(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014167
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】殺生物剤
(51)【国際特許分類】
A01N 25/22 20060101AFI20220112BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20220112BHJP
A01P 7/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A01N25/22
A01N53/06 150
A01P7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116367
(22)【出願日】2020-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000180081
【氏名又は名称】株式会社ザイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】池田 学
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC01
4H011AC04
4H011BA04
4H011BB15
4H011BC06
4H011DA17
4H011DF03
(57)【要約】
【課題】カルボン酸亜鉛とピレスロイドが含まれる殺生物剤において、カルボン酸が含まれていなくてもピレスロイドの分解が抑制される刺激性の低い殺生物剤を提供する。
【解決手段】ピレスロイドと、カルボン酸亜鉛と、グリコールエーテルアセテートと、を含有する、殺生物剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピレスロイドと、
カルボン酸亜鉛と、
グリコールエーテルアセテートと、を含有する、殺生物剤。
【請求項2】
前記ピレスロイドと、前記グリコールエーテルアセテートと、前記カルボン酸亜鉛の質量比が1:40~60:1~40である、請求項1に記載の殺生物剤。
【請求項3】
前記ピレスロイドとして、ビフェントリン、ペルメトリン、シフェノトリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、アレトリン、アルファメトリン、エンペントリン、プロフルトリン、テフルトリン、トラロメトリン、メトフルトリン、フェノトリン、イミプロトリン、フタルスリン、ピレトリン、プラレトリン、フラメトリン、ジメフルトリン、プロフルスリン、テフルスリン、バイオアレスリン、エスビオスリン、ビオレスメトリン、シクロプロトリン、シフルトリン、デカメトリン、シハロトリン、シペルメトリン、シフェノトリン,デルタメトリン、テフルトリン、レスメトリン、フェンプロパトリン、フェンフルトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルムトリン、フルバリネート、レスメトリンから選ばれる少なくとも1種以上を含有している、請求項1または2に記載の殺生物剤。
【請求項4】
前記カルボン酸亜鉛として、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、バーサチック酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上を含有している、請求項1~3のいずれかに記載の殺生物剤。
【請求項5】
前記グリコールエーテルアセテートとして、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1、3-ブチレングリコールジアセテート、3-メトキシブチルアセテートから選ばれる少なくとも1種以上を含有している、請求項1~4のいずれかに記載の殺生物剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材劣化を引き起こす生物から木材を保護する木材保存剤として利用することのできる、殺生物剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木質系材料(製材、集成材、単板積層材(LVL)等を指し、以下「木材」と記載する場合がある)は、土台や柱を代表とする住宅建材をはじめ、デッキやサインの様な景観設備に至るまで様々な場所で利用されている。しかし、木質系材料はシロアリ等の木材加害害虫や腐朽による生物劣化を受けやすく、住宅でこれらの生物劣化が発生した場合、地震等の天災と重なることにより重大な被害を引き起こす恐れがある。
【0003】
このため、腐朽やシロアリ等の生物劣化から木質系材料を保護するために、木質系材料に対して保存処理が行われる場合がある。保存処理には殺生物剤が用いられており、木質系材料への表面的な処理である塗布や吹きつけ、浸漬を始め、木質系材料の内部まで処理が可能な加圧注入等の手法を用いて保存処理が施される。
【0004】
加圧注入等の手法を用いて木材の内部まで殺生物剤を浸透させる場合、殺生物剤が無色では浸透度合いを判別することはできない。そこで、殺生物剤の浸透度合いを判別できるようにするために、化学反応による発色が可能な無色のマーカーを殺生物剤の副成分として添加する場合がある。マーカーの代表であるカルボン酸亜鉛は、ジチゾンやPAN等の指示薬により赤く発色させることが可能であり、この原理を利用して木質材料中の殺生物剤の浸透領域を発色させる。
【0005】
しかしながら、殺生物剤にカルボン酸亜鉛と殺虫成分であるピレスロイドが含まれる場合、カルボン酸亜鉛の影響によってピレスロイドが分解される場合がある。このような殺生物剤は長期間保管することが難しく、長期保管すると殺生物効果が望めなくなる欠点があった。
【0006】
これに対し、特許文献1では、グリコールエーテルとカルボン酸亜鉛から成る殺生物剤に対して、カルボン酸を加えることによってピレスロイドの分解を防ぐ方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、殺生物剤にカルボン酸を加えることによって木質材料への保存処理時に皮膚や眼への刺激性が加わる問題点があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題点に着目し、カルボン酸亜鉛とピレスロイドが含まれる殺生物剤において、カルボン酸が含まれていなくてもピレスロイドの分解が抑制される刺激性の低い殺生物剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する手段を種々検討したところ、グリコールエーテルに代わる溶剤としてグリコールエーテルアセテートを用いることで、カルボン酸亜鉛とピレスロイドが含まれる殺生物剤において、カルボン酸が含まれていなくてもピレスロイドの分解が抑制される刺激性の低い殺生物剤を得られることを見出した。なお、特許文献1に記載の通り、グリコールエーテルではオクチル酸を加えなければビフェントリンの分解を抑制することが出来ないため、刺激性の低い殺生物剤を得ることができない。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の殺生物剤は、ピレスロイドと、カルボン酸亜鉛と、グリコールエーテルアセテートと、を含有する。
【0012】
前記ピレスロイドと、前記グリコールエーテルアセテートと、前記カルボン酸亜鉛の質量比が1:40~60:1~40であってもよい。
【0013】
前記ピレスロイドとして、ビフェントリン、ペルメトリン、シフェノトリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、アレトリン、アルファメトリン、エンペントリン、プロフルトリン、テフルトリン、トラロメトリン、メトフルトリン、フェノトリン、イミプロトリン、フタルスリン、ピレトリン、プラレトリン、フラメトリン、ジメフルトリン、プロフルスリン、テフルスリン、バイオアレスリン、エスビオスリン、ビオレスメトリン、シクロプロトリン、シフルトリン、デカメトリン、シハロトリン、シペルメトリン、シフェノトリン,デルタメトリン、テフルトリン、レスメトリン、フェンプロパトリン、フェンフルトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルムトリン、フルバリネート、レスメトリンから選ばれる少なくとも1種以上を含有してもよい。
【0014】
前記カルボン酸亜鉛として、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、バーサチック酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上を含有してもよい。
【0015】
前記グリコールエーテルアセテートとして、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1、3-ブチレングリコールジアセテート、3-メトキシブチルアセテートから選ばれる少なくとも1種以上を含有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カルボン酸亜鉛とピレスロイドが含まれる殺生物剤において、カルボン酸が含まれていなくてもピレスロイドの分解が抑制される刺激性の低い殺生物剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る殺生物剤について説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0018】
[殺生物剤]
本発明の殺生物剤は、ピレスロイドと、カルボン酸亜鉛と、グリコールエーテルアセテートと、を含有し、カルボン酸およびグリコールエーテルを含まない。カルボン酸は、木質材料への保存処理時に皮膚や眼への刺激性が加わる問題点があり、好ましくない。また、グリコールエーテルは、カルボン酸と併用することでカルボン酸亜鉛の存在下におけるピレスロイドの分解を抑制できるが、グリコールエーテルアセテートが含まれることで、カルボン酸やグリコールエーテルは不要となる。
【0019】
(ピレスロイド)
ピレスロイド(pyrethroid)とは、除虫菊(Tanacetum cinerariifolium (Trevir.) Sch. Bip.)に含まれる有効成分の総称で、各種誘導体が合成され各国で広く殺虫剤として利用されている。本発明ではピレスロイドが殺生物剤の主要成分となる。
【0020】
例えば、ピレスロイドとして、ビフェントリン、ペルメトリン、シフェノトリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、アレトリン、アルファメトリン、エンペントリン、プロフルトリン、テフルトリン、トラロメトリン、メトフルトリン、フェノトリン、イミプロトリン、フタルスリン、ピレトリン、プラレトリン、フラメトリン、ジメフルトリン、プロフルスリン、テフルスリン、バイオアレスリン、エスビオスリン、ビオレスメトリン、シクロプロトリン、シフルトリン、デカメトリン、シハロトリン、シペルメトリン、シフェノトリン,デルタメトリン、テフルトリン、レスメトリン、フェンプロパトリン、フェンフルトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルムトリン、フルバリネート、レスメトリンが挙げられる。
【0021】
本発明の殺生物剤では、これらのピレスロイドから選ばれる少なくとも1種以上を含有することができる。
【0022】
(カルボン酸亜鉛)
殺生物剤は、その浸透度合いを判別できるようにするために、化学反応による発色が可能な無色のマーカーを殺生物剤の副成分として添加する場合がある。カルボン酸亜鉛は、マーカーの代表であり、ジチゾンやPAN等の指示薬により赤く発色させることが可能であり、この原理を利用して木質材料中の殺生物剤の浸透領域を発色させることができる。
【0023】
例えば、カルボン酸亜鉛として、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、バーサチック酸亜鉛が挙げられる。
【0024】
本発明の殺生物剤では、これらのカルボン酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上を含有することができる。
【0025】
(グリコールエーテルアセテート)
グリコールエーテルアセテートは、カルボン酸亜鉛の存在下におけるピレスロイドの分解を抑制できる。
【0026】
例えば、グリコールエーテルアセテートとして、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1、3-ブチレングリコールジアセテート、3-メトキシブチルアセテートが挙げられる。
【0027】
本発明の殺生物剤では、これらのグリコールエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1種以上を含有することができる。
【0028】
(各成分の質量比)
本発明の殺生物剤は、グリコールエーテルとは異なり、グリコールエーテルアセテートであればピレスロイドの分解を気にせずにカルボン酸亜鉛を任意の割合で添加できる。そのため、ピレスロイドと、グリコールエーテルアセテートと、カルボン酸亜鉛の質量比を任意の割合に調製することができる。例えば、本発明の殺生物剤は、ピレスロイドと、グリコールエーテルアセテートと、カルボン酸亜鉛の質量比が1:40~60:1~40であることが好ましい。この質量比であれば、カルボン酸亜鉛の存在下におけるピレスロイドの分解をグリコールエーテルアセテートが十分に抑制できる。質量比がこの範囲から外れると、ピレスロイドの分解を十分に抑制できないおそれや、殺生物剤の原料コストが高くなるおそれがある。
【0029】
(その他の構成)
本発明は、ピレスロイド、カルボン酸亜鉛、グリコールエーテルアセテートのほか、他の構成を含んでもよい。例えば、ナフテン系溶剤等、殺生物剤の木材製品への含浸を容易とする溶剤等を含むことができる。
【0030】
また、本発明は、防腐成分、防虫成分、染料や食用色素、顔料、トリアジン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤、光安定剤(HALS)、酸化防止剤、金属石鹸、防カビ材、難燃剤、コーティング剤、撥水剤、アルキド樹脂等の樹脂成分、灯油、イソパラフィン系溶剤、フッ素系溶剤、灯油やイソパラフィン系溶剤、臭素系溶剤、ジクロロメタン等の塩素系溶剤、亜臨界又は超臨界状態における二酸化炭素等を含んでも良い。
【0031】
例えば、防腐成分としては、木材の防腐成分として一般的に用いられる成分が挙げられる。具体的には、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウム塩、シプロコナゾール、テブコナゾール、プロピコナゾール、ジフェノコナゾール、エポキシコナゾール等のトリアゾール系化合物、ナフテン酸亜鉛、バーサチック酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸等の有機亜鉛化合物、およびブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、ジヨードメチルパラトリルスルホン等のヨウ素系化合物等が挙げられる。
【0032】
また、防虫成分としては、木材の防虫成分として一般的に用いられる成分が挙げられる。具体的には、イミダクロプリド、アセタミプリド等のネオニコチノイド系化合物、フィプロニル、ピリプロール等のフェニルピラゾール系化合物、クロルフェナピル、ブロフラニリド等が挙げられる。
【実施例0033】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
〈殺生物剤の製造〉
カルボン酸亜鉛とピレスロイドが含まれる殺生物剤において、グリコールエーテルアセテートが共存することでカルボン酸が含まれていなくてもピレスロイドの分解が抑制されることと検証するべく、表1に示す配合により、容器内に原料を投入して攪拌することで、実施例1~6、比較例1~6の殺生物剤を製造した。
【0035】
ここで、ピレスロイドとしてビフェントリン、カルボン酸亜鉛として2-エチルヘキサン酸亜鉛、グリコールエーテルアセテートとしてジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、グリコールエーテルとしてトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、カルボン酸として2-エチルヘキサン酸、溶剤としてナフテン系溶剤を使用した。
【0036】
なお、ナフテン系溶剤としては、留点が140℃~350℃の範囲にある石油系炭化水素を使用した。
【0037】
【0038】
〈ピレスロイドの分解抑制効果の検証〉
表1に示す配合により作製した実施例1~6、比較例1~6の殺生物剤について、ビフェントリンの初期含有量を確認した後、これらをスクリュービンに入れて、温度条件50℃または60℃の恒温槽にて1か月貯蔵した。1か月後にスクリュー缶を恒温槽から取り出し、室温まで放冷後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりビフェントリンの含有量を測定した。ビフェントリンの初期含有量と比較して、ビフェントリンの残存率を算出した。表2に、各殺生物剤のビフェントリン残存率を示す。ビフェントリン残存率は60℃・1ヶ月の耐熱試験において85質量%以上であれば、実用上問題の無いピレスロイド濃度である。
【0039】
【0040】
実施例1~6の結果より、カルボン酸亜鉛とピレスロイドが含まれる殺生物剤において、グリコールエーテルアセテートが共存することでカルボン酸が含まれていなくてもピレスロイドの分解が抑制されることは明らかであった。特に、グリコールエーテルアセテートとしてジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートまたはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを使用すれば、ピレスロイドは全く分解されない結果となった。
【0041】
一方、比較例1~6では、木質材料への保存処理時に皮膚や眼への刺激性が加わる危険性のあるカルボン酸を併用しなければ、ピレスロイドが分解される結果となった。
【0042】
以上の結果より、本発明であれば、カルボン酸亜鉛とピレスロイドが含まれる殺生物剤において、カルボン酸が含まれていなくてもピレスロイドの分解が抑制される刺激性の低い殺生物剤を提供することができることは明らかである。