(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141694
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】テロメア伸長に関する化合物、組成物、方法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20220921BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20220921BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20220921BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220921BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20220921BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220921BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220921BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220921BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220921BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N9/10
C12P19/34 A
C12N15/11 Z
C12Q1/48 Z
C12Q1/68
C12Q1/02
A61K31/7105
A61P43/00 105
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105849
(22)【出願日】2022-06-30
(62)【分割の表示】P 2019131040の分割
【原出願日】2014-02-22
(31)【優先権主張番号】61/768,047
(32)【優先日】2013-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ラムナス
(72)【発明者】
【氏名】エドゥアルト ヤクボブ
(72)【発明者】
【氏名】ヘレン エム. ブラウ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン クック
(57)【要約】
【課題】細胞内の外因性テロメラーゼ活性の一過性発現のための化合物及び組成物を提供する。
【解決するための手段】当該化合物及び組成物は、テロメラーゼ逆転写酵素をコードするリボ核酸に関するものであり、こうした処置を必要とする細胞内でのテロメアの伸長に有用である。こうした細胞には、たとえば、短縮テロメアを含む細胞、及びテロメア伸長の恩恵を受け得る対象、たとえば、加齢関連疾病または他の疾病を患う対象または当該疾病の罹患リスクのある対象の細胞が挙げられる。動物細胞への本記載の化合物及び組成物のインビトロまたはインビボいずれかの投与を通じてテロメアを伸長させるための方法、ならびに当該化合物及び組成物及び使用説明書を含むキットも提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年2月22日に出願された米国仮出願第61/768,047号の利益を主張し、当該開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
テロメアは、線状染色体の末端にあるDNA繰返し配列からなり、十分な長さがある場合には、染色体末端それぞれにループが形成され、末端が二本鎖または一本鎖DNA切断として作用しないようにしている(Artandi&DePinho(2010)Carcinogenesis31:9-18)。テロメアは、酸化損傷及び不完全なDNA複製が一因で、時間の経過とともに短くなり、最終的には、保護ループの形成ができなくなるほど危機的に短いテロメア、染色体末端の露出、染色体と染色体の融合、DNA損傷反応、及び細胞の老化、アポトーシスまたは腫瘍に至る(O’Sullivan and Karlseder(2010)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.11:171-181;Calado el al.(2012)Leukemia26:700-707;Artandi and DePinho(2010)Carcinogenesis31:9-18)。
【0003】
酵素複合体であるテロメラーゼは、テロメアを伸長させるものであり、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)と、テロメラーゼRNA構成要素(TERC)として知られているRNA構成要素の2つの重要な要素からなる。テロメラーゼ複合体の他の構成要素には、タンパク質のTCAB1、ジスケリン、Garl、Nhp2、Nop10及びRHAUが含まれる(Brouilette et al.(2003)Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology23:842-846)。TERTは、テロメラーゼ複合体の制限要素であり、そのため、TERTを増加させる処置によりテロメラーゼ活性を高めることができる。テロメラーゼ活性は通常、テロメア反復増幅プロトコル(TRAP)法を用いて測定される。この方法では、細胞溶解物または他の試料が合成テロメア様DNA配列を伸長させる能力を定量化する。
【0004】
細胞老化及びアポトーシス、ならびに結果として生じる細胞障害の防止に関して、テロメア長維持の重要性から予想されるように、TERT及びTERCの遺伝子突然変異は、特発性肺線維症、先天性角化不全症及び再生不良性貧血の形態を含む、不十分なテロメア維持に由来する致死性遺伝疾患につながる。これらの疾患における短テロメアに起因した早期細胞老化及びアポトーシスの影響は、細胞において破壊的であり、癌リスクの上昇により一層悪化する場合がある(Artandi and DePinho(2010)Carcinogenesis31:9-18;Alter el al.(2009)Blood113:6549-6557)。短テロメアと癌とを結びつける豊富な相関データ(Wentzensen et al.(2011)Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.20:1238-1250)に加え、再生不良性貧血では、ヒトにおいて、危機的に短いテロメアと、その結果生じる染色体の不安定性により、細胞が悪性形質転換を受けやすくなるという最初の直接証拠がいくつか示されている(Calado et al.(2012)Leukemia26:700-707)。短テロメアが筋ジストロフィーの致死性と非致死性の違いを生み(Sacco et al.(2010)Cell143:1059-1071)、テロメア伸長がアテローム性動脈硬化症、高血圧及び心臓疾患に関連する(Perez-Rivero et al.(2006)Circulation114:309-317)内皮細胞老化を防ぐ(Matsushita et al.(2001)Circ.Res.89:793-798)という証拠がある。短テロメアはまた、これらの疾患及び他の疾患に関与していることに加え、細胞療法及び生体工学用途での細胞増幅を制限する(Mohsin et al.(2012)Journal of the American College
of Cardiology doi:10.1016/j.jacc.2012.04.0474)。
【0005】
自然生成物由来テロメラーゼ活性剤であるTA-65(登録商標)が栄養補助剤としてT.A.Sciences,Inc.から商業的に販売されている(Harley et al.(2011)Rejuvenation Research14:45-56)。この化合物は、内因性hTERT遺伝子を刺激することによって、生来のテロメラーゼの発現を活性化させると言われている。しかしながら、この処置が本来備わっているテロメラーゼ活性の正常な調節をどのように克服するのかは明確でない。
【0006】
ヒトTERT(hTERT)をコードするベクターを、テロメラーゼ活性のほとんどないか、または全くないヒト細胞にトランスフェクトすることが行われている。たとえば、Bodnar el al.(1998)Science279:349-352を参照されたい。トランスフェクト細胞では、テロメラーゼが不足している細胞と比較して、テロメラーゼの発現、テロメアの伸長、活発な分裂、及び老化の減少が見られたが、この処置から生じたゲノム変異はリスクを増加させるため、当該手法の有用性は限られる。
【0007】
複製に限りがあるという能力は、大部分の通常細胞を定義する特徴の1つである。この限られた複製プロセスの最終点は、生存可能な状態を維持するものの、細胞がそれ以上分裂しない停止状態となる、老化である。多くの場合、老化細胞は、遺伝子発現パターンの変化、モルホロジーの変化、正常機能を果たす能力の低下または停止を特徴とする。
【0008】
テロメアの短縮は、加齢に伴う動物組織の細胞老化に直接的な役割を果たしている。さらに、上述した疾患を含めた種々の疾患に短テロメアが関与しているという累積証拠がある。テロメア伸長による疾病予防への期待は、インビボ及び/またはインビトロで動物細胞のテロメアを伸長させる安全かつ効果的な処置に対する要求を後押しするものである。さらに、細胞療法、細胞組織工学及び再生医療における使用のために、細胞内でテロメアを安全にかつ迅速に伸長させることが必要とされている。
【0009】
しかしながら、同時に、テロメラーゼ活性の恒常的活性化には危険がある。事実、細胞療法用途では、細胞不死化のリスクを回避することが何よりも重要である。この目的のために、特に、テロメラーゼ活性の上昇が短時間であるだけでなく、処置を継続的に繰り返す必要が生じないほど迅速にテロメアを伸長させられれば、恒常的ではない一過性のテロメラーゼ活性が安全上有益であり得る。現行のテロメア伸長方法には、誘導性プロモーター下でのTERTのウイルス送達、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスに由来するベクターを用いたTERTの送達、及びテロメラーゼの小分子活性剤が挙げられる。これらの方法には、挿入変異、テロメラーゼ活性の継続的上昇またはこの両方のリスクがある。
したがって、テロメアならびに他の症状及び疾患の潜在的な予防、遅延、改善または処置を行うために、安全にテロメアを伸長させる治療を開発し、加齢老化に伴う身体的外見及び機能ならびに精神機能の緩やかな減退に対して当該治療を実施し、細胞療法及び再生医療を可能にすべき強い誘因がある。こうした治療は、ヒト、ペット、家畜、動物園動物及び絶滅危惧種の各動物を含めたすべての動物の若返りに極めて有用であると言える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Artandi&DePinho(2010)Carcinogenesis31:9-18
【非特許文献2】O’Sullivan and Karlseder(2010)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.11:171-181
【非特許文献3】Calado el al.(2012)Leukemia26:700-707
【非特許文献4】Brouilette et al.(2003)Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology23:842-846
【非特許文献5】Alter el al.(2009)Blood113:6549-6557
【非特許文献6】Wentzensen et al.(2011)Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.20:1238-1250
【非特許文献7】Sacco et al.(2010)Cell143:1059-1071
【非特許文献8】Perez-Rivero et al.(2006)Circulation114:309-317
【非特許文献9】Matsushita et al.(2001)Circ.Res.89:793-798
【非特許文献10】Mohsin et al.(2012)Journal of the American College of Cardiology doi:10.1016/j.jacc.2012.04.0474
【非特許文献11】Harley et al.(2011)Rejuvenation Research14:45-56
【非特許文献12】Bodnar el al.(1998)Science279:349-352
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ゲノム挿入変異のリスクがなく、かつ連続的または頻繁な処置さえ必要としないほどの迅速なテロメア伸長を兼ね備えた、テロメラーゼ活性の大幅な一過的上昇という利益をもたらす代替物を提供することにより、こうした問題及び他の問題に対処するものである。具体的には、本発明は、細胞中の外因性テロメラーゼ活性の一過的な翻訳によってテロメアを伸長させるための組成物、方法及びキットを提供する。
【0012】
一態様において、本発明は、テロメア伸長のための化合物であって、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含有し、かつテロメラーゼ逆転写酵素をコードする合成リボ核酸を含み、当該化合物で処置した細胞内でテロメアが伸長する化合物を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態において、テロメラーゼ逆転写酵素は、哺乳類、鳥類、爬虫類もしくは魚類のテロメラーゼ逆転写酵素またはテロメラーゼ触媒活性を保持する変異型であり、特定の実施形態においては、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素である。
【0014】
いくつかの実施形態において、リボ核酸は、5’キャップ、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域及びポリAテールを含む。5’キャップは非免疫原性であってもよいし、5’キャップはホスファターゼで処理されていてもよい。
【0015】
好ましい実施形態において、ポリAテールは、リボ核酸の安定性を向上させる。
【0016】
他の好ましい実施形態において、5’非翻訳領域もしくは3’非翻訳領域は、安定なmRNAもしくは効率的に翻訳されるmRNAに由来する配列を含むか、または両非翻訳領域が安定なmRNAもしくは効率的に翻訳されるmRNAに由来する配列を含む。
【0017】
さらに他の好ましい実施形態において、5’キャップ、5’非翻訳領域または3’非翻訳領域は、リボ核酸を安定させるか、リボ核酸の翻訳率を上げるか、リボ核酸の免疫原性を調節する。
【0018】
極めて好ましい実施形態において、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドは、リボ核酸の免疫原性を調節する。
【0019】
いくつかの実施形態において、リボ核酸は、精製処理した合成リボ核酸である。
【0020】
好ましい実施形態において、合成リボ核酸は、免疫原性成分を除去するために精製される。
【0021】
いくつかの特定の実施形態において、リボ核酸は、ヒト、ネコ、イヌ、マウス、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、アフリカゾウ、ニワトリ、ラット、ゼブラフィッシュ、メダカもしくはチンパンジーのテロメラーゼ逆転写酵素、または当該テロメラーゼ逆転写酵素と少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドをコードする。
【0022】
別の態様において、本発明は、本発明の化合物とテロメラーゼRNA構成要素とを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、テロメラーゼRNA構成要素は、哺乳類、鳥類、爬虫類または魚類のテロメラーゼRNA構成要素である。より具体的な実施形態において、テロメラーゼRNA構成要素は、ヒトテロメラーゼRNA構成要素である。いくつかの実施形態において、本発明の化合物及び組成物は、送達担体をさらに含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、送達担体は、エキソソーム、脂質ナノ粒子、高分子ナノ粒子、天然もしくは人工のリポタンパク質粒子、カチオン性脂質、タンパク質、タンパク質-核酸複合体、リポソーム、ビロソームまたはポリマーである。特定の実施形態において、送達担体は、カチオン性脂質である。
【0024】
好ましい実施形態において、送達担体は、非免疫原性である。他の好ましい実施形態において、送達担体は、部分的に免疫原性である。特に、いくつかの状況において、ある程度の免疫原性を保持している担体が望ましい場合がある。
【0025】
本発明の別の態様によれば、開示した化合物または組成物のいずれかを動物細胞に投与する工程を含み、少なくとも1つのテロメアが細胞内で伸長する、テロメアを伸長させるための方法を提供する。
【0026】
いくつかの方法の実施形態において、細胞は、投与工程の前に、少なくとも1つの短縮したテロメアを有する。
【0027】
いくつかの実施形態において、細胞は、加齢関連疾病、加齢関連症状もしくは加齢に伴う機能もしくは外見の減退を患っているか、またはこうしたリスクのある対象に由来する細胞または当該対象内の細胞である。
【0028】
いくつかの実施形態において、細胞は、癌、心臓疾患、脳卒中、糖尿病、糖尿病性潰瘍、アルツハイマー病、骨粗鬆症、身体的能力もしくは外見の減退、身体的外傷もしくは慢性的な身体的ストレス、心的外傷もしくは慢性的な精神的ストレス、免疫機能の低下、免疫老化、または黄斑変性症を患っているか、またはこうしたリスクのある対象に由来する細胞または当該対象内の細胞である。
【0029】
いくつかの実施形態において、細胞は、内胚葉系列、中胚葉系列もしくは外胚葉系列の体細胞、生殖細胞または胚性細胞である。
【0030】
いくつかの実施形態において、細胞は、人工多能性幹細胞、または人工多能性幹細胞の作製に使用される細胞である。
【0031】
いくつかの実施形態において、細胞は、分化転換した細胞、または分化転換した細胞の作製に使用される細胞である。
【0032】
いくつかの実施形態において、細胞は単離細胞であり、投与工程は48時間以下継続する。他の実施形態において、細胞は単離細胞であり、投与工程は少なくとも2時間継続する。
【0033】
いくつかの実施形態において、細胞は単離細胞であり、投与工程は4回以下実施される。他の実施形態において、細胞は単離細胞であり、投与工程は少なくとも2回実施される。
【0034】
いくつかの実施形態において、細胞は単離細胞であり、当該方法は細胞内のテロメラーゼ活性を測定する工程をさらに含む。特定の実施形態において、投与工程は、細胞内のテロメラーゼ活性を増加させる。さらにより具体的な実施形態において、テロメラーゼ活性は、少なくとも5%一過的に増加する。他の特定の実施形態において、増加したテロメラーゼ活性の半減期は、48時間以下である。
【0035】
いくつかの実施形態において、当該方法は、細胞内のテロメア長を測定する工程をさらに含む。特定の実施形態において、平均のテロメア長は、少なくとも0.1kb増加する。
【0036】
いくつかの実施形態において、細胞は単離細胞であり、当該方法は細胞内の細胞集団倍加能を測定する工程をさらに含む。特定の実施形態において、細胞集団倍加能は、場合により、少なくとも1回の細胞集団倍加分増加する。
【0037】
好ましい実施形態において、細胞は、哺乳類対象に由来する細胞または哺乳類対象内の細胞であり、さらにより好ましい実施形態において、細胞は、ヒト対象に由来する細胞またはヒト対象内の細胞である。
【0038】
いくつかの実施形態において、細胞は単離細胞であり、他の実施形態において、細胞は単離細胞でない。いくつかの実施形態において、投与工程は、エレクトロポレーションを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのテロメアが細胞内で一過的に伸長する。
【0039】
本発明のさらに別の態様によれば、動物細胞内のテロメアを伸長させるためのキットを提供する。キットは、上記の化合物または組成物のいずれかと、当該化合物または組成物を使用してテロメアを伸長させるための説明書とを含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、キットは、パッケージ材料をさらに含む。いくつかの特定の実施形態において、パッケージ材料は、気密性である。いくつかの特定の実施形態において、パッケージ材料は、金属箔容器を含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、キットは、乾燥剤、培地またはRNase阻害剤をさらに含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、組成物は、滅菌状態である。いくつかの実施形態において、キットは、本発明の化合物と、当該組成物を使用してテロメアを伸長させるための説明書と、テロメラーゼRNA構成要素、送達担体またはテロメラーゼRNA構成要素と送達担体の両方とを含む。
【0043】
さらに別の態様において、本発明は、本発明の化合物または組成物を、テロメア伸長を必要とする動物対象またはテロメア伸長の恩恵を受け得る動物対象に投与することを含む、処置の方法を提供する。いくつかの実施形態において、動物対象は、テロメア短縮に起因する疾患または症状を患っているか、そのリスクがある。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
テロメアの伸長のための化合物であって、
少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含有し、かつテロメラーゼ逆転写酵素をコードする合成リボ核酸を含み、
前記化合物で処置した細胞内でテロメアが伸長する、化合物。
(項目2)
前記テロメラーゼ逆転写酵素が、哺乳類、鳥類、爬虫類もしくは魚類のテロメラーゼ逆転写酵素またはテロメラーゼ触媒活性を保持する変異型である、項目1に記載の化合物。(項目3)
前記テロメラーゼ逆転写酵素が、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素である、項目2に記載の化合物。
(項目4)
前記リボ核酸が、5’キャップ、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域及びポリAテールを含む、項目1に記載の化合物。
(項目5)
前記5’キャップが非免疫原性である、項目4に記載の化合物。
(項目6)
前記5’キャップがホスファターゼで処理されている、項目4に記載の化合物。
(項目7)
前記ポリAテールが、前記リボ核酸の安定性を向上させる、項目4に記載の化合物。
(項目8)
前記5’非翻訳領域または前記3’非翻訳領域が、安定なmRNAまたは効率的に翻訳されるmRNAに由来する配列を含む、項目4に記載の化合物。
(項目9)
前記5’非翻訳領域及び前記3’非翻訳領域が両方とも安定なmRNAまたは効率的に翻訳されるmRNAに由来する配列を含む、項目4に記載の化合物。
(項目10)
前記5’キャップ、前記5’非翻訳領域、または前記3’非翻訳領域が、前記リボ核酸を安定させるか、前記リボ核酸の翻訳率を上げるか、前記リボ核酸の免疫原性を調節する、項目4に記載の化合物。
(項目11)
前記少なくとも1つの修飾ヌクレオシドが、前記リボ核酸の免疫原性を調節する、項目1に記載の化合物。
(項目12)
前記合成リボ核酸が、精製処理した合成リボ核酸である、項目1に記載の化合物。
(項目13)
前記合成リボ核酸が、免疫原性成分を除去するために精製される、項目12に記載の化合物。
(項目14)
前記リボ核酸が、ヒト、ネコ、イヌ、マウス、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、アフリカゾウ、ニワトリ、ラット、ゼブラフィッシュ、メダカもしくはチンパンジーのテロメラーゼ逆転写酵素、または前記テロメラーゼ逆転写酵素と少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドをコードする、項目1に記載の化合物。
(項目15)
項目1の化合物とテロメラーゼRNA構成要素とを含む組成物。
(項目16)
前記テロメラーゼRNA構成要素が、哺乳類、鳥類、爬虫類または魚類のテロメラーゼRNA構成要素である、項目15に記載の組成物。
(項目17)
前記テロメラーゼRNA構成要素が、ヒトテロメラーゼRNA構成要素である、項目16に記載の組成物。
(項目18)
項目1~14のいずれか一項に記載の化合物または項目15~17のいずれか一項に記載の組成物と、送達担体とを含む組成物。
(項目19)
前記送達担体が、エキソソーム、脂質ナノ粒子、高分子ナノ粒子、天然もしくは人工のリポタンパク質粒子、カチオン性脂質、タンパク質、タンパク質-核酸複合体、リポソーム、ビロソームまたはポリマーである、項目18に記載の組成物。
(項目20)
前記送達担体が、カチオン性脂質である、項目19に記載の組成物。
(項目21)
前記送達担体が、非免疫原性である、項目20に記載の組成物。
(項目22)
項目1~14のいずれか一項に記載の化合物または項目15~21のいずれか一項に記載の組成物を動物細胞に投与する工程を含み、少なくとも1つのテロメアが前記細胞内で伸長する、テロメアを伸長させるための方法。
(項目23)
前記細胞が、前記投与工程の前に、少なくとも1つの短縮したテロメアを有する、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記細胞が、加齢関連疾病、加齢関連症状もしくは加齢に伴う機能もしくは外見の減退を患っているか、またはこうしたリスクのある対象に由来する細胞または当該対象内の細胞である、項目22に記載の方法。
(項目25)
前記細胞が、癌、心臓疾患、脳卒中、糖尿病、糖尿病性潰瘍、アルツハイマー病、骨粗鬆症、身体的能力もしくは外見の減退、身体的外傷もしくは慢性的な身体的ストレス、心的外傷もしくは慢性的な精神的ストレス、免疫機能の低下、免疫老化、または黄斑変性症を患っているか、またはこうしたリスクのある対象に由来する細胞または当該対象内の細胞である、項目22に記載の方法。
(項目26)
前記細胞が、内胚葉系列、中胚葉系列もしくは外胚葉系列の体細胞、または生殖細胞または胚性細胞である、項目22に記載の方法。
(項目27)
前記細胞が、人工多能性幹細胞または人工多能性幹細胞の作製に使用される細胞である、項目22に記載の方法。
(項目28)
前記細胞が、分化転換した細胞、または分化転換した細胞の作製に使用される細胞である、項目22に記載の方法。
(項目29)
前記細胞が単離細胞であり、前記投与工程が48時間以下継続する、項目22に記載の方法。
(項目30)
前記細胞が単離細胞であり、前記投与工程が少なくとも2時間継続する、項目22に記載の方法。
(項目31)
前記細胞が単離細胞であり、前記投与工程が4回以下実施される、項目22に記載の方法。
(項目32)
前記細胞が単離細胞であり、前記投与工程が少なくとも2回実施される、項目22に記載の方法。
(項目33)
前記細胞が単離細胞であり、前記方法が前記細胞内のテロメラーゼ活性を測定する工程をさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目34)
前記投与工程が、前記細胞内のテロメラーゼ活性を上昇させる、項目22に記載の方法。
(項目35)
前記テロメラーゼ活性が、少なくとも5%一過的に増加する、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記増加したテロメラーゼ活性の半減期が、48時間以下である、項目34に記載の方法。
(項目37)
前記増加したテロメラーゼ活性の半減期が、少なくとも2時間である、項目34に記載の方法。
(項目38)
前記方法が、前記細胞内のテロメア長を測定する工程をさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目39)
前記投与工程が、前記細胞内の平均テロメア長を増加させる、項目22に記載の方法。
(項目40)
前記細胞内の平均テロメア長が、少なくとも0.1kb増加する、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記細胞が単離細胞であり、前記方法が前記細胞内の細胞集団倍加能を測定する工程をさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目42)
前記投与工程が、前記細胞内の細胞集団倍加能を増加させる、項目22に記載の方法。
(項目43)
前記細胞集団倍加能が、少なくとも1回の細胞集団倍加分増加する、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記細胞が、哺乳類対象に由来する細胞または哺乳類対象内の細胞である、項目22に記載の方法。
(項目45)
前記細胞が、ヒト対象に由来する細胞またはヒト対象内の細胞である、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記細胞が単離細胞である、項目22に記載の方法。
(項目47)
前記細胞が単離細胞でない、項目22に記載の方法。
(項目48)
前記投与工程が、エレクトロポレーションを含む、項目22に記載の方法。
(項目49)
前記少なくとも1つのテロメアが、前記細胞内で一過的に伸長する、項目22に記載の方法。
(項目50)
項目1~14のいずれか一項に記載の化合物または項目15~21のいずれか一項に記載の組成物と、
前記化合物または組成物を使用してテロメアを伸長させるための説明書とを含む、
動物細胞内のテロメアを伸長させるためのキット。
(項目51)
パッケージ材料をさらに含む、項目50に記載のキット。
(項目52)
前記パッケージ材料が気密性である、項目51に記載のキット。
(項目53)
前記パッケージ材料が金属箔容器を含む、項目51に記載のキット。
(項目54)
乾燥剤をさらに含む、項目50に記載のキット。
(項目55)
培地をさらに含む、項目50に記載のキット。
(項目56)
RNase阻害剤をさらに含む、項目50に記載のキット。
(項目57)
前記化合物または組成物が滅菌状態である、項目50に記載のキット。
(項目58)
項目1~14のいずれか一項に記載の化合物と、
前記組成物を使用してテロメアを伸長させるための説明書と、テロメラーゼRNA構成要素、送達担体またはテロメラーゼRNA構成要素と送達担体の両方とを含む、
項目50に記載のキット。
(項目59)
項目1~14のいずれか一項に記載の化合物または項目15~21のいずれか一項に記載の組成物を、テロメア伸長を必要とする動物対象またはテロメア伸長の恩恵を受け得る動物対象に投与することを含む、処置の方法。
(項目60)
前記動物対象は、テロメア短縮に起因する疾患を患っているか、そのリスクのある、項目59に記載の方法。
(項目61)
前記疾患がメタボリック症候群、糖尿病、糖尿病性潰瘍、心臓疾患、癌、血管性認知症、アルツハイマー病、脳卒中、加齢関連黄斑変性症、免疫老化、骨髄機能不全、胃腸潰瘍、肝硬変、ヘルニア、感染症、慢性感染症、中等度または重度の認知障害、運動障害、骨粗鬆症、変形性関節症、慢性関節リウマチ、加齢関連の不安症、平衡障害、耳鳴り、ベル麻痺、白内障、慢性閉塞性肺疾患、角膜上皮剥離、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、結膜炎、霰粒腫、脱水症、鬱病、肺気腫、眼疾患、成長障害、流感、全般性不安障害、緑内障、聴力損失、味覚損失、食欲不振、股関節脱臼、記憶喪失、パーキンソン病、脊椎管狭窄症、尿失禁、及び脊椎骨折からなる群から選択される、項目60に記載の方法。
(項目62)
前記動物対象が、加齢関連疾病、加齢関連症状、または加齢に伴う機能もしくは外見の減退を患っているか、そのリスクのある、項目59に記載の方法。
(項目63)
前記対象動物内の細胞または前記対象動物由来の細胞のテロメア長を測定する工程と、短縮されたテロメア長が検出された場合に前記化合物または前記組成物を投与する工程とをさらに含む、項目59に記載の方法。
(項目64)
前記測定工程及び前記投与工程が少なくとも1回繰り返される、項目63に記載の方法。
(項目65)
前記対象動物の細胞内でテロメアが一過的に伸長する、項目59に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1a】MRC-5細胞は、TERTをコードする修飾リボ核酸(modRNA)とのトランスフェクションにより、テロメラーゼ活性が一過的に増加するが、触媒不活性TERT(CI TERT)では増加しない。(a)本研究で使用したmodRNA構築物及び方法の概略図。modRNA構築物は、ヒトTERTをコードし、安定性を付与する5’UTR及び3’UTR、たとえばβ-グロビンmRNAに由来するUTRを有する。CI TERTは1つの塩基対変異を有する。(b)TERTまたはCI TERT modRNAのトランスフェクションにより、処置細胞内の外因性TERT modRNAレベルが内因性TERT RNAレベルを超えて上昇したが、無処置対照では上昇しない。(c)抗TERT抗体によって認識されたタンパク質レベルは、TERTまたはCI TERTをコードするmodRNAとのトランスフェクションから24時間後のMRC-5細胞におけるレベル(それぞれP<0.03またはP<0.01)のほうが、無処置細胞またはビヒクルのみ細胞におけるレベルよりも有意に高い。(d)TERTをコードするmodRNAによる処置は、MRC-5細胞のテロメラーゼ活性に一過的な増加をもたらすが、CI TERTでは増加しない。
【
図1b】MRC-5細胞は、TERTをコードする修飾リボ核酸(modRNA)とのトランスフェクションにより、テロメラーゼ活性が一過的に増加するが、触媒不活性TERT(CI TERT)では増加しない。(a)本研究で使用したmodRNA構築物及び方法の概略図。modRNA構築物は、ヒトTERTをコードし、安定性を付与する5’UTR及び3’UTR、たとえばβ-グロビンmRNAに由来するUTRを有する。CI TERTは1つの塩基対変異を有する。(b)TERTまたはCI TERT modRNAのトランスフェクションにより、処置細胞内の外因性TERT modRNAレベルが内因性TERT RNAレベルを超えて上昇したが、無処置対照では上昇しない。(c)抗TERT抗体によって認識されたタンパク質レベルは、TERTまたはCI TERTをコードするmodRNAとのトランスフェクションから24時間後のMRC-5細胞におけるレベル(それぞれP<0.03またはP<0.01)のほうが、無処置細胞またはビヒクルのみ細胞におけるレベルよりも有意に高い。(d)TERTをコードするmodRNAによる処置は、MRC-5細胞のテロメラーゼ活性に一過的な増加をもたらすが、CI TERTでは増加しない。
【
図1c】MRC-5細胞は、TERTをコードする修飾リボ核酸(modRNA)とのトランスフェクションにより、テロメラーゼ活性が一過的に増加するが、触媒不活性TERT(CI TERT)では増加しない。(a)本研究で使用したmodRNA構築物及び方法の概略図。modRNA構築物は、ヒトTERTをコードし、安定性を付与する5’UTR及び3’UTR、たとえばβ-グロビンmRNAに由来するUTRを有する。CI TERTは1つの塩基対変異を有する。(b)TERTまたはCI TERT modRNAのトランスフェクションにより、処置細胞内の外因性TERT modRNAレベルが内因性TERT RNAレベルを超えて上昇したが、無処置対照では上昇しない。(c)抗TERT抗体によって認識されたタンパク質レベルは、TERTまたはCI TERTをコードするmodRNAとのトランスフェクションから24時間後のMRC-5細胞におけるレベル(それぞれP<0.03またはP<0.01)のほうが、無処置細胞またはビヒクルのみ細胞におけるレベルよりも有意に高い。(d)TERTをコードするmodRNAによる処置は、MRC-5細胞のテロメラーゼ活性に一過的な増加をもたらすが、CI TERTでは増加しない。
【
図1d】MRC-5細胞は、TERTをコードする修飾リボ核酸(modRNA)とのトランスフェクションにより、テロメラーゼ活性が一過的に増加するが、触媒不活性TERT(CI TERT)では増加しない。(a)本研究で使用したmodRNA構築物及び方法の概略図。modRNA構築物は、ヒトTERTをコードし、安定性を付与する5’UTR及び3’UTR、たとえばβ-グロビンmRNAに由来するUTRを有する。CI TERTは1つの塩基対変異を有する。(b)TERTまたはCI TERT modRNAのトランスフェクションにより、処置細胞内の外因性TERT modRNAレベルが内因性TERT RNAレベルを超えて上昇したが、無処置対照では上昇しない。(c)抗TERT抗体によって認識されたタンパク質レベルは、TERTまたはCI TERTをコードするmodRNAとのトランスフェクションから24時間後のMRC-5細胞におけるレベル(それぞれP<0.03またはP<0.01)のほうが、無処置細胞またはビヒクルのみ細胞におけるレベルよりも有意に高い。(d)TERTをコードするmodRNAによる処置は、MRC-5細胞のテロメラーゼ活性に一過的な増加をもたらすが、CI TERTでは増加しない。
【
図2】リボ核酸治療法のための送達担体としてのエキソソームの使用。
【
図3】細胞のテロメア伸長における複数の迅速かつ一過的なテロメラーゼ処置の使用の説明図。
【
図4a】TERT modRNAによる処置は、MRC-5細胞内のテロメアを迅速に伸長させる。(a)本研究で用いた処置及びアッセイスケジュール。処置は5時間継続した。(b)TRFサザンブロット(挿入図)及びその定量化の図。化学発光信号は、テロメア長の単位当たりのプローブ数を考慮して標準化した。次に、各ゲルレーンのピクセル行それぞれの平均強度をテロメア長に対してプロットした(各処置の生物学的反復実験数n=3)。(c)
図4bのテロメア長分布の平均。TERT modRNAで処置した細胞内のテロメアが、無処置またはビヒクルのみで処置した対照よりも有意に長い(P<0.014)ことがわかる。(d)任意の閾値(4.2kb)よりも長いテロメアの割合は、TERT modRNAで処置した細胞のほうが無処置及びビヒクルのみで処置した対照よりも大きい。(e)テロメア長を比較するための定量的in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)に用いたMRC-5線維芽細胞の分裂中期スプレッドの代表的な蛍光顕微鏡写真。テロメアプローブ(発光、斑点)及びDNA(スムーズシェーディング)を示す。(f)処置細胞及び対照細胞内のテロメア長のQ-FISH測定の定量化(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15)。処置細胞における迅速なテロメア伸長を示す(TRFは、テロメアDNAとサブテロメアDNAの両方の長さを測定するのに対し、Q-FISHは、テロメアDNAのみを測定することに留意されたい。これにより、Q-FISHとTRFの間の結果の違いが説明される)。(g)(i)1細胞当たりの平均総テロメアプローブ蛍光を定量化するためにQ-FISHを用いて測定した場合のテロメア長に対する供給業者から受領した後のMRC-5細胞の累積細胞集団倍加の標準曲線。累積細胞集団倍加は、テロメア長に直線的に比例する。(g)(ii)TERT modRNAを用いて48時間の間隔で3回処置したMRC-5細胞の1細胞当たりの平均テロメア長の定量化。Q-FISHを用いた測定。
【
図4b】TERT modRNAによる処置は、MRC-5細胞内のテロメアを迅速に伸長させる。(a)本研究で用いた処置及びアッセイスケジュール。処置は5時間継続した。(b)TRFサザンブロット(挿入図)及びその定量化の図。化学発光信号は、テロメア長の単位当たりのプローブ数を考慮して標準化した。次に、各ゲルレーンのピクセル行それぞれの平均強度をテロメア長に対してプロットした(各処置の生物学的反復実験数n=3)。(c)
図4bのテロメア長分布の平均。TERT modRNAで処置した細胞内のテロメアが、無処置またはビヒクルのみで処置した対照よりも有意に長い(P<0.014)ことがわかる。(d)任意の閾値(4.2kb)よりも長いテロメアの割合は、TERT modRNAで処置した細胞のほうが無処置及びビヒクルのみで処置した対照よりも大きい。(e)テロメア長を比較するための定量的in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)に用いたMRC-5線維芽細胞の分裂中期スプレッドの代表的な蛍光顕微鏡写真。テロメアプローブ(発光、斑点)及びDNA(スムーズシェーディング)を示す。(f)処置細胞及び対照細胞内のテロメア長のQ-FISH測定の定量化(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15)。処置細胞における迅速なテロメア伸長を示す(TRFは、テロメアDNAとサブテロメアDNAの両方の長さを測定するのに対し、Q-FISHは、テロメアDNAのみを測定することに留意されたい。これにより、Q-FISHとTRFの間の結果の違いが説明される)。(g)(i)1細胞当たりの平均総テロメアプローブ蛍光を定量化するためにQ-FISHを用いて測定した場合のテロメア長に対する供給業者から受領した後のMRC-5細胞の累積細胞集団倍加の標準曲線。累積細胞集団倍加は、テロメア長に直線的に比例する。(g)(ii)TERT modRNAを用いて48時間の間隔で3回処置したMRC-5細胞の1細胞当たりの平均テロメア長の定量化。Q-FISHを用いた測定。
【
図4c】TERT modRNAによる処置は、MRC-5細胞内のテロメアを迅速に伸長させる。(a)本研究で用いた処置及びアッセイスケジュール。処置は5時間継続した。(b)TRFサザンブロット(挿入図)及びその定量化の図。化学発光信号は、テロメア長の単位当たりのプローブ数を考慮して標準化した。次に、各ゲルレーンのピクセル行それぞれの平均強度をテロメア長に対してプロットした(各処置の生物学的反復実験数n=3)。(c)
図4bのテロメア長分布の平均。TERT modRNAで処置した細胞内のテロメアが、無処置またはビヒクルのみで処置した対照よりも有意に長い(P<0.014)ことがわかる。(d)任意の閾値(4.2kb)よりも長いテロメアの割合は、TERT modRNAで処置した細胞のほうが無処置及びビヒクルのみで処置した対照よりも大きい。(e)テロメア長を比較するための定量的in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)に用いたMRC-5線維芽細胞の分裂中期スプレッドの代表的な蛍光顕微鏡写真。テロメアプローブ(発光、斑点)及びDNA(スムーズシェーディング)を示す。(f)処置細胞及び対照細胞内のテロメア長のQ-FISH測定の定量化(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15)。処置細胞における迅速なテロメア伸長を示す(TRFは、テロメアDNAとサブテロメアDNAの両方の長さを測定するのに対し、Q-FISHは、テロメアDNAのみを測定することに留意されたい。これにより、Q-FISHとTRFの間の結果の違いが説明される)。(g)(i)1細胞当たりの平均総テロメアプローブ蛍光を定量化するためにQ-FISHを用いて測定した場合のテロメア長に対する供給業者から受領した後のMRC-5細胞の累積細胞集団倍加の標準曲線。累積細胞集団倍加は、テロメア長に直線的に比例する。(g)(ii)TERT modRNAを用いて48時間の間隔で3回処置したMRC-5細胞の1細胞当たりの平均テロメア長の定量化。Q-FISHを用いた測定。
【
図4d】TERT modRNAによる処置は、MRC-5細胞内のテロメアを迅速に伸長させる。(a)本研究で用いた処置及びアッセイスケジュール。処置は5時間継続した。(b)TRFサザンブロット(挿入図)及びその定量化の図。化学発光信号は、テロメア長の単位当たりのプローブ数を考慮して標準化した。次に、各ゲルレーンのピクセル行それぞれの平均強度をテロメア長に対してプロットした(各処置の生物学的反復実験数n=3)。(c)
図4bのテロメア長分布の平均。TERT modRNAで処置した細胞内のテロメアが、無処置またはビヒクルのみで処置した対照よりも有意に長い(P<0.014)ことがわかる。(d)任意の閾値(4.2kb)よりも長いテロメアの割合は、TERT modRNAで処置した細胞のほうが無処置及びビヒクルのみで処置した対照よりも大きい。(e)テロメア長を比較するための定量的in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)に用いたMRC-5線維芽細胞の分裂中期スプレッドの代表的な蛍光顕微鏡写真。テロメアプローブ(発光、斑点)及びDNA(スムーズシェーディング)を示す。(f)処置細胞及び対照細胞内のテロメア長のQ-FISH測定の定量化(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15)。処置細胞における迅速なテロメア伸長を示す(TRFは、テロメアDNAとサブテロメアDNAの両方の長さを測定するのに対し、Q-FISHは、テロメアDNAのみを測定することに留意されたい。これにより、Q-FISHとTRFの間の結果の違いが説明される)。(g)(i)1細胞当たりの平均総テロメアプローブ蛍光を定量化するためにQ-FISHを用いて測定した場合のテロメア長に対する供給業者から受領した後のMRC-5細胞の累積細胞集団倍加の標準曲線。累積細胞集団倍加は、テロメア長に直線的に比例する。(g)(ii)TERT modRNAを用いて48時間の間隔で3回処置したMRC-5細胞の1細胞当たりの平均テロメア長の定量化。Q-FISHを用いた測定。
【
図4e】TERT modRNAによる処置は、MRC-5細胞内のテロメアを迅速に伸長させる。(a)本研究で用いた処置及びアッセイスケジュール。処置は5時間継続した。(b)TRFサザンブロット(挿入図)及びその定量化の図。化学発光信号は、テロメア長の単位当たりのプローブ数を考慮して標準化した。次に、各ゲルレーンのピクセル行それぞれの平均強度をテロメア長に対してプロットした(各処置の生物学的反復実験数n=3)。(c)
図4bのテロメア長分布の平均。TERT modRNAで処置した細胞内のテロメアが、無処置またはビヒクルのみで処置した対照よりも有意に長い(P<0.014)ことがわかる。(d)任意の閾値(4.2kb)よりも長いテロメアの割合は、TERT modRNAで処置した細胞のほうが無処置及びビヒクルのみで処置した対照よりも大きい。(e)テロメア長を比較するための定量的in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)に用いたMRC-5線維芽細胞の分裂中期スプレッドの代表的な蛍光顕微鏡写真。テロメアプローブ(発光、斑点)及びDNA(スムーズシェーディング)を示す。(f)処置細胞及び対照細胞内のテロメア長のQ-FISH測定の定量化(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15)。処置細胞における迅速なテロメア伸長を示す(TRFは、テロメアDNAとサブテロメアDNAの両方の長さを測定するのに対し、Q-FISHは、テロメアDNAのみを測定することに留意されたい。これにより、Q-FISHとTRFの間の結果の違いが説明される)。(g)(i)1細胞当たりの平均総テロメアプローブ蛍光を定量化するためにQ-FISHを用いて測定した場合のテロメア長に対する供給業者から受領した後のMRC-5細胞の累積細胞集団倍加の標準曲線。累積細胞集団倍加は、テロメア長に直線的に比例する。(g)(ii)TERT modRNAを用いて48時間の間隔で3回処置したMRC-5細胞の1細胞当たりの平均テロメア長の定量化。Q-FISHを用いた測定。
【
図4f】TERT modRNAによる処置は、MRC-5細胞内のテロメアを迅速に伸長させる。(a)本研究で用いた処置及びアッセイスケジュール。処置は5時間継続した。(b)TRFサザンブロット(挿入図)及びその定量化の図。化学発光信号は、テロメア長の単位当たりのプローブ数を考慮して標準化した。次に、各ゲルレーンのピクセル行それぞれの平均強度をテロメア長に対してプロットした(各処置の生物学的反復実験数n=3)。(c)
図4bのテロメア長分布の平均。TERT modRNAで処置した細胞内のテロメアが、無処置またはビヒクルのみで処置した対照よりも有意に長い(P<0.014)ことがわかる。(d)任意の閾値(4.2kb)よりも長いテロメアの割合は、TERT modRNAで処置した細胞のほうが無処置及びビヒクルのみで処置した対照よりも大きい。(e)テロメア長を比較するための定量的in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)に用いたMRC-5線維芽細胞の分裂中期スプレッドの代表的な蛍光顕微鏡写真。テロメアプローブ(発光、斑点)及びDNA(スムーズシェーディング)を示す。(f)処置細胞及び対照細胞内のテロメア長のQ-FISH測定の定量化(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15)。処置細胞における迅速なテロメア伸長を示す(TRFは、テロメアDNAとサブテロメアDNAの両方の長さを測定するのに対し、Q-FISHは、テロメアDNAのみを測定することに留意されたい。これにより、Q-FISHとTRFの間の結果の違いが説明される)。(g)(i)1細胞当たりの平均総テロメアプローブ蛍光を定量化するためにQ-FISHを用いて測定した場合のテロメア長に対する供給業者から受領した後のMRC-5細胞の累積細胞集団倍加の標準曲線。累積細胞集団倍加は、テロメア長に直線的に比例する。(g)(ii)TERT modRNAを用いて48時間の間隔で3回処置したMRC-5細胞の1細胞当たりの平均テロメア長の定量化。Q-FISHを用いた測定。
【
図4g】TERT modRNAによる処置は、MRC-5細胞内のテロメアを迅速に伸長させる。(a)本研究で用いた処置及びアッセイスケジュール。処置は5時間継続した。(b)TRFサザンブロット(挿入図)及びその定量化の図。化学発光信号は、テロメア長の単位当たりのプローブ数を考慮して標準化した。次に、各ゲルレーンのピクセル行それぞれの平均強度をテロメア長に対してプロットした(各処置の生物学的反復実験数n=3)。(c)
図4bのテロメア長分布の平均。TERT modRNAで処置した細胞内のテロメアが、無処置またはビヒクルのみで処置した対照よりも有意に長い(P<0.014)ことがわかる。(d)任意の閾値(4.2kb)よりも長いテロメアの割合は、TERT modRNAで処置した細胞のほうが無処置及びビヒクルのみで処置した対照よりも大きい。(e)テロメア長を比較するための定量的in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)に用いたMRC-5線維芽細胞の分裂中期スプレッドの代表的な蛍光顕微鏡写真。テロメアプローブ(発光、斑点)及びDNA(スムーズシェーディング)を示す。(f)処置細胞及び対照細胞内のテロメア長のQ-FISH測定の定量化(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15)。処置細胞における迅速なテロメア伸長を示す(TRFは、テロメアDNAとサブテロメアDNAの両方の長さを測定するのに対し、Q-FISHは、テロメアDNAのみを測定することに留意されたい。これにより、Q-FISHとTRFの間の結果の違いが説明される)。(g)(i)1細胞当たりの平均総テロメアプローブ蛍光を定量化するためにQ-FISHを用いて測定した場合のテロメア長に対する供給業者から受領した後のMRC-5細胞の累積細胞集団倍加の標準曲線。累積細胞集団倍加は、テロメア長に直線的に比例する。(g)(ii)TERT modRNAを用いて48時間の間隔で3回処置したMRC-5細胞の1細胞当たりの平均テロメア長の定量化。Q-FISHを用いた測定。
【
図5a】TERT modRNAによる短時間の処置は、MRC-5細胞の複製能を用量依存的に増加させるが、不死化はしない。(a)TERT modRNAを用いて1回、2回もしくは3回処置した細胞、または3回目に続いて最初の処置から8週間後に追加の処置をした細胞の成長曲線。対照は、処置なし、ビヒクルのみまたはCI TERTを用いた4回の処置からなる(各処置ともn=3)。(b)TERT modRNA及びTERC RNAをモル比1:5で用いて処置した細胞の成長曲線(n=3)。(c)TERT modRNAで1回、2回または3回処置すると、MRC-5細胞に無処置細胞を上回る付加的な複製能が用量依存的に付与される。1回目の処置から48時間後に送達した2回目及び3回目の処置によって付与された増殖能の漸次的増加は、1回目の処置によって付与された増殖能の増加ほど大きくない。しかしながら、最初の3回の処置から数週間後の追加の4回目の処置では、1回目の処置と同等の付加的な増殖能が付与される。これは、処置によって付与される増殖能の量を最適化するためには、処置のタイミングが重要であることを示している。TERT modRNAをTERC modRNAとともに1:5のモル比で用いた3回の処置では、TERT modRNA単独による3回の処置よりも増殖能が大きくなる。ビヒクルのみまたはCI TERT modRNAによる処置は、付加的な複製能をもたらさない(n=3)。
【
図5b】TERT modRNAによる短時間の処置は、MRC-5細胞の複製能を用量依存的に増加させるが、不死化はしない。(a)TERT modRNAを用いて1回、2回もしくは3回処置した細胞、または3回目に続いて最初の処置から8週間後に追加の処置をした細胞の成長曲線。対照は、処置なし、ビヒクルのみまたはCI TERTを用いた4回の処置からなる(各処置ともn=3)。(b)TERT modRNA及びTERC RNAをモル比1:5で用いて処置した細胞の成長曲線(n=3)。(c)TERT modRNAで1回、2回または3回処置すると、MRC-5細胞に無処置細胞を上回る付加的な複製能が用量依存的に付与される。1回目の処置から48時間後に送達した2回目及び3回目の処置によって付与された増殖能の漸次的増加は、1回目の処置によって付与された増殖能の増加ほど大きくない。しかしながら、最初の3回の処置から数週間後の追加の4回目の処置では、1回目の処置と同等の付加的な増殖能が付与される。これは、処置によって付与される増殖能の量を最適化するためには、処置のタイミングが重要であることを示している。TERT modRNAをTERC modRNAとともに1:5のモル比で用いた3回の処置では、TERT modRNA単独による3回の処置よりも増殖能が大きくなる。ビヒクルのみまたはCI TERT modRNAによる処置は、付加的な複製能をもたらさない(n=3)。
【
図5c】TERT modRNAによる短時間の処置は、MRC-5細胞の複製能を用量依存的に増加させるが、不死化はしない。(a)TERT modRNAを用いて1回、2回もしくは3回処置した細胞、または3回目に続いて最初の処置から8週間後に追加の処置をした細胞の成長曲線。対照は、処置なし、ビヒクルのみまたはCI TERTを用いた4回の処置からなる(各処置ともn=3)。(b)TERT modRNA及びTERC RNAをモル比1:5で用いて処置した細胞の成長曲線(n=3)。(c)TERT modRNAで1回、2回または3回処置すると、MRC-5細胞に無処置細胞を上回る付加的な複製能が用量依存的に付与される。1回目の処置から48時間後に送達した2回目及び3回目の処置によって付与された増殖能の漸次的増加は、1回目の処置によって付与された増殖能の増加ほど大きくない。しかしながら、最初の3回の処置から数週間後の追加の4回目の処置では、1回目の処置と同等の付加的な増殖能が付与される。これは、処置によって付与される増殖能の量を最適化するためには、処置のタイミングが重要であることを示している。TERT modRNAをTERC modRNAとともに1:5のモル比で用いた3回の処置では、TERT modRNA単独による3回の処置よりも増殖能が大きくなる。ビヒクルのみまたはCI TERT modRNAによる処置は、付加的な複製能をもたらさない(n=3)。
【
図6】核GFP(nGFP)をコードするmodRNAで処置したMRC-5細胞のトランスフェクション効率の高さ。(a)無処置細胞の平均から3以上のSDである蛍光を有する細胞の割合(n=10000)。(b)平均蛍光(n=10000)。(c)トランスフェクトしたMRC-5細胞におけるnGFPの蛍光顕微鏡写真。DAPIで対比染色。
【
図8】TERT modRNA処置により、MRC-5細胞の細胞膨張が遅くなる。(a)血球計算盤上に示されたPD2及びPD53の無処置細胞の代表的な顕微鏡写真で示すように、初期継代のMRC-5細胞(左)は、後の継代の細胞(右)より数倍小さい面積である。(b)血球計算盤上(1つの小さな四角が50ミクロン幅)の目視で測定した場合の直径が25ミクロンを超えるものを膨潤とした場合、初期(PD2)及び中期(PD35)継代のMRC-5細胞がわずかな膨潤を示す一方、後期の継代(PD53)細胞は極めて多くの部分が膨張する。対照的に、CI TERT modRNAではなく、TERT modRNAで処置したPD53細胞は、PD40でわずかな膨張を示した。
【
図9】ヒト微小血管真皮内皮細胞(HMDEC)の成長曲線。
【
図10】HMDECの細胞数に対するTERT modRNA処置の作用。CO:対照処置、hTERT-CI:触媒不活性hTERT、hTERT-WT:野生型hTERT。
【
図11】HMDECの成長に対するTERT modRNA処置の作用。UT:無処置、CO:対照処置、CI:触媒不活性hTERT、WT:野生型hTERT。
【
図12】HMDECの老化に対するTERT modRNA処置の作用。NT:無処置、hTERT-CI:触媒不活性hTERT、hTERT-WT:野生型hTERT。
【
図13】修飾TERT mRNA送達後のTERT タンパク質及びテロメラーゼ活性の増加。(A)修飾ヌクレオチドプソイドウリジン及び5-メチルシチジンを使用して合成した、HBBの非翻訳領域(UTR)及び151ntポリAテールで挟まれたTERTの完全長機能型またはTERTの触媒不活性(CI)型のコード配列を有する修飾mRNAの概略図。(B)トランスフェクション24時間後にフローサイトメトリーで測定した、GFPをコードする修飾mRNA0.8μg/mlで処置した筋芽細胞(n=2,000)のトランスフェクション効率は、95%を上回った(
図16Aの追加プロット)。(C)総TERTタンパク質レベルは、定量的ウエスタンブロットで測定した(パネルC左、
図17)。TERTまたはCI TERT mRNAのいずれか1μg/mlを用いたトランスフェクション24時間後のTERTタンパク質レベルの定量化(n=3)。各種用量のmRNAに対応するTERTタンパク質の定量化は、フローサイトメトリーによって単一細胞レベルで測定した(n=10,000)(パネルC、右)。無処置細胞と比較して
*P<0.05、
**P<0.01。エラーバーは、s.e.m.を表す。(D)修飾TERT mRNA1μg/mlでトランスフェクトした線維芽細胞及び筋芽細胞におけるテロメラーゼ活性の検出。テロメア反復増幅プロトコル(TRAP)を用いて測定。矢印は、PCR効率の内部対照を示す。
【
図14】修飾TERT mRNA(modRNA)送達後のテロメア長及び増殖能の増加。(A)無処置線維芽細胞の平均テロメア長は、MMqPCR及びSpectraCellで測定した場合、培地中で経時的に減少した(相関係数0.97、P<0.001)。実験は技術的反復実験をそれぞれ4回にして2回繰り返した。(B)1μg/mlのTERT modRNA、CI TERT mRNAまたはビヒクルのみを48時間の間隔で1回、2回または3回連続してトランスフェクトした線維芽細胞における平均テロメア長。実験は技術的反復実験をそれぞれ4回にして2回繰り返した。ビヒクルのみで処置した細胞と比較して
**P<0.01、
***P<0.001。(C)(B)と同様に処置した筋芽細胞における平均テロメア長。実験は技術的反復実験をそれぞれ4回にして2回繰り返した。ビヒクルのみで処置した細胞と比較して
***P<0.001。(D)(B)と同様に処置した線維芽細胞の成長曲線。緑色の矢印は処置時を示す。成長曲線は、3試験で培養した各集団で2回繰り返した。複製能は、用量依存的に増加した(右パネル)。ビヒクルのみで処置した細胞と比較して
*P<0.05、
**P<0.01。(E)(B)と同様に処置した筋芽細胞の増殖能(緑色の矢印)。成長曲線は、3試験で培養した各集団で2回繰り返した。すべてのデータは平均値±s.e.m.で表す。
【
図15】修飾TERT mRNA送達後の老化関連マーカの一過的減少。(A)48時間の間隔で3回連続した修飾TERT mRNAトランスフェクション(緑色の矢印)後のβ-gal発現線維芽細胞の定量化。無処置、ビヒクルのみ及びCI TERT mRNA処置集団からなる対照細胞は、PD53で増大が停止し、TERT modRNA処置集団はPD80で増大が停止した。各実験は、1試料当たり50個を超える細胞(手作業で評価)で2回実施した。β-gal染色TERT modRNAで処置した線維芽細胞のPD53(上)及びPD80(下)の代表的画像を示す。スケールバーの長さは200ミクロンである。(B)(A)と同様に処置した筋芽細胞におけるβ-gal発現の定量化。対照は(A)と同様である。対照及びTERT modRNA処置集団は、それぞれPD8及びPD11で増大を停止した。各実験は、1試料当たり50個を超える細胞(手作業で評価)で2回実施した。PD2の筋芽細胞(上)及びPD11のTERT modRNAで処置した筋芽細胞(下)の代表的画像を示す。(C)修飾TERT mRNAで3回トランスフェクトした線維芽細胞における複製老化に関連した肥大化細胞の定量化。集団の停滞期は、(A)と同様である。対照は、ビヒクルのみとCI TERT mRNA処置である。各実験は、1試料当たり50個を超える細胞(手作業で評価)で2回実施した。無処置線維芽細胞のPD2(上)及びPD53(下)の代表的画像を示す。すべてのデータは平均値±s.e.m.で表す。スケールバーの長さは200ミクロンである。
【
図16】修飾mRNAのヒト筋芽細胞へのトランスフェクション効率の高さ。(A、B)GFPをコードする修飾mRNAを0.1~0.8μg/mlでトランスフェクトしたGFP蛍光性筋芽細胞(n=2000)の定量化。処置開始から24時間後にフローサイトメトリーによって測定。(C)用量増加に対する修飾GFP mRNAトランスフェクト筋芽細胞の平均蛍光。(D)1μg/mlのTERTまたはCI TERT modRNAによるトランスフェクションから24時間後の線維芽細胞における外因性TERT modRNAの定量化。RT-qPCRを用いた測定。TERTとCI TERTの比は、RPL37A及びGAPDHを参照遺伝子として、Pfaffl法を用いて算出した(n=3)。(E)1μg/mlのTERTまたはCI TERT modRNAによるトランスフェクションから24時間後の線維芽細胞における内因性TERT modRNAの定量化。qPCRを用いて測定し、(D)と同様に算出。すべてのデータは平均値±s.e.m.で表す。
【
図17】修飾mRNA送達後のTERTの発現。TERT modRNA1μg/mlによる処置の開始から24時間後に採取した線維芽細胞におけるTERTタンパク質発現を、多重赤外線ウエスタンブロットによって測定した。総タンパク質の連続希釈を使用して、対照に対するTERTタンパク質の相対量を比較するために標準曲線を作成した。ここで用いたTERT抗体の特異性は、広範囲に試験されている(Wu,2006)。
【
図18】10ulの細胞懸濁液とTERT modRNAを含む1mmキュベット中、200V、25uF、1000Ohmの設定でTERT modRNAを用いてエレクトロポレーションを行った単核球におけるテロメラーゼ活性の増加を示すTRAPゲル。熱処理した試料レーンには、ラダーの4番目の横棒の強いバンドで示されるように、本方法のプライマーダイマー人工産物が含まれる。
【
図19】GFPをコードするmodRNAを用いたエレクトロポレーション後の単核球蛍光の顕微鏡画像。
【
図20】GFP modRNAのヒト白血球(単核球)へのエレクトロポレーションは、高いトランスフェクション効率をもたらす。
【
図21】TERT modRNAの用量を増加させてエレクトロポレーションを実施した線維芽細胞におけるテロメラーゼ活性の増加を示すTRAPアッセイのゲル画像。
【
図22】CD3/CD28を用いて活性化し、GFP modRNAを用いてエレクトロポレーションを実施したCD8+T細胞がGFP活性を発現することを示す蛍光顕微鏡写真。黒い点は、CD3/CD28被覆ビーズである。
【
図23】TERT modRNAを用いたヒト表皮角化細胞のエレクトロポレーションにより、テロメラーゼ活性の発現がもたらされる。
【
図24】げっ歯類へのインビボ送達後のルシフェラーゼmodRNAの発現。
【発明を実施するための形態】
【0045】
テロメアは、染色体の末端にあるDNA配列であり、染色体の末端を保護しているが、時間の経過とともに短くなる。危機的に短いテロメアは、細胞の正しい機能の停止または死をもたらし得る。また、危機的に短いテロメアでは、染色体融合が生じ、癌に至ることもある。個別に診断された疾患がない場合であっても、短テロメアは、加齢による心身機能及び外見の緩やかな減退に関与している。
【0046】
しかしながら、テロメア短縮は、同時に、癌、たとえば、正常細胞よりも早い増殖をもたらす変異を細胞が取得する状態に対して、保護的役割を担い得る。この場合、テロメア短縮は、細胞の無限増殖及び癌の発生を防ぐ。したがって、テロメアを継続的に伸長させることは、必ずしも有益ではない。
【0047】
哺乳類のテロメアは、TTAGGGの配列が直列に繰り返されており、鳥類、爬虫類及び魚類などの他の動物では、繰返し配列が異なる。これらの動物種別のすべてにおいて、テロメアは、多くのキロベース(kb)で二本鎖になっている。平均テロメア長は、表1に示す通り、種によって異なる。
【表1】
【0048】
ヒトにおけるテロメアの長さは、誕生前は15~20kbから出発し、誕生時は12~15kbである。テロメアは、幼少期に急速に短くなり、成人期では毎年平均0~100bp程度短くなる。この割合は、細胞種、精神的ストレスまたは酸化ストレスへの曝露及び他の要因に応じて異なる。
【0049】
テロメアは、染色体の末端を保護するテロメア複合体の一部である。さらに、テロメア複合体は、総称してシェルタリンと呼ばれる一連のタンパク質からなる。テロメア複合体タンパク質には、POT1、TPP1、ATM、DAT、TRF1、TRF2、Rap1、Rif1、TIN2、NBS、MRE17及びRAD50ならびに異なる哺乳類ではこれらのホモログが挙げられる(Podlevsky and Chen(2012)Mutat.Res.730:3-11)。多くの種において、テロメアは、3’が突出した一本鎖の末端となっており、その部分が二本鎖領域へ入り込み、テロメア複合体タンパク質とともに、テロメア複合体内でループを形成している。
【0050】
テロメアは、酸化損傷及び姉妹染色分体交換によって、また、有糸分裂の際に染色体の末端が完全に複製されないという末端複製問題によって、時間の経過とともに短くなる。テロメアが危機的に短くなると、テロメア複合体はそれ以上染色体末端を保護することができなくなり、染色体末端が「キャップの外れた」状態になる。染色体末端のキャップが外れると、染色体と染色体の融合が生じ得、癌の原因となる場合がある(O’Sullivan and Karlseder(2010)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.11:171-181;Calado et al.(2012)Leukemia26:700-707;Artandi and DePinho(2010)Carcinogenesis31:9-18)。また、キャップが外れると、その染色体末端が損傷DNAとみなされ、DNA損傷反応が活性化し、細胞のアポトーシスまたは老化の引き金となる。老化は、生存可能な状態を維持するものの、細胞がそれ以上分裂しない停止状態であり、老化細胞は、一般的に、老化前の正常かつ有益な機能の実施を適切にまたは完全に停止する。したがって、テロメア短縮は、老化細胞の累積及びアポトーシスによる細胞の損失を原因の一端として、組織障害、身体能力及び若々しい外見の損失、知的能力の損失ならびに疾患を招く。事実、短テロメアを有する高齢者は、心筋梗塞(200%)(von Zglinicki et al.(2000)Laboratory Investigation;a Journal of Technical Methods and Pathology80:1739-1747)、血管性認知症(200%)(Testa et al.(2011)Diabetic Medicine28:1388-1394)、合併症を伴う糖尿病(400%)(Blackburn et al.(2010)Cancer Prevention Research3:394-402)、癌(Stern and Bryan(2008)Cytogenetic and Genome Research122:243-254)、脳卒中、アルツハイマー病、感染症(750%)、特発性肺線維症及び他の疾患を発症する可能性が約200~750%高い。1つの組織内に短テロメアがある人は、他の組織の大部分でも短テロメアがある可能性がある。このため、短テロメアは、ある個人における多くの疾患のリスク上昇と相関関係がある(Takubo et al.(2010)Geriatr Gerontol Int.10 Suppl1:S197-206;doi:10.1111/j.1447-0594.2010.00605.x)。短テロメアはまた、細胞の複製能を制限するため、細胞療法及び再生医療の範囲を狭めている。逆に言えば、ウイルスによる遺伝子工学法を用いて、短テロメアを有するマウスのテロメア長を増やすと、皮膚の厚み及び弾力、肝機能ならびに嗅覚を含めた複数のパラメータでマウスが若返る(Jaskelioff(2011)Nature469:102-107)。
【0051】
テロメラーゼがテロメアを伸長させるので、テロメアを伸長させる有用な方法は、細胞内のテロメラーゼ活性レベルを上げることである。表2に列挙する因子及び条件を含めた、細胞内のテロメラーゼ活性を上昇させる多くの因子及び条件が報告されている。
【表2】
【0052】
しかしながら、表2の処置例は、望ましくない効果がある。たとえば、成長因子、ホルモンまたはサイトカインを用いた処置は、副作用を生じ、複数のシグナル伝達経路を活性化し、不必要な細胞複製を生じ、免疫反応の引き金となる可能性があり、概して非特異的である。プラスミドまたはウイルスを用いる遺伝子治療は、挿入変異によるゲノム変異のリスク及び癌のリスクを伴う。未修飾RNAによるトランスフェクションは、強い免疫反応を引き起こし、テロメアの伸長が認められていない。理学的治療は、ゲノムDNAに損傷を与え得る。植物由来小分子による治療は、一部の対象及び細胞のテロメアのみを伸長させるだけで、極めて緩慢なテロメア伸長しかなく、習慣的な送達を必要とし、そのため癌のリスクがあることがわかっている。
【0053】
hTERT及びTERCをコードする核酸配列の細胞内発現、ならびにこれらの構成要素の使用は、ヒト疾患の診断、予後及び治療に有用であることが提案されているが(たとえば、米国特許第5,583,016号及び同6,166,178号を参照)、迅速かつ一過性であって上記の理由に対して潜在的に安全であるテロメア伸長は、示されていない。Saebe-Larssen et al.(2002)J.Immunol.Methods259:191-203によれば、hTERTをコードするmRNAを用いた樹状細胞のトランスフェクションでは、当該細胞がテロメラーゼ活性を取得したが、この標準的なmRNAを用いたトランスフェクションでは、テロメア伸長よりもhTERT細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答が強く引き起こされたことが報告された。
【0054】
さらに、すべての既存の小分子治療は、主に、テロメラーゼの触媒要素であり、翻訳後に大きな調節を受けるTERTを介して作用するために、既存処置の効果を細胞のごく一部に限定するものであり、幹細胞及び前駆細胞などの中間期またはG0期にある細胞を除いて(Cifuentes-Rojas and Shippen(2012)Mutat.Res.730:20-27;doi:10.1016/j.mrfmmm.2011.10.003;Cong et al.(2002)Microbiology and Molecular Biology Reviews66:407-425)、概ね効果がなく、緩慢である(Harley et al.(2011)Rejuvenation Research14:45-56)。この調節は、一部には、テロメラーゼ複合体の構成要素、テロメア複合体及び他の分子の間の相互作用によってもたらされている。たとえば、TERTは、複数のキナーゼ及びホスファターゼによって複数の部位でリン酸化または脱リン酸化され、いくつかの部位では、リン酸化反応によりテロメラーゼ活性が高められるが(たとえば、Aktによるリン酸化反応)、他の部位では、リン酸化反応によりテロメラーゼ活性が減少する(たとえば、Src1またはcAb1によるリン酸化反応)。さらに、TERTは、特定の部位でユビキチン化または脱ユビキチン化される。TERTはまた、TERTの特定の部位で他のタンパク質と相互作用し、TERTの不活性化(たとえば、Pinx1もしくはcAb1との相互作用)、またはTERTの染色体からの輸送(たとえば、CRM1及びPinx1との相互作用)が起こり得、テロメア伸長が回避されたり、鈍化が生じる。その上、一部のタンパク質がテロメアまたはテロメア複合体に結合し、TERTをブロックして(たとえば、POT1)、テロメア伸長を回避する。さらに、一部のタンパク質、たとえば、ヘリカーゼ及びUPF1は、テロメア伸長を間接的に促進する。調節機構に起因して、テロメラーゼ活性が細胞周期のS期中に最大になるため、迅速に分裂する細胞は、テロメラーゼ活性を上昇させる処置からより利益を得られる傾向がある。しかしながら、細胞を緩慢な分裂状態または非分裂状態に保持することが望ましいことも多く、たとえば、幹細胞または前駆細胞は、多くの場合、ゆっくり分裂するため、その時間の大部分を中間期またはG0期で過ごし得る。したがって、既存の処置は、概してほとんどの細胞種、ならびに中間期及びG0期のすべての細胞種では、緩慢であり、かつ効果がない。緩慢な処置は、長期間の処置を必要するので、安全性が低い。テロメア短縮は、暴走した細胞増殖、たとえば癌における細胞増殖に対して、保護安全機構を提供するため、テロメアを迅速に伸長させる処置が、短時間かつ低頻度で行うことができ、したがって正常なテロメア短縮安全機構を多くの時間有効な状態に維持することができるので、概してより安全である。したがって、短時間の処置中にテロメラーゼ調節を一過的に抑制し、テロメアを迅速に伸長させられる方法が求められている。
【0055】
TERTは、表3に列挙するものを含め、数百の遺伝子を調節する。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0056】
多くの場合、表3の遺伝子または経路の調節は、細胞に不必要な変化をもたらし得るので、望ましくない。たとえば、TERTは、エピジェネティック制御因子を活性化し、細胞表現型を変更したり、治療目的のための細胞の再プログラムまたは分化転換への作用を阻害し得る。TERTは、成長促進因子を活性化するが、増殖が望ましくない場合も多い。たとえば、再生可能性の最も高い幹細胞は、多くの場合、ゆっくり分裂する細胞である。TERTは、細胞運命及び分化を調節し、特定の細胞種への細胞分化作用を阻害し得る。TERTはまた、癌原遺伝子を活性化し、癌を引き起こし得る。したがって、TERTを用いてテロメアを伸長させるあらゆる処置を含めて、TERTレベルを人工的に上昇させる間の時間数を最小限に抑えることが望ましい。したがって、テロメラーゼ活性レベルを一過的にのみ上昇させることでテロメアを伸長させる処置が必要である。
【0057】
いくつかの細胞種では、TERTが他の遺伝子の発現に影響を与えることがわかっており(Young et al.(2003)J.Biol.Chem.278:19904-19908;Perrault et al.(2005)Biochem.Biophys.Res.Commun.335:925-936)、場合によっては望ましくないこともある。そのため、TERTレベルを上昇させる間の時間数を最小限に抑える処置が必要である。
化合物
【0058】
本発明は、一態様では、細胞内における外因性テロメラーゼの一過性発現のための新規化合物を提供することによって、これらの問題に対処するものである。当該化合物は、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含有し、かつテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)をコードする合成リボ核酸を含み、当該化合物で処置した細胞内でテロメアが伸長するものである。
合成リボ核酸
【0059】
本発明の種々の態様に係るTERTの一過性発現にて使用されるリボ核酸は、TERTタンパク質をコードするリボ核酸を含む。リボ核酸は、一般に、細胞内でのリボ核酸の発現及び/または安定性に影響を与える配列をさらに含む。たとえば、
図1aに示すように、リボ核酸は、5’キャップならびにコード配列の5’及び/または3’側に非翻訳領域(UTR)を有し得る。リボ核酸は、ポリAテールなどの3’テールをさらに有し得る。ポリAテールは、たとえば、リボ核酸の安定性を高め得る。いくつかの実施形態において、ポリAテールは、少なくとも75個のヌクレオチド、100個のヌクレオチド、125個のヌクレオチド、150個のヌクレオチドまたはさらに長いヌクレオチドである。
【0060】
いくつかの実施形態において、リボ核酸の5’キャップは、非免疫原性のキャップである。いくつかの実施形態において、5’キャップは、リボ核酸の翻訳を増加し得る。いくつかの実施形態において、5’キャップは、ホスファターゼで処理して、リボ核酸の本来の免疫原性を調節してもよい。いくつかの実施形態において、5’キャップは、3’-O-Me-m7G(5’)ppp(5’)G RNAキャップ構造アナログなどの非逆方向キャップアナログ(「ARCA」)である。
【0061】
当該技術分野にてよく知られているように、上記の特徴または他の特徴は、リボ核酸がコードするTERTタンパク質の翻訳を増加し得、リボ核酸自体の安定性を改善し得、またはこの両方を可能にし得る。いくつかの実施形態において、5’UTR及び/または3’UTRは、非常に安定なmRNA及び/または迅速に翻訳されるmRNA、たとえば、α-グロビンもしくはβ-グロビン、c-fosまたはタバコエッチ病ウイルスなどのmRNAを有する遺伝子に由来する。いくつかの実施形態において、5’UTR及び3’UTRは、異なる遺伝子に由来するか、または当該組成物を送達しようとする種とは異なる種に由来する。UTRはまた、異なる遺伝子のmRNAから得たUTRの部分の集合体であってよい。この場合、これらの部分は、安定性と翻訳効率の一定の組み合わせを達成するように選択される。
【0062】
本発明のリボ核酸は、好ましくは、ヌクレオシド修飾RNA(「modRNA」)である。真核細胞内のほとんどの成熟RNA分子は、標準的な未修飾RNAヌクレオシドのアデニン、シチジン、グアノシン及びウリジンの修飾型であるヌクレオシドを含む。こうした修飾により、RNAが外来RNAとして認識されるのを防ぐことができる(Kariko et al.(2005)Immunity23:165-175)。特定のヌクレオシドを用いて作製した合成RNA分子は、未修飾RNAよりも免疫原性がはるかに低い。免疫原性は、合成modRNAを精製することによって、たとえば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して精製することで、さらに低減することができる。修飾ヌクレオシドは、たとえば、表4に示すヌクレオシドから選択することができる。ヌクレオシドは、いくつかの実施形態において、プソイドウリジン、2-チオウリジンまたは5-メチルシチジンである。いくつかの状況において、ある程度の免疫原性を保持する修飾RNAが望ましい場合がある。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0063】
理論に束縛されるものではないが、修飾ヌクレオシドが存在することで、modRNAが、Toll様受容体及びRIG-1を含む各種受容体によってもたらされる免疫反応の活性化を受けないようにすることができる。マウスでは非免疫原性modRNAが局所送達を介した治療薬として使用されている(Kormann et al.(2011)Nature Biotechnology29:154-157)。ヌクレオチド修飾mRNAの発見により、RNAまたはその変異体をコードする治療用タンパク質の送達、及び細胞内における当該タンパク質の発現が容易になる。
【0064】
したがって、いくつかの実施形態において、本組成物リボ核酸は、プソイドウリジン、2-チオウリジン、5-メチルシチジンまたは表4のヌクレオシドを含む。いくつかの実施形態において、リボ核酸は、2つ以上の上記のヌクレオシドまたは上記のヌクレオシドの組み合わせを含む。極めて好ましい実施形態において、リボ核酸は、プソイドウリジン及び5-メチルシチジンを含む。
【0065】
いくつかの実施形態において、modRNAに対する免疫反応が望ましい場合があり、最適レベルの先天性免疫を誘発するようにRNAを修飾してよい。他の実施形態において、modRNAに対する免疫反応が望ましくない場合があり、こうした反応を最小限に抑えるためにRNAを修飾してよい。RNAはいずれの場合でも修飾され得る。
【0066】
本発明のリボ核酸は、好ましくは合成リボ核酸である。「合成」という用語は、本明細書で使用する場合、リボ核酸が、いくつかの実施形態において、分子生物学用器具を使用して人の指揮下で、たとえば以下に記載されるように作製されることを意味する。合成リボ核酸は、たとえば、細胞抽出物または精製酵素及び核酸テンプレートを使用してインビトロ合成によって作製され得る。合成リボ核酸は、いくつかの実施形態において、部分的にまたは完全に化学合成によって作製され得る。代替としてまたは加えて、合成リボ核酸は、いくつかの実施形態において、細胞内の工学的発現、細胞の破壊及びリボ核酸の少なくとも部分的な精製によって作製され得る。一方、天然リボ核酸は、抽出も精製もなく、未改質細胞で発現されるので、合成リボ核酸は、天然リボ核酸ではない。
【0067】
本発明のリボ核酸は、当業者であれば理解するであろう種々の標準的な技術を使用して作製してもよい。いくつかの実施形態において、たとえば、米国特許出願公開第2009/0286852号及び同2011/0143397号に記載されているようなインビトロ合成でリボ核酸を作製してもよい。いくつかの実施形態において、化学合成によってリボ核酸を作製してもよい。いくつかの実施形態において、インビトロ合成と化学合成との組み合わせによってリボ核酸を作製してもよい。上記の通り、「合成」という用語は、化学合成、インビトロ合成、インビボ発現及び少なくとも部分的な精製、またはこれらの方法もしくは他の方法、化学的方法もしくは分子生物学的方法の組み合わせのいずれかによって作製されるリボ核酸を包含するように理解されるべきである。
【0068】
本発明のリボ核酸は、いくつかの実施形態において、精製され得る。上記のように、精製により、リボ核酸の免疫原性が低減し得、ある場合には有利であり得る。米国特許出願公開第2011/0143397号も参照されたい。好ましい実施形態において、リボ核酸は、HPLCまたはアフィニティーキャプチャー及び溶出により精製される。
【0069】
TERTのタンパク質構造は、保存ドメイン及び非構造化リンカー領域を含むアミノ末端の長い伸長部(N末端伸長部、NTE)と、7つの保存RTモチーフを含む一次配列の中間にある触媒逆転写酵素ドメインと、カルボキシル末端の短い伸長部(C末端伸長部、CTE)の少なくとも3つの個別ドメインを含む(Autexier and Lue(2006)Annu Rev Biochem.75:493-517)。いくつかの実施形態において、本発明のリボ核酸は、完全長TERTをコードする。いくつかの実施形態において、リボ核酸は、TERTの触媒逆転写酵素ドメインをコードする。いくつかの実施形態において、リボ核酸は、TERT活性を有するポリペプチドをコードする。
【0070】
本開示のリボ核酸がコードするTERTは、好ましくは、哺乳類、鳥類、爬虫類または魚類のTERTである。より好ましくは、TERTは、ヒトTERTなどの哺乳類のTERTである(Meyerson et al.(1997)Cell90:785-795;Nakamura et al.(1997)Science277:955-959;Wick et al.(1999)Gene232:97-106)。2つのヒトTERTアイソフォームのアミノ酸配列がNCBIのリファレンス配列(NP_937983.2及びNP_001180305.1)として入手可能である。本組成物のリボ核酸が有用にコードする他の非限定的な例示的アミノ酸配列には、ネコ(NCBIリファレンス配列:XP_003981636.1)、イヌ(NCBIリファレンス配列:NP_001026800.1)、マウス(NCBIリファレンス配列:NP_033380.1)、ウシ(NCBIリファレンス配列:NP_001039707.1)、ヒツジ(NCBIリファレンス配列:XP_004017220.1)、ブタ(NCBIリファレンス配列:NP_001231229.1)、アフリカゾウ(NCBIリファレンス配列:XP_003408191.1)、ニワトリ(NCBIリファレンス配列:NP_001026178.1)、ラット(NCBIリファレンス配列:NP_445875.1)、ゼブラフィッシュ(NCBIリファレンス配列:NP_001077335.1)、メダカ(NCBIリファレンス配列:NP_001098286.1)及びチンパンジー(NCBIリファレンス配列:XP_003950543.1及びXP_003950544.1)由来のTERTが挙げられる。
【0071】
本発明のリボ核酸は、上記で列挙したアミノ酸配列のいずれかの変異体、特に欠失変異体を含めたテロメラーゼ触媒活性を保持する変異体をコードし得ることを理解すべきである。いくつかの実施形態において、本組成物のリボ核酸は、上記で列挙したアミノ酸配列または当該配列と少なくとも95%の配列同一性を有する配列のうち1つをコードする。いくつかの実施形態において、本組成物の核酸は、上記で列挙したアミノ酸配列または当該配列と少なくとも98%、99%、99.9%またはさらに高い割合の配列同一性を有する配列のうち1つをコードする。
【0072】
また、本リボ核酸は、上記で列挙したTERTタンパク質をコードする天然型遺伝子配列に相当し得るか、または当業者であれば理解するであろう遺伝子コードの冗長に起因して可能となる変異体に相当し得ることを理解すべきである。いくつかの実施形態において、コドン選択は、当業者によって知られているアルゴリズム及び方法を使用して、タンパク質発現を最適化するために最適化され得る(Fath et al.(2011)PLoS ONE6:3.)。
組成物
【0073】
別の態様では、本発明は、細胞内におけるテロメア伸長のための組成物を提供する。当該組成物は、上述した本発明の化合物と、さらなる成分を含む。いくつかの実施形態において、当該組成物は、テロメラーゼRNA構成要素(TERC)をさらに含む(以下の表6も参照のこと)。いくつかの実施形態において、当該組成物は、送達担体をさらに含む。
送達担体
【0074】
今述べたように、本開示の組成物は、リボ核酸のための送達担体をさらに含み得る。送達担体は、場合により、当該組成物のリボ核酸の標的細胞へのターゲティング及び取込みを促進し得る。特に、本開示の組成物は、当該技術分野にて知られている任意の遺伝子送達担体、たとえば、ナノ粒子、リポソーム、遺伝子銃用弾丸粒子、ウイルス、カチオン性脂質、Lipofectamine(登録商標)RNAiMaxなどの市販品または他の担体を含み得る。いくつかの実施形態において、送達担体は、エキソソーム、脂質ナノ粒子、高分子ナノ粒子、天然もしくは人工のリポタンパク質粒子、カチオン性脂質、タンパク質、タンパク質-核酸複合体、リポソーム、ビロソームまたはポリマーである。いくつかの好ましい実施形態において、送達担体は、カチオン性脂質製剤である。しかしながら、ウイルス送達は、挿入変異をもたらし得るため、通常好ましくない。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態において、送達担体は、エキソソーム、脂質ナノ粒子または高分子ナノ粒子である。極めて好ましい実施形態において、送達担体は、エキソソームである。エキソソームは、直径40~100nmの天然脂質二重膜小胞である。エキソソームは、一連の特定タンパク質を含む。これらには、膜タンパク質Lamp-1及びLamp-2が挙げられ、特に豊富である(Lakhal and Wood(2011)BioEssays:News and Reviews in Molecular,Cellular and Developmental Biology33:737-741)。2007年、エキソソームは、1,300種類を超えるmRNA及び121種類の非コードmicroRNAを含む、RNA及びタンパク質の天然キャリアであることが発見された。エキソソームはまた、種間でmRNAを伝達することができる。ヒト細胞がマウスmRNAを保持するマウスエキソソームに曝露すると、マウスmRNAの翻訳がヒト細胞で生じる。
【0076】
RNA、タンパク質またはDNAの送達担体として、エキソソームは、他の代替担体に勝る多数の利点がある。特に、エキソソームは、患者自身の細胞から作製することができるため、非免疫原性にできる。したがって、抗体、補体、凝固因子またはオプソニンによって攻撃されることがない。さらに、エキソソームには、エレクトロポレーションによって核酸を搭載することができ、ヒト細胞間でmRNA及びタンパク質を運ぶ天然担体となる。エキソソームは、RNA及びタンパク質の積荷を輸送の間保護し、その積荷は、直接サイトゾルに送達される。エキソソームは、血流から血管外組織へ溢出し、血液脳関門さえ通過して、ターゲット化され得る。さらに、エキソソームは、非標的臓器、たとえば肝臓などの臓器での蓄積を回避する。したがって、疾患処置における治療用mRNAまたは他の積荷を送達するために、エキソソームを細胞由来の「リポソーム」として使用することができる(Mizrak et al.(2013)Molecular Therapy21:101-108;doi:10.1038/mt.2012.161)。エキソソームの細胞へのmRNA送達に関する図を
図2に示す。van den Boorn et al.(2011)Nature Biotechnology29:325-326も参照されたい。
【0077】
ほとんどの細胞種がエキソソームを産生することができると考えられており、血液、唾液、尿、脳脊髄液、母乳及び羊水を含む大部分の生物流体中にエキソソームがみられる。エキソソームは、存在量は異なるが、大部分の細胞種によって産生される。T細胞活性化因子を含まない豊富なエキソソームは、ヒト血液中に存在する未成熟樹状細胞に由来し得る(O’Doherty et al.(1994)Immunology82:487-493)。エキソソームはまた、人工的に、たとえば組換えエキソソームタンパク質と、エキソソーム膜中にみられるような脂質及びリン脂質とを組み合わせることによって作製することもできる。あるいは、リポソームと一部のエキソソーム表面タンパク質のインビトロ自己集合によって、エキソソームを構築することもできる。
【0078】
エキソソームの薬剤送達の可能性は、2011年に最初に実証された(Alvarez-Erviti et al.(2011)Nature Biotechnology29:341-345)。具体的には、狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)由来の28a.a標的リガンドを融合させたLamp2B融合タンパク質を発現するように遺伝子操作された樹状細胞からエキソソームが採取され、siRNAをエキソソームにエレクトロポレーションで挿入し、当該樹状細胞を取得したマウスと免疫適合性のあるマウスにこのエキソソームが注入された。したがって、このエキソソームは自己由来のものであり、IL-6、IP-10、TNF-α及びIFN-αのレベルを測定したところ、免疫反応は引き起こされなかった。さらに、1ヶ月を超えた反復投与でも同様の反応が誘発され、適応免疫反応もないことが実証された。
【0079】
上述の通り、エキソソームは、自己由来であり得、したがって免疫原性が低い。同じくmodRNAも免疫原性が低いので、リボ核酸であるmodRNAと、送達担体であるエキソソームとの組み合わせが、本開示の組成物において特に好ましい。したがって、これらの実施形態において、本開示は、mRNAまたはmodRNAをエキソソームを使用して細胞または組織に送達する新しい方法を提供する。こうした送達は、静脈内または局所注入によってエキソソームで送達されたRNAを使用して、細胞内の任意のタンパク質のレベルをインビボで一時的に上昇させるのに有益な方法、特に、TERTをコードするRNAの送達において有益な方法を提供する。したがって、好ましい実施形態において、本組成物の送達担体は、非免疫原性である。しかしながら、いくつかの状況において、ある程度の免疫原性を保持する担体が望ましい場合がある。
追加成分
【0080】
本明細書にて開示される組成物は、当該組成物の標的細胞への送達を高めるか、細胞内でのテロメア伸長を高めるか、またはこの両方をもたらす追加成分をさらに含み得る。たとえば、当該組成物は、表2の化合物及び条件のうち1つ以上をさらに含み得る。当業者であれば理解するように、活性成分の組み合わせは、所望の活性、たとえば、細胞内における外因性テロメラーゼ活性の一過性発現などの活性に対して相乗効果を呈することが多く、こうした組み合わせも本発明の範囲内であることが理解される。本開示の組成物内に含めることができるタンパク質の追加例を表5に示す。当該組成物が、タンパク質自体、またはこれらのタンパク質もしくは列挙したタンパク質の活性を保持する配列同一性の高いタンパク質をコードする核酸配列(好ましくはRNAもしくはmodRNA)を含み得ることを理解すべきである。
【表5-1】
【表5-2】
【0081】
本開示の組成物内に有益に含めることができる因子の他の例を表6に示す。
【表6】
【0082】
細胞周期のある段階でTERTが最も活発になるため、本開示の組成物はまた、TERT処置の有効性を高めるために、1つ以上の細胞増殖の一過性活性物質を任意で含み得る。こうした物質には、たとえば、細胞内のRbまたはP19/Arfなどの細胞周期阻害因子の量を一過的に低減させるRNAi試薬を挙げることができる。当業者であれば理解するであろう、他の細胞増殖一過性活性物質も本組成物に有益に含めることができる。
テロメア伸長方法及び処置方法
【0083】
別の態様では、本開示は、上記の化合物または組成物のいずれかを短縮テロメアを有する細胞に投与する工程を含み、当該細胞内でテロメアが伸長する、テロメアを伸長させるための方法を提供する。本開示はまた、上記の化合物または組成物のいずれかを、テロメア伸長を必要とする動物対象またはテロメア伸長の恩恵を受け得る動物対象に投与する工程を含む、処置方法を提供する。
【0084】
好ましい実施形態において、当該化合物または組成物は、細胞に投与され、当該細胞は、単離細胞であるか、または細胞培養物、分離組織培養物、摘出臓器などの一部である(すなわち、投与がインビトロである)。
【0085】
他の好ましい実施形態において、当該化合物または組成物は、対象から細胞、組織または臓器を取り出すことなく、投与される(すなわち、投与がインビボである)。これらの実施形態のいくつかにおいて、当該化合物または組成物は、対象体内のすべての細胞またはほとんどすべての細胞に送達される。いくつかの実施形態において、当該化合物または組成物は、対象体内の特定の細胞または組織に送達される。
【0086】
いくつかの実施形態において、対象は、哺乳動物、鳥、魚または爬虫類動物である。好ましい実施形態において、対象は哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。他の好ましい実施形態において、対象は、愛玩動物、動物園の動物、畜産動物または絶滅危惧種の動物である。好ましい対象種の例を表7に示す。
【表7】
【0087】
インビトロ用途では、当該化合物または組成物は、細胞生物学の各分野の当業者であれば理解するであろう、細胞培養、組織培養、臓器培養などの任意の好適な技術を使用して、投与することができる。インビボ用途では、当該化合物または組成物は、注射、局所適用、吸入、または医療技術分野などの当業者であれば理解するであろう任意の他の好適な投与技術を使用して、有益に投与することができる。
【0088】
上述の通り、本開示の方法に従って有益に処置される細胞には、テロメア伸長の恩恵を受け得る対象内の細胞(インビボ投与の場合)または当該対象由来の細胞(インビトロ投与)のいずれかが挙げられる。ほとんどの動物のほぼすべての細胞種に短テロメアが影響を与えるので、テロメア伸長は多くの動物にとって利益となり得る。一過性かつ短期間のテロメア伸長処置は、上記のように、安全であり得る。したがって、本明細書にて開示する一過性処置を用いたテロメア伸長は、たとえば短テロメアが関与する多くの疾患及び症状の予防もしくは発症遅延のための予防手段として、またはこれらの疾患及び症状のための治療として、すべての個人または大部分の個人にとって有用であり得る。当該処置は、加齢に関連する疾患もしくは症状のリスクがある対象、またはこれらの疾患に既に罹患している対象に利益をもたらし得、また、激しい運動もしくは肉体労働などの身体的外傷もしくは慢性的な身体的ストレス、または心的外傷もしくは慢性的な精神的ストレスはすべてテロメア短縮を招くので、すなわち、身体的ストレスまたは外傷は、生じた損傷を回復するために細胞分裂を必要とするためにテロメアが短くなり、またこれらの状態は、テロメアを同じく短くさせる酸化ストレスを引き起こし得るので、これらの状態を経験した対象、経験している対象、これらのリスクがある対象に利益をもたらし得る。このような疾患及び症状としては、たとえば、メタボリック症候群、糖尿病、糖尿病性潰瘍、心臓疾患、癌の多数の形態、血管性認知症、アルツハイマー病、脳卒中、加齢関連黄斑変性症、免疫老化、骨髄機能不全、胃腸潰瘍、肝硬変、ヘルニア、免疫機能不全に続く肺炎などの感染症、慢性感染症、中等度または重度の認知障害、運動障害、骨粗鬆症、変形性関節症、慢性関節リウマチ、加齢関連の不安症、平衡障害、耳鳴り、ベル麻痺、白内障、COPD、角膜上皮剥離、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、結膜炎、霰粒腫、脱水症、鬱病、肺気腫、各種眼疾患、成長障害、流感、全般性不安障害、緑内障、聴力損失、味覚損失、食欲不振、股関節脱臼、記憶喪失、パーキンソン病、脊椎管狭窄症、尿失禁、脊椎骨折、及びその他が挙げられる。
【0089】
また、本方法に従って有益に処置される細胞には、加齢に関連する疾病もしくは症状を患っている対象内の細胞もしくは当該対象由来の細胞、またはかかる疾病もしくは症状に罹患するリスクのある対象内の細胞もしくは当該対象由来の細胞も挙げられる。このような加齢に関連する疾病及び症状には、テロメラーゼ複合体またはテロメア複合体の構成要素をコードする遺伝子が突然変異するために短テロメアを引き起こす遺伝子疾患が含まれ得る。かかる疾患には、たとえば、特発性肺線維症、先天性角化不全症及び再生不良性貧血が挙げられる。
【0090】
したがって、遺伝子疾患の場合、当該組成物は、かかる疾患の影響を受ける遺伝子(たとえば、DKC1、TINF2、NOP10、NHP2、TERCまたは他の遺伝子)の正常機能型であるコード配列などの別の核酸をさらに含み得る。かかる遺伝子の例を表8に示す。Armanios(2009)Ann.Rev.Genomics Hum.Genet.10:45-61も参照されたい。
【表8】
【0091】
さらに、当該処置は、短テロメアが一因となり得る、たとえば筋ジストロフィーなどの他の種類の遺伝子疾患を患っている対象、またはそのリスクのある対象に利益をもたらし得る。こうした疾患では、遺伝子突然変異によって生じた問題に対処するために細胞複製が必要とされることで、テロメアが通常よりも急速に短くなり、その結果、通常よりも急速なテロメア短縮が生じて、細胞の複製能が消耗し、組織障害、症状の悪化または増加、身体障害及び時には死をもたらす。さらに、本発明の化合物による処置によって、種々の癌を予防または遅延することができる。実際、危機的に短いテロメアによって引き起こされる染色体と染色体の融合が癌の一因であると考えられている。また、癌細胞のテロメアを伸ばさずに、個体の健全な細胞内のテロメアを選択的に伸ばすことができる。これは、本化合物、組成物及び方法を使用して、たとえば、免疫系のテロメアを伸長し、癌に対抗する能力を向上させることで可能となる。さらに、個体から免疫系細胞を採取し、本発明をエクスビボで用いて処置し、続いて個体に再導入してもよい。
【0092】
いくつかの実施形態において、本方法に従って処置される細胞は、疾患状態がまだ現れていないが、短テロメアの関与する症状もしくは疾患のリスクがある対象、または細胞に短縮したテロメアを含む対象に由来するものである。いくつかの実施形態において、加齢関連疾病は、単なる老化である。本処置はさらに、加齢に関連した皮膚、髪、骨格、姿勢、目の透明度または加齢に伴って衰える他の特性の外見の衰えを予防、遅延または改善するための美容補助としても使用することができる。たとえば、トロメア伸長によって皮膚の弾力性、厚み、滑らかさ及び外見を改善することができるので、これらの特性を維持するのに役立てるために、当該処置を用いることができる。骨折または組織破壊、すなわち切傷もしくは熱傷などの身体的外傷の場合、外傷の治癒に関与する細胞内のテロメアの長さを増やし、その複製能を向上させるために、本発明を用いることができる。テロメア短縮を引き起こす慢性身体的ストレスの場合、本発明による処置で、影響を受けた細胞内のテロメアが伸び、その複製能及び組織損傷の回復能を向上させることができる。たとえば、hTRまたはhTERTなどのテロメラーゼ構成要素のハプロ不全を有するヒトでは、テロメア短縮が世代を超えて蓄積するので(Armanios(2009)Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.10:45-61)、卵子、精子もしくはこれらの前駆体などの生殖細胞、または受精卵もしくは胚子に、たとえば体外受精の工程中に、本開示の処置を適用することができる。当該処置は、種々の疾患または症状の他の治療、たとえばインビボでの細胞の分化転換などを支援するのにも有用であり得る。当該処置法はまた、外科手術または化学療法または放射線治療の前またはその最中に、細胞の複製能を向上させ、これらの処置に起因する損傷を回復するのに有用であり得る。
【0093】
当該方法はまた、自己由来細胞または異種由来細胞治療、生体工学、組織工学、人工臓器の培養、人工多能性幹細胞(iPSC)の作製、及び細胞の分化、脱分化または分化転換を含めた各種用途のためにインビトロで細胞を処置するのに有用であり得る。これらの用途では、細胞が何度も分裂する必要があり、これによりテロメア長の損失が生じ得るため、当該用途の前、最中または後に本発明によってこの影響を相殺することができる。
【0094】
さらに、様々な種類の癌を、特に癌細胞が短テロメアを含む場合、加齢関連疾病とみなすことができる。ある場合には、本方法に従って処置される細胞は、疾患状態がまだ現れていないが、細胞に短縮したテロメアを含む対象に由来するものである。いくつかの実施形態において、加齢関連疾病は、単に、ヒトの加齢老化に典型的に関連して変化した形態及び機能である。
【0095】
本方法に従って本開示の化合物または組成物を有益に投与する細胞は、短縮テロメアの影響を受け得るか、細胞のテロメア伸長によりいずれの形態であれ恩恵を受け得る任意の組織または細胞種に由来する細胞を含む。細胞は、体細胞または生殖細胞のみならず、幹細胞及び他の前駆細胞ならびに/または未分化細胞を含み得る。細胞は、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞を含み得る。
【0096】
本方法に従って化合物または組成物を有益に投与する細胞の例は、内胚葉に主に由来する細胞、外胚葉に主に由来する細胞、及び中胚葉に主に由来する細胞を含む。内胚葉に主に由来する細胞には、たとえば、外分泌上皮細胞及びホルモン分泌細胞が挙げられる。外胚葉に主に由来する細胞には、たとえば、外皮系細胞(たとえば、角質化上皮細胞及び湿性重層バリア上皮細胞)ならびに神経系(たとえば、感覚変換細胞、自律神経細胞、感覚器官及び末梢ニューロン支持細胞、中枢神経系ニューロン及びグリア細胞、ならびにレンズ細胞)が挙げられる。中胚葉に主に由来する細胞には、たとえば、代謝及び貯蔵細胞、バリア機能細胞(たとえば、肺、消化管、外分泌腺及び泌尿生殖管の細胞)、細胞外マトリックス細胞、収縮性細胞、血液及び免疫系細胞、生殖細胞、ナース細胞、ならびに間質細胞が挙げられる。したがって、本方法のいくつかの実施形態において、当該組成物を投与する細胞は、内胚葉、中胚葉または外胚葉系列の体細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、生殖細胞または胚性細胞である。
【0097】
本方法に従って化合物または組成物を投与し得る細胞の具体例には、たとえば、唾液腺粘液細胞、唾液腺漿液細胞、舌のフォンエブネル腺細胞、乳腺細胞、涙腺細胞、耳の耳道腺細胞、エクリン汗腺暗細胞、エクリン汗腺明細胞、アポクリン汗腺細胞、眼瞼のモル腺細胞、皮脂腺細胞、鼻のボーマン腺細胞、十二指腸のブルンナー腺細胞、精嚢細胞、前立腺細胞、尿道球腺細胞、バルトリン腺細胞、リトレ腺細胞、子宮内膜細胞、気道及び消化管の単離杯細胞、胃壁粘液細胞、胃腺酵素原細胞、胃腺酸分泌細胞、膵腺房細胞、小腸のパネート細胞、肺のII型肺胞上皮細胞、肺のクララ細胞、下垂体前葉細胞(たとえば、成長ホルモン産生細胞、乳腺刺激ホルモン分泌細胞、甲状腺刺激ホルモン産生細胞、性腺刺激ホルモン産生細胞、及び副腎皮質刺激ホルモン分泌細胞)、下垂体中葉細胞(たとえば、メラノサイト刺激ホルモンを分泌する細胞)、巨細胞性神経分泌細胞(たとえば、オキシトシンまたはバソプレッシンを分泌する細胞)、腸管及び気道細胞(たとえば、セロトニン、エンドルフィン、ソマトスタチン、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、インスリン、グルカゴン、またはボンベシンを分泌する細胞)、甲状腺細胞(たとえば、甲状腺上皮細胞及び傍濾胞細胞)、副甲状腺細胞(たとえば、副甲状腺主細胞及び好酸性細胞)、副腎細胞(たとえば、クロム親和性細胞ならびにミネラルコルチコイド及びグルココルチコイドなどのステロイドホルモンを分泌する細胞)、精巣のライディッヒ細胞、卵胞の内卵胞膜細胞、破裂卵胞の黄体細胞、顆粒膜ルテイン細胞、卵胞膜ルテイン細胞、傍糸球体細胞、腎臓の緻密斑細胞、腎臓の周血管極細胞、腎臓のメサンギウム細胞、表皮角化細胞、表皮基底細胞、手の爪及び足の爪の表皮角化細胞、爪床基底細胞、毛髄質細胞、毛皮質細胞、毛小皮細胞、毛根鞘小皮細胞、ハックスレー層の毛根鞘細胞、ヘンレ層の毛根鞘細胞、外毛根鞘細胞、毛母細胞、角膜、舌、口腔、食道、肛門管、遠位尿道、及び膣の重層扁平上皮の表面上皮細胞、角膜、舌、口腔、食道、肛門管、遠位尿道、及び膣の上皮の基底細胞、尿管上皮細胞(たとえば、膀胱及び尿管の表層)、コルチ器の内有毛細胞、コルチ器の外有毛細胞、嗅上皮の基底細胞、低温感受性一次感覚神経細胞、高温感受性一次感覚神経細胞、表皮のメルケル細胞、嗅覚受容神経細胞、痛覚感受性一次感覚神経細胞、眼球網膜の光受容体細胞(たとえば、光受容体桿体細胞、光受容体青感受性錐体細胞、光受容体緑感受性錐体細胞、光受容体赤感受性錐体細胞)、固有受容性一次感覚神経細胞、触覚感受性一次感覚神経細胞、I型及びII型頸動脈小体細胞、耳の前庭器のI型及びII型有毛細胞、I型味蕾細胞、コリン作動性神経細胞、アドレナリン作動性神経細胞、ペプチド作動性神経細胞、コルチ器の内柱細胞及び外柱細胞、コルチ器の内支持細胞及び外支持細胞、コルチ器の境界細胞、コルチ器のヘンゼン細胞、前庭器支持細胞、味蕾支持細胞、嗅上皮支持細胞、シュワン細胞、サテライトグリア細胞、消化管グリア細胞、アストロサイト、ニューロン細胞、オリゴデンドロサイト、紡錘形神経細胞、前水晶体上皮細胞、クリスタリン含有水晶体線維細胞、肝細胞、脂肪細胞(たとえば、白色脂肪細胞及び褐色脂肪組織)、肝臓脂肪細胞、腎臓傍細胞、腎臓糸球体足細胞、腎臓近位尿細管刷子縁細胞、ヘンレ係蹄細部細胞、腎臓遠位尿細管細胞、腎臓集合尿細管細胞、I型肺細胞、膵管細胞、平滑筋導管細胞(たとえば、主細胞及び間在細胞)、導管細胞(精嚢、前立腺など)、腸刷子縁細胞(微絨毛を有するもの)、外分泌腺線条導管細胞、胆嚢上皮細胞、精巣輸出管無線毛細胞、精巣上体主細胞、精巣上体基底細胞、エナメル芽上皮細胞、耳の前庭器の半月面上皮細胞、コルチ器歯間上皮細胞、疎性結合組織線維芽細胞、角膜線維芽細胞(角膜実質細胞)、腱線維芽細胞、骨髄細網組織線維芽細胞、他の非上皮性線維芽細胞、周皮細胞、椎間板の髄核細胞、セメント芽細胞/セメント細胞、象牙芽細胞/象牙細胞、硝子軟骨細胞、線維軟骨細胞、弾性軟骨細胞、骨芽細胞/骨細胞、骨前駆細胞、眼の硝子体の硝子質細胞、耳の外リンパ腔の星細胞、肝星細胞(伊東細胞)、膵星細胞、骨格筋細胞(たとえば、赤色骨格筋細胞(遅筋)及び白色骨格筋細胞(速筋))、中間骨格筋細胞、筋紡錘の核袋細胞、筋紡錘の核鎖細胞、筋衛星細胞、心筋細胞(たとえば、固有心筋細胞、結節心筋細胞、プルキンエ線維細胞、平滑筋細胞(各種型)、虹彩の筋上皮細胞、外分泌腺の筋上皮細胞、赤血球、巨核球、単球、結合組織マクロファージ(各種型)、表皮ランゲルハンス細胞、破骨細胞、樹状細胞、ミクログリア細胞、好中性顆粒球、好酸性顆粒球、好塩基性顆粒、ハイブリドーマ細胞、マスト細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、網状赤血球、血液及び免疫系の幹細胞及び前駆細胞(各種型)、卵原細胞/卵母細胞、精細胞、精母細胞、精原細胞、精子、ナース細胞、卵胞細胞、セルトリ細胞、胸腺上皮細胞、ならびに腎臓間質細胞が挙げられる。
【0098】
好ましい実施形態において、本方法に従って化合物または組成物を投与する細胞は、体の他の細胞の元となることから、幹細胞または前駆細胞である。別の好ましい実施形態において、処置を行う細胞は、テロメアが他の細胞種よりも急速に短くなる細胞、たとえば、内皮細胞、線維芽細胞、表皮角化細胞、免疫系細胞(甲状腺細胞、副甲状腺細胞及び白血球ならびにこれらの前駆体を含む)、腸細胞、肝臓細胞、粘膜細胞(たとえば食道及び結腸内の細胞)、ならびに歯茎及び歯髄の細胞である。
【0099】
したがって、いくつかの実施形態において、細胞は、線維芽細胞、表皮角化細胞、内皮細胞、上皮細胞または血液細胞である。
【0100】
投与工程は、所望するテロメア伸長の量に応じて、1回またはそれ以上行ってよい。本方法のいくつかの実施形態において、細胞は単離細胞であり、投与工程は、96時間以下、72時間以下、48時間以下、36時間以下、24時間以下、18時間以下、12時間以下、8時間以下、4時間以下、またはさらに短い時間継続する。いくつかの実施形態において、投与工程は、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、またはさらに長い時間継続する。好ましい実施形態において、投与工程は、48時間以下、96時間以下、または1週間以下継続する。他の好ましい実施形態において、投与工程は、少なくとも2時間継続する。投与がトランスフェクションによる場合、投与時間は、細胞がトランスフェクション法から回復する時間を含むことを理解すべきである。
【0101】
本方法のいくつかの実施形態において、細胞は単離細胞であり、投与工程は、6回以下、5回以下、4回以下、3回以下、2回以下またはさらに1回のみ実施される。いくつかの実施形態において、投与工程は、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、またはそれ以上多く実施される。
【0102】
いくつかの実施形態において、投与工程は、テロメアを再伸長させるために比較的短期間にわたって1回または数回実施し、その後、テロメアを再度伸長させる必要が生じるまで長期間実施しない。この周期を無期限に繰り返してよい。このような処置計画により、投与工程と投与工程の間にテロメアが短縮する間隔を設けて、テロメアを定期的に再伸長させることが可能となる。所望に応じて、定期的な処置法をインビボ投与またはインビトロ投与のいずれでも行ってもよい。いくつかの実施形態において、こうした連続の投与工程は、6回以下、5回以下、4回以下、3回以下、2回以下またはさらに1回のみ実施される。いくつかの実施形態において、投与工程は、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、またはそれ以上多く実施される。実施される投与工程の回数、及び使用する本発明の化合物または組成物の投与量を変化させることにより、テロメア伸長の達成量を調節することができる。
【0103】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、細胞を特定の基質、好ましくは弾性基質で培養する工程をさらに含む。かかる基質は、他の基質では生理学的に弾性でない基質に起因して通常生じ得る細胞の不必要な変更を防げることが知られている。PCT国際公開WO2012/009682を参照されたい。当該文書は、その全体が参考により本明細書に組み込まれる。弾性基質により、さらに細胞生存率が向上し得る。
【0104】
本開示の化合物または組成物の投与は、細胞内においてテロメラーゼ活性の一過性発現をもたらす。活性上昇は、各種アッセイ、たとえば、テロメラーゼ活性の蛍光検出及び定量化を用いる高感度リアルタイムインビトロアッセイを提供するTrapeze(登録商標)RTテロメラーゼ検出キット(Millipore)などによって容易に測定されるが、他の測定技術も可能である。いくつかの実施形態において、テロメラーゼ活性は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、またはそれ以上増加する。好ましい実施形態において、テロメラーゼ活性は少なくとも5%増加する。
【0105】
前述したように、本技術の利点の1つは、処置細胞におけるテロメラーゼ活性の発現が一過性である点である。特に、このような一過性発現は、テロメラーゼ逆転写酵素遺伝子を細胞のゲノム配列に挿入するか、または標的細胞の遺伝子的素質を永続的に変更して、核酸配列の恒常的活性をもたらす従前の技術とは異なる。
【0106】
図3は、本明細書に開示する化合物、組成物及び方法の利点の一部を示している。特に、これらの化合物、組成物及び方法を用いて実現可能なテロメア伸長の速度は、極めて低頻度のTERT modRNA送達によるテロメア維持を可能にする。発現したテロメラーゼ活性は、元の状態に切り替わる前に、短期間で迅速にテロメアを伸長させるため、テロメア短縮の抗癌性保護機構は大部分の時間機能したままとなる。処置と処置の間には、通常のテロメラーゼ活性とテロメア短縮が存在し、したがって、制御の効かない増殖を防止するテロメア短縮の抗癌性安全機構を元の状態に維持したまま、短テロメア関連疾患のリスクを低く抑えられる。対照的に、テロメアを伸長させるための最善の既存の小分子治療は、習慣的な送達を必要とするため、慢性的な癌リスクがあり、さらに、テロメア長に対する作用が小さく安定しておらず、患者のおよそ半数では、テロメア長への作用が全く検出されていない。
【0107】
したがって、本方法のいくつかの実施形態において、テロメラーゼ逆転写酵素活性の発現、すなわち、テロメラーゼ活性の半減期は、48時間以下、36時間以下、24時間以下、18時間以下、12時間以下、8時間以下、4時間以下、またはさらに短い時間継続する。いくつかの実施形態において、テロメラーゼ逆転写酵素活性の発現は、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、またはさらに長い時間継続する。好ましい実施形態において、テロメラーゼ逆転写酵素活性の発現は、48時間以下継続する。他の好ましい実施形態において、テロメラーゼ逆転写酵素活性の発現は、少なくとも2時間継続する。
【0108】
本方法のいくつかの実施形態において、一過性発現は、細胞周期に依存しない。
【0109】
上述のように、テロメラーゼ逆転写酵素の一過性発現は、処置細胞において、短縮したテロメアの伸長をもたらす。テロメア長は、当業者であれば理解するであろう、末端制限断片(TRF)長分析、qPCR、MMqPCR及びQ-FISHなどの技術を使用して容易に測定できる。Kimura et al.(2010)Nat Protoc.5:1596-607;doi:10.1038/nprot.2010.124を参照されたい。いくつかの実施形態において、本発明により、処置細胞内のテロメア長が少なくとも0.1kb、少なくとも0.2kb、少なくとも0.3kb、少なくとも0.4kb、少なくとも0.5kb、少なくとも1kb、少なくとも2kb、少なくとも3kb、少なくとも4kb、少なくとも5kb、またはそれ以上増加する。
【0110】
本化合物、組成物及び方法の利点の1つは、これらの技術によって達成されるテロメア伸長の迅速さである。当該技術により、短期間での処置が可能になるため、正常な保護的テロメア短縮機構が大部分の時間元の状態に維持されるため、安全な処置が可能となる。本明細書にて開示する化合物及び組成物を用いて処置を行うと、絶対RT-qPCRで測定した場合で、1細胞当たり数十または数百というTERT modRNAのコピーの送達がもたらされる。これは、テロメラーゼ活性の高い細胞でみられる内因性TERT mRNAの平均コピー数さえ大幅に超えるものである。通常、かかる細胞は、TERT mRNAのコピーが1細胞当たり1未満である(Yi et al.(2001)Nucl.Acids Res.29:4818-4825)。したがって、当該処置により、TERTをコードするmodRNAの多数のコピーが細胞に導入され、迅速なテロメア伸長が生じる。理論に束縛されるものではないが、TERTをコードするmodRNAの多数のコピーが、本明細書にて開示する化合物、組成物及び方法と同じ程度に迅速に、TERT及びテロメア伸長の他の方法によるテロメアの伸長を通常であれば阻害する阻害調節機構を一過的に制圧し得る。
【0111】
テロメラーゼ逆転写酵素の一過性発現はまた、処置細胞内の複製能も向上させる。複製能の向上は、複製老化に近づきつつある細胞で、当該細胞内の付加的な細胞集団倍加を測定することによって、容易に観察される。老化細胞は、培地継代または血清を用いた処置によって刺激を加えても分裂しない。老化細胞は、多くの場合、pH依存βガラクトシダーゼ活性、細胞周期阻害因子p53及びp19の発現、ならびに他の遺伝子発現のパターン変化、ならびに細胞サイズの肥大化をさらに特徴とする。本開示の化合物及び組成物を用いた処置を行わないと、ヒト肺線維芽細胞は概して50~60倍に倍増する。一方、合計で数日間のみ継続する1セット1~3回の処置を行うと、これらの細胞は、16~28回の付加的な細胞集団倍加を達成する。数週間後に再度処置すると、付加的な増殖能が再び示される。周期的にテロメアを再伸長させるこの断続的な処置手順は、テロメア短縮の割合、細胞分裂の割合及び処置によってもたらされるテロメア伸長の量などの要因に応じて、さらなる回数を、処置と処置の間に間隔を持たせて、適用してもよい。同様に、高齢の個体から得たヒト微小血管真皮内皮細胞では、本組成物を用いた処置を行わないと、細胞集団倍加がたった1~2回であるのに対し、処置細胞では、3、4回またはそれ以上の細胞集団倍加を達し得る。
【0112】
したがって、いくつかの実施形態において、本処置方法では、細胞集団倍加数が少なくとも1、2、4回またはそれ以上の細胞集団倍加数に増加する。いくつかの実施形態において、当該処置方法では、細胞集団倍加数が少なくとも5、10、15、20回またはそれ以上の細胞集団倍加数に増加する。
【0113】
本方法のいくつかの実施形態において、本発明の化合物または組成物をエレクトロポレーションによって動物細胞に投与する。特定の実施形態において、本発明の化合物を、送達担体の不存在下で、エレクトロポレーションによって動物細胞に投与する。他の特定の実施形態において、本発明の化合物及びテロメラーゼRNA構成要素をエレクトロポレーションによって動物細胞に投与する。
キット
【0114】
別の態様において、本開示は、哺乳動物細胞においてテロメアを伸長させる際に使用するための、すぐに使用できるキットを提供する。キットは、上記化合物または組成物のいずれかを、使用に関する説明書とともに含む。いくつかの実施形態において、キットは、パッケージ材料をさらに含む。好ましい実施形態において、パッケージ材料は、気密性である。これらの実施形態において、パッケージ材料には、必要に応じて、たとえば、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを充填してよい。いくつかの実施形態において、パッケージ材料は、たとえば、密閉アルミ袋などの金属箔容器を含む。このようなパッケージ材料は、当業者によく知られている。
【0115】
いくつかの実施形態において、キットは、乾燥剤、培地、RNase阻害剤または他の同様の要素をさらに含む。いくつかの実施形態において、キットは、これらの追加要素の2つ以上の組み合わせをさらに含み得る。キットのいくつかの実施形態において、キットの組成物は、滅菌状態である。
さらなる態様
【0116】
さらに別の態様において、本発明は、以下の付番した項に係る新規の化合物、組成物、キット及び方法を提供する。
1.テロメアの伸長のための組成物であって、
少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含有し、かつテロメラーゼ逆転写酵素をコードするリボ核酸と、
リボ核酸の送達担体とを含み、
当該組成物で処置した細胞内でテロメアが伸長する、組成物。
2.テロメラーゼ逆転写酵素が、哺乳類、鳥類、爬虫類もしくは魚類のテロメラーゼ逆転写酵素またはテロメラーゼ触媒活性を保持する変異型である、項1に記載の組成物。
3.テロメラーゼ逆転写酵素が、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素である、項2に記載の組成物。
4.リボ核酸が、5’キャップ、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域及びポリAテールを含む、項1に記載の組成物。
5.ポリAテールが、リボ核酸の安定性を向上させる、項4に記載の組成物。
6.5’非翻訳領域または3’非翻訳領域が、安定なmRNAまたは効率的に翻訳されるmRNAに由来する配列を含む、項4に記載の組成物。
7.5’非翻訳領域及び3’非翻訳領域が両方とも安定なmRNAまたは効率的に翻訳されるmRNAに由来する配列を含む、項4に記載の組成物。
8.5’キャップ、5’非翻訳領域、または3’非翻訳領域が、リボ核酸を安定させるか、リボ核酸の翻訳率を上げるか、リボ核酸の免疫原性を低減する、項4に記載の組成物。9.少なくとも1つの修飾ヌクレオシドが、リボ核酸の免疫原性を低減する、項1に記載の組成物。
10.リボ核酸が、合成リボ核酸である、項1に記載の組成物。
11.合成リボ核酸が、精製処理した合成リボ核酸である、項10に記載の組成物。
12.合成リボ核酸が、免疫原性成分を除去するために精製される、項11に記載の組成物。
13.リボ核酸が、ヒト、ネコ、イヌ、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、アフリカゾウ、ニワトリ、ラット、ゼブラフィッシュ、メダカもしくはチンパンジーのテロメラーゼ逆転写酵素、または当該テロメラーゼ逆転写酵素と少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドをコードする、項1に記載の組成物。
14.テロメラーゼRNA構成要素をさらに含む、項1に記載の組成物。
15.テロメラーゼRNA構成要素が、哺乳類、鳥類、爬虫類または魚類のテロメラーゼRNA構成要素である、項14に記載の組成物。
16.テロメラーゼRNA構成要素が、ヒトテロメラーゼRNA構成要素である、項15に記載の組成物。
17.送達担体が、エキソソーム、脂質ナノ粒子、高分子ナノ粒子、天然もしくは人工のリポタンパク質粒子、カチオン性脂質、タンパク質、タンパク質-核酸複合体、リポソーム、ビロソームまたはポリマーである、項1に記載の組成物。
18.送達担体が、カチオン性脂質である、項17に記載の組成物。
19.送達担体が、非免疫原性である、項1に記載の組成物。
20.項1~19のいずれか一項に記載の組成物を動物細胞に投与する工程を含み、少なくとも1つのテロメアが当該細胞内で伸長する、テロメアを伸長させるための方法。
21.細胞が、投与工程の前に、少なくとも1つの短縮したテロメアを有する、項20に記載の方法。
22.細胞が、加齢関連疾病、加齢関連症状もしくは加齢に伴う機能もしくは外見の減退を患っているか、またはこうしたリスクのある対象に由来する細胞である、項20に記載の方法。
23.細胞が、癌、心臓疾患、脳卒中、糖尿病、アルツハイマー病、骨粗鬆症、身体的能力もしくは外見の減退、身体的外傷もしくは慢性的な身体的ストレス、心的外傷もしくは慢性的な精神的ストレスを患っているか、またはこうしたリスクのある対象に由来する細胞である、項20に記載の方法。
24.細胞が、内胚葉系列、中胚葉系列もしくは外胚葉系列の体細胞、または生殖細胞または胚性細胞である、項20に記載の方法。
25.細胞が、人工多能性幹細胞、または人工多能性幹細胞の作製に使用される細胞である、項20に記載の方法。
26.細胞が、分化転換した細胞、または分化転換した細胞の作製に使用される細胞である、項20に記載の方法。
27.細胞が単離細胞であり、投与工程が48時間以下継続する、項20に記載の方法。28.細胞が単離細胞であり、投与工程が4回以下実施される、項20に記載の方法。
29.細胞が単離細胞であり、方法が細胞内のテロメラーゼ活性を測定する工程をさらに含む、項20に記載の方法。
30.投与工程が、細胞内のテロメラーゼ活性を上昇させる、項29に記載の方法。
31.テロメラーゼ活性が、少なくとも5%一過的に増加する、項30に記載の方法。
32.増加したテロメラーゼ活性の半減期が、48時間以下継続する、項30に記載の方法。
33.細胞が単離細胞であり、方法が細胞内の平均テロメア長を測定する工程をさらに含む、項20に記載の方法。
34.平均テロメア長が、少なくとも0.1kb増加する、項33に記載の方法。
35.細胞が単離細胞であり、方法が細胞内の細胞集団倍加能を測定する工程をさらに含む、項20に記載の方法。
36.細胞集団倍加能が、少なくとも25%増加する、項35に記載の方法。
37.細胞が、哺乳動物対象に由来する細胞である、項20に記載の方法。
38.細胞が、ヒト対象に由来する細胞である、項37に記載の方法。
39.細胞が単離細胞である、項20に記載の方法。
40.細胞が単離細胞でない、項20に記載の方法。
41.項1~19のいずれか一項に記載の組成物と、
当該組成物を使用してテロメアを伸長させるための説明書とを含む、
動物細胞内のテロメアを伸長させるためのキット。
42.パッケージ材料をさらに含む、項41に記載のキット。
43.パッケージ材料が、気密性である、項42に記載のキット。
44.パッケージ材料が、金属箔容器を含む、項42に記載のキット。
45.乾燥剤をさらに含む、項41に記載のキット。
46.培地をさらに含む、項41に記載のキット。
47.RNase阻害剤をさらに含む、項41に記載のキット。
48.組成物が滅菌状態である、項41に記載のキット。
【0117】
関連技術分野の当業者には、本明細書に記載する化合物、組成物、方法及びキットに対する他の好適な変更及び翻案が、本発明の範囲またはいずれの実施形態から逸脱することなく、実施され得ることが容易に明らかであろう。本発明を詳細に記載してきたが、本発明は、例示のみを目的として本明細書に記載され、かつ本発明を限定することを意図しない、以下の実施例を参照することによって、より明確に理解されるであろう。
【実施例0118】
実施例1 テロメラーゼをコードする修飾mRNAを用いたヒト細胞における高効率のテロメア伸長
テロメア長を十分に維持できない疾患、ならびに細胞療法及び生体工学用途のために細胞複製能を向上させる必要性は、テロメア伸長の安全な方法の開発を推し進めるものである(Blackburn et al.(2010)Cancer Prev Res(Phila)3:394-402;Calado et al.(2012)Leukemia26:700-707;Alter et al.(2009)Blood113:6549-6557;Mohsin et al.(2012)Journal of the American College of Cardiology doi:10.1016/j.jacc.2012.04.047)。mRNAがコードするタンパク質の量を治療用途で一過的に上昇させるためのmRNA送達は、免疫原性を低くし、かつ安定性を向上させた修飾ヌクレオシドの導入によって実現される(Kariko et al.(2005)Immunity23:165-175;Kariko et al.(2011)Nucleic Acids Res.39:el42;doi:10.1093/nar/gkr695)。
【0119】
テロメア伸長処置は、治療的に有用であるように、理想的には非免疫原性であり、特異的であり、染色体の不安定性及び癌リスクの上昇をもたらす危機的に短い長さまでテロメアが短縮されるよりも前に開始可能であり(Wentzensen et al.(2011)Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.20:1238-1250;Calado et al.(2012)Leukemia26:700-707;Artandi and DePinho(2010)Carcinogenesis31:9-18)、一過的かつ断続的であって、通常の抗癌性テロメア短縮機構をほぼ連続的に機能させ、一部の前駆細胞及び幹細胞集団などの分裂の緩やかな細胞にも効果的であり、非免疫原性担体を使用してインビトロでもインビボでも送達可能であり、限定的であり、テロメアを十分に維持できない疾患を潜在的に改善または予防するために、もしくは細胞療法または生体工学用途に十分な細胞増殖を促進するために必要なだけの付加的細胞分裂を可能とすることが望ましい。既存の処置は、小分子を使用する治療も含め、これらの基準のすべてを満たしていない(Harley et al.(2011)Rejuvenation Res.14:45-56)。TERTのウイルス送達は、おそらく誘導性ではあるが、挿入変異のリスクがあるため、深刻な安全上の問題がある。危機的に短いテロメアと、結果として生じる染色体の不安定性(O’Sullivan and Karlseder(2010)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.11:171-181)または他の原因のいずれかに起因する発癌性変異を有する細胞内では、第2の変異または薬剤のいずれかによって恒常的なテロメラーゼ発現が起こり、制限のない増殖を可能にすることで悪性腫瘍を支援する場合があるので、連続的なテロメラーゼの過剰発現を伴う処置は、潜在的に安全でない(Artandi and DePinho(2010)Carcinogenesis31:9-18;Ding et al.(2012)Cell148:896-907)。
【0120】
安全なテロメア伸長の基準は、RNA中に存在する特定の天然ヌクレオシドが、細胞に送達される際の安定性を高め、外因性RNAの免疫原性を低減するという近年の発見によって可能となった、RNAを用いた方法によって満たされる(Kariko et al.(2005)Immunity23:165-175)。かかるヌクレオシドの例を表4に示す。理論に束縛されるものではないが、これらの標準型ヌクレオシドの修飾型により、先天性免疫系のToll様受容体は内因性modRNAとこれらのヌクレオチドを含有しない外来性RNAとを区別し得る。これらの非標準型ヌクレオシドを含有する、十分に精製された合成modRNAの細胞への送達は、modRNAの安定性を高め、免疫反応を低減または阻止しつつ、modRNAのコードするタンパク質を一過的に上昇させる(Kariko et al.(2011)Nucleic Acids Res.39:el42;doi:10.1093/nar/gkr695)。したがって、外因性modRNAの送達は、一過的なタンパク質産生を必要とする用途に対して、前例のない機会を提供する。たとえば、生体模倣modRNAを線維芽細胞にトランスフェクトし、これにより当該細胞の多能性幹細胞へのリプログラミングが行われている(Yakubov et al.(2010)Biochem.Biophys.Res.Commun.394:189-193)。また、マウスに生体模倣modRNAを注入することで、肺サーファクタントタンパク質欠損モデルが回復し、エリスロポエチン及びヘマトクリット値が上昇している(Kormann et al.(2011)Nat.Biotechnol.29:154-157)。上述の通り、本明細書で使用されるmodRNAに用いられるヌクレオシドは、安定性の向上だけでなく、RNAの免疫原性を低減または阻害し、翻訳効率を上昇させることからも選択された。hTERTをコードする未修飾mRNAを使用した樹状細胞のトランスフェクションでは、細胞内でテロメラーゼ活性の上昇がもたらされたが、hTERTに特異的な強い細胞傷害性Tリンパ球反応が引き起こされた(Saeboe-Larssen et al.(2002)Journal of Immunological Methods259:191-203)。したがって、未修飾RNAを用いる手法は、細胞内のテロメアを伸長させるには有効的でないと思われる。
【0121】
そのため、TERTタンパク質レベル及びテロメラーゼ活性を一過的に上昇させ、十分にテロメアを伸長させて、限られた量だけ複製能を上昇させるために、TERTをコードするmodRNAの細胞への送達が用いられ得る。テロメラーゼ活性レベルの上昇は、短時間かつ低頻度のテロメア伸長処置を十分に実現できるほど迅速に生じる(
図1a及び
図3を参照)。
【0122】
当該手法を実証するために、標準型ヌクレオシドと、安定性、効率的な翻訳及び免疫原性の低減または阻害を付与する非標準型ヌクレオシドとを各比で用いて、TERT modRNAを合成した(Yakubov et al.(2010)Biochem.Biophys.Res.Commun.394:189-193;Kariko et al.(2011)Nucleic Acids Res.39:el42;doi:10.1093/nar/gkr695)。合成modRNAは、比較的半減期の長いβグロビンmRNAの5’UTR及び3’UTRを含む。安定性をさらに高めるために、modRNAは、長い151のヌクレオチドポリAテールを有する。RNAを作製するためのインビトロ転写反応で用いる長いTERT DNAテンプレートの忠実性を最大限にするために、PCRではなく、プラスミドを用いる方法を使用して、DNAテンプレートを作製した。
【0123】
真のテロメア伸長と、異種開始集団に由来する長いテロメアを有する細胞から選ばれたものとを区別するために、1つのD712A残基変異を有する触媒不活性型のTERT(CI TERT)をコードする対照modRNAを合成した。逆転写酵素ドメインの触媒部位にある金属配位アスパルテートの3残基のうち1つがアラニンで置換されており、CI TERTの触媒活性を無効にしているが、鋳型DNAに結合できる程度に構造的には元の状態を残しており、TERTと同等に網赤血球溶解液中で安定である(Wyatt(2009)“Structure-Function Analysis of the
Human Telomerase Reverse Transcriptase”University of Calgary,Ph.D.Thesis(http://dspace.ucalgary.ca/bitstream/1880/47511/1/2009_Wyatt_PhD.pdf))。
【0124】
本実施例ではMRC-5ヒト胎児肺線維芽細胞を試験細胞に選択した。その理由は、これらの細胞及び他のヒト線維芽細胞株が、テロメア分野で数十年にわたって中心的な役割を担ってきた細胞であり、そのため、実験設計及び分析を形成するのに豊富なデータがあることによる。MRC-5細胞はまた、内因性テロメラーゼ活性が比較的低く、テロメア短縮及び最終的な老化を呈している。酸化ストレスにより、MRC-5細胞内のテロメア短縮の割合が増加し(von Zglinicki et al.(2000)Free Radic.Biol.Med.28:64-74)、テロメアを伸長させられない細胞質にTERTが局在化することになるので(Ahmed et al.(2008).J.Cell.Sci.121:1046-1053)、環境酸素ではなく5%で細胞を培養した。また、成功の見込みをさらに上げるために、MRC-5細胞中のタンパク質産生を最適化した培地中で細胞を培養した(Wu et al.(2005)Cytotechnology49:95-107)。
【0125】
modRNAを使用したテロメア伸長の効率は、トランスフェクションの効率、翻訳及び機能的テロメラーゼへの折り畳み、ならびにMRC-5細胞などの多くの細胞種におけるTERT及びテロメラーゼを阻害する翻訳後調節の包括的な機構から少なくとも一過的に逸脱する能力を含む、複数の要因に依存する。MRC-5細胞にnGFP(0.8kb)などの小さい種類のmodRNAを用いたトランスフェクション効率は、modRNAの濃度が低い場合であっても一般に90%を超えるが(
図6)、TERTのオープンリーディングフレームは比較的大きく(3399bp)、modRNA TERT構築物は、UTR及びポリAテールを含むため、構築物はさらに大きくなる(3751bp)。しかしながら、
図1bに示すように、TERTもCI TERTもカチオン性脂質によってMRC-5細胞に効率的にトランスフェクトされた(1ug/ml TERT modRNAを用いて5時間処置したMRC-5細胞から処置終了時点で採取したmRNAのRT-PCRによって測定した場合)。さらに、TERTまたはCI TERT modRNAを送達すると、抗TERT抗体によって認識される、TERTの推定サイズである127kDaに近い約122kDaの大きさを有するタンパク質の量が同等及び有意に上昇した(それぞれP<0.03及びP<0.01)(
図1c)(Wick et al.(1999)Gene232:97-106)。タンパク質レベルは、定量的赤外蛍光ウエスタンブロットで測定した。TERTタンパク質レベルは、TERTを用いて処置した細胞と、CI TERTで処置した細胞との間で有意な違いはない(n=3)。
【0126】
機能的テロメラーゼを形成するには、TERTが適切に折り畳まれ、少なくともTERCとともに複合体を形成しなければならない。テロメラーゼはまた、細胞質局在性及び阻害性リン酸化反応などによって、強い翻訳後調節を受ける(Cifuentes-Rojas and Shippen(2012)Mutat.Res.730:20-27;doi:10.1016/j.mrfmmm.2011.10.003)。実際、TERTを発現する細胞のすべてがテロメアを維持できるとは限らない(Counter et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95:14723-14728)。TERT modRNAを送達すると、テロメラーゼ活性が用量依存的に約0.6ug/mlの濃度で最大限に上昇したので(
図7参照)、後続の実験には1ug/mlの濃度を用いた。テロメラーゼ活性レベルは、急速に上昇したが、約48時間以内にベースラインレベルに戻った。CI TERT modRNAではテロメラーゼ活性に変化はなかった(
図1d)。テロメラーゼ活性は、TRAPeze(登録商標)RTアッセイで測定した(n=3)。
【0127】
TERTの翻訳後調節には、細胞周期依存的な細胞質隔離がある程度影響するので、処置細胞及び無処置細胞におけるTERTの細胞内局在についても調べた(Cifuentes-Rojas et al.(2011)Mutat.Res.doi:10.1016/j.mrfmmm.2011.10.003)。ウエスタンブロットの結果と一致して、免疫細胞化学では、無処置MRC-5細胞内に、TERT抗体によって認識された、豊富だが阻害されたと思われるタンパク質が示されたが、内因性TERTと外因性TERTとの区別が難しい(データ不図示)。
【0128】
複製老化を発症する細胞集団倍加(PD)が約10回以内の細胞を使用して、テロメア長及び複製能に対するTERT modRNA処置の効果を測定した。当該細胞を用いる決定は、少なくとも2つの要因に基づいてなされた。第1に、この段階の細胞は、比較的短いテロメアを有しており、MRC-5細胞を含め、テロメラーゼが優先的に短テロメアを伸長させるので、この段階の細胞の処置では、より大きな測定効果をより簡単に得られるはずである(Britt-Compton et al.(2009)FEBS Lett.583:3076-3080)。第2に、この段階の細胞に処置を施すことで、複製能が向上したかどうかを判断するために必要な時間量が短くなる。本条件下で、複製老化は、MRC-5細胞の供給元からの受領後PD約50で開始するので(詳細に関しては方法を参照)、PD約40で細胞を処置することにした。この段階のMRC-5細胞は、供給元から受領した際の培養履歴及びPDによるが、平均テロメア長が約5~7kbである(Sitte et al.(1998)Free Radic.Biol.Med.24:885-893;MacKenzie et al.(2000)Exp.Cell Res.259:336-350)。
【0129】
処置計画(
図4a)を設計するにあたって、複数の事項を勘案した。MRC-5細胞へのTERTウイルス導入を用いて得たテロメア伸長の割合は、様々であるが、1分裂当たり約0.2kbのオーダーである(MacKenzie et al.(2000)Exp.Cell Res.259:336-350)。MRC-5細胞におけるテロメア短縮の割合は、培養条件及び操作によって変化するが(Sitte et al.(1998)Free Radic.Biol.Med.24:885-893;von Zglinicki et al.(2000)Free Radic.Biol.Med.28:64-74)、環境酸素下で1PD当たり約0.1kbである(Sitte et al.(1998)Free Radic.Biol.Med.24:885-893)。MRC-5細胞のテロメア短縮は、酸化条件を減じるとより緩やかに進むので、5%酸素で細胞を培養した(von Zglinicki et al.(2000)Free Radic.Biol.Med.28:64-74)。PD40のMRC-5細胞でのPD時間は、約33時間であることがわかった。これらのデータを考慮すれば、選択した方法であるテロメア長測定、テロメア制限断片(TRF)分析及び定量的蛍光in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)の分解能の範囲内でテロメア伸長を検出するためには、複数の処置が必要であろうことが予期された。処置の間隔は、テロメラーゼ活性レベルが単回処置後から48時間までにベースラインレベルに戻ることがわかったので、48時間になるように選択した。
【0130】
図3(b)~(d)に示すように、hTERT modRNAを用いてMRC-5細胞を処置すると、無処置または送達担体のみで処置した細胞と比較して、当該細胞内のテロメア長が有意に上昇する。処置後の中期のMRC-5細胞の蛍光顕微鏡写真では、当該細胞内の染色体上のテロメアプローブの位置が示されている(
図4(e))。
【0131】
また、テロメア長に関する処置の効果は、分析能が比較的高く(0.3kb)、Q-FISHテロメアプローブの蛍光がテロメア長に正比例するため、定量的蛍光in situハイブリダイゼーション(Q-FISH)によっても測定した(
図4(f))(Lansdorp et al.(1996)Hum.Mol.Genet.5:685-691;Martens et al.(1998)Nat.Genet.18:76-80)。複製能は、テロメア伸長の結果として上昇する、最も興味深い機能性パラメータであるので、MRC-5細胞の細胞集団倍加数とQ-FISHを用いて測定したテロメア長との関係を示す標準曲線を描いた(
図4(g)(i))。PD40のMRC-5をTERT
mRNAを用いて48時間の間隔で3回処置した後、1細胞当たりの平均総テロメア長が56+/-5%増加した(各処置の2つの生物学的反復実験それぞれの細胞数n=15、エラーバーはs.e.m.を示す)。処置済みPD40細胞のテロメア長は、無処置PD3細胞のテロメア長に類似した(
図4(g)(ii))(上部の破線)。したがって、当該処置で、当該細胞のテロメアが37PDにわたって短縮した分、テロメアが伸長した。標準培養条件におけるこの数のPDでは、MRC-5のテロメアが1kbを超えて短縮する(Sitte et al.(1998)Free Radic.Biol.Med.24:885-893)。この点に一致して、観察された56%のテロメア長の増加は、約0.6~2.5kbの平均テロメア長の増加に相当し、PD40のMRC-5細胞の平均テロメア長が、テロメア長を約2.5~4kb多く見積もるTRFを用いた測定で約5~7kbであるという事実に基づくと(Sitte et al.(1998)Free Radic.Biol.Med.24:885-893;MacKenzie et al.(2000)Exp.Cell Res.259:336-350)、PD40のMRC-5細胞の実際の平均テロメア長は、1~4.5kbの範囲内である(Aubert et al.(2012)Mutat.Res.730:59-67)。処置が合計144時間継続し、この時間における細胞の細胞集団倍加時間が約33時間であるので、細胞は約4~5PDを経ている。したがって、テロメア伸長の速度は、1PD当たり約0.1~0.6kbであり、この上限は、TERTをコードするDNAのウイルス形質導入によってこれまでに報告された最大速度に近似し、この下限は、ウイルス送達の使用でみられる一般的な速度に匹敵する。予想通り、無処置細胞のテロメア長は、標準曲線作成時のPD40細胞のテロメア長と同等である(
図4(g)の下の破線)。
【0132】
次に、細胞複製能に関するTERT mRNA処置の効果を調べた。予想通り、無処置細胞及びビヒクルのみの処置細胞は、PD50~60の正常範囲内で老化した(
図5a)。これとは極めて対照的に、TERT mRNAを用いて処置した細胞は、対照集団が用量依存的に複製老化に到達したPDを超えて増殖し続け、各追加処置により、大幅なPDの増加がもたらされた。
【0133】
TERT mRNAを用いた3回の処置により、複製能がPD28+/-1.5の増加となった。この結果は、MRC-5のテロメアが環境酸素(20%)下で1PD当たり約0.1kb短くなり(Sitte et al.(1998)Free Radic.Biol.Med.24:885-893)、テロメア短縮がより緩慢な5%酸素下で処置細胞を培養したため、テロメアが1kbを超えて伸長したという推定に一致する。観察された処置細胞の複製能におけるPD28の増加は、正常な線維芽細胞に通常のヒトの加齢で10年以上にわたって生じる複製能の損失に匹敵する(Takubo et al.(2010)Geriatr Gerontol Int.10 Suppl1:S197-206;doi:10.1111/j.1447-0594.2010.00605.x.;Allsopp,R.C.et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:10114-10118)。
【0134】
治療用途のために重要なのは、今日まで調査した処置細胞のすべてが最終的には老化し、予想された通り、類似のテロメア長を有する無処置細胞と比較して、処置細胞が何十もの付加的なPDを受けたために、テロメア以外のDNA損傷またはテロメア短縮の割合に影響を与え得るか、複製老化の導入を支援し得る他の損傷が累積し、同等のテロメア長を有する無処置細胞よりも少ないPDで実際に老化したことである。
【0135】
MRC-5細胞は、複製老化に近接し、その段階に入ると、直径が初期継代の数倍に膨張する傾向があった(
図8a)。複製老化と同様に、この変化は、TERT modRNAで処置した細胞では進行が遅かったが、CI TERT modRNAまたはビヒクルのみを受ける細胞では遅くならなかった(
図8b)。
【0136】
CI TERT modRNAがテロメラーゼ活性の増加を生じなかったという所見(
図1d)と一致して、CI TERT modRNA処置では、TERT modRNAで生じたTERTタンパク質レベルと同等の増加が生じたにもかかわらず(
図1c)、無処置細胞と比較してテロメア長分布が変わらず、同様にCI TERT modRNAでは複製能も向上しなかった。TERTとCI TERTの違いは、ヌクレオチドをテロメアに移送するCI TERTの能力を無効にする、1つの残基置換のみであるので、これらの結果は、TERT modRNAを用いて処置した細胞で観察されたテロメア長と複製能の増加が、より長いテロメアを有する既に存在した亜集団から選ばれたものではなく、少なくとも一部の処置細胞内における真のテロメア伸長に起因するものであるという仮説を強く裏付けるものである。
【0137】
本実施例の結果は、TERT modRNAのヒト細胞への送達がテロメラーゼ活性を一過的に上昇させ、迅速にテロメアを伸長させ、複製能を限られた量だけ、したがって潜在的に安全な量だけ増加させることを示している。また、精製した生体模倣modRNAは、低免疫原性である(Kariko et al.(2011)Nucleic Acids Res.39:el42;doi:10.1093/nar/gkr695)。したがって、modRNA送達は、治療用テロメア伸長処置に関する複数の重要な基準を満たしており、特異性、標的送達及び翻訳後調節を克服する能力を含めた他の基準に関しても見込みがある。特異性に関しては、TERT過剰発現は、Wntなどの他の遺伝子にも影響を与え得るが(Park et al.(2009)Nature460:66-72)、こうした影響は、かかる非特異性影響をもたらす因子の結合部位を変異させたTERTをコードするmodRNAを送達することによって回避することができる。送達に関しては、ヒトにおいて、modRNAがエキソソームで血液及び他の体液を介して細胞間輸送されるという近年の発見により、テロメア伸長及び他の用途のためにエキソソームを用いたmodRNA送達が可能である(Lakhal and Wood(2011)Bioessays33:737-741)。エキソソームは、生体模倣modRNAをインビトロで細胞に送達するのに良好に使用されている(データ不図示)。翻訳後調節に関しては、TERTの細胞周期依存性及び非依存性の阻害性翻訳後調節は、核外移行配列などの活性をもたらす1つ以上の既知の部位を変異させたTERTをコードするmodRNAを送達することによって、またはテロメラーゼもしくはテロメラーゼ複合体の他の要素をコードするmodRNAを一緒に送達することによって回避することができる。これらの手法により、分裂の緩慢な細胞または分裂しない細胞においてもテロメア伸長が可能となり、TERT modRNA処置は、分裂が静止したまたは分裂の緩慢な幹細胞集団及び前駆細胞集団に適したものとなる。したがって、modRNAを用いたテロメア伸長は、研究用、さらにテロメアを十分に維持できない疾患及び症状を扱う細胞療法、生体工学用途及びインビボ処置のために、細胞の複製能を増加させるのに、即時に使用される。
【0138】
要約すれば、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)をコードするmodRNAをMRC-5ヒト肺線維芽細胞に96時間にわたって3回送達した。処置細胞内のテロメアが1kbを超えて伸長した。これは、線維芽細胞のテロメアが平均で10年以上のヒトの加齢を経て短縮する量である(Takubo et al.(2010)Geriatr Gerontol Int.10 Suppl1:S197-206;doi:10.1111/j.1447-0594.2010.00605.x)。テロメラーゼ活性は、48時間以内に処置前のレベルに戻り、処置細胞における複製老化の発症が約30回の細胞集団倍加まで用量依存的に遅くなった。したがって、修飾ヌクレオシドを含有するテロメラーゼRNAの細胞への送達は、迅速かつ低免疫原性または非免疫原性であり、RNAは、多様な用途のためにテロメアを伸長させる有益な方法である。
方法
【0139】
modRNAテンプレート作製及び合成。modRNA合成用のDNAテンプレートを作製するために使用した野生型(WT)ヒトTERTオープンリーディングフレーム(ORF)は、NCBIヒトTERT転写変異体1リファレンス配列NM_198253.2と同一であり、pBABE-neo-hTERTプラスミド(Addgeneプラスミド1774)のORFに修飾G516Dを施すことによって作製した。残基516は、TERTの多量体化及びRNA結合に関連するモチーフである、TERTのN末端伸長部のQFPモチーフ内にある。触媒不活性TERT(CI TERT)変異体は、変異D712Aを導入することによって、WT TERT配列から作製した。WT及びCIのTERT
ORFを、T7プロモーター、ヒトβグロビン(hBB)の5’UTR、MCS、hBBの3’UTR、151bpのポリA配列、及びクラスIIの酵素を用いた線状化のためのポリA配列に続く制限部位を含む開始プラスミドのMCSに挿入した。忠実性を確保するために、得られた中間体プラスミドを少なくとも4試験で配列決定し、線状化し、MEGAscript T7キット(Ambion,Austin,Texas)のRNAポリメラーゼ、ならびに標準型ヌクレオチド及び非標準型ヌクレオチドの特注ヌクレオチド混合物(TriLink BioTechnologies)(40ul IVT反応物当たりの最終ヌクレオチド濃度は、アデノシン-5’-トリホスフェート(ATP)、5-メチルシチジン-5’-トリホスフェート(m5c)及びプソイドウリジン-5’-トリホスフェート(Ψ)がそれぞれ7.5mM、グアノシン-5’-トリホスフェート(GTP)が1.5mM、ならびにキャップアナログが6mM(ARCA,NEB)、言い換えれば、ATP:m5C:Ψ:GTP:ARCAのモル比が1:1:1:0.2:0.8)を使用し、転写してキャップを有するRNAとした。5’-3P保持断片(全体の約20%)に関係するmRNAの潜在的な免疫原性をさらに低下させるために、IVT産物をホスファターゼ(Antarctic Phosphatase,NEB)で処理した。modRNA産物の大きさ及び完全性は、変性アガロースゲル電気泳動を用いて確認した。
【0140】
細胞及び細胞培養。MRC-5ヒト胎児肺線維芽細胞(ATCC CCL-171)をATCCから継代14(流通在庫の継代数)で入手した。ATCCにはPD数が示されていないので、本明細書に示すPD値は、ATCCから細胞を受領した後のPD数を指し、ここではPD0と定義する。テロメア伸長実験に備えてテロメアを短縮するために、ATCCガイドラインを用いて、DMEM中で10%FBSとともに環境酸素及び5%CO2下で細胞を培養した。ATCCからの細胞受領後約PD40でテロメア伸長処置を開始した。modRNA処置を開始する少なくとも48時間前に、細胞を5%酸素ならびに20%FBS及びペニシリン-ストレプトマイシンを含有するDMEM培地に移した。細胞は、少なくとも播種から24時間後及びトリプシン処理の24時間前に処置した。
【0141】
modRNAトランスフェクション。特に指定のない限り、Lipofectamine RNAiMax(Invitrogen)のカチオン性脂質を使用して、Opti-MEM血清低減培地(Invitrogen)中で4~5時間、0.4nM TERT modRNA及び2.0nM TERC RNAを細胞にトランスフェクトし、その後、細胞を通常培地に戻した。
【0142】
テロメラーゼ活性の測定。トランスフェクション期間の開始から24時間後、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン処理し、500gで5分間ペレット化し、PBSで洗浄し、再ペレット化し、その後TRAPeze RTキット(Millipore)の説明書に従って溶解した。逆転写及びqPCR工程をRoche LightCycler480II及びABI7900HTで実施した。各試料のテロメラーゼ活性を、キット付属の参照標準と常に比較した。倍増値は、おそらくMRC-5細胞中のテロメラーゼ活性が低いことにより、変動が大きい傾向にあることが認められた。
【0143】
免疫細胞化学。トランスフェクション期間の開始から24時間後、細胞をPBSで洗浄し、2%パラホルムアルデヒドで20分間固定し、PBSで3回洗浄し、7.5%BSA及び0.1%Triton X-100を含有するPBS中で1時間ブロックし、3回洗浄し、5%BSAを含むPBS中の抗TERT抗体(ABCAM32020、1:50またはRockland600-401-252S、1:500)で4℃にてロッカー上で一晩インキュベートし、3回洗浄し、二次抗体で1時間インキュベートし、2回、その後さらに2回、各回3分間シェーカー上で洗浄し、次に0.1ug/ml DAPI中で3分間インキュベートし、PBS中で4回洗浄した。
【0144】
フローサイトメトリー。0.5~1.5ug/mlのTERT modRNAを用いて処置した細胞及び対照をトランスフェクションから22時間後にトリプシン処理し、洗浄し、2%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton X-100を含む7.5%BSA中で20分間透過処理し、PBS中で3回洗浄し、7.4%BSA中で1時間ブロックし、5%BSAを含むPBS中の抗TERT抗体(ABCAM32020を1:50)でインキュベートし、3回洗浄し、PBS中の二次抗体(1:200)でインキュベートし、その後3回洗浄し、FACSバッファー中で再懸濁し、Accuri C6フローサイトメーター(Becton Dickinson)で分析した。処置試料及び対照試料の全細胞の平均蛍光として、平均蛍光強度を算出した。データは、CFlow Plusソフトウェアを用いて分析した。
【0145】
RT-PCR RNeasy Mini kit(Qiagen)を使用してトータルRNAを採取し、High-Capacity RNA-to-cDNA Kit(Invitrogen)を使用してcDNAに変換した。以下のプライマーによるPCRを用いてcDNAを増幅させた。
hTERT-F:5’-GCCCTCAGACTTCAAGACCA(配列番号1)
3’-hBB-R:5’-AGGCAGAATCCAGATGCTCA(配列番号2)
GAPDH-F:5’-GTGGACCTGACCTGCCGTCT(配列番号3)
GAPDH-R:5’-GGAGGAGTGGGTGTCGCTGT(配列番号4)
【0146】
ウエスタンブロット。PBSで細胞を1回洗浄し、次にRIPAバッファー中で細胞を溶解することによって、タンパク質を採取した。タンパク質をNuPAGE Novex Tris-Acetate Gels上で走らせ、2時間35VでPVDF膜に移し、次に、抗αチューブリン(Sigma、1:10,000)及び抗TERT抗体(ABCAM32020、1:1000またはRockland600-401-252S、1:500)に一晩4℃でハイブリダイズした。赤外線(680nm及び800nm)抗体(LI-COR)及びOdyssey imager(LI-COR)を用いて二次検出を実施した。画像は、ImageJを用いて分析した。
【0147】
Q-FISH。Lansdorpら41の手順に従って、細胞をコルセミド0.1ug/ml中で4時間インキュベートし、固定し、分裂中期スプレッドを作製した。次にスライドをTelomere PNA FISH Kit/FITC kit(Dako,Denmark)を用い、キットプローブをAlexaFluor555標識テロメアプローブ(Bio-Synthesis,USA)に代えて、染色した。SoftWoRxソフトウェアを用いるDeltaVision(Applied Precision,Inc.,Washington)顕微鏡で60Xまたは100Xの油浸対物レンズを用いて3ミクロンの範囲にわたって電動ステージを用いて0.2ミクロン間隔で各細胞を撮像した。カスタムソフトウェアを用いて、各テロメア点の焦点が合っている画像を特定し、その合焦画像中の強度を統一した。照度の一時的な変動は、各画像の照度を記録したDeltaVision光センサを用いて補正し、空間的強度及びCCD暗電流及び読み込みエラーの変動は、平坦視野画像と暗視野画像のそれぞれを取得することによって補正した。少なくとも15個の分裂中期細胞を各試験に供し、各試料を少なくとも2つの個別実験によって少なくとも2試験で測定した。
【0148】
成長曲線。細胞を採取し、血球計算盤で細胞を計数した。自動計数器では、集団が複製老化段階に入ると集団が直径に関して不均質になり、正確な細胞計数ができなかった。細胞直径の測定ができるように画像を取得した。継代間の各培養期間の終了時と開始時の細胞数の比のlog2としてPDを算出した。
【0149】
統計。Microsoft Excelを使用して統計分析を行った。エラーバーは、平均値の±s.e.m.を示す。T検定を用いてテロメア長を比較し、P<0.05(両側)の場合統計的に差異があるとみなした。
実施例2 TERT modRNA処置のヒト内皮細胞への効果
【0150】
TERT modRNA処置の効果は、線維芽細胞に限定されない。
図9に示すように、ヒト微小血管真皮内皮細胞(「HMDEC」)は、典型的な倍加曲線を示し、継代約12回で老化の早期発症があり、継代17回で細胞は完全に老化する。
図10に示すように、これらの継代18回の細胞を野生型hTERT modRNAで処置すると(各群の右の棒)、老化が反転するが、対照処置(各群の左の棒)または変異hTERT modRNAを用いた処置(各群の中央の棒)は、細胞老化に影響しなかった。
【0151】
図11は、HMDECの成長に対する種々の処置の効果を示す。具体的には、継代10回と継代11回の間に野生型TERT modRNA(WT)で3回処置した細胞は成長を続けたが、無処置細胞(UT)、担体のみ(CO)で処置した細胞及び触媒不活性TERT(CI)で処置した細胞は、倍加が停止した。
【0152】
図12は、WT及びCI modRNAで処置した後の継代14回におけるHMDECのβ-ガラクトシダーゼ(bGAL)染色の結果を示す。この染色は、老化前細胞、静止細胞または不死細胞にはみられない老化細胞の特性である、pH6におけるβ-ガラクトシダーゼ活性を測定するものである(Dimri et al.(1995)Proc.Nat’lAcad.Sci.USA92:9363-7を参照されたい)。
方法
【0153】
HMDEC累積細胞集団倍加曲線を12ウェルプレート形式を用いて作成した。各時点で約10
5のHMDECを3試験で再播種し、細胞計数を先の再播種から4日後に行った。
図9に示すように、継代12回がHMDEC老化の初期発症時点と特定された。
【0154】
図10に示すように、担体のみ(CO、RNiMAX)対照を含め、hTERT-CI及びhTERT-WTをコードするmodRNA0.75mgを約10
5のHMDECに隔日2回トランスフェクトした。細胞計数を継代19回、20回及び21回で各回とも再播種から5日後に行った。
【0155】
図11に示す実験に関して、継代10回と11回間の期間に(上記の通り、継代12回はHMDEC老化の早期発症に該当する)、75cm
3フラスコ1つ当たり約5×10
5のHMDECを、EGM-2MV添加物を加えたEBM-2培地中で培養した(いずれもLonza,Walkersville,MD USA、カタログ番号はそれぞれCC-3156及びCC-4176)。無処置(UT)及び担体のみ(CO、RNAiMAX)対照フラスコも含め、hTERT-WT(WT)及びhTERT-CI(CI)をコードするmodRNA5μgを微小血管細胞に隔日3回トランスフェクトした。各時点で、5×10
5の細胞を播種し、継代11回から開始して、播種から5日後に血球計算盤を介して細胞計数を行った。各時点について、各実験条件を3試験で実施した。
【0156】
図12に示す実験について、継代14回のNT、hTERT-CI及びhTERT-WT HMDECをそれぞれ約10
5で
図10に記載の通り処置した。次に、細胞を、老化細胞組織化学染色キット(Sigma、カタログ番号CS0030)用いて、pH6でのβ-ガラクトシダーゼ活性の組織化学的染色に基づいた老化細胞分析にかけた。スライドの左側は、無処置(NT)細胞及びhTERT-CI(CI)またはhTERT-WT(WT)modRNAで処置した細胞の代表画像を示す。すべての画像は、同一の画像取得条件の下、取得した。各実験条件を3試験で実施し、各条件について、β-ガラクトシダーゼ活性が陽性である細胞の割合(チャート中に示す通り)を、ランダムに3回取得した領域の陽性細胞の平均として算出した。
実施例3 ヒト細胞に対するTERT modRNA処置の効果のさらなる特徴決定
【0157】
本実施例では、mRNAを、カチオン性脂質を介して、増殖能に限界があることが知られている細胞である初代ヒト線維芽細胞及び筋芽細胞にトランスフェクトした(
図13A)(Webster and Blau(1990)Somat Cell Mol Genet.16:557-565;Hayflick and Moorhead(1961)Exp Cell Res.25:585-621;Yakubov et al.(2010)Biochem Biophys Res Commun.394:189-193)。トランスフェクション効率を、GFP mRNA送達後の蛍光のフローサイトメトリーの単一細胞定量化を用いて決定した。これにより修飾mRNAの濃度が比較的低くても(0.1μg/ml)、細胞の大部分で(>90%)トランスフェクトが確認された(
図13B及び
図16A~C)。同じ濃度の外因性TERT mRNAまたはTERTの触媒的不活性(CI)型をコードするmRNAでの細胞処置では、最初の処置から24時間後にRT-qPCRで測定した場合、同量のmRNAの内部移行となった(
図16D)。CI TERTは、TERTの逆転写酵素ドメインの触媒部位にある金属配位アスパルテートの3残基のうちの1つに置換変異を有している。この結果、CI TERTは、テロメアにヌクレオチドを付加することはできないが、構造的には元の状態を残しており、鋳型DNAに結合でき、網赤血球溶解液中では野生型TERTと同等の安定性を示す(Wyatt(2009)Structure-Function Analysis of the Human Telomerase Reverse Transcriptase)。TERT mRNA処置もCI TERT mRNA処置も、RT-qPCRで測定したところ、無処置細胞と比較して、内因性TERT mRNAのレベルに影響を与えなかった(
図16E)。TERTまたはCI TERT mRNA1μg/mlのトランスフェクションでは、線維芽細胞中のTERTタンパク質の量が同様に50%の上昇となった(それぞれP<0.05及びP<0.01)(
図13C、左パネル)(Wick et al.(1999)Gene.232:97-106;Ahmed et al.(2008)J Cell Sci.121:1046-1053)。内因性テロメラーゼ活性の少ない細胞中の内因性TERTタンパク質の存在は、他者が既に報告している通り、多くの細胞種におけるTERTの不活性スプライスバリアントの相対存在量及びTERT活性の広範な翻訳後阻害性調節に一致する(Yi et al.(2001)Nucleic Acids Res.29:4818-4825;Cifuentes-Rojas and Shippen(2011)Mutat Res.[印刷に先立ちオンラインにて公開:2011年10月18日];doi:10.1016/j.mrfmmm.2011.10.003)。TERT mRNAの量を増やした処置では、フローサイトメトリーによる単一細胞アッセイで測定すると、TERTタンパク質発現が用量依存的に増加した(
図13C、右パネル)。
【0158】
テロメラーゼ活性は、一過的に上昇する。修飾TERT mRNA送達が機能性TERTタンパク質の産生をもたらすかどうかを調べるために、テロメラーゼ活性をゲルTRAPアッセイを使用して定量化した。線維芽細胞及び筋芽細胞において、試験したすべての用量のTERT mRNA(0.25,0.5,1.0及び2.0μg/ml)でテロメラーゼ活性が検出され、無処置細胞、またはビヒクルのみもしくはCI TERTコードする修飾mRNAで処置した細胞では、2.0μg/mlの高い用量であっても、テロメラーゼ活性は検出されなかった(
図13D)。TERTには機能性テロメラーゼ複合体を形成するのにTERCが必要であるが、TERTの送達だけでテロメラーゼ活性を上昇させるのに十分であった。これは、線維芽細胞を含む、テロメラーゼ活性の欠如した多くの細胞種でTERC RNAコピー数が多いためであり、多くの場合TERTが制限的であるという先の知見と一致する(Yi et al.(2001)Nucleic Acids Res.29:4818-4825)。時間経過により、1回のトランスフェクション後24時間でテロメラーゼ活性が最大になり、48時間以内にベースラインに戻ることが明らかとなった。この時間枠は、ヒトTERT mRNA(2~4時間)、ヒトβ-グロビンmRNA(17~18時間:本外因性TERT mRNAは両側をβ-グロビン5’UTR及び3’UTRに挟まれている)及びタンパク質合成の阻害因子に曝された細胞におけるテロメラーゼ活性(細胞種に依存するが通常24時間超)に関してこれまでに報告された半減期と一致する(Kabnick and Housman(1988)Mol Cell Biol.8:3244-3250;Holt et al.(1997)Proc Natl Acad SciUSA.94:10687-10692;Xu et al.(1999)Br J Cancer.80:1156-1161)。
【0159】
テロメアの伸長。無処置の線維芽細胞では、2つの異なる方法を用いて定量化すると、予想した通り(62)、テロメア長が時間の経過(3ヶ月)とともに減少した(
図14A)。単色マルチプレックスqPCR法(MMqPCR)を用いて長さを評価し、SpectraCell Laboratories,Inc.が実施したqPCR法を用いて測定値を個別に検証した(相関係数0.97、P<0.001)。TERT mRNAを線維芽細胞または筋芽細胞にそれぞれ細胞集団倍加(PD)25と6から始めて48時間の間隔で3回連続して送達すると、それぞれ0.9±0.1kb(22±3%)と0.7±0.1kb(12±2%)のテロメア伸長となった(
図14B、C)。ビヒクルのみまたはCI TERT mRNAによる処置では、無処置細胞と比べて、テロメア長に有意な効果はなかった。線維芽細胞におけるテロメア伸長の平均速度は、135±15bp/PDであった。
【0160】
細胞種に依存した増殖能の増加。修飾TERT mRNAの送達及び結果として生じるテロメア伸長の細胞増殖能への効果を調べるために、ヒト線維芽細胞を1回、2回または3回連続してトランスフェクトした。各処置は48時間の間隔で送達した。無処置、ビヒクルのみで処置、及びCI TERT mRNAで処置した線維芽細胞は、PD約50~60後で細胞数が同じように横ばいとなったが、TERT mRNAで3回処置した細胞は、制限的に増分した28±1.5PDにわたって増殖を続け、細胞数の全体的な増加は、無処置細胞を上回る2.7×10
8となった(
図14D、左パネル)。この効果は、用量依存的であり、各追加処置はPDの増加をもたらした(
図14D、右パネル)。増殖能の漸次的な増加は、2回目または3回目の処置に比べて1回目の処置のほうが大きかった。48時間毎に3回連続して処置したヒト筋芽細胞は、3.4±0.4PDに達し、無処置またはビヒクル処置対照と比較した細胞数は10倍に相当する増加となった(
図14E)。筋芽細胞のPDと線維芽細胞のPDのこのような差異は、これまでの研究で、少ないPDでのTERT過剰発現については、類似の限定的な効果が認められ、この限定が、線維芽細胞とは対照的にヒト筋芽細胞では、p16を介した成長停止に起因することが示されているので、予想外のことではない(Bodnar et al.(1998)Science.279:349-352;Zhu et al.(2007)Aging Cell.6:515-523)。線維芽細胞でも筋芽細胞でも、ビヒクルのみまたはCI TERT mRNAは、無処置対照と比較して、増殖能に対する効果はなかった。これらのデータは、修飾TERT mRNAの送達が培養物のPDを増加させるのに有効な方法であることを示している。重要なのは、調査した処置細胞のすべてが有意な細胞数の増加を示した一方で、最終的には成長曲線が横ばい状態に達し、不死化しないことを示すことである。
【0161】
老化マーカの一過的減少。線維芽細胞集団の成長が停止した時点で、当該細胞は、老化関連β-ガラクトシダーゼ(β-gal)染色及び肥大化などの老化マーカを呈示した(
図15A~C)(Cristofalo and Kritchevsky(1969)Med Exp Int J Exp Med.19:313-320;Dimri et al.(1995)Proc Natl Acad Sci USA.92:9363-9367;Cristofalo et al.(2004)Mech Ageing Dev.125:827-848;Lawless et al.(2010)Exp Gerontol.45:772-778)。これらの変化は、TERT mRNAで処置した線維芽細胞では、無処置細胞及びCI TERT mRNAまたはビヒクルのみを受ける細胞と比べて、一過的に減少した。他者による知見と一致して、成長停滞期に入った集団中のすべての細胞が検出可能なレベルでβ-ガラクトシダーゼを発現したわけではなかった(Lawless et al.(2010)Exp Gerontol.45:772-778;Binet et al.(2009)Cancer Res.69:9183-9191)。しかしながら、TERT mRNAをトランスフェクトした線維芽細胞及び筋芽細胞は、2つの集団が成長停滞期に達した後、各種類の対照細胞と同じ程度にβ-ガラクトシダーゼを発現した。これらのデータは、TERT mRNAで処置した細胞が最終的にかつ予想通りに分裂を停止し、老化マーカを発現し、したがって癌化する可能性がないことを示している。
【0162】
この実施例は、修飾ヌクレオチドを含むTERT mRNAの一過的送達がヒトテロメアを伸長し、細胞を不死化させることなく細胞増殖能を増加させることを実証している。1PD当たり135±15bpという本実施例で観察された線維芽細胞のテロメア伸長速度は、ウイルス方法を用いて報告された1PD当たり94から150bp未満(22,69)の速度に匹敵する。修飾TERT mRNAは、数日間で線維芽細胞のテロメアを0.9±0.1kb伸長させた。線維芽細胞テロメア長は、ヒトの生涯にわたって平均で約1~2kb短くなることが報告されている(Allsopp et al.(1992)Proc Natl Acad Sci USA.89:10114-10118)。したがって、修飾TERT mRNAは効果的でありつつ、一過的かつ非組込み型であり、恒常的に発現するウイルスTERT mRNA送達の主要な限界を克服するものである。
【0163】
最大の関心対象であるヒト細胞は、実験または再生医療で使用するための幹細胞を含め、数に限りのあることが多い。この問題に対しては、現在、体細胞核移植、遺伝子送達のためのウイルス法及びテロメア短縮の速度を落とす培養条件の使用などの様々な方法による取組みがなされている(Le et al.(2013)Cell Stem Cell,[印刷に先立ちオンラインにて公開:2013年11月19日];doi:10.1016/j.stem.2013.11.005;Zimmermann and Martens(2008)Cell Tissue Res.331:79-90;Mohsin et al.(2013)Circ Res.113:1169-1179)。本明細書に記載された修飾TERT mRNA処置は、これらの方法を有益に補完または代替するものであり、短時間であり、迅速にテロメアを伸長させ、挿入変異のリスクのないものである。TERT mRNA処置が短時間であることは、培養物内で経時的に生じ得る幹細胞表現型の損失を回避し(Gilbert et al.(2010)Science.329:1078-1081)、テロメアが伸長する期間であるiPSC作製の再プログラム化後の段階を短縮し得る(Wang et al.(2012)Cell Res.22:757-768)点で、特に魅力的である。このようなテロメア伸長方法は、疾患のモデル化、改善薬のスクリーニング及び細胞療法における使用のための多様な細胞種の有用性を向上させる可能性がある。
【0164】
増殖能に対する効果の範囲は、試験した細胞種について観察され、筋芽細胞及び線維芽細胞の増殖能に対するTERT発現の異なる効果を示す従前の研究と一致した(Bodnar et al.(1998)Science.279:349-352;Zhu et al.(2007)Aging Cell.6:515-523)。さらに、テロメア伸長の量は、増殖能と相関しなかった。したがって、細胞状況がTERT発現の増殖能への効果を決めるため、この限定を克服するには、この作用をもたらす要因の理解が重要である。ウイルスTERT過剰発現において筋芽細胞の増殖能の制限に関与している因子には、p16を介した成長停止、細胞種、細胞株及び培養条件が挙げられる(Zhu et al.(2007)Aging Cell.6:515-523)。より一般的には、この作用は、テロメア以外のDNA損傷、年齢及びミトコンドリア完全性によってもたらされ得る(Sahin et al.(2011)Nature.470:359-365;Mourkioti et al.(2013)Nat Cell Biol.15:895-904;Lopez-Otin et al.(2013)Cell.153:1194-1217)。CI TERT mRNAをトランスフェクトした細胞においてテロメア長または細胞増殖能が増加しないことは、ヌクレオチドをテロメアに直接付加するTERTの触媒部位を介した作用の処置と一致する。TERT mRNAで処置した細胞集団は、一定時間、数が指数的に増加し、最終的には増大が停止し、無処置集団と同程度の老化マーカを呈した。これは、不死化しないことと一致する。
【0165】
本実施例で観察された修飾mRNAの一過的な非組込み型の性質及び増殖能の限定的な増加は、現在用いられているウイルスまたはDNAベクターよりも安全なものである。さらに、当該方法は、テロメアを迅速に伸長させるので、処置が短時間でなされ得、処置後の保護的なテロメア短縮機構が元の状態のまま維持される。この方法は、免疫老化または骨髄機能不全の場合、造血幹細胞または前駆細胞などの、ある症状及び疾患をもたらす細胞種を処置するために、エクスビボで用いることができる。さらに、修飾mRNAは、ある特定の組織にインビボで送達することもできる(Kormann et al.(2011)Nat Biotechnol.29:154-157)。要約すれば、本明細書に記載されたテロメアを迅速に伸長させるための迅速かつ安全な方法により、老化を遅らせ、ヒト細胞を不死化することなく、細胞増殖能を向上させられる。
方法
【0166】
mRNAテンプレート作製及び合成。GFP、TERT及びCI TERTをコードする修飾mRNAを作製するために、各々のオープンリーディングフレーム(ORF)を、T7プロモーター、ヒトβ-グロビン(HBB)の5’UTR、MCS、HBBの3’UTR、151bpのポリA配列、及びクラスIIの酵素を用いた線状化のためのポリA配列に続く制限部位を含む開始プラスミドのMCSに挿入した。得られた中間体プラスミドを配列決定し、線状化し、MEGAscript T7キット(Ambion,Austin,Texas)のバッファー及びRNAポリメラーゼならびに標準型ヌクレオチド及び非標準型ヌクレオチドの特注混合物(TriLink BioTechnologies,San Diego,CA,USA)(40μl IVT反応物当たりの最終ヌクレオチド濃度は、アデノシン-5’-トリホスフェート(ATP)、5-メチルシチジン-5’-トリホスフェート(m5c)及びプソイドウリジン-5’-トリホスフェート(Ψ)のそれぞれが7.5mM、グアノシン-5’-トリホスフェート(GTP)が1.5mM、ならびにキャップアナログが6mM(ARCA)(New England Biolabs,Ipswitch,MA,USA)、言い換えれば、ATP:m5C:Ψ:GTP:ARCAのモル比が1:1:1:0.2:0.8)を使用して、転写した。5’-3P保持断片に関係するmRNAの潜在的な免疫原性をさらに低下させるために、IVT産物をAntarctic Phosphatase(New England Biolabs)で処理した。mRNA産物の大きさ及び完全性は、変性アガロースゲル電気泳動を用いて確認した。mRNA合成用のDNAテンプレートを作製するために使用した野生型ヒトTERT ORFは、NCBIヒトTERT転写変異体1(リファレンス配列NM_198253.2)と同一である。ORFは、pBABE-neo-hTERTプラスミドから作製した(Counter et al.(1998)Proc Natl Acad Sci USA.95:14723-14728)(plasmid1774,Addgene,Cambridge,MA,USA)。pBABE-neo-hTERTプラスミドは、多量体化及びTERTとTERC RNAの相互作用に関連するモチーフである、TERTのQFPモチーフ内の残基516に非サイレント突然変異があったため、この突然変異による人為構造の可能性を回避するために、G516Dで置き換えて変異を修正することで、NCBIリファレンス配列と同一の配列を作製した。CI TERT変異体は、D712Aの変異を導入することによって、TERT配列から作製した。
【0167】
細胞培養及び処置。継代14回のヒト初代胎児肺MRC5線維芽細胞をATCC(Manassas,VA,USA)から取得した。ATCCにはPD数が示されていないので、本明細書に示すPD値は、ATCCから細胞を受領した後のPD数を指す。MRC5細胞を20%FBS及びペニシリン-ストレプトマイシンとともにDMEM中で培養した。ヒト30歳初代骨格筋芽細胞(Lonza,Allendale,NJ,USA)をSkGM-2培地(Lonza)中で供給業者の説明書に従って培養した。採取した細胞とその前の継代で播種した細胞との比の2を底とする対数として、細胞集団倍加を算出し、播種した細胞よりも採取した細胞が少ない場合は、ゼロとみなした。OptiMEM血清低減培地(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)中で調製したLipofectamine RNAiMax(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)を用いて、本実施例に示す最終濃度に達するように、通常培地を用いて体積比1:5で細胞に加え、細胞に修飾TERT mRNAをトランスフェクトした。
【0168】
テロメラーゼ活性の測定。トランスフェクション期間の開始から24時間後、細胞を採取し、CHAPSバッファー内で溶解した。TRAPeze kit(EMD Millipore,Billerica,MA,USA)の改変版を用いて、TRAPアッセイを実施した。改変版では、プライマー及びポリメラーゼを、人工テロメア基質が伸長する間の工程の前ではなく、後に加えた。PCRプログラムは、94℃30秒/59℃30秒/72℃45秒を30サイクルとし、この産物を、SYBR Gold核酸ゲル染色(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)で染色した0.5X TBE中15%ポリアクリルアミドゲル上で走らせた。テロメラーゼ活性の時間経過は、TRAPeze RT kit(EMD Millipore,Billerica,MA,USA)を用いて実施した。
【0169】
ウエスタンブロット。PBSで細胞を1回洗浄し、次にRIPAバッファー(Cell Signaling Technology,Danvers MA,USA)中で細胞を溶解することによって、タンパク質を採取した。タンパク質をNuPAGE Novex Tris-Acetate Gels(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)上で走らせ、2時間35VでPVDF膜に移し、次に、抗α-チューブリン(Sigma,St.Louis,MO,USA、1:10,000)及び抗TERT抗体(ABCAM,Cambridge,MA,USA,32020、1:1000またはRockland Immunochemicals,Gilbertsville,PA,USA,600-401-252S、1:500)にハイブリダイズし、一晩4℃でインキュベートした。赤外線(680 nm及び800 nm)抗体(LI-COR,Lincoln,NE,USA)及びOdyssey imager(LI-COR)を用いて検出を実施した。各バンドの合計強度をImageJ(NIH,Bethesda,MD,USA)を用いて定量化した。各TERTバンドの強度は、チューブリンのバンドに対応する強度で標準化した。
【0170】
フローサイトメトリー。指定用量(
図16A~C)のTERT mRNAを用いたトランスフェクトから24時間後に細胞を採取し、抗TERT抗体(Rockland Immunochemicals,Gilbertsville,PA,USA;600-401-252S)を1:500で用いて染色した。
【0171】
SpectraCell Laboratories,Inc.によるテロメア長の測定。ゲノムDNAをフェノールクロロホルムを用いて抽出し、Quant-iT(商標)PicoGreen(登録商標)dsDNA Assay Kit(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)を用いて定量化した。テロメア長分析は、基本的にはCawthon et al.Cawthon(2002)Nucleic Acids Res.30(10):e47;Cawthon(2009)Nucleic Acids Res.37(3):e21の記載に従って、CLIA認定高スループットqPCRアッセイを用いて、SpectraCell Laboratories Inc.(Houston,TX,USA)で実施した。アッセイは、テロメア繰返しコピー数と単一遺伝子(36B4)コピー数との比において、試料が参照DNAサンプルとどれだけ異なるかという因子を測定することによって、相対テロメア長を求めるものである。この比(T/S比)は、平均テロメア長に比例するものと考えられる。すべての試料を、少なくとも1つの陰性対照及び2つの異なる既知のテロメア長(長及び短)の2つの陽性対照を用いて、少なくとも2試験で行った。平均分散は最大8%であった。結果は、kb単位の平均テロメア長に相当するテロメアスコアとして報告された。
【0172】
MMqPCRによるテロメア長の測定。Cawthon(Cawthon(2009)Nucleic Acids Res.37(3):e21)によって開発されたMMqPCRプロトコルの修正版を用いて、テロメア長を測定した。変更点を以下に示す。テロメア産物をより早く増幅させるために、追加のPCR増幅前サイクルを追加して、テロメア遺伝子シグナルと単一コピー遺伝子シグナルとの差異を広くし、2つのTaqポリメラーゼの混合物を実験的に測定して、それぞれ単独の場合よりも望ましいPCR反応効率を得るようにし、SYBR Green濃度を0.75倍から0.5倍に低くすることでシグナルを早めた。PureGene kit(Qiagen Germantown,MD,USA)を用いて、RNase消化によりゲノムDNAを細胞から採取し、NanoDrop2000(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA,USA)を用いて定量化し、15μl当たり10~40ngを用いて、LightCycler480 PCR System(Roche,Basel,Switzerland)を使用し、4試験でqPCR反応実施した。試料DNA定量化に必要な標準曲線を作成するために、各アッセイには、100ng/μlから1.23ng/μlの5点に及ぶ参照DNAの連続希釈を含めた。各15μlのPCR反応における試薬の最終濃度は、Tris-HCl pH8.4 20mM、KCl50mM、MgCl2 3mM、各dNTP0.2mM、DTT1mM、ベタイン1M(Affymetrix,Santa Clara,CA,USA)、SYBR Green I0.5倍(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)、Platinum Taq0.1875U(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)、Titanium Taq0.0625倍(Clontech)及び各プライマー900nM(Cawthon(2009)Nucleic Acids Res.37(3):e21で指定されたtelg、tele、hbgu及びhbgdプライマー配列)であった。サーマルサイクルプログラムは、95℃で2分、次に、95℃で15秒、49℃で15秒の6サイクル、次に、95℃で15秒、62℃で10秒、72℃で15秒シグナル取得有、84℃で15秒、88℃で10秒シグナル取得有の40サイクルとした。Roche LightCycler480ソフトウェアを使用して標準曲線を作成し、各試料のテロメア及び単一コピー遺伝子のDNA濃度を算出した。各試料の反復試験についてT/S比を算出し、その結果を平均化し、試料T/S比を得て、上述したSpectraCellに送付した参照細胞のブラインド反復試験の試料を用いて校正した。同じ試料についてMMqPCRとSpectraCellとを用いて独立して取得したT/S比の相対値は、極めて一致した(相関係数=0.97、P<0.001)。
【0173】
逆転写qPCR。別の指定がない限り、プライマーは、Primer3(Untergasser et al.(2012)Nucleic Acids Res.40:e115)を用いて設計し、これを表9に示す。処置開始から24時間後に細胞をPBSで3回洗浄し、RLTバッファー(Qiagen,Germantown,MD,USA)で細胞を採取した。High Capacity RNA-to-cDNA Master Mix(Life Technologies,Grand Island,NY,USA)を用いて、RNAをcDNAに変換した。内因性TERT mRNAは、TERTのオープンリーディングフレームにはフォワードプライマー、内因性TERT mRNAの3’UTRにはリバースプライマーを用いて増幅した。外因性TERT mRNAは、TERT mRAのオープンリーディングフレームにはフォワードプライマー、外因性TERT及びCI TERT mRNA中に存在するが内因性TERT mRNAには存在しないHBBの3’UTRにはリバースプライマーを使用して増幅した。相対レベルをPfaffl法を用いて算出した。参照遺伝子は、RPL37A( Greber et
al.(2011)EMBO J.30:4874-4884に記載のプライマーを使用)及びGAPDHとし、いずれも対照細胞または処置細胞のCt値に有意な変化は示さなかった。
【表9】
【0174】
老化関連β-ガラクトシダーゼ染色及び細胞サイズの評価。Senescence β-Galactosidase Staining Kit(Cell Signaling Technology,Danvers MA,USA)を使用してβ-gal染色を実施した。1集団当たり少なくとも50個の細胞を2試験で採点評価した。細胞直径は、トリプシン処理後に血球計算盤のグリッド上で手作業で採点した(Cristofalo and Kritchevsky(1969)Med Exp Int J Exp Med.19:313-320)。
【0175】
統計。ステューデントのT検定及びピアソンの相関係数の計算は、Microsoft Excelを使用して実施した。エラーバーは、平均値の±s.e.m.を示す。
実施例4 エレクトロポレーションによるTERT modRNAの細胞への送達
【0176】
本発明のTERT modRNA化合物は、
図18~20に示すように、所与の細胞種において最適なトランスフェクション効率及び生存率を達成するのに適したTERT modRNAの濃度、電圧波形及び電極形状などのエレクトロポレーションのパラメータを用いて、エレクトロポレーションによっても細胞に送達することができる。
図21は、エレクトロポレーションによって送達したTERT modRNAの用量に対するテロメラーゼ活性の依存性を示す。
実施例5 modRNAのヒト血液細胞への送達
【0177】
CD8+T細胞に以下の通りmodRNAをトランスフェクトした。ヒト全血由来のバフィー層をLymphoprep(Axis-Shield)密度勾配媒体で遠心分離し、単核球を取得し、これを2回洗浄してから、Dynabeads Untouched Human CD8 T Cells Kit(Life Technologies)を用いて非CD8+白血球を枯渇させた。CD8+細胞をDynabeads Human T-Activator CD3.CD28(Life Technologies)を用いて刺激し、30,000U/mlのIL-2を添加したOpTimizer T細胞培地を用いて4日間培養した。次に、補助剤1を含有するNucleofector P3溶液20μlの容量中50μg/mlの濃度で、核GFP及びTERTをコードするmodRNAをT細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、細胞を蛍光及び生存率のアッセイにかけた。トランスフェクションの結果を、
図22に示す。明るい蛍光は、コピー数が高多いことを示し、高い生存率を有する90%を超えるトランスフェクション効率である。
実施例6 テロメラーゼmodRNAを使用したヒト表皮角化細胞におけるテロメラーゼの発現
【0178】
図23に示すように、TERT modRNAを用いたヒト表皮角化細胞のエレクトロポレーションにより、細胞にテロメラーゼ活性の発現がもたらされる。ヒト初代表皮角化細胞(Lonza)を、3×10
7細胞/mlの密度で、触媒不活性(CI)TERTまたは野生型TERTのいずれかをコードするmodRNA50μg/mlを含有するOptiMEM培地(Life Technologies)中に懸濁させた。10μlの細胞懸濁液を1mmギャップのキュベット内に入れ、Gene Pulser(BioRad)を用いて、200V、1000Ohms及び25マイクロファラッドでエレクトロポレーションを実施した。細胞を速やかにKGM-2培地(Lonza)に戻し、24時間インキュベートした後、ゲルを用いたTRAPezeアッセイ(Millipore)を使用するテロメラーゼ活性の測定のために細胞を採取した。25μlの各TRAP反応物を全タンパク質1μgを用いて2試験試料で、85℃で10分間加熱し、テロメラーゼを不活性化した。無処置、エレクトロポレーションのみ及びCI TERTの試料を陰性対照とし、293T細胞及びTSR8を陽性対照とした。
実施例6 インビボ送達によるmodRNAコードタンパク質の発現
【0179】
インビボ送達したmodRNAは、そのmodRNAがコードする機能性タンパク質の発現をもたらすことができる(Kormann et al.(2012)Nature Biotechnology29:154-157;Kariko et al.(2012)Molecular Therapy20:948-93)。この点は、ルシフェラーゼをコードするmodRNA2μgとカチオン性脂質担体(TransIT)との複合体を形成し、げっ歯類の尾部に50μlのOptiMEM(Life Technologies)中で静脈注入することによって、確認されている。脾臓を摘出し、ルシフェリンで処置し、IVIS生物発光イメージャー(Perkin-Elmer)を用いてルシフェラーゼ活性のアッセイを行った。
図24に示すように、ルシフェラーゼ活性が注入部位及び脾臓で検出された(矢印)。
【0180】
本明細書にて言及したすべての特許、特許公報及び他の公開文献は、各々が個別にかつ明確に本明細書に参照により組み込まれた場合と同様に、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【0181】
具体的な実施例を記載してきたが、上記の説明は例示であり、限定的なものではない。前述の実施形態の任意の1つ以上の特徴は、本発明の他の実施形態の1つ以上の特徴と任意の方法で組み合わせることができる。さらに、本明細書を検討すれば、本発明の多くの変形形態が当業者には明らかになるであろう。したがって、本発明の範囲は、等価物の全範囲も含め、添付する特許請求の範囲を参照することによって定められるべきである。