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特開2022-141577希土類系磁石粉末、ボンド磁石、ボンド磁石用コンパウンド、焼結磁石、希土類系磁石粉末の製造方法および希土類系永久磁石の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141577
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】希土類系磁石粉末、ボンド磁石、ボンド磁石用コンパウンド、焼結磁石、希土類系磁石粉末の製造方法および希土類系永久磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20220921BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220921BHJP
   B22F 1/142 20220101ALI20220921BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220921BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220921BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20220921BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20220921BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20220921BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
H01F1/057 110
H01F1/057 180
H01F1/057 170
H01F41/02 G
B22F1/142 100
B22F3/00 C
B22F1/00 Y
B22F9/04 C
B22F1/17 100
B22F3/00 F
B22F1/065
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215028
(22)【出願日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2021041368
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】粉川 育也
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 靖
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017CA07
4K017DA04
4K017EA03
4K017EA04
4K017EA09
4K017EA11
4K017FA03
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB01
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC06
4K018BC21
4K018BD02
4K018CA04
4K018DA18
4K018DA29
4K018DA31
4K018DA32
4K018EA01
4K018EA31
4K018FA01
4K018FA06
4K018FA08
4K018FA11
4K018FA23
4K018FA25
4K018FA27
4K018KA45
4K018KA46
4K018KA63
5E040AA04
5E040BB03
5E040BD01
5E040BD05
5E040CA01
5E040HB17
5E040NN06
5E062CC05
5E062CD04
5E062CD05
(57)【要約】
【課題】嵩密度を十分に向上させることができ、しかも異方性磁石の製造に適した希土類系磁石粉末を提供すること。
【解決手段】P1=Ls/Llの式(1)で定義される球状度P1の平均値が、0.65以上である希土類系磁石粉末である。なお、前記式(1)においてLlは、顕微鏡の画像における希土類系磁石粉末に対して面積が最小となる外接する長方形の長辺の長さであり、また、前記式(1)においてLsは、顕微鏡の画像における前記希土類系磁石粉末に対して面積が最小となる外接する長方形の短辺の長さである。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P1=Ls/Llの式(1)で定義される球状度P1の平均値が、0.65以上である希土類系磁石粉末であって、
前記式(1)においてLlは、顕微鏡の画像における希土類系磁石粉末に対して面積が最小となる外接する長方形の長辺の長さであり、
前記式(1)においてLsは、顕微鏡の画像における前記希土類系磁石粉末に対して面積が最小となる外接する長方形の短辺の長さであり、
単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上である希土類系磁石粉末。
【請求項2】
前記球状度P1が0.9以上である希土類系磁石粉末の個数割合が30%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の希土類系磁石粉末。
【請求項3】
P2=Lt/Lrの式(2)で定義される球状度P2の平均値が0.70以上である希土類系磁石粉末であって、
前記式(2)においてLrは、顕微鏡の画像における前記希土類系磁石粉末の周長であり、
前記式(2)においてLtは、前記周長Lrを算出した前記希土類系磁石粉末の前記画像における面積と同じ面積を有する真円の周長であり、
単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上である希土類系磁石粉末。
【請求項4】
球状度P2が0.8以上である希土類系磁石粉末の個数割合が25%以上含有することを特徴とする請求項3に記載の希土類系磁石粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の希土類系磁石粉末であって、
平均粒径が20μm以下である希土類系磁石粉末。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の希土類系磁石粉末であって、
前記希土類系磁石粉末が、単一の主相粒子からなる個別粒子の周囲の少なくとも一部を被覆層で覆っている被覆粒子を複数で含む希土類系磁石粉末。
【請求項7】
請求項6に記載の希土類系磁石粉末であって、
前記被覆粒子は、前記個別粒子の全周が前記被覆層で覆われる全周被覆粒子を含む希土類系磁石粉末。
【請求項8】
請求項6または7に記載の希土類系磁石粉末であって、
それぞれの前記個別粒子の周囲が前記被覆層で覆われる割合を示す被覆率の平均が50%以上である希土類系磁石粉末。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の希土類系磁石粉末であって、
前記希土類系磁石粉末がR-T-B系磁石粉末を含む希土類系磁石粉末。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の希土類系磁石粉末を含有するボンド磁石。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の希土類系磁石粉末を含有するボンド磁石用コンパウンド。
【請求項12】
希土類系焼結磁石であって、
前記希土類系焼結磁石の断面に、主相と副相とが観察され、前記副相の面積比率が2%以下であり、
前記主相は、R2 T14B型結晶であり、
配向方向の残留磁束密度を飽和磁束密度で除することで得られる配向度が94%以上である希土類系焼結磁石。
【請求項13】
所望の組成の合金を粉砕して原料粉を得る工程と、
前記原料粉を熱プラズマ尾炎部に投入して加熱した後に急冷して球状粉を得る工程とを有する希土類系磁石粉末の製造方法。
【請求項14】
所望の組成の合金を粉砕して原料粉を得る工程と、
前記原料粉を熱プラズマ尾炎部に投入して加熱した後に急冷して球状粉を得る工程と、
前記球状粉を焼結させて焼結体を得る工程とを有する希土類系永久磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類系磁石粉末、ボンド磁石、ボンド磁石用コンパウンド、焼結磁石、希土類系磁石粉末の製造方法および希土類系永久磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類系永久磁石は、優れた磁気特性を有することが知られている。そして、さらに磁気特性を向上させたR-T-B系永久磁石の開発が行われている。希土類系永久磁石を製造する際、焼結に供する原料粉末を1~10μm程度の平均粒度に微細化することにより、飽和磁束密度および保磁力などの磁気特性を確保している。ところが、原料粉末の微細化は、成形体の寸法精度、生産性を阻害する要因となる。
【0003】
原料粉末は、磁場中で加圧成形されて成形体となる。この磁場中での成形において、静磁場またはパルス磁場を原料粉末に印加し、原料粉末の粒子を配向させる。この磁場成形時、原料粉末が微細であるほどその流動性が悪く、金型への充填性が問題となる。金型への粉末の充填性が劣ると、金型へ粉末を均一に充填することができない。このために成形体密度のバラツキが生じるとともに成形体の寸法精度が得られない。あるいは金型への充填自体に時間がかかって生産性を阻害するという問題がある。特に薄肉形状や複雑形状の成形体を、精度よくかつ効率的に作製することは困難である。
【0004】
たとえば特許文献1では、潤滑剤を粗粉末に添加した後に気流粉砕機で微粉砕して原料粉末を作製し、成形時の金型への流動性を向上させる技術が提案されている。しかし、この技術を用いても流動性は十分とは言えず、成形体の嵩密度を十分に向上させることができない。
【0005】
また、特許文献2には、熱プラズマ法を用いて作製されるNd-Fe-B系球状合金磁性粉末が開示されている。しかしこの文献に開示されている方法で得られる粉末は、平均粒度が大きく、しかも粒子内組織は球状粒子径の1/10~1/100の微細組織から構成されている。そのため、個々の磁石粉末は内部に多数の結晶子を含み、それらの結晶方位もランダムになるため、このままでは異方性磁石の製造には適さない。
【0006】
さらに特許文献3には、合金溶湯を不活性ガスアトマイズ法により急冷凝固して、平均結晶粒径1~30μmの組織を有する平均粒径500μm以下の球状粉末を得る技術が開示されている。この文献に開示されているように、ガスアトマイズ法で得られる球状粉末は、その内部組織が球状粉末の粒径よりも小さな結晶子の集合からなる多結晶体となる傾向がある。個々の磁石粉末の内部に多数の結晶子を含む場合、それらの結晶方位はランダムになるため、このままでは異方性磁石の製造には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-111308号公報
【特許文献2】特開平9-143514号公報
【特許文献3】特開平8-316016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、嵩密度を十分に向上させることができ、しかも異方性磁石の製造に適した希土類系磁石粉末と、その粉末を用いて成形されるボンド磁石およびボンド磁石用コンパウンドを提供することである。また、本発明の他の目的は、嵩密度を十分に向上させることができ、しかも異方性磁石の製造に適した希土類系磁石粉末を容易に製造することができる希土類系磁石粉末の製造方法と、その製造方法を利用した希土類系永久磁石の製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る希土類系磁石粉末は、
P1=Ls/Llの式(1)で定義される球状度P1の平均値が、0.65以上である希土類系磁石粉末である。なお、前記式(1)においてLlは、顕微鏡の画像における希土類系磁石粉末に対して面積が最小となる外接する長方形の長辺の長さであり、また、前記式(1)においてLsは、顕微鏡の画像における前記希土類系磁石粉末に対して面積が最小となる外接する長方形の短辺の長さでる。さらに、本発明の第1の観点に係る希土類系磁石粉末では、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上である。
【0010】
このような第1の観点に係る磁石粉末は、嵩密度(ゆるめ嵩密度およびかため嵩密度の双方)を十分に向上させることが可能であり、磁場中で加圧成形する場合に、磁石粉末が微細であっても流動性が低下しにくく、金型への充填性が向上することが、本発明者等により見出された。金型への充填性が向上する結果、磁石粉末を均一に金型内に充填することができ、成形体密度のバラツキが低減し、焼結体の変形が低減される。また、粉末間の摩擦が小さくなるため、磁粉の配向度を高くすることができる。
【0011】
また、本発明の磁石粉末では、成形体中の磁石粉末の配向度を高くすることができる。すなわち、本発明の磁石粉末の各粒子は、磁界方向に容易に配向し、優れた磁石特性を有する希土類系永久磁石が得られる。さらに、本発明の第1の観点では、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上であることから、磁石の保磁力(Hcj)などの磁気特性を向上させることができる。
【0012】
好ましくは、前記球状度P1が0.9以上である希土類系磁石粉末の個数割合が30%以上含有する。全ての磁石粒子が球状度P1が0.9以上の磁石粒子ではなくとも、金型に充填するための原料粉体に、ある程度以上、特定の球状度P1の磁石粒子が含有してあれば、効果を発揮する。
【0013】
また、上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る希土類系磁石粉末は、P2=Lt/Lrの式(2)で定義される球状度P2の平均値が0.70以上である希土類系磁石粉末である。なお、前記式(2)においてLrは、顕微鏡の画像における前記希土類系磁石粉末の周長であり、前記式(2)においてLtは、前記周長Lrを算出した前記希土類系磁石粉末の前記画像における面積と同じ面積を有する真円の周長である。さらに、本発明の第2の観点に係る希土類系磁石粉末では、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上である。
【0014】
このような第2の観点に係る磁石粉末は、本発明の第1の観点と同様に、嵩密度を十分に向上させることが可能であり、磁場中で加圧成形する場合に、磁石粉末が微細であっても流動性が低下しにくく、金型への充填性が向上することが、本発明者等により見出された。金型への充填性が向上する結果、磁石粉末を均一に金型内に充填することができ、成形体密度のバラツキが低減し、焼結体の変形が低減される。また、本発明の第2の観点に係る磁石粉末では、成形体中の磁石粉末の配向度を高くすることができる。さらに、本発明の第2の観点では、磁石の保磁力(Hcj)などの磁気特性を向上させることができる。
【0015】
好ましくは、球状度P2が0.8以上である希土類系磁石球状粉末の個数割合が25%以上含有する。全ての磁石粒子の球状度P2が0.8以上の磁石粒子ではなくとも、金型に充填する前の原料粉体に、ある程度以上、特定の球状度P2の磁石粒子が含有してあれば、効果を発揮する。
【0016】
好ましくは、希土類系磁石粉末の平均粒径が、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であり、0.5μm以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5~10μmである。希土類系磁石粉末の平均粒径が大き過ぎる場合には、粒子間に隙間が発生し易く、嵩密度が低下しやすい。また、希土類系磁石粉末の平均粒径が大き過ぎる場合には、一つの磁石粉末の内部に、R2 T14B結晶などとは異なる結晶相が混在する傾向があり、成形後の磁気特性が低下するおそれがある。また、希土類系磁石粉末の平均粒径が小さすぎる場合には、粒子の凝集が多発し易く、その場合も嵩密度が低下する傾向にある。
【0017】
前記希土類系磁石粉末が、単独の主相粒子から成る個別粒子の周囲の少なくとも一部を被覆層で覆っている被覆粒子を複数で含んでもよい。
また、好ましくは、それぞれの前記個別粒子の周囲が前記被覆層で覆われる割合を示す被覆率の平均が、50%以上である。また好ましくは、前記被覆粒子が、前記被覆率で100%の全周被覆粒子(個別粒子の全周が被覆層で覆われる)を含む。好ましくは、前記被覆層は、主相粒子に含まれる希土類の濃度よりも高い希土類の濃度を有する希土類リッチ成分で構成される。
【0018】
このような被覆粒子を含む磁石粉末を焼結して得られる焼結磁石は、磁気特性が向上する。たとえば、同組成の従来技術の粉砕法で得られる磁石粉末を用いて得られる焼結磁石に比べて、被覆粒子を含む希土類系磁石粉末を用いて得られる焼結磁石では、副相(被覆層)が主相(主相粒子)表面に均一に薄く分布するため、高い保磁力(Hcj)を得ることができる。また、副相の偏析が非常に少なくなり、主相比率が高くなることで、高い残留磁束密度(Br)を得ることができる。
【0019】
好ましくは、希土類系磁石粉末は、少なくとも一部がR-T-B系永久磁石粉末で構成される。R-T-B系永久磁石粉末の磁気特性が優れているからである。
【0020】
本発明の一観点に係るボンド磁石は、好ましくは、上記のいずれかに記載の希土類系磁石粉末を含有する。ボンド磁石は、樹脂を含んでもよい。また、本発明のボンド磁石用コンパウンド(樹脂などを含んでも良い)は、好ましくは、上記のいずれかに記載の希土類系磁石粉末を含有する。上記の希土類系磁石粉末を、ボンド磁石の原料粉体(たとえばボンド磁石用コンパウンドに含まれる原料粉体)として使用した場合、充填率が高くなるとともに高い配向度を得やすく、高いBrのボンド磁石を実現することができる。
【0021】
本発明の一観点に係る希土類系焼結磁石は、その断面に、主相と副相とが観察され、前記副相の面積比率が2%以下である。また好ましくは、前記主相は、R2 T14B型結晶である。また好ましくは、本発明の他の観点に係る焼結磁石は、配向方向の残留磁束密度を飽和磁束密度で除することで得られる配向度が94%以上である。
【0022】
本発明の一観点に係る希土類系焼結磁石によれば、主相の配向度が高くなり、残留磁束密度が高くなる。また、副相が主相表面に分布するため、焼結磁石の保磁力が高くなる。なお副相は主相の間に偏在しやすいが、副相の面積比率を低くすることができるため、残留磁束密度の低下を抑制することができる。このような焼結磁石では、副相成分の焼結体中の偏在が少なくなるため、高い残留磁束密度と高い保磁力が同時に得ることができる。
【0023】
本発明の一観点に係る希土類系磁石粉末の製造方法は、所望の組成の合金を粉砕して原料粉を得る工程と、前記原料粉を熱プラズマに投入して加熱した後に急冷して球状粉を得る工程とを有する。熱プラズマ法、好ましくは高周波誘導熱プラズマ法を用いることで、不純物の混入を抑制した上で、希土類系磁石粉末の球状化を行うことができる。また、本発明の方法によれば、平均粒径が、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下で、好ましくは0.5μm以上の球状粉体を得易い。
【0024】
好ましくは、前記原料粉を熱プラズマ尾炎部に投入する。熱プラズマ尾炎部の温度は、たとえば2000~5000Kであり、熱プラズマとしては、やや低い温度であり、その領域に、原料粉(合金粉体)を投入することで、蒸発によるナノ化や過度な溶解による粗大化を抑制して、投入された原料粉の粒子径と同等の球状粉を得ることが可能となる。さらに、この製法によれば、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上の粉末が得られやすく、磁石の保磁力(Hcj)などの磁気特性を向上させることができる。
【0025】
また、たとえば原料粉を熱プラズマの尾炎部に投入して加熱した後に急冷することで、原料粉の各粒子全体または粒子の一部が溶解することによって粉末は球状になり易くなる。また、副相の成分は粉末表面に均一に分布し易くなり、球状の被覆粒子を形成しやすくなる。粉末が球形であることで、嵩密度が向上しやすく、配向度が高くなりやすい。
【0026】
好ましくは、本発明の一観点に係る希土類系永久磁石の製造方法は、所望の組成の合金を粉砕して原料粉を得る工程と、前記原料粉を熱プラズマ尾炎部に投入して加熱した後に急冷して球状粉を得る工程と、前記球状粉を焼結させて焼結体を得る工程とを有する。好ましくは、球状粉を含む磁石粉末は、たとえばプレス成形などにより所定形状に成形された後に焼結されて焼結体となる。
【0027】
このような製造方法では、粉末が球形であることで、嵩密度が向上しやすく、配向度が高くなりやすい。そのため、焼結後の磁石の残留磁束密度が高くなりやすい。また、副相の成分は粉末表面に均一に分布し易くなり、球状の被覆粒子を形成しやすくなる。副相の成分が粉末表面に均一に分布すると、焼結後も副相は緻密化する際に二粒子粒界に(薄く)均一に分布するため、残留磁束密度が低下しにくい。さらに、この製法によれば、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上の粉末が得られやすく、磁石の保磁力(Hcj)などの磁気特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A図1Aは本発明の実施例に係る希土類系磁石粉末の顕微鏡写真である。
図1B図1Bは本発明の比較例に係る希土類系磁石粉末の顕微鏡写真である。
図2A図2Aは粒子の球状度を算出するための概略説明図である。
図2B図2B図2Aに示す粒子の断面積と同じ断面積を有する真円を示す概略図である。
図3図3は本発明の一実施形態に係る希土類系磁石粉末の製造方法を示すフローチャート図である。
図4図4図3に示す球状化工程で用いる装置の概略図である。
図5A図5A図1Aに示す粒子の被覆率を算出するための概略説明図である。
図5B図5B図1Bに示す粒子の被覆率を算出するための概略説明図である。
図5C図5C図1Aに示す粒子の内の被覆率100%の被覆粒子を示す粒子の断面顕微鏡写真である。
図6A図6Aは本発明の一実施形態に係る希土類系焼結磁石の断面の顕微鏡写真である。
図6B図6Bは本発明の比較例に係る希土類系焼結磁石の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に基づき説明する。
【0030】
本発明の一実施形態に係る希土類系磁石粉末は、たとえばR-T-B系磁石粉末であり、 Rは、希土類元素の少なくとも1種を表す。Tは、鉄族元素を表す。Bは、ホウ素を表す。
【0031】
希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素とのことをいう。ランタノイド元素には、たとえば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。希土類元素は、軽希土類元素および重希土類元素に分類される。本願では、重希土類元素とは、原子番号64~71の希土類元素、すなわちGd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luをいい、軽希土類元素は重希土類元素以外の希土類元素をいう。本願ではYは軽希土類元素に分類される。以下、重希土類元素をRHと表記する場合がある。また、本実施形態に係るR-T-B系磁石粉末は、重希土類元素RHを含んでもよい。
【0032】
鉄族元素を表すTは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。Feの一部をCoに置換する場合、磁気特性を低下させることなく温度特性および耐食性を向上させることができる。
【0033】
Bは、ホウ素を表すが、ホウ素の一部を炭素に置換することができる。ホウ素の一部を炭素に置換すること、すなわち、Bサイトにホウ素および炭素を含むことにより、粉末を所定形状に成形後に焼結した後の時効処理の際に厚い二粒子粒界を形成しやすくなり、保磁力を向上させやすくなる効果がある。なお、ホウ素の一部を炭素に置換する場合の置換量は、焼結後に観察されるR2 T14B相に含まれるB全体の20at%程度以下としてもよい。
【0034】
R-T-B系磁石粉末は、その他の元素を含んでもよい。その他の元素としては、たとえば、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Ga、Si、Bi、Snなどが挙げられる。R-T-B系磁石粉末におけるRの含有量は任意である。Rの含有量は、26重量%以上33重量%以下としてもよい。R-T-B系磁石粉末におけるBの含有量は任意である。Bとして含まれるホウ素の含有量は、0.8重量%以上1.2重量%以下としてもよい。
【0035】
R-T-B系磁石粉末におけるTの含有量は、R-T-B系磁石粉末の構成要素における実質的な残部である。また、TとしてCoを含有する場合、Coの含有量は、鉄族元素の含有量の和に対して3.0重量%以下としてもよい。TとしてNiを含有する場合、Niの含有量は、鉄族元素の含有量の和に対して1.0重量%以下としてもよい。
【0036】
R-T-B系磁石粉末の酸素(O)量は、任意である。たとえば、200ppm以上、3000ppm以下としてもよい。O量は、耐食性を向上させる観点からは高い方が好ましく、磁気特性を向上させる観点からは低い方が好ましい。
【0037】
R-T-B系磁石粉末の炭素(C)量は、任意である。たとえば、200ppm以上3000ppm以下としてもよい。C量がこの範囲を外れると、磁気特性は低下しやすい傾向にある。また、上記の通り、R-T-B系磁石粉末においてBサイトのホウ素の一部を炭素に置換することなどによって、R-T-B系磁石粉末は炭素を含んでもよい。
【0038】
R-T-B系磁石粉末の窒素(N)量は、任意である。たとえば、200ppm以上1500ppm以下としてもよい。N量がこの範囲を外れると磁気特性は低下しやすい傾向にある。
【0039】
R-T-B系磁石粉末中のO量、C量、N量の測定方法は、一般的に知られている方法を用いることができる。O量は、たとえば、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定される。C量は、たとえば、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定される。N量は、たとえば、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定される。
【0040】
図1Aに示すように、本実施形態のR-T-B系磁石粉末では、ほとんどの粒子の形状が球状である。すなわち、本実施形態のR-T-B系磁石粉末は、P1=Ls/Llの式(1)で定義される球状度P1の平均値が、0.65以上、好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.75以上である。また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合が、好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上である。
【0041】
なお、前記式(1)においてLlは、たとえば図2Aに示すような顕微鏡の画像におけるR-T-B系磁石粉末の各粒子2に対して、面積が最小となる外接する長方形の長辺の長さであり、また、前記式(1)においてLsは、顕微鏡の画像におけるR-T-B系磁石粉末の各粒子2に対して面積が最小となる外接する長方形の短辺の長さである。
【0042】
顕微鏡の画像は、たとえば図1Aに示すR-T-B系磁石粉末を樹脂に埋込み硬化させてから切断面を研磨し、その研磨面をSEM観察することにより得られる断面SEM画像であり、少なくとも100個の磁石粒子が観察される断面であり、無作為に選択した100個の粒子の平均を求めている。また、個数割合(数密度)は、無作為に選択した100個の粒子のP1を計測し、100個中で、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合を算出して求められる。
【0043】
また、別の観点では、本実施形態のR-T-B系磁石粉末は、P2=Lt/Lrの式(2)で定義される球状度P2の平均値が、0.70以上、好好ましくは0.73以上、さらに好ましくは0.75以上である。また、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合が、好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは35%以上である。
【0044】
なお、前記式(2)においてLrは、たとえば図2Aに示すような顕微鏡の画像におけるR-T-B系磁石粉末の各粒子2の周長であり、式(2)においてLtは、周長Lrを算出した各粒子2の画像における面積と同じ面積を有する図2Bに示す真円20の周長である。顕微鏡の画像を得るための方法と平均の算出方法、個数割合の算出方法などは、前述した式(1)の場合と同様である。なお、球状度P2の場合の個数割合は、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合を算出して求められる。
【0045】
本実施形態のR-T-B系磁石粉末の平均粒径は、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であり、0.5μm以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5~10μmである。R-T-B系磁石粉末の平均粒径は、上述したような顕微鏡の画像から、各粒子の円相当径を算出し、少なくとも100個以上の平均値として算出する。なお、平均粒径の測定方法としては、たとえばレーザ回折式の粒度分布計で測定する光散乱法も考えられる。
【0046】
R-T-B系磁石粉末の平均粒径が大き過ぎる場合には、粒子間に隙間が発生し易く、嵩密度が低下しやすい。また、希土類系磁石粉末の平均粒径が大きい場合には、一つの磁石粉末の内部に、R2 T14B結晶などとは異なる結晶相が混在する傾向があり、磁気特性が低下するおそれがある。たとえば平均粒径が大きい場合、異なる結晶相が混在しやすくなるとともに、粒径が大きいほど保磁力が得られにくくなる傾向にある。また、希土類系磁石粉末の平均粒径が小さすぎる場合には、粒子の凝集が多発し易く、その場合も嵩密度が低下する傾向にある。
【0047】
本実施形態のR-T-B系磁石粉末の各粒子2のほとんどは、図5Aに示すように、断面が略円形の被覆粒子30で構成してある。被覆粒子30は、主として単独の主相粒子31aから成る個別粒子31で構成してあり、個別粒子31の周囲表面の少なくとも一部が被覆層32で覆われている。主相粒子31aは、たとえばR2 T14B結晶などの単結晶で構成してある。
【0048】
本実施形態のR-T-B系磁石粉末に含まれる単結晶で構成してある主相粒子31aの個数割合は、65%以上であり、好ましくは、70%以上、さらに好ましくは75%以上である。単結晶粒子は、多結晶粒子に比較して配向度が高いので、それらの粒子を用いてボンド磁石や焼結磁石を製造する場合に、磁石のBrを向上させることが容易になる。
【0049】
なお、粒子2が単結晶か否かを判別するには、粒子断面を露出させ、この断面を、FE-SEM装置に付属の電子後方散乱回折(EBSD)分析装置などを用いて評価する。個数割合は、たとえば無作為に選択した100個の粒子を評価することによる個数割合である。具体的には、EBSD分析装置で得られる画像において、それぞれの粒子の中に単一の結晶面が認められる粒子の数を求め、その割合を算出して求められる。
【0050】
本実施形態のR-T-B系磁石粉末に含まれる単結晶で構成してある主相粒子31aの周囲表面は、図5Aに示すように、少なくとも一部が被覆層32で覆われていることが好ましい。被覆層32は、主相粒子に含まれる希土類の濃度よりも高い希土類の濃度を有する希土類リッチ成分で構成してある。被覆層32の厚みは、10~200nm程度に薄く、被覆粒子30の平均粒径は、前述したR-T-B系磁石粉末の平均粒径の範囲内である。
【0051】
図5Bに示すように、個別粒子31は、複数の主相粒子31aが粒界相33を介して接続されている場合もあり得るが、本実施形態における個別粒子31は、単一の主相粒子31aの周囲表面の少なくとも一部が被覆層32で覆われていることが好ましい。
【0052】
また、本実施形態では、単一の主相粒子31aの周囲が被覆層32で覆われる割合を示す被覆率の平均が、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上である。磁気異方性が高い希土類リッチ成分で構成してある被覆層32で覆われている主相粒子31aの被覆率の平均が高いほど、磁石における磁化反転が発生し難くなり、Hcjが向上する。
【0053】
なお、被覆率の平均は、たとえば無作為に選択した100個の粒子2の被覆率の平均値として求めることができる。粒子2の被覆率の計算は、たとえば以下のようにして求めることができる。図5Aに示すように、個別粒子31が単一の主相粒子31aのみで構成してある場合には、粒子2の断面において、主相粒子31aの外表面と被覆層32との界面の周方向界面長さLb1およびLb2を画像解析により求める。
【0054】
また、一つの粒子2について、被覆層32で被覆されていない主相粒子31aの外表面の周方向露出長さLa1およびLa2も、同様にして画像解析により求める。一つの粒子2について、周方向露出長さLa1およびLa2と周方向界面長さLb1およびLb2の合計(La1+La2+Lb1+Lb2)が主相粒子31a(個別粒子31)の全周長さLtとなる。一つの粒子2についての被覆率は、100×周方向界面長さ(Lb1+Lb2)/全周長さLtとして表せる。
【0055】
なお、周方向界面長さLb1およびLb2(周方向露出長さLa1およびLa2)が1つの場合や3つ以上の場合には、周方向界面長さの合計ΣLbn (周方向露出長さ合計ΣLan )におけるnの数(nは1以上の整数)が増減する。
【0056】
本実施形態では、たとえば磁石粉末の中から無作為に選択した100個の粒子2の中に、たとえば図5Cに示すような被覆率で100%の全周被覆粒子を少なくとも一つ以上、好ましくは十以上、さらに好ましくは、三十以上で含んでいる。全周被覆粒子の数が多いほど、被覆率の平均も高くなり、Hcjが向上する。なお、全周被覆粒子とは、個別粒子の全周が被覆層で覆われる被覆粒子として定義することもできる。
【0057】
なお、上述した例では、図5Aに示すように、個別粒子31が単一の主相粒子31aである場合の被覆率の計算について示したが、図5Bに示すように、個別粒子31が複数の主相粒子31aの集合体である場合の被覆率の計算も同様にして行うことができる。
【0058】
すなわち、図5Bに示すように、たとえば粒界相33で複数の主相粒子31aが連結してある場合には、それらの複数の主相粒子31aの集合体を個別粒子31と見なす。そして、粒界相33と主相粒子31aの界面(点線部分)の長さはカウントせずに、個別粒子31の周方向界面長さ(二点鎖線部分)Lb1およびLb2と、周方向露出長さ(実線部分)La1およびLa2とを、画像解析により算出する。
【0059】
本実施形態の磁石粉末の中にも、このような複数の主相粒子31aの集合体から成る個別粒子31が含まれていてもよいが、被覆率の平均が上記の範囲に入ることが好ましい。また、球状度P1またはP2に関しては、各主相粒子31aの球状度が、前述した範囲内となることが好ましい。
【0060】
複数の主相粒子31aの集合体から成る個別粒子31では、粒界相33は、被覆層32と同様に、主相粒子31aに含まれる希土類の含有量よりも多く希土類が含まれる成分で構成してあり、同様な組成で構成されるが、必ずしも同一である必要はない。粒界相33は、主相粒子31aと主相粒子31aとの間に存在し、被覆層32は、主相粒子31aの外表面を覆い、しかも他の主相粒子31aとは接触せずに外面が露出している部分として定義される。
【0061】
本実施形態に係るR-T-B系磁石粉末は、嵩密度(ゆるめ嵩密度およびかため嵩密度の双方)を十分に向上させることが可能であり、磁場中で加圧成形する場合に、磁石粉末が微細であっても流動性が低下しにくく、金型への充填性が向上する。金型への充填性が向上する結果、磁石粉末を均一に金型内に充填することができ、成形体密度のバラツキが低減し、焼結体の変形が低減される。
【0062】
また、本実施形態のR-T-B系磁石粉末では、成形体中の磁石粉末の配向度を高くすることができる。すなわち、本発明の磁石粉末の各粒子は、磁界方向に容易に配向し、優れた磁石特性を有するR-T-B系磁石が得られる。また、粉末間の摩擦が小さくなるため、磁粉の配向度を高くすることができる。さらに、本実施形態では、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上であることから、磁石の保磁力(Hcj)などの磁気特性を向上させることができる。
【0063】
R-T-B系永久磁石としては、高磁気特性および耐熱性の観点から、焼結磁石が好ましい。焼結磁石は、好ましくは、上記に記載の希土類系磁石粉末を磁場中成形した成形体を焼結して得られる焼結体を有する焼結磁石である。図6Aに示すように、好ましくは、焼結体の断面に、主相と副相とが観察され、副相の面積比率が2%以下である。好ましくは、主相は、R2 T14B型結晶である。また好ましくは、焼結磁石は、配向方向の残留磁束密度を飽和磁束密度で除することで得られる配向度が94%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0064】
本実施形態に係る焼結磁石によれば、主相の配向度が高くなり、残留磁束密度が高くなる。また、副相が主相表面に均一に分布するため、焼結磁石の保磁力が高くなる。なお副相は主相間に偏在しやすいが、副相の面積比率を低くすることができるため、残留磁束密度の低下を抑制することができる。このような焼結磁石では、副相成分の焼結体中の偏在が少なくなるため、高い残留磁束密度と高い保磁力が同時に得ることができる。
【0065】
副相の面積比率は、たとえばFE-SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)を用いて得られる反射電子像から算出することができる。FE-SEMを用いる場合には、まず、FE-SEM用の試料を作製する。具体的には、R-T-B系永久磁石をエポキシ系もしくはフェノール系樹脂に埋め込み、R-T-B系永久磁石の配向方向に平行な断面が観察できるように研磨する。研磨は、具体的には、通常の方法で粗研磨したのちに、仕上げ研磨を行う。仕上げ研磨は、前記断面に光沢が出るように行う。なお、仕上げ研磨の方法には特に制限はない。
【0066】
水等の研磨液を用いない乾式研磨で仕上げ研磨を行うことが好ましい。水等の研磨液を用いる場合には、粒界相の腐食により適切な解析が行えなくなる場合がある。次に、研磨して得られたR-T-B系永久磁石の断面にイオンミリング処理を行い、酸化膜や窒化膜等を除去する。
【0067】
次に、得られたR-T-B系永久磁石の断面をFE-SEMで観察し、倍率1000倍以上3000倍以下で50μm角以上100μm角以下の大きさで反射電子像を得る。反射電子像のコントラストから、R-T-B系永久磁石が複数種類の相からなることが確認できる。FE-SEMに付帯するEDS(エネルギー分散型X線分光器)による点分析の結果と、反射電子像のコントラストと、を照合することで、R2 T14Bからなる主相結晶粒子(主相)、Rリッチ相などの相(副相)に分類することができる。EDSによる測定結果から、主相結晶粒子(主相)かそうでないかを判別することができる。
【0068】
副相の面積割合を算出するためには、反射電子像に画像処理を施して二値化する。本実施形態でR-T-B系永久磁石の反射電子像において、主相結晶粒子よりも所定の水準以上に明るいコントラスト有する領域を抽出し、副相の領域とする。たとえば、図6Aまたは図6Bに示すR-T-B系永久磁石の反射電子像について、画像処理を施し二値化する。二値化により検出した副相の面積をR-T-B系永久磁石の面積で割ることにより、副相の面積割合(副相の面積比率)を算出できる。
【0069】
Rリッチ相などの副相は総じて主相結晶粒子よりも希土類元素Rの含有量が多い。ここで、希土類元素Rは、R-T-B系永久磁石に通常含まれる元素のなかで、原子番号が特に大きな元素である。反射電子像の信号強度は原子番号の大きな元素の含有量が多いほど強くなり、明るく見えることが知られている。本実施形態では、面積割合と体積割合とは等しいとして体積割合を算出することもできる。
【0070】
本実施形態の永久磁石は、上述したR-T-B系磁石粉末が樹脂中に練り込まれたボンド磁石、あるいはボンド磁石用コンパウンド(たとえばペレット状)などであってもよい。本実施形態の希土類系磁石粉末を、ボンド磁石の原料粉体(たとえばボンド磁石用コンパウンドに含まれる原料粉体)として使用した場合、充填率が高くなるとともに高い配向度を得やすく、高いBrのボンド磁石を実現することができる。
【0071】
以下では、R-T-B系焼結磁石(以下、R-T-B系永久磁石とも称する)の製造方法について詳細に説明する。
【0072】
<R-T-B系永久磁石の製造方法>
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を製造する方法は、以下の工程を有する。
(a)原料合金を準備する合金準備工程
(b)原料合金を粉砕する粉砕工程
(c)粉砕した原料合金粉を球状化する工程
(d)球状化した原料粉を成形する成形工程
(e)成形体を焼結し、R-T-B系永久磁石基材を得る焼結工程
(f)R-T-B系永久磁石基材を加工する加工工程
【0073】
[合金準備工程]
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石における原料合金を準備する。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の組成に対応する原料金属を、真空またはArガスなどの不活性ガス雰囲気中で溶解した後、溶解した原料金属を用いて鋳造を行うことによって所望の組成を有する原料合金を作製する。なお、本実施形態では、1合金法の場合について説明するが、主相系合金と粒界系合金とを別個に作製する2合金法でもよい。
【0074】
原料金属としては、たとえば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法は、たとえばインゴット鋳造法やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などである。得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理を行う。
【0075】
[粉砕工程]
原料合金が作製された後、原料合金を粉砕する。
【0076】
粉砕工程は、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程(図3に示すステップS1)と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程(図3に示すステップS3)との二段階で行うことができる。
【0077】
(粗粉砕工程)
原料合金を各々粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕する(図3に示すステップS1)。これにより、原料合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、原料合金に水素を吸蔵させた後、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づいて水素を放出させ、脱水素を行なうことで自己崩壊的な粉砕(水素吸蔵粉砕)を生じさせることによって行う。また、粗粉砕工程は、上記のように水素吸蔵粉砕を用いなくてもよく、たとえば、不活性ガス雰囲気中にて、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて行ってもよい。
【0078】
また、高い磁気特性を得るために、粉砕工程から後述する焼結工程までの各工程の雰囲気は、低酸素濃度とすることが好ましい。酸素濃度は、各製造工程における雰囲気の制御等により調節される。各製造工程の酸素濃度が高いと原料合金の粉末中の希土類元素が酸化してR酸化物が生成されてしまい、焼結中に還元されずR酸化物の形でそのまま粒界に析出し、得られるR-T-B系永久磁石の残留磁束密度Brが低下する。そのため、たとえば、各工程の酸素の濃度を100ppm以下とすることが好ましい。
【0079】
(微粉砕工程)
原料合金を粗粉砕した後、得られた原料合金の粗粉砕粉末を平均粒径が数μm程度になるまで微粉砕する(図3に示すステップS3)。これにより、原料合金の微粉砕粉末を得る。粗粉砕した粉末を更に微粉砕することで、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは3μm以上5μm以下の粒子を有する微粉砕粉末を得ることができる。
【0080】
微粉砕は、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粗粉砕した粉末の更なる粉砕を行なうことで実施される。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(たとえば、N2ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により原料合金の粗粉砕粉末を加速して原料合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲット又は容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
【0081】
原料合金の粗粉砕粉末を微粉砕する際、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸アミド等の粉砕助剤を添加する(図3に示すステップS2の潤滑剤添加工程)ことにより、成形時に配向性の高い微粉砕粉末を得ることができる。ステップS3の微粉砕工程で得られたR-T-B系磁石粉末の一例を図1(B)に示す。ステップS3の微粉砕工程で得られたR-T-B系磁石粉末は、前述した式(1)で規定する球状度P1の平均値は、0.65未満であり、好ましくは0.60以下である。また、前述した式(2)で規定する球状度P2の平均値は、0.70未満であり、好ましくは0.68以下である。
【0082】
[球状化工程]
次に、本実施形態では、図3に示すステップS4に示す球状化工程を行う。球状化工程では、微粉砕工程で微粉砕化された微粉砕粉末を、たとえば図4に示す装置を用いて球状化させる。
【0083】
図4に示す装置10は、高周波誘導熱プラズマ12をチャンバ11の上方中央部に具備してあるプラズマ発生室13の内部に発生させることができる。高周波誘導熱プラズマ12は、大気圧もしくは大気圧に近い減圧雰囲気において、高周波電力を局所的に集中させ、様々なガスを電磁誘導により瞬時に約1万度の超高温プラズマ状態に変えることで形成される。このプラズマ12中に原料(粉体・ガス・液体)を導入し、蒸発・溶融・分解・化学反応等により、ナノ粒子の合成や反応、微粉末の改質や球状化、成膜、有害ガスの分解などを行うことができる。
【0084】
なお、プラズマ発生室13は、その下部に配置してあるチャンバ11と内部が連通しており、プラズマ発生室13とチャンバ11との連結部の付近には、原料粉供給部14が接続してあり、そこから、熱プラズマ12の尾炎部12aに向けて微粉原料粉が投入(噴霧)されるようになっている。
【0085】
また、プラズマ発生室13の周囲には、高周波コイルが配置してあり、プラズマ発生室13の内部で高周波誘導加熱を行い、熱プラズマ12の炎を発生されるようになっている。高周波コイルに印加される高周波電圧の高周波(周波数)および電圧(または電力)は、特に制限的ではなく、熱プラズマの温度などの性状などに応じて適宜選択すればよい。
【0086】
本実施形態では、微粉砕工程で得られた微粉原料粉を、熱プラズマにより加熱して球状化する。プラズマ用ガスを高周波誘導により約1万度の熱プラズマにし、該プラズマ中に微粉原料粉を導入する。熱プラズマ処理後の球状化された球状化原料粉を、サイクロン等で分級してもよい。この高周波誘導熱プラズマ法により、真球に近い球状化原料粉を作製することができる。なお、微粉原料粉の全てではなく、一部を熱プラズマ法により球状に加工してもよい。
【0087】
本実施形態では、図3に示すステップS3にて得られた微粉原料粉を、図4に示す装置10の熱プラズマ12の尾炎部12aに向けて噴霧することが、より好ましい。これにより微粉原料粉の過度な蒸発や溶融が抑制され、その結果、0.5~20μm程度の平均粒径の球状化した微粉原料粉(本実施形態のR-T-B系磁石粉末)が得られやすい。
【0088】
微粉原料粉の粒径、熱プラズマ12に対する微粉原料粉の単位時間あたりの噴霧量、キャリアガスの流量などを制御することにより、球状化原料粉の粒子径と粒度分布を制御することができる。なお、熱プラズマ12の尾炎部12aとは、熱プラズマ12の炎の先端部(図では下端部)付近であり、尾炎部12aの温度は、約2000~5000Kである。
【0089】
なお、尾炎部12aの温度は、熱プラズマとしては、やや低い温度であり、その領域に、微粉原料粉(合金粉体)を投入することで、蒸発によるナノ化や過度な溶解による粗大化を抑制することができる。なお、熱プラズマの上部(尾炎部の上流側)から、原料粉を投入すると、ナノ粉が多く発生し易く、ナノ粉が凝集することによって、嵩密度が低下する傾向にある。
【0090】
尾炎部12aに投入された原料粉は、熱プラズマ12の尾炎部12a内で高温に曝され、その後に、チャンバ11の上方内部で、急冷ガス15により急冷されて球状化される。チャンバ11の上方内部での急冷ガス15の雰囲気は、たとえばアルゴンからなる不活性雰囲気、もしくは水素を含むアルゴンからなる還元性雰囲気である。
【0091】
また、プラズマ発生室13の上部に設けられたガス噴出口16から噴出されるプラズマ用ガスとしては、水素ガスとアルゴンガスとの混合であり、プラズマ発生室13の内部圧力は、チャンバ11の内部と同様に、700Torr以下の減圧雰囲気であることが好ましく、さらに好ましくは75~675Torrである。なお、アルゴンガスの代わりに、あるいはアルゴンガスと共に、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガスを用いてもよく、また、水素ガスは、必ずしも含ませなくともよいが、含ませることが好ましい。なお、水素ガスの代わりに、酸素や、メタン、エタン,プロパン,ブタン,アセチレン,エチレン,プロピレン,ブテン等の炭化水素ガスを目的に応じて用いてもよい。
【0092】
チャンバ11の内部で球状化された球状化粉は、チャンバ11の下方に具備してあるボックス状の粉体回収部17に集められて回収される。粉体回収部17にて回収された球状化粉(本実施形態のR-T-B系磁石粉末)は、必要に応じて分級されて、図3に示す配向成形工程(ステップS5)を行うための装置に移される。
【0093】
[配向成形工程]
次に、図1Aに示すような本実施形態のR-T-B系磁石粉末を、目的の形状に成形する。これにより成形体が得られる。成形工程は、磁石粉末を、電磁石の間に配置された金型内に充填して加圧することによって、任意の形状に成形する(図3に示すステップS5)。このとき、磁場を印加しながら加圧することで、球状化粉末に所定の配向を生じさせ、結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。得られる成形体は特定方向に配向するので、より磁気異方性の強いR-T-B系永久磁石基材が得られる。
【0094】
[焼結工程]
次に、図3に示すステップS5にて目的の形状に成形して得られた成形体を、真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し(ステップS6)、R-T-B系永久磁石を得る。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、成形体に対して、たとえば、真空中または不活性ガスの存在下、1000℃以上1200℃以下で1時間以上10時間以下、加熱する処理を行うことにより焼結する。これにより、球状化粉末が液相焼結を生じ、主相の体積比率が向上したR-T-B系永久磁石基材が得られる。また、焼結後のR-T-B系永久磁石基材は、生産効率を向上させる観点から急冷させることが好ましい。
【0095】
この時点で磁気特性を測定する場合には時効処理を施す。具体的には、焼結後、得られたR-T-B系永久磁石基材を焼結時よりも低い温度で保持することなどによって、R-T-B系永久磁石基材に時効処理を施す。時効処理は、たとえば、700℃以上900℃以下の温度で1時間から3時間、さらに500℃から700℃の温度で1時間から3時間加熱する2段階加熱や、600℃付近の温度で1時間から3時間加熱する1段階加熱等、時効処理を施す回数に応じて適宜処理条件を調整する。このような時効処理によって、R-T-B系永久磁石基材の磁気特性を向上させることができる。また、時効処理は加工工程の後に行ってもよい。
【0096】
R-T-B系永久磁石基材に時効処理を施した後、R-T-B系永久磁石基材はArガス雰囲気中で急冷を行う。これにより、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石基材を得ることができる。冷却速度は、特に限定されるものではなく、30℃/min以上とするのが好ましい。
【0097】
得られたR-T-B系永久磁石基材は、必要に応じて所望の形状に加工してもよい(図3に示すステップS7)。加工方法は、たとえば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。ただし、本実施形態では、球状化工程により球状化した粉体(本実施形態に係るR-T-B系磁石粉末)を用いて成形を行うため、流動性に優れているなどの理由から、図3に示すステップS5の配向成形工程において、最終製品に近い形状の金型を用いて成形することも可能である。すなわち、本実施形態では、従来では実現が困難であった薄肉の成形品の成形が可能となるために、加工工程では、焼結後の磁石基材を切断することなく製品化することも可能である。なお、加工工程の後には、必要に応じて、下記に示す拡散工程を行ってもよい。
【0098】
[拡散工程]
R-T-B系永久磁石基材の粒界に対して、重希土類元素RHを拡散させてもよい。なお、粒界拡散を行う前処理として、磁石基材にエッチング処理を施すことが好ましい。具体的には、エタノール100質量%に対し硝酸3質量%とした混合溶液を準備し、磁石基材を混合溶液に3分間浸漬させてエッチングした後、エタノールに1分間浸漬させて洗浄する。
【0099】
拡散は、重希土類元素を含む化合物をR-T-B系永久磁石基材の表面に付着させた後、熱処理を行う方法、または、重希土類元素の蒸気を含む雰囲気中でR-T-B系永久磁石基材に対して熱処理を行う方法などの方法により、実施することができる。
【0100】
なお、重希土類元素RHを付着させる方法には特に制限は無い。たとえば、蒸着、スパッタリング、電着、スプレー塗布、刷毛塗り、ジェットディスペンサ、ノズル、スクリーン印刷、スキージ印刷、シート工法等を用いる方法がある。
【0101】
重希土類元素RHの種類は任意であるが、DyまたはTbを用いることが好ましく、Tbを用いることが特に好ましい。また、たとえば、重希土類元素RHとしてTbを拡散させる場合には、Tbの付着量、拡散温度および拡散時間を適切に制御することで、拡散の効果をより好適にすることができる。
【0102】
重希土類元素RHを塗布により付着させる場合には重希土類元素RHを含む重希土類化合物および溶媒からなる塗料を塗布することが一般的である。塗料の態様には特に制限はない。また、重希土類化合物の種類は任意である。たとえば、合金、酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、水素化物等が挙げられる。特に水素化物を用いることが好ましい。
【0103】
Tb化合物を付着させる場合には、たとえばTb水素化物(TbH2 )、Tb酸化物(Tb2 O3 、Tb4 O7 )またはTbフッ化物(TbF3 )を付着させることが考えられる。
【0104】
重希土類化合物は粒子状であることが好ましい。また、平均粒径は100nm~50μmであることが好ましく、1μm~20μmであることがより好ましい。
【0105】
塗料に用いる溶媒としては、重希土類化合物を溶解させずに均一に分散させ得るものが好ましい。たとえば、アルコール、アルデヒド、ケトン等が挙げられ、なかでもエタノールが好ましい。
【0106】
塗料中の重希土類化合物の含有量には特に制限はない。たとえば、50重量%~90重量%であってもよい。塗料には、必要に応じて重希土類化合物以外の成分をさらに含有させてもよい。たとえば、重希土類化合物粒子の凝集を防ぐための分散剤、遷移金属や卑金属の粉末、主に軽希土類元素からなる粉末などが塗料に含まれていてもよい。
【0107】
本実施形態の拡散工程は、重希土類化合物を含む塗料を付着させるR-T-B系永久磁石基材の面の数に特に制限はない。たとえば全ての面に付着してもよく、最も大きな面および当該面に対向する面の2面のみに付着してもよい。また、必要に応じて付着する面以外の面にマスクを行っても良い。また、重希土類元素を含む塗料を付着させる面が磁極面であることが好ましい。
【0108】
Tbの付着量は、たとえばR-T-B系永久磁石全体を100重量%として0.2重量%以上3.0重量%以下とすることができる。また、拡散時の熱処理温度は800℃以上950℃以下とすることができる。拡散時の熱処理時間は1時間以上30時間以下とすることが好ましい。また、拡散工程時の雰囲気は任意であるが、Ar雰囲気とすることが好ましい。
【0109】
[時効処理工程]
拡散工程の後、R-T-B系永久磁石を時効処理してもよい。拡散工程後、得られたR-T-B系永久磁石を拡散時よりも低い温度で保持することなどによって、R-T-B系永久磁石に時効処理を施す。時効処理は、たとえば、450℃以上700℃以下の温度で0.5時間以上4時間以下行うが、時効処理を施す回数に応じて適宜調整する。時効処理によって、R-T-B系永久磁石の磁気特性を向上させることができる。また、時効処理時の雰囲気は任意であるが、Ar雰囲気とすることが好ましい。
【0110】
[冷却工程]
R-T-B系永久磁石に時効処理を施した後、R-T-B系永久磁石をArガス雰囲気中で冷却する。これにより、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を得ることができる。冷却速度は任意であるが、たとえば30℃/分以上300℃/分以下である。
【0111】
[表面処理工程]
以上の工程により得られたR-T-B系永久磁石は、用途や目的とする特性に応じてめっきや樹脂被膜や酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい。また、表面処理工程を省略してもよい。
【0112】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を常法に従い着磁させることで、磁石製品が得られる。
【0113】
本実施形態の方法によれば、球状化工程において、投入された原料粉の粒子径と同等の球状粉を得ることが可能となる。さらに、この製法によれば、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上の粉末が得られやすく、磁石の保磁力(Hcj)などの磁気特性を向上させることができる。
【0114】
また、たとえば原料粉を熱プラズマの尾炎部に投入して加熱した後に急冷することで、原料粉の各粒子全体または粒子の一部が溶解することによって粉末は球状になり易くなる。また、副相の成分は粉末表面に均一に分布し易くなり、球状の被覆粒子を形成しやすくなる。粉末が球形であることで、嵩密度が向上しやすく、配向度が高くなりやすい。
【0115】
このような製造方法では、粉末が球形であることで、嵩密度が向上しやすく、配向度が高くなりやすい。そのため、焼結後の磁石の残留磁束密度が高くなりやすい。また、副相の成分は粉末表面に均一に分布し易くなり、球状の被覆粒子を形成しやすくなる。副相の成分が粉末表面に均一に分布すると、焼結後も副相は緻密化する際に二粒子粒界に(薄く)均一に分布するため、残留磁束密度が低下しにくい。さらに、この製法によれば、単結晶からなる希土類系磁石粉末の個数割合が65%以上の粉末が得られやすく、磁石の保磁力などの磁気特性を向上させることができる。
【0116】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0117】
たとえば本発明の希土類磁石粉末を、さらにHDDR法による組織の微細化工程へ供給してもよい。本発明の希土類磁石粉末にさらにHDDR法を施すことにより、粒子形状や粒径、磁気異方性を概ね保ったまま結晶子サイズを低減することができ、保磁力の高いR-T-B系永久磁石を得ることができる。
【0118】
また、上述した実施形態のR-T-B系永久磁石は、様々な変形、種々の組み合わせが可能であり、他の希土類系磁石についても同様に適用することができる。たとえばR-T-B系永久磁石は上記のように焼結を行うことにより製造されるR-T-B系焼結磁石に限定されない。焼結の代わりに熱間成型および熱間加工を行い製造されるR-T-B系永久磁石であってもよい。
【0119】
室温にて原料粉末を成型することにより得られる冷間成型体に対して、加熱しながら加圧する熱間成型を行うと、冷間成型体に残存する気孔が消滅し、焼結によらずに緻密化させることができる。さらに、熱間成型により得られた成型体に対して熱間加工として熱間押出し加工を行うことにより、所望の形状を有し、かつ、磁気異方性を有するR-T-B系永久磁石を得ることができる。
【0120】
また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の用途は任意である。たとえば、電気自動車や風力発電用のモーターなどが挙げられる。
【0121】
さらに、本発明の希土類磁石粉末の用途としては、磁石の成形用以外の用途として、磁気冷凍、磁性流体、磁性シート、磁気記録などが例示できる。
【実施例0122】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0123】
実施例1
まず、Nd:30.5、Al:0.23、Co:0.5、Cu:0.06、Zr:0.15、B:1.01、Fe:残部(単位:重量%)の組成を有するR-T-B系磁石粉末を得るために、ストリップキャスト(SC)法により原料合金を鋳造した。
【0124】
次いで、原料合金に室温で水素を吸蔵させた後、600℃で、1時間、脱水素処理を行って、原料合金を水素粉砕(粗粉砕)し、粗粉砕粉末を得た。なお、水素粉砕処理から焼結までの各工程(微粉砕および成形)は、酸素濃度50ppm未満の雰囲気で行なった。
【0125】
次に、原料合金の粗粉砕粉末に、粉砕助剤として、オレイン酸アミドを0.2重量%添加し、ナウタミキサを用いて混合した。その後、ジェットミルを用いて高圧N2ガスによる微粉砕を行い、平均粒径が4.0μmの微粉砕粉末とした(微粉砕工程)。
【0126】
次に、このようにして得られた微粉砕粉末を、以下に示すようにして球状化した(球状化工程)。具体的には、図4に示す装置10の原料粉供給部14に微粉砕粉末を通し、熱プラズマ12の尾炎部12aに向けて噴霧した。装置10としては、日本電子株式会社のTP-40020NPS装置を改良して用いた。装置10への粉体の供給は、粉末供給機として日本電子株式会社のTP-99010FDR装置を用い、種々の粉体の投入速度で送り、発生させた熱プラズマ中に粉末を供給した。
【0127】
熱プラズマ12を発生させるための高周波発信用コイルには、約4MHz、約6kVの高周波電圧を印加し、ガス噴出口16から噴出されるプラズマ用ガスには、アルゴン100リットル/分、水素10リットル/分の混合ガスを用いた。この時、プラズマ発生室13に形成された熱プラズマ12の雰囲気は約375Torrの減圧雰囲気であった。
【0128】
また、微粉原料粉は、熱プラズマ12の尾炎部12aに、キャリアガスである5リットル/分のアルゴンに担持して投入した。投入速度は、15.0g/分であった。尾炎部12aの温度は、約2000~5000Kであった。チャンバ11の上方内部での急冷ガス15は、水素を含むアルゴンからなる還元性ガスであった。
【0129】
粉体回収部17で得られた球状化粉(磁石粉末)の平均粒径、球状度P1およびP2を、前述した方法により求めた。結果を表1Aに示す。さらに、磁石粉末に含まれる単結晶で構成してある主相粒子の個数割合(単結晶磁石粉末含有率)を、前述した方法により求めた。結果を表1Aに示す。また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、前述した方法により求めた。結果を表1Bに示す。
【0130】
単結晶か否かに関しては、EBSD分析装置を用いて判断した。EBSD分析装置では、各粒子において、指定の結晶面を画像化することができる。すなわち、EBSD分析装置で得られる画像において、それぞれの粒子の中に、単一の結晶面が認められる場合、そのような粒子は、単結晶であると推定され、それぞれの粒子の中に、複数の結晶面が認められる場合、そのような粒子は、多結晶であると判断することができる。
【0131】
さらに、磁石粉末の嵩密度を、下記の方法により求めた。すなわち、嵩密度の測定には粉体物性測定機(ホソカワミクロン製)にて、かため嵩密度(g/cm3 )とゆるめ嵩密度(g/cm3 )を測定した。使用した篩の目開きは710μm、ロートは金属製の内径0.8cmのものを使用した。VIBRATIONは2.0(供給電源:AC100V、50Hz)で実施した。結果を表1Bに示す。
【0132】
また、この実施例1で得られた磁石粉末の顕微鏡写真を図1Aに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率を、前述した方法により求めた。結果を表1Bに示す。また、被覆率100%の磁石粉末の有無を、前述した方法により求めた。結果を表1Bに示す。
【0133】
比較例1
球状化工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして磁石粉末を得た。すなわち、ジェットミルを用いて高圧N2ガスによる微粉砕を行った(微粉砕工程)直後の微粉砕粉末を、磁石粉末とした。実施例1と同様にして、平均粒径、球状度P1およびP2、単結晶磁石粉末含有率を求めた。結果を表1Aに示す。
【0134】
また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末の嵩密度を実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。また、この比較例1で得られた磁石粉末の顕微鏡写真を図1Bに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率と、被覆率100%の磁石粉末の有無の結果を表1Bに示す。
【0135】
実施例2
球状化工程の前に行う微粉砕工程の条件を変えて、平均粒径が10.0μmの微粉砕粉末を得た以外は、実施例1と同様にして磁石粉末を得た。すなわち、ジェットミルを用いて高圧N2ガスによる微粉砕を行った(微粉砕工程)後の微粉砕粉末を、実施例1と同様にして熱プラズマ12の尾炎部12aに投入して得られた球状化粉を磁石粉末とした。実施例1と同様にして、平均粒径、球状度P1およびP2、単結晶磁石粉末含有率を求めた。結果を表1Aに示す。
【0136】
また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末の嵩密度を実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率と、被覆率100%の磁石粉末の有無の結果を表1Bに示す。
【0137】
比較例2
球状化工程を行わなかった以外は、実施例2と同様にして磁石粉末を得た。すなわち、ジェットミルを用いて高圧N2ガスによる微粉砕を行った(微粉砕工程)直後の微粉砕粉末を、磁石粉末とした。実施例2と同様にして、平均粒径、球状度P1およびP2、単結晶磁石粉末含有率を求めた。結果を表1Aに示す。
【0138】
また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、実施例2と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末の嵩密度を実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率と、被覆率100%の磁石粉末の有無の結果を表1Bに示す。
【0139】
比較例3
球状化工程に際して、微粉砕工程後の微粉砕粉末を、熱プラズマ12の上部12b(図4参照)に投入した以外は、実施例1と同様にして磁石粉末を得た。熱プラズマ12の中心部の温度は、10000K以上であった。実施例1と同様にして、平均粒径、球状度P1およびP2、単結晶磁石粉末含有率を求めた。結果を表1Aに示す。
【0140】
また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末の嵩密度を実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率と、被覆率100%の磁石粉末の有無の結果を表1Bに示す。
【0141】
比較例4
球状化工程に際して、微粉砕工程後の微粉砕粉末を、熱プラズマ12の上部12b(図4参照)に投入した以外は、実施例2と同様にして磁石粉末を得た。熱プラズマ12の中心部の温度は、10000K以上であった。実施例2と同様にして、平均粒径、球状度P1およびP2、単結晶磁石粉末含有率を求めた。結果を表1Aに示す。
【0142】
また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、実施例2と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末の嵩密度を実施例2と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率と、被覆率100%の磁石粉末の有無の結果を表1Bに示す。
【0143】
比較例5
ストリップキャスト(SC)法を用いることなく、実施例1と同様な組成の磁石粉末を、ガスアトマイズ法によって形成し、熱プラズマによる球状化処理は行わなかった以外は、実施例1と同様にして、磁石粉末を得た。実施例1と同様にして、平均粒径、球状度P1およびP2、単結晶磁石粉末含有率を求めた。結果を表1Aに示す。
【0144】
また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末の嵩密度を実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率と、被覆率100%の磁石粉末の有無の結果を表1Bに示す。
【0145】
実施例3~5
球状化工程において、プラズマ発生室13に形成される熱プラズマの雰囲気圧力を、それぞれ675Torr、300Torr、75Torrとなるように変化させたこと以外は、実施例1と同様にして磁石粉末を得た。実施例1と同様にして、平均粒径、球状度P1およびP2、単結晶磁石粉末含有率を求めた。結果を表1Aに示す。
【0146】
また、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合と、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合とを、実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末の嵩密度を実施例1と同様にして求めた。結果を表1Bに示す。さらに、磁石粉末に含まれる被覆粒子の平均被覆率と、被覆率100%の磁石粉末の有無の結果を表1Bに示す。
【0147】
評価1
表1Aおよび表1Bに示すように、比較例1~4に比較して、実施例1~5では、球状度P1およびP2がともに向上し、嵩密度が向上すると共に、球状度P1が0.9以上である磁石粉末の個数割合が向上し、さらに、球状度P2が0.8以上である磁石粉末の個数割合も向上することが確認できた。また、磁石粉末の平均粒径も好ましい範囲に制御できることが判明した。さらに、微粉原料粉の粒径、熱プラズマに対する微粉原料粉の単位時間あたりの噴霧量(投入量)、キャリアガスの流量、プラズマ発生室の内部圧力などを制御することにより、球状化原料粉(磁石粉末)の粒子径と粒度分布を制御したり、単結晶磁石粉末含有率や平均被覆率を制御することができることも確認できた。
【0148】
また、表1Aおよび表1Bに示すように、比較例1~5に比較して、実施例1~5では、磁石粉末を構成する各粒子の被覆率の平均(平均被覆率)が向上すると共に、被覆率100%の磁石粉末が確認できた。被覆率が向上することで、後述するように、磁石における磁気特性が向上することが確認されている。
【0149】
なお、比較例3において、平均粒径が小さかったのは、次のような理由からではないかと考えられる。粒径の小さい粒子を、熱プラズマ12の上部12bから投入すると、数万度のプラズマ中を通過することにより、熱が過剰に伝わり粒子が完全に蒸発する。それが再凝固することでナノ粉が発生する。また粒径の小さい粒子は凝集しやすいことから、発生したナノ粉が凝集し粒子形状はいびつになる。加えて、再凝固の際に不定形粒子が多く発生し、球状度が悪くなると考えられる。
【0150】
また、比較例4において、粒径の大きい粒子を熱プラズマ12の上部12bから投入すると、数万度のプラズマ中を通過することで熱が加わり液体となる。その液体となった粒子同士が合体し、肥大化された粒子を作る。その結果、球状化工程後の粉末の平均粒径が25.6μmと大きくなると考えられる。また、肥大化した液体の粒子が再凝固するには粒径が小さい粒子に比べて時間を要し、その間に粒子が凝集することで球状度の悪い粒子を作ると考えられる。
【0151】
また、比較例4においては、再凝固する間に粒子が凝集することにより、粉末を構成する粒子の内部組織が実施例1~5とは異なり、2つ以上の結晶子からなる粒子(たとえば図5Bに示す個別粒子31)となりやすい。実施例1~5では、粉末を構成する粒子が単一の単結晶(たとえば図5Aに示す個別粒子31)であると考えられ、好ましくは平均粒径が1~10μm(さらに好ましくは3~10μm)の単結晶の主相粒子31aであることが好ましい。
【0152】
さらに、比較例5では、球状度に関しては実施例1~5よりも少し劣るレベルであるが、実施例1~5よりも、単結晶磁石粉末含有率が極端に低くなる。また、実施例1~5よりも、比較例5の磁石粉の平均粒径も大きくなる。さらに、実施例1~5に比べて、比較例5の磁石粉の平均被覆率は低く、被覆率100%の磁石粉末も観察できなかった。そのため、後述するように、比較例5の磁石粉を用いて永久磁石を作ると、実施例1~5の場合よりも磁気特性が劣る結果となる。
【0153】
実施例11~14、比較例11および比較例12
前述した実施例1および3~5と、比較例1および5の各磁石粉末を用いて、上述した実施形態における配向成形工程および焼結工程を実施し、焼結体からなる永久磁石のサンプルを作製した。得られた各磁石のサンプルについて、副相の面積比率を求めた。結果を表2に示す。また、残留磁束密度Br、保磁力Hcj、配向度Br/Jsを求めた。結果を表2に示す。これらの磁気特性の測定は、B-HトレーサとX線回折装置(XRD)を用いて測定した。また、実施例11で得られた焼結磁石サンプルの断面のFE-SEM顕微鏡写真を図6Aに、比較例11で得られた焼結磁石サンプルの断面のFE-SEM顕微鏡写真を図6Bに示す。
【0154】
評価2
比較例11および12に比較して、実施例11~14では、副相の存在割合(面積比率)が減少するとともに、残留磁束密度Br、保磁力Hcjおよび配向度Br/Jsが向上することが確認できた。球状度が高い磁石粉末を用いることにより、充填率や配向度が向上した結果、残留磁束密度Brが向上したと考えられる。また、磁気異方性の高いRリッチ相からなる被覆層に被覆されている単結晶からなる主相粒子を用いているために、磁化反転が発生しにくくなり、保磁力Hcjが向上したと考えられる。なお、実施例における主相粒子の被覆層は、非常に薄く均一であるために、焼成後の焼結体の断面には、副相の面積比率の増大には寄与せず、実施例では、副相の面積比率は、好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0155】
また、比較例1(比較例11)のようにストリップキャスト法によって磁石粉末が作製される合金にはRリッチ相からなるデンドライトが発生し、粒子内で組成の偏りが起こる場合がある。この粒子を焼結・緻密化することで、たとえば図6Bに示すように粒子内で偏ったRリッチ相が影響し、焼結磁石組織の副相(三粒点)が多く発生する。
【0156】
それと異なり、実施例1(実施例11)などのようにプラズマ処理を行った磁粉に関しては、高温のプラズマ内に磁粉を投入するため磁粉の溶解が発生し組織ムラがなくなり組織の均一な磁粉(球状粉)を得ることが可能となる。その結果、焼結後において、図6Aに示すようにRリッチ相からなる副相(三粒点)の発生が抑制され、主相比率の高い焼結磁石を得ることが可能となると考えられる。
【0157】
実施例21,22および比較例21,22
表3に示す実施例4および5と比較例1および5で得られた各磁石粉末を、ポリフェニレンサルファイド樹脂に練り込んで、まず、ボンド磁石用コンパウンドを作製した。これらの各磁石粉末が練り込まれたコンパウンドを用いて、それぞれのボンド磁石のサンプルを作製した。得られた各ボンド磁石のサンプルについて、実施例11~14と同様にして、残留磁束密度Brおよび保磁力Hcjを求めた。結果を表3に示す。
【0158】
評価3
比較例21および22に比較して、実施例21および22では、残留磁束密度Brおよび保磁力Hcjが向上することが確認できた。球状度の高い磁石粉末を用いることにより、充填率が向上した結果、残留磁束密度Brが向上したと考えられる。また、磁気異方性の高いRリッチ相からなる被覆層に被覆されている単結晶からなる主相粒子を用いているために、磁化反転が発生しにくくなり、保磁力Hcjが向上したと考えられる。
【0159】
【表1A】
【0160】
【表1B】
【0161】
【表2】
【0162】
【表3】
【符号の説明】
【0163】
2… R-T-B系磁石粉末(希土類系磁石粉末)の粒子
10… 装置
11… チャンバ
12… 熱プラズマ
12a… 尾炎部
12b… 上部
13… プラズマ発生室
14… 原料粉供給部
15… 急冷ガス
16… ガス噴出口
17… 粉体回収部
20… 真円
30,30a… 被覆粒子
31… 個別粒子
31a… 主相粒子
32… 被覆層
33… 粒界相
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B