(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141317
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】豆腐用凝固剤
(51)【国際特許分類】
A23L 11/45 20210101AFI20220921BHJP
【FI】
A23L11/45 106A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041554
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 真梨
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健
(72)【発明者】
【氏名】清水 将夫
【テーマコード(参考)】
4B020
【Fターム(参考)】
4B020LB02
4B020LG05
4B020LK02
4B020LK03
4B020LP15
4B020LR02
(57)【要約】
【課題】
従来の徐放性凝固剤と同程度の使用量で、原料とする豆乳のBrix値の高低によらずに、弾力に優れ、かつ内相均一性に優れ滑らかな食感を有する豆腐を得ることを可能とする豆腐用凝固剤を提供する。
【解決手段】
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤であって、
前記豆腐用凝固剤中の、前記油性成分と前記親油性乳化剤の各含有量の合計が52~75質量%であり、前記水性成分に占める塩化マグネシウムの割合が30~44質量%である、豆腐用凝固剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤であって、
前記豆腐用凝固剤中の、前記油性成分と前記親油性乳化剤の各含有量の合計が52~75質量%であり、前記水性成分に占める塩化マグネシウムの割合が30~44質量%である、豆腐用凝固剤。
【請求項2】
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤であって、
前記水性成分が塩化マグネシウムを含み、
下記分散条件にて豆乳中に前記豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤が下記分散状態となる、豆腐用凝固剤。
<分散条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合し、マイルダーを用いて、温度85℃、回転数4000rpmにて、流量1L/minの分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させる。
<分散状態>
豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下、豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上。
【請求項3】
前記親油性乳化剤がポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含み、前記豆腐用凝固剤中の親油性乳化剤の含有量が0.1~10質量%である、請求項1又は2に記載の豆腐用凝固剤。
【請求項4】
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤を豆乳中に分散させることを含む豆腐の製造方法であって、
前記水性成分が塩化マグネシウムを含み、
前記豆腐用凝固剤を前記豆乳中に分散させるに当たり下記撹拌条件を適用する、豆腐の製造方法。
<撹拌条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合して分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下となり、かつ豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上となる撹拌条件。
【請求項5】
前記撹拌条件を適用して前記豆腐用凝固剤をBrix値が7以上の豆乳中に分散させることを含む、請求項4に記載の豆腐の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆腐用凝固剤及び豆腐の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は、豆乳に凝固剤を加えてタンパク質を架橋、ゲル化して製造される。タンパク質が架橋されて形成される網目構造中には多数の水分子が保持され、豆腐特有の弾力とみずみずしさが発現する。この凝固剤として、古くから塩化マグネシウムを主成分とするにがりが使用されてきた。塩化マグネシウムは豆腐にほどよい甘味を付与するため、塩化マグネシウムを用いることで風味のよい豆腐に仕上げることができる。一方、塩化マグネシウムの凝固作用は速効性であり、豆乳中に均一に拡散する前に凝固反応が素早く進行する。したがって、塩化マグネシウムを凝固剤として用いてゲル組織の均一性の高い高品質の豆腐を得るには熟練した技術を要するとされる。
また上記凝固剤として、塩化マグネシウムの他、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム等の無機塩が豆乳に対する凝固作用を示すことが知られている。
【0003】
凝固作用成分として無機塩を用いてゲル組織の均一な豆腐をより簡便に製造するために、無機塩徐放性の製剤(徐放性凝固剤)を調製し、かかる製剤を豆乳に添加して豆腐を製造することが知られている。
例えば特許文献1には、油脂、乳化剤、水及び無機金属塩を含み、平均粒子径が0.5~5μmである乳化凝固剤を豆乳に分散させ、分散後の平均分散粒子径が5~120μmのW/O/W型乳化状態を形成し、次いで凝固反応を行わせる豆腐の製造法が記載されている。
また、特許文献2には、苦汁を用いるW/O型乳化凝固剤において、剤系中の塩化マグネシウムの濃度が20~40重量%であり、水相中の塩化マグネシウムの濃度が40~70重量%で、この乳化物のW/O比が40/60~65/35であり、剤系中のポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量が3~8重量%である豆腐用凝固剤が記載されている。
また、特許文献3には、油脂と親油性乳化剤とを含有する油相と、カリウムとナトリウムと塩化マグネシウムとを含有する水相とを有する油中水型乳化組成物からなる豆腐用凝固剤であって、該豆腐用凝固剤中、塩化マグネシウムの含有量が14.0~26.0質量%、カリウムとナトリウムの含有量が合計で0.05~0.25質量%、カリウムの含有量/ナトリウムの含有量が、質量比で1/4~1/1である豆腐用凝固剤が記載されている。
また、特許文献4には、高温の豆乳に苦汁分散型凝固剤を分散させ、凝固反応を行わせる豆腐の製造法であって、凝固に用いる豆乳の温度を、該豆乳の凝固開始温度の±10℃の範囲に制御すると共に、分散1分後の豆乳中の塩化マグネシウムの溶解量が60重量%以下、分散10分後の該溶解量が65~100重量%になるように豆乳中の苦汁分散型凝固剤の溶解性を制御する豆腐の製造法が記載されている。
また、特許文献5には、(a)無機塩系凝固剤、(b)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、(c)レシチン及び/又はグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、及び(d)油性成分を含有することを特徴とする豆腐用凝固剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-98970号公報
【特許文献2】特開2000-32942号公報
【特許文献3】特開2019-154440号公報
【特許文献4】特開平11-332497号公報
【特許文献5】国際公開第2014/208331号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~5に記載されるような従来の徐放性凝固剤を用いた豆腐の製造では、タンパク質等の可溶性固形分量が比較的多い(Brix値が例えば12程度)豆乳を原料としてきた。Brix値の高い豆乳(高Brix豆乳)を用いることにより、油脂や乳化剤が豆腐の風味にあまり影響しない程度の少量の徐放性凝固剤の使用でも、タンパク質の架橋密度を十分に高めることができ、風味と食感に優れた豆腐を得ることができる。他方、Brix値の低い豆乳(低Brix豆乳)を用いた場合には、従来の徐放性凝固剤を用いて優れた風味と食感の両立を達成することは難しい。すなわち、油脂や乳化剤などが豆腐の風味に実質的に影響しない程度の少量で徐放性凝固剤を用いるだけでは、豆乳に十分な架橋構造を導入できず、結果、得られる豆腐は、豆腐それ自体の形状を保つことが難しくなる。また、形状を維持した豆腐が得られたとしても、その弾力は弱く、また内相が不均一で食した際に口中で感じる滑らかさにも劣るものとなる。
【0006】
世界的に大豆の種類は多様であり、得られる豆乳のBrix値も大豆の種類によって異なるのが実情である。それゆえ、豆腐の製造において、少量の徐放性凝固剤で、豆乳のBrix値によらずに豆乳を安定して凝固させることができれば、大豆ないし豆乳の調達先の選択幅が広がり、また、豆腐の風味等のバリエーションも増えて、豆腐のマーケット拡大にも寄与すると考えられる。
また、豆乳に風味剤等を添加して新たな風味の豆腐を製造する試みがある。この場合、風味剤などの配合で豆乳は希釈される。つまり、上記と同様の凝固性の問題が生じ得る。かかる視点からも、幅広いBrix値の豆乳に対して、少量の凝固剤を用いて、弾力に優れ、内相均一性にも優れた高品質の豆腐を得るための技術が求められている。
【0007】
本発明は、従来の徐放性凝固剤と同程度の少量の使用で、原料とする豆乳のBrix値の高低によらずに、弾力に優れ、かつ内相均一性に優れ滑らかな食感を有する豆腐を得ることを可能とする技術を、徐放性凝固剤の組成ないし特性の視点から、また、徐放性凝固剤の豆乳中への分散性制御の視点から実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は一態様において次の豆腐用凝固剤を提供するものである。
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤であって、前記豆腐用凝固剤中の、前記油性成分と前記親油性乳化剤の各含有量の合計が52~75質量%であり、前記水性成分に占める塩化マグネシウムの割合が30~44質量%である、豆腐用凝固剤。この豆腐用凝固剤に係る発明を、本明細書では「第1実施態様に係る発明」又は「第1実施態様に係る凝固剤」とも称す。
【0009】
本発明の別の態様では次の豆腐用凝固剤が提供される。
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤であって、前記水性成分が塩化マグネシウムを含み、下記分散条件にて豆乳中に前記豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤が下記分散状態となる、豆腐用凝固剤。
<分散条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合し、マイルダーを用いて、温度85℃、回転数4000rpmにて、流量1L/minの分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させる。
<分散状態>
豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下、豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上。
この豆腐用凝固剤に係る発明を、本明細書では「第2実施態様に係る発明」又は「第2実施態様に係る凝固剤」とも称す。
【0010】
本発明のさらに別の態様では次の豆腐の製造方法が提供される。
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤を豆乳中に分散させることを含む豆腐の製造方法であって、前記水性成分が塩化マグネシウムを含み、前記豆腐用凝固剤を前記豆乳中に分散させるに当たり下記撹拌条件を適用する、豆腐の製造方法。
<撹拌条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合して分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下となり、かつ豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上となる撹拌条件。
この豆腐の製造方法に係る発明を、本明細書では「第3実施態様に係る発明」又は「第3実施態様に係る製法」とも称す。
【発明の効果】
【0011】
本発明の豆腐用凝固剤は、これを豆乳中に分散させて豆乳を凝固させることにより、従来の徐放性凝固剤と同程度の少量の使用で、原料とする豆乳のBrix値の高低によらずに、弾力に優れ、かつ内相均一性に優れ滑らかな食感を有する豆腐を得ることができる。
また、本発明の豆腐の製造方法によれば、徐放性凝固剤を従来と同程度の少量の使用で、原料とする豆乳のBrix値の高低によらずに、弾力に優れ、かつ、内相均一性に優れ滑らかな食感を有する豆腐を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施態様について、第1実施態様に係る発明、第2実施態様に係る発明、第3実施態様に係る発明の順に説明する。
【0013】
本発明の第1実施態様に係る凝固剤は、油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する。水性成分には後述のように、凝固作用成分として塩化マグネシウムが特定量含まれている。
【0014】
上記油性成分とは、水に対して非相溶性の成分である。水に対して非相溶性とは、水と実質的に溶け合わないことを意味する。すなわち、水と混合した際に、油性成分と水とが互いに相分離した状態になることを意味する。
油性成分としては、例えば油脂が挙げられ、また、トリアシルグリセロール以外の多価アルコール脂肪酸エステルを挙げることができる。すなわち、油性成分として食用に適する動物性油脂、食用に適する植物性油脂、及び、多価アルコールと脂肪酸とのエステル(トリアシルグリセロール及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを除く)から選ばれる、1種又は2種以上を用いることができる。なかでも上記油性成分は、20℃において液状の油脂であることが好ましく、凝固剤の安定性の観点からより好ましくは5℃において液状の油脂である。本明細書において「20℃において液状の油脂」とは、20℃において固体脂含量が1質量%以下である油脂を意味する。また、「5℃において液状の油脂」とは、5℃において固体脂含量が1質量%以下である油脂を意味する。油脂の固体脂含量は、日本油化学協会制定の基準油脂分析試験法の2.2.9固体脂含量 NMR法に記載の方法に従い測定される。
上記植物性油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、米油、ひまわり油、胡麻油等、又はこれらの硬化油、これらのエステル交換油もしくはこれらの分別油が挙げられ、これらの油脂から選ばれる1種又は2種以上の油脂を用いることができる。また、前記動物性油脂としては、ラード、牛脂等が挙げられ、これらの油脂から選ばれる1種又は2種以上の油脂を用いることができる。
前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する多価アルコールは、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビト-ル及びソルビタンから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルは、なかでもプロピレングリコールジエステル化合物が好ましい。また、前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限は無く、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルは、通常のエステル化反応等により調製することができる。
【0015】
第1実施態様に係る凝固剤において、凝固剤中の上記油性成分の含有量は、得られる豆腐の食感をより良好なものとする観点から50質量%以上が好ましく、52質量%以上がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましく、57質量%以上が特に好ましい。また、豆腐の風味の観点から、凝固剤中の油性成分の含有量は74質量%以下が好ましく、72質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
上記油性成分は、上記油脂を含むことが好ましい。また、上記油性成分が上記油脂以外の成分を含む場合、油脂を除く残部は、例えば着色料、酸化防止剤、調味料、強化剤等から選ばれる1種又は2種以上を含有することができる。
上記油性成分に占める油脂の割合は、豆腐の風味の観点から40質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上とすることも好ましい。また、上記油性成分は上記油脂からなることも好ましい。
【0017】
上記親油性乳化剤は、HLBが9以下の乳化剤であり、HLBが8以下の乳化剤であることが好ましい。HLB値は下記の数式で表されるGriffin法(W.C.Griffin,J.Soc.Cosmetic.Chemists.,1,311(1949))により計算した値である。
HLB=20×(親水基部分の分子量)/(界面活性剤の分子量)
上記親油性乳化剤として、例えば、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR)、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。上記親油性乳化剤は、凝固剤の乳化安定性の観点から、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含むことが好ましい。親油性乳化剤に占めるPGPRの割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。さらに好ましくは、親油性乳化剤のすべてがPGPRである。上記親油性乳化剤にPGPRが含まれる場合、PGPRは1種含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
第1実施態様に係る凝固剤において、凝固剤中の前記親油性乳化剤の含有量は、凝固剤の安定性の観点から、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましく、1~6質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
親油性乳化剤として好ましいPGPRについて説明する。PGPRを構成するグリセリン重合体のグリセリン単位の数に特に制限はない。乳化安定性を考慮すると、上記グリセリン重合度(平均重合度)を4~6とすることが好ましい。また、同様の観点から、PGPRにおける縮合リシノレイン酸は、2~5分子のリシノレイン酸が縮合した構造であることが好ましい。
【0019】
ポリグリセリンのグリセリン重合度は水酸基価に基づき下式(3)より算出される。
MW=74n+18・・・式(1)
OHV=56110(n+2)/MW・・・式(2)
n=(112220-18OHV)/(74OHV-56110)・・・式(3)
MW:ポリグリセリンの平均分子量
n:ポリグリセリン重合度(平均重合度)
OHV:ポリグリセリンの水酸基価
【0020】
上記親油性乳化剤は通常の方法で合成することができ、また市場から入手することができる。例えばPGPRの市販品として、サンソフトNo.818SK(商品名、太陽化学社製)、サンソフトNo.818R(商品名、太陽化学社製)、サンソフトNo.818DG(商品名、太陽化学社製)、SYグリスターCR-500(商品名、阪本薬品工業社製)、ポエムPR-300(商品名、理研ビタミン社製)を挙げることができる。
【0021】
第1実施態様に係る凝固剤において、凝固剤中の、上記油性成分と上記親油性乳化剤の各含有量の合計は、52~75質量%である。このような含有量範囲とすることにより、豆乳中への分散性をより高めることができ、得られる豆腐を弾力に優れたものとでき、かつ凝固状態をより均一化でき、食感をより滑らかにすることができる。豆腐の内相の均一性の観点から、凝固剤中における上記油性成分と上記親油性乳化剤の各含有量の合計は55質量%以上が好ましく、57質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。また、豆腐の風味の観点から、凝固剤中における上記油性成分と上記親油性乳化剤の各含有量の合計は74質量%以下が好ましく、73質量%以下がより好ましく、72質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
前記水性成分は、水、又は水に対する溶解度が25℃において10g/100g-H2O(25℃において水100gに溶解する限界量が10g)以上である水溶性成分を意味する。上記水性成分は水溶性成分である塩化マグネシウムを含み、水性成分に占める塩化マグネシウムの割合は30~44質量%である。水性成分中の塩化マグネシウムの割合を上記範囲内とすることにより、得られる豆腐の凝固状態をより均一化でき、食感をより滑らかにすることができる。本発明において塩化マグネシウムの含有量は無水物換算の含有量である。例えばMgCl2・6H2O(塩化マグネシウム6水和物)を配合して塩化マグネシウムを含有させた場合、塩化マグネシウムの含有量はMgCl2の含有量であり、6H2Oは水性成分中の水を構成するものとする。
第1実施態様に係る凝固剤において、凝固剤の水性成分に占める塩化マグネシウムの割合は、豆腐の弾力の観点から、30質量%以上であり、32質量%以上とすることも好ましく、34質量%以上とすることも好ましい。また豆腐の風味の観点から、凝固剤の水性成分に占める塩化マグネシウムの割合は44質量%以下であり、42質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
水性成分中の塩化マグネシウム濃度は配合量から算出でき、また、「第8版食品添加物公定書」の「塩化マグネシウム」の項に記載の方法により定量することもできる。
【0023】
上記水性成分は、塩化マグネシウムに加えて水を含むことが好ましい。上記水性成分に占める水の割合は、凝固剤の形態にもよるが、通常は53質量%以上であり、56質量%以上とすることも好ましい。また、上記水性成分に占める水の割合は通常は70質量%以下であり、67質量%以下とすることも好ましい。
上記水性成分が塩化マグネシウム以外で且つ水以外の成分を含有する場合、当該水性成分から塩化マグネシウムと水を除いた残部には、凝固作用を有する無機塩類などの水溶性成分を含有することができる。上記水性成分は、塩化マグネシウムと水から構成されていることが好ましい。
【0024】
第1実施態様に係る凝固剤は、油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分からなることが好ましい。
【0025】
第1実施態様に係る凝固剤の形態は、油性成分と親油性乳化剤と水性成分とが混じり合った形態であれば特に制限されない。例えば、油性成分と親油性乳化剤と水性成分とを均一混合してなる組成物の形態でもよいし、油中水型乳化組成物の形態とすることも好ましい。また、油中水型乳化組成物を乾燥処理(減圧乾燥など)に付して自由水などの少なくとも一部を除去した形態とすることも好ましい。
【0026】
続いて、第1実施態様に係る凝固剤の調製方法について説明する。
本発明の第1実施態様に係る凝固剤を水中油型乳化組成物として得る場合、上記水性成分と、油性成分及び親油性乳化剤を含有する油脂組成物とを、油中水型(W/O型)に乳化分散することで第1実施態様に係る凝固剤を得ることができる。得られる乳化組成物において、上記水性成分は水相を、上記油性成分は油相を構成する。上記親油性乳化剤は、上記油性成分中に上記水性成分を乳化分散させる乳化剤として機能する。第1実施態様に係る凝固剤を水中油型乳化組成物の形態とする場合、本発明で規定する成分組成を適用すること以外は、通常の乳化分散方法により油中水型に乳化分散して、水中油型乳化組成物からなる第1実施態様に係る凝固剤を得ることができる。また、得られた水中油型乳化組成物を、例えば減圧処理に付して乾燥したものを、第1実施態様に係る凝固剤とすることもできる。
また、第1実施態様に係る凝固剤を、各成分を単に混ぜ合わせて調整することもできる。すなわち、油性成分中に塩化マグネシウム(好ましくは塩化マグネシウム6水和物)が固体状で分散してなるスラリーの形態とすることも好ましい。このようなスラリー形態の凝固剤それ自体は公知であり、本発明で規定する成分組成を適用すること以外は、常法によりスラリー状の第1実施態様に係る凝固剤(S/O型凝固剤)を得ることができる。
【0027】
第1実施態様に係る凝固剤は、豆乳中に比較的穏やかな条件で分散させた場合でも、小粒径の分散粒子として豆乳中に高い粒子密度で(分散粒子数が多量に存在する状態で)均一分散することができ、かつ、塩化マグネシウムをほどよい放出速度で徐放することができる。結果、豆乳の架橋点密度が十分に高められるなどして、Brix値の高低にかかわらずに、弾力があり、また内相が均一で滑らかな食感を有する豆腐を得ることが可能になると考えられる。すなわち、従来、原料豆乳として用いられてきた高Brix値の豆乳に加え、低Brix値(例えばBrix値が10以下であり、9以下であってもよく、8以下であってもよい。)の豆乳も原料として用いることが可能になる。それゆえ、大豆ないし豆乳の調達先の選択の幅が広がり、また、豆腐の風味などのバリエーションの創出にも寄与するものである。第1実施形態に係る凝固剤を適用する豆乳のBrix値は、従来、原料として用いられてきた豆乳の観点から、例えば5~14とすることができ、6~13とすることが好ましく、7~13とすることも好ましい。また、低Brix値の豆乳の観点から、例えば当該Brix値は5~12とすることができ、6~11とすることが好ましく、7~10とすることも好ましく、7~9とすることも好ましい。
第1実施態様に係る凝固剤を用いた豆腐の製造については、第二実施態様に係る凝固剤を用いた豆腐の製造とともに後述する。
【0028】
続いて、本発明の第2実施態様に係る凝固剤について説明する。
本発明の第2実施形態に係る凝固剤は、油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する。水性成分には凝固作用成分として塩化マグネシウムが含まれている。
第2実施態様に係る凝固剤は、下記<分散条件>にて豆乳中に前記豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤が下記<分散状態>となる。
【0029】
<分散条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合し、マイルダーを用いて、温度(分散処理開始時点における、Brix値が1の豆乳の温度であり、また、マイルダーにより分散処理されている最中の当該豆乳の温度である。)85℃で、回転数4000rpmにて、流量1L/minの分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させる(こうして得られる、豆乳中に凝固剤が分散してなる液を「分散液」とも称す。)。
【0030】
上記「マイルダー」は乳化分散に広く用いられている機器であり、本発明では太平洋機工製のMDN303Vを用いる。また、ローター・ステーターとしてG/M/Fの3段を用いる。
【0031】
<分散状態>
豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下、豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上。
【0032】
上記メジアン径は、後述する実施例に記載の方法により決定することができる。また、豆乳中の塩化マグネシウム濃度とは、豆乳中に溶出している(豆乳中に放出された)塩化マグネシウム濃度である。この溶出した塩化マグネシウム濃度は電気伝導率に基づき決定することができる。詳細は後述する実施例に記載する通りである。このことは、後述する第3実施態様に係る製法おける「豆乳中の塩化マグネシウム濃度」についても同様である。
本発明において「分散処理終了時点から1分後の分散液」とは、具体的には、マイルダーの吐出口から排出された分散液を10秒間、連続的に採取し、採取開始時点(採取開始0秒時点)から1分経過後における、上記採取した分散液を指す。したがって、「分散処理終了時点から1分後の分散液」には、実際には、分散処理終了時点から50秒後の分散液から、分散処理終了時点から1分後の分散液までが含まれている。
「分散処理終了時点から1分後の分散液」における豆乳中の塩化マグネシウム濃度とは、分散液中の豆乳に占める、分散処理開始時点(マイルダーの導入口に導入した時点)から、分散処理終了時点から1分後までの間に豆腐用凝固剤から豆乳中に溶出された塩化マグネシウム量の割合(質量%)を意味する。したがって、「分散処理終了時点から1分後の分散液」における「豆乳中の塩化マグネシウム濃度」は、豆乳由来の塩化マグネシウムは含まれず、また豆乳中に溶出されずに豆腐用凝固剤中に残存している塩化マグネシウムは含まれず、分散処理開始時点から分散処理終了時点までの間及び分散処理終了時点から1分後までの間に豆腐用凝固剤から豆乳中に溶出された塩化マグネシウムの総量に基づき決定されるものである。なお、「分散処理終了時点から1分後」が、分散処理終了時点から50秒後~1分後までの範囲を含む意味であることは上述の通りである。
【0033】
第2実施態様に係る凝固剤に用いられる油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分は、それぞれ、第1実施態様に係る凝固剤において説明した油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分と同義であり、各成分の好ましい組成も同じである。また、凝固剤中の油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分の各含有量の範囲についても、第1実施態様に係る凝固剤で説明した各含有量の範囲を好ましく適用することができる。
【0034】
上記<分散状態>において、豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径は、豆腐の内相の均一性の観点から、好ましくは80μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは65μm以下である。また、上記<分散状態>において、豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径は、通常は20μm以上であり、40μm以上であることも好ましい。
ここで、豆乳のBrix値と凝固剤の分散粒子径(メジアン径)との関係について考察すると、豆腐の原料として一般的なBrix値が12の豆乳を用いた場合と比較して、Brix値が1の低たんぱく豆乳を用いた場合には、界面活性物質(タンパク質)濃度が格段に低く、さらに豆乳の粘度も低いため、前記分散粒子径はかなり大きくなると考えられる。例えばBrix値が12の豆乳を用いたときの分散粒子径が10μmであった場合には、同じ凝固剤を用いてBrix値が1の豆乳に分散させたときは分散粒子径が100~120μm程度の大きさになるものと考えられる。
【0035】
また、上記<分散状態>において、豆乳中の塩化マグネシウム濃度は、豆腐の内相の均一性の観点から0.005質量%以上であり、好ましくは0.006質量%以上、より好ましくは0.007質量%以上である。また、当該塩化マグネシウム濃度はより弾力のある豆腐を得る観点から、0.100質量%以下であることが好ましく、0.090質量%以下がより好ましく、0.085質量%以下であることも好ましい。
【0036】
第2実施態様に係る凝固剤も第1実施態様に係る凝固剤と同様に、豆乳中に比較的穏やかな条件で分散させた場合でも、小粒径の分散粒子として豆乳中に高い粒子密度で均一分散することができ、かつ塩化マグネシウムをほどよい放出速度で徐放することができる。結果、豆乳の架橋点密度が十分に高められるなどして、Brix値の高低にかかわらずに、弾力があり、また内相が均一で滑らかな食感を有する豆腐を得ることが可能になると考えられる。すなわち、従来原料豆乳として用いられてきた高Brix値の豆乳に加え、低Brix値(例えばBrix値が10以下であり、9以下であってもよく、8以下であってもよい。)の豆乳も原料として用いることが可能になるため、大豆ないし豆乳の調達先の選択幅が広がり、また、豆腐の風味などのバリエーションの創出にも寄与するものである。第2実施形態に係る凝固剤を適用する豆乳のBrix値も第1実施態様に係る凝固剤と同様に、従来、原料として用いられてきた豆乳の観点から、例えば5~14とすることができ、6~13とすることが好ましく、7~13とすることも好ましい。また、低Brix値の豆乳の観点から、例えば当該Brix値は5~12とすることができ、6~11とすることが好ましく、7~10とすることも好ましく、7~9とすることも好ましい。
【0037】
第2実施態様に係る凝固剤の形態は、第1実施態様に係る凝固剤と同様の形態とすることができ、好ましい形態も同じである。すなわち、油性成分と親油性乳化剤と水性成分とを均一混合した組成物の形態でもよいし、油中水型乳化組成物の形態とすることも好ましい。また、油中水型乳化組成物を乾燥処理(減圧乾燥など)に付して自由水などの少なくとも一部を除去した形態とすることも好ましい。
【0038】
続いて、第1実施態様又は第2実施態様に係る凝固剤を用いた豆腐の製造について説明する。第1実施態様又は第2実施態様に係る凝固剤を用いた豆腐の製造は、凝固剤として第1実施態様又は第2実施態様に係る凝固剤を用いること以外は常法により実施することができる。すなわち、本発明の豆腐用凝固剤と、所望のBrix値の豆乳とを混合して分散処理(均質撹拌処理)に付して豆乳中に凝固剤を分散させ、徐々に溶出する塩化マグネシウムの作用により豆乳中のタンパク質に架橋構造を形成させてゲル化することにより、豆腐を得ることができる。このゲル化は、上記分散液を80~90℃程度で30~60分間程度の熟成工程に付して進行させることができる。
豆腐の製造に際し、豆乳と凝固剤との混合・分散は、豆乳中の塩化マグネシウムの含有量が0.1~0.3質量%程度となるように、豆乳と豆腐用凝固剤とを混合することが好ましい。
豆乳中への凝固剤の分散は、例えば、マイルダー(MDN303V、ローター・ステーターG/M/F、太平洋機工製)やホモミキサー(TKホモミクサーMARKII、プライミクス社製)等の撹拌装置を用いて所望の撹拌速度で撹拌することにより行うことができる。この分散工程の温度は20~90℃の範囲で適宜に調整することができる。好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下にて分散工程を行い、その後、上記の高温熟成工程に付して豆腐を得ることができる。
例えば、豆乳と豆腐用凝固剤とを高温(60~90℃程度)で混合して数秒~数十秒間撹拌した後、所望の形状の豆腐充填容器および連続成型機に充填し、例えば80~90℃程度の温度下で、40~50分間程度加熱して熟成させることにより、豆腐が得られる。
【0039】
次に、本発明の第3実施形態に係る製法について説明する。
第3実施態様に係る製法は、油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤を豆乳中に分散させることを含む豆腐の製造方法である。水性成分には、少なくとも塩化マグネシウムが含まれている。この製法における豆乳中への凝固剤の分散工程には、特定の撹拌条件を適用する。当該撹拌条件は次の通りである。
【0040】
<撹拌条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合して分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下となり、かつ豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上となる撹拌条件。
【0041】
上記撹拌条件は、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、Brix値が1の豆乳中に凝固剤を特定の小粒径として分散させることができ、かつ豆乳中の塩化マグネシウム濃度を0.005質量%以上とすることができる撹拌条件である。この撹拌条件と同じ撹拌装置(乳化分散装置)を用いて、かつ同じ撹拌速度、撹拌時間、撹拌温度を採用して、所望の豆乳(例えばBrix値が7以上の豆乳)中に前記凝固剤を分散させる工程を経て豆腐を得るのが、第3実施態様に係る発明である。なお、マイルダーのような流通方式の分散機を用いる場合には、第2実施形態で説明したのと同様に、吐出口から排出された分散液を10秒間、連続的に採取することを要する。この場合、第2実施形態で説明した通り、「分散処理終了時点から1分後の分散液」には、分散処理終了時点から50秒後の分散液から、分散処理終了時点から1分後の分散液までが含まれるものである。
第3実施態様に係る製法における分散処理においては、豆乳が由来する大豆種は、上記<撹拌条件>におけるBrix値が1の豆乳が由来する大豆種と同じでも異なってもよい。また、豆腐の製造における豆乳中への凝固剤の分散処理において、豆乳と凝固剤との混合比は、上記撹拌条件におけるBrix値が1の豆乳と凝固剤との混合比(豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの含有量が0.14質量%)と同じであってもよく、異なってもよい。上記をまとめると次の通りである。
【0042】
第3実施態様に係る製法において、豆腐製造における豆乳中への凝固剤の分散に当たり、使用する豆乳のBrix値は、上記<撹拌条件>の決定において使用した豆乳のBrix値(Brix値が1)よりも高いものである。
また、第3実施態様に係る製法において、豆腐製造における豆乳中への凝固剤の分散に当たり、使用する豆乳が由来する大豆種は、上記<撹拌条件>の決定において使用したBrix値が1の豆乳の大豆種に限定されるものではない。
また、第3実施態様に係る製法において、豆腐製造における豆乳中への凝固剤の分散に当たり、豆乳と凝固剤との混合比については、上記<撹拌条件>に記載された混合比(豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの含有量が0.14質量%)に限定されるものではない。なお、豆腐の製造に際し、豆乳と凝固剤との混合・分散は、豆乳中の塩化マグネシウムの含有量が0.1~0.3質量%程度となるように、豆乳と豆腐用凝固剤とを混合することが好ましい。
【0043】
本発明者らは、豆腐製造において、低Brix豆乳(例えばBrix値が7の豆乳)中に徐放性凝固剤を分散させて豆乳を凝固して豆腐を得るに当たり、豆乳中への徐放性凝固剤の分散を通常の分散条件で行うと、その後に高温熟成工程(例えば75~95℃)に付しても所望の品質の豆腐を得ることができないこと、その一方で、剪断力を大幅に高めるなどした特殊な分散条件下で豆乳中への徐放性凝固剤の分散処理を行った場合には、その後の高温熟成工程を経て、弾力に優れかつ滑らかな食感の豆腐が得られることを見出した。これらの知見に基づき本発明者らはさらに検討を重ねた結果、実際の豆腐の製造における豆乳中への徐放性凝固剤の撹拌条件を、上記<撹拌条件>を指標にして決定することにより、弾力に優れ、かつ内相が均一で滑らかな食感を有する豆腐が得られることを見い出し、第3実施態様に係る製法を完成させるに至ったものである。
【0044】
第3実施態様に係る製法によって、豆乳のBrix値の高低にかかわらずに、所望の高品質の豆腐を得ることが可能になる、その理由としては、第1実施態様ないし第2実施態様に係る発明で説明したことが妥当する。すなわち、豆乳中における凝固剤の粒子密度(粒子数)が高まり、豆乳の架橋点密度が十分に高められるなどして、Brix値の高低にかかわらずに、弾力があり、また内相が均一で滑らかな食感を有する豆腐を得ることが可能になると考えられる。すなわち、従来、原料豆乳として用いられてきた高Brix値の豆乳に加え、低Brix値(例えばBrix値が10以下であり、9以下であってもよく、8以下であってもよい。)の豆乳も原料として用いることが可能になるため、大豆ないし豆乳の調達先の選択幅が広がり、また、豆腐の風味などのバリエーションの創出にも寄与するものである。第3実施態様に係る製法では、豆腐の製造において凝固剤を分散させる豆乳のBrix値は、第1実施態様に係る凝固剤の使用形態と同様に、従来、原料として用いられてきた豆乳の観点から、例えば5~14とすることができ、6~13とすることが好ましく、7~13とすることも好ましい。また、低Brix値の豆乳の観点から、例えば当該Brix値は5~12とすることができ、6~11とすることが好ましく、7~10とすることも好ましく、7~9とすることも好ましい。
【0045】
第3実施態様に係る製法における上記<撹拌条件>は、温度(撹拌開始~撹拌終了までの豆乳の温度)を90℃以下とすることが好ましく、85℃以下とすることがより好ましい。撹拌温度は通常は60℃以上であり、70℃以上することが好ましい。
すなわち、第3実施態様に係る発明では、豆腐の製造において豆乳中に凝固剤を分散させる際の温度(撹拌開始時における豆乳の温度であり、撹拌処理されている最中の当該豆乳の温度である。)を上記温度とすることが好ましい。
また、上記<撹拌条件>の撹拌に用いる撹拌装置(乳化分散装置)は特に制限されず、豆腐の製造において使用可能なホモジナイザーを適宜に適用することができる。
また、上記<撹拌条件>において、豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させるための分散処理時間は、0.1~30秒間とすることが好ましい。
【0046】
第3実施態様に係る製法において、豆乳中に凝固剤を分散させるための撹拌工程以外の工程は、通常の豆腐製造における工程を適宜に採用することができる。例えば、第1実施態様ないし第2実施態様に係る凝固剤において説明した豆腐の製造方法を適宜に適用することができる。
【0047】
第3実施態様に係る製法に用いる凝固剤において、油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分は、それぞれ、第1実施態様に係る凝固剤において説明した油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分と同義であり、好ましい形態も同じである。
しかし、各成分の凝固剤中の含有量、ならびに水性成分に占める塩化マグネシウムの割合については、第1実施形態で説明した範囲に限られない。この点について具体的に説明する。
【0048】
第3実施態様に係る製法に用いる凝固剤において、凝固剤中の油性成分の含有量は、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上とすることがさらに好ましく、45質量%以上とすることがさらに好ましい。また、凝固剤中の油性成分の含有量は80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
第3実施態様に係る製法に用いる凝固剤において、凝固剤中の親油性乳化剤の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましく、1~6質量%であることがさらに好ましい。このように、親油性乳化剤の含有量の好ましい使用量は第1実施形態の凝固剤における親油性乳化剤の使用量と同様である。
【0050】
第3実施態様に係る製法に用いる凝固剤において、凝固剤中の、油性成分と親油性乳化剤の各含有量の合計は、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、45質量%以上とすることがさらに好ましい。また、凝固剤中の、油性成分と親油性乳化剤の各含有量の合計は、82質量%以下が好ましく、77質量%以下がより好ましく、72質量%以下がさらに好ましい。
【0051】
第3実施態様に係る製法に用いる凝固剤において、水性成分に占める塩化マグネシウムの割合は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、28質量%以上がさらに好ましい。水性成分に占める塩化マグネシウムの割合は、53質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下とすることも好ましく、38質量%以下とすることも好ましい。
【0052】
第3実施態様に係る製法に用いる凝固剤は、油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分からなることが好ましい。
【0053】
第3実施態様に係る製法に用いる凝固剤の形態もまた、第1実施態様に係る凝固剤と同様に、油性成分と親油性乳化剤と水性成分とを均一混合した組成物ないしスラリーの形態でもよいし、油中水型乳化組成物の形態とすることも好ましい。また、油中水型乳化組成物を乾燥処理(減圧乾燥など)に付して自由水などの少なくとも一部を除去した形態とすることも好ましい。
【0054】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の豆腐用凝固剤及び豆腐の製造方法を開示する。
【0055】
<1>
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤であって、
前記豆腐用凝固剤中の、前記油性成分と前記親油性乳化剤の各含有量の合計が52~75質量%、好ましくは55~74質量%、より好ましくは57~73質量%、さらに好ましくは60~72質量%であり、前記水性成分に占める塩化マグネシウムの割合が30~44質量%、好ましくは32~42質量%、より好ましくは34~40質量%である、豆腐用凝固剤。
【0056】
<2>
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤であって、
前記水性成分が塩化マグネシウムを含み、
下記分散条件にて豆乳中に前記豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤が下記分散状態となる、豆腐用凝固剤。
<分散条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合し、マイルダーを用いて、温度85℃、回転数4000rpmにて、流量1L/minの分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させる。
<分散状態>
豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下、好ましくは70μm以下、より好ましくは65μm以下であり、豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上、好ましくは0.006質量%以上、より好ましくは0.007質量%以上。
<3>
前記分散状態において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が、好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上である、前記<2>に記載の豆腐用凝固剤。
<4>
前記分散状態において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が、好ましくは20~80μm、より好ましくは20~70μm、さらに好ましくは40~65μmである、前記<2>又は<3>に記載の豆腐用凝固剤。
<5>
前記分散状態において、前記豆乳中の塩化マグネシウム濃度が、好ましくは0.100質量%以下、より好ましくは0.090質量%以下、さらに好ましくは0.085質量%以下である、前記<2>~<4>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<6>
前記分散状態において、前記豆乳中の塩化マグネシウム濃度が、好ましくは0.005~0.100質量%、より好ましくは0.006~0.090質量%、さらに好ましくは0.007~0.085質量である、前記<2>~<5>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0057】
<7>
前記油性成分が油脂を含み、該油脂が好ましくは動物性油脂、植物性油脂、及び、多価アルコールと脂肪酸とのエステル(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを除く)から選ばれる1種又は2種以上である、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<8>
前記油性成分に占める前記油脂の割合が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である、前記<7>に記載の豆腐用凝固剤。
<9>
前記動物性油脂が、好ましくはラード及び/又は牛脂である、前記<7>又は<8>に記載の豆腐用凝固剤。
<10>
前記植物性油脂が、好ましくは大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、米油、ひまわり油、胡麻油、これらの硬化油、これらのエステル交換油及びこれらの分別油から選ばれる1種又は2種以上である、前記<7>~<9>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<11>
前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する多価アルコールが、好ましくはプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビト-ル及びソルビタンから選ばれる1種又は2種以上である、前記<7>~<10>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<12>
前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸が、好ましくはカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸から選ばれる1種又は2種以上である、前記<7>~<11>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<13>
前記豆腐用凝固剤中の前記油性成分の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは52質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、特に好ましくは57質量%以上である、前記<1>~<12>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<14>
前記豆腐用凝固剤中の前記油性成分の含有量が、好ましくは74質量%以下、より好ましくは72質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である、前記<1>~<13>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<15>
前記豆腐用凝固剤中の前記油性成分の含有量が、好ましくは50~74質量%、より好ましくは52~74量%、さらに好ましくは55~72質量%、特に好ましくは57~70質量%である、前記<1>~<14>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0058】
<16>
前記親油性乳化剤が、好ましくはポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステ、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、及び/又はショ糖脂肪酸エステルを含み、より好ましくはポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含む、前記<1>~<15>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<17>
前記親油性乳化剤がポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含み、該親油性乳化剤に占める該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である、前記<1>~<16>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<18>
前記豆腐用凝固剤中の前記親油性乳化剤の含有量が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である、前記<1>~<17>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<19>
前記豆腐用凝固剤中の前記親油性乳化剤の含有量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である、前記<1>~<18>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<20>
前記豆腐用凝固剤中の前記親油性乳化剤の含有量が、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~8質量%、さらに好ましくは1~6質量%である、前記<1>~<19>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0059】
<21>
前記水性成分が水を含有し、前記水性成分に占める該水の割合が、53質量%以上であってもよく、好ましくは56質量%以上である、前記<1>~<20>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<22>
前記水性成分が水を含有し、前記水性成分に占める該水の割合が、好ましくは70質量%以下、より好ましくは67質量%以下である、前記<1>~<21>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<23>
前記水性成分が水を含有し、前記水性成分に占める該水の割合が、53~70質量%であってもよく、好ましくは56~67質量%である、前記<1>~<22>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0060】
<24>
豆乳のBrix値が、好ましくは5~14、より好ましくは6~13、さらに好ましくは7~13である豆乳に、前記<1>~<23>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤を適用する、豆腐の製造方法。
<25>
豆乳のBrix値が、好ましくは5~12、より好ましくは6~11、さらに好ましくは7~9である豆乳に、前記<1>~<23>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤を適用する、豆腐の製造方法。
【0061】
<26>
油性成分、親油性乳化剤、及び水性成分を含有する豆腐用凝固剤を豆乳中に分散させることを含む豆腐の製造方法であって、
前記水性成分が塩化マグネシウムを含み、
前記豆腐用凝固剤を前記豆乳中に分散させるに当たり下記撹拌条件を適用する、豆腐の製造方法。
<撹拌条件>
Brix値が1の豆乳と前記豆腐用凝固剤とを、豆乳と豆腐用凝固剤の各含有量の合計に占める塩化マグネシウムの割合が0.14質量%となるように混合して分散処理に付して豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させた場合に、分散処理終了時点から1分後の分散液中において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が80μm以下となり、かつ豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.005質量%以上となる撹拌条件。
<27>
前記撹拌条件において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が、好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上である、前記<26>に記載の豆腐の製造方法。
<28>
前記撹拌条件において、前記豆腐用凝固剤の分散粒子のメジアン径が、好ましくは20~80μm、より好ましくは20~70μm、さらに好ましくは40~65μmである、前記<26>又は<27>に記載の豆腐の製造方法。
<29>
前記撹拌条件において、前記豆乳中の塩化マグネシウム濃度が、好ましくは0.100質量%以下、より好ましくは0.090質量%以下、さらに好ましくは0.085質量%以下である、前記<26>~<28>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<30>
前記撹拌条件において、前記豆乳中の塩化マグネシウム濃度が、好ましくは0.005~0.100質量%、より好ましくは0.006~0.090質量%、さらに好ましくは0.007~0.085質量である、前記<26>~<29>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
【0062】
<31>
前記撹拌条件において、温度が好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である、前記<26>~<30>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<32>
前記撹拌条件において、温度が好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上である、前記<26>~<31>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<33>
前記撹拌条件において、豆乳中に豆腐用凝固剤を分散させるための分散処理時間が、好ましくは0.1~30秒間である、前記<26>~<32>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
【0063】
<34>
前記油性成分が、前記<7>~<12>のいずれかに記載の油性成分である、前記<26>~<33>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<35>
前記豆腐用凝固剤中の前記油性成分の含有量が、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、よりさらに好ましくは45質量%以上である、前記<26>~<34>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<36>
前記豆腐用凝固剤中の前記油性成分の含有量が、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である、前記<26>~<35>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<37>
前記豆腐用凝固剤中の前記油性成分の含有量が、好ましくは25~80質量%、より好ましくは30~80質量%、さらに好ましくは35~75質量%、さらに好ましくは40~75質量%、よりさらに好ましくは45~70質量%である、前記<26>~<36>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<38>
前記親油性乳化剤が、前記<16>又は<17>に記載の親油性乳化剤である、前記<26>~<37>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<39>
前記豆腐用凝固剤中の前記親油性乳化剤の含有量が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である、前記<26>~<38>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<40>
前記豆腐用凝固剤中の前記親油性乳化剤の含有量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である、前記<26>~<39>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<41>
前記豆腐用凝固剤中の前記親油性乳化剤の含有量が、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~8質量%、さらに好ましくは1~6質量%である、前記<26>~<40>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<42>
前記油性成分と前記親油性乳化剤の各含有量の合計が、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上である、前記<26>~<41>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<43>
前記油性成分と前記親油性乳化剤の各含有量の合計が、好ましくは82質量%以下、より好ましくは77質量%以下、さらに好ましくは72質量%以下である、前記<26>~<42>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<44>
前記油性成分と前記親油性乳化剤の各含有量の合計が、好ましくは30~82質量%、より好ましくは35~82質量%、さらに好ましくは40~77質量%、さらに好ましくは45~72質量%である、前記<26>~<43>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
【0064】
<45>
前記水性成分が水を含有し、前記水性成分に占める該水の割合が、53質量%以上であってもよく、好ましくは56質量%以上である、前記<26>~<44>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<46>
前記水性成分が水を含有し、前記水性成分に占める該水の割合が、好ましくは70質量%以下、より好ましくは67質量%以下である、前記<26>~<45>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<47>
前記水性成分が水を含有し、前記水性成分に占める該水の割合が、53~70質量%であってもよく、好ましくは56~67質量%である、前記<26>~<46>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<48>
前記水性成分に占める前記塩化マグネシウムの割合が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは28質量%以上である、前記<26>~<47>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<49>
前記水性成分に占める前記塩化マグネシウムの割合が、好ましくは53質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは38質量%以下である、前記<26>~<48>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<50>
前記水性成分に占める前記塩化マグネシウムの割合が、好ましくは20~53質量%、より好ましくは25~50質量%、さらに好ましくは28~45質量%、さらに好ましくは28~40質量%、さらに好ましくは28~38質量%である、前記<26>~<49>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
【0065】
<51>
前記撹拌条件を適用して前記豆腐用凝固剤をBrix値が好ましくは5以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは7以上の豆乳中に分散させることを含む、前記<26>~<50>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
<52>
前記撹拌条件を適用して前記豆腐用凝固剤をBrix値が好ましくは14以下、より好ましくは13以下、さらに好ましくは12以下、さらに好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下の豆乳中に分散させることを含む、前記<26>~<51>のいずれか1つに記載の豆腐の製造方法。
【0066】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0067】
[分析方法]
<豆乳のBrix値>
豆乳のBrix値は、豆乳濃度屈折計(PAL-27S、アタゴ社製)を用いて20℃で測定した。
【0068】
[調製例1] 第1実施態様及び第2実施態様に係る凝固剤の調製
表1に示す通りに原料を配合(単位:質量部)して豆腐用凝固剤を得た。具体的な方法を以下に説明する。
【0069】
油性成分として、コーン油(商品名:日清コーン油(S)、日清オイリオグループ株式会社製)、中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)(商品名:ココナードMT、花王株式会社製)、又はプロピレングリコールジエステル(日本サーファクタント工業株式会社製)を用いた。
親油性乳化剤として、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR)(商品名:サンソフトNo.818SK、太陽化学株式会社製、グリセリン平均重合度:6を用いた。
塩化マグネシウム6水和物(MgCl2・6H2O)として、ソフトウエハー(商品名、赤穂化成株式会社製)を用いた。
【0070】
表1に記載の配合比で塩化マグネシウム6水和物を水に70℃で溶解し、塩化マグネシウム水溶液(水性成分)を調製した。また、表1に記載の配合比で上記油性成分と親油性乳化剤とを70℃で混合し、油脂組成物を調製した。70℃の前記油脂組成物をホモミキサー(商品名:TKホモミクサーMARKII、プライミクス社製)を用いて6000rpmで撹拌しているところに、70℃の前記水溶液を添加して予備乳化物を得た(予備乳化時間:3分)。さらに前記予備乳化物を9000~14000rpmで、3~5分間撹拌することで乳化分散し、油中水型乳化組成物である豆腐用凝固剤(実験例1~5及び7~13)を得た。また、実験例5の豆腐用凝固剤を60℃、10kPaの条件下で減圧乾燥して濃縮したものを実験例6の豆腐用凝固剤とした。実験例6のカラムに記載の配合比は濃縮後の成分組成である。
【0071】
[試験例1] 凝固剤の均一性評価
得られた実験例1~13における豆腐用凝固剤の性状を目視観察し、下記評価基準により判断した。結果を表1に示す。
-性状の評価基準-
〇:各成分が均一に存在する安定な組成物の状態である。
×:凝固剤の性状が不均一である。
【0072】
[試験例2] 分散液中における凝固剤のメジアン径
Brix値が1の豆乳(市販豆乳(商品名:おいしい無調整豆乳、キッコーマン株式会社製、Brix値:10)を8倍希釈したもの)と、上記調製例1にて調製した豆腐用凝固剤(実験例1~13)とを、モーノポンプを用いて流量1L/minとなるように送液し、マイルダー(MDN303V、ローター・ステーターG/M/F、太平洋機工製)を用いて、4000rpmにて処理して豆乳中に凝固剤を分散させた。マイルダーによる分散処理において豆乳温度を85℃とした。また、実験例1~13の豆腐用凝固剤は、得られる分散液中において塩化マグネシウム濃度が0.14質量%となるように送液した。
【0073】
マイルダーの吐出口から排出された分散液を10秒間、連続的に採取し、得られた分散液を、速やかにイオン交換水(25℃)で10倍希釈し、分散処理終了時点から1分後(採取開始時点から1分後)に、粒度分布測定装置(SALD-2100、島津製作所製)を用いて希釈液中の分散粒子のメジアン径(分散処理終了時点から1分後の分散液中における分散粒子の体積基準メジアン径に相当)を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[試験例3] 塩化マグネシウムの放出性
上記試験例2と同様にして得られた分散液150ml(80℃)を速やかにガラス容器(スクリューバイアルSV-150、日電理化ガラス株式会社製)に入れてすぐにスターラー(攪拌子 PTFEコート 8×30mm、東京硝子器械株式会社製)で撹拌(440rpm)しながら、ポータブルマルチ水質計(MM-42DP、東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、電気伝導率を5秒毎に測定した。この間、温度は80℃に保った。得られた測定結果を基に、予め作成した検量線を用いて、豆乳中の塩化マグネシウム濃度を下記(式1)により算出した。分散処理開始時点から、分散処理終了時点(採取開始時点)から1分後までの間に、豆乳中に放出された塩化マグネシウム量に基づき、豆乳中の塩化マグネシウム濃度(質量%)を算出した。結果を表1に示す。
塩化マグネシウム濃度(質量%)=塩化マグネシウム(g)/(塩化マグネシウム(g)+豆乳(g))×100 ・・・(式1)
【0075】
[調製例2] 豆腐用凝固剤を用いた豆腐の製造
Brix7の豆乳(85℃に調温)と、実験例1~12の豆腐用凝固剤とを、混合液中の塩化マグネシウムの濃度が0.14%となるようにモーノポンプを用いて送液し、マイルダー(MDN303V、ローター・ステーターG/M/F、太平洋機工製)を用いて、80℃、4000rpmにて流量1L/minで処理して豆乳中に凝固剤を分散させた。この分散条件は、豆腐の製造において広く採用されている一般的な分散条件である。
得られた各分散液150mLをPP(ポリプロピレン)製容器(型番:C-150、第一パック機工業株式会社製)に充填し、容器にシールした後、80℃で40分間熟成して豆腐を製造した。
【0076】
[試験例4] 豆腐の圧縮破断試験
5℃で一晩保存した上記豆腐を、直径28mm、高さ15mmの円柱に4つ切り出し、小型卓上試験機(Ez-TEST、島津製作所社製)を用い圧縮破断試験を行った。試験は、直径48mmのプラスチック製プランジャーを用いて実施した。圧縮破断試験により30mm/分の速度でひずみ60%地点までプランジャーを下げたときの最大強度(gf)を算出した。得られた4つの算出値の平均値を、その豆腐の豆腐硬度(gf)とした。結果を表1に示す。
【0077】
[試験例5] 豆腐の食感
試験例4と同様に冷蔵庫(5℃)で一晩保存した豆腐の食感を専門パネル3名で評価した。具体的には下記評価基準により点数化し、専門パネル3名の平均点を比較した。なお、3名のパネルの評価結果はすべて同じであった。結果を下記表1に示す。
-食感評価基準-
5点:豆腐の内相がより均一であり、弾力がより強く、非常に滑らかな食感である。
4点:豆腐の内相が均一であり、弾力が強く、より滑らかな食感である。
3点:豆腐の内相がほぼ均一であり、弾力を感じ、滑らかな食感である。
2点:豆腐の内相が不均一であり、弾力を感じず、滑らかさにも欠ける食感である。
1点:凝固不良により評価できない。
【0078】
[試験例6] 容器底面への凝固剤成分の付着状態
豆腐製造後、容器を傾けた上で中身の豆腐を取り出し、容器底面への凝固剤成分の付着状態を下記評価基準により点数化し、比較した。結果を表1に示す。
-付着状態の評価基準-
3点:容器底面への凝固剤成分の付着がない。
2点:容器底面への凝固剤成分の付着が認められる。
1点:容器底面への凝固剤成分の付着量がより多い。
【0079】
【0080】
表1に示されるように、水性成分に占める塩化マグネシウムの割合が第1実施態様に係る凝固剤の規定よりも少ない実験例9では、塩化マグネシウムの放出性に関して第2実施態様に係る凝固剤の規定を満たさなかった。この実験例9では、得られる豆腐は弾力に劣り、豆腐の内相は不均一で滑らかさにも欠ける食感であった。さらに容器底面への凝固剤成分の付着も認められた。
油性成分の含有量が多く、結果として油性成分と親油性乳化剤の各含有量の合計が第1実施態様に係る凝固剤の規定よりも多い実験例10及び12は、塩化マグネシウムの放出性に関して第2実施態様に係る凝固剤の規定を満たさなかった。これらの場合、凝固不良で豆腐を得ることができなかった。実験例10及び12では、容器底面への凝固剤成分の付着量がより多かった。
油性成分の含有量が少なく、結果として油性成分と親油性乳化剤の各含有量の合計が第1実施態様に係る凝固剤の規定よりも少ない実験例11では、分散液中の凝固剤のメジアン径(分散粒子のメジアン径)が第2実施態様に係る凝固剤の規定よりも大きくなった。実験例11は豆腐の弾力に劣り、豆腐の内相は不均一で滑らかさに欠ける食感であった。さらに容器底面への凝固剤成分の付着も認められる結果となった。
水性成分に占める塩化マグネシウムの割合が第1実施態様に係る凝固剤の規定よりも多い実験例13では、そもそも均一組成の凝固剤を得ることすらできなかった。
これに対し、第1実施形態ないし第2実施形態に係る凝固剤はいずれも安定した組成物の状態にあり(実験例1~8)、これらは豆乳に分散させたときの粒子径がより小さく、かつ、豆乳中で塩化マグネシウムを十分量、徐放することができるものであった。さらに、これらの凝固剤を用いて得られる豆腐は弾力に優れ、かつ、豆腐の内相の状態も良好で滑らかな食感であった。さらに容器底面への凝固剤成分の付着も見られなかった。
【0081】
[調製例3] 第3実施態様に係る製法に用いる豆腐用凝固剤の調製
表2に示す通りに原料を配合(単位:質量部)して、調製例1と同様にして乳化分散し、油中水型乳化組成物である豆腐用凝固剤(実験例14~23)を得た。親油性乳化剤としては、PGPR(サンソフト818SK)を用いた。
【0082】
[試験例7] 凝固剤の均一性評価
得られた実験例14~23における豆腐用凝固剤について、上記試験例1と同様にして凝固剤の均一性を評価した。結果を表2に示す。
【0083】
[試験例8] 分散液中における凝固剤のメジアン径
Brix値が1の豆乳(市販豆乳(商品名:おいしい無調整豆乳、キッコーマン株式会社製、Brix値が10)を8倍希釈したもの)と、上記調製例3にて調製した豆腐用凝固剤(実験例14~21)とを、モーノポンプを用いて流量1L/minとなるように送液し、マイルダー(MDN303V、ローター・ステーターG/M/F、太平洋機工製)を用いて、下記表2の「Brix値が1の豆乳中への凝固剤分散法」に示す条件で流量1L/minで処理して豆乳中に凝固剤を分散させた。マイルダーによる分散処理における豆乳温度を85℃とした。実験例14~21における豆腐用凝固剤は、得られる分散液中において塩化マグネシウム濃度が0.14質量%となるように送液した。
また、Brix値が1の豆乳(市販豆乳(商品名:おいしい無調整豆乳、キッコーマン株式会社製、Brix値が10)を8倍希釈したもの)と、上記調製例3にて調製した豆腐用凝固剤(実験例22、23)とを混ぜて、TKアジホモミクサー(プライミクス社製、2M-03型、表2では「TKホモミクサー」と表示)を用いて5000rpmにて10秒間、分散処理を行った。分散処理における豆乳温度を85℃とした。実験例22及び23において、豆腐用凝固剤は、得られる分散液中において塩化マグネシウム濃度が0.14質量%となるように混合した。
【0084】
得られた分散液は、速やかにイオン交換水(25℃)で10倍希釈し、分散処理終了時点から1分後に、粒度分布測定装置(SALD-2100、島津製作所製)を用いて希釈液中の分散粒子のメジアン径(分散処理終了時点から1分後の分散液中における体積基準メジアン径に相当)を測定した。結果を表2に示す。なお、分散機としてマイルダーを用いた場合には、マイルダーの吐出口から排出された分散液を10秒間、連続的に採取して分散液を得た。すなわち、分散機としてマイルダーを用いた場合、分散処理終了時点から1分後は、採取開始時点から1分後を意味する。
【0085】
[試験例9] 塩化マグネシウムの放出性
上記試験例8と同様にして得られた分散液を、上記試験例3と同様にして、分散処理開始時点から、分散処理終了時点から1分後までの間に、豆乳中に放出された塩化マグネシウム量に基づき、豆乳中の塩化マグネシウム濃度(質量%)を算出した。結果を表2に示す。
【0086】
[調製例4] 豆腐用凝固剤を用いた豆腐の製造
Brix値が7の豆乳(85℃に調温)と、実験例14、16~21における豆腐用凝固剤とを、混合液中の塩化マグネシウムの濃度が0.14%となるようにモーノポンプを用いて送液し、上記試験例8において分散液を得たのと同じ撹拌条件を適用して、豆乳中に凝固剤を分散させた。
また、Brix値が7の豆乳(85℃に調温)と、実験例22及び23における豆腐用凝固剤とを、混合液中の塩化マグネシウムの濃度が0.14%となるように混合し、上記試験例8において分散液を得たのと同じ撹拌条件を適用して、豆乳中に凝固剤を分散させた。
また、Brix値が12の豆乳(85℃に調温)と、実験例15における豆腐用凝固剤とを、混合液中の塩化マグネシウムの濃度が0.14%となるようにモーノポンプを用いて送液し、上記試験例8において分散液を得たのと同じ撹拌条件を適用して、豆乳中に凝固剤を分散させた。
得られた各分散液150mLをPP(ポリプロピレン)製容器(型番:C-150、第一パック機工業株式会社製)に充填し、容器にシールした後、80℃で40分間熟成して豆腐を製造した。
【0087】
[試験例10~12] 豆腐の評価
得られた各豆腐について、上記試験例4~6と同様にして、豆腐の硬度、食感、容器底面への凝固剤成分の付着状態を評価した。結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
表2に示されるように、実験例19における凝固剤は表1の実験例11における凝固剤と同じものであり、第1実施形態に係る凝固剤の組成を満たさない。また、実験例20及び21における凝固剤は、油性成分が少なく、結果として油性成分と親油性乳化剤の各含有量の合計は第1実施形態に係る凝固剤の組成を満たさない。したがって、これらの凝固剤は、通常の分散条件で低Brix値の豆乳中に分散させても、所望の高品質の豆腐を得ることができないものである。
しかし、表2の結果から、このような凝固剤を用いた場合でも、Brix値が1の豆乳中への分散工程における撹拌条件を格段に高めると、分散粒子のメジアン径が80μm以下の小粒径となって豆乳中に高粒子密度で分散することができることがわかった。そして、かかる撹拌条件を、豆腐の製造工程における凝固剤の豆乳中への分散工程に適用することにより、弾力に優れ、内相がより均一で滑らかな食感の豆腐が得られること、また、容器底面への凝固剤成分の付着も抑えられることが明らかとなった。
【0090】
また、実験例19と同様に、実験例23における凝固剤もまた、表1の実験例11における凝固剤と同じものであり、第1実施形態にかかる凝固剤の組成を満たさない。このような凝固剤を用いた場合であって、かつBrix値が1の豆乳中への分散工程における撹拌条件が第3実施形態の規定を満たさない場合、かかる撹拌条件を豆腐の製造工程における凝固剤の豆乳中への分散工程に適用しても、所望の効果を示す豆腐を得ることができないことが明らかとなった。
【0091】
また実験例14~18及び22は、第1実施形態に係る凝固剤の組成を満たす凝固剤であり、このような凝固剤を用いてBrix値が1の豆乳中への分散工程における撹拌条件を第3実施形態の規定を満たすものとし、かかる撹拌条件を豆腐の製造工程における凝固剤の豆乳中への分散工程に適用することにより、弾力に優れ、内相がより均一で滑らかな食感の豆腐が得られること、また、容器底面への凝固剤成分の付着も抑えられることが明らかとなった。