(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014145
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ナノワイヤ付きフィルム及びナノワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220112BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220112BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20220112BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20220112BHJP
C01G 9/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C08J5/18 CER
C08J7/00 Z CEZ
B29C59/02 Z
C01G9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116334
(22)【出願日】2020-07-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】獅野 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】平田 肇
(72)【発明者】
【氏名】池田 宗和
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
4F100
4F209
4G047
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA20
4F071AA21
4F071AA22
4F071AA24
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4F073AA28
4F073EA01
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4F073EA24
4F073EA53
4F073GA01
4F073HA05
4F100AA17B
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4F100AK01A
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4F209PC06
4F209PC08
4F209PN03
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4F209PW31
4G047AA02
4G047AB02
4G047AD02
4G047AD04
(57)【要約】
【課題】基材上に結晶配向の揃ったナノワイヤが直接成長したナノワイヤ付きフィルムを提供する。
【解決手段】樹脂からなる基材10と、基材上に直接成長した金属酸化物からなるナノワイヤ12とを備えたナノワイヤ付きフィルムであって、基材の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aが形成され、凹凸構造から金属酸化物からなる結晶配向の揃ったナノワイヤが直接成長している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる基材と、
前記基材上に直接成長した金属酸化物からなるナノワイヤと
を備えたナノワイヤ付きフィルムであって、
前記基材の表面に、規則正しい微細な凹凸構造が形成され、該凹凸構造から前記金属酸化物からなる結晶配向の揃ったナノワイヤが直接成長している、ナノワイヤ付きフィルム。
【請求項2】
前記規則正しい微細な凹凸構造は、ピッチが0.01~50μm、深さが0.005~50μmの大きさに形成されている、請求項1に記載のナノワイヤ付きフィルム。
【請求項3】
前記樹脂は、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリシロキサン、芳香族ポリエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッカビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン及びシクロオレフィンの何れかからなる、請求項1または2に記載のナノワイヤ付きフィルム。
【請求項4】
前記金属酸化物は、酸化亜鉛または酸化チタンからなる、請求項1~3の何れかに記載のナノワイヤ付きフィルム。
【請求項5】
樹脂からなる基材の表面に、規則正しい微細な凹凸構造を形成する工程(a)と、
前記基材を水熱合成溶液に浸漬させて熱処理し、金属酸化物からなる結晶配向の揃ったナノワイヤを、前記基材の表面に直接成長させる熱処理工程(b)と
を含むナノワイヤの製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)において、前記規則正しい微細な凹凸構造を、ピッチが0.01~50μm、深さが0.005~50μmの大きさに形成する、請求項5に記載のナノワイヤの製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)において、前記規則正しい微細な凹凸構造を、インプリント、フォトリソグラフィー、及びレーザー加工の何れかを用いて形成する、請求項5または6に記載のナノワイヤの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂は、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリシロキサン、芳香族ポリエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッカビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン及びシクロオレフィンの何れかからなる、請求項5~7の何れかに記載のナノワイヤの製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物は、酸化亜鉛または酸化チタンからなる、請求項5~8の何れかに記載のナノワイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上にナノワイヤが成長したナノワイヤ付きフィルム、及び基材上へのナノワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛等の金属酸化物からなるナノワイヤ(ナノロッド)の製造方法として、化学気相法、レーザー堆積法、水熱合成法など、様々な方法が知られている。
【0003】
これらのうち、水熱合成法は、比較的簡単にナノワイヤを製造することができる。例えば、特許文献1には、表面にシード層が形成された基材を、硝酸亜鉛とヘキサメチレンテトラミンとを混合した水溶液に浸漬して、酸化亜鉛からなるナノワイヤを成長させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のナノワイヤの製造方法は、例外なく、基材の上に、予め、ナノワイヤを成長させるためのシード層、あるいは、Au、Ag、Cu、Cr、Si、Znなどの金属層や、SiO2、Al2O3などの金属酸化層に代表される中間層を形成する必要があった。そのため、製造コストが高くなるという問題があった。また、ナノワイヤを利用してデバイスを作製したとき、シード層がデバイス性能を劣化させる要因(例えば、振動センサでは、シード層が共通層となり、信号にノイズが入り、感度が低下する)という問題があった。また、ナノワイヤを利用したデバイスの機能等を向上させるために、結晶配向の揃ったナノワイヤが要望されている。
【0006】
然るに、今まで、基材上にシード層や中間層を形成することなく、直接、結晶配向の揃ったナノワイヤを成長させる方法はなかった。従来技術においては、余計な粉末層の形成、並びに粉末の落下及びスキージにおける非効率的な作動を改善する方法については何ら提言が行われていない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は、基材上に結晶配向の揃ったナノワイヤが直接成長したナノワイヤ付きフィルム、及び基材上に直接、結晶配向の揃ったナノワイヤを成長させるナノワイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るナノワイヤ付きフィルムは、樹脂からなる基材と、基材上に直接成長した金属酸化物からなるナノワイヤとを備え、基材の表面に、規則正しい微細な凹凸構造が形成され、該凹凸構造から金属酸化物からなる結晶配向の揃ったナノワイヤが、直接成長している。
【0009】
本発明に係るナノワイヤの製造方法は、樹脂からなる基材の表面に、規則正しい微細な凹凸構造を形成する工程と、基材を水熱合成溶液に浸漬させて熱処理し、金属酸化物からなる結晶配向の揃ったナノワイヤを、基材の表面に直接成長させる熱処理工程とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材上に結晶配向の揃ったナノワイヤが直接成長したナノワイヤ付きフィルム、及び基材上に直接、結晶配向の揃ったナノワイヤを成長させるナノワイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)~(C)は、本発明の一実施形態におけるナノワイヤの製造方法を示した図である。
【
図2】(A)~(G)は、凹凸構造の配列を例示した図である。
【
図3】シクロオレフィンポリマーフィルムを熱処理した後のシクロオレフィンポリマーフィルム表面を、電界放出型走査電子顕微鏡で撮影した写真である。
【
図4】(A)~(D)は、インプリント法を用いた凹凸構造の形成方法を示した図である。
【
図5】インプリント法を用いて形成した凹凸構造の電界放出型走査電子顕微鏡写真である。
【
図6】(A)~(D)は、2段階熱処理でナノワイヤを形成する製造方法を示した図である。
【
図7】水熱合成溶液を熱処理した後、水熱合成溶液内に生じる析出分を、X線回折装置を用いて元素分析した波形を示す。
【
図8】シクロオレフィンポリマーフィルムの2段階熱処理工程における温度プロファイルを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明者等は、樹脂フィルム上に、シード層や中間層を形成することなく、直接ナノワイヤを成長させる方法を見出し、先の出願(特願2020-001840)の明細書に、その基本的な方法を開示している。
【0013】
すなわち、樹脂フィルムの表面に微細な凹凸構造を形成した後、樹脂フィルムを水熱合成溶液に浸漬させることによって、基材の表面にナノワイヤを直接成長させることができる。基材の表面にナノワイヤが直接成長する詳しいメカニズムは明らかではないが、樹脂フィルムの表面に形成された微細な凹凸構造が、従来のシード層や中間層のように、ナノワイヤが成長する核の役目を果たしていると考えられる。
【0014】
本願発明者等は、さらに検討を重ねた結果、樹脂フィルム等の基材の表面に、結晶配向の揃ったナノワイヤを成長させることができる新たな方法を見出した。
【0015】
図1(A)~(C)は、本発明の一実施形態におけるナノワイヤの製造方法を示した図である。なお、以下の実施形態では、シクロオレフィンポリマーフィルムからなる基材上に、ZnO(酸化亜鉛)を形成する場合を例に説明する。
【0016】
まず、
図1(A)に示すように、ナノワイヤを成長させる基材10として、シクロオレフィンポリマーフィルム10を用意する。シクロオレフィンポリマーフィルム10の厚みは、例えば、50~500μmである。
【0017】
次に、
図1(B)に示すように、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aを形成する。凹凸構造10Aは、ピッチが0.01~50μm、深さが0.005~50μmの範囲にあることが好ましい。凹凸構造10Aの形成方法は特に限定されないが、例えば、インプリント、フォトリソグラフィー、レーザー加工等で形成することができる。
【0018】
ここで、規則正しい微細な凹凸構造10Aとは、凹凸構造10Aが、一定の配列方向を有する構造をいう。凹凸構造10Aが、一定の配列方向に配列していれば、凹部または凸部が等ピッチに配列していることに限らず、間欠的に配列されていてもよい。また、配列中の凹部または凸部の一部が欠落していても、全体として一定の方向に配列を有していればよい。
【0019】
例えば、本実施形態における凹凸構造10Aは、
図2(A)~(G)に例示すように、(A)同一形状の凹凸構造10Aが、縦横方向に同じピッチ(L1=L2)で配列されているもの、(B)同一形状の凹凸構造10Aが、縦横方向に異なるピッチ(L1≠L2)で配列しているが異なるもの、(C)凹凸構造10Aの配列方向の位相が異なるもの、(D)凹凸構造10Aの一部が欠落しているもの、(E)異なる形状の凹凸構造10Aが縦横方向に配列されているものを含み、また、凹凸構造10Aの形状が、(F)ピラミッド形状(四角錐)、(G)三角錐形状であるものも含む。
【0020】
次に、
図1(C)に示すように、シクロオレフィンポリマーフィルム10を、容器20に入れられた水熱合成溶液21に浸漬させて熱処理する。水熱合成溶液21は、例えば、硝酸亜鉛(Zn(NO
3)
2/6H
2O)と、ヘキサメチレンテトラミン(C
6H
12N
4)とを混合した水溶液を用いることができる。
【0021】
水熱合成溶液40に含まれる亜鉛源として、上記の硝酸亜鉛の他に、水溶性Zn化合物(硫酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛の水和物および無水物など)や、不溶解性Zn化合物ナノ粒子(水酸化亜鉛)を用いることができる。また、水熱合成溶液40に含まれる水酸基源として、上記のヘキサメチレンテトラミンの他に、アミン系有機物(メチルアミン、アニリン、トリメチルアミン、エチレンジアミンなど)を用いることができる。
【0022】
また、ポリイミドフィルム10の熱処理は、水熱合成溶液40を常圧下で行っても、あるいは加圧下で行ってもよい。
【0023】
図3(A)、(B)は、シクロオレフィンポリマーフィルム10の熱処理工程を行った後のシクロオレフィンポリマーフィルム10の表面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で撮影した写真である。
図3(A)に示すように、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、結晶配向の揃ったZnOからなるナノワイヤ12が形成されているのが分かる。また、
図3(B)に示すように、ZnOからなるナノワイヤ12は、凹凸構造10Aの凹部から、凹凸構造の面方向に沿って、伸びているのが分かる。すなわち、ナノワイヤ12は、凹部の面に対して、ほぼ垂な直方向に伸びるように形成されている。
【0024】
このように、本実施形態では、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aを形成することによって、結晶配向の揃ったZnOからなるナノワイヤ12を形成することができる。
【0025】
図4(A)~(D)は、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aを形成する方法の一例として、インプリント法を用いた凹凸構造10Aの形成方法を示した図である。
【0026】
図4(A)に示すように、シクロオレフィンポリマーフィルム10の上方に、凹凸構造30Aが形成された金型30を配置する。凹凸構造30Aは、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に形成する凹凸構造10Aの寸法に合わせて形成されている。
【0027】
次に、
図4(B)に示すように、シクロオレフィンポリマーフィルム10及び金型30を所定の温度に加熱して、金型30の凹凸構造30Aが形成された面を、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に押しつける。これにより、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に凹凸が形成される。
【0028】
次に、
図4(C)に示すように、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面が、金型30の凹凸構造30Aと同じ凹凸構造10Aが成形された状態で、シクロオレフィンポリマーフィルム10及び金型30を冷却した後、
図4(D)に示すように、金型30をシクロオレフィンポリマーフィルム10から離型させる。これにより、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、金型30の凹凸構造30Aが転写された凹凸構造10Aが形成される。
【0029】
図5は、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、インプリント法を用いて形成した凹凸構造10Aを示した電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の写真である。インプリント法を用いることによって、ピッチが1μm以下の微細な凹凸構造10Aでも、容易に形成することができる。
【0030】
本実施形態では、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aを形成し、シクロオレフィンポリマーフィルム10を水熱合成溶液21に浸漬させて熱処理することによって、ZnO(金属酸化物)からなる結晶配向の揃ったナノワイヤ12を、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に直接成長させることができる。
【0031】
ここで、シクロオレフィンポリマーフィルム10の熱処理工程を、2段階で行ってもよい。
【0032】
図6(A)~(D)は、シクロオレフィンポリマーフィルム10を2段階熱処理することにより、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に直接ナノワイヤの形成する方法を示した図である。
【0033】
まず、
図6(A)に示すように、ナノワイヤを成長させる基材10として、シクロオレフィンポリマーフィルム10を用意する。
【0034】
次に、
図6(B)に示すように、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aを形成する。凹凸構造10Aは、ピッチが0.01~50μm、深さが0.005~50μmの範囲にあることが好ましい。
【0035】
次に、
図6(C)に示すように、第1段階として、シクロオレフィンポリマーフィルム10を低温(第1の温度)で、容器20に入れられた水熱合成溶液21に浸漬させて熱処理する(第1の熱処理工程)。水熱合成溶液21は、例えば、硝酸亜鉛(Zn(NO
3)
2/6H
2O)と、ヘキサメチレンテトラミン(C
6H
12N
4)とを混合した水溶液を用いることができる。
【0036】
水熱合成溶液40に含まれる亜鉛源として、上記の硝酸亜鉛の他に、水溶性Zn化合物(硫酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛の水和物および無水物など)や、不溶解性Zn化合物ナノ粒子(水酸化亜鉛)を用いることができる。また、水熱合成溶液40に含まれる水酸基源として、上記のヘキサメチレンテトラミンの他に、アミン系有機物(メチルアミン、アニリン、トリメチルアミン、エチレンジアミンなど)を用いることができる。
【0037】
また、ポリイミドフィルム10の熱処理は、水熱合成溶液40を常圧下で行っても、あるいは加圧下で行ってもよい。
【0038】
このとき、
図6(C)に示すように、水熱合成溶液21中の亜鉛イオン(Zn
2+)と、水酸基(OH
―)が結合して、ZnOの前駆体であるZn(OH)
2(水酸化亜鉛)11が、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に付着する。第1の熱処理工程における熱処理温度(第1の温度)は、30~60℃の範囲が好ましい。また、熱処理時間は、1~180分の範囲が好ましい。
【0039】
次に、
図6(D)に示すように、第2段階として、シクロオレフィンポリマーフィルム10を第2の温度で、水熱合成溶液21に一定時間浸漬させて熱処理する(第2の熱処理工程)。このとき、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に付着したZn(OH)
2は、脱水反応(Zn(OH)
2→ZnO+H
2O)によりZnOに変わる。これにより、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面にZnOの棒状結晶からなるナノワイヤ12が形成される。同時に、水熱合成溶液21で発生したZnOが析出・沈降して、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に形成されたZnOと結合して、ナノワイヤ12が成長する。第2の熱処理工程における熱処理温度(第2の温度)は、60℃~シクロオレフィンポリマーフィルム(基材)の耐熱温度の範囲が好ましい。また、熱処理時間は、1~180分の範囲が好ましい。
【0040】
図7は、硝酸亜鉛とヘキサメチレンテトラミンの水熱合成溶液21を熱処理した際に生じる析出物を、X線回折装置を用いて計測した波形を示す。なお、水熱合成溶液21の熱処理工程は、
図8に示した温度プロファイルに示すように、水熱合成溶液21を室温から50℃(第1の温度)に上昇させ、50℃の温度を1時間キープし、その後、90℃(第2の温度)に上昇させ、90℃の温度を1時間キープして行った。
【0041】
図7(A)は、水熱合成溶液21を、50℃、1時間熱処理(第1の熱処理工程)したときの波形を示し、
図7(C)は、水熱合成溶液21を、50℃、1時間熱処理した後、90℃、1時間熱処理(第2の熱処理工程)したときの波形を示す。なお、
図7(B)は、Zn(OH)
2の標準波形を示し、
図7(D)は、ZnOの標準波形を示す。
【0042】
図7(A)に示すように、水熱合成溶液21を、50℃、1時間熱処理(第1の熱処理工程)したときの波形では、
図7(B)に示したZn(OH)
2の標準波形で見られるピークと同じピークが確認できる。さらに、強度は低いものの、
図7(D)に示したZnOの標準波形で見られるピークと同じピーク(矢印Pで示したピーク)も確認できる。
【0043】
この結果から、第1の熱処理工程において、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、ZnOの前駆体であるZn(OH)211が付着しているのが分かる。なお、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面には、ZnOもわずかに形成されているが、熱処理温度が低い場合、水熱合成溶液21中の亜鉛イオン(Zn2+)と、水酸基(OH―)との結合が優位に進行して、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、多くのZn(OH)211が付着したと考えられる。
【0044】
また、
図7(C)に示すように、水熱合成溶液21を、50℃、1時間熱処理した後、90℃、1時間熱処理(第2の熱処理工程)したときの析出物の波形では、
図7(D)に示したZnOの標準波形で見られるピークと同じピークが確認できたが、
図7(B)に示したZn(OH)
2の標準波形で見られるピークは確認できなかった。
【0045】
この結果から、第2の熱処理工程において、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に付着したZn(OH)2が、脱水反応を起こして、ZnOからなるナノワイヤ12に変化しているのが分かる。
【0046】
このようにして、シクロオレフィンポリマーフィルム10を2段階で熱処理することによって、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、より多くの結晶配向の揃ったナノワイヤを成長させることができる。
【0047】
以上、説明したように、本実施形態におけるナノワイヤ付きフィルムは、シクロオレフィンポリマーフィルム10(基材)と、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に直接成長したZnOからなるナノワイヤとを備え、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aが形成され、凹凸構造10AからZnO(金属酸化物)からなる結晶配向の揃ったナノワイヤが直接成長している。
【0048】
また、本実施形態におけるナノワイヤの製造方法は、シクロオレフィンポリマーフィルム(基材)10の表面に、規則正しい微細な凹凸構造10Aを形成する工程と、シクロオレフィンポリマーフィルム10を水熱合成溶液21に浸漬させて熱処理し、ZnO(金属酸化物)からなる結晶配向の揃ったナノワイヤ12を、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に直接成長させる熱処理工程とを含む。
【0049】
熱処理工程は、シクロオレフィンポリマーポリイミドフィルム10を、第1の温度で水熱合成溶液21に一定時間浸漬させて熱処理する第1の熱処理工程と、第1の温度よりも高い第2の温度で、水熱合成溶液21に一定時間浸漬させて熱処理する第2の熱処理工程の2段階で行ってもよい。
【0050】
第1の熱処理工程では、ZnOの前駆体であるZn(OH)2が、シクロオレフィンポリマーポリイミドフィルム10の表面に形成される。第2の熱処理工程では、Zn(OH)2が変化して、シクロオレフィンポリマーポリイミドフィルム10の表面にZnOからなるナノワイヤ12が形成される。これにより、シクロオレフィンポリマーポリイミドフィルム10の表面に、より多くのZnOからなる結晶配向の揃ったナノワイヤを直接成長させることができる。
【0051】
ここで、第1の熱処理工程における第1の温度は、Zn(OH)2が形成される温度であればよく、30℃~60℃の範囲が好ましい。30℃より低い温度だと、Zn(OH)2が形成されず、60℃を超える温度だと、Zn(OH)2が優位に形成されず、ZnOの混在が増えるため、好ましくない。
【0052】
第2の熱処理工程における第2の温度は、Zn(OH)2が脱水反応を起こして、ZnOに変化する温度であればよく、60℃~100℃の範囲が好ましい。60℃より低い温度だと、Zn(OH)2の脱水反応が進行せず、100℃を超えると、溶媒の水が蒸発し、ZnO以外の成分が析出する可能性があるため、好ましくない。なお、環境圧力を高くし、溶媒の蒸発を防ぐ場合は、第2の熱処理温度を基材10の耐熱温度まで上げても構わない。第2の熱処理温度が高いほど、ZnOからなるナノワイヤの結晶成長速度が速くなる。
【0053】
本実施形態における効果を得るためには、シクロオレフィンポリマーフィルム10の表面に形成される凹凸構造10Aは、ピッチが0.01~50μm、深さが0.005~50μmの範囲にあることが好ましい。また凹凸構造の面方向は基材に対して、水平方向が好ましい。
【0054】
本実施形態によれば、シクロオレフィンポリマーフィルム10の上に、シード層や中間層を形成することなく、直接、ZnOからなる結晶配向の揃ったナノワイヤを成長させることができるため、製造コストの低減を図ることができる。また、ナノワイヤを利用してデバイスを作製したとき、シード層や中間層に起因するデバイス性能の劣化を防止することができる。加えて、結晶配向の揃ったナノワイヤを形成することができるため、ナノワイヤを利用したデバイスの機能等を向上させることができる。
【0055】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態では、シクロオレフィンポリマーフィルム10を基材に用いて、この基材上にZnOからなるナノワイヤを成長させたが、シクロオレフィンポリマー以外の樹脂として、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミドポリエチレンテレフタラート、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリシロキサン、芳香族ポリエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッカビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等を用いてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、シクロオレフィンポリマーフィルム10の熱処理工程を、第1の熱処理工程と、第2の熱処理工程の2段階で行ったが、第1の温度における熱処理工程、又は、第2の温度における熱処理工程の一方のみの熱処理だけでもよい。また、少なくとも第1の温度における熱処理工程と、第2の温度における熱処理工程を含むものであれば、多段階で行ってもよい。また、第1の熱処理工程と第2の熱処理工程とを繰り返し行ってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、シクロオレフィンポリマーフィルム10上にZnOナノワイヤ12を成長させたが、これに限定されず、酸化チタン(TiO)等の他の金属酸化物からなるナノワイヤを成長させることができる。
【符号の説明】
【0059】
10 シクロオレフィンポリマーフィルム(基材)
10A 微細な凹凸構造
11 Zn(OH)2(前駆体)
12 ZnOナノワイヤ
20 容器
21 水熱合成溶液
30 金型
30A 凹凸構造