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▶ ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141764
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ガス供給方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/10 20060101AFI20220921BHJP
   A61M 1/16 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61M16/10
A61M1/16 107
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110941
(22)【出願日】2022-07-11
(62)【分割の表示】P 2019555695の分割
【原出願日】2018-04-11
(31)【優先権主張番号】15/484,981
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503249418
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】マイヤーホフ,マーク イー.
(72)【発明者】
【氏名】レーナート,ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】チン,ユー
(72)【発明者】
【氏名】ハント,アンドリュー ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ブリスボイス,エリザベス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】レン,ハン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】装置を簡素化し、装置コストを削減することができる一酸化窒素生成システムを含むガス供給装置を提供する。
【解決手段】システムは亜硝酸イオン源を含む媒体を有する。作業電極は前記媒体と接触している。Cu(II)-リガンド複合体は前記作業電極と接触している。参照/カウンター電極、又は参照電極及びカウンター電極は前記媒体と接触し、前記作業電極から分離している。入口導管は窒素ガスを前記媒体に供給し、出口導管は前記媒体から窒素ガス及び一酸化窒素の流れを輸送する。吸気ガス導管は前記出口導管に動作可能に接続され、酸素含有ガスを導入し、前記ガス供給装置の出力ガス流を生成する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu(II)-リガンド複合体及び亜硝酸イオン源を含む媒体と接触するように配置された作業電極に陰極電圧又は電流を印加して、亜硝酸イオン源からの亜硝酸と反応するCu(I)-リガンド複合体に、Cu(II)-リガンド複合体を還元して一酸化窒素(NO)を生成し、
窒素ガスを用いて一酸化窒素を掃気し、窒素ガス及び一酸化窒素の流れを形成し、
酸素含有ガスを導入して窒素ガス及び一酸化窒素の流れと混合し、出力ガス流を生成する方法。
【請求項2】
生成した一酸化窒素の流れを、前記媒体と接触している作業電極の表面積量を変える、Cu(II)-リガンド複合体の濃度を変える、前記媒体中の亜硝酸イオン源の濃度を変える、印加する陰極電圧の大きさを経時的に変える、印加する陰極電流の大きさを経時的に変える等のいずれかにより調整することをさらに特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出力ガス流中の一酸化窒素濃度を監視し、
前記出力ガス流中の一酸化窒素濃度に基づいて、
印加している陰極電圧又は電流を維持し、あるいは
印加する陰極電圧又は電流を調整してNO生成を増加させ、
前記出力ガス流中の一酸化窒素濃度が目標濃度より低い場合は、
印加する陰極電圧又は電流を調整してNO生成を増加させ、
前記出力ガス流中の一酸化窒素濃度が目標濃度より高い場合は、
印加する陰極電圧又は電流を調整してNO生成を減少させることをさらに特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
陰極電圧又は電流を印加することは、
陰極電圧を印加することと、
陰極電圧の印加中に前記作業電極おける電流を監視することと、
陰極電圧を選択的に調整して、前記作業電極の電流を少なくとも実質的に一定に維持することを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年4月11日に提出された同時係属中の米国特許出願シリアルナンバー15/484,981の一部継続出願であり、これ自体が2016年8月2日に提出された米国特許出願シリアルナンバー15/226,769の一部継続出願であり、これ自体が2013年12月7日に提出された米国特許出願シリアルナンバー14/099,942(現在は米国特許番号9,480,785)の分割出願であり、これ自体が2013年3月28日に提出された米国特許出願シリアルナンバー13/852,841(現在は米国特許番号9,498,571)の一部継続出願であり、これ自体が2012年3月30日に提出された米国仮出願シリアルナンバー61/617,886に対し優先権を主張し、そのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府資金による研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)によって授与された助成金番号HD087071及びHL119403に基づいて連邦政府支援を得てなされたものである。米政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
一酸化窒素(NO)は内因性ガス分子として、固有の血管拡張特性、創傷治癒特性、血管新生促進特性、抗癌能、抗血小板活性、抗菌・抗ウイルス活性など、いくつかの重要な生理学的機能を有することが明らかになっている。いくつかの具体例として、NOは、感染の抑制、バイオフィルム形成の防止、炎症及び線維症を最小限に抑えることに使用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸入療法でNOを使用することも探究されてきた。吸入一酸化窒素は肺不全の治療に使用され、肺血管拡張を促進し、肺血管抵抗を下げることが明らかになっている。吸入一酸化窒素は、新生児の低酸素血症性呼吸不全の治療にも使用され、酸素化を改善し、膜型肺による体外酸素加法の必要性を低減することも明らかになっている。吸入一酸化窒素の使用は、肺移植、肺高血圧症の治療など他の分野においても、吸入消毒剤等として有用であることが実証される可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施例の特徴は、以下の詳細な説明、及び恐らく同一ではないが類似した構成要素に対応する同様の参照番号が付された図面を参照すれば明らかになろう。簡潔さのために、前述した機能を有する参照番号又は特徴は、それらが示されている他の図面との関連で説明することをしないこともある。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】2個の電極を含む構成のガス供給装置の実施例の概略図である。
図1B】3個の電極を含む構成のガス供給装置の実施例の概略図である。
図2】一酸化窒素生成システム及びセパレータを含み、吸入療法に使用されるガス供給装置の実施例の概略図である。
図3】本明細書で開示するガス供給装置のあらゆる実施例で使用するのに適した一酸化窒素センサの実施例である。
図4A】一酸化窒素生成システム及び一酸化窒素抽出装置を含み、吸入療法に使用されるガス供給装置の別の実施例の概略図である。
図4B】一酸化窒素生成システム及び一酸化窒素抽出装置を含み、吸入療法に使用されるガス供給装置のまた別の実施例の概略図である。
図5】血液酸素付加装置に動作可能に接続されたガス供給装置の実施例の概略図である。
図6】2mMのCu(II)-トリス(2-ピリジルメチル)アミン(CuTPMA)、100mMの亜硝酸ナトリウム、及び0.1Mの3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)緩衝剤のバルク水溶液中で、(3MのCl-Ag/AgCl電極を参照電極としたときに)0.071cmのガラス炭素電極に-0.2V、-0.3V、-0.4Vを印加した場合のNOのppb濃度の経時的変化(経過時間数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図7】2mMのCuTPMA、400mMの亜硝酸ナトリウム、及び0.2Mの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝剤(pH7.2)のバルク水溶液中で、(3MのCl-Ag/AgCl電極を参照電極としたときに)約15cmの金メッシュ電極に-0.4V、-0.26V、-0.24V、-0.22V、-0.20V、-0.17Vを印加した場合のNOのppm濃度の経時的変化(経過分数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図8】生成され窒素ガス流で掃気されるNO(g)の濃度に対する、本明細書で開示する実施例のセンサの電流測定時の気相反応を、電流(μA)の経時的変化(経過秒数)として示したグラフである。
図9】7mMのCu(II)-1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン(CuMeTACN)、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤(pH7.3)のバルク水溶液中で、25cmの白金メッシュ電極に対して定電流法を用いたときのNOのppm濃度の経時的変化(経過分数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図10A】7mMのCuMeTACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤(pH7.3)のバルク水溶液からNOが生成された場合に、酸素を20%含む出力ガス流中で、25cmの白金メッシュ電極に対して定電流法を用いたときのNOのppm濃度の経時的変化(経過秒数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図10B図10AのNO生成を、印加した電流(mA)に対するNOのppm濃度として示したグラフである。
図11】7mMのCuMeTACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤(pH7.3)のバルク水溶液からNOが生成された場合に、0.05L/分の一定流量の空気スイープガスにより溶液から流されたNOを含む出力ガス流中で、4.5cm×8.5cmの金メッシュ電極に対して定電流法を用いたときのNOのppm濃度の経時的変化(経過秒数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図12】7mMのCuMeTACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤(pH7.3)のバルク水溶液からNOが生成された場合に、0.05L/分の一定流量の酸素スイープガスにより溶液から流されたNOを含む出力ガス流中で、4.5cm×4.5cmのステンレス鋼電極に対して定電流法を用いたときのNOのppm濃度の経時的変化(経過秒数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図13】7mMのCuMeTACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤(pH7.3)のバルク水溶液からNOが生成された場合に、0.05L/分の一定流量の酸素スイープガスにより溶液から流されたNOを含む出力ガス流中で、4.5cm×4.5cmのステンレス鋼電極に対して定電流法を用いたときのNOのppm濃度の経時的変化(経過秒数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図14A】2mM~7mMのCuMeTACN、及び0.1M~1Mの亜硝酸ナトリウムのバルク水溶液からNOが生成された場合に、0.1L/分及び0.2L/分の一定流量の空気スイープガスにより溶液から流されたNOを含む出力ガス流中で、5cm×10cmの金電極に対して定電流法を用いたときのNOのppm濃度の経時的変化(経過分数)に対する、一酸化窒素生成の調整を示したグラフである。
図14B図14Aに関連して記述した0.1L/分の一定空気流量の場合に印加した電流に対するNO(ppm)の校正線を示したグラフである。
図15】流体再循環システムを含むガス供給装置の実施例を用いて生成した気相NOの純度を示したグラフである。
図16】電気化学セルを通過する電流のフィードバック制御に用いる電子回路の概略図である。
図17図16に示す電子回路の実施例を用いたNO濃度のフィードバック制御を示したグラフである。
図18A】全身性炎症反応症候群(SIRS)を軽減させるガス状NOの効果を示したグラフである。
図18B】全身性炎症反応症候群(SIRS)を軽減させるガス状NOの効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書では、ガス供給装置のいくつかの実施例を開示する。実施例の装置では、一酸化窒素(NO)ガスを、銅(II)リガンド複合体(すなわちCu(II)-リガンド複合体)及び溶解した亜硝酸塩源を含む溶液槽から要求に応じて電気化学的に生成する。本明細書で開示する装置は、一酸化窒素タンク(すなわち圧縮ガスボンベ)を必要としないため、装置を簡素化し、装置コストを削減することができる。
【0008】
さらに、本明細書で開示する実施例のガス供給装置では、生成されるNO量を、作業電極に印加する電圧又は電流を変えることで精密に調整することができる。これによって適切な量のNOを生成し、特定の用途において所望の効果を得ることができる。一実施例として、例えば約100ppbv(体積比10億分の1)から約100ppmv(体積比100万分の1)までの安定治療用量のNOを、吸入一酸化窒素治療用に生成することができる。出力ガス流中のNO濃度も、少なくとも一部は、用いるガスの流量に依存する。別の実施例として、血液酸素付加装置のスイープガスにより定期的又は継続的にNOを生成すれば、血液にNOを供給して血小板活性化を抑制し、体外生命維持の際や心肺バイパス(CPB)中の消費も抑制することができる。
【0009】
本明細書で開示する実施例のガス供給装置では、より具体的には作業電極に接触するCu(II)-リガンド複合体を用いる。Cu(II)-リガンド複合体と作業電極との「接触」により、Cu(II)-リガンド複合体を電子伝達体として機能するように利用できることが理解されよう。一実施例として、Cu(II)-リガンド複合体は、作業電極が置かれている媒体に溶解又は分散されたときに作業電極と接触することができる。別の実施例として、Cu(II)-リガンド複合体は、作業電極の表面に固定することによっても作業電極と接触させることができる。「固定」とは、Cu(II)-リガンド複合体を作業電極に共有結合的に取り付ける、作業電極に物理的に吸着させる、作業電極表面に付着させたポリマー、薄膜、ヒドロゲルに注入する又は共有結合的に取り付けることを意味する。
【0010】
このようなCu(II)-リガンド複合体により、陰極電圧又は陰極電流のみを使用してNOを生成し、その放出を調節する電気化学的方法を実施することが可能となる。これらの実施例ではNOを、Cu(II)-リガンド複合体をCu(I)-リガンド複合体に還元することにより電気化学的に生成する。この場合のCu(I)は、亜硝酸イオン(NO-)をNOに還元する機能を果たす。生成されたNOは、還元されたリガンド複合体のCu(I)中心に結合しないため、リガンド複合体を酸化させる追加手順を実施することなく、NOが生成された媒体の外部に輸送されることが可能となる。不活性な作業電極の表面又は表面近くのCu(II)-リガンド複合体に対するCu(I)-リガンド複合体の比率は、印加する電位又は電流を調整することで調整が可能となる。これにより、亜硝酸塩及びCu(II)-リガンド複合体を所定の濃度にして、生成するNO量を調整することも可能となる。
【0011】
本明細書で開示するガス供給装置のいずれの実施例も、一酸化窒素(NO)生成システムを含む。NO生成システムは、亜硝酸イオン源を含む媒体、媒体と接触する作業電極、作業電極と接触するCu(II)-リガンド複合体、並びに参照/カウンター電極、又は媒体と接触し、作業電極から分離された参照電極及びカウンター電極のうちの一つを含む。ガス供給装置はさらに、媒体に窒素ガスを供給する入口導管、媒体から窒素ガス及び一酸化窒素の流れを輸送する出口導管、及び出口導管と動作可能に接続され、酸素含有ガスを導入してガス供給装置の出力ガス流を生成する吸気導管を含む。
【0012】
ガス供給装置の2つの実施例10、10’、及び関連のNO生成システム12、12’を、各々図1A及び1Bに示す。図1AのNO生成システム12は2電極システムで、図1BのNO生成システム12’は3電極システムである。
【0013】
図1Aの2電極構成では、作業電極14、及び参照又はカウンター電極(本明細書では参照/カウンター電極16と称する)を使用している。2電極システムでは、参照及びカウンター電極は同じ電極16で短絡されている。このシステムの場合、電流は参照/カウンター電極16を通過するため、完全セルの電位を測定することができる。作業電極14及び参照/カウンター電極16は、ポテンショスタット/ガルバノスタット18に電気的に接続されている。
【0014】
図1Bの3電極構成では、作業電極14は分離した参照電極20及び分離したカウンター電極22と連動して使用されている。このシステムの場合、電流はカウンター電極22と作業電極14の間を流れ、電位差はこれらの電極22と14の間で制御する。電位差は、作業電極14と参照電極20の間で測定する。
【0015】
2電極システム及び3電極システムのいずれの場合も、ポテンショスタット/ガルバノスタット18を使用して回路を動作させることができる。ポテンショスタット/ガルバノスタット18には、電流がセルを通じて流れるように強制するための制御増幅器を含めてもよい。参照/カウンター電極16又はカウンター電極22を、制御増幅器の出力端子に接続してもよい。ポテンショスタット/ガルバノスタット18には、電流を測定するためのコンポーネント(例えば低電流の場合は電流フォロワ、高電流の場合はシャント等)、及び電位差を測定するためのコンポーネント(差動増幅器等)も含めてもよい。
【0016】
本明細書で開示する一部の実施例では、ポテンショスタット/ガルバノスタット18を、電位制御モードと電流制御モードの間で切り替えることができる。
【0017】
電位制御モードにすると、ポテンショスタット/ガルバノスタット18は作業電極14の電位を正確に制御するため、作業電極14と、参照電極20又は参照/カウンター電極16との間の電位差を適切に測定し、指定値に対応させることができる。本明細書で開示する実施例では、電位制御モードを使用して所望の陰極電圧を印加することができる。定電圧を印加すれば、比較的一定濃度のNOを生成することができる。
【0018】
電流制御モードにすると、作業電極14と、カウンター電極22又は参照/カウンター電極16との間の電流が制御される。一定電流を維持するには、電圧を継続的に調整する、又は必要に応じて調整するとよい。作業電極14と、参照電極20又は参照/カウンター電極16との間の電位差、及び作業電極14と、カウンター電極22又は参照/カウンター電極16との間を流れる電流は、電流を一定に維持するために継続的に監視する。例えば陰極電圧を印加すると、陰極電圧を印加している間、作業電極の電流を監視することができ、陰極電圧を選択的に調整すれば、作業電極の電流を少なくとも実質的に一定に維持することができる。本明細書で使用する場合の「少なくとも実質的に一定」の電流とは、設定値の±5%以内の電流のことである。一実施例では、電流変動が0.005mA未満である。少なくとも実質的に一定の電流を印加するとNOが生成され、この方法では電圧印加法よりNO濃度の一定性が高くなる。本明細書で開示する実施例では、電流制御モードを使用して所望の陰極定電流を印加する。
【0019】
ポテンショスタット/ガルバノスタット18について説明したが、本明細書で開示する方法の実施例を適用する場合、他のどのような電位源又は電流源でも使用できることが理解されよう。
【0020】
様々な電極14、16、20、22とポテンショスタット/ガルバノスタット18(又はその様々なコンポーネント)間の電気的接続は、導電性リードによって行うことができる。例えば図1Aに示すように、導電性リード24及び26は各々、作業電極14及び参照/カウンター電極16に電気的に接続されている。より具体的には、導電性リード24、26はそれぞれ電極14、16に電気的に接続され、さらに、印加された電圧又は電流を制御し、監視するのに使用するポテンショスタット/ガルバノスタット18にも電気的に接続されている。別の実施例として図1Bに示すように、導電性リード24及び26は各々、作業電極14及び参照/カウンター電極16に電気的に接続され、導電性リード28は参照電極20、作業電極14及びカウンター電極22に電気的に接続されている。図示したように、導電性リード24、26、28はそれぞれ電極14、22、20に電気的に接続され、さらに、印加された電圧又は電流を制御し、監視するのに使用するポテンショスタット/ガルバノスタット18にも電気的に接続されている。導電性リード24、26、28は、例えば銅線、白金線、ステンレス鋼線、アルミ線など、どのような導電材料製でもよい。
【0021】
適切であればどのような電極でも、作業電極14として使用することができる。作業電極14の材料の例として、白金、金、炭素(例えばガラス状炭素、カーボンペースト、炭素布等)、炭素被覆材料、水銀、ステンレス鋼、白金製薄膜を有するベース電子導電性材料、金製薄膜を有するベース電子導電性材料等が挙げられる。ベース電子材料の例として、白金、金、炭素、炭素被覆材料、水銀、ステンレス鋼、チタン、金属被覆ポリマー、導電性ポリマー、半導体(シリコーン等)などが挙げられる。一実施例では、白金製又は金製薄膜の厚さは約2nm~約10μmの範囲である。別の実施例では、白金製又は金製薄膜の厚さは約10nm~約1μmの範囲である。薄膜は適切な蒸着法を用いればベース電極に付着させることができる。例として、白金又は金を化学蒸着(CVD)又はプラズマ強化化学蒸着(PECVD)によってプラスチックメッシュ製のベース電極に付着させてもよい。電気メッキ、スパッタリングなど、その他の適切な付着法も使用することができる。
【0022】
NOを電気化学的に生成するのに使用するCu(II)-リガンド複合体の反応は、作業電極14で生じるため、(図1A及び1Bに略図的に示すように)作業電極14の表面積は比較的大きくしてもよい。作業電極14の表面積が大きいほど、所定の電流密度又は印加電圧で生成されるNOが多くなる。したがって作業電極14の表面積は、少なくとも一部は、所望のNO濃度及び用いる流量に依存する。ある実施例では、作業電極14の表面積は約0.1cm~約200cmの範囲である。別の実施例では、作業電極14の表面積は約4cm~約50cmの範囲である。さらに別の実施例では、作業電極14の表面積は約15cm~約25cmの範囲である。
【0023】
2電極システムの場合、適切であればどのような電極でも参照/カウンター電極16として使用することができる。例えば参照/カウンター電極16は、銀/塩化銀電極、その他の参照電極(硫酸水銀電極、飽和カロメル電極等)、擬似参照電極(金電極、白金電極、ステンレス鋼電極、ナトリウム選択性電極、カリウム選択性電極等)であってもよい。3電極システムのある実施例では、参照電極22は銀/塩化銀電極、カウンター電極22は白金電極(白金メッシュ電極等)、金電極、ステンレス鋼電極、炭素電極(ガラス状炭素電極等)、炭素被覆電極、チタン電極、酸化インジウムスズ(ITO)電極などである。3電極システムでは参照電極22は、すでに言及した参照電極又は擬似参照電極のいずれであってもよい。
【0024】
ある実施例では、電極14、16、20、22は、ワイヤ網又はスクリーン印刷線の網としてもよいメッシュ電極の形態であってもよい。
【0025】
2電極システム及び3電極システムのいずれの場合も、NOの生成に使用する媒体30は亜硝酸イオン源を含む。一部の実施例では媒体30は、媒体30中に溶解又は分散したCu(II)-リガンド複合体も含む。
【0026】
ある実施例では、媒体30に含まれる亜硝酸イオン源は、水溶液(例えば水)中の水溶性無機亜硝酸塩、又はヒドロゲル(例えばヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン等)であってもよい。水溶性無機亜硝酸塩の一部の例として、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属亜硝酸塩等が挙げられる。具体例として、Li、Na、K、Rb、Ca、Mgの亜硝酸塩が挙げられる。例えばAl塩やFe塩など、他の金属塩もほとんどが水溶性である。亜硝酸塩源の一具体例は、亜硝酸ナトリウム(NaNO)である。亜硝酸アンモニウムや有機亜硝酸アンモニウム塩(RNO 、RNH NO-等)も、水相で溶解することを条件として使用できることが理解されよう。亜硝酸テトラメチルアンモニウム及び亜硝酸テトラエチルアンモニウムは、適切な水溶性有機亜硝酸アンモニウム塩の具体例である。
【0027】
媒体30として高濃度の亜硝酸塩を使用すると、本明細書で開示する電気化学的方法の実施中に生成されることがあるNOの量を大幅に削減することができる。本明細書で開示する各実施例では、100mM濃度以上の亜硝酸塩を媒体30として使用し、100mM濃度未満の量は一般に使用しない。その理由は一つには、亜硝酸塩濃度が高いとNO濃度が低くなるからである。高い亜硝酸塩濃度ではNOの生成が、無視できるほどのレベルにまで抑制される。一例として、400mM濃度の亜硝酸塩を媒体30として使用すると、本明細書で開示する方法を用いて生成する全ガス種中のNOが5%未満となる。過剰な亜硝酸塩は、(複合体による亜硝酸塩からNOへの介在性還元の後に)リガンド複合体のCu中心に競合的に結合するため、銅リガンド複合体が別の亜硝酸イオンの存在下で電気化学的に再度還元してNOを生成するのではなく、電気的に生成されたNOが銅リガンド複合体から離れると考えられている。そのため、大量のNOの生成が防止される。
【0028】
さらに一部の実施例では媒体30は、やはり水溶性の場合もあるCu(II)-リガンド複合体を含む。Cu(II)-リガンド複合体の実施例は、Cu(II)-トリス(2-ピリジルメチル)アミン(CuTPMA)、Cu(II)-トリス(2-ジメチルアミノ)エチルアミン(CuMeTren)、Cu(II)-トリス(2-ピリジルメチル)ホスフィン(CuTPMP)、Cu(II)-1,4,7-トリメチル-1,4-7-トリアザシクロノナン(Cu(MeTACN))、Cu(II)-1,4,7-トリプロピル-1,4-7-トリアザシクロノナン(Cu(PrTACN))、Cu(II)-1,4,7-トリイソプロピル-1,4-7-トリアザシクロノナン(Cu(iPrTACN))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルメチル)アミン-N-エチレート)(Cu(BMPA-Et))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルメチル)アミン-N-プロパノエート)(Cu(BMPA-Pr))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルメチル)アミン-N-ブチレート)(Cu(BMPA-Bu))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルエチル)アミン-N-エチレート)(Cu(BEPA-Et))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルエチル)アミン-N-プロパノエート)(Cu(BEPA-Pr))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルエチル)アミン-N-ブチレート)(Cu(BEPA-Bu))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルメチル)アミン-N-メチルフェノレート)(Cu(BMPA-MePhO))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルメチル)アミン-N-エチルフェノレート)(Cu(BMPA-EtPhO))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルメチル)アミン-N-プロピルフェノレート)(Cu(BMPA-PrPhO))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルメチル)アミン-N-メチルフェノレート)(Cu(BEPA-MePhO))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルエチル)アミン-N-エチルフェノレート)(Cu(BEPA-EtPhO))、Cu(II)-(N,N-ビス-(2-ピリジルエチル)アミン-N-プロピルフェノレート)(Cu(BEPA-PrPhO))、Cu(II)-3-((2-(ピリジン-2-イル)エチル)(ピリジン-2-イルメチル)アミノ)エチレート(Cu(PEMA-Et))、Cu(II)-3-((2-(ピリジン-2-イル)エチル)(ピリジン-2-イルメチル)アミノ)プロパノエート(Cu(PEMA-Pr))、Cu(II)-3-((2-(ピリジン-2-イル)エチル)(ピリジン-2-イルメチル)アミノ)ブチレート(Cu(PEMA-Bu))、Cu(II)-2-(ピリジン-2-イル)-N,N-ビス(ピリジン-2-イルメチル)エタン-1-アミン(Cu(PMEA))、Cu(II)-2,2’-(2-(2-(ピリジン-2-イル)エチル)ブタン-1,4-ジイル)ジピリジン(Cu(PMAP))、及びこれらの組み合わせで構成される群から選択される。具体的実施例として、Cu(II)-リガンド複合体は、Cu(II)-トリス(2-ピリジルメチル)アミン(CuTPMA)、Cu(II)-トリス(2-ジメチルアミノ)エチルアミン(CuMeTren)、Cu(II)-トリス(2-ピリジルメチル)ホスフィン(CuTPMP)、及びこれらの組み合わせから選択してもよい。これらの構造を以下に示す。
【化1】
Cu(II)-リガンド複合体のいくつかの実施例を本明細書で示しているが、その他の水溶性Cu(II)-複合体も使用できることが理解されよう。例えば水溶性ではない、又は水溶性の低い(すなわち1mM未満の)Cu(II)-複合体も使用することができる。水溶性の低いCu(II)-複合体の例として、CuHthpaが挙げられる。
【化2】
【0029】
本明細書で開示するCu(II)-複合体はすべて、方法の最初から媒体30に溶解又は分散させるのではなく、作業電極14の表面に固定してもよい。すでに言及したように、Cu(II)-複合体は、作業電極14に共有結合的に取り付ける、作業電極14に物理的に吸着させる、作業電極14に付着させたポリマー、薄膜、ヒドロゲルに注入してもよく、又は共有結合的に取り付けてもよい。
【0030】
作業電極14に付着させ、そこにCu(II)-複合体を注入しても、又は共有結合的に取り付けてもよいポリマーの例として、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾール、ポリピロール、ポリウレタン、イオン交換膜(デュポンのナフィオン(R)等)などが挙げられる。作業電極14に付着させ、そこにCu(II)-複合体を注入しても、又は共有結合的に取り付けてもよい薄膜は、前述したもの(金製薄膜、白金製薄膜等)、又は自己組織化単分子膜(SAM)であってよい。作業電極14に付着させ、そこにCu(II)-複合体を注入しても、又は共有結合的に取り付けてもよい適切なヒドロゲルの例は、前述したもの(ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン等)のうちいずれであってもよい。
【0031】
媒体30の一実施例では、亜硝酸イオン源はすべての水溶性無機又は有機亜硝酸塩であり、Cu(II)-リガンド複合体は本明細書に記述するすべての例である。
【0032】
媒体30には、亜硝酸塩によるCu(I)の還元反応の誘導を助ける緩衝剤及び/又は別の添加剤も含めてもよい。適切な緩衝剤の例として、リン酸緩衝食塩水(PBS)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸、すなわちN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N′-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)などが挙げられる。適切な別の添加剤の一例は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。EDTAは、Cu(I)より強力なCu(II)でキレート化することにより、亜硝酸塩によるCu(I)の生成物への還元反応(Cu(I)+NO +2H→Cu(II)+NO+HO)の誘導を助ける。
【0033】
さらに、Ag/AgCl参照電極16、20を用いると、媒体30において固定濃度の塩化物イオンが(例えばNaClとして)供給されるため、参照電極16、20により電位(EMF)を一定に維持することができる。
【0034】
Cu(II)-リガンド複合体は媒体30に含まれると、約0.1mM~約1Mの範囲の濃度で存在する場合があり、亜硝酸塩は約1mMから亜硝酸塩の固溶限界までの濃度(例えばNaNOの場合は室温で約12M)で存在する場合がある。一実施例では、1MのNaNO溶液に約7mM~約14mMのCu(II)-リガンド複合体を含めてもよい。Cu(II)-リガンド複合体を作業電極14の表面に固定すると、単一層又は何層かの層として作業電極14の表面全体に広げることができる。
【0035】
NO生成システム12、12’の各々の実施例には、媒体30及び様々な電極14、16又は14、20、22を収容する槽又は筐体31を含めてもよい。筐体31は、媒体30及び様々な電極14、16又は14、20、22を収容することができ、窒素ガスN又は一酸化窒素NOを透過しないあらゆる適切な材料で作ることができる。筐体31の適切な材料の例として、NO不透過性ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)、ガラスなどが挙げられる。筐体31の入口導管32(窒素ガスNの導入に使用)、及び出口導管38(窒素ガスN及び一酸化窒素NOの流れの輸送に使用)の周囲を封止してもよい。筐体31は、耐用年数終了時にはガス供給装置10、10’全体を廃棄できるように、使い捨て可能なものでもよく、あるいは媒体30や電極14、16又は14、20、22を交換できるように筐体31に開口部を設けてもよい。
【0036】
開示する方法の実施例は、一酸化窒素生成システム12、12’を用いた一酸化窒素の電気化学的生成、及びガス供給装置10,10’を用いた一酸化窒素の供給を含む。この方法の一部の実施例は、亜硝酸イオン源及びCu(II)-リガンド複合体を含む媒体30と接触するように配置された作業電極14に陰極電圧又は陰極電流を印加して、亜硝酸イオン源からの亜硝酸と反応するCu(I)-リガンド複合体に、Cu(II)-リガンド複合体を還元して一酸化窒素(NO)を生成することを含む。窒素ガスを用いて一酸化窒素を掃気すると窒素ガス及び一酸化窒素の流れが形成され、酸素含有ガスを導入して窒素ガス及び一酸化窒素の流れと混合すると、出力ガス流が生成される。これらのステップ各々を、図1A及び1Bに略図的に示す。
【0037】
図1Aの2電極システム、又は図1Bの3電極システムを用いた一酸化窒素の電気化学的生成は、電極14、16又は14、20、22を媒体30に浸漬し、作業電極14に(例えば前述した電位制御モードで)陰極電圧を印加する、又は作業電極14に(例えば前述した電流制御モードで)陰極電流を印加することを含む。陰極電圧又は電流は、連続的に、(例えばより大きな負の電圧の次により小さな負の電圧を印加して)パルスで、又は所望のオン/オフシーケンスを用いて印加することができる。陰極電圧又は陰極電流を印加すると、(媒体30中及び/又は作業電極14上の)Cu(II)-リガンド複合体CuIILが、作業電極14表面又はその近くで電気化学的に還元し、作業電極14表面又はその近くで高濃度のCu(I)-リガンド複合体CuLを生成する(図1AにCuIIL→CuLとして図示)。次にCu(I)-リガンド複合体CuLは媒体30中の亜硝酸(NO-)と直接反応し、一酸化窒素(NO)ガスを生成する。言い換えればNOガスは、Cu(II)-リガンド複合体CuIILを電子移動メディエーターとして用い、作業電極14における1電子の電気化学的還元によって生成される。(以下で詳細に説明するように)NOガスは、印加した陰極電圧又は印加電流に応じた流量で生成される。
【0038】
媒体30中で生成されたNOは、装置10、10’の入口導管32から媒体30に導入される窒素ガスNによって媒体30から掃気又はパージされる。窒素ガスN(本明細書では窒素パージガスとも称する)は、圧縮ガスタンク34又は酸素スクラバー36(いずれも図2に示し、図2を参照して詳細に説明)などのガス源から入口導管32に供給することができる。したがって、媒体30からNOをパージするのに使用する窒素ガスNは、少なくとも実質的に(例えばタンク34から供給される)純粋な窒素ガスであり、又は窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素を含有することもあり、その他の非酸素ガスを少量含有する可能性もある周囲空気に由来する混合ガスとなる場合があり、又は窒素ガスとその他の不活性ガスの混合物となる場合もあることが理解されよう。窒素パージガスNは作業電極14を不動態化することはないため、NOの電気化学的生成を通して洗浄工程を実施する必要はない。また、酸素パージガスとは異なり窒素パージガスNは、Cu(I)-リガンド複合体CuILと反応しないため、生成されるCu(I)-リガンド複合体を還元しないことから、生成されるNOも還元することはない。さらに、窒素パージガスNは作業電極14表面で生成されるNOとも反応しないため、高い効率でNOを生成できることになる。したがって窒素パージガスNを使用すると、生成されたNOを溶液から除去するために酸素パージガスを用いる同様の装置と比較して、装置10、10’の(NO生成に関する)安定性、及び性能が向上する。
【0039】
ガス供給装置10、10’の実施例では、入口導管32は窒素ガスNを、電極14、16又は14、20、22と接触する媒体30に供給する。入口導管32は適切なポリマーチューブ、又はガス源に取り付けるその他のチューブ(図示せず)であってよい。入口導管32は、窒素ガスNが媒体30に直接導入され、媒体30の上部にできる場合がある空間には導入されないように構成する。窒素ガスNが媒体30に直接導入されると、媒体30中に気泡が形成される(図1A及び1Bに図示)。この気泡は媒体30の混合を助けるとともに、(媒体30中で生成される)NOが、一酸化窒素生成システム12、12’の出口ガス流中にパージアウトされるのも助ける。この出口ガス流はN/NOとして示される窒素ガスと一酸化窒素ガスの流れである。
【0040】
窒素ガスと一酸化窒素ガスN/NOの流れは、出口導管38を通して一酸化窒素生成システム12、12’から出る。言い換えれば出口導管38は、窒素ガスと一酸化窒素ガスN/NOの流れを媒体30から輸送する。出口導管38は、少なくとも窒素ガス及び一酸化窒素に対する透過性が低い又は透過性がないチューブであってよい。出口導管38の長さは、セパレータ42(図2)、一酸化窒素抽出装置44(図4)、又は酸素付加装置(図5)などの所望の供給先にガス流が供給される前のガスの損失を回避するため、比較的短くしてもよい。
【0041】
一部の実施例では、窒素ガスと一酸化窒素ガスN/NOの流れは、流量を調整するレギュレータを含めてもよいガス源からの圧力の結果として輸送されてもよい。別の実施例では、窒素ガスと一酸化窒素ガスN/NOの流れは、下流の真空領域からの圧力の結果として輸送されてもよい。
【0042】
図1A及び1Bに示すように、ガス供給装置10、10’は、出口導管38に動作可能に接続され、酸素含有ガスOCを導入してガス供給装置10、10’の出力ガス流OGを生成する吸気ガス導管40を含む。酸素含有ガスOCは少なくとも実質的に純粋な酸素ガスO又は空気であってよい。酸素含有ガスOCは窒素ガスと一酸化窒素ガスN/NOの流れと混合され、出力ガス流OGが生成される。一実施例では、酸素含有ガスOC源(図示せず)には、出力ガス流OGが約20%~約99.99%の酸素を含有するように、流量を調整するレギュレータを含めてもよい。酸素含有ガスOCは患者48への供給の直前に導入されるため、NOと酸素含有ガスOCとの接触時間は短くなり、NO濃度への影響は微小又は皆無となる。
【0043】
吸気ガス導管40は、少なくとも酸素含有ガス、窒素ガス、及び一酸化窒素に対する透過性が低い又は透過性がないチューブであってよい。適切なチューブ材料の例として、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、フッ素化ポリマーなどが挙げられる。
【0044】
図2、4A、4B、5を参照して詳細に考察するように、方法の実施例には、出力ガス流OGを所望の供給先へ輸送することも含めてよい。図1A及び1Bには示していないが、ガス供給装置10、10’には、出口導管38及び吸気ガス導管40に動作可能に接続された供給導管72をさらに含めてもよいことが理解されよう。一実施例として、供給導管72は、所望の供給先へ供給される前にガスが出口導管38内で混合される時間があるように、吸気ガス導管40の下流にある出口導管38の出口と接続してもよい。供給導管72のその他の適切な接続の実施例は、図2、4A、4Bを参照して説明する。供給導管72は、出力ガス流OGを所望の供給先(例えば供給導管に動作可能に接続された吸入装置を通して患者)に輸送できるホース、チューブ、又はその他同様の導管であってよい。所望の供給先は患者48(図2、4A、4B)、又は血液酸素付加装置46(図5)の場合がある。
【0045】
吸入療法用のガス供給装置10’A及び10’B(3電極の一酸化窒素生成システム12’を含む)の様々な実施例を、それぞれ図2、4A、4Bに示す。これらの装置を、2電極の一酸化窒素生成システム12付きの装置とすることも可能なことが理解されよう。図5に示すように、ガス供給装置10、10’、10’A、10’B、10’Cのいずれの実施例を用いても、一酸化窒素を血液酸素付加装置46のスイープガスに添加することにより、酸素付加装置46を通して流れる血液中の血小板その他の細胞の活性化を防止することを助けることができる。
【0046】
図2、4A、4B、5に示す実施例で使用するポテンショスタット/ガルバノスタット18及びその関連素子は、一酸化窒素生成システム12’の一つ以上のコンポーネント、又はガス供給装置10、10’、10’A、10’Bの別のコンポーネントに固定できるように最小化し、バッテリ又は別のエネルギー源(例えば太陽発電機、環境発電装置等)で動作させることができる。
【0047】
ここで図2を参照すると、吸入療法用のガス供給装置10’Aの一実施例が示されている。装置10’Aのこの実施例は、一酸化窒素生成システム12’、及び前述したそのコンポーネント各々を含む。
【0048】
装置10’Aのこの実施例では、窒素ガスNを、圧縮ガスタンク34、酸素スクラバー36などのガス源から入口導管32に供給することができる。圧縮ガスタンク34、又は酸素スクラバー36のいずれも、入口導管32に動作可能に接続して使用することができる。圧縮ガスタンク34には圧縮窒素ガスNを注入して、入口導管32への窒素ガスNの流量をレギュレータで調整してもよい。酸素スクラバー36は、酸素スクラバー36に周囲空気を導入するポンプ52に動作可能に接続してもよい。周囲空気は、周囲空気から酸素を分離して入口導管32に供給する窒素ガスNを生成することができる酸素スクラバー36の溶液又は粒子層に導入される。前述したように、窒素ガスNは周囲空気に由来する混合ガスであってよい。この場合混合ガスは、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素を含有し、その他の非酸素ガスも少量含有する可能性がある。ある実施例では、酸素スクラバーは空気から50%以上の酸素を分離するため、混合ガスが含有する酸素ガスを10%未満にすることができる。別の実施例では、酸素スクラバーが空気から十分な酸素を分離するため、混合ガスが含有する酸素ガスは5%以下となる。
【0049】
装置10’Aのこの実施例では、入口導管32は窒素ガスNを一酸化窒素生成システム12’に供給し、ここでNOが電気化学的に生成される、すなわち前述した方法で電気化学的に生成される。窒素パージガスNは媒体30に直接導入してもよく、あるいは窒素パージガスNの線形流量、非線形流量、質量流量又は体積流量を測定し、調整する流量計54を最初に通過してから導入するようにしてもよい。
【0050】
システム12’に導入された窒素パージガスNは、媒体30で生成された一酸化窒素を回収する。その結果としての窒素ガスと一酸化窒素ガスN/NOの流れは、前述したように出口導管38を通してシステム12’の外部に輸送される。
【0051】
このN/NOガス流は、亜硝酸塩及び場合によってはCu(II)-リガンド複合体CuIILを含有するエアロゾル液滴を、ある程度含有する場合もあることが理解されよう。一部の実施例では、様々な医療用途にとって望ましくないエアロゾル液滴が大量に存在する場合がある。N/NOガス流は、エアロゾル液滴を少なくとも実質的に除去するセパレータ42に送出してもよい。
【0052】
セパレータ42は、出口導管38と吸気ガス導管40の間に動作可能に配置してもよい。セパレータ42をこのように配置することで、エアロゾル液滴が酸素含有ガス流OCと混合される前に、N/NOガス流からエアロゾル液滴を除去することが可能となる。
【0053】
図2に示すようにセパレータ42は、2つの空間60と62を分離する一酸化窒素透過物58を含む筐体56を含む。筐体56は、筐体56に導入されるガス(窒素ガス、一酸化窒素ガス、酸素含有ガス等)を透過しないものであれば、どのような材料製でもよい。
【0054】
セパレータ筐体56は、2箇所の入口64、64’、及び2箇所の出口66、66’を含む。第1筐体入口64は、出口導管38を第1空間60に動作可能に接続する。したがってN/NOガス流は、出口導管38から第1空間60に向かう。第1空間60に入ったN/NOガス流には2つの経路がある。第1経路ではN/NOガス流の一部が一酸化窒素透過物58(本明細書では一酸化窒素透過媒体58とも称する)を通過して拡散し、第2空間62に入る。ただし、N/NOガス流のすべてが一酸化窒素透過物58を強制的に通過できるわけではない。したがって残余のN/NOガス流は第2経路に行き、第1筐体出口66から廃棄槽68に入る。
【0055】
一酸化窒素透過物58を通過して拡散するN/NOガス流は、N/NOガス流から除去されるエアロゾル液滴を含む。一酸化窒素透過物58は、膜(図2に示す98)、又は1束の中空糸膜(図4A、4B、5に示す98’)であってもよい。膜98は、数本のNO透過性微孔性繊維(例えばシリコーンゴム、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリブタジエン、ポリブタジエンコスチレン、ポリシスイソプレン、ポリプロピレン(PP)等)、又は一酸化窒素の一部及び窒素ガスNの一部が第2空間62へと通過して拡散するのを(すなわち所望のガス交換の実施を)可能にする別の材料で構成してよい。これらの繊維はエアロゾル液滴も阻止するため、エアロゾル液滴が膜98を通過して輸送されることはない。
【0056】
上述したように、拡散したN/NOガス流(D(N/NO))はセパレータ42の第2空間62に入る。第2空間62は第2筐体入口64’、及び第2筐体出口66’に接続している。第2筐体入口64’は吸気ガス導管40にも動作可能に接続し、第2空間62において酸素含有ガスOCを受け取り、酸素含有ガスOCは一酸化窒素透過物58を通過して拡散した一酸化窒素と混合され、出力ガス流OGが生成される。酸素含有ガスOCは、適切なガス源70から第2空間62に供給することができる。ガス源70は酸素含有ガスOCの流量を調整することができ、又は酸素含有ガスOCの流量を調整する流量調整器に連結することができる。酸素含有ガスOCの流量は、酸素含有ガスOCの組成、及び所望の吸入酸素濃度(FiO)に応じて、連続的又は間欠的とすることができる。ガス源70の例として、圧縮ガスボンベ、周囲空気を供給するガスポンプ、又はその他いずれかの適切なガス源が挙げられる。
【0057】
第2空間では、拡散したガス流D(N/NO)が酸素含有ガスOCと混合され、出力ガス流OGが生成される。
【0058】
すでに言及した供給導管72の一実施例である筐体出口導管72’は、第2筐体出口66’と動作可能に接続され、出力ガス流OGをレシピエント/患者48に輸送する。筐体出口導管72’は、出力ガス流OGに対して不透過性の適切なポリマーチューブ又はその他のチューブであってよい。ある実施例では、筐体出口導管72’は一方向弁が設けられているため、出力ガス流OGがセパレータ42内に逆流することはない。
【0059】
図2に示す実施例では、吸入装置74が筐体出口導管72’に接続されているため、出力ガス流OGの少なくとも一部をレシピエント/患者48に供給することができる。吸入装置74は、ベンチレーター、フェイスマスク、鼻カニューレ、又は出力ガス流OGを患者の気道に供給するための他の適切な装置であってよい。
【0060】
出力ガス流OGと接触するように、センサ76を配置してもよい。センサ76は、筐体出口導管72’内、又は筐体出口導管72’から分かれている、すなわち分岐している別の導管78内に配置してもよい。別の導管78内に配置する場合、別の導管78は出力ガス流OGの一部を受け取り、センサ76に輸送する。一部の例では、酸素含有ガスOCを導入するガス源70に近接してセンサ76を配置することが望ましい場合がある。別の一部の例では、吸入装置74に近接して(例えば吸入装置から約3フィート以内に)センサ76を配置することが望ましい場合もある。図示していないが、さらに別の例では装置10’Bに2台のセンサ76を組み込み、1台は酸素含有ガスOCを導入するガス源70に近接して配置し、別の1台は(例えば患者48に入るガス流のNO濃度が高くなり、NO濃度が低くなることを確保するため)吸入装置74に近接して配置してもよいことが理解されよう。
【0061】
センサ76は、出力ガス流OGのNO濃度を監視するのに使用してもよい。OがNOと反応することで生成され、レシピエント/患者48にとって有毒となり得るNO(二酸化窒素)の生成を回避するためにも、NO濃度を監視することが望ましい場合がある。適切であればどのようなセンサでも、NOセンサ76として使用することができる。
【0062】
ある実施例ではセンサ76は、ガス透過膜の背後に設置された内部白金(Pt)電極でのNOの硝酸塩(NO-)への酸化に基づくShibuki型センサ(図示せず)である。
【0063】
センサ76の別の実施例を図3に示す。このセンサ76はアンペロメトリックNOセンサである。図3に示すセンサ76の応答時間は比較的迅速であり、作業電極80の表面積が広いため、Shibuki型センサより電流出力値が高い。
【0064】
図3に示すように、センサ76のこの実施例は、高分子電解質膜(イオノマー膜82)の表面に(例えば化学還元により)直接付着させた作業電極80(白金電極、金電極等)を含む。イオノマー膜82の例として、(デュポンの)ナフィオン(R)などのスルホン酸化テトラフルオロエチレン系フッ素重合体-共重合体が挙げられる。センサ76のこの実施例は、イオノマー相82も浸漬する内部電解液84に浸漬した参照電極86及びカウンター電極88も含む。
【0065】
導管78を通して輸送される出力ガス流OGの一部は、作業電極80の表面に流れる。陽極電位(例えば約1Vvs.Ag/AgCl)を印加すると、作業電極80とイオノマー膜82の境界面で電気化学反応が起きる。ある実施例では、作業電極80に印加する陽極電位は、約0.7V~約1.1Vの範囲である。これより電圧が高いと、望ましくない水の酸化が起きることがある。より具体的には、出力ガス流OG中のNOは亜硝酸塩/硝酸塩に電気化学的に酸化し、NO(g)濃度に比例した電流信号が出力される。
【0066】
別の実施例では、イオノマー膜82の同じ表面に別の作業電極(図示せず)を作業電極80としてセンサ76に含めることができ、(NOではなく)NOのみが酸化され、(電流の測定により)検知されるように、低い陽極電位をその別の作業電極に印加してもよい。NOが存在する場合、NOセンサ信号はバイポテンショスタットを用いて補正することができる。
【0067】
センサ76データ(すなわち出力ガス流OG中のNO濃度及び/又は出力ガス流OG中のNO濃度)を使用すれば、NO生成システム12、12’に印加する電位又は電流をサーボで調整して、供給端で少なくとも実質的に一定のNO濃度を維持することができる。このデータを使用すると、出力ガス流OGの流量も調整することができる。
【0068】
NO濃度が高過ぎる又は低過ぎることをセンサ76データが示した場合は、印加する電位又は電流を調整し、且つ/又は一つ以上のガスの流量を調整してもよい。この方法のある実施例では、センサ76が出力ガス流OG中の一酸化窒素濃度を監視し、出力ガス流OG中の一酸化窒素濃度に基づいてポテンショスタット/ガルバノスタット18により、(例えばNOが所望の濃度の場合は)印加している陰極電圧又は電流を維持するか、あるいは(例えば出力ガス流OG中の一酸化窒素濃度が目標濃度より低い場合は)印加する陰極電圧又は電流を調整してNO生成を増加させる。又は(例えば出力ガス流OG中の一酸化窒素濃度が目標濃度より高い場合は)印加する陰極電圧又は電流を調整してNO生成を減少させる。検知されたNO濃度が低過ぎる場合は、高い陰極電位(すなわち水の還元を引き起こす陰極電位より高い電位)を印加するか、又は陰極電流を増加させて(すなわち限界電流未満の電流を)印加してもよい。検知されたNO濃度が高過ぎる場合は、低い陰極電位(すなわち高い陽極電位)を印加するか、又は陰極電流を減少させて印加してもよい。一実施例として、陰極電圧が高くなるように、又は低くなるように調整して、NO生成率を上昇又は低下させることにより、NO生成システム12、12’から掃気され、出力ガス流OG中に存在するNOの流れを増加又は減少させてもよい。
【0069】
目標濃度は、NOが使用される所定の用途に基づいて設定してもよい。目標濃度は、患者及び用途に応じて非常に低くしても、非常に高くしてもよい。例として新生児NO吸入療法の場合、NOの目標濃度は約10ppm~約70ppmの範囲とし、バイパス手術時に血小板その他の細胞の活性化を防止するために酸素付加装置で生成するNOの目標濃度は、約190ppm~約210ppmの範囲としてよい。さらに、肺感染などに対する吸入療法としての抗菌用途の場合は、例えば約500ppb~約10ppmの範囲の低濃度のNOが有用なことがある。
【0070】
センサ76データを使用すると、生成したNOの流れの調整が望ましいものかどうかを判断することができる。流れの調整には、媒体30と接触している作業電極14の表面積量を変える、Cu(II)-リガンド複合体CuIIL又は亜硝酸イオン源の濃度を変える、(前述したように)陰極電圧の大きさを経時的に変える、(前述したように)陰極電流の大きさを経時的に変えるなど、いくつかの手法を用いることができる。作業電極14の表面積を増加させるとNO生成率が上昇し、作業電極14の表面積を減少させるとNO生成率が低下する。一部の実施例では、Cu(II)-リガンド複合体CuIILの濃度を約1mM~約10mMの範囲で変えることができ、亜硝酸イオン源の濃度を約50mM~約1Mの範囲で変えることができる。Cu(II)-リガンド複合体CuIILと亜硝酸イオン源の双方の濃度を上昇させるとNO生成率も上昇すると予測され、Cu(II)-リガンド複合体CuIILと亜硝酸イオン源の双方の濃度を低下させるとNO生成率も低下すると予測される。陰極電圧の大きさを変える場合、(限界電流に達しないように)陰極電位を高くするとNO生成率が上昇するはずである。陰極電流の大きさを変える場合、(限界電流に達しないように)電流を増加させるとNO生成率が上昇するはずである。
【0071】
センサ76データを使用すると、望ましくない量のNOが出力ガス流OG中に存在するかどうかも判断することができる。望ましくない量のNOが存在する場合は、装置10’のアラームが作動するようにしてもよく、且つ/又は印加する電圧/電流を調整してシステム12’からのNO供給を減少させてもよい。さらに、出力ガス流OGが患者48に供給される直前に、吸入装置74にソーダ石灰スクラバーを取り付けてもよい。NOの含量が最終気相において1ppmを超える場合は、ソーダ石灰スクラバーで過剰なNOを除去することができる。
【0072】
ここで図4A及び4Bを参照すると、吸入療法用のガス供給装置10’B及び10’Cの2つの実施例が各々図示されている。装置10’B、10’Cの各実施例は、一酸化窒素生成システム12’、及び前述したそのコンポーネントそれぞれを含む。装置10’B、10’Cの各実施例は、一酸化窒素抽出装置44(そのコンポーネントについては後述する)、及び一酸化窒素生成システム12’の筐体31を一酸化窒素抽出装置44の筐体90に接続する流体再循環システム100も含む。
【0073】
これらの実施例では、前述したように一酸化窒素は溶液30中で電気化学的に生成される。電気化学的に生成された一酸化窒素が溶解している溶液30’は、流体再循環システム100を通して一酸化窒素抽出装置44まで循環し、ここで溶液30’から一酸化窒素が抽出される。流体再循環システム100は、一酸化窒素生成システム12’を一酸化窒素抽出装置44に流体的に接続する。本明細書で使用する場合の「流体的に接続」の用語は、2つの空間領域の間を液体(及び液体中に溶解した気体)が流れるように、2つの空間領域を接続することを意味する。一実施例として、流体再循環システム100の第1導管Aは、一酸化窒素生成システム12’の筐体31の出口を、一酸化窒素抽出装置44の筐体90の入口に接続する。
【0074】
一酸化窒素抽出装置44は、流体再循環システム100に沿って動作可能に配置してもよい。図4A及び4Bに示すように、一酸化窒素抽出装置44は、その内部に配置された一酸化窒素透過物/透過媒体58を含む筐体90を含む。筐体90は、筐体90に導入されるガス(窒素ガス、一酸化窒素ガス、酸素含有ガス等)を透過しないものであれば、どのような材料製でもよい。
【0075】
筐体90内部では、空間が一酸化窒素透過物58の少なくとも一部を取り囲んでいる。この空間は入力領域92を含む。入力領域92は、流体再循環システム100の第1導管Aを通して一酸化窒素生成システム12’から一酸化窒素含有溶液30’を受け取る。本明細書で使用する場合の「一酸化窒素含有溶液」の語句は、生成された一酸化窒素が溶解している媒体/溶液を指す。この空間は出力領域94も含む。出力領域94は少なくとも実質的に減少した一酸化窒素含有溶液30’’を、流体再循環システム100の第2導管Bを通して一酸化窒素抽出装置44から輸送する。本明細書で使用する場合の「少なくとも実質的に減少した一酸化窒素含有溶液」の語句は、少なくとも一部の一酸化窒素が除去されたために、少なくとも実質的に減少した一酸化窒素含有溶液30’’中のNOの濃度が、一酸化窒素含有溶液30’中のNOの濃度より低くなった媒体/溶液を指す。したがって溶液30’、30’’のいずれも亜硝酸イオン源を含み、一部の例では(すなわちCu(II)-リガンド複合体CuIILが媒体30中にあり、作業電極14の表面に固定されない場合)Cu(II)-リガンド複合体CuIILも含むが、溶液30’’が含む一酸化窒素は溶液30’より少ない。
【0076】
一酸化窒素含有溶液30’は、流体再循環システム100の導管Aから入力領域92の内部に向かう。入力領域92内部に入ると、少なくとも一部の一酸化窒素は溶液30’から拡散して一酸化窒素透過物58を通過する。(一酸化窒素濃度が低くなった)残余の溶液30’’は、出力領域94に至る一酸化窒素透過物58外部で、流体再循環システム100の別の導管Bに入って輸送され、循環する。
【0077】
流体再循環システム100の導管Bは、一酸化窒素生成システム12’の筐体90の出口を筐体31の入口に接続する。ポンプ53を導管Bに沿って動作可能に接続してもよい。ポンプ53の一例は遠心式ポンプである。ポンプ53によって、溶液30’を、第1導管Aを通して一酸化窒素抽出装置44へと一方向に輸送することが可能となり、且つ、少なくとも実質的に減少した一酸化窒素含有溶液30’’を、第2導管Bを通して一酸化窒素生成システム12’へと一方向に輸送することが可能となる。ポンプ53によって、媒体30’、30’’を、約170mL/分~約535mL/分の範囲の液体流量で循環させることができる。一酸化窒素含有溶液30’’は一酸化窒素生成システム12’において再利用し、追加のNOを生成して溶液30’を生成することができる。導管A及びBの材料は、本明細書で開示するガス不透過性材料であればどのようなものでもよい。
【0078】
一酸化窒素透過物58を通して拡散した一酸化窒素は、残余の溶液30’’から分離される。この実施例では、一酸化窒素透過物58は1束の中空糸膜98’であってよい。各々の中空糸膜98’は、シリコーンゴム、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリブタジエン、ポリブタジエンコスチレン、ポリシスイソプレン、ポリプロピレン(PP)などの材料、又は一酸化窒素の一部が通過して拡散するのを可能にする別の材料で構成してよい。
【0079】
これらの実施例では、一酸化窒素抽出装置44は、スイープガスSGを一酸化窒素透過物58に供給する入口導管32’を含む。スイープガスSGは、窒素ガスN、酸素含有ガス、及びこれらの組み合わせで構成される群から選択される。一酸化窒素抽出装置44は、混合ガス流を一酸化窒素透過物58から輸送する出口導管72’又は72’’も含む。混合ガス流は一酸化窒素及びスイープガスSGを含む。したがって図4Aに示すように一部の実施例では、混合ガスはN/NOを含み、図4Bに示すように別の実施例では、混合ガスは出力ガス流OGを含む。
【0080】
図4Aに示す装置10’Bの実施例では、窒素ガスNは一酸化窒素透過物58に供給されるスイープガスSGである。装置10’Aと同様にこの実施例の装置10’Bでも、窒素ガスNは圧縮ガスタンク34、酸素スクラバー36などのガス源から入口導管32’に供給することができる。圧縮ガスタンク34又は酸素スクラバー36のいずれも、入口導管32’に動作可能に接続して使用することができる。圧縮ガスタンク34には圧縮窒素ガスNを注入して、入口導管32’への窒素ガスNの流量をレギュレータで調整してもよい。酸素スクラバー36は、酸素スクラバー36に周囲空気を導入するポンプ52に動作可能に接続してもよい。周囲空気は、周囲空気から酸素を分離して入口導管32’に供給する窒素ガスNを生成することができる酸素スクラバー36の溶液又は粒子層に導入される。前述したように、窒素ガスNは周囲空気に由来する混合ガスであってよい。この場合混合ガスは、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素を含有し、その他の非酸素ガスも少量含有する可能性があり、又は窒素ガスとその他の不活性ガスの混合物であってもよい。
【0081】
図4Aに示す装置10’Bのこの実施例では、入口導管32’は窒素ガスNを一酸化窒素透過物58に供給し、ここで(溶液30’から拡散した)NOが中空糸膜98’を通過する。窒素パージガスNは一酸化窒素透過物58に直接導入してもよく、あるいは窒素ガスNの線形流量、非線形流量、質量流量又は体積流量を測定し、調整する流量計54を最初に通過してから導入するようにしてもよい。
【0082】
一酸化窒素抽出装置44に導入された窒素ガスNは、一酸化窒素透過物58を通過している一酸化窒素を回収する。その結果としての窒素ガスと一酸化窒素ガスN/NOの流れは、出口導管38’を通して一酸化窒素抽出装置44の外部に輸送される。
【0083】
溶液30’が一酸化窒素透過物58を通過して輸送されないように、中空糸膜98’が溶液30’をブロックするため、このN/NOガス流に溶液30’は含まれないことが理解されよう。
【0084】
出口導管38’は吸気ガス導管40にも動作可能に接続され、酸素含有ガスOCを受け取り、これがN/NOガス流と混合されて出力ガス流OGが生成される。酸素含有ガスOCは、適切なガス源70(圧縮ガスボンベ、周囲空気を供給するガスポンプ等)から供給することができる。ガス源70は酸素含有ガスOCの流量を調整することができ、又は酸素含有ガスOCの流量を調整する流量調整器に連結することができる。酸素含有ガスOCの流量は、酸素含有ガスOCの組成、及び所望の吸入酸素濃度(FiO)に応じて、連続的又は間欠的とすることができる。
【0085】
出口導管38’では、N/NOガス流が酸素含有ガスOCと混合されて出力ガス流OGが生成される。
【0086】
供給導管72’は出口導管38’と動作可能に接続され、出力ガス流OGをレシピエント/患者48に輸送する。供給導管72’は、出力ガス流OGに対して不透過性の適切なポリマーチューブ又はその他のチューブであってよい。ある実施例では、供給導管72’は一方向弁が設けられているため、出力ガス流OGが一酸化窒素抽出装置44内に逆流することはない。図4Aの供給導管72’と出口導管38’を別々のチューブにして互いに動作可能に接続することも、1本のチューブにすることも可能なことが理解されよう。
【0087】
図4Bに示す装置10’Cの実施例では、酸素含有ガスOC(O又は周囲空気)は、スイープガスSGとして一酸化窒素透過物58に供給される。この実施例では、酸素含有ガスOCは適切なガス源(圧縮ガスボンベ34’、周囲空気を供給するガスポンプ52等)から供給することができる。ガス源は酸素含有ガスOCの流量を調整することができ、又は入口導管32’へと流れる酸素含有ガスOCの流量を調整する流量調整器に連結することができる。ある実施例では、出力ガス流OG中のOが約10mg/L(ppm)に相当する、100%空気飽和されたものを使用してもよい。
【0088】
この実施例では、酸素含有ガスOCのみを使用しても、窒素ガスNと混合して使用してもよい。図示していないが、窒素ガスNと酸素含有ガスOCを混合して導入する場合は、窒素ガスNを入口導管32’に導入するための圧縮ガスタンク34も、ガス供給装置10’Cに含めてよいことが理解されよう。
【0089】
図4Bに示す装置10’Cのこの実施例では、入口導管32’は酸素含有ガスOCを一酸化窒素透過物58に供給し、ここで(溶液30’から拡散した)NOが中空糸膜98’を通過する。この実施例では酸素含有ガスOCはパージガスとして作用するため、一酸化窒素透過物58に直接導入してもよく、あるいは酸素含有ガスOCの線形流量、非線形流量、質量流量又は体積流量を測定し、調整する流量計54を最初に通過してから導入するようにしてもよい。
【0090】
一酸化窒素抽出装置44に導入された酸素含有ガスOCは、一酸化窒素透過物58を通過している一酸化窒素を回収する。この実施例では、その結果としてのガス流は一酸化窒素と酸素含有ガスOCを含むため(窒素ガスNを含む場合もある)、出力ガス流OGとなる。溶液30’が一酸化窒素透過物58を通過して輸送されないように、中空糸膜98’が溶液30’をブロックするため、出力ガス流OGに溶液30’は含まれないことが理解されよう。
【0091】
出力ガス流OGは次に、供給導管72’’(この実施例では出口導管38’)を通して一酸化窒素抽出装置44の外部に輸送される。
【0092】
この実施例では、酸素含有ガスOCはパージガスとして導入されるため、ガス供給装置10’Cは、吸気ガス導管40、又は供給導管72’’に動作可能に接続されたガス源70を含まない。
【0093】
供給導管72’’により、出力ガス流OGをレシピエント/患者48に輸送することができる。供給導管72’’は、出力ガス流OGに対して不透過性の適切なポリマーチューブ又はその他のチューブであってよい。ある実施例では、供給導管72’’は一方向弁が設けられているため、出力ガス流OGが一酸化窒素抽出装置44内に逆流することはない。
【0094】
図4A及び4Bに示す実施例で、吸入装置74をそれぞれ供給導管72’、72’’に接続すれば、出力ガス流OGの少なくとも一部をレシピエント/患者48に供給することができる。吸入装置74は、ベンチレーター、フェイスマスク、鼻カニューレ、又は出力ガス流OGを患者の気道に供給するための他の適切な装置であってよい。
【0095】
出力ガス流OGと接触するように、センサ76を配置してもよい。センサ76は、供給導管72’、72’’内、又は供給導管72’、72’’から分かれている、すなわち分岐している別の導管78内に配置してもよい。別の導管78内に配置する場合、別の導管78は出力ガス流OGの一部を受け取り、センサ76に輸送する。一部の例では、吸入装置74に近接して(例えば吸入装置から約3フィート以内に)センサ76を配置することが望ましい場合もある。センサ76を、前述したものと同じ方法で、出力ガス流OGのNO濃度を監視するのに使用してもよい。センサ76のデータを、印加する電位又は電流を調整し、且つ/又は一つ以上のガスの流量を調整するのに使用してもよい。
【0096】
図2及び4Aに示す実施例では、N/NOガス流に約100ppmv~約400ppmvの範囲の濃度のNOが含まれている場合がある。図2、4A、4Bに示す実施例では、出力ガス流OG(酸素含有ガスOCを含む)に約0.1ppmv~約400ppmvの範囲の濃度のNOが含まれている場合がある。
【0097】
ここで図5を参照すると、ガス供給装置10、10’、10’A、10’B、10’Cが酸素付加装置46の一部として示されている。出力ガス流OGは前述したように生成され、導管72、72’、72’’に輸送される。導管72、72’、72’’の長さは、酸素付加装置46にガス流が供給される前のガスの損失を回避するため、比較的短くしてもよい。
【0098】
導管72、72’、72’’は、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素、すなわちガス供給装置10、10’、10’A、10’B、10’Cからの酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素の出力ガス流OGを、酸素付加装置46に輸送するように構成する。酸素付加装置46は、ガス流OGを濾過・洗浄することが可能な中空糸膜98’を含む。この特定の実施例では、酸素付加装置46は血液酸素付加装置として、血液流入口、血液流出口、ガス流入口、及び(廃棄槽68につながる)ガス流出口を有する筐体96を含む。
【0099】
筐体96のガス流入口は、導管72、72’、72’’に動作可能に接続されている。より詳細には、ガス流入口は導管72、72’、72’’からの出力ガス流OGを、筐体96に含まれる中空糸膜98’に誘導する。この実施例では中空糸膜98’の糸それぞれは中空ポリマー繊維で、第1(内部)表面I、及び第2(外部)表面Eを有する。1台の血液酸素付加装置筐体96に数千本の中空ポリマー繊維を含めてよい。出力ガス流OGは、第1(内部)表面Iに隣接して導入される。中空ポリマー繊維の壁面はフィルタとして機能するため(汚染物質は中空ポリマー繊維に捕集されて)、出力ガス流OGからの酸素含有ガスのみがこの壁面を透過することが可能となるが、一部の例では窒素ガスや一酸化窒素も透過する。したがって洗浄された出力ガス流OGは、第2(外部)表面Eから、筐体96内に含まれる血液中に出る(図5の拡大部分に図示)。血液中に出なかった洗浄済み出力ガス流OGはすべて、廃棄槽68に誘導される。
【0100】
この実施例のNOは、中空糸膜98’の第2(外部)表面Eに血小板が接着し、活性化するのを局部的に防止する作用を果たす。酸素付加装置46の中空糸膜98’を通過して血液中に出るNOも、白血球の活性化を阻害し得る。NOはオキシヘモグロビンと即時に反応してメトヘモグロビンが生成されるため、NOの作用は局部的である。血液が酸素付加装置46から流出すると、洗浄済みガス流にNOは存在しなくなる。したがって、洗浄済み酸素ガス流、及び場合によっては窒素ガスNを含む血液は、筐体96から流出して患者48に供給される(図5に図示せず)。
【0101】
例えば血液酸素付加装置46を他の異なる設計にするなど、他にも様々な構成を利用できることが理解されよう。
【0102】
ガス供給装置のいくつかの実施例を10、10’、10’A、10’B、10’Cとして図示しているが、他にも様々な構成を利用できることが理解されよう。例えば、入口導管32と出口導管38を1本のポリマーチューブで構成し、NOが生成される媒体30内部に配置してもよい。この実施例では、ポリマーチューブをNOに対する透過性のあるものにし、ポリマーチューブを通して輸送される窒素ガスNの流れは、ガス透過性チューブを通してNOを回収する(すなわちNOはポリマーチューブを通して拡散し、ガス流と合流する)ことになる。
【0103】
本明細書で開示する方法の実施例では、陰極電圧又は陰極電流を、例えば最長30日等の時間間隔で作業電極14に印加してもよい。一部の例では電圧又は電流を、30日より長い期間にわたって連続的に印加してもよいと考えられる。NOの生成を中止することが望ましい場合は、陰極電圧又は電流を電極14に印加することも中止してよい。媒体30の槽の容量を大きくする場合、亜硝酸イオン源の濃度を高くする場合、及び/又はNOの変換効率を高くする場合は、NOの放出時間を長くしてもよい。
【0104】
本明細書で開示する方法の実施例ではさらに、適切であればどのようなガス流量でも用いることができる。一実施例として、窒素ガスN及び/又は酸素含有ガスOCの流量を、約50mL/分~約5L/分の範囲としてもよい。
【0105】
本開示を詳細に説明するため、本明細書に各実施例を示している。これらの実施例は例示することのみを目的としており、本開示の範囲を限定するものと解釈してはならないことが理解されよう。
【実施例0106】
<実施例1>
2mMのCu(II)TPMA、100mMの亜硝酸ナトリウム、及び0.1MのMOPS緩衝剤で水溶液媒体を調製した(水溶液はpH7.2に緩衝化した)。特定の電圧を特定の時間にわたり印加して、NOを生成した。作業電極は0.071cmのガラス炭素電極、カウンター電極は白金線、参照電極はAg/AgClであった。NO生成の調整は、最初に-0.2V、次に-0.3V、次に-0.4V(対3MCl-Ag/AgCl参照電極)を印加して行った。溶液中にNで気泡を発生させ、生成したNOをパージした。その結果としての気相のNO含量を、化学発光法を用いて分析した。結果を図6に示す。この結果は、異なる陰極電位を作業電極に印加すると、作業電極の面積が小さい場合でも、異なる濃度のNOを気相で生成できることを示している。陰極電圧が高いほど、気相のNO濃度が高くなった。
【0107】
<実施例2>
2mMのCu(II)TPMA、0.4Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.2MのHEPES緩衝剤で水溶液媒体を調製した(水溶液はpH7.2に緩衝化した)。特定の電圧を特定の時間にわたり印加して、NOを生成した。作業電極の面積は、実施例1で用いた作業電極の面積より大きかった。詳細には、作業電極は2.5×3.5cmの金メッシュ電極(有効電極面は約15cm)、カウンター電極は大型(約25cm)の白金メッシュ電極、参照電極はAg/AgClであった。NO生成の調整は、最初に-0.4V、次いで-0.26V、-0.24V、-0.22V、-0.20V、-0.17V(すべて、対3MCl-Ag/AgCl参照電極)の順で印加した後、電位印加を止めることにより行った。溶液中にNで気泡を(0.2L/分の流量で)発生させ、生成したNOをパージした。その結果としての気相のNO含量を、化学発光法を用いて分析した。結果を図7に示す。図6と7を比較すると、面積が大きい作業電極を使用した場合は非常に高い濃度のNOが生成されている。面積が大きい作業電極によるこの結果も、異なる陰極電位を作業電極に印加すると、異なる濃度のNOを気相で生成できること、及び陰極電圧が高いほど気相のNO濃度が高くなることを示している。
【0108】
<実施例3>
NO濃度は、図3に示すものと同様のアンペロメトリックセンサで検出した。センサは、ナフィオン(R)膜(イオノマー膜)に付着させた金作業電極を含んでいた。生成したガス流(NOを含む)を作業電極表面に誘導すると、金作業電極と、内部電解液(0.5MHSO)で浸漬されたイオノマー相との境界面でNOの電気化学的酸化が生じた。図8に示すようにこのセンサは、気相NOに対して迅速な応答を示し、線形応答が生じたときのNO濃度の範囲は、5ppbv~600ppmvであった。
【0109】
<実施例4>
7mMのCu(II)MeTACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤で水溶液媒体を調製した(水溶液はpH7.3に緩衝化した)。定電圧を異なる時間に印加して、NOを生成した。作業電極は25cmの金メッシュ電極、カウンター電極は白金電極、参照電極はAg/AgClであった。NO生成の調整は、電圧を連続的に調整しながら1mA、6mA、1.2mA、12mA、18mAの定電流を、時間数を変えて印加することにより行った。溶液中にNで気泡を(1L/分の流量で)発生させ、生成したNOをパージした。その結果としての気相のNO含量を、化学発光法を用いて分析した。結果を図9に示す。図示されるように、電流が増加すると高濃度のNOが生成された。この結果も、定電流法では実質的に一定濃度のNOを生成できることを示している。
【0110】
<実施例5>
7mMのCu(II)MeTACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤で水溶液媒体を調製した(水溶液はpH7.3に緩衝化した)。定電圧を異なる時間に印加して、NOを生成した。作業電極は25cmの金メッシュ電極、カウンター電極は白金電極、参照電極はAg/AgClであった。NO生成の調整は、電圧を連続的に調整しながら0.5mA、1mA、2mA、3.5mA、5mAの定電流を、時間数を変えて印加することにより行った。溶液中にNで気泡を(1L/分の流量で)発生させ、生成したNOをパージした。N/NOガス流に、酸素を20%含有する一定ガス流を加えた。その結果としての気相のNO含量を、化学発光法を用いて分析した。結果を図10Aに示す。図示されるように、電流が増加すると高濃度のNOが生成された。この結果も、定電流法では実質的に一定濃度のNOを生成できることを示している。図10Bは、印加した電流に対するNO測定値をプロットしたものである。図示されるように、印加した電流1mAごとに約9.6ppmのNOが放出された。
【0111】
<実施例6>
7mMのCu(II)MeTACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤で水溶液を調製した(水溶液はpH7.3に緩衝化した)。作業電極は4.5×8.5cmの金メッシュ電極、参照/カウンター電極は4×4cmの金電極であった。NO生成及びNO生成の調整は、電圧を連続的に調整しながら5mA、10mA、20mA及び/又は30mAの定電流を、時間数を変えて印加することにより行った。
【0112】
生成したNOを含有する溶液をファイバー束中に注入し、ファイバーを通してNOを拡散させ、余剰溶液はNO生成に用いた容器へと再循環させた。スイープガスとして空気をファイバー束に導入した。実施例Aでは、0.05L/分の流量でスイープガスを導入した。実施例Bでは、0.1L/分の流量でスイープガスを導入した。実施例Cでは、0.2L/分の流量でスイープガスを導入した。様々な電流を印加した各実施例の結果としての気相(空気とNOを含有)のNO含量を、化学発光法を用いて分析した。結果を表1に示す。
【表1】
【0113】
実施例A、B、C各々で、電流が増加すると高濃度のNOが生成された。この結果も、空気スイープガスの流量を少なくすると、結果としての気相中のNO濃度が高くなることを示している。
【0114】
この実施例の溶液及び電気化学セルも、6mAの定電流及び0.05L/分の空気スイープガス流量で20時間にわたり経時的に調べた。溶液は、NO生成システムとファイバー束との間で20時間にわたり連続的に循環させた。結果を図11に示す。図11に図示されるように、調べた全時間経過にわたって比較的一定濃度のNOが生成・抽出された。
【0115】
全体として実施例6は、本明細書で開示する流体再循環システムで酸素含有ガスをスイープガスとして用い、電気化学的に生成したNOを回収して、出力ガス流を生成できることを示している。この実施例は、酸素が再循環溶液に導入されたとしても、NO生成システムで溶液を再利用し、所望の濃度のNOを連続的に生成できることも示している。溶液中に空気が直接パージされることはないため、溶液中のOはすべて空気スイープガスから溶解したO(100%飽和で濃度は約10ppm)であるはずである。この濃度では、NO生成が著しく減少することはない。
【0116】
<実施例7>
7mMのCu(II)Me3TACN、1Mの亜硝酸ナトリウム、及び0.5MのHEPES緩衝剤で水溶液を調製した(水溶液はpH7.3に緩衝化した)。作業電極は4.5×4.5cmのステンレス鋼メッシュ電極、参照/カウンター電極も4.5×4.5cmのステンレス鋼メッシュ電極であった。NO生成及びNO生成の調整は、電圧を連続的に調整しながら0mA、5mA、10mA、20mAの定電流を、時間数を変えて印加することにより行った。
【0117】
生成したNOを含有する溶液をファイバー束中に注入し、ファイバーを通してNOを拡散させ、余剰溶液はNO生成に用いた容器へと再循環させた。スイープガスとして空気をファイバー束に(0.05L/分の流量で)導入した。様々な電流を印加した各実施例の結果としての気相(空気とNOを含有)のNO含量を、化学発光法を用いて分析した。結果を図12に示す。図12に図示されるように、電流が増加すると高濃度のNOが生成された。
【0118】
この実施例の溶液及び電気化学セルも、20mAの定電流及び0.05L/分の空気スイープガス流量で24時間にわたり経時的に調べた。溶液は、NO生成システムとファイバー束との間で24時間にわたり連続的に循環させた。結果を図13に示す。図13に図示されるように、調べた全時間経過にわたって比較的一定濃度のNOが生成・抽出された。
【0119】
全体として実施例7は、本明細書で開示する流体再循環システムで酸素含有ガスをスイープガスとして用い、ステンレス鋼製の作業電極により生成されたNOを回収できることを示している。
【0120】
<実施例8>
2mM~7mMのCu(II)MeTACN、及び0.1M~1Mの亜硝酸ナトリウムを含有する水溶液を調製した。この水溶液を、作業電極(5×10cmの金メッシュ)及び参照/カウンター電極(5×5cmの白金メッシュ)を有する電解室に導入した。NO生成及びNO生成の調整は、電圧を連続的に調整しながら5mA、10mA、20mA、30mAの定電流を、時間数を変えて印加することにより行った。
生成したNOを含有する溶液をシリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールに注入し、シリコーン製中空糸の壁面にNOを浸透させ、余剰溶液はNO生成に用いた電解室へと戻し、マイクロポンプによって再循環させた。スイープガスとして空気をシリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールに、0.1L/分、0.2L/分、又は0.05L/分の流量で導入した。
【0121】
シリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールの出口のガス流中に電気化学的NOセンサを配置し、気相のNO濃度の検出に使用した。図14Aに示すように、気流の気相のNO濃度は、作業電極及びカウンター電極に印加する電流の大きさによって調整し、シリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールを通過する空気流量によっても調整した。図14Aに示すように、気流の流量をわずか0.05L/分にまで少なくすると、印加する電流が5mAという低さでも、高濃度のNOを空気タンクに蓄積することができる。空気流量を少なくすると、空気によって溶液から回収するNOの量が増える。
【0122】
図14Bは、0.1L/分の空気流量の場合に様々なレベルで印加した電流に対するNO(ppm)の校正線を示したグラフである。これは、気流の気相のNO濃度を、少なくとも部分的には、作業電極及びカウンター電極に印加する電流の大きさによって調整できることを確認するものである。
【0123】
<実施例9>
2mM~7mMのCu(II)MeTACN、及び0.1M~1Mの亜硝酸ナトリウムを含有する水溶液を調製した。この水溶液を、作業電極(5×10cmの金メッシュ)及び参照/カウンター電極(5×5cmの白金メッシュ)を有する電解室に導入した。NO生成及びNO生成の調整は、電圧を連続的に調整しながら40mA及び50mAの定電流を、時間数を変えて印加することにより行った。
【0124】
生成したNOを含有する溶液をシリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールに注入し、シリコーン製中空糸の壁面にNOを浸透させ、余剰溶液はNO生成に用いた電解室へと戻し、マイクロポンプによって再循環させた。スイープガスとして空気をシリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールに導入した。
【0125】
様々な電流を印加した各実施例の結果としての気相(空気とNOを含有)のNO含量を、化学発光法を用いて分析した。結果を図15に示す。図15は、より具体的には出力ガス流中のNO濃度、NO濃度、総NOx濃度を図示している。図15に示すように、出力ガス流中のNO濃度を約50ppm~約60ppmにするのを可能にした印加電流では、存在するNO量がNO濃度の2%未満となった。このNOは、電気化学的生成プロセスによって生成されたものではなく、出力ガス流中での酸素との反応によるものである可能性が高かった。
【0126】
図15は、空気と共に封入された43ppmのNOの試験袋も示している。試験袋による試験の結果はNO濃度の上昇を示したが、これは、酸素存在下での曝露時間が長かったことによる可能性が高かった。
【0127】
<実施例10>
この実施例では、実施例8で説明した水溶液、電解室、及びシリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールを使用した。シリコーン製の中空糸型ガス分離モジュールの出口のガス流(流量1.0L/分)中に電気化学的NO/NOセンサを配置した。このセンサを、フィードバック制御に使用する電子回路に電気的に接続した。図16は、使用した電子回路の概略図を示している。循環する亜硝酸溶液/Cu(II)-リガンド溶液と接触している面積の大きい電極に印加する電流を、センサからの信号に基づいて調整する際に、電子回路からのフィードバックを用いた。図17に示すように、フィードバック制御法を用いると、気相のNO濃度が安定するとともに、目標とする気相の定常状態濃度に達するまでの応答時間を、NO濃度を50ppm及び100ppmに設定して5分未満にすることができる。この実施例では、NO濃度が低い場合に効率的に掃気するため、シリカゲルを使用した。
【0128】
心肺バイパス手術用途の場合、出力ガス流を高酸素含量のガス流と合流させて血液酸素付加装置に導入し、この合流の一部をNO/NOセンサ上で通過させれば、実際に酸素付加装置に導入されるNO及びNOの濃度を監視・制御することができる。
【0129】
<実施例11>
この実施例では、顆粒球及び単球のCD11B発現を、心肺バイパス(CPB)シミュレーションモデルにおいて経時的に調べた。このシミュレーションではブタモデルを使用し、ブタを体外循環(ECC)系支持装置上に2時間配置した。対照サンプルとして、空気と血液の接触(ABI)なしを使用した。比較実施例は、一酸化窒素(NO)が酸素付加装置のスイープガス側を通過しない場合とした(図18A及び18Bに「ABI」として図示)。他の実施例では、NOに酸素付加装置のスイープガス側を通過させた(図18A及び18Bに「ABI+500ppm_NOスイープ」及び「ABI+50ppm_NOスイープ」として図示)。NOは、実施例8で説明したように生成した。このNOと空気の出力流に100%酸素流を1:2の流量比で混合させ、この流れの中のNO濃度をNOガスセンサで連続的に検知した。CD11B発現量は、ベースライン(BL)時、CPBの60分(1時間)後、120分(2時間)後、6時間後、24時間後に測定した。
【0130】
図18A及び18Bは、全身性炎症反応症候群(SIRS)を軽減させるガス状NOの効果を示している。このモデルでは、空気に曝露するCPB(サンプル「ABI」)によって、顆粒球(図18A)及び単球(図18B)のCD11B発現量が大幅に増加した。高用量の500ppmNOをスイープガスに添加すると(サンプル「ABI+500ppm_NOスイープ」)、顆粒球(図18A)及び単球(図18B)のCD11B発現量が正常範囲内で維持された(対照サンプルを参照)。低用量のNOでも、NOの用量の濃度が50ppmの場合は、図18A及び18Bに示すように非常に効果的であった。500ppmNOでも、2時間後の血中メトヘモグロビン濃度の変化は微小であった(3%未満)。以上の結果は、白血球活性化に対するNOの著しい保護効果を示すものである。
【0131】
本明細書に記載する範囲は、記載範囲内の値又は小範囲を明確に示したものとして、記載範囲及び記載範囲内のすべての値又は小範囲を含むことが理解されよう。例えば約100ppbv~約100ppmvの範囲は、約100ppbv~約100ppmvと明示された限界のみならず、150ppbv、50.5ppmv、75ppmvなどの数値、及び約300ppbv~約30ppmvなどの小範囲も含むと解釈すべきである。
【0132】
さらに、ある値を説明するのに「約」が用いられている場合は、記載値とのわずかな差(±10%まで)も含むことが意図されている。印加電位値について考察する場合にも、より広い範囲とするのが適切であることが理解されよう。本明細書で開示する一部の実施例では、陰極電位パルスの大きさを大きくすると(すなわち陰極電位を高くすると)、生成されるCu(I)-リガンド複合体の量が増えるため、生成されるNOの量も増える。したがって、Cu(I)種及び生成されるNOの所望の量に依存することがある印加電位値の範囲は、広くすることが妥当と考えられる。
【0133】
さらに、本明細書全体を通して「一実施例」、「別の実施例」、「ある実施例」等への言及は、当該実施例に関連して説明される特定の要素(特徴、構造、特性)が、本明細書で説明される少なくとも一つの実施例に含まれ、その他の実施例には存在する場合もしない場合もあることを意味する。また、文脈上明確に別途示されない限り、いずれかの実施例において説明された要素を、様々な実施例において適切な方法で組み合わせてもよいことが理解されよう。
【0134】
いくつかの実施例を詳細に説明したが、開示した実施例を変更してもよいことが理解されよう。したがって上述の説明は、非限定的であると考えられるべきである。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18A
図18B