において面取り後に残存する領域(前記開始点Aより上側)の任意の点を表し、∠CAB(側壁内側の角度)が面取り角度となっている。
【0038】
効果の観点から、面取り角度(線分CA及びABがなす側壁内側の角度:∠CAB)は、180°未満であればよいが、108.0~179.6°であることが好ましい。また、硬化体から型枠を取り外す際の取り外し易さの観点から、面取り角度は153.0~179.0°特に166.0~178.9°であることが好ましく、174.0~178.3°であることが最も好ましい。このとき、
図7の左側図「Planer」における面取り部3d、4dのように面取り面が線分AB上となる平面となるような面取り(以下、「平面・面取り」ともいう。)であっても良いが、効果の観点からは、面取り面がなだらかな曲線を描くような形状となる面取り以下、「曲面・面取り」ともいう。)であることが好ましい。曲面・面取りの場合には、
図7の右側図「Convave」における面取り部3d2、4d2のように面取り面が線分ABを越えて外面方向に窪んで凹状の形状となるような面取り(以下、「凹曲面・面取り」とも言う。)であるよりも、
図7中央図「Convex」の面取り部3d1、4d1のように、内側に凸状突出した形状となるような面取り(以下、「凸曲面・面取り」とも言う。)であることがましい。さらに、面取りの開始点、終了点における角部(A点部分及びB点部分)の形状は、鋭角(
図7におけるSharp Edge:3da、3d1a、3d2a)であってもよく、また、Rを与えた(曲面加工した)形状(
図7におけるRound Edge:3db、3d1b、3d2b)であってもよいが、より滑らかな外観を得ることが可能となるという理由からためRound Edgeであることがより好ましい。
【0039】
なお、
図6に示第一型枠ユニット3及び第二型枠ユニット4の閉鎖側開口3b、4b側の端部内壁面は面取りされている必要はなく、また、供給側開口3c、4c側端部であっても外壁面は面取りされている必要はない。この点は、
図2のIIに示す様な、3つ以上の型枠ユニットの組み合わせからなる型枠キットの場合における第一端用型枠ユニット及び第二端用型枠ユニットにおいても同様である。ただし、中間用型枠ユニットにおいては、両端部の内壁面は面取りされている必要がある。
【0040】
3.本発明の製造方法
本発明の製造方法は、下記工程A~Eを含むことを特徴とする。
【0041】
A: 本発明の型枠キットを準備する型枠キット準備工程
B:上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に充填される複数種のペースト状重合硬化性組成物を準備する工程;
C: 上記工程で準備された複数の型枠ユニットの夫々に前記ペースト状重合硬化性組成物を充填して、複数のペースト充填型枠ユニットを作製する工程;
D: 上記工程で得られた複数のペースト充填型枠ユニットを順次連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、各ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成することにより、ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;及び
E: 上記工程で加圧された前記連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させて硬化体とする硬化工程。
【0042】
前記工程Bで準備する複数種のペースト状重合硬化性組成物は、特許文献2の製造方法で使用する複数のペースト状重合硬化性組成物と同様であり、また、前記工程Cは、特許文献2の製造方法における充填工程と同様であり、特に変わる点はない。前記工程D及び工程Eも、夫々特許文献2の製造方法における充填工程、積層工程及び硬化工程(本発明の工程Eと基本的には同様であるが、夫々次のようなものであることが好ましい。
【0043】
すなわち、前記工程Dが2ユニット積層法である場合には、下記工程Da1及び工程Da2を含むことが好ましい。
【0044】
Da1: ペースト充填基端型枠ユニット及びペースト充填先端型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程;及び
Da2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填先端型枠ユニットのペースト接合面とが重なるように両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程。
【0045】
また、前記工程Dが3以上ユニット積層法である場合には、下記工程Db1~工程Db4を含むことが好ましい。
【0046】
Db1: ペースト充填基端型枠ユニット及びこれに隣接して配置されるペースト充填中間型枠ユニットの少なくとも一方について、押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、該ペースト状重合硬化性組成物の一部を供給側開口から突出せしめて、ペースト接合面を凸曲面状とする工程:
Db2: 前記工程後に、ペースト充填基端型枠ユニットのペースト接合面とペースト充填中間型枠ユニットのペースト接合面とが重なるように両型枠ユニットを連結して、両型枠ユニットの連型体からなる部分連結型枠を形成すると共に、その内部において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト部分積層体を形成してからペースト充填中間型枠ユニットの閉鎖側開口を塞ぐ押出板を除去して当該閉鎖側開口を部分連結型枠の供給側開口とし、更に必要に応じてペースト充填基端型枠ユニットの押出板を供給側開口に向けて移動させてペースト状重合硬化性組成物を押し出して、上記部分連結型枠の一方側の開口である閉鎖側開口が押出板で塞がれ、他方側の開口である供給側開口に凸曲面状ペースト接合面が形成された、部分ペースト積層体充填連結型枠を得る工程;
Db3: 部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが存在しない場合には、前記工程で得られた部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠とし、
部分ペースト積層体充填連結型枠に隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが更に存在する場には、隣接配置すべきペースト充填中間型枠ユニットが無くなるまで、上記重ね合わせによる連結及び押出版の除去並びに必要に応じて行う流動性ペーストの押し出しを繰り返すことによって、連結されるペースト充填中間型枠ユニット数及び形成されるペースト部分積層体の層数が増やされた延長部分ペースト積層体充填連結型枠を最終部分ペースト積層体充填連結型枠として得る、工程;及び
Db4: 上記工程で得られた最終部分ペースト積層体充填連結型枠のペースト接合面とペースト充填先端型枠ユニットのペースト接合面とが重なるように両ペースト充填型枠ユニットを連結して、連結型枠を形成すると共に、その連結柱状空洞部内において、両ペースト充填型枠ユニットに充填されたペースト状重合硬化性組成物を接合してペースト積層体を形成して、連結型枠の両端開口が押出板で実質的に塞がれたペースト積層体充填連結型枠を得る工程。
【0047】
上記D工程で得られた積層体に気泡が混入する場合があるが、その場合は、後工程として、加圧工程を行うことができる。加圧により、流動性ペーストの接合界面組み込まれた気泡が拡径された連結柱状空洞部における型枠ユニットの接合部において流動ペースト層の外側に押し出されたり、或いは型枠の継ぎ目から流動性ペーストを排出されたりすることにより、同時に気泡を排出することが可能となるため好ましい。連結した第一型枠ユニット3と第二型枠ユニット4内で接合した流動性ペーストPの層間密着性、及びペーストPと連結型枠内面との密着性の向上の効果も期待できる。加圧工程は前記工程で得られたペースト充填連結型枠を前記筒状体の軸方向(積層方向)に加圧することで行われる。加圧する為に使用される装置に関しては特に制限はないが、連結型枠ユニットの閉鎖側開口3b又は4bに対して平行な面を持つ加圧部位によって加圧する方法が好ましい。
【0048】
連結型枠に印加される圧力の大きさは0.024~0.60MPaであることが好ましく、0.072~0.48MPaであるとより好ましく、0.12~0.36MPaであると更に好ましい。加えて、連結型枠に加圧を行う時間は1~120分であることが好ましく、3~100分であるとより好ましく、5~60分であると更に好ましい。上記の加圧条件に加え、加圧装置あるいは治具の加圧部位が連結型枠ユニットに接触して加圧が開始されてから、最終圧力に到達するまでの最大圧力到達時間が短時間となるように加圧を行うことが好ましい。時間は120秒以下であれば良いが、60秒以下であれば好ましく、30秒以下であれば更に好ましい。
【0049】
このようにして加圧を行った連結型枠ユニットは、たとえば型枠ユニット保持装置7によって固定された状態で、工程E(硬化工程)に供されることになる。工程E(硬化工程)では、ペースト充填連結型枠の連結柱状空洞部内部のペースト積層体を硬化させる。このときの硬化は、使用した重合開始剤の種類に応じた重合硬化法を採用して行われ、重合条件も用いる重合開始剤の種類に応じて適宜決定すればよい。多数のペースト充填連結型枠の重合を確実に行うことができるとい観点から、重合開始剤としては熱重合開始剤を使用して、加熱重合を行うことが好ましい。
【0050】
型枠ユニットの材質が樹脂製、具体的には、耐熱温度が100℃以上の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂、を使用して加熱重合を行う場合には、加熱条件によっては、連結型枠における型枠ユニットの接合部において本発明の課題とは異なる現象である、僅かなエアの侵入や硬化不良が見られることがあるが、そのような場合は、工程E(硬化工程)における硬化を、前記工程D(積層工程)を経た前記ペースト積層体充填連結型枠を、下記ステップ1~3を順次行う昇温パターンで加熱することにより行うことが好ましい。
【0051】
ステップ1:30℃以上45℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ
ステップ2:45℃を越え65℃以下の温度範囲内に少なくとも5時間保持するステップ
ステップ3:65℃を越え~100℃以下の温度範囲内に少なくとも2時間保持するステップ。
【0052】
各ステップにおける保持時間は上記条件を満たすものであればよいが、ステップ2については一定の範囲で長いほど効果が高くなる傾向が見られ、8~90時間、特に10~80時間とすることが好ましい。また、ステップ3については2~20時間、特に3~18時間とすることが好ましい。なお、ステップ1については、2~10時間、特に2~7時間とすることが好ましい。なお、上記ステップでは、必ずしも保持時間中に温度を一定に保つ必要は無く、寧ろ初期においては徐々に昇温して行くようなグラジエントを持たせることが好ましい。このような昇温パターンの加熱は、所定の温度になるまで一定の速度で昇温して保持を行うプログラムや、初期温度と最終温度を設定してその間でグラジエント制御を行うプログラム等を適宜設定することが可能であり、これらプログラムは所定温度領域内であれば降温工程を含むこともできる。さらに、ステップごとに、それら制御方法を単一で、または組み合わせたプログラムとしても良い。
【0053】
上記したような昇温パターンを採用することによる効果が高いと言う理由から、上記昇温パターンによる加熱重合を行う場合は、耐熱温度が100℃以上樹脂製型枠ユニットとして次のような樹脂製のものを使用することが好ましい。すなわち、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリアセタール、ポリカーボネートのような熱可塑性樹脂や、ポリイミド、ポリアミド、フェノール、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂、PEEK、PTFE、PEK、PEKK、などの、各種の(スーパー)エンジニアリングプラスチックなどが用いられ、価格や成形時の取り扱い性を考慮すると、ポリプロピレンや高密度ポリエチレンなどの汎用樹脂が好適である。これら樹脂は、製造時の取り回しや、流動性ペーストの流し込みやすさ等で適宜選択することができる。
【0054】
硬化時の雰囲気に制限は無いが、酸化劣化による色調変化を防ぐために窒素等の不活性ガス雰囲気下で加熱処理する事が好ましい。処理に用いる装置は、硬化体を所望の温度に加熱する事ができる装置で有れば制限は無いが、一般的に自然対流式よりも強制対流式オーブンの方が内温の均一性が高く好ましい。また、不活性ガス雰囲気下とするための方法にも制限は無いが、例えば、別途硬化体を収容するための密閉容器を用いても良く、オーブン自体に密閉構造を持たせて内部雰囲気を置換しても良い。オーブンが密閉構造でない場合でも、雰囲気ガスを連続的に流す方法を用いることもできる。
【0055】
また、硬化時の圧力は常圧下であっても良いが、0.1MPa~0.9MPa、好ましくは0.2MPa~0.6MPaの加圧化で行うことが好ましい。このような加圧下での熱重合は、加圧オーブンやオートクレーブのような加熱可能な圧力容器を用いて行うことができる。
【0056】
前記工程E終了後、得られた積層硬化体を型枠ユニットから取り出し、必要に応じてバリ等の除去や、表面を滑らかにするための研磨処理、面だし、印字、熱処理などの後処理を行うことにより、積層構造のハイブリッドレジン積層体からなる被切削部が製造される。なお、本発明の製造方法では、本発明の型枠キットを用いているので、前記したように、従来よりもバリの除去、研磨、面だしの工程における労力を低減することが可能となる。
【0057】
そして、得られたハイブリッドレジン積層体をからなる被切削部に、必要に応じてブランク保持ピンを接着剤等で接着させれば、歯科用補綴物を切削加工するための歯科加工用ブランクの製品となる。ブランク保持ピンは、切削加工機にブランクを固定できるような形状のものであれば特に制限はなく、ブランクの形状と加工機の要求によっては具備されなくともよい。ブランク保持ピンの材質は、ステンレス、真鍮、アルミニウムなどが使用される。ブランク保持ピンの歯科切削加工用レジン材料への固定方法は前記の接着によらず、はめ込み、ネジ止め等の方法でよく、上記接着方法についても特に制限はなく、イソシアネート系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系等の各種市販の接着材を使用することができる。
【実施例0058】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0059】
実施例1~21
まず、夫々同一形状を有し、内部の(面取り前の)柱状空洞部の寸法が18.5mm×15mm×9.5mmであるポリプロピレン製の基端型枠ユニット(第一型枠ユニット)及び先端基端型枠ユニットか(第二型枠ユニット)らなる(面取り加工前)型枠キットを準備し、夫々の型枠ユニット本体の供給側開口端面領域を
図7中央図「Convex(凸状)」に示す様に面取りして実施例で使用する型枠キットを準備した(工程A)。各実施例で使用した型枠キットにおける具体的な面取り形状を表1に示す。なお、表1における「面取り角度」は表7における∠CABの値を表し、「残存率」は前記した(S/S
0)×100(%)を表し、「角部R加工」は、「○」である場合は、両型枠ユニットのA点部分及びB点部分が
図7における「Round Edge」に示す形状に曲面化処理されていることを意味し、「-」である場合は
図7における「Sharap Edge」のままであることを意味する。
【0060】
次に、トリエチレングリコールジメタクリレート25質量%及び1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン75質量%からなる重合性単量体組成物成分20質量部、無機フィラー80質量部及び熱重合開始剤である過酸化ベンゾイル0.4質量部を、プラネタリーミキサーを用いて均一になるまで混合した後に、真空脱泡をして流動ペーストを調製した。なお、無機フィラーとしては、平均粒径0.2ミクロンの球状シリカジルコニア及び平均粒径10ミクロンの球状シリカジルコニア(何れもγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの)を同質量部混合したものを使用した。このようにして得られた流動ペーストを2分割し、夫々に種類の異なる顔料を配合して混錬し、夫々色調の異なる第1流動ペーストと第2流動ペーストを調製した(工程B)。
【0061】
第一型枠ユニット及び第二型枠ユニットの夫々の柱状空洞部内に、18.3mm×14.8mm×2.0mmである押出板を進退自在且つ着脱自在に嵌挿して各型枠ユニットの一方の端部開口を塞いだ後、
図3に示す充填具5を用い、第一型枠ユニットについては第1流動ペーストを、第二型枠ユニットについては第2流動ペーストを充填し(工程C)、更に
図4に示す積層装置6を用い、
図2のIに示す様な方法でペースト積層体充填連結型枠を得た(工程D)。
【0062】
その後、
図5に示す型枠ユニット保持装置7にセットのナットを締めてペースト積層体充填連結型枠を固定し、オーブンを用いて常圧で加熱重合硬化を行った。このときの加熱は、40℃で2h、55℃で5h、80℃で2順次保持するという昇温パターンを採用して行った(工程E)。
【0063】
室温まで冷却後に型枠ユニット保持装置から連結型枠外し、内部の硬化体(ハイブリッドレジン積層体)を取り出し、得られたハイブリッドレジン積層体についてその表面に生じるライン状の不良を目視で評価し、以下のよう評価基準で評価を行った。
【0064】
ハイブリッドレジン積層体表面に生じるライン状の不良の評価基準:
SS:不良なし、視認も不可
S:部分的に不良発生、視認は難しい
A:部分的に不良発生、視認が比較的容易、研磨処理による不良の除去は容易
B:外周全面に不良が発生、視認が比較的容易、研磨処理による不良の除去は容易
C:外周全面に不良が発生、明確に視認できる、研磨処理による不良の除去は容易
D:外周全面に不良が発生、明確に視認できる、不良が大きいが研磨処理による除去は比較的容易
E:外周全面に不良が発生、明確に視認できる、不良の除去のために材料の深くまで研磨が必要で、労力が必要。
【0065】
評価結果を表1に示す。表1に示されるように、評価結果は全てD(研磨処理による除去は比較的容易)以上であり、面取り角度が174.0~178.3°の範囲内でR加工あり(○)の場合には、最高評価:SSとなっていた。また、上記面取り角度の範囲内でR加工なし(-)の場合及び面取り角度が166.0~178.9°の範囲内でR加工あり(○)の場合には、最高評価に次ぐ評価:Sとなっていた。さらに、同一面取り角度の評価結果を比較すると、R加工あり(○)の方が方評価となる傾向が見られた。
【0066】
【0067】
実施例22~42
基端型枠ユニット及び先端基端型枠ユニットの型枠ユニット本体の供給側開口端面領域を、表2に示す条件で
図7左側図「Planer」に示す様にして面取りした他は、実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造し、その表面を評価した。結果を表2に示す。表1の評価と比べると若干劣るものの、表2においても、面取り角度と評価、角部R加工の有無と評価の間には表1と同様の傾向が確認できる。
【0068】
【0069】
実施例43~54
基端型枠ユニット及び先端基端型枠ユニットの型枠ユニット本体の供給側開口端面領域を、表3に示す条件で
図7右側図「Convave(凹状)」に示す様にして面取りした他は、実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造し、その表面を評価した。結果を表3に示す。表1の評価と比べると若干劣るものの、表3においても、面取り角度と評価、角部R加工の有無と評価の間には表1と同様の傾向が確認できる。
【0070】
【0071】
比較例1
実施例1において面取り加工する前の型枠キットをそのまま用いる他は、実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造し、その表面を評価した。結果を表4に示す。
【0072】
比較例2及び3
図8に示す形状、具体的には、型枠ユニット接合端部の形状が、前記(面取り加工前)型枠キットに、実施例39において面取りで除去した部分を内壁面に追加して、∠CA´B´が181°でA´部からB´部にかけて内壁面側の壁厚が徐々に厚くなるようにした型枠キットを準備し、これを用いる他は、実施例1と同様にしてハイブリッドレジン積層体を製造し、その表面を評価した。結果を表4に示す。
【0073】