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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141369
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】地中連続壁および基礎構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/20 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
E02D5/20 103
E02D5/20 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041632
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一茂
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049GB02
2D049GE12
2D049GF04
(57)【要約】
【課題】過剰な設計をすることなく構築できるとともに、施工効率を向上することができる地中連続壁および基礎構造を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート造の先行エレメント2と後行エレメント3とが隣接して設けられる地中連続壁1において、先行エレメントと後行エレメントとの境界部40に縁切り材41が配設されており、先行エレメントに配設される先行鉄筋20と、後行エレメントに配設される後行鉄筋30と、が重なっていない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の先行エレメントと後行エレメントとが隣接して設けられる地中連続壁において、
前記先行エレメントと前記後行エレメントとの境界部に縁切り材が配設されており、
前記先行エレメントに配設される先行鉄筋と、前記後行エレメントに配設される後行鉄筋と、が重なっていないことを特徴とする地中連続壁。
【請求項2】
前記縁切り材は、平板状または波形状の鋼板である請求項1に記載の地中連続壁。
【請求項3】
環状に形成された請求項1または請求項2に記載の地中連続壁と、
該地中連続壁の内部に配設された杭と、を備えていることを特徴とする基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中連続壁および基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の地中連続壁は、所定間隔ごとに施工した先行エレメントと、隣り合う先行エレメント同士の間をつなぐように後から施工する後行エレメントと、を備えている。先行エレメントと後行エレメントとを連結する方法として、先行エレメントに配設される鉄筋かごと、後行エレメントに配設される鉄筋かごと、を重ね継手とすることにより構造的にも一体の壁とする方法がある(例えば、特許文献1参照。)。他には、先行エレメントにおける後行エレメントとの連結面を掘削機などで切削した後に後行エレメントのコンクリートを打設して打ち継ぐ方法なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-97841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地中連続壁を建物の基礎として用いる場合、一般的に建物外周全体を囲むように構築する。例えば、平面視で矩形状の地中連続壁を構築すると、地震などの水平力に対して非常に大きな水平剛性を有することになる。上記した重ね継手方式で地中連続壁を構築し、建物基礎として地中連続壁と杭とを併用した場合、杭に比して地中連続壁の水平剛性が非常に大きいため、地震時に建物基礎に作用する水平力の大部分が地中連続壁に作用し、杭の負担荷重は非常に小さくなる。その結果、地中連続壁には大きなせん断力が生じ、それに耐えうる壁厚、配筋、コンクリート強度が必要となり、費用が高額になるとともに、配筋も密になって施工効率も低下するという問題が生じる。なお、杭は負担水平力が小さいため、杭の水平荷重負担能力に比して過小な水平力しか負担せず、その点からも効率的ではなかった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、過剰な設計をすることなく構築できるとともに、施工効率を向上することができる地中連続壁および基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る地中連続壁は、鉄筋コンクリート造の先行エレメントと後行エレメントとが隣接して設けられる地中連続壁において、前記先行エレメントと前記後行エレメントとの境界部に縁切り材が配設されており、前記先行エレメントに配設される先行鉄筋と、前記後行エレメントに配設される後行鉄筋と、が重なっていないことを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、先行エレメントの先行鉄筋と後行エレメントの後行鉄筋とは、縁切り材により縁が切られている。その結果、先行エレメントと後行エレメントとの間は、摩擦力・付着力が従来よりも小さい状態となる。つまり、地中連続壁に所定以上の水平力が作用した場合、縁切り材の面に沿って先行エレメントと後行エレメントとの間に変形(ずれ)を生じさせることができ、地中連続壁に生じる応力を小さくすることができる。地中連続壁に生じる応力を小さくすることができた結果、鉄筋の配筋量や鉄筋径を過剰にすることなく適正値に設定することができるため、施工効率も向上させることができる。
【0008】
また、前記縁切り材は、平板状または波形状の鋼板であってもよい。
このように縁切り材を平板状の鋼板で構成することで、先行エレメントのコンクリート打設時の型枠として利用できるとともに、後行エレメントとの縁切り材としての機能も有することになる。また、所定位置に平板状または波形状の鋼板を設置するだけでよいため、容易に施工することができる。つまり、施工効率を向上させることができる。
【0009】
本発明に係る基礎構造は、環状に形成された上記の地中連続壁と、該地中連続壁の内部に配設された杭と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、基礎構造に地中連続壁と杭とを併用したため、杭にも水平力を多く負担させることができ、地中連続壁の負担荷重を小さくすることできる。具体的には、地中連続壁に水平力が作用すると、先行エレメントと後行エレメントとの境界部は平板状の鋼板からなる縁切り材が介装されているだけであるため、当該境界面(端面)に沿った変形(ずれ)が生じる。このように先行エレメントと後行エレメントとの間にずれが生じることにより地中連続壁の応力が緩和される。その結果、地中連続壁の各エレメントの上端(天端)の水平変形量が大きくなる。基礎構造に地中連続壁と杭とを併用した場合、地中連続壁の上端の水平変形量が大きくなった分、杭頭変位も大きくなり、杭が負担する水平力も大きくなる。その結果、地中連続壁の負担荷重が小さくなるため、地中連続壁の応力をさらに小さくすることができる。つまり、地中連続壁と杭とに水平力を適切に分担させることができ、過剰な設計をすることなく地中連続壁および杭の設計の適正化を図ることができる。また、地中連続壁に生じる応力を小さくすることができるため、地中連続壁の配筋量や鉄筋のサイズなどを低減することができ、施工効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、過剰な設計をすることなく構築できるとともに、施工効率を向上することができる地中連続壁および基礎構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る地中連続壁の概略平面図(断面図)である。
図2】本実施形態に係る地中連続壁の概略正面図(断面図)である。
図3】本実施形態に係る地中連続壁の施工手順を示す図である。
図4】本実施形態に係る地中連続壁の変形時の模式図である。
図5】地中連続壁と杭を併用した建物基礎(基礎構造)の概略平面図である。
図6】地中連続壁の別の態様を示す概略正面図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による地中連続壁および基礎構造について、図1乃至図6に基づいて説明する。
【0014】
図1図3に示すように、本実施形態の地中連続壁1は、鉄筋コンクリート造の先行エレメント2と、後行エレメント3と、が平面視・正面視で交互に配設されて構築されている。
【0015】
図1図2に示すように、本実施形態の地中連続壁1は、先行エレメント2と後行エレメント3とが縁切り材41を介して連結されている。
【0016】
先行エレメント2は、コンクリートからなる壁板部25に縦筋21および横筋22が埋設された鉄筋コンクリート(RC)造の壁体となっている。縦筋21は、壁板部25の上下方向全体にわたって設けられている。横筋22は、壁板部25の壁長さ方向略全長にわたって設けられている。本実施形態では、横筋22は、壁厚さ方向に間隔をあけて2列、上下方向に間隔をあけて複数段設けられている。縦筋21は、各列の横筋22に沿うように壁長さ方向に間隔をあけて複数列設けられている。
【0017】
後行エレメント3は、コンクリートからなる壁板部35に縦筋31および横筋32が埋設された鉄筋コンクリート(RC)造の壁体となっている。縦筋31は、壁板部35の上下方向全体にわたって設けられている。横筋32は、壁板部35の壁長さ方向略全長にわたって設けられている。本実施形態では、横筋32は、壁厚さ方向に間隔をあけて2列、上下方向に間隔をあけて複数段設けられている。縦筋31は、各列の横筋32に沿うように壁長さ方向に間隔をあけて複数列設けられている。
【0018】
先行エレメント2と後行エレメント3とは、壁厚さ方向および上下方向の寸法が同じ寸法に設定され、それぞれの壁芯を一致させるように配列されている。先行エレメント2と後行エレメント3とは、それぞれの壁長さ方向の端面2a,3aを突き合わせるように配置されている。先行エレメント2と後行エレメント3とが突き合わされている部分を境界部40という。
【0019】
境界部40には縁切り材41が配設されている。縁切り材41は、例えば平板状の鋼板で構成されている。縁切り材41の表面は滑らかな加工がされているとよい。縁切り材41によって、先行エレメント2の鉄筋(鉄筋かご20)と後行エレメント3の鉄筋(鉄筋かご30)とは縁が切れている。つまり、鉄筋かご20と鉄筋かご30とは、平面視・正面視において重なっていない。
【0020】
次に、図3を用いて、地中連続壁1の施工手順について説明する。
【0021】
図3(a)では、地盤の所定位置に、最初に施工する先行エレメント2の設置箇所の掘削を行い、掘削穴11を形成する。
【0022】
図3(b)では、最初に掘削した掘削穴11に縦筋21と横筋22とが組まれた鉄筋かご20を挿入配置する。同時に、掘削穴11から所定距離離れた位置に次の先行エレメント2を設置する箇所の掘削を行う。
【0023】
図3(c)では、鉄筋かご20が配置された掘削穴11内にコンクリートを打設する。本実施形態では、掘削穴11における後行エレメント3との境界部40にあたる端面(側面)2aに縁切り材41を配置した後に、コンクリートを打設する。縁切り材41は、平板状の鋼板であり、端面2aを覆う大きさで形成されている。つまり、縁切り材41は、コンクリート打設時の型枠材の一部としても機能する。また、次の先行エレメント2を設置する箇所の掘削が完了し、掘削穴12の施工が完了している。
【0024】
図3(d)では、コンクリートの打設が完了した掘削穴11の箇所は養生を行う。同時に、隣の掘削穴12に鉄筋かご20を挿入配置する。さらに、掘削穴12から所定距離離れた位置にさらに次の先行エレメント2を設置する箇所の掘削を行う。
【0025】
図3(e)では、コンクリートの打設が完了した掘削穴11の養生を引き続き行う。また、掘削穴12における後行エレメント3との境界部40にあたる端面2aに縁切り材41を配置した状態でコンクリートを打設する。また、さらに次の先行エレメント2を設置する箇所の掘削が完了し、掘削穴13の施工が完了している。
【0026】
図3(f)では、掘削穴11と掘削穴12との間に設置する後行エレメント3のための掘削を行い、掘削穴14を形成する。同時に、掘削穴13に鉄筋かご20を挿入配置する。コンクリートの打設が完了した掘削穴12の箇所は養生を行う。
【0027】
図3(g)では、掘削穴14に縦筋31と横筋32とが組まれた鉄筋かご30を挿入配置する。また、掘削穴13における後行エレメント3との境界部40にあたる端面2aに縁切り材41を配置した状態でコンクリートを打設する。
【0028】
図3(h)では、掘削穴14にコンクリートを打設する。このとき、後行エレメント3の境界部40にあたる端面3aには縁切り材41が既に配設されている。つまり、縁切り材41は、コンクリート打設時の型枠材の一部としても機能する。また、掘削穴12と掘削穴13との間に設置する後行エレメント3のための掘削を行い、掘削穴15を形成する。
【0029】
以降、同じ手順を繰り返すことにより地中連続壁1が施工される。なお、図3では地中連続壁1を直線状に施工する場合の説明をしているが、それ以外の形状の地中連続壁も施工できる。例えば、先行エレメント2および後行エレメント3との境界部40において、平面視で縁切り材41を壁厚さ方向に対して傾斜するように配置することで地中連続壁の角度をつけることができる。
【0030】
次に、本実施形態の地中連続壁1に地震などの水平力が作用した場合の説明を行う。
図4に示すように、地中連続壁1に水平力が作用すると、先行エレメント2と後行エレメント3との境界部40は平板状の鋼板からなる縁切り材41が介装されているだけであるため、当該境界面(端面)に沿った変形(ずれ)が生じる。このように先行エレメント2と後行エレメント3との間にずれが生じることにより地中連続壁1の応力が緩和される。本実施形態ではエレメント毎に変形できるようになるため、せん断変形以外に曲げ変形の成分も生じる。その結果、地中連続壁1の各エレメント2,3の上端(天端)2b,3bの水平変形量が大きくなる。
【0031】
図5に示すように、建物基礎(基礎構造)50として平面視矩形状の地中連続壁1と、地中連続壁1の内部に配した複数の杭60と、を併用した場合、地中連続壁1の上端2b,3bの水平変形量が大きくなった分、杭頭変位も大きくなり、杭60が負担する水平力も大きくなる。その結果、地中連続壁1の負担荷重が小さくなるため、地中連続壁1の応力をさらに小さくすることができる。つまり、地中連続壁1と杭60とに水平力を適切に分担させることができ、地中連続壁1および杭60の設計の適正化を図ることができる。また、地中連続壁1に生じる応力を小さくすることができるため、地中連続壁1の配筋量や鉄筋のサイズなどを低減することができる。
【0032】
本実施形態の地中連続壁1は、先行エレメント2の鉄筋かご20と後行エレメント3の鉄筋かご30とは、その境界部40において縁切り材41により縁が切られている。その結果、先行エレメント2と後行エレメント3との間は、摩擦力・付着力が従来よりも小さい状態となる。つまり、地中連続壁1に所定以上の水平力が作用した場合、縁切り材41に沿って先行エレメント2と後行エレメント3との間に変形(ずれ)を生じさせることができる。
【0033】
本実施形態の建物基礎(基礎構造)50は、地中連続壁1と杭60と併用している。その結果、地中連続壁1だけでなく、杭60にも水平力を多く負担させることができ、地中連続壁1の負担荷重を小さくすることできる。つまり、過剰な設計をすることなく地中連続壁1を構築することができるとともに、施工効率を向上させることができる。
【0034】
また、縁切り材41は、平板状の鋼板で構成することで、先行エレメント2のコンクリート打設時の型枠として利用できるとともに、後行エレメント3との縁切り材41としての機能も有することになる。つまり、施工効率を向上させることができる。
【0035】
なお、先行エレメントにおける後行エレメントとの連結面を掘削機などで切削した後に後行エレメントのコンクリートを打設して打ち継ぐ方法なども提案されている。しかしながら、打ち継ぎ工法の場合、打ち継ぎ面におけるせん断力の伝達性能が不確実であることから、一体壁と見なせる場合と、打ち継ぎ部に隙間が存在するものと仮定して、各エレメントが完全に独立して挙動する場合(エレメント間で全く力を伝達しない)場合の両方の検討を行い、安全側となる条件を用いることが必要であり、設計的には厳しい条件となる。一方、本実施形態の地中連続壁1では、縁切り材41は介在されているものの、先行エレメント2と後行エレメント3はいずれも縁切り材41に接しながら変位するため、打ち継ぎ工法のように二つの条件を仮定して設計する必要は無い。
【0036】
以上、本発明に係る地中連続壁および基礎構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、縁切り材41が平板状の鋼板の場合で説明をしたが、例えば、図6に示すように凹凸のある形状(波形状)の縁切り材45を採用してもよい。
また、本実施形態では、鉄筋かご20,30の状態で配筋する場合の説明をしたが、鉄筋は施工現場において配筋作業を行うようにしてもよい。
また、本実施形態では、建物基礎(基礎構造)50を平面視矩形状の地中連続壁1と、地中連続壁1内に配設された複数の杭60と、で構成した場合の説明をしたが、地中連続壁1の平面視形状は任意であり、杭60の配置も任意に設定すればよい。
【符号の説明】
【0037】
1 地中連続壁
2 先行エレメント
3 後行エレメント
20 鉄筋かご(先行鉄筋)
30 鉄筋かご(後行鉄筋)
40 境界部
41 縁切り材
50 建物基礎(基礎構造)
60 杭
図1
図2
図3
図4
図5
図6