(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141949
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】少なくとも1つの基板上にクロム層またはクロム合金層を堆積するための制御された方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/06 20060101AFI20220921BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C25D3/06
C25D5/12
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022120486
(22)【出願日】2022-07-28
(62)【分割の表示】P 2019554659の分割
【原出願日】2018-04-04
(31)【優先権主張番号】17164733.2
(32)【優先日】2017-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテック ドイチュラント ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンケ ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】オレクザンドラ イェフツシェンコ
(72)【発明者】
【氏名】フランツィスカ パウリヒ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】基板上にクロム層またはクロム合金層を堆積した鋼基板を提供する。
【解決手段】堆積されたクロム合金層を含む鋼基板であって、
前記クロム合金層が、鋼基板上に直接堆積されているか、または、鋼基板がニッケルまたはニッケル合金層をさらに含み、クロム合金層がその上に堆積されており、
前記クロム合金層が、炭素と酸素を含み、
前記クロム合金層が、アルカリ金属カチオンを含まず、
前記クロム合金層が、5~200μmの範囲の平均層厚さを持ち、
前記クロム合金層が、少なくとも20μmの平均層厚さに対して、0.6μm以下の平均表面粗さRaを有する、鋼基板である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基板上にクロム層またはクロム合金層を堆積するための制御された方法であって、前記方法は、以下の工程
(a)水性堆積浴を供給する工程であって、
前記浴は、
- 三価クロムイオン、
- 臭化物イオン、
- 前記堆積浴の総体積を基準として、0モル/L~1モル/Lの総量でアルカリ金属カチオン
を含み、
前記浴は、
- 4.1~7.0の範囲内の目標pH
を有する、工程、
(b)前記少なくとも1つの基板および少なくとも1つのアノードを供給する工程、
(c)前記少なくとも1つの基板を前記水性堆積浴に浸漬し、直流電流を印加して、前記クロム層またはクロム合金層を、前記基板上に堆積する工程であって、前記基板は、カソードであり、
ここで、工程(c)の間または後に、前記堆積浴のpHは、前記目標pHよりも低い、工程、
(d)NH4OHおよび/またはNH3を、工程(c)の間または後に、前記堆積浴に添加し、前記堆積浴の前記目標pHを回復させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記堆積浴中のアルカリ金属カチオンの総量が、前記堆積浴の総体積を基準として、0モル/L~0.8モル/Lの範囲、好ましくは0モル/L~0.6モル/Lの範囲、より好ましくは0モル/L~0.4モル/Lの範囲、さらにより好ましくは0モル/L~0.2モル/Lの範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記方法が連続的な方法である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記目標pHが、4.5~6.5の範囲内であり、好ましくは、5.0~6.0の範囲内であり、最も好ましくは、5.3~5.9の範囲内である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記水性堆積浴が、+6未満の酸化数を有する硫黄原子を有する硫黄含有化合物およびホウ素含有化合物を含有しない、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(c)で堆積された前記層がアモルファスであり、X線回折により測定される、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(c)で、前記クロム層またはクロム合金層を、前記少なくとも1つの基板に直接堆積させるか、または
工程(b)で定義された前記少なくとも1つの基板が、ニッケル層またはニッケル合金層をさらに含み、工程(c)で、前記クロム層またはクロム合金層を、その上に堆積させる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(c)で堆積された前記クロム層またはクロム合金層の平均層厚さが、1.0μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上、さらにより好ましくは5μm以上であり、最も好ましくは前記平均層厚さが5μm~200μmの範囲、好ましくは5μm~150μmの範囲である、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(c)で堆積された前記層が、少なくとも20μmの平均層厚さに対して、0.6μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.4μm以下の平均表面粗さRaを有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記三価クロムイオンが、前記少なくとも1つのアノードと接触するように、前記少なくとも1つの基板および前記少なくとも1つのアノードが、前記水性堆積浴中に存在する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
クロム層またはクロム合金層を堆積させるための水性堆積浴であって、前記浴は、
(i)前記堆積浴の総体積を基準として、17g/L~30g/Lの範囲の総量の三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の有機錯化合物、
(iii)アンモニウムイオン、
(iv)臭化物である、ハロゲン化物イオンの少なくとも1つの種、
(v)前記堆積浴の総体積を基準として、0モル/L~1モル/Lの総量のアルカリ金属カチオン
を含み、
ここで
- 前記三価クロムイオンは、可溶性の三価クロムイオン含有供給源由来のものであり、前記供給源は、1リットルの水性堆積浴あたり100g未満の総重量で利用され、前記供給源は、利用される供給源の総重量を基準として、1重量%以下の総量でアルカリ金属カチオンを含み、
- 前記浴のpHは、4.1~7.0の範囲であり、
- 前記浴は、+6未満の酸化数を有する硫黄原子を有する硫黄含有化合物を含有せず、
- 前記浴は、ホウ素含有化合物を含有しない、浴。
【請求項12】
前記三価クロムイオンの総重量および前記アンモニウムイオンの総重量の合計が、前記水性堆積浴中のすべてのカチオンの総重量の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上に相当する、請求項11記載の浴。
【請求項13】
前記堆積浴中の臭化物イオンの総量が、前記堆積浴の総体積を基準として、少なくとも0.06モル/L、好ましくは少なくとも0.1モル/L、より好ましくは少なくとも0.15モル/Lである、請求項11または12記載の浴。
【請求項14】
前記可溶性の三価クロムイオン含有供給源が、硫酸クロム、好ましくは酸性硫酸クロム、より好ましくは一般式Cr2(SO4)3および分子量392g/モルの硫酸クロムを含むか、それらである、請求項11から13までのいずれか1項記載の浴。
【請求項15】
前記供給源が、水性堆積浴1リットルあたり70g~99.9gの範囲、好ましくは70g~99gの範囲、より好ましくは70g~95gの範囲、最も好ましくは70g~90gの範囲の総重量で利用される、請求項11から14までのいずれか1項記載の浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、クロム層またはクロム合金層および水性堆積浴を堆積させるための制御された方法に関する。特に、本発明は、硬質クロム層とも呼ばれる、機能性クロム層を指す。
【0002】
発明の背景
機能性クロム層は、通常、装飾的なクロム層(通常、1μm未満)と比較して、平均層厚さがはるかに大きく(少なくとも1μm~数百マイクロメートル)、優れた硬度および耐摩耗性によって特徴付けられる。
【0003】
六価クロムを含有する堆積浴から得られた機能性クロム層は、従来技術で知られており、十分に確立された標準である。クロム堆積後、このようなクロム表面は、通常、仕上げまたは超仕上げの工程で後処理される。これらの工程では、クロム層は、さらに研削かつ研磨されて、通常、0.2μm以下の平均表面粗さ(Ra)を示す非常に滑らかな表面が得られる。
【0004】
最近数十年の間に、六価クロムに依存するクロム堆積法は、三価クロムに依存する堆積法にますます置き換えられている。このような三価クロムベースの方法は、健康および環境に優しい。
【0005】
国際公開第2015/110627号は、クロムを堆積させるための電気めっき浴、および前記電気めっき浴を使用して基板上にクロムを堆積させる方法に関する。
【0006】
米国特許第2,748,069号明細書は、非常に良好な物理的および機械的特性のクロムコーティングを非常に迅速に得ることを可能にするクロムの電気めっき溶液に関する。クロムめっき液は、スポットまたはプラギングまたはペンシルのガルバノプラスティとして知られるような特別な電解法に使用され得る。このような特別な方法では、通常、基板はそれぞれの電気めっき溶液に浸されない。
【0007】
しかしながら、三価クロムベースの方法は、六価クロムベースの方法から得られたクロム層(少なくとも20μmの平均層厚さに対して、通常、0.2~0.4μmの範囲のRa)と比較して顕著に高い平均表面粗さ(Ra)(少なくとも20μmの平均層厚さに対して、さらに1.5μmまで)を有するクロム層またはクロム合金層をもたらすことが多いことが認められた。
【0008】
さらに、三価クロムベースの方法では、クロム層またはクロム合金層の平均表面粗さが、利用される水性堆積浴の長期使用にわたって継続的に増加することが観察されている。本発明者らの実験により、新たに準備された堆積浴は、ほとんどの場合、望ましい低い平均表面粗さをもたらすことが示されている。しかしながら、堆積浴の集中的な使用により、平均表面粗さは急速に増加し、処理された基板の表面品質は継続的に低下する。最後に、長期間使用される堆積浴からのクロム層またはクロム合金層を備えた基板は、新たに準備された堆積浴で処理された基板と比較して、表面品質が低い(すなわち、平均表面粗さが比較的高い)ことが非常に多い。当然ながら、一定の表面品質の基板を得ることが望ましい。
【0009】
研削および研磨などの確立された仕上げおよび/または超仕上げ工程が、非常に頻繁に開発されており、特に六価クロムベースの方法から得られるクロム層用に、すなわち、通常0.5μm未満の平均表面粗さを有する基板用にカスタマイズされているので、基板の平均表面粗さの著しい変化により、望ましくない不利益がもたらされる。これらのプロセスは、平均表面粗さが顕著に高い層に容易に適合させることはできないか、通常、コストおよびメンテナンスを増加させる、複雑な修正を少なくとも必要とする。さらに、基板の表面品質が変化する場合、前記仕上げ工程の前に、仕上げ工程で使用されるハードウェアを適合させるために、それぞれの基板の表面品質を個別にかつ慎重に決定しなければならない。このような追加の努力は、非常に望ましくない。
【0010】
本発明の課題
したがって、本発明の第1の課題は、六価クロムベースの方法から得られた層の平均表面粗さに非常に類似した平均表面粗さ(Ra)を有する機能性クロム層または機能性クロム合金層を有する基板を得るための、三価クロムイオンに基づく堆積方法を提供することであった。さらに、この方法は、これらの基板が、堆積浴の長時間の使用中、好ましくは堆積浴の全寿命の間、この良好で許容可能な平均表面粗さを示すことを保証しなければならない。したがって、得られる表面品質は、可能な限り一定である必要がある。さらに、この方法は、「制御が容易」な方法であるべきであり、好ましくは環境的により許容可能である。
【0011】
第2の課題は、環境的により許容可能であり、かつ(i)前記良好で許容可能な平均表面粗さ、および(ii)優れた硬度および耐摩耗性を有する機能性クロム層または機能性クロム合金層を可能にする、三価クロムイオンを含有する水性堆積浴を提供することであった。したがって、このような水性堆積浴は、上述の望ましい方法に適用できるはずである。
【0012】
発明の概要
第1の課題は、少なくとも1つの基板上にクロム層またはクロム合金層を堆積するための制御された方法によって解決され、前記方法は、以下の工程
(a)水性堆積浴を供給する工程であって、
前記堆積浴は、
- 三価クロムイオン、
- 臭化物イオン、
- 前記堆積浴の総体積を基準として、0モル/L~1モル/Lの総量でアルカリ金属カチオン
を含み、
前記浴は、
- 4.1~7.0の範囲内の目標pH
を有する、工程、
(b)前記少なくとも1つの基板および少なくとも1つのアノードを供給する工程、
(c)前記少なくとも1つの基板を前記水性堆積浴に浸漬し、直流電流を印加して、前記クロム層またはクロム合金層を前記基板上に堆積する工程であって、前記基板はカソードであり、
ここで、工程(c)の間または後に、前記堆積浴のpHは前記目標pHよりも低い、工程、
(d)NH4OHおよび/またはNH3を、工程(c)の間または後に、前記堆積浴に添加し、前記堆積浴の前記目標pHを回復させる工程
を含む。
【0013】
第2の課題は、クロム層またはクロム合金層を堆積させるための水性堆積浴によって解決され、前記浴は、
(i)前記堆積浴の総体積を基準として、17g/L~30g/Lの範囲の総量の三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の有機錯化合物、
(iii)アンモニウムイオン、
(iv)臭化物である、ハロゲン化物イオンの少なくとも1つの種、
(v)前記堆積浴の総体積を基準として、0モル/L~1モル/Lの総量のアルカリ金属カチオン
を含み、
ここで
- 前記三価クロムイオンは、可溶性の三価クロムイオン含有供給源由来のものであり、前記供給源は、1リットルの水性堆積浴あたり100g未満の総重量で利用され、前記供給源は、利用される供給源の総重量を基準として、1重量%以下の総量でアルカリ金属カチオンを含み、
- 前記浴のpHは、4.1~7.0の範囲であり、
- 前記浴は、+6未満の酸化数を有する硫黄原子を有する硫黄含有化合物を含有せず、
- 前記浴は、ホウ素含有化合物を含有しない。
【0014】
図面の簡単な説明
図1には、プロットで構成される実施例1のグラフ表示が示されており、プロットは、y軸に平均表面粗さ(R
a)をμmで示し、x軸に各堆積浴サンプルの総体積を基準とした、アルカリ金属カチオンの総量(ナトリウムカチオンの総量としてg/Lで表す)を示す。各バー((i)~(v))は試験片を表す。さらなる詳細は、以下のテキストの「実施例」のセクションに記載されている。
図2には、プロットで構成される実施例2のグラフ表示が示されており、プロットは、y軸に平均表面粗さ(R
a)をμmで示し、x軸に水性堆積浴の使用量をAh/Lで示す。プロットは、AおよびBの2つのセクションに分かれている。セクションAは、本発明による方法(NH
4OHの追加)を表し、セクションBは、本発明による方法(NaOHの追加)を表す。セクションAおよびBは、約180Ah/L~230Ah/Lの間隔で中断される。その間に、水酸化物の補充が、NH
4OHからNaOHに変更され、ダミーめっきが一定時間行われた。さらなる詳細については、以下のテキストの「実施例」のセクションの実施例2を参照されたい。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の文脈において、用語「少なくとも1つ」は、「1つ、2つ、3つ、または4つ以上」を意味する(かつ交換可能である)。さらに、「三価クロム」とは、酸化数+3のクロムを指す。用語「三価クロムイオン」は、遊離または錯化した形のCr3+イオンを指す。同様に、「六価クロム」とは、酸化数が+6のクロム、およびイオン含有六価クロムを含む関連化合物を指す。
【0016】
本発明の方法は、工程(a)および(b)を含み、ここで、順序は(a)であり、続いて(b)であるか、またはその逆である。工程(c)は、工程(a)および(b)の双方が行われた後に行われる。
【0017】
本発明は、(i)アルカリ金属カチオンの総量が比較的少ない水性堆積浴(例えば、以下のテキストに記載されるような本発明による水性堆積浴、または少なくとも、堆積浴の総体積を基準として、1モル/L以下のアルカリ金属カチオンの総量を含有する水性堆積浴)を用いて本発明の方法を実施する、および(ii)堆積浴の使用の間、好ましくは堆積浴の全寿命の間、この比較的少量のアルカリ金属カチオンの総量を維持するという発見に依拠する。
【0018】
このような水性堆積浴の寿命の間に、通常、大量の化学物質が浴に加えられ、潜在的に堆積浴を汚染する可能性がある。機能性クロム層の堆積方法におけるアルカリ金属カチオン汚染の第1の主要な原因は、水酸化物の供給源である。対応する水性堆積浴の操作の間、pHは、通常、低下し、しばしばアルカリ金属カチオンを含有する水酸化物を添加することにより非常に頻繁に回復する。
【0019】
さらに、堆積中に三価クロムイオンが消費され、前記イオンは補充されなければならない。多くの場合、これらの供給源は大量のアルカリ金属カチオンを含むため、これはアルカリ金属カチオン汚染の第2の主要な原因である。
【0020】
したがって、堆積浴の全体積を基準として、0モル/L~最大1モル/Lの範囲の水性堆積浴中のアルカリ金属カチオンの総量を維持するために、少量のアルカリ金属カチオンを含有するか、またはアルカリ金属カチオンを全く含有しない可溶性の三価クロムイオン含有供給源および水酸化物供給源を選択することが重要である。
【0021】
基本的に、浴中のアルカリ金属カチオンの総量が増加すると、それに応じて堆積したクロム層またはクロム合金層の平均表面粗さが増加すると想定されている(以下の実験を参照のこと)。堆積浴中のアルカリ金属カチオンの総量は、工程(c)で堆積したクロム層またはクロム合金層の平均表面粗さに重大な影響を及ぼすようである。
【0022】
本発明者らの実験では、堆積浴中のアルカリ金属カチオンの最大許容総量は、堆積浴の総体積を基準として1モル/Lであることが示されている。堆積浴中のアルカリ金属カチオンの総量が、堆積浴の総体積を基準として、0モル/L~0.8モル/Lの範囲、好ましくは0モル/L~0.6モル/Lの範囲、より好ましくは0モル/L~0.4モル/Lの範囲、さらにより好ましくは0モル/L~0.2モル/Lの範囲である、本発明の方法が好ましい。最も好ましくは、堆積浴は、アルカリ金属カチオンを0モル/L~0.08モル/Lの総量で含有するか、よくてもアルカリ金属カチオンを全く含有しない。本発明者らの実験によれば、堆積浴中のアルカリ金属カチオンの総量が少ないほど、平均表面粗さは、それぞれの堆積浴の長期使用の間により確実に一定になる。
【0023】
本発明の文脈において、「一定」は、すべての基板が同一の平均表面粗さを有することを必ずしも意味しない。これはむしろ、平均表面粗さは、共通の仕上げ工程に適切でありかつ望ましい合理的な範囲内、例えば、0.2μm~0.6μmの間の範囲内のままであることを示す(実施例2を参照し、
図2を比較のこと)。
【0024】
用語「アルカリ金属カチオンの総量」は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、およびフランシウムの金属カチオンの個々の最大量の合計を意味する。通常、ルビジウム、フランシウム、およびセシウムイオンは、水性堆積浴では使用されない。したがって、ほとんどの場合、アルカリ金属カチオンの総量は、リチウム、ナトリウムおよびカリウム、主にナトリウムおよびカリウムの金属カチオンを含む。
【0025】
本発明者らの実験は、本発明の方法により、本発明の方法の工程(c)の前の基板の初期平均表面粗さに対して非常に滑らかなクロム層およびクロム合金層が得られることを示した。換言すれば、本発明の方法は、基板の平均表面粗さを望ましくない程度まで増加させない。さらに、本発明の方法では、この効果は、方法の開始時に(または水性堆積浴が新たに準備された後に)、いくつかの基板に対して達成されるだけではなく、堆積浴の長期使用を通じても得られた。この効果は、アルカリ金属カチオンの総量が、1モル/Lを超えないか、好ましくは1モル/Lをはるかに下回るように注意深く制御される場合、および目標pHがNH4OHおよび/またはNH3の添加によって回復される場合に確実に達成され得る。このような制御された方法により、一定の表面品質での連続操作が可能になる。
【0026】
したがって、本発明の方法は、連続的な方法であることが好ましい。この意味は、
A:工程(a)~(d)が、継続的に繰り返される、かつ/または
B:工程(c)が、工程(d)が行われる前に、別の基板で少なくとも1回繰り返される
ことを意味する。
【0027】
シナリオ「B」は、好ましくは、工程(c)が、工程(d)が行われる前に、他の基板で数回繰り返されることを含む。工程(d)が完了した後、工程(d)の後に得られた堆積浴は、工程(a)で供給され、連続的な方法が進行する。これはまた、工程(d)の後に得られた水性堆積浴が、1モル/Lのアルカリ金属カチオンの最大許容総量を超えないか、好ましくは、好ましいと上記で定義された上限の最大許容総量を超えないことを含む。
【0028】
工程(a)で供給される水性堆積浴が、好ましくは1リットルあたり少なくとも100Ah、好ましくは1リットルあたり少なくとも150Ah、より好ましくは1リットルあたり少なくとも200Ah、最も好ましくは1リットルあたり少なくとも300Ahの水性堆積浴の使用のために、本発明の方法で繰り返し利用される、本発明の方法が好ましい。
【0029】
アルカリ金属カチオンの総量が1モル/Lを大幅に超える場合、多くの場合、平均表面粗さは、工程(c)の前の初期表面粗さに対して望ましくない範囲に達し、表面品質は、それぞれの堆積浴の長期使用の間に継続的に低下する。
【0030】
本発明の方法は、特に、(20℃で)4.1~7.0の範囲内の目標pHを有する水性堆積浴のために設計されている。この方法は、pHが4.1を大幅に下回ると望ましくない沈殿が生じるため、pHが4.1を大幅に下回ることだけを除いて、工程(a)で供給される同一の堆積浴には適合しない。さらに、pHが4.1を大幅に下回るか、7を大幅に上回る場合、十分な耐摩耗性および硬度を有する機能性クロム層またはクロム合金層は得られない。
【0031】
目標pHは、4.5~6.5の範囲内であり、好ましくは、5.0~6.0の範囲内であり、最も好ましくは、5.3~5.9の範囲内である、本発明の方法が好ましい。機能性クロム層およびクロム合金層に関する最適な結果は、5.0~6.0の範囲内の目標pHで得られ;最良の結果は、5.3~5.9の範囲内の目標pHで得られた。このような目標pHを有する水性堆積浴から得られた機能性クロム層および機能性クロム合金層は、良好なまたはさらに優れた耐摩耗性および硬度を示す。上記および下記のpH範囲および値は、20℃の温度も基準にしている。本発明者らの実験によれば、工程(c)の後に得られた少なくとも1つの基板は、少なくとも700HV(0.05)のビッカース硬さ(50gの“荷重”で測定)を示す。耐摩耗性は、六価クロムベースの堆積方法から得られる耐摩耗性として比較的良好である。
【0032】
本発明の方法の工程(d)では、工程(c)の間または後の堆積浴のpHは、通常、工程(c)の前より低いので、NH4OHおよび/またはNH3を加えることにより目標pHが回復(再確立)される。各工程(c)の後、堆積浴のpHは、工程(c)の前よりもわずかに低くなる場合があるが、各工程(c)の間または後に工程(d)で目標pHを必ずしも回復する必要はない。当業者は、堆積浴のpHが工程(c)の間または後に所定の許容範囲外になった場合、目標pHを回復しなければならないことを知っている。本発明の方法では、工程(c)の間または後に、堆積浴のpHは、pH4.1未満にならないか、またはpH7.0を超える。好ましくは、工程(c)の間または後に、pHは、それらが適用される場合、上記の好ましいpH範囲を下回ったり、上回ったりしない。
【0033】
好ましくは、本発明の方法の工程(a)における目標pHは、±(プラス/マイナス)0.3pH単位の許容範囲を含み(すなわち、許容範囲は、目標pHの周りで-0.3~+0.3pH単位であり、かつ間にあるすべての値が含まれる)、好ましくは、許容範囲は、±(プラス/マイナス)0.2pH単位である。これは、最も好ましくは、5.0~6.0および5.3~5.9の上記の好ましい範囲に適用される。許容範囲によって、目標pHは、4.1~7.0の定義された最大pH範囲を下回るまたは上回ることにならないか、適用される場合、他の前述の好ましいpH範囲を下回るまたは上回ることにならない。このような目標pHが工程(d)で回復される場合、許容範囲内のpH値を回復することが好ましい。例えば、工程(a)では、目標pHは、6.4であり、かつ±0.2pH単位の許容範囲を含むため、目標pHの範囲は6.2~6.6になる。工程(d)では、許容範囲内の任意のpH、例えば、pH6.3または6.45等を取得することにより、目標pHが回復される。したがって、工程(a)の目標pHが±0.3pH単位、好ましくは±0.2pH単位の許容範囲を含み、工程(d)で目標pHが、許容範囲内のpH値を回復することによって回復される、本発明の方法が好ましい。最も好ましくは、単一の目標pH(好ましくは、上記の許容範囲を含む)が定義されており、したがって、水性堆積浴の寿命全体にわたって回復される。換言すれば、本発明の方法が連続的な方法として実施される場合、単一の目標pH(好ましくは上記の許容範囲を含む)がすべての工程(a)に対して定義され、複数の工程(d)で回復される。
【0034】
他の適用では、工程(a)の目標pH(好ましくは、上記の許容範囲の1つを有する)は、5.0~6.0の好ましいpH範囲内(好ましくは、5.3~5.9のpH範囲内)であることが好ましく、工程(d)で、目標pHは、5.0~6.0のpH範囲内のpH(好ましくは5.3~5.9のpH範囲内)に回復される。
【0035】
工程(d)では、NH4OHおよび/またはNH3が添加される。好ましくは、他の水酸化物は、さらに添加されない。本発明の方法では、NH4OHおよびNH3が、工程(d)で利用される唯一の化合物である。
【0036】
本発明の方法では、水性堆積浴中の前記三価クロムイオンは、可溶性の三価クロムイオン含有供給源、通常、前記三価クロムイオンを含む水溶性塩由来のものである。好ましくは、可溶性の三価クロムイオン含有供給源は、前記供給源の総重量を基準として、1重量%以下の総量でアルカリ金属カチオンを含む。最も好ましくは、このような供給源は、方法が継続的に操作される場合、三価クロムイオンを補充するために利用される。前記三価クロムイオンを含む好ましい水溶性塩は、アルカリ金属を含まない三価硫酸クロムまたはアルカリ金属を含まない三価クロム塩化物である。したがって、場合により、本発明の方法で利用される水性堆積浴は、硫酸イオンを、好ましくは堆積浴の総体積を基準として50g/L~250g/Lの範囲の総量で含有することが好ましい。
【0037】
水溶性三価クロムイオン含有供給源が、特に、水性堆積浴が新たに準備された場合に、水性堆積浴1リットルあたり100g未満の総重量で水性堆積浴に利用される、本発明の方法が好ましい。通常、三価クロムイオンが水性堆積浴の使用中に補充される場合、水性堆積浴1リットルあたり100gを大幅に下回る量の供給源が好ましくは使用される。
【0038】
堆積浴中の三価クロムイオンの総量が、堆積浴の総体積を基準として、10g/L~30g/Lの範囲、好ましくは、17g/L~24g/Lの範囲である、本発明の方法が好ましい。総量が10g/Lを大幅に下回る場合、多くの場合、不十分な堆積が観察され、堆積したクロム層またはクロム合金層は、通常、低品質である。総量が30g/Lを大幅に上回る場合、堆積浴はもはや安定ではなく、これには望ましくない沈殿物の形成が含まれる。
【0039】
本発明の方法では、水性堆積浴は、好ましくは、堆積浴の総体積を基準として、少なくとも0.06モル/L、好ましくは少なくとも0.1モル/L、より好ましくは少なくとも0.15モル/Lの総量で臭化物イオンを含む。臭化物イオンは、陽極で形成された六価クロムの形成を効果的に抑制する。
【0040】
本発明の方法では、水性堆積浴は、好ましくは、少なくとも1種の有機錯化合物およびアンモニウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種のさらなる化合物を含有する。好ましい有機錯化合物は、カルボン酸有機酸およびその塩、好ましくは脂肪族モノカルボン酸有機酸およびその塩である。より好ましくは、前述の有機錯化合物(およびその好ましい変異体)は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~5個の炭素原子、さらにより好ましくは1~3個の炭素原子を有する。錯化合物は、主に、水性堆積浴中で三価クロムイオンと錯体を形成し、浴安定性を高める。好ましくは、三価クロムイオンと有機錯化合物とのモル比は、1:0.5~1:10の範囲である。アンモニウムイオンは、本発明の方法の工程(d)で添加されるNH4OHおよびNH3によってのみ供給されるか、または好ましくは工程(d)でさらに添加される。
【0041】
水性堆積浴が、+6未満の酸化数を有する硫黄原子を有する硫黄含有化合物およびホウ素含有化合物を含有しない、本発明の方法が好ましい。
【0042】
用語「含有しない」は、例えば、前記硫黄含有化合物およびホウ素含有化合物が、意図的に水性堆積浴に添加されないことを意味する。換言すれば、水性堆積浴は、このような化合物を実質的に含まない。これは、このような化合物が、他の化学物質の不純物として引き込まれることを除外しない(好ましくは、それぞれ堆積浴の総体積を基準として、10mg/L未満の総量の前記硫黄含有化合物および10mg/L未満の総量の前記ホウ素含有化合物)。しかしながら、通常、このような化合物の総量は、検出範囲未満であり、したがって、本発明の方法の工程(c)の間は重要ではない。
【0043】
前記硫黄含有化合物の不在は、それぞれ、アモルファスクロム層およびクロム合金層をもたらすと想定される。したがって、工程(c)で堆積された層がアモルファスであり、X線回折により測定される、本発明の方法が好ましい。これは、本発明の方法の工程(c)の間に、および堆積層の原子構造に影響を与えるさらなる堆積後表面処理の前に、得られたクロム層またはクロム合金層に適用され、これをアモルファスから結晶にまたは部分的に結晶に変化させる。さらに、このような硫黄含有化合物は、工程(c)で堆積した機能性クロム層または機能性クロム合金層の硬度に悪影響を与えると想定されている。
【0044】
本発明の方法で利用される水性堆積浴では、ホウ素含有化合物は、環境的に問題があるため望ましくない。ホウ素含有化合物を含む場合、排水の処理には費用と時間がかかる。さらに、よく機能する緩衝化合物として知られているホウ酸は、典型的には溶解性が低く、したがって沈殿物を形成する傾向がある。このような沈殿物は、加熱すると可溶化され得るが、この時間中にそれぞれの水性堆積浴を利用することはできない。このような沈殿物が望ましくない表面粗さを促進するという重大なリスクがある。したがって、本発明の方法で利用される水性堆積浴は、好ましくはホウ素含有化合物を含有しない。驚くべきことに、本発明の方法で利用される水性堆積浴は、特に上記の好ましいpH範囲で、ホウ素含有化合物なしで非常に良好に機能する。
【0045】
本発明の方法では、六価クロムは、水性堆積浴に意図的に添加されない。したがって、水性堆積浴は、陽極的に形成され得るごくわずかな量を除いて、六価クロムを含有しない。
【0046】
本発明の方法で利用される水性堆積浴は、望ましくない複数の金属カチオンに敏感である。したがって、水性堆積浴が、それぞれ独立して、堆積浴の全体積を基準として、0mg/L~40mg/Lの総量で、好ましくはそれぞれ独立して、0mg/L~20mg/Lの総量で、最も好ましくはそれぞれ独立して0mg/L~10mg/Lの総量で、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、および鉄イオンを含有する、本発明の方法が好ましい。これは、好ましくは、前記金属カチオンを含む化合物も含む。最も好ましくは、上記の金属カチオンは全く存在しない、すなわち、それらは、それぞれ独立してゼロmg/Lの総量で存在する。しかしながら、本発明者らの実験結果では、これらの金属カチオンは、わずかな量しか許容できないことが示されている。これらのわずかな量が存在する場合、これらの量は、少なくとも1つの基板上にクロム合金層を形成するための合金化金属として機能するには不十分である。上記の総量が大幅に超える場合、本発明の方法の工程(c)で堆積されたクロム層およびクロム合金層は、望ましくない変色を示す。さらにより好ましくは、本発明の方法で利用される水性堆積浴では、クロムが唯一の側基元素である。
【0047】
さらに、水性堆積浴がグリシン、アルミニウムイオン、およびスズイオンを含まない本発明の方法が好ましい。これにより、機能性クロム層およびクロム合金層は、それぞれ、テキスト全体で概説されている所望の属性で保証される。本発明者らの実験では、多くの場合、アルミニウムおよびスズイオン、特にアルミニウムイオンが、工程(c)での堆積を著しく妨害し、さらには阻害することが示されている。
【0048】
本発明の方法の工程(b)では、少なくとも1つの基板および少なくとも1つのアノードが供給され、ここで、少なくとも1つの基板は、カソードである。好ましくは、本発明の方法では複数の基板が同時に利用される。
【0049】
工程(b)で供給される少なくとも1つの基板が、金属または金属合金基板、好ましくは銅、鉄、ニッケル、およびアルミニウムからなる群から選択される1種以上の金属を独立して含む金属または金属合金基板、より好ましくは鉄を含む金属または金属合金基板である、本発明の方法が好ましい。最も好ましくは、少なくとも1つの基板は、鉄を含む金属合金基板である鋼基板である。多くの技術的用途では、滑らかで耐摩耗性の機能性クロム層またはクロム合金層を備えた鋼基板が必要である。これは、特に、本発明の方法により達成することができる。
【0050】
場合により、少なくとも1つの基板、好ましくは前記金属基板、最も好ましくは前記鋼基板が、予備研削および/または予備研磨された表面を示さない、本発明の方法が好ましい。換言すれば、基板の表面は、本発明の方法の工程(c)の前に、0.2μm以上の初期平均表面粗さRa、例えば0.25μm以上、またはさらに0.3μm以上の平均表面粗さを示す。このような場合、本発明の方法は、有利には、(i)工程(c)が完了した後、基板の平均表面粗さを望ましくない程度まで増加させず、かつ(ii)水性堆積浴の長期使用にわたって常に低い平均表面粗さを保証する。
【0051】
しかしながら、他の場合には、表面が既に予備研削および/または予備研磨されていることが好ましい。このような場合、初期平均表面粗さRaは、本発明の方法の工程(c)の前に、好ましくは0.2μm未満、例えば0.17μm以下である。このような場合、本発明の方法は、工程(c)が完了した後、基板の平均表面粗さを望ましくない程度まで増加させず、かつ(ii)水性堆積浴の長期使用にわたって常に低い平均表面粗さを保証する。
【0052】
場合により、少なくとも1つの基板は、好ましくは被覆された基板、より好ましくは被覆された金属基板である(好ましい金属基板については、上記のテキストを参照のこと)。コーティングは、好ましくは金属または金属合金層、好ましくはニッケル層またはニッケル合金層、最も好ましくは半光沢ニッケル層である。特に好ましいのは、ニッケル層またはニッケル合金層で被覆された鋼基板である。しかしながら、好ましくは、他のコーティングが代替的または追加的に存在する。多くの場合、このようなコーティングは、このようなコーティングのない金属基板と比較して、耐食性を大幅に向上させる。しかしながら、場合により、基板は、腐食不活性環境(例えば、油浴内)のために腐食の影響を受けにくい。このような場合、コーティング、好ましくはニッケル層またはニッケル合金層は、必ずしも必要ではない。
【0053】
したがって、
工程(c)で、クロム層またはクロム合金層を、少なくとも1つの基板に直接堆積させるか、または
工程(b)で定義された少なくとも1つの基板が、ニッケル層またはニッケル合金層をさらに含み、工程(c)で、クロム層またはクロム合金層を、その上に堆積させる、本発明の方法が好ましい。
【0054】
少なくとも1つのアノードが、グラファイトアノードおよび混合金属酸化物アノード(MMO)からなる群から独立して選択され、好ましくは、グラファイトアノードおよびチタン上の混合金属酸化物のアノードからなる群から独立して選択される、本発明の方法が好ましい。このようなアノードは、本発明の堆積浴において十分に耐性があることが示されている。
【0055】
好ましくは、少なくとも1つのアノードは、鉛もクロムも含有しない。
【0056】
本発明の方法の工程(c)では、クロム層またはクロム合金層のいずれかが堆積される。ほとんどの場合、本発明の方法の工程(c)で堆積された層が、クロム合金層である、本発明の方法が好ましい。好ましい合金元素は、炭素および酸素である。炭素は、典型的には、水性堆積浴に通常存在する有機化合物のために存在する。好ましくは、クロム合金層は、硫黄、ニッケル、銅、アルミニウム、スズおよび鉄からなる群から選択される要素の1種、2種以上またはすべてを含まない。より好ましくは、唯一の合金元素は、炭素および/または酸素であり、最も好ましくは炭素および酸素である。好ましくは、クロム合金層は、合金層の総重量を基準として、90重量パーセント以上、より好ましくは95重量パーセント以上のクロムを含有する。
【0057】
直流電流の陰極電流密度が、5A/dm2~100A/dm2の範囲、好ましくは10A/dm2~70A/dm2の範囲、より好ましくは20A/dm2~60A/dm2の範囲である、本発明の方法が好ましい。
【0058】
電流は、直流(DC)であり、より好ましくは、工程(c)の間に中断のない直流である。直流は、好ましくはパルス化されていない(非パルスDC)。さらに、直流は、好ましくは逆パルスを含まない。
【0059】
既に上記されたように、本発明の方法では、工程(c)で得られる層は、好ましくは機能性クロム層または機能性クロム合金層(しばしば硬質クロム層または硬質クロム合金層とも呼ばれる)であり、装飾的なクロム層またはクロム合金層ではない。したがって、工程(c)で堆積されたクロム層またはクロム合金層の平均層厚さが、1.0μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上、さらにより好ましくは5μm以上であり、最も好ましくは平均層厚さが5μm~200μmの範囲、好ましくは5μm~150μmの範囲である、本発明の方法が好ましい。これらは、機能性クロム層またはクロム合金層の典型的な平均層厚さである。このような厚さは、通常、必要とされる必要な耐摩耗性を供給するために必要である。場合により、下限は、好ましくは、具体的に10μm、15μmまたは20μmを含む。
【0060】
水性堆積浴が、工程(c)で20℃~90℃の範囲、好ましくは30℃~70℃の範囲、より好ましくは40℃~60℃の範囲、最も好ましくは45℃~60℃の範囲の温度を有する、本発明の方法が好ましい。温度が90℃を大幅に超える場合、望ましくない蒸発が発生し、これが浴成分の濃度に悪影響を及ぼす(さらに沈殿の危険性まで)。さらに、六価クロムの望ましくない陽極形成は、大幅に抑制されない。温度が20℃を大幅に下回る場合、堆積は不十分である。40℃を大幅に下回る温度は、概して許容されているが、いくつかの場合、特に20℃と35℃との間では、堆積品質および堆積の程度は十分ではない。多くの場合、クロム層およびクロム合金層は望ましくないほど鈍くなり、前記層の付着および堆積速度は低く、再現性は場合によっては困難である。しかしながら、最適かつ改善された結果は、少なくとも40℃の温度、好ましくは40℃~90℃の範囲、より好ましくは40℃~70℃の範囲、さらにより好ましくは40℃~60℃の範囲の温度で得られる。少なくとも45℃の温度、好ましくは45℃~90℃の範囲、より好ましくは45℃~70℃の範囲、さらにより好ましくは45℃~60℃の範囲の温度が最も好ましい。
【0061】
工程(c)の間、水性堆積浴は、好ましくは撹拌により、好ましくは連続的にかき混ぜられる。
【0062】
工程(c)で堆積された層が、少なくとも20μmの平均層厚さに対して、0.6μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.4μm以下の平均表面粗さRaを有する、本発明の方法が好ましい。これは、最も好ましくは鋼基板(好ましくは、本テキスト全体に記載されている鋼基板)に適用される。このような平均層厚さを示すクロム層またはクロム合金層を有する基板は、非常に望まれており、一般的な仕上げ工程および/または超仕上げ工程に容易に供することができる。
【0063】
多くの場合、工程(c)の後に得られた基板が250℃以下の温度で熱処理にかけられる、本発明の方法が好ましい。このような加熱は、通常、機能性クロム層またはクロム合金層を硬化させるために適用される。しかしながら、工程(c)の後に、500℃以上、好ましくは400℃以上、さらにより好ましくは300℃以上、最も好ましくは260℃以上の温度での熱処理工程を含まない、本発明の方法が好ましい。
【0064】
本発明の方法では、三価クロムイオンが少なくとも1つのアノードと接触するように、少なくとも1つの基板および少なくとも1つのアノードが水性堆積浴中に存在することが好ましい。このような好ましい方法では、三価クロムイオンをアノードから分離するための、膜または隔膜を完全に回避することができる(すなわち、追加の区画は形成されない)。換言すれば、本発明の方法では、堆積浴中の三価クロムイオンをアノードから分離するために分離手段は利用されない。これにより、コスト、メンテナンスの労力が削減され、本発明の方法の簡単な操作が可能になる。
【0065】
既に上記されたように、本発明は、水性堆積浴にも言及している。この堆積浴に関して、本発明の方法に関する前述の特徴(特に、前記方法で利用される水性堆積浴に適用される特徴を含む)は、好ましくは本発明の水性堆積浴に同様に適用され、逆もまた同様である。より好ましくは、本発明による水性堆積浴は、本発明の上述の方法で利用される。
【0066】
堆積浴中の三価クロムイオンの総量および錯化合物とのモル比に関するさらなる詳細については、本発明の方法に関する上記のテキストを参照されたい。
【0067】
少なくとも1種の有機錯化合物が、カルボン酸有機酸およびその塩の群から選択され、好ましくは脂肪族モノカルボン酸有機酸およびその塩の群から選択される、本発明による水性堆積浴が好ましい。より好ましくは、前述の有機錯化合物(およびその好ましい変異体)は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~5個の炭素原子を有し、さらにより好ましくは1~3個の炭素原子を有する。
【0068】
三価クロムイオンの総重量およびアンモニウムイオンの総重量の合計が、水性堆積浴中のすべてのカチオンの総重量の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上に相当する、本発明による水性堆積浴が好ましい。したがって、実質的に堆積浴中のカチオンの全量は、前記三価クロムイオンおよび前記アンモニウムイオンによって形成される。
【0069】
本発明による水性堆積浴では、ハロゲン化物イオンの少なくとも1種は臭化物である。好ましくは、堆積浴中の臭化物イオンの総量は、堆積浴の総体積を基準として、少なくとも0.06モル/L、好ましくは少なくとも0.1モル/L、より好ましくは少なくとも0.15モル/Lである。
【0070】
水性堆積浴中のアルカリ金属カチオンの総量が、0モル/L~0.5モル/Lの範囲、好ましくは0モル/L~0.3モル/Lの範囲、より好ましくは0モル/L~0.1モル/Lの範囲、最も好ましくは0モル/L~0.08モル/Lの範囲である、本発明による水性堆積浴が好ましい。
【0071】
鉄イオン、NH4
+およびNH3以外の窒素含有化合物、および前記三価クロムイオンを還元するための還元剤を含まない本発明による水性堆積浴が好ましい。
【0072】
可溶性の三価クロムイオン含有供給源が、硫酸クロム、好ましくは酸性硫酸クロム、より好ましくは一般式Cr2(SO4)3および分子量392g/モルの硫酸クロムを含むか、それらである、本発明による水性堆積浴が好ましい。この硫酸クロムは、好ましくは1リットルの水性堆積浴あたり100gを大幅に下回る総重量で利用でき、さらに通常、前記利用した硫酸クロムの総重量を基準として、1重量%以下の総量でアルカリ金属カチオンを含む。本発明による水性堆積浴で利用される可溶性の三価クロムイオン含有供給源の総重量を、1リットルあたり100グラム未満に保つことが望ましい。これにより、アルカリ金属カチオンだけでなく、他の望ましくないカチオン(上記のテキストを参照)およびクロムの対イオンの汚染のリスクが低減される。本発明の方法および本発明の水性堆積浴は、工業用途および長期使用(すなわち、数週間および数ヶ月にわたる使用)のために特に設計されていることに留意しなければならない。このような長期使用の間に、水性堆積浴中の3価クロムイオンが数回補充され、可溶性の3価クロムイオン含有供給源に含有されるわずかと思われる汚染が、時間とともに著しく蓄積する。このような効果は、利用される可溶性の三価クロムイオン含有供給源の量を最適化することにより、少なくとも最小限に抑えることができる。
【0073】
好ましくは、可溶性の三価クロムイオン含有供給源は、その溶解した形で水溶液として本発明の水性堆積浴で利用される。この形では、可溶性の三価クロムイオン含有供給源は、結晶水を含有しない(その固体の形で供給源に存在する場合)。したがって、利用されている可溶性の三価クロムイオン含有供給源は、固体ではないことが好ましい(すなわち、補充するために使用される場合、その固体の形で利用されない)。場合により、供給源が固体である場合、これは平均表面粗さに望ましくない影響を与える。
【0074】
したがって、供給源が、水性堆積浴1リットルあたり70g~99.9gの範囲、好ましくは70g~99gの範囲、より好ましくは70g~95gの範囲、最も好ましくは70g~90gの範囲の総重量で利用される、本発明による水性堆積浴が好ましい。
【0075】
浴のpHが、4.5~6.5の範囲、好ましくは5.0~6.0の範囲、最も好ましくは5.3~5.9の範囲である、本発明による水性堆積浴が好ましい。pHに関するさらなる詳細については、本発明の方法に関する上記のテキストを参照されたい。
【0076】
以下の非限定的な実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】
図1は、プロットで構成される実施例1のグラフ表示を示す。
【
図2】
図2は、プロットで構成される実施例2のグラフ表示を示す。
【0078】
実施例
実施例1
第1の工程で、5つの堆積浴サンプル((I)、(II)、(III)、(IV)および(V);各約1L)を調製し、各サンプルは同様に典型的な量の10g/L~30g/Lの三価クロムイオン、50g/L~250g/Lの硫酸イオン、少なくとも1種の有機錯化合物(脂肪族モノカルボン酸有機酸)、アンモニウムイオン、および臭化物イオンを含有する。ホウ素含有化合物は、使用されていない。
【0079】
各堆積浴サンプルにおいて、可溶性の三価クロムイオン含有供給源(溶解したCr2(SO4)3;分子量:392g/モル)を使用した。前記供給源の総量は、それぞれ、水性堆積浴サンプル1リットルあたり約75gであり、これは堆積浴サンプル1リットルあたり100gを大幅に下回っていた。さらに、前記供給源は、アルカリ金属カチオンを実質的に含まなかった。
【0080】
各サンプルのpHは、5.3~5.9(20℃)の範囲であり、かつアルカリ金属カチオンを含まない化合物で調整した。しかしながら、各堆積浴サンプルは、第1表によれば、ナトリウムイオン(モル質量23g/モル)で表されるアルカリ金属カチオンの総量が異なっていた。このナトリウムイオンの量を、対応する堆積浴サンプルに意図的に添加した。総量は、対応する堆積浴サンプルの総体積に基づく。堆積浴サンプル(I)にのみ、ナトリウムイオンを意図的に添加しなかった。
【表1】
【0081】
堆積浴サンプル(I)および(II)は、本発明によるものであり、サンプル(III)、(IV)、および(V)は比較例である。
【0082】
第2の工程で、5つの試験片(予備研削および研磨表面を備えた直径10mmの軟鋼棒;初期Ra<0.2μm)を、半光沢ニッケル層(標準ニッケル堆積浴、Atotech、Mark 1900;陰極電流密度4A/dm2で10分間)で予備被覆し、ニッケル被覆試験片を得た。前記ニッケル堆積の後、ニッケル被覆試験片の平均表面粗さRaは、依然として<0.2μmであった。
【0083】
第3の工程で、上記ニッケル被覆試験片を、それぞれの堆積シナリオで上記の堆積浴サンプルにクロム堆積させ、最少量の炭素を含むクロム合金層を堆積させた。各シナリオでは、グラファイトアノードを用いて40A/dm
2のカソード電流密度で、50℃の温度で45分間堆積を行った。第3の工程の後、25μm~30μmの範囲の平均層厚さを有するクロム堆積試験片((i)、(ii)、(iii)、(iv)および(v))が得られ、第2表にまとめた平均表面粗さ(R
a)を示す(
図1も参照のこと)。
【表2】
【0084】
試験片(i)および(ii)を、1モル/Lを下回る総量のナトリウムイオンを含む堆積浴サンプルで処理したので、本発明の方法の利点が示される。試験片(i)は、アルカリ金属カチオン(ゼロg/Lナトリウムイオン)でまったく汚染されていない最も好ましい場合を表す。その結果、試験片(i)は、少なくとも、0.20μmを大きく下回る平均表面粗さを示し、これは最も望ましい結果の1つである。しかしながら、試験片(ii)も約0.2μmの優れた平均表面粗さを示す。第3の工程でのクロムの堆積は、試験片の初期の平均表面粗さを大幅に増加させなかったと結論付けることができる。
【0085】
試験片(iii)、(iv)および(v)を、1モル/Lを上回るアルカリ金属カチオンを含む堆積浴サンプルで処理したので、アルカリ金属カチオン含有化合物を利用する多くの一般的な三価クロム堆積法の欠点が示される。欠点は、平均表面粗さが大幅に増加することである。
【0086】
平均表面粗さは、棒の中央の4つの異なる位置で測定された各試験片についてであった。
【0087】
実施例1で強く示されるように、平均表面粗さは、アルカリ金属カチオンの総量の増加とともに増加し、したがって、水性堆積浴中のアルカリ金属カチオンの総量とそれぞれの基板の平均表面粗さとの関係を明確に示す。
【0088】
この関係は、アルカリ金属カチオンを含まない水酸化物を注意深く使用することにより、基板の平均表面粗さを制御するために、本発明の方法で有利に利用され得る。
【0089】
実施例2
第1の工程で、25Lの水性堆積浴を、(20℃で)5.3~5.9の範囲内で、±0.3pH単位の許容範囲を含む目標pHで供給した。アルカリ金属カチオンを含まない化合物でpHを調整した。浴はさらに、典型的な量の10g/L~30g/Lの三価クロムイオン、50g/L~250g/Lの硫酸イオン、少なくとも1種の有機錯化合物(脂肪族モノカルボン酸有機酸)、アンモニウムイオン、および臭化物イオンを含有していた(ホウ素含有化合物は使用されていない)。アルカリ金属カチオンの総量は、ほぼゼロであり、したがって、非常に好ましい0モル/L~0.2モル/Lの範囲内であった。水性堆積浴を準備するために、堆積浴1リットルあたり100gを大幅に下回る総量で、実質的にアルカリ金属カチオンを含まない、可溶性の三価クロムイオン含有供給源を利用した(これは通常、供給源の総重量を基準として1重量%以下の総量でアルカリ金属カチオンを含む供給源である)(詳細については実施例1を参照のこと)。
【0090】
第2の工程で、複数の試験片(直径10mmのニッケル被覆軟鋼棒;予備研削および予備研磨なし;初期Ra>0.2μm)を準備し、その後、実施例1に記載した通りにニッケル堆積を行った。実施例2の間に使用したアノードは、グラファイトアノードであった。
【0091】
第3の工程で、いくつかの試験片を、水性堆積浴に連続的に浸漬し、40A/dm2の陰極電流密度の直流電流(DC)を45分間印加した。堆積浴の温度は50℃であった。結果として、クロム合金層(クロムおよび最小量の炭素を含有する)を、これらの第1の試験片上に堆積させた。いくつかの試験片を処理した(すなわち、本発明の方法の工程(c)を、数回繰り返した)後に、堆積浴の目標pHは、目標pHに比べて低下したpH値を有していた。したがって、上述の許容範囲内のpH値を回復するために水酸化物の添加が必要であった。そのために、NH4OHを使用した。この手順を、堆積浴の使用量が約180Ah/Lに達するまで続けた。180Ah/Lに達するまで、12個の試験片を、本発明の方法に従って処理した。
【0092】
図2に、この手順を図で示し、セクションAとして示す。また、
図2に、12個の試験片のそれぞれの平均表面粗さ(R
a)も示す。ほとんどの試験片は、0.4μmの平均表面粗さを超えず;0.6μmの平均表面粗さを超えることはない。セクションAの間、平均表面粗さは、上記で定義した水性堆積浴から得られた機能性クロム合金層について、比較的低く、かつ一定であったと結論付けることができる。
【0093】
180Ah/L後(すなわち、12番目の試料を処理した後)、NH4OHの代わりにNaOHを添加することにより、目標pHを回復させた(本発明の方法によらない)。堆積浴をこの差に適合させるために、180Ah/L~230Ah/Lの間隔でダミーめっきに複数の試験片を利用した。
【0094】
図2、セクションB(230Ah/L~390Ah/L)は、比較例を表し、NaOHを使用した場合の平均表面粗さへの影響を示す。
【0095】
図2のセクションBに示されているように、平均表面粗さは、1μm以上まで急速に増加した。実施例2を、水性堆積浴の全使用量(約4ヶ月の使用量)390Ah/Lで終了し(または換言すれば、230Ah/Lで開始し、さらに160Ah/Lの後)、9個のさらなる試験片を、比較例の間に処理した。390Ah/L後に得られた最後の試験片は、1.6μmを上回る最大平均表面粗さを示した。
図2は、390Ah/Lを超えても平均表面粗さがさらに増加する可能性が高いことを強く示す。
【0096】
堆積したクロム合金層の平均層厚さは、各試験片(セクションAおよびB)で25μm~30μmの範囲であった。平均表面粗さを、実施例1に記載した通りに測定した。
【0097】
比較例は、セクションBの間の堆積が、本発明の意味において、すなわち、処理された基板の平均表面粗さに関して、もはや制御されないことを示す。さらに、水性堆積浴を長期間使用すると、平均表面粗さは、0.8μmを超えるなどの望ましくない値まで継続的に増加することを示す。このような増加は、本発明の方法によってうまく回避することができる。セクションAに基づくと、平均表面粗さは、少なくとも堆積浴の長期使用の間、さらには堆積浴の寿命全体までも、比較的一定のままであると合理的に結論付けることができる。さらに、セクションAでは、上記テキストに記載したような優れた硬度および耐摩耗性によって特徴付けられる、機能性クロム合金層が得られた。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積されたクロム合金層を含む鋼基板であって、
前記クロム合金層が、鋼基板上に直接堆積されているか、または、鋼基板がニッケルまたはニッケル合金層をさらに含み、クロム合金層がその上に堆積されており、
前記クロム合金層が、炭素と酸素を含み、
前記クロム合金層が、アルカリ金属カチオンを含まず、
前記クロム合金層が、5~200μmの範囲の平均層厚さを持ち、
前記クロム合金層が、少なくとも20μmの平均層厚さに対して、0.6μm以下の平均表面粗さR
a
を有する、鋼基板。
【請求項2】
少なくとも700HV
(0.05)
のビッカース硬さを有する、請求項1に記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項3】
前記クロム合金層がアモルファスであり、X線回折により測定される、請求項1または2に記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項4】
クロム合金層の平均層厚さが、5μm~150μmの範囲を有する、請求項1~3のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項5】
前記クロム合金層が、平均層厚さ10μm、15μm、または20μmの下限を有する、請求項1~4のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項6】
前記ニッケルまたはニッケル合金層が半光沢ニッケル層である、請求項1~5のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項7】
前記クロム合金層は、クロム合金層の総重量を基準として、90重量パーセント以上、より好ましくは95重量パーセント以上のクロムを含む、請求項1~6のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項8】
前記クロム合金層が、0.5μm以下、好ましくは0.4μm以下の平均表面粗さRaを有する、請求項1~7のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項9】
前記クロム合金層が硬質クロム合金層である、請求項1~8のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項10】
前記クロム合金層が三価のクロムイオンから堆積される、請求項1~9のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【請求項11】
前記鋼基板は、0.2μm未満、好ましくは0.17μm以下の初期平均表面粗さR
a
を有する、請求項1~10のいずれかに記載の堆積されたクロム合金層を含む鋼基板。
【外国語明細書】