(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141868
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】心血管リスクを低減させる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220921BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220921BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220921BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220921BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220921BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20220921BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20220921BHJP
C07K 16/40 20060101ALN20220921BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/00 ZNA
A61P9/10
A61P9/10 103
A61P43/00 111
A61K39/395 P
A61K31/505
A61K31/40
A61P43/00 121
C07K16/40
C07K16/18
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022116854
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2020097344の分割
【原出願日】2015-03-13
(31)【優先権主張番号】61/954,094
(32)【優先日】2014-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/025,400
(32)【優先日】2014-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/043,182
(32)【優先日】2014-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15305293.1
(32)【優先日】2015-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515337475
【氏名又は名称】サノフィ・バイオテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ロランス・ベサック
(72)【発明者】
【氏名】コリンヌ・アノトン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・シー・ポーディー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ジェイ・サシーラ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ジー・シュウォルツ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ガブリエル・シュテグ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】最大耐用量スタチン治療にもかかわらず心血管リスクが高い急性冠症候群後の患者の心血管リスクを低減させ、アテローム生成リポタンパク質を低下させる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、脂質およびリポタンパク質レベル上昇に関連する疾患および障害を処置する方法を提供する。本発明の方法は、PCSK9阻害剤を含む医薬組成物を高心血管リスク患者に投与することを含む。特定の実施形態において、PCSK9阻害剤は、本明細書中でmAb316Pまたはアリロクマブと呼ばれる例示的抗体などの抗PCSK9抗体である。本発明の方法は、最大耐用量スタチン治療によって十分に制御されない高コレステロール血症および他のアテローム生成リポタンパク質レベル上昇を有する高心血管リスク患者の処置に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性冠症候群(ACS)事象後12カ月以内の高心血管リスク患者の心血管リスクを低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を、該PCSK9阻害剤の不在下で最大耐用量スタチン治療での定常状態処置にもかかわらずアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す該患者に投与することを含む前記方法。
【請求項2】
心血管リスクを低減させることは、冠動脈心疾患死、急性心筋梗塞、不安定狭心症による入院、または虚血性脳卒中の初回発生までの時間を短縮することを意味する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ACS事象は:
1)推定されるまたは立証された閉塞性冠疾患に起因する、予定外の入院から72時間以内の安静時または最小労作時に起こる不安定な心筋虚血症状;および
2)次のうちの少なくとも1つ:
a)急性心筋梗塞と一致する心臓バイオマーカー上昇、または
b)虚血もしくは梗塞と一致する安静時ECG変化と共に局所灌流画像法からの閉塞性冠疾患のさらなる証拠もしくは壁運動異常、血管造影法による心外膜冠動脈狭窄≧70%、もしくは該事象に関係する冠動脈血行再建の必要性
によって定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
PCSK9阻害剤は、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1/6および11/15からなる群から選択される重鎖可変領域/軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対の重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号11のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号15のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号6のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18;または配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む抗体と同じ、PCSK9上のエピトープと結合する、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18;または配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む抗体とPCSK9との結合について競合する、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約75mgの用量で、
2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
2用量の後に測定される患者のLDL-Cが<50mg/dLである場合、約75mg用量が維持される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
2用量の後に測定される患者のLDL-Cが≧50mg/dLのままである場合、約75mg用量は中止され、その後、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が約150mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
約150mg用量は、いずれか2回の連続する測定について患者のLDL-Cが<25mg/dLである場合、中止され、その後、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、約75mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合タンパク質は、約150mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
PCSK9阻害剤は、最大耐用量スタチン治療と併用して患者に投与される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
最大耐用量スタチン治療は、アトルバスタチン約40mg~約80mgの1日用量を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
最大耐用量スタチン治療は、ロスバスタチン約20mg~約40mgの1日用量を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
患者は、PCSK9阻害剤の投与前または投与時に:
1)≧70mg/dLの血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベル;
2)非高密度リポタンパク質コレステロール≧100mg/dL;または
3)アポリポタンパク質B≧80mg/dL
と定義されるアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
定常状態処置は、少なくとも2週間の処置である、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
急性冠症候群(ACS)事象後12カ月以内の高心血管リスク患者の心血管事象を低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を、該PCSK9阻害剤の不在下で最大耐用量スタチン治療での定常状態処置にもかかわらずアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す該患者に投与することを含む前記方法。
【請求項23】
急性冠症候群(ACS)事象後の高心血管リスク患者の心血管事象を低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を該患者に投与することを含む前記方法。
【請求項24】
急性冠症候群(ACS)事象後の高心血管リスク患者の心血管リスクを低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の
1用量またはそれ以上を該患者に投与することを含む前記方法。
【請求項25】
心血管リスクを低減させることは、冠動脈心疾患死、急性心筋梗塞、不安定狭心症による入院、または虚血性脳卒中の初回発生までの時間を短縮することを意味する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ACS事象は:
1)推定されるまたは立証された閉塞性冠疾患に起因する、予定外の入院から72時間以内の安静時または最小労作時に起こる不安定な心筋虚血症状;および
2)次のうちの少なくとも1つ:
a)急性心筋梗塞と一致する心臓バイオマーカー上昇、または
b)虚血もしくは梗塞と一致する安静時ECG変化と共に局所灌流画像法からの閉塞性冠疾患のさらなる証拠もしくは壁運動異常、血管造影法による心外膜冠動脈狭窄≧70%、もしくは該事象に関係する冠動脈血行再建の必要性
によって定義される、請求項22~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
PCSK9阻害剤は、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1/6および11/15からなる群から選択される重鎖可変領域/軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対の重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号11のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号15のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号6のアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18;または配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む抗体と同じ、PCSK9上のエピトープと結合する、請求項4に記載の方法。
【請求項34】
抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18;または配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む抗体とPCSK9との結合について競合する、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約75mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
2用量の後に測定される患者のLDL-Cが<50mg/dLである場合、約75mg用量が維持される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
2用量の後に測定される患者のLDL-Cが≧50mg/dLのままである場合、約7
5mg用量は中止され、その後、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、約150mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
約150mg用量は、いずれか2回の連続する測定について患者のLDL-Cが<25mg/dLである場合、中止され、その後、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、約75mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約150mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項40】
PCSK9阻害剤は、最大耐用量スタチン治療と併用して患者に投与される、請求項22~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
最大耐用量スタチン治療は、アトルバスタチン約40mg~約80mgの1日用量を含む、請求項22~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
最大耐用量スタチン治療は、ロスバスタチン約20mg~約40mgの1日用量を含む、請求項22~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
患者は、PCSK9阻害剤の投与前または投与時に:
1)≧70mg/dLの血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベル;
2)非高密度リポタンパク質コレステロール≧100mg/dL;または
3)アポリポタンパク質B≧80mg/dL
と定義されるアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す、請求項22~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
定常状態処置は、少なくとも2週間の処置である、請求項22~43のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質およびリポタンパク質レベル上昇に関連する疾患および障害の治療的処置の分野に関する。より具体的には、本発明は、最大耐用量スタチン治療にもかかわらず心血管リスクが高い急性冠症候群後の患者において心血管リスクを低減させ、アテローム生成リポタンパク質を低下させるためのPCSK9阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
迅速な冠動脈血行再建、二重抗血小板治療および強化スタチン処置をはじめとする最新の治療にもかかわらず、心血管事象は、急性冠症候群(ACS)後に高頻度で起こる。登録データは、5年で13%ほどもの高い心血管死亡率を示しており、圧倒的多数が最初の退院後に起こっている。最近急性冠症候群(ACS)を発症した患者は、近いうちに再発冠動脈事象を患うリスクが非常に高い。ACS患者のおおよそ10%において、心血管死、再発性心筋梗塞または脳卒中が1年以内に起こる。大規模治験の結果に基づいて、早期強化スタチン治療は、ACS患者に対する治療勧告として正式に承認されている。疫学的介入試験と薬理学的介入試験の両方によって、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベルと心血管(CV)事象との強い直線相関が実証されている。しかし、多くの高CVリスク患者は、現在利用可能な脂質低下薬でそのようなレベルを達成することができない。さらに、有意な数の高リスク患者は、彼らの推奨LDL-C標的レベルを達成することさえできず、ほとんどのCV事象は実際には予防されず、その結果、患者に相当な「残存リスク」が残る。それ故、冠動脈心疾患(CHD)の予防のためのさらなる薬物治療は、特にACSの高リスク患者には、依然として絶対必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、最大耐用量スタチン治療にもかかわらず心血管リスクが高い急性冠症候群後の患者の心血管リスクを低減させ、アテローム生成リポタンパク質を低下させる方法を提供する。特に、本発明の方法は、心血管リスクおよび/または心血管事象の低減に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態は、急性冠症候群(ACS)事象後12カ月以内の高心血管リスク患者の心血管リスクを低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を、該PCSK9阻害剤の不在下で最大耐用量スタチン治療での定常状態処置にもかかわらずアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す該患者に投与することを含む前記方法を提供する。
【0005】
本発明の一実施形態は、急性冠症候群(ACS)事象後12カ月以内の高心血管リスク患者の心血管事象を低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を、該PCSK9阻害剤の不在下で最大耐用量スタチン治療での定常状態処置にもかかわらずアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す該患者に投与することを含む前記方法を提供する。
【0006】
本発明の一実施形態は、急性冠症候群(ACS)事象後の高心血管リスク患者の心血管事象を低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を該患者に投与することを含む前記方法を提供する。
【0007】
本発明の一実施形態は、急性冠症候群(ACS)事象後の高心血管リスク患者の心血管リスクを低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を該患者に投与することを含む前記方法を提供する。
【0008】
一態様によると、本発明の方法は、最大耐用量スタチン治療にもかかわらず心血管リスクが高い急性冠症候群事象後12カ月以内の患者に、該患者の心血管リスク(すなわち、PCSK9阻害剤の不在下で最大耐用量スタチン治療によって十分に制御されない脂質およびリポタンパク質上昇)を低減させ、アテローム生成リポタンパク質を低下させるために、PCSK9阻害剤の1用量またはそれ以上を投与することを含む。本発明の特定の実施形態によると、PCSK9阻害剤は、高心血管リスク患者に、該患者の既存のスタチン治療への追加治療として投与される。
【0009】
別の態様によると、本発明の方法は、スタチンの1日用量を含む治療レジメン(例えば、最大耐用量スタチン治療)を受けている高心血管リスク患者を選択すること、および前記スタチン治療と併用して(すなわち、前記スタチン治療「に加えて」)PCSK9阻害剤の1用量またはそれ以上を該患者に投与することを含む。
【0010】
一態様によると、本発明は、急性冠症候群(ACS)事象後12カ月以内の高心血管リスク患者の心血管リスクを低減させる方法であって、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤の1用量またはそれ以上を、該PCSK9阻害剤の不在下で最大耐用量スタチン治療での定常状態処置にもかかわらずアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す該患者に投与することを含む前記方法を含む。
【0011】
いくつかの態様において、心血管リスクを低減させることという用語は、冠動脈心疾患死、急性心筋梗塞、不安定狭心症による入院、または虚血性脳卒中の初回発生までの時間を短縮することを意味する。
【0012】
いくつかの態様において、用語ACS事象は:1)推定されるまたは立証された閉塞性冠疾患に起因する、予定外の入院から72時間以内の安静時または最小労作時に起こる不安定な心筋虚血症状;および2)次のうちの少なくとも1つ:a)急性心筋梗塞と一致する心臓バイオマーカー上昇、またはb)虚血もしくは梗塞と一致する安静時ECG変化と共に局所灌流画像法からの閉塞性冠疾患のさらなる証拠もしくは壁運動異常、血管造影法による心外膜冠動脈狭窄≧70%、もしくは該事象に関係する冠動脈血行再建の必要性によって定義される。
【0013】
いくつかの態様において、PCSK9阻害は、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1/6および11/15からなる群から選択される重鎖可変領域/軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対の重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)を含む。いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む。代替態様において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号11のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号15のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む。代替態様において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するHCVRおよび配列番号6のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。他の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18;または配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む抗体と同じ、PCSK9上のエピトープと
結合する。さらに他の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12、13、14、16、17および18;または配列番号2、3、4、7、8および10を有する重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む抗体と、PCSK9との結合について競合する。
【0014】
いくつかの態様において、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、約75mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される。他の態様において、2用量後に測定される患者のLDL-Cが<50mg/dLである場合、約75mg用量が維持される。さらに他の態様において、2用量後に測定される患者のLDL-Cが≧50mg/dLのままである場合、約75mg用量は中止され、その後、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、約150mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される。さらなる態様において、いずれか2回の連続する測定について患者のLDL-Cが<25mg/dLである場合、約150mg用量は中止され、その後、PCSK9に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、約75mgの用量で2週間に1回の頻度で患者に投与される。
【0015】
いくつかの態様において、PCSK9阻害剤は、最大耐用量スタチン治療と併用して患者に投与される。他の態様において、最大耐用量スタチン治療は、アトルバスタチン約40mg~約80mgの1日用量を含む。さらに他の態様において、最大耐用量スタチン治療は、ロスバスタチン約20mg~約40mgの1日用量を含む。
【0016】
いくつかの態様において、患者は、PCSK9阻害剤の投与前または投与時に:1)≧70mg/dLの血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベル;2)非高密度リポタンパク質コレステロール≧100mg/dL;または3)アポリポタンパク質B≧80mg/dLと定義されるアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を示す。
【0017】
いくつかの態様において、定常状態処置は、少なくとも2週間の処置である。
【0018】
本発明の他の実施形態は、後に続く詳細な説明の再考から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ODYSSEY LONG TERM研究のデザインの図解である。
【
図2】ODYSSEY LONG TERMの研究デザインの図解である。電話訪問はイタリック体で示されており、二重盲検処置期間の最終訪問まで、治験実施施設への訪問と訪問の間に、4週間ごとに継続する。
【
図3】第52週までのODYSSEY LONG TERM研究における各時点でのプラセボおよびアリロクマブについてのLS平均(SE)算定LDL-Cを示すグラフである。グラフに示されている値は、ベースラインから第24週および第52週までのLS平均変化%である。
【
図4】ODYSSEY LONG TERM研究の初回の判定された主要CV事象までの時間についての事前に設定された解析時点でのカプラン・マイヤー推定値のグラフである。
【
図5】ODYSSEY LONG TERM研究の第24週におけるプラセボおよびアリロクマブについてのLS平均(SE)算定非HDL-C、アポBおよびLp(a)レベルを示すグラフである。
【
図6】TEAE期間中の初回の陽性判定されたCV事象までの時間についての(研究完了時点での)カプラン・マイヤー推定値を示す、MACE(ODYSSEY OUTCOMESエンドポイント)と判定されたサブグループについての事後解析のグラフである。
【
図7】第3相プラセボ対照研究プールにおけるTEAE期間中の初回の陽性判定されたCV事象までの時間についてのカプラン・マイヤー推定値を示す、MACE(ODYSSEY OUTCOMESエンドポイント)と判定されたサブグループについての事後解析のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を説明する前に、本発明は説明する特定の方法および実験条件に限定されないことを理解すべきである。そのような方法および条件は変わることがあるからである。本明細書において用いる専門用語は、特定の実施形態の説明を目的にしたものに過ぎず、限定的することを意図したものでないことも理解すべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるからである。
【0021】
別段の定義がない限り、本明細書において用いる全ての専門および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書において用いる場合、用語「約」は、特定の列挙されている数値に関して用いるとき、その値が、列挙されている値から1%以下変動することがあることを意味する。例えば、本明細書において用いる場合、「約100」という表現は、99および101、ならびに間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0022】
本明細書に記載のものと同様または等価の任意の方法および材料を本発明の実施の際に使用することができるが、好ましい方法および材料を次に説明する。本明細書において言及する全ての出版物は、それら全体が説明のために参照によって本明細書に組み入れられている。
【0023】
最大耐用量スタチン治療によって十分に制御されない高コレステロール血症および他のアテローム生成リポタンパク質
一般に、本発明は、スタチンによって十分に制御されない高コレステロール血症、すなわちスタチンの1日最大耐用量を含む治療レジメンによって十分に制御されない高コレステロール血症、を有する高心血管リスク患者を処置するための方法および組成物に関する。本明細書において用いる場合、高コレステロール血症に関して「十分に制御されない」という表現は、スタチンの安定した1日用量を含む治療レジメンを受けていて少なくとも4週間後に患者の血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)濃度、総コレステロール濃度、および/またはトリグリセリド濃度が(該患者の冠動脈心疾患の相対リスクを考慮に入れて)認知されている医学的に許容されるレベルに低減されないことを意味する。例えば、「スタチンによって十分に制御されない高コレステロール血症の患者」は、患者が少なくとも4週間、安定した毎日のスタチンレジメン受けてきた後、(心疾患についての該患者の潜在的リスクに依存して)約70mg/dL以上、100mg/dL、130mg/dL、140mg/dL、またはそれ以上の血清LDL-C濃度を有する患者を含む。
【0024】
特定の実施形態によると、本発明の方法によって処置可能である高心血管リスク患者は、少なくとも4週間、5週間、6週間、またはそれ以上、(他の脂質修飾治療と共にまたはなしで)スタチンの安定した1日用量の摂取にもかかわらず高コレステロール血症(例えば、70mg/dL以上の血清LDL-C濃度)を有する。特定の実施形態において、高心血管リスク患者の高コレステロール血症は、最大耐用量スタチン治療では制御不十分である。
【0025】
本発明は、スタチンによって十分に制御されないアテローム生成リポタンパク質レベル上昇、すなわちスタチンの1日最大耐用量を含む治療レジメンによって十分に制御されないアテローム生成リポタンパク質レベル上昇、を有する高心血管リスク患者を処置するた
めの方法および組成物にも一般に関する。本明細書において用いる場合、アテローム生成リポタンパク質に関して「十分に制御されない」という表現は、スタチンの安定した1日用量を含む治療レジメンを受けていて少なくとも4週間後に患者の血清低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)濃度、非高密度リポタンパク質コレステロール、および/またはアポリポタンパク質B濃度が(患者の冠動脈心疾患の相対リスクを考慮に入れて)認知されている医学的に許容されるレベルに低減されないことを意味する。例えば、「スタチンによって十分に制御されないアテローム生成リポタンパク質レベル上昇を有する患者」は、患者が少なくとも4週間、安定した毎日のスタチンレジメン受けてきた後、(心疾患についての該患者の潜在的リスクに依存して)約70mg/dL以上、100mg/dL、130mg/dL、140mg/dL、もしくはそれ以上の血清LDL-C濃度;約100mg/dL以上の非高密度リポタンパク質コレステロール濃度;または約80mg/dL以上のアポリポタンパク質B濃度を有する患者を含む。
【0026】
特定の実施形態によると、本発明の方法によって処置可能である高心血管リスク患者は、少なくとも4週間、5週間、6週間、またはそれ以上、(他の脂質修飾治療と共にまたはなしで)スタチンの安定した1日用量の摂取にもかかわらずアテローム生成リポタンパク質レベル上昇(例えば、70mg/dL以上の血清LDL-C濃度)を有する。特定の実施形態において、高心血管リスク患者のアテローム生成リポタンパク質レベル上昇は、最大耐用量スタチン治療では制御十分である。
【0027】
本明細書において用いる場合、「最大耐用量スタチン治療」は、個々の患者についての最大投与可能量であるスタチンの1日用量の投与を含む治療レジメンを意味する。最大投与可能量は、患者において許容し難い有害副作用を生じさせることなく患者に投与することができるスタチンの最高用量を意味する。最大耐用量スタチン治療は、例えば、アトルバスタチン40~80mg/日、またはロスバスタチン20~40mg/日を含むが、これらに限定されない。
【0028】
本発明は、最大耐用量スタチン治療によって十分に制御されない高コレステロール血症および他のアテローム生成リポタンパク質レベル上昇を有する高心血管リスク患者を処置する方法であって、他のスタチン、例えば、セリバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチンおよびプラバスタチンの毎日の投与を含む前記方法も含む。
【0029】
患者選択
本発明は、1日最大耐用量治療スタチンレジメンによって十分に制御されない、高コレステロール血症および他のアテローム生成リポタンパク質レベル上昇を有する高心血管リスク患者の処置に有用な方法および組成物を含む。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、食事の補助剤として投与される。
【0031】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、最近急性冠症候群を発症した患者の心血管事象を低減させるために投与される。
【0032】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、最近急性冠症候群を発症した患者の心血管リスクを低減させるために投与される。
【0033】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、スタチンと併用してのものであるか、またはスタチンを耐容することができない患者の場合に含める単剤治療としてのものである。
【0034】
いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、使い捨て充填済みペンまたは使い捨て充填済み注射器を使用して大腿、腹部または上腕に皮下注射として投与される。注射部位は、注射ごとに順番に変えることができる。抗体またはその抗原結合断片は、日焼け、発疹、炎症または皮膚感染症などの活動性皮膚疾患または外傷部位に注射すべきでない。
【0035】
本発明の方法によって処置可能である高心血管リスク患者は、推定されるまたは立証された閉塞性冠疾患に起因する、予定外の入院から72時間以内の安静時または最小労作時に起こる不安定な心筋虚血症状によって定義されるACSで入院した。加えて、ACS事象の認定は、次の基準の少なくとも1つを満たす必要があった:急性心筋梗塞と一致する心臓バイオマーカー上昇、または虚血もしくは梗塞と一致する安静時ECG変化と共に局所灌流画像法からの閉塞性冠疾患のさらなる証拠もしくは壁運動異常、血管造影法による心外膜冠動脈狭窄≧70%、または該事象に関係する冠動脈血行再建の必要性。
【0036】
患者の適格性確認は、アトルバスタチン40~80mg/日、ロスバスタチン20~40mg/日、またはこれらの薬剤の一方の最大耐用量での定常状態(少なくとも2週間)処置にもかかわらずアテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を実証しなければならなかった。アテローム生成リポタンパク質の不十分な制御を、次のうちの少なくとも1つによって定義した:LDL-C≧70mg/dL(1.81mmol/L)、非高密度リポタンパク質コレステロール(非HDL-C)≧100mg/dL(2.59mmol/L)、またはアポリポタンパク質B≧80mg/dL(0.8mmol/L)。
【0037】
特定の実施形態によると、年齢(例えば、40、45、50、55、60、65、70、75または80歳より高齢)、人種、出身国、性別(男性または女性)、運動習慣(例えば、運動する習慣のある人、運動しない人)、他の既存の病状(例えば、II型糖尿病、高血圧など)および現在の投薬状態(例えば、現在摂取しているβ遮断薬、ナイアシン、エゼチミブ、フィブラート、オメガ3脂肪酸、胆汁酸樹脂など)からなる群から選択される1つまたはそれ以上の追加のリスク因子を有することに基づいて高心血管リスク患者を選択することができる。
【0038】
本発明によると、高心血管リスク患者は、上述の選択基準または治療特性の1つまたはそれ以上についての組合せに基づいて選択することができる。
【0039】
最大耐用量スタチン治療への追加治療としてのPCSK9阻害剤の投与
本発明は、PCSK9阻害剤の不在下で安定した1日最大耐用量治療スタチンレジメンによって十分に制御されない高コレステロール血症および他のアテローム生成リポタンパク質レベル上昇を有する高心血管リスク患者にPCSK9阻害剤が特定の投薬量および頻度に従って投与され、前記PCSK9阻害剤が該患者の治療スタチンレジメンへの追加として投与される方法を含む。例えば、特定の実施形態によると、高心血管リスク患者が、例えばアトルバスタチン40~80mgを含む安定した1日最大耐用量治療スタチンレジメンを受けているにもかかわらず十分に制御されない高コレステロール血症および他のアテローム生成リポタンパク質レベル上昇を有する場合、前記高心血管リスク患者は、彼または彼女の安定した毎日の治療スタチンレジメンを継続しながら、PCSK9阻害剤を特定の用量および投薬間隔で投与される。
【0040】
本発明の方法は、高心血管リスク患者がPCSK9阻害剤を受ける前に受けていた同じ安定した1日最大耐用量治療スタチンレジメン(すなわち、同じスタチン投薬量)への追加治療としてPCSK9阻害剤が投与される、追加治療レジメンを含む。他の実施形態において、PCSK9阻害剤は、患者がPCSK9阻害剤を受ける前に受けていたスタチンの用量より多いまたは少ない量でスタチンを含む1日最大耐用量治療スタチンレジメンへ
の追加治療として投与される。例えば、特定の投薬頻度および量で投与されるPCSK9阻害剤を含む治療レジメンを開始した後、患者に投与または処方されるスタチンに1日用量は、患者の治療上の必要に応じて、その高心血管リスク患者がPCSK9阻害剤治療レジメンを開始する前に摂取していた毎日のスタチン用量と比較して(a)同じままであることもあり、(b)増加するまたは(c)減少する(例えば、アップタイトレーションするまたはダウンタイトレーションする)こともある。
【0041】
治療効能
本発明の方法は、LDL-C、アポB100、非HDL-C、総コレステロール、VLDL-C、トリグリセリド、Lp(a)およびレムナントコレステロールからなる群から選択される1つまたはそれ以上の脂質成分の血清レベルの低減をもたらすことになる。例えば、本発明の特定の態様によると、安定した1日最大耐用量治療スタチンレジメンによって十分に制御されない高コレステロール血症または他のアテローム生成リポタンパク質レベル上昇を有する高心血管リスク患者へのPCSK9阻害剤を含む医薬組成物の投与(例えば、高心血管リスク患者の最大耐用量スタチン治療に加えてPCSK9阻害剤の投与)は、ベースラインからの少なくとも約25%、30%、40%、50%、60%もしくはそれ以上の血清低密度リポタンパクコレステロール(LDL-C)の平均低減率;ベースラインからの少なくとも約25%、30%、40%、50%、60%もしくはそれ以上のアポB100の平均低減率;ベースラインからの少なくとも約25%、30%、40%、50%、60%もしくはそれ以上の非HDL-Cの平均低減率;ベースラインからの少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%もしくはそれ以上の総コレステロールの平均低減率;ベースラインからの少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%もしくはそれ以上のVLDL-Cの平均低減率;ベースラインから少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%もしくはそれ以上のトリグリセリドの平均低減率;および/またはベースラインから少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%もしくはそれ以上のLp(a)の平均低減率をもたらすことになる。
【0042】
PCSK9阻害剤
本発明の方法は、PCSK9阻害剤を含む治療用組成物を高心血管リスク患者に投与することを含む。本明細書において用いる場合、「PCSK9阻害剤」は、ヒトPCSK9と結合し、またはヒトPCSK9と相互作用し、かつインビボまたはインビトロでPCSK9の正常な生物学的機能を阻害する、任意の薬剤である。PCSK9阻害剤のカテゴリーの非限定的な例としては、小分子PCSK9アンタゴニスト、ペプチドベースのPCSK9アンタゴニスト(例えば、「ペプチボディ」分子)、およびヒトPCSK9に特異的に結合する抗体または抗体の抗原結合断片が挙げられる。
【0043】
用語「ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型」または「ヒトPCSK9」または「hPCSK9」は、本明細書において用いる場合、配列番号197で示される核酸配列および配列番号198のアミノ酸配列を有するPCSK9、またはその生物活性断片を指す。
【0044】
用語「抗体」は、本明細書において用いる場合、4本のポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互に連結されている2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖、を含む免疫グロブリン分子、およびその多量体(例えば、IgM)を指すことを意図したものである。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略記する)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3、を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略記する)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称する、より保存される領域が散在する、相補
性決定領域(CDR)と称する超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRからなり、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端へ次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の種々の実施形態において、抗PCSK9抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であることもあり、または天然にもしくは人工的に修飾されていることもある。アミノ酸コンセンサス配列は、2つまたはそれ以上のCDRの並行分析に基づいて定義することができる。
【0045】
用語「抗体」は、本明細書において用いる場合、完全抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書において用いる場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子改変ポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質消化、または抗体可変および場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む組換え遺伝子改変法などの、任意の好適な標準的技法を用いて完全抗体分子から得ることができる。そのようなDNAは、公知でありおよび/または例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えばファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に調達することができ、または合成することができる。DNAをシークエンシングし、化学的にまたは分子生物学技法の使用によって操作して、例えば、1つもしくはそれ以上の可変および/もしくは定常領域を好適な高次構造に配置すること、またはコドンを導入すること、システイン残基を生成すること、アミノ酸を修飾する、付加させるまたは欠失させることなどができる。
【0046】
抗原結合断片の非限定的な例としては、(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR)、例えばCDR3ペプチド)を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位、または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドが挙げられる。他の改変分子、例えば、ドメイン特異的抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、サメ可変IgNARドメインも、本明細書において用いる場合の「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0047】
抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの可変ドメインを概して含むことになる。可変ドメインは、いずれのサイズまたはアミノ酸組成のものであり、一般的には、1つもしくはそれ以上のフレームワーク配列に隣接しているまたは1つもしくはそれ以上のフレームワーク配列とインフレームである少なくとも1つのCDRを含むことになる。VLドメインと会合しているVHドメインを有する抗原結合断片の場合、VHおよびVLドメインは、互いに対してあらゆる好適な配置で位置することができる。例えば、可変領域は、二量体であり、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有することがある。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体VHまたはVLドメインを含有することもある。
【0048】
特定の実施形態において、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合で連結されている少なくとも1つの可変ドメインを含有することがある。本発明の抗体の抗原結合断片内で見つけることができる可変および定常ドメインの非限定的、例示的高次構造としては、(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-C
Lが挙げられる。上に列挙した例示的高次構造のいずれかを含む、可変および定常ドメインのいずれの高次構造においても、可変および定常ドメインは、互いに直接連結されていることもあり、または完全もしくは部分ヒンジもしくはリンカー領域によって連結されていることもある。ヒンジ領域は、少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれ以上)のアミノ酸からなることがあり、その結果、単一ポリペプチド分子内の隣接した可変および/または定常ドメイン間の柔軟なまたはやや柔軟な連鎖となる。さらに、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いにおよび/または1つもしくはそれ以上の単量体VHもしくはVLドメインと非共有結合で(例えば、ジスルフィド結合によって)会合している、上に列挙したいずれかの可変および定常ドメイン高次構造のホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含むことがある。
【0049】
完全抗体分子と同様に、抗原結合断片は、単一特異性であることもあり、または多重特異性(例えば、二重特異性)であることもある。抗体の多重特異性抗原結合断片は、各可変ドメインが別個の抗原にまたは同じ抗原上の異なるエピトープと特異的に結合できる、少なくとも2つの異なる可変ドメインを概して含むことになる。本明細書において開示する例示的二重特異性抗体形式を含む、いずれの多重特異性抗体形式も、当技術分野において利用可能な常例的技法を用いる本発明の抗体の抗原結合断片との関連での使用に適応させることができる。
【0050】
抗体の定常領域は、補体を固定し、細胞依存性細胞傷害を媒介する抗体の能力に重要である。したがって、抗体が細胞傷害を媒介することが望ましいかどうかに基づいて抗体のアイソタイプを選択することができる。
【0051】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むことを意図したものである。とはいえ、本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突然変異によって誘導された突然変異)を、例えば、CDR、特にCDR3に含むことがある。しかし、用語「ヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされた抗体を含むことを意図したものではない。
【0052】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、組換え手段によって製造、発現、生成または単離される全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体(さらに下で説明する)、組換え体から単離された抗体、コンビナトリアルヒト抗体ライブラリー(下でさらに説明する)、ヒト免疫グロブリン遺伝子が遺伝子導入されている動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylorら(1992)Nucl.Acids Res.20:6287~6295を参照されたい)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって製造、発現、生成もしくは単離された抗体を含むことを意図したものである。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する。しかし、特定の実施形態において、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ突然変異誘発(または、ヒトIg配列が遺伝子導入された動物を使用する場合にはインビボ体細胞突然変異)に付されるので、該組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系VHおよびVL配列に由来し、ヒト生殖細胞系VHおよびVL配列と類縁の配列だが、インビボでヒト抗体生殖細胞系レパートリー内に天然に存在できない配列である。
【0053】
ヒト抗体は、2つの形態で存在することができ、これらの形態がヒンジ異質性に関連する。一方の形態の場合、免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によ
って一緒に保持されている、おおよそ150~160kDaの安定した4鎖構築物を含む。第2の形態の場合、二量体は鎖間ジスルフィド結合によって連結されておらず、約75~80kDaの分子が、共有結合でカップリングされた軽鎖と重鎖で形成され、構成される(ハーフ抗体(half-antibody))。これらの形態は、アフィニティー精製後でさえ分
離することが極めて難しかった。
【0054】
様々なインタクトIgGアイソタイプにおける第2の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造の違いに、これに限定されるものではないが、起因する。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、第2の形態の出現を、ヒトIgG1ヒンジを使用して概して観察されるレベルに、有意に低減させることができる(Angalら(1993)Molecular Immunology 30:105)。本発明は、例えば生産の際、所望の抗体形態の収率を向上させるために望ましいことがある、ヒンジ、CH2またはCH3領域に1つまたはそれ以上の突然変異を有する抗体を包含する。
【0055】
「単離された抗体」は、本明細書において用いる場合、その天然環境の少なくとも1つの成分から同定および分離および/または回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から分離もしくは除去された抗体、またはその抗体が天然に存在するもしくは天然に生産される組織もしくは細胞から分離もしくは除去された抗体は、本発明では「単離された抗体」である。単離された抗体は、組換え細胞内の生体内原位置の抗体も含む。単離された抗体は、少なくとも1工程の精製または単離工程に付された抗体である。特定の実施形態によると、単離された抗体には、他の細胞物質および/または化学物質が実質的にないこともある。
【0056】
用語「特異的に結合する」またはこれに類する用語は、抗体またはその抗原結合断片が、生理条件下で比較的安定している抗原との複合体を形成することを意味する。抗体が抗原と特異的に結合するかどうかを判定する方法は、当技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。例えば、PCSK9「に特異的に結合する」抗体は、本発明に関連して用いる場合、表面プラズモン共鳴アッセイで測定して、約1000nM未満、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKDで、PCSK9またはその一部に結合する抗体を含む。しかし、ヒトPCSK9に特異的に結合する単離された抗体は、特定の実施形態では、他の(非ヒト)種からのPCSK9分子などの、他の抗原への交差反応性を有することがある。
【0057】
本発明の方法に有用な抗PCSK9抗体は、該抗体が由来する対応する生殖細胞系配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に1つまたはそれ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含むことがある。そのような突然変異は、本明細書において開示するアミノ酸配列を例えば公開抗体配列データベースから入手できる生殖細胞系配列と比較することによって、容易に突き止めることができる。本発明は、本明細書において開示するアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびそれらの抗原結合断片の使用を含む方法であって、1つまたはそれ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が、該抗体が由来する生殖細胞系配列の対応する残基に、または別のヒト生殖細胞系配列の対応する残基に、または対応する生殖細胞系残基の保存的アミノ酸置換に突然変異される(このような配列交換を本明細書ではまとめて「生殖細胞系突然変異」と呼ぶ)前記方法を含む。当業者は、本明細書において開示する重鎖および軽鎖可変領域配列で出発して、1つもしくはそれ以上の個々の生殖細胞系突然変異またはそれらの組合せを含む多数の抗体および抗原結合断片
を容易に生産することができる。特定の実施形態では、VHおよび/またVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基の全てが、抗体が由来する元の生殖細胞系配列中で見つけられる残基に復帰突然変異される。他の実施形態では、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8アミノ酸中もしくはFR4の最後の8アミノ酸中で見つけられる突然変異残基のみ、またはCDR1、CDR2もしくはCDR3内で見つけられる突然変異残基のみが、元の生殖細胞系配列に復帰突然変異される。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基の1つまたはそれ以上が、異なる生殖細胞系配列(すなわち、抗体が当初由来した生殖細胞系配列とは異なる生殖細胞系配列)の対応する残基に突然変異される。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に、2つまたはそれ以上の生殖細胞系突然変異の何らかの組合せ、例えば、特定の個々の残基は特定の生殖細胞系配列の対応する残基に突然変異されるが、元の生殖細胞系配列とは異なる特定の他の残基は維持されるか、または異なる生殖細胞系配列の対応する残基に突然変異される組合せを含有することもある。1つまたはそれ以上の生殖細胞系突然変異を含有する抗体および抗原結合断片は、ひとたび得てしまえば、1つまたはそれ以上の所望の特性、例えば、結合特異性改善、結合親和性増加、(場合によって)アンタゴニストまたはアゴニストとしての生物学的特性改善または向上、免疫原性低減などについて容易に試験することができる。この一般的手法で得られる抗体および抗原結合断片の使用は、本発明に包含される。
【0058】
本発明は、1つまたはそれ以上の保存的置換を有する本明細書において開示するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかについての変異体を含む抗PCSK9抗体の使用を含む方法も含む。例えば、本発明は、例えば、本明細書において開示するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して10またはそれ以下、8またはそれ以下、6またはそれ以下、4またはそれ以下などの保存的アミノ酸置換を有する、HCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗PCSK9抗体の使用を含む。
【0059】
用語「表面プラズモン共鳴」は、本明細書において用いる場合、例えばBIAcore(商標)システム(Biacore Life Sciences devision of GE Healthcare、Piscataway、NJ)を使用してバイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度変化の検出によりリアルタイム相互作用を分析することができる光学現象を指す。
【0060】
用語「KD」は、本明細書において用いる場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すことを意図したものである。
【0061】
用語「エピトープ」は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域内の特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原が1つより多くのエピトープを有することもある。それ故、抗体によって、結合する抗原領域が異なることもあり、有する生物学的効果が異なることもある。エピトープは、高次構造であることもあり、または線状であることもある。高次構造エピトープは、直鎖状ペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に隣り合って並ぶアミノ酸によって生成される。線状エピトープは、ポリペプチド鎖内の隣接したアミノ酸残基によって生成されるものである。特定の状況では、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基またはスルホニル基部分を含むことがある。
【0062】
特定の実施形態によると、本発明の方法において使用される抗PCSK9抗体は、pH依存性結合特性を有する抗体である。本明細書において用いる場合、「pH依存性結合」という表現は、抗体またはその抗原結合断片が、「中性pHと比較して酸性pHでPCSK9との結合低減」を示すことを意味する(本開示では、両方の表現を同義で用いることがある)。例えば、「pH依存性結合特性を有する」抗体は、酸性pHでより中性pHで
のほうが高い親和性でPCSK9に結合する抗体およびそれらの抗原結合断片を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体およびそれらの抗原結合断片は、酸性pHでより中性pHでのほうが少なくとも3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100倍またはそれ以上高い親和性でPCSK9に結合する。
【0063】
本発明のこの態様によると、pH依存性結合特性を有する抗PCSK9抗体は、親抗PCSK9抗体と比較して1つまたはそれ以上のアミノ酸変異を有することがある。例えば、pH依存性結合特性を有する抗PCSK9抗体は、例えば、親抗PCSK9抗体の1つまたはそれ以上のCDR内に、1つまたはそれ以上のヒスチジン置換または挿入を有することがある。それ故、本発明の特定の実施形態に従って、親抗体の1つまたはそれ以上のCDRの1つまたはそれ以上のアミノ酸のヒスチジン残基での置換を除いて親抗PCSK9抗体のCDRアミノ酸配列と同一であるCDRアミノ酸配列(例えば、重鎖および軽鎖CDR)を含む抗PCSK9抗体を投与することを含む方法を提供する。pH依存性結合を有する抗PCSK9抗体は、親抗PCSK9抗体の単一のCDR内に、または親抗PCSK9抗体の複数(例えば、2、3、4、5もしくは6)のCDR全体にわたって分布している、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9またはそれ以上のヒスチジン置換を有することがある。例えば、本発明は、親抗PCSK9抗体のHCDR1に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、HCDR2に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、HCDR3に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、LCDR1に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、LCDR2に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換、および/またはLCDR3に1つもしくはそれ以上のヒスチジン置換を含む、pH依存性結合を有する抗PCSK9抗体の使用を含む。
【0064】
本明細書において用いる場合、「酸性pH」という表現は、6.0またはそれ以下(例えば、約6.0未満、約5.5未満、約5.0未満など)のpHを意味する。「酸性pH」という表現は、約6.0、5.95、5.90、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0またはそれ以下のpH値を含む。本明細書において用いる場合、「中性pH」という表現は、約7.0~約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35および7.4のpH値を含む。
【0065】
ヒト抗体の製造
トランスジェニックマウスでヒト抗体を産生する方法は当技術分野において公知である。任意のそのような公知の方法を本発明に関連して使用して、ヒトPCSK9と特異的に結合するヒト抗体を作製することができる。
【0066】
VELOCIMMUNE(商標)技術(例えば米国特許第6,596,541号、Regeneron Pharmaceuticalsを参照されたい)、またはモノクローナル抗体の任意の他の公知産生方法を用いて、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、PCSK9に対する高親和性キメラ抗体を、最初に単離する。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を生産するように、内在性マウス定常領域遺伝子座に作動可能に連結されたヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有するトランスジェニックマウスの産生を含む。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に連結させる。その後、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてそのDNAを発現させる。
【0067】
一般には、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに、対象とする抗原を感作させ
、抗体を発現しているマウスからリンパ細胞(例えば、B細胞)を回収する。リンパ細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死ハイブリドーマ細胞株を製造することができ、そのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、選択して、対象とする抗原に特異的な抗体を生産するハイブリドーマ細胞株を同定する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域に連結させることができる。そのような抗体タンパク質を、CHO細胞などの細胞において生産することができる。あるいは、抗原特異的キメラ抗体をコードするDNA、または重鎖および軽鎖の可変ドメインを、抗原特異的リンパ球から直接単離することができる。
【0068】
ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高親和性キメラ抗体を最初に単離する。当業者に公知の標準的手順を用いて、抗体を特性評価し、親和性、選択性、エピトープなどをはじめとする所望の特定について選択する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域で置換して、本発明の完全ヒト抗体、例えば野生型または修飾IgG1またはIgG4、を産生させる。選択される定常領域は具体的な用途によって変わることがあるが、高親和性抗原結合特性および標的特異性が可変領域にある。
【0069】
一般に、本発明の方法で使用することができる抗体は、固相に固定された抗原または溶液相中の抗原と結合させることによって測定したとき、上で説明したような高い親和性を有する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域で置換して、本発明の完全ヒト抗体を産生させる。選択される定常領域は具体的な用途によって変わることがあるが、高親和性抗原結合特性および標的特異性が可変領域にある。
【0070】
本発明の方法に関連して使用することができる、PCSK9に特異的に結合するヒト抗体または抗体の抗原結合断片の具体的な例としては、配列番号1および11からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する、重鎖可変領域(HCVR)に含有された3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)を含む任意の抗体または抗原結合断片が挙げられる。あるいは、本発明の方法に関連して使用することができる、PCSK9に特異的に結合するヒト抗体または抗体の抗原結合断片の具体的な例としては、配列番号37、45、53、61、69、77、85、93、101、109、117、125、133、141、149、157、165、173、181および189からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する、重鎖可変領域(HCVR)に含有された3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)を含む任意の抗体または抗原結合断片が挙げられる。抗体または抗原結合断片は、配列番号6および15からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する、軽鎖可変領域(LCVR)に含有された3つの軽鎖CDR(LCVR1、LCVR2、LCVR3)を含むことがある。あるいは、抗体または抗原結合断片は、配列番号41、49、57、65、73、81、89、97、105、113、121、129、137、145、153、161、169、177、185および193からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する、軽鎖可変領域(LCVR)に含有された3つの軽鎖CDR(LCVR1、LCVR2、LCVR3)を含むこともある。
【0071】
本発明の特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1/6および11/15からなる群から選択される重鎖可変領域アミノ酸配列と軽鎖可変領域アミノ酸配列の対(HCVR/LCVR)からの6つのCDR(HCDR1、HCDR2、H
CDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む。あるいは、本発明の特定の実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号37/41、45/49、53/57、61/65、69/73、77/81、85/89、93/97、101/105、109/113、117/121、125/129、133/137、141/145、149/153、157/161、165/169、173/177、181/185および189/193からなる群から選択される重鎖可変領域アミノ酸配列と軽鎖可変領域アミノ酸配列の対(HCVR/LCVR)からの6つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む。
【0072】
本発明の特定の実施形態において、本発明の方法で使用することができる抗PCSK9抗体またはその抗原結合断片は、配列番号2/3/4/7/8/10(mAb316P)および12/13/14/16/17/18(mAb300N)(米国特許出願公開第2010/0166768号を参照されたい)から選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列を有する。
【0073】
本発明の特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1/6および11/15からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。あるいは、本発明の特定の実施形態において、抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号37/41、45/49、53/57、61/65、69/73、77/81、85/89、93/97、101/105、109/113、117/121、125/129、133/137、141/145、149/153、157/161、165/169、173/177、181/185および189/193からなる群から選択される重鎖可変領域アミノ酸配列と軽鎖可変領域アミノ酸配列の対(HCVR/LCVR)を含む。
【0074】
医薬組成物および投与方法
本発明は、医薬組成物に含有されているPCSK9阻害剤を高心血管リスク患者に投与することを含む方法を含む。本発明の医薬組成物は、好適な担体、賦形剤、および好適な転移、送達、耐性などをもたらす他の薬剤を用いて製剤化される。多くの適切な製剤を全ての薬剤師に公知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PAにおいて見つけることができる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、(カチオン性またはアニオン性)脂質含有ビヒクル(例えば、LIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powellら、「Compendium of excipients for parenteral formulations」、PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238~311も参照されたい。
【0075】
様々な送達システム、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、突然変異型ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wuら、1987、J.Biol.Chem.262:4429~4432を参照されたい)は公知であり、本発明の医薬組成物を投与するためにそれらを使用することができる。投与方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。組成物を任意の適便な経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮内層または粘膜皮膚内層(例えば、経口粘膜、直腸および腸粘膜など)による吸収によって投与することができ、他の生物活性薬剤と一緒に投与することができる。
【0076】
本発明の医薬組成物は、標準的な針および注射器で皮下または静脈内送達することがで
きる。加えて、皮下送達に関しては、ペン型送達デバイスを本発明の医薬組成物の送達に容易に利用される。そのようなペン型送達デバイスは、再使用可能であることもあり、または使い捨てであることもある。再使用可能なペン型送達デバイスには、医薬組成物を収容している交換可能カートリッジが一般に利用される。カートリッジ内の医薬組成物の全てを投与してしまい、カートリッジが空になったら、空のカートリッジを容易に廃棄することができ、医薬組成物を収容している新たなカートリッジと容易に交換することができる。その後、そのペン型送達デバイスを再使用することができる。使い捨てペン型送達デバイスには、交換可能カートリッジがない。もっと正確に言えば、使い捨てペン型送達デバイスには医薬組成物が予め充填されており、該医薬組成物は該デバイスの貯液部に保持されている。貯蔵部の医薬組成物が空になったら、デバイス全体を廃棄する。
【0077】
非常に多くの再使用可能ペン型および自己注射器送達デバイスが本発明の医薬組成物の皮下送達に利用される。例としては、ほんの数例を挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、IIおよびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、ならびにOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下送達に利用される使い捨てペン型送達デバイスの例としては、ほんの数例を挙げると、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)オートインジェクター(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott
Labs、Abbott Park IL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
特定の状況では、医薬組成物を制御放出システムで送達することができる。1つの実施形態では、ポンプを使用することがある(Langer、上掲;Sefton、1987、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態では、高分子材料を使用することができる;Medical Applications of Controlled Release、LangerおよびWise(編集)、1974、CRC Pres.、Boca Raton、Floridaを参照されたい。さらに別の実施形態では、制御放出システムを組成物の標的のすぐそばに配置することができ、したがって全身用量のほんの一部のみ要する(例えば、Goodson、1984、Medical Applications of Controlled Release、上掲、第2巻、115~138頁を参照されたい)。他の制御放出システムは、Langer、1990、Science 249:1527~1533による総説で論じされている。
【0079】
注射用製剤としては、静脈内、皮下、皮内および筋肉内注射、点滴注入などのための剤形を挙げることができる。これらの注射用製剤を公知の方法によって製造することができる。例えば、注射用製剤は、例えば、注射剤に従来使用されている滅菌水性媒体または油性媒体に上で説明した抗体またはその塩を溶解する、懸濁させるまたは乳化させることに
よって、製造することができる。注射剤のための水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の補助剤を含有する等張溶液などがあり、これらは、適切な可溶化剤、例えばアルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加体)]などと併用されることもある。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油が利用され、これらは、可溶化剤、例えば安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用されることもある。好ましくは、このようにして製造された注射剤は、適切なアンプルに充填される。
【0080】
有利には、上で説明した経口または非経口使用用の医薬組成物は、活性成分の用量を合わせることに適している単位用量での剤形に製造される。単位用量でのそのような剤形としては、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0081】
投薬量
本発明の方法に従って被験者に投与されるPCSK9阻害剤(例えば、抗PCSK9抗体)の量は、一般に治療有効量である。本明細書において用いる場合、「治療有効量」という句は、LDL-C、アポB100、非HDL-C、総コレステロール、VLDL-C、トリグリセリド、Lp(a)およびレムナントコレステロールからなる群から選択される1つまたはそれ以上のパラメータの(ベースラインから少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%またはそれ以上の)検出可能な改善をもたらすPCSK9阻害剤の量を意味する。
【0082】
抗PCSK9抗体の場合、治療有効量は、抗PCSK9抗体約0.05mg~約600mg、例えば、約0.05mg、約0.1mg、約1.0mg、約1.5mg、約2.0mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約75mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mg、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mgまたは約600mgであることができる。いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体の治療有効量は、約75mgである。他の実施形態において、抗PCSK9抗体の治療有効量は、約150mgである。
【0083】
個々の用量に含有される抗PCSK9抗体の量を患者体重1キログラム当たりの抗体のミリグラム(すなわち、mg/kg)によって表すことができる。例えば、抗PCSK9抗体を患者に約0.0001~約10mg/(患者体重のkg)の用量で投与することができる。
【0084】
併用治療
本明細書中の他の箇所で説明するように、本発明の方法は、高心血管リスク患者に、該患者の以前に処方された安定した1日最大耐用量治療スタチンレジメンと併用してPCSK9阻害剤を投与することを含むことがある。本発明の特定の実施形態によると、スタチンに加えてさらなる治療薬がPCSK9阻害剤と併用して高心血管リスク患者に投与され
ることもある。そのようなさらなる治療薬の例としては、例えば、(1)コレステロール取り込みおよび/もしくは胆汁酸再吸収を阻害する薬剤(例えば、エゼチミブ);(2)リポタンパク質異化を増加させる薬剤(例えば、ナイアシン);ならびに/または(3)コレステロール削減に関与するLXR転写因子の活性化剤、例えば22-ヒドロキシコレステロールが挙げられる。
【0085】
投与レジメン
本発明の特定の実施形態によると、PCSK9阻害剤(すなわち、PCSK9阻害剤を含む医薬組成物)の複数の用量を被定義時間にわたって(例えば、毎日の治療スタチンレジメンに加えて)高心血管リスク被験者に投与することができる。本発明のこの態様による方法は、PCSK9阻害剤の複数の用量を被験者に逐次的に投与することを含む。本明細書において用いる場合、「逐次的に投与すること」は、PCSK9阻害剤の各用量を被験者に異なる時点で、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日、数週間または数カ月)隔てた異なる日に投与することを意味する。本発明は、高心血管リスク患者のPCSK阻害剤の単一初回用量、その後、PCSK9阻害剤の1用量またはそれ以上の第2の用量、場合によりその後、PCSK9阻害剤の1用量またはそれ以上の第3の用量を逐次的に投与することを含む方法を含む。
【0086】
用語「初回用量」、「第2の用量」および「第3の用量」は、PCSK9阻害剤を含む医薬組成物の個々の用量の投与についての時系列を指す。したがって、「初回用量」は、処置レジメンの開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも呼ばれ)であり;「第2の用量」は、初回用量後に投与される用量であり、「第3の用量」は、第2の用量後に投与される用量である。初回、第2および第3の用量は、全て同じ量のPCSK9阻害剤を含有することもあるが、一般には投与頻度の点から互いに異なることがある。しかし、特定の実施形態において、初回、第2および/または第3の用量に含有されるPCSK9阻害剤の量は、処置の過程で互いに変動する(例えば、必要に応じて上方または下方調整される)。特定の実施形態では、2用量またはそれ以上の(例えば、2、3、4または5)用量が「負荷用量」として処置レジメンの開始時に投与され、その後、より低頻度で投与される後続の用量(例えば、「維持用量」)が投与される。
【0087】
本発明の例示的実施形態によると、各第2および/または第3の用量は、直前の用量の1~26週間(例えば、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、20、20.5、21、21.5、22、22.5、23、23.5、24、24.5、25、25.5、26、26.5週間またはそれ以上)後に投与される。「直前の用量」という句は、本明細書において用いる場合、複数の投与の順序に関して、介在する用量のない順序的にまさにその次の用量の投与の前に患者に投与される抗原結合分子の用量を意味する。
【0088】
本発明のこの態様による方法は、PCSK9阻害剤の任意の数の第2および/または第3の用量を高心血管リスク患者に投与することを含む。例えば、特定の実施形態では、単一の第2の用量のみ患者に投与される。他の実施形態では、2またはそれ以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8またはそれ以上の)第2の用量が患者に投与される。同様に、特定の実施形態では、単一の第3の用量のみ患者に投与される。他の実施形態では、2またはそれ以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8またはそれ以上の)第3の用量が患者に投与される。
【0089】
複数の第2の用量を含む実施形態において、各々の第2の用量は、他の第2の用量と同じ頻度で投与されることがある。例えば、各々の第2の用量は、直前の用量の1~2、4
、6、8週間またはそれ以上後に患者に投与されることがある。同様に、複数の第3の用量を含む実施形態において、各々の第3の用量は、他の第3の用量と同じ頻度で投与されることがある。例えば、各々の第3の用量は、直前の用量の1~2、4、6、8週間またはそれ以上後に患者に投与されることがある。あるいは、第2および/または第3の用量が患者に投与される頻度は、処置レジメンの過程を通して様々であることができる。投与頻度は、臨床検査に従って個々の患者の必要に応じて医師によって処置の過程で調整されることもある。
【0090】
特定の実施形態において、抗PCSK9抗体は、例えば少なくとも2用量にわたって、約75mgの用量で、隔週、被験者に投与される。
【0091】
特定の実施形態では、抗PCSK9抗体は、例えば少なくとも2用量にわたって、約150mgの用量で、隔週、被験者に投与される。
【0092】
本発明は、アップタイトレーションオプション(本明細書では「用量修飾」とも呼ぶ)を含む投与レジメンを含む。本明細書において用いる場合、「アップタイトレーションオプション」は、PCSK9阻害剤の1用量またはそれ以上の用量を受けた後に高心血管リスク患者が1つまたはそれ以上の被定義治療パラメータの指定された低減を達成しなかった場合、PCSK9阻害剤の用量がそれ以降増加されることを意味する。例えば、抗PCSK9抗体の75mg用量の高心血管リスク患者への2週間に1回の頻度での投与を含む治療レジメンの場合、4週間(すなわち、2用量)後、高心血管リスク患者が≧50mg/dLの血清LDL-C濃度を有する場合には、抗PCSK9抗体の用量は、それ以降、2週間に1回投与される150mgに増加される。
【0093】
いくつかの実施形態において、抗体は、4週間にわたって、隔週、約75mgの用量で被験者に投与され、第4週に被験者のLDL-C値が<50mg/dLであった場合、用量は、隔週、75mgのままである。
【0094】
さらなる実施形態において、150mgの用量を受けていていずれか2回の連続する測定で患者のLDL-Cが<25mg/dLであった場合、それ以降、用量は75mgに低減される。
【実施例0095】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の作製および使用方法の完全な開示および説明を当業者に与えるために提示するものであり、本発明者らが自分達の発明と考える範囲を限定することを意図したものではない。用いる数値(例えば、量、温度など)に関して正確を期すように努めたが、多少の実験的誤差および偏差を考慮すべきである。別段の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。