(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141439
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041750
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】北吉 雅則
(72)【発明者】
【氏名】石山 昌
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050GA03
5H050GA22
5H050GA30
5H050HA04
5H050HA08
5H050HA09
5H050HA12
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】両端の形態が好適に調整された電極活物質層を備える電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】ここで開示される電極の製造方法は、正負極いずれかの長尺なシート状の電極集電体と、該電極集電体上に形成された長尺なシート状の電極活物質層を備える電極の製造方法である。かかる電極の製造方法は、以下の工程:電極材料を準備する電極材料準備工程(ステップS1);上記電極材料を用いて、上記電極集電体上のシート長手方向に塗膜を形成する成膜工程(ステップS2);成形ロールを用いて、上記塗膜の上記シート長手方向における両端部分の形態を整えるロール成形工程(ステップS3);を包含する。また、任意工程としての上記ロール成形後の塗膜を乾燥させる乾燥工程(ステップS4)を包含する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負極いずれかの長尺なシート状の電極集電体と、該電極集電体上に形成された長尺なシート状の電極活物質層を備える電極の製造方法であって、以下の工程:
電極材料を準備する、電極材料準備工程;
前記電極材料を用いて、前記電極集電体上のシート長手方向に塗膜を形成する成膜工程;
前記電極集電体における前記塗膜が形成されていない塗膜非形成部分に、成形ロールの両端を当接させ、かつ、該当接部間に存在する凹部の中央部分に、所定の接触圧で該塗膜を接触させることによって、当該塗膜の前記シート長手方向における両端部分の形態を整えるロール成形工程;
を包含する、電極の製造方法。
【請求項2】
さらに前記成形ロールに対向するバックアップロールが存在し、
前記ロール成形工程において、前記成形ロールの回転速度をA、前記バックアップロールの回転速度をBとしたときに、回転速度比(A/B)が0.98≦A/B≦1.02の範囲内となるように、該成形ロールおよび該バックアップロールを回転させる、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記電極材料は、湿潤粉体を含み、
該湿潤粉体は、複数の電極活物質粒子と、バインダ樹脂と、溶媒とを含む凝集粒子によって構成されており、
ここで、前記湿潤粉体を構成する少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子は、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している、請求項1または2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに該湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、
気相が存在しないと仮定して当該湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたとき、
緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である、請求項3に記載に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記成膜工程は、
一対の回転ロール間に前記電極材料を供給して一方の回転ロールの表面に該電極材料からなる塗膜を形成し、
別の回転ロール上に搬送されてきた前記電極集電体の表面に、前記塗膜を転写することによって行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記成形ロールを通過する前後の、前記シート長手方向に直交する方向における該塗膜の幅変化率をk、
前記成形ロールを通過する前後において、前記塗膜中に存在する空隙が圧縮される空隙圧縮率をθ、
前記一対の回転ロールを通過し、前記成形ロールを通過する前の塗膜の厚みをT、
としたときに、
前記ロール成形工程において、前記当接部と、前記凹部の中央部分との距離Hが、下記式:
H≦T/(kθ)
を満たすような前記成形ロールを用いる、請求項5に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、軽量で高エネルギー密度が得られることから、電気自動車、ハイブリッド自動車等の車両の駆動用高出力電源として好ましく用いられており、今後益々の需要増大が見込まれている。
この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。
【0003】
かかる電極活物質層は、典型的には、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極合材(以下、「合材スラリー」という。)を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。
あるいは、このような合材スラリーによる成膜に代えて、合材スラリーよりも固形分の割合が比較的高く、溶媒が活物質粒子の表面とバインダ分子の表面に保持されたような状態で粒状集合体が形成されたいわゆる湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)も検討されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、湿潤粉体を用いた電極活物質層を備える電極の製造方法が開示されている。かかる電極の製造においては、3本のロール(Aロール,Bロール,およびCロール)を備えた電極製造装置が用いられている。具体的には、先ず、AロールおよびBロールのロール間隙に湿潤粉体を供給し、該Bロールの表面上に湿潤粉体膜を形成する。続いて、Bロール上に形成された湿潤粉体膜を、Cロールから搬送される集電体上に転写する。かかる転写では、2つの規制部材によって、湿潤粉体膜の両端縁の位置の規制(即ち、塗膜の両端の形態調整)を行う。そして、集電体上に形成された未乾燥活物質層を乾燥させることによって電極活物質層を形成する旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような規制部材を用いることで、両端の形態調整が好適に実現された電極活物質層を得ることができるものの、より精度の高い電極を製造するにあたり、かかる調整をより好適に実現することが要求されている。なお、上記では湿潤粉体を用いた場合について説明したが、これに限定されず、例えばドライ粉体や、粘度が適切に調整された合材スラリー等に関しても、かかる要求が存在する。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、両端の形態が好適に調整された電極活物質層を備える電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を実現するべく、本発明は、正負極いずれかの長尺なシート状の電極集電体と、該電極集電体上に形成された長尺なシート状の電極活物質層を備える電極の製造方法を提供する。かかる電極の製造方法は、以下の工程:電極材料を準備する、電極材料準備工程;上記電極材料を用いて、上記電極集電体上のシート長手方向に塗膜を形成する成膜工程;上記電極集電体における上記塗膜が形成されていない塗膜非形成部分に、成形ロールの両端を当接させ、かつ、該当接部間に存在する凹部の中央部分に、所定の接触圧で該塗膜を接触させることによって、当該塗膜の前記シート長手方向における両端部分の形態を整えるロール成形工程;を包含する。
かかる電極の製造方法によると、塗膜が電極集電体上に漏れ出すことを防止しつつ、該塗膜を圧縮成形することができる。これによって、両端の形態が好適に調整された電極活物質層を得ることができる。
【0008】
ここで開示される電極の製造方法の好適な一態様では、さらに上記成形ロールに対向するバックアップロールが存在し、上記ロール成形工程において、上記成形ロールの回転速度をA、上記バックアップロールの回転速度をBとしたときに、回転速度比(A/B)が0.98≦A/B≦1.02の範囲内となるように、該成形ロールおよび該バックアップロールを回転させる。これによって、電極集電体の破断を未然に防止することができるため、好ましい。
【0009】
ここで開示される電極の製造方法の好適な一態様では、上記電極材料は、湿潤粉体を含み、該湿潤粉体は、複数の電極活物質粒子と、バインダ樹脂と、溶媒とを含む凝集粒子によって構成されている。ここで、上記湿潤粉体を構成する少なくとも50個数%以上の上記凝集粒子は、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。詳細については後述するが、電極材料としてかかる湿潤粉体を用いることで、塗膜の両端の形態を効率よく調整することができるため、好ましい。
【0010】
また、かかる態様の好適な一態様では、上記湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに該湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、気相が存在しないと仮定して当該湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたとき、緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である。
【0011】
ここで開示される電極の製造方法の好適な一態様では、上記成膜工程は、一対の回転ロール間に上記電極材料を供給して一方の回転ロールの表面に該電極材料からなる塗膜を形成し、別の回転ロール上に搬送されてきた上記電極集電体の表面に、上記塗膜を転写することによって行われる。
【0012】
また、かかる態様の好適な一態様では、上記成形ロールを通過する前後の、上記シート長手方向に直交する方向における該塗膜の幅変化率をk、上記成形ロールを通過する前後において、上記塗膜中に存在する空隙が圧縮される空隙圧縮率をθ、上記一対の回転ロールを通過し、上記成形ロールを通過する前の塗膜の厚みをTとしたときに、上記ロール成形工程において、上記当接部と、上記凹部の中央部分との距離Hが、次の式:H≦T/(kθ)を満たすような上記成形ロールを用いる。
詳細については後述するが、かかる成形ロールを用いることで、両端の形態(形状を含めた形態)がより好適に調整された電極活物質層を得ることができるため、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る電極の製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
【
図2】湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
【
図3】ここで開示される湿潤粉体を製造するために用いられる撹拌造粒機の一例を模式的に示す説明図である。
【
図4】一実施形態に係る電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図5】
図4におけるロール成形ユニットについて説明するための図である。
【
図7】一実施形態に係る幅変化率kの導出方法について説明するための図である。
【
図8】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す説明図である。
【
図9】試験例1に係る負極活物質層の端部を示す断面SEM画像である。
【
図10】試験例2に係る負極活物質層の端部を示す断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用され得る電極の製造方法について、適宜図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の実施形態は、ここで開示される技術を限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付して説明している。さらに、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0015】
本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質中のリチウムイオンが電荷の移動を担う二次電池をいう。また、「電極体」とは、正極および負極で構成される電池の主体を成す構造体をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に「電極」と記載している。電極活物質(即ち正極活物質または負極活物質)は、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出可能な化合物をいう。
【0016】
図1は、一実施形態に係る電極の製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係る電極の製造方法は、大まかにいって、電極材料を準備する電極材料準備工程(ステップS1)と、電極材料を用いて、電極集電体上のシート長手方向に塗膜を形成する成膜工程(ステップS2)と、電極集電体における塗膜が形成されていない塗膜非形成部分に、成形ロールの両端を当接させることによって、該塗膜のシート長手方向における両端部分の形態を整えるロール成形工程(ステップS3)と、ロール成形工程後の塗膜を乾燥する乾燥工程(ステップS4)とを包含する。以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0017】
<ステップS1>
先ず、ステップS1では、電極材料を準備する。なお、本実施形態では、電極材料として湿潤粉体を使用する場合について説明するが、電極材料をかかる材料に限定することを意図したものではない。電極材料としては、例えば、ドライ(乾燥)粉体や、電極活物質,バインダ,導電材,溶媒等を混合して調製されるスラリー状(インク状、ペースト状を包含する)の電極材料等を用いることもできる。なお、合材スラリー状の電極材料を用いる場合は適切な粘度に調製されていることが好ましく、かかる粘度としては、市販の粘度計を用いて25℃-20rpmで測定したときに、概ね10000mPa・s~30000mPa・s程度の高粘度流体(例えば、20000mPa・s)ものを好ましく用いることができる。なお、湿潤粉体は、塗膜の両端の形態を効率よく調整するという観点から、好ましく用いることができる。
【0018】
次に、ここで開示される湿潤粉体について説明する。先ず、湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。この分類に関しては、 CapesC. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている。この4つの分類を、本明細書においても採用しており、よって、ここで開示される湿潤粉体は、当業者にとって明瞭に規定されている。以下、この4つの分類について具体的に説明する。
【0019】
「ペンジュラー状態」は、
図2の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
【0020】
また、「ファニキュラー状態」は、
図2の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
【0021】
「キャピラリー状態」は、
図2の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子に占める空隙の存在割合も小さくなる。「スラリー状態」は、
図2の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
【0022】
従来から湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば
図2の(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。これに対し、ここで開示される湿潤粉体は、気相を制御することによって、従来の湿潤粉体とは異なる状態としたものであり、上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)が形成されている湿潤粉体である。この2つの状態においては、活物質粒子(固相)2が溶媒(液相)3によって液架橋されており、かつ空隙(気相)4の少なくとも一部が、外部に通じる連通孔を形成しているという共通点を有する。本実施形態において用意される湿潤粉体を、便宜上「気相制御湿潤粉体」とも称する。
【0023】
かかる気相制御湿潤粉体は、該湿潤粉体を構成する少なくとも50個数%以上の上記凝集粒子が、固相と液相と気相とが、上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)を形成していることを特徴とする。好ましくは、電子顕微鏡観察(SEM観察)を行った際に、上記湿潤粉体を構成する少なくとも50個数%以上の上記凝集粒子において、該凝集粒子の外表面の全体にわたって上記溶媒からなる層が認められないことを一つの形態的特徴として有する。
【0024】
なお、気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を製造することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
【0025】
好ましくは、ここで開示される好適な気相制御湿潤粉体として、電子顕微鏡観察で認められる三相の状態がペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)であって、さらに、得られた湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される
「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、
1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
【0026】
気相制御湿潤粉体(湿潤粉体)は、電極活物質、溶媒、バインダ樹脂、その他の添加物等の材料を、従来公知の混合装置を用いて混合することによって作製ことができる。かかる混合装置としては、例えば、プラネタリーミキサー、ボールミル、ロールミル、ニーダ、ホモジナイザー等が挙げられる。
【0027】
ここで、上記電極活物質としては、従来の二次電池(ここでは、リチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO4等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。活物質粒子のレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)は0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。
【0028】
上記バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。また、導電材としては、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。この他、使用する湿潤粉体が、いわゆる全固体電池の電極形成用途の場合、固体電解質が用いられる。特に限定されるものではないが、例えば、Li2S、P2S5、LiI、LiCl、LiBr、Li2O、SiS2、B2S3、ZmSn(ここでmおよびnは正の数であり、ZはGe、ZnまたはGa)、Li10GeP2S12等を構成要素とする硫化物固体電解質が好適例として挙げられる。
【0029】
上記溶媒としては、バインダ樹脂を好適に分散(溶解)し得るものであれば、特に制限なく採用することができる。好適例として、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、酪酸ブチル等が挙げられる。
【0030】
上述したような材料を用いて湿潤造粒を行い、目的の気相制御湿潤粉体を製造する。例えば、
図3に示すような撹拌造粒機(プラネタリーミキサー等のミキサー)10を用いて各材料を混合することによって、製造することができる。図示されるように、この種の撹拌造粒機10は、典型的には円筒形である混合容器12と、当該混合容器12の内部に収容された回転羽根14と、回転軸16を介して回転羽根(ブレードともいう)14に接続されたモータ18とを備えている。
具体的に、
図3に示すような撹拌造粒機10の混合容器12内に固形分である電極活物質と種々の添加物(バインダ樹脂、増粘材、導電材等)を投入し、モータ18を駆動させて回転羽根14を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~30秒間程度、回転させることによって固形物の混合体を製造する。そして、固形分が55%以上、より好ましくは60%以上(例えば65~90%)になるように計量された少量の溶媒を混合容器12内に添加し、回転羽根14を、例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~30秒間程度さらに回転させる。これによって、混合容器12内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。
【0031】
得られる造粒体の粒径は、後述する電極製造装置20の一対のロール間ギャップ(G1,G2)の幅よりも大きな粒径をとり得る。ギャップの幅が10μm~100μm程度(例えば20μm~50μm)の場合、造粒体の粒径は50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
【0032】
また、上述した気相制御湿潤粉体は、凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15%程度、3~8%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。かかる気相制御湿潤粉体は、上述した湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。すなわち、上述した湿潤粉体よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料としての湿潤粉体を製造することができる。また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
【0033】
<ステップS2~4>
上述したプロセスによって電極材料としての気相制御湿潤粉体(湿潤粉体)を準備し(ステップS1)、次に、ステップS2~4を実施する。上記ステップS2~4を実施するための好ましい電極製造装置として、
図4に示す電極製造装置20が挙げられる。かかる電極製造装置は、大まかにいって、図示しない供給室から搬送されてきたシート状の電極集電体32の表面上に湿潤粉体30を供給して塗膜36を形成する成膜ユニット60と、電極集電体32における塗膜36が形成されていない塗膜非形成部分34に、成形ロール50の両端を当接させ、かつ、当接部51の間に存在する凹部の中央部分51bに、所定の接触圧で該塗膜を接触させることによって、当該塗膜のシート長手方向における両端部分37の形態を整えるロール成形ユニット62と、ロール成形後の塗膜36を適切に乾燥させて、電極活物質層を形成する乾燥ユニット64とを備える。以下、各ユニットについて説明する。
【0034】
成膜ユニット60は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続された供給ロール40、転写ロール42、転写ロール用バックアップロール44を備える。
図4に示すように、本実施形態に係る成膜ユニット60では、供給ロール40は転写ロール42に対向しており、該転写ロールは転写ロール用バックアップロール44に対向している。各ロールは、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ所望の回転速度で回転させることができる。例えば、電極集電体32の表面上に塗膜36を効率よく転写するという観点から、転写ロール用バックアップロール44の回転速度を、転写ロール42の回転速度よりも速くすることが好ましい。
【0035】
供給ロール40、転写ロール42、および、転写ロール用バックアップロール44のサイズは特に制限はなく、従来のロール成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら3種の回転ロール40,42,44の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜を形成する幅についても従来のロール成膜装置と同様でよく、塗膜を形成する対象の電極集電体の幅によって適宜決定することができる。また、これら回転ロール40,42,44の円周面の材質は、従来公知のロール成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼等が挙げられる。
【0036】
ロール成形ユニット62は、成膜ユニット60から搬送されてきた電極集電体32の表面上に付与されている塗膜36の、シート長手方向Xにおける端部37の形態を調整する(即ち、塗膜非形成部分34への塗膜漏れが抑制された形態とする)ユニットである。
図4および
図5に示すように、かかるロール成形ユニットは、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続された成形ロール50と、これに対向する成形ロール用バックアップロール52とを備えている。各ロールは、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ所望の回転速度で回転させることができる。ここで、成形ロール50の回転速度をA、成形ロール用バックアップロール52の回転速度をBとしたときに、回転速度比(A/B)は、0.98≦A/B≦1.02(より好ましくは、0.99≦A/B≦1.01)の範囲内である場合が好ましい。これによって、電極集電体32の破断を未然に防止することができる。
【0037】
図5および
図6に示すように、成形ロール50は、当接部51を2つ備えている。そして、ロール成形工程(ステップS3)では、2つの当接部51を電極集電体32における塗膜36が形成されていない塗膜非形成部分34に当接させ、かつ、該当接部間に存在する凹部の中央部分51bに、所定の接触圧で該塗膜を接触させることによって、当該塗膜のシート長手方向Xにおける両端部分37の形態を整える。ここで、かかる接触圧としては、例えば50~200MPa等とすることができる。
かかるロール成形によると、塗膜36が塗膜非形成部分34の表面上に漏れ出すことを防止しつつ、該塗膜を圧縮成形することができる。これによって、シート長手方向Xにおける端部37の形態が好適に調整された電極活物質層を得ることができる。
【0038】
成形ロール50が備える当接部51、成形ロール用バックアップロール52のサイズは、ここで開示される技術の効果が得られる限りにおいて特に制限はなく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。当接部51,成形ロール用バックアップロール52の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、ロール50,52の円周面の材質は、ここで開示される技術の効果が得られる限りにおいて特に制限はなく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼等が挙げられる。
【0039】
ここで、成形ロール50における、当接部51と凹部の中央部分51bとの間の距離(以下、単に「段差」ともいう)Hの大きさは、予備実験等によって規定することができる。具体的には、電極製造装置20を起動し、転写ロール42を通過し、成形ロール50を通過する前の塗膜36の厚みを市販の非接触変位センサ(二次元センサ)等を用いて測定し、かかる厚み程度の大きさを段差Hの大きさとすることができる。
【0040】
好ましい一態様では、成形ロール50を通過する前後の、シート長手方向Xに直交する幅方向Yにおける塗膜36の幅変化率をk、成形ロール50を通過する前後において、塗膜36中に存在する空隙が圧縮される空隙圧縮率をθ、転写ロール42を通過し、成形ロール50を通過する前の塗膜36の厚みをTとしたときに、ロール成形工程(ステップS3)において、段差Hが次の式:H≦T/(kθ)を満たすような成形ロールを用いる。かかる段差を有する成形ロールによると、塗膜36を凹部51aの両側壁に接触させることができるため、該塗膜の端部37の形態(形状を含めた形態)をより好適に調整することができる(かかる効果については、後述する実施例を参照されたい)。なお、上記パラメータθ,k,Tは、予備実験等を行うことによって規定することができる。以下、各パラメータの導出方法について説明する。
【0041】
先ず、
図7を参照しつつ、上記幅変化率kの導出方法について説明する。
図7に示すように、転写ロール42は、一の端部に転写ロール段差部43を有している。
はじめに、ロール間ギャップG1,G2間に存在する塗膜36aの端部Qと、成形ロール50を通過した直後の塗膜36bの端部Rとを、二次元センサ54によって測定する。そして、塗膜36bの幅方向Yにおける延伸量(即ち、端部Qおよび端部Rの変化量)を算出する。さらに、塗膜36bの幅方向Yにおける全幅を、二次元センサ54によって測定する。
上記のとおり得られた延伸量,全幅を、次の式:k={(延伸量×2)/全幅}×100(%)に導入することで、幅変化率kを導出することができる。なお、幅変化率kの大きさは、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.5~5%の範囲内(好ましくは、0.5~2%)とすることができる。
【0042】
続いて、上記空隙圧縮率θの導出方法について説明する。はじめに、乾燥工程(ステップS4)後の電極活物質層の目付量(g/cm
2)を測定する。かかる測定は、この種の測定を実施するための従来公知の測定方法に基づいて行うことができる。次に、上記電極活物質層の厚み(μm)を、二次元センサ等によって測定する。そして、上記目付量を上記電極活物質層の厚みで除することによって、電極活物質層の密度(g/cm
3)を算出する。
次に、上記電極活物質層の目付量に、転写ロール42および転写ロール用バックアップロール44の回転速度比(即ち、転写ロール42の回転速度/転写ロール用バックアップロール44の回転速度)を掛けて、該転写ロールの表面上の塗膜36a(
図7を参照)の推定目付量(g/cm
2)を算出する。続いて、塗膜36aの厚みS(μm)(
図7を参照)を、二次元センサ等によって測定する。そして、上記推定目付量を上記塗膜の厚みで除することによって、該塗膜の膜密度(g/cm
3)を算出する。
上記のとおり得られた電極活物質層の密度,塗膜の膜密度を、次の式:θ=(電極活物質層の膜密度/塗膜の膜密度)×100(%)に導入することによって、空隙圧縮率θを導出することができる。なお、空隙圧縮率θの大きさは、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.5~5%の範囲内(好ましくは、0.5~3%)とすることができる。
【0043】
なお、厚みTに関しては、転写ロール42を通過し、成形ロール50を通過する前の塗膜36の厚み(μm)を、二次元センサ等によって測定することで導出することができる。
【0044】
図4に示すように、本実施形態に係る電極製造装置20のロール成形ユニット62よりもシート長手方向Xの下流側には、乾燥ユニット64として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室が配置され、ロール成形ユニット62から搬送されてきた電極集電体32の表面上の塗膜36を乾燥する。なお、かかる乾燥ユニット64は、従来のこの種の電極製造装置における乾燥ユニットと同様でよく、特に本教示を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0045】
塗膜36を乾燥後、必要に応じて50~200MPa程度のプレス加工を行うことにより、リチウムイオン二次電池用の長尺なシート状電極が製造される。こうして製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0046】
<変形例>
以上、ここで開示される電極の製造方法の一例について説明したが、ここで開示される電極の製造方法の内容をかかる具体例に限定するものではない。ここで開示される電極の製造方法は、上述した具体例をその目的を変更しない限りにおいて種々変更したものが包含される。
【0047】
上記実施形態では、成形ロール50-成形ロール用バックアップロール52の組を1組用いた電極の製造方法について説明したが、これに限定されず、例えばかかる組を複数用いて電極の製造を行ってもよい。かかる態様によると、塗膜の両端部分の形態をより効率よく調整することができるため、好ましい。
【0048】
また、上記実施形態では、成形ロール50と成形ロール用バックアップロール52とを用いた電極の製造方法について説明したが、これに限定されず、例えば成形ロール用バックアップロールの代わりに、成形ロールを用いてもよい。即ち、成形ロールを2つ用いてロール成形を行ってもよい。かかる態様によると、電極集電体の両面に塗膜を形成する場合に、塗膜の両端部分の形態をより効率よく行うことができるため、好ましい。また、成形ロール用バックアップロールの代わりに、ベルトコンベアを配置してもよい。
【0049】
例えば、本実施形態に係る製造方法によって得られる電極を備えるリチウムイオン二次電池100の一例を
図8に示している。
本実施形態のリチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)100は、扁平形状の捲回電極体80と非水電解液(図示せず)とが電池ケース(即ち外装容器)70に収容された電池である。電池ケース70は、一端(電池の通常の使用状態における上端部に相当する。)に開口部を有する箱形(すなわち有底直方体状)のケース本体72と、該ケース本体72の開口部を封止する蓋体74とから構成される。ここで、捲回電極体80は、該捲回電極体の捲回軸が横倒しとなる姿勢(即ち、捲回電極体80の捲回軸方向と蓋体74の面方向とはほぼ平行である。)で、電池ケース70(ケース本体72)内に収容されている。電池ケース70の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼といった軽量で熱伝導性の良い金属材料が好ましく用いられ得る。
また、
図8に示すように、蓋体74には外部接続用の正極端子81および負極端子86が設けられている。蓋体74には、電池ケース70の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された排気弁76と、非水電解液を電池ケース70内に注入するための注入口(図示せず)が設けられている。電池ケース70は、蓋体74を電池ケース本体72の開口部の周縁に溶接することによって、該電池ケース本体72と蓋体74との境界部を接合(密閉)することができる。
【0050】
捲回電極体80は、長尺なシート状の典型的にはアルミニウム製の正極集電体82の片面または両面に長手方向に沿って正極活物質層84が形成された正極シート83と、長尺なシート状の典型的には銅製の負極集電体87の片面または両面に長手方向に沿って負極活物質層89が形成された負極シート88とを、典型的には多孔性のポリオレフィン樹脂からなる2枚の長尺状のセパレータシート90を介して積層して(重ね合わせて)長手方向に捲回されている。
扁平形状の捲回電極体80は、例えば、上述した電極製造装置20により湿潤粉体30からなる活物質層が形成された正負極シート83,88および長尺なシート状のセパレータ90を、断面が真円状の円筒形状になるように捲回した後で、該円筒型の捲回体を捲回軸に対して直交する一の方向に(典型的には側面方向から)押しつぶして(プレスして)拉げさせることによって、扁平形状に成形することができる。かかる扁平形状とすることで、箱形(有底直方体状)の電池ケース70内に好適に収容することができる。なお、上記捲回方法としては、例えば円筒形状の捲回軸の周囲に正負極およびセパレータを捲回する方法を好適に採用し得る。
【0051】
特に限定するものではないが、捲回電極体80としては、正極活物質層非形成部分82a(即ち、正極活物質層84が形成されずに正極集電体82が露出した部分)と負極活物質層非形成部分87a(即ち、負極活物質層89が形成されずに負極集電体87が露出した部分)とが捲回軸方向の両端から外方にはみ出すように重ねあわされて捲回されたものであり得る。その結果、捲回電極体80の捲回軸方向の中央部には、正極シート83と負極シート88とセパレータ90とが積層されて捲回された捲回コアが形成される。また、正極シート83と負極シート88とは、正極活物質層非形成部分82aと正極端子81(例えばアルミニウム製)が正極集電板81aを介して電気的に接続され、また、負極活物質層非形成部分87aと負極端子86(例えば銅またはニッケル製)が負極集電板86aを介して電気的に接続され得る。なお、正負極集電板81a,86aと正負極活物質層非形成部分82a,87aとは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0052】
なお、非水電解液としては、典型的には適当な非水系の溶媒(典型的には有機溶媒)中に支持塩を含有させたものを用いることができる。例えば、常温で液状の非水電解液を好ましく使用し得る。非水系の溶媒としては、一般的な非水電解液二次電池に用いられる各種の有機溶媒を特に制限なく使用し得る。例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を、特に限定なく用いることができる。支持塩としては、LiPF6等のリチウム塩を好適に採用し得る。支持塩の濃度は特に制限されないが、例えば、0.1~2mol/Lであり得る。
【0053】
なお、ここで開示される技術の実施にあたっては、電極体を図示するような捲回電極体80に限定する必要はない。例えば、複数の正極シートおよび負極シートを、セパレータを介して積層して形成される積層タイプの電極体を備えるリチウムイオン二次電池であってもよい。また、本明細書に開示される技術情報から明らかなとおり、電池の形状についても上述した角型形状に限定されるものではない。また、上述した実施形態は、電解質が非水電解液である非水電解液リチウムイオン二次電池を例にして説明したが、これに限られず、例えば、電解液に代えて固体電解質を採用したいわゆる全固体電池に対しても、ここで開示された技術を適用することができる。その場合には、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態の湿潤粉体は、固形分として活物質に加えて固体電解質を含むように構成される。
【0054】
非水電解液が供給され、電極体を内部に収容したケースが密閉された電池組立体に対して、通常、初期充電工程が行われる。従来のこの種のリチウムイオン二次電池と同様、電池組立体に対して外部接続用正極端子および負極端子との間に外部電源を接続し、常温(典型的には25℃程度)で正負極端子間の電圧が所定値となるまで初期充電する。例えば初期充電は、充電開始から端子間電圧が所定値(例えば4.3~4.8V)に到達するまで0.1C~10C程度の定電流で充電し、次いでSOC(State of Charge)が60%~100%程度となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC-CV充電)により行うことができる。
【0055】
その後、エージング処理を行うことにより、良好な性能を発揮し得るリチウムイオン二次電池100を提供することができる。エージング処理は、上記初期充電を施した電池100を、35℃以上の高温度域に6時間以上(好ましくは10時間以上、例えば20時間以上)保持する高温エージングにより行われる。これにより、初期充電の際に負極の表面に生じ得るSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の安定性を高め、内部抵抗を低減することができる。また、高温保存に対するリチウムイオン二次電池の耐久性を高めることができる。エージング温度は、好ましくは35℃~85℃(より好ましくは40℃~80℃、更に好ましくは50℃~70℃)程度とする。このエージング温度が上記範囲より低すぎると、初期内部抵抗の低減効果が十分でないことがある。上記範囲より高すぎると、非水系溶媒やリチウム塩が分解するなどして電解液が劣化し、内部抵抗が増加することがある。エージング時間の上限は特にないが、50時間程度を超えると、初期内部抵抗の低下が著しく緩慢になり、該抵抗値がほとんど変化しなくなることがある。したがって、コスト低減の観点から、エージング時間は、6~50時間(より好ましくは10~40時間、例えば20~30時間)程度とすることが好ましい。
【0056】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0057】
以下、パラメータθ、k、Tを異なる方法によって導出し、成形ロールが有する段差Hの大きさを規定した例について説明する。以下の試験例は、
図4に示すような製造装置を用いて行った。
【0058】
また、以下では負極について試験を行っているが、当然のことながら、正極についても同様な効果を得ることができる。なお、以下の実施例は、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0059】
<試験例1>
(負極材料の準備)
負極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(負極材料)を用いて銅箔上に負極活物質層を形成した。
本試験例では、負極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が10μmである黒鉛粉、バインダ樹脂としてスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、溶媒として水を用いた。
【0060】
上記負極材料は、98質量部の上記黒鉛粉、1質量部のCMC、および1質量部のSBRからなる固形分を、
図3に示すような回転羽根を有する撹拌造粒機(プラネタリーミキサーやハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行うことによって製造した。具体的には、回転羽根を有する撹拌造粒機内で回転羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形成分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90質量%となるように溶媒である水を添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化処理を行い、次いで1000rpmの回転速度で2秒間撹拌微細化処理を続けた。これにより本試験例に係る気相制御湿潤粉体(負極材料)を作製した。
【0061】
次に、上記のとおり作製した気相制御湿潤粉体を用いて、パラメータθ,k,Tを導出するための予備実験を行った。
先ず、成形ロールを通過する直前の塗膜の幅方向Yにおける全幅を測定したところ、210mmであった。また、成形ロールを通過した直後の塗膜の幅方向Yにおける全幅を測定したところ、212.5mmであった。そして、幅変化率k=(成形ロールを通過した直後の塗膜の全幅)/(成形ロールを通過する直前の塗膜の全幅)とすると、1.01と算出された。
続いて、成形ロールを通過する直前の塗膜の厚みTを測定したところ、109μmとなった。また、乾燥工程後の電極活物質層の厚みを測定したところ、107.3μmであった。そして、空隙圧縮率θ=(成形ロールを通過する直前の塗膜の厚み)/(乾燥工程後の電極活物質層の厚み)とすると、1.02と算出された。なお、上記測定は、市販の二次元センサを用いて行った。
【0062】
上記θ,k,TをH≦T/(kθ)に代入することで、成形ロールが備える段差Hの好適な大きさを算出した。その結果、かかる段差Hの大きさは、108μm程度以下(例えば106μm等)と算出された。かかる段差を有する成形ロールを用いて、塗膜の両端の形態調整を行った。
【0063】
(負極の作製)
上記のとおり得られた気相湿潤粉体を、電極製造装置に供給し、転写ロール用バックアップロールから搬送されてきた銅箔からなる負極集電体の表面に塗膜を転写した。そして、上記のとおり段差Hの大きさを規定した成形ロールによって塗膜の形態の調整を行った後、乾燥させることで、試験例1に係る負極を作製した。
図9は、試験例1に係る負極のSEM断面画像である。
【0064】
<試験例2>
ロール成形を行わなかった以外は試験例1と同様にして、試験例2に係る負極を作製した。
図10は、試験例2に係る負極のSEM断面画像である。
【0065】
図9および
図10のSEM断面画像から分かるように、上記のとおり規定した段差Hを有する成形ロールによる調整を行った試験例1に係る負極が備える負極活物質層の端部は、かかる成形ロールによる調整を行わなかった試験例2に係る負極が備える負極活物質層の端部と比較して、端部の形態(形状を含めた形態)が好適に調整されることが確認された。
【0066】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固層)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
10 撹拌造粒機
12 混合容器
14 回転羽根
16 回転軸
18 モータ
20 電極製造装置
30 湿潤粉体(電極材料)
32 電極集電体
34 塗膜非形成部分
36,36a,36b 塗膜
37 塗膜の端部
40 供給ロール
42 転写ロール
43 転写ロール段差部
44 転写ロール用バックアップロール
50 成形ロール
51 当接部
51a 凹部
51b 凹部の中央部分
52 成形ロール用バックアップロール
54 非接触(二次元)変位センサ
60 成膜ユニット
62 ロール成形ユニット
64 乾燥ユニット
70 電池ケース
72 ケース本体
74 蓋体
76 排気弁
80 捲回電極体
81 正極端子
81a 正極集電板
82 正極集電体
82a 正極活物質層非形成部分
83 正極シート(正極)
84 正極活物質層
86 負極端子
86a 負極集電板
87 負極集電体
87a 負極活物質層非形成部分
88 負極シート(負極)
89 負極活物質層
90 セパレータシート(セパレータ)
100 リチウムイオン二次電池
X シート長手方向
Y 幅方向
G1,G2 ロール間ギャップ