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特開2022-141612リチウム金属リン酸塩を含有する分散液及びコーティング組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141612
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】リチウム金属リン酸塩を含有する分散液及びコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20220921BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220921BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20220921BHJP
   H01M 50/431 20210101ALI20220921BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20220921BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20220921BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20220921BHJP
【FI】
C01B25/45 H
H01M4/139
H01M50/403 D
H01M50/431
H01M50/42
H01M50/426
H01M50/423
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039309
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】21162508
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ネス
(72)【発明者】
【氏名】高田 令
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エスケン
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ ダウト
【テーマコード(参考)】
5H021
5H050
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021EE04
5H021EE06
5H021EE08
5H021EE11
5H021EE21
5H021HH01
5H021HH04
5H050AA19
5H050BA17
5H050BA20
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA01
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】分散液、そのような分散液を含むコーティング組成物及びリチウムイオン電池におけるその使用。
【解決手段】本発明の分散液は、一般式Li1+a2-b(PO3+d[式中、M=Ti、Zr又はHf;N=Li及びM以外の金属;0≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0≦c≦0.6、0≦d≦0.8である]のリチウム金属リン酸塩1質量%~50質量%、及びトリアルキルホスフェート50質量%~99質量%を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+a2-b(PO3+d
[式中、
M=Ti、Zr又はHfであり;
N=Li及びM以外の金属であり;
0≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0≦c≦0.6、0≦d≦0.8である]のリチウム金属リン酸塩1質量%~50質量%、
及びトリアルキルホスフェート50質量%~99質量を含有する、分散液。
【請求項2】
前記リチウム金属リン酸塩が、アグリゲーションされた一次粒子の形である、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記リチウム金属リン酸塩が、熱分解法による方法により得られる、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記リチウム金属リン酸塩が、5m/g~100m/gのBET表面積を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記リチウム金属リン酸塩が、動的光散乱(DLS)により25℃の温度で、前記リチウム金属リン酸塩約1質量%を含有するトリアルキルホスフェートで希釈された分散液中で決定して、1μm未満の粒子サイズd99を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記リチウム金属リン酸塩が、20g/L~200g/Lのタンプ密度を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記トリアルキルホスフェートが、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-プロピルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、メチルジエチルホスフェート、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
前記リチウム金属リン酸塩及び前記トリアルキルホスフェートを混合し、かつ任意に、生じる分散液を粉砕又はミリングすることを含む、請求項1から7までのいずれか1項に記載の分散液を製造する方法。
【請求項9】
粉砕又はミリングを、超音波処理によるか又は湿式ジェットミル、又はボールミルによって、実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の分散液と、有機バインダーと、任意に溶剤とを含む、ウェットコーティング組成物。
【請求項11】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の分散液50質量%~99質量%、有機バインダー1質量%~50質量%及び任意に溶剤1質量%~50質量%を含む、請求項10に記載のウェットコーティング組成物。
【請求項12】
前記有機バインダーが、ポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項10又は11に記載のウェットコーティング組成物。
【請求項13】
請求項10から12までのいずれか1項に記載のウェット組成物から、トリアルキルホスフェート及び任意に溶剤の蒸発により得られたドライコーティング組成物。
【請求項14】
リチウムイオン電池の電極又はセパレータをコーティングするための、請求項10から12までのいずれか1項に記載のウェットコーティング組成物又は請求項13に記載のドライコーティング組成物の使用。
【請求項15】
請求項13に記載のドライコーティング組成物を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属リン酸塩を含む分散液及びコーティング組成物、そのような分散液を製造する方法及びリチウムイオン電池におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
二次リチウムイオン電池は、現在使用される最も重要な電池タイプのうちの1つである。該二次リチウムイオン電池は、通常、炭素材料又はリチウム-金属合金製のアノード、リチウム-金属酸化物製のカソード、リチウム塩が有機溶剤中に溶解されている電解質、及び充放電過程中に正極と負極との間でリチウムイオンを通過させるセパレータから構成される。
【0003】
そのような液体リチウムイオン電池の典型的な構成要素、例えば該カソード、該アノード及び該セパレータは、リチウムイオン伝導性を与える金属酸化物又は化合物製の層でコーティングすることができる。これは、Liイオンを伝導し、かつ可能性のある電解質分解生成物に耐性のある、明確な固体電解質界面(SEI)の形成をもたらす。
【0004】
改善された本質安全防爆構造及びエネルギー密度を有する二次電池を開発する試みにおいて、液体電解質の代わりの固体電解質の使用は、最近かなり進歩している。そのようなシステムの中で、リチウム金属又はリチウム金属合金製の電極を有する二次リチウム電池は、高いエネルギー密度を与え、かつ特に適していると考えられている。そのような全固体二次リチウムイオン電池は、必要とされる負荷特性を有するために、電極活物質と電解質との間の界面での良好なイオン伝導性を有するべきである。
【0005】
H. Xiea, et al., Journal of Power Sources 2011, vol. 196, pp. 7760-7762には、ZrOと、LiCO、NHPO、及びCaCOとの固相反応によるLi1.2Zr1.9Ca0.1(POの調製が記載されている。このリン酸リチウムジルコニウムのLiイオン伝導性は、Liイオン電池のテストセルにおける固体Liイオンセパレータとして使用されるLi1.3Ti1.7Al0.3(POのLiイオン伝導性と比較できることが見出された。
【0006】
I. Hanghofer, et al., Dalton Trans., 2019, vol. 48, pp. 9376-9387には、LiCO、(NHHPO及びCaCOと、ZrO又は酢酸ジルコニウムのいずれかとの固相反応による、全固体リチウムイオン電池における使用のための固体電解質として適している、菱面体晶系Ca安定化Li1.4Ca0.2Zr1.8(POの調製が記載されている。
【0007】
Y. Li, et al., PNAS, 2016, vol. 113 (47), pp. 13313-13317には、(NHHPOと、LiCO及び酢酸ジルコニウムとの固相反応による菱面体晶系LiZr(POの調製及び全固体リチウムイオン電池の固体電解質としてのその使用が記載されている。LiZr(POを含むセルは、リチウム箔をLiZr(POペレットの両側に置くことにより調製された。
【0008】
リチウムイオン電池において固体電解質又は固体Liイオンセパレータとして使用することに加えて、リチウム金属リン酸塩は、該電池の活性電極又はセパレータを改質するための薄いコーティング層として適用することもできる。
【0009】
このように、高いイオン伝導性は、米国特許出願公開第2009/081554号明細書(US2009081554A1)に記載されたように、リチウムを含む一部の化合物、例えばLiTi(POを有する電極活物質の表面をコーティングすることにより達成することができる。米国特許出願公開第2009/081554号明細書において、リン酸リチウムチタンのコーティング層は、その電極の表面上に、前駆物質リチウムエチラート、五酸化二リン及びチタンテトライソプロポキシドのエタノール溶液での該電極のコーティングを使用して、直接調製される。
【0010】
電極の表面上に、対応する前駆物質の溶液からリチウム金属リン酸塩製のコーティング層を調製することは、それほど都合が良くない、なぜなら、使用される前駆物質とコーティングされうる基材の双方と適合性であるべき反応条件の極めて慎重な選択を必要とするからである。
【0011】
したがって、前もって調製されたリチウム金属リン酸塩を直接適用する方法を見出すことが望ましい。
【0012】
そうする可能性の1つは、リチウム金属リン酸塩の微粒子を含む分散液を使用することであろう。
【0013】
しかしながら、そのようなすぐ使用できる分散液の調製は、かなり問題があることが分かった。普通溶剤、例えばアルコール又はジメトキシエタン(DME)を使用することは、不安定な分散液をまねき、その際に、所望の微粒子状分散液の代わりに、リチウム金属リン酸塩の大きいアグロメレート及び高粘稠なペーストを形成する傾向がある。
【0014】
そのような分散液は、リチウムイオン電池に必要とされるリチウム金属リン酸塩の高品質で均質なコーティング層を得るのに適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/081554号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/025889号
【特許文献3】欧州特許出願公開第893155号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】H. Xiea, et al., Journal of Power Sources 2011, vol. 196, pp. 7760-7762
【非特許文献2】I. Hanghofer, et al., Dalton Trans., 2019, vol. 48, pp. 9376-9387
【非特許文献3】Y. Li, et al., PNAS, 2016, vol. 113 (47), pp. 13313-13317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が取り組む課題は、大きいアグロメレートを実質的に含まないリチウム金属リン酸塩の分散液を提供することである。そのような分散液は、好ましくは、比較的低い粘度を有するべきであり、かつ少なくとも数日間、好ましくは数週間安定であるべきであり、すなわち、この期間中に実質的な粘度増加及び沈殿又はアグロメレート形成をまねかないべきである。
【0018】
そのような分散液は、リチウムイオン電池の構成要素、特にアノード、カソード、セパレータをコーティングするためのコーティング組成物を調製するのに好適であるべきである。
【0019】
本発明が取り組むさらなる課題は、そのような分散液を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、一般式Li1+a2-b(PO3+d
[式中、
M=Ti、Zr又はHfであり;
N=Li及びM以外の金属であり;
0≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0≦c≦0.6、0≦d≦0.8である]のリチウム金属リン酸塩1質量%~50質量%、
及びトリアルキルホスフェート50質量%~99質量%を含む、分散液を提供する。
【0021】
そのような分散液は驚くべきことに、極めて小さいリチウム金属リン酸塩粒子が存在する場合でさえ、長期間にわたって低粘稠かつ安定であることが分かった。さらに、そのような分散液を含むコーティング組成物が、リチウムイオン電池の構成要素をコーティングするのに好適であることが見出された。
【0022】
リチウム金属リン酸塩
本発明の分散液において使用されるリチウム金属リン酸塩は、一般式Li1+a2-b(PO3+d
[式中、
M=Ti、Zr又はHf、好ましくはM=Zrであり;
N=Li及びM以外の金属であり;
0≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0≦c≦0.6、0≦d≦0.8、
好ましくは0≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、0≦d≦0.4である]を有する。
【0023】
Li及びM以外の金属Nは、好ましくは、Na、K;Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Mn、B、Al、Ga、In、Fe、Sc、Y、La、Ce、Si、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Mo、W、及びその組合せから選択することができる。本発明に関連して、ケイ素及びホウ素は、金属とみなすべきものであり、かつそれらの化合物は、「金属前駆物質」と呼ばれる。好ましくは、本発明のリチウム金属リン酸塩は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)及び/又はイットリウム(Y)を含有する。
【0024】
本発明の分散液において使用されるリチウム金属リン酸塩は、5m/g~100m/g、好ましくは7m/g~80m/g、より好ましくは15m/g~60m/gのBET表面積を有していてよい。
【0025】
該BET表面積は、DIN 9277:2014に従ってブルナウアー-エメット-テラー法による窒素吸着により決定することができる。
【0026】
本発明の分散液において使用されるリチウム金属リン酸塩は、好ましくは、アグリゲーションされた一次粒子の形であり、それらの一次粒子は好ましくは、透過型電子顕微鏡法(TEM)により決定される、典型的に1~100nm、好ましくは3~70nm、より好ましくは5~50nmの一次粒子の数平均直径を有する。この数平均直径は、TEMにより分析される少なくとも500個の粒子の平均サイズを計算することにより決定することができる。
【0027】
動的光散乱(DLS)は、懸濁液中の小さい粒子のサイズ分布プロファイルを決定するのに使用することができる、物理学における技術である。この技術は、3nm~6μmの範囲内の分散された材料の粒子サイズを測定するのに使用することができる。該測定は、媒体内の粒子のブラウン運動及び液体材料と固体材料との屈折率の差による入射レーザー光の散乱に基づいている。
【0028】
生じる値は、該粒子の対応する球の流体力学直径である。値d50、d90及びd99は、粒子サイズ分布において粒子の50%、90%又は99%が下回る粒子の流体力学直径を記載するため、これらは検討のための共通の基準である。これらの値が低ければ低いほど、その粒子分散はより良好になる。これらの値の監視は、その粒子分散安定性についての手がかりを与えうる。該値がおびただしく増大する場合には、該粒子は、十分に安定化されず、かつ経時的にアグロメレーション及び沈降する傾向があり、安定性の欠如の結果となりうる。媒体の粘度に応じて、<1000nm(1μm)のd99値は、該粒子が経時的に静止して留まるので、安定な分散液の指標であると言える。
【0029】
本発明の分散液における該リチウム金属リン酸塩の数平均粒径d50は、動的光散乱(DLS)により25℃の温度で、該リチウム金属リン酸塩約1質量%を含有するトリアルキルホスフェートで希釈された分散液中で決定して、好ましくは約0.03μm~2μm、より好ましくは0.04μm~1μm、よりいっそう好ましくは0.05μm~0.5μmである。
【0030】
本発明の分散液における該リチウム金属リン酸塩の数平均粒径d99は、動的光散乱(DLS)により25℃の温度で、該リチウム金属リン酸塩約1質量%を含有するトリアルキルホスフェートで希釈された分散液中で決定して、好ましくは1μm未満、より好ましくは約0.05μm~1μm、より好ましくは0.1μm~0.8μm、よりいっそう好ましくは0.15μm~0.5μmである。
【0031】
このように、似ているが、しかし例えばトリアルキルホスフェート分散剤以外のものを使用する分散液に比べて、本発明の分散液は、大きい粒子、すなわち1μm超の粒子サイズを有するものを実質的に含まない。このことは、本発明の分散液を、リチウムイオン電池の要素をコーティングするのに特に適している、微細に分散された小さいリン酸リチウム粒子を有するコーティング組成物を製造するのに特に有用にする。
【0032】
リチウム金属リン酸塩のアグロメレート及び部分的にはアグリゲートは、例えば該粒子の粉砕(grinding)又は超音波処理により、さらに破壊されて、より小さい粒子サイズ及びより狭い粒子サイズ分布を有する粒子を生じることができる。
【0033】
本発明による分散液において使用される該リチウム金属リン酸塩は好ましくは、20g/L~200g/L、より好ましくは25g/L~150g/L、よりいっそう好ましくは30g/L~100g/L、さらにより好ましくは40g/L~80g/Lのタンプ密度を有する。
【0034】
粉末状又は粗大グレインの粒状材料のタンプ密度は、DIN ISO 787-11:1995 “General methods of test for pigments and extenders -- Part 11: Determination of tamped volume and apparent density after tamping”に従って決定することができる。これは、撹拌及びタンピング後の床の見掛け密度の測定を包含する。
【0035】
本発明の分散液において使用される該リチウム金属リン酸塩は、「ヒュームド」法とも呼ばれる、熱分解法による方法により、好ましくは得られる。用語「熱分解法により製造された」、「熱分解法(による)」及び「ヒュームド」は、本発明に関連して同義語として使用される。そのような「熱分解法(による)」又は「ヒュームド」法は、対応する金属前駆物質を酸水素炎中の火炎加水分解又は火炎酸化において反応させて、熱分解法により製造された化合物を形成することを包含する。この反応は最初に、高分散の略球状の一次粒子を形成し、これらが該反応のさらなる過程で合体して、アグリゲートを形成する。該アグリゲートがついで蓄積してアグロメレートになりうる。通例、エネルギーの導入により比較的容易にアグリゲートへと分離できるアグロメレートとは対照的に、該アグリゲートは、仮にあったとしてもエネルギーの強力な導入によってのみ、さらに崩壊される。前記粒子は、適した粉砕によりナノメートル(nm)範囲の粒子へ部分的に破壊及び変換することができる。しかしながら、そのような粉砕は必要とされない、それというのも、「調製したままの」ヒュームド粒子は、十分に小さい粒子サイズを有するからである。
【0036】
リチウム金属リン酸塩は、火炎噴霧熱分解によって、好ましくは前駆物質として金属カルボン酸塩と有機ホスフェートとの溶液を使用して、好ましくは製造される。
【0037】
そのような火炎噴霧熱分解法中に、微小滴の形の金属化合物(金属前駆物質)とリン源との溶液は、典型的に、燃料ガス及び酸素含有ガスの点火により形成される火炎中へ導入され、そこで、該リン源と一緒に使用される金属前駆物質は、酸化及び/又は加水分解されて、対応するリチウム金属リン酸塩を得る。
【0038】
該火炎噴霧熱分解法は好ましくは、以下の工程:
a)金属前駆物質の溶液をアトマイゼーションして、アトマイザーガスによってエアロゾルを得る工程、
b)該エアロゾルを、燃料ガス及び酸素含有ガスの混合物の点火により得られる火炎を有する反応器の反応空間内の反応に導いて、反応流を得る工程、
c)該反応流を冷却する工程及び
d)固体リチウム金属リン酸塩を、引き続き該反応流から除去する工程
を含む。
【0039】
燃料ガスの例は、水素、メタン、エタン、天然ガス及び/又は一酸化炭素である。水素を使用することが特に好ましい。燃料ガスは、製造されうるリチウム金属リン酸塩の高い結晶化度が望ましい実施態様に特に使用される。
【0040】
該酸素含有ガスは、一般に空気又は酸素富化空気である。酸素含有ガスは、例えば製造されうるリチウム金属リン酸塩の高いBET表面積が望ましい実施態様に特に使用される。酸素の全量は、一般に、少なくとも該燃料ガス及び該金属前駆物質の完全転化に十分であるように選択される。
【0041】
該エアロゾルを得るために、金属前駆物質を含有する気化された溶液は、アトマイザーガス、例えば窒素、空気、及び/又は他のガスと混合することができる。該エアロゾルの生じる微小滴は好ましくは、1~120μm、特に好ましくは30~100μmの平均小滴サイズを有する。該小滴は、一成分又は多成分ノズルを使用して、典型的に製造される。該金属前駆物質の溶解度を増加させ、かつ該溶液のアトマイゼーションに適した粘度を得るために、該溶液は加熱されてよい。
【0042】
該火炎噴霧熱分解法における前駆物質として使用される金属カルボン酸塩は、互いに独立して、使用される金属の線状、分岐状又は環状のペンタノエート(C5)、ヘキサノエート(C6)、ヘプタノエート(C7)、オクタノエート(C8)、ノナノエート(C9)、デカノエート(D10)、ウンデカノエート(C11)、ドデカノエート(C12)、トリデカノエート(C13)、テトラデカノエート(C14)、ペンタデカノエート(C15)、ヘキサデカノエート(C16)、ヘプタデカノエート(C17)、オクタデカノエート(C18)、ノナデカノエート(C19)、イコサノエート(C20)、及びそれらの混合物であってよい。
【0043】
金属前駆物質は、無機金属化合物、例えば硝酸塩、炭酸塩、塩化物、臭化物、又は他の有機金属化合物、例えばアルコキシド、例えばエトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、n-ブトキシド及び/又はtert-ブトキシドであってもよい。
【0044】
該火炎噴霧熱分解法において使用される有機ホスフェートは、好ましくは、ホスホン酸(HPO)、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、ポリリン酸のエステル、及びそれらの混合物から選択される。
【0045】
該有機ホスフェートは、アルキルエステル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、アリールエステル、例えばフェニル、混合アルキル/アリールエステル、及びその混合物から選択することができる。
【0046】
該火炎噴霧熱分解法におけるリン源としての有機ホスフェートの使用は、高いBET表面積及び低いタンプ密度を有するリチウム金属リン酸塩の小さい粒子が必要とされる場合に好ましい。
【0047】
使用される金属前駆物質に使用される溶剤は、線状又は環状の、飽和又は不飽和の、脂肪族又は芳香族炭化水素、カルボン酸のエステル、エーテル、アルコール、カルボン酸、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0048】
通常、固相合成により調製される、従来技術から公知のリチウム金属リン酸塩は、比較的高い材料密度及び低いBET表面積を有し、このことは、そのような材料を、例えばリチウムイオン電池の固体電解質のコア材料として、使用するのに適している。しかしながら、そのような化合物が、該コア材料中又はその表面上に良好に分布できる添加剤として使用されると思われる場合には、そのより小さい粒子サイズ、より低い材料密度及びより高いBET表面積が決定的に重要である。したがって、例えば上記で記載されたような、熱分解法による方法により調製されたリチウム金属リン酸塩は、本発明の分散液及びリチウムイオン電池におけるその使用を提供するのに特に適している。
【0049】
熱分解法による方法により得られるリチウム金属リン酸塩は、さらに熱処理することができる。このさらなる熱処理は、好ましくは600℃~1300℃の温度で、より好ましくは650℃~1250℃で、よりいっそう好ましくは700℃~1200℃で、さらにより好ましくは750℃~1150℃で実施される。該熱処理は、最適化された特性、殊に所望の結晶性構造を有するリチウム金属リン酸塩を得ることを可能にする。
【0050】
熱分解法による方法により得られるリチウム金属リン酸塩は、さらに、好ましくはボールミルを使用して、ミリングすることができる。該ボールミリングは好ましくは、例えば約0.5mmの直径を有するZrOボールにより、適切な溶剤、例えばエタノール又はイソプロパノール中で実施される。
【0051】
リチウム金属リン酸塩を含む分散液
本発明の分散液は、該リチウム金属リン酸塩1質量%~50質量%、好ましくは5質量%~45質量%、より好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~35質量%、及びトリアルキルホスフェート50質量%~99質量%、好ましくは55質量%~95質量%、より好ましくは60質量%~90質量%、より好ましくは65質量%~85質量%を含む。
【0052】
該トリアルキルホスフェートは、好ましくは、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-プロピルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、メチルジエチルホスフェート、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0053】
選択されるトリアルキルホスフェートは、それらが水溶性であり、ひいてはクリーニング工程が単純化されるという利点を有する。
【0054】
本発明の分散液は、該リチウム金属リン酸塩及び該トリアルキルホスフェート成分以外に、例えば溶剤、分散剤又は他の添加剤を含有することができる。
【0055】
このように、水、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びアセトンからなる群から選択される溶剤は、そのような他の成分として本発明の分散液中に存在することができる。
【0056】
適した分散剤は、酸官能基及び/又はアミン官能基又はそのような官能基の塩、例えばアルキルアンモニウム塩又はアルカノールアンモニウム塩を有するポリマーであってよい。酸基は、リン酸基又はスルホン酸基であってよい。そのような分散剤の数平均分子量は、好ましくは少なくとも500g/mol、特に好ましくは500g/mol~1000g/molである。該分散剤は、ポリマーと、コポリマー、例えばブロックコポリマー又は統計的構造を有するコポリマーとの双方であってよい。適した分散剤は、Byk Chemieから商品名Disperbyk(登録商標)で入手可能である。適した分散剤の調製のためには、国際公開第2010/025889号(WO2010/025889)及び欧州特許出願公開第893155号明細書(EP-A-893155)も参照される。
【0057】
本発明の分散液におけるそのような他の成分の全量は、20質量%まで、より好ましくは10質量%まで、より好ましくは5質量%までであることができる。
【0058】
しかしながら、好ましくは、そのような他の成分は、本発明の分散液中に実質的に不在であり、すなわちそれらの量は0.5質量%未満である。
【0059】
本発明の分散液の全ての成分は、該分散液の全質量を基準として、合計して100質量%になる。
【0060】
10s-1のせん断速度及び22℃で決定される本発明の分散液の動的粘度は、好ましくは60mPas未満、より好ましくは50mPas未満、より好ましくは1mPas~50mPas、より好ましくは2mPas~40mPas、より好ましくは3mPas~30mPasの範囲内である。
【0061】
本発明の分散液の動的粘度は、該動的粘度を決定するのに適した任意の装置を使用して、10s-1のせん断速度及び22℃で測定することができる。
【0062】
リチウム金属リン酸塩を含む分散液を製造する方法
本発明はさらに、該リチウム金属リン酸塩及び該トリアルキルホスフェートを混合し、かつ生じる分散液を任意に粉砕又はミリングすることを含む、本発明による分散液を製造する方法を含む。該アグロメレートの粒子サイズは、これらのミリング技術を使用して、著しく低下させることができる。
【0063】
本発明の分散液の調製は、好ましくは10℃~50℃、より好ましくは15℃~40℃で実施される。
【0064】
該分散液のその粉砕又はミリング中の望ましくない加熱を回避するために、該分散液は、熱交換器によって冷却することができる。
【0065】
特に小さい粒子サイズを有する分散液が製造されるべきである場合には、例えば高エネルギーミル、例えば湿式ジェットミルによって、粉砕又はミリングすることができる。
【0066】
このためには、リチウム金属リン酸塩粒子とトリアルキルホスフェートとを含有する予備分散液、例えばローター/ステーターシステム又はディソルバー装置によって得られた分散液を、少なくとも2つの副流へ分割し、かつこれらの副流を、高エネルギーミル中へ少なくとも500barの圧力下でノズルを経て放出し、これらの部分流を、ガス又は液体の充填された反応チャンバ中で接触することを可能にする。そのような高エネルギー粉砕は、数回繰り返すことができる。適した高エネルギーミルは、例えば、Sugino Machine Ltd.からのUltimaizer System、型式HJP-25050である。
【0067】
本発明の方法における粉砕又はミリングは、ローター-ステーターシステム、均質化、超音波処理、又はボールミルにより実施することもできる。
【0068】
該ボールミリングは、約0.8mmの直径を有するZrOビーズを有する従来の実験室スケール又は生産スケールのボールミルを使用して、実施することができる。好ましくは、該ボールミリングプロセスは、0.1~10kWh/kg、好ましくは0.2~5kWh/kg、より好ましくは0.5~3kWh/kgのエネルギーを該分散液に与える。
【0069】
本発明の分散液を含むウェットコーティング組成物及びそれから得られたドライコーティング組成物
本発明はさらに、本発明による分散液と、有機バインダーと、任意に溶剤とを含むウェットコーティング組成物を提供する。
【0070】
そのようなウェットコーティング組成物は好ましくは、本発明の分散液50質量%~99質量%、より好ましくは55質量%~95質量%、60質量%~90質量%、65質量%~85質量%及び有機バインダー1質量%~50質量%、より好ましくは5質量%~45質量%、より好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~35質量%、及び任意に溶剤1質量%~50質量%、より好ましくは5質量%~45質量%、より好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~35質量%を含む。
【0071】
該ウェット組成物の全ての成分は、該組成物の全質量を基準として、合計して100質量%になる。
【0072】
該有機バインダーは、ポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0073】
本発明のウェットコーティング組成物において任意に使用される溶剤は、水、アルコール、脂肪族及び芳香族炭化水素、エーテル、エステル、アルデヒド、ケトン及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。例えば、使用される溶剤は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、トリアルキルホスフェートであることができる。特に好ましくは、該ウェットコーティング組成物において使用される溶剤は、1atmで300℃未満、特に好ましくは200℃未満の沸点を有する。そのような比較的揮発性の溶剤は、本発明によるウェットコーティング組成物の硬化中に容易に蒸発又は気化することができる。最も好ましくは、本発明のウェットコーティング組成物は、単独の溶剤としてトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-プロピルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、メチルジエチルホスフェート、及びそれらの混合物からなる群から選択される、トリアルキルホスフェートを含有する。
【0074】
本発明のコーティング組成物は、本発明の分散液を、少なくとも1種の有機バインダー、好ましくは上記で記載されたもの及び任意に他の添加剤、例えば溶剤、分散剤等、好ましくは上記で挙げたものと混合することにより調製することができる。
【0075】
本発明はさらに、リチウムイオン電池の構成要素、例えばリチウムイオン電池の正極及び負極又はセパレータをコーティングするための、本発明によるウェットコーティング組成物の使用を提供する。
【0076】
本発明のウェットコーティング組成物を使用してコーティングする方法は、以下の工程:
a)本発明のコーティング組成物を、リチウムイオン電池の構成要素、例えばその電極又はメンブレンの表面上に適用する工程、
b)該有機バインダーを硬化する及び/又は該溶剤を除去する工程
を含むことができる。
【0077】
前記のコーティングする方法の工程a)において、本発明のウェットコーティング組成物は好ましくは、コーティングされる基材上に100μm未満、より好ましくは10μm~100μm、特に好ましくは20μm~80μmの厚さを有する層を形成する。
【0078】
工程b)における該組成物の硬化は、少なくとも部分的な重合及び/又は該溶剤の除去により達成することができる。使用される系に応じて、この工程は、好ましくは0~500℃、特に好ましくは5~400℃、極めて特に好ましくは10~300℃の温度で、行うことができる。該硬化は、空気の存在下で又は酸素の排除下で、例えば窒素又は二酸化炭素の保護ガス雰囲気下で、行うことができる。前記工程は、標準圧力下で又は減圧下で、例えば真空下で、行うことができる。
【0079】
本発明はさらに、本発明によるウェット組成物からのトリアルキルホスフェート及び任意に溶剤の蒸発により得られるドライコーティング組成物を提供する。
【0080】
本発明のウェットコーティング組成物中に存在する有機バインダーは、該ウェットコーティング組成物からの該トリアルキルホスフェート及び任意に該溶剤の蒸発前、蒸発中又は蒸発後に、硬化されることができる。
【0081】
本発明のドライコーティング組成物は好ましくは、コーティングされる基材上に30μm未満、より好ましくは20μm未満、特に好ましくは1μm~10μmの厚さを有する層を形成する。
【0082】
本発明はさらに、リチウムイオン電池の電極又はセパレータをコーティングするための本発明のウェットコーティング組成物又は本発明によるドライコーティング組成物の使用を提供する。
【0083】
本発明の分散液を含むリチウムイオン電池
本発明はさらに、本発明によるドライコーティング組成物を含むリチウムイオン電池を提供する。
【0084】
本発明のリチウムイオン電池は、正極(カソード)と、負極(アノード)と、セパレータと、リチウムを含む化合物を含有する電解質とを含有することができる。
【0085】
該リチウムイオン電池の正極(カソード)は通常、集電体と、該集電体上に形成されるカソード活物質層とを含む。
【0086】
該集電体は、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、伝導性金属でコーティングされたポリマー基材、又はその組合せであってよい。
【0087】
該正極活物質は、リチウムイオンを可逆的にインターカレーション/デインターカレーションすることができる材料を含んでいてよく、かつ当該技術分野において周知である。そのような正極活物質は、遷移金属酸化物、例えばNi、Co、Mn、V又は他の遷移金属及び任意にリチウムを含む混合酸化物を含んでいてよい。正極活物質として好ましくは使用される混合リチウム遷移金属酸化物は、リチウム-コバルト酸化物、リチウム-マンガン酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン酸化物、又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0088】
該リチウムイオン電池のアノードは、リチウムイオンを可逆的にインターカレーション/デインターカレーションすることができる、該二次リチウムイオン電池において普通に使用される、適した任意の材料を含んでいてよい。それらの典型的な例は、結晶性炭素、例えばプレート状、フレーク、球状又は繊維状のタイプの黒鉛の形の天然又は人工の黒鉛;非晶質炭素、例えば軟質炭素、硬質炭素、メソフェーズピッチ炭化物、焼成コークス等、又はそれらの混合物を含む炭素質材料である。そのうえ、リチウム金属又は変換材料(例えばSi又はSn)は、アノード活物質として使用することができる。
【0089】
該リチウムイオン電池の電解質は、液体、ゲル又は固体の形であることができる。
【0090】
該リチウムイオン電池の液体電解質は、該リチウムイオン電池において普通に使用される適した任意の有機溶剤、例えば無水エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメトキシエタン、フルオロエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、又はその混合物を含んでいてよい。
【0091】
該ゲル電解質は、ゲル化したポリマーを含む。
【0092】
該リチウムイオン電池の固体電解質は、酸化物、例えばリチウム金属酸化物、硫化物、リン酸塩、又は固体ポリマーを含んでいてよい。
【0093】
該リチウムイオン電池の液体又はポリマーゲル電解質は通常、リチウム塩を含有する。そのようなリチウム塩の例は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス2-(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、LiSiF、リチウムトリフレート、LiN(SOCFCF、硝酸リチウム、リチウムビス(オキサレート)ボレート、リチウム-シクロ-ジフルオロメタン-1,1-ビス(スルホニル)イミド、リチウム-シクロ-ヘキサフルオロプロパン-1,1-ビス(スルホニル)イミド及びそれらの混合物を含む。
【0094】
該リチウムイオン電池、殊に液体又はゲル電解質を有するものは、内部短絡をまねくであろう2つの電極間の直接接触を防止するセパレータを含むこともできる。
【0095】
該セパレータの材料は、ポリオレフィン樹脂、フッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布又はその混合物を含んでいてよい。好ましくは、この材料は、ポリオレフィン樹脂、例えばポリエチレン又はポリプロピレン系ポリマー、フッ素化樹脂、例えばポリフッ化ビニリデンポリマー又はポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布又はその混合物を含む。
【0096】
本発明によるリチウムイオン電池は、液体電解質、ゲル電解質又は固体電解質を含んでいてよい。硬化、重合又は架橋されていない、該リチウム塩と該有機溶剤との液体混合物は、本発明に関連して「液体電解質」と呼ばれる。硬化、重合又は架橋された化合物又はそれらの混合物と、任意に溶剤と、該リチウム塩とを含むゲル又は固体混合物は、「ゲル電解質」と呼ばれる。そのようなゲル電解質は、少なくとも1種の反応性の、すなわち重合性又は架橋性の、化合物及びリチウム塩を含有する混合物の重合又は架橋により調製することができる。
【0097】
特殊なタイプのリチウムイオン電池は、リチウム-ポリマー電池であり、ポリマー電解質が、液体電解質の代わりに使用される。同様の固体電池の電解質は、他のタイプの固体電解質、例えば硫化物系、酸化物系固体電解質、又はそれらの混合物を含むこともできる。
【0098】
本発明の電池は、リチウム金属電池、例えばLi-空気、リチウム-硫黄(Li-S)、及び他のタイプのリチウム金属電池であることができる。
【0099】
Li-空気電池は典型的に、多孔質炭素カソード及び有機、ガラス-セラミック又はポリマー-セラミックタイプの電解質を含有する。
【0100】
Li-硫黄(Li-S)電池は通常、二硫化鉄(FeS)、硫化鉄(FeS)、硫化銅(CuS)、硫化鉛及び硫化銅(PbS+CuS)カソードを含有する。
【0101】
多くの他の公知のタイプのリチウム金属電池、例えばリチウム-セレン(Li-Se)、リチウム-二酸化マンガン(Li-MnO又はLi/Al-MnO)、リチウム-一フッ化物(Li-(CF))、リチウム-塩化チオニル(Li-SOCl)、リチウム-塩化スルフリル(Li-SOCl)、リチウム-二酸化硫黄(Li-SO)、リチウム-ヨウ素(Li-I)、リチウム-クロム酸銀(Li-AgCrO)、リチウム-五酸化バナジウム(Li-V又はLi/Al-V)、リチウム-塩化銅(Li-CuCl)、リチウム-酸化銅(II)(Li-CuO)、リチウム-銅オキシホスフェート(Li-CuO(PO)及び他のタイプ等もある。
【実施例0102】
例1:リン酸リチウムジルコニウムの調製
ナフサ中に溶解されたリチウムネオデカノエートの形のリチウム2質量%を含有する市販溶液(Borchers(登録商標)Deca Lithium 2)3370gと、ホワイトスピリット中に溶解されたジルコニウムエチルヘキサノエートの形のZr 11.86質量%を含有する市販溶液(Octa Solingen(登録商標)Zirconium 12)15kgと、トリエチルホスフェートの形のリン16.83質量%を含有する市販溶液(Alfa Aesar)5384gとを含有する溶液23.75kgを混合して、澄明な溶液が生じた。この溶液は、LiZr(POの組成に相当する。
【0103】
この分散液1.5kg/hと空気15Nm/hとのエアロゾルを、2成分ノズルを経て形成し、燃焼火炎を有する管形反応器中へスプレーした。該火炎の燃焼ガスは、水素8.5Nm/h及び空気30Nm/hからなっていた。付加的に、二次空気25Nm/hを使用した。その反応後に反応ガスを冷却し、かつろ過した。
【0104】
得られたリン酸リチウムジルコニウム粉末は、44m/gのBET表面積、52g/Lのタンプ密度及び静的光散乱法により決定される76nmのd50値を有していた。XRD分析は、生成物の主相が、菱面体晶系リン酸リチウムジルコニウムであることを示した。
【0105】
動的粘度の測定
該分散液の動的粘度を、回転粘度法及び0.5mmに設定した距離を有する測定プレートPP25を使用してAnton PaarからのPhysica MCR 301で測定した。
【0106】
該粘度計のモーターは、固定されたカップ内のボブを駆動する。該ボブの回転速度をプリセットし、該測定ボブを回転するのに必要とされる特定のモータートルクを発生させる。このトルクは、試験される物質の粘性力に打ち勝たなければならず、したがってその粘度の尺度である。データは10s-1のせん断速度及び22℃で測定される。
【0107】
例2:LZP分散液の調製
例1において調製したリン酸リチウムジルコニウム(LZP、6g)を、トリエチルホスフェート(TEP、14g)に、該混合物をTiソノトロードを備えた超音波プロセッサUP400S、400W、24kHzにより発生された超音波で30分間処理しながら、添加した。粒子サイズ分布を、TEPで希釈して約1質量%のLZP濃度を得た後に、動的光散乱(DLS)法を使用してLB-500装置(Horiba Ltd.、日本)によって測定した。
【0108】
DLS法により得られる該分散液の調製直後のd50、d90及びd99値並びに室温での該分散液の貯蔵1週及び4週後のd99値及び製造後の10s-1及び22℃で測定された該分散液の動的粘度は、第1表に示される。
【0109】
例3:LZP分散液の調製
ボールミル装置(Netzsch Laboratory Mill Micro Series)に、トリエチルホスフェート(TEP、315g)を予め装填し、ぜん動ポンプを、90rpmの回転速度に設定し、かつ該ボールミルを1000rpmに設定した。リン酸リチウムジルコニウム(LZP、135g)をTEPに添加した。該ぜん動ポンプをついで120rpmの回転速度に調整し、かつ該ボールミルを2500rpmの回転速度に設定した。該分散液を、120分間処理した(エネルギー0.4kWhが導入された)。その粒子サイズ分布を例2におけるように測定した。
【0110】
DLS法により得られる該分散液の調製直後のd50、d90及びd99値並びに室温での該分散液の貯蔵1週及び4週後のd99値及び製造後の10s-1及び22℃で測定された該分散液の動的粘度は、第1表に示される。
【0111】
比較例1
エタノール(EtOH)中LZPの30質量%分散液を、例2と同じく調製したが、EtOHをTEPの代わりに使用したことのみが相違した。
【0112】
DLS法により得られる該分散液の調製直後のd50、d90及びd99値並びに室温での該分散液の貯蔵1週及び4週後のd99値及び製造後の10s-1及び22℃で測定された該分散液の動的粘度は、第1表に示される。
【0113】
比較例2
イソプロパノール(iPrOH)中LZPの30質量%分散液を、例2と同じく調製しようとしたが、iPrOHをTEPの代わりに使用したことのみが相違した。
【0114】
しかしながら、該分散液は、該調製中に極めて粘稠になったので、粒子サイズ分布又は粘度測定は不可能であった。
【0115】
比較例3
ジメトキシエタン(DME)中LZPの30質量%分散液を、例2と同じく調製しようとしたが、DMEをTEPの代わりに使用したことのみが相違した。
【0116】
しかしながら、該分散液は、該調製中に極めて粘稠になったので、粒子サイズ分布又は粘度測定は不可能であった。
【0117】
例2~3と比較例1~3との比較は、溶剤としてTEPを用いると、かなり低いd99粒子サイズを有するLZP分散液(第1表)、すなわち>1μmの大きい粒子を実質的に含まないものを得ることができることを示す。重要には、TEP溶剤を有するそのような分散液は、低粘度を有し、かつ室温での貯蔵1及び4週後に該粒子が全くアグロメレーションせずに安定なままであり、溶剤としてEtOHを用いる比較例1からの分散液とは逆であった(第1表)。
【0118】
例4:コーティング組成物の調製
スラリーA:例3において調製したTEP中LZPの30質量%分散液を、撹拌しながらTEPで、LZP 20質量%の固形分に希釈した。
【0119】
スラリーB:400000g/molのMWを有するSigma Aldrich、ドイツからのポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン、PVDF-HFP)有機バインダーを、35℃で一晩撹拌しながらTEP中に完全に溶解させて、TEP中PVDF-HFPの10質量%溶液を形成した。
【0120】
スラリーA及びBを一緒に混合して、6:1の最終的なLZP対バインダー比LZP:PVDFに達した(生じるコーティング組成物は、例3の分散液、スラリーA 75質量%とスラリーB 25%とから構成されており、かつLZP 15質量%、PVDF-HFP 2.5質量%及びTEP 82.5質量%を含有していた)。
【0121】
例5:例4のコーティング組成物での銅箔のコーティング
例4において得られたコーティング組成物5mlを、ドクターブレード装置(ドクターブレード:50μmのスリットを有する、Erichsen、ドイツからのQuadruple Film Applicator、型式360)中へ配置した。そのコーティング速度を0.4m/minに設定し、かつ18μmの厚さを有する銅箔(Hohsen、日本)のコーティングを開始した。約50μmの厚さを有する安定で均質なウェットフィルムを、該銅箔の表面上で得ることができた。
【0122】
このウェットコーティングを100℃で2h乾燥させて、5μmの厚さを有するLZPドライコーティング層を得た。該銅箔へのこの層の付着は優れていた。
【0123】
【表1】
【0124】
本発明の好ましい実施態様は以下のとおりである:
1. 一般式Li1+a2-b(PO3+d
[式中、
M=Ti、Zr又はHfであり;
N=Li及びM以外の金属であり;
0≦a≦0.6、0≦b≦0.6、0≦c≦0.6、0≦d≦0.8である]のリチウム金属リン酸塩1質量%~50質量%、
及びトリアルキルホスフェート50質量%~99質量を含有する、分散液。
2. 前記リチウム金属リン酸塩が、アグリゲーションされた一次粒子の形である、前記1.に記載の分散液。
3. 前記リチウム金属リン酸塩が、熱分解法による方法により得られる、前記1.又は2.に記載の分散液。
4. 前記リチウム金属リン酸塩が、5m/g~100m/gのBET表面積を有する、前記1.~3.のいずれかに記載の分散液。
5. 前記リチウム金属リン酸塩が、動的光散乱(DLS)により25℃の温度で、前記リチウム金属リン酸塩約1質量%を含有するトリアルキルホスフェートで希釈された分散液中で決定して、1μm未満の粒子サイズd99を有する、前記1.~4.のいずれかに記載の分散液。
6. 前記リチウム金属リン酸塩が、20g/L~200g/Lのタンプ密度を有する、前記1.~5.のいずれかに記載の分散液。
7. 前記トリアルキルホスフェートが、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-プロピルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、メチルジエチルホスフェート、及びそれらの混合物からなる群から選択される、前記1.~6.のいずれかに記載の分散液。
8. 前記リチウム金属リン酸塩及び前記トリアルキルホスフェートを混合し、かつ任意に、生じる分散液を粉砕又はミリングすることを含む、前記1.~7.のいずれかに記載の分散液を製造する方法。
9. 粉砕又はミリングを、超音波処理によるか又は湿式ジェットミル、又はボールミルによって、実施する、前記8.に記載の方法。
10. 前記1.~7.のいずれかに記載の分散液と、有機バインダーと、任意に溶剤とを含む、ウェットコーティング組成物。
11. 前記1.~7.のいずれかに記載の分散液50質量%~99質量%、有機バインダー1質量%~50質量%及び任意に溶剤1質量%~50質量%を含む、前記10.に記載のウェットコーティング組成物。
12. 前記有機バインダーが、ポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、前記10.又は11.に記載のウェットコーティング組成物。
13. 前記10.~12.のいずれかに記載のウェット組成物から、トリアルキルホスフェート及び任意に溶剤の蒸発により得られたドライコーティング組成物。
14. リチウムイオン電池の電極又はセパレータをコーティングするための、前記10.~12.のいずれかに記載のウェットコーティング組成物又は前記13.に記載のドライコーティング組成物の使用。
15. 前記13.に記載のドライコーティング組成物を含む、リチウムイオン電池。