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特開2022-141789エレクトロクロミックデバイス用の対電極
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141789
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】エレクトロクロミックデバイス用の対電極
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1524 20190101AFI20220921BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20220921BHJP
【FI】
G02F1/1524
G02F1/15 505
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022112947
(22)【出願日】2022-07-14
(62)【分割の表示】P 2020207808の分割
【原出願日】2016-07-07
(31)【優先権主張番号】62/192,443
(32)【優先日】2015-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2015/061995
(32)【優先日】2015-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509335373
【氏名又は名称】ビュー, インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】195 S. Milpitas Blvd., Milpitas, CA 95035 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガレスピー、デーン
(72)【発明者】
【氏名】カイラサム、スリダー ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】ロズビキー、ロバート ティー.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エレクトロクロミック積層体、エレクトロクロミックデバイス、ならびに係る積層体及びデバイスを作るための方法及び装置を提供する。
【解決手段】陰極色合い付与するエレクトロクロミック材料を備えるエレクトロクロミック層と、第1の陽極色合い付与する材料を備える第1の副層、及び第2の陽極色合い付与する材料を備える第2の副層を備え、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料が異なる組成物を有するが、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を備えるエレクトロクロミックデバイス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミックデバイスであって、
基板と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って配置され、陰極色合い付与するエレクトロクロミック材料を備えるエレクトロクロミック層と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って同様に配置される対電極層であって、前記対電極層が(a)第1の陽極色合い付与する材料を備える第1の副層、及び(b)第2の陽極色合い付与する材料を備える第2の副層を備える、対電極層と、
を備え、
前記第1の陽極色合い付与する材料及び前記第2の陽極色合い付与する材料が異なる組成物を有するが、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を備え、
前記第1の副層が前記エレクトロクロミック層と前記第2の副層との間に配置され、
前記対電極層の前記第1の副層及び前記第2の副層が互いと物理的に接触する、
エレクトロクロミックデバイス。
【請求項2】
エレクトロクロミックデバイスであって、
基板と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って配置され、陰極色合い付与するエレクトロクロミック材料を備えるエレクトロクロミック層と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って同様に配置される対電極層であって、前記対電極層が(a)第1の陽極色合い付与する材料を備える第1の副層、及び(b)第2の陽極色合い付与する材料を備える第2の副層を備える、対電極層と、
を備え、
前記第1の陽極色合い付与する材料及び前記第2の陽極色合い付与する材料が異なる組成物を有するが、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を備え、
前記第1の副層が前記エレクトロクロミック層と前記第2の副層との間に配置され、
前記エレクトロクロミックデバイスの透過b値は、前記エレクトロクロミックデバイスがその最も澄んだ状態にあるときに約10以下である、
エレクトロクロミックデバイス。
【請求項3】
エレクトロクロミックデバイスであって、
基板と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って配置され、陰極色合い付与するエレクトロクロミック材料を備えるエレクトロクロミック層と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って同様に配置される対電極層であって、前記対電極層が(a)第1の陽極色合い付与する材料を備える第1の副層、及び(b)第2の陽極色合い付与する材料を備える第2の副層を備える、対電極層と、
を備え、
前記第1の陽極色合い付与する材料及び前記第2の陽極色合い付与する材料が異なる組成物を有するが、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を備え、
前記第1の副層が前記エレクトロクロミック層と前記第2の副層との間に配置され、
前記第2の副層が、約1と5×1010オーム‐cmの間の電子抵抗を有する欠陥軽減絶縁層である、
エレクトロクロミックデバイス。
【請求項4】
前記第1の陽極色合い付与する材料が、前記少なくとも1つの遷移金属及び他の非アルカリ金属を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項5】
前記第1の陽極色合い付与する材料が、ニッケル(Ni)及びタングステン(W)を備える、請求項4に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項6】
前記第2の陽極色合い付与する材料がさらにタンタル(Ta)を備える、請求項5に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項7】
前記第2の陽極色合い付与する材料がさらにニオブ(Nb)を備える、請求項5に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項8】
前記第2の陽極色合い付与する材料がさらにスズ(Sn)を備える、請求項5に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項9】
前記少なくとも1つの遷移金属の1つが、タングステン(W)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、バナジウム(V)、イリジウム(Ir)、及びその組合せから成るグループから選択される、請求項4から8のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項10】
前記他の非アルカリ金属が、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)、金(Au)、ホウ素(B)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ユーロピウム(Eu)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ガドリニウム(Gd)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、水銀(Hg)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、オスミウム(Os)、プロトアクチニウム(Pa)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、ポロニウム(Po)、プラチナ(Pt)、ラジウム(Ra)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アンチモン(Sb)、スカンジウム(Sc)、セレン(Se)、ケイ素(Si)、サマリウム(Sm)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、テクネチウム(Tc)、テルル(Te)、トリウム(Th)、チタン(Ti)、タリウム(Tl)、ウラン(U)、バナジウム(V)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及びその組合せから成るグループから選択される、請求項9に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項11】
前記第1の陽極色合い付与する材料及び前記第2の陽極色合い付与する材料がそれぞれ、第1の遷移金属、第2の遷移金属、及び酸素を備え、前記第1の遷移金属に対する前記第2の遷移金属の比率が前記第1の陽極色合い付与する材料及び前記第2の陽極色合い付与する材料で異なる、請求項1から10のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項12】
前記対電極層が約50nmと約650nmとの間の全厚を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項13】
前記エレクトロクロミック層及び前記対電極層の上にまたは前記エレクトロクロミック層及び前記対電極層を覆って配置される透明導電層をさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項14】
エレクトロクロミックデバイスを製造する方法であって、
陰極着色するエレクトロクロミック材料を備えるエレクトロクロミック層を成膜することと、
第1の陽極色合い付与する副層を成膜すること、
前記第1の陽極色合い付与する副層をリチオ化すること、及び
前記第1の陽極色合い付与する副層をリチオ化した後に、第2の陽極色合い付与する副層を前記第1の陽極色合い付与する副層上に直接に成膜すること、
によって対電極層を成膜することと、
を備え、
前記対電極層の前記第1の陽極色合い付与する副層及び前記第2の陽極色合い付与する副層は、相互に物理的に接触し、
前記第1の陽極色合い付与する副層は、前記エレクトロクロミック層と前記第2の陽極色合い付与する副層との間に配置され、
前記第1の陽極色合い付与する副層及び前記第2の陽極色合い付与する副層は異なる組成物を有し、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を備える、
方法。
【請求項15】
エレクトロクロミックデバイスを製造する方法であって、
陰極着色するエレクトロクロミック材料を備えるエレクトロクロミック層を成膜することと、
第1の陽極色合い付与する副層を成膜すること、
前記第1の陽極色合い付与する副層をリチオ化すること、及び
前記第1の陽極色合い付与する副層をリチオ化した後に、第2の陽極色合い付与する副層を成膜すること、
によって欠陥軽減絶縁層上に対電極層を成膜することと、
を備え、
前記第2の陽極色合い付与する副層は、約1と5×1010オーム‐cmとの間の電子抵抗を有する、前記欠陥軽減絶縁層であり、
前記第1の陽極色合い付与する副層は、前記エレクトロクロミック層と前記第2の陽極色合い付与する副層との間に配置され、
前記第1の陽極色合い付与する副層及び前記第2の陽極色合い付与する副層は異なる組成物を有し、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を備える、
方法。
【請求項16】
前記第1の陽極色合い付与する材料が、前記少なくとも1つの遷移金属及び他の非アルカリ金属を備える、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の陽極色合い付与する副層が、前記第2の陽極色合い付与する副層を成膜するために使用されるよりも低いスパッタ出力で成膜される、14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の陽極色合い付与する副層が約5~20kW/mの間のスパッタ出力で成膜され、前記第2の陽極色合い付与する副層が約20~45kW/mの間のスパッタ出力で成膜される、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
部分的に製造された前記エレクトロクロミックデバイスの温度が、前記第2の陽極色合い付与する副層の成膜中よりも前記第1の陽極色合い付与する副層の成膜中の方が低い、請求項14から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記対電極層の前記第1の陽極色合い付与する副層は、約5nmと約100nmとの間の厚さで製膜される、請求項14から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対電極層は、約50nmと約650nmとの間の全厚で製膜される、請求項14から20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、それぞれがその全体として及び全ての目的のために参照により本明細書に援用される、2015年7月14日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国仮出願第62/192,443号に対する優先権の利益を主張する。本願は、それぞれがその全体として及び全ての目的のために参照により本明細書に援用される、2009年3月31日に出願され、「ALL-SOLID-STATE ELECTROCHROMIC DEVICE」と題する米国仮特許出願第61/165,484号に対する優先権の利益を主張する、2009年12月22日に出願され、「FABRICATION OF LOW DEFECTIVITY ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第12/645,111号の一部継続出願である。また、本願は、それぞれがその全体として及び全ての目的のために参照により本明細書に援用される、2010年4月30日に出願され、「ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第12/772,055号(現在では米国特許第8,300,298号として発行されている)、及び2010年6月11日に出願され、「ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第12/814,277号(現在では米国特許第8,764,950号として発行されている)、及び2010年6月11日に出願され、「ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第12/814,279号(現在は米国特許第8,764,951号として発行されている)の一部継続出願である、2012年5月2日に出願され、「ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第13/462,725号(現在では米国特許第9,261,751号として発行されている)の継続出願である、2015年4月10日に出願され、「ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第14/683,541号の一部継続出願でもある。また、本願は、それぞれがその全体として及び全ての目的のために参照により本明細書に援用される、2014年11月26日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国仮特許出願第62/085,096号に対する優先権、及び2015年7月14日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国仮特許出願第62/192,443号に対する優先権の利益を主張する、2015年11月20日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題するPCT出願第PCT/US15/61995号の一部継続出願でもある。また、本願は、それぞれがその全体として及び全ての目的のために参照により本明細書に援用される、2011年9月30日に出願され、「OPTICAL DEVICE FABRICATION」と題される米国仮特許出願第61/541,999号に対する優先権の利益を主張する、2012年9月27日に出願され、「IMPROVED OPTICAL DEVICE FABRICATION」と題するPCT特許出案第PCT/US12/57606号の一部継続出願である、2013年2月8日に出願され、「DEFECT-MIGRATION LAYERS IN ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第13/763,505号(現在では、米国特許第9,007,674号として発行されている)の継続出願である、2015年1月20日に出願され、「DEFECT-MIGRATION LAYER IN ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第14/601,141号(現在では米国特許第9,229,291号として発行されている)の継続出願である、2015年10月16日に出願され、「DEFECT-MITIGATION LAYERS IN ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第14/885,734号の一部継続出願でもある。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミズムは、材料が、通常電圧の変化にさらされることによって、異なる電子状態に置かれるときに光学特性の電気化学的に媒介された可逆変化を示す現象である。光学特性は、通常、色、透過率、吸光度、及び反射率の1つまたは複数である。1つの周知のエレクトロクロミック材料は、例えば酸化タングステン(WO)である。酸化タングステンは、透明から青への着色転移が電気化学的還元により発生する陰極エレクトロクロミック材料である。
【0003】
エレクトロクロミック材料は、例えば窓及び鏡の中に組み込まれてよい。係る窓及び鏡の色、透過率、吸光度、及び/または反射率は、エレクトロクロミック材料で変化を起こさせることによって変更され得る。エレクトロクロミック材料の1つの周知の応用は、一部の車のバックミラーである。これらのエレクトロクロミックバックミラーでは、他の車両のヘッドライトによって運転者が注意を逸らされないように、鏡の反射性が夜間に変化する。
【0004】
エレクトロクロミズムは1960年代に発見されたが、エレクトロクロミックデバイスは、歴史的に、技術がその最大限の商業的可能性を実現するのを妨げてきた多様な問題に悩まされてきた。
【発明の概要】
【0005】
本明細書の実施形態は、エレクトロクロミック材料、エレクトロクロミック積層体、エレクトロクロミックデバイス、ならびに係る材料、積層体、及びデバイスを作るための方法及び装置に関する。多様な実施形態では、対電極材料は異質の組成物を有することがある。一部の場合では、対電極は異なる組成物及び/または形態を有してよい複数の副層を含むように成膜されてよい。これらの場合または他の場合、対電極は組成に勾配を含むように成膜されてよい。勾配(存在する場合)は、通常、対電極の平面に垂直である方向にある。多様な実施形態では、組成は対電極材料の1つまたは複数の金属の濃度に関して異質である。組成の勾配は対電極の厚さ全体の上方に、または対電極の一部分(例えば副層)の上方だけに広がることがある。
【0006】
開示されている実施形態の一態様では、エレクトロクロミックデバイスが提供され、エレクトロクロミックデバイスは、基板と、基板上にまたは基板を覆って配置され陰極色合い付与するエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層と、基板上にまたは基板を覆って同様に配置される対電極層とを含む。該対電極層は、(a)第1の陽極色合い付与する材料を含む第1の副層、及び(b)第2の陽極色合い付与する材料を含む第2の副層を含み、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料は異なる組成物を有するが、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を含み、第1の副層はエレクトロクロミック層と第2の副層との間に配置される。
【0007】
特定の実施態様では、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料のそれぞれは、該少なくとも1つの遷移金属及び他の非アルカリ金属を含んでよい。一部の係る実施態様では、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料はそれぞれニッケル及びタングステンを含んでよい。第2の陽極色合い付与する材料はさらにタンタルを含んでよい。第2の陽極色合い付与する材料はさらにニオブを含んでよい。第2の陽極色合い付与する材料はさらにスズを含んでよい。一部の実施形態では、第2の陽極色合い付与する材料は、該少なくとも1つの遷移金属、該他の非アルカリ金属、及び第2の非アルカリ金属を含んでよく、第1の陽極色合い付与する材料は該少なくとも1つの遷移金属及び該他の非アルカリ金属をその唯一の金属として含む。特定の場合、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料はそれぞれ、該少なくとも1つの遷移金属、該他の非アルカリ金属、及び第2の非アルカリ金属を含んでよく、第2の陽極色合い付与する材料は、第1の陽極色合い付与する材料と比較してより高い原子濃度の第2の非アルカリ金属を有する。
【0008】
該少なくとも1つの遷移金属は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、バナジウム(V)、イリジウム(Ir)、及びその組合せから成るグループから選択されてよい。他の非アルカリ金属は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)、金(Au)、ホウ素(B)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ユーロピウム(Eu)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ガドリニウム(Gd)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、水銀(Hg)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、オスミウム(Os)、プロトアクチニウム(Pa)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、ポロニウム(Po)、プラチナ(Pt)、ラジウム(Ra)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アンチモン(Sb)、スカンジウム(Sc)、セレン(Se)、ケイ素(Si)、サマリウム(Sm)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、テクネチウム(Tc)、テルル(Te)、トリウム(Th)、チタン(Ti)、タリウム(Tl)、ウラン(U)、バナジウム(V)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及びその組合せから成るグループから選択されてよい。特定の実施形態では、該他の非アルカリ金属は、銀(Ag)、ヒ素(As)、金(Au)、ホウ素(B)、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、ユーロピウム(Eu)、ガリウム(Ga)、ガドリニウム(Gd)、ゲルマニウム(Ge)、水銀(Hg)、オスミウム(Os)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、プロメチウム(Pm)、ポロニウム(Po)、プラチナ(Pt)、ラジウム(Ra)、テルビウム(Tb)、テクネチウム(Tc)、トリウム(Th)、タリウム(Tl)、及びその組合せから成るグループから選択されてよい。一部の場合では、該他の非アルカリ金属は、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、及びニオブ(Nb)から成るグループから選択されてよい。特定の例では、該他の非アルカリ金属はタンタル(Ta)である。別の例では、該他の非アルカリ金属はスズ(Sn)である。別の例では、該他の非アルカリ金属はニオブ(Nb)である。
【0009】
一部の実施形態では、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料はそれぞれ第1の遷移金属、第2の遷移金属、及び酸素を含んでよく、第1の遷移金属対第2の遷移金属の割合は第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料で異なる。これらの実施形態または他の実施形態では、対電極層は第3の陽極色合い付与するエレクトロクロミック材料を含む第3の副層をさらに含んでよく、第1の陽極色合い付与する材料、第2の色合い付与する材料、及び第3の色合い付与する材料は異なる組成物を有するが、それぞれが該少なくとも1つの遷移金属を含み、第2の副層は第1の副層と第3の副層との間に配置される。第1の陽極色合い付与する材料は該少なくとも1つの遷移金属、第2の遷移金属を含んでよいが、他の遷移金属を含まず及び酸素を含むことがあり、第2の陽極色合い付与する材料は該少なくとも1つの遷移金属、第2の遷移金属、第3の遷移金属、及び酸素を含んでよく、第3の陽極色合い付与する材料は該少なくとも1つの遷移金属、第2の金属、第3の遷移金属、及び酸素を含んでよく、第2の陽極色合い付与する材料及び第3の陽極色合い付与する材料は第3の遷移金属と異なる濃度を有してよい。特定の実施態様では、対電極層の第1の副層及び第2の副層は互いと物理的に接触してよい。対電極層の第1の副層及び第2の副層は、一部の場合、欠陥軽減絶縁層(defect-mitigating-insulating layer)によって互いに分離されてよく、欠陥軽減絶縁層は約1と5×1010オーム‐cmの間の電子抵抗を有する。多様な実施形態では、第1の陽極色合い付与する材料はリチウムに対する第1の親和性を有し、第2の陽極色合い付与する材料はリチウムに対する第2の親和性を有し、リチウムに対する第1の親和性及びリチウムに対する第2の親和性は異なってよい。
【0010】
エレクトロクロミックデバイスは特定の視覚的な特性を有することがある。一部の実施形態では、エレクトロクロミックデバイスの透過b値は、エレクトロクロミックデバイスがその最も澄んだ状態にあるとき約14以下であってよい。例えば、エレクトロクロミックデバイスの透過b値は、エレクトロクロミックデバイスがその最も澄んだ状態にあるときに約10以下であってよい。エレクトロクロミックデバイスの可視透過率は、エレクトロクロミックデバイスがその最も澄んだ状態にあるとき少なくとも約55%であってよい。
【0011】
対電極層は特定の全厚を有してよい。一部の実施形態では、対電極層は約50nmと約650nmの間、例えば約100nmと約400nmとの間、または約150nmと約300nmとの間の全厚を有してよい。対電極層の第1の副層及び第2の副層はそれぞれ、非晶相及びナノ結晶相の、約50nm未満の直径を有するナノ微結晶との混合物である形態を有してよい。特定の場合、第2の副層は、約1と5×1010オーム‐cmの間の電子抵抗を有する欠陥軽減絶縁層であってよい。エレクトロクロミックデバイスはさらに、エレクトロクロミック層上にまたはエレクトロクロミック層を覆って配置される透明導電層、及び対電極層を含んでよい。透明導電層はドープ酸化インジウムを含んでよい。
【0012】
一部の実施形態では、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料の少なくとも1つはニッケル、アルミニウム、及び酸素を含んでよい。一例では、第1の陽極色合い付与する材料は、ニッケル、タングステン、及び酸素を含み、第2の陽極色合い付与する材料はニッケル、アルミニウム、及び酸素を含む。特定の実施形態では、第1の陽極色合い付与する材料及び第2の陽極色合い付与する材料の少なくとも1つはニッケル、ケイ素、及び酸素を含む。例えば、第1の陽極色合い付与する材料はニッケル、タングステン、及び酸素を含んでよく、第2の陽極色合い付与する材料はニッケル、ケイ素、及び酸素を含んでよい。
【0013】
開示される実施形態の別の態様では、エレクトロクロミックデバイスが提供され、エレクトロクロミックデバイスは、基板と、基板上にまたは基板を覆って配置され陰極色合い付与するエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層と、基板上にまたは基板を覆って同様に配置される陽極色合い付与する電極層を含む。電極層は、(a)第1の酸化ニッケルタングステン組成物を含む第1の副層、及び(b)第2の酸化ニッケルタングステン組成物を含む第2の副層を含み、第1の酸化ニッケルタングステン組成物及び第2の酸化ニッケルタングステン組成物は異なる相対量のニッケル及び/またはタングステンを有し、第1の副層はエレクトロクロミック層と第2の副層との間に配置される。
【0014】
特定の実施態様では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物はさらにタンタル、ニオブ、スズ、またはその組合せを含んでよい。一例では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物はタンタルを含む。別の例では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物はニオブを含む。別の例では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物はスズを含む。いくつかの実施形態では、第1の酸化ニッケルタングステン組成物はさらにタンタルを含んでよく、第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、第1の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のタンタルを含む。第1の酸化ニッケルタングステン組成物はさらにニオブを含んでよく、第2の酸化ニッケルタングステン組成物は第1の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のニオブを含んでよい。一部の場合、第1の酸化ニッケルタングステン組成物はさらにスズを含んでよく、第2の酸化ニッケルタングステン組成物は第1の酸化ニッケルタングステン組成物よりも大きい濃度のスズを含んでよい。
【0015】
対電極層は第3の副層を含んでよい。第3の副層は第3の酸化ニッケルタングステン組成物を含んでよい。第1の酸化ニッケルタングステン組成物、第2の酸化ニッケルタングステン組成物、及び第3の酸化ニッケルタングステン組成物は異なる相対量のニッケル及び/またはタングステンを有してよい。第2の副層は第1の副層と第3の副層との間に配置されてよい。一部の実施形態では、第3の酸化ニッケルタングステン組成物はさらにタンタル、ニオブ、スズ、またはその組合せを含んでよい。一例では、第3の酸化ニッケルタングステン組成物はタンタルを含む。別の例では、第3の酸化ニッケルタングステン組成物はニオブを含む。別の例では、第3の酸化ニッケルタングステン組成物はスズを含む。特定の実施形態では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物及び第3の酸化ニッケルタングステン組成物はそれぞれタンタルを含んでよく、第3の酸化ニッケルタングステンは、第2の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のタンタルを含んでよい。これらの実施形態または他の実施形態では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物及び第3の酸化ニッケルタングステン組成物はそれぞれニオブを含んでよく、第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、第2の酸化ニッケルタングステン組成物よりも大きい濃度のニオブを含んでよい。一部の場合では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物及び第3の酸化ニッケルタングステン組成物はそれぞれスズを含んでよく、第3の酸化ニッケルタングステン組成物は第2の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のスズを含んでよい。一部の実施形態では、対電極層は第3の酸化ニッケルタングステン組成物を含む第3の副層を含んでよく、第2の酸化ニッケルタングステン組成物はさらに金属M1を含み、第3の酸化ニッケルタングステン組成物はさらに金属M2を含み、金属M1及び金属M2は互いに異なってよい。一部の係る場合、第2の酸化ニッケルタングステン組成物に実質的に金属M2がないことがあり、第3の酸化ニッケルタングステン組成物に実質的に金属M1がないことがある。
【0016】
対電極層の第1の副層は、約10nmと約80nmとの間の厚さを有するフラッシュ層であってよい。一部の場合、フラッシュ層の厚さは、例えば約10nmと約50nm、または約10nmと約30nmとの間でより制限されることがある。第1の副層は、例えば約1と5×1010オーム‐cmの間等、特定の電子抵抗を有してよい。特定の実施形態では、対電極層の第1の副層及び第2の副層のそれぞれは約20nmと約200nmとの間の厚さを有してよい。一部の係る場合、第1の副層の厚さは、約50nmと約200nmとの間で第2の副層の厚さと異なってよい。
【0017】
特定の実施態様では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物は約2~10%原子のタンタルを含んでよく、第3の酸化ニッケルタングステン組成物は約5~20%原子のタンタルを含んでよい。特定の実施形態では、第1の副層は酸化ニッケルタングステンから実質的に成り立ってよく、第2の副層は、約2~10%原子の間のタンタルであるニッケルタングステンタンタル酸化物から実質的に成り立ってよく、第3の副層は約5~20%原子の間のタンタルであるニッケルタングステンタンタル酸化物から実質的に成り立ってよい。例えば、第2の副層のニッケルタングステンタンタル酸化物は約4%原子のタンタルであってよく、第3の副層のニッケルタングステンタンタル酸化物は約8%原子のタンタルであってよい。別の例では、第2の酸化ニッケルタングステンは約2~10%原子の間のニオブを含んでよく、第3の酸化ニッケルタングステン組成物は約5~20%原子の間のニオブを含んでよい。第1の副層は酸化ニッケルタングステンから実質的に成り立ってよく、第2の副層は約2~10%原子の間のニオブであるニッケルタングステンニオブ酸化物から実質的になり、第3の副層は約5~20%原子の間のニオブであるニッケルタングステンニオブ酸化物から成る。例えば、第2の副層のニッケルタングステンニオブ酸化物は約4%原子のニオブであってよく、第3の副層のニッケルタングステンニオブ酸化物は約8%原子のニオブであってよい。別の実施形態では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物は約2~10%原子の間のスズを含んでよく、第3の酸化ニッケルタングステン組成物は約5~20%原子の間のスズを含んでよい。第1の副層は酸化ニッケルタングステンを実質的に含んでよく、第2の副層は、約2~10%原子の間のスズであるニッケルタングステンスズ酸化物を実質的に含んでよく、第3の副層は、約5~20%原子の間のスズであるニッケルタングステンスズ酸化物から実質的に成り立ってよい。例えば、第2の副層のニッケルタングステンスズ酸化物は約4%原子のスズであってよく、第3の副層のニッケルタングステンスズ酸化物は約8%原子のスズであってよい。
【0018】
多様な実施形態では、第2の酸化ニッケルタングステン組成物はさらに、第1の酸化ニッケルタングステン組成物には存在しない金属を含むことがある。特定の実施態様では、対電極層の第1の副層及び第2の副層の少なくとも1つは傾斜組成物を含んでよい。いくつかの実施形態では、対電極の第1の副層及び第2の副層はそれぞれ、非晶相及びナノ結晶相の、約50nm未満の直径を有するナノ微結晶との混合物である形態を有してよい。
【0019】
開示されている実施形態の追加の態様では、エレクトロクロミックデバイスを製造する方法が提供され、方法は、陰極着色するエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を成膜することと、第1の陽極色合い付与する副層を成膜すること、及び第2の陽極色合い付与する副層を成膜することであって、第1の陽極色合い付与する副層はエレクトロクロミック層と第2の陽極色合い付与する副層との間に配置され、第1の陽極色合い付与する副層及び第2の陽極色合い付与する副層は異なる組成物を有し、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を含む第2の陽極色合い付与する副層を成膜することによって対電極層を成膜することと、を含む。
【0020】
特定の実施形態では、第2の陽極色合い付与する副層は、第1の副層に存在しない1つまたは複数の金属を含んでよい。例えば、第2の陽極色合い付与する副層はタンタルを含むことがあり、第1の陽極色合い付与する副層はタンタルを含まないことがある。多様な実施形態では、第1の陽極色合い付与する副層には実質的にタンタルがなくてよい。一部の例では、第2の陽極色合い付与する副層はニオブを含むことがあり、第1の陽極色合い付与する副層はニオブを含まないことがある。多様な実施形態では、第1の陽極色合い付与する副層は実質的にニオブがなくてよい。特定の実施態様では、第2の陽極色合い付与する副層はスズを含むことがあり、第1の陽極色合い付与する副層はスズを含まないことがある。多様な実施形態では、第1の陽極色合い付与する副層には実質的にスズがなくてよい。一部の実施態様では、第2の陽極色合い付与する副層はアルミニウムを含むことがあり、第1の陽極色合い付与する副層はアルミニウムを含まないことがある。第1の陽極色合い付与する副層には実質的にアルミニウムがなくてよい。これらの場合または他の場合、第2の陽極色合い付与する副層はケイ素を含むことがあり、第1の陽極色合い付与する副層はケイ素を含まないことがある。第1の陽極色合い付与する副層には実質的にケイ素がなくてよい。
【0021】
特定の実施形態では、対電極層を成膜することはさらに、少なくとも1つの遷移金属の酸化物を含む第3の陽極色合い付与する副層を成膜することを含んでよく、第2の陽極色合い付与する副層は第1の陽極色合い付与する副層と第3の陽極色合い付与する副層との間に配置される。一部の係る実施形態では、第2の陽極色合い付与する副層及び第3の陽極色合い付与する副層はそれぞれ、第1の陽極色合い付与する副層には存在しない金属を含んでよく、第1の陽極色合い付与する副層に存在しない金属の原子濃度は、第2の陽極色合い付与する副層に比較すると、第3の陽極色合い付与する副層でより高くてよい。例えば、第1の陽極色合い付与する副層は酸化ニッケルタングステンから実質的に成り立ってよく、第2の陽極色合い付与する副層及び第3の陽極色合い付与する副層はニッケルタングステンタンタル酸化物から実質的に成り立ってよく、タンタルの濃度は、第2の陽極色合い付与する副層においてより第3の陽極色合い付与する副層においてより高くてよい。
【0022】
一部の実施形態では、異なる副層を成膜するために異なる条件が使用されてよい。例えば、第1の陽極色合い付与する副層は、第2の陽極色合い付与する副層よりも高い成膜速度で成膜されてよい。これらの場合または他の場合、第1の陽極色合い付与する副層は、第2の陽極色合い付与する副層を成膜するために使用されるよりも低いスパッタ出力で成膜されてよい。一部の実施形態では、第1の陽極色合い付与する副層は約5~20kW/mの間のスパッタ出力で成膜されてよく、第2の副層は約20~45kW/mの間のスパッタ出力で成膜されてよい。これらの実施態様または他の実施態様では、部分的に製造されたエレクトロクロミックデバイスの温度は、第2の陽極色合い付与する副層の成膜中よりも、第1の陽極色合い付与する副層の成膜中より低くてよい。
【0023】
また、方法は、1つまたは複数の層及び/または副層をリチオ化することを含んでもよい。例えば、方法はさらに、第2の陽極色合い付与する副層を成膜する前に、第1の陽極色合い付与する副層をリチオ化することを含んでよい。一実施形態では、方法はさらに第2の陽極色合い付与する副層にリチウムを成膜することと、次いで第2の陽極色合い付与する副層上に第3の陽極色合い付与する副層を任意選択で成膜することとを含んでよい。別の実施形態では、方法はさらに、第2の陽極色合い付与する副層上に第3の陽極色合い付与する副層を成膜することと、次いで第3の陽極色合い付与する副層上にリチウムを成膜することを含む。
【0024】
開示されている実施形態の別の態様では、エレクトロクロミックデバイスを製造する方法が提供され、方法は、陰極着色するエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を成膜することと、第1の陽極色合い付与する副層を成膜すること、第1の陽極色合い付与する副層をリチオ化すること、及び第1の陽極色合い付与する副層をリチオ化した後に、第2の陽極色合い付与する副層を成膜することであって、第1の陽極色合い付与する副層はエレクトロクロミック層と第2の陽極色合い付与する層との間に配置され、第1の陽極色合い付与する副層及び第2の陽極色合い付与する副層は異なる組成物を有し、それぞれが少なくとも1つの遷移金属の酸化物を含む、第2の陽極色合い付与する副層を成膜することによって対電極層を成膜することと、を含む。
【0025】
開示されている実施形態の追加の態様では、エレクトロクロミックデバイスを製造するための装置が提供され、装置は(a)(i)基板が第1の成膜ステーションに位置決めされるとき、基板にエレクトロクロミック材料の層を成膜するための1つまたは複数の第1のターゲットを含む第1の成膜ステーション、(ii)基板が第2の成膜ステーションに位置決めされるとき、基板に第1の対電極材料の第1の副層を成膜するための1つまたは複数の第2のターゲットを含む第2の成膜ステーション、(iii)基板が第3の成膜ステーションに位置決めされるとき、基板に第2の対電極材料の第2の副層を成膜するための1つまたは複数の第3のターゲットを含む第3の成膜ステーションであって、第2の対電極材料が第1の対電極材料とは異なる組成物を有する、第3の成膜ステーションを含む統合成膜システム、ならびに(b)基板に積層体を順次成膜するように、基板に第1の成膜ステーション、第2の成膜ステーション、及び第3の成膜ステーションを通過させる実行可能なプログラム命令を含むコントローラであって、積層体がエレクトロクロミック材料の層、第1の対電極材料の第1の副層、及び第2の対電極材料の第2の副層を含む、コントローラと、を含む。
【0026】
特定の実施形態では、該1つまたは複数の第2のターゲット及び該1つまたは複数の第3のターゲットはそれぞれ、少なくとも1対の回転自在の円筒形のターゲットを含んでよい。コントローラは、第1の対電極材料を、第2の対電極材料を成膜するために使用されるよりも低いスパッタ出力で成膜する実行可能な命令を含んでよい。一部の実施形態では、コントローラは約10~20kW/mの間のスパッタ出力で第1の対電極材料を成膜し、20~45kW/mの間のスパッタ出力で第2の対電極材料を成膜する実行可能な命令を含んでよい。
【0027】
開示されている実施形態のこれらの及び他の特徴及び優位点は、関連付けられた図面を参照し、以下にさらに詳細に説明される。
【0028】
以下の発明を実施するための形態は、図面と併せて検討されるときにより完全に理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】特定の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの概略断面図である。
図2】特定の実施形態に従って対電極層が2つの副層を含むエレクトロクロミックデバイスの概略断面図である。
図3】特定の実施形態に従って対電極層が3つの副層を含むエレクトロクロミックデバイスの概略断面図である。
図4A】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4B】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4C】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4D】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4E】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4F】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4G】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4H】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図4I】多様な実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの1つまたは複数の層の組成を示すグラフである。
図5】特定の実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスの一部分であるエレクトロクロミック積層体を製造する方法を示す図である。
図6A】特定の実施形態に従って回転スパッタターゲットを示す図である。
図6B】特定の実施形態に従って基板に材料を成膜する2つの回転スパッタターゲットの上から見下ろす図である。
図7A】特定の実施形態に従って二次スパッタターゲットが、一次スパッタターゲットの上に材料を成膜するために使用され、該一次スパッタターゲットが次いで基板上に成膜する実施形態に関する図である。
図7B】特定の実施形態に従って二次スパッタターゲットが、一次スパッタターゲットの上に材料を成膜するために使用され、該一次スパッタターゲットが次いで基板上に成膜する実施形態に関する図である。
図7C】特定の実施形態に従って二次スパッタターゲットが、一次スパッタターゲットの上に材料を成膜するために使用され、該一次スパッタターゲットが次いで基板上に成膜する実施形態に関する図である。
図8】多様な光学的に切り替え可能な材料を成膜するためのヒステリシス曲線を示す図である。
図9A】統合成膜システムの多様な実施形態を示す図である。
図9B】統合成膜システムの多様な実施形態を示す図である。
図9C】統合成膜システムの多様な実施形態を示す図である。
図9D】統合成膜システムの多様な実施形態を示す図である。
図9E】統合成膜システムの多様な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<エレクトロクロミックデバイス>
一部の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイス100の概略断面図が図1に示される。エレクトロクロミックデバイスは、基板102、導電層(CL)104、(陰極色合い付与する層または陰極色合い付与層と呼ばれることもある)エレクトロクロミック層(EC)106、イオン伝導性層(IC)108、対電極層(CE)110、及び導電層(CL)114を含む。対電極層110は陽極着色する層/陽極色合い付与する層であってよく、エレクトロクロミックデバイスが色合い付与されていないときにイオンがそこに常駐するため、「イオン貯蔵層」と呼ばれることがある。対電極層は本明細書では陽極着色する対電極層/陽極色合い付与する対電極層、または陽極着色するエレクトロクロミック層/陽極色合い付与するエレクトロクロミック層と呼ばれることもある。対電極層110が「エレクトロクロミック」層として説明されるとき、対電極層は、陽極電位により駆動されるときにイオンがこの層の中から追い出されるのにつれて色合い付与し、代わりに陰極電位により駆動されるときにイオンが再インターカレーションされるにつれ澄む、及び実質的に透明になると理解される。要素104、106、108、110、及び114は、集合的にエレクトロクロミック積層体120と呼ばれる。エレクトロクロミック積層体120全体で電位を印加するよう作動する電源116は、例えば消色状態から色合い付与状態へのエレクトロクロミックデバイスの遷移を達成する。他の実施形態では、層の順序は基板に対して逆転する。すなわち、層は以下の順序、つまり、基板、導電層、対電極層、イオン伝導性層、エレクトロクロミック材料層、導電層となる。反射素子では、例えば金属層等、導電層は反射的であってよいが、導電層は概して透明導電層である。
【0031】
消色状態と色合い付与状態の間の遷移に対する参照は非制限的であり、多くの中でも、実装されてよいエレクトロクロミック遷移のただ1つの例だけを示唆することを理解されたい。本明細書に特別の定めのない限り、消色‐色合い付与の遷移に対する参照がなされるたびに、対応するデバイスまたはプロセスは、非反射‐反射、透明‐不透明等の他の光学状態の遷移を包含する。さらに、用語「消色」及び「色褪せた」は、例えば色合い付与されていない、透明な、または半透明な等の光学的に中性の状態を指す。なお、さらに、本明細書に特別の定めのない限り、エレクトロクロミック遷移の「色」または「色合い」は任意の特定の波長または波長の範囲に制限されない。当業者により理解されるように、適切なエレクトロクロミック材料及び対電極材料の選択が関連する光学遷移を決定する。本明細書の多様な実施形態では、対電極は、異質な組成物及び/または形態を含むように成膜される。例えば、一部の場合、対電極は2つ以上の副層を含んでよく、副層は異なる組成物及び/または形態を有する。これらの場合または他の場合では、対電極全体または対電極の副層は組成に勾配を含んでよい。図1は単純な層として対電極層110を示しているが、本明細書の多様な実施形態が均質ではない対電極を活用することを理解されたい。
【0032】
特定の実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは消色状態と色合い付与状態との間で可逆的に循環する。消色状態では、電位は、積層体内の使用可能なイオンがエレクトロクロミック材料106を色合い付与状態にさせ、主として対電極110に存在することができるようにエレクトロクロミック積層体120に印加される。エレクトロクロミック積層体上の電位が逆転すると、イオンは導電層108を横切ってエレクトロクロミック材料106に移送され、該材料を色合い付与状態にする。
【0033】
特定の実施形態では、エレクトロクロミック積層体120を構成する材料のすべては無機、固体(つまり固体状態にある)、または無機と固体の両方である。有機材料は経時的に劣化する傾向があるため、無機材料は長期間機能できる信頼できるエレクトロクロミック積層体の優位点を提供する。また、固体状態の材料は、液体状態の材料が多くの場合有するように、封じ込め及び漏れの問題を有さないという優位点を提供する。エレクトロクロミックデバイスの層のそれぞれは以下に詳細に説明される。積層体の層の任意の1つまたは複数はある程度の量の有機材料を含んでよいが、多くの実施態様では、層の1つまたは複数は有機物をほとんど含まない、もしくは含まないことを理解されたい。同じことは、少量で1つまたは複数の層内に存在することがある液体についても言うことができる。固体状態材料が、ゾルゲルまたは化学気相成長を利用する特定のプロセス等の、液体成分を利用するプロセスによって成膜され得る、または別様に形成され得ることも理解されたい。
【0034】
再び図1を参照すると、電源116は通常低圧電源であり、輻射センサ及び他の環境センサと連動して動作するように構成されてよい。また、電源116は、時節、時刻、及び測定された環境条件等の多様な要因に従ってエレクトロクロミックデバイスを制御するコンピュータシステム等のエネルギー制御システムとインタフェースをとるように構成されてもよい。係るエネルギー制御システムは、大面積エレクトロクロミックデバイス(つまり、エレクトロクロミック窓)と連動して、建物のエネルギー消費を劇的に低下させることができる。
【0035】
適切な光学特性、電気特性、熱的特性、及び機械特性を有する任意の材料は、基板102として使用されてよい。係る適切な基板は、例えばガラス材料、プラスチック材料、及び鏡材料を含む。適切なプラスチック基板は、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、SAN(スチレンアクリロニトリル共重合体)、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリエステル、ポリアミド等を含む。プラスチック基板が使用される場合、プラスチック基板は、プラスチック窓ガラス技術で周知であるように、例えばダイヤモンド状の防護コーティング、シリカ/シリコーン抗摩耗コーティング等のハードコートを使用し、障壁保護され、摩耗保護されてよい。適切なガラスは、透明または薄く色合い付与されたソーダ石灰ガラスのどちらかを含み、これは、ソーダ石灰フロートガラスを含む。ガラスは焼き戻しが施されていてもいなくてもよい。例えば基板102として使用されるソーダ石灰ガラス等のガラスを有するエレクトロクロミックデバイス100の一部の実施形態では、ナトリウムイオンのガラスから導電層104の中への拡散を防ぐために基板102と導電層104との間にナトリウム拡散障壁層(不図示)がある。また、基板は、例えばGorilla Glass、Willow Glass、及びニューヨーク、コーニングのCorning(登録商標) Incorporatedから市販されている類似した製品等のアルカリ(例えばナトリウム)を含まない融合ガラスを含んでもよい。係る非アルカリ基板が使用される場合には、例えば窓の色特性及び反射特性を最適化するために、光チューニング層が基板とエレクトロクロミックデバイスとの間に使用されてよいが、拡散障壁は必要ない。
【0036】
一部の実施形態では、基板102の光透過率(つまり、透過放射線またはスペクトル対入射放射線またはスペクトルの比率)は、約40~95%、例えば約90~92%である。基板はエレクトロクロミック積層体120を支持するために適切な機械特性を有する限り、基板は任意の厚さであってよい。基板102は任意のサイズであってよいが、一部の実施形態では、基板102は厚さ約0.01mmから10mmであり、一部の場合、厚さ約3mmから9mmである。
【0037】
一部の実施形態では、基板は建築用ガラスである。建築用ガラスは建築材料として使用されるガラスである。建築用ガラスは、通常商業ビルで使用されるが、住宅用建物で使用されてもよく、必ずしもではないが、通常、屋外環境から屋内環境を分離する。特定の実施形態では、建築用ガラスは少なくとも20インチ×20インチであり、はるかに大きく、例えば約72インチ×120インチほど大きいこともある。建築用ガラスは通常約少なくとも2mmの厚さである。厚さ約3.2mm未満である建築用ガラスは焼き戻しを施すことができない。基板として建築用ガラスを有する一部の実施形態では、基板は、エレクトロクロミック積層体が基板に製造された後にも焼き戻しされ得る。基板として建築用ガラスを有する一部の実施形態では、基板はスズフロートラインからのソーダ石灰ガラスである。
【0038】
基板102の上部には導電層104がある。特定の実施形態では、導電層104及び114の一方または両方は無機及び/または固体である。導電層104及び114は、導電性酸化物、薄い金属被膜、導電性金属窒化物、及び組合せ導体を含むいくつかの異なる材料から作られてよい。通常、導電層104及び114は少なくとも、エレクトロクロミズムがエレクトロクロミック層によって示される波長の範囲で透明である。透明な導電性酸化物は、金属酸化物及び1つまたは複数の金属でドープされた金属酸化物を含む。係る金属酸化物及びドープ金属酸化物の例は、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、ドープ酸化インジウム、酸化スズ、ドープ酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、ドープ酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ドープ酸化ルテニウム等を含む。
【0039】
酸化物は多くの場合これらの層に使用されるので、酸化物は「透明導電性酸化物(TCO)」層と呼ばれることがある。導電層の機能は、電源116によって提供される電位を、エレクトロクロミック積層体120の表面上で積層体の内部領域にほとんどオーム電位を降下させることなく拡散させることである。TCO層に関係する追加の詳細及び例は、その全体として参照により本明細書に援用される、2009年12月22日に出願され、「FABRICATION OF LOW DEFECTIVITY ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第12/645,111号に提供される。
【0040】
導電層104の上に積層されているのは、(エレクトロクロミック層106とも呼ばれる)陰極着色する層106である。特定の実施形態では、エレクトロクロミック層106は無機及び/または固体であり、典型的な実施形態では、無機かつ固体である。エレクトロクロミック層は、金属酸化物を含むいくつかの異なる陰極着色するエレクトロクロミック材料の任意の1つまたは複数を含んでよい。係る金属酸化物は、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化バナジウム(V)、酸化タンタル(Ta)等を含む。一部の実施形態では、金属酸化物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、モリブデン、バナジウム、チタン、及び/または他の適切な金属もしくは金属を含有する化合物等の1つまたは複数のドーパントでドープされる。混合酸化物(例えば、W‐Mo酸化物、W‐V酸化物)も特定の実施形態で使用される。金属酸化物を含む陰極着色するエレクトロクロミック層106は陽極着色する対電極層110から伝達されるイオンを受け取ることができる。陰極着色するエレクトロクロミック層に関係する追加の詳細は、上記に参照により援用される、米国特許出願第12,645,111号に提供される。
【0041】
概して、陰極着色するエレクトロクロミック材料では、エレクトロクロミック材料のカラー化/着色(つまり任意の光学特性、例えば、吸光度、反射率、及び透過率の変化)は、材料の中への可逆的にイオンが入り込むこと(例えば、インターカレーション)、及び電荷平衡化(charge balancing)電子の対応する注入により引き起こされる。通常、光学遷移の原因となる若干のイオンがエレクトロクロミック材料に不可逆的に結合される。以下に説明されるように、不可逆的に結合されたイオンの一部または全ては材料の「隠れ電荷(blind charge)」を補償するために使用される。大部分のエレクトロクロミック材料において、好適なイオンとしてはリチウムイオン(Li)及び水素イオン(H)(すなわち、陽子)を含む。しかし、一部の場合では、他のイオンが適切となる。そのようなイオンは、例えば重水素イオン(D)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca++)、バリウムイオン(Ba++)、ストロンチウムイオン(Sr++)、及びマグネシウムイオン(Mg++)を含む。本明細書に説明される多様な実施形態では、エレクトロクロミック現象を生じさせるために、リチウムイオンが使用される。リチウムイオンの酸化タングステンへのインターカレーション(WO3-y(0<y≦約0.3))は、酸化タングステンを透明(消色状態)から青(色合い付与状態)に変化させる。
【0042】
再び図1を参照すると、エレクトロクロミック積層体120で、イオン伝導性層108がエレクトロクロミック層106を積層する。特定の実施形態では、このイオン伝導性層108は積層体での層の成膜中に省略され、陰極着色するエレクトロクロミック層106は陽極着色する対電極層110と直接的に物理的に接触して成膜される。陰極着色するエレクトロクロミック層106が陽極着色する対電極層110と接する界面領域は、特定の処理ステップの結果として形を成し、それにより界面領域が完成したデバイスでイオン伝導性層としての機能を果たすことを可能にする。
【0043】
イオン伝導性層108は、エレクトロクロミックデバイスが消色状態と色合い付与状態との間で変化するとき(電解質のように)イオンがそれを通して移送される媒体として働く。多様な場合では、イオン伝導性層108は、エレクトロクロミック層及び対電極層に関連するイオンに対して高い導電性を有するが、通常の動作中に起こる電子移動がほとんど無視できる程度の十分に低い電子伝導性を有する。高いイオン伝導率を有する(イオン伝導体層とも呼ばれることがある)薄いイオン伝導性層は高速イオン伝導できるので、高性能エレクトロクロミックデバイスのための高速切替えが可能となる。特定の実施形態では、イオン伝導性層108は無機及び/または固体である。イオン伝導体層は、材料から、及び相対的にほとんど欠陥を生じさせない方法で製造される場合、高性能デバイスを作り出すために非常に薄くすることができる。多様な実施態様では、イオン伝導体材料は、約10シーメンス/cmまたはオーム‐1cm-1と約10シーメンス/cmまたはオーム‐1cm-1の間のイオン伝導率及び約1011オーム‐cmの電子抵抗を有する。
【0044】
他の実施形態では、イオン伝導体層は省略されてよい。係る実施形態では、エレクトロクロミックデバイスのためにエレクトロクロミック積層体を形成するとき、別個のイオン伝導体材料は成膜されない。代わりに、これらの実施形態では、陰極着色するエレクトロクロミック材料が、陽極着色する対電極材料と直接的に物理的に接触して成膜されてよい。陽極着色する材料及び陰極着色する材料の一方または両方は、材料の残りの部分と比較して酸素が豊富である部分を含むように成膜されてよい。
【0045】
通常、酸素を豊富に含む部分は他のタイプの層と接触している。例えば、エレクトロクロミック積層体は、陰極着色する材料と接触する陽極着色する材料を含んでよく、陰極着色する材料は、陽極着色する材料と直接的に物理的に接触する、酸素を豊富に含む部分を含む。別の例では、エレクトロクロミック積層体は、陰極着色する材料と接触する陽極着色する材料を含み、陽極着色する材料は、陰極着色する材料と直接的に物理的に接触する、酸素を豊富に含む部分を含む。追加の例では、陽極着色する材料と陰極着色する材料の両方とも酸素を豊富に含む部分を含み、陰極着色する材料の酸素を豊富に含む部分は、陽極着色する材料の酸素を豊富に含む部分と直接的に物理的に接触している。
【0046】
これらの層の酸素を豊富に含む部分は、別々の副層(例えば、陰極着色する材料または陽極着色する材料は、酸素を豊富に含む副層及び酸素をあまり豊富に含まない副層を含む)として設けられてよい。また、層の酸素を豊富に含む部分は、傾斜層に設けられてもよい(例えば、陰極着色または陽極着色する材料は、酸素濃度の勾配を含んでよく、勾配は層の表面に垂直な方向にある)。イオン伝導体層が省略され、陽極着色する対電極材料が陰極着色するエレクトロクロミック材料と直接的に接触する実施形態は、それぞれがその全体として参照により本明細書に援用される以下の米国特許、つまり米国特許第8,300,298号、及び米国特許第8,764,950号にさらに説明される。
【0047】
イオン伝導性層108(存在する場合)の上部に(対電極層110とも呼ばれる)陽極着色する層110がある。ここで多様な実施形態では、対電極層は異質構造を含むように成膜される。該構造は組成及び/または形態に関して異質であることがある。開示されている対電極構造及び組成物の追加の詳細は以下に示される。一部の実施形態では、対電極層110は無機及び/または固体である。対電極層は、エレクトロクロミックデバイスが消色状態にあるときにイオン溜としての機能を果たすことができるいくつかの異なる材料の1つまたは複数を含んでよい。例えば適切な電位の印加によって開始されるエレクトロクロミック遷移の間、陽極着色する対電極層は、それが保持するイオンのいくらかまたは全てを陰極着色するエレクトロクロミック層に移し、エレクトロクロミック層を色合い付与状態に変化させる。同時に、対電極層はイオンの喪失により色合い付与する。
【0048】
多様な実施形態では、1つまたは複数の欠陥軽減絶縁層(DMIL)が設けられてよい。係るDMILは、図1に説明される層の間に、または係る層の中に設けられてよい。一部の特定の実施形態では、DMILは対電極層の副層間に設けられてよいが、DMILは代替の場所または追加の場所に設けることもできる。DMILは欠陥のあるデバイスを製造するリスクを最小限に抑えるのに役立つことがある。特定の実施形態では、絶縁層は約1と5×1010オーム‐cmの間の電子抵抗を有する。特定の実施形態では、絶縁層は以下の金属酸化物、つまり酸化セリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化シリコンアルミニウム、酸化タングステン、酸化ニッケルタングステン、酸化タンタル、及び酸化インジウムスズ酸化物の1つまたは複数を含む。特定の実施形態では、絶縁層は、例えば示されている酸化物の窒化物、炭化物、酸窒化物、またはオキシカーバイド(oxycarabide)の類似物等の窒化物、炭化物、酸窒化物、またはオキシカーバイドを含む。例として、絶縁層は以下の金属窒化物、つまり窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及び窒化タングステンの1つまたは複数を含む。また、絶縁層は、酸化物材料及び窒化物材料の混合物または他の組合せを含んでもよい(例えば、酸窒化ケイ素)。DMILは、上記に参照により援用される米国特許第9,007,674号にさらに説明される。
【0049】
また、本明細書の実施形態のエレクトロクロミックデバイスは、建築用ガラスよりも小さいまたは大きい基板に拡大縮小可能である。エレクトロクロミック積層体は、最高で約12インチ×12インチまたは80インチ×120インチまでもの幅広い範囲のサイズである基板上に成膜できる。
【0050】
一部の実施形態では、エレクトロクロミックガラスは複層ガラス(Insulating Glass Unit(IGU))の中に統合される。複層ガラスは、概してユニットによって形成される空間に入れられた気体の断熱性を最大化し、同時にユニットを通る明瞭な視界を提供する意図をもって、1つのユニットに組み付けられた複数のガラス板から成り立つ。エレクトロクロミックガラスを組み込む複層ガラスは、電源にエレクトロクロミックガラスを接続するための導線を除き、技術で現在既知の複層ガラスに類似している。エレクトロクロミック型の複層ガラスは、より高い温度になり得るので(エレクトロクロミックガラスによる放射エネルギーを吸収するため)、従来の複層ガラスで使用される封止剤よりも堅牢な封止剤が必要なことがある。例えば、ステンレス鋼のスペーサバー、高温ポリイソブチレン(PIB)、新しい二次封止剤、スペーサバーの継ぎ目用の箔がコーティングされたPIBテープ等がある。特定の場合では、エレクトロクロミックガラスは積層板の中に組み込まれてよく、積層板は独立した構造体であってよい、またはIGUの窓ガラスの内の1つとしてIGUに組み込まれてよい。
【0051】
<対電極層>
本明細書のいくつかの実施形態では、陽極着色する対電極層は組成または形態等の物理的特徴において異質である。係る異質対電極層は改善された色、切替え動作、耐用期間、均一性、プロセスウィンドウ等を示すことがある。
【0052】
特定の実施形態では、対電極層は2つ以上の副層を含み、副層は異なる組成物及び/または形態を有する。また、係る副層の1つまたは複数は傾斜組成物を有してもよい。組成勾配及び/または形態勾配は、線形遷移、S状遷移、ガウス遷移等を含む任意の形の遷移を有してよい。2つ以上の副層として対電極を提供することによっていくつかの利点を実現できる。例えば、副層は相補的性質を有する異なる材料であってよい。ある材料はよりよい色品質を促進し、一方、別の材料は高品質で長い耐用期間の切替え動作を促進する。材料の組合せは高度の膜品質及び均一性を促進し、同時に高速度の成膜(したがってスループット)を達成し得る。また、本明細書に概略される手法のいくつかは、エレクトロクロミックデバイス全体でのリチウム分布のより優れた制御を促進してよく、一部の場合では、対電極の形態の改善(例えばより高い透過率)及びエレクトロクロミックデバイスでの欠陥の全体的な削減につながることがある。本明細書の多様な実施形態から生じることがある別の利点は、1つまたは複数の中間状態で使用できることである。多様な副層間の電位の差はリチウムが別々の場所(例えば、特定の程度まで特定の副層の中)に存在できるようにし、それによってエレクトロクロミックデバイスが、例えば完全に着色したデバイスと完全に消色したデバイスとの間で中間色合い付与状態を達成できるようにする。一部の場合では、中間状態は、デバイスに異なる電圧を印加することによって達成できる。対電極層の中に複数の副層を包含することは、異なる電圧を印加して異なる中間色合い付与状態を達成する必要性を削減または排除し得る。開示されている実施形態のこれらの利点及び他の利点を以下にさらに説明する。
【0053】
一部の場合では、対電極は第1の陽極着色する電極材料の第1の副層、及び第2の陽極着色する対電極材料の1つまたは複数の追加の副層を含む。多様な場合では、CE層の第1の副層は陰極着色するエレクトロクロミック材料に、CE層の第2の(及び任意選択で追加の)副層(複数可)よりも近くに位置してよい。一部の実施態様では、第1の副層は、通常、約100nmを超えず、多様な場合では約80nmを超えない厚さを有する薄く、多くの場合迅速に成膜された層として概して特徴付けされるフラッシュ層である。フラッシュ層は、厚さ約5nmと厚さ約100nmの間、厚さ約10nmと厚さ約80nmの間、または厚さ約10nmと約50nmの間、または厚さ約10nmと厚さ約30nmとの間であってよい。一部の他の場合では、(陽極着色する対電極材料であってよい)別個のフラッシュ層が、エレクトロクロミック層と対電極の第1の副層との間に設けられてよい。一部の実施形態では、フラッシュ層は第2の副層と透明導体層との間に設けられてよい。フラッシュ層は、存在する場合、エレクトロクロミック特性を示すこともあれば、示さないこともある。特定の実施形態では、フラッシュ層は、(この層は陽極着色する層等の他の層に非常に類似する組成物を有してよいが)残りのエレクトロクロミック層/対電極層とともに変色しない対電極材料から作られる。一部の実施形態では、第1の副層は、フラッシュ層であるのか、それともフラッシュ層よりも厚いのかに関わりなく、例えば約1と5×1010オーム‐cmの間等、相対的に高い電子抵抗を有する。
【0054】
一般的に言えば、第1の陽極着色する対電極材料及び第2の陽極着色する対電極材料は、それぞれ無関係に任意の陽極着色する対電極材料であってよい。第1の対電極材料及び/または第2の対電極材料は、二成分金属酸化物(例えば、リチウムまたは他の移送されたイオンに加えて2つの金属を含む酸化物で、NiWOが一例である)、三元金属酸化物(例えば、3つの金属を含む酸化物であり、NiWTaOが一例である)、またはなおさらに複雑な材料であってよい。多くの場合、材料は、ある程度までデバイス内で可動であることがあるリチウムも含む。陽極着色する対電極材料は以下に示される。本明細書に使用されるように、用語金属は金属及び半金属(例えば、B、Si、Ge、As、Sb、Te、及びPo)を含むことが意図される。
【0055】
一部の実施形態では、第1の陽極着色する材料は、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、バナジウム(V)、及びイリジウム(Ir)から成るグループから選択される少なくとも1つの遷移金属を含んでよい。第1の陽極着色する材料は、まさに示した遷移金属の1つまたは複数に加えて、少なくとも1つまたは複数の追加の金属(多くの場合、少なくとも1つの非アルカリ金属)を含んでよい。追加の金属は、一部の実施形態では、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)、金(Au)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ユーロピウム(Eu)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ガドリニウム(Gd)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、水銀(Hg)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、オスミウム(Os)、プロトアクチニウム(Pa)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、ポロニウム(Po)、白金(Pt)、ラジウム(Ra)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アンチモン(Sb)、スカンジウム(Sc)、セレン(Se)、ケイ素(Si)、サマリウム(Sm)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、テクネチウム(Tc)、テルル(Te)、トリウム(Th)、チタン(Ti)、タリウム(Tl)、ウラン(U)、バナジウム(V)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及びその組合せから成るグループから選択されてよい。
【0056】
これらの実施形態または他の実施形態では、第2の陽極着色する材料は、1つまたは複数の追加の元素でドーピングされる、またはそれ以外の場合、1つまたは複数の追加の元素と結合される第1の陽極着色する材料であってよい。追加の元素(複数可)は、多様な場合、少なくとも1つの非アルカリ金属を含んでよい。一部の実施形態では、1つまたは複数の追加の元素は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)、金(Au)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ユーロピウム(Eu)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ガドリニウム(Gd)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、水銀(Hg)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、オスミウム(Os)、プロトアクチニウム(Pa)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、ポロニウム(Po)、白金(Pt)、ラジウム(Ra)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アンチモン(Sb)、スカンジウム(Sc)、セレン(Se)、ケイ素(Si)、サマリウム(Sm)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、テクネチウム(Tc)、テルル(Te)、トリウム(Th)、チタン(Ti)、タリウム(Tl)、ウラン(U)、バナジウム(V)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及びその組合せから成るグループから選択される。特定の実施形態では、追加の元素(複数可)は、タンタル、スズ、ニオブ、ジルコニウム、ケイ素、アルミニウム、及びその組合せから成るグループから選択される少なくとも1つの元素を含んでよい。第2の陽極着色する材料の追加の元素はドーパントであってよいが、これは必ずしもそうではない。一部の組成物では、追加の元素は材料の他の元素とともに化合物または塩を形成する。
【0057】
特定の例では、第1の陽極着色する材料はNiWOである。これらの例または他の例では、第2の陽極着色する材料は、追加の金属(例えば、非アルカリ金属、遷移金属、後遷移金属、または特定の場合は半金属)でドープされる、またはそれ以外の場合追加の金属を含むNiWOであってよく、追加の金属は上記に示されるリストから選択され、1つの例の材料はNiWTaOである。第1の陽極着色する材料がNiWOである、第2の陽極着色する材料の他の例は、NiWSnO、NiWNbO、NiWZrO、NiWAlO、及びNiWSiOを含むが、これに限定されるものではない。一部の類似した実施形態では、第1の陽極着色する材料はNiWOであってよく、第2の陽極着色する材料は、追加の金属(例えば、非アルカリ金属、遷移金属、後遷移金属、または特定の場合は半金属)でドープされる、またはそれ以外の場合追加の金属を含む酸化ニッケルであってよく、追加の金属は上記に示されるリストから選択される。第2の陽極着色する材料のための例の材料は、NiTaO、NiSnO、NiNbO、NiZrO、NiAlO、NiSiO、及びその組合せを含むが、これに限定されるものではない。一例では、第2の陽極着色する材料は、NiTaO、NiSnO、NiNbO、NiAlO、NiSiO、及びその組合せから成るグループから選択されてよい。別の例では、第2の陽極着色する材料は、NiAlO及びNiSiOから成るグループから選択されてよい。
【0058】
一部の実施形態では、第1の陽極着色する材料及び第2の陽極着色する材料は同じ元素を含有するが、異なる割合で含有する。例えば、両方の材料がNi、W、及びTaを含有してよいが、元素の2つまたは3つは異なる質量比または原子比率で存在してよい。以下の例はさらにこのオプションを示す。
【0059】
一部の他の実施形態では、第1の副層及び第2の副層は、互いに組成的により著しく異なることがある。例えば、第1の副層及び第2の副層(及び任意の追加の副層)は、他の副層の組成とは関わりなく、それぞれ任意の陽極着色する材料であってよい。留意されるように、陽極着色する材料の追加の例は以下に示される。
【0060】
2つ以上の副層は異なる物理的特性を有してよい。多様な場合では、副層の1つまたは複数で使用される材料は、付随する副層(複数可)なしで提供される場合、対電極材料として十分に機能しない(例えば、劣った色品質、劣った耐用期間性能、遅い切替え速度、遅い成膜速度等を示す)材料である。
【0061】
図2は、一実施形態に係る、成膜されるエレクトロクロミック積層体の断面図を提供する。積層体は透明な導電性酸化物層204及び214を含む。透明な導電性酸化物層204と接触しているのは、陰極着色するエレクトロクロミック層206である。透明な導電性酸化物層214と接触しているのは、2つの副層210a及び210bを含む陽極着色する対電極層210である。対電極の第1の副層210aは、エレクトロクロミック層206と接触し、第2の副層210bは、透明な導電性酸化物層214と接触している。本実施形態では、(イオン伝導体層としての機能を果たす界面領域は、本明細書により詳細に説明されるように、この構造体から原位置で形成されてよいが)別個のイオン伝導体層は成膜されていない。
【0062】
陽極着色する対電極層210の第1の副層及び第2の副層210a、及び210Bは異なる組成物及び/または形態を有してよい。多様な例では、第2の副層210bは、第1の副層210aに存在しない少なくとも1つの金属及び/または金属酸化物を含む。特定の例では、第1の副層210aはNiWOであり、第2の副層210bは別の金属(例えば、NiWTaO、NiWSnO、NiWNbO、NiWZrO、NiWAlO、NiWSiO等)でドープされる、またはそれ以外の場合別の金属と結合されるNiWOである。別の例では、第1の副層210aはNiWOであり、第2の副層210bは、別の金属(例えば、NiTaO、NiSnO、NiNbO、NiZrO、NiAlO、NiSiO等)でドープされる、またはそれ以外の場合別の金属と結合される酸化ニッケル(NiO)である。別の実施形態では、第1の副層及び第2の副層210a及び210bは、異なる相対濃度で同じ元素を含む。
【0063】
一部の実施形態では、第1の副層210aはフラッシュ層である。フラッシュ層は、通常薄い層である(したがって、必ずしもそうではないが、薄い層は相対的に迅速に成膜される)。一部の実施形態では、陽極着色する対電極の第1の副層は、厚さ約5nmと厚さ約100nmの間、厚さ約10nmと厚さ約80nmの間、厚さ約10nmと厚さ約50nmの間、または厚さ約10nmと厚さ約30nmの間であるフラッシュ層である。
【0064】
フラッシュ層(またはフラッシュ層として成膜されない他の対電極副層)の厚さは、多様な副層のために選ばれる材料に依存してよい。各副層の最大厚さに影響を及ぼすことがある1つの考慮事項は、残りの副層の色品質と比較される各副層の色品質である。いくつかの場合、残りの副層は、第1の副層/フラシュ層と比較して優れた色性能(例えば、より黄色ではない透明な状態)を有する。特定の例では、NiWTaO副層は、(フラッシュ層として成膜されることのある)NiWO副層と比較すると優れた色性能を有する。したがって、例えばNiWOの薄いフラッシュ層はより厚いNiWO層よりも黄色ではない色を有する等、NiWO副層はデバイスで所望される全体的な色性能を達成するために相対的に薄いことが望ましい。
【0065】
各副層の厚さに関係する1つの矛盾する懸念は、副層の材料の相対的な成膜速度である。いくつかの実施形態では、第1の副層/フラッシュ層は、残りの副層の材料よりも高い成膜速度で成膜する材料であってよい。同様に、第1の副層/フラッシュ層は残りの副層よりも低い出力で成膜されてよい。これらの要因は、相対的に厚い第1の副層を使用し、それによってより高いスループットを達成する、及び/または使用される電力量を削減することを有利にする。適切な副層の厚さを選択して、これらの懸念は上述した懸念とバランスをとられる。
【0066】
残りの副層(複数可)は多くの実施形態では第1の副層210aよりも厚いことがある。対電極層210が210a及び210b等の2つの副層を含む特定の実施形態では、第2の副層210bは、厚さ約20nmと厚さ約300nmの間、例えば厚さ約150nmと約250nmとの間、または厚さ約125nmと200nmの間であってよい。
【0067】
特定の実施形態では、第2の副層210bは組成に関して均質である。図4Aは、第1の副層がNiM1Oであり、第2の副層が組成的に均質なNiM1M2Oである特定の実施形態で、図2の第1の副層及び第2の副層210a及び210bに存在する多様な元素の濃度を示すグラフを示す。第1の副層210aはCE1と名前を付けられ、第2の副層210bはCE2と名前を付けられる。この例では、第1の副層は、約25%のニッケル、約8%のM1、及び約66%の酸素である組成物を有し、第2の副層は、約21%のニッケル、約3%のM1、約68%の酸素、及び約8%のM2である組成物を有する。M2は多様な実施形態において、金属であってよい。
【0068】
他の実施形態では、第2の副層210bは傾斜組成物を含んでよい。組成物は、その中の金属の相対濃度に対して等級付けされてよい。例えば、一部の場合、第2の副層210bは、第1の副層には存在しない金属に対して傾斜組成物を有する。1つの特定の例では、第1の副層はNiWOであり、第2の副層はNiWTaOであり、タンタルの濃度は第2の副層を通して等級付けされている。(タンタルを除く)残りの元素の相対濃度は第2の副層を通して均一であってよく、または残りの元素の相対濃度はこの副層を通して変化してもよい。特定の例では、酸素の濃度は第2の副層210bの中でも(及び/または第1の副層210aの中でも)等級付けされてよい。
【0069】
図4Bは、第1の副層がNiM1Oであり、第2の副層がNiM1M2Oの傾斜層である特定の実施形態で、図2の第1の副層及び第2の副層210a及び210bに存在するM2の濃度を示すグラフを提示する。図4Aと同様に、第1の副層210aはCE1と名前が付けられ、第2の副層はCE2と名前が付けられる。この例では、M2の濃度は第2の副層の厚さにわたって、EC層から最も遠い第2の副層の面で約15%(原子)の値まで上昇する。一実施形態では、他の元素は、変化するM2濃度に対応するために必要に応じて調整される、図4Aまたは図4Dに関して説明された組成物を実質的に反映するが、他の元素は図から省略されている。特定の実施形態では、M2の濃度は第2の副層の厚さにわたって減少する。つまり、M2の濃度はEC層に最も近い第2の副層の面で最高であり、そして減少し、EC層から最も遠い第2の副層の面で最小濃度に到達する。さらに別の実施形態では、M2の濃度は第2の副層の厚さにわたって中間領域で最高である。つまり、M2の濃度は、例えば第2の副層の中心で最高であり、第2の副層を横切って第2の副層の両面に向かって減少する。本実施形態では、第2の副層の面でのM2の濃度は必ずしも同じではない。
【0070】
特定の実施形態では、第1の副層及び第2の副層は、互いとはより異なる組成物を有することがある。図4Cは、第1の副層がNiM1Oであり、第2の副層がNiM2Oである実施形態で、図2の第1の副層及び第2の副層210a及び210bに存在する多様な元素の濃度を示すグラフを提示する。特定の場合では、他の金属及び材料も使用されてよいが、M1はタングステンであり、M2はバナジウムである。図4Cは対電極層の両方の副層を通して一定のままである酸素及びニッケルの濃度を示すが、これは必ずしもそうではない。図4A図4Cに関して説明された特定の組成は例として提供されるにすぎず、制限的となることを意図していない。異なる材料及び濃度/組成物も使用されてよい。
【0071】
図3は、図2に示されるエレクトロクロミック積層体に類似するエレクトロクロミック積層体の追加の例を示す。図3の積層体は、透明な導電性酸化物層304及び314、陰極着色するエレクトロクロミック層306、及び陽極着色する対電極層311を含む。ここで、対電極層311は3つの副層311a~311cから作られる。第1の副層311aは、図2の第1の副層210aに関して上述したようにフラッシュ層であってよい。副層311a~311cのそれぞれは異なる組成を有してよい。第2の副層及び第3の副層311b及び311cは、一部の実施形態では、異なる相対濃度で同じ元素を含んでよい。別の実施形態では、副層311a~311cのすべてが異なる相対濃度で同じ元素を含む。エレクトロクロミック層306と対電極層311の間にはIC層(図3では不図示)があることがある。
【0072】
一例では、第1の副層311aは第1の陽極着色する対電極材料であり、第2の副層及び第3の副層311b及び311cは(それぞれ異なる組成物で成膜される)第2の陽極着色する対電極材料である。第2の副層及び第3の副層311b及び311cの組成は各副層の中で均質であってよい。
【0073】
図4Dは、図3の第1の副層、第2の副層、及び第3の副層311a~311cに存在するM2の濃度を示すグラフを提示する。ここで、第1の副層はNiM1Oであり、第2の副層及び第3の副層は均質なNiM1M2Oの異なる組成物である。第1の副層はCE1と名前が付けられ、第2の副層はCE2と名前が付けられ、第3の副層はCE3と名前が付けられる。他の元素(M1、Ni、及びO)は図4Dから省略される。一実施形態では、これらの要素は、変化するM2濃度のために必要に応じて調整される、図4Aまたは図4Cに関して説明された組成物を実質的に反映する。関係する実施形態では、M2の濃度は第2の副層においてより第3の副層においてより低くてよい。
【0074】
他の場合では、第2の副層及び第3の副層311b及び311cの1つまたは複数の中の組成は、例えば金属(一部の場合、第1の副層311aに存在しない金属)の濃度に関して等級を付けられてよい。図4Eは、図3の第1の副層、第2の副層、及び第3の副層311a~311cに存在するM2の濃度を示すグラフを提示する。ここで、第1の副層(CE1)はNiM1Oであり、第2の副層(CE2)はM2の傾斜組成物質を有するNiM1M2Oであり、第3の副層(CE3)は組成的に均質なNiM1M2Oである。他の元素(M1、Ni、及びO)は図4Eから省略される。一実施形態では、これらの元素は、変化するM2濃度に対応するために必要に応じて調整される、図4Aまたは図4Cに関して説明された組成物を実質的に反映する。関係する実施形態では、組成物は反対方向で等級を付けられてよい。例えば、M2の濃度は(CE1からCE3に移動するときに)増加する代わりに第2の副層を通して減少することがある。
【0075】
上述したように、一部の実施態様では、第2の陽極着色する対電極材料は追加の金属を有する第1の対電極材料であってよい。特定の実施形態では、この追加の金属の濃度は第2の副層311bにおいてより低く、第3の副層311cにおいてより高い。特定の例では、第1の副層311aはNiWOであり、第2の副層311bはNiWTaOであり、第3の副層311cはNiWTaOであり、タンタルの濃度は第2の副層311bにおいてより第3の副層311cにおいてより高い。類似する例では、第1の副層311aはNiWOであり、第2の副層及び第3の副層311b及び311cはNiWSnOであり、スズの濃度は第2の副層311bにおいてより第3の副層311cにおいてより高い。多数の陽極着色する材料及び材料の組合せを使用できる。異なる実施形態では、追加の金属の濃度は第3の副層よりも第2の副層においてより高い。これらの傾向(追加の金属の増加または減少する濃度)は、任意の数の副層について続いてよい。
【0076】
図2に関して、別の例では、第1の副層210aはNiWOであり、第2の副層210bはNiAlOまたはNiWAlOである。別の例では、第1の副層210aはNiWOであり、第2の副層210bはNiSiOまたはNiWSiOである。図3に関して、一例では、第1の副層311aはNiWOであり、第2の副層311bはNiAlOであり、第3の副層311cはNiAlOであり、アルミニウムの濃度は第2の副層311bにおいてより第3の副層311cでより高い(またはより低い)。別の例では、第1の副層311aはNiWOであり、第2の副層311bはNiSiOであり、第3の副層311cはNiSiOであり、ケイ素の濃度は第2の副層311bにおいてよりも第3の副層311cにおいてより高い(またはより低い)。上述したように、追加の(または異なった)金属(例えば、これらの例ではアルミニウムまたはケイ素)の濃度の傾向は、任意の数の副層について続いてよい。
【0077】
一部の場合、第3の副層311cの追加の金属の濃度(原子%)は、第2の副層311bの追加の金属の濃度の少なくとも1.2倍である。例えば、第3の副層311cの追加の金属の濃度は、第2の副層311bの追加の金属の濃度の少なくとも約1.5倍、または少なくとも約2倍、または少なくとも約2.5倍であってよい。一部の実施形態では、第1の副層311aに存在しない複数の追加の金属は、第2の副層及び/または第3の副層311b/311cで提供されてよい。一部の特定の実施形態では、第3の副層311cは、第1の副層または第2の副層311a及び311bのどちらかに存在しない別の追加の金属(例えば、金属または別の元素)を含んでよい。
【0078】
上記に提供される例をさらに説明すると、一実施形態では、第1の副層311aは(任意の適正組成の)NiWOであってよく、第2の副層311bは(約7%(原子)のタンタル、ならびにニッケル、タングステン、及び酸素の任意の相対適正組成を含む組成物を有する)NiWTaOであってよく、第3の副層311cは(約14%(原子)のタンタル、ならびにニッケル、タングステン、及び酸素の任意の相対適正組成を有する)NiWTaOであってよい。この例は(M1がタングステンであり、M2がタンタルである)図4Dに示される。同様の例で、タンタル及び/またはタングステンは異なる金属に交換されてよい。
【0079】
上述したように、いくつかの異なる材料が第1の副層のために提供されてよい。多様な実施形態では、第1の副層はNiM1Oである。第1の副層がNiM1Oである場合、NiM1Oは任意の適正組成で提供されてよい。特定の実施態様では、NiM1O副層はNiM1の組成物を有し、0.2<x<0.3、0.02<y<0.1、及び0.5<z<0.75である。いくつかの実施態様では、実施形態はそのように制限されていないが、M1はタングステン(W)である。M1がタングステンであり、第1の副層がNiWOである場合、NIWOはNiの組成物を有してよく、0.2<x<0.3、0.05<y<0.1、及び0.6<z<0.7である。
【0080】
同様に、いくつかの異なる材料が、第2の(及び任意選択で追加の)副層のために提供されてよい。上述したように、これらの副層は多くの場合、追加の金属(M2)及び/または金属酸化物を有する第1の副層の材料を含む。第1の副層がNiM1Oを含み、第2の副層/追加の副層はNiM1M2Oを含む場合、第2の副層/追加の副層はNiM1M2の組成物を有してよく、0.2<a<0.3、0.05<b<0.1、0.01<c<0.1、及び0.5<d<0.75である。いくつかの実施形態では、下付き文字cはエレクトロクロミック層により近く配置された副層においてはより低く、エレクトロクロミック層よりも遠く配置された副層においてはより高い。
【0081】
副層の厚さは、概してCE層の全体的な所望される厚さ及び使用される副層の数により決定される。CE層全体の所望される厚さは、CE層の所望される電荷容量によって少なくとも部分的に決定され、例の厚さは以下に提供される。対電極層が図3に示されるように3つの副層として提供される場合、第1の副層311aは上述したように相対的に薄いフラッシュ層であってよい。第2の副層及び第3の副層311bもしくは311cは任意の相対的な厚さを有してよい。例えば、第2の副層311bはより薄い、より厚い、または第3の副層311cとほぼ等しく厚いことがある。
【0082】
一部の実施形態では、追加の副層が提供されてよい。追加の副層は組成に関して均質であってよい、または追加の副層は上述したように等級付けられてよい。また、図2及び図3の第1の副層、第2の副層、及び第3の副層に関して説明される傾向は、係る追加の副層が設けられる多様な実施形態の追加の副層全体に当てはまることもある。一例では、対電極は4つの副層を含むように成膜され、(エレクトロクロミック層に最も近く配置される)第1の副膜は第1の材料(例えばNiM1O)を含み、第2の副層、第3の副層、及び第4の副層は、第1の副層に存在しない追加の元素(例えば金属)を含む第2の材料(例えばNiM1M2O)を含む。この追加の元素の濃度は、エレクトロクロミック層から遠く離れている副層ではより高く、エレクトロクロミック層により近い副層ではより低くなってよい。1つの特定の例として、(エレクトロクロミック層に最も近い)第1の副層はNiWOであり、第2の副層は3%(原子)のTaを有するNiWTaOであり、第3の副層は7%(原子)のTaを有するNiWTaOであり、(エレクトロクロミック層から最も遠い)第4の副層は10%(原子)のTaを有するNiWTaOである。
【0083】
さらに別の実施形態では、対電極は単一の層として提供されてよいが、対電極層の組成は等級付けされてよい。組成は、材料に存在する1つまたは複数の元素に関して等級付けされてよい。一部の実施形態では、対電極は材料の1つまたは複数の金属に対して傾斜組成物を有する。これらの実施形態または他の実施形態では、対電極は、1つまたは複数の非金属、例えば酸素に対して傾斜組成物を有してよい。図4Fは、対電極が傾斜組成物を有する単一層として提供される対電極層に存在するM2の濃度を示すグラフを提示する。この例では、組成はその中の金属(M2)に対して等級付けされる。他の元素(Ni、M1、O)は図4Fから省略されている。一実施形態では、これらの元素は、変化するM2組成に対応するために必要に応じて調整される、図4Aまたは図4Cに関して説明された組成物を実質的に反映する。
【0084】
いかなる理論または作用メカニズムに拘束されることを望むものではないが、開示されている第1の副層は、対電極層の成膜中の過剰な加熱または他の厳しい状況から生じる損傷からイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層を保護するのに役立つと考えられる。第1の副層は、残りの副層を成膜するために使用される条件よりも穏和である条件下で成膜されてよい。例えば、一部の実施形態では、第1の副層は約5~20kW/mのスパッタ出力で成膜されてよく、第2の副層は約20~45kW/mのスパッタ出力で成膜されてよい。第1の副層がNiWOであり、第2の副層がNiWTaOである1つの特定の例では、NiWTaOはNiWOよりも高いスパッタ出力を使用し成膜されてよい。この高出力プロセスは、イオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層に直接的に成膜するために実行される場合、一部の実施態様では、例えば関連する材料の過剰な加熱及び早期結晶化のため、及び/またはイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層での酸素の損失のためにイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層を劣化させる可能性がある。ただし、NiWOの薄いフラッシュ層が第1の副層として提供される場合、このNiWO層はより穏やかな条件下で成膜できる。NiWO副層は次いで以後のNiWTaO副層(複数可)の成膜中に下部のイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層を保護してよい。この保護は、より信頼性があり、よりうまく機能するエレクトロクロミックデバイスにつながることがある。
【0085】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは、陰極着色している酸化タングステンベースの電極層、及び陽極着色している酸化ニッケルベースの対電極層を含み、酸化ニッケルベースの対電極層は少なくとも1つの第1の副層及び少なくとも1つの第2の副層を含み、対電極の第1の副層及び第2の副層のそれぞれは化学式LiNiWを有し、aは1~10であり、xは0~1であり、yは0~1であり、zは少なくとも1であり、a、x、y、z、及びAは対電極層の第1の副層及び第2の副層のそれぞれに対して無関係に選択される。
【0086】
特定の実施形態では、yは対電極層の第1の副層及び第2の副層の少なくとも1つについて0より大きくてよい。一部の例では、yは対電極層の第1の副層においてゼロであってよく、対電極層の第2の副層においてゼロより大きくてよい。これらの実施形態または他の実施形態では、xは対電極の第1の副層及び第2の副層の少なくとも1つについて0より大きくてよい。例えば、xは対電極層の第1の副層においてゼロより大きくてよく、対電極層の第2の副層においてゼロであってよい。
【0087】
多様な実施形態では、第1の副層及び第2の副層は異なる組成物を有する。対電極層の第1の副層及び第2の副層のそれぞれについて、Aは、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)、金(Au)、ホウ素(B)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ユーロピウム(Eu)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ガドリニウム(Gd)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、水銀(Hg)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、オスミウム(Os)、プロトアクチニウム(Pa)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、ポロニウム(Po)、白金(Pt)、ラジウム(Ra)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アンチモン(Sb)、スカンジウム(Sc)、セレン(Se)、ケイ素(Si)、サマリウム(Sm)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、テクネチウム(Tc)、テルル(Te)、トリウム(Th)、チタン(Ti)、タリウム(Tl)、ウラン(U)、バナジウム(V)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、及びその組合せから成るグループから選択される。いくつかの実施形態では、Aは第1の副層の第1の金属及び第2の副層の第2の金属であってよく、第1の金属は第2の金属とは異なる。いくつかの実施態様では、第1の副層がLiNiWOであるように、yは第1の副層においてゼロであってよい。いくつかの実施形態では、対電極層の第1の副層及び/または第2の副層におけるAは、Ta、Nb、Sn、Al、及びSiから成るグループから選択されてよい。これらの実施形態または他の実施形態では、対電極層の第1の副層及び第2の副層のそれぞれにおけるAはTa、Nb、Sn、Al、及びSiから成るグループから選択されてよく、対電極層の第1の層におけるAは対電極層の第2の副層におけるAとは異なる。いくつかの実施態様では、yは対電極層の第1の副層及び/または第2の副層の少なくとも1つについて0.1と1の間であってよい。特定の実施形態では、yは対電極層の第1の副層及び第2の副層のそれぞれについて約0.1と1との間であってよい。
【0088】
いくつかの実施形態では、対電極の第1の副層はNiWOであってよく、対電極の第2の副層はNiWTaO、NiWNbO、NiWSnO、NiWAlO、NiWSiO、NiTaO、NiNbO、NiSnO、NiAlO、NiSiO、及びその組合せから成るグループから選択される材料であってよい。特定の実施態様では、対電極の第2の副層は、NiWTaO、NiWNbO、NiWSnO、NiWAlO、NiWSiO、及びその組合せから成るグループから選択される材料であってよい。対電極の第2の副層は、NiWTaO、NiWNbO、NiWSnO、NiWAlO、NiWSiO、及びその組合せから成るグループから選択される材料であってよい。多様な実施態様では、対電極の第1の副層及び第2の副層はそれぞれ、NiWO、NiWTaO、NiWNbO、NiWSnO、NiWAlO、NiWSiO、NiTaO、NiNbO、NiSnO、NiAlO、NiSiO、及びその組合せから成るグループから無関係に選択されてよく、第1の副層の材料は第2の副層の材料とは異なる。特定の実施形態では、対電極の第1の副層及び第2の副層はそれぞれ、NiWO、NiWTaO、NiWNbO、NiWSnO、NiWAlO、NiWSiO、及びその組合せから成るグループから無関係に選択されてよく、第1の副層の材料は第2の副層の材料と異なる。一部の場合、対電極の第1の副層及び第2の副層はそれぞれ、NiWO、NiTaO、NiNbO、NiSnO、NiAlO、NiSiO、及びその組合せから成るグループから無関係に選択されてよく、第1の副層の材料は第2の副層の材料とは異なる。
【0089】
また、開示されている実施形態は、陽極着色する材料の中でのより高品質の形態及び改善された形態の制御から生じる改善された性能を示すこともある。本明細書に説明されるように、対電極材料は結晶質、ナノ結晶、非晶質、またはその組合せであってよい。多くの場合、結晶化度が相対的に低く、存在するあらゆる結晶が相対的に小さいことが望ましい。2つ以上の副層として対電極を提供することによって、1つまたは複数の追加の境界面が対電極の中に導入される(例えば、副層が互いに接触する境界面)。これらの境界面は、例えば結晶核再生成及び関係する粒成長の影響により、結晶の形成を中断させることがある。係る影響は、結晶がより大きく成長するのを防ぎ、形を成すあらゆる結晶のサイズを制限するように作用することがある。形態に対するこの影響は、空隙及び他の欠陥がより少ないデバイスの製造につながることがある。
【0090】
同様に、対電極が1つまたは複数の副層として成膜される場合、副層は下位層の隆起/窪み/ストライエーションを滑らかにするように作用することがある。対電極層が単一のステップで単一の均質層として成膜される場合、(一部の場合に基板から発生することがある)下層に存在する隆起/窪み/ストライエーションは、大部分は対電極層に/対電極層を通って移される。対照的に、(例えば、複数の副層を使用して)いくつかのステップで対電極を付着することによって、隆起/窪み/ストライエーションは成膜されるそれぞれの追加の層であまり実体のあるものではないため、副層はより滑らかな表面を促進することがある。デバイスの層を通る係る表面不均一性の移動を削減することによって、いくつかの利点が実現されてよい。例えば、気密性が改善されてよく、このことは湿度制御の改善につながる。関連して、製造中の待ち行列回数は削減されてよく、それによってスループットを改善してよい。
【0091】
いかなる理論または作用メカニズムに拘束されることを望むものではないが、開示されている方法は、エレクトロクロミックデバイスの中でのリチウムの分布に対する制御の改善を達成するために使用され得ることも考えられる。異なる対電極材料はリチウムに対する異なる親和性を示し、したがって対電極材料(複数可)の選択は、リチウムイオンがエレクトロクロミックデバイスでどのように分布するのかに影響を与える。特定の材料及び材料の組合せを選択することによって、デバイスの中でのリチウムの分布を制御できる。デバイスの中でのリチウムの分布は、別個のイオン伝導性層を成膜することなく製造されるデバイスでは特に重要なことがある。係る実施形態では、デバイス全体でのリチウムの分布はイオン伝導性領域/実質的に電子的に絶縁する領域が、エレクトロクロミック積層体が成膜され、積層体がさらに処理された後にエレクトロクロミック層と対電極層との間の界面領域で形を成すかどうかに影響を及ぼすことがある。特定の実施形態では、対電極の副層はリチウムに対して異なる親和性を有する材料を含む。例えば、第1の副層の材料は対電極の第2の(または追加の)副層(複数可)の材料と比較してリチウムに対してより高い親和性またはより低い親和性を有することがある。
【0092】
関連して、開示されている方法は、エレクトロクロミックデバイスを製造するために使用されるリチウムの総量に対する制御の改善を達成するために使用されてよい。多様な場合では、リチウムは対電極層の成膜中に添加されてよい。一部の実施形態では、リチウムは対電極の1つまたは複数の副層の成膜中に添加されてよい。これらの実施形態及び他の実施形態では、リチウムは対電極の以後の副層の成膜の間で添加されてよい。エレクトロクロミックデバイスの中でのリチウムの分布及びリチウムの総量を制御することによって、デバイスの均一性及び外観は改善され得る。
【0093】
開示されている技法で生じる別の利点は色及び切替え性能の改善である。上述したように、特定の対電極材料は、色(例えば、より澄んだ消色状態、より魅力的な着色状態等)、切替え速度、耐用期間、及び他の特性に関してより優れた性能を示す。しかしながら、一方の特性に対して高品質の結果を促進する特定の材料は他方の特性に対して欠点を有することがある。例えば、材料が非常に透明で着色されていない消色状態を示すために望ましい材料は、低速の切替え速度及び/または短い耐用期間に関係する問題に苦しむことがある。この材料を(相対的により黄色い消色状態等の独自の問題を有することがある)別の対電極材料と結合することによって、多様な実施態様では、特性が改善された対電極を達成することが可能である。ある対電極材料に関係する欠点は、別の対電極材料の特性によって軽減されることがある。
【0094】
例えば、特定の実施形態では、第1の副層/フラッシュ層は、消色状態で許容できる(が、例外的ではない)色品質を有する材料から作られてよく、第2の副層(及び任意選択で追加の副層)は(フラッシュ層の材料と比較して)消色状態で優れた色品質を有する材料から作られてよい。色品質は、材料のa値及び/またはb値に基づいて評価されてよく、より高品質の色は概してゼロに近いa値及びb値に対応し、より低品質の色は概してゼロから遠いa値及び/またはb値に対応する。多様な実施形態では、(その最も澄んだ状態にある)第1の副層及び第2の副層のa値及び/またはb値は、少なくとも約6、または少なくとも約3、変わることがある。これらの場合または他の場合、(その最も澄んだ状態の)第1の副層及び第2の副層のa値及び/またはb値は、約10以下変わることがある。
【0095】
一部の場合では、フラッシュ層は低スパッタ出力を使用し、相対的に高速で成膜されてよく、第2の副層はより高スパッタ出力を使用し、相対的に低速で成膜されてよい。第1の副層は(例えばイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層が第2の副層の高スパッタ出力成膜中に生じる高温にさらされることを防ぐことによって)対電極の形成中にイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層を保護しつつ、デバイスをより迅速に製造するのに役立つことがあり、第2の副層はデバイスに高品質の色性能を提供するのに役立つことがある。
【0096】
一部の場合では、対電極の複数の層への分離は、膜における膜応力の調整による信頼性の改善または欠陥品率の削減につながることがあるだろう。対電極層の中の膜応力は以後の層の付着を改善または劣化することがあり、このことは、デバイスが電圧、温度、湿度、周囲光等の変化に遭遇するのでデバイスの長期の信頼性に影響を与えることがある。膜応力の変化はデバイスの見かけの欠陥品率に影響を与えることもある。デバイスの成膜の前または間に基板上に存在する粒子は電極層の間で短絡を生じさせることがあり、これにより着色が減少した局所的なゾーンが生じる。これらの短絡の出現は欠陥軽減絶縁層(DMIL)を使用して減少させることでき、DMILのいくつかの実施形態は、DMILの適用前に粒子を排出するために対電極の中で応力を操作することを必要とする。これは、2013年2月8日に出願され、「DEFECT-MITIGATION LAYERS IN ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第13/763,505号に説明される。多層対電極は、粒子を変形または排出させてよい高応力初期層を組み込むことができ、低応力最終層は排出された粒子によって生じる任意の開放領域を充填できる。
【0097】
一部の実施形態では、陽極着色する対電極層(またはその中の1つもしくは複数の副層)は、ニッケル、タングステン、タンタル、及び酸素を含む材料である。材料は、任意の適正組成(または対電極全体での組成物の組合せ/配置)でNiWTaOとしてともに提供されてよい。ニッケルタングステンタンタル酸素に基づいた材料は特に澄んでいるまたは消色状態で中間的な色であり得るため、ニッケルタングステンタンタル酸素に基づいた材料は陽極着色する材料として特に有益である。多くの対電極材料はその消色状態においてもわずかに色合い付与(着色)されている。例えば、NiWOは概して消色状態でわずかに黄色い色合いを有する。美観の理由から、エレクトロクロミックデバイスの陰極着色する材料と陽極着色する材料の両方は、デバイスが消色状態にあるとき、非常に澄んでおり(透明であり)、無色であることが多様な場合において有益である。
【0098】
さらに、いくつかの対電極材料は優れた色品質を示す(つまり、その消色状態で非常に澄んでいる)が、急速に光学遷移を受ける材料の能力が経時的に弱まっていくため、商業的な使用には適さない。言い換えると、これらの材料の場合、光学遷移の持続時間はデバイスの年齢/使用とともに増加する。この場合、新規に製造される窓は、例えば6カ月の間使用されている同一の窓よりも高い切替え速度を示すだろう。優れた色品質を示すが、経時的に遷移速度を減少させる陽極着色する対電極材料の一例は酸化ニッケルタンタル(NiTaO)である。係る材料でのタングステンの包含は、経時的な切替え速度の減少を著しく削減することが示されている。したがって、NiWTaOは、陽極着色する対電極材料(複数可)の貴重な候補である。
【0099】
NiWTaOは、陽極着色する材料として使用されるときに多様な組成物を有してよい。特定の実施形態では、NiWTaOの多様な成分間で特定のバランスが保たれてよい。例えば、材料中のNi:(W+Ta)の原子比率は、約1.5:1と3:1の間、例えば約1.5:1と2.5:1の間、または約2.1と2.5:1の間に該当してよい。特定の例では、Ni:(W+Ta)の原子比率は約2:1と3:1の間である。Ni:(W+Ta)の原子比率は(i)材料中のニッケル原子の(ii)材料中のタングステン原子及びタンタル原子の数の合計に対する比率に関する。
【0100】
また、NiWTaO材料はW:Taの特定の原子比率を有することもある。特定の実施形態では、W:Taの原子比率は、約0.1:1と6:1の間、例えば約0.2:1と5:1の間、または約1:1と3:1の間、または約1.5:1と2.5:1の間、または約1.5:1と2:1の間である。一部の場合では、W:Taの原子比率は約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間、または約2:1と3:1の間、または約3:1と4:1の間、または約4:1と5:1の間である。一部の実施態様では、Ni:(W+Ta)及びW:Taの特定の原子比率が使用される。本明細書では特定の組合せだけが明示的に示されているが、開示されているNi:(W+Ta)組成物及び開示されているW:Ta組成物の全ての組合せが意図される。例えば、Ni:(W+Ta)の原子比率は約1.5:1と3:1の間であってよく、W:Taの原子比率は約1.5:1と3:1の間である。別の例では、Ni:(W+Ta)の原子比率は約1.5:1と2.5:1の間であってよく、W:Taの原子比率は約1.5:1と2.5:1の間である。追加の例では、Ni:(W+Ta)の原子比率は約2:1と2.5:1の間であってよく、W:Taの原子比率は約1.5:1と2:1の間、または約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間、または約4:1と5:1の間である。
【0101】
対電極の他の例の材料は、酸化ニッケル、酸化ニッケルタングステン、酸化ニッケルバナジウム、酸化ニッケルクロム、酸化ニッケルアルミニウム、酸化ニッケルマンガン、酸化ニッケルマグネシウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化マンガン、プルシアンブルーを含むが、これに限定されるものではない。材料(例えば、金属及び酸素)は、所与の用途のために必要に応じて異なる化学量論的比率で提供されてよい。一部の他の実施態様では、対電極材料はセリウムチタニウムオキシド、酸化セリウムジルコニウム、酸化ニッケル、ニッケル‐タングステン酸化物、酸化バナジウム、及び酸化物の混合物(例えば、Ni及びWOの混合物)を含んでよい。これらの酸化物のドープされた製剤も、例えばタンタル及びタングステン及び上記に示される他の添加物を含むドーパントと共に使用されてよい。
【0102】
陽極着色する対電極層は、陰極着色するエレクトロクロミック材料が消色状態にあるときに陰極着色するエレクトロクロミック材料でエレクトロクロミズム現象を生じさせるために使用されるイオンを含むため、陽極着色する対電極が相当量のこれらのイオンを保持するとき、陽極着色する対電極は高い透過率及び中間色を有してよい。
【0103】
電荷が、陽極着色する対電極から取り除かれる(つまり、イオンが対電極からエレクトロクロミック層に移送される)と、対電極層は(多かれ少なかれ)透明な状態から茶色に色合い付与された状態に変わる。
【0104】
対電極層またはその中の任意の1つもしくは複数の副層の形態は、結晶質、非晶質、またはそのなんらかの組合せであってよい。結晶相はナノ結晶であってよい。一部の実施形態では、対電極材料層(またはその中の1つもしくは副層)は非晶質または実質的に非晶質である。多様な実質的に非晶質の対電極は、その結晶質の相対物と比較すると、いくつかの条件下で、よりよく機能することが判明している。1つまたは複数の対電極酸化物材料(複数可)の非晶質状態は、以下に説明される特定の処理条件の使用によって得られてよい。いかなる理論または仕組みに拘束されることを望むものではないが、酸化ニッケルタングステンまたはニッケル‐タングステン‐タンタル酸化物等の非晶質対電極材料は、スパッタリングプロセスで相対的に低いエネルギー原子で作り出されると考えられる。低エネルギー原子は、例えばより低いターゲット出力、より高いチャンバ圧(つまりより低い真空)、及び/またはより大きいソースから基板への距離のスパッタプロセスで得られる。また、非晶質膜は、重い原子(例えば、W)の相対的に高い率/濃度がある場合に形を成す可能性が高い。説明されたプロセス条件下では、紫外線/熱への曝露の下で、よりよい安定性を有する膜が作り出される。実質的に非晶質な物質は、非晶質基質中に分散される、通常はナノ結晶であるが、必ずしもナノ結晶であるものではない、なんらかの結晶物質を有してよい。係る結晶物質の粒径及び量は以下により詳細に説明される。
【0105】
一部の実施形態では、対電極形態またはその中のあらゆる副層は微細結晶相、ナノ結晶相、及び/または非晶相を含んでよい。例えば、対電極は、例えばナノ結晶を全体に分布させる非晶質基質を有する材料であってよい。特定の実施形態では、ナノ結晶は対電極材料の(実施形態に応じて重量でまたは体積で)約50%以下、対電極材料の約40%以下、対電極材料の約30%以下、対電極材料の約20%以下、または対電極材料の約10%以下を構成してよい。特定の実施形態では、ナノ結晶は約50nm未満、一部の場合では約25nm未満、約10nm未満、または約5nm未満の最大直径を有する。一部の場合では、ナノ結晶は、約50nm以下、または約10nm以下、または約5nm以下(例えば約1~10nm)の平均直径を有する。
【0106】
特定の実施形態では、ナノ結晶の少なくとも約50%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有するナノ結晶サイズ分布を有することが望ましく、例えば、ナノ結晶の少なくとも約75%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有する、またはナノ結晶の少なくとも約90%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有する。
【0107】
非晶質基質を含む対電極は、相対的により結晶質である対電極材料と比較してより効率的に動作する傾向があることが判明している。特定の実施形態では、1つの材料/添加物は、基本の陽極着色する材料の領域が見つけられてよいホストマトリックスを形成してよい。多様な場合では、ホストマトリックスは実質的に非晶質である。特定の実施形態では、対電極の結晶構造だけが、例えば酸化物の形で、基本の陽極着色するエレクトロクロミック材料から形成される。酸化物の形の基本の陽極着色するエレクトロクロミック材料の一例は酸化ニッケルタングステンである。添加物は、実質的に結晶質ではないが、基本の陽極着色するエレクトロクロミック材料の領域(例えば、一部の場合ではナノ結晶)を組み込む非晶質ホストマトリックスを形成することに寄与してよい。一例の添加物はタンタルである。他の実施形態では、添加物及び陽極着色する基本の材料はともに共有結合及び/またはイオン結合で化合物を形成する。化合物は結晶質、非晶質、またはその組合せであってよい。他の実施形態では、陽極着色する基材は、添加物の領域が不連続相または不連続ポケットとして存在するホストマトリックスを形成する。例えば、特定の実施形態は、例えば非晶質基質全体に分布する結晶物質について本明細書で説明される直径のポケット等の、ポケット内の第1の材料全体に分布する、やはり非晶質の第2の材料とともに、第1の材料の非晶質基質を有する非晶質対電極を含む。
【0108】
多様な実施形態では、対電極層の中の副層は異なる結晶化度を有してよい。例えば、第1の副層は、対電極の第2の(または追加の)副層よりも結晶質であってよい、より結晶質ではないことがある、またはほぼ等しく結晶質であってよい。例えば、第1の副層は、第2の(または追加の)副層よりも大きい、小さい、またはほぼ等しい平均結晶サイズを有してよい。また、第1の副層は、第2の(または追加の)副層と比較するとより大きい、少ない、またはほぼ等しい割合の結晶質である材料を有してもよい。
【0109】
一部の実施形態では、対電極の厚さは約50nm~約650nmである。一部の実施形態では、対電極の厚さは約100nm~約400nmであり、ときには150nm~300nmの範囲、または約200nm~300nmの間である。また、対電極層の厚さは実質的には均一である。一実施形態では、実質的に均一な対電極層は、上述の厚さ範囲のそれぞれで約±10%しか変わらない。別の実施形態では、実質的に均一な対電極層は上述した厚さ範囲のそれぞれで約±5%しか変わらない。別の実施形態では、実質的に均一な対電極層は上述した厚さ範囲のそれぞれで約±3%しか変わらない。
【0110】
消色状態の間の対電極層に(及び相応して色合い付与状態の間のエレクトロクロミック層に)保持され、エレクトロクロミック遷移を生じさせるために利用できるイオンの量は、層の厚さ及び製造方法だけではなく、層の組成にも依存する。エレクトロクロミック層と対電極層の両方とも、層表面積の平方センチメートルあたりで、約数十ミリクーロンの(リチウムイオン及び電子の形で)利用可能な電荷を保持できる。エレクトロクロミック膜の電荷容量は、外部電圧または電位を印加することによって膜の単位面積及び単位厚さあたりで可逆的に注入する、及び抽出することができる電荷の量である。一実施形態では、WO層は約30mC/cm/ミクロンと約150mC/cm/ミクロンの間の電荷容量を有する。別の実施形態では、WO層は約50mC/cm/ミクロンと約100mC/cm/ミクロンの間の電荷容量を有する。一実施形態では、対電極層は約75mC/cm/ミクロンと約200mC/cm/ミクロンの間の電荷容量を有する。別の実施形態では、対電極層は約100mC/cm/ミクロンと約150mC/cm/ミクロンの間の電荷容量を有する。
【0111】
対電極層及び/またはエレクトロクロミックデバイスは、その中の全ての層/副層を検討するとき特定の特性を有することがある。例えば、一部の実施形態では、対電極がその最も澄んだ状態にあるとき(対電極がその最も陰極電位で保持され、イオンがデバイスの対電極層に完全に存在するとき)、対電極は、約2~10の間、または約4~6の間であるab値を有する。開示されている実施形態に従って製造されるエレクトロクロミックデバイスは、デバイスがその最も澄んだ状態にあるとき約6~14の間、または約9~12の間であるab値を有してよい。これらの値は、エレクトロクロミック層だけではなく対電極層の両方から生じることがある色を考慮する。開示されている技術に従って製造されるエレクトロクロミック窓は、エレクトロクロミック窓がその最も澄んだ状態にあるとき、約6~14の間または約9~12の間であるab値を有してよい。係る窓のb値は10未満であってよい。多様な場合、開示される実施形態に従うエレクトロクロミックデバイス及び/またはエレクトロクロミック窓は、デバイスまたは窓がその最も澄んだ状態にあるとき、約14以下、12以下、または10以下の透過b値を有してよい。これらの値は、対電極層、エレクトロクロミック層、基板(例えば、ガラス等)、導電酸化物層、及び窓に存在するあらゆる他の層から生じることがある色を考慮に入れる。
【0112】
同様に、対電極層及び/またはエレクトロクロミックデバイスは、その最も澄んだ状態にあるとき、特定の透過率を有してよい。いくつかの実施形態では、対電極層はその最も澄んだ状態にあるとき、少なくとも約65%の可視透過率を有する。本明細書に開示されるエレクトロクロミックデバイスは、その最も澄んだ状態にあるとき、少なくとも約55%の可視透過率を有してよい。本明細書に開示されるように製造されるエレクトロクロミック窓は、その最も澄んだ状態にあるとき、少なくとも約50%の可視透過率を有してよい。
【0113】
特定の実施形態では、エクトロクロミック層は、対電極層に関係して説明されるように2つ以上の副層として実装されてよい。層の中の変化に関係する詳細だけではなく、副層間の差異に関係する詳細も(対電極層の代わりに、または対電極層に加えて)エレクトロクロミック層に適用してよい。
【0114】
<ECデバイスの中の変化する組成物に関係する他の態様>
上記の説明の多くは異質な組成物を有する対電極層を含む実施形態に焦点を当てている。多くの場合、対電極の組成物はその中の金属に対して異質である。代わりにまたはさらに、対電極(またはエレクトロクロミックデバイスの別の層/領域)は、酸素等の別の元素に対して異質の組成物を含むように製造されてよい。多様な実施形態では、例えば、エレクトロクロミック層及び/または対電極層は、酸素を豊富に含む部分を含むように成膜されてよい。酸素を豊富に含む部分(一部の場合、この部分は別個の副層として提供され、一方他の場合、別個の副層は設けられない)は、他の電極層と接触してよい(例えば、エレクトロクロミック層の酸素を豊富に含む部分は、対電極層と直接的に接触して成膜されてよい、及び/または対電極層の酸素を豊富に含む部分はエレクトロクロミック層と直接接触して成膜されてよい)。エレクトロクロミック層及び/または対電極層の異質構造は、これらの2つの層の間の界面領域の形成を促進することがあり、(追加処理時)界面領域はイオンを伝導し、実質的に電子的に絶縁する領域の機能を果たす。界面領域自体は、組成及び/または形態に関して異質であってよい。
【0115】
一般的に言えば、特定の実施形態では、界面領域は、異なる相及び/または組成物により表される少なくとも2つの別個の構成要素を含む異質構造を有してよい。さらに、界面領域は、イオン伝導性材料及びエレクトロクロミック材料(例えば、タングステン酸リチウムと酸化タングステンの混合物)等の2つ以上の別個の構成要素で勾配を含んでよい。勾配は、例えば可変組成物、微細構造、抵抗性、ドーパント濃度(例えば、酸素濃度)、化学量論、密度、及び/または粒径レジーム(grain size regime)を提供してよい。勾配は、線形遷移、S状遷移、ガウス遷移等を含む多くの異なる形の遷移を有してよい。
【0116】
界面領域はエレクトロクロミック層及び/または対電極層の一部分から形成されてよいため、これらの層は係る異質構造を含むように成膜されてもよい。
【0117】
特定の実施態様では、エレクトロクロミック積層体は傾斜エレクトロクロミックエレメントとして提供されてよい。ECエレメントはEC層とIC層との間、またはIC層とCE層との間で突然の遷移を有するのではなく、むしろIC領域(界面領域)に遷移するEC領域を有する単一層傾斜組成物であり、IC領域はCE領域に遷移する。ECエレメントは傾斜組成物の単一の層であるので、ECエレメントは以下の方法を含むいくつかの方法で説明できる。以下の説明は、ECエレメントの特定の実施形態を例示することを意図される。
【0118】
一実施形態は、EC領域、IC領域、及びCE領域をそれぞれ含む単一層傾斜組成物であるECエレメントである。一実施形態では、ECエレメントは全て固体状態かつ無機である。単一ECエレメントは、それが構成される傾斜組成を理解するためにいくつかの方法で説明できる。多様な実施形態では、単一層傾斜組成ECエレメントは、EC/IC間またはIC/CE間に突然の境界を有さない。これらの界面の両方とも本明細書に説明される傾斜組成物により特徴付けられる。一部の場合、単一層傾斜組成ECエレメントはエレメントの全領域にわたって連続的に可変の組成物を有する。他の場合、エレメントは、一定の組成の少なくとも1つの領域、または少なくとも2つの領域を有する。図4G図4Iは、1つのタイプのECエレメントの組成物をどのようにして測定(metric)できるのかの例である。これらの特定の例では、ECエレメントのEC領域は第1の遷移金属を含む。IC領域はアルカリ金属を含み、CE領域は混合遷移金属酸化物を含む。IC領域は、EC領域及びCE領域が互いに接触して成膜された後に形成されてよい。特定の例では、混合遷移金属酸化物は第1の遷移金属及び追加の遷移金属を含むが、他の例では混合遷移金属酸化物は第1の遷移金属を含んでいない。一部のデバイスでは、図4G図4Iは同じECエレメントを説明しているが、異なる方法で説明している。これらの方法のそれぞれは、本明細書に説明される実施形態に従って任意の数のECエレメントをどのようにして説明し得るのかを例示している。この例では、グラフに描かれている構成要素は傾斜組成物全体で存在し、いくつかは存在していない。例えば、1つの遷移金属は、EC領域からCE領域までデバイス全体にわたって相当の濃度で連続的に存在している。本発明はこのように制限されない。一部の実施形態では、一部のまたは全ての構成要素はECエレメント全体で少なくとも一部わずかな(de minimus)量(または相当な量)、存在する。図4G図4Iの範囲内の特定の例では、各構成要素はECエレメントの各領域に少なくともある程度存在する。
【0119】
図4Gを参照すると、ECエレメントは、構成要素が発生することがある領域EC、IC,またはCEの機能としてECエレメントが構成される元素成分のモル比率に関して説明される。起点から開始し、グラフを横切って左から右に移動すると、EC領域では第1の遷移金属(TM)よりも酸素(O)のより高いモル比率がある。例えば、これは酸素対タングステンの約3:1の比率で酸化タングステンを表すだろう。さらに右に移動すると、第1の遷移金属のモル比率はEC領域のどこかで開始し、減少する。CE領域のどこかの点で、酸素及び第1の遷移金属のモル比率は水平になる。例えば、これはCE領域の安定した組成の酸化ニッケルタングステンを表すことがあるだろう。この例では、第2の遷移金属(TM)はECエレメント全体で存在し、この特定の例では、ECエレメントの他の領域よりもCE領域でより高いモル比率を有する。また、アルカリ金属(Malk)もECエレメントに存在する。本説明のために、「アルカリ金属」は、例えば材料マトリックスで結合される、または結合されず、したがってデバイス動作中にインターカレーション/移送できる等、中性の元素アルカリ金属及びその陽イオンの両方を包含することが意図される。この例では、アルカリ金属はIC領域で最高のモル比率を有する。これは、一例ではこの領域に存在するタングステン酸リチウムのリチウムに相応する可能性がある。また、図4Gに示されるように、酸素濃度はIC領域で最高であってもよい。この高い酸素濃度は、酸素に対して超化学量論的(superstoichiometric)となるようにIC領域で材料を成膜した結果であってよい。特定の実施形態では、IC領域の材料はEC領域及び/またはCE領域で(酸素に関して)超化学量論的な形の材料を含んでよい。例えば、アルカリ金属成分はECエレメントを色付かせるまたは色褪せさせるために使用される可能性がある移動リチウムイオンを含まない(したがって、イオンは可動であり、ECエレメントにおけるイオンの位置は、例えば印加される電荷に応じて変化する)等、図4Gに示される成分のモル比がECエレメントで固定されたそれらの成分であることに留意することが重要である。この例は、ECエレメントの組成をどのようにして説明し得るのかを例示する。
【0120】
一実施形態は、a)存在する場合、EC領域において、第1の遷移金属よりも高いEC領域のモル比率を有する第1の遷移金属と、b)EC領域及びCE領域に比較して、IC領域において組成物の最大モル比率を有するアルカリ金属と、c)CE領域において、ECエレメントの任意の領域の組成物のその最大モル比率を有する第2の遷移金属とを含むECエレメントである。
【0121】
図4Hを参照すると、図4Gに関係して説明されるのと同じECエレメントの組成物を検討するが、酸素含有量を検討しない場合、それは本明細書に説明される実施形態を説明する別の方法である。例えば、このグラフでは、y軸はモル比率ではなくむしろ金属濃度、つまり傾斜組成物の各領域における各金属、TM、Malk、及びTMの濃度である。この例では、第1の遷移金属及びアルカリ金属のそれぞれは、他の2つの金属に比してその濃度の観点から説明される。第2の遷移金属はその絶対濃度の観点から説明される。図4Hを参照すると、第1の遷移金属は、EC領域において、他の金属に比してその最大濃度を有する。アルカリ金属はIC領域で他の金属に比してその最大濃度を有する。第2の遷移金属はCE領域でその最大(絶対)濃度を有する。この例では、TM及びTMはCE領域において実質的に同じ濃度を有し、例えばこれがNiWOを表す可能性がある。
【0122】
一実施形態は、a)EC領域において、ECエレメントの他の金属に比して最大の濃度を有する第1の遷移金属と、b)IC領域において、ECエレメントの他の金属に比して最大の濃度を有するアルカリ金属と、c)ECエレメントのCE領域において、その絶対最大濃度を有する第2の遷移金属とを含むECエレメントである。
【0123】
図4Iは、図4G及び図4Hに関して説明されるのと同じECエレメントの組成物を説明するが、各領域を構成する、例えば化合物等、実際の組成物を見る。例えば、このグラフでは、y軸は、傾斜組成物の各領域における、第1の遷移金属及び第2の遷移金属(Malk‐TM‐TM酸化物混合体)及び混合された遷移金属酸化物(TM‐TM酸化物)とともに、各化合物、つまり第1の遷移金属の酸化物(TM‐酸化物)、アルカリ金属を含む酸化物混合体の%組成である。上述したように、混合遷移金属酸化物は、第1の遷移金属を含む必要はない(例えば、混合遷移金属酸化物は第2の遷移金属及び第3の遷移金属を含むことがある)が、混合遷移金属酸化物はこの例では含む。この例では、TM‐酸化物はEC領域において最も豊富であり、TM‐酸化物はEC領域の主要な構成物質である。Malk‐TM‐TM酸化物混合体はIC領域の主要な構成物質であり、TM‐TM酸化物はCE領域の主要な構成物質である。例えば、これはタングステン酸リチウム、酸化タングステン、及び酸化ニッケルタングステンの傾斜混合物を表すことがある等、Malk‐TM‐TM酸化物混合体は材料のマトリックスに複数の化合物を含んでよいことに留意されたい。ECエレメントの形態は層全体に渡り異なることがある。つまり、傾斜領域は、領域の任意の1つまたは複数において、非晶質部分、結晶質部分、及び/または非晶質結晶質混合部分を有することがある。一部の実施形態では、CE領域は実質的に非晶質である。
【0124】
一実施形態は、a)EC領域の主要な構成物質である第1の遷移金属酸化物と、b)CE領域の主要な構成物質である混合遷移金属酸化物と、c)第1の遷移金属及び混合遷移金属酸化物を含む混合物であって、IC領域の主要な構成物質である該混合物とを含むECエレメントである。一実施形態は、a)EC領域の主要な構成物質である第1の遷移金属酸化物と、b)CE領域の主要な構成物質である混合遷移金属酸化物と、c)アルカリ金属化合物、第1の遷移金属、及び混合遷移金属酸化物を含む混合物であって、IC領域の主要な構成物質である該混合物を含むECエレメントである。一実施形態では、混合遷移金属酸化物は、ニッケル、タンタル、チタン、バナジウム、クロム、セリウム、コバルト、銅、イリジウム、鉄、マンガン、モリブデン、ニオブ、パラジウム、プラセオジム、ロジウム、及びルテニウムから成るグループから選択される第1の遷移金属及び第2の遷移金属を含む。一実施形態では、混合遷移金属酸化物は第1の遷移金属を含まない。一実施形態では、アルカリ金属は、化合物と関連付けられる、またはECエレメントの動作中移動可能なイオンとして材料基質と関連付けられるかのどちらかのリチウム陽イオンである。
【0125】
一実施形態は、(a)エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層、または対電極材料を含む対電極層のどちらかを形成することと、(b)エレクトロクロミック層または対電極層上に中間層を形成することであって、中間層は酸素を豊富に含む形のエレクトロクロミック材料、対電極材料、及び追加の材料の少なくとも1つを含み、追加の材料は異なるエレクトロクロミック材料または対電極材料を含み、中間層は実質的に電子的に絶縁しない、中間層を形成することと、(c)中間層をリチウムに曝露することと、(d)電子的に絶縁し、イオン伝導する材料、及び中間層の材料を含む、中間層の領域と同一の広がりをもつ領域に中間層の少なくとも一部を変換するために形成された積層体を加熱することと、を含むエレクトロクロミックデバイスを製造する方法である。
【0126】
中間層は酸素を豊富に含む形のEC材料及び/またはCE材料から形成されてよいため、EC層及び/またはCE層は(例えば、酸素を豊富に含む部分と酸素を豊富に含まない部分の両方を含む等)異質の組成物を含むように形成されると理解できる。
【0127】
<エレクトロクロミック窓を製造する方法>
エレクトロクロミック積層体の成膜
上述したように、実施形態の一態様はエレクトロクロミック窓を製造する方法である。広義では、方法は、(a)イオン伝導性層が、陰極着色するエレクトロクロミック層及び陽極着色する対電極層を分離する、または(b)陰極着色するエレクトロクロミック層が陽極着色する対電極層と物理的に接触するかのどちらかである積層体を形成するために、基板に(i)陰極着色するエレクトロクロミック層、(ii)任意選択のイオン伝導性層、及び(iii)陽極着色する対電極層を順次成膜することを含む。多様な実施形態では、対電極層は組成及び/または形態に関して異質となるように成膜される。例えば、対電極は、一部の場合、副層を含むように成膜されてよい。一部の実施形態では、対電極層は傾斜組成物を含むように成膜される。勾配は層の表面に対して垂直な方向であってよい。
【0128】
順次成膜は、圧力、温度、及び/またはガス組成が統合成膜システムの外部の外部環境とは関係なく制御され、基板がエレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導性層、及び対電極層の順次成膜中いずれのときでも統合成膜システムを離れないことがある制御された周囲環境を有する単一統合成膜システムを利用してよい。(制御された周囲環境を維持する統合成膜システムの例は、図9A図9Eに関して以下により詳細に説明される。)ガス組成は、制御された周囲環境での多様な構成要素の分圧によって特徴付けられてよい。また、制御された周囲環境は、粒子の数または粒子密度に関して特徴付けられることもある。特定の実施形態では、制御された周囲環境はmあたり350未満の(0.1マイクロメートル以上のサイズの)粒子を含有する。特定の実施形態では、制御された周囲環境はクラス1000のクリーンルーム(US FED STD 209E)またはクラス100のクリーンルーム(US FED STD 209E)の要件を満たす。特定の実施形態では、制御された周囲環境は、クラス10のクリーンルーム(US FED STD 209E)の要件を満たす。基板はクラス1000、クラス100、またはクラス10の要件を満たすクリーンルームの制御された周囲環境に進入してよい及び/または周囲環境を出てよい。
【0129】
この製造の方法は、通常は、基板として建築用ガラスを使用し、エレクトロクロミック窓を作るための多段階プロセスに統合されるが、必ずしも基板として建築用ガラスを使用し、エレクトロクロミック窓を作るための多段階プロセスに統合されるものではなく、方法はこのように制限されない。エレクトロクロミック鏡及び他のデバイスは、本明細書に説明される操作及び手法のいくつかまたは全てを使用し、製造されてよい。エレクトロクロミック窓を製造するためのプロセスに関係する追加の詳細は、上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号に説明される。
【0130】
エレクトロクロミック積層体を成膜するための方法は、(a)IC層がEC層及びCE層を分離する、または(b)EC層及びCE層が互いと物理的に接触しているかのどちらかの積層体を形成するために、基板に(i)陰極着色するEC層、(ii)任意選択のIC層、及び(iii)陽極着色するCE層を順次成膜することを含んでよい。方法は、圧力及び/またはガス組成が統合成膜システムの外部の外部環境とは無関係に制御され、多様な場合、基板がEC層、任意選択のIC層、及びCE層の順次成膜中のいずれのときでも統合成膜システムを離れないことがある制御された周囲環境を有する単一の統合成膜システムで実行されてよい。一実施形態では、順次成膜された層のそれぞれは物理気相成長される。一般的に、エレクトロクロミックデバイスの層は、2~3例を挙げると、物理気相成長法、化学気相成長法、プラズマ強化気相成長法、及び原子層堆積法を含む多様な技法によって成膜されてよい。本明細書に使用される用語、物理気相成長法は、スパッタリング、蒸発、アブレーション等を含むPVD技術として理解されている一連の技術を全て含む。
【0131】
図5は、エレクトロクロミック積層体を形成するためのプロセス720の一実施形態を示す。最初に、陰極着色するEC層が基板に成膜され、プロセス722、次いでIC層が成膜され、プロセス724(上述したように、特定の実施形態では、IC層、したがってプロセス724は省略される)、次いで異質の陽極着色するCE層が成膜される、プロセス726。異質のCE層は一部の場合、2つ以上のステップで成膜されてよい。例えば、CE層が副層を含む場合、副層のそれぞれが異なるプロセス/ステップで成膜されてよい。成膜の逆の順序もまた、実施形態である。すなわち、CE層が最初に成膜され、次いで任意選択のIC層、及び次いでEC層が成膜される。一実施形態では、エレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導性層、及び対電極層のそれぞれは固体相の層である。これらの実施形態または他の実施形態では、エレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導性層、及び対電極層のそれぞれは無機材料のみを含む。
【0132】
特定の実施形態は1つの対電極層、1つのイオン伝導体層、及び1つのエレクトロクロミック層に関して説明しているが、これらの層の1つまたは複数は、別個の組成物、サイズ、形態、電荷密度、光学特性等を有してよい1つまたは複数の副層から構成されてよいことを理解されたい。さらに、デバイス層の任意の1つまたは複数は、組成または形態がそれぞれ層の厚さの少なくとも一部分で変化する傾斜組成または傾斜形態を有してよい。
【0133】
本明細書の実施形態の多くは、異質の組成物及び/または形態を含む対電極層との関連で提示される。説明されている異質の対電極は、異なる組成物及び/または形態を有する階調及び/または副層を含む他の層または領域(例えば、エレクトロクロミック層、EC層がCE層に接触する界面領域等)と併せて使用されてよい。
【0134】
一例では、酸素、ドーパント、または電荷キャリアの濃度は、少なくとも層が製造されるのにつれ、所与の層の中で変わる。別の例では、層の形態は結晶質から非晶質に変わる。係る傾斜組成または傾斜形態は、デバイスの機能特性に影響を与えるために選ばれてよい。一部の場合では、追加の層が積層体に加えられてよい。一例では、TCO層の一方または両方とEC積層体との間に熱拡散層が置かれる。熱拡散層は、高い熱伝導率を有し、したがって積層体にわたって効率的に熱を拡散できる材料(複数可)から作られる。
【0135】
また、上述したように、特定の実施形態のエレクトロクロミックデバイスは、エレクトロクロミック層と対電極層との間でのイオン伝導性層を通るイオンの移動を利用する。一部の実施形態では、これらのイオン(またはイオンの中性前駆体)は、1つまたは複数の層として積層体に導入され、積層体の中に最終的にインターカレーションする。係る層は、積層体での他の層(例えば、EC層、IC層、CE層)の成膜前、成膜中、及び/成膜後に成膜されてよい。代わりに(または加えて)、1つまたは複数のリチオ化ステップが、電極を成膜するために実行されるステップ間に発生する中間ステップとして実行されてよい。例えば、対電極層は、第1の副層を成膜し、続いて第1の副層の上にリチウムを成膜することによって成膜されてよく、次いで1つまたは複数の追加の副層を成膜することによって終えられてよい。一実施形態では、第1の副層、つまり任意選択でフラッシュ層が成膜され、次いで第2の副層が続き、リチオ化が続き、次いで第3の副層が第2の副層に成膜される。別の実施形態では、第1の副層、つまり任意選択でフラッシュ層が成膜され、第2の副層が続き、次いで第3の副層が第2の副層に成膜され、次いでリチウムが第3の副層に成膜される。一部の実施形態では、DMILつまりキャッピング層が第3の副層に成膜される。
【0136】
リチオ化前に成膜された副層対リチオ化後に成膜された副層は、同じまたは異なった組成物及び/または形態を有してよい。また、リチオ化は、単一の副層の成膜中に実行されてもよい。例えば、副層の材料は、その副層の成膜がエレクトロクロミックデバイス積層体の残りに、例えば十分なリチウムを提供するように余分のリチウムを含む。この結果は、例えば副層材料とともにリチウムを同時にスパッタリングすることによって、または副層材料がすでにリチウムを含む場合に達成されてよい。係る手法は、付着を改善し、望ましくない副反応を防ぐ、酸化インジウムスズ(ITO)または導電層の他の材料からリチウムをよりうまく分離する等の特定の優位点を有してよい。
【0137】
一部の実施形態では、イオンは、エレクトロクロミック層、イオン伝導性層、及び対電極層の1つまたは複数と同時に積層体の中に導入される。リチウムイオンが使用される一実施形態では、リチウムは、例えば積層体の層の1つまたは複数を作るために使用される材料とともにスパッタされる、または(例えばリチウムニッケルタングステンタンタル酸化物または材料を含む別のリチウムを利用する方法によって)リチウムを含む材料の一部としてスパッタされる。一実施形態では、IC層はリチウムシリコンアルミニウム酸化物のターゲットをスパッタすることによって成膜される。別の実施形態では、リチウムは所望される膜を達成するためにシリコンアルミニウムとともに同時スパッタされる。
【0138】
再び図5のプロセス722を参照すると、一実施形態では、エレクトロクロミック層を成膜することは、WOを成膜することを含み、例えばxは3.0未満及び少なくとも約2.7である。本実施形態では、WOは実質的にナノ結晶形態を有する。一部の実施形態では、エレクトロクロミック層は約200nmと700nmの間の厚さに成膜される。一実施形態では、エレクトロクロミック層を成膜することは、ターゲットを含有するタングステンからタングステンをスパッタすることを含む。WOエレクトロクロミック層を形成するための特定の成膜条件は、その全体として参照により本明細書に援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。
【0139】
ターゲットからのスパッタリングに関連してEC層の成膜を説明しているが、他の成膜技法が一部の実施形態で利用されることを理解されたい。例えば、化学気相成長、原子層堆積法等が利用されてよい。これらの技法のそれぞれは、PVDとともに、当業者に既知であるように独自の形式の物質源を有する。
【0140】
再び図5、行程724を参照すると、いったんEC層が成膜されると、任意選択のIC層が成膜されてよい。リチウムイオンインターカレーションによって動作するエレクトロクロミックデバイスは、建築用窓の要求が厳しい条件にも適切である。適切なリチウムイオン伝導体層材料は、ケイ酸リチウム、ケイ酸アルミニウムリチウム、酸化リチウム、タングステン酸リチウム、ホウ酸リチウムアルミニウム(lithium aluminum borate)、ホウ酸リチウム、ケイ酸リチウムジルコニウム、ニオブ酸リチウム、ホウケイ酸リチウム、リンケイ酸リチウム、窒化リチウム、オキシ窒化リチウム、フッ化アルミニウムリチウム、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)、チタン酸ランタンリチウム(LLT)、タンタル酸リチウム、ジルコニウム酸リチウム、オキシ窒化ケイ素炭素リチウム(lithium silicon carbon oxynitride)(LiSiCON)、リン酸チタンリチウム、バナジウムゲルマニウムリチウム酸化物(lithium germanium vanadium oxide)、ゲルマニウム亜鉛リチウム酸化物(lithium zinc germanium oxide)、及び高い電気抵抗を有しつつ(そこを通る電子の移動を遮りつつ)リチウムイオンがそれらを通過するのを可能にする他のセラミック材料を含む。その場(in situ)でIC層を形成するための特定の成膜条件は、それぞれが上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号に、及び米国特許第9,261,751号にさらに説明される。特定の実施形態では、イオン伝導性層を成膜することは、約10と100nmの間の厚さまでイオン伝導性層を成膜することを含む。
【0141】
再び図5、行程726を参照すると、IC層が成膜された後、陽極着色するCE層が成膜される。IC層が省略されるいくつかの実施形態では、行程726が行程722に続く。陽極着色するCE層は、上記に説明されるように異質の組成物及び/または形態を含むように成膜されてよい。多様な場合では、行程726は、陽極着色する対電極材料の2つ以上の副層を成膜することを含む。これらの副層の内の1つは、上述されるようにフラッシュ層であってよい。これらの場合または他の場合では、対電極は傾斜組成物を含むように成膜されてよい。
【0142】
一実施形態では、対電極層を成膜することは、ニッケルタングステンタンタル酸化物(NiWTaO)の層または副層(複数可)を成膜することを含む。特定の実施形態では、対電極層を成膜することは、酸素を含有する環境でニッケル及び/またはタンタル中に(重量比で)約30%~約70%のタングステンを含んだターゲットをスパッタして、ニッケルタングステンタンタル酸化物の層(タンタルは適正組成でのタングステン/ニッケル/タンタルターゲットによって、または別のターゲットによって、または蒸発タンタル源等の別の源によって提供されている)を作り出すことを含む。別の実施形態では、ターゲットはニッケル(及び/またはタンタル)中の約40%と約60%の間のタングステンであり、別の実施形態ではニッケル(及び/またはタンタル)中の約45%と約55%の間のタングステンであり、さらに別の実施形態ではニッケル(及び/またはタンタル)中の約51%のタングステンである。
【0143】
陽極着色する対電極層がNiWTaOの層または副層を含む特定の実施形態では、多くの成膜ターゲットまたはターゲットの組合せがNiWTaO材料を成膜するために使用されてよい。例えば、ニッケル、タングステン、及びタンタルの個々の金属ターゲットが使用できる。他の場合では、ターゲットの少なくとも1つは合金を含む。例えば、ニッケル‐タングステンの合金ターゲットは、金属タンタルターゲットとともに使用できる。別の場合では、ニッケル‐タンタルの合金ターゲットは金属タングステンターゲットとともに使用できる。追加の場合では、タングステン‐タンタルの合金は金属ニッケルターゲットとともに使用できる。さらに追加の場合では、ニッケル‐タングステン‐タンタル材料を含有する合金ターゲットが使用されてよい。さらに、示されているターゲットのいずれも酸化物として提供できる。多くの場合、スパッタリングは酸素の存在下で発生し、係る酸素は材料の中に組み込まれる。酸素を含有するスパッタターゲットは、酸素を含有するスパッタリング環境の代わりにまたは酸素を含有するスパッタリング環境に加えて使用されてよい。
【0144】
陽極着色する対電極材料を形成するためのスパッタリングターゲット(複数可)は、本明細書に説明される組成のいずれかで対電極を形成できるようにする組成を有してよい。さらに、陽極着色する対電極材料を形成するためのスパッタターゲット(複数可)は、材料を所望のように形成できるようにするように、例えば、本明細書に説明されるように(例えば、異質の組成物、異質の形態、副層、傾斜組成物等を有する)異質の対電極層を形成するために、位置決めされてよい。単一のスパッタターゲットがNiWTaO材料を形成するために使用される一例では、スパッタターゲットは、本明細書に開示されるNiWTaO材料のいずれかの組成物に一致する組成物を有してよい。他の例では、スパッタターゲットの組合せが使用され、組み合わされたターゲットの組成は本明細書に開示されるNiWTaO組成物(または他の対電極材料)のいずれかでの成膜を可能にする。
【0145】
一実施形態では、CE(またはその中の副層)を形成するときに使用されるガス組成は、約30%と約100%の間の酸素を含有し、別の実施形態では、約75%と約100%の間の酸素を含有し、さらに別の実施形態では、約95%と約100%の間の酸素を含有し、別の実施形態では約100%の酸素を含有する。一実施形態では、CEターゲットをスパッタするために使用される出力密度は(ターゲットの表面積で除算される印加電力に基づいて決定される)約2ワット/cmと約50ワット/cmの間であり、別の実施形態では約5ワット/cmと約20ワット/cmの間であり、さらに別の実施形態では約8ワット/cmと約10ワット/cmの間であり、別の実施形態では約8ワット/cmである。一部の実施形態では、スパッタリングを達成するために供給される電力は直流(DC)で供給される。他の実施形態では、パルス状DC/AC反応性スパッタリングが使用される。パルス状DC/AC反応性スパッタリングが使用される一実施形態では、周波数は約20kHzと約400kHzの間であり、別の実施形態では、約20kHzと約50kHzの間であり、さらに別の実施形態では約40kHzと約50kHzの間であり、別の実施形態では約40kHzである。
【0146】
成膜ステーションまたは成膜チャンバ内の圧力は、一実施形態では約1と約50mTorrの間であり、別の実施形態では約20と約40mTorrの間であり、別の実施形態では約25と約35mTorrの間であり、別の実施形態では約30mTorrである。一部の場合では、酸化ニッケルタングステンNiWOセラミックターゲットは、例えばアルゴン及び酸素でスパッタされる。一実施形態では、NiWOは約15%(原子)のNiと約60%のNi、約10%のWと約40%のW、及び約30%のOと約75%のOの間である。別の実施形態では、NiWOは約30%(原子)のNiと約45%のNi、約10%のWと約25%のW、及び約35%のOと約50%のOの間である。一実施形態では、NiWOは約42%(原子)のNi、約14%のW、及び約44%のOである。別の実施形態では、対電極層を成膜することは、約150nmと350nmの間の厚さに、さらに別の実施形態では約200nmと約250nmの間の厚さに対電極層を成膜することを含む。上記の条件は、異質の対電極層の成膜を達成するために互いに任意の組合せで使用されてよい。
【0147】
CE層の各部分を形成するためのスパッタリングプロセスは、1つまたは複数のスパッタターゲットを活用してよい。異なるスパッタターゲットはさまざまなCE材料を形成するために使用されてよい。概して、CE層を形成するためのスパッタターゲットは、成膜されたCE層(酸素がターゲット(複数可)自体に及び/またはスパッタガスによって任意選択で提供される)に存在することになる元素を含む。一部の場合、CE層の元素はすべて単一のターゲットでともに提供される。他の場合、酸素を除くCE層のすべての元素は単一のターゲットでともに提供される。他の場合、異なるスパッタターゲットは異なる材料を含んでよく、ターゲットは所望されるCE材料を形成するためにともに使用できる。スパッタターゲットに関する本明細書の説明の多くはNiWTaO材料を形成するという観点にある。しかしながら、本明細書の教示は、提供されるターゲットが適正組成で適切な元素を含む限り、開示される材料のいずれを形成することにも適用できる。
【0148】
1つのスパッタターゲットがNiWTaOの層を形成するために使用される一例では、ターゲットは、ニッケル、タングステン、及びタンタルを含んでよい。一部の場合では、スパッタターゲットは酸素も含む。一部の場合、複数のターゲットが提供されてよく、ターゲットの組成は同じまたは互いに異なる。一例では、NiWTaO層を形成するという観点から、ニッケル材料、タングステン材料、及びタンタル材料の少なくとも1つが別個のターゲットで提供されてよい。同様に、1つのスパッタターゲットがNiWOの層を形成するために使用される場合、ターゲットは任意選択で酸素とともに、ニッケル及びタングステンを含んでよい。ニッケル及びタングステンは別個のターゲットで提供することもできる。他のCE材料は、互いと比較して同じ組成物または異なる組成物を有してよい1つまたは複数のターゲットを使用し、同様に成膜されてよい。
【0149】
スパッタターゲットはグリッド、またはグリッドの異なる部分が異なる関連材料を含む(例えば、NiWTaO層または副層を形成するという観点から、グリッドの特定の部分はニッケル元素、タングステン元素、タンタル元素、ニッケル‐タングステン合金、ニッケル‐タンタル合金、及び/またはタングステン‐タンタル合金を含んでよい)他の重複する形状を含んでよい。一部の場合では、スパッタターゲットは関連材料の合金であってよい(例えば、NiWTaO層または副層を形成するという観点から、ニッケル、タングステン、及びタンタルの2つ以上が合金として提供されてよい)。2つ以上のスパッタターゲットが使用される場合、各スパッタターゲットは関連材料の少なくとも1つを含んでよい(例えば、NiWTaO層または副層を形成するという観点から、その内のいずれかが酸化物の形で提供できる、ニッケル、タングステン、及び/もしくはタンタルの少なくとも1つの元素形態、ならびに/または合金形態が各ターゲットに存在してよい)。スパッタターゲットは、一部の場合では重複してよい。また、スパッタターゲットは一部の実施形態では回転してもよい。上述したように、対電極層は通常酸化物材料である。酸素はスパッタターゲット及び/またはスパッタガスの一部として提供されてよい。特定の場合には、スパッタターゲットは実質的には純金属であり、スパッタリングは酸化物を形成するために酸素の存在下で行われる。
【0150】
一実施形態では、CE層の成膜の速度を正規化するために、不適切に高い出力(または所望されるプロセス条件への他の不適切な調整)の必要性を未然に防いで成膜速度を高めるように複数のターゲットが使用される。一実施形態では、CE標的(陰極またはソース)と基板表面の間の距離は約35mmと約150mmの間であり、別の実施形態では、約45mmと約130mmの間であり、別の実施形態では約70mmと約100mmの間である。
【0151】
上述したように、1つまたは複数の回転ターゲットが一部の場合に使用されてよい。多様な場合には、回転ターゲットは内部磁石を含んでよい。図6Aは回転ターゲット900の図を示す。回転ターゲット900の内部には、(ターゲットが適切な電力を供給されるときに)材料にスパッタコーン906(スパッタコーンはスパッタプラズマとも呼ばれる)内のターゲット表面904から離れてスパッタさせる磁石902がある。磁石902はスパッタターゲット900の長さに沿って伸長してよい。多様な実施形態では、磁石902は、結果として生じるスパッタコーン906がターゲットの表面904に垂直な方向(通常、スパッタコーン906の平均方向に一致する、スパッタコーン906の中心軸に沿って測定される方向)でスパッタターゲット900から生じるように半径方向で外向きに伸長するように配向されてよい。スパッタコーン906は、上方から見られるときにv形状であってよく、ターゲット900の高さ(またはターゲット900の高さと同じではない場合、磁石902の高さ)に沿って伸長してよい。回転ターゲット900内部の磁石902は、スパッタコーン906も固定されるように、固定されてよい(つまり、ターゲット900の表面904は回転するが、ターゲット900の中の磁石902は回転しない)。スパッタコーン906に示される小さい円/点は、スパッタターゲット900から生じるスパッタされた材料を表す。回転ターゲットは、所望されるように、他の回転するターゲット及び/または平面的なターゲットと結合されてよい。
【0152】
一例では、NiWTaOの陽極着色するCE層(または陽極着色するCE層の中の副層)、ニッケル及びタングステンを含む第1のターゲット、及びタンタルを含む第2のターゲット(任意選択で酸化物の形のどちらかまたは両方)を成膜するために2つの回転ターゲットが使用される。図6Bはこのように陽極着色する層または副層を成膜するための成膜システムの上から見下ろす図を示す。ニッケルタングステンターゲット910及びタンタルターゲット912は、それぞれ内部磁石914を含む。磁石914は、ニッケルタングステンターゲット910及びタンタルターゲット912からのスパッタコーン916及び918がそれぞれ重複するように互いに向かって曲げられる。また、図6Bはターゲット910及び912の前を通過する基板920を示す。示されるように、スパッタコーン916及び918は、スパッタコーン916及び918が基板920に当たる場所で密接に重なり合う。一部の実施形態では、多様なスパッタターゲットからのスパッタコーンは互いと密接に重なり合ってよい(例えば、基板上で成膜するときに単一のスパッタコーンだけが到達する重なり合わない面積は、例えばどちらかのスパッタコーンが達する総面積の約5%未満等、約10%未満である)。他の実施形態では、スパッタコーンは、スパッタコーンのどちらかまたは両方が、例えばどちらかのスパッタが達する総面積の少なくとも約10%、例えば少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約50%である重なり合わない面積を有するように互いから大きく分岐してよい。
【0153】
NiWTaO CE層(または副層)を形成する観点からも提示される、図6Bに示される実施形態に類似した実施形態では、一方のスパッタターゲットはタングステンであり、他方はニッケルとタンタルの合金である(どちらかまたは両方のターゲットとも任意選択で酸化物の形をとる)。同様に、一方のスパッタターゲットがニッケルであり、他方はタングステン及びタンタルの合金であってよい(どちらかまたは両方のターゲットとも任意選択で酸化物の形をとる)。関連する実施形態では、3つのスパッタターゲット、つまりタンタルターゲット、ニッケルターゲット、及びタングステンターゲット(そのいずれかが任意選択で酸化物の形をとることがある)が使用される。3つのターゲットのそれぞれからのスパッタコーンは、必要に応じて磁石を曲げることによって重なり合ってよい。また、遮蔽、格子、及び/または他の追加のプラズマ形成要素が、NiWTaOを形成するために適切なプラズマ混合物を作成するのを助けるために使用されてよい。同様に、他の陽極着色する対電極材料の観点から、ターゲットが形成中の関連する層または副層の中に組み込まれる(酸素以外の)材料を含むと仮定して、元素金属、合金、及び/または酸化物を含むターゲットの任意の組合せを使用できる。
【0154】
多様なスパッタターゲットの設計、向き、及び実施態様は、上記に参照により援用される米国特許第9,261,751号にさらに説明される。
【0155】
スパッタターゲットから離れてスパッタする材料の密度及び向き/形状は、例えばスパッタプラズマを生成するために使用される磁場の形状及び強度、圧力、並びに出力密度を含む多様な要因に依存する。また、各ターゲットと基板の間の距離だけではなく隣接するターゲット間の距離も、スパッタプラズマがどのようにして混合するのか及び結果として生じる材料がどのようにして基板に成膜されるのかに影響を及ぼすことがある。
【0156】
特定の実施形態では、エレクトロクロミック積層体で単一の層または副層を成膜するために、2つの異なるタイプのスパッタターゲット、つまり(a)基板上に材料をスパッタする一次スパッタターゲット、及び(b)一次スパッタターゲットの上に材料をスパッタする二次スパッタターゲットが提供される。一次スパッタターゲット及び二次スパッタターゲットは、金属、金属合金、及び成膜された層で所望される組成を達成する金属酸化物の任意の組合せを含んでよい。NiWTaO対電極材料という観点からの1つの特定の例では、一次スパッタターゲットはニッケルとタングステンの合金を含み、二次スパッタターゲットはタンタルを含む。別の例では、一次スパッタターゲットはタンタルを含み、二次スパッタターゲットはニッケルとタングステンの合金を含む。これらのスパッタターゲットは、NiWTaOの陽極着色する層(または副層)を成膜するためにともに使用されてよい。合金(例えば、ニッケル‐タンタル、タングステン‐タンタル、及び他の金属の合金)ならびに金属(例えば、ニッケル、タングステン、及び他の金属)の他の組合せも、NiWTaOまたは他の所望される材料を形成するために必要に応じて使用できる。任意のスパッタターゲットは、酸化物として提供されてよい。
【0157】
一次スパッタターゲットと二次スパッタターゲットの両方を使用するとき、いくつかの異なるセットアップが可能である。図7A及び図7Bは、多成分の陽極着色する対電極層を成膜するための成膜ステーションの一実施形態の上から見下ろす図を示す。NiWTaOを成膜する特定の観点から示されているが、本明細書に説明されるスパッタターゲット構成は、ターゲットが積層体に所望される材料を成膜するために適正組成であるならば、エレクトロクロミック積層体で任意の材料を成膜するために使用されてよい。一次スパッタターゲット1001及び二次スパッタターゲット1002が提供され、それぞれが内部磁石1003を有する。平面的なターゲットまたは他の形状のターゲットも使用されてよいが、この例の各スパッタターゲットは回転スパッタターゲットである。ターゲットは同じ方向でまたは反対方向で回転してよい。二次スパッタターゲット1002は、図7Aに示されるように、基板1004が2つのターゲット間に存在しないときに一次スパッタターゲット1001の上に材料をスパッタする。これにより、二次スパッタターゲット1002からの材料が一次スパッタターゲット1001の上に成膜される。次いで、基板1004が2つのターゲット間の位置に移動するにつれ、図7Bに示されるように、二次スパッタターゲット1002からのスパッタリングは停止し、一次スパッタターゲット1001から基板1004の上へのスパッタリングが始まる。
【0158】
材料が一次スパッタターゲット1001から離れてスパッタされ、基板1004の上に成膜されるとき、成膜された材料は、それぞれ一次スパッタターゲット及び二次スパッタターゲット1001及び1002の両方から生じた材料を含む。実際には、この方法は、一次スパッタターゲット1001における、混ぜられたスパッタターゲット表面の現場形成を含む。この方法の1つの優位点は、二次スパッタターゲット1002からの材料の新たなコーティングが一次スパッタターゲット1001の表面に周期的に成膜される点である。混ぜられた材料は、次いで、ともに基板1004に送達される。NiWTaO対電極材料を形成する観点からの特定の例では、一次スパッタターゲット及び二次スパッタターゲットのそれぞれは、任意選択で酸化物の形でタンタル、タングステン、ニッケル、及び/またはその合金の任意の組合せを含んでよい。
【0159】
図7Cに示される関係する実施形態では、二次スパッタターゲット1022は一次スパッタターゲット1021の後方に位置決めされ、基板1024は、それが2つのターゲット1021と1022の間で見通し線を遮らないように一次ターゲット1021の前を通過する。スパッタターゲットのそれぞれは磁石1023を含んでよい。この実施形態では、二次スパッタターゲット1021から一次スパッタターゲット1022の上へのスパッタリングを周期的に停止する必要はない。代わりに、係るスパッタリングは連続的に発生することがある。一次スパッタターゲット1021が基板1024と二次スパッタターゲット1022との間に位置する(例えば、二次スパッタターゲット1022と基板1024との間に見通し線がない)場合、一次スパッタターゲット1021は、一次スパッタターゲット1021の上に成膜される材料を基板1024の上にスパッタできるように回転する必要がある。二次スパッタターゲット1022の設計にはより多くの柔軟性がある。関係する実施形態では、二次スパッタターゲットは平面的なターゲットまたは他の回転していないターゲットであってよい。2つの回転ターゲットが使用される場合、ターゲットは同じ方向でまたは反対方向で回転してよい。
【0160】
類似する実施形態では、二次スパッタターゲット(例えば、図7A図7Cの二次ターゲット)は、別の二次物質源で置き換えられてよい。二次物質源は、スパッタリング以外の手段により一次スパッタターゲットに物質を提供してよい。一例では、二次物質源は一次スパッタターゲットに蒸発した物質を提供する。蒸発した物質は、成膜されている層の任意の成分であってよい。多様な例では、蒸発した物質は元素金属または金属酸化物である。蒸発した物質の特定の例は、NiWTaOの陽極着色する対電極材料を形成するために使用されてよいタンタル、タングステン、及びニッケルを含む。一実施形態では、タンタル元素は、ニッケル及びタングステンの混合物及び/または合金を含む一次スパッタターゲット上に蒸着する。また、他の材料は他の組成の層または副層を形成するためにこのようにして提供されてもよい。二次物質源が蒸発した物質を提供する場合、二次物質源は一次スパッタターゲット及び基板に対して任意の場所で提供されてよい。一部の実施形態では、二次物質源は、ほぼ図7Cに示されるセットアップのように、それが一次スパッタターゲットの後方にあり、おもに一次スパッタターゲット上に成膜するように提供される。
【0161】
一次スパッタターゲットと二次スパッタターゲットの両方が使用される場合、二次スパッタターゲットは、(すでに陰極性である)一次スパッタターゲットの電位に比較して陰極性である電位で操作されてよい。代わりに、ターゲットは個別に操作されてよい。さらに、相対的なターゲット電位とは関わりなく、二次ターゲットから排出される中性種は一次ターゲットの上に成膜する。中性原子はフラックスの一部となり、中性原子は相対電位に関わりなく陰極性の一次ターゲットの上に成膜する。
【0162】
多様な実施形態では、エレクトロクロミック積層体で1つまたは複数の材料を成膜するために反応性スパッタリングが使用されてよい。図8は、固定出力での酸素濃度の関数としてスパッタターゲットからのスパッタリング成膜速度を示す図である。図8に示されるように、ターゲットが曝露されてきた/操作されてきた、酸素濃度プロファイルに関係する強力なヒステリシス効果がある。例えば、低酸素濃度から開始し、より高い酸素濃度に増加するとき、成膜速度は、酸素濃度が、スパッタターゲットが十分に迅速にターゲットから除去できない酸化物を形成する点に達するまでかなり高く留まる。この点で、成膜速度は低下し、スパッタターゲットは基本的に金属酸化物ターゲットを形成する。酸化物ターゲットの成膜速度は、他のすべての条件が等しいとき、金属ターゲットの成膜速度よりも概してはるかに低い。図8の相対的に高い成膜速度領域は金属成膜レジームに対応する。一方、相対的に低い成膜速度は金属酸化物成膜レジームに対応する。ターゲットが当初高酸素濃度に曝露され、高酸素濃度の下で操作され、次いで相対的により低い濃度に曝露され、相対的により低い濃度の下で操作されるとき、成膜速度がより高いレベルに上がる点に酸素濃度が到達するまで、成膜速度はかなり低く留まる。図8に示されるように、これらの変化が起こる酸素濃度は、酸素濃度が増加しているのか、それとも減少しているのかに応じて異なる。レジーム変化が発生する正確な酸素濃度は、内部磁石1003のターゲット出力密度及び磁気の強度を変更することによって制御できる。例えば、一方のターゲットが(より高い出力及び/または磁気の強度に起因して)表面から金属原子の実質的により高いフラックスをスパッタする場合、そのターゲットは、金属原子の非常に低いフラックスをスパッタしているターゲットに比較すると、金属成膜レジームに留まりそうである。係るヒステリシス効果は、成膜プロセスで利益を得るために使用できる。
【0163】
エレクトロクロミック積層体で材料を成膜するために2つ以上のスパッタターゲットが使用される特定の実施形態では、1つのターゲットが金属成膜レジームで操作されてよく、別のターゲットは金属酸化物成膜レジームで操作されてよい。ターゲット出力密度、内部磁石1003の磁気の強度、及び各ターゲットが経時的に曝露される/操作される雰囲気を制御することによって、これらのレジームの両方で同時に操作することが可能である。一例では、第1のニッケルタングステンターゲットは、それが金属成膜レジームで作用するように、酸素の相対的に低い濃度に曝露され、次いで酸素の中レベルの濃度にされる。第2のタンタルターゲットは、それが金属酸化物成膜レジームで作用するように、酸素の相対的に高い濃度に曝露され、次いで酸素の中レベルの濃度にされる。2つのターゲットは次いで一緒にされ、依然として中レベル酸素濃度に曝露され、それらは両方のレジーム(金属成膜レジームの下で作用し続ける第1のターゲット及び金属酸化物成膜レジームの下で作用し続ける第2のターゲット)の下で基板上に材料を成膜するために使用される。
【0164】
ターゲットごとに異なる雰囲気曝露は多くの場合に必要とされないことがある。異なる履歴的な酸素曝露以外の他の要因により、ターゲットは異なる成膜レジームの下で作動することになる。例えば、ターゲットはターゲット内の異なる材料のために異なるヒステリシス曲線を有することがある。したがって、ターゲットは同じ雰囲気の酸素条件に履歴的にさらされ、同じ雰囲気の酸素条件下で操作されていても異なるレジームの下で作動できることがある。さらに、各ターゲットに印加される電力の量は各ターゲットによって遭遇する成膜レジームに著しく影響を及ぼすことがある。したがって、一例では、各ターゲットに印加される異なる電力のために、あるターゲットは金属成膜レジームの下で操作され、別のターゲットは金属酸化物成膜レジームの下で操作される。本手法は、ターゲットが異なる酸素濃度に曝露できるようにターゲットを互いから分離することを必要としないためより容易であることがある。ヒステリシス曲線の異なる点でターゲットを操作する1つの優位点は、成膜された物質の組成を厳密に制御できる点である。
【0165】
成膜行程の順序は第1のEC層、第2のIC層、及び最終的にCE層であると図5に示され(図2で暗示される)が、多様な実施形態では順序は逆にできることを理解されたい。言い換えると、本明細書に説明されるように、積層体層の「順次」成膜が列挙されるとき、上述した「順方向の」シーケンスと同様に、続く「逆方向の」順序、つまり第1のCE層、第2のIC層、及び第3のEC層をカバーすることが意図される。順方向のシーケンスと逆方向のシーケンスの両方とも信頼できる高品質のエレクトロクロミックデバイスとして機能できる。さらに、ここに列挙される多様なEC材料、IC材料、及びCE材料を成膜するために列挙される条件は係る材料を成膜することに制限されないことを理解されたい。他の材料は、一部の場合には同じ類似する条件下で成膜されてよい。さらに、IC層は特定の場合には省略されてよい。さらに、本明細書に説明される成膜された材料と同じまたは類似した成膜された材料を作り出すために、一部の実施形態では、スパッタリングなしの成膜条件を用いてよい。
【0166】
EC層及びCE層のそれぞれが安全に保持できる電荷の量は使用される材料に応じて変わるので、層のそれぞれの相対厚さは必要に応じて容量に適合するように制御されてよい。一実施形態では、エレクトロクロミック層は酸化タングステンを含み、対電極は(対電極層または副層で提供される)ニッケルタングステンタンタル酸化物を含み、エレクトロクロミック層対電極層の厚さの比率は約1.7:1と2.3:1の間、または約1.9:1と2.1:1の間である(約2:1が特有の例である)。
【0167】
言及されたように、EC積層体は、積層体の製造中いずれのときでも統合成膜システムを離れない統合成膜システムで製造される。一実施形態では第2のTCO層も、基板がEC積層体及びTCO層の成膜中に統合成膜システムを離れない統合成膜システムを使用し、形成される。一実施形態では、層のすべては、基板が成膜中に統合成膜システムを離れない統合成膜システムで成膜される。すなわち、一実施形態では、基板はガラス板であり、第1のTCO層と第2のTCO層との間に挟まれるEC層、任意選択のIC層、及びCE層を含む積層体が、ガラスが成膜中に統合成膜システムを離れないガラス上で製造される。本実施形態の別の実施態様では、基板は統合成膜システムに入る前に拡散障壁が成膜されたガラスである。別の実施態様では、基板はガラスであり、拡散障壁、第1のTCO層と第2のTCO層との間に挟まれるEC層、任意選択のIC層、及びCE層を含む積層体はすべて、ガラスが成膜中に統合成膜システムを離れないガラス上に成膜される。
【0168】
上述したように、リチウムは、EC層、CE層、及び/またはIC層が基板上に形成される際に、それらの層に供給されてよい。これは、例えば所与の層の他の材料(例えば、一部の場合には必要に応じて追加の元素または異なる元素とともに、タングステン及び酸素)とともにリチウムを同時にスパッタリングすることを必要とすることがある。特定の実施形態では、リチウムは別個のプロセスを介して供給され、EC層、CE層、及び/またはIC層に拡散させる、またはそれ以外の場合それらの層の中に導入させることができる。一部の実施形態では、エレクトロクロミック積層体の単一の層だけがリチオ化される。例えば、一部の例では、陽極着色するCE層(またはその中の副層)だけがリチオ化される。他の場合では、陰極着色するEC層がリチオ化される。さらに他の場合には、IC層だけがリチオ化される。他の実施形態では、EC層、IC層、及びCE層(副層を含む)の2つ以上がリチオ化される。リチオ化のための特定の条件は、上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。
【0169】
一部の実施形態では、エレクトロクロミック積層体は、間にイオン伝導性層なしにエレクトロクロミック層と直接的に物理的に接触する対電極層または副層を含む。一部の係る場合、エレクトロクロミック層及び/または対電極層は、これらの層の他方と接触する酸素が豊富である部分(例えば、多様な場合、酸素が豊富である副層または傾斜層の酸素が豊富である部分)を含んでよい。酸素が豊富である部分は、エレクトロクロミック層及び/または対電極層の残りの部分でよりも高い酸素濃度を有するエレクトロクロミック材料または対電極材料を含んでよい。係る設計に従って製造されるエレクトロクロミックデバイスは、上記に参照により援用される、2010年4月30日に出願された米国特許第8,300,298号でさらに論ぜられ、説明される。
【0170】
開示されている実施形態の一態様では、エレクトロクロミックデバイスを製造する方法が提供され、方法は、陰極着色するエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層を成膜することと、対電極層を成膜することとを含む。対電極層は、a、b、及びdがゼロより大きいNiを含む第1の陽極色合い付与する副層を成膜すること、e、f、及びhがゼロより大きく、cとgの少なくとも1つがゼロより大きく、AとBのそれぞれが、存在するとき、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ヒ素(As)、金(Au)、ホウ素(B)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ユーロピウム(Eu)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ガドリニウム(Gd)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、水銀(Hg)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、オスミウム(Os)、プロトアクチニウム(Pa)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、ポロニウム(Po)、プラチナ(Pt)、ラジウム(Ra)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アンチモン(Sb)、スカンジウム(Sc)、セレン(Se)、ケイ素(Si)、サマリウム(Sm)、スズ(Sn)、ストロンチウム(Sr)、タンタル(Ta)、テルビウム(Tb)、テクネチウム(Tc)、テルル(Te)、トリウム(Th)、チタン(Ti)、タリウム(Tl)、ウラン(U)、バナジウム(V)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)から成るグループから無関係に選択されるNiを含む第2の陽極色合い付与する副層を成膜すること、及び対電極層の1つまたは複数の陽極色合い付与する副層をリチオ化することであって、第1の陽極色合い付与する副層はエレクトロクロミック層と第2の陽極色合い付与する副層との間に配置され、第1の陽極色合い付与する副層及び第2の陽極色合い付与する副層は異なる組成を有する対電極層の1つまたは複数の陽極色合い付与する副層をリチオ化すること、によって成膜される。エレクトロクロミックデバイスは、本明細書に説明される材料/材料の組合せ/構造の組合せのいずれかを含むように製造されてよい。
【0171】
上述したように、特定の実施形態では、エレクトロクロミック積層体の製造は統合成膜システムにおいて行われる。係る統合システムは、真空を破壊することなく積層体内で多様な層の成膜を可能にしてよい。他の場合では、積層体内の1つまたは複数の層が、保護された真空環境からの取り出しを必要とするプロセスによって成膜されてよい。例えば、一部の場合では、1つまたは複数の層(例えば、陰極着色するEC層)が、物理気相成長法を使用し真空下で基板に成膜され、次いで基板は真空から取り出され、イオン伝導体層はゾルゲル(または他の無真空)プロセスを使用し、成膜され、次いで基板は陽極着色する対電極層の成膜のために真空環境に戻される。ゾルゲルプロセスは、小さい分子から固形物を作り出すことを含む。モノマーは別個の粒子の統合ネットワークまたはネットワークポリマーのための前駆体として働くコロイド溶液に変換される。成膜されてよいイオン伝導体材料の例は、例えばシリカベース構造、ケイ酸リチウム、ケイ酸アルミニウムリチウム、ホウ酸リチウムアルミニウム(lithium aluminum borate)、ホウ酸リチウム、ケイ酸リチウムジルコニウム、ニオブ酸リチウム、ホウケイ酸リチウム、リンケイ酸リチウム、窒化リチウム、フッ化アルミニウムリチウム、及び他の係るリチウムベースのセラミック材料、シリカ、または酸化ケイ素、二酸化ケイ素、及び酸化タンタルを含む。
【0172】
<多段階熱化学調整>
いったん積層体が成膜されると、デバイスには多段階熱化学調整(MTC)プロセスが実行されてよい。この調整プロセスは、デバイスがこのような別個のイオン伝導性層なしに成膜される実施形態で、デバイスの中でのイオン伝導性領域の形成を促進してよい。MTCプロセスは、上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。
【0173】
特定の実施形態では、エレクトロクロミックデバイスを製造するために異なるプロセスフローが使用されてよい。代替プロセスフローは、その全体として参照により本明細書に援用される、2014年6月4日に出願され、「THIN‐FILM DEVICES AND FABRICATION」と題する米国特許出願第14/362,863号にさらに説明される。
【0174】
<統合成膜システム>
上記に説明されたように、統合成膜システムは、例えば建築用ガラス上でエケレクトロクロミックデバイスを製造するために利用されてよい。上述したように、エレクトロクロミックデバイスは、同様にエレクトロクロミック窓を作るために使用されるIGUを作るために使用される。用語「統合成膜システム」は、光学的に透明な基板及び半透明な基板上にエレクトロクロミックデバイスを製造するための装置を意味する。装置は、それぞれが、係るデバイスまたはその部分の洗浄、エッチング、及び温度制御だけではなく、エレクトロクロミックデバイスの特定の構成要素(または構成要素の一部分)を成膜する等の特定のユニット行程を専門に行う複数のステーションを有する。複数のステーションは、エレクトロクロミックデバイスが外部環境に曝露されることなく、製造されている基板があるステーションから次のステーションに移動できるように完全に統合されている。統合成膜システムは、プロセスステーションが位置するシステム内部の制御された周囲環境で動作する。完全に統合されたシステムは、成膜される層の間の界面特性のより優れた制御を可能にする。界面特性は、他の要因の中でも、層間の接着性、界面領域での汚染物質がないことを指す。用語「制御された周囲環境」は、開放大気環境またはクリーンルーム等の外部環境から分離された密閉環境を意味する。制御された周囲環境では、圧力及びガス組成の少なくとも1つは外部環境の状況とは独立して制御される。概して、必ずしもそうではないが、制御された周囲環境は、大気圧以下の圧力、例えば少なくとも不完全真空を有する。制御された周囲環境での状況は処理行程中一定のままとなることもあれば、経時的に変わることもある。例えば、エレクトロクロミックデバイスの層は制御された周囲環境の真空下で成膜されてよく、成膜行程の終わりには、環境は、パージガスまたは試薬ガスで再充填されてよく、別のステーションでの処理のために圧力を例えば大気圧まで高め、次いで次の操作のために真空が確立し直されてよい等である。
【0175】
一実施形態では、システムは直列に位置合わせされ、相互接続され、外部環境に基板を曝露することなくあるステーションから次のステーションに基板を移動するよう作動する複数の成膜ステーションを含む。複数の成膜ステーションは(i)陰極着色するエレクトロクロミック層を成膜するための1つまたは複数のターゲットを含む第1の成膜ステーション、(ii)イオン伝導性層を成膜するための1つまたは複数のターゲットを含む第2の(任意選択の)成膜ステーション、及び(iii)対電極層を成膜するための1つまたは複数のターゲットを含む第3の成膜ステーションを含む。第2の成膜ステーションは特定の場合には省略されてよい。例えば、装置は別個のイオン伝導体層を成膜するための任意のターゲットを含まないことがある。
【0176】
さらに、積層体の層のいずれかは2つ以上のステーションで成膜されてよい。例えば、対電極が2つ以上の副層を含むように成膜される場合、副層のそれぞれは異なるステーションで成膜されてよい。代わりにまたはさらに、層の中の2つ以上の副層は、一部の場合、同じステーション内の異なるターゲットを使用し、同じステーションの中で成膜されてよい。一例では、対電極は単一のステーションで成膜され、変化する組成の副層(材料の他の組合せも使用されてよいが、例えば、NiWO副層及び1つまたは複数のNiWTaO副層)を含む。異なる組成物のターゲットは、所望されるように副層を成膜するためにステーションの異なる部分で提供されてよい。別の例では、対電極は2つのステーション、つまり第1の対電極材料(例えば、NiWO、または別の陽極着色する対電極材料)の第1の副層(例えば、薄いフラッシュ層)を成膜する第1のステーション、及び第2の(または追加の)対電極材料(複数可)(例えば、NiWTaOまたは別の陽極着色する対電極材料の1つまたは複数の副層)の1つまたは複数の追加の副層を成膜する第2のステーションで成膜されてよい。別の実施形態では、異なる組成物を有するそれぞれの層または副層を成膜するために専用のステーションが設けられる。例えば、第1のステーションは第1の組成物(例えば、NiWO)を有する第1の副層を成膜するために設けられてよく、第2のステーションは第2の組成物(例えば、約7%のタンタルを含むNiWTaO)を有する第2の副層を成膜するために設けられてよく、第3のステーションは第3の組成物(例えば、約14%のタンタルを含むNiWTaO)を有する第3の副層を成膜するために設けられてよい。
【0177】
また、システムは、積層体を形成するために(本明細書に説明されるように)基板に(i)エレクトロクロミック層、(ii)(任意選択の)イオン伝導性層、及び(iii)対電極層を順次成膜するように、基板に複数のステーションを通過させるためのプログラム命令を含むコントローラも含む。一実施形態では、複数の成膜ステーションは真空を破壊することなくあるステーションから次のステーションに基板を移動するよう作動する。別の実施形態では、複数の成膜ステーションは、建築用ガラス基板にエレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導性層、及び対電極層を成膜するように構成される。別の実施形態では、統合成膜システムは、複数の成膜ステーションにいる間、建築用ガラス基板を垂直向きで保持するよう作動する基板ホルダー輸送機構を含む。さらに別の実施形態では、統合成膜システムは、外部環境と統合成膜システムとの間で基板を移動するための1つまたは複数のロードロックを含む。別の実施形態では、複数の成膜ステーションは、陰極着色するエレクトロクロミック層、イオン伝導性層、及び陽極着色する対電極層から成るグループから選択される層を成膜するための少なくとも2つのステーションを含む。
【0178】
一部の実施形態では、統合成膜システムは、それぞれがリチウム含有ターゲットを含む1つまたは複数のリチウム成膜ステーションを含む。一実施形態では、統合成膜システムは2つ以上のリチウム成膜ステーションを含む。一実施形態では、統合成膜システムは動作中に個々のプロセスステーションを互いから分離させるための1つまたは複数の遮断弁を有する。一実施形態では、1つまたは複数のリチウム成膜ステーションは遮断弁を有する。本書では、用語「遮断弁」は、あるステーションで実行されている成膜または他のプロセスを、統合成膜システムの他のステーションでのプロセスから分離させるための装置を意味する。一例では、遮断弁は、リチウムが成膜される間に関与する統合成膜システムの中の物理的な(固体)遮断弁である。実際の物理的な固体の弁は、統合成膜システムの他のプロセスまたはステーションからリチウム成膜を完全にまたは部分的に分離させる(遮断する)ために関与してよい。別の実施形態では、遮断弁は気体ナイフまたは気体シールドであってよく、例えばアルゴンまたは他の不活性ガスの分圧はリチウム成膜ステーションと他のステーションとの間の領域を通されて、他のステーションへのイオンの流れを遮る。別の例では、遮断弁は、排出領域に進入するリチウムイオンまたは他のステーションからのイオンが、隣接プロセスを汚染するのではなく、例えば廃液流に除去されるように、リチウム成膜ステーションと他のプロセスステーションとの間の排出領域であってよい。これは、リチウム成膜が、統合成膜システムの他のプロセスから十分に分離されるように、統合成膜システムのリチオ化ステーションでの差圧によって、例えば制御された周囲環境において流体動態を介して達成される。繰り返しになるが、遮断弁はリチウム成膜ステーションに限定されるものではない。
【0179】
図9Aは、特定の実施形態に係る統合成膜システム800を概略で示す。この例では、システム800は、システムに基板を導入するための入口ロードロック802、及びシステムから基板を導出するための出口ロードロック804を含む。ロードロックは、システムの制御された周囲環境を乱すことなく基板を導入し、システムから導出することを可能にする。統合成膜システム800は、複数の成膜ステーション、例えばEC層成膜ステーション、IC層成膜ステーション、及びCE層成膜ステーションを有するモジュール806を有する。広義では、統合成膜システムはロードロックを有する必要はなく、例えばモジュール806は単独で統合成膜システムとしての機能を果たすことができる。例えば、基板は、モジュール806にロードされてよく、制御された周囲環境を確立し、次いで基板はシステム内の多様なステーションを通して処理されてよい。統合成膜システムの中の個々のステーションは加熱器、冷却器、多様なスパッタターゲット及び該スパッタターゲットを移動するための手段、RF電源及び/またはDC電源及び電源供給機構、例えばプラズマエッチング等のエッチングツール、ガス源、真空源、グロー放電源、プロセスパラメータモニタ及びプロセスパラメータセンサ、ロボット、電源等を含むことがある。
【0180】
図9Bは、斜視図で、及び内部の切断図を含むより多くの詳細とともに統合成膜システム800のセグメント(または簡略化されたバージョン)を示す。この例では、システム800はモジュール方式であり、入口ロードロック802及び出口ロードロック804は成膜モジュール806に接続されている。例えば建築用ガラス基板825をロードするための入口ポート810がある(ロードロック804は対応する出口ポートを有する)。基板825は、トラック815に沿って移動するパレット820によって支持される。この例では、パレット820は下降傾斜を介してトラック815によって支持されるが、パレット820は装置800の底部近くに位置するトラック、または例えば、装置800の上部と底部との間の通路等のトラックの頂上で支持することもできる。パレット820は、システム800を通して前方及び/または後方に(両矢印によって示されるように)並進できる。例えば、リチウム成膜中、基板はリチウムターゲット830の前で前方及び後方に移動され、所望されるリチオ化を達成するために複数回通過してよい。パレット820及び基板825は実質的に垂直に配向されている。実質的に垂直な配向は、これに制限されるものではないが、例えばスパッタリングからの原子の凝集から生成される粒状物質は重力に屈する傾向があり、基板825に成膜しないため、実質的に欠陥を防ぐのに役立ってよい。また、建築用ガラス基板は大きくなる傾向があるため、基板が統合成膜システムのステーションを横切る際に、基板を垂直に配向することは、より厚い熱いガラスで発生するたるみに対する懸念が少ないので、より薄いガラス基板のコーティングを可能にする。
【0181】
ターゲット830は、この場合は円筒形のターゲットであるが、成膜を実行する(便宜上、他のスパッタ手段はここでは示されない)基板表面に実質的に平行にかつ基板表面の前で配向される。基板825は成膜中ターゲット830を通り過ぎて並進できる、及び/またはターゲット830は基板825の前を移動できる。ターゲット830の移動経路は基板825の経路に沿った並進に制限されない。ターゲット830はその長さ方向の軸に沿って回転し、基板の経路に沿って(前方に及び/または後方に)並進し、基板の経路に垂直な経路に沿って並進し、基板825に平行な面内での円状の経路で移動する等であってよい。ターゲット830は円筒形である必要はなく、ターゲット830は平面的または所望される特性を有する所望される層の成膜に必要な任意の形状とすることができる。また、各成膜ステーションに複数のターゲットがあってよく、及び/またはターゲットは所望されるプロセスに応じてステーション間で移動してよい。
【0182】
また、統合成膜システム800は、システムの中で制御された周囲環境を確立し、維持する多様な真空ポンプ、気体流入口、圧力センサ等も有する。これらの構成要素は図示されていないが、当業者によって当然理解されるだろう。システム800は、LCD及びキーボード835によって図9Bで表される、例えばコンピュータシステムまたは他のコントローラを介して制御される。当業者は、本明細書の実施形態が1つまたは複数のコンピュータシステムに記憶される、または1つまたは複数のコンピュータシステムを通して転送されるデータを含む多様なプロセスを利用してよいことを理解するだろう。また、実施形態は、これらの操作を実行するためのコンピュータ及びマイクロコントローラ等の装置にも関する。これらの装置及びプロセスは、本明細書の方法及び方法を実行するように設計された装置に係るエレクトロクロミック材料を成膜するために利用されてよい。制御装置は、必要とされる目的のために特別に構築されてよい、または制御装置はコンピュータに記憶されるコンピュータプログラム及び/またはデータ構造によって選択的に作動または再構成される汎用コンピュータであってよい。本明細書に示されるプロセスは任意の特定のコンピュータまたは他の装置に本質的に関係していない。特に多様な汎用機械は本明細書の教示に従って作成されるプログラムと共に使用されてよい、または必要とされる方法及びプロセスを実行する及び/または制御する、より専門化された装置を構築する方がより便利なことがある。
【0183】
上述したように、統合成膜システムの多様なステーションはモジュール方式であってよいが、いったん接続されると、システムの中の多様なステーションで基板を処理するために制御された周囲環境が確立され、維持される連続システムを形成する。図9Cは、システム800に類似する統合成膜システム800aを示すが、この例ではステーションのそれぞれ、具体的にはEC層ステーション806a、IC層ステーション806b、及びCE層ステーション806cはモジュール方式である。類似した実施形態では、IC層ステーション806bは省略される。モジュール方式の形は必要ではないが、カスタムニーズ及び新たに出現するプロセスの進歩に従って、必要性に応じて統合成膜システムを組み立てることができるため、モジュール方式の形は便利である。例えば、リチウム成膜ステーション(不図示)は、多様な層及び副層に、所望されるようにリチウムを提供するために関連する場所で挿入できる。
【0184】
図9Dは、統合成膜システム800dの実施形態を示す。本実施形態では、統合成膜システム800dは、入口ロードロック802、陰極着色するエレクトロクロミック材料の副層を成膜するための2つのステーション850及び851、陽極着色する対電極材料の副層を成膜するための2つのステーション852及び853、ならびに出口ロードロック804を含む。陰極着色するエレクトロクロミック材料の第1の副層はステーション850で成膜される。陰極着色するエレクトロクロミック材料の第2の副層はステーション851で成膜され、特定の場合、ステーション850で成膜される酸素が豊富である形のエレクトロクロミック材料であってよい。本実施形態では、イオン導電体層を成膜するための別個のステーションはない。エレクトロクロミック材料の第2の副層が成膜された後、陽極着色する対電極材料の第1の副層がステーション852で成膜されてよい。第1の副層は、例えばNiWOまたは本明細書に説明される別の陽極着色する材料のフラッシュ層であってよい。次に、陽極着色する対電極材料の第2の副層は、ステーション853で成膜されてよい。この層は本明細書に説明される任意の組成を有してよく、一実施形態ではNiWTaOである。多様な場合、第2のCE層ステーション853(またはCE材料を成膜するように構成される任意の他のステーション)は、傾斜組成物を有する副層を成膜するように構成される。
【0185】
図9Eは、統合成膜システム800eの追加の実施形態を示す。本実施形態は図9Dに示されている実施形態に類似し、簡潔にするために、相違点だけが説明される。図9Eの成膜システムでは、リチオ化ステーション854は第2の対電極ステーション853の後に組み込まれる。類似する実施形態では、追加のリチオ化ステーションが設けられてよい。さらに、リチオ化ステーションは、例えばステーション850と851との間、ステーション851と852との間、ステーション852と853との間、ステーション853の間、及び/またはステーション855と856との間等、図9Eに示される多様な対のステーション間に配置されてよい。
【0186】
さらに、キャッピング層ステーション855は、リチオ化ステーション854の後に含まれる。キャッピング層ステーション855は、キャッピング層を成膜するために使用されてよい。キャッピング層は、EC層またはCE層とTCOとの間でエレクトロクロミックデバイスに追加された層として定義される。いくつかの実施形態では、キャッピング層は陽極着色する材料である。例えば、一部の場合、キャッピング層は、対電極層の副層の1つまたは複数で陽極着色する材料と同じエレメントを含む(例えば、キャッピング層は、第1の副層、第2の副層等に存在する同じエレメントを含んでよい)。一例では、キャッピング層はNiWOから作られ、キャッピング層のNiWOの組成は、例えば対電極層の第1の副層で等、デバイスの他の場所で使用されるNiWOの組成と同じまたは異なってよい。別の例では、キャッピング層はNiWTaO、NiWSnO、NiWNbO、または別の陽極着色する対電極材料から作られてよく、キャッピング層の組成は、例えば対電極層の第2の副層で等、デバイスの他の部分で使用されるこの材料の組成と同じまたは異なってよい。キャッピング層は陽極着色する材料から作られてよいが、多様な実施形態では、このキャッピング層は完成したデバイスではエレクトロクロミック作用を示さない。特定の実施形態では、キャッピング層は約1と約5×1010オーム‐cmの間の電子抵抗性を有してよい。また、統合成膜システム800eは、透明導電性酸化物(TCO)の層を成膜するためのステーション856も含む。一部の実施形態では、この層は酸化インジウムスズ(ITO)であってよい。
【0187】
また、図9A図9Eに示される統合成膜システム等の統合成膜システムは、EC積層体にTCO層を成膜するためのTCO層ステーション(図9A図9Dでは不図示)を有してもよい。プロセスの要求に応じて、例えば、加熱プロセス/焼き戻しプロセス、洗浄プロセス、レーザー切込、回転プロセス、キャッピング層、欠陥軽減絶縁層(DMIL)、MTC等のためのステーション等、追加のステーションが統合成膜システムに追加できる。
【0188】
上記の実施形態は理解を容易にするために、ある程度詳細に説明されてきたが、説明されている実施形態は例示的と見なされるべきであり、制限的と見なされるべきではない。特定の変更及び変更形態が添付の特許請求の範囲の範囲内で実施できることは当業者に明らかである。
[項目1]
エレクトロクロミックデバイスであって、
基板と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って配置され、陰極色合い付与するエレクトロクロミック材料を備えるエレクトロクロミック層と、
前記基板上にまたは前記基板を覆って同様に配置される、陽極色合い付与する対電極層であって、前記陽極色合い付与する対電極層が(a)第1の酸化ニッケルタングステン組成物を備える第1の副層、及び(b)第2の酸化ニッケルタングステン組成物を備える第2の副層を備え、前記第1及び第2の酸化ニッケルタングステン組成物は異なる相対量のニッケル(Ni)及び/またはタングステン(W)を有し、前記第1の副層は前記エレクトロクロミック層と前記第2の副層との間に配置される、
エレクトロクロミックデバイス。
[項目2]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)またはそれらの組合せをさらに有する、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目3]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、タンタル(Ta)を有する、項目2に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目4]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、ニオブ(Nb)を有する、項目2に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目5]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、スズ(Sn)を有する、項目2に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目6]
前記第1の酸化ニッケルタングステン組成物は、さらにタンタル(Ta)を有し、前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、前記第1の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のタンタル(Ta)を含む、項目3に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目7]
前記第1の酸化ニッケルタングステン組成物は、さらにニオブ(Nb)を有し、前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、前記第1の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のニオブ(Nb)を含む、項目4に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目8]
前記第1の酸化ニッケルタングステン組成物は、さらにスズ(Sn)を有し、前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、前記第1の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のスズ(Sn)を含む、項目5に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目9]
前記陽極色合い付与する対電極層は、さらに第3の酸化ニッケルタングステン組成物を備える第3の副層を備え、前記第1、第2および第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、異なる相対量のニッケル(Ni)及び/またはタングステン(W)を有し、前記第2の副層は、前記第1の副層と前記第2の副層との間に配置される、項目2に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目10]
前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)またはそれらの組合せをさらに有する、項目9に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目11]
前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、タンタル(Ta)を有する、項目10に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目12]
前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、ニオブ(Nb)を有する、項目10に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目13]
前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、スズ(Sn)を有する、項目10に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目14]
前記第2および第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、それぞれさらにタンタル(Ta)を有し、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のタンタル(Ta)を含む、項目11に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目15]
前記第2および第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、それぞれさらにニオブ(Nb)を有し、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のニオブ(Nb)を含む、項目12に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目16]
前記第2および第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、それぞれさらにスズ(Sn)を有し、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は、前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物が含むよりも大きい濃度のスズ(Sn)を含む、項目13に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目17]
前記陽極色合い付与する対電極層は、さらに第3の酸化ニッケルタングステン組成物を備える第3の副層を備え、前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は金属M1をさらに備え、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は金属M2をさらに備え、前記金属M1及びM2は互いに異なっている、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目18]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物には実質的に前記金属M2がなく、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物には実質的に前記金属M1がない、項目17に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目19]
前記陽極色合い付与する対電極層の前記第1の副層は、約10nmと約80nmとの間の厚さを有するフラッシュ層である、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目20]
前記フラッシュ層の厚さは、約10nmと約50nmとの間である、項目19に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目21]
前記フラッシュ層の厚さは、約10nmと約30nmとの間である、項目20に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目22]
前記第1の副層は、約1と5×1010オームcmの間の電子抵抗を有する、項目19に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目23]
前記第1の副層は、約1と5×1010オームcmの間の電子抵抗を有する、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目24]
前記陽極色合い付与する対電極層の前記第1及び第2の副層のそれぞれは、約20nmと約200nmとの間の厚さを有する、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目25]
前記第1の副層の厚さは、前記第2の副層の厚さと約50nmと約200nmとの間で異なる、項目24に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目26]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は約2~10%原子のタンタル(Ta)を含み、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物は約5~20%原子のタンタル(Ta)を含む、項目14に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目27]
前記第1の副層が酸化ニッケルタングステンから実質的に成り、前記第2の副層が約2~10%原子の間のタンタル(Ta)であるニッケルタングステンタンタル酸化物から実質的に成り、前記第3の副層が約5~20%原子の間のタンタル(Ta)であるニッケルタングステンタンタル酸化物から実質的に成る、項目26に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目28]
前記第2の副層の前記ニッケルタングステンタンタル酸化物が約4%原子のタンタル(Ta)であり、前記第3の副層の前記ニッケルタングステンタンタル酸化物が約8%原子のタンタル(Ta)である、項目27に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目29]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物が約2~10%原子の間のニオブ(Nb)を備え、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物が約5~20%原子の間のニオブ(Nb)を備える、項目15に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目30]
前記第1の副層が酸化ニッケルタングステンから実質的に成り、前記第2の副層が約2~10%原子の間のニオブ(Nb)であるニッケルタングステンニオブ酸化物から成り、前記第3の副層が約5~20%原子の間のニオブ(Nb)であるニッケルタングステンニオブ酸化物から成る、項目29に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目31]
前記第2の副層の前記ニッケルタングステンニオブ酸化物は約4%原子のニオブ(Nb)であり、前記第3の副層の前記ニッケルタングステンニオブ酸化物は約8%原子のニオブ(Nb)である、項目30に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目32]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物が約2~10%原子の間のスズ(Sn)を備え、前記第3の酸化ニッケルタングステン組成物が約5~20%原子の間のスズ(Sn)を備える、項目16に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目33]
前記第1の副層が酸化ニッケルタングステンから実質的に成り、前記第2の副層が約2~10%原子の間のスズ(Sn)であるニッケルタングステンスズ酸化物から実質的に成り、前記第3の副層が約5~20%原子の間のスズ(Sn)であるニッケルタングステンスズ酸化物から実質的に成る、項目32に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目34]
前記第2の副層の前記ニッケルタングステンスズ酸化物が約4%原子のスズ(Sn)であり、前記第3の副層の前記ニッケルタングステンスズ酸化物が約8%原子のスズ(Sn)である、項目33に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目35]
前記第2の酸化ニッケルタングステン組成物は、前記第1の酸化ニッケルタングステン組成物には存在しない金属をさらに備える、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目36]
前記陽極色合い付与する対電極層の前記第1及び第2の副層の少なくとも1つは、傾斜組成物を備える、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
[項目37]
前記陽極色合い付与する対電極層の前記第1及び第2の副層はそれぞれ、非晶相及びナノ結晶相の、約50nm未満の直径を有するナノ微結晶との混合物である形態を有する、項目1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
【外国語明細書】