(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141467
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】光学機器
(51)【国際特許分類】
G03B 21/00 20060101AFI20220921BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220921BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20220921BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
G03B21/00 E
G02B5/30
G03B21/14 Z
G02F1/13 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041786
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】武田 吐夢
(72)【発明者】
【氏名】佐川 秀人
【テーマコード(参考)】
2H088
2H149
2K203
【Fターム(参考)】
2H088EA12
2H088GA01
2H088HA13
2H088HA18
2H088HA23
2H088HA24
2H088MA20
2H149AA17
2H149AB01
2H149BA04
2H149BA23
2H149EA10
2H149EA19
2H149FA42Z
2H149FA43W
2H149FC02
2H149FD09
2H149FD47
2K203FA23
2K203FA24
2K203FA34
2K203FA42
2K203FA44
2K203GB08
2K203GB20
2K203HA34
2K203HB25
2K203MA02
(57)【要約】
【課題】所望の偏光特性を得ることができる光学機器を提供する。
【解決手段】光源と、入射側偏光素子と、光変調素子と、出射側第1偏光素子と、出射側第2偏光素子とを備えた光学機器であって、出射側第1偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、入射側偏光素子の透過軸に対する出射側第1偏光素子の透過軸の回転角が、±8.5°以内であり、出射側第2偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、格子状凸部は、透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層とを有し、入射側偏光素子の吸収軸に対する出射側第2偏光素子の吸収軸の回転角が、±0.7°以内である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、入射側偏光素子と、光変調素子と、出射側第1偏光素子と、出射側第2偏光素子とを備えた光学機器であって、
前記出射側第1偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、前記所定方向に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されたベース形状部と、前記ベース形状部から突出し、前記使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部とを有し、
前記出射側第2偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層とを有し、
前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第1偏光素子の直交軸の回転角が、±8.5°以内であり、
前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第2偏光素子の直交軸の回転角が、±0.7°以内である、光学機器。
【請求項2】
前記出射側第1偏光素子は、前記入射側偏光素子の直交軸に対する回転角が±8.5°以内である場合、可視光領域の全帯域のP偏光透過率が95%以上であり、可視光領域の全帯域のP偏光透過率の回転角0°の位置からの変化量が-1%以下である請求項1記載の光学機器。
【請求項3】
前記出射側第2偏光素子は、前記入射側偏光素子の直交軸に対する回転角が±0.7°以内である場合、可視光領域の全帯域のコントラスト比が1000以上であり、可視光領域の全帯域のコントラスト比の回転角0°の位置からの変化量が-20%以下である請求項1記載の光学機器。
【請求項4】
前記出射側第2偏光素子が、前記透明基板の他方の面に反射防止層をさらに備える請求項1又は2記載の光学機器。
【請求項5】
前記出射側第2偏光素子における前記凸部の表面及び前記反射防止層の表面が、誘電体からなる保護膜に覆われている請求項4記載の光学機器。
【請求項6】
前記出射側第2偏光素子における前記保護膜の膜厚が、10nm以下である請求項5記載の光学機器。
【請求項7】
前記出射側第1偏光素子における前記ベース形状部が、前記所定方向に直交する断面において略三角形状である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項8】
前記出射側第1偏光素子が、前記透明基板の他方の面に位相差補償素子が設けられている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項9】
前記出射側第1偏光素子における前記突起部が、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する、金属、合金及び半導体からなる群から選択された材料からなる請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項10】
光源と、入射側偏光素子と、光変調素子と、出射側第1偏光素子と、出射側第2偏光素子とを備えた光学機器の製造方法であって、
前記出射側第1偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、前記所定方向に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されたベース形状部と、前記ベース形状部から突出し、前記使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部とを有し、
前記出射側第2偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層とを有し、
前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第1偏光素子の直交軸の回転角が、±8.5°以内となるように前記出射側第1偏光素子を配置する工程と、
前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第2偏光素子の直交軸の回転角が、±0.7°以内となるように前記出射側第2偏光素子を配置する工程とを有する、光学機器の製造方法。
【請求項11】
透過型の液晶プロジェクターである、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、偏光素子を備える光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光素子は、一方向の偏光を吸収し、これと直交する方向の偏光を透過させる光学素子である。液晶表示装置では、原理上、偏光素子が必要となる。特に、透過型液晶プロジェクターのような、光量の大きな光源を使用する液晶表示装置では、偏光素子は強い輻射線を受けるため、優れた耐熱性や耐光性が必要となるとともに、数cm程度の大きさと、高い消光比および反射率特性の制御が要求される。これらの要求に応えるための、ワイヤグリッド型の無機偏光素子が提案されている。
【0003】
ワイヤグリッド型の偏光素子は、一方向に延在する導体のワイヤを基板上に、使用する光の波長の帯域よりも狭いピッチ(数十nm~数百nm)で多数並べて配置した構造を有する。この偏光素子に光が入射すると、ワイヤの延在方向に平行な偏光(TE波(S波))は透過することができず、ワイヤの延在方向に垂直な偏光(TM波(P波))は、そのまま透過する。
【0004】
ワイヤグリッド型の偏光素子は、耐熱性や耐光性に優れ、比較的大きな素子が作製でき、高い消光比を有している。また、多層構造とすることで反射率特性の制御も可能となり、偏光素子の表面で反射された戻り光が液晶プロジェクターの装置内で再度反射されて生じる、ゴースト等による画質の劣化を低減させることから、液晶プロジェクター等の用途に適している。
【0005】
これに対して、ワイヤグリッド型の偏光板として、種々の偏光板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5184624号公報
【特許文献2】特許第5359128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1には、基体上に、入射光の波長よりも長い長さと、入射光の波長の半分よりも短い周期とを有する、延設金属素子の配列からなるワイヤグリッド層を備えている、偏光素子が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、可視光に対して透明な基板上に、回折格子形状の凹凸部と、その凸部の一部に無機微粒子層を有する、偏光素子が開示されている。
【0009】
しかしながら、これらの特許文献には、偏光素子のグリッド構造について記載されているものの、具体的な光学特性については述べられておらず、また、その性能が十分に発揮できる使われ方についても記載されていない。
【0010】
近年、照明・ディスプレイ光源は、水銀ランプからLED、そしてレーザーへと進化しており、液晶プロジェクターにおいても、半導体レーザー(LD)を複数用いることで高光束とし、高輝度化を図っている。それにより、偏光素子は、高光度な強い光の環境下においても耐えつつ、高い透過率特性が求められている。そのためには、出射側の偏光素子にかかる負担軽減が必要であり、プリ偏光素子とメイン偏光素子との2枚の使用が必須となり、その性能が十分に発揮される使われ方が求められることになる。
【0011】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、所望の偏光特性を得ることができる光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本技術は、光源と、入射側偏光素子と、光変調素子と、出射側第1偏光素子と、出射側第2偏光素子とを備えた光学機器であって、前記出射側第1偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、前記所定方向に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されたベース形状部と、前記ベース形状部から突出し、前記使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部とを有し、前記出射側第2偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層とを有し、前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第1偏光素子の直交軸の回転角が、±8.5°以内であり、前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第2偏光素子の直交軸の回転角が、±0.7°以内である。
【0013】
また、本技術は、光源と、入射側偏光素子と、光変調素子と、出射側第1偏光素子と、出射側第2偏光素子とを備えた光学機器の製造方法であって、前記出射側第1偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、前記所定方向に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されたベース形状部と、前記ベース形状部から突出し、前記使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部とを有し、前記出射側第2偏光素子は、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、前記凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、該格子状凸部は、前記透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層とを有し、前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第1偏光素子の直交軸の回転角が、±8.5°以内となるように前記出射側第1偏光素子を配置する工程と、前記入射側偏光素子の直交軸に対する前記出射側第2偏光素子の直交軸の回転角が、±0.7°以内となるように前記出射側第2偏光素子を配置する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本技術によれば、出射側第1偏光素子と出射側第2偏光素子との直交角度ズレを最適化することにより、可視光領域の全帯域において、高いP偏光透過率(Tp)及びコントラスト比(CR)を得ることができ、所望の偏光特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る光学機器の構成例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、入射側偏光素子の直交軸に対する回転角を説明するための図である。
【
図3】
図3は、出射側第1偏光素子の第1の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、出射側第1偏光素子の第2の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、出射側第2偏光素子の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、反射防止膜の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、液晶プロジェクターの光学ユニットの一部を模式的に示す上面図である。
【
図8】
図8は、出射プリ偏光板の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフである。
【
図9】
図9は、出射プリ偏光板の緑色帯域におけるS偏光透過率(Ts)の変化量を示すグラフである。
【
図10】
図10は、出射プリ偏光板の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフである。
【
図11】
図11は、
図8に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフである。
【
図12】
図12は、出射メイン偏光板の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフである。
【
図13】
図13は、出射メイン偏光板の緑色帯域におけるS偏光透過率(Ts)の変化量を示すグラフである。
【
図14】
図14は、出射メイン偏光板の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフである。
【
図15】
図15は、
図14に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【
図16】
図16は、出射プリ偏光板(0-30°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフである。
【
図17】
図17は、
図16に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフである。
【
図18】
図18は、出射側プリ偏光板(0-30°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフである。
【
図19】
図19は、
図18に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【
図20】
図20は、出射プリ偏光板(0°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフである。
【
図21】
図21は、
図20に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフである。
【
図22】
図22は、出射プリ偏光板(0°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフである。
【
図23】
図23は、
図22に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【
図24】
図24は、出射プリ偏光板(8.5°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフである。
【
図25】
図25は、
図24に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフである。
【
図26】
図26は、出射プリ偏光板(8.5°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフである。
【
図27】
図27は、
図26に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【
図28】
図28は、比較実験例1の偏光板の断面模式図である。
【
図29】
図29は、実験例1-1~1-4及び比較実験例1の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
【
図30】
図30は、実験例2-1~2-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
【
図31】
図31は、実験例3-1~3-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
【
図32】
図32は、実験例4-1~4-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
【
図33】
図33は、実験例5-1~5-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
【
図34】
図34は、偏光板について、シミュレーションによって計算された、光学特性における透過軸透過率を示すグラフである。
【
図35】実験例1~3について、透過軸透過率を実測した結果を示すグラフである。
【
図36】
図36は、偏光板について、シミュレーションによって計算された透過軸透過率の波長帯域毎の平均透過軸透過率を示すグラフである。
【
図37】
図37は、実験例1~3について、波長帯域毎の平均透過軸透過率を実測した結果を示すグラフである。
【
図38】
図38は、偏光板について、実際に作製し光学特性におけるコントラストを耐熱性評価によって比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.光学機器
2.第1の実施例
3.第2の実施例
4.第3の実施例
【0017】
<1.光学機器>
図1は、本実施の形態に係る光学機器の構成例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る光学機器10は、光源11と、入射側偏光素子12と、光変調素子13と、出射側第1偏光素子14と、出射側第2偏光素子15とを備える。
【0018】
出射側第1偏光素子14は、後述するように、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に前記光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、格子状凸部は、透明基板側から順に、所定方向に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されたベース形状部と、ベース形状部から突出し、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部とを有する。
【0019】
また、出射側第2偏光素子15は、後述するように、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備え、凸部は、所定方向に延在する格子状凸部であり、格子状凸部は、透明基板側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層とを有する。
【0020】
このような構成からなる光学機器10は、出射側第2偏光素子15の手前に出射側第1偏光素子14を配置し、高光度な光の一部を出射側第1偏光素子14が吸収して高放熱することにより、出射側第2偏光素子15の耐性を向上させ、所望の偏光特性を得ることができる。
【0021】
図2は、入射側偏光素子の直交軸に対する回転角を説明するための図である。
図2に示すように、入射側偏光素子12と出射側第1偏光素子14とは、入射側偏光素子12の直交軸に対する出射側第1偏光素子14の直交軸の回転角α
1が±8.5°以内となるように配置され、入射側偏光素子12と出射側第2偏光素子15とは、入射側偏光素子12の直交軸に対する出射側第2偏光素子15の直交軸の回転角α
2が±0.7°以内となるように配置される。
【0022】
出射側第1偏光素子14は、入射側偏光素子12の直交軸に対する回転角α1(直交ズレ角度)が±8.5°以内である場合、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)が95%以上であることが好ましく、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)の0°(回転角α1)の位置からの変化量が-1%以下(減少量が1%以下)であることが好ましい。また、出射側第1偏光素子14は、入射側偏光素子12の直交軸に対する回転角α1(直交ズレ角度)が±8.5°以内である場合、可視光領域の全帯域のコントラスト比(CR)が2.0以下であることが好ましく、可視光領域の全帯域のコントラスト比(CR)の0°(回転角α1)の位置からの変化量が-5%以下(減少量が5%以下)であることが好ましい。
【0023】
出射側第2偏光素子15は、入射側偏光素子12の直交軸に対する回転角α2(直交ズレ角度)が±0.7°以内である場合、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)が90%以上であることが好ましく、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)の0°(回転角α2)の位置からの変化量が-1%以下(減少量が1%以下)であることが好ましい。また、出射側第2偏光素子15は、入射側偏光素子12の直交軸に対する回転角α2(直交ズレ角度)が±0.7°以内である場合、可視光領域の全帯域のコントラスト比(CR)が1000以上であることが好ましく、可視光領域の全帯域のコントラスト比(CR)の0°(回転角α1)の位置からの変化量が-20%以下(減少量が20%以下)であることが好ましい。
【0024】
これにより、出射側第1偏光素子14及び出射側第2偏光素子15を配置した場合、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)の0°(回転角α1、α2)位置からの変化量を-1%以内とすることが可能となり、可視光領域の全帯域のコントラスト比(CR)の0°(回転角α1、α2)位置からの変化量を-20%以内とすることが可能となる。
【0025】
偏光素子の直交軸は、例えば分光光度計を用いて、サンプルを回転させながら、S偏光透過率(Ts)が最小値となる角度位置を吸収軸(0°)とするとともに、吸収軸に対して90°の角度位置を透過軸として設定することができる。P偏光透過率(Tp)とは、偏光板に入射する透過軸方向(X軸方向)の偏光(TM波)の透過率を意味する。S偏光透過率(Ts)とは、偏光板に入射する吸収軸方向(Y軸方向)の偏光(TE波)の透過率を意味する。
【0026】
以下、光学機器10の各構成について詳細に説明する。
【0027】
[光源]
光源11は、レーザー(LD)、LED、水銀ランプ(UHE)などを用いることができる。本実施の形態では、複数用いることで高光束とし、高輝度化を図ることができる半導体レーザーを好適に用いることができ、例えば、RGBの各色に対応する二次元レーザアレイ光源を用いることができる。
【0028】
[入射側偏光素子]
入射側偏光素子12は、特に限定されるものではないが、ワイヤグリッド構造を有し、かつ、透明基板の一方の面に光源の使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して配列された複数の凸部を備える無機偏光板であることが好ましい。
【0029】
[光変調素子]
光変調素子13は、特に限定されるものではないが、透過型液晶素子、反射型液晶表示素子などを用いた構成とすることができる。
【0030】
[出射側第1偏光素子(第1の構成例)]
図3は、出射側第1偏光素子の第1の構成例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、出射側第1偏光素子14の第1の構成例として示す偏光板20は、ワイヤグリッド構造を有し、透明基板21と、透明基板21上において第1方向(y方向)に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで互いに離間して周期的に配列された複数の凸部22とを備え、凸部22はそれぞれ、第1方向(y方向)に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部23と、ベース形状部23から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部24とからなる。
【0031】
そして、偏光板20は、入射側偏光素子12の直交軸に対する偏光板20の直交軸の回転角α1が±8.5°以内となるように配置される。これにより、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)を95%以上とすることが可能となり、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)の0°(回転角α1)の位置からの変化量を-1%以内とすることが可能となる。
【0032】
図3に示すように、透明基板21の主面21aが拡がる面をxy平面とし、凸部22が延在する方向(第1方向)をy方向、また、y方向に直交し、凸部が配列する方向をx方向とする。またxy平面に直交する方向をz方向とする。
図3では、偏光板20に入射する光は、透明基板21の凸部22が形成されている側(グリッド面側)の、z方向から入射する例を示しているが、偏光板20に入射する光を透明基板21側から入射してもよい。
【0033】
偏光板20は、透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、y方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、x方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。従って、
図3においては、y方向が偏光板の吸収軸の方向であり、x方向が偏光板の透過軸の方向である。
【0034】
偏光板20の凸部22が形成された側(グリッド面側)から入射した光は、突起部24を通過する際に一部が吸収されて減衰する。突起部24を透過した光のうち、TM波(P波)は高い透過率で、透明基板21を透過する。一方、突起部24を透過した光のうち、TE波(S波)は透明基板21で反射される。透明基板21で反射されたTE波は、突起部24を通過する際に干渉して減衰する。以上のようにTE波の選択的減衰を行うことにより、偏光板20は、所望の偏光特性を得ることができる。
【0035】
(透明基板)
透明基板21は、偏光板20の使用帯域の波長の光に対して透明性を有する基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「透明性を有する」とは、使用帯域の波長の光を100%透過する必要はなく、偏光板としての機能を保持可能な程度に透過できればよい。透明基板20の平均厚みは、0.3mm以上1mm以下であることが好ましい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm~810nm程度の可視光が挙げられる。
【0036】
透明基板21の構成材料としては、屈折率が1.1~2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、サファイア等が挙げられる。コスト及び透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)またはソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。熱伝導性の観点からは、熱伝導性が高い水晶またはサファイアを用いることが好ましい。これにより、強い光に対して高い耐光性が得られ、発熱量の多いプロジェクターの光学エンジン用の偏光板として好ましく用いられる。
【0037】
また、水晶等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行方向または垂直方向に凸部を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)との屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0038】
(凸部)
凸部22は、透明基板21上においてy方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPでx方向に互いに離間して周期的に配列する。凸部22は、y方向に直交するxz断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部23と、ベース形状部23から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部24とからなる。
【0039】
図3において符号Pで示した、凸部22のピッチ(x方向の繰り返し間隔)は、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、凸部のピッチは、例えば、100nm~200nmが好ましい。この凸部のピッチは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチを測定し、その算術平均値を凸部のピッチとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0040】
(ベース形状部)
ベース形状部23は、y方向に直交するxz断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなる。xz断面の幅が先端側に向かって細くなる態様としては種々とりえる。ベース形状部23は、y方向に直交するxz断面において、略三角形状であってもよい。略三角形状は、略二等辺三角形であることが好ましい。ここで、略三角形状とは厳密な三角形状でなくても、効果を奏する限りにおいて、ほぼ三角形状であればよい。例えば、先端が欠けた台形状であってもよい。また、凸部は非常に微細な構造であるため、先細形状は、製造上のある程度の丸みを帯びる場合があり、この場合も上記略三角形状に含まれる。また、凸部の略三角形状の傾斜面(
図3の符号23a)が多少の曲率を有する場合もあり、この場合も上記略三角形状に含まれる。
【0041】
ここで、本明細書におけるベース形状部23の寸法について、
図3を用いて説明する。ベース形状部23の高さとは、ベース形状部23の底面23b(透明基板21の主面21a)から先端23cまでのz方向の寸法であり、
図3において符号aで示した寸法である。また、ベース形状部23の幅とは、xz断面において、ベース形状部23の底面23bのx方向の寸法であり、
図3において符号bで示した寸法である。
【0042】
ベース形状部23の高さaは、数十nm~数百nmの範囲で適宜設定される。このベース形状部23の高さは、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。ベース形状部23の高さaは、たとえば、50~130nmの範囲であることが好ましい。ベース形状部23の高さaは幅bとの関係でいうと、透過率の向上の観点から、(a/b)>1/2であることが好ましく、13/10≧(a/b)≧7/10であることがより好ましく、13/10≧(a/b)≧9/10であることがさらに好ましい。
【0043】
ベース形状部23の幅bは、数十nm~数百nmの範囲で適宜設定される。このベース形状部21の幅は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。ベース形状部23の幅bは、たとえば、80~120nmの範囲であることが好ましい。ベース形状部23の幅bは高さaとの関係でいうと、透過率の向上の観点から、(a/b)>1/2であることが好ましく、13/10≧(a/b)≧7/10であることがより好ましく、13/10≧(a/b)≧9/10であることがさらに好ましい。
【0044】
ベース形状部23の幅bと、ベース形状部23が形成されていない領域「P-b」との比は、たとえば、6/1≧(b/P-b)≧4/3であることが好ましい。
【0045】
ベース形状部23は、透明基板21と同じ材料からなってもよい。ベース形状部23と透明基板21とは、一体に形成されたものとしてもよいし、透明基板21上に透明基板21と同じ材料からなるベース形状部23が形成されたものとしてもよい。前者の場合、ベース形状部23は、透明原板(透明基板21に加工する前の基板を透明原板と称するものとする)の主面を加工(例えば、選択的エッチング)することによって、透明基板21の主面21a上にベース形状部23が形成されたものとなる。
【0046】
また、ベース形状部23は、透明基板21と異なる誘電体からなってもよい。この場合、誘電体の膜厚(ベース形状部23の高さa)は、数十nm~数百nmの範囲で適宜設定される。この誘電体の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。誘電体の膜厚(ベース形状部21の高さa)は幅bとの関係でいうと、透過率の向上の観点から、(a/b)>1/2であることが好ましく、13/10≧(a/b)≧7/10であることがより好ましく、13/10≧(a/b)≧9/10であることがさらに好ましい。
【0047】
誘電体を構成する材料としては、SiO2等のSi酸化物、Al2O3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF2、氷晶石、ゲルマニウム(Ge)、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、またはこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。中でも、誘電体は、Si酸化物で構成されることが好ましい。誘電体の屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。突起部の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体の材料を選択することで、偏光板の特性を制御することができる。誘電体からなるベース形状部23は、蒸着法やスパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。
【0048】
(突起部)
突起部24は、ベース形状部23から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有するものである。ベース形状部21から突出してなるとは、
図3を用いて説明すると、ベース形状部23の傾斜面23a又は先端(頂点)23cから突き出ているように形成されてなることを意味する。
【0049】
突起部24は、xz断面において、微粒子状であってもよく、吸収軸であるy方向に延在して配列されてなるものとすることができる。この場合、突起部24はワイヤグリッド構造を構成してワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、突起部24の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、突起部22の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0050】
突起部24の構成材料としては、金属材料、半導体材料等の光学定数の消衰定数が零でない、光吸収作用を持つ物質の1種以上が挙げられ、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体またはこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β-FeSi2、MgSi2、NiSi2、BaSi2、CrSi2、CoSi2、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。
【0051】
突起部24の構成材料として半導体材料を用いる場合には、吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、バンドギャップエネルギーが使用帯域以下であることが必要である。例えば、可視光で使用する場合、波長400nm以上での吸収、即ち、バンドギャップとしては3.1eV以下の材料を使用する必要がある。
【0052】
突起部24はxz断面において、略円形状である場合、その半径は、数nm~数百nmの範囲で適宜設定される。この突起部24の半径は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。略円形状である突起部24である場合の半径は、たとえば、5nm~100nmの範囲であることが好ましい。
【0053】
突起部24の膜厚(ベース形状部21に対して突き出ている厚み)は、特に制限されず、例えば、5nm~100nmが好ましい。この突起部24の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0054】
ベース形状部23上の突起部24の位置には特に制限はなく、ベース形状部23の傾斜面でも先端でも可能である。ベース形状部23上の突起部24の位置は、ベース形状部23の先端から底面までのうち、先端寄りの3/4以内の範囲であることが好ましく、先端寄りの1/2以内の範囲であることがより好ましい。ベース形状部23の底面寄りに配置させる場合、製造工程上、透明基板の主面にも配置してしまうおそれがあるからである。
【0055】
突起部24は、蒸着法やスパッタ法等の公知の乾式の手法により、形成可能である。この場合において、斜めから蒸着やスパッタを行うことにより、ベース形状部23の一方の傾斜面に突起部24を形成することもできる。ベース形状部23の一方の傾斜面に突起部24を形成した後にさらに、もう一方の傾斜面に突起部24を形成することもできる。前者の場合、突起部24は、z方向から平面視してベース形状部23に対して非対称な位置に形成されたものとなる。後者の場合は、z方向から平面視してベース形状部23に対して対称な位置に形成されたものとすることが可能となる。また、突起部23は、公知の湿式の手法によって形成してもよい。突起部23は、構成材料の異なる二層以上から構成されていてもよい。
【0056】
[保護膜]
また、本実施形態の偏光板は、光学特性の変化に影響を与えない範囲において、光の入射側の表面が誘電体からなる保護膜により覆われていてもよい。
【0057】
[撥水膜]
さらに、本実施形態の偏光板は、光の入射側の表面が、有機系撥水膜により覆われていてもよい。有機系撥水膜は、例えばパーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物等で構成され、例えば上述のCVD法やALD法を利用することにより形成可能である。これにより、偏光板の耐湿性等の信頼性を向上できる。
【0058】
[出射側第1偏光素子(第2の構成例)]
図4は、出射側第1偏光素子の第2の構成例を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、出射側第1偏光素子14の第2の構成例として示す偏光板30は、ワイヤグリッド構造を有し、透明基板31と、透明基板31上において第1方向(y方向)に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで互いに離間して周期的に配列された複数の凸部32とを備え、凸部32は、それぞれ第1方向(y方向)に直交する断面の幅が先端側ほど細くなるように形成されてなるベース形状部33と、ベース形状部33から突出してなり、使用帯域の光の波長に対して吸収性を有する突起部34とからなる。
【0059】
そして、偏光板30は、入射側偏光素子12の直交軸に対する偏光板30の直交軸の回転角α1が±8.5°以内となるように配置される。これにより、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)を95%以上とすることが可能となり、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)の0°(回転角α1)位置からの変化量を-1%以内とすることが可能となる。
【0060】
図4に示すように、透明基板31の主面31aが拡がる面をxy平面とし、凸部32が延在する方向(第1方向)をy方向、また、y方向に直交し、凸部32が配列する方向をx方向とする。またxy平面に直交する方向をz方向とする。
図4では、偏光板に入射する光は、透明基板31の凸部32が形成されている側(グリッド面側)の、z方向から入射する例を示しているが、偏光板30に入射する光を透明基板31側から入射してもよい。
【0061】
第2の構成例として示す偏光板30は、第1の構成例と比べて、ベース形状部の形状が異なる。具体的には、第1の構成例のベース形状部21は、xz断面が三角形状であるのに対して、第2の構成例のベース形状部33ではxz断面が台形状である。透明基板31及び突起部34は、それぞれ第1の構成例の透明基板21及び突起部24と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0062】
ベース形状部33は、y方向に直交するxz断面において、略台形状であってもよい。略台形状は、上面33cと下面(底面)33bとの間を結ぶ2つの傾斜面33aが等しい長さを有し、かつ傾斜面33aと下面33bとが形成する角θが等しい形状であることが好ましい。この形状は、z軸に平行な軸に対して対称な台形である。
【0063】
ここで、略台形状とは厳密な台形状でなくても、効果を奏する限りにおいて、ほぼ台形状であればよい。また、凸部は非常に微細な構造であるため、先細形状は製造上のある程度の丸みを帯びる場合があり、この場合も上記略台形状に含まれる。また、凸部の略台形状の傾斜面(
図4の符号33a)が多少の曲率を有する場合もあり、この場合も略台形状と言える。
【0064】
ベース形状部33の寸法について、
図4を用いて説明する。ベース形状部33の高さとは、ベース形状部33の底面33b(透明基板31の主面31a)から上面33cまでのz方向の寸法であり、
図4において符号aで示した寸法である。また、ベース形状部33の幅とは、xz断面において、ベース形状部33の底面33bのx方向の寸法であり、
図4において符号bで示した寸法である。
【0065】
ベース形状部33の形状及び材料については、第1の構成例のベース形状部23で説明したものと同様のものとすることができる。
【0066】
[出射側第1偏光素子(変形例)]
第1の構成例及び第2の構成例において、透明基板が、第1の材料からなる第1基板と、第2の材料からなる第2基板との積層体であってもよい。この場合、第1基板がベース形状部側に配置され、第1の材料がベース形状部の材料と同じ材料であることが好ましい。第2基板の材料としては、透明基板の材料として記載したものと同じものを用いることができる。
【0067】
また、第1の構成例及び第2の構成例において、光の入射側の表面に、位相差補償層が形成されていてもよい。位相差補償層は、例えば光学異方性を持つ無機材料を使った多層膜で構成され、例えば斜方からの蒸着法やスパッタ法を利用することにより形成可能である。これにより、液晶パネルを通った後の偏光の乱れを補正することができる。
【0068】
[出射側第2偏光素子]
図5は、出射側第2偏光素子の構成例を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、出射側第2偏光素子15の第1の構成例として示す偏光板40は、ワイヤグリッド構造を有し、透明基板41と、透明基板41の第1の面41aに形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部42と、透明基板41の第1の面41aの反対側の第2の面41bに形成された反射防止層43とを備え、複数の凸部42は、透明基板41側から順に、反射層42Aと、第1の誘電体からなる誘電体層42Bと、吸収層42Cとを有し、複数の凸部42のそれぞれの表面42a、及び、反射防止層43の表面43aはそれぞれ、第2の誘電体からなる保護膜44A、44Bに覆われている。
【0069】
そして、偏光板40は、入射側偏光素子12の直交軸に対する偏光板40の直交軸の回転角α2が±0.7°以内となるように配置される。これにより、可視光領域の全帯域のP偏光透過率(Tp)を90%以上とすることが可能となり、可視光領域の全帯域のコントラスト比(CR)の0°(回転角α2)位置からの変化量を-20%以内とすることが可能となる。
【0070】
図5に示すように、透明基板41の主面41aが拡がる面をxy平面とし、複数の凸部42の延在する方向(第1方向)をY軸方向と称する。Y軸方向に直交し、透明基板41の主面に沿って複数の凸部42が配列する方向をX軸方向とする。Y軸方向ならびにX軸方向に直交し、透明基板の主面に対して垂直な方向をZ軸方向とする。
図5では、偏光板40に入射する光は、透明基板41の凸部42が形成されている側(グリッド面側)の、Z方向から入射する例を示しているが、偏光板40に入射する光を透明基板41側から入射してもよい。
【0071】
偏光板40の複数の凸部42が形成された側(グリッド面側)から入射した光は、吸収層42C及び誘電体層42Bを通過する際に一部が吸収されて減衰する。吸収層42C及び誘電体層42Bを透過した光のうち、偏光波(TM波(P波))は高い透過率で反射層42Aを透過する。一方、吸収層42C及び誘電体層42Bを透過した光のうち、偏光波(TE波(S波))は反射層42Aで反射される。反射層42Aで反射されたTE波は、吸収層42C及び誘電体層42Bを通過する際に一部は吸収され、一部は反射して反射層42Aに戻る。また、反射層42Aで反射されたTE波は、吸収層42C及び誘電体層42Bを通過する際に干渉して減衰する。以上のようにTE波の選択的減衰を行うことにより、偏光板40は、所望の偏光特性を得ることができる。
【0072】
図5に示す偏光板40において、グリッドの高さhは、透明基板41の主面に垂直なZ軸方向の寸法であって、保護膜(高さ(厚さ)h1)を備えた複数の凸部42の高さを意味する。幅wとは、保護膜44Aを備えた複数の凸部42の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、高さh方向に直交するX軸方向の寸法を意味する。また、偏光板40を複数の凸部42の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、複数の凸部42のX軸方向の繰り返し間隔を、ピッチpと称する。
【0073】
偏光板40において、複数の凸部42のピッチpは、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、複数の凸部42のピッチpは、例えば、100nm~200nmが好ましい。この複数の凸部42のピッチpは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチpを測定し、その算術平均値を複数の凸部42のピッチpとすることができる。
【0074】
偏光板40は、グリッド先端からグリッド間を覆う保護膜44Aの厚みならびに反射防止層43上の保護膜44Bの厚みを最適化することにより、耐久性を維持しつつ透過軸方向の光透過特性を良くすることが可能である。
【0075】
(透明基板)
出射側第1偏光素子の構成例の透明基板21と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0076】
(反射層)
反射層42Aは、透明基板41上に形成され、吸収軸であるY軸方向に、帯状に延びた金属膜が配列されたものである。反射層42Aは、ワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、反射層42Aの長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、反射層42Aの長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。反射層42Aの膜厚は、特に制限されず、例えば、100nm~300nmが好ましい。なお、反射層42Aの膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0077】
反射層42Aの構成材料としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体、又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。中でも、反射層42Aは、可視光領域においてワイヤグリッドでの吸収損失を小さく抑えるという観点とコストの観点から、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金で構成されることが好ましい。なお、これらの金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で構成してもよい。
【0078】
反射層42Aは、例えば蒸着法やスパッタ法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、反射層は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0079】
(誘電体層)
誘電体層42Bは、反射層42A上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が配列されたものである。誘電体層42Bの膜厚は、吸収層42Cで反射した偏光に対して、吸収層42Cを透過して反射層42Aで反射した偏光の位相が半波長ずれる範囲で形成される。具体的には、誘電体層42Bの膜厚は、偏光の位相を調整して干渉効果を高めることが可能な1nm~500nmの範囲で適宜設定される。この誘電体層42Bの膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。また、誘電体層42Bは、反射層42Aと後述する吸収層42Cとの構成元素の相互拡散を抑制するバリア層としても形成される。
【0080】
誘電体層42Bを構成する第1の誘電体としては、SiO2等のSi酸化物、Al2O3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、またはこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。中でも、透過率並びにバリア層の機能の観点から誘電体層42Bは、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Nb酸化物及びTa酸化物から構成される群から選択されたいずれか一種以上の酸化物から構成されていることが好ましい。
【0081】
誘電体層42Bの屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。反射層42Aの光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体層42Bの材料を選択することで、偏光板の光学特性を制御することができる。また、誘電体層42Bの膜厚及び屈折率を適宜調整することにより、反射層42Aで反射したTE波について、吸収層42Cを透過する際に一部を反射して反射層42Aに戻すことができ、吸収層42Cを通過した光を干渉により減衰させることができる。このようにして、TE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性を得ることができる。
【0082】
誘電体層42Bは、蒸着法やスパッタ法、CVD法やALD法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、誘電体層は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0083】
(吸収層)
吸収層42Cは、使用帯域の光の波長に対して吸収作用を有するものであり、誘電体層42B上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びて配列されたものである。吸収層42Cの膜厚は、特に制限されず、例えば、5nm~50nmが好ましい。この吸収層42Cの膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0084】
吸収層42Cは、金属、合金材料及び半導体材料から構成される群から選択されたいずれか1種以上の材料から構成されていることが好ましい。吸収層42Cの構成材料としては、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体またはこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β-FeSi2、MgSi2、NiSi2、BaSi2、CrSi2、CoSi2、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。中でも、吸収層42Cは、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0085】
吸収層42Cとして半導体材料を用いる場合には、吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、バンドギャップエネルギーが使用帯域以下であることが必要である。例えば、可視光で使用する場合、波長400nm以上での吸収、即ち、バンドギャップとしては3.1eV以下の材料を使用する必要がある。
【0086】
吸収層42Cは、例えば蒸着法やスパッタ法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、吸収層42Cは、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0087】
(反射防止層)
反射防止層43は、透明基板41の第2面41b上に形成される。反射防止層43は、公知の反射防止材料からなるものとすることができ、例えば、誘電体層42Bを構成可能な材料を少なくとも2層以上の多層膜で構成されたものとすることができる。
【0088】
図6は、反射防止膜の構成例を模式的に示す断面図である。
図6に示すように、反射防止膜43は、屈折率の異なる低屈折率層43Aと高屈折率層43Bとを交互に積層させることで、界面反射された光を干渉により減衰させることができる。反射防止層43の膜厚は、特に制限されず、誘電体層42Bを構成する誘電体層1層あたり1nm~500nmの範囲で適宜設定される。この反射防止層43の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0089】
低屈折率層43Aは、SiO2(Siの酸化物)等を主成分とした層である。低屈折率層の屈折率は、好ましくは1.20~1.60であり、より好ましくは1.30~1.50である。
【0090】
高屈折率層43Bの屈折率は、好ましくは2.00~2.60であり、より好ましくは2.10~2.45である。このような高屈折率の誘電体としては、五酸化ニオブ(Nb2O5、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO2、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO3、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO2、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta2O5、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)などが挙げられる。
【0091】
反射防止層43は、上述の誘電体層42Bと同じ成膜方法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。好適には、より高密度な膜が形成可能となる、イオンビームアシスト蒸着(IAD:Ion-beam Assisted Deposition)法やイオンビームスパッタリング(IBS:Ion Beam Sputtering)法を用いることが望ましい。
【0092】
(保護膜)
複数の凸部42の表面、及び、反射防止層43の表面43aは、それぞれ誘電体からなる保護膜44A、44Bで覆われている。保護膜44Aは、凸部42の頂面、及び凸部42の側面を覆うものであり、必要に応じて、凸部42間の透明基材41表面を覆うようにしてもよい。保護膜44A及び保護膜44Bにより覆うことで、偏光板の耐久性を向上することができる。
【0093】
保護膜44A及び保護膜44Bを形成する際には、緻密で均一且つ膜厚制御性に優れる、ALD法を用いることが好ましい。また、上述の誘電体層42Bと同様、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0094】
また、保護膜40Aとして、凸部42間を完全に埋め込むようにしてもよい。この場合には、上述の誘電体層42Bを形成する方法以外にも、SOG(Spin on Glass)法を利用することができる。SOGによれば、空気層を含まず平坦化が可能となる。
【0095】
保護膜44A、44Bを構成する誘電体としては誘電体膜22を構成する第1の誘電体と同じ誘電体を用いることができる。耐熱性の観点からはAl2O3が特に好ましい。
【0096】
保護膜44A及び保護膜44Bの少なくとも一方の膜厚を、2.5nm以下とすることができ、耐久性維持の観点から、1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であることがより好ましく、2.0nm以上であることがさらに好ましい。これにより、偏光板の耐久性を維持しつつ、光透過特性の向上も得られ、特に光学特性の大きな低下が回避できる。
【0097】
また、保護膜44A及び保護膜44Bの少なくとも一方の膜厚を、2.5nm以上とすることもでき、光透過特性向上の観点から、10nm以下であることが好ましく、7.5nm以下であることがより好ましく、5.0nm以下であることがさらに好ましい。この場合、偏光板の耐久性を維持しつつ、光透過特性の向上も得られ、特に高耐熱性を維持できる。
【0098】
(撥水膜)
さらに、偏光板40は、保護膜44A及び保護膜44Bの少なくとも一方が、有機系撥水膜により覆われていてもよい。有機系撥水膜は、例えばパーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物等で構成され、例えば上述のCVD法やALD法を利用することにより形成可能である。これにより、偏光板の耐湿性等の信頼性を向上できる。
【0099】
[液晶プロジェクター]
上述した光学機器10は、耐熱性が要求される、例えば、液晶プロジェクター、ヘッドアップディスプレイなどの用途に好適に用いることができる。以下、具体例として、液晶プロジェクターを例に挙げて説明する。
【0100】
図7は、透過型の3LCD方式の液晶プロジェクターの光学ユニットの一部を模式的に示す上面図である。液晶プロジェクター50の光学エンジン部分は、赤色光L
Rに対する入射側偏光素子51R、液晶パネル52R、出射プリ偏光素子53R、及び出射メイン偏光素子54Rと、緑色光L
Gに対する入射側偏光素子51G、液晶パネル52G、出射プリ偏光素子53G、及び出射メイン偏光素子54Gと、青色光L
Bに対する入射側偏光素子51B、液晶パネル52B、出射プリ偏光素子53B、及び出射メイン偏光素子54Bと、それぞれの出射メイン偏光素子54R、54G、54Bから出射された光を合成し、投射レンズに出射するクロスダイクロプリズム55とを備える。ここで、入射側偏光素子51R、51G、51B、液晶パネル52R、53G、52B、出射プリ偏光素子53R、53G、53B、及び出射メイン偏光素子54R、54G、54Bは、それぞれ上述した光学機器10の入射側偏光素子12、光変調素子13と、出射側第1偏光素子14、及び出射側第2偏光素子15に対応する。
【0101】
本技術を適用した液晶プロジェクター50では、赤色光LR、緑色光LG、青色光LBの光に対応する入射側偏光素子51R、51G、51Bに入射させ、入射側偏光素子51R、51G、51Bで偏光された光LR、LG、LBを各液晶パネル52R、53G、52Bにて空間変調して出射し、出射プリ偏光素子53R、53G、53B、及び出射メイン偏光素子54R、54G、54Bを通過した後、クロスダイクロプリズム55にて合成されて投射レンズ(不図示)から投射される。赤色光LR、緑色光LG、青色光LBは、光源から出射される光をダイクロイックミラーにより分離したものであってもよいが、本技術は、強い光に対して優れた耐光特性を持つため、各色に対応する二次元レーザアレイ光源からの高出力なものを使用することができる。
【0102】
本技術に係る光学機器によれば、入射側偏光素子12の直交軸に対する出射側第1偏光素子14の直交軸の回転角(直交ズレ角度)、及び入射側偏光素子12の直交軸に対する出射側第2偏光素子15の直交軸の回転角(直交ズレ角度)を最適化することにより、可視光領域の全帯域において、高いP偏光透過率(Tp)及びコントラスト比(CR)を得ることができる。従って、プロジェクターで投影した場合、明るく、明暗がはっきりした画質を得ることができる。
【0103】
なお、本技術を図面および実施形態に基づき説明してきたが、本技術は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、当業者であれば本開示に基づき、種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形または修正は本技術の範囲に含まれることに留意されたい。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は、上記説明を参酌して判断すべきものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率の異なる部分が含まれていることは勿論である。
【実施例0104】
<2.第1の実施例>
第1の実施例では、出射プリ偏光板及び出射メイン偏光板の角度依存性について測定した。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではなく、本技術の効果を奏する範囲の変形及び改良についても本技術に含まれる。
【0105】
[出射プリ偏光板]
図3に示す第1の構成例と同様な構成の偏光板を作製した。透明基板21をサファイア、ベース形状部23をSiO
2、突起部24をGeで構成した。ベース形状部23の形状は、xz断面を略三角形状とし、突起部24の形状は断面を略円とし、かつ、突起部24は傾斜面23aに接触している構造とした。
【0106】
[出射メイン偏光板]
図5に示す構成例と同様な構成の偏光板を作製した。透明基板41をガラス、凸部42の反射層42AをAl、誘電体層42BをSiO
2、吸収層42CをFeSiで構成した。反射防止層43を、透明基板41に近い側から順に第1層(SiO
2)、第2層(TiO
2)、第3層(SiO
2)、第4層(TiO
2)、第5層(SiO
2)、第6層(TiO
2)、第7層(SiO
2)、第8層(TiO
2)、第9層(SiO
2)と交互に積層した。また、保護膜44A、44BをAl
2O
3で構成した。
【0107】
[光学特性の測定]
測定器として日立分光光度計U-4100を使用し、偏光板サンプルを回転させ、S偏光透過率(Ts)が最も小さい値となる角度位置を0°に設定し、そこから角度を変化させて測定した。
【0108】
[出射プリ偏光板の光学特性及び光学特性変化]
表1に、出射プリ偏光板の光学特性及び光学特性変化を示す。出射プリ偏光板の直交軸を回転させ、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))の全帯域について、S偏光透過率(Ts)及びP偏光透過率(Tp)を測定し、コントラスト比(CR)を算出した。また、0°位置のS偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)からの変化量(%)をそれぞれ算出した。
【0109】
【0110】
図8は、出射プリ偏光板の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフであり、
図9は、出射プリ偏光板の緑色帯域におけるS偏光透過率(Ts)の変化量を示すグラフであり、
図10は、出射プリ偏光板の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフであり、
図11は、
図8に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフである。
【0111】
表1及び
図8~
図11に示すように、出射プリ偏光板は、直交ズレ角度が±20°の範囲において、可視光領域の全帯域について90%以上のP偏光透過率(Tp)を有するものであった。また、出射プリ偏光板の直交ズレ角度が±8.5°の場合、青色帯域、緑色帯域、及び赤色帯域のP偏光透過率(Tp)は、それぞれ95.1%、96.7%及び97.7%であり、青色帯域、緑色帯域、及び赤色帯域のP偏光透過率(Tp)の0°位置からの変化量は、それぞれ-1.1%、-1.1%及び-0.8%であった。また、出射プリ偏光板は、コントラスト比(CR)が2.0以下であり、出射プリ偏光板の直交ズレ角度が±8.5°の場合、コントラスト比(CR)の0°位置からの変化量は、可視光領域の全帯域において-5%以下であり、出射プリ偏光板の直交ズレ角度が±20°の場合でも、コントラスト比(CR)の0°位置からの変化量は、可視光領域の全帯域において-20%以下であった。
【0112】
[出射メイン偏光板の光学特性及び光学特性変化]
表2に、出射メイン偏光板の光学特性及び光学特性変化を示す。出射メイン偏光板の直交軸を回転させ、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))の全帯域について、S偏光透過率(Ts)及びP偏光透過率(Tp)を測定し、コントラスト比(CR)を算出した。また、0°位置のS偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)からの変化量(%)をそれぞれ算出した。
【0113】
【0114】
図12は、出射メイン偏光板の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフであり、
図13は、出射メイン偏光板の緑色帯域におけるS偏光透過率(Ts)の変化量を示すグラフであり、
図14は、出射メイン偏光板の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフであり、
図15は、
図14に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【0115】
表2及び
図12~15に示すように、出射メイン偏光板は、直交ズレ角度が±0.7°の範囲において、可視光領域の全帯域について90%以上のP偏光透過率(Tp)を有するものであった。また、出射メイン偏光板の直交ズレ角度が±0.7°の場合、P偏光透過率(Tp)の0°の位置からの変化量は、可視光領域の全帯域において-1%以下であった。また、出射メイン偏光板は、直交ズレ角度が±0.7°の範囲において、可視光領域の全帯域について1000以上のコントラスト比(CR)を有するものであった。また、出射メイン偏光板の直交ズレ角度が±0.7°の場合、コントラスト比(CR)の0°位置からの変化量は、可視光領域の全帯域において-20%以下であった。
【0116】
[出射プリ偏光板(0-30°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の光学特性及び光学特性変化]
表3に、出射プリ偏光板及び出射メイン偏光板の直交軸を同時に回転させたときの光学特性及び光学特性変化を示す。表2に示す出射プリ偏光板の光学特性、及び表3に示す出射メイン偏光板の光学特性から、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))の全帯域について、S偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)をそれぞれ算出した。また、出射プリ偏光板及び出射メイン偏光板の直交軸が0°位置のS偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)からの変化量(%)をそれぞれ算出した。
【0117】
【0118】
図16は、出射プリ偏光板(0-30°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフであり、
図17は、
図16に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフであり、
図18は、出射側プリ偏光板(0-30°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフであり、
図19は、
図18に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【0119】
表3及び
図16~19に示すように、出射プリ偏光板及び出射メイン偏光板の直交ズレ角度が0°の場合、青色帯域、緑色帯域、及び赤色帯域のP偏光透過率(Tp)は、それぞれ87.9%、91.7%及び92.0%であった。また、直交ズレ角度が±0.7°の場合、コントラスト比(CR)の0°位置からの変化量は、可視光領域の全帯域において-20%程度であった。
【0120】
[出射プリ偏光板(0°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の光学特性及び光学特性変化]
表4に、出射プリ偏光板の直交軸を0°位置に配置させ、出射メイン偏光板の直交軸を回転させたときの光学特性及び光学特性変化を示す。表2に示す出射プリ偏光板の光学特性、及び表3に示す出射メイン偏光板の光学特性から、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))の全帯域について、S偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)をそれぞれ算出した。また、出射プリ偏光板及び出射メイン偏光板の直交軸が0°位置のS偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)からの変化量(%)をそれぞれ算出した。
【0121】
【0122】
図20は、出射プリ偏光板(0°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフであり、
図21は、
図20に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフであり、
図22は、出射プリ偏光板(0°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフであり、
図23は、
図22に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【0123】
表4及び
図20~23に示すように、出射プリ偏光板の直交軸を0°位置に配置させ、出射メイン偏光板の直交ズレ角度が±0.7°の場合、出射メイン偏光板の直交ズレ角度が0°位置からのP偏光透過率(Tp)の変化量は、可視光領域の全帯域において-1%以内であり、コントラスト比(CR)の変化量は、可視光領域の全帯域において-20%程度であった。
【0124】
[出射プリ偏光板(8.5°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の光学特性及び光学特性変化]
表5に、出射プリ偏光板の直交軸を8.5°位置に配置させ、出射メイン偏光板の直交軸を回転させたときの光学特性及び光学特性変化を示す。表2に示す出射プリ偏光板の光学特性、及び表3に示す出射メイン偏光板の光学特性から、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))の全帯域について、S偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)をそれぞれ算出した。また、出射プリ偏光板の直交軸を8.5°位置に配置させ、出射メイン偏光板の直交軸が0°位置のS偏光透過率(Ts)、P偏光透過率(Tp)、及びコントラスト比(CR)からの変化量(%)をそれぞれ算出した。
【0125】
【0126】
図24は、出射プリ偏光板(8.5°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるP偏光透過率(Tp)の変化量を示すグラフであり、
図25は、
図24に示すP偏光透過率(Tp)の変化量の直交ズレ角度±10°の範囲を示すグラフであり、
図26は、出射プリ偏光板(8.5°)及び出射メイン偏光板(0-30°)の緑色帯域におけるコントラスト比(CR)の変化量を示すグラフであり、
図27は、
図26に示すコントラスト比(CR)の変化量の直交ズレ角度±1°の範囲を示すグラフである。
【0127】
表5及び
図24~27に示すように、出射プリ偏光板の直交軸を8.5°位置に配置させ、出射メイン偏光板の直交ズレ角度が±0°の場合、青色帯域、緑色帯域、及び赤色帯域のP偏光透過率(Tp)は、それぞれ86.9%、90.7%及び91.2%であった。
【0128】
また、出射プリ偏光板の直交軸を8.5°位置に配置させ、出射メイン偏光板の直交ズレ角度が±0.7°の場合、出射メイン偏光板の直交ズレ角度が0°位置からのP偏光透過率(Tp)の変化量は、可視光領域の全帯域において-1%以内であり、コントラスト比(CR)の変化量は、可視光領域の全帯域において-20%程度であった。
【0129】
第1の実施例によれば、出射プリ偏光板の直交ズレ角度を8.5°以内の位置に配置させ、出射メイン偏光板の直交ズレ角度を±0.7°以内に配置させることにより、可視光領域の全帯域において、高いP偏光透過率(Tp)及びコントラスト比(CR)を得ることができた。従って、プロジェクターで投影した場合、明るく、明暗がはっきりした画質を得ることができる。
【0130】
<3.第1の実験例>
第1の実験例では、出射側プリ偏光板の光学特性について検証した。
【0131】
出射側プリ偏光板について、シミュレーションを行って効果を検証した。より具体的には、偏光板の光学特性について、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより検証した。シミュレーションには、Grating Solver Development社のグレーティングシミュレータGsolverを用いた。
【0132】
[実験例1-1~1-4]
実験例1-1の偏光板の形状は
図3に示した通りであり、実験例1-2~1-4の偏光板の形状は
図4に示した通りである。実験例1-1~1-4の偏光板の材料は、透明基板21、31とベース形状部23、33とはいずれも水晶からなるものであり、突起部24、34はGeからなるものである。実験例1-1~1-4のベース形状部23、33の形状はいずれも、高さaが70nm、幅bが100nm、ピッチPが141nmであり、傾斜角θがそれぞれ、54°、63°、72°、81°である。高さa及び幅bを固定しているので、実験例1-1(θ=54°)はxz断面が三角形状であり、実験例1-2(θ=63°)、実験例1-3(θ=72°)、及び、実験例1-4(θ=81°)はxz断面が台形形状である。また、実験例1-1~1-4の突起部24の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部23、33における突起部24、34の位置については、
図3及び
図4に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面21aに接触させている。
【0133】
[比較実験例1]
比較実験例1の偏光板のxz断面の形状は
図28に示した通りである。比較実験例1の偏光板100の材料は、透明基板101とベース形状部103とはいずれも水晶からなるものであり、突起部104はGeからなるものである点は実験例1-1~1-4と共通するが、xz断面が矩形である点は実験例1-1~1-4と異なる。
【0134】
比較実験例1のベース形状部103の形状は、高さaが70nm、幅bが100nm、ピッチPが141nmであり、傾斜角θが90°である。また、比較実験例1の突起部104の形状は断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部103における突起部104の位置については、
図28に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面103aに接触させている。
【0135】
図29は、実験例1-1~1-4及び比較実験例1の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。ここで、透過軸透過率Tpとは、偏光板に入射する透過軸方向(X方向)の偏光波(TM波)の透過率を意味する。
【0136】
図29に示すように、比較実験例1の偏光板よりも本技術に係る偏光板は、傾斜角θを小さくしていくことで、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))のいずれも透過軸透過率が向上している。
【0137】
高さa及び幅bが同じ場合、ベース形状部121は矩形よりも先細形状の方が、光学特性が良いことがわかった。また、高さa及び幅bが同じ場合、xz断面が台形状であるよりも三角形状の方が、光学特性が良いことがわかった。また、高さa及び幅bが同じであって、xz断面が台形状である場合、傾斜角θが小さい方が、光学特性が良いことがわかった。
【0138】
[実験例2-1~2-5]
実験例2-1~2-5の偏光板の形状は
図3に示した通りである。実験例2-1~2-5の偏光板の材料は、透明基板21とベース形状部23とはいずれも水晶からなるものであり、突起部24はGeからなるものである。
【0139】
実験例2-1~2-5の偏光板の形状はいずれも、幅bが100nm、ピッチPが141nmと共通であるが、高さaは順に、50nm、70nm、90nm、110nm、130nm、である(その結果、傾斜角θは順に、54°、45°、61°、66°、69°である)。また、実験例1-1~1-4の突起部24の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部23における突起部24の位置については、
図3に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面23aに接触させている。
【0140】
図30は、実験例2-1~2-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図30に基づくと、幅bに対する高さaの比(a/b)は、1/2を超えていることが好ましく、7/10以上であることがより好ましく、9/10、11/10、及び、13/10である場合は7/10の場合よりも好ましい。
【0141】
[実験例3-1~3-5]
実験例3-1~3-5の偏光板の形状は
図3に示した通りである。実験例3-1~3-5の偏光板の材料は、透明基板21がベース形状部23とはいずれもサファイアからなるものであり、突起部24はGeからなるものである。
【0142】
実験例3-1~3-5の偏光板の形状はいずれも、幅bが100nm、ピッチPが141nmと共通であるが、高さaは順に、50nm、70nm、90nm、110nm、130nm、である(その結果、傾斜角θは順に、54°、45°、61°、66°、69°である)。また、実験例3-1~3-5の突起部24の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部23における突起部24の位置については、
図3に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面23aに接触させている。
【0143】
図31は、実験例3-1~3-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図31に基づくと、幅bに対する高さaの比(a/b)は、1/2を超えていることが好ましく、7/10以上であることがより好ましく、9/10、11/10、及び、13/10である場合は7/10の場合よりも好ましい。この点は、実験例2-1~2-5の偏光板と同様であり、透明基板及びベース形状部の材料を水晶からサファイアに変えても、かかる特徴は変わらないことがわかった。
【0144】
[実験例4-1~4-5]
実験例4-1~4-5の偏光板の形状は
図3に示した通りである。実験例4-1~4-5の偏光板の材料は、透明基板21はサファイアからなるものであり、ベース形状部23はSiO
2からなるものであり、突起部24はGeからなるものである。
【0145】
実験例4-1~4-5の偏光板の形状はいずれも、幅bが100nm、ピッチPが141nmと共通であるが、高さaは順に、50nm、70nm、90nm、110nm、130nm、である(その結果、傾斜角θは順に、54°、45°、61°、66°、69°である)。また、実験例4-1~4-5の突起部24の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部23における突起部24の位置については、
図3に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面23aに接触させている。
【0146】
図32は、実験例4-1~4-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図32に基づくと、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))のすべてについて、幅bに対する高さaの比(a/b)を1/2を超えた形状とすることが、透過軸透過率が向上しているから好ましい。また、可視光領域のすべてについて、a/bを7/10以上の形状とすることが、透過軸透過率が向上しているからより好ましい。また、可視光領域のすべてについて、a/bを9/10、及び、11/10の形状とする構成は7/10の形状とする構成よりも好ましい。また、緑色帯域(波長λ=520nm~590nm)及び青色帯域(λ=430nm~510nm)については、a/bを13/10の形状とする構成は7/10の形状とする構成よりも好ましい。
【0147】
[実験例5-1~5-5]
実験例5-1~5-3の偏光板の形状は、
図3に示した透明基板21の代わりに、SiO
2からなる第1基板及びサファイアからなる第2基板の積層板とした。ベース形状部23はSiO
2からなるものであり、突起部24はGeからなるものである。また、実験例5-1~5-3の偏光板は、それぞれ第1基板の厚さd1が、35nm、70nm、105nmであり、第2基板の厚さd2が、0.7mmである。
【0148】
また、実験例5-4の偏光板の形状は
図3に示した通りのものであって、透明基板21はサファイアからなるものであり、ベース形状部23はSiO
2からなるものであり、突起部24はGeからなるものである。透明基板21の厚さは0.7mmである。
【0149】
また、実験例5-5の偏光板の形状は
図3に示した通りのものであって、透明基板21がベース形状部23とはいずれもサファイアからなるものであり、突起部24はGeからなるものである。透明基板21の厚さは0.7mmである。
【0150】
また、実験例5-1~5-5の突起部24の形状はすべて、断面が円であり、その半径が15nmである。ベース形状部23における突起部24の位置については、
図3に示した通り、円の最外周が高さaと同じとし、かつ傾斜面23aに接触させている。
【0151】
シミュレーションにおいては、入射光は基板側から入射した場合について行った。
【0152】
図33は、実験例5-1~5-5の偏光板における、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率Tp(%)を示している。
図33に基づくと、透明基板が二層の積層体であって、ベース形状部側の第1基板がベース形状部と同じ材料からなる実験例5-1~5-2の偏光板は、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))のすべて波長域において、透明基板が単層である実験例5-4及び実験例5-5の偏光板よりも、透過軸透過率が向上していた。また、実験例5-3の偏光板についても、緑色帯域及び青色帯域において、透明基板が単層である実験例5-4及び実験例5-5の偏光板よりも、透過軸透過率が向上していた。従って、透過軸透過率向上の観点からは、透明基板として、二層の積層体であって、ベース形状部側の第1基板がベース形状部と同じ材料からなるものを用いる方が好ましい。
【0153】
<4.第2の実験例>
第2の実験例では、出射側メイン偏光板の光学特性について検証した。
[シミュレーション]
【0154】
本技術に係る偏光板として、
図5に示した偏光板をモデルとしてシミュレーションを行った。より具体的には、これらの偏光板の光学特性について、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより検証した。
【0155】
図34は、
図5に示した偏光板をモデルとしてシミュレーションを行って得られた、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))における透過軸透過率の分光波形を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率(%)を示している。ここで、透過軸透過率とは、偏光板に入射する透過軸方向(X軸方向)の偏光(TM波)の透過率を意味する。
【0156】
偏光板モデルにおいては、以下のパラメータ及び材料とした。
透明基板:材料(無アルカリガラス)、厚み(0.7mm)、
反射層 :材料(Al)、厚み(250nm)、幅(35nm)、
誘電体層:材料(SiO2)、厚み(5nm)、幅(35nm)、
吸収層 :材料(FeSi)、厚み(25nm)、幅(35nm)、
反射防止層:材料(TiO2層/SiO2層の交互積層体)、厚み(641.15nm)、幅(35nm)、表6に具体的な層構成を示す。第1層~第9層は透明基板に近い側から遠い側に順に配置させた。
グリッド:高さh(280+保護膜厚み)nm、幅w(35+保護膜厚み×2)nm、ピッチp(141nm)。
【0157】
【0158】
また、偏光板モデルにおいて、保護膜(
図5における符号44A、44B)は材料をAl
2O
3とし、膜厚(厚み)を1nm、2.5nm、5nm、7.5nm、10nmとした。また、比較実験例として、保護膜を備えない場合もシミュレーションを行い、
図34に示した。
【0159】
保護膜は、偏光板の耐久性を向上させることができるが、
図34から、その膜厚が厚くなるにつれて可視光領域全体で透過軸透過率は低下し、特に短波長側の落ち込みが大きくなることがわかった。
【0160】
[実験例1~3、比較実験例]
保護膜が2.5nm(実験例1)、保護膜が5nm(実験例2)、保護膜が7.5nm(実験例3)とし、その他は上記シミュレーションを行ったパラメータで実際に偏光板を作製して、透過軸透過率を実測した。その結果を
図35に示す。また、保護膜を備えない偏光板(比較実験例)についても透過軸透過率を実測してその結果を
図35に示した。
図34に示したシミュレーション結果が実際の偏光板の光学特性をよく反映していることがわかる。
【0161】
図34及び
図35の結果に基づくと、波長400nm~700nmの全波長で透過軸透過率を80%以上とすることが求められる場合には、保護膜の膜厚を5nm以下とする。また、波長430nm~700nmの全波長で透過軸透過率を80%以上とすることが
求められる場合には、保護膜の膜厚を10nm以下とする。
【0162】
図36は、シミュレーションを行って得た、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフであり、
図37は、実験例1~3及び比較実験例の偏光板について実測した、各波長帯域の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
図37に示すグラフは、
図36に示したシミュレーション結果が実際の偏光板の光学特性をよく反映していることがわかる。
【0163】
図36及び
図37に基づくと、赤色帯域、緑色帯域及び青色帯域の全帯域で、平均透過軸透過率を86%以上とすることが求められる場合には、保護膜の膜厚を5nm以下とする。また、赤色帯域、緑色帯域及び青色帯域の全帯域で、平均透過軸透過率を90%以上とすることが求められる場合には、保護膜の膜厚を2.5nm以下とする。
【0164】
本技術に係る偏光板として、実際に作製した偏光板の耐熱性評価を行った。なお、耐熱性評価はクリーンオーブンの300℃で行い、偏光板の光学特性であるコントラストについて、初期特性すなわち、クリーンオーブンに入れる前からの変化率にて評価した。コントラストとは、透過軸透過率/吸収軸透過率で算出でき、吸収軸透過率とは、偏光板に入射する吸収軸方向(Y軸方向)の偏光(TE波)の透過率を意味する。コントラスト変化率は、偏光板の耐熱性への影響を捉えるのに適している。
【0165】
図38は、実際に作製し光学特性におけるコントラストを耐熱性評価によって比較したグラフである。横軸に試験時間(クリーンオーブン内に配置した時間)、縦軸にコントラストの変化率を示しており、入射光が可視光領域の緑色帯域の光(波長=520nm~590nm)の場合を例とした。
図38において、保護膜を備えない場合の結果も併せて示した。
【0166】
図38に示すように、保護膜が厚くなるにつれてコントラストの変化率は小さくなり、偏光板の耐久性は向上している。なお、入射光が緑色帯域の光の場合を例として示したが、赤色帯域の光(波長=600~680nm)あるいは青色帯域の光(波長=430nm~510nm)であったとしても、コントラスト変化率の値が多少前後するだけで、同様の効果が得られた。
図38の結果から、保護膜の膜厚を2.5nm以上とすると、高耐熱性を維持できることがわかった。
【0167】
以上の結果から、凸部の表面及び反射防止層の表面に保護膜を備える本技術の偏光板は、耐久性を維持しつつ光透過特性の向上も得られることがわかり、特に、光学特性を著しく低下させない膜厚としては2.5nm以下が望ましく、また、高耐熱性を維持させる膜厚としては2.5nm以上が望ましいことがわかった。なお、保護膜を形成するにあたり、複数の凸部だけでなく反射防止層への影響も加味した、保護膜ならびに反射防止層を設計することが好ましい。
10 光学機器、11 光源、12 入射側偏光素子、13 光変調素子、14 出射側第1偏光素子、15 出射側第2偏光素子、20 偏光板、21 透明基板、21a 主面、22 凸部、23 ベース形状部、24 突起部、30 偏光板、31 透明基板、31a 主面、32 凸部、33 ベース形状部、 34 突起部、40 偏光板、41 透明基板、41a 第1の面、41b 第2の面、42 凸部、42A 反射層、42B 誘電体層、42C 吸収層、43 反射防止層、44A、44B 保護膜、
50 液晶プロジェクター、51R、51G、51B 入射側偏光素子、52R、52G、52B 液晶パネル、53R、53G、53B 出射プリ偏光素子、54R、54G、54B 出射メイン偏光素子、100 偏光板、101 透明基板、102 凸部、103 ベース形状部、104 突起部