(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141793
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】運動に関連する神経障害を予防および治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022113072
(22)【出願日】2022-07-14
(62)【分割の表示】P 2019026571の分割
【原出願日】2012-05-31
(31)【優先権主張番号】61/491,860
(32)【優先日】2011-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513304024
【氏名又は名称】クラレンシュウ・プロプライエタリー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】ウィリス,グレゴリー・リン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】運動に関連する神経障害を予防または治療する方法を提供する。
【解決手段】眼の光療法を、投薬計画など運動に関連する神経障害に対する通常療法と共に使用して、対象の身体におけるメラトニンおよび/またはドーパミンのレベルを調整することを含む。眼の光療法は、高いレベルの青緑色光または緑色光(例えば、460nm~570nm、490nm~570nm、約520nm~570nmの波長範囲内の光など)を含み得、低いレベルの琥珀色、橙色、および/または赤色光を含んでもよい。さらに、運動に関連する神経障害を診察する方法は、眼の光療法の使用によって、対象がかかりやすくまたは対象がすでに経験しているかもしれない運動に関連する何らかの神経障害の1つ以上の症状を対象が一時的に示すことを含む構成とする。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動に関連する神経障害に対処する方法であって、
対象が経験する運動に関連する神経障害を診察すること、
光療法を処方すること、および
当該光療法を実施すること
を含む方法。
【請求項2】
当該光療法の処方が、少なくとも青色範囲の波長の1つ、緑色範囲の波長の1つ、青緑色範囲の波長の1つにおける周囲を超えるピーク、および周囲を下回るレベルの琥珀色、橙色、または赤色波長を含む光療法の強化された過程を当該対象に処方することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処方が、周囲を超える強度の緑色光を有する光療法の緑色光を強化した過程を処方することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
処方が、周囲を超える狭帯域単独強度を有する当該ピークを用いた光療法の当該緑色、青緑色、または青色光を強化した過程を処方することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
当該光療法の処方が、光療法の琥珀色、橙色、または赤色光が不十分な過程を当該対象に処方することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
当該光療法の処方が、当該対象に実施される少なくとも1日1回の時刻および少なくとも1期間の光療法を処方することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
当該実施が、当該光療法を1回/日実施すること、および当該運動に関連する神経障害を治療するための薬物を複数回/日投与することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
当該光療法の処方が、同じスペクトル構成の当該光療法を各日の中で複数回用に処方することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
当該光療法の処方が、複数回依存性スペクトル構成の当該光療法を処方することを含み、当該複数回依存性スペクトル構成の1回依存性スペクトル構成が、当該日の間の特定の少なくとも1回に対応する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
光療法の処方が、ドーパミン作動性反応を刺激するための光療法を処方することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
実施が、光療法の過程を当該対象に経眼実施することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
診断が、当該対象を孤立帯域幅の琥珀色、橙色、および赤色光の少なくとも1つに眼曝露することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
診断が、570nm~750nmの波長が460nm~570nmの波長の総強度より高い総強度を有する光に当該対象を眼曝露することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
琥珀色、橙色、および赤色放射線のうちの少なくとも1つに当該対象を眼曝露すると、少なくとも1つの運動に関連する神経障害の少なくとも1つの症状が亢進する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
琥珀色、橙色、および赤色放射線のうちの少なくとも1つに当該対象を眼曝露することが、570nmを超えて約750nmまでの範囲内の少なくとも1つの波長の光を当該対象にあてることを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
当該運動に関連する神経障害を治療するための医薬品の投薬量を含む薬物療法を処方することを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
当該光療法を反復実施した後、当該運動に関連する神経障害を治療するための治療の変更過程において当該対象に投与される当該医薬品の投与量を低減することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
当該光療法の処方および当該薬物療法の処方が、当該光および薬物療法を最適な実施スケジュールに従って処方することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
当該最適な実施スケジュールに従った当該光および薬物療法の処方が、当該光および薬物療法を、当該光療法と当該薬物療法が異なる時刻に実施されるように処方することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
当該最適な実施スケジュールに従った当該光および薬物療法の処方が、当該薬物療法の実施を所定の時刻に終了することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
運動に関連する神経障害に対処するためのシステムであって、
運動に関連する神経障害または当該運動に関連する神経障害の少なくとも1つの症状を治療するための医薬品;および
当該運動に関連する神経障害または当該運動に関連する神経障害の当該症状の治療用の波長に少なくとも1つのピークを有する光を経眼送達するための光療法装置
を含むシステム。
【請求項22】
当該光療法装置が当該光を送達し、当該運動に関連する神経障害または当該運動に関連する神経障害の当該症状を増悪させる光を、周囲を下回るレベルで送達する、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
運動に関連する神経障害を診断する方法であって、
当該対象が当該運動に関連する神経障害にかかりやすい場合に当該対象が運動に関連する神経障害の少なくとも1つの症状を示すことになるような方法で、琥珀色、橙色、および赤色光のうちの少なくとも1つに対象を眼曝露することを含む方法。
【請求項24】
眼曝露が、当該少なくとも1つの運動に関連する神経障害の少なくとも1つの症状を一時的に増悪させる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
眼曝露によって、医師が様々な運動に関連する病態間を区別し、または運動に関連する病態の重症度を判断することが可能になる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
眼曝露が、琥珀色、橙色、および赤色光の少なくとも1つを中心にしたピークを有する1つ以上の孤立帯域幅を含む光を当該対象にあてることを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
実施が、570nmを超えて約750nmまでの範囲内の1つ以上の孤立帯域幅を当該対象にあてることを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
実施が、当該対象にあてられる光から570nm以下の波長の光をフィルタリングすることを含む、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年5月31日に出願された発明の名称が「運動に関連する神経障害を予防および治療する方法(METHODS FOR PREVENTING AND TREATING MOTOR RELATED NEUROLOGICAL CONDITIONS)」)である先願の米国特許仮出願第61/491,860号の優先権を主張するものであり、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、全体として運動に関連する神経障害(motor-related neurological condition)を予防または治療する方法に関し、さらに具体的には対象の身体によるドーパミン作動性反応(dopaminergic response)を刺激することを含む方法であって、運動に関連する神経障害の初発および/もしくは続発症状を低減もしくは取り除くために、または運動に関連する神経障害を予防もしくは治療するために、対象の身体内におけるメラトニン、ドーパミン、セロトニン、および/またはそれらの類似体もしくは誘導体などのモノアミンの1種以上のレベルを調整することを含んでもよい方法に関する。特定の態様において、本発明は、運動に関連する神経障害の症状を低減または取り除き、変性神経疾患の進行を停止し、または運動に関連する神経障害を予防もしくは治療するようにメラトニンおよび/もしくはメラトニン類似体のレベルならびに/またはドーパミンおよび/もしくはドーパミン誘導体のレベルを調整するための、1種以上の従来療法と組み合わせた光療法の使用に関する。本発明の態様において、運動に関連する神経障害に対処するために、光療法を薬物療法と共に用いてもよい。
【背景技術】
【0003】
「運動障害」と呼ぶこともある運動に関連する神経障害および他の神経精神障害は、典型的には中枢神経系におけるニューロンの変性に起因する。ニューロンが変性するにつれて、ニューロンが神経伝達物質を運搬するまたはその他の方法で利用する能力は縮小することがあり、当技術分野において「アミン機能の低下」として公知の現象である。特に、パーキンソン病および他の多くの運動に関連する神経障害を患う対象において、いわゆる「黒質線条体ドーパミン」(NSD)系におけるニューロンの変性によって、これらのニューロンのドーパミンを伝達する能力が低下し、NSD系のニューロンが隣接ニューロンと情報交換する能力が低下する。この情報交換の崩壊によって、運動制御が典型的には進行的かつ永久的に失われる。
【0004】
運動制御の喪失を阻止する試みには、ドーパミンの自然産生を低減することなく、ドーパミンのように作用するドーパミン前駆体、ドーパミン類似体、および酵素修飾薬(例えば、L-ドーパなど)の投与が含まれる。NSD系の残存する機能性ニューロンにドーパミン類似体を与えることによって、これらのニューロンが情報交換する割合が高まる可能性があり、運動に関連する神経障害を患う対象が経験する運動制御の喪失を少なくともいくらか人為的に回復させる可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、運動に関連する神経障害の症状を低減または取り除く方法または運動に関連する神経障害を予防または治療する方法を含む。本発明の教示を組み込む方法は、従来療法(例えば、薬物の投与など)と共に有用なことがあり、かつ運動に関連する神経障害に対処するために必要とされる従来療法(例えば、薬物の投薬量など)の範囲を低減することがある。本明細書では、「運動に関連する神経障害」は、運動に関連する初発神経障害と、運動に関連する初発神経障害に随伴するまたは起因することがある続発の病態または症状とを包含する。「対処する(address)」および「対処すること(addressing)」と
いう用語は、「運動に関連する神経障害」に関連して使用されるとき、運動に関連する神経障害の症状を低減または取り除くこと、ならびに運動に関連する神経障害そのものを予防および治療することを指す。
【0006】
様々な態様において、本発明による方法は、対象の身体によるドーパミン作動性反応を刺激し、かつ/または対象の身体内におけるメラトニン、ドーパミン、セロトニン、ならびにそれらの類似体および/もしくは誘導体などの1種以上のモノアミンのレベルを調整することによって運動に関連する神経障害に対処することを含むことがある。わかりやすくするために、本明細書では「メラトニン」という用語はメラトニンおよびメラトニン類似体を包含し、「ドーパミン」という用語はドーパミンならびにドーパミン類似体、誘導体、および他のドーパミン代用物を包含し、「セロトニン」という用語はセロトニンならびにその誘導体および類似体を包含する。いくつかの態様において、本発明による方法は、対象の身体におけるメラトニン、セロトニン、およびドーパミンの1種以上のレベルに対処(例えば、調整など)することを含む。
【0007】
対象の身体内における1種以上のモノアミン(例えば、メラトニン、セロトニン、および/またはドーパミンなど)の量またはレベルを、運動に関連する神経障害に対処するように調整してもよい。本明細書では、「調整」という用語は、対象の身体におけるモノアミンのレベルを調整することを包含する。本明細書では、対象の身体におけるメラトニンレベルとドーパミンレベルの一方または両方の調整も、「メラトニン-ドーパミン調整」と呼ばれる。対象の身体内におけるメラトニン-ドーパミン調整は、メラトニンの産生を調節することによって実現してもよい。本明細書では、「調節すること(regulating)」および同様の用語は、メラトニンレベルおよび/またはドーパミンレベルを低減すること、ならびにメラトニンおよび/またはドーパミンのレベルを加減して、対象のメラトニン-ドーパミンプロファイルを調整することを包含するが、これらに限定されない。
【0008】
ドーパミン作動性反応は、「眼の光療法(ocular light therapy)」と呼ばれることもある治療として対象の両眼に光をあてるなど、種々の方法で刺激されることがある。様々な態様において、眼の光療法は、青緑色光および/または緑色光を含む、それらから実質的になる、またはそれらからなる光(例えば、460nm~570nm、490nm~570nm、約520nm~570nm、約555nmなどの波長領域内の光)を対象にあてることを含む。いくつかの態様において、(例えば、放射照度、またはエネルギー;光子密度;強度など)周囲を超えるレベルの青緑色および/または緑色光を対象の両眼に与えることがある。
【0009】
いくつかの態様において、対象にあてられる光(例えば、570nmより長い波長を有する可視光、570nmより長く約750nmまでの波長を有する可視光など)の琥珀色、橙色、および/または赤色波長のレベルは、そのあてられる光における青緑色および/または緑色波長のレベルより低くてもよい。他の態様において、対象にあてられる青緑色および/または緑色光のレベル(例えば、放射照度、またはエネルギー;光子密度;強度など)は、対象にあてられる琥珀色、橙色、および/または赤色光の対応するレベルを超えてもよい。いくつかの態様において、対象にあてられる琥珀色、橙色、および/または赤色光のレベルは、対象にあてられる青色、青緑色、および/または緑色光のレベルの最大でもおよそ半分であってもよい。あるいはまたはさらに、光の琥珀色、橙色、および赤色波長の1種以上のレベルは、標準室内照明において存在する光の琥珀色、橙色、および/もしくは赤色波長のレベル、または対象が通常曝露している周囲光に存在するいずれか特定の狭帯域単独強度(narrow band isolated intensity)に対する光の琥珀色、橙色、および/もしくは赤色波長の1種以上の「周囲」密度をシミュレートするもしくは下回ることがある。
【0010】
上記の教示のうちの1つ以上に従って眼の光療法を実施し、眼の光療法に対する対象の病態および反応を監視し、対象に実施される眼の光療法と薬物療法の一方または両方を調整することによって、対象のドーパミン作動性反応は刺激されることがあり、対象の身体におけるモノアミン(例えば、メラトニン、ドーパミン、および/またはセロトニンなど)レベルを、運動に関連する神経障害に対処するように変える可能性がある。いくつかの態様において、このような実施、監視、および調整は、運動に関連する神経障害に対処するのに使用されてきた従来療法(例えば、ドーパミン誘導体などの薬物の投薬量および/またはドーパミン誘導体の副作用に対処するための薬物などの投薬量)の低減を含んでもよい。いくつかの態様において、日中の1つ以上の特定の時刻に、対象の身体におけるまたは対象によって産生された1種以上のモノアミンの量を調整することがある。他の態様において、1日を通して対象の身体内において存在するまたは対象によって産生される1種以上のモノアミンの量、または対象のモノアミンプロファイルの一部分以上を拮抗、適正化、または操作することがある。さらに特定の態様において、対象のモノアミンプロファイルの一部分以上を、「正常な」モノアミンプロファイル、例えば健常な対象のモノアミンプロファイル、運動に関連する神経障害を患わない対象のモノアミンプロファイル、または1日のうちのより早い時間における対象のモノアミンプロファイルに類似させるように拮抗、適正化、または操作することがある。対象のモノアミンプロファイルの適正化は、毎日1つ以上の時刻にドーパミン作動性刺激療法またはモノアミン調節療法(例えば、光療法など)の実施を含むことがある。
【0011】
一側面において、本発明は、光療法方法の運動に関連する少なくとも1つの神経障害を予防または治療するための使用を含む、それから実質的になる、あるいはそれからなることもある。このような病態の例としては、ハンチントン舞踏病、周期性四肢運動症候群、下肢静止不能症候群、夜間ミオクローヌス、トゥーレット症候群、サンダウナーズ症候群、レム睡眠行動障害、統合失調症、ピック病、パンチドランク症候群、進行性核内麻痺、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症、脳血管性パーキンソニズム(vascular Parkinsonism)、レビー小体型認知症、びまん性レビー小体病、パーキンソン病プラス症候群、コルサコフ症候群、多発性硬化症、投薬誘発性運動障害、薬物誘発性パーキンソン病、神経弛緩剤誘発性パーキンソン病、急性ジストニア、卒中後虚血性パーキンソニズム、一過性虚血発作、アカシジア、ジスキネジア、および遅発性ジスキネジアが挙げられるが、これらに限定されない。パーキンソン病患者における続発症状として表される障害の典型となる特色によって特徴付けられる障害、およびドーパミン、セロトニン、またはノルアドレナリン機能が変化する他の疾患を本発明の教示に従って治療してもよい。続発症状は限定されるものではないが、例えば、アルツハイマー病、認知症、うつ病性仮性認知症、水頭症性認知症(hydrocephailic dementia)、パーキンソン病に伴う認知症、不安、全般性不安障害、パニック障害、広場恐怖、強迫性障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、うつ、双極性障害、様々な人格障害および不眠症障害が挙げられる。
【0012】
別の側面において、本発明は、運動に関連する神経障害に対処するための、光療法の従来療法との使用を含む。したがって、運動に関連する神経障害に対処するために、光療法を薬物治療、細胞(例えば、胎児細胞、幹細胞など)治療、外科的治療、および/または他の治療と共に用いてもよい。眼の光療法は、メラトニンアゴニストまたは対象のメラトニンレベルを調節するためのアンタゴニスト投与と共に実施してもよい。
【0013】
本発明は、光療法装置が従来療法と共に使用されるシステムも含む。
対象の身体におけるモノアミン(例えば、メラトニン-ドーパミンなど)調整に影響を及ぼす可能性がある、対象の身体によるドーパミン作動性反応を刺激するための光療法を、光療法に対する対象の反応を監視すると共に使用することにより、運動に関連する神経障害を患っている対象に処方および投与される1種以上の薬物の投薬量を医師が低減することも可能になり、場合によっては疾患修飾効果(例えば、病態の進行を遅延または停止するなど)を示すこともある。運動に関連する神経障害を患う特定の対象に対する治療の過程は、運動に関連する神経障害の通常の治療の必要性を低減するために(例えば、その対象に投与される1種以上の薬物(例えば、ドーパミン類似体、別の神経伝達物質の類似体など)の投薬量を低減するために)変更してもよい。いくつかの態様において、運動に関連する神経障害を治療するために光療法を薬物と共に用いるとき、医師が通常より低投薬量の薬物を(すなわち、モノアミン産生(例えば、メラトニン産生など)が調節されないときに典型的に必要とされる薬物を通常より低投薬量で)処方してもよい。光療法を薬物療法と合わせるとき、医師が対照を置いた簡潔で戦略的な治療パッケージを規定してもよく、場合によっては特定の対象に合わせて作成されることがある。
【0014】
別の側面において、本発明は、様々なドーパミン補充療法において、任意の所与の患者が受けるべき任意の様々なドーパミン補充療法の量に関する標準化を含む。例えば、ある医薬品の1000mg/日は、別の医薬品の650mg/日に相当することがある。光療法を本発明の教示に従って使用することにより、ドーパミン補充医薬品の投薬量を低減することが可能になるので、薬剤換算表を使用して、様々なドーパミン補充医薬品の等価投薬量を標準化してもよい。このように、使用医薬品にかかわらず、ドーパミン補充医薬品の必要投薬量を効果的に低減することができる。このような「全薬剤負荷量(Total Drug
Burden)」という題の表または「TDB」表を
図21に示す。
【0015】
本発明は、運動に関連する神経障害を診察する技法も含む。このような技法では、琥珀色、橙色、および赤色光の1種以上のレベルを上げて、対象にあててもよい。いくつかの態様において、対象にあてられる光の色および強度は、夕暮れ時に存在する光の同じ色(単数または複数)のレベルとほほ同じであってもよく、またはそれより高くてもよい。光は眼にあててもよい。琥珀色、橙色、および赤色光の1種以上を対象にあてることによって、対象は、1種以上の運動に関連する神経障害の症状が普通なら現れないうちにこのような症状を一時的に示すことがある。本発明の教示に従って琥珀色、橙色、および/または赤色光をあてた後にこのような病態を発見することにより、医師が運動に関連する神経障害の予備診断または早期診断を行うことが可能になるかもしれない。医師は、対象が運動に関連する神経障害を患っている可能性が高いまたは患うことになるであろうと判断する場合、診断された病態に対する治療過程を処方することがある。処方された治療過程は、とりわけ、好適な眼の光療法などの使用、1種以上の薬物の投与、および/または他の好適な治療を含むことがある。
【0016】
本発明の他の側面ならびに様々な側面の特徴および利点は、次の説明および添付の特許請求の範囲を考慮することにより当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】運動に関連する神経障害を患う対象について本発明の教示を組み込む様々な治療計画の効果を示すグラフである。
【
図2a】運動に関連する神経障害を患う対象について本発明の教示を組み込む様々な治療計画の効果を示すグラフである。
【
図2b】運動に関連する神経障害を患う対象について本発明の教示を組み込む様々な治療計画の効果を示すグラフである。
【
図3】運動に関連する神経障害を患う対象について本発明の教示を組み込む様々な治療計画の効果を示すグラフである。
【
図4】運動に関連する神経障害を患う対象について本発明の教示を組み込む様々な治療計画の効果を示すグラフである。
【
図5】拳から肘までの潜時試験(fist to elbow latency test)時における対象の行為を示す図である。
【
図6】膝から床までの潜時試験(knee to floor latency test)時における対象の行為を示す図である。
【
図7】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図8】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図9】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図10】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図11】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図12】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図13】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図14】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図15】長期光療法が運動に関連する神経障害を患う対象の症状に及ぼす効果を示し、特に光療法と薬物療法を組み合わせると、変性神経疾患の進行を遅延または停止することがあることを示すグラフである。
【
図16】長期光療法、特に緑色光の狭帯域単独強度を主に含む光が運動に関連する神経障害を患う対象に及ぼす効果を示すグラフである。
【
図17】長期光療法、特に緑色光の狭帯域単独強度を主に含む光が運動に関連する神経障害を患う対象に及ぼす効果を示すグラフである。
【
図18】運動に関連する神経障害を患う対象が長期の光療法研究の最初に必要とした平均薬物投薬量と対象が長期の光療法研究の終わりに必要とした平均薬物投薬量を比較するグラフである。
【
図19】運動に関連する神経障害の早期診断を可能にする際に赤色光の利用を示すグラフである。
【
図20】運動に関連する神経障害の早期診断を可能にする際に赤色光の利用を示すグラフである。
【
図21】種々のドーパミン誘導体の等価投薬量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
周囲光は、本発明の教示に従って光を対象にあててもよい方法の基準点を提供する。「周囲光」という用語は、光の強度、光子密度、もしくは放射照度、またはエネルギーなど、光の量またはレベルを指す。「周囲光」は、より正確には「多色光」と呼ばれるいわゆる「白色光」または光のより狭い帯域幅(例えば、色など)に存在するものなど、様々な波長の集まった可視光を指すこともある。次の説明からさらに明らかになるように、本発明のいくつかの態様において、周囲を超えるレベルのある波長光に対象を曝露し、別の波長光に曝露する場合は周囲を下回るレベルに限定することが有益であるかもしれない。
【0019】
本明細書では、「周囲レベル」という用語は、周囲室内照明における特定帯域幅の光のレベルまたは量の平均を指すこともある。標準室内照明は、一般に約50ルクス~約500ルクスの強度を有する白色光または多色光である。周囲室内照明は、標準室内蛍光照明または標準室内白熱照明を含んでもよい。
【0020】
特定の帯域幅の光の「平均」レベルまたは量は、約50ルクスの周囲室内照明におけるその帯域幅のレベルまたは量と約500ルクスの周囲室内照明におけるその帯域幅のレベルまたは量との平均を含む。様々な帯域幅の光のレベルは、周囲室内照明において存在する同じ波長の光の周囲レベルを超える場合「周囲を超える」と考えてもよい。逆に、様々な波長の光のレベルは、同じタイプの周囲室内照明において存在する同じ波長の光の周囲レベルより低い場合「周囲を下回る」と考えられる。
【0021】
基準点として、約50ルクス~約500ルクスの総周囲光強度(collective ambient intensity)を有する標準白熱室内照明は主に琥珀色および赤色波長の光から構成され、若干の緑色光が含まれるが、標準白熱室内照明によるスペクトル出力のごく一部を構成するだけである。標準蛍光室内照明は、水銀の特性を有し、3つのピークをもつ:藍色~紺碧色域における第1のピーク(435nm~436nm);緑色~黄色域における第2のピーク(540nm~560nm);および640nmの赤色波長における第3のピーク。このような光の紺碧色および緑色~黄色のピークは、標準蛍光室内照明による光出力の総強度より当然強度が低く、光子密度が低く、または発光が弱く、またはエネルギーが低い。
【0022】
約50ルクスでは、標準室内照明(白熱および/または蛍光)は3.70×1013光子/cm2/秒の総光子密度および13.2μW/cm2(または1.32×10-5W/cm2)の総放射照度を有する。約50ルクスの標準室内照明のスペクトルで青色~緑色(例えば、460nm~570nmなど)部分は、1.35×1013光子/cm2/秒の光子密度および5.1μW/cm2の放射照度を有する。これらの値ならびに約50ルクスの強度を有する標準室内照明において青色~緑色部分のより狭い波長範囲の光子密度および放射照度を以下の表に含める:
【0023】
【0024】
約50ルクスの標準室内照明のスペクトルで琥珀色~赤色(例えば、570nmを超えて750nmまでなど)部分は、約24ルクスの強度、2.04×1013光子/cm2/秒の光子密度、および6.7μW/cm2の放射照度を有する。約50ルクスの標準室内照明における琥珀色~赤色光の放射照度は、約50ルクスの標準室内照明における青色~緑色「有効」スペクトルの放射照度を超える。
【0025】
約500ルクスでは、標準室内照明の総光子密度は3.69×1014光子/cm2/秒であり、標準室内照明の総放射照度は133.5μW/cm2である。約500ルクスでは、標準室内照明のスペクトルの青色~緑色部分は、1.53×1014光子/cm2/秒の光子密度および58.4μW/cm2の放射照度を有する。これらの値ならびに約500ルクスの強度を有する標準室内照明において青色~緑色部分のより狭い波長範囲の光子密度および放射照度を以下の表に含める:
【0026】
【0027】
約500ルクスの標準室内照明のスペクトルで琥珀色~赤色部分は、約225ルクスの強度、1.85×1014光子/cm2/秒の光子密度、および60.4μW/cm2の放射照度を有する。約500ルクスの標準室内照明における琥珀色~赤色光の放射照度は、約500ルクスの標準室内照明における青色~緑色「有効」スペクトルの放射照度を超える。
【0028】
上記に基づいて、「周囲」が約50ルクスの多色光における1つ以上の帯域幅の光のレベルと約500ルクスの多色光における同じ帯域幅(単数または複数)の光のレベルの平均を包含すると、表1および2に記載の帯域幅の周囲レベルは、表3で特定される標準室内照明の周囲値を含むかもしれない。
【0029】
【0030】
周囲標準室内照明のスペクトルで琥珀色~赤色部分は、約125ルクスの強度、1.03×1014光子/cm2/秒の光子密度、および33.6μW/cm2の放射照度を有する。平均強度の標準室内照明における琥珀色~赤色光の放射照度は、平均強度の標準室内照明における青色~緑色「有効」スペクトルの放射照度を超える。
【0031】
「周囲」を平均によって定義することの代替策として、「周囲」光は、強度、光子密度、および/もしくは放射照度、またはエネルギーの範囲内で多色光を、このような範囲内で様々な帯域幅の多色光内における光のレベルと共に含んでもよい。様々な波長の光のレベルは、周囲範囲において同じ波長の同じレベルを超える場合「周囲を超える」と考えてもよい。逆に、様々な波長の光のレベルは、周囲範囲において存在する同じ波長の光の周囲レベルより低い場合「周囲を下回る」と考えてもよい。本開示では、「周囲」レベルの低端は、約50ルクスの多色光において存在する各波長範囲のレベルを含んでもよく、「周囲」レベルの高端は、約500ルクスの多色光において存在する様々な波長範囲のレベルを含む。この周囲の定義によれば、周囲を下回るレベルは約50ルクスを下回るレベルを含むことになり、周囲を超えるレベルは約500ルクスを超えるレベルを含むことになる。
【0032】
本発明の教示に従って運動に関連する神経障害に対処する方法は、運動に関連する神経障害を患う、患っていると思われる、または患う可能性がある対象に光療法を実施することを含む。対象の身体における1種以上のモノアミン(例えば、メラトニン、セロトニン、ドーパミンなど)のレベルを調整する可能性がある、対象によるドーパミン作動性反応が刺激されるように、光療法を実施してもよい。光療法の実施は、通常療法の実施(ドーパミン誘導体または運動に関連する神経障害に対処するための他の薬物の投与を含むがこれに限定されない)と共に実施してもよい。光療法の実施に加えて、本発明の方法は、対象の症状に及ぼす光療法の効果があればそれを評価することを含んでもよい。光療法で対象の症状に対処する場合、光療法と共に使用する任意の通常療法を、光療法の対象に及ぼす効果に応答して調整(例えば、低減など)する可能性がある。運動に関連する神経障害に対処する通常療法を用いたまたは用いない、本発明の教示を組み込む光療法の使用は、とりわけ対象の身体内における1種以上のモノアミンのレベル(例えば、対象の脳内におけるメラトニンおよびドーパミンのレベルを含めて、対象の身体におけるドーパミンレベルに対する対象の身体におけるメラトニンのレベルなど)を調整する可能性がある、対象の身体によるドーパミン作動性反応を刺激するかもしれない。
【0033】
眼の光療法は、青緑色および/または緑色波長の光を含めて、光を対象にあてることを含む。いくつかの態様において、対象にあてられる光は、周囲を超えるレベルの青緑色および/または緑色波長を含む。周囲レベルまたは周囲を下回るレベルの青緑色および/または緑色波長を使用する光療法も本発明の範囲内に入る。
【0034】
対象にあてられる青緑色および/または緑色光は、青緑色光および/もしくは緑色光、または周囲を超えるレベルの緑色光もしくは青緑色光を含む他のタイプの光(例えば、多色光など)、または主に青緑色および/もしくは緑色である光としてあててもよい。限定されるものではないが、例えば、460nm~570nm、490nm~570nm、約520nm~570nm、約525nm~約555nm、520nmを超えて540nm未満の波長範囲内にある周囲を超えるレベルの波長、またはこれらいずれかの範囲内にある任意の波長を有する色の光が挙げられる。
【0035】
いくつかの態様において、可視光のスペクトルの狭域部分を対象に投与してもよい。本発明の範囲を限定することなく、対象にあてられる光は、青緑色および/または緑色光から実質的になる(すなわち、青緑色および/または緑色帯に直接隣接した可視光の色または波長を加えることが可能である)、または青緑色および/もしくは緑色光からなる可能性がある。
【0036】
本方法の他の態様は、異なる複数の色を含む光またはいわゆる「多色光」の一部分として青緑色および/または緑色光を対象に投与することを含む。さらに特定の態様において、多色光はいわゆる「白色光」を含んでもよい。青色、青緑色、および/または緑色波長にピークを含む多色光が対象の両眼に届けられる場合を含めて、いくつかの態様において、光を(約500ルクス以上の強度、約1,000ルクス以上の強度、約1,500ルクス以上の強度、約4,000ルクス以上の強度、約5,000ルクス以上の強度などを含めて)周囲を超える強度で届けてもよい。
【0037】
多色光の投与は、光が対象の両眼に到達する前もしくは対象に投与される前に、1つ以上の波長の光を削除することまたは多色光から1つ以上の波長を除去することを含んでもよい。いくつかの態様において、白色光を含めて多色光から1つ以上の波長の光を除去することは、フィルタリングで行ってもよい。フィルタリングによって、1つ以上の色または波長の光を周囲を下回るレベル(例えば、460nm~570nmなどの波長を有する光などの治療用光の総強度に対して約50%以下の強度)に低減してもよい。あるいは、フィルタリングは、1つ以上の色または波長の光を多色光から実質的にまたは完全に除去してもよい。多色光からの1つ以上の波長のフィルタリングはいくつかの要因のうちのいずれかに基づく可能性がある。フィルタリングの基礎になる可能性がある要因の一態様は、1つ以上の波長(例えば、琥珀色、橙色、赤色など)が望ましくないことである。
【0038】
望ましくない波長の光の例としては、ある波長の可視光の治療効果を(例えば、治療用波長の可視光の活性化効果を相殺または妨害するなどによって)低減する波長または色の光、1つ以上の運動に関連する神経障害の症状を亢進または増悪することが知られている波長または色の光、対象のドーパミン作動性反応を示す能力に干渉し、または対象の身体(例えば、対象の脳など)におけるモノアミンプロファイル(例えば、対象の身体におけるメラトニン・ドーパミン均衡など)を乱す可能性がある波長または色の光、さらには運動に関連する神経障害を患う、患うことになると思われる、または患うリスクがある対象にあてたとき、明らかな利益をもたらさない波長または色の光が挙げられる。最近、緑色光の波長より長い波長を有する光(例えば、570nmより長い波長、570nmより長
く約750nmまでの波長を有する光、琥珀色、橙色、および/または赤色波長の光など)が運動に関連する神経障害の症状を亢進または増悪させることがわかった。
【0039】
低減、削除、または除去された光の帯域幅は、琥珀色光、橙色光、および赤色光のうちの1つ以上を含んでもよく、あるいは1つ以上の前述のうちの少なくとも1つの波長を削除またはフィルタリングしてもよい。さらに特定の態様において、570nmより長い波長を有する可視光、570nmより長く約750nmまでの波長を有する可視光などを、対象にあてる前に多色光からフィルタリングしてもよい。いくつかの態様において、周囲レベルまたは周囲を下回るレベルの青緑色および/または緑色光を対象にあてたとき、青緑色および/または緑色光のレベルは、あてられた琥珀色、橙色、および/または赤色波長の光のレベルを超えてもよい(例えば、1:1の比を約2:1以上の比上回るなど)。
【0040】
本発明の教示に従った光療法の対象への実施は、日中の1つ以上の時刻に行ってもよい。いくつかの態様において、光療法を毎日1回以上の同時刻または実質的に同時刻(単数または複数)に実施してもよい。光療法が行われる時刻は、1つ以上の波長の光の強度(例えば、光子密度など)が対象にあてられるように調節してもよい。
【0041】
光療法は、最適な実施スケジュールに従って対象に実施してもよい。最適な実施スケジュールは、いくつかの態様において、1日1回の光療法実施を含む。いくつかの態様において、光療法の最適な実施スケジュールは、光療法を夕方(例えば、メラトニンレベルが典型的には上昇している時刻など)に実施することを含んでもよい。特定ではあるが限定するものではない態様において、最適な実施スケジュールは、日中において対象に薬物を最終投与して1時間半以上後に光療法の実施を含んでもよい。さらに特定の態様において、光療法を約午後5:00~約午前3:00の間、またさらに具体的には約午後7:00~約午後10:00の間に実施してもよい。光療法の強度(例えば、約1013光子/cm2/秒~約1016光子/cm2/秒の光子密度など)および時間(例えば、約1時間、約30分など)は、対象の睡眠パターンまたは概日リズムに悪影響を与えることなくメラトニンレベルを低減するように調整してもよい。
【0042】
他の態様において、光療法を毎日ずっと異なる複数の時刻に実施してもよい。各治療の強度および時間は、互いに(例えば、色、強度、時間などにおいて)異なる治療の2つ以上を用いて日中の特定の時刻に所望の効果をもたらすように調整してもよい。あるいは、1日24時間実施される光療法処置のすべては、その日に実施される他の治療と同じまたは実質的に同じである可能性がある(すなわち、単に強度、時刻など意図的でない変動に起因する何らかの相違がある)。
【0043】
本発明の教示に従った光療法は、治療を少し行った後運動に関連する神経障害の進行を遅延または停止する可能性があり、あるいは光療法をより長い期間(例えば、何週間か、何か月かなど)実施して初めて好ましい結果が認められる可能性がある。いずれにしても、光療法を長期(例えば、6か月、何年間か、対象の寿命の残りなど)治療として用いてもよい。
【0044】
いくつかの態様において、光療法を、運動に関連する神経障害を予防または治療するために単独使用してもよい。別の言い方をすれば、運動に関連する神経障害の治療は光療法からなることがある。
【0045】
あるいは、光療法の実施を運動に関連する神経障害の1種以上の他の治療の実施と共に行ってもよい。いくつかの態様において、これらの他の治療は、(例えば、胎児細胞、幹細胞などを用いた)細胞治療、外科的治療など従来療法を含む。
【0046】
光療法が薬物療法または薬理学的治療と共に対象に実施される態様において、薬物は、運動に関連する神経障害および/またはこのような病態の症状の治療用の医薬品を含んでもよい。このような薬物は限定されるものではないが、例えばドーパミン(DA)、ノルアドレナリン(NA)、およびセロトニン(5HT)系を標的とする薬物、ならびに
図21で特定される他の薬物などが挙げられる。
図21は、低投薬量(最初の連続した縦線2本の間)、中投薬量(第2と第3の連続した縦線の間)、および高投薬量(第3と第4の連続した縦線の間)であると考えられる種々のドーパミン補充療法の1日投薬量を含めて、種々のドーパミン補充療法の等価換算1日投薬量範囲を示す。光療法の使用を加えることによって、医師が、診断された運動に関連する神経障害を治療するために正常投薬量(すなわち、典型的にはメラトニン産生が調節されないときに必要とされる薬物投薬量)より低量のこれら薬物を処方することが可能になるかもしれない。例えば、通常(すなわち、光療法を用いなければ)「高」範囲であるはずの特定のドーパミン補充療法の投薬量が、本発明の教示に従って光療法を用いると同じ薬物で「中」もしくは「低」範囲に低減し、または全薬剤負荷量(Total Drug Burden)表に列挙する別の薬物で「中」もしくは「低」範囲に低減する可能性がある。同様に、光療法の使用によって、通常は「中」範囲である投薬量を「低」範囲の投薬量に低減することが可能になるかもしれない。薬物療法の投薬量を低減すると、薬物の副作用を、いずれでも副作用を治療するための薬物を追加する必要性と共に低減または取り除く可能性もある。
【0047】
いくつかの態様において、薬物が最適な実施スケジュールで投与される時刻は、光療法を実施する日の時刻(単数または複数)とは異なる。さらに特定の態様において、最適な実施スケジュールに従った薬物治療は1日の前半に行われてもよく、光療法は1日の後半に実施される。例えば、薬物は日中に投与してもよく、光療法の実施は夕方に行われる。さらに特定の態様において、薬物投与は、午前中のいつか(例えば、対象の症状が普通なら(薬物を服用しなければ)典型的に現れるはずより約30分前に)開始し、午後5:30までに終了してもよく、光療法は午後7:00~午後10:00の間に実施される。
【0048】
投薬および治療方法のいくつかの特定の態様を表7~13に記載する。それらの態様において、約435nm~約436nm、約460nm~約520nm、約540nm~約560nm、および約640nmにピークを有する多色光の形態の光療法は、約1,000ルクス~約1,500ルクスの強度で実施された。各対象にあてられた光に存在する青緑色光の放射照度は約280μW/cm2であり、その光に存在する赤色光の放射照度はわずか約150μW/cm2であった。表7~13は多くの具体例を示しているが、詳細、特に多色光(白色光に関して)の使用、その強度、および毎日の光療法の時間に関する詳細は、開示されたプロトコルの特定の態様に属すると理解されたい。
【0049】
表7は、光および薬物(ドーパミン(DA)代替薬またはDA作動薬)療法を、最近パーキンソン病(PD)と診断された新規(「DN」)患者に合わせて作成してもよい手順を示す。
【0050】
【0051】
表8に、光療法を既存の薬物(薬理学的)治療計画に組み込むプロトコルを記載する。
【0052】
【0053】
表8から明らかなように、薬物の投与を光療法と共に含む療法に加えて、本発明は、運動に関連する神経障害の治療において投与される薬物の投薬量を低減する方法を含む。したがって、運動に関連する神経障害を患う対象に対する薬理学的治療の過程は、対象の1種以上の薬物(例えば、ドーパミン類似体、別の神経伝達物質の類似体など)への依存性を低減するために変更してもよい。
【0054】
運動に関連する神経障害を患う対象に投与される薬物の投薬量の低減は、対象が薬物の副作用に苦しむ場合に特に望ましい。一例として、PD患者は、ジスキネジア、運動亢進、またはDA補充療法の他の副作用を受ける可能性がある。これらの副作用は、典型的には過剰投与に起因する。PDおよびこれらの副作用を薬物および光療法によって再評価および治療する手順の一例を表9に記載する。
【0055】
【0056】
表10は、患者がうつ、不眠、または不安などの続発症状およびDA補充療法の副作用を受ける状況下で準拠する可能性があるプロトコルを示す。表10に記載されたプロトコルに従って、患者における多剤療法の結果を低減してもよい。
【0057】
【0058】
患者が薬物療法耐性を経験するとき、表11に記載されるものなどのプロトコルに従ってもよい。
【0059】
【0060】
表12は、PD患者の症状が悪化しないようにするために進行中の変性過程を遅延または阻止する目的で数か月から数年という長期間評価および治療するプロセスの一例を示す。
【0061】
【0062】
図1~4は、光療法などのメラトニン調節療法と薬物療法を組み合わせて、運動に関連する神経障害を治療する効果を示す。
特定の態様において、薬物療法と光療法を組み合わせる場合、100mgのL-ドーパを対象に1日3回投与する。最初の投与量の投与は症状の発生より約30分前に行われ、最後の投与量は約午後5:30に投与される。対象がPDを患う場合、対象は毎朝覚醒した後およそ同じ時間(例えば、約1時間、最高3時間など)、典型的には無症状のままである。したがって、対象は、症状が日中に発生し始める時刻を知ることができ、したがって最初の投与量のL-ドーパを服用すべき時刻を知ることができる。
【0063】
特定の対象が経験する症状の重症度に応じて、より高い投薬量のL-ドーパが必要とされる可能性がある。
図21は、異なる程度のパーキンソン病を患う対象に対して処方される標準投薬量のL-ドーパ(および種々の他のドーパミン誘導体)を示す。それにもかかわらず、薬物療法と光療法を本発明の教示に従って共に使用すると、標準を下回るL-ドーパ投薬量を対象に投与することになるかもしれない。
【0064】
当然のことながら、同じ理論的な根拠を他のドーパミン誘導体療法に適用してもよく、等価投薬量の他のドーパミン誘導体を100mgのL-ドーパの代わりに使用する(例えば、種々のドーパミン誘導体の等価投薬量を表す
図21を参照のこと)。同様の薬物投薬量を他の運動に関連する神経障害にも適用してよい。
【0065】
図1のグラフでは、新たに診断されたまたは新規のパーキンソン病患者に及ぼす光療法単独および薬物治療との併用の効果を示す。グラフの左側には、患者によって経験された振戦を評価した。具体的には、視覚的アナログ式定規を使用して、患者の振戦を定量化した。患者が最初に経験した振戦(「3月18日」と標識)を、光療法単独(毎日、約1,000ルクス~約1,500ルクスの強度の明るい白色光に眼を曝露)を8週投与した後患者が経験した振戦(「5月12日」と標識)および光療法を薬物療法と共にもう8週投与した患者が経験した振戦(「6月9日」と標識)と比較する。光療法単独では、患者の振戦は約20%減少した。光療法を薬物療法と共に使用すると、対象の振戦が56%減少
した。
【0066】
図1のグラフの右側には、PDなどの運動に関連する神経障害の症状を示す小字症または患者の筆跡の進行性縮小を評価した。日常的な試料である署名の対角線の距離を測定した。最初の試験時には、患者の筆跡の対角線の測定値は16mmであった。光療法を8週投与した後、患者の筆跡のサイズは19mmであった。薬物療法を加えて8週間後に、患者の筆跡の対角線の測定値はさらに増加して、25mmであった。
【0067】
振戦および小字症の減少(すなわち、筆跡のサイズの増加)は、光療法単独または薬理学的治療と組み合わせて使用する治療価値を示す。以下の結果は具体的に、本発明の教示に従った光療法および薬物治療の長期投与計画が変性神経疾患(例えば、その進行の遅延または停止など)に疾患修飾効果を及ぼすことができることを示す。
【0068】
図2aは、ドーパミン補充療法(すなわち、薬物)を数年間受けてきた患者に及ぼす光療法の効果を示す。光療法の有用性の指標は下記を含む:「歩行潜時」運動:患者が3メートルの距離を歩いて、次いで戻ってくるのに要する時間を測定した;「拳から肘までの潜時」分析を実施した。患者が、自分の片方の手を、垂直に向けた他方の腕の拳から肘(
図5)まで10回繰り返し動かすのに要した時間を測定した;ならびに「床から膝までの潜時」分析を実施した。患者が自分の足を床から膝の高さ(
図6)まで10回上げるのに要した時間を測定した。歩行潜時試験の結果を
図2aのグラフに四角(■)で示す。拳から肘までの潜時試験の結果を
図2aのグラフに三角(▲)で表す。床から膝までの潜時分析の結果を
図2aのグラフに丸印(●)で表す。
【0069】
3つの試験はすべて、異なる3回の時刻に行った:1)光療法の開始前の事前評価;(2)患者が光療法を毎日約7週間受けた後の第2のセッション;(3)患者が光療法を毎日さらに11週間受けた後の第3のセッション;および(4)約20週間後の第4のセッション:その間には、光療法治療をときどき省いた。評価した指標は3つともすべて、治療の過程にわたって改善を示した。改善は、患者が指示された運動を行うのに要した時間の短縮によって測定して、歩行潜時、拳から肘までの潜時、および床から膝までの潜時がそれぞれ、顕著な初期の改善率と、総改善率21%、25%、および33%を含むものであった。
【0070】
図2bは、以前に処方されたDA補充療法と共にあてられる光療法の実施計画の過程にわたって床から膝までの潜時運動を完了する患者の能力で実現された改善を示す。やはり、患者が運動を完了するのに要した時間の短縮によって測定して、約30%の測定された改善が認められた。
【0071】
図3のチャートは、DA補充療法を長期間受けていたが、重度の不随意運動(ジスキネジア)を継続して経験している対象に対する光療法の結果を示す。DA補充療法を継続した上に、光療法を約6か月投与した後、患者のジスキネジアは約80%減少した。
【0072】
図4のグラフでは、運動に関連する神経障害の様々な続発症状またはDA補充療法の副作用に及ぼす光療法と継続した薬物(DA補充)療法との併用の効果を示す。具体的には、光療法(と継続した薬物療法)の不眠(◆)、夜間運動(▲)、うつ(■)、および不安(●)に及ぼす効果を示す。具体的には、
図4のグラフは、光療法を薬理学的治療の実施計画に追加することによって、不安が58%、不眠が66%、夜間運動が95%、およびうつ病が100%減少した。
【0073】
図1~4で個別に示された結果に加えて、より大きな規模の研究を実施した。その研究では、運動に関連する神経障害に対する薬物治療を受けていた対象に多色光療法を実施し
た。具体的には、約435nm~約436nm、約460nm~約520nm、約540nm~約560nm、および約640nmにピークを有する多色光の形態の光療法は約1,000ルクス~約1,500ルクスの強度で投与した。各対象にあてられた光に存在する青緑色光の放射照度は約280μW/cm
2であり、その光に存在する赤色光の放射照度はわずか約150μW/cm
2であった。
【0074】
43か月の期間を要したこの研究は、94名の対象者が関与した。対象者を2群に分けた:表8に記載の方法で、(A)標準薬物療法を受けるが、光療法を受けない31名のパーキンソン病患者;および(B)薬物療法に加えて光療法を受ける63名のパーキンソン病患者。
【0075】
パーキンソン病の初発症状および他の運動に関連する神経障害(例えば、平衡機能(
図7)、動作緩慢(
図8)、拳から肘までの潜時(
図9)、歩行潜時(
図10)、および振戦(
図11)、強剛(
図12)、夜間運動およびジスキネジア(
図13)など)、ならびにパーキンソン病の続発症状および他の運動に関連する神経障害(例えば、不安(
図14)、不眠(
図15)など)を含めて、種々の要因を、研究の最初にかつ研究全体を通して定期的な間隔で評価した。
図7~15に示すように、薬物治療のみを投与した場合、これらの症状は歩行潜時(
図10)を除いてすべて、同じまままたは経時的に悪化した。光療法を薬物療法に加えた場合、すべての症状の重症度において大幅な低下が認められた(歩行潜時(
図10)は両群の対象者においておよそ同じ割合で改善した))。
【0076】
別の研究では、黄緑色光のパーキンソン病対象者に及ぼす効果を評価した。7名の対象者について8か月にわたって実施されたその研究では、黄緑色フィルターを光源の上に配置して、光療法を実施した。各対象者の両眼に対する黄緑色光の狭帯域単独強度は約880ルクスであり、周囲を超える量(放射照度約130μW/cm
2)の青緑色光および周囲を下回る量(放射照度約40μW/cm
2)の赤色光が含まれた。
図16および17に示すように、緑色光療法を実施すると、拳から肘までの潜時、膝から床までの潜時、および歩行潜時試験(
図16)による評価、ならびに各対象者による各対象者の腕の振り、各対象者の振戦の重症度、および夜間運動(
図17)の評価により、パーキンソン病の初発症状および他の多くの運動に関連する神経障害において漸進的で着実な改善が得られた。運動に関連する神経障害の続発症状も、
図17に示す不安で表わされるように改善された。
【0077】
次に
図18をみると、長期光療法は、運動に関連する神経障害を患う対象の症状に対処するために必要とされる薬物投薬量に影響を及ぼす。
図18は、43か月の研究の始め(「前」)および終わり(「後」))における様々な群の対象者の薬物投与要件を示すグラフである。
【0078】
棒グラフの最初(最左側)の対は、光療法を実施しなかったパーキンソン病患者によって必要とされた薬物投薬量を表す。研究の最初に、これらの対象者は、毎日平均833mg/日のL-ドーパを服用した。対象者1人当たりの平均薬物投薬量は、1142mg/日のL-ドーパに増加した。これは、薬剤負荷量の43か月にわたる約37%の増加を示す。
図7~15に示すように、薬物投薬量を経時的に増加したが、これら対象者の運動に関連する神経障害の症状は実際には時間と共に悪化した。
【0079】
棒グラフの2番目の対は、運動に関連する神経障害の光療法も長期にわたって定期的に受けた対象者に投与された薬物投薬量を表す。平均すると、薬物投薬量は、43か月の研究全体にわたって実質的には一定(例えば、わずか約2%の増加など)であり、L-ドーパの最初の平均1日投薬量は約969mgであり、最後の平均1日投薬量は約990mgであった。その期間にわたって、
図7~15に示すように、光療法を実施された対象者の
運動に関連する神経障害の症状の大部分は、薬物投薬量を実質的に増加させないときでさえ大幅に改善した(すなわち、重症度の低下)。
【0080】
図18の棒グラフの3番目、4番目、および5番目の対によって示されるように、経時的に薬物投薬量を増加させる必要は、処方された光療法実施計画を遵守した対象が増加するにつれて低下した。棒グラフの4番目の対によって示されるように、「半遵守(semi-compliant)」した対象者(すなわち、光療法セッションをときどき省き、または光療法セッションを短縮した対象者)は、最初に平均1056mg/日のL-ドーパを必要とし、研究の終わりに平均1094mg/日のL-ドーパを必要とした(投薬量増加約3.5%(31/2%))。棒グラフの3番目の対によって3示されるさらに遵守した対象者(すなわち、光療法セッションを週1回未満省き、または短縮した対象者)は、最初に平均して910mg/日のL-ドーパを必要とし、研究の終わりまでには平均して926mg/日のL-ドーパを必要とした(投薬量増加2%未満)。光療法セッションを、あるにしてもきわめてまれに(すなわち、一月に1回未満)しか省かない、または短縮しない対象者は、研究の終わりには、研究の始めに必要としたL-ドーパ(588mg/日)より平均して3ミリグラムしか多くないL-ドーパ(591mg/日)を必要とした(投薬量増加約0.5%(1/2%))。
【0081】
図18に記載されているデータは、光療法を運動に関連する神経障害を患う対象者に実質的に定期的に投与すると、対象に投与される薬物の投薬量は長期にわたって(例えば、1年以上、3年、4年、5年など)実質的に同じままであるかもしれないことを示す。さらに、
図7~15と一緒に考えると、
図18のデータは、本発明の教示に従った薬物療法と光療法の組合せによって、運動に関連する神経障害を患う対象者によって経験される症状の重症度の上昇を防止(さらに、場合によっては実際には低下)させしながら、薬物投薬量の低減を可能にするかもしれないということを示唆する。
【0082】
これらの結果は、少なくとも1つの運動に関連する神経障害を長期に患う対象者向けの総合治療計画に本発明の教示に従って光療法を加えることによって、運動に関連する神経障害の症状が軽減される可能性があることを実証する。対象者の生活の質の改善は、対象への光療法と薬物療法の実施を継続し、薬物投薬量を低減する可能性を追加し、または薬物投薬量を経時的に増加させる率を低下させることによって維持されるかもしれない。戦略的光療法と薬物療法を組み合わせることによって、運動に関連する神経障害の進行を止める可能性もある。
【0083】
運動に関連する神経障害に対処する方法に加えて、本発明は運動に関連する神経障害を診断する技法も含む。このような技法は、対象者をある波長の光(例えば、青色、青緑色、緑色など)に曝露することなく、他の波長の光(例えば、琥珀色、橙色、赤色など)に曝露することを含む。これらの波長は、ドーパミン作動性活性を一時的に抑制することがある。例えば、対象者によるメラトニン産生またはメラトニン作動性活性を一時的に増大させるかもしれない。メラトニン作動性活性の一時的増大は、一時的に運動に関連する神経障害の症状を増悪させる可能性があり、医師が運動に関連する神経障害と診断するようになる。この同じ現象は、いくつかの態様において、増大させたレベルまたは単離させたレベルの琥珀色、橙色、および/または赤色光(例えば、青色、青緑色および/または緑色光より高い総強度、460nm~570nmの波長の総強度より高い総強度を有する570nm~750nmの波長をもつ、周囲室内光に存在するものとおよそ同じまたはそれ以上のレベルの琥珀色、橙色、および/または赤色光など)を対象に投与することによって誘発される可能性がある。
【0084】
いくつかの態様において、運動に関連する神経障害にかかりやすいまたはかかる可能性ある対象にあてられる光からある波長の光をフィルタリングまたはその他の方法で除去し
てもよい。本発明の範囲を限定することなく、診断用光から570nm以下の波長を除去することができる。これらの波長には、緑色および/または青緑色波長の光が含まれる。他の態様において、570nmを超える波長を有するあてられる光のレベルまたは570nmを超えて750nmまでの波長を有する光のレベルは、570nm以下の波長を有するあてられる光のレベルを超える可能性がある。いくつかの態様において、対象を1つ以上の孤立帯域幅(isolated bandwidths)の琥珀色、橙色、および/または赤色光に曝露
させてもよい。
【0085】
医師は、対象が運動に関連する神経障害を患っている可能性が高いまたは患っていると判断する場合、診断された病態に対する治療過程を処方することがある。処方された治療過程は、とりわけ対象の身体内における1種以上のモノアミンレベル(例えば、対象者のメラトニン、セロトニン、および/またはドーパミンレベルのうちの1つ以上など)を調整する可能性がある、対象者の身体によるドーパミン作動性反応を刺激することを含んでもよい。これは、適切な任意の方法、例えば眼の光療法を単独投与し、または1種以上の薬物および/もしくは他の好適な治療と共に投与して行われる可能性がある。
【0086】
PDなどの運動に関連する神経障害の診断を促進するプロセスの特定の一態様を表13に示す。
【0087】
【0088】
図19は以下のパーキンソン病症状に及ぼす多色光および赤色光の相対的効果を示すグラフである:激越、不安、顔貌(features on challenge)、運動緩徐、うつ病、異夢(dreaming)、ジスキネジア、易刺激性、気分変動、強剛、睡眠、および振戦は増悪する。
【0089】
グラフの左側に示すように、多色光を用いた治療(毎日1時間、約1,000ルクス~約1,500ルクスの強度で治療)によって、治療された患者において平均16の公知PD症状が改善されたが、赤色光を用いた治療では、治療された対象者においてPD症状の改善は平均して認められなかった。むしろ、
図19のグラフの右側に示されるように、赤色光への曝露によって、治療された対象者において約11症状が増悪したが、多色光では、治療された患者において平均して2つの公知PD症状が増悪したのみであった。
【0090】
これらの結果から、赤色光(または琥珀色および/もしくは橙色光)を使用して、運動に関連する神経障害の早期検出を可能にする有用性は明らかである。さらに、多色光の赤色部分は、運動に関連する神経障害患者に有害な効果を及ぼす可能性があることがわかる。
【0091】
特定の態様において、運動に関連する神経障害になりやすいと考えられる対象者または運動に関連する神経障害の早期段階であるかもしれない対象者は、診断的治療を受けてもよい。このような診断治療は、対象を赤色、橙色、および/または琥珀色光のうちの1つ以上に曝露することによって影響を受けるかもしれない。光を対象者の両眼にあてててもよい。いくつかの態様において、長期間(例えば、1週間、2週間、1か月など)に反復(例えば、毎日、1週間に3回など)してあてることは、正確な診断を行う際に有用なことがある。
【0092】
図20は、光療法と薬物療法を共に用いて、パーキンソン病を治療する効果を示す。長期係数(LT coeff.)を次式で算出した:
LT
coeff.=(n
SI +1)+ n
SD(-1)+
n SNC(0))/ n
SI+n
SD+
n SNC
式中、n
SIは改善を示す症状の数であり、n
SDは悪化を示す症状の数であり、n
SNCは変化を示さない症状の数である。特に改善が1日単位では非常に緩やかで、おそらく感知できない症状には、本発明の教示に従って治療がゆっくり時間をかけて継続されるので、長期係数によって、対象者が自分の進行をよりよく認識することが可能になる。いくつかの態様において、長期係数または対象者の進行を定量化する他の何らかの手段をコンピュータ化フィードバックシステムで具体化してもよい。
【0093】
前述の説明には、多くの具体例が含まれているが、これらは、本発明の範囲または添付の特許請求の範囲のいずれかを限定するものと解釈すべきではなく、本発明の範囲および添付の特許請求の範囲内に入るかもしれないいくつかの特定の態様に関連する情報を提供するものにすぎない。様々な態様の特徴を組み合わせて使用してもよい。さらに、本発明の範囲および添付の特許請求の範囲内に入る本発明の他の態様を考えてもよい。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれらの法的均等物によってのみ指示および限定される。特許請求の範囲の意味および範囲に入る、本明細書に開示される本発明への追加、削除、および変更は、特許請求の範囲に包含されるものとする。
【外国語明細書】