(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141573
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/60 20200101AFI20220921BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20220921BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/62
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150933
(22)【出願日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2021041639
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】多湖 萌野
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀明
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】吉良 龍太
(72)【発明者】
【氏名】野村 奈生人
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA03
4C089AA06
4C089AA09
4C089BC02
4C089BC10
4C089BD20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】室温条件で迅速に硬化する上、硬化体の色調安定性が高く、保存中にゲル化しにくい光カチオン硬化性組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ官能基を有する化合物のような(a)カチオン重合性単量体に、ジアリールヨードニウム塩のような(b)光酸発生剤及びカンファーキノンのような(c)光増感剤からなる光カチオン重合開始剤を配合した光カチオン硬化性組成物に、電子供与性化合物として2,3,4,5-テトラフェニルチオフェンのような(d)チオフェン化合物を配合することにより、重合収縮が少ないという特長を保ちながら、硬化体の色調安定性を低下させたり、保存中にゲル化したりすることを抑制しながら室温条件で迅速に硬化するという高い硬化性を得られるようにする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カチオン重合性単量体、
(b)光酸発生剤、
(c)光増感剤、及び
(d)チオフェン化合物
を含有することを特徴とする光カチオン硬化性組成物。
【請求項2】
アントラセン化合物及び/又は芳香族アミン前化合物からなる電子供与性化合物の含有量が(d)チオフェン化合物:1質量部に対して0.2質量部以下である、請求項1に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項3】
前記(d)チオフェン化合物が、チオフェン骨格上に1つ以上のπ共役系置換基を有する化合物である、請求項1又は2に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項4】
前記π共役系置換基が1つ以上のベンゼン環またはチオフェン環である、請求項1~3の何れか一項に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項5】
前記(d)チオフェン化合物が、下記式(1)又は(2)
【化1】
(式中、R
1~R
11は、夫々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基或いはチエニル基であり、R
3とR
4及びR
3とR
9は互いに結合して環を形成してもよい。)
で示される化合物である、請求項1~4の何れか一項に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項6】
前記(a)カチオン重合性単量体が、エポキシ化合物およびオキセタン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、前記(b)光酸発生剤が、ヨードニウム塩であり、前記(c)光増感剤がカンファーキノンである、請求項1~5の何れか一項に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項7】
フェノール系酸化防止剤を更に含む、請求項1~6の何れか一項に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項8】
充填材を更に含む、請求項1~7の何れか一項に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項9】
カチオン重合性単量体100質量部に対して、ラジカル重合性単量体を10~70質量部を含む、請求項1~8の何れか一項に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の光カチオン硬化性組成物からなる歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光カチオン硬化性組成物に関する。詳しくは、迅速に光硬化する上、色調安定性や保存安定性に優れた組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品の接着、または塗料等に光硬化型の樹脂組成物が多用されている。光硬化型の樹脂組成物は、加熱硬化型の接着材に比べて迅速に硬化し、加熱しないため被着体に熱ダメージを与えることもなく、また、光を照射しなければ固まらないので、硬化までの作業時間の設定が任意であり、さらに、硬化時に溶媒等の揮発も無いなど、多くの利点を有する。
【0003】
光硬化型の樹脂組成物には大別してラジカル重合型のものと、カチオン重合型のものがあるが、硬化性のよい(メタ)アクリル系の重合性化合物を用いたラジカル重合型のものが主に開発、使用されてきた。
【0004】
光硬化性の樹脂組成物は歯科用途にも利用されている。その例として齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復に用いるコンポジットレジンと呼ばれる光硬化性の充填修復材料や、義歯床の裏装材、歯冠修復用のハイブリッドセラミックス等が挙げられ、その操作の簡便さから汎用されている。このような光硬化性の歯科用材料は通常、重合性単量体、重合開始剤からなり、更にコンポジットレジンやハイブリッドセラミックスにはフィラーが含まれる。重合性単量体としては、その光重合性の良さから(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体が用いられている。
【0005】
しかしながら、(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体は、重合収縮が大きいという問題を有している。即ち、修復を要する歯牙の窩洞に対して、コンポジットレジン等の充填修復材料を充填後、重合硬化させる際には、充填された充填修復材の表面に光が照射されるが、重合にともなう収縮により、歯の界面から離脱しようとする応力が作用し、このため、歯と充填修復材の間に間隙を生じやすくなる傾向がある。そのため、できるだけ重合収縮が小さく、硬化時に間隙を生じ難い硬化性組成物が求められていた。
【0006】
重合収縮の小さい重合性単量体としては、エポキシドやビニルエーテル等のカチオン重合性単量体がある。しかしながら一般に歯科用として用いられている、α-ジケトン化合物やアシルホスフィンオキサイド系化合物等の光ラジカル重合開始剤はカチオン重合性単量体を重合させることができないため、光カチオン重合性開始剤が必要となる。
【0007】
このような光カチオン重合開始剤は一般的に、光酸発生剤と光増感剤からなる。光酸発生剤は、ヨードニウム塩類、スルホニウム塩類、ピリジニウム塩類等の、オニウム塩化合物が一般的に用いられる。光増感剤としては、ケトン化合物(特にα-ジケトン化合物)やクマリン系色素化合物などが用いられる。例えば、ヨードニウム塩化合物とα-ジカルボニル化合物からなる光カチオン重合開始剤を歯科用途に応用した報告がある(特許文献1参照。)。
【0008】
光カチオン硬化性組成物を歯科用途に使用する場合、室温条件で迅速に重合を進行させる必要がある。そのため、より活性の高い光カチオン重合開始剤が望まれる。光カチオン重合開始剤の活性を高めるため、第三の成分として電子供与性化合物を添加する方法がある。例えば、電子供与性化合物として芳香族アミンやアルキルアリールポリエーテル、アントラセン化合物を添加することで、カチオン重合活性を向上させた報告がある(特許文献2~4参照)。
【0009】
芳香族アミンやアントラセン化合物の添加による重合活性の向上については、公知文献に推定反応機構が示されている。例えば、芳香族アミンの場合、芳香族アミンが光増感剤であるカンファーキノンに電子を供与することでラジカルカチオンとなり、水素イオンを放出する機構が提唱されている(非特許文献1)。
【0010】
アントラセン化合物の場合、アントラセン化合物が光酸発生剤であるヨードニウムカチオンに電子を供与することでラジカルカチオンとなった後、別のラジカル種との結合を経てカチオンとなった上、水素イオンを放出する機構が提唱されている(非特許文献2)。
【0011】
芳香族アミンはアニリン染料、アントラセンの酸化体はアントラキノン染料の骨格を成す構造であるため、芳香族アミンやアントラセン化合物は酸化条件において強い着色を示すことがある。よって、芳香族アミンやアントラセン化合物を用いた光カチオン重合開始剤システムは着色リスクが高いと考えられ、本発明者らも実際に着色が起こることを確認している。一方、光カチオン硬化性組成物を歯科用途に使用する場合、着色を抑制する必要がある。一般的に歯科材料で修復治療を行う際には、処置部が目立たないことが望まれるため、歯科材料は硬化後に自然歯に近い色を示し、かつその色を持続することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10-508067号公報
【特許文献2】特開平11-130945号公報
【特許文献3】特表2001-520758号公報
【特許文献4】特表2005-523348号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“Evaluation of Initiator Systems for Controlled and Sequentially Curable Free-Radical/Cationic Hybrid Photopolymerizations” Joe D. Oxman, Dwight W. Jacobs, Matthew C. Trom, Vishal Sipani, Beth Ficek, Alec B. Scranton, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry. 2005, 43, 1747-1756.
【非特許文献2】“先端産業を支える光酸発生分子の機能と設計”土村智孝,有機合成化学協会誌 2020,78,41-54.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記したように、硬化速度向上の点からすれば、芳香族アミンおよびアントラセン化合物の添加は有効である。しかし、本発明者の検討によると、芳香族アミンまたはアントラセン化合物を添加した光カチオン硬化性組成物は、硬化時に黄色に着色することが確認された。また、それらの硬化体の観察を続けたところ、時間経過によってそれらの着色が徐々に退色することを確認した。
【0015】
硬化体の色調が経時変化する場合、長期にわたる色調適合性を実現できないという課題がある。
【0016】
また、本発明者の検討によると、アントラセン化合物を用いた場合には、添加しない場合に比べて組成物が早めにゲル化することがあった。原因は未解明であるが、アントラセン化合物によって酸発生剤の分解が促進され、保存中のカチオン重合の進行が早まったためと考えている。アントラセン化合物は空気中の酸素と反応し得るため、ラジカル種の生成を促し、酸発生剤の分解反応が促進された可能性がある。光カチオン硬化性組成物は、光を照射するまでは性状が保たれることが望まれるため、ゲル化の促進は避ける必要がある。
【0017】
そこで、本発明は、室温条件で迅速に硬化する上、硬化体の色調安定性が高く、保存中にゲル化しにくい光カチオン硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、電子供与性化合物としてチオフェン化合物を用いることで、室温での迅速硬化が可能であり、硬化体の色調安定性が高く、且つ、比較的ゲル化しにくい性質を有する光カチオン硬化性組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明の第一の形態は、(a)カチオン重合性単量体、(b)光酸発生剤、(c)光増感剤、及び(d)チオフェン化合物を含有することを特徴とする光カチオン硬化性組成物である。
【0020】
上記形態の光カチオン硬化性組成物(以下、「本発明の光カチオン硬化性組成物」ともいう。)においては、アントラセン化合物及び/又は芳香族アミン前化合物からなる電子供与性化合物の含有量が(d)チオフェン化合物:1質量部に対して0.2質量部以下であることが好ましい。
【0021】
また、前記(d)チオフェン化合物が、チオフェン骨格上に1つ以上のπ共役系置換基を有する化合物であることが好ましく、この場合において前記π共役系置換基が1つ以上のベンゼン環またはチオフェン環であることがより好ましい。さらに、前記(d)チオフェン化合物が、下記式(1)又は(2)で示される化合物であることが特に好ましい。
【0022】
【0023】
ただし、上記式(1)及び式(2)中における、R1~R11は、夫々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基或いはチエニル基であり、R3とR4及びR3とR9は互いに結合して環を形成してもよい。
【0024】
また、前記(a)カチオン重合性単量体が、エポキシ化合物およびオキセタン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、前記(b)光酸発生剤が、ヨードニウム塩であり、前記(c)光増感剤がカンファーキノンであることが好ましく、フェノール系酸化防止剤を更に含むことも好ましく、充填材を更に含むことも好ましい。さらに、カチオン重合性単量体100質量部に対して、ラジカル重合性単量体を10~70質量部を含むことが好ましい。
【0025】
本発明の第二の形態は、本発明の光カチオン硬化性組成物からなる歯科用硬化性組成物(以下、「本発明の歯科用硬化性組成物」ともいう。)である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の光カチオン硬化性組成物は、重合収縮が小さいという特長を有するカチオン重合性単量体及び光カチオン重合開始剤を含む光カチオン硬化性組成物の特長を有するばかりでなく、電子供与性化合物としてチオフェン化合物を添加することにより、室温での迅速硬化が可能であり、硬化体の色調安定性が高く、且つ、比較的ゲル化しにくいという性質を有する。また、本発明の光カチオン硬化性組成物に、ラジカル重合性単量体を一定の範囲内で配合することにより、既存のボンディング材を用いて接着を行った際の接着強さを改善することもできる。
【0027】
そして、本発明の歯科用硬化性組成物は、一般的な歯科材料に用いられるラジカル重合性単量体の組成物と比較して、大幅に重合収縮が低減される上、迅速硬化性や色調安定性などの性質を兼ね備えている。よって、コンポジットレジン等の歯科修復用材料としての用途に特に適したものであると言える。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の光カチオン硬化性組成物は、(a)カチオン重合性単量体、並びに(b)光酸発生剤及び(c)光増感剤を含む光カチオン重合開始剤を含有し、重合収縮が小さいという効果を奏するという点は、従来の光カチオン硬化性組成物と同様である。本発明の光カチオン硬化性組成物は、(d)チオフェン化合物を必須成分として含む点に最大の特長を有し、このことにより、室温での迅速硬化が可能となるにもかかわらずゲル化し難く、更に硬化体の色調安定性が高いという特長を有するものとなる。
【0029】
本発明は何ら論理に拘束されるものではないが、チオフェン化合物を配合することにより上記効果が得られる作用機構について、本発明者等は現時点で次のようなものであると推定している。すなわち、チオフェン化合物は、芳香族アミンやアントラセン化合物と同様に電子供与性化合物として機能することにより光カチオン重合開始剤を高活性化するが、硬化過程において着色および色調の経時変化を起こす様な物質を残存させ難いことによると推定している。
【0030】
より詳しく説明すると、チオフェンはp型の有機半導体材料の骨格によく用いられており、π共役効果が高く、電子供与性に富むことが知られている。よって、チオフェン化合物を光カチオン重合開始剤に添加した場合、光照射時に芳香族アミンやアントラセン化合物と同様の電子供与反応を起こし、対応するカチオンラジカルが発生すると考えられる。一般的なチオフェン化合物の酸化的カップリング反応において、電子移動によって生じるカチオンラジカルを経由し、酸を放出しながら新たな結合を生成する反応機構が提唱されているため、本発明の組成物でも同様の反応が進行し、酸を放出すると考えられる。
【0031】
芳香族アミンやアントラセン化合物から生じるカチオンラジカルは、比較的安定であることが知られている。本発明者らが行った検討では、芳香族アミンやアントラセン化合物を用いた組成物において、光照射直後の硬化体が黄色着色を示し、徐々に退色する現象が見られたが、これはカチオンラジカルおよびそれから誘導される活性種の一部が一定期間残存していたためと考えられる。すなわち、光照射直後は残存する活性種による着色が強く見られ、時間経過とともに着色した活性種が無色または着色の小さい安定化合物に変化し、退色したものと考えられる。一般的に、カチオンラジカルなどの活性種は、可視光の吸収により呈色することが多い。
【0032】
一方、一般的にチオフェン化合物の酸化的カップリング反応が速やかに進行することから、チオフェン化合物から生じるカチオンラジカルは、比較的寿命が短いと考えられる。したがって、光照射直後の活性種の残存量が比較的少ないため、着色および色調の経時変化が小さくなると考えられる。
【0033】
前記したように本発明の光カチオン硬化性組成物の主たる特徴点は、(d)チオフェン化合物を必須成分として含有させた点にあり、他の成分については、従来の光カチオン硬化性組成物と特に変わる点はない。以下に、これら成分を含めて、本発明の光カチオン硬化性組成物を構成する各成分について説明する。
【0034】
1.(a)カチオン重合性単量体
本発明の光カチオン硬化性組成物において、重合性成分である(a)カチオン重合性単量体は、光酸発生剤の分解によって生じる酸によって重合する化合物であれば特に限定されず、エポキシ化合物、オキセタン化合物、環状エーテル化合物、ビニルエーテル化合物、双環状オルトエステル化合物、環状アセタール化合物、双環状アセタール化合物、環状カーボネート化合物等の従来の光カチオン硬化性組成物でカチオン重合性単量体として使用されているものが特に制限なく使用できる。入手が容易でかつ体積収縮が小さく、重合反応が速いという観点からは、エポキシ化合物及び/又はオキセタン化合物を使用することが好適である。
【0035】
好適に使用できるエポキシ化合物を具体的に例示すれば、1,2-エポキシプロパン、メチルグリジジルエーテル、シクロヘキセンオキサイド、エキソ-2,3-エポキシノルボルネン、4-ビニル-1-シクロヘキセン-1,2-エポキシド、リモネンオキサイド、α-ピネンオキシド、スチレンオキサイド、(2,3-エポキシプロピル)ベンゼン、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ官能基を一つ有するもの;1,3-ブタジエンジオキサイド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジグリシジルグルタレート、4-ビニル-1-シクロヘキセンジエポキシド、リモネンジエポキシド、メチルビス[2-(7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イル)エチル]フェニルシラン等のエポキシ官能基を二つ有する化合物;グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、等のエポキシ官能基を三つ以上有するもの;下記に示す化合物等の環状シロキサンおよびシルセスキオキサン構造持つ化合物で、エポキシ官能基を有するもの:等を挙げることができる。
【0036】
【0037】
上記エポキシ化合物のなかでも、得られる硬化体の物性の点から、1分子中にエポキシ官能基を2つ以上有するものが、特に好適に使用される。
【0038】
また、好適に使用できるオキセタン化合物を具体的に例示すれば、トリメチレンオキサイド、3-メチル-3-オキセタニルメタノール、3-エチル-3-オキセタニルメタノール、3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン、3,3-ジエチルオキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシルオキシ)オキセタン等の1つのオキセタン環を有する化合物;1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシ)ビフェニル、4,4′-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシメチル)ビフェニル、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル等、下記に示す化合物等のオキセタン環を2つ以上有する化合物等を挙げられる事ができる。
【0039】
【0040】
上記オキセタン化合物のなかでも、得られる硬化体の物性の点から、1分子中にオキセタン環を2つ以上有するものが、特に好適に使用される。
【0041】
これらのカチオン重合性単量体は単独、または二種類以上を組み合わせて用いることができる。とりわけ、1分子平均a個のオキセタン官能基を有するオキセタン化合物のAモルと、1分子平均b個のエポキシ官能基を有するエポキシ化合物のBモルとを混合し、(a×A):(b×B)が90:10~10:90の範囲になるように調製したものが、硬化速度が速く、水分による重合阻害を受け難い点で好適である。
【0042】
2.(b)光酸発生剤
本発明の光カチオン硬化性組成物において、(b)光酸発生剤は、光照射による反応によって強い酸を生じる化合物であれば特に限定されず、ヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、ビスムトニウム塩化合物、ピリジニウム塩化合物等の従来の光カチオン硬化性組成物で光酸発生剤として使用されているものが特に制限なく使用できる。入手が容易でかつ重合活性が高いと言う理由から、ヨードニウム塩化合物を使用することが好ましい。また、(b)光酸発生剤は、必要に応じて単独または2種以上混合して用いても何等差し支えない。
【0043】
好適に使用される(b)光酸発生剤を具体的に例示すれば、カチオン又はカチオン部及びアニオン又はアニオン部が夫々以下に示すものであるオニウム塩化合物を挙げることができる。
【0044】
[カチオン又はカチオン部]
ジフェニルヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、p-イソプロピルフェニル-p-メチルフェニルヨードニウム、ビス(m-ニトロフェニル)ヨードニウム、p-tert-ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p-メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p-メトキシフェニル)ヨードニウム、p-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p-フェノキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p-ドデシルフェニル)ヨードニウム、トリフェニルスルホニウム、トリトリルスルホニウム、p-tert-ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウム、ジフェニル-2,4,6-トリメチルフェニルスルホニウム、テトラフェニルビスムトニウム、トリフェニル-2,4,6-トリメチルフェニルビスムトニウム、1-メチルピリジニウム、1-メチル2-クロロピリジニウム等。
【0045】
[アニオン又はアニオン部]
テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラ(ノナフルオロ-tert-ブトキシ)アルミネート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセナート、テトラフルオロボレート、トリフルオロメタンスルホナート、パークロレート等。
【0046】
(b)光酸発生剤の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的には上述した(a)カチオン重合性単量体100質量部に対し、0.01~20質量部を用いればよく、好ましくは0.05~10質量部を用いるとよい。
【0047】
3.(c)光増感剤
本発明の光カチオン硬化性組成物において、(c)光増感剤は、光エネルギーを吸収して光酸発生剤の分解を促進するものであれば、特に制限なく、ケトン化合物(特にα-ジケトン化合物)、クマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、チアジン系色素、アジン系色素、アクリジン系色素、キサンテン系色素、スクアリウム系色素、ピリリウム塩系色素等を使用することができる。これらの中でも硬化体の着色を抑制すると言う理由からカンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、4,4’-ジメトキシベンジル、4,4’-オキシベンジル、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα-ジケトン化合物を使用することが好ましく、カンファーキノンを使用することが特に好ましい。
【0048】
上述した(c)光増感剤は、必要に応じて単独または2種以上混合して用いても何等差し支えない。光増感剤の使用量は、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常はカチオン重合性単量体(a)100質量部に対し、0.001~10質量部を用いればよく、好ましくは0.01~5質量部を用いるとよい。
【0049】
4.(d)チオフェン化合物
本発明の光カチオン硬化性組成物において、(d)チオフェン化合物は、分子内にチオフェン環を有する化合物であれば、特に制限なく公知の化合物を使用することができる。本発明においては、チオフェン化合物は電子供与性化合物として用いるため、電子供与性が高い化合物が望ましい。電子供与性を高めるためには、π共役系の拡張が有効であることが知られている。よって、チオフェン骨格にπ共役系置換基を有する化合物を好適に用いることができる。上記π共役系置換基を構成する部分構造としては、ベンゼン環の他、チオフェン環、フラン環、ピロール環などのヘテロアリール環が挙げられる。本発明におけるチオフェン化合物は、π共役系置換基を有していることが好ましく、前記π共役系置換基が1つ以上のベンゼン環またはチオフェン環を有することが特に好ましい。また、チオフェンと上記の部分構造からなるπ共役系は、アルキル基やアルコキシ基などの他の置換基で置換されていてもよい。このような(d)チオフェン化合物としては、2-フェニルチオフェン誘導体、2,2’-ビチオフェン誘導体、2-チエニルフラン誘導体、2-チエニルピロール誘導体等が挙げられ、中でも下記一般式(1)又は(2)で示される化合物が好適に使用される。
【0050】
【0051】
なお、上記式(1)及び式(2)中における、R1~R11は、夫々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基或いはチエニル基であり、R3とR4及びR3とR9は互いに結合して環を形成してもよい。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基としては、炭素数1~12の直鎖状又は分岐のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基が好ましい。アリール基及びチエニル基は、炭素数1~12のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアルコキシ基、臭素等のハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。また、R3とR4及びR3とR9が夫々結合して環を形成する場合の環としては、シクロペンタジエン、チオフェン、フラン、シクロヘキサジエン、ベンゼンが好ましい。
【0052】
上記一般式(1)又は(2)で示される化合物を具体的に例示すれば、2,5-ジフェニルチオフェン、2,3,4,5-テトラフェニルチオフェン、2,2’-ビチオフェン、5-ヘキシル-2,2’-ビチオフェン、5-オクチル-2,2’-ビチオフェン、3,3’-ジヘキシル-2,2’-ビチオフェン、4,4’-ジヘキシル-2,2’-ビチオフェン、5,5’-ジヘキシル-2,2’-ビチオフェン、2,2’:5’,2’’-ターチオフェン、5,5’’-ジブロモ-2,2’:5’,2’’-ターチオフェン、4H-シクロペンタ[2,1-b:3,4-b’]ジチオフェン、ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]チオフェンなどが挙げられる。
【0053】
上述した(d)チオフェン化合物は、必要に応じて単独または2種以上混合して用いても何等差し支えない。(d)チオフェン化合物の使用量は、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、カチオン重合性単量体(a)100質量部に対し、0.001~10質量部を用いればよく、好ましくは0.01~5質量部を用いるとよい。 なお、効果に悪影響を与えない範囲であれば、本発明の光カチオン硬化性組成物は、(d)チオフェン化合物以外の電子供与性化合物を含んでもよい。ただし、特にアントラセン化合物及び/又は芳香族アミン前化合物からなる電子供与性化合物については、その含有量は、(d)チオフェン化合物:1質量部に対して0.2質量部以下、特に0.1質量部以下とすることが好ましく、含まないことがより好ましい。
【0054】
5.その他成分
本発明の光カチオン硬化性組成物には、目的・用途等必要に応じて、上記各成分に加えて、本発明の効果を損なわない種類及び配合量の範囲で、他の配合成分が含まれていてもよい。以下、このような「その他成分」について説明する。
【0055】
5-1.フェノール系酸化防止剤
本発明の光カチオン硬化性組成物は、光酸発生剤の分解を抑制するための添加剤として、フェノール系酸化防止剤を含んでいてもよい。フェノール系酸化防止剤は従来公知のものが何ら制限無く利用できる。例えば、4-メトキシフェノール、ヒドロキノン、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール等が挙げられる。
【0056】
上述したフェノール系酸化防止剤は、必要に応じて単独または2種以上混合して用いても何等差し支えない。光増感剤の使用量は、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常はカチオン重合性単量体(a)100質量部に対し、0.001~10質量部を用いればよく、好ましくは0.01~5質量部を用いるとよい。
【0057】
5-2.充填材
本発明の光カチオン硬化性組成物を歯科用充填修復材料として用いる場合には、充填材(フィラー)を配合することが好ましい。
【0058】
当該充填材としては、歯科用充填修復材料に配合される有機、無機あるいは有機-無機複合充填材のいずれも配合することが可能であり、有機充填材としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリメチルメタクリレート、架橋型ポリエチルメタクリレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等の有機高分子からなる粒子が挙げられる。
【0059】
無機充填材を具体的に例示すると、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等の無機粒子が挙げられる。また、有機-無機複合充填材としては、これら無機粒子と重合性単量体を予め混合し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機-無機複合粒子が挙げられる。なお、無機充填材として、ジルコニア等の重金属を含むものを用いることによってX線造影性を付与することもできる。
【0060】
これら充填材の粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm~100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。また、これら充填材の屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用硬化性組成物の充填材が有する1.4~1.7の範囲のものが制限なく使用できる。
【0061】
本発明の光カチオン硬化性組成物に上記充填材を配合する場合の配合量も、該組成物がペースト状となる範囲であれば特に限定されないが、歯科用充填修復材料として用いる場合には、無機及び/又は有機-無機複合充填材を採用し、これを前記(a)カチオン重合性単量体100質量部に対して、50~1500質量部、好ましくは70~1000質量部とすることが好ましい。
【0062】
さらに、これら無機充填材、有機-無機複合充填材等の充填材は各々単独で用いても良いし、材質、粒径、形状等の異なる複数種のものを併用しても良い。硬化後の機械的物性に優れる点で、歯科用充填修復材料として用いる場合には、無機充填材を主とすることが特に好ましい。
【0063】
5-3.ラジカル重合性単量体
本発明の光カチオン硬化性組成物は、歯科用接着材を用いて接着を行ったときの接着強さ向上のため、ラジカル重合性単量体を含むことが好ましい。本発明の光カチオン硬化性組成物は、光照射によりラジカル種が発生するため、カチオン重合と同時にラジカル重合も進行する。一般的な歯科用接着剤はラジカル重合性組成物であるため、歯科用硬化性組成物として用いる場合は、ラジカル重合性単量体を添加することが好ましい。特に好ましいラジカル重合性単量体は(メタ)アクリル化合物である。ラジカル重合性単量体の配合量は、少量であれば低い重合収縮率を保ったまま、既存接着剤との接着強さを向上させることができる。
【0064】
好適に使用できるラジカル重合性単量体を具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
【0065】
上述したラジカル重合性単量体は、必要に応じて単独または2種以上混合して用いても何等差し支えない。ただし、ラジカル重合性単量体の使用量は、重合収縮率を低く保ちながら上記接着性を向上させることができるという観点から、(a)カチオン重合性単量体100質量部に対して、10~70質量部であることが好ましく、10~30質量部であることが更に好ましい。
【0066】
5-4.その他添加材
本発明の光カチオン硬化性組成物を歯科用組成物に用いた場合、上記した成分に加えて、歯科用硬化性組成物、特に歯科用充填修復材料の配合成分として公知の他の成分が配合されていてもよい。
【0067】
このような成分としては、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料、有機溶媒や増粘剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0068】
本発明の光カチオン硬化性組成物は、歯科用途に制限されず、接着剤、塗料等使用することができるが、特に歯科用充填修復材料として好適である。
【0069】
6.本発明の光カチオン硬化性組成物の製造方法
本発明の光カチオン硬化性組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の硬化性組成物の製造方法を適宜採用すればよい。具体的には、暗所において、本発明の硬化性組成物を構成する、カチオン重合性単量体、光酸発生剤、及び必要に応じて配合されるその他の配合成分を所定量秤取り、これらを混合してペースト状とすればよい。このようにして製造された本発明の光カチオン硬化性組成物は、使用時まで遮光下で保存される。
【0070】
本発明の光カチオン硬化性組成物を硬化させる手段としては、用いた光酸発生剤系光重合開始剤の重合開始機構に従い適宜、公知の重合手段を採用すればよく、具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の光源による光照射、或いは加熱重合器等を用いた加熱、またはこれらを組み合わせた方法等が何等制限なく使用される。光照射により重合させる場合には、その照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよいが、一般には、照射時間が5~60秒程度の範囲になるように、各種成分の配合割合を調整しておくことが好ましい。
【実施例0071】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。
【0072】
1.化合物の略号
実施例及び比較例で使用した化合物とその略号を下に示す。
【0073】
(1)カチオン重合性単量体(a)
・KR-470:下記式で示される化合物(信越化学工業製)
・OXT-121:下記式で示される化合物(東亞合成製)
・OX1:下記式で示される化合物(東亞合成製)
・OX2:下記式で示される化合物(宇部興産製)。
【0074】
【0075】
(2)光酸発生剤(b)
・DPIB:下記式で示されるテトラキスペンタフルオロフェニルボレートを対アニオンとするヨードニウム塩(東京化成工業製)
【0076】
【0077】
(3)光増感剤(c)
・CQ:カンファーキノン(東京化成工業製)
【0078】
(4)電子供与性化合物
(4-1)チオフェン化合物(d)
・Th1:2,3,4,5-テトラフェニルチオフェン(東京化成工業製)
・Th2:2,2’-ビチオフェン(東京化成工業製)
・Th3:5-オクチル-2,2’-ビチオフェン(東京化成工業製)
・Th4:5,5’-ジヘキシル-2,2’-ビチオフェン(東京化成工業製)
・Th5:5,5’’-ジブロモ-2,2’:5’,2’’-ターチオフェン(東京化成工業社製)
・Th6:2,2’-(9,9-ジオクチル-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビスチオフェン(シグマアルドリッチ社製)
上記各チオフェン化合物(d)の構造式を以下に示す。
【0079】
【0080】
(4-2)その他電子供与性化合物
・DMAn:9,10-ジメチルアントラセン(東京化成工業製)
・DMBE:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル(東京化成工業製)
・TMBn:1,2,4-トリメトキシベンゼン(シグマアルドリッチ社製)
・3Ph:p-テルフェニル(東京化成工業製)
上記各化合物の構造式を以下に示す。
【0081】
【0082】
(5)その他成分
(5-1)フェノール系酸化防止剤
・BHT:ジブチルヒドロキシトルエン(東京化成工業製)
・HQME:ヒドロキノンモノメチルエーテル(和光純薬製)
(5-2)充填剤
・F1:球状シリカ-ジルコニア(γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物)
(5-3)ラジカル重合性単量体
・D-2.6E:2,2-ビス(4-メタクリルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(新中村化学工業製)
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業製)。
【0083】
2.実施例及び比較例
実施例1
50質量部のKR-470及び50質量部のOXT-121からなるカチオン重合性単量体100質量部に対して、光酸発生剤として1.0質量部のDPIB、光増感剤として0.2質量部のCQ、電子供与性化合物として0.2質量部のTh1、およびフェノール系酸化防止剤として0.2質量部のBHTを加え、赤色光下にて6時間撹拌して光カチオン硬化性組成物を調製した。
得られた光カチオン硬化性組成物について、硬化体の表面硬度、硬化体の色調変化、ゲル化までの保存日数(ゲル化耐性の指標となる。)を下記方法で評価した。結果を表1に示す。
【0084】
・硬化体の表面硬度
調製した光カチオン硬化性組成物を、7mmφ×1.0mmの孔を有するポリアセタール製のモールドに充填し、ポリプロピレンフィルムで圧接した。ついで歯科用の光照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)を用い、10秒間光照射を行った(照射面における光強度400mW/cm2)。光照射後、直ちに充填物の状態を確認し、組成物全体が硬化しているかどうかを確認した。組成物全体が硬化している場合、得られた硬化体をモールドから取り出し、微小硬度計(MMT-X7型、株式会社松沢精機製)にてヴィッカース圧子を用いて、荷重100gf、荷重保持時間30秒で試験片にできたくぼみの対角線長さにより表面硬度を求めた。
【0085】
・硬化体の色調変化
硬化体の表面硬度の評価の際と同様の方法で調製した硬化体を調製し、光照射直後に分光色彩計(SE7700、日本電色工業株式会社製)で色調を測定した。色調を測定後の硬化体を遮光条件下7日間保管した後、再度同様に色調を測定した。光照射直後と7日間保管後の色差ΔE*を色調変化の値とした。
【0086】
なお、ΔE*による色調変化の評価基準は、以下の通りとなっている。
0.8 ≦ ΔE*<1.6:AA級許容差(わずかに色差が感じられるレベル)
1.6 ≦ ΔE*<3.2:A級許容差(ほとんど気付かない色差レベル)
3.2 ≦ ΔE*<6.5:B級許容差(印象レベルでは同じ色として扱えるレベル)
6.5 ≦ ΔE*<13.0:C級許容差(JIS標準色票、マンセル色票等の1歩度に相当するレベル)
【0087】
・ゲル化時間
調製した光カチオン硬化性組成物0.1gを2mLスクリュー管瓶に入れ、遮光条件下50℃恒温装置内で保存した。この光カチオン硬化性組成物を、1日おきに恒温装置から取り出し、暗所下において室温まで放冷した後、該硬化性組成物の性状を観察した。この際に、光カチオン硬化性組成物が、サンプル管瓶を傾けても全く流動しないゲル状になった時点の日数をゲル化時間とした。
【0088】
実施例2~5及び比較例1~5
配合する電子供与性化合物を表1に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にして光カチオン硬化性組成物を調製し、実施例1と同様にして硬化体の表面硬度、硬化体の色調変化、ゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表1に示した。
【0089】
【0090】
上記表1に示すように、電子供与性化合物としてチオフェン化合物を用いた実施例1~5は、いずれも光硬化性が良好であり、硬化体の表面硬度が高く(9Hv以上)、色調安定性評価はA級許容差であった。これに対し、電子供与性化合物としてアントラセン化合物DMAnまたは芳香族アミン化合物DMBEを用いた比較例1及び2では、いずれも硬化性は良好であったものの、色調安定性評価は、比較例1がC級許容差、比較例2がB級許容差であり、低くなっていた。また、電子供与性化合物としてTMBnを用いた又は3Phを用いた比較例3及び4並びに電子供与性化合物を用いない比較例5では、光照射後にサンプル全体が硬化していなかったため、硬化体を調製できなかった。なお、ゲル化時間については、表1のいずれのサンプルも約20日であり、ほとんど差は見られなかった。
【0091】
実施例6~11、比較例6~9
カチオン重合性単量体の組成をKR―470(60質量部)、OX1(26質量部)、OX2(14質量部)に変更すると共にカチオン重合性単量体100質量部に対してラジカル重合性単量体としてD-2.6E及び3Gを、夫々7質量部及び4質量部(計11質量部)加え、更に配合する電子供与性化合物及びその他添加剤の種類及び量を表2に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、実施例1と同様にして硬化体の表面硬度、硬化体の色調変化、ゲル化までの保存日数を評価した。結果を表2に示した。
【0092】
【0093】
実施例6~11は、カチオン重合性単量体の組成を若干変更し、更にラジカル重合性単量体を所定量配合した重合性単量体成分に電子供与性化合物としてチオフェン化合物をその種類及び量を変えて配合した本発明の光カチオン硬化性組成物を用いた例であるが、ラジカル重合性単量体を含まない実施例1~5と同様に良好な硬化性、色調安定性及びゲル化耐性を示した。一方、同じ重合性単量体成分にDMAn又はDMBEを配合した比較例6~9についても、ラジカル重合性単量体を含まない比較例1及び2と同様の傾向がみられ、また、比較例6及び8では、ゲル化耐性が若干低下する傾向がみられた。
【0094】
実施例12~15、比較例10~13
カチオン重合性単量体100質量部に対して、配合するラジカル重合性単量体の種類及び量、充填剤の量、電子供与性化合物の種類及び量並びにその他触媒(光酸発生剤及び増感剤)の量を表3に記載したように変化させた以外は実施例6と同様にして組成物を調製し、実施例1と同様にして硬化体の表面硬度、硬化体の色調変化を評価した。また、実際の保管条件に近い温度で評価するために保存温度を50℃から37℃に変更する他は実施例1と同様にしてゲル化までの保存日数を測定するとともに、接着強さ、重合収縮率を下記の方法で評価した。結果を表3に示した。
【0095】
・接着強さ
歯科用レジンブロック硬化体を研磨機で耐水研磨紙120番、次いで600番を用いて研磨した後、サンドブラスト処理を行った。サンドブラスト処理を行った面に、厚さ180μm、直径3mmの穴を有する両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm、直径8mmの穴のあいたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に歯科用接着材(ボンドマーライトレス、トクヤマデンタル製)を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約10秒吹き付けて乾燥した。更にその上に調製した光カチオン硬化性組成物を充填し、ポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)で20秒間光照射(照射面における光強度800mW/cm2)して、接着試験片を作成した。その後、歯科用セメントを用いて、硬化体上に金属製アタッチメントを接着した。これを37℃の水に24時間浸漬後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピードを2mm/min.にて引張り、被着体(歯科用レジンブロック硬化体)と光カチオン硬化性組成物の引張り接着強さを測定した。1試験当たり、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強さの値とした。
【0096】
・重合収縮率
直径3mm、高さ7mmの孔を有するSUS製割型に、直径3mm、高さ4mmのSUS製プランジャーを填入して孔の高さを3mmに調整した。次に、この孔内に調製した光カチオン硬化性組成物を充填した後、孔の上端をポリプロピレンフィルムで圧接した。その後、SUS製割型のポリプロピレンフィルムが貼り付けられた面を下に向けた状態で、歯科用照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)の備え付けてあるガラス製台の上に載せた。そして、更にSUS製プランジャーの上から微小な針の動きを計測できる探針を接触させた。この状態で、歯科用照射器によって歯科用硬化性組成物を重合硬化させ(照射面における光強度800mW/cm2)、照射開始より3分後の収縮率[%]を、探針の上下方向の移動距離から算出した。
【0097】
【0098】
電子供与性物質以外は同一組成である実施例12と比較例10及び比較例12、並びに実施例13と比較例11及び比較例13における表面強度及び色調変化の結果については、これまでと同様の傾向が確認された。また、実施例においてラジカル重合性単量体の配合量が主に異なる実施例12~15の結果から、ラジカル重合性単量体の配合量が増えるに従い、接着強さ及びゲル化耐性が向上する傾向があり、逆に収縮率は大きくなる傾向が確認された。しかし、ラジカル重合性単量体の配合量が最も多い実施例15でも、重合収縮率は2.0%であり、カチオン重合性単量体を含まない(ラジカル重合性単量体のみからなる重合性単量体を用いた)場合の重合収縮率:3.2%と比べると、有意に低い値となっている。
前記(a)カチオン重合性単量体が、エポキシ化合物およびオキセタン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、前記(b)光酸発生剤が、ヨードニウム塩であり、前記(c)光増感剤がカンファーキノンである、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
上記一般式(1)又は(2)で示される化合物を具体的に例示すれば、2,5-ジフェニルチオフェン、2,3,4,5-テトラフェニルチオフェン、2,2’-ビチオフェン、5-ヘキシル-2,2’-ビチオフェン、5-オクチル-2,2’-ビチオフェン、3,3’-ジヘキシル-2,2’-ビチオフェン、4,4’-ジヘキシル-2,2’-ビチオフェン、5,5’-ジヘキシル-2,2’-ビチオフェン、2,2’:5’,2’’-ターチオフェン、5,5’’-ジブロモ-2,2’:5’,2’’-ターチオフェン、4H-シクロペンタ[2,1-b:3,4-b’]ジチオフェン、ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]チオフェンなどが挙げられる。また、前記式(3)で示される化合物の名称は、5,5’’-ジブロモ-2,2’:5’,2’’-ターチオフェンであり、前記式(4)で示される化合物の名称は、2,2’-(9,9-ジオクチル-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビスチオフェンである。