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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141416
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】電鋳用母型とメタルマスク
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/10 20060101AFI20220921BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C25D1/10
C25D1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041702
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】永沼 智也
(72)【発明者】
【氏名】上原 基志
(57)【要約】
【課題】電鋳用母型において、パターン形成領域に対応する領域とベタ部に対応する領域における電流密度差を解消して、両領域に形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐ。
【解決手段】ベース10の上面に、パターン形成領域4に対応して形成されたレジスト体11を有するレジスト形成領域12と、ベタ領域5に対応してレジスト形成領域12を囲むように形成されたレジスト体11の無い平坦領域13とを形成する。ベース10のレジスト形成領域12に対応する箇所に、電鋳工程におけるレジスト形成領域12の電流密度の低減化を図るための制御構造20を設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数独立の通孔(3)を有するパターン形成領域(4)と、該パターン形成領域(4)を囲むように形成されたベタ領域(5)とを備えるマスク本体(2)を電鋳により作製する際に用いられる電鋳用母型(1)において、
平板状のベース(10)を有し、
電鋳工程におけるパターン形成領域(4)に対応する領域の電流密度の低減化を図るための制御構造(20)が設けられていることを特徴とする電鋳用母型。
【請求項2】
制御構造(20)が、ベース(10)のパターン形成領域(4)に対応する領域に凹み形成された陥没部(21)である、請求項1記載の電鋳用母型。
【請求項3】
制御構造(20)が、ベース(10)のパターン形成領域(4)に対応する領域に凹み形成された陥没部(21)と、該陥没部(21)内に配設された抵抗部材(22)とで構成されている、請求項1記載の電鋳用母型。
【請求項4】
制御構造(20)が、ベース(10)内のパターン形成領域(4)に対応する領域に埋設された抵抗部材(23)である、請求項1記載の電鋳用母型。
【請求項5】
抵抗部材(22・23)が、多数独立状に形成された非導電体(25)と、この非導電体(25)の間を埋めるように形成された導電体(26)とで構成されている、請求項3又は4記載の電鋳用母型。
【請求項6】
単位面積あたりの非導電体(25)の配設密度が、水平方向の中央寄りが高く、周縁寄りが小さくなるように構成されている、請求項5記載の電鋳用母型。
【請求項7】
非導電体(25)の先端が、上方に行くに従って外形寸法が小さくなる尖形状に形成されている、請求項5記載の電鋳用母型。
【請求項8】
非導電体(25)の上下方向の高さ寸法が、水平方向の中央寄りが高く、周縁寄りが低くなるように構成されている、請求項5記載の電鋳用母型。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかひとつに記載の電鋳用母型(1)を使って作製されたマスク本体(2)を備えるメタルマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルマスクの製造に使用される電鋳用母型と、この電鋳用母型を用いて作製されるメタルマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着マスク、印刷用マスク、ボール配列用マスクなどの多数独立の通孔を有するメタルマスクを、フォトリソグラフィ法とメッキ法とを組み合わせたアディティブ法で形成することは公知である。このようなアディティブ法によりメタルマスクを作製する際に電鋳用母型を用いることも公知であり、例えば特許文献1には、板状のベース部と、ベース部の表面に配設される接着層と、接触層を介してベース部に接着される導電層とを備える、多層構造の電鋳用母型が開示されている。
【0003】
一般的に、この種のメタルマスクは、通孔が所定パターンで形成されるマスク本体と、マスク本体の周囲に配置される枠体とを備える。また、マスク本体は、通孔が形成されるパターン形成領域と、このパターン形成領域を囲むように形成されて、枠体と一体に接合されるベタ領域とを備える。そのうえで特許文献1においては、接着層におけるパターン形成領域に対応する部分(中間部分)を、ベタ領域に対応する部分(枠状部分)よりも体積の経時変化性を小さくし、且つ、ベース部と導電層とを接着する接着力を小さくしており、これにより、接着層の収縮等の体積変化を抑制して、母型の経時変化を防止することで、マスク本体の位置ずれ等を抑えて、メタルマスクの精度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-39054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、パターン形成領域に対応する電鋳用母型の表面には、レジスト体が形成される。具体的には、電鋳用母型のパターン形成領域に対応する母型の表面には、通孔に対応したレジスト体が存在するレジスト形成領域が形成され、ベタ領域に対応する部分には、レジスト体が存在しない平坦領域が形成される。そして、電鋳工程においては、めっき液中にアノード電極と被めっき物でありカソード電極となる電鋳用母型とを対向配置したうえで、アノード電極からカソード電極(電鋳用母型)に向けて電流を流すことで、該電鋳用母型上に電鋳層を形成している。
【0006】
上記のような電鋳用母型上に電鋳層を形成する工程(電鋳工程)においては、レジスト体が存在する分だけ、パターン形成領域に対応する領域(レジスト形成領域)における単位面積あたりの母型の露出面積は、レジスト体の存在しないベタ領域に対応する領域(平坦領域)に比べて小さくなるため、パターン形成領域に対応する領域(レジスト形成領域)の露出部分に電流が集中することが避けられない。このため、例えば特許文献1のような従来の電鋳用母型では、パターン形成領域に対応する領域(レジスト形成領域)の露出部分における電流密度が、ベタ領域に対応する領域(平坦領域)における電流密度よりも相対的に大きくなり、ベタ領域に対応する領域(平坦領域)よりもパターン形成領域に対応する領域(レジスト形成領域)におけるめっき層の厚みが厚くなる、或いはベタ領域に対応する領域(平坦領域)とパターン形成領域に対応する領域(レジスト形成領域)でめっき層の組成がばらつくなどの不具合が生じていた。
【0007】
本発明は、以上のような従来の電鋳用母型の抱える問題点を解決するためになされたものであり、パターン形成領域に対応する領域とベタ領域に対応する領域における電流密度差を解消して、両領域に形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことを目的とする。
本発明の他の目的は、以上のような電鋳用母型を用いて作製されたメタルマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、多数独立の通孔3を有するパターン形成領域4と、該パターン形成領域4を囲むように形成されたベタ領域5とを備えるマスク本体2を電鋳により作製する際に用いられる電鋳用母型1を対象とする。電鋳用母型1は、平板状のベース10を有する。そして電鋳工程におけるパターン形成領域4に対応する領域の電流密度の低減化を図るための制御構造20が設けられていることを特徴とする。
【0009】
制御構造20は、ベース10のパターン形成領域4に対応する領域に凹み形成された陥没部21とすることができる。
【0010】
制御構造20は、ベース10のパターン形成領域4に対応する領域に凹み形成された陥没部21と、該陥没部21内に配設された抵抗部材22とで構成することができる。
【0011】
制御構造20は、ベース10内のパターン形成領域4に対応する領域に埋設された抵抗部材23とすることができる。
【0012】
抵抗部材22・23は、多数独立状に形成された非導電体25と、この非導電体25の間を埋めるように形成された導電体26とで構成することができる。
【0013】
単位面積あたりの非導電体25の配設密度は、水平方向の中央寄りが高く、周縁寄りが小さくなるように構成することができる。
【0014】
非導電体25の先端は、上方に行くに従って外形寸法が小さくなる尖形状に形成することができる。
【0015】
非導電体25の上下方向の高さ寸法は、水平方向の中央寄りが高く、周縁寄りが低くなるように構成することができる。
【0016】
また、本発明は、上記のいずれか一つの電鋳用母型1を使って作製されたマスク本体2を備えるメタルマスクである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電鋳用母型1のように、電鋳工程におけるパターン形成領域4に対応する領域の電流密度の低減化を図るための制御構造20が設けられていると、電鋳工程においてパターン形成領域4に対応する領域の電流密度をベタ領域5に対応する領域の電流密度よりも低くして、両領域における電流密度差を小さくすることができる。以上より、パターン形成領域4に対応する領域に形成されるめっき層の厚み寸法と、ベタ領域5に対応する領域に形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、両めっき層に組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができるので、得られたマスク本体2、およびこのマスク本体2を備えるメタルマスクの高精度化を図ることができる。
【0018】
制御構造20は、ベース10のパターン形成領域4に対応する領域に、下面から上方に向かって凹み形成された陥没部21とすることができる。これによれば、当該陥没部21の存在によりパターン形成領域4に対応する領域に係るベース10の上下方向の厚み寸法(T1)を、ベタ領域5に対応する領域に係るベース10の上下方向の厚み寸法(T2)よりも小さくすることができるので、電鋳工程において、パターン形成領域4に対応する領域に流れる電流をベタ領域5に対応する領域に流れる電流よりも相対的に弱くすることができる。以上より、パターン形成領域4に対応する領域の電流密度をベタ領域5に対応する領域の電流密度よりも低くして、両領域における電流密度差を小さくすることができるので、両領域に形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができる。
【0019】
制御構造20は、ベース10のパターン形成領域4に対応する領域に凹み形成された陥没部21と、該陥没部21内に配設された抵抗部材22とで構成することができる。これによれば、陥没部21の存在により、パターン形成領域4に対応する領域の上下方向の厚み寸法を、ベタ領域5に対応する領域の上下方向の厚み寸法よりも小さくすることができること、および陥没部21内に抵抗部材22が存在することにより、パターン形成領域4に対応する領域の電気抵抗値をベタ領域5に対応する領域の電気抵抗値よりも高くすることができる。以上より、パターン形成領域4に対応する領域に流れる電流をベタ領域5に対応する領域に流れる電流よりも相対的に弱くして、前者領域の電流密度を後者領域の電流密度よりも低くすることができるので、両領域における電流密度差を小さくして、両領域に形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができる。
【0020】
制御構造20は、ベース10内のパターン形成領域4に対応する領域に対応する箇所に埋設された抵抗部材23とすることができる。これによれば、当該抵抗部材23の存在によりパターン形成領域4に対応する領域の電気抵抗値を、ベタ領域5に対応する領域の電気抵抗値よりも高くすることができるので、電鋳工程において、パターン形成領域4に対応する領域に流れる電流をベタ領域5に対応する領域に流れる電流よりも相対的に弱くすることができる。以上より、パターン形成領域4に対応する領域の電流密度をベタ領域5に対応する領域の電流密度よりも低くすることができるので、両領域における電流密度差を小さくして、両領域に形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができる。
【0021】
抵抗部材22・23が、多数独立状に形成された非導電体25と、この非導電体25の間を埋めるように形成された導電体26とで構成されていると、非導電体25を設けることで、パターン形成領域4に対応する領域の電気抵抗値をベタ領域5に対応する領域の電気抵抗値よりも高くすることができるので、電鋳工程において、パターン形成領域4に対応する領域に流れる電流をベタ領域5に対応する領域に流れる電流よりも相対的に弱くすることができる。したがって、先と同様の作用効果を得ることができる。
【0022】
単位面積あたりの非導電体25の配設密度が、水平方向の中央寄りが高く、周縁寄りが小さくなるように構成されていると、当該中央寄りの電流密度を周縁寄りの電流密度よりも低くすることができるので、例えばマスク本体2のパターン形成領域4内の中央寄りの部分における通孔3の配設密度が高いなどのように、何らかの事情で、パターン形成領域4に対応する領域内における中央寄りの電流密度が高くなりやすい場合においても、上記構成を採ることで、中央寄りの電流密度を低くして、パターン形成領域4に対応する領域内における電流密度差を小さくすることができる。
【0023】
非導電体25は、立方体状や円筒状などに限られず、先端が上方に行くに従って外形寸法が小さくなる尖形状に形成することができ、これによってもパターン形成領域4に対応する領域の電気抵抗値をベタ領域5に対応する領域の電気抵抗値よりも高くすることができるので、電鋳工程において、パターン形成領域4に対応する領域に流れる電流をベタ領域5に対応する領域に流れる電流よりも相対的に弱くすることができる。
【0024】
非導電体25の上下方向の高さ寸法が、水平方向の中央寄りが高く、周縁寄りが低くなるように構成されていると、当該中央寄りの電流密度を周縁寄りの電流密度よりも低くすることができるので、例えばマスク本体2のパターン形成領域4内の中央寄りの部分における通孔3の配設密度が高いなどのように、何らかの事情で、パターン形成領域4に対応する領域内における中央寄りの電流密度が高くなりやすい場合においても、上記構成を採ることで、中央寄りの電流密度を低くして、パターン形成領域4に対応する領域内における電流密度差を小さくすることができる。
【0025】
メタルマスクが、上記のいずれか一つの電鋳用母型1を使って作製されたマスク本体2を備えるものであると、マスク本体2のパターン形成領域4とベタ領域5のそれぞれの領域4・5を構成するめっき層に厚み寸法のばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができるので、メタルマスクの高精度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態に係る電鋳用母型の縦断正面図である。
図2】マスク本体の斜視図である。
図3】マスク本体の縦断正面図である。
図4】電鋳用母型の外観斜視図である。
図5】電鋳用母型を使った電鋳方法を説明するための図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る電鋳用母型の縦断正面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る電鋳用母型の縦断正面図である。
図8】本発明の第4実施形態に係る電鋳用母型の縦断正面図である。
図9】本発明の第5実施形態に係る電鋳用母型の縦断正面図である。
図10】本発明の第6実施形態に係る電鋳用母型の縦断正面図である。
図11】本発明の第7実施形態に係る電鋳用母型の縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
図1乃至図5に本発明の電鋳用母型の第1実施形態を示す。なお、本発明における前後、左右、上下とは、図1および図4に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。本実施例に係る電鋳用母型1は、図2および図3に示すようなメタルマスクのマスク本体2を電鋳により作製する際に用いられる。図2および図3において、マスク本体2は、ニッケルやニッケルコバルト等のニッケル合金、その他の電着金属を素材として、電鋳法により形成されるものであり、多数独立の通孔3を有するパターン形成領域4と、パターン形成領域4を囲むように形成された通孔3の無いベタ領域5とを備える。ベタ領域5には、図外の枠体などが固定される。図2に示すように、パターン形成領域4およびベタ領域5のそれぞれは正方形状に形成されている。各通孔3は、横長の四角形状の開口であり、パターン形成領域4内には、多数個の通孔3がマトリクス状に開設されている。
【0028】
図1に示すように電鋳用母型1は、上面が平坦面に形成された平板状のベース10と、ベース10の上面に部分的に形成されたレジスト体11とを有する。ベース10の上面には、マスク本体2のパターン形成領域4に対応して形成され、レジスト体11を有するレジスト形成領域12と、マスク本体2のベタ領域5に対応してレジスト形成領域12を囲むように形成されたレジスト体11の無い平坦領域13とが形成されている。すなわち本発明における「電鋳工程におけるパターン形成領域4に対応する領域」とはレジスト形成領域12を意味する。図1において、符号14は、レジスト形成領域12内において、ベース10の上面においてレジスト体11が存在せず、当該上面が露出している部分、すなわちレジスト形成領域12の露出部分を示す。
【0029】
図1および図4に示すように、ベース10は、上方側に位置する上ベース15と、下方側に位置する下ベース16とで構成される。下ベース16は、SUS304などの金属製の板材からなる。上ベース15は、下ベース16の上面に積層一体化された3層の導電層(下方側から第1導電層15a、第2導電層15b、第3導電層15c)で構成される。各導電層15a~15cの厚み寸法は、下方側が厚く、上方側に行くにしたがって薄くなるように形成されている。下ベース16および各導電層15a~15cは、剥離除去(機械的除去)することができる。また、第1導電層15aとの境界部、および各導電層15a~15cの境界部には、図外の接着層を形成してもよく、これによれば、電鋳完了後には、上下ベース15・16の境界部に位置する接着層を溶剤等で溶解することで、下ベース16を上ベース15から分離除去することができ、さらに第1~第3導電層15a~15cの境界部に位置する各接着層を溶解することで、これら第1~第3導電層15a~15cを下方から順に分離除去することができる。
【0030】
以上のように、本実施形態の電鋳用母型1においては、電鋳用母型1のベース10を下ベース16および各導電層15a~15cが積層された多層構造としたので、各層を剥離除去、或いは各層の間に位置する接着層を溶解させるだけで、下ベース16や上ベース15を構成する導電層15a~15cを分離除去することができる。したがって、マスク本体2からの電鋳用母型1の分離除去を容易且つ効率良く行うことができる。電鋳用母型1の分離除去の際にマスク本体2に加わる力を小さくすることができるので、マスク本体2が変形等することを抑えることもできる。
【0031】
図1および図4において、符号20は、電鋳工程においてレジスト形成領域12の電流密度の低減化を図るための制御構造を示す。本実施形態における制御構造20は、下ベース16のレジスト形成領域12に対応する箇所に、下面から上方に向かって段付き状に凹み形成された陥没部21であり、当該陥没部21の存在により、レジスト形成領域12に係るベース10の上下方向の厚み寸法T1は、平坦領域13に係るベース10の上下方向の厚み寸法T2よりも、小さいものとされている。レジスト形成領域12と陥没部21の形成領域とは略一致させている。
【0032】
図5に電鋳工程において使用されるめっき装置の概略図を示す。同図に示すように、電鋳工程においては、めっき液30が貯留されためっき槽31内に、アノード電極32と、被めっき物であるカソード電極となる電鋳用母型1とを対向配置したうえで、両者32・1の間に電流を流すことで、電鋳用母型1の上ベース15の表面に電着金属を積層させて、マスク本体2となるめっき層を形成することができる。アノード電極32は電源33の正極に電気的に接続されている。電源33の負極は、電鋳用母型1に接続されている。
【0033】
以上のように、本実施形態の電鋳用母型1においては、レジスト形成領域12の電流密度の低減化を図るための制御構造20を設けたため、レジスト形成領域12と平坦領域13の両領域に形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができ、マスク本体2の高精度化を図ることができる。より詳しくは、制御構造20として陥没部21を設けて、ベース10のレジスト形成領域12の上下方向の厚み寸法T1を、ベース10の平坦領域13の上下方向の厚み寸法T2よりも小さくしたので、図5に示すような電鋳工程において、レジスト形成領域12に流れる電流を平坦領域13に流れる電流よりも相対的に弱くすることができる。このようにレジスト形成領域12に流れる電流を平坦領域13に流れる電流よりも相対的に弱くすることができると、レジスト形成領域12の電流密度を平坦領域13の電流密度よりも低くすることができるので、レジスト形成領域12の露出部分14と平坦領域13における電流密度差を小さくすることができる。したがって、レジスト形成領域12の露出部分14と平坦領域13とに形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができる。
【0034】
また、本実施形態の電鋳用母型1を用いれば、めっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができるので、当該めっき層からなるマスク本体2の高精度化を図ることができる。つまり、多数独立の通孔3を有するパターン形成領域4と、該パターン形成領域4を囲むように形成された通孔3の無いベタ領域5とを備えるマスク本体2(図2、3参照)において、当該マスク本体2の高精度化を図ることができる。加えて、当該マスク本体2に枠体などを固定してメタルマスクを作製したときには、当該メタルマスクの高精度化を図ることができる。
【0035】
(第2実施形態)
図6に本発明に係る電鋳用母型1の第2実施形態を示す。この第2実施形態では、制御構造20を、下ベース16のレジスト形成領域12に対応する箇所に下面側から上方に向かって凹み形成された陥没部21と、当該陥没部21を埋めるように配設された抵抗部材22とで構成した点が、先の第1実施形態と相違する。抵抗部材22は、非導電性の部材または下ベース16よりも高い電気抵抗値を有する導電性の部材で構成されている。非導電性の部材としては、樹脂やレジストなどの絶縁性部材が挙げられる。それ以外の点は、先の第1実施形態と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0036】
この第2実施形態に係る電鋳用母型1においても、先の第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。詳しくは、陥没部21の存在により、レジスト形成領域12におけるベース10の上下方向の厚み寸法(T1:図1参照)を、平坦領域13におけるベース10の上下方向の厚み寸法(T2:図1参照)よりも小さくすることができること、および陥没部21内に配された抵抗部材22の存在によりレジスト形成領域12の電気抵抗値を平坦領域13の電気抵抗値よりも高くすることができるので、電鋳工程においてレジスト形成領域12に流れる電流を平坦領域13に流れる電流よりも相対的に弱くすることができる。これにより、レジスト形成領域12の電流密度を平坦領域13の電流密度よりも低くすることができるので、レジスト形成領域12の露出部分14と平坦領域13における電流密度差を小さくすることができ、したがって、レジスト形成領域12の露出部分14と平坦領域13とに形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができる。
【0037】
(第3実施形態)
図7に本発明に係る電鋳用母型1の第3実施形態を示す。この第3実施形態では、制御構造20を、ベース10のレジスト形成領域12に対応する箇所に埋設された抵抗部材23とした点が、先の第1実施形態と相違する。より詳しくは、上ベース15と下ベース16の境界部に、薄肉のシート状の抵抗部材23を配置している。抵抗部材23は、例えば樹脂やレジストなどの絶縁性部材で構成される。抵抗部材23の厚み寸法は、上ベース15の厚み寸法よりも小さいものとされている。
【0038】
この第3実施形態に係る電鋳用母型1においても、先の第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、抵抗部材23の存在により、レジスト形成領域12の電気抵抗値を平坦領域13の電気抵抗値よりも高くすることができるので、電鋳工程においてレジスト形成領域12に流れる電流を平坦領域13に流れる電流よりも相対的に弱くすることができる。これにより、レジスト形成領域12の電流密度を平坦領域13の電流密度よりも低くすることができるので、レジスト形成領域12の露出部分14と平坦領域13における電流密度差を小さくすることができ、したがって、レジスト形成領域12の露出部分14と平坦領域13とに形成されるめっき層の厚み寸法にばらつきが生じることや、組成のばらつきが生じることなどを防ぐことができる。
【0039】
(第4実施形態)
図8に本発明に係る電鋳用母型1の第4実施形態を示す。この第4実施形態では、制御構造20である抵抗部材23を、多数独立状に形成された非導電体25と、この非導電体25の間を埋めるように形成された導電体26とで構成した点が、先の第3実施形態と相違する。この第4実施形態では、単位面積あたりの非導電体25の配設密度は、レジスト形成領域12に対応する領域において、均一に設定されている。このように抵抗部材23を非導電体25と導電体26とで構成した場合においても、先の第3実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
(第5実施形態)
図9に本発明に係る電鋳用母型1の第5実施形態を示す。この第5実施形態では、制御構造20である抵抗部材23を構成する非導電体25の配設密度が、水平方向(左右方向と前後方向とを含む面の方向:図4参照)の中央寄りが高く、周縁寄りが低くなるように構成されている点が、先の第4実施形態と相違する。この場合にも抵抗部材23を設けたことで、先の第3実施形態と同様の作用効果を得ることができる。加えて、非導電体25の配設密度を周縁寄りよりも中央寄りが高くなるようにすることで、中央寄りの電流密度を低くすることができるので、例えばマスク本体2のパターン形成領域4内の中央寄りの部分における通孔3の配設密度が高いなどのように、何等かの事情により、レジスト形成領域12内における中央寄りの電流密度が高くなりやすい傾向にある場合には、上記構成を採ることで、中央寄りの電流密度を低くして、レジスト形成領域12内における電流密度差を小さくすることができる。
【0041】
(第6実施形態)
図10に本発明に係る電鋳用母型1の第6実施形態を示す。この第6実施形態では、制御構造20である抵抗部材23を構成する非導電体25の先端が、上方に行くに従って外形寸法が小さくなる尖形状に形成されている点が、先の第4実施形態と相違する。当該構成においても、先の第3実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
(第7実施形態)
図11に本発明に係る電鋳用母型1の第7実施形態を示す。この第7実施形態では、制御構造20である抵抗部材23を構成する非導電体25の上下方向の高さ寸法が、中央寄りが高く、周縁寄りが低くなるように構成されている点が、先の第4実施形態と相違する。この場合にも先の第3実施形態と同様の作用効果を得ることができる。加えて、非導電体25の上下方向の高さ寸法を、中央寄りが高く、周縁寄りが低くなるように構成することで、中央寄りの電流密度を周縁寄りの電流密度よりも低くすることができるので、例えばマスク本体2のパターン形成領域4内の中央寄りの部分における通孔3の配設密度が高いなどのように、何らかの事情で、レジスト形成領域12内における中央寄りの電流密度が高くなりやすい場合には、本実施形態の構成を採ることで、中央寄りの電流密度を低くして、レジスト形成領域12内における電流密度差を小さくすることができる。
【0043】
上記の各実施形態では、パターン形成領域4に対応する領域の電流密度を低く(抵抗値を高く)していたが、本発明はこれに限られず、ベタ領域5に対応する領域の電流密度を高くし(抵抗値を低くし)、これにより、パターン形成領域4に対応する領域の電流密度を相対的に低くする構成を採ることができる。
【0044】
第1実施形態などにおいては、制御構造20を構成する陥没部21はベース10の下面に設けられていたが、本発明はこれに限られず、陥没部21はベース10の上面に設けることができる。陥没部21の形状は、平面視において四角形状に限られず、円形状や台形状などであってよい。陥没部21の形状は、円錐状、四角錐状、截頭錐体状など、厚さ方向で形状が変わるものであってもよい。また、この場合の陥没部21の形状は、上窄まり状、下窄まり状のいずれであってもよい。陥没部21の個数は一つに限られず、複数個の陥没部21がベース10に設けられた形態であってもよい。陥没部21の形状や深さ寸法によってレジスト形成領域12の電流密度を調整することができる。
【0045】
第2実施形態においては、陥没部21内を埋めるように抵抗部材22を配設した構成を示したが、本発明はこれに限られず、陥没部21の一部に(陥没部21を部分的に埋めるように)抵抗部材22を配設してもよい。陥没部21内に配される抵抗部材22は、多数独立状に形成された非導電体であってもよい。また、陥没部21内に配される抵抗部材22は、多数独立状に形成された非導電体と、この非導電体25の間を埋めるように形成された導電体とで構成されていてもよい。レジスト形成領域12に対応する箇所に、ベース10を上下方向に貫通する貫通孔を形成し、当該貫通孔に抵抗部材が配設された構成を採ることができる。
【0046】
上記実施形態においては、ベース10は、上ベース15と下ベース16とで構成されていたが、本発明はこれに限られず、ベース10は単層であってもよい。同様に、上記実施形態においては、上ベース15を第1導電層15a~第3導電層15cからなる積層構造としていたが、本発明においては、これに限られず、上ベース15は単層であってもよい。ベタ領域5には、例えば枠体固定用の通孔が存在していてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 電鋳用母型
2 マスク本体
3 通孔
4 パターン形成領域
5 ベタ領域
10 ベース
14 露出部分
15 上ベース
16 下ベース
20 制御構造
21 陥没部
22 抵抗部材
23 抵抗部材
25 非導電体
26 導電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11