(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141394
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法およびベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/29 20210101AFI20220921BHJP
C07C 62/32 20060101ALI20220921BHJP
C07C 51/347 20060101ALI20220921BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20220921BHJP
【FI】
C25B3/29
C07C62/32
C07C51/347
C25B3/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041674
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】山口 勇将
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 日登美
【テーマコード(参考)】
4H006
4K021
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB20
4H006AC28
4H006BA91
4H006BB31
4H006BJ50
4H006BN20
4H006BN30
4H006BR70
4H006BS10
4H006BS20
4K021AC06
4K021BA04
4K021BA11
4K021BB02
4K021BB03
4K021DA13
(57)【要約】
【課題】簡易にベンゾトロポロン骨格を有する化合物を合成可能なベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法およびベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法を提供する。
【解決手段】本開示のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、下記(1)式で表されるピロガロール部位を備えるピロガロール化合物と、下記(2)式で表されるカテコール部位を備えるカテコール化合物と、を溶解した電解液に電圧を印加する。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式で表されるピロガロール部位を備えるピロガロール化合物と、
下記(2)式で表されるカテコール部位を備えるカテコール化合物と、
を溶解した電解液に電極を浸漬し、
前記電極を浸漬した後に、前記電極間に電圧を印加し、
前記ピロガロール化合物と、前記カテコール化合物と、を電気化学的に縮合させることで、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物を製造する、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【化1】
【化2】
[上記(1)式中の*は、隣接する炭素原子を表し、R
1、R
2は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、式(2)中の*は、隣接する炭素原子を表し、R
3、R
4、およびR
5は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。]
【請求項2】
前記電圧が0.6V以上1.5V以下である、請求項1に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項3】
前記電圧が0.8V以上、1.2V以下である、請求項1または2に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項4】
前記電解液の前記ピロガロール化合物および前記カテコール化合物のそれぞれの溶解度が、前記ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の溶解度の100倍以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項5】
前記電解液の前記ピロガロール化合物および前記カテコール化合物のそれぞれの溶解度が、前記ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の溶解度の1000倍以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項6】
前記電解液のpHが3.0~9.0である、請求項1~5のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項7】
前記電解液のpHが4.0~7.0である、請求項1~6のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項8】
前記電解液のpHが4.0~6.0である、請求項1~7のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項9】
前記電解液がリン酸緩衝液である、請求項1~8のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項10】
前記電極がグラッシーカーボン電極、白金電極、および網状ガラス炭素電極からなる群から選ばれるいずれか1種または2種である、請求項1~9のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法で製造されたベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法であって、
懸濁した電解液をろ過することで、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物を精製する、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法およびベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾトロポロン骨格を有する化合物は、抗癌作用や抗炎症作用、抗メタボ作用、抗歯周菌作用、抗ウイルス作用、抗骨粗鬆症作用等が報告されており、それらの治療薬としての利用が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、化学的合成方法によって、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lydia, K., et.al.,Tetrahedron 67 (2011) 1536-1539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物を化学合成で製造する場合、複数工程の合成が必要な場合がある。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされた発明であり、簡易にベンゾトロポロン骨格を有する化合物を合成可能なベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法およびベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、下記(1)式で表されるピロガロール部位を備えるピロガロール化合物と、下記(2)式で表されるカテコール部位を備えるカテコール化合物と、を溶解した電解液に電極を浸漬し、前記電極を浸漬した後に、前記電極間に電圧を印加し、前記ピロガロール化合物と、前記カテコール化合物と、を電気化学的に縮合させることで、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物を製造する。
【0009】
【0010】
【0011】
[上記(1)式中の*は、隣接する炭素原子を表し、R1、R2は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、式(2)式中の*は、隣接する炭素原子を表し、R3、R4、およびR5は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。]
【0012】
<2> 上記<1>に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電圧が0.6V以上1.5V以下であってもよい。
【0013】
<3> 上記<1>または<2>に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電圧が0.8V以上、1.2V以下であってもよい。
【0014】
<4> 上記<1>~<3>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電解液の前記ピロガロール化合物および前記カテコール化合物のそれぞれの溶解度が、前記ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の溶解度の100倍以上であってもよい。
【0015】
<5> 上記<1>~<4>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電解液の前記ピロガロールおよび前記カテコール化合物のそれぞれの溶解度が、前記ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の溶解度の1000倍以上であってもよい。
【0016】
<6> 上記<1>~<5>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電解液のpHが3.0~9.0であってもよい。
【0017】
<7> 上記<1>~<6>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電解液のpHが4.0~7.0であってもよい。
【0018】
<8> 上記<1>~<7>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電解液のpHが4.0~6.0であってもよい。
【0019】
<9> 上記<1>~<8>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電解液がリン酸緩衝液であってもよい。
【0020】
<10> 上記<1>~<9>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、前記電極がグラッシーカーボン電極、白金電極、および網状ガラス炭素電極からなる群から選ばれるいずれか1種または2種であってもよい。
【0021】
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法は、上記<1>~<10>のいずれか1項に記載のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法で製造されたベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法であって、懸濁した電解液をろ過することで、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物を精製する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡易にベンゾトロポロン骨格を有する化合物を合成可能なベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法およびベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法の一例を示す図である。
【
図2】従来のベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法)
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法は、後述するピロガロール化合物およびカテコール化合物を溶解した電解液に、電極を浸漬し、電極間に電圧を印加し、当該ピロガロールおよび当該カテコール化合物を電気化学的に縮合することでベンゾトロポロン骨格を有する化合物を製造する。以下、本発明の実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法について説明する。
【0025】
(ピロガロール化合物とカテコール化合物とが溶解した電解液)
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法において、ピロガロール化合物とカテコール化合物とが溶解した電解液を用いる。
【0026】
「ピロガロール化合物」
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法に用いる、ピロガロール化合物は、下記(3)式で表されるピロガロール部位を備えるピロガロール化合物である。下記(3)式中の*は、隣接する炭素原子を表し、R1、R2は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。R1、R2が水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基であるので、電気化学的な反応でカテコール化合物と縮合させることができる。なお、R1およびR2は同一でも異なっていてもよい。
【0027】
【0028】
上記(3)式中のR1及びR2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0029】
上記(3)式中のR1及びR2のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等があげられる。
【0030】
ピロガロール化合物としては、上記(3)式で表されるピロガロール部位を備えていれば限定されない。ピロガロール化合物としては、例えば、没食子酸、没食子酸エステル、エピガロカテキン、およびエピガロカテキンガレートなどが挙げられる。
【0031】
電解液中のピロガロール化合物の濃度は特に限定されない。例えば、ピロガロール化合物の濃度は、0.1mmol/L~10mmol/Lである。
【0032】
「カテコール化合物」
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法に用いる、カテコール化合物は、下記(4)式で表されるカテコール部位を備えるカテコール化合物である。下記(4)式中の*は、隣接する炭素原子を表し、R3、R4、およびR5は、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表す。R3、R4、およびR5が、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基であるので、電気化学的な反応でピロガロール化合物と縮合させることができる。なお、R3、R4、およびR5は同一でも異なっていてもよい。
【0033】
【0034】
上記(4)式中のR3、R4、およびR5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0035】
上記(4)式中のR3、R4、およびR5のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等があげられる。
【0036】
カテコール化合物は、上記(4)式で表されるカテコール部位を備えていれば、特に限定されない。カテコール化合物としては、例えば、3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アクリル酸、エピカテキン、エピカテキンガレートなどが挙げられる。
【0037】
電解液中のカテコール化合物の濃度は特に限定されない。例えば、カテコール化合物の濃度は、0.1mmol/L~10mmol/Lである。ピロガロール化合物とカテコール化合物とが縮合するので、カテコールの濃度は、ピロガロール化合物の濃度と等しいことが好ましい。
【0038】
「電解液」
ピロガロール化合物とカテコール化合物とを溶解させるための電解液は、少なくとも支持電解質と溶媒とからなる。
【0039】
電解液に用いる溶媒は、ピロガロール化合物とカテコール化合物とが十分に溶解し、支持電解質が十分に解離し、かつ、ピロガロールおよびカテコール化合物と比較して反応が起こりにくいのであれば、特に限定されない。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、Nメチルアセトアミド、ホルムアミド、グリセリン、エチレングリコール、エタノールアミン、ニトロメタン、ジオキサンなどが挙げられる。特に、溶媒としては、副反応を抑制することができる水が好ましい。
【0040】
支持電解質としては、電解液に導電性が発現するのであれば、特に限定されない。支持電解質としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、KCl、NaCl、テトラフルオロほう酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸リチウムなどが挙げられる。
【0041】
電解液のpHは3.0以上9.0以下が好ましい。pHが9.0超であると、副生成物の量が増加する場合があるので好ましくない。pHが3.0未満の場合は、電解液の電流量が低くなり、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の収率が低下する場合があるので好ましくない。より好ましいpHは4.0以上である。pHが4.0以上であることで、電気化学的な酸化以外の酸化反応が抑制されるので、好ましい。さらに好ましいpHは5.0以上である。より好ましい電解液のpHは、7.0以下である。さらに好ましい電解液のpHは、6.0以下である。電解液としては、pHを所定の値に調整したpH緩衝液が好ましい。
【0042】
電解液としては、ピロガロール化合物およびカテコール化合物のそれぞれの溶解度がベンゾトロポロン骨格を有する化合物の溶解度と比較して100倍以上大きい電解液が好ましい。すなわち、電解液は、ピロガロール化合物およびカテコール化合物にとっては良溶媒で、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物に対しては貧溶媒であることが好ましい。より好ましくは、ピロガロール化合物およびカテコール化合物のそれぞれの溶解度がベンゾトロポロン骨格を有する化合物の溶解度と比較して1000倍以上大きい電解液である。溶解度は、反応時の温度における溶解度である。ピロガロール化合物の溶解度およびカテコール化合物の溶解度とベンゾトロポロン骨格を有する化合物の溶解度とが大きく異なる電解液を用いることで、反応で合成されたベンゾトロポロン骨格を有する化合物が合成直後に沈殿するので、副反応が起こらず、高純度でベンゾトロポロン骨格を有する化合物を得ることができる。沈殿により懸濁した後の電解液をろ過することで、高純度のベンゾトロポロン骨格を有する化合物を得ることができるので、精製を容易にできる。溶解度が大きく異なる電解液としては、例えば、リン酸緩衝液などが挙げられる。
【0043】
(電極)
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法において、使用される電極は、一般的な電気化学反応に用いられるものであれば、特に限定されない。電極としては、例えば、グラッシーカーボン電極、網状ガラス炭素電極、白金電極、銀電極などが挙げられる。陽極と陰極は同一でもよいし、異なっていてもよい。電極としては、グラッシーカーボン電極、白金電極、および網状ガラス炭素電極からなる群から選ばれるいずれか1種または2種が好ましい。
【0044】
電極の厚さは電圧を印加できるのであれば、特に限定されない。電極の厚さは、例えば、1mm~5mmである。
【0045】
電極の面積は、電圧を印加できるのであれば、特に限定されない。電極の面積は、例えば、10mm2~1000mm2である。
【0046】
(電解条件)
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法において、ピロガロール化合物とカテコール化合物とが溶解した電解液中に、電極を浸漬し、電極間に電圧を印加することで、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物を製造する。
【0047】
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法において、電極間に印加される電圧は、0.6V以上1.5V以下である。より好ましくは、電極間に印加される電圧は、0.8V以上1.2V以下である。電極間に印加される電圧は、より好ましくは0.9V以上1.1V以下である。電極間に印加される電圧が、0.6V以上1.5V以下であれば、高い収率でベンゾトロポロン骨格を有する化合物が得られる。加えて、副反応を抑制することができるので、高い理論収率とすることができる。電極間に印加される電圧は、0.6以上であってもよい。そして、電極間に印加される電圧は、1.4V以下であってもよい。
【0048】
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法において、電流密度は、ピロガロールからベンゾトロポロン骨格を有する化合物を合成できるのであれば、特に限定されない。電流密度は、例えば、0.01A/m2~1.00A/m2である。
【0049】
電極間の間隔は、ピロガロールからベンゾトロポロン骨格を有する化合物を合成できるのであれば、特に限定されない。例えば、電極間の間隔は、例えば、2~20mmである。
【0050】
また、電極間に電圧を印加する間、ピロガロール化合物およびカテコール化合物が溶解した電解液を攪拌してもよい。攪拌することで、ピロガロール化合物とカテコール化合物との反応を効率よく進めることができる。
【0051】
電極間に電圧を印加する間の電解液の温度は、電解反応が進むのであれば、特に限定されない。電解液の温度としては例えば、10℃~40℃である。
【0052】
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法で製造されるベンゾトロポロン骨格を有する化合物としては、例えば、クロシポジン(Crocipodin)、グピオロンA(Goupiolone)、テアフラビン酸(Theafalvic acid)、テアフラビン(Theaflavin)などが挙げられる。
【0053】
(ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の精製方法)
本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法では、精密に酸化力を制御することができるので、ピロガロール化合物とカテコール化合物との副反応を抑制することができる。そのため、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の収率を高くすることができる。電解液にベンゾトロポロン骨格を有する化合物が溶解しない電解液を用いた場合、ピロガロール化合物とカテコール化合物とが縮合して生成されたベンゾトロポロン骨格を有する化合物は、固体の状態で電解液中に分散する。即ち、電解液にベンゾトロポロン骨格を有する化合物が溶解しない電解液を用いた場合、ピロガロールの電気化学的反応によって電解液は懸濁する。この固体状態で電解液中に分散するベンゾトロポロン骨格を有する化合物の純度が高いので、ろ過を行うことで、簡易に高純度のベンゾトロポロン骨格を有する化合物を得ることができる。
【0054】
また、電解液が懸濁していない場合でも、ピロガロール化合物およびカテコール化合物に対し、良溶媒で、ベンゾトロポロン骨格を有する化合物に対し貧溶媒である溶媒を反応後の電解液に投入することで、電解液を懸濁させることができる。この懸濁液をろ過することで、簡易に高純度のベンゾトロポロン骨格を有する化合物を得ることができる。
【0055】
ろ過によって、得たベンゾトロポロン骨格を有する化合物の純度を上げるために、再結晶などを行ってもよい。
【0056】
以上、本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法および精製方法について詳述した。本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0057】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0058】
(0.2Mリン酸二水素ナトリウム溶液)
リン酸二水素ナトリウム二水和物(M.W.156.01、和光純薬株式会社)3.120gを超純水100 mLで溶解して、0.2Mリン酸二水素ナトリウム溶液を調整した。
【0059】
(0.2Mリン酸水素二ナトリウム溶液)
リン酸水素二ナトリウム無水(M.W.141.96、和光純薬株式会社)2.839gを超純水100mLで溶解して、0.2Mリン酸水素二ナトリウム溶液を得た。
【0060】
(0.2Mリン酸緩衝液)
0.2Mリン酸二水素ナトリウム溶液に、pHメーターでpHを確認しながら0.2Mリン酸水素二ナトリウム溶液を加え、pH5.0の0.2Mリン酸緩衝液を得た。
【0061】
(実施例1)
没食子酸一水和物45mgおよび3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アクリル酸43mgに0.2Mリン酸緩衝液(pH:5.0)10mLを加え、ElectraSyn 2.0(IKA、大阪)で電解合成を行った。電解合成条件は、1.2V、4.0F/mol、900rpmとした。電解合成終了後、室温にて3000rpmで15分間遠心分離し、沈殿物から実施例1のクロシポジン(crocipodin)を得た。電極にはグラッシーカーボン(厚さ2mm、幅8mm、溶液への浸漬深さ34mm)を用いた。また、電極間の距離は6mmとした。クロシポジンの同定は1H-NMRで行った。
【0062】
(ベンゾトロポロン骨格を有する化合物の純度測定)
実施例1のクロシポジンにおいて、通電量を2.85 F/molに増やして電解合成を行った後の懸濁液を濾過した。得られた固形物の純度を評価した。純度は、1H-NMRで評価した。得られた純度は70%であった。
【0063】
実施例1のクロシポジンは、
図1に示すように、1工程で製造できた。対して、非特許文献1に記載のように従来の合成方法では、4工程を必要とした(
図2)。以上より、本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法を用いることで、従来の化学合成方法よりも簡易にベンゾトロポロン骨格を有する化合物が得られることが確認された。加えて、本実施形態に係るベンゾトロポロン骨格を有する化合物の製造方法では、懸濁液をろ過するのみで、70%という高い純度のベンゾトロポロン骨格を有する化合物が得られた。