(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141471
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】プラズマ除菌水生成装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/18 20060101AFI20220921BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220921BHJP
C02F 1/48 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61L2/18
H05H1/24
C02F1/48 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041795
(22)【出願日】2021-03-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開日:令和3年2月22日 刊行物:日本経済新聞
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月15日にウェブサイトにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開日:令和2年11月25日 集会名:第22回 インターフェックス Week 東京
(71)【出願人】
【識別番号】000236160
【氏名又は名称】株式会社テクノ菱和
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋且
(72)【発明者】
【氏名】武石 義人
(72)【発明者】
【氏名】菅田 大助
(72)【発明者】
【氏名】高島 和則
(72)【発明者】
【氏名】徳田 祐希
【テーマコード(参考)】
2G084
4C058
4D061
【Fターム(参考)】
2G084AA25
2G084BB07
2G084BB11
2G084CC03
2G084CC19
2G084CC33
2G084CC35
2G084DD01
2G084DD14
2G084DD22
2G084FF23
4C058AA29
4C058BB07
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4C058JJ07
4C058JJ23
4C058JJ24
4D061DA03
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4D061EB33
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4D061FA06
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4D061GA04
4D061GA09
4D061GA22
4D061GA30
4D061GC01
4D061GC02
4D061GC04
4D061GC14
4D061GC19
4D061GC20
(57)【要約】
【課題】高い除菌効果を有するプラズマ除菌水を生成するプラズマ除菌水生成装置を提供する。
【解決手段】供給された水11を所定の温度に予冷却する冷却機構2と、水11を貯留し、減圧可能に構成されたプラズマ処理部3と、プラズマ処理部3の内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプ31aと、プラズマ処理部3に貯留された水11の水面上方に位置するように設けられ平板状の電極33aと、平板状の電極33aの下面側に設けられ、プラズマ処理部3に貯留された水11の水面と空間を介して対向する誘電体34と、プラズマ処理部3に貯留された水11中に位置するように設けられた接地極33bと、電極33aに交流電圧を印加する電源35と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された水を所定の温度に予冷却する冷却機構と、
前記水を貯留し、減圧可能に構成されたプラズマ処理部と、
前記プラズマ処理部の内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプと、
前記プラズマ処理部に貯留された前記水の水面上方に位置するように設けられた平板状の電極と、
前記平板状の電極の下面側に設けられ、前記プラズマ処理部に貯留された前記水の水面と空間を介して対向する誘電体と、
前記プラズマ処理部に貯留された前記水中に位置するように設けられた接地極と、
前記電極に交流電圧を印加する電源と、を有するプラズマ除菌水生成装置。
【請求項2】
前記水を貯留する原水カートリッジを有し、前記原水カートリッジから前記水が前記冷却機構に供給されるように構成される請求項1記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項3】
前記冷却機構が、供給された前記水を貯留する冷却タンクと、前記冷却タンクを冷却する冷却装置であり、
前記冷却タンクで所定の温度に予冷却された前記水が、前記プラズマ処理部に導入されるように構成された請求項1又は2記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項4】
前記冷却機構が、供給された前記水が流れる液冷ジャケットと、前記液冷ジャケットを冷却するペルチェ素子であり、
前記液冷ジャケットで所定の温度に予冷却された前記水が、前記プラズマ処理部に導入されるように構成された請求項1又は2記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項5】
前記冷却機構は、前記プラズマ処理部においてプラズマ処理される前記水の温度が15℃以下となるように、前記水を予冷却する請求項1~4いずれか一項記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項6】
前記プラズマ処理部においてプラズマ処理される前記水の処理量が50mL以下である請求項1~5いずれか一項記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項7】
前記プラズマ処理部は、貯留する前記水の水位が10mm以下となるように構成される請求項1~6いずれか一項記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項8】
前記電極および前記誘電体による誘電体バリア放電の放電面積が、前記プラズマ処理部に貯留された前記水の水面面積の15%以上となるように構成される請求項7記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項9】
前記プラズマ処理部にて生成されたプラズマ除菌水をストレージする保管タンクがさらに設けられている請求項1~8いずれか一項記載のプラズマ除菌水生成装置。
【請求項10】
前記保管タンクには、貯留された前記プラズマ除菌水を冷却する冷却装置が設けられている請求項9記載のプラズマ除菌水生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物体の除菌に用いられる、プラズマ除菌水を生成するプラズマ除菌水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウィルス感染症の世界的な感染が長期化し、手指の除菌や人が触れた物体表面の除菌を行うことが習慣化している。このような手指や物体の消毒には、次亜塩素酸水系除菌剤やアルコール系除菌剤が広く用いられてきた。しかし、塩素成分による手荒れやアルコールの脱脂作用による手荒れが問題となっている。他にも、除菌力を持つ機能水としては、電解水やオゾン水などが用いられている。しかし、例えばオゾン水を用いた場合には、残留成分による臭気や周辺部材の腐食というような問題が生じた。
【0003】
このような背景を受け、近年では、薬液等を用いない除菌方法として、放電プラズマを利用した除菌方法が提案されている。この方法は、放電プラズマにより生成する反応性の高い化学活性種やイオンの酸化力を用いて除菌するものである。電気的なエネルギーのみで高い除菌効果が得られ、薬液などを用いる方法のような残留性が無いことから様々な分野で応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開1999-187872号公報
【特許文献2】特開2001-252665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、除菌剤による手荒れや、除菌剤の残留成分による腐敗等が問題視される昨今において、安全性の高いプラズマ除菌水を用いて手指の除菌や人が触れた物体表面の除菌を行いたいという要望が高まっていた。しかし、手指や物体表面の除菌に適したプラズマ除菌水生成装置はいまだ提案されておらず、その開発が切望されていた。
【0006】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。その目的は、高い除菌効果を有するプラズマ除菌水を生成するプラズマ除菌水生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のプラズマ除菌水生成装置は、以下のような特徴を有している。
(1)供給された水を所定の温度に予冷却する冷却機構と、前記水を貯留し、減圧可能に構成されたプラズマ処理部と、前記プラズマ処理部の内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプと、前記プラズマ処理部に貯留された前記水の水面上方に位置するように設けられ平板状の電極と、前記平板状の電極の下面側に設けられ、前記プラズマ処理部に貯留された前記水の水面と空間を介して対向する誘電体と、前記プラズマ処理部に貯留された前記水中に位置するように設けられた接地極と、前記電極に交流電圧を印加する電源と、を有する。
【0008】
(2)前記水を貯留する原水カートリッジを有し、前記原水カートリッジから前記水が前記冷却装置に供給されるように構成されても良い。
【0009】
(3)前記冷却機構が、供給された前記水を貯留する冷却タンクと、前記冷却タンクを冷却する冷却装置であり、前記冷却タンクで所定の温度に予冷却された前記水が、前記プラズマ処理部に導入されるように構成されても良い。
【0010】
(4)前記冷却機構が、供給された前記水が流れる液冷ジャケットと、前記液冷ジャケットを冷却するペルチェ素子であり、前記液冷ジャケットで所定の温度に予冷却された前記水が、前記プラズマ処理部に導入されるように構成されても良い。
【0011】
(5)前記冷却機構は、前記プラズマ処理部においてプラズマ処理される前記水の温度が15℃以下となるように、前記水を予冷却しても良い。
【0012】
(6)前記プラズマ処理部においてプラズマ処理される前記水の処理量が50mL以下であっても良い。
【0013】
(7)前記プラズマ処理部は、貯留する前記水の水位が10mm以下となるように構成されていても良い。
【0014】
(8)前記電極および前記誘電体による誘電体バリア放電の放電面積が、前記プラズマ処理部に貯留された前記水の水面面積の15%以上となるように構成されても良い。
【0015】
(9)前記プラズマ処理部にて生成されたプラズマ除菌水をストレージする保管タンクがさらに設けられていても良い。
【0016】
(10)前記保管タンクには、貯留された前記プラズマ除菌水を冷却する冷却装置が設けられていても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い除菌効果を有するプラズマ除菌水を生成するプラズマ除菌水生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置の一例を示す構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置の一例を示す構成図である。
【
図3】第1の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置のプラズマ処理部を示す構成図である。
【
図4】第1の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置の一例を示す部分拡大図である。
【
図5】プラズマ除菌水の生成工程を示すフローチャートである。
【
図6】プラズマ除菌水による掌の除菌試験の結果を示す図である。
【
図7】プラズマ除菌水の除菌効果の寿命を示すグラフである。
【
図8】第2の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置の一例を示す構成図である。
【
図9】プラズマ除菌水による物体表面での除菌試験の結果を示す図である。
【
図10】スプレーされたプラズマ除菌水による物体表面での除菌試験の結果を示す図である。
【
図11】他の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
[1.全体構成]
(装置構成概要)
本発明の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置Aの実施形態について図面を参照しつつ説明する。プラズマ除菌水生成装置Aは、除菌対象に供給されるプラズマ除菌水を生成する装置である。本実施形態では、特に、人の手指を主な除菌対象としている。
【0020】
プラズマ除菌水は、被処理水に対してプラズマ放電を行うことで生成されたラジカル類が溶存する水である。このラジカル類が有するとされる除菌力により、除菌対象は除菌される。プラズマ除菌水生成装置Aが生成するプラズマ除菌水のpHは弱酸性である。従って、誘電体バリア放電により亜硝酸(HNO2)と過酸化水素(H2O2)により過硝酸(HOONO2)を生成され、水中に溶解する。これらの物質が、高い除菌力を持つヒドロペルオキシラジカル(HOO・)の供給源となっていると考えられる。
【0021】
プラズマ除菌水は、薬剤やアルコールが不使用のため残留性が無い。また、除菌因子のラジカル類は温度(時間経過)により失活するため、除菌後は速やかに水に戻り安全性が高い。また、プラズマ除菌水は弱酸性のため手荒れなどが無く、人体に対し低刺激・低侵襲の除菌水である。このような、プラズマ除菌水を、特に手指の消毒に好適な態様で提供するのが、プラズマ除菌水生成装置Aである。
【0022】
プラズマ除菌水生成装置Aは、原水カートリッジ1、冷却機構2、プラズマ処理部3、および供給口Tを有する。以下、各構成について、
図1を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
<原水カートリッジ>
原水カートリッジ1は、プラズマ処理によりプラズマ除菌水となる前の水11を収容する、開口を有する有底の容器である。水11としては、生成されるプラズマ除菌水の除菌力向上の観点から純水または精製水を用いることが好ましい。ただし、水道水等を用いてもプラズマ除菌水を生成することは可能である。また、硬度30程度の軟水であればミネラルウォーターを用いても良い。プラズマ除菌水生成装置Aの形態の一例としては、交換式の原水カートリッジ1から供給された水11に対して、プラズマ処理を行うことでプラズマ除菌水を供給するウォーターサーバー型の装置がある。
【0024】
プラズマ除菌水生成装置Aでは、原水カートリッジ1に収容されている水11が、冷却機構2を介してプラズマ処理部3に供給可能となるように、各構成要素を接続する配管が設けられている。具体的には、原水カートリッジ1の開口は、冷却機構2につながる配管の端部に設けられたカートリッジ装着口に着脱可能に構成される。例えば、ウォーターサーバーのように、開口を下向きにした状態でカートリッジ装着口に装着可能に構成しても良い。
【0025】
原水カートリッジ1と冷却機構2を接続する配管には、ポンプ12が設けられている。ポンプ12が駆動されると、ポンプ12は原水カートリッジ1側から水11を吸い込み冷却機構2側に吐出して水11を移送する。ポンプ12は、所定量の水11を冷却機構2側に移送するように制御される。
【0026】
原水カートリッジ1の開口部分に不図示のベントフィルターを設けても良い。ベントフィルターを設けることで、原水カートリッジ1内の水11が冷却機構2に供給される際、原水カートリッジ1が吸い込む空気による水11の汚染が防止される。ベントフィルターは、分析用の純水装置ストレージタンク等で使用される製品を適用できる。
【0027】
また、水11として水道水等を用いる場合には、中空糸フィルタや活性炭フィルタを用いて水11をろ過してから冷却機構2に供給する構成とすることが好ましい。具体的には、活性炭フィルタを用いて水道水の塩素や有機物の除去を行い、イオン交換フィルタを用いてイオン成分の除去を行うことができる。水道水のろ過に用いるフィルタとしては、例えば2種類のフィルタを用いて1次純水レベルまで水道水の純度を上げることができる性能のフィルタを用いる。なお、原水カートリッジ1を設ける代わりに、プラズマ除菌水生成装置Aの冷却機構2に対して、純水製造装置等を直接接続して水11を供給する構成としても良い。
【0028】
<冷却機構>
冷却機構2は、原水カートリッジ1側から供給された水11を、15℃以下に予め冷却するための機構である。プラズマ処理部3においてプラズマ処理される水11の温度を15℃以下とすることで生成後のプラズマ除菌水の水温が20℃程度となるため、除菌因子の分解が抑制され生成されたプラズマ除菌水の除菌効果が維持可能となる。水11を15℃以下に予冷却することで、25℃程度の常温雰囲気下であれば、プラズマ除菌水の高い除菌力を生成後5分間保持したまま保管可能となる。
【0029】
以上の通り、冷却機構2は、プラズマ処理される水11の温度が15℃以下となるように、供給された水11を予冷却するための構成であると言える。したがって、実際のプラズマ除菌水生成装置Aの配管等を考慮し、プラズマ処理される水11の温度が15℃以下となるように水11を冷却すれば良く、冷却機構2による冷却温度は15℃以下に限定されない。
【0030】
冷却機構2としては、原水カートリッジ1から供給された水11を予冷却する冷却タンク21を用いることができる。また、原水カートリッジ1とプラズマ処理部3を接続する配管に液冷ジャケット22を設けても良い。本実施形態では、冷却機構2をプラズマ処理部3の前段として設けているが、プラズマ処理部3に冷却装置を設け、プラズマ処理中に水11を冷却する構成とすることを排除する意図はない。ただし、プラズマ処理部3に冷却装置を設ける場合には、プラズマ処理部3に熱交換器を設ける必要がある。そのため、冷却機構2により水11を予冷却する構成とすることで、プラズマ除菌水生成装置Aの構成が簡素化されるため、装置の小型化と低コスト化が達成される。
【0031】
(冷却タンク)
冷却機構2の一例である冷却タンク21は、原水カートリッジ1から供給された水11を貯留する金属製の容器である。冷却タンク21の容量は、1回のプラズマ処理量を考慮の上適宜決定できるが、例えば50mL~数L程度の容量とすることができる。冷却タンク21には、冷却タンク21内の水11を15℃以下に冷却する冷却装置21aが取り付けられている。例えば、ウォーターサーバーや冷水器等の冷却コンプレッサー方式を用いて、冷却タンク21の外側に銅管を巻き、銅管内に冷媒を循環させる構成としても良い。またペルチェ素子方式を用いて、ペルチェ素子で冷却した水(ブライン)を冷却タンク21の外側に巻いた配管に循環させても良い。
【0032】
さらに、冷却タンク21には内部の水11の温度を検出する温度センサや、冷却タンク21内の水位を検知する水位センサを設けても良い。例えば、温度センサで検出された温度が、所定の上限温度を上回ったときに冷却装置21aを作動させる構成とすることができる。また、水位センサで検出された水位が、所定の水位を下回ったときにポンプ12を作動させ水11を補充する構成としても良い。
【0033】
以上のような構成により、冷却タンク21内の水11は、低温(15℃以下)に予冷却される。この冷却は、温度センサや水位センサからの信号を受信した不図示の制御装置によりポンプ12および冷却装置21aを制御することにより行う。冷却タンク21の底面には、予冷却された水11の排出口が設けられている。排出口には配管が接続され、この配管の他端部がプラズマ処理部3に接続される。配管に設けられた排出弁を開閉することにより、冷却タンク21の水11をプラズマ処理部3に導入することができる。
【0034】
(液冷ジャケット)
図2に示す通り、冷却機構2の他の例としては、液冷ジャケット22を原水カートリッジ1とプラズマ処理部3を接続する配管に設ける態様がある。液冷ジャケット22は、銅やアルミ等のパイプを、アルミ等のベース本体で挟み込むように構成したヒートシンクである。原水カートリッジ1の水11は、液冷ジャケット22のパイプに供給される。液冷ジャケット22には、ペルチェ素子22aの吸熱側が隣接するように配置されている。このペルチェ素子22aの吸熱作用により、液冷ジャケット22のパイプ内を通る水11は、低温(15℃以下)に予冷却される。液冷ジャケット22のパイプの流路、長さ、および直径は、一回のプラズマ処理量を考慮の上、適宜決定され得る。
【0035】
液冷ジャケット22を用いた冷却機構2においても、液冷ジャケット22から排出された水11の温度を検出する温度センサを設けても良い。例えば、温度センサで検出された温度に基づいてペルチェ素子22aを制御する。水11の冷却は、温度センサからの信号を受信した不図示の制御装置によりポンプ12およびペルチェ素子22aを制御することにより行う。液冷ジャケット22の排出口には配管が接続され、配管の他端部はプラズマ処理部3に接続される。配管に設けられた排出弁を開閉することにより、液冷ジャケット22から排出された水11をプラズマ処理部3に導入することができる。
【0036】
<プラズマ処理部>
プラズマ処理部3は、冷却機構2側から供給された予冷却された水に対してプラズマ処理を行う構成部である。プラズマ除菌水を人の手指の除菌に用いる場合、プラズマ処理部3における水11の1回のプラズマ処理量は約5~50mLとすることが好ましい。この処理量は、1人当たり約5mLのプラズマ除菌水を除菌に用いることを想定し、連続使用の場合には10人分のプラズマ除菌水を生成することを想定している。
【0037】
プラズマ除菌水の供給方式は、5mLを1サイクルの生成量として短時間でプラズマ除菌水を生成するオンデマンド方式としてもよいし、複数サイクル分(例えば10mL~50mL)のプラズマ除菌水を生成して連続供給しても良い。すなわち、一回のプラズマ処理量の上限を50mLとすることが好ましい。プラズマ処理量の上限を50mLとした場合比較的安価かつ簡素化された装置構成で約1分間という短時間でプラズマ除菌水を生成できるため、装置の小型化と低コスト化が実現可能となる。水11のプラズマ処理量は、プラズマ除菌水の除菌効果が十分に持続する保管時間等を検討の上、適宜変更することができる。
図3に示す通り、プラズマ処理部3は、減圧チャンバ31、プラズマ処理タンク32、電極33a、誘電体34、電源35を有する。
【0038】
(減圧チャンバ)
減圧チャンバ31は、金属または樹脂製の耐圧構造を有する真空容器である。減圧チャンバ31の容積は、1~2L以下とすることができる。例えば、容積0.2Lの減圧チャンバ31を用いて、50mLの水11のプラズマ処理を行うことができる。本実施形態では、減圧チャンバ31内にプラズマ処理タンク32および電極33aを配置する構成を説明する。ただし、減圧可能な容積1~2Lのプラズマ処理タンク32を用いる場合には、減圧チャンバ31を省略することも可能である。減圧可能なプラズマ処理タンク32を用いる場合には、以下に説明する減圧ポンプやバルブ等、減圧チャンバ31の構成をプラズマ処理タンク32に適用すればよい。また、一回のプラズマ処理量を考慮の上、減圧チャンバ31または減圧可能なプラズマ処理タンク32の容積をできるだけ小さくすることで、減圧工程に要する時間が短縮される。
【0039】
減圧チャンバ31には、減圧ポンプ31aとバルブ31bを有する排気ダクトEが接続されている。排気ダクトEは、減圧チャンバ31の内部の気体を排出するダクトである。減圧ポンプ31aは、減圧チャンバ31の内部の気体を吸引して排出するポンプである。バルブ31bは、減圧チャンバ31の内部の気体を排気する際に、その排気量を調整する弁である。減圧ポンプ31aとバルブ31bは、不図示の制御装置に接続されており、この制御装置からの制御信号により、減圧ポンプ31aの流量やバルブ31bの開度が制御される。
【0040】
減圧ポンプ31aは、具体的には減圧チャンバ31の気相雰囲気を減圧する。減圧ポンプ31aによる気相雰囲気の減圧により、誘電体バリア放電の発生に必要な印加電圧が低減される。ここで、減圧ポンプ31aは、空気の絶縁耐力をある程度低下させ、プラズマが進展しやすくなる程度の極低真空状態となるように、減圧チャンバ31の内部の気体を排出できれば良い。
【0041】
極低真空とは、電源電圧が20kV/cmの場合、減圧度が50kPa(abs)以下の状態を示し、より好ましくは50kpa(abs)~30kPa(abs)程度の状態を示す。減圧チャンバ31を極低真空とすることで、放電に必要な印加電圧を約50%低くすることが可能となる。例えば、減圧チャンバ31が大気圧として30kVppの印加電圧が必要となる場合、減圧チャンバ31を30kPa(abs)の極低真空とすることで必要な印加電圧は14kVppとなる。
【0042】
減圧チャンバ31は、内部は極低真空となっていれば良い上に、減圧チャンバ31の内部にはプラズマ処理タンク32が配置されるため減圧チャンバ31の気相容積は比較的小さい。そのため、減圧ポンプ31aとしては、到達真空度が30kPa(abs)~70kPa(abs)程度、排気速度が数L/min程度の安価なポンプを用いても、減圧チャンバ31を極低真空状態とすることができる。例えば、容積0.2Lの減圧チャンバ31を用いて50mLの水11をプラズマ処理する場合、排気速度が6~7L/min、到達真空度が10kPa(abs)程度のアルバック製DAP-6Dポンプを用いても、減圧チャンバ31を数秒で極低真空状態とすることができる。
【0043】
(プラズマ処理タンク)
プラズマ処理タンク32は、減圧チャンバ31の内部に配置された水11を貯留する金属または樹脂製のタンクである。プラズマ処理タンク32は、上面に開口を有する箱形の部材である。プラズマ処理タンク32の平面形状は矩形や円形など、装置の形状に併せて設計すればよい。ただし、上述の通り減圧可能なプラズマ処理タンク32を用いる場合には、真空容器のタンクであってよい。プラズマ処理タンク32は、例えば5mL~50mLの水11を貯留できる程度の大きさを有する。
【0044】
一例として、50mLの水11を貯留するプラズマ処理タンク32として、上面開口がφ100mm程度のプラズマ処理タンク32を設けて良い。この場合には、50mLの水11の水深は10mm以下となる。プラズマ処理中においては、誘電体バリア放電により水11の水面に揺れが生じるため、誘電体バリア放電が撹拌効果を有していると言える。水11の水深が10mm以下であれば、プラズマ処理中に自動的に水11が攪拌されて良い。なお、用いる電極構成および電源容量に対して水11の貯留量が多すぎる場合には、十分な除菌力を有するプラズマ除菌水を得ることができない。本実施形態では、5~50mLの水11に対して十分な除菌力を与えることができる構成を例として説明する。
【0045】
プラズマ処理タンク32には、バルブ32aを有する給水管Sが接続されている。給水管Sは、プラズマ処理タンク32の内部に予冷却された水11を導入する配管である。バルブ32aは、水11の導入量を調整する弁である。バルブ32aは、不図示の制御装置に接続されており、この制御装置からの制御信号により、バルブ32aの開度が制御される。プラズマ処理タンク32には、給水管Sから、予冷却された水11が供給される。
【0046】
プラズマ処理タンク32には、バルブ32bおよび送液ポンプ32cを有する供給配管Dが接続されている。供給配管Dは、プラズマ除菌水の注出口Tに対してプラズマ除菌水を供給する配管である。バルブ32bは、注出口Tに対してプラズマ除菌水を供給する際に、その供給量を調整するための弁である。送液ポンプ32cは、供給されるプラズマ除菌水の流量を調整するためのポンプである。バルブ32bおよび送液ポンプ32cは、不図示の制御装置に接続されており、この制御装置からの制御信号により、バルブ32bの開度や送液ポンプ32cの流量が制御される。プラズマ除菌水を人の手指の消毒に用いる場合には、一回に約5mLのプラズマ除菌水が注出口Tから供給されるように、バルブ32bおよび送液ポンプ32cを制御する。
【0047】
なお、注出口Tの近傍にセンサを配置し、注出口Tの近傍に消毒対象が位置したことを感知して自動で所定量のプラズマ除菌水を供給する構成とすることもできる。センサ機構は、可視光や赤外光による光電方式(レーザー光、LED等)、超音波方式、過電流方式、画像認識方式などを採用できる。また、注出口Tにスプレー機構を設けて、プラズマ除菌水を噴射する構成としても良い。
【0048】
プラズマ処理タンク32に冷却装置を設けて、プラズマ処理中において水11を冷却することもできる。プラズマ放電により水11の水温が上昇する場合には、除菌因子が分解され除菌効果が低減する可能性がある。例えば高温下において装置を用いた際に気温の影響を受けて水11の水温上昇が生じる場合がある。そのような場合には、水11を冷却することで、除菌因子の分解を抑制し生成されたプラズマ除菌水の除菌力が高まる。ただし、冷却機構2を設けて水11を十分に予冷却している場合には、プラズマ処理タンク32でさらに冷却を行う必要は生じない。
【0049】
(電極と誘電体)
減圧チャンバ31の内部には、電極33aと接地極33bが対向するように配置されている。また、電極33aと接地極33bの間には誘電体34が設置されている。
【0050】
電極33aは、平板状の電極であり、金属で構成されている。金属としては、耐腐食性のある金属として、例えばニッケル、チタン、各種ステンレス鋼、アルミ、銅、パラジウム、金、銀を用いることができる。他には、誘電体34の一例であるガラスとの相性からコバールを用いても良い。電極33aの水平方向の大きさは、プラズマ処理タンク32の開口部分より小さく、プラズマ処理タンク32の内部に収まる程度の大きさとする。
【0051】
電極33aおよび誘電体34の平面の面積は、水11の処理量、電源容量、電極制作コスト等を考慮の上、適宜設計可能である。本実施形態では、誘電体バリア放電の発生面積が、水面面積の15%以上となるように電極33aおよび誘電体34を構成することが好ましい。プラズマ処理タンク32に貯留される水11の水位が10mm以下であれば、誘電体バリア放電の攪拌効果により、貯留された水11全量に対して十分なプラズマ処理が行われると考えられる。
【0052】
平板状の電極33aは、円盤状または四角形において角部分を丸めた形状とすると良い。角を有さない形状とすることで、エッジ部への電解集中や火花放電の進展が防止される。以上より、電極33aは、例えば50mLの水11を処理する場合にはφ40mmの円盤形状とすることができる。なお、電極33aの金属部には交流電圧印加による発熱が伝導する。従って、電極33aの上面に金属製のヒートシンクを設置し、放熱を促してもよい。
【0053】
電極33aは、プラズマ処理タンク32の上部側に配置される。具体的には、
図3に示すように、電極33aは、プラズマ処理タンク32において水11が満水となるように供給された場合において、水11の水面上方に位置するように設けられている。すなわち、水11の水面と電極33aとの間には空間が生じる。
【0054】
本実施形態では、電極33aの下面側は誘電体34で被覆されている。よって、誘電体34は、プラズマ処理タンク32に貯留された水11の水面と空間を介して対向することになる。従って、電極33aと水11の水面との間の空間は、実際には誘電体34と水11の水面との空間を意味する。
【0055】
(誘電体)
誘電体34と水11の水面との間の空間は、狭い方が抵抗は低くなるため放電し易い。ただし、プラズマ除菌水生成装置Aは、微細な揺れが生じる場所に載置された場合、振動等により水11が波立った際に、誘電体34と水11が接触する恐れがある。そのため誘電体34と水11の水面との間の空間は、5mm以上10mm以下とすることが好ましい。特に、空間を8mmとすることで、適度な印加電圧で放電可能であるとともに、誘電体34と水11の接触が防止される。
【0056】
誘電体34は、比誘電率(εr)が比較的大きく、誘電正接(tanδ)が小さく、絶縁耐力(KV/mm)が良いことが好ましい。ただし、比誘電率が数1000を超えるようなチタン酸バリウム等に代表される強誘電体を用いた場合、交流電圧印加による誘電効果がもたらす発熱が高温に達する可能性がある。その場合には、電極33aにヒートシンク等の放熱機構を設け、発熱を発散させる構成を設けると良い。誘電体34の厚さについては、薄い方が放電し易い。ただし、後述する電源35の印加電圧と誘電体34の絶縁耐力との兼ね合いを考慮する必要がある。また、電極33aとしての耐久性・機械的な強度も考慮した上で、誘電体34の厚みを決定する。
【0057】
以上の条件を考慮すると、誘電体34の材料としては、ガラス(εr:3~10、tanδ:0.003)、ポリエチレン(εr:2~2.5、tanδ:~0.0005)、ポリプロピレン(εr:2~2.3、tanδ:~0.0005)、ポリテトラフルオロエチレン(εr:2.0、tanδ:~0.0002)、アルマイト(蓚酸アルマイト;εr:6~10、tanδ:~0.001)や窒化ケイ素(εr:7~8、tanδ:0.0005)等のセラミックスを用いることができる。
【0058】
(電極の構成例)
電極33aは、必ずしも平板状である必要はなく、金属膜により形成しても良い。例えば、誘電体34として十分な強度を有するように2~3mm程度のガラス板やセラミック板を用い、この上に電極33aとして50μm程度の金属層を蒸着することができる。蒸着する金属としては、例えばニッケルやチタンとすると良い。特にガラスとニッケルは相性が良く、ニッケル層に孔等が生じないように均一に蒸着することができるので良い。また、誘電体にコバール封着ガラスを用いてコバールと溶着することも可能である。
【0059】
また、誘電体34として、φ75mm(または75mm×75mm)厚さ1mm程度の窒化ケイ素基板およびアルミナジルコニア基板などを用い、この上に電極33aとして、φ40~50mm厚さ0.1μm~1μm以下のチタンや銅による金属層をスパッタリングにより形成しても良い。電極33aをスパッタリングで形成する場合には、誘電体34に対し0.1μm~1μm以下の下地層を設け、その下地層の上に電極33aとしての金属層を設ける構成としても良い。なお、誘電体34、下地層、電極33aである金属層を合わせて、電極として捉えることができる。
【0060】
誘電体34に対し、電極33aをスパッタリングにより形成すると、成膜された層の誘電体34に対する密着力が向上し、膜応力も高くすることができる。下地層としては、誘電体34との密着性が高い、チタン、パラジウム、ニッケル、クロムをスパッタリングにより形成することが好ましい。下地層を形成することにより、誘電体34に対する電極33aとしての金属層の密着度がさらに向上される。なお、電極33aと下地層の厚みの合計を0.2~1μm以下とすると、電極33aが軽量化されて良い。また、電極33aと下地層の厚みの合計を0.2~0.5μmとすることが好ましい。合計0.2~0.5μmの薄膜を形成する場合には、電極性能を維持しつつも、スパッタリングにかかる時間が短縮される。よって、製造工数削減により、電極がより低コストで製造される。
【0061】
(接地極)
接地極33bは、プラズマ処理タンク32の下部側に配置されている。
図3の例では、プラズマ処理タンク32は樹脂で形成されており、接地極33bは、プラズマ処理タンク32に貯留された水11中に水没する位置に設けられている。誘電体バリア放電の放電電流は、水11中を経由して接地極33bに流れる構造とする。
【0062】
接地極33bの材質は金属であれば良く、その形状も自由に変更可能である。ただし、誘電体バリア放電の放電電流を確実にアースに導くことができるように構成する。プラズマによって生成する硝酸の影響により、水11はpH3程度となることが実験から明らかとなっている。そのため、プラズマ処理タンク32の水11中に接地極33bを水没させる場合、耐腐食性に優れ、比較的硝酸系の酸にも耐力がある金属として、例えばステンレスを用いると良い。
【0063】
なお、プラズマ処理タンク32を金属にて形成した場合には、プラズマ処理タンク32をアースに接続することでプラズマ処理タンク32に接地極33bの機能を持たせることができて良い。すなわち、プラズマ処理タンク32の水11中に配置される接地極33bは、プラズマ処理タンク32そのものを含む。ただし、プラズマ処理タンク32が金属で形成されている場合、水11の水面から気相側に露出したプラズマ処理タンク32の内壁面が、電極33aと著しく近くなると、プラズマ処理タンク32の内壁面に向かう火花放電が発生することが考えられる。
【0064】
そのため、
図4に示すように、電極33aの側面とプラズマ処理タンク32の内壁面との間に、所定の距離を確保すると良い。この距離は、電極33aへの印加電圧、誘電体34の厚み、および減圧チャンバ31の気圧により異なるが、空気の絶縁が1cmあたり30kVであることを考慮すると、50mm以上確保することで火花放電を防止できる。また、プラズマ処理タンク32の内壁面の気相に露出する部分を、樹脂コーティング32dを用いて絶縁被覆しても良い。
【0065】
(電源)
図3に示す通り、電源35は、電極33aに誘電体バリア放電発生用の交流電圧を印加する高圧電源である。電源35は、交流の周波数が20kHz程度、印加電圧が10~20kV
0-p(2~3kV/cm)程度、電源容量は100W以下のものを用いることができる。電源35は、5~50mLの水11をプラズマ処理する際に、1分程度の短時間でプラズマ除菌水の除菌力のピークが得られる電源を適宜選択すればよい。電源35は、減圧チャンバ31の外部に設けられ、電極33aに接続される。
【0066】
電源35の回路構成は、数kHz~数十kHzの正弦波、三角波、パルス波で、10~20kV0-p(2~3kV/cm)程度の交流電圧が発生できるものであれば良い。印加電圧は高い方が処理効率は高くなるが、減圧チャンバ31において気相部が50kPa以下の極低真空に減圧されていることから、10kV0-p(2~3kV/cm)程度の印加電圧でプラズマを進展させることができる。
【0067】
ここで、電源35は、被処理水1Lに対して、10Wh以上、より好ましくは20Wh以上の電力を投入するように構成されている。例えば、3Lの被処理水を180Wで20分処理することで、被処理水1Lに対して20Whの電力を投入することができる。なお、同じ電力量を投入する場合、電力と投入時間が異なっても、トータルの投入電力量が同じであれば、同様の除菌効果が得られる。本実施形態のプラズマ除菌水生成装置Aでは、10Wh/L以上の電力を投入すれば、除菌効果を持つプラズマ処理水が生成される。投入する電力を20Wh/L以上とすることで、生成されたプラズマ除菌水の除菌効果が向上される。投入電力量は、電源系統に電力計を搭載すればモニタリング可能である。
【0068】
電源35の一例として、レシップエルピー社製のインバータネオントランス(αネオンM5)を用いることができる。その場合、電圧18kVp-p(Max)、周波数約20kHz、60~70Wで誘電体バリア放電を発生し、1分間で50mLのプラズマ除菌水が生成される。この時、インバータネオントランスのAC100V入力にDC141Vを入力することで、通常(AC100V入力時)大きく変動する電圧のp-p値を、Max値である18kVp-pのまま変動させずに発振し得るため、水11への電力量投入時間が短縮される。
【0069】
[2.プラズマ除菌水生成工程]
以上のような構成を有するプラズマ除菌水生成装置Aは、
図5に示す通り、以下の工程によりプラズマ除菌水を生成する。
(1)水11の予冷却工程
(2)プラズマ処理タンク32に対する水11の供給工程
(2)減圧チャンバ31の減圧工程
(3)誘電体バリア放電によるプラズマ処理工程
(4)減圧チャンバ31の大気圧開放工程
(5)プラズマ除菌水の供給工程
【0070】
(水の予冷却工程)
水11の予冷却工程では、原水カートリッジ1側から供給された水11が、例えば15℃以下となるように、冷却機構2により冷却される。上述の通り、水11を15℃以下に冷却するのは、プラズマ処理部33においてプラズマ処理される水11の温度を15℃以下とすることで、除菌因子の分解が抑制され生成されるプラズマ除菌水の除菌効果を向上することができるからである。
【0071】
(水の供給工程)
水11の供給工程では、プラズマ処理タンク32に予冷却された水11を5~50mL供給する。すなわち、制御装置からの制御信号により、プラズマ処理タンク32のバルブ32aが開状態となる。バルブ23aが開放されることにより、冷却タンク21に接続されたプラズマ処理タンク32の給水管Sを介して、プラズマ処理タンク32に水11が供給される。プラズマ処理タンク32に所定量の水11が供給された時点で、制御装置からの制御信号によりバルブ2aは閉状態に戻される。
【0072】
(減圧工程)
減圧工程では、減圧チャンバ31の内部の気体を排出し減圧状態とする。すなわち、制御装置からの制御信号により、減圧チャンバ31のバルブ31bが開状態となる。バルブ31bが開放されると、制御装置からの制御信号により、減圧ポンプ31aが稼働する。減圧ポンプ31aは、減圧チャンバ31が極低真空状態となるまで、減圧チャンバ31の内部の気体を吸引して排出する。ここでは極低真空とは、減圧度が50kPa以下の状態を示す。制御装置は、減圧チャンバ31が極低真空状態となった後に、減圧ポンプ31aを停止しバルブ31bを閉状態とする。
【0073】
(プラズマ処理工程)
プラズマ処理工程では、誘電体34が被覆された電極33aと、被処理水の水面との間の空間に、誘電体バリア放電によりプラズマを生成する。すなわち、電極33aに電源35からの高電圧が印加されると、水11の水面と誘電体34との間の空間に、プラズマが生成される。水11が、接地極33bと導通していることから、水11の水面と誘電体34との間の空間にプラズマが生成される。この気相において生成されたプラズマにより、水11においてラジカル類が生成され、プラズマ除菌水が得られる。
【0074】
(大気圧開放工程)
大気圧開放工程では、減圧チャンバ31の減圧を大気圧に開放する。すなわち、制御装置からの制御信号により、減圧チャンバ31のバルブ31bを開状態とする。
【0075】
(プラズマ除菌水供給工程)
プラズマ除菌水供給工程では、生成されたプラズマ除菌水を注出口Tを介して除菌対象に供給する。すなわち、制御装置からの制御信号により、プラズマ処理タンク32のバルブ32bが開状態となる。バルブ32bが開放されると、制御装置からの制御信号により、送液ポンプ32cが稼働する。送液ポンプ32cは、プラズマ処理タンク32に貯留されているプラズ除菌水が所定量排出されるまで、プラズマ処理タンク32の内部のプラズマ除菌水を吸引して排出する。そして、所定量のプラズマ除菌水が排出されたときに、制御装置からの制御信号によりバルブ32bは閉状態に戻される。
【0076】
[3.実験]
(プラズマ除菌水による掌の除菌試験)
プラズマ除菌水生成装置Aが生成したプラズマ除菌水の除菌効果を検討するために、実際の人の掌の常在菌に対する除菌試験を行った。実験は、掌型の培地によるコンタクトプレート法(ハンドぺたんチェック)を用いて行った。未洗浄の掌をコントロールとした。プラズマ除菌水が掌全体に接触するように、プラズマ除菌水に一瞬浸して揉み込んだものをサンプル1とした。市販のアルコールスプレーを1プッシュして揉み込んだものをサンプル2とした。また市販のアルコールジェル(指定医薬部外品)を1プッシュして揉み込んだものをサンプル3とした。これらのコントロールおよびサンプル1~3について、培地の一般生菌数を比較した。
【0077】
図6に、ハンドぺたんチェックによる除菌試験の結果を示す。
図6に示す通り、プラズマ除菌水を適用したサンプル1の一般生菌数は、未洗浄の掌を接触させたコントロールと比較して明らかな菌数の減少が確認できた。さらに、サンプル1を、市販のアルコール除菌剤を用いたサンプル2およびサンプル3と比較すると、プラズマ除菌水生成装置Aが生成したプラズマ除菌水の除菌効果は、アルコール除菌剤と同等またはそれ以上であることが明らかになった。
【0078】
(プラズマ除菌水の安全性)
プラズマ除菌水生成装置Aが生成するプラズマ除菌水の安全性に関しては、急性経口毒性試験(OECD420準拠)において異常なし、皮膚一次刺激性試験(OECD404準拠)において無刺激性、眼刺激性試験(OECD405準拠)において無刺激性であることを確認済みである。すなわち、人が誤って誤飲したり、手に触れたり眼に入ったりしても安全であることが立証された。
【0079】
(プラズマ除菌水の含有成分とpH)
プラズマ除菌水生成装置Aが生成したプラズマ除菌水について、含有成分とpHの測定を行った結果を表1に示す。
【表1】
【0080】
表1からも明らかな通り、プラズマ除菌水生成装置Aが生成するプラズマ除菌水は、pHが3.55~4.27と、人の掌と同じpH帯の弱酸性であった。プラズマ除菌水は、アルコール系除菌剤が有する脱脂作用もなく、手荒れの心配がないことが分かった。
【0081】
(プラズマ除菌水の寿命)
プラズマ除菌水生成装置Aが生成したプラズマ除菌水の除菌効果の寿命を確かめる実験を行った。実験に用いたプラズマ除菌水として、5℃に予冷却した純水(2サンプル)、10℃に予冷却した純水(2サンプル)、15℃に予冷却した純水(2サンプル)、常温(25℃)の純水(1サンプル)を、それぞれ50mL用いて生成した。減圧チャンバ31の減圧度は50kPa(abs)とし、電源の交番周波数を20kHz、印加電圧を10kV0-p(18kVp-p)にて発生させた正弦波により誘電体バリア放電を発生させた。電圧の印加時間、すなわちプラズマの処理時間は、1分とした。
【0082】
実験は、濃度約108CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを複数用意して行った。アンプルに対して各温度の純水を9mL添加して10倍希釈し、濃度約108CFU/mLのコントロール検体とした。また、異なるアンプルに各温度のプラズマ除菌水を9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。試験検体については、プラズマ処理後1分が経過したプラズマ除菌水、プラズマ処理後5分が経過したプラズマ除菌水、プラズマ処理後10分が経過したプラズマ除菌水、プラズマ処理後15分が経過したプラズマ除菌水の4種のプラズマ除菌水を用いて各試験検体を作成した。なお、プラズマ除菌水の放置温度は室温(約25℃)であった。コントロール検体と4種の試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0083】
コロニー数をカウントした結果を
図7に示す。
図7より、プラズマ処理後1分が経過したプラズマ除菌水を用いた試験検体の生菌数は、コントロール検体に対して5~6桁減少しており、プラズマ処理を行った水の温度に関わらず、生成直後のプラズマ除菌水が強力な除菌力を有していることが分かった。次に、プラズマ処理後5分が経過したプラズマ除菌水を用いた試験検体では、プラズマ処理を行った水の温度が15℃以下であれば、3~5桁除菌できており十分な除菌力を有することが分かった。ただし、プラズマ処理を行った水の温度が25度の場合には、5分後には1桁未満の除菌となっており、除菌力が大幅に低下していることが分かった。
【0084】
さらに、プラズマ処理後10分および15分が経過したプラズマ除菌水を用いた試験検体では、全ての温度において1桁未満の除菌となっており、除菌力が大幅に低下していることが分かった。以上の結果より、プラズマ処理される水を15℃以下に予冷却することで、25℃程度の常温雰囲気下であれば、プラズマ除菌水の高い除菌力を生成後5分間保持したまま保管可能となることが分かった。
【0085】
[4.作用効果]
以上のような本実施形態のプラズマ除菌水生成装置Aの作用効果は、以下のとおりである。
(1)供給された水11を所定の温度に予冷却する冷却機構2と、水11を貯留し、減圧可能に構成されたプラズマ処理部3と、プラズマ処理部3の内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプ31aと、プラズマ処理部3に貯留された水11の水面上方に位置するように設けられ平板状の電極33aと、平板状の電極33aの下面側に設けられ、プラズマ処理部3に貯留された水11の水面と空間を介して対向する誘電体34と、前記プラズマ処理部に貯留された前記水中に位置するように設けられた接地極33bと、電極33aに交流電圧を印加する電源35と、を有する。
【0086】
以上の構成により、プラズマ処理に供される水11が予め所定の温度に冷却される。水11を予冷却することにより、高い除菌力を有するプラズマ除菌水が生成可能と共に、生成されたプラズマ除菌水の効果を生成後維持することができる。また、冷却機構2により水11を予冷却する構成とすることで、プラズマ処理部3に熱交換器を設ける場合と比較して、プラズマ除菌水生成装置Aの構成が簡素化されるため、装置の小型化と低コスト化が達成される。
【0087】
(2)水11を貯留する原水カートリッジ1を有し、原水カートリッジ1から水11が冷却機構2に供給されるように構成される。
【0088】
水11を貯留する原水カートリッジ1を設けることで、水11の供給源が無い設置環境においても、プラズマ除菌水を生成することが可能となる。また、水11の供給源に併せて配管等を設置する必要がないため、装置が小型化される。
【0089】
(3)冷却機構2が、供給された水11を貯留する冷却タンク21と、冷却タンク21を冷却する冷却装置21aであり、冷却タンク21で所定の温度に予冷却された水11が、プラズマ処理部3に導入されるように構成される。
【0090】
冷却機構2を冷却タンク21とすることで、例えば冷却コンプレッサー方式の場合、2~3L以下の水量であれば、常温からでも30分以内で5℃以下に冷却することが可能となる。したがって、簡易な構成で、比較的多量の水11を確実に予冷却することができる。
【0091】
(4)冷却機構2が、供給された水11が流れる液冷ジャケット22と、液冷ジャケット22を冷却するペルチェ素子22aであり、液冷ジャケット22で所定の温度に予冷却された水11が、プラズマ処理部3に導入されるように構成される。
【0092】
冷却機構2を液冷ジャケット22とした場合、水11をプラズマ処理部3に供給する配管経路において、水11を冷却することが可能となる。したがって、プラズマ除菌水生成装置Aをさらに小型化することが可能となる。
【0093】
(5)冷却機構2は、プラズマ処理部3においてプラズマ処理される水11の温度が15℃以下となるように、水11を予冷却する。
【0094】
プラズマ処理される水11を15℃以下に予冷却することで、25℃程度の常温雰囲気下であれば、プラズマ除菌水の高い除菌力を生成後5分間保持したまま保管可能となる。したがって、複数の消毒対象に対して、プラズマ除菌水の連続供給を行うことが可能となる。
【0095】
(6)プラズマ処理部3においてプラズマ処理される水11の処理量が50mL以下である。
【0096】
プラズマ処理量の上限を50mLとした場合、比較的安価かつ簡素化された装置構成のプラズマ除菌水生成装置Aを用いて、約1分間という短時間でプラズマ除菌水を生成することが可能となる。よって、装置の小型化と低コスト化が実現可能となる。
【0097】
(7)プラズマ処理部3は、貯留する水11の水位が10mm以下となるように構成される。
【0098】
プラズマ処理中においては、誘電体バリア放電により水11の水面に揺れが生じる。つまり、誘電体バリア放電が水11の撹拌効果を有していると言える。水11の水深が10mm以下であれば、プラズマ処理中に自動的に水11が攪拌されることとなり、均一かつ高い除菌力を有するプラズマ除菌水の生成が可能となる。
【0099】
(8)電極33aおよび誘電体34による誘電体バリア放電の放電面積が、プラズマ処理部3に貯留された水11の水面面積の15%以上となるように構成される。
【0100】
誘電体バリア放電の発生面積を水面面積の15%以上とすることで、プラズマ処理タンク32に貯留される水11の水位が10mm以下であれば、誘電体バリア放電の攪拌効果により、貯留された水11全量に対して十分なプラズマ処理が行うことができる。
【0101】
[第2の実施形態]
(構成)
第2の実施形態に係るプラズマ除菌水生成装置Bは、
図8に示す通り、基本的には第1の実施形態と同様の構成を有する。ただし、本実施形態では、特に、人が触れたり飛沫が付着し得る物体の表面を主な除菌対象としている。物体としては、例えば、テーブル、いす、ドアノブ、および仕切り板などが考えられる。
【0102】
プラズマ除菌水を物体の表面の除菌に用いる場合、プラズマ処理部3における水11の1回のプラズマ処理量の上限を50mLとすることが好ましい。この処理量は、1回当たり約50mLのプラズマ除菌水を除菌に用いることを想定している。水11のプラズマ処理量は、プラズマ除菌水の除菌効果が十分に持続する保管時間等を検討の上、適宜変更することができる。以下の説明では、第2の実施形態特有の構成を説明し、プラズマ除菌水生成装置Aと同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0103】
プラズマ除菌水生成装置Bでは、1回のプラズマ処理量を考慮の上、冷却タンク21の容量を数百mL~数Lとすることができる。同様に、プラズマ処理タンク32は、例えば50mmLの水11を貯留できる程度の大きさを有する。本実施形態では、50mLの水11に対して十分な除菌力を与えることができる構成を例として説明する。
【0104】
電源35についても、50mLの水11をプラズマ処理する際に、1分程度の短時間でプラズマ除菌水の除菌力のピークが得られる電源を適宜選択すればよい。例えば、上記のインバータネオントランスを用いて、1分間で50mLのプラズマ除菌水を生成することを1サイクルとしても良い。プラズマ除菌水の供給方式は、1サイクルの生成量を上限(例えば50mL)としたオンデマンド方式としてもよいし、2~3サイクル分(例えば100mL~150mL)のプラズマ除菌水を生成しストレージする構成としても良い。
【0105】
生成したプラズマ除菌水をストレージする場合には、保管タンク4を設けることができる。ただし、プラズマ除菌水が十分な除菌効果を持続する時間が生成後の保管時間の限界となる。保管時間経過後に保管タンク4およびプラズマ処理タンク32内に残ったプラズマ除菌水は、排出する、又は配管Pを介して冷却機構2へ戻し、再利用する構成としても良い。配管Pはプラズマ処理タンク32および保管タンク4のそれぞれに設けても良いし、共通の配管Pとすることもできる。配管Pには、適宜バルブや送液ポンプを設けて、プラズマ除菌水を冷却機構2に戻せるように構成すればよい。
【0106】
保管時間を延長するためにも、保管タンク4に冷却機構41を設け、保管中のプラズマ除菌水を低温(10℃以下)に保つことで10分~15分程度の保管が可能となる。また、生成後のプラズマ除菌水の除菌効果をより長く持続するためには、プラズマ除菌水の保管温度を7℃以下とすることが好ましい。保管タンク4には、バルブ42および送液ポンプ43を有する供給配管Dが接続されている。これらの構成はプラズマ処理タンク32に接続された供給配管Dに設けられたバルブ32bおよび送液ポンプ32cと同様とすることができる。
【0107】
プラズマ除菌水生成装置Bにおいては、物体の表面の消毒に適した注出口Tを備えることが好ましい。例えば、注出口Tとしは、蛇口やスプレーノズルを用いることができる。このような注出口Tを介して、蛇口の操作、フットスイッチの押下、またはセンサによる消毒対象の感知を契機として、自動で所定量のプラズマ除菌水を供給する構成とすることもできる。
【0108】
本実施形態では、注出口Tを介して物体表面にプラズマ除菌水を直接供給する以外にも、スプレーボトル等に一定量のプラズマ除菌水を充填し、スプレーボトルにより消毒対象にプラズマ除菌水を噴射することも想定している。注出口Tを介してスプレーボトルに自動充填するためにセンサを用いる場合には、スプレーボトルの接近を感知する光電方式、超音波方式、渦電流方式、画像認識方式のセンサを用いることができる。さらに、スプレーボトル(もしくは充填済みプラズマ除菌水)の静電容量を検知する静電容量式、スプレーボトル(もしくは充填済みプラズマ除菌水)の重量を検知する重量式のセンサを用いてもよい。
【0109】
また、手動で注出口Tを操作して、スプレーボトルにプラズマ除菌水を充填する構成としても良い。手動充填用のスイッチとして、吐水/止水の押しボタンやウォーターサーバー等で用いられるプッシュレバーを採用できる。また、レバーやコック、蛇口ハンドル等を用いてもよい。
【0110】
プラズマ除菌水生成装置Bでは、
図8に示すように、注出口Tから供給された余剰分のプラズマ除菌水を回収するシンク5を設けることができる。シンク5には、排水口が設けられ、この排水口に配水管を接続し、除菌後のプラズマ除菌水を排出する構成としても良い。また、シンク5の上部に飛散防止フードを設け、プラズマ除菌水を除菌対象にスプレーした際の跳ね返り等のミスト・飛沫の飛散を防止することもできる。
【0111】
なお、プラズマ除菌水生成装置Bが生成したプラズマ除菌水を、スプレーボトル等に充填することでプラズマ除菌水生成装置Bから離れた位置にある物体や、プラズマ除菌水生成装置Bまで移動できない大きな物体を除菌することが可能となる。その場合には、プラズマ除菌水を充填するスプレーボトルが保冷機能を有するものであることが好ましい。例えば、真空断熱機構の魔法瓶型のスプレーボトルやアルミ製等の熱伝導が高い本体に冷却剤を取り付けたものを用いると良い。
【0112】
予め冷却剤がボトル底面やボトル周囲に充填された構造のスプレーボトルの場合、プラズマ除菌水を充填する前にスプレーボトルを冷凍庫で冷却しておくと、ボトル内で充填後のプラズマ除菌液が保冷されるため、除菌効果を維持することができる。または、汎用のスプレーボトルに、汎用のボトル冷却用冷却材や、食品冷却用の保冷剤を収めた汎用保冷ボトルカバーを装着しても良い。スプレーボトルは、金属製を用いることが好ましい。なお、スプレーボトルへの1回のプラズマ除菌水充填量は100mL~150mLを上限とし、使い切ってから再度充填する使用方法とすることで、冷却効果と併せて、プラズマ除菌水の除菌効果が維持される。
【0113】
(プラズマ除菌水による物体表面の除菌試験)
プラズマ除菌水生成装置Bが生成したプラズマ除菌水の物体表面での除菌試験を行った。除菌試験は、濃度10
6CFU/mLの大腸菌懸濁液を用いて行った。大腸菌懸濁液を、ガラス表面に30μL滴下し広げたものに、プラズマ除菌水を120μL滴下後広げ、5分後寒天培地(ぺたんチェックSCD培地)と接触させ、1日培養した。同様にガラス表面に広げた大腸菌懸濁液に純水(DW)、水道水を滴下して培養を行った。除菌試験の結果を、
図9に示す。純水(DW)では大腸菌懸濁液を広げた状態(コントロール)とほぼ変わらなかった。水道水を滴下した場合は2桁程度の除菌効果であった。プラズマ除菌水を滴下した場合は菌がほぼ検出されず、高い除菌効果を示すことが分かった。
【0114】
次に、同じく大腸菌懸濁液(30μL)を広げたガラス表面に、プラズマ除菌水をスプレーにより塗布する試験を行った。この除菌試験は、スプレーの場合、菌の存在箇所以外の表面や気中への拡散・浮遊によりロスが見込まれるため、適量が滴下に対して相対的に多くなることが予想されたため行った。除菌試験は、1プッシュで100μLのプラズマ除菌水を噴射するスプレーボトルを用いて、スプレーボトルを1プッシュ(100μL)、2プッシュ(200μL)、3プッシュ(300μL)した場合の除菌効果を確認した。
図10に結果を示す。コントロールの濃度10
6CFU/mLに対し、1プッシュで1桁程度の菌数減少、2プッシュで2桁以上の減少、3プッシュで菌がほぼ残存しない状態に除菌されることが確認された。すなわち、プラズマ除菌水を物体の表面にスプレーした場合であっても、塗布量の調節により、高い除菌効果を示すことが分かった。
【0115】
(作用効果)
以上のような本実施形態のプラズマ除菌水生成装置Bは、上記実施形態に加え、以下のような作用効果を有する。
(1)プラズマ処理部3にて生成されたプラズマ除菌水をストレージする保管タンク4がさらに設けられている。
【0116】
生成されたプラズマ除菌水を保管タンク4にストレージする構成とすることで、より多量のプラズマ除菌水を一度に供給することが可能となる。
【0117】
(2)保管タンク4には、貯留されたプラズマ除菌水を冷却する冷却装置が設けられている。
【0118】
保管タンク4に冷却装置を設け、保管中のプラズマ除菌水を低温に保つことで、プラズマ除菌水の除菌効果を維持しつつ、より長時間保管することが可能となる。
【0119】
[その他の実施の形態]
(1)上記の実施形態では、注出口Tの近傍にセンサを配置し、注出口Tの近傍に消毒対象が位置したことを感知して自動で所定量のプラズマ除菌水を供給する構成を説明した。このようなセンサに加えて、さらに、使用者がプラズマ除菌水生成装置A、Bに接近したことを感知するセンサを備えても良い。このようなセンサとしては、一般的に用いられる人感センサを用いて良く、建屋入り口の自動ドアとインターロックを取っても良い。使用者の接近をセンサが感知したことに基づいて、冷却機構2への水11の給水および減圧チャンバ31の減圧を開始するように制御することで、プラズマ除菌水を掌に供給するまでのトータル時間を短縮することが可能となる。
【0120】
(2)減圧チャンバ31と同等以上の容積で、減圧ポンプ31aが接続された減圧タンクを、バルブを介して減圧チャンバ31に連結する構成としても良い。このように構成することで、使用者がいない装置のアイドリング状態の間等に、減圧タンクを減圧ポンプ31aで減圧することができる。プラズマ除菌水の生成を開始するタイミングで減圧チャンバ31と減圧タンクの間のバルブを開放すると、瞬時に減圧チャンバ31内を減圧状態にすることができる。これにより、減圧工程の時間をさらに省くことが可能となる。
【0121】
(3)プラズマ除菌水生成装置Aにおいて、送風機を設け、掌にプラズマ除菌水を供給した後に掌の水切り(ドライ)を行えるように構成しても良い。従来のハンドドライヤーは水滴飛散が感染症の感染源となる可能性から使用されない場合が多いが、プラズマ除菌水生成装置Aではプラズマ除菌水を用いて掌を除菌するため、水滴による感染の可能性は低く、水切り機構部分を清潔に保つことができる。
【0122】
(4)上記実施形態では、保管タンク4を設けて生成済みのプラズマ除菌水をストレージすることで、プラズマ除菌水生成装置Bがプラズマ除菌水を連続供給可能に構成する例を紹介した。ただし、プラズマ除菌水の連続供給は、
図11に示す通り、プラズマ除菌水生成装置Bに2つのプラズマ処理部3Aおよび3Bを設け、プラズマ処理部3Aおよび3Bが交互にプラズマ除菌水を供給することにより実現しても良い。一つのプラズマ除菌水生成装置Bに設置するプラズマ処理部の数は2つに限定されず、それ以上であっても良い。また、プラズマ処理部3Aとプラズマ処理部3Bで、減圧ポンプ31aを共有する構成とすることもできる。なお、複数のプラズマ処理部を設けた場合であっても、保管タンク4を設けて生成されたプラズマ除菌水をストレージする構成としても良い。保管タンク4も2つ以上設けることもできる。
【0123】
(5)プラズマ除菌水生成装置Bを衛生に保つためにも、装置Bの配管系を洗浄する洗浄モードを搭載しても良い。また、シンク5の内面に定期的にプラズマ除菌水をスプレーして洗浄・除菌する機構を備えることもできる。配管系、およびシンク5内の洗浄・除菌は、予め設定された時間に新規に生成したプラズマ除菌水を流す構成としても良い。また、保管タンク4内、プラズマ処理タンク32内に残った保管時間限界内のプラズマ除菌水を利用し装置の配管系およびシンク5を洗浄する構成とすることもできる。
【0124】
(6)上記実施形態では、人の手指の消毒を対象とするプラズマ除菌水生成装置Aと、物体の表面の消毒を対象とするプラズマ除菌水生成装置Bについて説明した。ただし、プラズマ除菌水生成装置Aの構成およびプラズマ除菌水生成装置Bの構成は、必要に応じて自由に組み合わせることができる。すなわち、プラズマ除菌水生成装置Aに複数のプラズマ処理部3Aおよび3B、保管タンク4、シンク5等を適宜設けることができる。また、プラズマ除菌水生成装置AおよびBは、人の手指消毒と物体の表面の消毒の双方を対象とするプラズマ除菌水生成装置として捉えることもできる。すなわち、プラズマ除菌水生成装置AおよびBは除菌対象によって限定されるものではない。
【0125】
(7)上記実施形態に記載した投入電力量を用いたプラズマ除菌水生成装置A、Bの制御は、被処理水の水量と電力に基づいて制御装置が電圧印加時間を算出して制御する構成としても良い。上記実施形態では制御装置はプラズマ除菌水生成装置A、Bに内蔵されていることを想定しているが、外部の制御装置がプラズマ除菌水生成装置A、Bに接続されている構成としても良い。制御装置は、コンピュータを所定のプログラムで制御することによって、若しくは専用の電子回路によって実現できる。なお、被処理水の水量、投入電力量および電圧印加時間は、ユーザが入力する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0126】
A、B プラズマ除菌水生成装置
1 原水カートリッジ
11 水
12 ポンプ
2 冷却機構
21 冷却タンク
21a 冷却装置
22 液冷ジャケット
22a ペルチェ素子
3、3A、3B プラズマ処理部
31 減圧チャンバ
E 排気ダクト
31a 減圧ポンプ
31b バルブ
32 プラズマ処理タンク
S 給水管
32a バルブ
D 供給配管
32b バルブ
32c 送液ポンプ
32d 樹脂コーティング
33a 電極
33b 接地極
34 誘電体
35 電源
4 保管タンク
41 冷却機構
42 バルブ
43 送液ポンプ
T 注出口
5 シンク