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特開2022-141589音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141589
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20220921BHJP
   G01N 29/28 20060101ALI20220921BHJP
   H04R 1/44 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/28
H04R1/44 330G
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023840
(22)【出願日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2021041454
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 明子
(72)【発明者】
【氏名】山本 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小野 富男
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛史
(72)【発明者】
【氏名】中井 豊
【テーマコード(参考)】
2G047
5D019
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA05
2G047CA01
2G047EA20
2G047GB29
2G047GE01
5D019AA22
5D019FF05
5D019GG01
(57)【要約】
【課題】検査時に接触媒質を被検査体と密着させることができ、かつ接触媒質を容易に移動させることをできると共に、S/N比の低下を抑制した音波検査装置を提供する。
【解決手段】実施形態の音波検査装置1は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面2aを有する音波探触子2と、音波探触子2の音波機能面2aに直接又は中間部材を介して接する、少なくともエラストマーを含む接触媒質10と、接触媒質10と接するように設けられ、複数の穴12を有するシート部材12とを備える接触部材9と、接触部材9に対する荷重の印加及び前記荷重の取り除きを行う荷重機構13と具備する。シート部材12は、接触媒質10中を伝播する音波の波長λの0.15倍以上0.35倍以下の範囲の厚さを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面を有する音波探触子と、
前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、少なくともエラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質の前記第2の面と接するように設けられ、複数の穴を有するシート部材とを備える接触部材と、
前記接触部材に対する荷重の印加及び前記荷重の取り除きを行う荷重機構とを具備し、
前記シート部材は、前記接触媒質中を伝播する音波の波長λの0.15倍以上0.35倍以下の範囲の厚さを有する、音波検査装置。
【請求項2】
前記シート部材は、第1の穴と前記第1の穴と近接する第2の穴との最近接間隔が、前記音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置された前記複数の穴を有する、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項3】
前記シート部材の前記複数の穴は、近接する穴同士の最近接間隔が前記音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置されている、請求項1又は請求項2に記載の音波検査装置。
【請求項4】
前記エラストマーは、0.1MPa以上10MPa以下のヤング率を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項5】
前記シート部材における前記複数の穴の総面積は、前記シート部材の前記複数の穴が開いていない部分の面積と同等又はそれ以上である、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項6】
前記振動子は、超音波送受信用振動子である、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項7】
音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面を有する音波探触子と、
前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、少なくともエラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質の前記第2の面と接するように設けられ、複数の穴を有するシート部材とを備える接触部材と、
前記接触部材に対する荷重の印加及び前記荷重の取り除きを行う荷重機構とを具備し、
前記シート部材は、第1の穴と前記第1の穴と近接する第2の穴との最近接間隔が、前記接触媒質中を伝播する超音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置された前記複数の穴を有する、音波検査装置。
【請求項8】
前記シート部材の前記複数の穴は、近接する穴同士の最近接間隔が前記音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置されている、請求項7に記載の音波検査装置。
【請求項9】
前記エラストマーは、0.1MPa以上10MPa以下のヤング率を有する、請求項7又は請求項8に記載の音波検査装置。
【請求項10】
前記シート部材における前記複数の穴の総面積は、前記シート部材の前記複数の穴が開いていない部分の面積と同等又はそれ以上である、請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項11】
前記振動子は、超音波送受信用振動子である、請求項7ないし請求項10のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項12】
前記エラストマーは、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、及びエピクロルヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項13】
前記中間部材は、可逆性を有する第1接着層を含む接合層を備える、請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項14】
前記第1接着層は、感温性粘着剤、光照射硬化剤、加熱発泡剤、熱膨張剤、及び光構造変化剤のいずれか1つを含む、請求項13に記載の音波検査装置。
【請求項15】
前記接合層は、さらに、ポリマー層及び第2接着層から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項13又は請求項14に記載の音波検査装置。
【請求項16】
音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面を有する音波探触子を、前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する、少なくともエラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質と接するように設けられ、複数の穴を有するシート部材とを備える接触部材を介して、前記シート部材が被検査体と接触するように配置する工程と、
前記接触部材に対して荷重を加え、前記シート部材の前記複数の穴を介して前記接触媒質を前記被検査体に押し付けて接触させる工程と、
前記接触部材を前記被検査体に押し付けた状態で、前記音波探触子により前記被検査体の音波による非破壊検査を行う工程とを具備し、
前記シート部材は、前記接触媒質中を伝播する音波の波長λの0.15倍以上0.35倍以下の範囲の厚さ、及び前記複数の穴における第1の穴と前記第1の穴と近接する第2の穴との最近接間隔が前記音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置された前記複数の穴の少なくとも一方を有する、音波検査方法。
【請求項17】
前記検査を行う工程は、前記音波として用いた超音波を前記音波探触子から前記被検査体に送信すると共に、前記被検査体からの反射波を前記音波探触子で受信することにより前記被検査体の非破壊検査を行う、請求項16に記載の音波検査方法。
【請求項18】
さらに、前記荷重を取り除く工程と、
前記荷重が取り除かれた前記接触媒質の前記被検査体との接触状態を解除すると共に、前記シート部材を前記被検査体に接触させた状態で、前記音波探触子を前記被検査体上を移動させる工程と
を具備する、請求項16又は請求項17に記載の音波検査方法。
【請求項19】
前記エラストマーは、0.1MPa以上10MPa以下のヤング率を有する、請求項16ないし請求項18のいずれか1項に記載の音波検査方法。
【請求項20】
前記シート部材における前記複数の穴の総面積は、前記シート部材の前記複数の穴が開いていない部分の面積と同等又はそれ以上である、請求項16ないし請求項19のいずれか1項に記載の音波検査方法。
【請求項21】
音波検査装置の音波探触子に用いられる接触部材であって、
少なくともエラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質と接するように設けられ、複数の穴を有するシート部材とを具備し、
前記シート部材は、前記接触媒質中を伝播する音波の波長λの0.15倍以上0.35倍以下の範囲の厚さ、及び前記複数の穴における第1の穴と前記第1の穴と近接する第2の穴との最近接間隔が前記音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置された前記複数の穴の少なくとも一方を有する、接触部材。
【請求項22】
前記シート部材は、前記音波の波長λの0.15倍以上0.35倍以下の範囲の厚さ、及び前記最近接間隔が前記音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置された前記複数の穴を共に有する、請求項21に記載の接触部材。
【請求項23】
前記エラストマーは、0.1MPa以上10MPa以下のヤング率を有する、請求項21又は請求項22に記載の接触部材。
【請求項24】
前記シート部材における前記複数の穴の総面積は、前記シート部材の前記複数の穴が開いていない部分の面積と同等又はそれ以上である、請求項21ないし請求項23のいずれか1項に記載の接触部材。
【請求項25】
前記エラストマーは、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、及びエピクロルヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項21ないし請求項24のいずれか1項に記載の接触部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波や弾性波等の音波の伝播を用いた音波検査装置は、様々な部材、装置、インフラ等の点検に用いられている。また、超音波検査装置は医療診断等にも利用されている。そのような検査装置に用いられる超音波探触子やAE(Acoustic Emission)センサ等に代表される音波受信機、音波送信機、音波送受信機等の音波検査用探触子を被検査体に設置する場合、被検査体との間で音波伝播を効率よく行うために、探触子の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面と被検査体との間に、グリセリンやワセリン等の液体状又は粘性体状の接触媒質を介在させている。
【0003】
上述した接触媒質は、探触子から被検査体、又は被検査体から探触子に超音波等の音波を効率よく伝達し、試験精度を高める上で重要である。しかし、液体状又は粘性体状の接触媒質を塗布したり、除去したりする工程が煩雑である。このため、検査の時間や工数を増加させる要因となっている。また、検査対象の被検査体によっては、接触媒質で汚染される場合もあり、その場合は検査自体を実施することができない。
【0004】
固体の接触媒質も提案されているが、超音波の伝播は液体状の接触媒質を用いた場合と比較して大きく劣る。これは、探触子の接触媒質と被検査体との間に、音響インピーダンスが大きく異なる空気が介在してしまうことが原因と考えられる。音波検査用接触媒質の設置面と被検査体との間に空気が介在するのを避けるために、粘着性のある固体の接触媒質も提案されている。しかしながら、この場合には、音波検査用接触媒質の設置面が被検査体に密着し、音波検査用接触媒質を滑らせることができない。そのため、設置位置を微小距離で動かす場合であっても、一度接触媒質と共に探触子を、被検査体から剥がす必要があり、検査工程が煩雑になる。さらに、接触媒質を介して音波検査用探触子から音波の送信及び反射波の受信を行う場合、接触媒質による音波及び反射波の減衰や多重反射等によるS/N比の低下を抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/024704号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、被検査体を液体状の接触媒質で汚染せずに検査することである。本発明によって、検査時に接触媒質を被検査体と密着させることができ、かつ接触媒質を被検査体上を容易に移動させることをできると共に、S/N比の低下を抑制することを可能にした音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の音波検査装置における一態様は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面を有する音波探触子と、前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、少なくともエラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質の前記第2の面と接するように設けられ、複数の穴を有するシート部材とを備える接触部材と、前記接触部材に対する荷重の印加及び前記荷重の取り除きを行う荷重機構と具備する。実施形態の音波検査装置の一態様における前記シート部材は、前記接触媒質中を伝播する音波の波長λの0.15倍以上0.35倍以下の範囲の厚さを有する。
【0008】
実施形態の音波検査装置における他の態様は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面を有する音波探触子と、前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、少なくともエラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質の前記第2の面と接するように設けられ、複数の穴を有するシート部材とを備える接触部材と、前記接触部材に対する荷重の印加及び前記荷重の取り除きを行う荷重機構と具備する。実施形態の音波検査装置の他の態様における前記シート部材は、第1の穴と前記第1の穴と近接する第2の穴との間隔が、前記接触媒質中を伝播する超音波の波長λの0.1倍以上1.5倍以下の範囲となるように配置された前記複数の穴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の音波検査装置を示す図である。
図2図1に示す音波検査装置における音波探触子を示す断面図である。
図3図1に示す音波検査装置における音波探触子と接触部材との組合せの第1の例を示す断面図である。
図4図3に示す接触部材におけるシート部材の第1の例を示す平面図である。
図5図1に示す音波検査装置における音波探触子と接触部材との組合せの第2の例を示す断面図である。
図6図3に示す接触部材におけるシート部材の第2の例を示す平面図である。
図7図3に示す接触部材におけるシート部材の第3の例を示す平面図である。
図8図3に示す接触部材におけるシート部材の第4の例を示す平面図である。
図9図3に示す接触部材におけるシート部材の第5の例を示す平面図である。
図10図3に示す接触部材におけるシート部材の第6の例を示す平面図である。
図11図3に示す接触部材の荷重を印加する前の状態を示す断面図である。
図12図3に示す接触部材の荷重印加状態を示す断面図である。
図13】実施例1の音波検査装置における反射波振幅幅の音波波長に対する穴同士の最近接距離の比の依存性を示す図である。
図14】実施例2の音波検査装置を用いて実施した超音波検査の反射波の振幅及び多重反射波の振幅を示す図である。
図15】実施例2の音波検査装置における反射波振幅幅に対する多重反射波の振幅の比の音波波長に対するシート部材の比の依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の音波検査装置及び音波検査方法について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下方向を示す用語は、被検査体の検査面を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0011】
図1は実施形態の音波検査装置を示す図である。図1に示す音波検査装置1は垂直型の音波探触子2を有し、傷等の検査対象物から戻ってくる音波(反射波)、あるいは検査対象物が発生する音波を計測することで非破壊検査を行うものである。音波探触子2は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有するものであり、具体例としては超音波送受信機や音波受信機が挙げられる。超音波送受信機の代表例としては、超音波プローブが挙げられる。また、音波受信機の代表例としては、AEセンサが挙げられる。音波探触子2は音波送信機であってもよい。
【0012】
ここに記載される音波とは、気体、液体、固体を問わず、弾性体を伝播するあらゆる弾性振動波の総称であり、可聴周波数域の音波に限らず、可聴周波数域より高い周波数を有する超音波、及び可聴周波数域より低い周波数を有する低周波音等も含まれる。音波の周波数は特に限定されるものではなく、高周波から低周波まで含まれるものである。実施形態の音波検査装置1において、音波探触子2は音波の送受信面、受信面、送信面等を有する。ここでは、音波探触子2の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する面を音波機能面と称する。このような音波機能面2aを音波探触子2は備えている。
【0013】
図1に示す音波検査装置1において、音波探触子2は例えば超音波送受信機としての超音波プローブである。超音波プローブ(2)は、図2に示すように、超音波探傷用の振動子(圧電体)3と、振動子3の上下両面に設けられた電極4とを有する超音波送受信素子5を備えている。超音波送受信素子5は受波板6上に配置されており、この状態でケース7内に収容されている。超音波送受信素子5の電極4は、ケース7に設けられたコネクタ8と電気的に接続されている。振動子3、超音波送受信素子5、受波板6等には、公知の超音波探触子に用いられる構成材料や構造等を適用することができ、特に限定されるものではない。また、音波探触子2がAEセンサ等の音波受信機である場合、AE受信用の振動子(圧電体)3を有する音波受信素子が用いられる以外は、超音波プローブと同様な構成が適用される。その場合、AE受信用の振動子3、音波受信素子、受波板6等には、公知のAEセンサに用いられる構成材料や構造等を適用することができる。
【0014】
音波探触子2として超音波プローブを適用した場合、振動子3に電極4から電圧を印加することで、受波板6を介して超音波を発信すると共に、受波板6を介して超音波の反射波を受信する。超音波プローブにおいて、受波板6の超音波送受信素子5と接する面6aとは反対側の面6bが超音波の送信面及び受信面(送受信面)となる。音波探触子2としてAEセンサを適用した場合、被検査体内のAE(Acoustic Emission)による音波(弾性波)を振動子3が受波板6を介して受信する。AEセンサにおいて、受波板6の音波受信素子と接する面6aとは反対側の面6bが音波の受信面となる。音波探触子2において、超音波送受信素子又は音波受信素子(以下、総称して音波素子と記す場合がある。)5が配置された受波板6の音波素子5と接する面6aとは反対側の面6bが音波の送信面及び受信面の少なくとも一方として機能する音波機能面2aとなる。
【0015】
音波探触子2の音波機能面2aには、音波伝播部として機能する接触部材9が設けられている。接触部材9は、図3及び図4に示すように、エラストマーを含む接触媒質10と、複数の穴11を有するシート部材12とを備える。図3は接触部材9を拡大して示す断面図、図4はシート部材12の穴11の形状等を示す平面図である。接触媒質10は、音波探触子2の音波機能面2aに直接又は中間部材を介して接する第1の面10aと、第1の面10aとは反対側の第2の面10bとを有する。接触媒質10の第1の面10aは、音波探触子2の音波機能面2aに直接又は中間部材を介して、図示しない接着剤により接着されている。中間部材としては、高分子材料からなるシューや接合層等が挙げられる。シート部材12は、接触媒質10の第2の面10bと接するように設けられた第3の面12aと、第3の面12aとは反対側の第4の面12bとを有する。シート部材12の第3の面12aは、接触媒質10の第2の面10bに、図示しない接着剤により接着されている。シート部材12の第4の面12bは、被検査体Xとの接触面を構成している。
【0016】
音波探触子2と接触部材9とは、例えば図5に示すように、音波機能面2aと第1の面10aとの間に配置された接合層14により接合されていてもよい。接合層14は、例えば可逆性を有する第1接着層15、ポリマー層16、及び第2接着層17が順に配置された構成を有する。これら各層15、16、17については後に詳述するが、可逆性を有する第1接着層(可逆性接着層)15を用いることによって、音波探触子2に対する接触部材9の脱着を容易に実施することができる。例えば、被検査体Xはバルク状の固体に限らず、粉体の集合体や圧粉体のような場合もある。そのような検査においては、被検査体Xとしての粉体が接触部材9に付着するため、接触部材9を交換する必要が生じる場合がある。音波探触子2に対する接触部材9を容易に脱着することによって、粉体の集合体等の被検査体Xの検査効率を高めることが可能になる。
【0017】
図4は、シート部材12に複数の穴11として丸穴を60°千鳥型に配置した状態を示している。この場合、近接する穴11同士の距離はほぼ同一となる。複数の穴11の配置は、図4に示した配置に限られるものではない。例えば、図6に示すように、複数の穴11としての丸穴を並列型に配置してもよい。さらに、丸穴の配置は45°千鳥型等であってもよい。穴11の形状も丸穴に限られるものではなく、図7に示す正方形穴(四角形穴)や図8に示す六角形穴(多角形穴)のような角穴、図9に示す長丸穴、図10に示す長角穴等であってもよい。角穴、長丸穴、長角穴等の配置に関しても、千鳥型、並列型等の各種の配置を適用することができる。図4図6図7図8図9図10において、いずれも黒色部分は穴11の位置(穴11が開いている部分)を示し、白色部分はシート部材12の穴11が開いていない部分を示している。
【0018】
音波検査装置1は、シート部材12の第4の面12bが被検査体(被処理体)Xと接するように配置される。音波検査装置1は、音波探触子2の外周に設けられた荷重負荷治具13を有している。音波検査装置1においては、まず荷重負荷治具13を介して音波探触子2に荷重が印加され、さらに音波探触子2を介して接触部材9に荷重が印加される。後述するように、接触媒質10は接触部材9に印加された荷重によって、シート部材12の複数の穴11を介して被検査体Xと接する。従って、接触媒質10と被検査体Xとの間で音波を効率よく伝播させることができ、被検査体Xの非破壊検査を精度よく実施することが可能になる。さらに、荷重負荷治具13による荷重を取り除くことによって、シート部材12のみが被検査体Xと接した状態となるため、被検査体X上を音波検査装置1を滑らせた状態で移動させることができる。これによって、音波検査装置1を被検査体Xの次の検査位置に容易に移動させることができる。接触媒質10への荷重の印加は、接触媒質10に力を加える様々な機構及び方法により実施することができる。例えば、ステッピングモータやACサーボモータを用いた電動アクチュエータ、油圧や空圧を利用したアクチュエータ等によって、接触媒質10に荷重を印加することができる。
【0019】
接触媒質10は、少なくともエラストマーを含むものであり、上記したように被検査体Xと接触するための接触面を有している。荷重負荷治具13により接触部材9に荷重が印加されていない状態においては、図11に示すように、接触媒質10の第2の面10bがシート部材12の第3の面12aと単に接している状態である。従って、接触媒質10は被検査体Xと接しておらず、シート部材12の第4の面12bのみが被検査体Xと接した状態となる。この状態は、音波検査を実施することなく、音波検査装置1を単に移動させる状態である。後述するシート部材12の構成材料に基づく滑り性等によって、シート部材12のみが接した状態の場合には、被検査体X上を音波検査装置1をシート部材12を介して滑らせた状態で移動させることができる。
【0020】
一方、図12に示すように、荷重負荷治具13により接触部材9に荷重Pが印加された状態においては、少なくともエラストマーを含む接触媒質10の変形特性、すなわち超低弾性率、可逆的大変形、粘弾性等によって、接触媒質10の一部がシート部材12の複数の穴11内に充填されるように変形する。このような印加荷重による接触媒質10の変形によって、接触媒質10の一部が被検査体Xと接した状態が得られる。粘着性のあるエラストマーは、液体の接触媒体と同様に超音波等の音波を良好に伝播させることができる。従って、接触媒質10の一部が被検査体Xと接した状態とすることによって、荷重Pの印加時に接触媒質10と被検査体Xとの間で音波を効率よく伝播させることができる。これらによって、音波検査装置1による被検査体Xの非破壊検査精度の向上と音波検査装置1の被検査体X上における移動性とを両立させることが可能となる。
【0021】
エラストマーの摩擦力を測定すると、他の材料と比較して圧倒的に大きく、場合によっては1を超えるような摩擦が観測されることがある。この大きな摩擦力の起源は、ファンデルワールス力を起源としたエラストマーの被検査体Xへの吸着力によるもので、変形により接触面積が極めて大きくなるために観測される現象である。金属のような硬質材料同士を接触させようとしても、接触面の極一部である粗さ、具体的には微小突起の先端のみが接触するに留まる。しかし、エラストマーのように弾性率が低い場合、同じ荷重でも接触面積が多くなるため、接触面積に応じて吸着力が増すことになる。また、エラストマーの粘弾性は、接触した吸着界面を引き剥がす力を増す方向に作用するので、これも摩擦係数を大きくする要因となる。このように、エラストマーは被検査体Xとの実質的な(微視的な)接触面積が大きいため、超音波をよく通すことができる。ただし、超音波を通しやすいものほど、摩擦力が大きく剥がしづらくなってしまう。そこで、接触部材9においては、図3に示すように、接触媒質10の表面10bに複数の穴11を有するシート部材12を設けており、これにより無荷重時の移動を容易にしている。
【0022】
接触媒質10として用いるエラストマーの弾性定数(ヤング率)は0.1MPa以上10MPa以下であることが好ましい。接触媒質10を構成する熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(SBC、TPS)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE、TPC)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱硬化性エラストマーとしては、ジエン系ゴムに分類されるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、非ジエン系ゴムに分類されるイソブチレン・イソプレンゴム(IIR)のようなブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM) 等が挙げられる。その他のゴムとして、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、多硫化ゴム(T)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)等が挙げられる。耐熱性、耐摩耗性、耐油性、耐薬品性等、それぞれの材料により特徴を有することから、検査対象によって適宜選択することが好ましい。用途によっては、複数のエラストマーを混合して用いてもよい。音波の透過を妨げない大きさ、すなわち概ね直径200μm以下の添加物が混合されていてもよい。
【0023】
接触媒質10を構成するエラストマーは、耐熱性に優れる、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、及びエピクロルヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0024】
シート部材12を構成する材料には、接触媒質10を構成するエラストマーより弾性率が大きい材料が用いられ、例えばポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマーのようなフッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、金属材料、セラミックス材料、酸化物のような化合物材料等を用いることができる。シート部材12には、接触媒質10を構成するエラストマーより弾性率が大きく、かつ滑り性に優れる材料を用いることが好ましい。なお、超音波等の音波の伝播性に関しては、接触部材9のうち主として接触媒質10が担うため、シート部材12に関しては音波の伝播性を考慮しなくてもよい。
【0025】
接触媒質10の構成材料は、環動エラストマーを含んでいてもよい。これはエラストマーのヤング率を下げ、ヒステリシスを低減するためである。環動エラストマーとは、ヤング率が極めて低いことで知られるポリロタキサン構造に代表される環動高分子材料である。ロタキサンは、大環状分子を棒状分子が貫通し、軸の両末端に嵩高い部位を結合させることで、立体障害でリングが軸から抜けなくなったものである。その構造的特徴は、以下の3つに分類される。すなわち、(1)環状分子と線状高分子との間に共有結合が存在しない、(2)多数の環状分子が線状高分子に沿って回転・滑り運動が可能である、(3)ポリロタキサン中の環状分子の化学修飾による機能付与が可能である。
【0026】
上述した環動エラストマーは、原料において、軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子としてシクロデキストリン誘導体、キャッピング分子としてアダマンタンを用いたポリロタキサンが好適である。特に、ポリロタキサンにポリカプロラクトン等をグラフトし、他の高分子をブレンドして架橋したエラストマーは、弾性率が1kPa程度と極めて小さい。このようなエラストマーを構成材料として用いることによって、凹凸を有する被検査体Xの表面への追従性をより一層高めることができる。また、ヒステリシスも低減されるため、継続使用回数を増大させることができる。
【0027】
上述したように、印加荷重により接触媒質10の一部を被検査体Xと接触させた状態において、音波素子5から被検査体Xに超音波等を発信すると、超音波は接触媒質10内を伝播し、さらに接触媒質10と被検査体Xとの接触界面を介して、被検査体Xに到達してその内部を伝播する。この際、超音波の一部はシート部材12で反射され、この不要な反射波が被検査体X内の傷等により反射された反射波と多重反射波を形成するおそれがある。このような多重反射波は、被検査体X内の傷等により反射された反射波の信号特性を劣化させる要因となる。すなわち、本来検知したい反射波による信号のS/N比を低下させる要因となる。そこで、実施形態の音波検査装置1においては、シート部材12の厚さ(図3に示す厚さT)を、接触媒質10内を伝播する超音波の波長λの0.15倍以上0.35倍以下の範囲としている。
【0028】
接触媒質10内を伝播する超音波(波長λ)に対して、0.15λ以上0.35λ以下の範囲の厚さを有するシート部材12を用いることによって、接触媒質10中では反射波の多重反射を軽減することができる。例えば、シート部材12の厚さが0.25λ(1/4λ)であるとき、半波長位相がずれて打ち消しあうことによって、多重反射を軽減することができる。このような多重反射の軽減効果は、シート部材12の厚さを0.15λ以上0.35λ以下の範囲とすることによって、シート部材12の厚さが0.15λ未満の場合や0.35λを超える場合に比べて有効に得ることができる。シート部材12の厚さは0.2λ以上0.3λ以下の範囲であることがより好ましい。上記した多重反射の軽減効果は、超音波に限らず、音全般に得ることができ、さらに被検査体Xから放出されて音波素子5に到達する音においても得ることができる。
【0029】
さらに、上記したシート部材12による多重反射や減衰等を軽減するにあたって、シート部材12に設けられた複数の穴11の最接近間隔を調整することも有効である。具体的には、例えば図3及び図4に示すように、複数の穴11のうちの第1の穴11Aと、第1の穴11Aに近接する第2の穴11Bとの間隔(最接近間隔)Wを、接触媒質10内を伝播する超音波の波長λに対して、0.1倍以上1.5倍以下の範囲とすることが有効である。さらに、複数の穴11のそれぞれにおいて、近接する穴11同士の間隔(最近接間隔)Wを、0.1λ以上1.5λ以下の範囲とすることが好ましい。このように、複数の穴11同士の最近接間隔Wを0.1λ以上1.5λ以下の範囲とすることによって、接触媒質10を伝播する超音波が通りやすくなり、接触媒質10中では反射波の多重反射やシート部材12による音波の減衰を軽減することができる。シート部材12に設けられた複数の穴11の間隔同士の最近接間隔Wは、0.1λ以上1λ以下の範囲とすることがより好ましい。このような超音波等の多重反射やシート部材12による減衰の軽減効果は、超音波に限らず、音全般に得ることができ、さらに被検査体Xから放出されて音波素子5に到達する音においても得ることができる。
【0030】
上記したシート部材12の厚さを0.15λ以上0.35λ以下の範囲とする構成、及び複数の穴11同士の最近接間隔Wを0.1λ以上1.5λ以下の範囲とする構成のいずれか一方を適用した場合においても、シート部材12に起因する多重反射や減衰を軽減することができる。シート部材12に起因する多重反射や減衰を軽減し、音波素子5で受信する音波信号のS/N比をより高めるにあたって、シート部材12の厚さを0.15λ以上0.35λ以下の範囲とする構成、及び複数の穴11同士の間隔Wを0.1λ以上1.5λ以下の範囲とする構成を共に適用することが好ましい。
【0031】
実施形態の音波検査装置1において、接触媒質10の厚さは10μm以上10mm以下とすることが好ましい。接触媒質10を構成する材料の音響インピーダンスやヤング率により適した厚さは異なるが、さらに0.5mm以上2mm以下程度の厚さのときに、音波の伝播性能を高くいることができる。実施形態で用いられるエラストマーは、所定の粘弾性を有し、対象物に貼り付くことができるため、水や油類等の他の接触媒質と比べて周囲を汚染することがなく、また固体であるため、取り除きも容易であり、再利用も可能である。接触媒質10を押し付けることで、空気層を排除するために、用いるエラストマーの弾性定数(ヤング率)は0.1MPa以上0.1GPa以下であることが好ましい。
【0032】
さらに、図3ないし図10に示す接触部材9においては、穴11の総面積(図4図6ないし図10における黒色部分の面積)は、シード部材12の穴11が開いていない部分の面積(図4図6ないし図10における白色部分の面積)と同等もしくはそれ以上であることが好ましい。これによって、接触媒質10と被検査体Xとの接触面積を確保し、超音波検査等の音波検査精度を高めることができる。さらに、シード部材12の厚さ、シード部材12の穴11が開いていない部分の最小幅、シート部材12における穴11の総面積とシート部材12の穴11が開いていない部分の面積との比等は、接触媒質10に用いる材料のヤング率や音響インピーダンス等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0033】
図5に示す接合層14において、可逆性を有する第1接着層(可逆性接着層)15は、例えば感温性粘着剤、光照射硬化剤、加熱発泡剤、熱膨張剤、及び光構造変化剤のいずれかを含むことによって、刺激・環境の変化による接着力の変化を起こすものである。このような可逆性接着層15を設けることによって、接触部材9は所望のときに、光照射や温度変化等を用いることで、速やかに音波探触子2から取り外すことができる。ポリマー層16及び第2接着層17は、可逆接着層15と接触媒質10との間に設けられ、これら両者を一体化する場合に必要となることがあり、必要に応じて設けられる。
【0034】
可逆性接着層15は、例えば10μm以上100μm以下の厚さを有することが好ましい。可逆性接着層15の例として、低温で接着性が低下する感温性粘着層が挙げられる。感温性粘着層は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有しており、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却されると、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することにより粘着力が低下する粘着層である。側鎖結晶性ポリマーとしては、例えば側鎖結晶性の各種メタクリル樹脂が用いられる。
【0035】
可逆性接着層15の他の例として、高温で接着性が低下する感温性粘着層が挙げられる。感温性粘着層としては、側鎖結晶性ポリマー及び発泡剤を含有するものが知られている。感温性粘着層は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有し、発泡剤を側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して1~60重量部の割合で含有する。これによって、感温性粘着層を発泡剤の発泡温度以上の温度に加熱すると、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すようになり、粘着層の凝集力が低下すると共に、発泡剤が発泡して膨らむことによって、簡単に接触部材9を音波探触子2から取り外すことができる。
【0036】
側鎖結晶性ポリマーの例としては、メタクリレート系樹脂が挙げられる。発泡剤としては、化学発泡剤や物理発泡剤が使用可能である。化学発泡剤には、熱分解型及び反応型の有機系発泡剤ならびに無機系発泡剤が包含される。熱分解型の有機系発泡剤としては、例えば各種のアゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体等が挙げられる。反応型の有機系発泡剤としては、例えばイソシアネート化合物が挙げられる。熱分解型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸塩、炭酸塩等が挙げられる。他の発泡剤としては、市販されているマイクロカプセル化された熱膨張性微粒子を用いることができる。発泡剤の平均粒径は、5~50μmであることが好ましい。
【0037】
可逆性接着層15のさらに他の例としては、光硬化剥離層が挙げられる。光硬化剥離層は、例えば側鎖結晶性ブロック共重合体であるメタクリルポリマー100重量部と、光重合開始剤0.1~2重量部とを含有する。さらに、光重合開始剤の1種を単独で用いてもよいし、2種以上の光重合開始剤を併用してもよい。
【0038】
ポリマー層16は、フィルム状であることが好ましい。フィルム状とは、フィルムのみに限定されるものではなく、実施形態の効果を損なわない限りにおいて、フィルムないしシート等を含む概念である。 ポリマー層15の構成材料としては、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂が挙げられる。ポリマー層16は、単層体又は複層体のいずれであってもよく、その厚さは5~250μmであることが好ましい。ポリマー層16には、第2接着層17との密着性を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施してもよい。
【0039】
第2接着層17は、ポリマー層16とエラストマーを含む接触媒質10とを接着するために設けられる。第2接着層17としては、例えばゴム系溶剤形接着剤を用いることができる。ゴム系溶剤形接着剤には、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレン)樹脂系接着剤やクロロプレンゴム系接着剤を用いることができる。接着の際に、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施すことができる。
【実施例0040】
以下、実施例およびその評価結果について述べる。
【0041】
(実施例1、比較例1)
まず、エラストマーシートとして、スチレン・ブタジエンエラストマー(プロセスオイルを含有、硬度 JISタイプEが4、実験条件での音速1350m/s)を用意した。次に、周波数が2.25MHzの超音波の上記エラストマー中な波長λに対して0.25倍の長さに相当する厚さ150μmのポリテトラフルオロエチレンシートを用意した。これらに、直径100μmの穴を、様々なピッチ(最近接距離)で全面に開けた。これらの穴を開けたシートをエラストマーシートと密着させることによって接触部材とした。
【0042】
ポリテトラフルオロエチレンシートが密着していない側のエラストマーに、極薄のSBS接着剤により厚さ25μmのポリマー層(PETシート)を接着した。PETシートを、可逆性接着層を介して、周波数が2.25MHzの超音波探触子の超音波送受信面に積層した。このようにして、超音波探触子に対して、可逆性接着層、ポリマー層、接着層、エラストマー部材、及びポリテトラフルオロエチレンシートを順に積層した。この際に用いた可逆性接着層は、高温で接着性が低下する感温性粘着層であり、ポリメタクリレート系樹脂100重量部にマイクロカプセル化された熱膨張性微粒子(日本フィライト社製、エクスパンセル(登録商標))30重量部を混合した厚さ30μmの層を用いた。
【0043】
最初に、せん断引張試験を実施して、自重のみでそれ以上に荷重をかけない状態で、探触子を移動させることができるかどうかを調べた。上記超音波探触子にロードセルを接続し、表面粗さRzが32μmのステンレス板の上に載せ、そのステンレス板を低速移動させて、静摩擦係数を測定した。比較例として、シート部材を貼り付けていないエラストマーシートのみについて、同様の測定を行った。その結果、シート部材を貼り付けていない場合は、静摩擦係数が極めて大きく、探触子を移動させることが困難であった。これに対して、シート部材を設置した場合、静摩擦係数は一様に小さくなって移動させることが可能なことが分かった。ただし、穴同士の最近接距離が0.1波長以下(この例においては、60μm以下)の場合、シート部材の表面からエラストマーが突出してしまい、探触子のスムースな移動が難しくなることを確認した。
【0044】
次に、超音波探傷試験を実施した。まず、長さ300mmの炭素鋼ブロックを用意した。超音波を入射する面の表面粗さRzは18μmとし、超音波が跳ね返ってくる面の表面粗さRzは1.6μmとした。アクチュエータで荷重を印加し、超音波探触子が0.15MPaの圧で、炭素鋼ブロックに押し付けられる条件で、探傷試験を行った。得られた結果である、穴同士の最近接距離(波長λで規格化)に対する反射波振幅の依存性を図13に示す。探触子のスムースな移動のためには、シート部材に形成された穴同士の最近接距離は波長λの0.1倍以上であることが好ましく、反射波の振幅を考慮すると穴同士の最近接距離は波長λの1.5倍以下であることが好ましいことが分かる。試験を行った後、接触部材をドライヤーで加熱したところ、温度が120℃に到達した際に、超音波探触子から接触部材が剥離した。容易に接触部材を交換可能であった。
【0045】
(実施例2、比較例2)
厚さ2mmのエラストマーシートとして、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(パラフィンを有、実験条件での音速1350m/s)を用意した。各種厚さのポリマーシートの全面に、直径100μmの穴を最近接間隔が50μmとなるように開けた。この穴を開けたポリマーシートをエラストマーシートと密着させることによって接触部材とした。周波数2.25MHzの超音波送受信素子の表面に、上記した接触部材のエラストマーシートを、シート部材(ポリマーシート)を貼り付けていない表面を介して貼り付けることによって、超音波探触子を構成した。
【0046】
最初に、せん断引張試験を実施して、自重のみでそれ以上に荷重をかけない状態で、探触子を移動させることができるかどうかを調べた。上記超音波探触子にロードセルを接続し、表面粗さRzが32μmのステンレス板の上に載せ、そのステンレス板を低速移動させて、静摩擦係数を測定した。比較例として、シート部材を貼り付けていないエラストマーシートのみについて、同様の測定を行った。その結果、シート部材を貼り付けていない場合は、静摩擦係数が極めて大きく、探触子を移動させることが困難であった。これに対して、シート部材を設置した場合、静摩擦係数は一様に小さくなって移動させることが可能なことが分かった。
【0047】
次に、超音波探傷試験を実施した。長さ300mmの炭素鋼ブロックを用意した。超音波を入射する面の表面粗さRzは18μmとし、超音波が跳ね返ってくる面の表面粗さRzは1.6μmとした。アクチュエータで荷重を印加し、超音波探触子が0.15MPaの圧で、炭素鋼ブロックに押し付けられる条件で、探傷試験を行った。得られた結果を図14及び図15に示す。図15は、図14で定義した反射波振幅で規格化した多重反射波振幅が、シート部材の厚さによりどのように変化するかを示している。反射波振幅で規格化した多重反射波振幅は、0.5以下であることが望ましい。このような多重反射波振幅を得るためには、シート部材の厚さを、エラストマー中の波長λの0.15倍以上0.35以下とすることが好ましいことが分かる。
【0048】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1…音波検査装置、2…音波探触子、3…振動子、5…音波素子、6…受波板、9…接触部材、10…接触媒質、11…穴、12…シート部材、13…荷重負荷治具、14…接合層、15…可逆性の第1接着層、16…ポリマー層、17…第2接着層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15