(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141441
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ニオブ、及びタンタルの液化処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/24 20060101AFI20220921BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20220921BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20220921BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C22B34/24
C22B3/22
C22B3/06
C22B1/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041753
(22)【出願日】2021-03-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】久保 裕也
(72)【発明者】
【氏名】西田 拓翔
(72)【発明者】
【氏名】増田 彩香
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA18
4K001AA25
4K001BA01
4K001CA05
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB38
(57)【要約】
【課題】ニオブやタンタルを含有する製錬原料から安全かつ効率的にニオブ、及びタンタルを液化処理することができるニオブ、及びタンタルの液化処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ニオブとタンタルの少なくとも一元素を含む粉末状物質に硫酸水素アンモニウムを反応剤として混合して、所定の条件で溶融して溶融体を生成する。固化した溶融体を水溶液で溶解して生成された懸濁液を固液分離して沈殿物を回収する。沈殿物は不純物の少ないニオブ、及びタンタルからなり、係る沈殿物を塩酸、硫酸、または硝酸から選択される一種の酸溶液で溶解することで、90%以上のニオブとタンタルを浸出することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ、またはタンタルの少なくとも一元素を含む粉末状物質にアンモニウム塩を混合した溶融体を生成する工程と、
固化した前記溶融体を所定量の溶媒で溶解して懸濁液を生成する工程と、
前記懸濁液を沈殿物と液体物に固液分離する工程と、
前記沈殿物を酸溶液との反応により溶解する工程と、を備える
ニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項2】
前記溶融体を生成する工程は、前記粉末状物質と粉末状の前記アンモニウム塩とを混合した混合物を生成する工程を有する、
請求項1に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項3】
前記溶融体を生成する工程は、前記粉末状物質と溶融状の前記アンモニウム塩とを混合した混合物を生成する工程を有する、
請求項1に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項4】
前記溶融体を生成する工程は、前記粉末状物質に対する重量比で略2倍以上の前記アンモニウム塩を混合する
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項5】
前記溶融体を生成する工程は、溶融体の温度が略400~500℃となるように所定時間加熱する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項6】
前記懸濁液を生成する工程は、前記溶融体の重量に対して略1倍以上の水溶液を使用する
請求項1から請求項5の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項7】
前記アンモニウム塩は、硫酸水素アンモニウム、または硫酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である
請求項1から請求項6の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項8】
前記酸溶液は塩酸、硫酸、硝酸、及びフッ化水素酸から選択される少なくとも1種である
請求項1から請求項7の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ、及びタンタルの液化処理方法に関する。詳しくは、ニオブやタンタルを含有する製錬原料から安全かつ効率的にニオブ、及びタンタルを液化処理することができる、ニオブ、及びタンタルの液化処理方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ニオブやタンタルは、電子材料として様々な用途に利用されている。例えば、タンタルから形成されたアノード電極を備えた固体電解コンデンサは、小型でありながらも大容量であるため、携帯電話やパソコン等の部品として急速に普及している。また、タンタルと同族元素であるニオブも、タンタルよりも安価であるとともに誘電率が大きいことから、アノード電極への利用が研究されている。アノード電極は、タンタル粉末およびニオブ粉末を焼結して多孔質焼結体とし、この多孔質焼結体を化成酸化することによって形成される。
【0003】
ところで、前記した通りニオブ、及びタンタルはその化学的性質が似ているため、この2つの金属は鉱石中に共存しており、その分離方法が難しいことが知られている。そして、鉱石からニオブとタンタルを回収して酸化ニオブ、及び酸化タンタルを製造する方法としては、一般的にフッ化水素酸を用いた液化処理方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
例えば特許文献2に開示がされている液化処理方法について説明すると、タンタライト等の鉱石や、鉄スクラップ等の原材料を粉砕してフッ化水素酸で溶解した後、硫酸を加えて溶液の濃度を調整する。次に、この調整液をフィルタープレスで濾過し、清浄な溶液にしてMIBK(メチルイソブチルケトン)による溶媒抽出にかけると、ニオブとタンタルがMIBKに抽出される。この時、原料中に含まれている不純物の鉄、マンガン、シリコン等が抽残液に残ることにより、不純物が除去される。
【0005】
こうして得たニオブ、及びタンタルを含むMIBKを希硫酸で逆抽出すると、ニオブが水溶液に移り、純粋なタンタルがMIBKに残る。MIBK中のタンタルを精製し、水で逆抽出して水溶液に移し、MIBKを回収し再使用する。一方、水溶液中のニオブはMIBKで再度抽出するとともに、少量含まれているタンタルを抽出し、水溶液中のニオブを純粋なものに精製する。このニオブ精製時のMIBKは、ニオブ、及びタンタルの分離前の溶媒に合流される。このようにして精製されたニオブ、及びタンタルの各溶液にアンモニア水を加えると、水酸化ニオブ、及び水酸化タンタルが析出する。さらに、この水酸化物の沈殿を濾過、乾燥し、最後にか焼することにより、酸化ニオブ、及び酸化タンタルが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58-176128号公報
【特許文献2】特開2002-316822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1、及び特許文献2で使用されるフッ化水素酸は、工業的には重要な化学物質であるが、接触することにより患部を著しく腐食させ、最悪の場合には死亡事故につながる危険性があり、毒物及び劇物取締法において毒物として指定されていることからも、その取扱いにおいて非常に危険性を伴う物質である。
【0008】
また、フッ化水素酸の原材料となる蛍石(CaF2)は我が国では産出できず、他国から蛍石、またはその一次加工品を輸入しているのが現状である。しかし、近年においては各国の資源の囲み込みにより、特に高純度品は価格が高騰し、質や量を安定的に確保することが困難な状況となっている。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、ニオブやタンタルを含有する製錬原料から安全かつ効率的にニオブ、及びタンタルを液化処理することができる、ニオブ、及びタンタルの液化処理方法に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明のニオブ、及びタンタルの液化処理方法は、ニオブ、またはタンタルの少なくとも一元素を含む粉末状物質にアンモニウム塩を混合した溶融体を生成する工程と、固化した前記溶融体を所定量の溶媒で溶解して懸濁液を生成する工程と、前記懸濁液を沈殿物と液体物に固液分離する工程と、前記沈殿物を酸溶液との反応により溶解する工程とを備える。
【0011】
ここで、ニオブ、またはタンタルの少なくとも一元素を含む粉末状物質にアンモニウム塩を混合した溶融体を生成する工程を備えることにより、後記する通り、混合物を溶融して粉末状物質とアンモニウム塩を反応させ、フッ化水素酸以外の酸に可溶な化学形態に変化させることができる。このとき、ニオブ、またはタンタルの少なくとも一元素を含む物質が粉末状であることにより、アンモニウム塩との反応速度を早めることができる。
【0012】
また、溶融体を生成する工程は、粉末状物質に粉末状のアンモニウム塩を混合した混合物を生成する工程を有する場合には、生成した混合物を加熱することで粉末状物質とアンモニウム塩の反応を促進することができる。
【0013】
また、溶融体を生成する工程は、粉末状物質と溶融状のアンモニウム塩とを混合した混合物を生成する工程を有する場合には、予め溶融状にしたアンモニウム塩に粉末状物質を混合した混合物をさらに加熱することで、粉末状物質とアンモニウム塩の反応を促進することができる。
【0014】
また、混合物を所定の条件で溶融して溶融体を生成する工程を備えることにより、混合物に含まれているニオブやタンタルを含む粉末状物質とアンモニウム塩を反応させて溶融体を生成することができる。ここで、ニオブやタンタルを含む物質は強固な酸化物固溶体を形成するが、熱分解したアンモニウム塩の高い化学活性により、酸化物固溶体の結合を切断し、フッ化水素酸以外の一般的な酸にも可溶な物質とすることができる。
【0015】
また、固化した溶融体を所定量の溶媒で溶解して懸濁液を生成する工程を備えることにより、未反応のアンモニウム塩やその他の不純物を水溶液等の溶媒で溶解することができる。このとき生成される懸濁液は、後記する固液分離により沈殿物と液体物に容易に分離することができる。
【0016】
また、懸濁液を沈殿物と液体物に固液分離する工程を備えることにより、固液分離により得られた沈殿物は大半の不純物が除去された純粋な状態に近いニオブやタンタルを含有する化合物となるため、一般的な酸に可溶な物質となる。一方の液体物はアンモニウム含有廃液として廃棄するか、或いは再生のうえアンモニウム塩として再利用することも可能となる。
【0017】
また、沈殿物を酸溶液で溶解する工程を備えることにより、前記した通り、沈殿物は一般的な酸にも可溶な物質形態となっているため、例えば危険性の高い酸であるフッ化水素酸を用いることなく、容易に溶解して液化処理することができる。液化処理されたニオブやタンタルを含有する溶液は、例えば精製工程を経て相互に分離、還元などを行い、製品である金属、酸化物、フッ化物などに加工することができる。
【0018】
また、混合物を生成する工程は、粉末状物質に対する重量比で略2倍以上のアンモニウム塩を混合する場合には、ニオブやタンタルを含有する粉末状物質との反応を促進し、粉末状物質を溶融体とすることができる。
【0019】
なお、混合するアンモニウム塩の量は多いほど反応速度も高まるが、アンモニウム塩の使用量に比例して加熱エネルギーや排水量が多くなるとともに、反応に使用する反応槽も大規模なものが必要となる。従って、混合するアンモニウム塩の上限については、反応コストを考慮しつつ適宜変更することができる。
【0020】
また、溶融体を生成する工程は、溶融体の温度が略400~500℃となるように所定時間加熱する場合には、アンモニウム塩が融点に達して液化し、その後沸点付近まで昇温することで、粉末状物質を溶融体に取り込むことが可能となる。なおアンモニウム塩として、例えば後記する硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウムを使用する場合には、その融点が略147℃であるため、低温であっても反応を促進することができる。
【0021】
なお、溶融体の温度が略400℃未満となる加熱条件の場合には、アンモニウム塩が融点(硫酸水素アンモニウムであれば略147℃)に達するまでに長時間を要するとともに、使用するアンモニウム塩の種類によっては沸点まで達することができず、粉末状物質を溶融体に取り込むことができない虞がある。
【0022】
また、溶融体の温度が略500℃以上となる加熱条件の場合には、反応速度を早めることはできるものの、溶融体の温度を500℃以上に保持するためのエネルギーコストが大きくなることが懸念される。従って、低コストで、かつ粉末状物質を確実に溶融体に取り込むためには、溶融体の温度が略400~500℃となるように加熱条件を設定することが好ましい。
【0023】
また、懸濁液を生成する工程は、溶融体の重量に対して略1倍以上の水溶液を使用する場合には、溶融体を生成する工程において生じる未反応のアンモニウム塩や溶融体に存在する不純物を溶解することができる。なお、水溶液としては、例えば蒸留水、純水、イオン交換水、水道水、或いは希薄な酸から適宜選択することができる。また、水溶液の上限については、後工程である固液分離を考慮して適宜変更することができる。
【0024】
また、アンモニウム塩は、硫酸水素アンモニウム、または硫酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である場合には、粉末状物質を容易に溶融体とすることができるとともに、ニオブやタンタルに対する反応性も高いため、粉末状物質から安定的にニオブやタンタルを含有する沈殿物を液化処理することができる。
【0025】
また、酸溶液は塩酸、硫酸、硝酸から選択される少なくとも1種である場合には、取り扱いに際して特段の危険性を伴わない塩酸、硫酸、硝酸を用いて液化処理することができる。これは、不純物が取り除かれた純粋に近い状態のニオブやタンタルを含有する沈殿物が、酸イオンと結合した化合物に変化することで一般的な酸にも可溶な状態となるためである。
【0026】
また、従来、ニオブやタンタルを含有する化学物質の液化処理に使用していたフッ化水素酸を用いる場合であっても、不純物が取り除かれた純粋に近い状態のニオブやタンタルを含有する沈殿物に対しては、極少量のフッ化水素酸により液化処理することが可能となる。従って、従来の処理に比べてフッ化水素酸の使用量を大幅に削減することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るニオブ、及びタンタルの液化処理方法は、ニオブやタンタルを含有する製錬原料から安全かつ効率的にニオブ、及びタンタルを液化処理することができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係るニオブ、及びタンタルの液化処理方法の工程図である。
【
図2】粉末状物質に硫酸水素アンモニウムを混合した状態の外観写真である。
【
図3】混合物を加熱して溶融体となった状態の外観写真である。
【
図4】溶融体を水溶液で溶解し懸濁液となった状態の外観写真である。
【
図5】懸濁液を固液分離することにより得られた沈殿物の外観写真である。
【
図6】粉末状物質に混合する硫酸水素アンモニウムの量に応じたニオブ、及びタンタルの浸出率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係るニオブ、及びタンタルの液化処理方法について図面等を用いて詳細に説明し、本発明の理解に供する。
【0030】
図1は本発明の実施形態に係るニオブ、及びタンタルの液化処理方法の工程図を示す。ニオブ、及びタンタルの液化処理方法は、ニオブとタンタルを所定量含有するとともに所定の粒径に粉砕した粉末状物質(製錬原料)に所定量のアンモニウム塩を混合して混合物を生成し(工程1)、工程1で生成した混合物を加熱して溶融体を生成し(工程2)、工程2の反応により生じた溶融体を水溶液で溶解して懸濁液を生成し(工程3)、工程3で生成した懸濁液を沈殿物とアンモニウム含有廃液に固液分離し(工程4)、沈殿物を酸溶液との反応により溶解する(工程5)、各工程から主に構成される。
【0031】
ここで、本発明の適用範囲としては主に鉱石を想定するが、ニオブやタンタルを含有するものであれば、例えばスズなどの製錬残渣、或いは廃電子材料を含むスクラップ材などについても適用することができ、それらを含めて「製錬原料」と定義する。なお、粉砕された製錬原料の粒度については特に限定されるものはないが、粒度は小さいほどアンモニウム塩との反応を促進することができる。
【0032】
また、ニオブとタンタルは一般的に鉱石中に共存するものであるが、ニオブまたはタンタルのうち少なくとも一元素を含有する製錬原料であれば本発明を適用することができる。
【0033】
また、反応に使用するアンモニウム塩は基本的には固体のものを使用するが、アンモニウム塩の水溶液を使用することもできる。このとき、アンモニウム塩の水溶液と製錬原料を混合して加熱すると、まず水分が蒸発し、やがて固体のアンモニウム塩が析出して溶融体が生成される。したがってアンモニウム塩の水溶液を使用する場合であっても、反応の途中で固体のアンモニウム塩が生成されたうえで反応が促進される。
【0034】
また、アンモニウム塩としては、ニオブまたはタンタルとの反応促進という観点では、例えば硫酸水素アンモニウム、或いは硫酸アンモニウムを使用することが好ましいが、これらに限定されるものではなく、ニオブまたはタンタルとの反応が可能なアンモニウム塩から適宜選択することができる。
【0035】
反応に使用するアンモニウム塩の量は、製錬原料に対する重量比で略2倍以上を目安として使用することが好ましいが、これに限定されるものではない。但し、アンモニウム塩の量が製錬原料の重量比で略2倍未満となる場合には十分に反応が進まず、製錬原料を溶融体に取り込むことができない虞がある。
【0036】
なお、アンモニウム塩が多いほど製錬原料との反応が促進されて容易に溶融体となるが、反応のための加熱エネルギーや排水量、さらには大規模な反応槽が必要となるため、アンモニウム塩の上限については処理コストを考慮したうえで適宜変更することができる。
【0037】
製錬原料とアンモニウム塩の反応温度については、使用するアンモニウム塩の沸点に応じて適宜変更することができる。例えば、アンモニウム塩として硫酸水素アンモニウを使用する場合には、略147℃以上で液化して製錬原料と反応し始め、沸点である490℃程度まで昇温すると製錬原料を溶融体に取り込むことができる。なお、アンモニウム塩として硫酸アンモニウムを使用する場合には、略120℃以上で液化して製錬原料と反応し始め、略350℃で硫酸水素アンモニウムへと変化し、その後は同様の反応となる。
【0038】
前記した通り、製錬原料である鉱石中のニオブとタンタルは互いに結合した状態で共存するが、熱分解したアンモニウム塩の高い化学活性によってニオブとタンタルの結合を切断し、フッ化水素酸以外の一般的な酸にも可溶な化学形態に変化させることが可能となる。
【0039】
アンモニウム塩との反応で生成された溶融体には未反応のアンモニウム塩や不純物が残存する。そのため、溶融体に所定量の水溶液を加え懸濁液を生成することにより、これら不純物等を除去しやすくなる。水溶液は溶融体の重量に対して略1倍以上を目安として加える。例えば、アンモニウム塩として硫酸水素アンモニウムや硫酸アンモニウムを使用する場合には、これらアンモニウム塩の飽和溶解度、加熱による揮発量、或いは製錬原料の分解量を考慮すると、溶融体の重量に対して略1倍以上を加えることで、残存するアンモニウム塩や不純物を完全に溶解させることができる。
【0040】
なお、使用する水溶液としては、蒸留水、純水、イオン交換水、水道水等から適宜選択をして使用することができる。また、希薄な酸を溶媒として使用することも可能である。
【0041】
溶融体に水溶液を加えて生成した懸濁液は、固液分離により液体物とニオブやタンタルが含有された沈殿物に分離される。ここで、固液分離の方法としては、濾過方式、圧力方式、及び遠心分離方式等、公知の固液分離方式から適宜選択をすることができる。
【0042】
沈殿物は不純物を殆ど含有しない純粋に近いニオブとタンタルからなり、さらに酸イオンと結合することでフッ化水素酸以外の一般的な酸に溶解可能な化合物となっている。ここで、溶解に使用する酸としては、例えば高濃度の塩酸、硫酸、硝酸等を使用することができる。さらに、フッ化水素酸を用いる場合であっても、従来技術に比べて極少量で容易に酸溶解することができるため、希少価値の高いフッ化水素酸を大量に使用する必要がない。
【0043】
酸溶解されたニオブとタンタルを含む水溶液はその後の製錬工程で相互に分離、還元などを行い、製品である金属、酸化物、フッ化物などに加工することが可能となる。
【0044】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0045】
<混合物の生成>
製錬原料として略32μm以下に粉砕した粉末状のコロンバイト鉱石0.01gに対して粉末状の硫酸水素アンモニウをム0.05~0.3gを試験管に入れて混合物とした(
図2)。
【0046】
<溶融体の生成>
試験管をエバポレーターに装着し、100rpmの速度で回転させながら試験管の底部をガスバーナーで7分間程度加熱した。硫酸水素アンモニウムの融点は略147℃であるため、加熱により試験管内の混合物は速やかに溶融体となった(
図3)。溶融体は室温に曝すことで、一定時間で固体物となる。
【0047】
<懸濁液の生成>
溶融体が固化した固体物の重量の2倍程度の水溶液(本発明の実施例においてはイオン交換水)を試験管に入れて十分に撹拌した。このとき、固体物に残存する未反応の硫酸水素アンモニウムや不純物は水溶液中に溶解し、白色の微粒子が懸濁した懸濁液が生成された(
図4)。
【0048】
<懸濁液の固液分離>
懸濁液を遠心分離により固液分離することで、白色沈殿物を回収した(
図5)。
【0049】
<白色沈殿物の酸溶解>
固液分離により得られた白色沈殿物を高濃度の塩酸に入れると容易に溶解して溶解液が生成された。
【0050】
<溶解液の測定>
酸溶解により生成された溶解液中のニオブとタンタルの濃度をICP発光分光分析装置により測定した結果を
図6に示す。
【0051】
図6に示すように、コロンバイト鉱石の重量に対して10倍未満の硫酸水素アンモニウムを混合して反応させた場合には、ニオブ、及びタンタルの溶解率は60%前後となる。一方、コロンバイト鉱石の重量に対して10倍以上の硫酸水素アンモニウムを混合して反応させると、ニオブとタンタルの90%以上が溶解できることが確認できた。
【0052】
以上、本発明に係るニオブ、及びタンタルの液化処理方法は、ニオブやタンタルを含有する製錬原料から安全かつ効率的にニオブ、及びタンタルを液化処理することができるものとなっている。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ、またはタンタルの少なくとも一元素を含む粉末状物質にアンモニウム塩を混合した溶融体を生成する工程と、
固化した前記溶融体を所定量の溶媒で溶解して懸濁液を生成する工程と、
前記懸濁液を沈殿物と液体物に固液分離する工程と、
前記沈殿物を酸溶液との反応により溶解する工程と、を備える
ニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項2】
前記溶融体を生成する工程は、前記粉末状物質と粉末状の前記アンモニウム塩とを混合した混合物を生成する工程を有する、
請求項1に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項3】
前記溶融体を生成する工程は、前記粉末状物質と溶融状の前記アンモニウム塩とを混合した混合物を生成する工程を有する、
請求項1に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項4】
前記溶融体を生成する工程は、前記粉末状物質に対する重量比で2倍以上の前記アンモニウム塩を混合する
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項5】
前記溶融体を生成する工程は、溶融体の温度が400~500℃となるように所定時間加熱する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項6】
前記懸濁液を生成する工程は、前記溶融体の重量に対して1倍以上の水溶液を使用する
請求項1から請求項5の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項7】
前記アンモニウム塩は、硫酸水素アンモニウム、または硫酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である
請求項1から請求項6の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【請求項8】
前記酸溶液は塩酸、硫酸、硝酸、及びフッ化水素酸から選択される少なくとも1種である
請求項1から請求項7の何れか一項に記載のニオブ、及びタンタルの液化処理方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
<混合物の生成>
製錬原料として略32μm以下に粉砕した粉末状のコロンバイト鉱石0.01gに対して粉末状の硫酸水素アンモニ
ウム0.05~0.3gを試験管に入れて混合物とした(
図2)。