(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142010
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】塀の施工方法及び塀
(51)【国際特許分類】
E04H 17/16 20060101AFI20220922BHJP
E04H 17/14 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
E04H17/16 104
E04H17/14 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041962
(22)【出願日】2021-03-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】521092982
【氏名又は名称】YDF株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴諭
【テーマコード(参考)】
2E142
【Fターム(参考)】
2E142AA01
2E142AA03
2E142AA05
2E142EE07
2E142HH01
2E142HH21
2E142JJ06
2E142NN01
(57)【要約】
【課題】効率の良い塀の施工方法を提供する。
【解決手段】塀の施工方法は、基礎3に発泡スチロール製のパネル1を立設する立設工程と、パネル3の第1領域にメッシュシート5を接着して補強する第1補強工程と、パネル1の第2領域に繊維入りモルタル6を塗布して補強する第2補強工程と、を含む。第1領域は、パネル1の平坦領域としての側面13,14の少なくとも一部を含み、第2領域はパネル1の非平坦領域である上面17を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎に発泡スチロール製のパネルを立設する立設工程と、
前記パネルの第1領域にメッシュシートを接着して補強する第1補強工程と、
前記パネルの第2領域に繊維入りモルタルを塗布して補強する第2補強工程と、を含み、
前記パネルは、平坦領域と、前記平坦領域と連続する非平坦領域と、を有し、
前記第1領域は、前記平坦領域の少なくとも一部を含み、
前記第2領域は、前記非平坦領域を含む塀の施工方法。
【請求項2】
前記メッシュシートは、樹脂混入モルタルにより前記パネルに接着され、
前記繊維入りモルタルは、前記樹脂混入モルタルに合成繊維を混入して得られたものである請求項1に記載の塀の施工方法。
【請求項3】
前記立設工程では、複数枚の前記パネルが前記基礎に立設され、隣接する前記パネル同士は前記樹脂混入モルタルにより接着される請求項2に記載の塀の施工方法。
【請求項4】
前記立設工程は、前記基礎に立設されて前記パネルの貫通孔に挿入された鉄筋にスペーサを装着させる装着工程と、前記貫通孔にセメントを充填させて硬化させる工程を含み、
前記スペーサは、前記鉄筋が挿通される円筒部と、前記円筒部から水平方向両側に延びる一対の支持部と、を有し、
前記スペーサは、前記支持部の先端が前記貫通孔の内周面に食い込むことにより前記パネルにより支持される請求項1~3の何れかに記載の塀の施工方法。
【請求項5】
基礎と、
前記基礎に立設された発泡スチロール製のパネルと、を備え、
前記パネルの第1領域にはメッシュシートが接着されており、
前記パネルの第2領域には繊維入りモルタルが塗布されており、
前記パネルは、平坦領域と、前記平坦領域と連続する非平坦領域と、を有し、
前記第1領域は、前記平坦領域の少なくとも一部を含み、前記第2領域は、前記非平坦領域を含む塀。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塀の施工方法及び塀に関し、特に発泡スチロール製パネルを用いた塀の施工方法及び塀に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリートブロック製の塀に代わるものとして、発泡スチロール製の塀が提案されている。発泡スチロール製の塀はコンクリートブロック製の塀と比較して軽量であることから、地震発生時に塀が倒壊した場合や自動車が塀に衝突した場合における人的被害を最小限にできる。
【0003】
一方、発泡スチロール製の塀はコンクリートブロック製の塀と比較して強度が弱いという問題があった。このような問題点を解決するものとして、発泡スチロール製のパネルにメッシュ状のシートを接着して補強する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、パネルの上面から側面の途中までを頂部シートで覆い、パネルの側面の途中から下端部までを下部シートで覆い、頂部シートと下部シートはパネルの途中部分において重ね合わされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の方法は、パネルが矩形平板形状を有する場合には問題ないが、パネルが曲面や段差,くり抜き部分等を有する特殊形状の場合には採用し難いという問題があった。例えば、パネル上面(塀の上面)が波型の場合、波型に合うようにシートに切り込みを入れ、シートの側縁同士を重ね合わせて接着する必要がある一方で、シートを三層以上に重ねると剥がれやすくなることから、シートの重なり具合の調整に手間取るといった問題があった。また、シートの接着に使用する接着剤は、合成樹脂とモルタルを混合して得られる樹脂混入モルタルであるが、このような樹脂混入モルタルは硬化が迅速に進むことから、シートの接着作業を迅速に行う必要があった。よって、シートの重なり具合の細かな調整に時間をかけて接着作業を進めることはできなかった。
【0006】
本発明は、より効率の良い塀の施工方法及び当該施工方法によって施工された塀の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る塀の施工方法は、基礎に発泡スチロール製のパネルを立設する立設工程と、前記パネルの第1領域にメッシュシートを接着して補強する第1補強工程と、前記パネルの第2領域に繊維入りモルタルを塗布して補強する第2補強工程と、を含み、前記パネルは、平坦領域と、前記平坦領域と連続する非平坦領域と、を有し、前記第1領域は、前記平坦領域の少なくとも一部を含み、前記第2領域は、前記非平坦領域を含む。
【0008】
本発明に係る塀は、基礎と、前記基礎に立設された発泡スチロール製のパネルと、を備え、前記パネルの第1領域にはメッシュシートが接着されており、前記パネルの第2領域には繊維入りモルタルが塗布されており、前記パネルは、平坦領域と、前記平坦領域と連続する非平坦領域と、を有し、前記第1領域は、前記平坦領域の少なくとも一部を含み、前記第2領域は、前記非平坦領域を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る塀の施工方法によれば、発泡スチロール製のパネルのうち、非平坦領域を含む第2領域については繊維入りモルタルを塗布して補強するので、複雑な形状を有する領域においても確実且つ効率よく補強することができる。また、平坦領域を含む第1領域についてはメッシュシートを接着して補強するので、パネルの全領域を繊維入りモルタルで補強する方法と比較して補強コストを抑制できると共に、作業効率を向上できる。
【0010】
本発明に係る塀は、発泡スチロール製のパネルを備え、当該パネルの非平坦領域を含む第2領域については繊維入りモルタルによって補強されるので、パネルの非平坦領域についても確実に補強される。また、平坦領域を含む第1領域はメッシュシートにより補強されているので、パネルの全領域が繊維入りモルタルで補強されたものと比較して塀の補強コストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る塀の施工方法において、基礎に鉄筋を設置する工程を説明する図。
【
図2】
図1に示す基礎にパネルを設置する工程を説明する図。
【
図3】本発明の実施形態に係る塀の施工方法において使用されるスペーサを示す斜視図。
【
図4】(a)は、
図3に示すスペーサで鉄筋を保持した状態を示す平面図、(b)は
図4(a)のIVb-IVb線断面図。
【
図5】
図2に示すパネルをメッシュシート及び繊維入りモルタルで補強した状態を示す模式縦断面図。
【
図6】(a)は、くり抜き窓を有するパネルを示す斜視図、(b)は
図6(a)に示すパネルをメッシュシート及び繊維入りモルタルで補強した状態を示す模式縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る塀の施工方法について説明する。まず、
図2を参照して、本実施形態で使用されるパネル1について説明する。パネル1は発泡スチロール製であって、左右一対の側端面11,12と、幅広の側面13,14(平坦領域)と、上面17と、下面18と、を有する。また、パネル1には鉄筋2を挿入するための一対の貫通孔1aが設けられている。パネル1の幅方向D1における幅寸法L1は1000mm又は900mmであり、側端面11,12から各貫通孔1aの中心までの距離L2は150mmである。ここでは、パネル1が非平坦な波形の上面17(非平坦領域)を有する場合について説明するが、パネル1の形状はこれに限定されない。
【0013】
このようなパネル1を使用した塀は、次の様にして施工される。まず、
図1を参照して、基礎3に鉄筋2を打ち込み固定する。基礎3の構築方法や鉄筋2の固定方法は公知であるので詳細な説明は省略する。
【0014】
次に、
図2に示す様に基礎3にパネル1を立設する(立設工程)。より具体的に、基礎3の上面のうち、パネル1との接着部分となる所定領域31(
図1及び2においてハッチングを施した領域)に、樹脂混入モルタルを塗布する。樹脂混入モルタルとは、モルタルに合成樹脂を混合したものである。そして、1枚目のパネル1(1A)の貫通孔1aに鉄筋2を挿入させて基礎3に設置する。これにより、パネル1は樹脂混入モルタルにより基礎3に接着固定される。次に、パネル1の側端面11に樹脂混入モルタルを塗布すると共に、2枚目のパネル1(1B)の側端面12にも樹脂混入モルタルを塗布する。
【0015】
1枚面のパネル1と同様に2枚目のパネル1を基礎3に設置すると、2枚目のパネル1は基礎3及び1枚目のパネル1の側端面11に接着固定される。同様にして3枚目以降のパネルについても塀の全長となるまで順次設置していく。そして、隣接するパネル1同士の接合部に留め具(図示せず)を嵌めて固定する。
【0016】
次に、各鉄筋2の上部を切断し、切断後の鉄筋2の頂部が対応する貫通孔1aの上端よりも僅かに下方に位置するように長さ調整を行う。なお、鉄筋2の長さ調整は、鉄筋2を基礎3に打ち込み固定する前に、予め行っておいても良い。そして、各鉄筋2に
図3に示すスペーサ4を装着させる。スペーサ4は、鉄筋2が挿通される円筒部41と、円筒部41の外周面から両側に延出する一対の支持部42と、を有し、各支持部42は上下方向に延びる平板形状を有している。また、各支持部42の先端部は、先端に向かうに従い厚みが漸減するテーパ形状となっている。また、スペーサ4の長さ寸法L3(一方の支持部42の先端から他方の支持部42の先端までの距離)は、パネル1の貫通孔1aの直径L4(
図4(b))よりも僅かに大きく設定されており、
図4に示す様に鉄筋2をスペーサ4の円筒部41に挿通させながらスペーサ4をパネル1の貫通孔1aに挿入すると、支持部42の先端がパネル1(貫通孔1aの内周面)に食い込むようにして保持される。
【0017】
全ての鉄筋2にスペーサ4を装着したら、コンクリートを各貫通孔1aの上端まで流し込む。このとき、鉄筋2はスペーサ4により定位置に保持されるので、鉄筋2を作業員が手で押さえる必要がなく、作業効率を向上できる。また、スペーサ4が有する支持部42は1対のみであるため、支持部42が3本以上ある場合等と比較して、支持部42間の空間が広くなり、コンクリートの充填を容易にできる。そして、塗布された樹脂混入モルタルや充填されたコンクリートが十分に硬化したら留め具(図示せず)を外す。
【0018】
次に、
図5に示す様に、パネル1をメッシュシート5で用いて補強する(第1補強工程)。より具体的に、上述した樹脂混入モルタルをパネル1の側面13(平坦領域)のうち、上端から1cm程度の領域を除いた領域(以下、「第1領域」という)と基礎3の上面に塗布し、メッシュシート5でパネル1の第1領域と基礎3の上面(即ち、樹脂混入モルタルが塗布された部分)を覆う。そして、樹脂混入モルタルをメッシュシート5の上から塗布し、樹脂混入モルタルをメッシュシート5の網目に入り込ませるようにする。これによりメッシュシート5がパネル1と基礎3に対して固定される。2枚目以降のメッシュシート5についても同様に固定していくが、隣接するメッシュシート5の側端部同士が重なり合うようする。そして、このような作業をパネル1の側面14についても同様に行う。
【0019】
次に、上述した樹脂混入モルタルに繊維を添加して繊維入りモルタルを用意する。このとき添加する繊維としては、ナイロン繊維等の合成繊維であるのが好ましく、特に東レ・アムテックス株式会社製のタフバインダー(登録商標)であるのが好ましい。
【0020】
そして、繊維入りモルタルを用いてパネル1を補強する(第2補強工程)。より具体的に、各パネル1の上面17からメッシュシート5の上部10cm程度の領域にかけて繊維入りモルタル6を塗布する。これにより、パネル1の側面13,14の大部分はメッシュシート5で覆われて補強され、パネル1の上面17及び側面13,14の上方部位(第2領域)は繊維入りモルタル6で覆われて補強され、またメッシュシート5の上端部分も繊維入りモルタル6で覆われることになる(即ち、第1領域と第2領域とは部分的に重なる)。
【0021】
繊維入りモルタル6が完全に硬化したら、仕上げ用モルタルをパネル1の全面に塗布し、必要に応じて造形や着色等の装飾作業を行う。仕上げ用モルタルとしては、YDF株式会社製のTF造形モルタルを用いるのが好ましく、仕上げ用モルタルの塗り厚は8mm以上とするのが好ましい。8mm以上の塗り厚とすることで、完成後における塀の強度を十分なものにできる。
【0022】
このように、本実施形態においては、パネル1の非平坦領域である上面17を含む第2領域については、繊維入りモルタル6を塗布して補強するので、メッシュシート5で補強する場合と比較して作業効率を向上できると共に、複雑な形状であっても細部にわたって確実に補強できる。また、パネル1の側面13,14(平坦領域)については、その大部分を第1領域としてメッシュシート5で補強するので、パネル1の全域に繊維入りモルタル6を塗布して補強する場合と比較して、塀の施工コストを抑制できる。
【0023】
また、繊維入りモルタル6をパネル1に塗布する際には、樹脂混入モルタルを塗布する場合と比較して、より強い力でパネル1に押しつけるようにして作業する必要があることから、繊維入りモルタル6の塗布領域を最小限とすることによって、繊維入りモルタル6を全域に塗布する場合と比較して作業効率を向上できると共に、塗布する際の押圧力でパネル1が破損してしまうといったトラブルを回避できる。
【0024】
更に、本実施形態においては、パネル1を基礎3に固定するために基礎3の上面に塗布される樹脂混入モルタルと、パネル1同士を接合するためにパネル1の側端面11,12に塗布される樹脂混入モルタルと、メッシュシート5をパネル1に接着するのに使用される樹脂混入モルタルと、を全て同一のものとしているため、塀の施工に使用する材料の種類を減らすことができる。また、パネル1同士の接合に樹脂混入モルタルを使用することにより、発泡スチロール用接着剤を使用した場合と比較してパネル1同士の結合を強固にできる。
更に、パネル1の第2領域に塗布される繊維入りモルタル6は、上述の樹脂混入モルタルに合成繊維を添加することで得られることから、これによっても塀の施工に使用する材料の種類を減らすことができる。
【0025】
なお、上記実施形態においては、上面17が波形のパネル1を用いた場合において、第1領域の上端をパネル1の側面13,14の上端から1cm程度下方位置とし、第2領域をパネル1の上面17と、パネル1の側面13,14の上端から下方に11cm程度の領域としたが、パネル1の形状等はこれに限定されない。
【0026】
例えば、
図6に示すように、くり抜き窓101aを有するパネル101においては、くり抜き窓101aの内周面が非平坦領域となる。この場合には、パネル101の側面13,14のうち、くり抜き窓101aから周囲に1cm程度の領域を残した領域を第1領域とし、この第1領域はメッシュシート5で補強する。また、くり抜き窓101aの内周面と、パネル101の側面13,14のうちくり抜き窓101aから周囲に11cm程度の領域とを、第2領域とし、この第2領域を繊維入りモルタル6で補強すればよい。なお、くり抜き窓101aは角状に限定されず、例えば円形や楕円形等であっても構わない。また、
図6にはパネル101の上面17が平坦である場合を例に示しており、このように上面17が平坦面である場合には、上面17を
図6(b)に示す様に繊維入りモルタル6に代えてメッシュシート5で補強しても良い。
【0027】
以上、本発明の実施形態に係る塀の施工方法について添付の図面を参照して説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形、修正が可能である。
【0028】
例えば、上記実施形態においては、第1領域はパネル1の平坦領域である側面13,14の一部を含むものとしたが、第1領域がパネル1の平坦領域である側面13,14の全てを含むようにしても構わない。即ち、第1領域はパネル1の平坦領域の少なくとも一部を含むものであれば良い。また、上記実施形態においては、非平坦領域として波形の領域や内周面を例に説明したが、非平坦領域はこれらの形態に限定されず、例えば曲面や凸凹面等も含まれる
【符号の説明】
【0029】
1 パネル
2 鉄筋
3 基礎
4 スペーサ
5 メッシュシート
6 繊維入りモルタル