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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141390
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】重質油の回収方法及び回収システム
(51)【国際特許分類】
   C10G 31/08 20060101AFI20220921BHJP
   C10L 1/32 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C10G31/08
C10L1/32 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041667
(22)【出願日】2021-03-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行日 2020年3月16日 (2)発行者 一般社団法人 日本機械学会 (3)刊行物名 日本機械学会関東支部 第26期総会・講演会 講演論文集,No.200-1,17B05
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 正夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勇
(72)【発明者】
【氏名】馬 驍
(72)【発明者】
【氏名】城田 英之
【テーマコード(参考)】
4H013
4H129
【Fターム(参考)】
4H013DC02
4H013DC07
4H129AA06
4H129DA08
4H129HA04
4H129HB08
4H129NA32
(57)【要約】
【課題】高粘度の重質油を効率よく回収する。
【解決手段】重質油に対して10~45重量%の水と、0.5~5重量%の界面活性剤を添加し、撹拌してエマルション化することにより粘度を低下させて重質油を回収する回収方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質油をエマルション化して回収する回収方法であって、
前記重質油に対して10重量%以上45重量%以下の水と、0.5重量%以上5重量%以下の界面活性剤を添加し、撹拌してエマルション化することにより粘度を低下させて回収することを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の重質油の回収方法であって、
前記粘度が低下して流動性が増した前記重質油をポンプ手段により配管を介して回収することを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項3】
請求項2に記載の重質油の回収方法であって、
前記重質油と前記水と前記界面活性剤の撹拌を、前記ポンプ手段で兼ねて行うことを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の重質油の回収方法であって、
前記重質油は、前記粘度が50mPa・s以上の物質であることを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の重質油の回収方法であって、
前記水と前記界面活性剤を添加する前に、前記重質油を予め加熱して前記粘度を低下させることを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の重質油の回収方法であって、
前記界面活性剤は、親水性が低く親油性が高いものであることを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項7】
請求項6に記載の重質油の回収方法であって、
前記界面活性剤の前記親水性と前記親油性のバランスを示す数値(HLB)は、20未満であることを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の重質油の回収方法であって、
前記重質油を前記水と前記界面活性剤の噴射により微細化した後、撹拌を行うことを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の重質油の回収方法であって、
前記回収は、水面下に存在する沈船における前記重質油の入った重質油タンクからの回収であることを特徴とする重質油の回収方法。
【請求項10】
重質油をエマルション化して回収する回収システムであって、
前記重質油が内部を流動する配管と、
前記重質油に対して10重量%以上45重量%以下の水と、0.5重量%以上5重量%以下の界面活性剤とを添加する添加手段と、
前記重質油と前記水と前記界面活性剤とを撹拌する撹拌手段と、
前記撹拌手段で撹拌してエマルション化した前記重質油を回収するポンプ手段とを備えることを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項11】
請求項10に記載の重質油の回収システムであって、
前記添加手段は、前記配管の内部を流動する前記重質油に向けて、前記水と前記界面活性剤を噴射する高圧噴射ノズルを有することを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項12】
請求項11に記載の重質油の回収システムであって、
前記添加手段は、前記水と前記界面活性剤を予め混合する混合槽を有し、前記混合槽で混合した前記水と前記界面活性剤の混合液を、高圧ポンプを介して前記高圧噴射ノズルに導くことを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の重質油の回収システムであって、
前記撹拌手段として、前記添加手段より下流側の前記配管の内部にプロペラが配置された撹拌機を有することを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか1項に記載の重質油の回収システムであって、
前記撹拌手段として、前記ポンプ手段が撹拌機能を兼ねていることを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか1項に記載の重質油の回収システムであって、
前記重質油を吸い込む前記配管の先端部に前記重質油を予め加熱する予熱手段を備えることを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項16】
請求項10~15のいずれか1項に記載の重質油の回収システムであって、
前記配管の内部を通る前記重質油の流量を検出する流量検出手段と、
前記添加手段による前記水と前記界面活性剤の添加量を、前記流量検出手段で検出した前記重質油の前記流量に応じて制御する制御手段を備えることを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項17】
請求項10~16のいずれか1項に記載の重質油の回収システムであって、
前記配管は、水面下に存在する沈船における前記重質油の入った重質油タンクに取り付けられ、
前記添加手段と前記撹拌手段と前記ポンプ手段は、前記重質油タンク側の前記配管の先端部に設けられ、
回収した前記重質油を前記水面に臨んだ重質油回収船へ搬送して収容することを特徴とする重質油の回収システム。
【請求項18】
請求項17に記載の重質油の回収システムであって、
前記重質油回収船は、収容した前記重質油をさらに重質油運搬船に移送する移送手段を有することを特徴とする重質油の回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質油の回収方法及び回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海難事故等で海底に沈んだ船舶に搭載された貨物油や燃料油は、放置すると重大な環境被害をもたらすおそれがあるため回収することが望まれる。一般的にタンカー等の船舶に搭載された重質油は、灯油や軽油と比較して高粘度であり、特に冬場などの低温環境下では油の粘度はさらに高粘度となる。高粘度になった重質油はその流動性が悪いことから、沈船となったタンカー等の船体に搭載された重質油を回収する作業は容易でない。また、座礁等によって船体に損傷が生じ海水が流入した場合には、重質油と海水が混ざり合って油中に水微粒子が分散した油中水型(Water in Oil:W/O型)エマルションとなり高粘度化し、その粘度はさらに高くなる。これらの低温による粘度上昇およびW/O型エマルション化に伴う粘度上昇のため、重質油の回収作業はより困難を要することが想定される。
【0003】
一般にタンカー等の船舶による油の流出事故が発生した場合、船体周囲にオイルフェンスを配置して流出油の拡散を防止し油を回収船で機械的に回収を行うなどの対策がとられている。また、流出油に油処理剤を散布して油を微細化し自然的な分解処理を行う場合もある。
【0004】
座礁船や沈船からの燃料油等の回収には、油回収用ポンプを用いてタンク内の油等を吸引し回収する方法が一般的である。上記のように、回収時の水深が深くなると、上記のように燃料油等の粘度が高くなり作業は容易ではなくなる。そのため、水蒸気等で燃料油を加熱し、粘度を下げて流動性を持たせてから回収するなどの対策が採られている。しかしながら、水蒸気ではその取扱いに限界があり、新たな回収方法の開発が望まれている。
【0005】
液体の沸騰又は液体の蒸気の急膨張による圧力波を利用して重質油相当の粘度を有する高粘度物質を微細化して粘度を低下させる技術が開示されている(特許文献1)。当該技術によって、重質油等の高粘度物質を効率良く回収することができる。
【0006】
一方、界面活性剤を用いることによって油相及び水相をエマルション化する技術が開示されている(特許文献2、非特許文献1)。また、エマルション化することによって油相の粘度を変化させる技術が開示されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-170407号公報
【特許文献2】特表2018-536755号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「各種界面活性物質によるマクロおよびマイクロエマルションの調製並びに物性に関する物理化学的研究」、財団法人 コスメトロジー研究振興財団 研究報告 Vol.12 1994年8月
【非特許文献2】「エマルションの粘度特性に及ぼす液滴径の影響」、宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告、平成20年度、No.53、pp13-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
深海等の低温環境に沈没した船舶のタンク内に残された重質油を迅速に回収する技術を改良することが必要である。そこで、何らかの方法により重質油の粘度を下げるなどして流動性を持たせることによって、沈没船等からの重油等を回収することで流出による海洋環境の汚染を防ぐ技術の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に対応した重質油をエマルション化して回収する回収方法は、前記重質油に対して10重量%以上45重量%以下の水と、0.5重量%以上5重量%以下の界面活性剤を添加し、撹拌してエマルション化することにより粘度を低下させて回収することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記粘度が低下して流動性が増した前記重質油をポンプ手段により配管を介して回収することが好適である。
【0012】
また、前記重質油と前記水と前記界面活性剤の撹拌を、前記ポンプ手段で兼ねて行うことが好適である。
【0013】
また、前記重質油は、前記粘度が50mPa・s以上の物質であることが好適である。
【0014】
また、前記水と前記界面活性剤を添加する前に、前記重質油を予め加熱して前記粘度を低下させることが好適である。
【0015】
また、前記界面活性剤は、親水性が低く親油性が高いものであることが好適である。具体的には、前記界面活性剤の前記親水性と前記親油性のバランスを示す数値(HLB)は、20未満であることが好適である。
【0016】
また、前記重質油を前記水と前記界面活性剤の噴射により微細化した後、撹拌を行うことが好適である。
【0017】
また、前記回収は、水面下に存在する沈船における前記重質油の入った重質油タンクからの回収であることが好適である。
【0018】
請求項10に対応した重質油をエマルション化して回収する回収システムは、前記重質油が内部を流動する配管と、前記重質油に対して10重量%以上45重量%以下の水と、0.5重量%以上5重量%以下の界面活性剤とを添加する添加手段と、前記重質油と前記水と前記界面活性剤とを撹拌する撹拌手段と、前記撹拌手段で撹拌してエマルション化した前記重質油を回収するポンプ手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
ここで、前記添加手段は、前記配管の内部を流動する前記重質油に向けて、前記水と前記界面活性剤を噴射する高圧噴射ノズルを有することが好適である。
【0020】
また、前記添加手段は、前記水と前記界面活性剤を予め混合する混合槽を有し、前記混合槽で混合した前記水と前記界面活性剤の混合液を、高圧ポンプを介して前記高圧噴射ノズルに導くことが好適である。
【0021】
また、前記撹拌手段として、前記添加手段より下流側の前記配管の内部にプロペラが配置された撹拌機を有することが好適である。
【0022】
また、前記撹拌手段として、前記ポンプ手段が撹拌機能を兼ねていることが好適である。
【0023】
また、前記重質油を吸い込む前記配管の先端部に前記重質油を予め加熱する予熱手段を備えることが好適である。
【0024】
また、前記配管の内部を通る前記重質油の流量を検出する流量検出手段と、前記添加手段による前記水と前記界面活性剤の添加量を、前記流量検出手段で検出した前記重質油の前記流量に応じて制御する制御手段を備えることが好適である。
【0025】
また、前記配管は、水面下に存在する沈船における前記重質油の入った重質油タンクに取り付けられ、前記添加手段と前記撹拌手段と前記ポンプ手段は、前記重質油タンク側の前記配管の先端部に設けられ、回収した前記重質油を前記水面に臨んだ重質油回収船へ搬送して収容することが好適である。
【0026】
また、前記重質油回収船は、収容した前記重質油をさらに重質油運搬船に移送する移送手段を有することが好適である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の重質油をエマルション化して回収する回収方法によれば、前記重質油に対して10重量%以上45重量%以下の水と、0.5重量%以上5重量%以下の界面活性剤を添加し、撹拌してエマルション化することにより粘度を低下させて回収することによって、前記重質油の粘度を低下させ、前記重質油の回収等の処理を容易にすることができる。特に、重質油と水と界面活性剤を混合させてエマルション化する場合に、急激に重質油の粘度が低下し転移が生ずる範囲でエマルション化できるため、粘度を有効に低減できる効果が大きい。また、作業の効率化や経費削減、さらに環境保護に繋げることができる。
【0028】
ここで、前記粘度が低下して流動性が増した前記重質油をポンプ手段により配管を介して回収することによって、粘度を低下させた前記重質油の回収等の処理をより迅速に行うことができる。
【0029】
また、前記重質油と前記水と前記界面活性剤の撹拌を、前記ポンプ手段で兼ねて行うことによって、前記重質油を回収するための前記ポンプ手段によって前記重質油と前記水及び前記界面活性剤の撹拌を効率的に行うことができる。また、前記重質油と前記水及び前記界面活性剤を撹拌する手段を簡素化することができる。
【0030】
また、前記重質油は、前記粘度が50mPa・s以上の物質であることによって、「高粘性物質」に該当する比較的粘度が高い前記重質油の回収を容易にすることができる。
【0031】
また、前記水と前記界面活性剤を添加する前に、前記重質油を予め加熱して前記粘度を低下させることによって、前記重質油の粘度をより低下させ、前記重質油の回収等の処理をより容易にすることができる。
【0032】
また、前記界面活性剤は、親水性が低く親油性が高いものであり、具体的には前記界面活性剤の前記親水性と前記親油性のバランスを示す数値(HLB)は20未満であることによって、前記重質油のエマルション化が促進され、前記重質油の粘度をより効果的に低下させることができる。
【0033】
また、前記重質油を前記水と前記界面活性剤の噴射により微細化した後、撹拌を行うことによって、前記重質油のエマルション化が促進され、前記重質油の粘度をより効果的に低下させることができる。
【0034】
また、前記回収は、水面下に存在する沈船における前記重質油の入った重質油タンクからの回収であることによって、前記沈船からの前記重質油の回収をより迅速に行うことができる。
【0035】
本発明の重質油をエマルション化して回収する回収システムによれば、前記重質油が内部を流動する配管と、前記重質油に対して10重量%以上45重量%以下の水と、0.5重量%以上5重量%以下の界面活性剤とを添加する添加手段と、前記重質油と前記水と前記界面活性剤とを撹拌する撹拌手段と、前記撹拌手段で撹拌してエマルション化した前記重質油を回収するポンプ手段とを備えることによって、前記重質油の粘度を低下させ、前記重質油の回収等の処理を容易にすることができる。特に、重質油と水と界面活性剤を混合させてエマルション化する場合に、急激に重質油の粘度が低下し転移が生ずる範囲でエマルション化できるため、粘度を有効に低減できる効果が大きい。また、作業の効率化や経費削減、さらに環境保護に繋げることができる。
【0036】
ここで、前記添加手段は、前記配管の内部を流動する前記重質油に向けて、前記水と前記界面活性剤を噴射する高圧噴射ノズルを有することによって、前記重質油が微細化されてエマルション化が促進され、前記重質油の粘度をより効果的に低下させることができる。
【0037】
また、前記添加手段は、前記水と前記界面活性剤を予め混合する混合槽を有し、前記混合槽で混合した前記水と前記界面活性剤の混合液を、高圧ポンプを介して前記高圧噴射ノズルに導くことによって、前記水と前記界面活性剤との混合割合を適切に調節したうえで前記重質油へ添加することができる。これによって、前記重質油のエマルション化を効果的に実現することができる。
【0038】
また、前記撹拌手段として、前記添加手段より下流側の前記配管の内部にプロペラが配置された撹拌機を有することによって、前記重質油のエマルション化が促進され、前記重質油の粘度をより効果的に低下させることができる。
【0039】
また、前記撹拌手段として、前記ポンプ手段が撹拌機能を兼ねていることによって、前記重質油を回収するための前記ポンプ手段によって前記重質油と前記水及び前記界面活性剤の撹拌を効率的に行うことができる。また、前記重質油と前記水及び前記界面活性剤を撹拌する手段を簡素化することができる。
【0040】
また、前記重質油を吸い込む前記配管の先端部に前記重質油を予め加熱する予熱手段を備えることによって、前記重質油の粘度をより低下させ、前記重質油の回収等の処理をより容易にすることができる。
【0041】
また、前記配管の内部を通る前記重質油の流量を検出する流量検出手段と、前記添加手段による前記水と前記界面活性剤の添加量を、前記流量検出手段で検出した前記重質油の前記流量に応じて制御する制御手段を備えることによって、前記重質油の性状に応じて前記水と前記界面活性剤との添加量を適切に調節したうえで前記重質油へ添加することができる。これによって、粘度を低減するための前記重質油のエマルション化を効果的に実現することができる。
【0042】
また、前記配管は、水面下に存在する沈船における前記重質油の入った重質油タンクに取り付けられ、前記添加手段と前記撹拌手段と前記ポンプ手段は、前記重質油タンク側の前記配管の先端部に設けられ、回収した前記重質油を前記水面に臨んだ重質油回収船へ搬送して収容することによって、前記沈船からの前記重質油の回収をより迅速に行うことができる。
【0043】
また、前記重質油回収船は、収容した前記重質油をさらに重質油運搬船に移送する移送手段を有することによって、前記重質油回収船による前記重質油の回収を行いつつ、前記重質油運搬船によって前記重質油を効率的に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施の形態における重質油の回収システムの使用状況を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるエマルションユニットの構成を示す外観図である。
図3】本発明の実施の形態におけるエマルションユニットの構成を示す概念図である。
図4】本発明の実施の形態における噴射ノズルの配置例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における撹拌機の配置例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における水及び界面活性剤の添加による重質油の粘度の変化を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における水及び油処理剤の添加による水と重質油の混合の様子を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における水及び界面活性剤の添加による水と重質油の混合の様子を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における水及び界面活性剤の添加による重質油の粘度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の実施の形態における重質油の回収システム100は、図1に示すように、回収船200によって座礁や水面下に沈没した回収対象船300における重質油タンクから重質油を回収するために使用される。また、回収対象船300の重質油タンクから流れ出し、船室等に溜まった重質油も回収の対象とすることができる。さらに、回収対象船300の燃料油タンク、水中に落下した油タンク、故障した水中の油輸送管等からの重質油の回収にも適用ができ、水中以外の用途にも適用可能である。
【0046】
重質油の回収システム100によって回収された重質油は回収船200に設けられたタンクに貯蔵して運搬するようにしてもよいし、重質油運搬船400に設けられたタンクに貯蔵して移送するようにしてもよい。
【0047】
重質油の回収システム100は、重質油に水及び界面活性剤を供給して混合させることによってエマルション化したうえで回収する。後述するように、重質油をエマルション化することによって重質油の粘度を低下させることができ、重質油の回収が容易となる。
【0048】
なお、本実施の形態では、重質油は、比重が0.82~0.95程度と大きく粘度が高い油であり、例えばA重油、B重油及びC重油等の燃料油である。重質油は、重油やアスファルトを含む。重質油は、「船舶からの有害液体物質の排出に係る事前処理の方法等に関する省令」(昭和六十二年総理府・運輸省令第一号)における「高粘性物質」に該当する。高粘性物質とは、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令別表第一号に掲げるX類物質等又は同表第二号に掲げるY類物質等であって、取卸しの際の温度において50mPa・s以上の粘度を有するものをいう。また、次のURL(https://www.anest-iwata.co.jp/coating/option/ta2vfs0000000y4p-att/viscositychart1a.pdf#search=%27%E7%B2%98%E5%BA%A6%E6%8F%9B%E7%AE%97%E8%A1%A8%27)において取得可能な粘度換算表によれば、「高粘度」とは70mmPa・s以上のものをさすものとされている。本実施の形態において、重質油は、省令で定められた「高粘性物質」で定義される50mPa・s以上の粘度を有する油とする。
【0049】
重質油の回収システム100は、図2の外観図に示すように、エマルションユニット102、回収配管104、ポンプ106、給液配管108及び電気線110を含んで構成される。
【0050】
エマルションユニット102は、回収対象船300の重質油タンク内に設置される。また、エマルションユニット102を回収対象船300の重質油タンク内に設置できない場合、図1に示すように、エマルションユニット102を回収対象船300の重質油タンク外に設置して、回収対象船300の重質油タンクからエマルションユニット102まで回収ホース等を延設してもよい。
【0051】
エマルションユニット102は、図3の断面図に示すように、本体部10、給液配管12、噴射ノズル14、ポンプ16、攪拌機18、温度センサ20a,20b、予熱手段22及び流量計24を含んで構成される。エマルションユニット102は、重質油をエマルション化することで流動性を上げるために用いられる。給液配管12、噴射ノズル14及びポンプ16は、重質油の回収システム100において重質油に対して水及び界面活性剤を添加するための添加手段として機能する。また、噴射ノズル14及び攪拌機18は、重質油の回収システム100において重質油と水及び界面活性剤とを攪拌して混合するための攪拌手段として機能する。
【0052】
本体部10は、エマルションユニット102において噴射ノズル14、攪拌機18、温度センサ20a,20b、予熱手段22等を配置するための筐体である。本実施の形態において、本体部10は管形状とされ、内部の空間を通して重質油を回収する。
【0053】
本体部10の先端部及び後端部にはフランジ10a,10bを設けることが好適である。先端部にフランジ10aを設けることによって、エマルションユニット102からさらに回収ホース等を取り付け、エマルションユニット102を設置した位置よりも遠方から重質油を回収することが可能になる。後端部にフランジ10bを設けることによって、エマルションユニット102から回収船200までを回収配管104で接続することができる。
【0054】
給液配管12は、エマルションユニット102内において水及び界面活性剤を供給するための配管である。給液配管12は、回収船200に設けられた水タンク及び界面活性剤タンクからエマルションユニット102までを繋ぐ給液配管108に接続される。すなわち、給液配管12は、エマルションユニット102において給液配管108から噴射ノズル14までを接続する。
【0055】
本実施の形態では、回収船200から水及び界面活性剤を別々に供給し、噴射ノズル14の手前に混合槽12aを設けて当該混合槽12aにて水と界面活性剤を混合する。この場合、混合槽12aの前に水及び界面活性剤の流量を測定するための流量計(図示しない)を設け、流量計の測定値に応じて水と界面活性剤の混合割合を制御するようにすればよい。ただし、これに限定されるものではなく、回収船200において所定の混合割合で混合された水及び界面活性剤の混合液を噴射ノズル14まで供給してもよい。また、水と界面活性剤を別々に噴射する噴射ノズル14を設け、水及び界面活性剤を別々に噴射ノズル14から噴射するようにしてもよい。この場合、噴射される水と界面活性剤の混合割合を調整するための流量制御弁を噴射ノズル14側に設ければよい。さらに、水及び界面活性剤を別々に噴射ノズル14にまで導いて、噴射ノズル14で混合させて噴射してもよい。
【0056】
なお、水と界面活性剤の混合液の噴射時の温度は、重質油の温度より高い常温に近い温度(20度±5度)から約60度(重油を移送時等に加熱する温度)とし、噴射することが好適である。この混合液の温度制御は、混合槽12aに設けたヒーターや、給液配管12に設けた加熱手段等により実現できる。
【0057】
噴射ノズル14は、本体部10内の重質油に対して水及び界面活性剤を噴射するための手段である。噴射ノズル14の各々は、回収船200からの制御信号によって開閉が可能な構成とすることが好適である。例えば、噴射ノズル14に電動弁を設けて、回収船200からの制御信号によって電磁弁を開閉させる制御を行う構成とすることが好適である。重質油に対して噴射ノズル14から水及び界面活性剤を噴射することによって、重質油を微細化させることができる。これによって、重質油と水及び界面活性剤がより撹拌され易くなり、重質油のエマルション化を促進させることができる。
【0058】
ここで、噴射ノズル14は、高圧噴射ノズルとすることが好適である。噴射ノズル14を高圧噴射ノズルとすることによって、重質油に対して水及び界面活性剤を高い圧力で噴射させることで重質油をより微細化することができる。したがって、水及び界面活性剤による重質油のエマルション化をより促進させることができる。
【0059】
噴射ノズル14は、図4に示すように、本体部10内に向けて水及び界面活性剤を噴射できるように、本体部10の内周に沿って均等な角度毎に複数配置することが好適である。図4(a)は、円筒状の本体部10の内周に沿って60°毎に噴射ノズル14を配置した例を示す。図4(b)は、角筒状の本体部10の内周に沿って90°毎に噴射ノズル14を配置した例を示す。なお、噴射ノズル14からの水及び界面活性剤の噴射角度は、例えば、60°以上とすることが好適である。
【0060】
なお、水と界面活性剤の混合割合及び噴射量は、本体部10の内部における重質油の流量と流速に基づいて比例制御又はPID制御で調製することが好適である。重質油の流量と流速は、本体部10に後述する流量計24を設けて測定することができる。また、重質油の流量と流速は、本体部10に複数の圧力計を設けて重質油の圧力値の差圧から推定したり、後述するポンプ106の電動機の動作電流値と回転数の関係から推定したり、重質油の吐出量と時間の関係等から推定するようにしてもよい。水と界面活性剤の噴射量の制御としては、例えば、重質油の流量と流速から重質油の粘度が100mPa・s以下であると推定された場合に噴射ノズル14からの水と界面活性剤の噴射を停止する等の制御を行ってもよい。また、重質油の粘度に応じて水と界面活性剤の混合割合を変更するように制御を行ってもよい。
【0061】
また、後述する温度センサ20a,20bによって重質油のエマルション化前後の温度を測定し、当該温度に応じてPID制御等によって水と界面活性剤の混合割合及び噴射量を調整してもよい。水と界面活性剤の噴射量の制御としては、例えば、重質油の温度が所定の温度以上の場合に噴射ノズル14からの水と界面活性剤の噴射を停止し、所定の温度以下の場合に噴射ノズル14からの水と界面活性剤の噴射を行う等の制御を行ってもよい。また、重質油の温度に応じて水と界面活性剤の混合割合を変更するように制御を行ってもよい。
【0062】
ポンプ16は、給液配管12の途中に設けられ、噴射ノズル14に供給される水及び界面活性剤に圧力を加える手段である。ポンプ16は、回収船200からの制御信号によって水及び界面活性剤に加えられる圧力を調整できる構成とすることが好適である。ただし、噴射ノズル14から噴射される水及び界面活性剤は高圧であることが好ましいので、ポンプ16は高圧ポンプとすることが好適である。なお、本実施の形態では、本体部10の外にポンプ16を設けた構成としたが、本体部10の内部にポンプ16を設けた構成としてもよい。
【0063】
攪拌機18は、本体部10内において重質油と水及び界面活性剤を攪拌して混合させるための手段である。攪拌機18は、モータ及びプロペラを含んだ構成とすることができる。攪拌機18は、モータによってプロベラを回転させることによって、噴射ノズル14から本体部10内に噴射された水及び界面活性剤と本体部10内を流れる重質油とを攪拌する。これによって、重質油と水及び界面活性剤とがエマルション化される。
【0064】
攪拌機18は、図5(a)の断面図に示すように、円筒状の本体部10の内周に沿って等角度(図では120°毎)にプロペラを設けることが好適である。また、図5(b)の断面図に示すように、角筒状の本体部10の対向する内面に亘ってプロペラを設けることが好適である。ただし、攪拌機18のプロペラの配置は、これらの例に限定されるものではなく、本体部10内において重質油と水及び界面活性剤とが適切に攪拌されるものであればよい。
【0065】
攪拌機18は、本体部10内の重質油の流れ方向に沿って噴射ノズル14よりも下流側に設けることが好適である。攪拌機18を噴射ノズル14よりも下流側に配置することによって、噴射ノズル14から噴射された水及び界面活性剤を含む重質油が流れに沿って移動したところで攪拌機18によって重質油と水及び界面活性剤とを効率良く攪拌することができる。
【0066】
なお、噴射ノズル14からの水及び界面活性剤の噴射又は後述するポンプ106よって重質油と水及び界面活性剤とを十分に撹拌してエマルション化できる場合、攪拌機18は設けなくてもよい。
【0067】
温度センサ20a,20bは、エマルションユニット102において重質油の温度を測定するために設けられる。温度センサ20aは、本体部10内の重質油の流れ方向に沿って噴射ノズル14よりも上流側に配置される。温度センサ20bは、本体部10内の重質油の流れ方向に沿って攪拌機18よりも下流側に配置される。温度センサ20a,20bによって測定された重質油の温度は、エマルションユニット102における重質油のエマルション化の制御に用いられる。温度センサ20a,20bで測定された重質油の温度は、有線又は無線によって回収船200へ送信される。
【0068】
予熱手段22は、本体部10内を流れる重質油を予熱するための手段である。予熱手段22は、本体部10内の重質油の流れ方向に沿って噴射ノズル14よりも上流側に配置することが好適である。予熱手段22は、例えば、高周波加熱装置を適用することができる。高周波加熱装置は、本体部10の先端部分の吸込み領域付近に加熱用コイルを円筒状にしたものを設置し、配管を加熱して温度を高くすることで本体部10の内部の重質油を加熱する構成とすることができる。また、予熱手段22は、例えば、蒸気を用いた加熱装置を適用することができる。蒸気を用いた加熱装置は、電熱ヒーター等によって外部環境の水を加熱して蒸気にし、本体部10の先端部分の吸込み領域付近の重質油に直接噴射する構成とすることができる。蒸気を用いた加熱装置は、比較的浅い水深で水と混ざりW/O型エマルション化した重質油等の場合に高周波加熱装置の補助として用いることが好適である。ただし、予熱手段22は、これらに限定されるものではなく、電熱ヒーター、輻射ヒーター等を適用してもよい。予熱手段22は、回収船200からの制御信号によって加熱温度が制御される。例えば、温度センサ20aで測定された温度に応じて予熱手段22の温度を制御することが好適である。また、例えば、温度センサ20bで測定された温度に応じて予熱手段22の温度を制御することが好適である。
【0069】
予熱手段22によって重質油を予熱することによって、重質油の粘度の低下させることができる。また、重質油のエマルション化を促進させることができる。特に、粘度が800mPa・sの重質油、さらに3000mPa・sの重質油を回収の対象とする場合に予熱手段22による予熱を併用することによって回収がより容易となる。
【0070】
流量計24は、本体部10内における重質油の流量及び流速を測定して出力する。流量計24によって測定された流量及び流速は、水及び界面活性剤の混合比や噴射量を制御するために利用することができる。また、流量計24によって測定された流量及び流速は、攪拌機18による撹拌の制御や予熱手段22による重質油の予熱の制御に利用してもよい。流量計24で測定された重質油の流量及び流速は、有線又は無線によって回収船200へ送信される。
【0071】
回収配管104は、エマルションユニット102と回収船200とを繋いで重質油を流すための配管である。回収配管104の先端は、本体部10の後端側のフランジ10bに接続される。回収配管104の後端は、回収船200の回収タンク又はさらに重質油運搬船400の回収タンクへ重質油を送るための配管に接続される。
【0072】
ポンプ106は、重質油に圧力を加えるための手段である。ポンプ106は、特に限定さるものではないが、例えば、ジェットポンプやエジェクタ(真空)ポンプとすることができる。エジェクタポンプは、加熱部及びジェット部を含み、加熱された作動油を蒸気として高速で噴射することによって、高真空側の流体を噴射する蒸気中に巻き込みながら上段のジェット部より下段のジェット部に運ぶことで流体を圧縮しながら排気口より排気させるポンプである。なお、ジェットポンプやエジェクタ(真空)ポンプとした場合は、ポンプ106とエマルションユニット102を兼ねることができ、さらには噴射ノズル14を兼ねることもできる。このように、ジェットポンプやエジェクタ(真空)ポンプを使用することにより、撹拌機能、ポンプ機能、噴射(添加)機能を一体化することも可能である。また、駆動用の流体としては、ポンプ16で加圧される水と界面活性剤の混合液、水と界面活性剤の供給を分けて別途、加圧した水や別途発生させた加熱を兼ねた蒸気等とすることができる。ポンプ106は、重質油の流れ方向に沿ってエマルションユニット102の噴射ノズル14よりも下流側に配置することが好適である。ポンプ106は、例えば、回収配管104の先端又は途中に設けられる。ポンプ106によって重質油に圧力を加えることによって、回収配管104を介してエマルションユニット102から回収船200へ向かう重質油に流れを形成して重質油を回収する。また、ポンプ106は、本体部10内において重質油と水及び界面活性剤を攪拌するための攪拌手段の1つとして利用してもよい。ポンプ106の定格は、回収する重質油の種類、量等に応じて適宜決定すればよい。
【0073】
給液配管108は、エマルションユニット102に対して水及び界面活性剤を供給するための配管である。給液配管108は、回収船200に設けられた水タンク及び界面活性剤タンクからエマルションユニット102の給液配管12まで繋げられる。
【0074】
電気線110は、エマルションユニット102と回収船200とを繋ぐ電気系の配線である。電気線110は、エマルションユニット102へ電力を供給する電源配線を含む。また、電気線110は、エマルションユニット102と回収船200との間の通信のための通信配線を含む。すなわち、電気線110は、回収船200から噴射ノズル14、ポンプ16、攪拌機18を制御するための制御信号をエマルションユニット102へ送信するために用いられる。また、電気線110は、温度センサ20a,20bで測定された温度、流量計24で測定された重質油の流量及び流速等の情報を回収船200へ送信するために用いられる。
【0075】
以上のように、重質油の回収システム100は構成される。重質油の回収システム100では、重質油と水及び界面活性剤を混合させることでエマルション化し、重質油の粘度を低下させたうえで重質油を回収する。
【0076】
[重質油のエマルション化]
以下、水及び界面活性剤を用いて重質油をエマルション化する方法について説明する。本発明では、重質油に対して水及び界面活性剤を所定の割合で混合させてエマルション化した場合に重質油の粘度が急激に減少する転移が生じることを見出した。
【0077】
界面活性剤は、回収される重質油をエマルション化するために使用される。界面活性剤は、分子内に水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい部分(親油基・疎水基)を持つ物質である。界面活性剤は、両親媒性分子と呼ばれることもある。本実施の形態における界面活性剤は、比較的水に溶けやすいものが好ましく、さらに親水性が低く、親油性が高いものが好ましい。界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。アルキルスルホン酸は、湿潤、浸透力が非常に大きいアニオン界面活性剤であり、耐酸性、耐硬水性に優れており、浸透剤、分散剤として使用される。アルキルスルホン酸は、化粧品成分表示名称ではスルホコハク酸ジエチルヘキシルと呼ばれることもあり、例えば、NIKKOL OTP-75(日光ケミカルズ製)が挙げられる。NIKKOL OTP-75のHLB値は、20以上(計算値)である。また、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、脂肪酸に酸化エチレンを付加重合させた物質であり、親水性乳化剤、クレンジングオイル用乳化剤として使用される。ポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、化粧品成分表示名称ではラウリン酸PEG-10と呼ばれることもあり、例えば、NIKKOL MYL-10(日光ケミカルズ製)が挙げられる。NIKKOL MYL-10のHLB値は12.5である。なお、HLB値とは、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親水性と親油性のバランスを示す値である。
【0078】
図6は、重質油に少量の界面活性剤と水を添加して撹拌したときの重質油(混合液)の粘度の変化を測定した結果を示す。図6において、横軸は重質油の重量に対する水の重量割合を示し、縦軸は混合液の粘度を示す。重質油(混合液)の粘度は、実験装置における配管の2箇所に設置した圧力計の測定値の差、ポンプの電流値及び回収する重質油の吐出量で確認した。なお、試験では、粘度が1000mPa・sの重質油を用いた。
【0079】
図6において、Case1(丸印)は重質油に対して水のみを添加した場合、Case2(四角印)は重質油に対して水と既存の油処理剤を添加した場合、Case3(三角印)は重質油に対して水と界面活性剤S1(NIKKOL OTP-75)を添加した場合、Case5(菱形印)は重質油に対して水と界面活性剤S2(NIKKOL MYL-10)を添加した場合を示す。Case2では重質油に対して油処理剤を10重量%添加し、Case3では重質油に対して界面活性剤S1を2重量%添加し、Case5では重質油に対して水と界面活性剤S2を2重量%添加した。
【0080】
図7は、Case2の重質油に対して水と既存の油処理剤(10重量%)を添加した場合における重質油と水の混合の様子を示す撮影画像である。図7の撮影画像において、濃い黒色の領域が水を示し、薄い灰色の領域が重質油を示す。また、図8は、Case5の重質油に対して水と界面活性剤S2(2重量%)を添加した場合における重質油と水の混合の様子を示す撮影画像である。図8の撮影画像において、濃い黒色の領域が水を示し、薄い灰色の領域が重質油を示す。
【0081】
図6のCase3及びCase5において示されるように、重質油に対して水及び界面活性剤S1又は界面活性剤S2を混合させてエマルション化した場合に混合液の粘度が急激に減少する転移が生じた。
【0082】
また、重質油に添加する添加剤としては、界面活性剤を含む油処理剤よりも界面活性剤のみを用いた方がエマルション化に対して効率がよいことが分かった。特に、油処理剤は条件が若干振れると、粘度が低下する水の重量割合が45重量%を超えることになり、もともと界面活性剤よりも多くの量を必要とすることとも相俟って、回収するエマルションの量が非常に多くなり、回収が容易でなくなる問題がある。この点、界面活性剤は添加量やエマルション化に当たっての水量が少なくて済み、回収の上でも効率がよい。
【0083】
また、界面活性剤の種類としては、乳化剤又は分散剤に適し、HLB値が20以上の界面活性剤S1(NIKKOL OTP-75)よりHLB値が12.5の親水性の低い界面活性剤S2(NIKKOL MYL-10)の方が重質油(混合液)の粘度を低下させるエマルション化に対して効率がよかった。
【0084】
次に、界面活性剤の添加割合の影響について確認した。図9は、重質油に対して水と界面活性剤S2(NIKKOL MYL-10)を添加してエマルション化させたときにおいて、界面活性剤S2の添加割合を変化させた場合について重質油(混合液)の粘度の変化を調べた結果を示す。図9において、横軸は重質油の重量に対する水の重量割合を示し、縦軸は混合液の粘度を示す。
【0085】
図9において、Case4(三角印)は重質油に対して界面活性剤S2を1重量%添加した場合、Case5(菱形印)は重質油に対して界面活性剤S2を2重量%添加した場合、Case6(四角印)は重質油に対して界面活性剤S2を4重量%添加した場合を示す。
【0086】
図9に示すように、界面活性剤S2を1重量%添加した場合には重質油に対する水の割合を0.35以上にすると重質油(混合液)の粘度が急激に低下した。また、界面活性剤S2を2重量%添加した場合には重質油に対する水の割合を0.22以上にすると重質油(混合液)の粘度が急激に低下した。界面活性剤S2を4重量%添加した場合には重質油に対する水の割合を0.16以上にすると重質油(混合液)の粘度が急激に低下した。
【0087】
このような実験結果から、重質油に対して界面活性剤の添加割合を0.5重量%以上5重量%以下とし、水の添加割合を10重量%以上45重量%以下とすることによって重質油(混合液)の粘度が急激に低下する転移現象が発生することが確認された。特に、界面活性剤の添加割合が1重量%以上4重量%以下では水の添加割合が約15重量%以上40重量%以下で重質油(混合液)の粘度がより急激に低下する転移現象が発生することが確認された。さらに、界面活性剤の添加割合が1.5重量%以上2.5重量%以下では水の添加割合が約20重量%以上30重量%以下で重質油(混合液)の粘度がより急激に低下する転移現象が発生することが確認された。すなわち、このような水及び界面活性剤の添加割合とすることで、少ない界面活性剤の添加量で重質油(混合液)の粘度が急激に低下する転移現象を安定して効率よく発生させることができた。また、界面活性剤の添加割合を2重量%前後とした場合、水の添加割合を20重量%以上に増加させても重質油(混合液)の粘度が低下した転移状態に変化はなかった。
【0088】
なお、界面活性剤の添加割合を5重量%以上に増やしても水の添加割合は大きく変化しないと推察される。したがって、重質油に対して界面活性剤の添加割合を0.5重量%以上5重量%以下とし、水の添加割合を10重量%以上45重量%以下とすることで十分にエマルション化が発生しその効果が期待できる。
【0089】
なお、環境保護や漁業への影響を考慮すると界面活性剤はできるだけ少量とすることが好適である。したがって、当該観点からも、界面活性剤の添加割合を1重量%以上4重量%以下とし、水の添加割合を約15重量%以上40重量%以下とすることが好適であり、さらに界面活性剤の添加割合を1.5重量%以上2.5重量%以下とし、水の添加割合を約20重量%以上30重量%以下とすることがより好適である。
【0090】
以上のように、本実施の形態における重質油の回収システム及び回収方法によれば、重質油の粘度を低下させることで流動性が改善され、重質油の回収が容易になる。特に、重質油と水と界面活性剤を混合させてエマルション化する場合に、急激に重質油の粘度が低下し転移が生ずる範囲でエマルション化できるため、粘度を有効に低減できる効果が大きい。
【0091】
したがって、海洋汚染が懸念される沈船等のタンクからの重質油の回収作業が迅速化され、環境汚染を防止することができる。また、重質油の流動性が改善されることで、従来の回収用ポンプ等による回収システムを見直すことができ、回収システムにおける回収配管等をより小さくすることができる。それに伴って、ポンプ等の駆動用の電動機もより小容量に変更でき、回収システムの小型化及び軽量化を実現できる。その結果、回収作業も簡素化され、緊急時においてより迅速に対応でき、回収作業の時間短縮や経費節減にもつながる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上の実施形態は、船舶の液槽(タンク)に収容された重油等の回収に適用することができるがこれに限定されるものではなく、様々な重質油の微細化及び流動化に適用することができる。例えば、フローアシュアランスにおけるフローライン中の固相(ハイドレート・ワックス)による管内閉塞を防止又は解消するためにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0093】
10 本体部、10a,10b フランジ、12 給液配管、12a 混合槽、14 噴射ノズル、16 ポンプ、18 攪拌機、20a,20b 温度センサ、22 予熱手段、24 流量計、100 回収システム、102 エマルションユニット、104 回収配管、106 ポンプ、108 給液配管、110 電気線、200 回収船、300 回収対象船、400 重質油運搬船。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9