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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141946
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】新規エステラーゼ及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20220921BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220921BHJP
   B09B 3/60 20220101ALI20220921BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z ZAB
C12N9/16
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
B09B3/60
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022120405
(22)【出願日】2022-07-28
(62)【分割の表示】P 2019501600の分割
【原出願日】2017-07-12
(31)【優先権主張番号】16305898.5
(32)【優先日】2016-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】514245373
【氏名又は名称】キャルビオス
【氏名又は名称原語表記】CARBIOS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】トップハム,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】テキシエ,エレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルニエ,ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】デルソー,マリー-ロール
(72)【発明者】
【氏名】ドゥケーヌ,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】バルベ,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】マルティ,アラン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特定の公知のエステラーゼと比較して改善された熱安定性を有し、ポリエチレンテレフタラート及びポリエチレンテレフタラートを含有している材料を分解するのに適するエステラーゼ変異体を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有し、ポリエステル分解活性を有し、特定の公知のエステラーゼと比較して向上した熱安定性を示す、エステラーゼ変異体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、
(ii)D203+S248, E173, L202, N204, F208, A172+A209, G39, A103, L82, G53, L104, L107, L119, A121, L124, I54, M56, L70, L74, A127, V150, L152, L168, V170, P196, V198, V200, V219, Y220, T221, S223, W224, M225, L239, T252, N253, H256, S1, Y4, Q5, R6, N9, S13, T16, S22, T25, Y26, S34, Y43, S48, T50, R72, S98, N105, R108, S113, N122, S145, K147, T160, N162, S181, Q189, N190, S193, T194, N204, S212, N213, N231, T233, R236, Q237, N241, N243, N254, R255 及び Q258から選択された、好ましくはD203+S248, E173, N204, L202, F208, 及び V170から選択された、より好ましくはD203+S248及びF208から選択された位置(群)に配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸の改変を有し(ここでの位置は配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされる)、
(iii)ポリエステル分解活性を有し、
(iv)配列番号1のエステラーゼと比較して向上した熱安定性を示す、
エステラーゼ変異体。
【請求項2】
配列番号1のエステラーゼへの参照によると、
-少なくとも1つの追加のジスルフィド架橋;及び/又は
-少なくとも1つの追加の塩橋;及び/又は
-エステラーゼの空隙の溶媒排除空洞に位置するアミノ酸残基の少なくとも1つの突然変異;及び/又は
-少なくとも1つのN末端及び/又はC末端アミノ酸残基の抑制
を含む、請求項1のエステラーゼ変異体。
【請求項3】
-アミノ酸置換D203C+S248C;及び/又は
-アミノ酸置換G39C+A103C+L82A、及び配列番号1のアミノ酸V28~G39の、E-G-P-S-C又はA-G-P-S-Cからなるアミノ酸配列による置換
を含む、請求項1又は2のエステラーゼ変異体。
【請求項4】
E173、L202、N204及びF208から選択された位置に少なくとも1つの置換(ここでの位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされる)、好ましくはE173A/R、L202R、N204D、及びF208Wから選択された少なくとも1つの置換を含む、請求項1~3のいずれか一項のエステラーゼ変異体。
【請求項5】
T61、Y92、及びV177から選択された位置に配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸置換(群)を含み、ここでの位置は配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされ、ここでの置換は、T61A/G、Y92A、及びV177Aとは異なり、ここでの置換は、好ましくはV177I, Y92G, Y92P, Y92P+F208W 及び T61M から選択される、請求項1~4のいずれか一項のエステラーゼ変異体。
【請求項6】
D203+S248+E173, D203+S248+F208, 及び D203 + S248 + E173 + N204 + L202から選択された位置に置換を含む、請求項1~5のいずれか一項のエステラーゼ変異体。
【請求項7】
D203C+S248C+E173R, D203C+S248C+E173A, D203C+S248C+F208W D203C+S248C+F208I, F208W + D203C + S248C + E173A, F208I + D203C + S248C + E173A 及び D203C + S248C + E173R + N204D + L202Rから選択された置換を含む、請求項1~6のいずれか一項のエステラーゼ変異体。
【請求項8】
好ましくはN9、N143、N162、N204、N231、又はその組合せから選択された位置においてグリコシル化されている、請求項1~7のいずれか一項のエステラーゼ変異体。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に定義されているようなエステラーゼをコードしている核酸。
【請求項10】
請求項9の核酸を含む発現カセット又はベクター。
【請求項11】
請求項9の核酸又は請求項10の発現カセット若しくはベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
(a)エステラーゼをコードしている核酸を発現するに適した条件下で、請求項11に記載の宿主細胞を培養する工程;及び場合により、
(b)細胞培養から該エステラーゼを回収する工程
を含む、該エステラーゼを生成する方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項記載のエステラーゼ及び/又は請求項9記載の核酸、及び/又は請求項9記載の発現カセット若しくはベクター、及び/又は請求項11記載の宿主細胞若しくはその抽出物、及び場合により1つ若しくはいくつかの賦形剤若しくは添加剤を含む、組成物。
【請求項14】
(a)プラスチック製品を、請求項1~7のいずれか一項記載のエステラーゼ、又は請求項11記載の宿主細胞、又は請求項13記載の組成物と接触させることにより、プラスチック製品を分解する工程;及び場合により
(b)モノマー及び/又はオリゴマーを回収する工程
を含む、少なくとも1つのポリエステルを含有しているプラスチック製品を分解する方法。
【請求項15】
プラスチック製品が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタラート(PEIT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタラート(PBAT)、ポリエチレンフラノアート(PEF)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(エチレンアジペート)(PEA)、ポリエチレンナフタラート(PEN)、及びこれらの材料のブレンド/混合物から選択された少なくとも1つのポリエステル、好ましくはポリエチレンテレフタラートを含む、請求項14の方法。
【請求項16】
工程(a)が、50℃~90℃、好ましくは60℃~70℃の温度で実施される、請求項14又は15の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規エステラーゼ、より特定すると親エステラーゼと比較して改善された熱安定性を有するエステラーゼ、及びポリエステル含有材料、例えばプラスチック製品を分解するためのその使用に関する。本発明のエステラーゼは、ポリエチレンテレフタラート、及びポリエチレンテレフタラートを含有する材料を分解するのに特に適している。
【0002】
背景
エステラーゼは、ポリエステルをはじめとする様々なポリマーの加水分解を触媒することができる。この脈絡において、エステラーゼは、例えば、食器洗浄及び洗濯に適用するための洗浄剤として、バイオマス及び食品を加工するための分解酵素として、環境汚染物質の解毒における又は繊維工業におけるポリエステル織物の処理のための生体触媒としてなどの、多くの工業的適用において有望な効果を示している。同じように、ポリエチレンテレフタラート(PET)を加水分解するための分解酵素としてのエステラーゼの使用は、特に関心が高い。実際に、PETは、数多くの技術分野において、例えば、服、カーペットの製造などにおいて、あるいは包装又は自動車用プラスチック若しくは他のパーツの製造のための熱硬化性樹脂の形で使用され、埋立地におけるPETの蓄積は、増加しつつあるエコロジー的問題となっている。
【0003】
エステラーゼの中でもクチン加水分解酵素(EC3.1.1.74)としても知られるクチナーゼは特に興味深い。クチナーゼは、様々な真菌(P.E. Kolattukudy in "Lipases", Ed. B. Borg- stroem and H.L. Brockman, Elsevier 1984, 471-504)、細菌、及び植物の花粉から同定されている。近年、メタゲノム解析によるアプローチにより、さらなるエステラーゼが同定された。
【0004】
酵素的分解は、このようなプラスチック廃棄物の蓄積を減少させるための興味深い解決法として考えられている。実際に、酵素は、ポリエステル含有材料、より特定するとプラスチック製品の加水分解を、モノマーレベルにさえまでも加速し得る。さらに、加水分解物(すなわちモノマー及びオリゴマー)を、新規ポリマーを合成するための材料としてリサイクルすることができる。
【0005】
この脈絡では、いくつかのエステラーゼが、分解酵素候補として同定されている。例えば、フサリウム・ソラニ・ピシ(Fusarium solani pisi)のエステラーゼ(クチナーゼ)のいくつかの変異体が公開されている(Appl. Environm. Microbiol. 64, 2794-2799, 1998; Proteins: Structure, Function and Genetics 26,442-458,1996)。
【0006】
しかしながら、これらの中の大半のエステラーゼは、それらが高温に対して抵抗性が弱いために、工業的レベルでは効果的ではない。したがって、工業的レベルでかつ高い収率でポリエステルを分解するために使用され得る、改善された熱安定性を有するエステラーゼが依然として必要である。
【0007】
発明の要約
本発明は、親エステラーゼ又は野生型エステラーゼと比較して、向上した熱安定性を示す新規なエステラーゼ変異体を提供する。これらのエステラーゼは、プラスチック材料及び製品、例えばPETを含有しているプラスチック材料及び製品を分解するためのプロセスにおいて特に有用である。より特定すると、本発明は、Sulaiman et al., Appl Environ Microbiol. 2012 Marに記載のメタゲノム解析から導かれたクチナーゼのアミノ酸配列のアミノ酸36~293、又はスイスプロットのG9BY57に参照されたアミノ酸配列のアミノ酸36~293に対応する、配列番号1に示されているようなアミノ酸配列を有する、エステラーゼ変異体を提供する。
【0008】
これに関して、本発明の目的は、(i)配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、(ii)配列番号1と比較して少なくとも1つのアミノ酸の改変を含有し、(iii)ポリエステル分解活性を有し、(iv)配列番号1のエステラーゼと比較して向上した熱安定性を示す、エステラーゼを提供することである。
【0009】
より特定すると、本発明のエステラーゼは、D203+S248, E173, L202, N204, F208, A172+A209, G39, A103, L82, G53, L104, L107, L119, A121, L124, I54, M56, L70, L74, A127, V150, L152, L168, V170, P196, V198, V200, V219, Y220, T221, S223, W224, M225, L239, T252, N253, H256, S1, Y4, Q5, R6, N9, S13, T16, S22, T25, Y26, S34, Y43, S48, T50, R72, S98, N105, R108, S113, N122, S145, K147, T160, N162, S181, Q189, N190, S193, T194, N204, S212, N213, N231, T233, R236, Q237, N241, N243, N254, R255 及び Q258から選択された位置(群)において配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸の改変(群)を含み、ここでの位置は配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされる。
【0010】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、D203+S248, E173, N204, L202, F208, 及び V170から選択された位置(群)において配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸配列の置換(群)を含む。好ましくは、本発明のエステラーゼ変異体は、D203+S248及びF208から選択された位置(群)において配列番号1と比較して少なくともアミノ酸置換(群)を含む。
【0011】
別の特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、T61、Y92、及びV177から選択された位置において配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸置換(群)を含み、ここでの位置は配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けられ、ここでの置換は、T61A/G、Y92A、及びV177Aとは異なる。好ましくは、本発明のエステラーゼ変異体は、V177I, Y92G, Y92P, Y92P+F208W 及び T61Mから選択された、配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸置換(群)を含む。
【0012】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、配列番号1のエステラーゼと比較して、
-少なくとも1つの追加のジスルフィド架橋;及び/又は
-少なくとも1つの追加の塩橋;及び/又は
-エステラーゼの空隙の溶媒排除空洞に位置するアミノ酸残基の少なくとも1つの突然変異;並びに/あるいは
-少なくとも1つのN末端及び/又はC末端アミノ酸残基の抑制
を含み得る。
【0013】
本発明の別の目的は、本発明のエステラーゼをコードしている核酸を提供することである。本発明はまた、該核酸を含む発現カセット又は発現ベクター、及び該核酸、発現カセット又はベクターを含む宿主細胞にも関する。
【0014】
本発明のさらなる目的は、
(a)エステラーゼをコードしている核酸を発現するに適した条件下で、本発明に記載の宿主細胞を培養する工程;及び場合により、
(b)細胞培養から該エステラーゼを回収する工程
を含む、エステラーゼを生成する方法を提供することである。
【0015】
本発明はまた、
(a)プラスチック製品を、本発明に記載のエステラーゼ又は宿主細胞と接触させることにより、プラスチック製品を分解する工程;及び場合により
(b)モノマー及び/又はオリゴマーを回収する工程
を含む、少なくとも1つのポリエステルを含有しているプラスチック製品を分解する方法にも関する。
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本開示は、以下の定義への参照によって最善に理解されるだろう。
【0017】
本明細書では、「ペプチド」、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「酵素」という用語は、鎖を形成しているアミノ酸の数に関係なく、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸鎖を指す。アミノ酸は、本明細書において、以下の命名法に従ってそれらの1文字又は3文字のコードによって示される:A:アラニン(Ala);C:システイン(Cys);D:アスパラギン酸(Asp);E:グルタミン酸(Glu);F:フェニルアラニン(Phe);G:グリシン(Gly);H:ヒスチジン(His);I:イソロイシン(Ile);K:リジン(Lys);L:ロイシン(Leu);M:メチオニン(Met);N:アスパラギン(Asn);P:プロリン(Pro);Q:グルタミン(Gln);R:アルギニン(Arg);S:セリン(Ser);T:トレオニン(Thr);V:バリン(Val);W:トリプトファン(Trp)及びY:チロシン(Tyr)。
【0018】
「エステラーゼ」という用語は、エステルから酸とアルコールへの加水分解を触媒する酵素命名法に従ってEC3.1.1として分類された加水分解酵素のクラスに属する酵素を指す。「クチナーゼ」又は「クチン加水分解酵素」という用語は、クチン及び水からクチンモノマーを生成する化学反応を触媒することのできる、酵素命名法に従ってEC3.1.1.74として分類されたエステラーゼを指す。
【0019】
「野生型タンパク質」又は「親タンパク質」という用語は同義語として使用され、それが天然に出現するような突然変異していないポリペプチド形を指す。今回の場合、親エステラーゼは、配列番号1に示されるようなアミノ酸配列を有するエステラーゼを指す。
【0020】
したがって、「突然変異体」及び「変異体」という用語は同義語として使用され得、これは配列番号1から誘導され、かつ、1つ以上の(例えばいくつかの)位置において改変又は変化、すなわち、置換、挿入、及び/又は欠失を含み、かつ、ポリエステル分解活性を有する、ポリペプチドを指す。該変異体は、当技術分野において周知である様々な技術によって得ることができる。特に、野生型タンパク質をコードしているDNA配列を変化されるための技術の例としては、部位特異的突然変異誘発、無作為突然変異誘発、及び合成オリゴヌクレオチド構築が挙げられるがこれらに限定されない。
【0021】
位置又はアミノ酸に関して本明細書において使用する「改変」又は「変化」という用語は、特定の位置におけるアミノ酸が、野生型タンパク質のアミノ酸と比較して改変されていることを意味する。
【0022】
「置換」は、アミノ酸残基が別のアミノ酸残基によって置換されていることを意味する。好ましくは、「置換」という用語は、アミノ酸残基の、天然に存在する標準的な20種のアミノ酸残基、稀に天然に存在するアミノ酸残基(例えばヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、6-N-メチルリジン、N-エチルグリシン、N-メチルグリシン、N-エチルアスパラギン、アロ-イソロイシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、ピログルタミン、アミノ酪酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン)、及び合成で作られることの多い非天然アミノ酸残基(例えばシクロヘキシル-アラニン)から選択された別のアミノ酸残基による置換を指す。好ましくは、「置換」という用語は、アミノ酸残基の、天然に存在する標準的な20種のアミノ酸残基(G、P、A、V、L、I、M、C、F、Y、W、H、K、R、Q、N、E、D、S及びT)から選択された別のアミノ酸残基による置換を指す。「+」の記号は、置換の組合せを示す。本文書では、置換を示すために以下の用語が使用される:L82Aは、親配列の82位のアミノ酸残基(ロイシン、L)がアラニン(A)へと変化していることを示す。A121V/I/Mは、親配列の121位のアミノ酸残基(アラニン、A)が、以下のアミノ酸の1つによって置換されていることを示す:バリン(V)、イソロイシン(I)、又はメチオニン(M)。置換は、保存的置換であっても非保存的置換であってもよい。保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン、アスパラギン、及びトレオニン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン、システイン、及びバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシン)、及び小さなアミノ酸(グリシン、アラニン、及びセリン)のグループ内である。
【0023】
アミノ酸に関して使用される「欠失」という用語は、アミノ酸が除去されたか又は存在しないことを意味する。
【0024】
「挿入」という用語は、1つ以上のアミノ酸が付加されていることを意味する。
【0025】
特記しない限り、本出願に開示された位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされる。
【0026】
本明細書において使用する「配列同一性」又は「同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列間の一致(同一のアミノ酸残基)の数(又は、比率%として表現される割合)を指す。配列同一性は、配列ギャップを最小限にしながらオーバーラップ及び同一性が最大限となるようにアラインさせて、配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて、多くの数学的な全体的又は局所的なアラインメントアルゴリズムのいずれかを使用して決定され得る。同じような長さの配列は好ましくは、全長におよび配列を最適にアラインさせる全体的アラインメントアルゴリズム(例えばNeedleman及びWunschアルゴリズム;Needleman and Wunsch, 1970)を使用してアラインさせ、一方、かなり異なる長さの配列は好ましくは、局所的アラインメントアルゴリズム(例えば、Smith及びWatermanアルゴリズム(Smith and Waterman, 1981)又はAltschulアルゴリズム(Altschul et al., 1997; Altschul et al., 2005))を使用してアラインさせる。アミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/などのインターネットウェブサイト上で入手可能な公共的に入手可能なコンピューターソフトウェアを使用して、当技術分野の技能範囲内である様々な方法で成し遂げられ得る。当業者は、比較される配列の完全長にわたる最大のアラインメントを達成するために必要とされるあらゆるアルゴリズムをはじめとする、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。本明細書における目的のために、アミノ酸配列同一性の数値%は、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して2つの配列の最適な全体的なアラインメントを作成する、ペアワイズ配列アラインメントプログラムEMBOSS Needleを使用して算出された数値を指し、ここでの全ての探索パラメーターは、デフォールト値、すなわち、スコアリングマトリックス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップエクステンド=0.5、エンドギャップペナルティ=フォールス、エンドギャップオープン=10、及びエンドギャップエクステンド=0.5に設定されている。
【0027】
「ジスルフィド架橋」、「ジスルフィド結合」及び「S-S結合」という用語は同義語として使用され、2つのシステインの硫黄原子間の共有結合を指す。
【0028】
「塩橋」又は「イオン対」という用語は、タンパク質内において逆の電荷を有する2つの残基間の非共有結合的静電気的相互作用を指す。塩橋は、アスパラギン酸又はグルタミン酸のいずれかの陰イオンカルボン酸(RCOO)と、リジンの陽イオンアンモニウム部分(RNH )又はアルギニンのグアニジニウム部分(RNHC(NH )との間に形成されることが最も多い。イオン化可能な側鎖を有する他のアミノ酸残基、例えばヒスチジン、チロシン、セリン、トレオニン、及びシステインも、塩橋の一部であり得る。
【0029】
ポリペプチドに関する「グリコシル化」という用語は、1つ又はいくつかのグリカンが、ポリペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基に付着していることを意味する。本発明の脈絡では、グリコシル化は、アスパラギン残基のアミド窒素に付着したN結合グリカン、セリン残基又はチロシン残基のヒドロキシル酸素に付着したO結合グリカン、トリプトファン残基の炭素に付着したC結合グリカンを包含する。
【0030】
「タンパク質のコンフォメーション」又は「結晶構造」は、タンパク質の3次元構造を指す。
【0031】
「組換え」という用語は、遺伝子工学によって作製された、核酸構築物、ベクター、ポリペプチド、又は細胞を指す。
【0032】
本明細書において使用する「発現」という用語は、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、及び分泌を含むがこれらに限定されない、ポリペプチドの生成に関与する任意の工程を指す。
【0033】
「発現カセット」という用語は、コード領域(すなわち本発明の核酸)及び調節領域(すなわち、作動可能に連結されている1つ以上の制御配列を含む)を含む核酸構築物を示す。
【0034】
本明細書において使用する「発現ベクター」という用語は、本発明の発現カセットを含むDNA分子又はRNA分子を意味する。好ましくは、発現ベクターは、鎖状又は環状の二本鎖DNA分子である。
【0035】
「ポリマー」は、その構造が、共有化学結合によって連結された複数のモノマー(反復単位)から構成されている化合物又は化合物の混合物を指す。本発明の脈絡において、ポリマーという用語は、1種類の反復単位から構成される(すなわちホモポリマー)又は異なる反復単位の混合物から構成される(すなわちコポリマー又はヘテロポリマー)、天然又は合成のポリマーを含む。本発明によると、「オリゴマー」は、2から約20個のモノマーを含有している分子を指す。
【0036】
本発明の脈絡において、「ポリエステル含有材料」又は「ポリエステル含有製品」は、結晶形、半結晶形、又は完全に無定形の少なくとも1つのポリエステルを含む、製品、例えばプラスチック製品を指す。特定の実施態様では、ポリエステル含有材料は、少なくとも1つのポリエステル及びおそらく他の物質又は添加剤、例えば可塑剤、鉱物、又は有機充填剤を含有している、少なくとも1つのプラスチック材料から作製された任意の品物、例えばプラスチックシート、プラスチックチューブ、プラスチック棒、プラスチックプロフィール、プラスチック形状、プラスチックフィルム、プラスチックの大きな塊などを指す。別の特定の実施態様では、ポリエステル含有材料は、プラスチック製品を作製するのに適した溶融した又は固体状態の、プラスチック化合物又はプラスチック構築物を指す。
【0037】
本明細書では、「ポリエステル」は、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンイソソルバイドテレフタラート(PEIT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタラート(PBAT)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(エチレンアジペート)(PEA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びこれらのポリマーのブレンド/混合物を包含するがこれらに限定されない。
【0038】
改善された熱安定性を有する新規エステラーゼ
本発明は、改善された熱安定性を有する新規エステラーゼを提供する。より特定すると、本発明者らは、工業的プロセスに使用するための優れた特性を有する新規酵素の設計を可能とする、高温における、有利には50℃を超える温度におけるエステラーゼの安定性を改善するための様々な方法を開発した。
【0039】
プラスチック製品の工業的分解を実施できる条件におけるエステラーゼの安定性及び/又は活性を改善する目的で、本発明者らは、温度に高い抵抗性を示す配列番号1のエステラーゼから誘導された新規エステラーゼを開発した。本発明のエステラーゼは、PETを含有しているプラスチック製品を分解するのに特に適している。
【0040】
本発明は、タンパク質の結晶構造において新規なジスルフィド架橋(群)及び/又は塩橋(群)を作製することによって;タンパク質の運動性及び/又は内部空洞の溶媒排除体積を減少させることによって;並びに/あるいは、N末端又はC末端の先端を減少させることによって、改善された熱安定性と共にポリエステル分解活性を示す新規なタンパク質が得られることを示す。
【0041】
したがって、本発明の目的は、(i)配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、(ii)配列番号1と比較して少なくとも1つのアミノ酸の改変を含有し、(iii)ポリエステル分解活性を有し、(iv)配列番号1のエステラーゼと比較して向上した熱安定性を示す、エステラーゼを提供することである。
【0042】
本発明の脈絡では、「向上した熱安定性」という用語は、配列番号1のエステラーゼと比較して、高温において、より特定すると50℃~90℃の温度において、その化学的構造及び/又は物理的構造の変化に対して酵素が耐える能力が向上していることを示す。このような向上は典型的には、約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、又はそれ以上である。特に、本発明のエステラーゼは、配列番号1のエステラーゼと比較して上昇した融点(Tm)を示し得る。本発明の脈絡において、融点は、考察されているタンパク質/酵素の個体群の半分が折り畳まれていないか又は誤って折り畳まれている温度を指す。典型的には、本発明のエステラーゼは、配列番号1のエステラーゼのTmと比較して、約1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、10℃、又はそれ以上上昇したTmを示す。
【0043】
特に、本発明のエステラーゼは、配列番号1のエステラーゼと比較して、50℃~90℃の温度において延長された半減期を有し得る。さらに、このような温度で、本発明のエステラーゼは、配列番号1のエステラーゼと比較してより高い分解活性を示し得る。
【0044】
タンパク質の熱安定性は、当技術分野においてそれ自体公知である方法に従って、当業者によって評価され得る。例えば、熱安定性は、円二色性を使用したタンパク質の折り畳みの分析によって評価され得る。代替的に又は追加的に、熱安定性は、様々な温度でインキュベートした後に酵素の残留エステラーゼ活性及び/又は残留ポリエステル脱重合活性を測定することによって評価され得る。様々な温度において複数回のポリエステルの脱重合アッセイを実施する能力も評価され得る。迅速かつ価値ある試験は、様々な温度でのインキュベート後に、寒天プレートに分散させた固体ポリエステル化合物を分解する酵素の能力の、円形光輪の直径の測定による評価からなり得る。好ましくは、示差走査蛍光定量法(DSF)が、タンパク質/酵素の熱安定性を評価するために実施される。より特定すると、DSFは、タンパク質の熱変性温度の変化を定量し、これによりその融点(Tm)を決定するために使用され得る。本発明の脈絡において、特記しない限り、Tmは、実験部に示されているようなDSFを使用して測定される。本発明の脈絡において、Tmの比較は、同じ条件下(例えばポリエステルのpH、性質、及び量など)で測定されるTmを用いて実施される。
【0045】
特定の実施態様では、本発明の変異体は、配列番号1のエステラーゼと比較して、改善された熱安定性及び増加したポリエステル分解活性の両方を有する。
【0046】
本発明の脈絡では、「増加した活性」又は「増加した分解活性」という用語は、配列番号1のエステラーゼと比較して、プラスチック製品又は材料、より特定するとポリエステル含有プラスチック製品又は材料を分解する酵素の増加した能力を示す。このような増加は典型的には、約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、又はそれ以上である。特に、エステラーゼ変異体は、配列番号1のエステラーゼのポリエステル分解活性と比べて、少なくとも10%高い、好ましくは少なくとも20%、50%、100%、200%、300%、又はそれ以上高いポリエステル分解活性を有する。
【0047】
タンパク質の活性は、当技術分野においてそれ自体公知の方法に従って当業者によって評価され得る。例えば、活性は、エステラーゼ比活性の測定、ポリエステルの脱重合比活性の測定、寒天プレートに分散させた固体ポリエステル化合物を分解する速度の測定、又は、反応器におけるポリエステルの脱重合比活性の測定によって評価され得る。
【0048】
本発明の脈絡において、「比活性」又は「分解比活性」という用語は、ポリエステル含有プラスチック製品を、本発明に記載のエステラーゼなどの分解酵素と接触させた場合に、適切な温度、pH、及び緩衝液の条件下で放出されるオリゴマー及び/又はモノマーの初期速度を示す。一例として、PET加水分解の比活性は、加水分解曲線の直線部分において決定されるような、酵素1mgあたり及び1分間あたりに加水分解されるPETのμmol又は1時間あたりに生成される等価なTAのmgに相当する。
【0049】
基質上にタンパク質が吸着する能力は、当技術分野においてそれ自体公知の方法に従って当業者によって評価され得る。例えば、本発明のエステラーゼを含有している溶液から、タンパク質含量又は残留エステラーゼ活性、残留ポリエステル脱重合活性、寒天プレートに分散させた固体ポリエステル化合物の残留分解、又は反応器中の残留ポリエステル脱重合活性を測定することができ、該エステラーゼは、酵素反応が全く起こり得ない適切な条件下で基質と共に事前にインキュベートされている。
【0050】
本発明のエステラーゼは、以下に開示されているような1つ又はいくつかの改変を含み得る。
【0051】
1つの実施態様では、本発明のエステラーゼは、配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、配列番号1のエステラーゼと比較して少なくとも1つの追加のジスルフィド架橋を含む。
【0052】
特定の実施態様では、エステラーゼ変異体は、A172+A209位において置換を含み、ここでの位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照により番号付けされる。
【0053】
別の特定の実施態様では、エステラーゼ変異体は、V28~G39、L82、及びA103から選択された位置に少なくとも1つの突然変異を含み、ここでの位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照により番号付けされる。
【0054】
特に、エステラーゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸残基V28~S34の欠失、及び配列番号1と比較してG35, F36, G37, G38, G39, L82 及び/又は A103から選択された位置における置換、より特定するとG35E/A + F36G + G37P + G38S + G39C, L82A 及び/又は A103Cからなる置換を示す。
【0055】
あるいは、エステラーゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸V33~G39の欠失、及び配列番号1と比較して、V28E+S29G+R30P+L31S+S32C 又は V28A+S29G+R30P+L31S+S32Cからなる置換、並びに置換L82A及び/又はA103Cを示す。
【0056】
あるいは、エステラーゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸V28~G39の、E-G-P-S-C又はA-G-P-S-Cからなるアミノ酸配列による置換、並びに最終的には置換L82A及び/又はA103Cを含む。
【0057】
あるいは、エステラーゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸V33~G39の欠失、並びにV28E+S29G+R30P+L31S+S32C 又は V28A+S29G+R30P+L31S+S32Cからなる置換、並びに置換L82A、A103C、A172C、及びA209Cを示す。
【0058】
別の特定の実施態様では、エステラーゼ変異体は、D203+S248位における置換を含み、ここでの位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされる。好ましくは、該置換は、D203C+S248Cからなる。特定の実施態様では、D203C+S248位に置換を有するこのようなエステラーゼ変異体はさらに、E173、L202、N204、及びF208から選択された位置に少なくとも1つの置換を含む。好ましくは、追加の置換は、E173R、E173A、F208W、又はF208Iから選択される。より特定すると、エステラーゼ変異体は、D203C+S248C+E173R, D203C+S248C+E173A, D203C+S248C+F208W 及び D203C+S248C+F208Iから選択される置換を含む。特定の実施態様では、D203+S248位に置換を有するエステラーゼ変異体はさらに、E173、L202、N204、及びF208から選択された位置に少なくとも2つの置換を含む。例えば、変異体は、少なくともD203C + S248C + E173R + N204D + L202R, F208W + D203C + S248C + E173A 及び F208I + D203C + S248C + E173Aの置換を含む。
【0059】
本発明の目的は、配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、配列番号1と比較して、タンパク質の空隙の溶媒排除空洞に位置するアミノ酸残基の少なくとも1つの突然変異を含む、ポリエステル分解活性を有するエステラーゼを提供することである。特に、このような突然変異は、空洞の溶媒排除体積を減少させることを可能とする。
【0060】
特定の実施態様では、エステラーゼ変異体は、配列番号1への参照により、G53, L104, L107, L119, A121, L124, I54, M56, L70, L74, A127, V150, L152, L168, V170, P196, V198, V200, V219, Y220, T221, S223, W224, M225, L239, T252, N253, H256から選択された位置に少なくとも1つの置換を含む。有利には、エステラーゼ変異体は、該位置の間に少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上のアミノ酸の置換を含む。
【0061】
1つの実施態様では、前記アミノ酸の少なくとも1つは、よりかさ高い(すなわちより体積の大きい)アミノ酸により置換されている。
【0062】
有利には、エステラーゼ変異体は、G53A/I, I54L, M56I, L70M/I, L74M, L104M, L107M, L119M/A, A121V/I/M/Y, L124I/R/Q, A127V/I, V150I, L152I, L168I, V170I, V198I, V219I, Y220F/P/M, T221A/V/L/I/M, S223A, W224I/M, 及び T252S/Dから選択された少なくとも1つの置換を含む。
【0063】
特定の実施態様では、エステラーゼ変異体は、V170+F208位に置換を含む。有利には、エステラーゼ変異体は、V170I+F208Wの置換を含む。
【0064】
特定の実施態様では、エステラーゼ変異体は、以下のグループ(i)~(v)の中の少なくとも2つに属する位置にアミノ酸置換を含む。有利には、エステラーゼ変異体は、各グループ(i)~(v)の位置に少なくとも置換を含む。
(i)G53, L104, L107, L119, A121, L124;
(ii)I54, M56, L70, L74, A127, V150, L152, T221, M225;
(iii)V150, L152, L168, V170, V200, T221 ;
(iv)P196, V198, W224, T252, N253, H256 ;
(v)V219, Y220, S223, L239
【0065】
本発明の目的は、配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、配列番号1と比較して、少なくとも1つの追加の塩橋を含む、ポリエステル分解活性を有するエステラーゼを提供することである。好ましくは、該エステラーゼは、タンパク質構造の外表面上に位置する、少なくとも1つの追加の表面塩橋を含む。
【0066】
この目的のために、エステラーゼ変異体は有利には、S1, Y4, Q5, R6, N9, S13, T16, S22, T25, Y26, S34, Y43, S48, T50, R72, S98, N105, R108, S113, N122, S145, K147, T160, N162, E173, S181, Q189, N190, S193, T194, D203, N204, S212, N213, N231, T233, R236, Q237, N241, N243, N254, R255, Q258から選択された位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0067】
有利には、エステラーゼ変異体は、該位置の2つのアミノ酸の間に少なくとも1つの塩橋を有する。
【0068】
しばしば、塩橋は、アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)のいずれかの陰イオン荷電と、リジン(K)又はアルギニン(R)のいずれかの陽イオン荷電との間の相互作用によって形成される。したがって、本発明のエステラーゼにおける塩橋は有利には、考察されている標的アミノ酸対の性質に応じて、表1に列挙されているような少なくとも1つの標的アミノ酸対の少なくとも1つのアミノ酸を、D若しくはE及び/又はK若しくはRと置換することによって得られる。
【0069】
【表1】
【0070】
有利には、標的とされたアミノ酸対のアミノ酸残基がR又はKである場合、標的とされた対の第二のアミノ酸だけがD又はEで置換される。一例として、本発明のエステラーゼ変異体はアミノ酸置換Y4Dを含み得、これにより、前記の突然変異したアミノ酸残基とR6との間に塩橋を示し得る。同じように、標的とされたアミノ酸対のアミノ酸残基がD又はEである場合、標的とされた対の第二のアミノ酸だけがR又はKで置換される。一例として、本発明のエステラーゼ変異体は、アミノ酸置換N204Rを含み得、これにより、前記の突然変異したアミノ酸残基とE173との間に塩橋を示し得る。
【0071】
本発明の目的はまた、配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、配列番号1と比較して少なくとも1つのN末端及び/又はC末端のアミノ酸残基の抑制を含み、好ましくは、少なくとも1つのN末端アミノ酸残基の抑制を含む、ポリエステル分解活性を有するエステラーゼを提供することである。
【0072】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、T61、Y92、及びV177から選択された位置に配列番号1と比較して1つ以上のアミノ酸置換(群)を含み、ここでの位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照により番号付けされ、ここでの置換は、T61A/G、Y92A、及びV177Aとは異なる。好ましくは、本発明のエステラーゼ変異体は、配列番号1と比較して、V177I、Y92G/P、及びT61Mから選択された1つ以上のアミノ酸置換(群)を含む。
【0073】
別の特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、配列番号1と比較してF208位に少なくとも1つの置換を含む。本発明によると、F208は、19個の他のアミノ酸の中のいずれか1つによって置換されていてもよい。好ましくは、置換はF208Wである。
【0074】
別の特定の実施態様では、前記エステラーゼ変異体は、配列番号1と比較してT61、Y92、V177及びF208から選択された位置に少なくとも2つの置換、好ましくはF208及びY92位に少なくとも2つの置換を含む。
【0075】
特定の実施態様では、前記変異体は、少なくとも置換Y92P+F208Wを含む。
【0076】
別の特定の実施態様では、前記変異体は、少なくともV170I+F208Wの置換を含む。
【0077】
本発明によると、前記エステラーゼ変異体は、配列番号1の酵素と比較して酵素の熱安定性をさらに高めるためにさらにグリコシル化されていてもよい。
【0078】
特定の実施態様では、前記エステラーゼ変異体は、酵素の少なくとも1つのアスパラギン残基上にグリコシル化部分を含み、該アスパラギン残基は好ましくは、配列番号1への参照により、N9、N143、N162、N204、N231から選択された位置にあり、より好ましくはN9、N162、及びN231から選択された位置にある。1つの実施態様では、エステラーゼ変異体は、N9、N162、及びN231にグルコシル化部分を含む。
【0079】
例えば、N結合グリカン部分は、該アスパラギン残基の少なくとも1つの窒素に付着している。
【0080】
代替的に又は追加的に、本発明のエステラーゼ変異体はさらに、プロリン残基の1つ以上の挿入及び/又はグリシンの1つ以上の欠失を含み得る。
【0081】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、上記に列挙されているような1つ又はいくつかの改変及び/又は突然変異を含む。
【0082】
改善された熱安定性及び活性の両方を有する新規エステラーゼ
本発明のさらなる目的は、配列番号1のエステラーゼと比較して、向上した熱安定性及び向上したポリエステル分解活性の両方を示す新規エステラーゼを提供することである。
【0083】
したがって、本発明の別の目的は、(i)配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の同一性を有し、(ii)配列番号1と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を含有し、(iii)配列番号1のエステラーゼと比較して向上した熱安定性及び向上した活性の両方を示す、エステラーゼを提供することである。
【0084】
特定の実施態様では、前記エステラーゼ変異体は、配列番号1への参照により、上記に開示されているような少なくとも1つの突然変異、及びF280I又はF208Wから選択された少なくとも1つの追加の置換を含む。
【0085】
別の特定の実施態様では、前記変異体は、
T61M, Y92G/P, F208W, Y92P + F208W, 及び F208W + V170Iから選択された少なくとも1つの置換を含み、配列番号1のエステラーゼと比較して向上した熱安定性及び向上した活性の両方を示す。
【0086】
特定の実施態様では、前記変異体は、
F208W + D203C + S248C 及び F208I + D203C + S248Cから選択された少なくとも置換(群)を含み、配列番号1のエステラーゼと比較して向上した熱安定性及び向上した活性の両方を示す。
【0087】
ポリエステル分解活性
本発明の目的は、エステラーゼ活性を有する新規酵素を提供することである。特定の実施態様では、本発明の酵素はさらに、クチナーゼ活性を示す。
【0088】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼは、ポリエステル分解活性、好ましくはポリエチレンテレフタラート(PET)分解活性を有する。
【0089】
別の特定の実施態様では、本発明のエステラーゼはまた、PBAT分解活性も有する。
【0090】
有利には、本発明のエステラーゼ変異体は、少なくとも20℃~90℃、好ましくは40℃~80℃、より好ましくは50℃~70℃、さらにより好ましくは60℃~70℃の温度範囲、さらにより好ましくは65℃でポリエステル分解活性を示す。特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、70℃でポリエステル分解活性を示す。別の特定の実施態様では、ポリエステル分解活性は、60℃~90℃の温度で依然として測定可能である。
【0091】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、配列番号1のエステラーゼと比較して所与の温度で、より特定すると40℃~80℃、より好ましくは50℃~70℃、さらにより好ましくは60℃~70℃、さらにより好ましくは65℃の温度で、延長された半減期を有する。特定の実施態様では、エステラーゼ変異体は、65℃で、配列番号1のエステラーゼの半減期よりも少なくとも5%長い半減期、好ましくは少なくとも10%、20%、50%、100%、200%、300%、又はそれ以上長い半減期を有する。
【0092】
別の特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、配列番号1のエステラーゼと比較して上昇した融点(Tm)を有する。有利には、本発明のエステラーゼ変異体は、配列番号1のエステラーゼと比較して、約1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、10℃、又はそれ以上上昇した融点(Tm)を有する。
【0093】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼ変異体は、少なくともpH5~11の範囲、好ましくはpH6~9の範囲、より好ましくはpH6.5~9の範囲、さらにより好ましくはpH6.5~8の範囲の測定可能なエステラーゼ活性を示す。
【0094】
核酸、発現カセット、ベクター
本発明のさらなる目的は、上記に定義されているようなエステラーゼをコードしている核酸を提供することである。
【0095】
本明細書において使用する「核酸」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ヌクレオチド配列」という用語は互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチド配列及び/又はリボヌクレオチド配列を指す。核酸は、DNA(cDNA又はgDNA)、RNA、又は2つの混合物であり得る。それは、一本鎖形であっても、二本鎖形であっても、2つの混合物であってもよい。それは、組換え、人工、及び/又は合成起源であり得、それは、例えば修飾された結合、修飾されたプリン塩基若しくはピリミジン塩基、又は修飾された糖を含む、修飾されたヌクレオチドを含み得る。本発明の核酸は、単離形又は精製形であり得、当技術分野においてそれ自体公知である技術によって、例えばcDNAライブラリーのクローニング及び発現、増幅、酵素的合成、又は組換え技術などによって、作製、単離、及び/又は操作され得る。核酸はまた、例えば、Belousov (1997) Nucleic Acids Res. 25:3440-3444に記載のような周知の化学合成技術によってインビトロで合成され得る。
【0096】
本発明はまた、上記に定義されているようなエステラーゼをコードしている核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸も包含する。好ましくは、このようなストリンジェントな条件は、2×SSC/0.1%SDS中で約42℃で約2.5時間ハイブリダイゼーションフィルターをインキュベート、続いて、該フィルターを65℃の1×SSC/0.1%SDSで15分間かけて4回洗浄する工程を含む。使用されるプロトコールは、Sambrook et al.(Molecular Cloning: a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor N.Y. (1988)) and Ausubel(Current Protocols in Molecular Biology (1989))のような参考文献に記載されている。
【0097】
本発明はまた、本発明のエステラーゼをコードしている核酸を包含し、ここでの該核酸の配列又は少なくとも該配列の一部は、最適化されたコドン使用頻度を使用して工学操作されている。
【0098】
あるいは、本発明による核酸は、本発明によるエステラーゼの配列から推察され得、コドン使用頻度は、核酸が転写されるであろう宿主細胞に応じて適応させ得る。これらの工程は、当業者には周知である方法に従って実施され得、その中のいくつかはSambrook et al.の参考マニュアル(Sambrook et al., 2001)に記載されている。
【0099】
本発明の核酸はさらに、選択された宿主細胞又は宿主系においてポリペプチドの発現を引き起こすか又は調節するために使用され得る、追加のヌクレオチド配列、例えば調節領域、すなわち、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、終結因子、シグナルペプチドなどを含み得る。
【0100】
本発明はさらに、適切な宿主細胞において前記核酸の発現を指令する1つ以上の制御配列に作動可能に連結させた本発明に記載の核酸を含む発現カセットに関する。典型的には、発現カセットは、転写プロモーター及び/又は転写終結因子などの制御配列に作動可能に連結された本発明に記載の核酸を含むか又はからなる。制御配列は、本発明のエステラーゼをコードしている核酸の発現のための、宿主細胞又はインビトロ発現系によって認識されるプロモーターを含み得る。該プロモーターは、酵素の発現を媒介する転写制御配列を含有している。突然変異プロモーター、切断短縮プロモーター、及びハイブリッドプロモーターをはじめとする、該プロモーターは、宿主細胞において転写活性を示す任意のポリヌクレオチドであり得、宿主細胞に対して相同的であるか又は異種であるかのいずれかである細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードしている遺伝子から得ることができる。制御配列はまた、転写を終結させるために宿主細胞によって認識される転写終結因子であり得る。終結因子は、エステラーゼをコードしている核酸の3’末端に作動可能に連結されている。宿主細胞において機能的である任意の終結因子を本発明において使用し得る。典型的には、発現カセットは、転写プロモーター及び転写終結因子に作動可能に連結された本発明に記載の核酸を含むか又はからなる。
【0101】
本発明はまた、上記に定義されているような核酸又は発現カセットを含むベクターにも関する。
【0102】
「ベクター」という用語は、組換え遺伝子材料を宿主細胞に導入するためのビヒクルとして使用されるDNA分子を指す。主な種類のベクターは、プラスミド、バクテリオファージ、ウイルス、コスミド、及び人工染色体である。ベクターそれ自体は一般的に、挿入断片(異種核酸配列、導入遺伝子)とベクターの「骨格」としての役目を果たすより大きな配列からなる、DNA配列である。宿主に遺伝子情報を導入するベクターの目的は、典型的には、標的細胞において挿入断片を単離、複製、又は発現させることである。発現ベクター(発現構築物)と呼ばれるベクターは、標的細胞における異種配列の発現のために特異的に適応され、一般的にポリペプチドをコードしている異種配列の発現を駆動するプロモーター配列を有する。一般的には、発現ベクターに存在する調節配列は、転写プロモーター、リボソーム結合部位、終結因子、及び場合により存在するオペレーターを含む。好ましくは、発現ベクターはまた、宿主細胞における自律的複製のための複製起点、選択マーカー、少数の有用な制限酵素部位、及び高コピー数のための容量を含有する。発現ベクターの例は、クローニングベクター、改変されたクローニングベクター、特異的に設計されたプラスミド、及びウイルスである。様々な宿主において適切なレベルのポリペプチド発現を与える発現ベクターは当技術分野において周知である。ベクターの選択は典型的には、ベクターを導入しようとする宿主細胞とベクターの適合性に依存するだろう。
【0103】
本発明の別の目的は、上記のような核酸、発現カセット、又はベクターを含む宿主細胞を提供することである。したがって、本発明は、宿主細胞を形質転換、トランスフェクト、又は形質導入するための、本発明に記載の核酸、発現カセット、又はベクターの使用に関する。ベクターの選択は典型的には、それが導入されなければならない宿主細胞とベクターの適合性に依存するだろう。
【0104】
本発明によると、宿主細胞は、一過性に又は安定的に形質転換、トランスフェクト、又は形質導入され得る。本発明の発現カセット又はベクターを宿主細胞に導入し、これによりカセット又はベクターは、染色体への組み込み体として又は自己複製染色体外ベクターとして維持される。「宿主細胞」という用語はまた、複製中に起こる突然変異に因り親宿主細胞とは同一ではない親宿主細胞のあらゆる子孫も包含する。宿主細胞、例えば原核細胞又は真核細胞は、本発明の変異体の生成において有用な任意の細胞であり得る。原核宿主細胞は、任意のグラム陽性細菌又はグラム陰性細菌であり得る。宿主細胞はまた、真核細胞、例えば酵母、真菌、哺乳動物、昆虫、又は植物細胞であり得る。特定の実施態様では、宿主細胞は、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バチルス(Bacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、トリコデルマ(Trichoderma)、アスペルギルス(Aspergillus)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia)、又はヤロウイア(Yarrowia)の群から選択される。
【0105】
本発明に記載の核酸、発現カセット、又は発現ベクターは、当業者には公知の任意の方法、例えば、電気穿孔法、コンジュゲーション、形質導入、コンピテントセル形質転換、プロトプラスト形質転換、プロトプラスト融合、微粒子銃「遺伝子銃」形質転換、PEGにより媒介される形質転換、脂質により補助される形質転換又はトランスフェクション、化学的に媒介されるトランスフェクション、酢酸リチウムにより媒介される形質転換、リポソームにより媒介される形質転換によって宿主細胞に導入され得る。
【0106】
場合により、1つ以上のコピー数の本発明の核酸、カセット又はベクターを、宿主細胞に挿入することにより、変異体の生成を増加させ得る。
【0107】
特定の実施態様では、宿主細胞は組換え微生物である。本発明は実際に、ポリエステル含有材料を分解する改善された能力を有する微生物の工学操作を可能とする。例えば、本発明の配列は、ポリエステルを分解することができるとしてすでに知られている真菌又は細菌の野生型株を補完して、株の能力を改善及び/又は向上させるために使用され得る。
【0108】
エステラーゼ変異体の生成
本発明の別の目的は、エステラーゼをコードしている核酸を発現させる工程及び場合により該エステラーゼを回収する工程を含む、本発明のエステラーゼ変異体を生成する方法を提供することである。
【0109】
特に、本発明は、(a)本発明の核酸、カセット、又はベクターをインビトロ発現系と接触させる工程;及び(b)生成されたエステラーゼを回収する工程を含む、本発明のエステラーゼをインビトロで生成する方法に関する。インビトロでの発現系は当業者には周知であり、市販されている。
【0110】
好ましくは、生成法は、
(a)本発明のエステラーゼをコードしている核酸を含む宿主細胞を、該核酸を発現するに適した条件下で培養する工程;及び場合により
(b)該エステラーゼを細胞培養から回収する工程
を含む。
【0111】
有利には、宿主細胞は、組換えバチルス、組換えE.coli、組換えアスペルギルス、組換えトリコデルマ、組換えストレプトマイセス、組換えサッカロマイセス、組換えピキア、又は組換えヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である。
【0112】
宿主細胞を、当技術分野において公知である方法を使用して、ポリペプチドの生成に適した栄養培地中で培養する。例えば、該細胞を、適切な培地中及び酵素が発現及び/又は単離されることを可能とする条件下で実施される、振盪フラスコ培養、又は小規模若しくは大規模発酵(連続発酵、バッチ発酵、流加発酵、又は固形状態の発酵を含む)によって培養し得る。培養は、業者からの、又は公開(例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログにおいて)されている組成に従って調製された、適切な栄養培地中で行なわれる。
【0113】
エステラーゼが栄養培地に分泌される場合、エステラーゼは、培養上清から直接回収され得る。逆に、エステラーゼは、細胞溶解液から又は透過性処理後に回収されてもよい。エステラーゼは、当技術分野において公知である任意の方法を使用して回収され得る。例えば、エステラーゼは、回収、遠心分離、ろ過、抽出、噴霧乾燥、蒸発、又は沈降を含むがこれらに限定されない、慣用的な手順によって栄養培地から回収され得る。場合により、エステラーゼは、実質的に純粋なポリペプチドを得るための、クロマトグラフィー(例えばイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、等電点電気泳動、及びサイズ排除クロマトグラフィー)、電気泳動による手法(例えば分取用等電点電気泳動)、溶解度の差(例えば硫酸アンモニウム沈降法)、SDS-PAGE、又は抽出を含むがこれらに限定されない、当技術分野において公知である様々な手順によって部分的に又は完全に精製され得る。
【0114】
エステラーゼはしたがって、ポリエステルを含有しているプラスチック製品などのポリエステル含有材料の分解及び/又はリサイクルに関与する酵素反応を触媒するために、精製形で、単独で又は追加の酵素と組み合わせてのいずれかで使用され得る。エステラーゼは、可溶形であり得るか又は固相上に存在し得る。特に、それを、細胞膜若しくは脂質小胞に、又は例えばビーズ、カラム、プレートなどの形状の、ガラス、プラスチック、ポリマー、フィルター、膜などの合成支持体に結合させ得る。
【0115】
組成物
本発明のさらなる目的は、本発明のエステラーゼ又は宿主細胞を含む組成物を提供することである。本発明の脈絡において、「組成物」という用語は、本発明のエステラーゼをが含む任意の種類の組成物を包含する。特定の実施態様では、エステラーゼは、単離された形態又は少なくとも部分的に精製された形態である。
【0116】
前記組成物は、液体又は乾燥形であり得、例えば粉末の形態であり得る。いくつかの実施態様では、該組成物は凍結乾燥物である。例えば、該組成物は、エステラーゼ及び/又は本発明のエステラーゼをコードしている組換え細胞又はその抽出物、並びに場合により賦形剤及び/又は試薬などを含み得る。適切な賦形剤は、生化学において一般的に使用される緩衝液、pH調整剤、保存剤、例えば安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、若しくはアスコルビン酸ナトリウム、保存剤、保護剤、又は安定化剤、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム、塩、糖、例えばソルビトール、トレハロース、若しくはラクトース、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(polyethene glycol)、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、捕捉剤、例えばEDTA、還元剤、アミノ酸、担体、例えば溶媒若しくは水溶液などを包含する。本発明の組成物は、エステラーゼを1つ又はいくつかの賦形剤と混合することによって得ることができる。
【0117】
本発明の組成物は、0.1重量%~99.9重量%、好ましくは0.1重量%~50重量%、より好ましくは0.1重量%~30重量%、さらにより好ましくは0.1重量%~5重量%の本発明のエステラーゼ、及び0.1重量%~99.9重量%、好ましくは50重量%~99.9重量%、より好ましくは70重量%~99.9重量%、さらにより好ましくは95重量%~99.9重量%の賦形剤(群)を含み得る。好ましい組成物は、0.1重量%~5重量%の本発明のエステラーゼを含む。
【0118】
特定の実施態様では、前記組成物はさらに、酵素活性を示す追加のポリペプチド(群)を含み得る。本発明のエステラーゼの量は、例えば、分解される予定のポリエステル含有材料及び/又は該組成物に含有されている追加の酵素/ポリペプチドの性質に応じて、当業者によって容易に適応されるだろう。
【0119】
特定の実施態様では、本発明のエステラーゼは、1つ又はいくつかの賦形剤、特に、分解からポリペプチドを安定化又は保護することのできる賦形剤と一緒に水性媒体中に可溶化される。例えば、本発明のエステラーゼは、最終的にはグリセロール、ソルビトール、デキストリン、デンプン、グリコール、例えばプロパンジオール、塩などの追加の成分と共に、水中に可溶化され得る。次いで、結果として得られた混合物を乾燥させることにより、粉末を得ることができる。このような混合物を乾燥させるための方法は、当業者には周知であり、これには、凍結乾燥(lyophilisation)、凍結-乾燥(freeze-drying)、噴霧乾燥、超臨界乾燥、下向き通風(down-draught)蒸発、薄層蒸発、遠心蒸発、コンベア乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥、又はその任意の組合せが挙げられるがこれらに限定されない。
【0120】
さらなる特定の実施態様では、本発明の組成物は、本発明のエステラーゼを発現している少なくとも1つの組換え細胞又はその抽出物を含む。「細胞の抽出物」は、実質的に生細胞を含まない、細胞から得られたあらゆる画分、例えば細胞上清、細胞破片、細胞壁、DNA抽出物、酵素若しくは酵素調製物、又は化学的処理、物理的処理及び/若しくは酵素的処理によって細胞から誘導された任意の調製物を示す。好ましい抽出物は酵素的に活性な抽出物である。本発明の組成物は、本発明の1つ又はいくつかの組換え細胞又はその抽出物、及び場合により1つ又はいくつかの追加の細胞を含み得る。
【0121】
特定の実施態様では、前記組成物は、本発明のエステラーゼを発現及び分泌している組換え微生物の凍結乾燥させた培養培地からなるか又は含む。特定の実施態様では、粉末は、本発明のエステラーゼ及び安定化量/可溶化量のグリセロール、ソルビトール又はデキストリン、例えばマルトデキストリン及び/又はシクロデキストリン、デンプン、グリコール、例えばプロパンジオール、並びに/あるいは塩を含む。
【0122】
本発明のエステラーゼの使用
本発明のさらなる目的は、ポリエステルから作製されるか又は含有しているプラスチック製品などのポリエステル含有材料を好気的及び/又は嫌気的条件で分解するために、並びに/あるいはリサイクルするために、本発明のエステラーゼを使用する方法を提供することである。本発明のエステラーゼ変異体は、PETを含むプラスチック製品を分解するのに特に有用である。
【0123】
それ故、本発明の目的は、PET含有材料などのポリエステル含有材料の酵素的分解のために、本発明のエステラーゼ、又は対応する組換え細胞若しくはその抽出物、又は組成物を使用することである。
【0124】
本発明の別の目的は、少なくとも1つのポリエステルを含有しているプラスチック製品を分解するための方法を提供することであり、ここではプラスック製品を本発明のエステラーゼ又は宿主細胞又は組成物と接触させることにより、プラスチック製品を分解する。有利には、ポリエステル含有材料のポリエステル(群)を、モノマー及び/又はオリゴマーまで脱重合する。
【0125】
分解法の1つの実施態様では、少なくとも1つのポリエステルを分解することにより、再重合可能なモノマー及び/又はオリゴマーが得られ、これは有利には再利用するために回収される。
【0126】
1つの実施態様では、ポリエステル含有材料のポリエステル(群)は、完全に分解される。
【0127】
特定の実施態様では、プラスチック製品は、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタラート(PEIT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタラート(PBAT)、ポリエチレンフラノアート(PEF)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(エチレンアジペート)(PEA)、ポリエチレンナフタラート(PEN)、及びこれらの材料のブレンド/混合物から選択された少なくとも1つのポリエステル、好ましくはポリエチレンテレフタラートを含む。好ましい実施態様では、ポリエステル含有材料はPETを含み、少なくともモノマー、例えばモノエチレングリコール又はテレフタル酸、並びに/あるいはオリゴマー、例えばメチル-2-ヒドロキシエチルテレフタラート(MHET)、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタラート(BHET)、2-ヒドロキシエチル安息香酸(HEB)及びジメチルテレフタラート(DMT)が、例えばリサイクル又はメタン化のために回収される。
【0128】
本発明はまた、ポリエステル含有材料を、本発明のエステラーゼ又は対応する組換え細胞若しくはその抽出物又は組成物に曝す工程、及び場合によりモノマー及び/又はオリゴマーを回収する工程を含む、ポリエステル含有材料からモノマー及び/又はオリゴマーを生成する方法にも関する。本発明の方法は、モノエチレングリコール及びテレフタル酸から選択されたモノマー、並びに/又は、メチル-2-ヒドロキシエチルテレフタラート(MHET)、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタラート(BHET)、2-ヒドロキシエチル安息香酸(HEB)、及びジメチルテレフタラート(DMT)から選択されたオリゴマーを生成するのに特に有用である。
【0129】
ポリエステル含有材料を分解するのに必要とされる時間は、ポリエステル含有材料それ自体(すなわち、プラスチック製品の性質及び入手源、その組成、形状など)、使用されるエステラーゼの種類及び量、並びに、様々なプロセスパラメーター(すなわち、温度、pH、追加の薬剤など)に応じて変更され得る。当業者は、ポリエステル含有材料にプロセスパラメーターを容易に適応させ得る。
【0130】
有利には、分解プロセスは、20℃~90℃、好ましくは40℃~80℃、より好ましくは50℃~70℃、より好ましくは60℃~70℃、さらにより好ましくは65℃の温度で実施される。別の特定の実施態様では、分解プロセスは70℃で実施される。より一般的には、温度は、不活化温度未満に維持され、この温度は、エステラーゼが不活性化される及び/又は組換え微生物がもはやエステラーゼを合成しない温度に相当する。特に、温度は、ポリエステル含有材料中のポリエステルのガラス転移温度(Tg)未満に維持される。より特定すると、プロセスは、連続的に、エステラーゼを数回使用できる及び/又はリサイクルできる温度で実施される。
【0131】
有利には、分解プロセスは、pH5~11、好ましくはpH6~9、より好ましくはpH6.5~9、さらにより好ましくはpH6.5~8で実施される。
【0132】
特定の実施態様では、ポリエステル含有材料は、エステラーゼと接触させる前に、その構造を物理的に変化させることにより、ポリエステルと本発明の変異体との間の接触表面を増加させるために前処理されていてもよい。
【0133】
場合により、脱重合から得られたモノマー及び/又はオリゴマーは、順次又は連続的に回収され得る。1種類のモノマー及び/若しくはオリゴマー、又は数種類のモノマー及び/若しくはオリゴマーが、出発ポリエステル含有材料に応じて回収され得る。
【0134】
回収されたモノマー及び/又はオリゴマーは、全ての適切な精製法を使用してさらに精製され得、再重合可能な形で調整され得る。精製法の例は、剥離プロセス、水溶液による分離、水蒸気選択的凝縮、バイオプロセス後の培地のろ過及び濃縮、分離、蒸留、真空蒸発、抽出、電気透析、吸着、イオン交換、沈降、結晶化、濃縮、及び酸付加脱水、及び沈降、ナノろ過、酸触媒による処理、半連続モード蒸留、又は連続モード蒸留、溶媒蒸発、蒸発濃縮、蒸発結晶化、液体/液体抽出、水素付加、共沸蒸留プロセス、吸着、カラムクロマトグラフィー、単純真空蒸留、及びマイクロろ過を、組み合わせたもの又は組み合わせないものを含む。
【0135】
次いで、再重合可能なモノマー及び/又はオリゴマーを、例えば、ポリエステルを合成するために再利用し得る。有利には、同じ性質のポリエステルを再重合する。しかしながら、回収されたモノマー及び/又はオリゴマーを他のモノマー及び/又はオリゴマーと混合し、これにより例えば、新規コポリマーを合成することが可能である。あるいは、回収されたモノマーを、関心対象の新規化合物を生成するための化学物質中間体として使用してもよい。
【0136】
本発明はまた、ポリエステル含有材料を本発明のエステラーゼ又は対応する組換え細胞若しくはその抽出物又は組成物に曝す工程を含む、ポリエステル含有材料の表面加水分解又は表面官能基化の方法にも関する。本発明の方法は、ポリエステル材料の親水性又は水吸着性を高めるのに特に有用である。このような高められた親水性は、織物の作製、電子工学、及び生物医学への適用に特に関心がもたれ得る。
【0137】
本発明のさらなる目的は、本発明のエステラーゼ並びに/又は該エステラーゼを発現及び分泌している組換え微生物が含まれている、ポリエステル含有材料を提供することである。特定の実施態様では、このようなポリエステル含有材料は、プラスチック化合物であり得る。したがって、本発明の目的は、本発明のエステラーゼ及び/又は組換え細胞及び/又は組成物若しくはその抽出物;並びに少なくとも1つのポリエステルを含有している、プラスチック化合物を提供することである。好ましい実施態様では、ポリエステルはPETである。
【0138】
実施例
実施例1-エステラーゼの構築、発現、及び精製
-構築
エステラーゼ変異体は、プラスミド構築物pET26b-LCC-Hisを使用して作製された。このプラスミドは、NdeI制限酵素部位とXhoI制限酵素部位との間に、エシェリヒア・コリにおける発現のために最適化された、配列番号1のエステラーゼをコードしている遺伝子をクローニングすることからなる。エステラーゼ変異体を作製するために、2つの部位特異的突然変異誘発キットが業者の推奨に従って使用された:アジレント社(サンタクララ、カリフォルニア州、米国)製のQuikChange II Site-Directed Mutagenesisキット及びQuikChange Lightning Multi Site-Directed。
【0139】
-エステラーゼの発現及び精製
Stellar(商標)株(クロンテック社、カリフォルニア州、米国)及びE.coli One Shot(登録商標)BL21 DE3(ライフテクノロジーズ社、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)が、50mLのLB-Miller培地又はZYM自己誘導性培地中でのクローニング及び組換え発現を実施するために成功裡に使用された(Studier et al., 2005- Prot. Exp. Pur. 41, 207-234)。LB-Miller培地中での誘導は、0.5mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG、ユーロメディックス社、ゾウフェルヴァイヤースハイム、フランス)を用いて16℃で実施された。AvantiJ-26XP遠心機(ベックマンコールター社、ブレア、米国)での遠心分離(8000rpm、10℃で20分間)によって培養を停止した。細胞を、20mLのTalon緩衝液(トリス-HCl20mM、NaCl 300mM、pH8)に懸濁した。次いで、細胞懸濁液を、30%の振幅で(2秒オン、1秒OFFのサイクル)FB705超音波発生器(フィシャーブランド社、イルキルシュ、フランス)によって、2分間、超音波処理にかけた。次いで、遠心分離工程を実現した:エッペンドルフ遠心機で11000rpmで10℃で30分間。可溶性画分を回収し、アフィニティクロマトグラフィーにかけた。この精製工程は、Talon(登録商標)金属アフィニティ樹脂(クロンテック社、CA州、米国)を用いて完了させた。タンパク質の溶出は、イミダゾールの補充されたTalon緩衝液の勾配を用いて実施された。精製されたタンパク質を、Talon緩衝液に対して透析し、その後、製造業者の説明書(ライフサイエンスバイオラッド社、フランス)に従ってバイオラッドタンパク質アッセイを使用して定量し、+4℃で保存した。
【0140】
実施例2-本発明のエステラーゼの熱安定性の評価
エステラーゼ変異体の熱安定性を決定し、配列番号1のエステラーゼの熱安定性と比較した。
【0141】
熱安定性を推定するために、様々な方法を使用した:
(1)溶液中のタンパク質の円二色性;
(2)所与の温度、時間、及び緩衝液の条件においてタンパク質をインキュベートした後の残留エステラーゼ活性;
(3)所与の温度、時間、及び緩衝液の条件においてタンパク質をインキュベートした後の残留ポリエステル脱重合活性;
(4)所与の温度、時間、及び緩衝液の条件においてタンパク質をインキュベートした後の、寒天プレートに分散させた固体ポリエステル化合物(例えばPET又はPBAT又は類似体)を分解する能力;
(5)所与の温度、緩衝液、タンパク質濃度、及びポリエステル濃度の条件において複数回のポリエステル脱重合アッセイを実施する能力;
(6)示差走査蛍光定量法(DSF)。
【0142】
このような方法のプロトコールに関する詳細を以下に示す。
【0143】
2.1 円二色性
配列番号1のエステラーゼと本発明のエステラーゼ変異体の融点(Tm)を比較するためにJasco815機器(イーストン社、米国)を用いて円二色性(CD)を実施した。Tmは、タンパク質の50%が変性する温度に相当する。
【0144】
技術的には、タンパク質試料 400μLを、Talon緩衝液中で0.5mg/mLに調製し、CDのために使用した。280~190nmの1回目の走査を実現し、タンパク質の正しい折り畳みに相当するCDの2つの最大強度を決定した。次いで、2回目の走査は、25℃~110℃で、このような最大強度に相当する波長で実施され、特定の曲線(シグモイドの3つのパラメーターy=a/(1+(1+e^((x-x0)/b)))が得られ、これをシグマプロットバージョン11.0ソフトウェアによって分析し、x=x0である時のTmが決定される。得られたTmは、所与のタンパク質の熱安定性を反映する。Tmが高ければ高いほど、該変異体は高温でより安定となる。
【0145】
2.2 残留エステラーゼ活性
配列番号1のエステラーゼ又はエステラーゼ変異体の(Talon緩衝液中)40mg/L溶液 1mLを、様々な温度(65、70、75、80、及び90℃)で10日間インキュベートした。定期的に試料を採取し、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)で1~500倍に希釈し、パラニトロフェノール-ブチレート(pNP-B)アッセイを実現した。試料 20μLを、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)175μL及びpNP-Bの2-メチル-2-ブタノール溶液(40mM)5μLと混合した。酵素反応を撹拌下で30℃で15分間実施し、405nmにおける吸光度をマイクロプレート分光光度計(Versamax、モレキュラーデバイス社、サニーベール、CA州、米国)によって取得した。pNP-B加水分解活性(初期速度は、1分あたりのpNPBのμmolで表現される)を、加水分解曲線の直線部分における遊離したパラニトロフェノールについての標準曲線を使用して決定した。所与の温度における酵素の半減期は、初期活性の50%を消失するのに必要な時間に相当する。
【0146】
2.3 残留ポリエステル脱重合活性
粉砕した結晶プリフォームを液体窒素に浸漬し、Ultra Centrifugal Mill ZM200システムを使用して500μm未満のサイズの微粉末へと微粒子化した。次いで、得られた粉末をふるいにかけた。250μm~500μmのサイズの画分のみを、脱重合試験のために使用した。この画分の結晶性を、10℃/分の加熱速度でMettler Toledo DSC3を使用して11.5%で測定した。
【0147】
配列番号1のエステラーゼ及びエステラーゼ変異体の(Talon緩衝液中)40mg/L溶液10mLをそれぞれ、様々な温度(65、70、75、80、及び90℃)で10日間~30日間インキュベートした。定期的に1mLの試料を採取し、250~500μmで微粒子化された無定形PET 100mg及び0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)49mLを含有している瓶に移し、65℃でインキュベートした。緩衝液 150μLを定期的に試料採取した。必要である場合、試料を0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH8)で希釈した。次いで、メタノール 150μL及びHCL 6N 6.5μLを、試料又は希釈液 150μLに加えた。混合し、0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、試料をUHPLCに載せ、テレフタル酸(TA)、MHET、及びBHETの遊離をモニタリングした。使用されるクロマトグラフィーシステムは、ポンプモジュール、オートサンプラー、25℃で温度制御されたカラムオーブン、及び240nmのUV検出器を含む、Ultimate 3000UHPLCシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ウォルサム、MA州、米国)であった。使用されたカラムは、Discovery(登録商標)HS C18 HPLCカラム(150×4.6mm、5μm、プレカラムを具備、スペルコ社、ベルフォンテ、米国)であった。TA、MHET、及びBHETを、1mMのHSO中のMeOH勾配(30%~90%)を使用して1mL/分で分離した。注入液は20μLの試料であった。TA、MHET、及びBHETを、市販のTA及びBHET並びに社内で合成されたMHETから調製された標準曲線に従って試料と同じ条件で測定した。PET加水分解活性(1分間あたりに加水分解されたPETのμmol又は1時間あたりに生成された等価なTAのmg)を、加水分解曲線の直線部分において決定した。等価なTAは、測定されたTAと、測定されたMHET及びBHETに含有されているTAの合計に相当する。所与の温度における酵素の半減期は、初期活性の50%を消失するのに必要とされる時間に相当する。
【0148】
2.4 固体形下のポリエステルの分解
酵素調製物 20μLを、PETを含有している寒天プレートに作られたウェルに沈着させた。寒天プレートの調製は、HFIPに可溶化させたPET 500mgを可溶化することによって実現し、この培地を250mLの水溶液に注いだ。52℃でHFIPを蒸発させた後、溶液を、3%寒天を含有している0.2Mリン酸カリウム緩衝液(pH8)と混合(v/v)した。約30mLの混合物を使用して、各々のOmniTrayを調製し、4℃で保存する。
【0149】
ポリエステル分解に因り形成された円形光輪の直径を、60℃又は65℃で24時間後に測定した。所与の温度における酵素の半減期は、円形光輪の直径が2倍減少するのに必要とされる時間に相当する。
【0150】
2.5 複数回のポリエステル脱重合
エステラーゼが連続回のポリエステルの脱重合アッセイを実施する能力を、酵素反応器において評価した。Minibio 500バイオリアクター(アプリコン・バイオテクノロジー社、デルフト、オランダ)を、無定形PET 3g、及びLC-エステラーゼ 3mgを含有している10mMリン酸カリウム緩衝液(pH8)100mLを用いて開始した。撹拌を、マリンインペラーを使用して250rpmに設定した。バイオリアクターは、外付けの水浴への浸漬によって65℃に温度制御された。pHは、3MのKOHの添加によって8に調節された。様々なパラメーター(pH、温度、撹拌、塩基の添加)を、BioXpertソフトウェアV2.95によりモニタリングした。無定形PET 1.8gを20時間毎に加えた。反応培地 500μLを定期的に試料採取した。
【0151】
TA、MHET、及びBHETの量を、実施例2.3に記載のようにHPLCによって決定した。EGの量を、65℃に温度制御されたAminex HPX-87Kカラム(バイオラッドラボラトリーズ社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を使用して決定した。溶出液は、0.6mL/分の5mMのKHPOであった。注入液は20μLであった。エチレングリコールを、屈折計を使用してモニタリングした。
【0152】
加水分解率は、所与の時間におけるモル濃度(TA+MHET+BHET)、対、初期試料中に含有されているTAの総量の比に基づくか、又は、所与時間におけるモル濃度(EG+MHET+2×BHET)、対、初期試料中に含有されているEGの総量の比に基づいて計算された。分解速度は、1時間あたりに遊離された全TAのmg又は1時間あたりの全EGのmgで計算される。
【0153】
酵素の半減期は、分解速度の50%の消失を得るのに必要とされるインキュベーション時間として評価された。
【0154】
2.6 示差走査蛍光定量法(DSF)
DSFを使用して、それらの融点(Tm)、すなわちタンパク質個体群の半分が折り畳まれていない温度を決定することによって、野生型タンパク質(配列番号1)及びその変異体の熱安定性を評価した。タンパク質試料を、14μM(0.4mg/mL)の濃度で調製し、20mMのトリスHCl(pH8.0)、300mMのNaClからなる緩衝液Aに保存した。SYPRO orange色素の5000倍のDMSO中ストック溶液をまず、水で250倍に希釈した。タンパク質試料を、白色透明の96ウェルのPCRプレート(バイオラッド社、製造番号HSP9601)に載せ、各ウェルは最終容量25μlを含有している。各ウェル中のタンパク質及びSYPRO orange色素の最終濃度は、それぞれ5μM(0.14mg/ml)及び10倍であった。1ウェルあたりに積載された容量は以下の通りであった:緩衝液A 15μL、0.4mg/mLのタンパク質溶液 9μL、及び250倍のSypro Orange希釈溶液 1μL。次いで、PCRプレートを、光学的品質のシールテープで封をし、室温で2000rpmで1分間遠心機にかけた。次いで、DSF実験を、450/490励起フィルター及び560/580発光フィルターを使用するために設定されたCFX96リアルタイムPCRシステムを使用して行なった。試料を、1.1℃/分の速度で25℃から100℃まで加熱した。0.3℃毎に1回の蛍光測定を行なった。融点は、曲線をボルツマン式にあてはめることによって決定された。
【0155】
次いで、野生型タンパク質及び変異体を、それらのTm値に基づいて比較した。異なる生成に由来する同じタンパク質に関する実験間での高い再現性に因り、0.8℃のΔTmが、変異体を比較するのに有意であると判断した。Tm値は、少なくとも2回の測定の平均値に相当する。
【0156】
本発明のエステラーゼ変異体の比較された熱安定性は以下の表2に示され、Tm値で表現され、実施例2.6に従って評価される。配列番号1のエステラーゼと比較したTmの増加が、括弧内に示されている。
【0157】
【表2】
【0158】
実施例3-本発明のエステラーゼ変異体の熱安定性及び活性の評価
PETに関する、本発明のエステラーゼ変異体の分解比活性を評価し、配列番号1のエステラーゼの分解比活性と比較した。
【0159】
無定形PET 100mgを秤量し、100mLのガラス瓶に導入した。エステラーゼ調製物(基準対照として)又は変異体調製物 1mLをそれぞれ、Talon緩衝液(トリス-HCl 20mM、NaCl 0.3M、pH8)中0.02又は0.03mg/mLで調製し、ガラス瓶に導入した。最後に、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH8)49mLを加えた。
【0160】
各ガラス瓶を65℃及び150rpmでMaxQ4450インキュベーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ウォルサム、MA州、米国)中でインキュベートすることによって脱重合を開始した。
【0161】
脱重合反応の初期速度(1時間あたりに生成された等価なTAのmg)は、最初の24時間中の様々な時点において実施された試料採取によって決定され、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)によって分析された。必要であれば、試料を、0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH8)で希釈した。次いで、メタノール 150μL及びHCl 6N 6.5μLを、試料又は希釈液 150μLに加えた。混合し0.45μmのシリンジフィルターでのろ過後、試料をUHPLCに載せ、テレフタル酸(TA)、MHET及びBHETの遊離をモニタリングした。使用されたクロマトグラフィーシステムは、ポンプモジュール、オートサンプラー、25℃で温度制御されたカラムオーブン、及び240nmのUV検出器を含む、Ultimate 3000UHPLCシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ウォルサム、MA州、米国)であった。使用されたカラムは、Discovery(登録商標)HS C18 HPLCカラム(150×4.6mm、5μm、プレカラムを具備、スペルコ社、ベルフォンテ、米国)であった。TA、MHET、及びBHETを、1mMのHSO中のMeOH勾配(30%~90%)を使用して1mL/分で分離した。注入液は20μLの試料であった。TA、MHET、及びBHETを、市販のTA及びBHET並びに社内で合成されたMHETから調製された標準曲線に従って試料と同じ条件で測定した。PETの分解比活性(酵素1mgあたり1時間あたりの等価なTAのmg)を、加水分解曲線の直線部分において決定した。
【0162】
本発明のエステラーゼ変異体の分解比活性及び熱安定性の両方の結果を表3に示す。
【0163】
配列番号1のエステラーゼの分解比活性は基準として使用され、100%の分解活性と考える。分解活性は、実施例3に示されている通りに測定される(酵素1mgあたり1時間あたりの等価なTAのmg)。等価なTAは、測定されたTAと、測定されたMHET及びBHET中に含有されるTAの合計に相当する。熱安定性は、Tm値(実施例2.6に従って測定される)で表現され、配列番号1のエステラーゼのTmと比較したTmの増加を括弧内に注記する。
【0164】
【表3】
【配列表】
2022141946000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2022-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号1に示される完全長アミノ酸配列に対して少なくとも90%、95%、又は99%の同一性を有し、そして
(ii)配列番号1と比較して、V177I、Y92G/P、T61M及びF208Wから選択され1つ以上のアミノ酸の置換を有し(ここでの位置は配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされる)、
(iii)ポリエステル分解活性を有し、そして
(iv)配列番号1のエステラーゼと比較して向上した熱安定性を示す、
エステラーゼ変異体。
【請求項2】
E173、L202、N204から選択された位置に少なくとも1つの置換をさらに含む(ここでの位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列への参照によって番号付けされる)、請求項のエステラーゼ変異体。
【請求項3】
E173A/R、L202R、N204Dから選択される少なくとも1つの置換を含む、請求項2のエステラーゼ変異体。
【請求項4】
少なくともF208Wの置換を含む、請求項1~3のいずれか一項のエステラーゼ変異体。
【請求項5】
Y92P+F208W及びV170I+F208Wから選択される置換の組合せを含む、請求項1~4のいずれか一項のエステラーゼ変異体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項エステラーゼをコードしている核酸。
【請求項7】
請求項の核酸を含む発現カセット又はベクター。
【請求項8】
請求項の核酸又は請求項の発現カセット若しくはベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
(a)エステラーゼをコードしている核酸を発現するに適した条件下で、請求項の宿主細胞を培養する工程;及
(b)細胞培養から該エステラーゼを回収する工程
を含む、該エステラーゼを生成する方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項のエステラーゼ及び/又は請求項の核酸、及び/又は請求項の発現カセット若しくはベクター、及び/又は請求項の宿主細胞若しくはその抽出物を含む、組成物。
【請求項11】
1つ又はいくつかの賦形剤又は添加剤を含む、請求項10の組成物。
【請求項12】
(a)プラスチック製品を、請求項1~のいずれか一項のエステラーゼ、又は請求項の宿主細胞、又は請求項10の組成物と接触させることにより、プラスチック製品を分解する工
を含む、少なくとも1つのポリエステルを含有しているプラスチック製品を分解する方法。
【請求項13】
(b)モノマー及び/又はオリゴマーを回収する工程を含む、請求項12の方法。
【請求項14】
プラスチック製品が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタラート(PEIT)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタラート(PBAT)、ポリエチレンフラノアート(PEF)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(エチレンアジペート)(PEA)、ポリエチレンナフタラート(PEN)、及びこれらの材料のブレンド/混合物から選択された少なくとも1つのポリエステルを含む、請求項12又は13の方法。
【請求項15】
プラスチック製品が、ポリエチレンテレフタラートを含む、請求項14の方法。
【請求項16】
工程(a)が、50℃~90℃の温度で実施される、請求項12~15のいずれかの方法。
【外国語明細書】