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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014208
(43)【公開日】2022-01-19
(54)【発明の名称】放電加工装置およびセンサユニット
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/26 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
B23H7/26 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116424
(22)【出願日】2020-07-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】坂口 昌志
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB01
3C059AB05
3C059CH11
(57)【要約】
【課題】
簡単かつ最小限の改良で温度変化によって生じる軸駆動部の位置ずれを補正し、精度の高い放電加工装置を提供すること。
【解決手段】
本発明の放電加工装置は、工具電極を少なくとも1つの軸方向に移動させる軸駆動部5と、軸駆動部5の軸方向の直線移動位置を検出するセンサユニット4,34を備え、センサユニット4,34は、直線状の測定用スケール421と、測定用スケール421を走査して位置情報を得る位置検出部44と、測定用スケール421または位置検出部44の両端に固定された測定用スケール421の延伸方向に対して垂直に立設した一対の調整ブロック41,41を有し、調整ブロック41,41は、軸駆動部5に固定されるとともに温度変化により軸方向に湾曲することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具電極を少なくとも1つの軸方向に移動させる軸駆動部と、前記軸駆動部の前記軸方向の直線移動位置を検出するセンサユニットを備え、
前記センサユニットは、直線状の測定用スケールと、前記測定用スケールを走査して位置情報を得る位置検出部と、前記測定用スケールまたは前記位置検出部の両端に固定された前記測定用スケールの延伸方向に対して垂直に立設した一対の調整ブロックを有し、
前記調整ブロックは、前記軸駆動部に固定されるとともに温度変化により前記軸方向に湾曲することを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
前記軸駆動部は、ベースと、前記ベースに対向配置され前記軸方向に往復移動する移動体とから構成され、前記測定用スケールと前記位置検出部は対向配置されるとともに、一方が前記ベースに固定され、他方が前記移動体に固定されていることを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項3】
前記調整ブロックは、材質の異なる第1のブロックと第2のブロックから構成されることを特徴とする請求項1または2記載の放電加工装置。
【請求項4】
前記第1のブロックはセラミックスで形成され、前記第2のブロックは前記軸駆動部と略同一の線膨張係数を有する材質で形成されていることを特徴とする請求項3記載の放電加工装置。
【請求項5】
前記調整ブロックは、溝部と、前記溝部の幅よりも広い幅を有する幅広部から構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の放電加工装置。
【請求項6】
直線状の測定用スケールと、前記測定用スケールを走査して測定対象物の直線移動位置を検出する位置検出部と、前記測定用スケールまたは前記位置検出部の両端に固定された前記測定用スケールの延伸方向に対して垂直に立設した一対の調整ブロックを有し、
前記調整ブロックは、材質の異なる第1のブロックと第2のブロックから構成され、測定対象物に固定されるとともに温度変化により湾曲することを特徴とするセンサユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具電極を用いて被加工物を加工する放電加工装置および調整ブロックを有するセンサユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工具電極を用いて被加工物を加工する放電加工装置が知られている。放電加工装置は、被加工物と工具電極の間の放電現象を利用して加工を行うため、切削加工では切断することが困難な硬い金属やセラミックス等の高硬度材を精密加工することができる。
近年、耐久性向上の観点から高硬度材が金型等の様々な部品に使用されるようになり、放電加工装置には高いレベルでの加工精度の実現が要求されるようになってきた。
【0003】
放電加工には、主に、タングステンや黄銅などのワイヤを工具電極として、被加工物との放電現象により切抜き加工を行うワイヤ放電加工と、加工したい形状を工具電極として、被加工物との放電現象により被加工物に工具電極の形状を転写させるようにして加工形状を形成する形彫放電加工とがある。さらに、形彫放電加工には、主に、工具電極および被加工物の少なくともいずれか一方をZ軸方向に移動することで加工する放電加工と、工具電極および被加工物の少なくともいずれか一方を他方に対してXY平面で揺動しながら放電加工を行う揺動放電加工とがある。
【0004】
このような放電加工装置においては、発熱や外部環境の温度の変化により装置の温度が上昇または下降すると温度変化によって構成部品が膨張または収縮するため、機械精度や加工精度に悪影響を及ぼすことがある。具体的には、工具電極や被加工物を移動するための軸駆動部は製造上の制約から鋳鉄等の金属で形成されているため、発熱や外部環境の温度の変化により軸駆動部の温度が変化すると、軸駆動部が膨張または収縮して熱変形が生じ、工具電極の位置ずれが発生して位置決め精度や加工精度の低下を引き起こすという問題が生じていた。
【0005】
よって従来から構成部品の熱変位による工具電極の位置ずれを防止するために、機械各部に設置した温度検出センサで検出した温度によって工具電極の熱変位量を算出して移動量を補正する熱変位補正が行うこと(特許文献1~3)や、加工前の位置合せ設定を行い放電加工中に生じる間隙変化による誤差や加工深さ誤差を検知及び診断して補正を行う(特許文献4)ことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-176735号公報
【特許文献2】特開平07-075937号公報
【特許文献3】特許第5870143号公報
【特許文献4】特許第2559789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1から3に記載されている温度検出センサを使用する方法では、温度を検出するための複数のセンサを追加購入する費用がかかるうえ、装置本体の正確な温度をリアルタイムに測定できない場合は補正値にタイムラグが生じ、補正に誤差が生じる可能性がある。
また特許文献4の加工誤差の検知方法においては、加工前に位置合わせを行い、加工中に生じた熱膨脹変形誤差を演算して補正値を導出するため、事前に位置合わせ作業が必要となるうえ、演算処理が複雑化するという問題があった。
【0008】
よって本発明は、構成部品、特に軸駆動部の熱変位による工具電極の相対位置ずれを、簡易的な構成でかつ複雑な制御を行うことなく、正確に補正を行うことが可能な放電加工装置およびセンサユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の放電加工装置は、工具電極を少なくとも1つの軸方向に移動させる軸駆動部と、前記軸駆動部の前記軸方向の直線移動位置を検出するセンサユニットを備え、前記センサユニットは、直線状の測定用スケールと、前記測定用スケールを走査して位置情報を得る位置検出部と、前記測定用スケールまたは前記位置検出部の両端に固定された前記測定用スケールの延伸方向に対して垂直に立設した一対の調整ブロックを有し、前記調整ブロックは、前記軸駆動部に固定されるとともに温度変化により前記軸方向に湾曲することを特徴とする。
また本発明の放電加工装置は、前記軸駆動部が、ベースと、前記ベースに対向配置され前記軸方向に往復移動する移動体とから構成され、前記測定用スケールと前記位置検出部は対向配置されるとともに一方が前記ベースに固定され、他方が前記移動体に固定されていることを特徴とする。
さらに本発明のセンサユニットは、直線状の測定用スケールと、前記測定用スケールを走査して測定対象物の直線移動位置を検出する位置検出部と、前記測定用スケールまたは前記位置検出部の両端に固定された前記測定用スケールの延伸方向に対して垂直に立設した一対の調整ブロックを有し、前記調整ブロックは、材質の異なる第1のブロックと第2のブロックから構成され、測定対象物に固定されるとともに温度変化により湾曲することを特徴とする。
【0010】
ここで「工具電極」とはワイヤ放電加工装置で使用されるワイヤ電極や形彫放電加工装置で使用される電極をさす。
また「軸駆動部」とは工具電極を少なくとも1つの軸方向に移動させるための駆動機構であり、例えばV軸方向に移動させる駆動機構としてはコラム、V軸スライダー、レール、リニアガイド等を含む。また、Y軸方向に移動させる駆動機構としてはベッドやコラム、Z軸方向に移動させる駆動機構としてはZ軸スライダー、Z軸ベース、レール、リニアガイド、U軸方向に移動させる駆動機構としてはU軸スライダー、Z軸スライダー、レール、リニアガイドを含む。
さらに「ベース」とは移動体を支持し、移動体を往復移動するためのレール等が固定された部材であり、例えばテーブル、コラム、Z軸ベース、Z軸スライダーである。
そして「移動体」とはベースに対して相対的に軸方向に移動する部材であり、例えばV軸スライダー、コラム、Z軸スライダー、U軸スライダーである。
本発明によれば、調整ブロックを介して測定用スケールまたは位置検出部を軸駆動部に固定して、温度変化時に軸駆動部の熱変位量の大きさ分だけ調整ブロックを軸方向に湾曲させる。そうすれば、測定用スケールまたは位置検出部を自動的に軸方向に移動させることが可能であり、簡単かつ簡易的な構成で熱変位による位置ズレ補正を行うことができる。
【0011】
本発明の放電加工装置は、調整ブロックが材質の異なる第1のブロックと第2のブロックから構成されることを特徴とする。
また本発明の放電加工装置は、前記第1のブロックがセラミックスで形成され、前記第2のブロックは前記軸駆動部と略同一の線膨張係数を有する材質で形成されていることを特徴とする。
さらに本発明の放電加工装置は、前記調整ブロックが溝部と、前記溝部の幅よりも広い幅を有する幅広部から構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、調整ブロックを材質の異なる第1のブロックと第2のブロックで形成することで、第1のブロックと第2のブロックの熱膨張率の差により温度変化時に締結面に内部応力が発生し、バイメタル効果により調整ブロックが湾曲する。バイメタル効果を使用することにより、簡単かつ簡易的な構成で温度変化によって生じる軸駆動部の相対位置のずれを補正することができる。
調整ブロックの湾曲量は第1のブロックと第2のブロックの材質を変更することで調整することが可能で、第1のブロックがセラミックスで形成され、第2のブロックは軸駆動部と略同一の線膨張係数を有する材質で形成されていることが好ましい。
また調整ブロックの湾曲量は、調整ブロックの形状を変更することでも調整可能であり、例えば調整ブロックが溝部と溝部の幅よりも広い幅を有する幅広部から構成されている場合は、溝部の幅と幅広部の幅の差を変更することにより簡単に湾曲量を調整することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、センサユニットを調整ブロックを介して軸駆動部に固定するだけでソフト制御等の複雑な位置ずれ補正を行う必要がなく、簡単かつ低コストで、温度変化によって生じる軸駆動部の相対位置のずれを補正し、精度の高い放電加工装置およびセンサユニットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るワイヤ放電加工装置100の概略を示す斜視図である。
図2】上記実施形態のセンサユニット4の実施形態を示す斜視図である。
図3】上記実施形態のセンサユニット4の実施形態を示す側面図である。
図4】上記実施形態のセンサユニット4の内部構造を示す模式図である。
図5】上記実施形態のセンサユニット4の調整ブロック41を示す斜視図である。
図6】上記実施形態のセンサユニット4の調整ブロック41を示す側面図である。
図7】外気温上昇時の本発明のV軸スライダー52の変位および調整ブロック41の屈曲状態を示す説明図である。
図8】上側ガイドユニット82の機械温度が上昇した場合のセンサユニット4の動きを示す模式図である。
図9】上側ガイドユニット82の機械温度が下降した場合のセンサユニット4の動きを示す模式図である。
図10】上記実施形態のセンサユニット4の調整ブロック41のその他の例(241)を示す斜視図である。
図11】上記実施形態において調整ブロック341を位置検出部44に取り付けた場合を示す側面模式図である。
図12】上記実施形態の温度変化[℃]による調整ブロック41のV軸方向の変位量[μm]を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1. 1 ワイヤ放電加工装置100の全体構成)
以下、図を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るワイヤ放電加工装置100の概略を示す斜視図である。
本発明はワイヤ放電加工装置および形彫放電加工装置に適用されるものであるが、以下に記載する実施形態では、ワイヤ放電加工装置を例に挙げて説明を行うものとする。
また以下の説明では、ワイヤ放電加工装置100の機械本機において、U軸スライダー51に垂直アーム61が設けられている側の面(図1の紙面上、Y軸負の方向から機械本機をみた場合の面)を正面とする。そして正面に向かって後側を背面とし、正面に向かって右手側および左手側を側面とする。そして正面に向かって上側から機械本機をみた場合の面を上面とし、下側からみた場合の面を底面とする。
【0016】
ワイヤ放電加工装置100は、設置面に載置された図示しないベッド1と、水平方向であるY軸方向に往復移動可能にベッド1上に設置されたコラム2と、このコラム2の上にY軸方向と平行な水平1軸方向(V軸方向)に往復移動可能に水平に設置されたV軸スライダー52と、V軸スライダー52の一端に設けられたZ軸ベース91と、Z軸ベース91に図示しないリニアガイド93aを介してZ軸方向に往復移動可能に取り付けられたZ軸スライダー93と、Z軸スライダー93のZ軸ベース91に対向する面にリニアガイド51aを介してX軸方向と平行な水平1軸方向(U軸方向)に往復移動可能に水平に設置されたU軸スライダー51と、U軸スライダー51に正面側から固定された垂直アーム61と、コラム2と、V軸スライダー52のV軸方向の略中央位置Hに固定されたセンサユニット4を含む。
垂直アーム61の下端には上側ガイドユニット82が固定され、コラム2の下方の側壁には、コラム2から延びた下側支持体7が固定されており、一端に下側ガイドユニット81が固定されている。
【0017】
また下側ガイドユニット81の下方には、Y軸方向と垂直な方向(X軸方向)に移動可能に設置された図示しないテーブル3を備え、テーブル3の上には図示しない加工槽が取り付けられ、被加工物を加工槽内のワークスタンド上に載置することができる。
【0018】
コラム2の上部にはV軸方向に延びる複数のレール22が固定され、これらのレール22は、V軸スライダー52の底部に固定された複数のリニアガイド52aと係合している。それによりV軸スライダー52は、V軸方向に直線移動可能となっている。
V軸スライダー52の一端にはZ軸ベース91が一体的に固定されている。
【0019】
Z軸ベース91の正面には、Z軸方向に延びる複数のレール92が固定され、これらのレール92は、Z軸スライダー93に設けられた図示しない複数のリニアガイド93aと係合している。これによりZ軸スライダー93は、Z軸ベース91に対して上下方向つまりZ軸方向に直線移動可能となっている。
【0020】
Z軸スライダー93の正面には、U軸方向に延びる複数のレール94が固定され、これらのレール94は、U軸スライダー51に設けられた複数のリニアガイド51aと係合している。これによりU軸スライダー51は、Z軸スライダー93に対してU軸方向に直線移動可能となっている。
【0021】
なおリニアガイド51a,52a,93aは公知のものが適宜利用可能であり、コラム2、U軸スライダー51、V軸スライダー52、Z軸スライダー93、テーブル3は、モータ等の駆動部材により各方向に往復移動する。
またコラム2、V軸スライダー52、U軸スライダー51およびZ軸スライダー93等の軸駆動部5は、製造上の制約からセラミックスよりも線膨張係数が大きい材料である鋳鉄で形成されている。
【0022】
垂直アーム61は、長尺の角柱形状の部材であって、下端にはステンレスで形成された上側ガイドユニット82が設けられている。垂直アーム61は、XY平面に垂直に設けられ、熱による変形が少なく剛性の高い素材であるセラミックスで形成されている。
【0023】
下側支持体7は、コラム2の正面下部に固定されてコラム2から延びる角柱形状もしくは円柱形状の部材であって、先端に下側ガイドユニット81が固定されている。下側支持体7はセラミックスで形成され、下側ガイドユニット81は、鋳鉄の線膨張係数よりも大きい線膨張係数を有する材料であるステンレスから形成される。
【0024】
ワイヤ放電加工装置100は、図示しない放電加工用の電源装置から被加工物とワイヤ電極Wとに加工電圧を供給しつつ、図示しない制御装置により、ワークスタンドに載置された被加工物を上側ガイドユニット82と下側ガイドユニット81の間に掛け渡されたワイヤ電極Wに対して所望の経路に沿って相対的に移動させ、放電加工を行うことができる。
【0025】
(1.2 センサユニット4の構成)
図2は、上記実施形態のセンサユニット4の実施形態を示す斜視図であり、図3は、上記実施形態のセンサユニット4の実施形態を示す側面図である。図4は、上記実施形態のセンサユニット4の内部構造を示す模式図であり、図5は、上記実施形態のセンサユニット4の調整ブロック41を示す斜視図である。図10は、上記実施形態のセンサユニット4の調整ブロック41のその他の例(241)を示す斜視図である。ここで、センサユニット4に使用されているボルト等の構成の一部は便宜上図面から省略されている。
本発明のセンサユニット4は、上側ガイドユニット82のV軸方向の直線移動位置を検出する検出器であり、直線状の測定用スケール421と、測定用スケール421を収納するハウジング42と、測定用スケール421を走査して位置情報を得る位置検出部44と、測定用スケール421の両端に測定用スケール421の延伸方向に対して垂直に立設して固定された一対の調整ブロック41,41と、調整ブロック41をV軸スライダー52に固定するための固定部材43とを備える。
ワイヤ放電加工装置100は、放電加工時、センサユニット4が検出するV軸方向の位置により、上側ガイドユニット82を移動させる。
【0026】
測定用スケール421、ハウジング42および位置検出部44は、既知のリニアエンコーダが使用される。測定用スケール421を読み取るタイプのリニアエンコーダであれば、インクリメンタルタイプでも、アブソリュートタイプでも、光学式、磁気式、誘導式を問わず適用することができる。
【0027】
例えば透明性を有する直線状の板状部材に遮光性のクロムにより形成されたパターンが設けられた直線状の測定用スケール421がハウジング42内に収納されており、光源と多数の光検出器が設けられた位置検出部44によって、パターンを走査する。位置検出部44の光源の光はパターンの透明領域を通過して光検出器に達し、光検出器から出力される電気信号を図示しない電子回路により処理することによって位置情報を得て上側ガイドユニット82のV軸方向の直線移動位置を検出する。
【0028】
ハウジング42は矩形状であり、ハウジング42内部の中心位置に長手方向に沿って測定用スケール421が設けられている(図4)。ハウジング42の両端には、測定用スケール421の延伸方向に対して垂直に立設して固定された一対の調整ブロック41,41の下部に固定されている。調整ブロック41,41の上部は固定部材43に固定され、固定部材43がV軸スライダー52に固定されることで、測定用スケール421が調整ブロック41を介してV軸スライダー52に固定される。
本実施形態において測定用スケール421はハウジング42に収納されているが、測定用スケール421の両端に調整ブロック41,41が固定されていれば、測定用スケール421はハウジング42に収納されていなくてもよい。
【0029】
位置検出部44は、コラム2の上部に取り付けられている。このため、位置検出部44は、コラム2とV軸スライダー52の間の相対的なV軸方向の直線移動位置を検出することができる。
【0030】
調整ブロック41は、熱変位によるV軸スライダー52のV軸方向のずれと同様の位置ずれを発生させるブロック状の部材であり、材質の異なる第1のブロック411と第2のブロック412から形成されている。
第1のブロック411は平板状もしくは直方体形状で、セラミックスで形成されている。第1のブロック411には固定部材43を固定するための孔411aが設けられている。第1のブロック411の背面の締結面M1には、第2のブロック412が固定されている。
第2のブロック412は、第1のブロック411よりも線膨張係数が大きい材質で形成された部材であり、具体的にはV軸スライダー52と略同一の線膨張係数をもつS45C等の金属から形成されている。第2のブロック412は、幅Waの狭い溝部412aと、幅Waよりも広い幅Wbを有する幅広部412bから構成される。第2のブロック412は全体として側面視でL字形状をなす。また第2のブロック412の下部にハウジング42を取り付けるための孔412cが設けられている。
一対の調整ブロック41,41は、第1のブロック411を正面側に配置して測定用スケール421の延伸方向に垂直となるように、ハウジング42の両端に設けられている。
調整ブロック41は、締結面M1にて材質の異なる第1のブロック411と第2のブロック412を接合して形成されているため、外部環境の変化等により調整ブロック41の温度が変化すると、第1のブロック411と第2のブロック412の熱膨張率の差により締結面M1に内部応力が発生し、バイメタル効果により湾曲する。
具体的には、第1のブロック411の材質であるセラミックスは、第2のブロック412の材質である鋳鉄と比べると線膨張係数が約1/2~約1/3であるため、温度上昇時、締結面M1に平行に働く圧縮と引っ張り応力が大きくなり、調整ブロック41に垂直方向(測定用スケール421の延伸方向垂直)から傾斜する力F1が発生する。F1の力により、調整ブロック41はV軸負の方向へ湾曲する(図8)。また温度下降時は、調整ブロック41に垂直方向から傾斜する力F1とは反対の力F2が発生するため、F2の力により、調整ブロック41はV軸正の方向へ湾曲する(図9)。
【0031】
調整ブロック41、第1のブロック411および第2のブロック412は、様々の形状を採用することができる。例えば第1のブロック2411と第2のブロック2412からなる調整ブロック241において、第2のブロック2412が幅の狭い溝部2412aと溝部2412aの幅よりも広い幅を有する幅広部2412bから構成され、全体として側面視でコの字形状をなすものも採用することができる(図10)。溝部2412aの幅Wa2と幅広部2412bの幅Wb2の差を調整することにより、温度変化による調整ブロック241の湾曲量の大きさを調整することができる。
【0032】
固定部材43は、V軸スライダー52にハウジング42を取り付けるための部材であり、両端には一対の調整ブロック41,41が固定されている。具体的には、固定部材43の一端は正面側に配置された調整ブロック41の背面に固定され、他端は背面側に配置された調整ブロック41の正面に固定される。
また固定部材43は、V軸スライダー52に取り付けるための孔43aを有し、孔43aを使用して、V軸スライダー52の下部にハウジング42を取り付ける。正確に上側ガイドユニット82のV軸方向の直線移動位置を測定するため、測定用スケール421がV軸方向に平行に延伸するようにハウジング42を取り付ける。
本実施形態においては、固定部材43を介して調整ブロック41,41をV軸スライダー52に固定しているが、固定部材43を使用せずに調整ブロック41,41を直接V軸スライダー52に固定してもよい。
【0033】
(1.3 調整ブロック41の機能の説明)
図7は、外気温上昇時の本発明のV軸スライダー52の変位および調整ブロック41の屈曲状態を示す説明図である。図8は、上側ガイドユニット82の機械温度が上昇した場合のセンサユニット4の動きを示す模式図であり、図9は、上側ガイドユニット82の機械温度が下降した場合のセンサユニット4の動きを示す模式図である。
【0034】
ワイヤ放電加工装置100においては、軸駆動部5であるV軸スライダー52は線膨張係数が大きい材料である鋳鉄で形成されていることから、外部環境の変化によりV軸スライダー52の温度が変化すると、V軸スライダー52が伸縮し上側ガイドユニット82がV軸方向にずれてしまう(図1図7)。
具体的には、V軸スライダー52の温度が上昇すると、略中央位置Hを基準としてV軸スライダー52の正面側がV軸負の方向へ膨張して上側ガイドユニット82がV軸負の方向に変位する。またV軸スライダー52の温度が下降するとV軸スライダー52の正面側がV軸正の方向へ収縮して上側ガイドユニット82がV軸正の方向に変位する。
このように外気の温度変化等によりV軸スライダー52が伸縮すると、上側ガイドユニット82がV軸方向にずれて、被加工物の加工精度に悪影響を及ぼす。
よって本発明においては、調整ブロック41を介して測定用スケール421をV軸スライダー52に固定することで、V軸スライダー52のV軸方向の位置ズレ量Wcと同じ大きさだけ測定用スケール421をV軸方向に移動させる。
具体的には、調整ブロック41は温度変化によりV軸正の方向またはV軸負の方向に湾曲するように形成されており、測定用スケール421は、両端に配置された一対の調整ブロック41,41の湾曲によりV軸方向に変位する(図8図9)。
【0035】
温度変化により測定用スケール421が移動するV軸方向の変位量は、温度変化によりV軸スライダー52が変位するV軸方向の変位量と同じ大きさとなるように第1のブロック411および第2のブロック412の大きさ等の調整が行われている。
例えば、ワイヤ放電加工装置100の機器温度がTc度上昇した場合、V軸スライダー52の正面側がV軸負の方向に変位量Wcの大きさだけ変位したとする(図7)。その場合、調整ブロック41は温度がTc度上昇するとV軸負の方向に湾曲し、測定用スケール421は追従してV軸負の方向に変位量Wcと同じ大きさだけ移動する(図8)。
また、ワイヤ放電加工装置100の機器温度がTd度下降した場合、V軸スライダー52の正面側がV軸正の方向に変位量Wdの大きさだけ変位したとする。その場合、調整ブロック41も同様に温度がTd度下降すると、V軸正の方向に湾曲し、測定用スケール421は追従してV軸正の方向に変位量Wdと同じ大きさだけ移動する(図9)。
【0036】
ワイヤ放電加工装置100は放電加工時に、実際にセンサユニット4が計測した位置情報を使用して、V軸方向に上側ガイドユニット82を移動制御する。その際に、あらかじめWcもしくはWd分変位した測定用スケール421を使用して上側ガイドユニット82を駆動するため、複雑なソフト制御を行うことなく温度変化による上側ガイドユニット82の位置ずれを補正することが可能となる。
【0037】
(1.4 調整ブロック41の変位量)
図12は、調整ブロック41の温度が23℃である場合を基準として、温度が変化した場合の調整ブロック41の測定用スケール固定位置におけるV軸方向の変位量[μm]を示すグラフである。ここで三角マーカーを線で結んだグラフは正面側に配置された調整ブロック41の変位を示し、四角マーカーを線で結んだグラフは背面側に配置された調整ブロック41の変位を示したものである。
図12のグラフが示す通り、基準の温度である23℃よりも温度が上昇した場合は、測定用スケール421の固定位置がV軸負の方向に変位し、23℃よりも温度が下降した場合は、測定用スケール421の固定位置がV軸正の方向に変位することがわかる。
【0038】
図11は、上記実施形態において調整ブロック341を位置検出部44に取り付けた場合を示す側面模式図である。
上記の実施形態のセンサユニット4においては調整ブロック41が測定用スケール421の両端に設けられていたが、調整ブロック341が位置検出部44の両端に設けられたセンサユニット34を用いてもよい(図11)。この場合、材質の異なる第1のブロック3411と第2のブロック3412を測定用スケール421に固定する場合とは反対の配置、具体的には第1のブロック3411を第2のブロック3412の背面側に固定する。
例えば、ワイヤ放電加工装置100の機器温度が上昇した場合、V軸スライダー52の正面側がV軸負の方向に変位するが、調整ブロック341は温度が上昇するとV軸正の方向に湾曲するため、位置検出部44は追従してV軸正の方向に移動する。また、ワイヤ放電加工装置100の機器温度が下降した場合、V軸スライダー52の正面側がV軸正の方向に変位するが、調整ブロック341は温度が下降するとV軸負の方向に湾曲し、位置検出部44は追従してV軸負の方向に移動する。
このように、位置検出部44に調整ブロック341を取り付けた場合であっても、熱変位による補正を行うことができる。
ここで調整ブロック341のコラム2への固定は、固定部材343を介して取り付けられていてもよいし、固定部材343を介さずに直接取り付けられていてもよい。
【0039】
本実施形態では、調整ブロック41を備えたセンサユニット4をV軸スライダー52に設けた実施形態を用いて説明を行ったが、リニアエンコーダ等を用いて軸方向の直線移動位置を検出して軸方向への駆動を行う軸駆動部であれば適用可能であり、形彫放電加工装置にも適用可能である。
また既知のリニアエンコーダにおいては、測定用スケール421を収納したハウジング42の上部に固定部材43が一体的に形成されており、延伸方向中央位置で固定部材43を軸駆動部5に固定するように形成されているものもある。そのような形状のリニアエンコーダを使用した場合であっても、ハウジング42の両端に調整ブロック41,41を設け、固定部材43を軸駆動部5に固定する代わりに調整ブロック41,41を軸駆動部5に固定することで同様の効果を得ることができる。
さらに本実施形態では、垂直アーム61をU軸、V軸、Y軸、Z軸方向に移動させ、テーブル3をX軸方向に移動する構成であったが、テーブル3をY軸およびX軸方向に移動させる構成としてもよい。
そして本実施形態においては、Z軸スライダー93と垂直アーム61の間にU軸スライダー51を設けて、U軸スライダー51により垂直アーム61をU軸方向に往復移動させる構成としたが、コラム2の上にU軸サドルを設けてU軸方向に移動する構成としてもよい。
【0040】
以上説明した本発明は、この発明の精神および必須の特徴的事項から逸脱することなく他のいろいろな形態で実施することができる。したがって、本明細書に記載した実施例は例示的なものであり、これに限定して解釈されるべきものではない。
【符号の説明】
【0041】
1 ベッド
2 コラム
4,34 センサユニット
41 調整ブロック
5 軸駆動部
51 U軸スライダー
52 V軸スライダー
61 垂直アーム
7 下側支持体
81 下側ガイドユニット
82 上側ガイドユニット
91 Z軸ベース
93 Z軸スライダー
W ワイヤ電極
100 ワイヤ放電加工装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12