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  • 特開-双極性アイオノマー膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141808
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】双極性アイオノマー膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/82 20060101AFI20220921BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220921BHJP
   H01M 8/1011 20160101ALI20220921BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220921BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20220921BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20220921BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20220921BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B01D71/82 500
B01D71/68
H01M8/1011
H01M8/10 101
H01M8/1018
H01M50/414
H01M50/411
C08J7/12 CET
C08J7/12 CEW
C08J7/12 CEZ
C08J7/12 CFG
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022114154
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2018541359の分割
【原出願日】2017-02-03
(31)【優先権主張番号】62/290,692
(32)【優先日】2016-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518275567
【氏名又は名称】カムエクス パワー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CAMX Power LLC
【住所又は居所原語表記】35 Hartwell Avenue, Lexington, MA 02421, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジャック トレーガー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電気化学電池または燃料電池のために有用な膜を提供する。
【解決手段】膜は、スルホン化ポリマーで形成されるか、またはスルホン化ポリマーを含むことができ、前記スルホン化ポリマーは、複数の窒素を含有する複素環式分子と共有結合またはイオン結合している。得られる膜は、優れたイオン伝導性および選択性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン化ポリマーと、
複数の窒素を含有する複素環式分子と
を含む膜であって、前記複素環式分子が前記スルホン化ポリマーに共有結合またはイオン結合している、前記膜。
【請求項2】
前記複素環式分子が、スルホン化ポリマーへの結合後に、9.0未満のpKaを有する、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記膜のガーレーの透気度数が、86400秒/10cc 0.20in2を上回る、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
プロトン抵抗率が、20オームcm2以下である、請求項1に記載の膜。
【請求項5】
バナジウム輸送が、1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸中で1.1×10-4モル/日cm2以下である、請求項1に記載の膜。
【請求項6】
前記膜の厚さが、10~1000μmである、請求項1に記載の膜。
【請求項7】
前記複素環式分子が、アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、アミノイミダゾピリジン、4-アミノピペリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の膜。
【請求項8】
前記スルホン化ポリマーが、ペル(フルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン)コポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化トリフルオロポリスチレン、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化スチレン-ブタジエン、スルホン化ポリパラフェニレン、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテル-ケトン-エーテル-ケトン-ケトン)、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルスルホン)、スルホン化2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド、スルホン化ポリ(フタラジノンエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリホスファゼン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリフェニルスルホン、ポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトン)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトンケトン)およびスルホン化ポリフルオレニルエーテルケトン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載の膜。
【請求項9】
前記ポリマーが、非多孔質のフィルムの形態である、請求項6に記載の膜。
【請求項10】
前記スルホン化ポリマーが、不織布または微孔質の支持フィルムと結合されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の膜。
【請求項11】
前記スルホン化ポリマーが、不織布または微孔質の支持フィルム内の複数の孔内に収容されている、請求項10に記載の膜。
【請求項12】
前記支持フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ニトロセルロース、セルロース、混合セルロースエステル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項10に記載の膜。
【請求項13】
前記支持フィルムが、孔の断面寸法0.01~1000μmを有する、請求項11に記載の膜。
【請求項14】
アノードおよびアノード液を含む、負の半電池、
カソードおよびカソード液を含む、正の半電池、および
前記負の半電池と前記正の半電池との間に配置された、請求項1から6までのいずれか1項に記載の膜
を含む、電気化学電池。
【請求項15】
前記膜が、片側の上でのみ複素環式化合物を含む、前記電気化学電池。
【請求項16】
前記複素環式化合物が、負の半電池に近位の側の上にある、請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項17】
前記複素環式分子が、アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、アミノイミダゾピリジン、4-アミノピペリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の電気化学電池。
【請求項18】
前記スルホン化ポリマーが、ペル(フルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン)コポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化トリフルオロポリスチレン、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化スチレン-ブタジエン、スルホン化ポリパラフェニレン、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテル-ケトン-エーテル-ケトン-ケトン)、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルスルホン)、スルホン化2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド、スルホン化ポリ(フタラジノンエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリホスファゼン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリフェニルスルホン、ポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトン)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトンケトン)およびスルホン化ポリフルオレニルエーテルケトン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項14に記載の電気化学電池。
【請求項19】
前記スルホン化ポリマーが、不織布または微孔質の支持フィルムと結合されている、請求項14に記載の電気化学電池。
【請求項20】
前記スルホン化ポリマーが、不織布または微孔質の支持フィルム内の複数の孔内に収容されている、請求項19に記載の電気化学電池。
【請求項21】
前記支持フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ニトロセルロース、セルロース、混合セルロースエステル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項19に記載の電気化学電池。
【請求項22】
バナジウムのレドックス電池の形態である、請求項14に記載の電気化学電池。
【請求項23】
前記アノード液と前記カソード液との両方がバナジウムを含む、請求項14に記載の電気化学電池。
【請求項24】
複素環式化合物が、スルホンアミドによって前記スルホン化ポリマーに共有結合されている、請求項14に記載の電気化学電池。
【請求項25】
アノード、
カソード、および
前記アノードと前記カソードとの間に配置された請求項1から6までのいずれか1項に記載の膜
を含む、燃料電池。
【請求項26】
前記膜が、片側の上でのみ複素環式化合物を含む、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項27】
前記複素環式化合物が、アノードに近位の側の上にある、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項28】
前記複素環式分子が、アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、アミノイミダゾピリジン、4-アミノピペリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項29】
前記スルホン化ポリマーが、ペル(フルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン)コポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化トリフルオロポリスチレン、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化スチレン-ブタジエン、スルホン化ポリパラフェニレン、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテル-ケトン-エーテル-ケトン-ケトン)、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルスルホン)、スルホン化2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド、スルホン化ポリ(フタラジノンエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリホスファゼン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリフェニルスルホン、ポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトン)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトンケトン)およびスルホン化ポリフルオレニルエーテルケトン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項30】
前記スルホン化ポリマーが、不織布または微孔質の支持フィルムと結合されている、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項31】
前記スルホン化ポリマーが、不織布または微孔質の支持フィルム内の複数の孔内に収容されている、請求項30に記載の燃料電池。
【請求項32】
前記支持フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ニトロセルロース、セルロース、混合セルロースエステル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項30に記載の燃料電池。
【請求項33】
直接メタノール型燃料電池の形態である、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項34】
複素環式化合物が、スルホンアミド、酸無水物またはエステルを介して前記スルホン化ポリマーに共有結合されている、請求項25に記載の燃料電池。
【請求項35】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の膜の製造方法であって、
スルホン化ポリマーの少なくとも1つの表面と、複素環式分子、任意に複数の窒素を含有する複素環式分子を含む溶液とを、反応時間の間、反応温度で接触させて、フィルムを形成する段階、
前記フィルムを溶液から取り出す段階、および
前記フィルムを乾燥させる段階、
を含む、前記方法。
【請求項36】
前記スルホン化ポリマーを、膨潤溶剤中で予め膨潤させることをさらに含む、請求項35に記載の膜の製造方法。
【請求項37】
前記膨潤溶剤が、水、アルコール、アミド、環式アミド、塩化メチレンまたはそれらの混合物を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
反応時間が、1秒~24時間である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記接触温度が、25℃~150℃である、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記複素環式分子溶液の溶剤が、水、アルコール、N-メチルピロリドン、アミド、エステル、ケトン、塩化アルキル、塩化メチレン、芳香族溶剤、およびそれらの混合物を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
乾燥温度が、30℃~150℃である、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記膜の片側が塞がれて、前記複素環式分子との接触が防止される、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記膜が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ニトロセルロース、セルロース、混合セルロースエステル、またはそれらの組み合わせを含む多孔質膜で塞がれる、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記多孔質膜が、0.01~1000μmの孔径を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記スルホン化ポリマーが、ペル(フルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン)コポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化トリフルオロポリスチレン、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化スチレン-ブタジエン、スルホン化ポリパラフェニレン、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテル-ケトン-エーテル-ケトン-ケトン)、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルスルホン)、スルホン化2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド、スルホン化ポリ(フタラジノンエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリホスファゼン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリフェニルスルホン、ポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトン)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトンケトン)およびスルホン化ポリフルオレニルエーテルケトン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項46】
前記複素環式分子が、アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、アミノイミダゾピリジン、4-アミノピペリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
前記複素環式分子が、9.0未満のpKaを有する、請求項35に記載の方法。
【請求項48】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の膜の製造方法であって、
多孔質の支持膜の孔を、スルホン化ポリマーの溶液で充填する段階、
前記溶液を乾燥させて、固体のフィルムを形成する段階、
前記固体のフィルムを、高められた温度で熱処理する段階、
前記固体のフィルムの少なくとも1つの表面と、前記複素環式分子の溶液とを、反応時間の間、反応温度で接触させる段階
を含む、前記方法。
【請求項49】
前記固体のフィルムを前記溶液から取り出すこと、および前記固体のフィルムを、60℃より高く且つ130℃未満の乾燥温度で乾燥させることをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記熱処理段階が、80℃より高く且つ250℃未満の温度である、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記多孔質の支持膜の片側を塞いで、前記複素環式分子の溶液と接触することを防ぐことをさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
接触段階が、1秒~24時間である、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
接触段階が、25℃~150℃の温度である、請求項48に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2016年2月3日提出の米国仮出願第62/290692号に従属し、且つその優先権を主張する。
【0002】
政府の権利の陳述
本発明は、アメリカ合衆国エネルギー省により拠出された、契約番号第DE-SC0006457号の下で政府に支援されて行われた。政府はこの発明の特定の権利を有する。
【0003】
分野
本開示は、電気化学用途において使用するための、例えば電気化学セル内のセパレータとして使用するためのイオン交換膜に関する。
【0004】
背景
バナジウムのレドックスフロー電池(VRB)は、頑丈で複数のKWhの長寿命のフロー電池であり、エネルギー密度約20Wh/リットルを有し、大量の再生エネルギーを液体の形態で経済的に貯蔵でき、且つ、風力およびソーラーの断続的な再生可能発電所、例えばエネルギー貯蔵装置、またはオフピークの電力生成の貯蔵として有用である。VRBは、荷電されたアノード液とカソード液とを、貯蔵槽から、膜の両側でカーボンフエルトのアノードおよびカソードと接触するイオン透過膜によって分離された電気化学的半電池を通じて、ポンプ輸送することによって機能する。セルは、電子がアノード液から電力負荷を通じてカソード液へと流れることによって放電する一方で、イオン透過膜を通じて流れるイオン、通常はプロトンによって電荷平衡が保持される。
【0005】
負の半電池 V2+ ←→ V3++e- Eo=-0.255V
正の半電池 e-+VO2 ++2H+ ←→ VO2++H2O Eo=1.00V
全体 VO2 ++2H++V2+ ←→ VO2++H2O+V3+ 有効(Net)Eo=1.255V
バナジウムイオンは、アノード液(V3+/V2+対)とカソード液(VO2+/VO2 +対)との両方を構成し、そのことにより、電池が大々的に簡素化され且つ寿命が改善され、なぜなら、セパレータがリークしても、リークする種の組成がアノード液とカソード液との両方について同一であるために化学的な相互汚染はなく、荷電状態が変化するだけである。
【0006】
VRBの実現を可能にするために重要なのは、イオン伝導性のセパレータ膜である。しかしながら、現在のVRBは、現在公知のセパレータを通じた有害なバナジウムイオン透過ゆえに、往復の充電/放電効率が75~80%しかない。理想的な膜は、バナジウムイオンの透過性が低く、バナジウム汚損に耐え、プロトン伝導性が高く、酸化および酸についての化学的安定性が良好であり、機械的強度が良好であり、且つ低コストである。スルホン化テトラフルオロエチレンに基づくフルオロポリマー・コポリマーのカチオン交換膜、あるいはペルフルオロスルホン酸(PFSA)膜として、または商品名Nafion(登録商標)として公知の膜は、その比較的良好な化学的安定性、長い耐用寿命、良好なサイクル性、高い機械的強度、および高いプロトン伝導性ゆえに、現時点での技術水準のVRBセパレータとなっている。
【0007】
しかしながら、PFSA膜は、高いコスト、バナジウム汚損、および特にバナジウムイオンの透過を含む、多くの欠点を有する。バナジウムイオンの透過は、充電されたVRBをアイドル時に放電させることがあり、また、稼働の間のクーロン効率が低下して、6%もの自己放電、および放電電流に依存する非効率性をもたらす。さらにバナジウムイオンは水和水を有し、且つ膜を通じたバナジウムイオンの透過は、VRBの水のバランスを変えることがある。汚損はメンブレンを破壊しないとはいえ、それは周期的な除去および膜の洗浄を要する。膜のコストが比較的高いことも、VRB全体のコスト削減に対する根本的な課題をもたらす。従って、バナジウムイオンのリーク、膜の汚損および高いコストの理由のために、PFSA膜を、それらの欠点に取り組む代替の膜で置き換えることは非常に興味深い。
【0008】
アニオン性のカチオン交換プロトン伝導膜上に薄いカチオン性被覆を有して構成される双極性膜は、酸性媒体中でのプロトン化に続く、カチオンと異なる電荷とのクーロン反発(ドナン排除効果としても知られる)に基づくカチオン選択性が実証されている。ドナン効果は、永久カチオン電荷に伴って指数的に増加するので、多価カチオンは一価のプロトンよりも大きな度合いで反発される。
【0009】
Ogumiは、カチオン交換PFSA(Nafion(登録商標))上に重合された4-ビニルピリジンプラズマで構成される双極性膜での、酸性媒体中での二価のFe2+と一価のLi+との間の輸送選択性を実証した。4-ビニルピリジンは酸性媒体中でプロトン化され、正電荷を獲得し、それが反発し、一価のカチオン透過よりも二価のカチオンの透過を阻害する。Sataは、PFSAフィルム上に化学的にグラフトされた、脂肪族アミンおよびポリアミン、例えばポリエチレンイミンからなる双極性膜が、連続的な電気透析濃度の海水において一価のカチオンの透過選択性を有することを報告している。
【0010】
この原理は、VRB膜においても同様に実証されている。Luoは、Nafion 117上にグラフトされたポリエチレンイミン(PEI)で構成される膜では、グラフトされていないNafion 117(登録商標)と比べて、VO2+の輸送が20倍低下することを報告した。その最終結果は、5%グラフトされたPEI-Nafion 117(登録商標)を、改質されていないNafion 117(登録商標)膜と比較した際に、クーロン効率が93.8%から97.3%へと上昇することであった。しかしながらまた、望ましくないことに、PEIグラフトされた膜のプロトン伝導性は約30%減少する。
【0011】
双極性膜中の第一級および第二級アミンは、比較的高い塩基度、例えば約9より高いpKaを有することができ、且つ、プロトン化された際に、望ましくない度合いのプロトンの輸送を阻止するために十分に強いドナン効果を有することができる。また、第一級および第二級脂肪族アミンおよびポリアミンは、V5+イオンによる酸化に対して安定ではないことがある。従って、上述の理由から、第一級または第二級アミンまたはポリアミンを含有しない双極性VRB膜を提供することが望ましい。
【0012】
直接メタノール型燃料電池は、プロトン伝導性膜、例えばPFSAおよび他のスルホン化ポリマーを使用する。それらの膜が直面する問題は、膜を通じたメタノールのクロスオーバーによって引き起こされる自己放電であり、そのことが燃料電池の効率を低下させる。
【0013】
従って、バナジウムのレドックスフロー電池におけるセパレータ、または望ましいイオン透過選択性および誘電率を必要とする他の用途として有用な新規の材料が必要とされている。
【0014】
概要
以下の概要は、本開示の独自の革新的な特徴のいくつかを理解を容易にするために提供され、完全な説明を意図するものではない。本開示の様々な態様の完全な理解は、明細書全体、特許請求の範囲、図面および要約を全体として捉えることによって得られる。
【0015】
本発明の1つの課題は、VRBのために望ましいイオン透過選択性および誘電率を、低減されたバナジウムイオン透過性と共に有する一方で、プロトン伝導性が保持または改善された双極性膜を提供することである。前記双極性膜は任意に非多孔質である。他の課題は、第一級または第二級非環式脂肪族アミンを含有する単極性膜よりも酸化安定性が高い双極性膜を提供することである。さらに他の課題は、より低コストになる可能性のある、任意に非多孔質の複合膜であって、低コストの微孔質の支持膜を含み、その膜の孔がスルホン化ポリマーで充填されている、前記複合膜を提供することである。さらに他の課題は、より低コストになる可能性のある非多孔質の複合双極性膜であって、低コストの微孔質の支持膜を含み、その膜の孔が双極性組成物で充填されている、前記複合膜を提供することである。
【0016】
本発明の1つの態様によれば、スルホン化ポリマー、任意にスルホン化ポリマーフィルムと、前記スルホン化ポリマーの少なくとも1つの表面に化学的に結合した、2つまたはそれより多くの窒素原子で構成される複数の窒素を含有する複素環式分子(以降で複素環式の複数の窒素を含有する分子としても表される)とを含む、双極性膜が提供される。スルホン化ポリマーに結合した後、複素環式の複数の窒素を含有する分子は、約9.0未満のpKaを有する。スルホン化ポリマーの表面に化学的に結合する前に、前記複素環式窒素含有分子は、任意に、アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、4-アミノピペリジンおよびアミノイミダゾピリジンからなる群から誘導される1つの分子である。任意に、前記のいずれかの組み合わせも使用できる。
【0017】
本発明の他の態様によれば、微孔質の支持膜を含み、前記微孔質の支持膜の孔が上述の双極性組成物で実質的に充填されている、複合双極性膜が提供される。
【0018】
本発明の他の態様は、微孔質の支持膜を含み、前記微孔質の支持膜の孔が約10μm未満であり、且つ上述の双極性組成物で実質的に充填されており、任意に、前記微孔質の支持フィルムが、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ニトロセルロース、および混合セルロースエステルからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーで構成される、複合双極性膜である。
【0019】
本発明の他の態様は、不織布の支持膜を含み、前記不織布の支持膜の孔が約10μmより大きく、且つ上述の双極性組成物で実質的に充填されており、且つ、前記微孔質の支持フィルムが、任意に、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ニトロセルロース、および混合セルロースエステルからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーで構成される、非多孔質の複合双極性膜である。
【0020】
本発明はさらに、上述の膜または複合膜の製造方法に関する。
【0021】
本発明の他の態様は、上述の膜を組み込んでいるバナジウムのレドックスフロー電池である。
【0022】
VRBへの組み込みの他、本願において提供される膜または複合膜は、他のフロー電池および燃料電池、特に直接メタノール型燃料電池においても使用できる。
【0023】
図面に示される態様は例示的且つ典型的な性質のものであり、特許請求の範囲によって定義される対象を限定することは意図されていない。例示的な態様の以下の詳細な説明は、以下の図面と関連付けて読むことにより理解でき、ここで同様の構造は同様の参照番号で示されている:
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本願内で提供されるいくつかの態様による膜の模式図である。
【0025】
詳細な説明
以下の説明は単に典型的な性質のものであり、本発明の範囲、その用途または使用方法を限定することは意図されておらず、もちろん変化することができる。本発明は、本願内に含まれる限定されない定義および用語に関して記載される。それらの定義および用語は、本発明の範囲または実施における限定として機能することを意図されておらず、説明および記述のためだけにのみ示される。方法または組成が個々の段階の順として、または特定の材料を使用して記載される一方で、段階または材料は互換性があり、従ってその記載は、当業者によって容易に理解されるとおり、多くの方式で配置される複数の部分または段階を含み得ることが理解される。
【0026】
ある要素が他の要素の「上に」あるとして示される場合、それは直接的に他の要素の上にあってもよいし、それらの間に介在する要素があってもよいと理解される。これに対し、ある要素が他の要素の「直上に」あるとして示される場合、介在する要素は存在しない。
【0027】
本願内で様々な要素、部品、領域、層および/または部分を記載するために、「第1の」、「第2の」、「第3の」等の文言が使用されることがあるが、それらの要素、部品、領域、層および/または部分は、それらの文言によって限定されないと理解される。それらの文言は、1つの要素、部品、領域、層または部分を、他の要素、部品、領域、層または部分から区別するためだけに使用される。従って、以下で議論される第1の「要素」、「部品」、「領域」、「層」、または「部分」は、本願内の教示から逸脱することなく、第2の(または他の)要素、部品、領域、層または部分と称され得る。
【0028】
本願内で使用される用語は、特定の実施態様を記載するという目的のためだけであり、限定することは意図されていない。本願内で使用される場合、単数形は、文脈上、特段明らかでない限り、「少なくとも1つ」を含む複数形を含むことが意図されている。「または」は、「および/または」を意味する。本願内で使用される場合、「および/または」との文言は、関連して列挙された項目の1つまたはそれより多くの任意および全ての組み合わせを含む。「含む」および/または「含んでいる」との文言は、本明細書内で使用される場合、述べられた特徴、領域、整数、段階、作業、要素および/または部品の存在を規定するが、1つまたはそれより多くの他の特徴、領域、整数、段階、作業、要素、部品および/またはそれら群の存在および追加を排除するものではない。「またはそれらの組み合わせ」との文言は、先に記載した要素の少なくとも1つを含む組み合わせを意味する。
【0029】
特段定義されない限り、本願内で使用される全ての用語(技術用語および科学的な用語を含む)は、この開示が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。一般に使用される辞書内に定義されるような用語は、関連する技術および本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有するとして解釈されるべきであり、且つ、本願内で特に定義されない限り、理想化または過度に形式的な意味には解釈されないことがさらに理解される。
【0030】
膜のポリマー構造を改質された膜が提供され、ここで、膜材料と改質材との組み合わせが、電気化学電池または燃料電池において半電池の間のセパレータとして膜が有用である能力を劇的に改善する。提供される膜は、膜を横切る望ましくないイオン輸送を低減する一方で、下にあるポリマー膜材料の優れたプロトン輸送能力を高めるかまたは実質的に確固たるものにする。従って、本開示の課題は、スルホン酸含有ポリマーの少なくとも1つの表面または活性基に共有結合した複素環式の複数の窒素を含有する分子を含む膜を提供することである。複素環式の複数の窒素を含有する分子を、スルホン酸含有ポリマーに結合させる、任意に共有結合させるために適した任意の化学的プロセスによって、双極性膜を製造できる。いくつかの態様において、複素環式の複数の窒素を含有する分子は、環上の1つまたはそれより多くの位置でアミンまたはアミド官能基の置換基を含み、従って、スルホンアミドカップリング、またはアミン中の未結合の電子対のプロトン化を介した酸・塩基塩の形成のいずれかによるアミノ化プロセスを使用して膜が形成され得る。従って、いくつかの限定されない態様において、アミン試薬または前駆体は任意に、スルホン酸含有ポリマーに結合するための第一級または第二級アミン部分を含有する。以下の開示は主としてバナジウムのレドックス電池において使用するための膜に関するが、それは説明のためだけであり、限定するものではないと理解される。膜は他の電気化学電池または燃料電池、例えば直接メタノール型燃料電池内で使用できる。
【0031】
いくつかの実施態様において、膜はバナジウムのレドックスフロー電池内のセパレータとして有用である。バナジウムイオンの透過性は、表面アミノ化されたスルホン酸ポリマーにおいて非常に低いにもかかわらず、アミンが、ポリマーの第一級または第二級アミン、例えばポリエチレンイミンまたはポリアミドアミン超分岐デンドリマーであり、また、アミンがスルホン酸ポリマーへの結合後に約9.0より高いpKaを有する場合、上述の双極性膜は、容認できないほど低いプロトン透過性を有することがあることが判明した。広範な研究を通じて、発明者らは、アミンが、複素環式の複数の窒素を含有する分子、任意に複数の窒素を含有する複素環式アミンであり且つ/またはスルホン酸ポリマーへの結合後に約9.0未満のpKaを有するのであれば、高いプロトン透過性と低いバナジウムイオン透過性との両方を達成できることを見出した。特定の理論に束縛されることはないが、約9.0未満のpKaを有する、スルホン酸ポリマーに結合される複素環式分子は、酸性VRB電解質中でのプロトン化後に、約9.0よりも高いpKaを有する改質材分子よりも弱いドナン反発を有し、従ってより低いプロトン透過性が達成される一方で、低いバナジウムイオン阻止が保持されると考えられる。さらに、特定の理論に束縛されることを望むものではないが、膜表面上のスルホン酸プロトンを、約9.0未満のpKaを有する1つまたはそれより多くの複素環式分子で置き換えることにより、水素結合/破壊機構により、結合された1つの複素環式部位から次のところへの、グラタウス(Grothaus)のプロトン「ホッピング」輸送が強化される可能性がある。水和されたバナジウムイオンはグラタウス輸送には関与せず、その代わりにビヒクル輸送によると考えられることから、それらの透過は強化されず、バナジウムカチオンの輸送よりもプロトンの輸送に有利である。
【0032】
従って、ベース材料(例えばフィルムまたは膜の形態)を含む膜であって、前記ベース材料が1つまたはそれより多くのポリスルホン酸ポリマーであるか、または前記ベース材料中に1つまたはそれより多くのポリスルホン酸ポリマーを含むことができ、前記ベース材料の1つまたはそれより多くの表面が、片側または両側上で、改質材としての複素環式の複数の窒素を含有する分子で被覆され得る、前記膜が提供される。例示的な膜の模式図を図1に示す。描かれるとおり、ベース材料2は被覆され、改質材4と接触または結合されて、複素環式の複数の窒素の含有物がベース材料上で表面に曝露される。複素環式の複数の窒素を含有する分子は、任意に、表面上にフィルム層を形成するか、部分的または完全にベース材料の表面を透過するか、またはそれらの組み合わせである。複素環式の複数の窒素を含有する分子層は、任意にベース材料上にあるか、任意にベース材料の直上にある。複素環式の複数の窒素を含有する分子層は、任意に、ベース材料の表面上で実質的に連続しているか、または不連続である。複素環式の複数の窒素を含有する分子とスルホン酸ポリマーとの反応は、スルホン酸プロトンに対する複素環式アミンの特定の程度の置換をもたらす。プロトンに対する複素環式分子の置換の程度は、0.01%~100%、またはその間の任意の値、任意に0.1%~80%、任意に10%~80%、任意に10%~50%であり得る。
【0033】
膜は、ポリスルホン酸と、共有結合またはイオン結合またはそれ以外で結合した1つまたはそれより多くの複素環式の複数の窒素を含有する分子を備える。複素環式の複数の窒素を含有する分子は、炭素と、少なくとも2つの窒素原子を環構造内に含む。ヘテロ原子は、任意に、複素環に塩基度をもたらす任意のヘテロ原子である。ヘテロ原子の例示的な例は、窒素およびリンを含む。他の適したヘテロ原子も、いくつかの態様における環構造内に含まれることができる。複素環式分子は、少なくとも1つの複素環構造を含む。任意に、改質材は、リンの少なくとも1つの置換基を有し、任意にポリスルホン酸への結合後に9.0以下のpKaを有する、非環式分子である。いくつかの態様において、複数の環、任意に複数の複素環が、任意に複数の窒素を含有する複素環分子内に含まれるが、任意に、1つまたはそれより多くヘテロ原子を含有する各々の環を有する必要はない。いくつかの態様において、1、2、3、4、5またはそれより多くの複素環または非複素環が、複数の窒素を含有する複素環式分子内に含まれることができる。任意に、複数の窒素を含有する複素環式分子はポリマーではない。
【0034】
提供される膜は、任意に、スルホン酸ポリマーに結合した後に9.0以下のpKaを有する、複数の窒素を含有する複素環式分子を有する。場合により、pKaは、9.0、8.5、8.0、7.5、7.0、6.5、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0、3.5または3.0であるか、またはそれ未満である。いくつかの態様において、pKaは、3.0~9.0、またはその間の任意の値または範囲、任意に6.0~8.0である。いくつかの態様において、膜は、スルホン酸含有ポリマー上に改質材を含まず、ポリマーへの結合後に9.0より大きなpKaを有する。
【0035】
生じる膜は任意に非多孔質膜である。非多孔質膜とは、ガーレー(Gurly)の透気度数が86400秒/10cc 0.20in2より大きいものである。いくつかの態様において、膜は、ガーレーの透気度3600秒/10cc 0.20in2以上、任意に40000秒/10cc 0.20in2以上を有する。
【0036】
提供される膜は、ポリマーと結合された複素環式分子改質材により、改質材を含まないポリマー系に比して、同等または低減されたプロトン抵抗率を有する。いくつかの態様において、プロトン抵抗率は20オームcm2以下、任意に1オームcm2以下である。いくつかの態様において、プロトン抵抗率は、0.1~0.5オームcm2、任意に0.2~0.4オームcm2である。
【0037】
提供される膜は、任意に、複素環式分子改質材によって改質されていない膜に比して低減された、または実質的に同等のバナジウムイオン輸送を有する。いくつかの態様において、バナジウムイオン輸送は、1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸中で1.1×10-4モル/日cm2以下、任意に1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸中で1.0×10-5モル/日cm2以下である。
【0038】
発明者らは、上述の特性を満たす、または上述の特性をもたらす、複素環式の複数の窒素を含有するアミンの中で、いくつかのものが他よりも遙かに高いプロトン/バナジウムイオンの透過選択性を有することを発見した。特に、プロトン化された形態のペルフルオロスルホン酸(PFSA)(例えばNafion(登録商標))と、アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、4-アミノピペリジンまたはアミノイミダゾピリジンの水溶液との直接的な反応により製造された双極性膜は、バナジウムイオンの高い排除性、およびアデニンおよびアミノイミダゾピリジンの場合には、望ましいプロトン伝導性も実証されている。上述のアデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、4-アミノピペリジンおよびアミノイミダゾピリジンの組合せも、複素環式の複数の窒素を含有する分子の前駆体として使用できる。いくつかの態様において、スルホン酸ポリマーは、排他的にアデニン、アミノイソキノリン、4-アミノピペリジン、アミノベンズイミダゾール、アミノイミダゾピリジンおよびそれらの組み合わせである、アミン含有材料だけで改質される。いくつかの態様において、スルホン酸ポリマーは、排他的にアデニン、アミノイミダゾピリジンまたはそれらの組み合わせである、アミン含有分子で改質される。
【0039】
複数の窒素を含有する複素環式分子をスルホン酸ポリマーに、任意にスルホン酸ポリマーフィルムの1つまたはそれより多くの表面に結合することを、スルホンアミドカップリング、または酸・塩基塩形成(以降でアミノ化としても示す)のいずれかによって達成できる。そのようなものが、複素環式分子とスルホン酸ポリマーとの結合のメカニズムの限定されない例である。例示的な接続は、スルホンアミド、酸無水物、エステルまたはそれらの組み合わせによって、または前記を通って形成されるものを含む。従って、複数の窒素を含有する複素環式分子は、任意に、スルホン酸ポリマーを結合するために適した官能基を含む1つまたはそれより多くの置換基を含む。そのような置換基は例示的に、しかし限定されずに、アミン、任意に第一級または第二級アミン、ヒドロキシルまたはカルボン酸を含む。いくつかの態様において、スルホン酸ポリマーフィルムは、まずスルホネート基で改質されて、種々の官能基を有する1つまたはそれより多くの複素環式分子に結合される。例えば、スルホネート基を、例えばPCl3またはPCl5を使用して塩化アシルに変換し、次いで、複素環式分子上で酸、アミンまたはアルコール部分を含有する置換基と反応させることにより、ポリマーが任意に改質される。複数の窒素を含有する複素環式分子とポリマーとの間の他の適した接続も、同様に適している。
【0040】
いくつかの態様において、複数の窒素を含有する複素環式分子は、スルホンアミドカップリング、またはスルホン酸のプロトンでのプロトン化による酸・塩基塩形成のいずれかのために使用可能な不対窒素電子を有する第一級または第二級アミンを含む置換基を含むことができる。スルホンアミドカップリングは、直接縮合、酸塩化物カップリング、またはカルボジイミドカップリングを含む、いくつかの方法によって達成できる。直接縮合は、コストが低く、毒性且つ腐食性の試薬を回避し、且つ少数の反応段階ゆえに、いくつかの態様において使用できる。直接縮合は、スルホン酸ポリマーからのプロトンと、複素環式アミンの溶液との間の反応からなる。その反応は、スルホンアミドカップリングの形成と、水の排除をもたらすことができる。その反応を、以下のように示すことができる:
RSO3H+R’NH2 → RSO2NHR’+H2
(前記式中、Rはスルホン酸ポリマー含有部分であり、且つR’は複素環式アミン部分である)。
【0041】
酸・塩基塩の形成も、スルホンアミドカップリングと同様の条件によって達成でき、酸の形態のスルホン酸ポリマーから複素環式アミンの不対電子へのプロトン輸送をもたらす。その反応を、以下のように示すことができる:
RSO3H+R’NH2 → RSO3 - +NH3R’
(前記式中、Rはスルホン酸ポリマー含有部分であり、且つR’は複素環式アミン部分である)。
【0042】
直接縮合と酸・塩基塩の形成との両方において、複数の窒素を含有する複素環式分子がアミン置換基と共にスルホン化ポリマー上で固定される。
【0043】
また、直接縮合と酸・塩基塩の形成との両方において、双極性の、複数の窒素を含有する複素環式分子・スルホン酸ポリマーフィルムを、複数の窒素を含有する複素環式分子の溶液をスルホン酸ポリマーフィルム上に直接的に被覆することによって、または、スルホン酸ポリマーフィルムを複数の窒素を含有する複素環式分子を含有する溶液の浴中に浸漬することによって、製造することができる。いくつかの態様において、フィルムの片側を、一時的に塞ぐ、またはマスクして、複素環式分子がフィルムの片側に結合するのを制限することができる。反応が所望の程度まで進行した後、複数の窒素を含有する複素環式分子の過剰分をスルホン化フィルムから洗い落とすことができる。
【0044】
スルホン酸ポリマーは任意に、フィルムまたは膜の形態である。そのような場合、スルホン酸ポリマーフィルムまたは膜を任意に、予め膨潤した後、複数の窒素を含有する複素環式分子と接触させることができ、その際、予めの膨潤は、複数の窒素を含有する複素環式分子との反応前に、それを溶解させるために使用される純粋な溶剤(つまり、複数の窒素を含有する複素環式分子を含まない)中に浸漬させることによるものであってよい。これは、複数の窒素を含有する複素環式分子の溶液中に浸漬される際にスルホン酸ポリマーが物理的に歪むことを防止することができる。
【0045】
スルホン酸ポリマーとの結合のための複素環式分子用の溶剤は、任意に、アルコール、ケトン、エステル、水またはそれらの混合物である。いくつかの態様において、溶剤は水、任意に水のみである。
【0046】
スルホン酸ポリマーは任意に、ペル(フルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン)コポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化トリフルオロポリスチレン、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化スチレン-ブタジエン、スルホン化ポリパラフェニレン、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテル-ケトン-エーテル-ケトン-ケトン)、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルスルホン)、スルホン化2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド、スルホン化ポリ(フタラジノンエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリホスファゼンおよびスルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリフェニルスルホン、ポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトン)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトンケトン)およびスルホン化ポリフルオレニルエーテルケトンからなる群の1つまたはそれより多くである。特定の態様において、スルホン酸ポリマーは、ペル(フルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン)コポリマー、または商品名Nafion(登録商標)またはFlemion(登録商標)として知られるものである。
【0047】
いくつかの態様において、スルホン酸ポリマーフィルムまたは膜は、厚さ5μm~500μm、またはその間の任意の値または範囲を有する。任意に、スルホン酸ポリマーフィルムは、厚さ15μm~200μmを有する。
【0048】
いくつかの態様において、スルホン酸ポリマーフィルムを不織布、任意に多孔質膜に貼り合わせて、スルホン酸ポリマーフィルムにさらなる強度を任意にもたらす。任意に、スルホン酸ポリマーは、フィルムの形態ではなく、その代わりに種々の材料の不織布または多孔質膜と結合される。任意に、スルホン酸ポリマーは多孔質膜と結合され、その膜のいくつかまたは全ての孔がスルホン酸ポリマーで充填されて、実質的に本願内で定義される非多孔質である膜がもたらされる。
【0049】
スルホン酸ポリマーが反応溶剤中で十分に膨潤され、十分な反応時間および温度が与えられる場合、スルホン酸ポリマーの表面下で、アミノ化プロセスを特定の程度まで進めることができる。複数の窒素を含有する複素環式分子によるスルホネートプロトンの置換の程度は、主に、複数の窒素を含有する複素環式アミンの、反応溶剤中での濃度、反応時間、反応温度、および反応溶剤の組成によって制御される。浸漬方法を使用するプロセスにおいては、複数の窒素を含有する複素環式アミンの濃度は、溶液中で10%未満、任意に1質量%未満であってよい。任意に、浸漬時間は、1秒~24時間、任意に10分~10時間である。反応温度は任意に、0℃超であり且つ1.0気圧で溶剤の沸点未満、任意に30℃超且つ100℃未満である。複数の窒素を含有する複素環式分子の溶剤は、水、アルコール、ケトン、エステル、アミド、環式アミドまたはそれらの混合物を含むか、またはそれらだけであってよい。任意に、複数の窒素を含有する複素環式分子の溶剤は、水、任意に水のみである。
【0050】
複数の窒素を含有する複素環式分子は任意に、膜の片側または両側の上で膜と結合される。いくつかの態様において、複数の窒素を含有する複素環式分子とポリマーとの間の反応を、膜の片側上でのみもたらすことができ、且つ、それは反応溶液に対して不透過性の材料で膜の片側をマスクするまたは塞ぐことによって達成できる。マスキングまたは塞ぐことをもたらす材料は、任意に、ポリオレフィン、ブチルゴム、シリコーンゴム、およびエチレン-プロピレンゴムからなる群から任意に選択されるポリマーシートまたはフィルムである。
【0051】
いくつかの態様において、非多孔質の複合膜は、不織布または微孔質の支持フィルムを含んで提供され、それは不織布または多孔質フィルムをスルホン化ポリマーの溶液で含浸させ、溶液を乾燥させ、スルホン化ポリマーで含浸されたフィルムを、スルホン化ポリマーのガラス転移温度を上回る温度で熱処理し、最後に複数の窒素を含有する複素環式分子とスルホン化ポリマーとを、複合フィルムの少なくとも1つの表面上で結合させることによって製造できる。限定されない例として、非多孔質の複合材の双極性膜を、多孔質支持フィルムをPFSA溶液、例えばDupont(商標)から入手できるD520、またはSigma-Aldrichから入手できるNafion(登録商標)過フッ素化樹脂溶液中で浸漬塗布または浸し、そのフィルムを60℃~120℃で乾燥させ、そのフィルムを80℃~250℃で熱処理し、最後にアニールされたフィルムを片側または両側の上で複数の窒素を含有する1つまたはそれより多くの複素環式分子と結合させることによって製造できる。熱処理温度は任意に、スルホン化ポリマーのガラス転移温度よりも上であり、支持フィルムの孔の中で連続的な非多孔質スルホン化ポリマーフィルムのブリッジを作り出す。微孔質の支持フィルムは任意に、複合膜を製造するために使用される乾燥温度または熱処理温度で溶融または流動しない。微孔質の支持フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ニトロセルロース、セルロース、混合セルロースエステルおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含むことができる。微孔質の支持フィルムの平均孔径(断面寸法)は任意に、0.01μm~1000μm、またはその間の任意の値または範囲、任意に、0.05μm~20μmである。支持フィルムの厚さは任意に、5~500μm、またはその間の任意の値または範囲、任意に15~200μmである。
【0052】
本願内で提供される膜は任意に、電気化学電池、燃料電池、または選択的な透過性が望まれる任意の他の目的のために使用される。いくつかの態様において、膜は電気化学電池、例えばバナジウムのレドックス電池内に組み込まれる。電気化学電池は任意に、負の半電池および正の半電池を含む。負の半電池はアノードおよびアノード液を含む。正の半電池は任意にカソードおよびカソード液を含む。本願内で提供される膜は、2つの半電池の間に配置されて、アノード液とカソード液との間に隔壁を形成する。膜の選択的な透過性は、イオン伝導性を保持または改善する一方で、バナジウム(または他の反応物質)が一方の半電池から他方へと膜を透過することを低減させることによって、電池の機能および効率を改善する。
【0053】
いくつかの態様において、膜は、その膜の片側上でのみ複数の窒素を含有する複素環式分子と結合される。そのような状況において、複数の窒素を含有する複素環式分子が結合する側は任意に、膜の性能を改善するために、電池の負の半電池の近位にある。
【0054】
いくつかの態様において、電気化学電池はバナジウムのレドックス電池またはその一部である。任意に、アノード液およびカソード液は、種々の酸化状態でバナジウムイオンを含む。バナジウム酸化物電池において、スルホン酸ポリマーと複数の窒素を含有する複素環との間の結合は任意に、アミドまたはアミンと酸の塩の結合であり、任意にスルホンアミド基によって結合されている。
【0055】
いくつかの態様において、本願内で提供される膜は燃料電池内に含まれる。燃料電池は、アノード、カソード、およびアノードとカソードとを分離する本願内で提供される膜を含む。いくつかの態様において、膜は、その膜の片側上でのみ複数の窒素を含有する複素環式分子と結合される。そのような状況において、複数の窒素を含有する複素環式分子が結合する側は任意に、膜の性能を改善するために、電池のアノード側の近位にある。
【0056】
いくつかの態様において、燃料電池は直接メタノール型燃料電池である。直接メタノール型燃料電池において、スルホン酸ポリマーと複数の窒素を含有する複素環との間の結合は任意に、アミドまたはアミン-酸性塩の結合であり、任意にスルホンアミド基によって結合されており、任意に酸無水物またはエステル結合を通じて結合されている。
【0057】
本発明の様々な態様を、以下の限定されない実施例によって説明する。実施例は説明のためであり、本発明のいかなる実施も限定しない。
【実施例0058】
実験
プロトン抵抗率
プロトン抵抗率を、4探針の、膜の厚み方向に固定の伝導率のセル内で、2Mの硫酸電解質、1.3cm2の電極面積、および白金電極を使用して測定する。ACインピーダンスを、EGG Princeton Applied Research Potentiostat/Galvanostat Model 273Aを用いて、600KHz~10Hzで走査された10mvの信号を使用して測定する。バルク抵抗は、インピーダンスの複素平面の実インピーダンス軸上の高周波数の半円の低いインピーダンスの交点から導出される。次いで、バルク抵抗が、膜を含有しない試験設備の抵抗から減算され、膜の抵抗が得られる。抵抗率を面積に対して正規化し、面積抵抗としてオームcm2として報告する。
【0059】
バナジウムイオンの輸送
試験膜の片側上で3Mの硫酸中、1.0Mの硫酸バナジル(VO2+イオン)を有し、および他の側上で浸透圧のバランスを取るために3Mの硫酸中、1.0MのMg2SO4を有する、固定された拡散セル内で、バナジウムイオンの輸送を測定する。一定の時間の後、Mg2SO4チャンバー中のバナジウムの濃度を分光学的に測定する。バナジウムイオンのリークを、1cm2あたり、1日あたり(/cm2日)のバナジウムのモル数として報告する。
【0060】
イオン交換容量
双極性膜のイオン交換容量(IEC)を酸塩基滴定によって測定する。IECは、フィルム中でアクセス可能なプロトン交換部位の数に関して有用な情報をもたらす。乾燥した双極性膜を飽和NaCl溶液中に2時間/60℃で浸漬し、次いで24時間/30℃で浸漬して、Na+をH+と交換し、放出されたH+を酸塩基滴定して、プロトンのミリ当量(mequiv.)g-1を測定する。IECを、IEC=(H+のミリ当量)/膜の乾燥質量=meq/グラムによって計算する。
【0061】
多孔度
膜の多孔度をガーレー(Gurley)の透気度装置によって測定する。ガーレー数が86400秒/10cc 0.20in2を上回る膜を非多孔質とみなす。
【0062】
例1
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムを片側上で、前記フィルムの片側にブチルゴム膜を機械的に付着させることによって、ブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけの上でアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.05%の5-アミノイソキノリン水溶液(Alfa Aesar L01223)中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率0.30オームcm2、およびイオン交換容量0.821meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送2.75×10-5モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して4倍遅く、且つプロトン伝導率は同等である。
【0063】
例2
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムを片側上で、前記フィルムの片側にブチルゴム膜を機械的に付着させることによって、ブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけの上でアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.125%の5-アミノイソキノリン水溶液(Alfa Aesar L01223)中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率1.0オームcm2、およびイオン交換容量0.749meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送9.2×10-6モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して12倍遅い。
【0064】
例3
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムを片側上で、前記フィルムの片側にブチルゴム膜を機械的に付着させることによって、ブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけの上でアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.25%の5-アミノイソキノリン水溶液(Alfa Aesar L01223)中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率1.3オームcm2、およびイオン交換容量0.67meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送5.7×10-6モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して19倍遅い。
【0065】
例4
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムをブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけをアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.25%のアデニン水溶液(Aldrich A8626)中に、80℃で2時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率0.34オームcm2、およびイオン交換容量0.869meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送1.7×10-5モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して6倍遅く、且つプロトン伝導率は同等である。
【0066】
例5
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムをブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけをアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.25%の3-アミノイミダゾ(1,2)ピリジン水溶液(Sigma Aldrich 685755)中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率0.30オームcm2、およびイオン交換容量0.702meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送5.9×10-6モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して19倍遅く、且つプロトン伝導率は同等である。
【0067】
例6
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムをブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけをアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.25%の2-アミノベンズイミダゾール水溶液(Alfa-Aesar L02066)中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率14.3オームcm2、およびイオン交換容量0.504meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送3.6×10-7モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して312倍遅い。
【0068】
例7
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムをブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけをアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.25%の4-アミノピペリジン水溶液(Alfa-Aesar L20127)中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率0.21オームcm2、およびイオン交換容量0.0meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送2.3×10-5モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して8倍遅い。
【0069】
例8 複合双極性膜
厚さ15μm、孔径0.2μm、ガーレー透気度2.2秒/100cc 0.20in2および乾燥質量9mgを有する、1 5/16インチの直径のポリエステル膜のディスク(Sterlitech Corp.、PET0247100)を、ガラスビーカー中で、0.4グラムの15%ペルフルオロスルホン酸ポリマー溶液(Ion Power Inc. EW1100)中に10分間、室温で浸す。浸した後、過剰な溶液を流し出し、湿った膜を80℃で20分間乾燥させる。乾燥後、1.0グラムの水を添加して、膜をガラス表面から取り外し、次いで、膜を80℃で10分間、再度乾燥させる。乾燥した膜を130℃、且つポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(Teflon(登録商標))シートの間の圧力1キログラム/in2で、20分間、熱処理する。その膜を、50グラムの0.10%の3-アミノイミダゾ(1,2)ピリジン水溶液中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水中で洗浄する。フィルムの片側をブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけをアミノ化させる。その膜は、質量26mg、厚さ19μm、ガーレー透気度>86400秒/10cc 0.20in2、および2Mの硫酸中でのプロトンの面積抵抗率0.83オームcm2、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸中でのバナジルイオン輸送3.95×10-7モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して278倍遅い。
【0070】
比較例1
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムを片側上で、前記フィルムの片側にブチルゴム膜を機械的に付着させることによって、ブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけの上でアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に80℃で2時間浸す。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率0.29オームcm2、およびイオン交換容量0.849meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジウム輸送1.1×10-4モル/日cm2を有する。
【0071】
比較例2
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムを片側上で、前記フィルムの片側にブチルゴム膜を機械的に付着させることによって、ブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけの上でアミノ化させる。そのフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.25%の1200MWのポリエチレンイミン水溶液(Polysciences Inc 24313)中に、80℃で3時間浸し、次いで、蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率20オームcm2、およびイオン交換容量0.378meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送1.3×10-6モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して87倍遅い。
【0072】
比較例3
0.470gのペルフルオロスルホン酸(PFSA)(Nafion(登録商標)117)フィルムを片側上で、前記フィルムの片側にブチルゴム膜を機械的に付着させることによって、ブチルゴムで塞いで、フィルムの片側だけの上でアミノ化させる。その塞がれたフィルムを50グラムの蒸留水中に30分間、80℃で浸して、フィルムを予め膨潤させる。水で膨潤されたフィルムを次に、50グラムの0.25%のポリアミドアミン超分岐デンドリマーの高分子電解質デンドリマー、エチレンジアミンコア、ジェネレーション4.0の水溶液(Aldrich 412449)中に80℃で2時間浸し、次いで蒸留水で濯ぎ落とす。そのフィルムは、2Mの硫酸中でプロトンの面積抵抗率3.1オームcm2、およびイオン交換容量0.789meq/グラム、および1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸におけるバナジルイオン輸送1.0×10-5モル/日cm2を有する。バナジルイオンの輸送は、改質されていないPFSAに対して11倍遅い。
【0073】
本願内で示され且つ記載されたもの以外の本開示の様々な変更は、上記の分野の当業者には明らかである。そのような変更は、追記の特許請求の範囲内に該当することも意図されている。
【0074】
全ての試薬は、特段記載されない限り、当該技術分野において公知の源により入手可能であると理解される。
【0075】
様々な態様の一覧
1. スルホン化ポリマーと、
複素環式分子、任意に複数の窒素を含有する複素環式分子と
を含む膜であって、前記複素環式分子が前記スルホン化ポリマーに共有結合している、前記膜。
2. 前記複素環式分子が、9.0未満、任意に3.0~9.0のpKaを有する、態様1に記載の膜。
3. 前記膜のガーレーの透気度数が86400秒/10cc 0.20in2を上回る、態様1に記載の膜。
4. プロトン抵抗率が20オームcm2以下である、態様1に記載の膜。
5. バナジウム輸送が、1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸中で1.1×10-4モル/日cm2以下である、態様1に記載の膜。
6. 前記膜の厚さが10~1000μmである、態様1に記載の膜。
7. 前記複素環式分子が、アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、アミノイミダゾピリジン、4-アミノピペリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、任意に組み合わせた態様1~6に記載の膜。
8. 前記スルホン化ポリマーが、ペル(フルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン)コポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化トリフルオロポリスチレン、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化スチレン-ブタジエン、スルホン化ポリパラフェニレン、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテル-ケトン-エーテル-ケトン-ケトン)、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルスルホン)、スルホン化2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド、スルホン化ポリ(フタラジノンエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリホスファゼン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリフェニルスルホン、ポリ(フッ化ビニリデン)-グラフト-ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトン)、ポリ(アリーレンチオエーテルケトンケトン)およびスルホン化ポリフルオレニルエーテルケトン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、任意に組み合わせた態様1~6に記載の膜。
9. 前記ポリマーが非多孔質のフィルムの形態である、任意に組み合わせた態様1~6に記載の膜。
10. 前記スルホン化ポリマーが不織布または微孔質の支持フィルムと結合されている、任意に組み合わせた態様1~6に記載の膜。
11. 前記スルホン化ポリマーが、不織布または微孔質の支持フィルム内の複数の孔内に収容されている、態様10に記載の膜。
12. 前記支持フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ニトロセルロース、セルロース、混合セルロースエステル、またはそれらの組み合わせを含む、態様10に記載の膜。
13. 前記支持フィルムが、孔の断面寸法0.01~1000μmを有する、態様11に記載の膜。
14. 態様1、7および8の組み合わせ。
15. 態様2、7および8の組み合わせ。
16. 態様1、7、8および9の組み合わせ。
17. 態様2、7、8および9の組み合わせ。
18. 態様1、7、8および10の組み合わせ。
19. 態様2、7、8および10の組み合わせ。
20. ペルフルオロスルホン酸を含むスルホン化ポリマーと、
アデニン、アミノイソキノリン、アミノベンズイミダゾール、アミノイミダゾピリジン、4-アミノピペリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される複素環式分子と
を含む膜であって、前記複素環式分子が前記スルホン化ポリマーに共有結合またはイオン結合している、前記膜。
21. 前記膜が、86400秒/10cc 0.20in2より大きいガーレーの透気度数を有する、態様20。
22. プロトン抵抗率が20オームcm2以下である、態様20。
23. バナジウム輸送が、1.0Mの硫酸バナジル/3Mの硫酸中で1.1×10-4モル/日cm2以下である、態様20。
24. 前記膜の厚さが10~1000μmである、態様20、21、22、23のいずれかまたはそれらの組み合わせ。
25. ペルフルオロスルホン酸を含むスルホン化ポリマーと、
アデニン、アミノイミダゾピリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される複素環式分子と
を含む膜であって、前記複素環式分子が前記スルホン化ポリマーに共有結合またはイオン結合している、前記膜。
26. ペルフルオロスルホン酸を含むスルホン化ポリマーと、
アデニン、アミノイミダゾピリジンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される複素環式分子と
からなる膜であって、前記複素環式分子が前記スルホン化ポリマーに共有結合またはイオン結合している、前記膜。
27. 前記膜が、電気化学電池または燃料電池内にある、任意に組み合わせた態様1~26。
28. 前記膜がバナジウムのレドックス電池内にある、任意に組み合わせた態様1~26。
29. 前記膜が、直接メタノール型燃料電池内にある、任意に組み合わせた態様1~26。
【0076】
参考文献
1. M.Gattrell, J.Park, B.MacDougall, J.Apte, S.McCarthy,およびC.W.Wu, “A study of the mechanism of the vanadium 4+/5+ redox reaction in acidic solutions,” Journal of the Electrochemical Society (J.Electrochem.Soc.), 2004, vol.151, no1, pp.A123-A130
2. S.Eckroad Vanadium Redox Flow Batteries An In-Depth Analysis 1014836 Technical Update, March 2007, Electric Power Research Institute
3. Zempachi Ogumi, Yoshiharu Uchimoto, Masanori Tsujikawa, Kazuaki YasudaおよびZen-Ichiro Takehara, Modification of ion exchange Membrane by Plasma Process. Journal of Membrane Science 54,(1990), 163-74
4. Qingtao Luo, Huaming Zhang, Jian Chen, Peng QianおよびYunfeng Zhai, Modification of Nafion(登録商標) membrane using interfacial polymerization for vanadium redox flow battery applications. Journal of Membrane Science 311 (2008) 98-103
5. Tongwen Xu, Ion exchange membranes: State of their development and perspective. Journal of Membrane Science 263 (2005) 1-29
6. Toshikatsu Sata, Ryuji Izuo. Modification of transport properties of ion exchange membrane. XI. Electrodialytic properties of cation exchange membranes having polyethyleneimine layer fixed by acid-amide bonding. Journal of Applied Polymer Science Volume 41 Issues 9-10 (1990) 2349-2362
7. Morihiro Saito, Naoko Arimura, Kikuko Hayamizu, Tatsuhiro Okada, Mechanisms of Ion and Water Transport in Perfluorosulfonated Ionomer Membranes for Fuel Cells. J.Phys Chem B 2004, 108, 16064-70
8. 米国特許第4849311号明細書(US4849311) Itoh, et al. 1989年7月18日
9. 米国特許第5547551号明細書(US5547551) 1996年8月20日
【0077】
本明細書中で言及される特許、刊行物および出願は、本発明が関与する分野の当業者の水準を示す。それらの特許、刊行物および出願は、各々の特許、刊行物または出願が参照をもって具体的且つ個別に組み込まれた場合と同程度に、参照をもって本願内に組み込まれるものとする。
【0078】
先の記載は本発明の特定の実施態様の説明であり、その実施に際する限定を意味しない。以下の特許請求の範囲は、その全ての均等物を含み、本発明の範囲を定義することが意図されている。
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-07-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン化ポリマーと、
複数の窒素を含有する複素環式分子と
を含む膜であって、前記複素環式分子が前記スルホン化ポリマーに共有結合またはイオン結合している、前記膜。
【外国語明細書】