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特開2022-142082生体情報センサを利用した健康管理システム、健康管理システム用の作業負荷判定プログラム、健康管理システム用のデータ構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142082
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】生体情報センサを利用した健康管理システム、健康管理システム用の作業負荷判定プログラム、健康管理システム用のデータ構造
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/00 20180101AFI20220922BHJP
【FI】
G16H20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042089
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】592168005
【氏名又は名称】ウツエバルブサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177747
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 賢一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智之
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】管理者が行う労務管理と心身両面での労働安全衛生管理の両業務を統合的に支援し、過大な作業負荷が推測される時には、管理者及び作業者に対してきめ細やかな警告の発令を行うことで労働災害等を未然に防止し、管理者及び作業者の双方において利便性に優れた健康管理システムを提供する。
【解決手段】センサ1、ゲートウェイ端末2、サーバ3及び情報可視化システム4がアプリにより協働する健康管理システムである。センサ1が取得した生体データに関し、深部体温、心拍数、ストレス指数毎の移動平均値の変化率を項目評価表に基づき評価点に換算し、併せて、呼吸数の移動平均値と設定された基準値を比較して得た差数を項目評価表に基づき評価点に換算して得る4種の評価点を合計した警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告を、第二閾値を超えるときに第二警告を発令する健康管理システムとした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ、ゲートウェイ端末、サーバがアプリケーションソフトウェアにより協働する健康管理システムであって、
前記センサは、センサ装着者の深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る生体データを経時的に取得して前記ゲートウェイ端末に送信し、
前記ゲートウェイ端末は、前記生体データの時系列データを解析して得た所定単位時間当たりの移動平均値、前記センサ装着者が前記ゲートウェイ端末から入力した就労データを前記サーバに送信し、
前記サーバは、前記移動平均値、前記就労データを前記センサ装着者の識別コード(ID)と紐付けて管理し、システム利用者がアクセス用端末を用いてアクセス可能なウェブページにおいて照会可能に提供し、
前記アプリケーションソフトウェアは、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る評価点を決定する比較値を定めた項目評価表を備え、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)毎に所定時間前と現在時の前記移動平均値を比較した変化率を前記比較値に基づき換算して得る、及び、呼吸数(R)の所定時間前における前記移動平均値と設定された基準値を比較した差数を前記比較値に基づき換算して得る、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る前記評価点を合計した警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告データを、更に、第二閾値を超えるときに第二警告データを、前記アクセス用端末及び前記識別コード(ID)に紐付けられた前記ゲートウェイ端末に送信する作業負荷判定機能を備えたことを特徴とする健康管理システム。
【請求項2】
前記アプリケーションソフトウェアは、前記移動平均値を集積して、前記比較値を定めるためのデータ集積表を備え、前記項目評価表に定められた前記比較値が変更可能なことを特徴とする請求項1に記載の健康管理システム。
【請求項3】
前記アプリケーションソフトウェアは、深部体温(C)及び心拍数(H)の前記移動平均値を比較した前記変化率が増加又は減少のいずれか同傾向で連続するときに前記評価点に加点を行い、更に所定回数を超えて連続するときに前記第二警告データを前記アクセス用端末及び前記識別コード(ID)に紐付けられた前記ゲートウェイ端末に送信し、及び、前記センサ装着者から得た姿勢データが所定時間を超える横臥状態を示すときに前記警告点数に加点を行い、呼吸数(R)の前記移動平均値が所定回数を超えるときに前記評価点に加点を行う緊急通知機能を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の健康管理システム。
【請求項4】
前記アプリケーションソフトウェアは、前記センサ装着者の年齢に対応して設定する最大心拍数と心拍数(H)とから運動強度を得て、その運動強度の所定単位時間当たりの移動平均値の変化率が増加傾向で所定回数連続し、かつ、呼吸数(R)の前記移動平均値の変化率が減少傾向で同じ所定回数連続するときに、1を超える所定係数を前記評価点に乗じる運動強度補正機能を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の健康管理システム。
【請求項5】
センサ、ゲートウェイ端末、サーバ、情報可視化システムがアプリケーションソフトウェアにより協働する健康管理システムであって、
前記センサは、センサ装着者の深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る生体データを経時的に取得して前記ゲートウェイ端末に送信し、
前記ゲートウェイ端末は、前記生体データの時系列データを解析して得た所定単位時間当たりの移動平均値、前記センサ装着者が前記ゲートウェイ端末から入力した就労データを前記サーバに送信し、
前記サーバは、前記移動平均値、前記就労データを前記センサ装着者の識別コード(ID)と紐付けて管理し、
前記情報可視化システムは、システム利用者がアクセス用端末を用いてアクセス可能なウェブページに地図表示された作業ビューアーにおいて、前記センサ装着者毎の前記移動平均値、前記就労データを照会可能に提供し、
前記アプリケーションソフトウェアは、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る評価点を決定する比較値を定めた項目評価表を備え、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)毎に所定時間前と現在時の前記移動平均値を比較した変化率を前記比較値に基づき換算して得る、及び、呼吸数(R)の所定時間前における前記移動平均値と設定された基準値を比較した差数を前記比較値に基づき換算して得る、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る前記評価点を合計した警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告データを、更に、第二閾値を超えるときに第二警告データを、前記アクセス用端末及び前記識別コード(ID)に紐付けられた前記ゲートウェイ端末に送信する作業負荷判定機能を備えたことを特徴とする健康管理システム。
【請求項6】
前記アプリケーションソフトウェアは、前記移動平均値を集積して、前記比較値を定めるためのデータ集積表を備え、前記項目評価表に定められた前記比較値が変更可能なことを特徴とする請求項5に記載の健康管理システム。
【請求項7】
前記アプリケーションソフトウェアは、深部体温(C)及び心拍数(H)の前記移動平均値を比較した前記変化率が増加又は減少のいずれか同傾向で連続するときに前記評価点に加点を行い、更に所定回数を超えて連続するときに前記第二警告データを前記アクセス用端末及び前記識別コード(ID)に紐付けられた前記ゲートウェイ端末に送信し、及び、前記センサ装着者から得た姿勢データが所定時間を超える横臥状態を示すときに前記警告点数に加点を行い、呼吸数(R)の前記移動平均値が所定回数を超えるときに前記評価点に加点を行う緊急通知機能を備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6のいずれかに記載の健康管理システム。
【請求項8】
前記アプリケーションソフトウェアは、前記センサ装着者の年齢に対応して設定する最大心拍数と心拍数(H)とから運動強度を得て、その運動強度の所定単位時間当たりの移動平均値の変化率が増加傾向で所定回数連続し、かつ、呼吸数(R)の前記移動平均値の変化率が減少傾向で同じ所定回数連続するときに、1を超える所定係数を前記評価点に乗じる運動強度補正機能を備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6のいずれかに記載の健康管理システム。
【請求項9】
深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る評価点を決定する比較値を定めた項目評価表を備え、センサ装着者の深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る生体データを経時的に取得して時系列データを得る第一過程と、前記時系列データを解析して所定単位時間当たりの移動平均値を得る第二過程と、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)毎に所定時間前と現在時の前記移動平均値を比較した変化率を前記比較値に基づき換算し、及び、呼吸数(R)の所定時間前における前記移動平均値と設定された基準値を比較した差数を前記比較値に基づき換算し、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る前記評価点を得る第三過程と、前記評価点を合計した警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告を、更に、第二閾値を超えるときに第二警告を発令する第四過程を有することを特徴とする健康管理システム用の作業負荷判定プログラム。
【請求項10】
深部体温(C)及び心拍数(H)の前記移動平均値を比較した前記変化率が増加又は減少のいずれか同傾向で連続するときに前記評価点に加点を行い、更に所定回数を超えて連続するときに前記第二警告を発令する第五過程と、前記センサ装着者から得た姿勢データが所定時間を超える横臥状態を示すときに前記警告点数に加点を行う第六過程と、呼吸数(R)の前記移動平均値が所定回数を超えるときに前記評価点に加点を行う第七過程を有することを特徴とする請求項9に記載の健康管理システム用の作業負荷判定プログラム。
【請求項11】
前記センサ装着者の年齢に対応して設定する最大心拍数と心拍数(H)とから運動強度を得て、その運動強度の所定単位時間当たりの移動平均値の変化率が増加傾向で所定回数連続し、かつ、呼吸数(R)の前記移動平均値の変化率が減少傾向で同じ所定回数連続するときに、1を超える所定係数を前記評価点に乗じる運動強度補正を行う第八過程を有することを特徴とする請求項9又は請求項10のいずれかに記載の健康管理システム用の作業負荷判定プログラム。
【請求項12】
健康管理システム用のデータ構造であって、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る評価点を決定する比較値を定めた項目評価表を備え、
センサ装着者の識別コード(ID)と、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る生体データの時系列データと、これらを解析して得た所定単位時間当たりの移動平均値を含み、
深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)毎に所定時間前と現在時の前記移動平均値を比較した変化率を前記比較値に基づき換算して得る、及び、呼吸数(R)の所定時間前における前記移動平均値と設定された基準値を比較した差数を前記比較値に基づき換算して得る、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る前記評価点を合計した警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告データを、更に、第二閾値を超えるときに第二警告データを、アクセス用端末及び前記識別コード(ID)に紐付けられたゲートウェイ端末に送信する作業負荷判定プログラムに用いられることを特徴とする健康管理システム用のデータ構造。
【請求項13】
健康管理システム用のデータ構造であって、
前記識別コード(ID)と紐付けられた前記第一警告データ及び前記第二警告データを有することを特徴とする請求項12に記載の健康管理システム用のデータ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体センサを利用した健康管理システムに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
建設工事や警備等の作業現場は、酷暑又は極寒の屋外や閉鎖空間など過酷な労働環境下にあることも多い。また我が国では、少子高齢化に起因する作業者の高齢化も対応を要する課題になっている。年齢・性別・体力など作業者の属性は様々だが、一般的な事務作業と比較して現場作業の心身両面での負担は重く、時には作業者が急激で過大な作業負荷に曝される虞もある。現に、事前検診では異常がなく就労可能と判断された作業者が予期せぬ熱中症を発症するなど、当事者が予測し難い問題の発生も確認されている。
一方、数多くの作業者を被雇用者として雇用する管理者側において、その使用者責任は広範で重大な責務になっている。そして、管理者がそのような責務を負いながら日常的に執行している管理業務の中でも、作業者の健康や生命の安全に直結する労務及び労働安全衛生の適正管理が極めて重要で喫緊の経営課題になっている。近年の我が国では働き方改革が議論されて、それらの管理業務に対する意識も高まり、新国際規格(ISO45001)の施行も相まって、従来以上に高度な労働安全衛生管理基準に適合する優良な職場環境の実現が求められる状況になっている。
重大な労働災害である熱中症の予防に貢献しようと試みた研究開発は以前から様々に実施されており、例えば特許文献1の熱中症警告装置では、原子力発電所等で防護服を着用した作業員に対し、深部体温と心拍数を監視することにより、熱中症の危険性を警告しようとする。特許文献2では、同じく深部体温と心拍数に着目しながらも、小型軽量な耳栓型熱中症警報装置として、多様な使用環境下でも使い易い装置とされている。
また、熱中症予防とは異なる目的を有するものだが、自律神経機能の乱れとされる心身ストレスの評価装置に関しても、これまで様々な提案が行われてきた。特許文献3の自立神経機能評価装置は、呼吸変動に対応する心拍周期変動成分と血圧変動に対応する心拍周期変動成分とを抽出して自律神経機能を評価するものであり、複雑で高価な従来品よりも簡素で安価な装置としての提案がなされている。また、心拍ゆらぎ、即ち心拍周期変動と呼吸周期との解析により精神ストレスを評価する技術として、特許文献4の装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-108451号公報
【特許文献2】特開2010-131209号公報
【特許文献3】特開平10-328148号公報
【特許文献4】特開2010-234000号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ストレスと自律神経の科学」(http://hclab.sakura.ne.jp/)令和3年2月1日確認。
【非特許文献2】「心拍揺らぎによる精神的ストレス評価法に関する研究」(ライフサポートvol.22 No.3 2010)松本佳昭・森信彰・三田尻涼・江鐘偉(https://www.jstage.jst.go.jp/article/lifesupport/22/3/22_105/_pdf)令和3年2月1日確認。
【非特許文献3】「Rapid Response System(RRS)-日本臨床救急医学会」藤原紳祐・児玉貴光・安宅一晃・中川雅史・藤谷茂樹(https://jsem.me/pdf/about_rrs_1301110.pdf)令和3年2月1日確認。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直接管理が及び難い隔地の作業現場で過酷作業に従事する作業者に関し、管理者が担う労務管理(就労管理)と心身両面での労働安全衛生管理(健康管理)の両業務について、その適正かつ効率的な執行を効果的に支援するための健康管理システム、それに使用するプログラム等を提供することが本発明の課題である。
熱中症予防やストレス評価に関しては、前記の特許文献のように様々な提案がなされてきたが、熱中症など大きな健康リスクが顕現する前には、作業者本人の自覚の有無を問わず、過剰な負荷が心身両面で継続的に蓄積されているものである。リスク上昇の微小な予兆を作業者の個人差にも対応しながら可能な限り初期段階で感知して、リスクの顕現を未然に防ぐ必要があるが、このような課題が従来技術によって解決されたとは考え難い状況にある。
更に、高度な労働安全衛生管理体制の構築とその継続維持が要求される新国際規格(ISO45001)の施行により、作業者の就労状況と心身両面の健康状況とを従来以上に適切に管理しようとする機運が高まる中で、これらの管理業務を総合的に支援し、管理者と作業者の双方で取り扱いが容易で、利便性が高い健康管理システムは実現されていない。
このようなことから、作業者の健康状態に悪影響を及ぼす過剰な負荷の増大が予測される際には、これまで以上にきめ細やかに作業負荷を判定して警告を発令できるなど、リスクの顕現を未然に防止でき、管理者を労務管理及び心身両面での労働安全衛生管理の両管理業務において統合的に支援し、労使双方が使い易い健康管理システムを実現することが、本発明が解決すべき課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題解決の手段となる本発明は、次のような生体情報センサを利用した健康管理システム、及び、それに用いる作業負荷判定プログラムとなる。
健康管理システムは、センサ、ゲートウェイ端末、サーバが、アプリケーションソフトウェア(以下、「アプリ」という。)により協働するものであり、必要に応じて、ユーザーインターフェースを向上させて、利用者の情報取得とその理解を支援するための情報可視化システムが組み込まれる。
センサは、センサ装着者の深部体温(C=Core・Temperature)、心拍数(H=Heart・Rate)、ストレス指数(L=LF/HF)、呼吸数(R=Respiratory・Rate)に係る生体データを取得して、これらを含む諸データをゲートウェイ端末に経時的に送信する。ゲートウェイ端末は、受信した生体データを時系列データとして解析処理し、各々の所定単位時間当たりの移動平均値とし、センサ装着者がゲートウェイ端末から入力する就労データ等と共に、サーバに送信する。サーバは、これらの生体データに係る所定単位時間当たりの移動平均値と就労データを含む諸データを受信し、センサ装着者毎に識別コード(ID)と紐付けて管理する。そして、インターネット等の情報通信ネットワーク経由で本システムにアクセスするシステム利用者に対し、アクセス用端末のブラウザ上において、センサ装着者毎の生体データや就労データ等の諸データが照会可能なウェブページを提供する。
これに加えて、サーバには、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る評価点を決定する比較値を定めた項目評価表を備えたアプリが設定されている。そして、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)毎に、所定時間前と現在時の移動平均値を比較して得た変化率を項目評価表に基づき評価点に換算し、併せて、呼吸数(R)の所定時間前における移動平均値と設定された基準値とを比較して得た差数を項目評価表に基づき評価点に換算する。次に、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)の4種の評価点を合計した警告点数を得て、これが第一閾値を超えるときに第一警告データをゲートウェイ端末とアクセス用端末とに送信し、警告点数が第二閾値を超えるときに第二警告データを送信する。即ち、センサ、ゲートウェイ端末及びサーバが、アプリによって協働することで、本システムの作業負荷判定機能が実行される。
また、よりきめ細かくリスクの上昇を前段階で予測して、その顕現を未然に防止するため、この作業負荷判定に緊急通知の機能が付加される。深部体温(C)及び心拍数(H)に関し、これらの移動平均値の動きが増加又は減少のいずれか同じ傾向で連続して確認される際に、各々の評価点に加点(又は、仕様により「警告点数」に直接加点する。以下同じ。)を行う。更に、同傾向の変動が所定回数を超えて連続する場合には、ゲートウェイ端末とアクセス用端末に第二警告データを送信する。また、センサ装着者の姿勢データを取得して、これが横臥状態を示す情報として継続的に確認されて所定時間を超える場合には警告点数への加点を行う。また、呼吸数(R)の移動平均値が所定の回数を超える場合にも評価点への加点を行う。
そして、本システムは、これらの緊急通知の他にも、より安全を重視した発令とするため、若しくは、作業内容に対して過剰と考えられる警報発令を抑制するために、警告発令に係る作業負荷判定を調整するものとして、作業時の運動強度に基づく補正機能を搭載する。即ち、センサ装着者の年齢に対応して設定される最大心拍数と実際に計測された心拍数(H)とから運動強度を算定し、その運動強度の所定単位時間当たりの移動平均値の変化率が増加傾向で所定回数連続し、かつ、呼吸数(R)の移動平均値の変化率が減少傾向で同じ所定回数連続するときに、1を超える所定の係数を前記評価点に乗じる補正処理が行われる。なお、運動強度には、最大心拍数を利用する方法の他にも、予備心拍数又は酸素摂取量に基づく算定方法が存在するが、以下では最大心拍数に基づく運度強度を例にとり説明する。
【0007】
また、本システム用の作業負荷判定プログラムは、次のようなプロセスによる情報処理を実行する。
始めに、センサ装着者の深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に関する4種の生体データから各々の時系列データを得る第一過程と、その時系列データから各々の所定単位時間当たりの移動平均値を得る第二過程がある。次に、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)の各々については、所定時間前と現在時とにおける移動平均値を比較して得た変化率を項目評価表に基づき評価点に換算し、これらの換算処理と併せて、呼吸数(R)については、設定された基準値と所定時間前における移動平均値とを比較して得た差数を項目評価表に基づき評価点に換算する第三過程がある。そして、第一から第三までの同期化されて連続的に実行される諸過程において得られる深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る4項目の評価点を合計して得た警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告を、更に、第二閾値を超えるときに第二警告を発令する第四過程を備えた作業負荷判定プログラムである。
そして仕様によっては、深部体温(C)と心拍数(H)に関し、それらの移動平均値の変化率が増加又は減少のいずれか同じ傾向が連続して所定の回数となるときに各々の評価点に加点を行い、更にその連続する回数がより上位に定められた所定回数を超える際に第二警告を発令する第五過程がある。また、センサ装着者から姿勢データを得て、これが横臥状態を示す情報として連続的に確認され、それが所定時間を超えるときに警告点数に加点を行う第六過程がある。更に、呼吸数(R)の移動平均値が所定の回数を超える場合に評価点に加点を行う第七過程を備えた緊急通知機能を有する作業負荷判定プログラムとなる。なお、第五過程から第七過程までのプロセスは、第三過程及び第四過程の作業負荷判定と同期化されて実行される。
更に、センサ装着者の年齢に対応して予め設定された最大心拍数と、センサが測定した心拍数(H)とから、作業時における運動強度を解析して、その運動強度の所定単位時間当たりの移動平均値の変化率が増加傾向で所定回数連続し、同時に、呼吸数(R)の移動平均値の変化率が減少傾向で同じ所定回数連続するときに、1を超える所定係数を評価点に乗じて行う補正プロセスとしての第八過程を備えた運動強度補正機能を搭載する作業負荷判定プログラムである。
また、本システムの作業負荷判定において解析処理される健康管理システム用のデータ構造については、データ集積表と項目評価表の継続的な精度向上において利用される。
【発明の効果】
【0008】
本システムは、センサ装着者である作業者Wの健康状態をリアルタイムにモニタリング管理できると共に、心身両面での過剰負荷を多面的に分析して、予測が難しい熱中症を含む心身変調の予兆を捉え、可能な限り前段階でそれらのリスクの顕現を未然に防止する。
併せて、身体面のみならず、心身両面での労働安全衛生管理を支援することで、新たな国際規格に適合する健康管理システムとなり、更に労使双方の報告や確認などの煩雑な事務手続を含む労務管理も簡素化されて統合されるため、これらの両管理業務を効果的かつ効率的に継続実施することを可能とする。
警告発令に係る作業負荷判定に関しては、身体的要因の影響が大きい深部体温(C)と心拍数(H)を評価項目の柱とすることに加え、精神的要因が身体面にも影響を及ぼしている生体データとしてストレス指数(L)や呼吸数(R)を併用し、多面的な評価項目に基づく判定を行う構成となっている。更に、緊急通知や運動強度補正により、従来以上にきめ細やかな判定を行うことが可能なものとなっている。
そして、項目評価表とデータ集積表の連携の下に、環境や内容が異なる作業の形態毎や、個人差を有する作業者毎にも対応させることが可能な拡張性の高い作業負荷判定機能とした。また、本システムに大規模に集積されて関連付けられた健康管理システム用のデータ構造に基づき、作業負荷判定機能の継続的な精度向上が実現できる健康管理システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】システムの全体構成の概要である。
図2】システムで取り扱われるデータの例である。
図3】生体データ解析処理の流れである。
図4】作業負荷判定プログラムの概要である。
図5】項目評価表の例である。
図6】データ集積表の例である。
図7】ホーム画面の例である。
図8】ユーザー管理メニュー画面の例である。
図9】作業場所管理メニュー画面の例である。
図10】作業内容管理メニュー画面の例である。
図11】測定パラメータ管理メニュー画面の例である。
図12】勤怠設定メニュー画面の例である。
図13】メール設定メニュー画面の例である。
図14】ゲートウェイ端末の作業開始画面の例である。
図15】ゲートウェイ端末の作業画面の例である。
図16】ゲートウェイ端末の深部体温画面の例である。
図17】警告確認画面の例である。
図18】作業ビューアー画面の例である。
図19】センサ情報画面のグラフ表示部の一部である。
図20】センサ情報画面のデータ表示部の一部である。
図21】作業管理画面の例である。
図22】労務管理帳票(勤務表)の例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を用いながら本発明の説明を行う。
図1は、情報ネットワークシステムを成す本システムの基本的構成を示している。ネットワークの両端部には、広義のシステム利用者として、管理者Mと作業者Wの両者が表示されている。左下の作業者Wは、センサ1を身に付けたセンサ装着者であり、ゲートウェイ端末2を操作する。左上の管理者Mは、管理業務に関して本システムによる直接的支援を受ける狭義のシステム利用者であり、作業者Wと離れた場所でアクセス用端末5を操作する。
作業者Wの典型は、管理者Mの直接支配を離れ、空調設備も無い炎天下や極寒の屋外や、心身両面のストレスが過大になる閉鎖空間など、過酷な労働環境下で現場作業に就労する者である。建設工事や警備等の作業、更には原子力発電所の廃炉作業等の従事者は雇用形態の違いを超えてこれに該当し、様々な職務を担う多様な職層の作業者Wが存在する。管理者Mは、作業者Wの労務や労働安全衛生を含む事業全般の管理業務に携わる者であり、経営者の他にも中間管理職やその職務を補助する者なども含まれる。
両者は共に、多様な職務を担って異なる階層に属する者が数多く併存し得るため、本システムの利用者である作業者Wと管理者Mとは、単独者同士の一対一の関係ではなく、複数の当事者が相互に関連し合う多対多の関係にある。
【0011】
本発明に係る健康管理システムでは、センサ1、ゲートウェイ端末2及びサーバ3が協働するが、システムの仕様により、機能向上ツールとして情報可視化システム4が組み込まれる。図1で、作業者Wが装着するセンサ1は、生体データ取得用の微小な端末である。ゲートウェイ端末2は、センサ1と協働して機能する情報処理用の携帯端末である。それらは共に作業現場で作業者Wが操作する。作業現場から離れた場所に設置されるサーバ3は、データの解析処理や管理等を担い、データベース機能を有する。これと協働する情報可視化システム4は、ユーザーインターフェースの向上を図ると共に、データの利用価値を高めるための視覚的情報処理、所謂、ビジュアライズ処理を担う。但し、多くの場合、サーバ3と情報可視化システム4は機能的に一体化される。アクセス用端末5は、本システムが提供する支援サービスを利用するため、管理者Mがサーバ3とのデータ通信に使用する情報端末である。管理者Mは、作業現場から離れた管理事務所等でこれを操作して、本システムにアクセスする。
これら5つの装置のうち、本システムを構成する機器は、センサ1、ゲートウェイ端末2、サーバ3及び情報可視化システム4である。いずれもハードウェアと本システム用のアプリケーションソフトウェアが協働するシステムとして、作業者Wから取得した生体データ等の情報処理を実行する装置になる。なお、以下でも折に触れて述べるが、各装置の性能を考慮して本システムの最適な仕様を決定するため、データ解析処理を各装置間で適宜に機能分担させることが考えられる。従って、本システムのバリエーションとして、各装置間での機能分担が異なる仕様や、例えば、ビジュアライズ処理機能の一部を省略した仕様などに変更することも予め想定されている。
【0012】
作業者Wは、現場作業の開始にあたり、体温や心電等の生体データを取得可能な胸部付近にセンサ1を装着する。センサ1は超小型で軽量な設計であるため業務に支障は生じないが、必要に応じて装着用の固定装具を用いる。センサ1を装着後、作業者Wがゲートウェイ端末2の初期操作を行い、センサ1は就労中の作業者Wから複数の生体データを取得し、無線通信を介してゲートウェイ端末2へ送信する。この時、生体データと併せてセンサ1が取得した歩数等の活動データ、温度等の環境データも送信される。
センサ1が送信したデータは、その現場においてゲートウェイ端末2が受信する。ゲートウェイ端末2は、データの入出力や送受信及び処理や管理の機能を備えた携帯が容易な小型端末であり、本システム用のアプリを搭載する。作業者Wは、ゲートウェイ端末2で受信データや通信状況を確認でき、作業開始等の就労データや体調等の報告データもこれを用いて入力する。センサ1が取得してゲートウェイ端末2に送信した生体データを含む諸データと、作業者Wがゲートウェイ端末2で入力した就労データ等は、情報通信ネットワークを経由して、作業現場から隔地に設置されたサーバ3に送信される。この時、ゲートウェイ端末2は、例えば、生体データを1分間の移動平均値に変換し、センサ1とサーバ3の間でデータの流れを整える。
【0013】
サーバ3は、複数の作業現場から複数のゲートウェイ端末2によって送信される大量のデータを受信する。それらのデータは、その種類に応じた解析処理が行われ、適時に利用可能なデータ群として、データベースで管理される。本システムの仕様により、主としてサーバ3では、段階的かつ過程の一部では同時並行的な生体データの多面的な解析処理が行われる。その際に、作業者Wが無意識下で継続的に受容している心身両面の作業負荷に関しても、複数のプロセスに分岐された解析処理が実行される。そして、必要な場合においては、管理者Mや作業者Wに対し、リスクが高い過剰な負荷状態を知らしめるため、段階的な警告が発令される。また同じく、システムの仕様にもよるが、サーバ3と機能的に一体化されて、アプリに組み込まれた情報可視化システム4において、情報提供の際のビジュアライズ処理が行われる。
解析処理を経てサーバ3に集積された就労や健康に関する諸データは、予め設定された処理条件に従い、又は、ゲートウェイ端末2やアクセス用端末5からの個別の要求に応じて、管理者Mや作業者Wに提供される。管理者Mは、アクセス用端末5でインターネットに接続し、ウェブ上のログイン画面から本システムにアクセスする。そのため、管理者Mは、インターネットに接続可能な環境下であれば、管理事務所外においても本システムにアクセスすることが可能である。管理者Mは隔地で就労している作業者Wの状況についてリアルタイムに確認することができ、作業者Wも自己の健康状態や過剰負荷の状況を知ることができる。
【0014】
本システムの構成要素となるセンサ1、ゲートウェイ端末2、サーバ3及び情報可視化システム4と、管理者Mが本システムとの接続に用いるアクセス用端末5について個別に説明を行う。
一つ目の構成要素はセンサ1である。これは、本システムで主な解析対象となる生体データ、即ち、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る生体データを作業者Wからセンシングデータとして取得し、各データをゲートウェイ端末2に時系列順に送信する。センサ1は、所謂、生体情報センサと称される装置であり、生体データを確実に取得できるように、本システム用に専用開発した固定装具を利用するなどして、センサ1の電極を作業者Wの胸部に密着させて装着する。日進月歩で小型化と高機能化が進み、心臓の活動を心電図として可視化するため、心電の連続取得が可能な製品が提供されている。多機能・高機能なセンサ1は、心電の他にも、体表温度等の生体データを作業者Wから直接取得でき、更には、こららの一次的な生体データに解析処理を加えて、深部体温(C)や心拍変動(「心拍揺らぎ」とも言う。以下、「心拍変動」で統一する。)等の二次的な生体データを得ることができる。また、同じセンサ1で、作業者Wの歩数や姿勢変化等の活動データ、作業現場の環境温度、相対湿度及び高度等の環境データを同時に取得することができる。
超小型・高機能なセンサ1の一例として、アフォードセンス株式会社(以下、「A社」という。)が提供する小型軽量で省電力タイプのウェアラブル生体センサが、本システムにおいて利用可能な端末として存在する。本出願人は、この度の開発過程において、A社による改良を経て本システム用に最適化されたセンサ1を使用し、作業現場での実証試験を実施してきた。その大きさは、「全長×横幅×厚み」がそれぞれ6cm×3cm×1cmで、重さは15g程度であり、丸みを帯びた形状として作業者Wの負担を大幅に軽減している。リチウムイオンバッテリー等による長時間の連続稼働が可能で、デジタル機器用の近距離無線通信規格の一つであるBluetooth(登録商標)を介して連続的にデータを送信できる。センサ1は、心電の解析を経て心拍数(H)、心拍間隔及び心拍変動を算出し、更に、心拍変動の解析によりストレス指数(L)を算出する。また、このセンサ1は、体表温度と熱流から深部体温(C)を推測する。なお、ストレス指数(L)の詳細については、後ほど説明を行う。
【0015】
ところで、従来の生体情報センサは情報処理能力の限界もあり、その内部で実行可能な演算処理やデータ処理量も限定的であった。そのため、処理能力の高いゲートウェイ端末2以降の装置にデータを送信し、複雑な解析の多くをゲートウェイ端末2やサーバ3に委ねることも想定される。しかし、近年のマイクロプロセッサ(MCU)改良により、必要な記憶装置と演算装置を備えて高性能になったセンサ1では、後の工程に先送りされる解析処理を前倒しして、センサ1自らが実行できる状況になっている。これにより、各装置の処理能力等を考慮して各装置に機能を分担させてシステム仕様を最適化し、センサ1の内部で必要な解析処理を施して、最小限のデータのみをゲートウェイ端末2に送信すれば良く、送信側と受信側の双方で負担を低減することができる。そのようなセンサ1の能力向上を背景に、サーバ3の解析処理の一部を更に前倒しして、ゲートウェイ端末2がその機能の一部を分担することも可能であるが、便宜上及び説明の統一性の観点から、以下においては、次のようなシステムとして説明を行う。
即ち、作業者Wがゲートウェイ端末2を操作し、センサ1とゲートウェイ端末2の接続が確立され、ゲートウェイ端末2とサーバ3の接続も確立され、本システムを構成するセンサ1、ゲートウェイ端末2及びサーバ3の間でデータ通信が可能になる。センサ1が取得し、ゲートウェイ端末2に送信された生体データは、ゲートウェイ端末2のアプリで解析処理が行われ、サーバ3に送信される。この解析処理の一例としては、センサ1から連続的に送信される生体データを受信してゲートウェイ端末2の記憶領域に一時保管し、1分間移動平均値の時系列データに換算し、通信データを整えると共にデータ総量も軽減したうえでサーバ3に送信する。これは、センサ1からサーバ3までの間で解析処理を最適に分担させ、データの流れを効率化すると共に、データが大規模に集積されるサーバ3の負荷を軽減する意味を持つ。なお、サーバ3におけるデータ集積に関しては、管理者Mが必要なデータを定期的にアクセス用端末5にダウンロードできる仕様とし、旧いデータから順次に削除することにより、更に負荷軽減を図ることもできる。そして、サーバ3が、多数のゲートウェイ端末2から送信される生体データに基づき、アプリに搭載された作業負荷判定機能により作業者Wの作業負荷を推測し、ゲートウェイ端末2やアクセス用端末5に対して、必要に応じて警告を発するシステムとして説明する。
【0016】
本システムの二つ目の構成要素は、ゲートウェイ端末2である。センサ1を装着した作業者Wは、ゲートウェイ端末2で初期操作を行い、センサ1とゲートウェイ端末2をペアリングし、センサ1からサーバ3までのデータ通信経路を確立する。ゲートウェイ端末2は、センサ1から送信された生体データを経時的に受信して解析し、各々の生体データについて所定単位時間当たりの移動平均値とし、作業者Wがゲートウェイ端末2から入力する就労データと共にサーバ3に送信する。作業者Wは、センサ1と共にゲートウェイ端末2を各々に携行するが、センサ1のように身体に直接装着するものではなく、センサ1と通信可能な範囲内で管理されれば良い。ゲートウェイ端末2はGPSを内蔵するため、作業者Wの現在地や移動経路を把捉することができる。
本システム用の専用端末でも良いが、コスト低減や携行の利便性などを考慮して、社会で汎用されるスマートフォンやタブレット等の小型情報通信端末を活用でき、iOSやAndroid(登録商標)等のOS上で稼動する専用アプリが組み込まれる。なお、アプリの操作と動作及びその機能についても、本システムの具体的な利用方法として後ほど説明する。
作業者Wは、開始時刻や終了時刻など作業の従事状況を管理者Mに報告するため、ゲートウェイ端末2から就労データを入力する。入力された就労データはサーバ3に送信されて生体データとも紐付けされて、サーバ3で管理される。作業者Wは、センサ1との通信状況や受信した生体データをゲートウェイ端末2で確認でき、サーバ3から発令される警告等を確認する際にも用いられる。作業者Wは、管理者Mと行う様々な業務連絡にも、ゲートウェイ端末2を使用することができる。
【0017】
三つ目の構成要素は、多くの場合で複数のゲートウェイ端末2やアクセス用端末5と、インターネット等の情報通信ネットワークを介して接続されるサーバ3である。このサーバ3はデータベース機能を有し、ゲートウェイ端末2で所定の単位時間当たりの移動平均値の時系列データとされた生体データや、ゲートウェイ端末2で入力された就労データ等を受信する。大量に受信された諸データは、サーバ3で解析されて作業者W、即ちセンサ装着者毎に管理され、個別の生体データや就労データ等を適宜に照会できるウェブページを提供する。そして、予め設定された処理条件に従い、又は、管理者M等の要求に対応して、データが蓄積されたデータベースから必要な情報を抽出し、アクセス用端末5に表示可能なデータとして、或いは、プリンタ等で印刷可能なデータとして送信する。
また、本システムは、生体データの解析で得た時系列データとサーバ3の作業負荷判定機能とにより、作業者Wの心身両面での作業負荷状態をリアルタイムで推測し、過剰負荷に関する注意勧告(YA=Yellow-Alert)や危険告知(RA=Red-Alert)に係る警告データを作業者Wや管理者Mに送信する。なお、各装置に組み込まれるアプリで処理されるデータの種類や解析処理の概要については、データの例示及びデータ処理の流れとして改めて説明する。
このサーバ3は、個別の企業内に設置されるほか、立地場所と異なる隔地に置かれることも、複数企業の多数の作業現場を集中管理する目的で共同設置することも可能である。本システムの利用者となる管理者Mや作業者W、サーバ3を介して接続されるゲートウェイ端末2やアクセス用端末5とは、一企業等の利用者や端末である他にも、各々が異なる組織に属する利用者である場合や、各組織が個別に管理する端末である場合がある。本システムは一組織の枠を超えて複数企業等が共用可能な健康管理システムとなり得るもので、サーバ3も大規模なデータを一括管理するデータセンタとして設置され、本システムに係る健康情報管理サービスをクラウド上で提供することも可能である。
【0018】
本システムによる健康情報管理サービスを提供する際に、ユーザーインターフェースの向上を図り、管理者Mの迅速かつ適確な情報取得と理解を支援する機能向上ツールとして、情報可視化システム4を組み込むことができる。この一例としては、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールとして既に実用化済みのアプリを一部改変するなどして利用することが可能である。これにより、サーバ3と共に情報可視化システム4が機能して、管理者Mの要求に対応して、本システムが提供するウェブ空間上に作業者Wの生体データの解析処理の結果などを見易く可視化してくれる。
その具体例としては、多数の作業者Wが複数の現場で作業を行っている場合、アクセス用端末5に画面表示される地図には、ゲートウェイ端末2のGPSデータに基づく作業者タブが個別に表示され、管理者Mは作業者Wや作業現場の位置等を即時に把握できる。また、リスト表示された作業場所タブをクリックすると、その現場を含む周辺地図が直ちに画面表示される。更に、リスト表示されたセンサ情報タブをクリックすると、作業者W毎の生体データがグラフや一覧表として見易く表示されるものである。
【0019】
管理者Mが本システムにアクセスして情報を入手し、作業者Wの状況をリアルタイムにモニタリング管理するために用いる端末が、アクセス用端末5である。既に社会に広く普及した汎用のパーソナルコンピュータやタブレット等を使用でき、必要な仕様を満たす限り機種等が限定されるものではない。管理者Mは、アクセス用端末5をインターネットに接続し、ウェブ上のログイン画面からIDとパスワードを入力して本システムにアクセスする。従って、適切な通信環境下にあるタブレットやスマートフォンであれば、管理事務所の外部でアクセスすることも可能である。
通常、このような端末は、入出力装置・記憶装置・演算装置・送受信装置を予め備え、又は、事後的な追加や接続が可能である。そのため、アクセス用端末5では、ゲートウェイ端末2やサーバ3から送信される生体データや就労データなどがモニタにグラフ化されるなどして見易く表示され、データのダウンロードや保存ができる。また、作業負荷判定を経て送信された警告を、管理者M等が確実に認知できるように視覚的(画像等)及び聴覚的(音声等)に出力するなど、データ特性に適した情報処理が実行される。管理者Mは、労務や労働安全衛生の管理業務において、それらのデータが必要となる場合には、勤務表や記録簿等の帳票としてプリンタから出力し、閲覧や保管を行うことが可能である。
【0020】
本システムが取り扱う主なデータを図2に例示する。左側に示した作業者Wの生体データが解析処理の核になるデータである。
体温に関する情報としては、センサ1が直接接触する皮膚表面の体表温度の他に、外気温等の影響が少ない深部体温(C)が考慮され、本システムでは後者を重視する。深部体温(C)は鼓膜部や直腸部等で計測される数値にその変動の傾向が近く、これらの数値に補正を加えて推測することできるが、作業の支障にならないように、センサ1で計測した体表温度と熱流を基に換算処理を行って推定することもできる。
センサ1は、心臓の活動状態を表す心電を取得し、これを基に心拍数(H)や酸素摂取に関わる呼吸数(R)等も解析する。後にも述べるが、心電の解析処理で心拍数(H)や心拍間隔を得ることができるほか、心拍変動に関する情報を得ることもできる。更に、センサ1は、心拍変動を解析することにより、自立神経のバランス指標とされ、作業者Wの心身両側面での負荷状況に関係するストレス指数(L)を得ることができる。これらの解析処理はセンサ1で実行可能だが、他の装置に機能分担させることも可能である。
単位時間あたりの呼吸数(R)は、呼吸間隔の逆数として理解され、作業者Wの酸素摂取が通常通りに行われているかを判断する指標になり得る。心身の過剰なストレスが過呼吸として症状化するように、この呼吸数(R)もストレス指数(L)や心拍数(H)と同様に心身両面での負荷の影響を受けやすい。A社製のウェアラブル生体センサでは、作業者Wから体表温度や心電を直接計測し、搭載されたリアルタイム組み込み信号処理アルゴリズムによる解析処理で、本システムで必要なこれらの生体データを即時に得ることが可能である。センサ1で取得された生体データは、ゲートウェイ端末2に連続的に送信され、以降の情報処理過程で解析されて利用される。
【0021】
また、前記の生体データ以外にも、センサ1が取得してゲートウェイ端末2に送信する活動データや環境データがあり、その他にも、センサ1の通信状態や電池残量等の機器データが存在する。活動データは、センサ1に内蔵される加速度センサ等で計測されるが、作業者Wの移動状況を表す歩数や、起立又は横臥等の起居状態を含む姿勢に関わる情報などである。環境データは、作業現場やセンサ1近傍の環境温度・相対湿度・気圧・高度などである。作業者Wは、酷暑等の影響を常に心身で受容し、作業負荷にもその影響は及んでいる。センサ1で計測される温度等の数値は作業服内の数値であるが、防護服着用が義務付けられる過酷環境下では、他の条件下と比べて高めの数値になる。熱中症の危険性を示す暑さ指数(WBGT値)も環境データであるが、取得した他の環境データから解析できるほか、電子情報提供サービスやメール配信サービスによってインターネット経由でも取得可能である。
更に、センサ1で取得されるデータ以外にも、作業者Wがゲートウェイ端末2から入力する就労データや報告データがある。
【0022】
図3に、データの流れの概要について、主な生体データに焦点を絞り、解析処理の流れとして図示した。本システムでデータ解析の基礎になる心電や体温に関しては、センサ1とゲートウェイ端末2とが連携しながら、同時かつ並行して複数の解析処理が実行される。その他の生体データ・活動データ・環境データ・就労データ・報告データについても、設定された解析手順に従って、各々に必要な情報処理が行われるが、以下の説明が煩雑となるため、これらの詳しい説明は省略する。
始めに、センサ1でのデータ処理の流れである。
ゲートウェイ端末2とペアリングされたセンサ1により、作業者Wの身体から生体データが取得される。両デバイスに搭載されたアプリが協働することで自動的かつ継続的に取得され、本システムでデータの流れの初発となる位置にある。センサ1で取得される生体データは、秒単位など等間隔で計測される単発的なデータであるが、経時的に取得されて記録され、時系列データとして利用される。
生体データの中で重要な情報が心電である。センサ1は、作業者Wの心拍活動、具体的には心筋の収縮活動に伴い発生する微弱電流を体表面から検出して増幅する。得られた心電データを時系列に沿いグラフ化すると心電図が得られ、これは心拍数(H)と心拍変動を解析する際の基礎データとなる。
その後、図3の上方に示す心拍数(H)の解析手順と、その下方に示す心拍変動の解析手順とに分岐され、これらの手順は同期化されて同時並行的な解析処理が行われる。
【0023】
図3の心拍間隔から上方に分岐した心拍数の解析について説明する。
心電の時系列データでは、心電図グラフの山や谷になる部位が大小様々に現れる。それらは心臓の活動状況と連動した波形成分を示すものとして、波形の部位毎にP波・Q波・R波・S波・T波・U波などの名称が付されている。例えば、R波は心室の興奮を示すQRS波の途中に見られ、心室の急激な収縮活動により心臓から全身に血液を送り出す際に発生する電気信号とされ、心電図の中で最も鋭いピークを描く。一般的には、R波の発生時刻とその直後のR波の発生時刻との時間差を算出して心拍間隔(RRI=RR・Interval)とされ、心拍間隔から単位時間内の心拍数(H)を得ることができる。
【0024】
次に、図3の心拍間隔から下方に分岐した心拍変動の解析について説明する。
前記の心拍間隔(RRI)は常時一定ではなく、心拍変動と呼ばれる周期的な変動を有している。その事例となるグラフが非特許文献1、非特許文献2のFig.8等に示されている。時間経過に沿って心拍間隔(RRI)は上下に細かく変動し、その心拍変動は平静な活動状態でも観察される一方で、心身両面で過剰負荷が掛かり自律神経のバランスが崩れると心拍変動に異常が生じる。非特許文献1によると、心拍変動の要因として、自律神経との関連が従来から指摘され、呼吸と同じ周期を持つ変動成分の寄与と、血圧変動と同じ周期を持つ変動成分の寄与という2つの要因があるとされる。自律神経が正常に機能している場合、呼吸と同期した変動と血圧と同期した変動とが共に心拍変動に現れ、自立神経機能に異常がある場合、呼吸と同期した変動が失われるものと考えられている。この心拍変動の解析により、作業者Wが無意識下で受容している心身両面でのストレスを傾向的に把捉できる可能性があり、本システムでは、この心拍変動の有効活用にも着目している。
【0025】
更に、本システムは、心拍変動に関するデータを基に、心拍変動の構成に寄与する高周波成分(HF成分)と低周波成分(LF成分)を解析する。非特許文献1でも述べられたように、本システムは、心拍変動の時系列データから周期構造を抽出するためにパワースペクトル密度(PSD)の解析を行う。得られたパワースペクトル密度(PSD)によって心拍変動の周期構造を把握でき、自己回帰モデル等を用いてパワースペクトル密度(PSD)を解析すると、自立神経機能バランスの指標とされる二つの変動成分を得ることができる。即ち、高周波成分(HF成分)及び低周波成分(LF成分)であり、呼吸変動に対応した高周波成分(HF成分)は、副交感神経が緊張して優位となる時(リラックス時)にのみ心拍変動に現れる。一方、血圧変動に対応した低周波成分(LF成分)は、交感神経の緊張時(ストレス時)にも、副交感神経の緊張時(リラックス時)にも心拍変動に現れる。そのため、高周波成分(HF成分)と低周波成分(LF成分)の比率(LF/HF)をストレス指数(L)とすることが従来から提案されてきた。
【0026】
図3の下方に示した体温の解析について説明する。
センサ1は作業者Wの体表温度及び熱流を計測する。センサ1の仕様に対応して設定される演算式により、体表温度に換算処理を行った後の推定値として深部体温(C)が解析される。この解析処理も前記A社製の生体情報センサで既に実用化されている。
なお、深部体温の取得については、作業の支障にならない範囲内であれば、センサ1の仕様を変更し、作業者Wの体内部位から直接計測した数値に補正を加えるなどして得ることも可能である。
呼吸数(R)に関しても、前記の生体情報センサによるデータ取得が既に実用化済みである。心拍変動の周期構造を把握するためのパワースペクトル密度(PSD)解析から、呼吸変動に対応する高周波成分(HF成分)を得て、作業者Wの呼吸数(R)を推定することができる。
そして、センサ1による生体データの取得と解析によって得られた深部体温(C)、心拍数(H)、呼吸数(R)及びストレス指数(L)に係る各データは、センサ1からゲートウェイ端末2へと、無線通信を介して経時的に送信される。
【0027】
センサ1から送信された生体データを受信したゲートウェイ端末2は、サーバ3へ転送する際に、通常の時系列データから、移動平均値の時系列データに変換したうえでサーバ3へ送信する。これには、センサ1からサーバ3へと流れる生体データを整流すること、及び、特に比較的大きく変動しやすい傾向がある心電の解析に基づく各データを平均化することにより、特異値の影響を回避して警告判定の安定化を図る目的がある。加えて、データが大規模に集積されるサーバ3への負荷を低減する目的もある。
【0028】
サーバ3が受信した深部体温(C)、心拍数(H)、呼吸数(R)及びストレス指数(L)の4種の生体データは、作業者Wの健康状態をモニタリング監視する際の基礎データとされ、過剰な作業負荷に関する警告発令の要否判定を行う際にも利用される。
図4に基づき、サーバ3に搭載されて、警告発令の要否についての判定を行うデータ処理手順である作業負荷判定プログラム、即ち、警告点数アルゴリズムを含む情報処理の概要について説明する。
本システムのアプリには、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る評価点を決定するための比較値が設定された図5のような項目評価表が備えられている。
本システムの作業負荷判定においては、移動平均値として時系列化された4種の生体データと、図5に例示した項目評価表とに基づき、サーバ3では、深部体温(C)、心拍数(H)、呼吸数(R)及びストレス指数(L)という4つの評価項目毎の評価点を決定する。更に、それらを合計した警告点数を算出し、その警告点数と警告発令の判定基準となる2つの閾値とを比較することで警告発令の要否判定を行う。その手続が、図4の中央に示した警告点数アルゴリズムである。
【0029】
この警告点数アルゴリズムに関しては、実際の警備等の作業現場で実証試験を実施してきた中で、項目評価表の評価項目として採用する生体データの多面性と、各々の評価項目において評価点の加点基準となる変化率、即ち図5の比較値の設定について検討を行ってきた。そして、それらの設定によっては警告発令に偏りが生じ、作業者Wからの聴取により実際に受容していると推測される作業負荷のレベルとは乖離した不適当で過敏すぎる警告発令が多発してしまう問題点に気が付いた。
そのような問題点を踏まえ、評価項目の選定については、深部体温(C)、心拍数(H)、呼吸数(R)及びストレス指数(L)という4種の生体データを選定し、それらの単発的なデータではなく、移動平均値の時系列データによって判定を行うものとした。また、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)の3種の評価項目には、比較対照の基準とする固定的な数値は設けずに、例えば、1日単位で周期的に繰り返される作業時間軸の中で、生体データを相互に相対評価すべきとの考えに想到した。そのため、この警告点数アルゴリズムは、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)の各々に関しては、所定時間前と現在時における移動平均値を比較して得た変化率を項目評価表に基づき評価点に換算する。併せて、呼吸数(R)に関しては、設定された基準値と所定時間前における移動平均値とを比較して得た差数について、項目評価表に基づいて評価点に換算するものとなっている。
【0030】
本システムのアプリにおいて、警告点数アルゴリズムで参照される項目評価表に関して、図5に具体的な比較基準や評価点を評価項目毎に例示している。深部体温(C)については、15分前と現在時の両時点における1分間移動平均値を比較した変化率によって評価点を決定するものとしている。ストレス指数(L)に関しては、深部体温(C)と同様に、15分前と現在時とを比較した1分間移動平均値の変化率から評価点を決定し、心拍数(H)に関しては、3分前と現在時での1分間移動平均値の変化率により評価点を決定する。他方で、呼吸数(R)については、予め設定された回数を基準値とし、これと3分前の1分間移動平均値とを比較して評価点を決定する。
項目評価表においては、深部体温(C)を5段階として評価点の重みを大きくし、心拍数(H)の加点基準の最小値(15%)をストレス指数(L)のそれ(30%)よりも小さく設定し、心拍数(H)の次にストレス指数(L)の相対評価へと続いている。そして更に、呼吸数(R)の絶対評価へと続く項目評価表の構成には、ストレス指数(L)と呼吸数(R)の二つの評価項目によって、深部体温(C)と心拍数(H)による評価を補足する意図がある。即ち、作業負荷をきめ細かく評価するため、身体的影響に直結する深部体温(C)及び心拍数(H)の変動をより重視しつつも、精神的要因が心身両面の負荷としても反映されやすいストレス指数(L)及び呼吸数(R)を併用することで、多面的で現実的な評価を実現するものである。この場合において、ストレス指数(L)は比較的不安定で変動幅も大きく、加点を決める際の比較値の幅(50%)も心拍数(H)のそれ(35%)と比較して大きい数値とした。呼吸数(R)は概ね正常値として許容されることが多い1分間の呼吸数が9回から20回までとその幅が広く、他の評価項目よりも比較的落ち着いた変動を示すものでもあるため、予め基準値として設定される数値と比較する絶対評価とした。図5の呼吸数(R)の基準値は、非特許文献3等のRapid Response System(RSS)におけるスコアリングシステムの数値を参考にして1分間に15回としてあるが、本システムでは、これを含めた項目評価表に設定された比較基準、比較値及び閾値については、必要に応じて変更することができる。
このようにして、作業者Wの健康状態をモニタリング監視する際の基礎データの一つとなり、警告発令の要否判定を行う際にも利用される4種の評価点を得るまでの流れが、図4の中央に図示した警告点数アルゴリズムの前半部の機能である。
【0031】
次に、この警告点数アルゴリズムは、その後半部の機能として、深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)の4種の評価点を合計して得た警告点数を算定する。そして、その時々刻々と変動する警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告データをゲートウェイ端末2とアクセス用端末5とに送信し、更に、第二閾値を超えるときに第二警告データを送信する。
図5の項目評価表の例では、各評価項目における評価点の満点は、深部体温(C)が5点とその重みが大きく、その他の心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)は各3点である。よって、全項目が満点の場合の警告点数は14点となる。
図5の項目評価表に基づく評価点の加点については、深部体温(C)の変化率が、評価点の加点基準となる比較値0.5%に達するときに1点を加点する。更に、0.8%では2点の評価点となり、1.0%で3点、1.3%で4点、そして、1.5%以上の変化率での評価点は5点である。同様に、心拍数(H)の変化率が、比較値15%となるときに1点、25%で2点、35%に達すると3点の評価点になる。ストレス指数(L)は、30%で1点、40%で2点、50%で3点である。呼吸数(R)は、基準値である15回に2.6回を加えた17.6回の比較値に達する時に1点、18.7回で2点、20回に達する場合は3点となる。そして、この4種の評価点を集計した警告点数が、第一閾値である9点に達する際に注意勧告(YA)を発令し、第二閾値である11点で危険告知(RA)を発令する。
【0032】
そして、更にきめ細かく判断をして、リスクの顕現を未然に防止するため、図4の作業負荷判定システムに対し、警告点数アルゴリズムを補足するための緊急通知機能を付加することがある。深部体温(C)と心拍数(H)の移動平均値の変化率に関し、増加又は減少いずれか同じ傾向の変化が所定の回数続いて確認される時には、作業者Wの自覚の有無に関わらず、リスクの一方向的で急速な上昇が推測されるものとして、各々の評価点に加点を行う。また、これが著しいものであり、予め規定された上位の連続回数に達する際には、警告点数の如何を問わずに第二警告である危険告知(RA)をゲートウェイ端末2とアクセス用端末5に送信する緊急通知を実行する。具体例としては、深部体温(C)又は心拍数(H)の増加又は減少のいずれか同傾向の動きが2連続する際に評価点に2点を加点し、3連続で3点、4連続では4点を加点し、これらが5連続となる場合には直ちに危険告知(RA)を発令するような取り扱いである。なお、連続回数を監視する機能に関しては、連続時間の監視機能と同意義であり、以下及び後ほど説明する運動強度アルゴリズムにおいても同様である。
また、センサ1が取得する活動データの一つに、作業者Wが起立や横臥等のいずれの状態にあるのかを示す姿勢データがある。この姿勢データが作業者Wの継続的な横臥状態を示唆するもので、例えば、これによって所定時間の5分を超えて転倒状態の持続が推測される場合には、警告点に5点を加点する緊急通知を行う。また、安定的な傾向を示すことが多い呼吸数(R)に関し、1分間移動平均値が所定の回数、例えば25回を上回るような時には、心身両面での負荷の蓄積が推測されるため、評価点に3点を加点する緊急通知を行う。
【0033】
なお、この項目評価表で評価点の加点条件となる評価項目毎の比較値は可変的なものであり、確保すべき安全幅を考慮し、図6のようなデータ集積表に基づき決定されるが、必要な場合にはこれらの比較値の設定を適宜に変更することも可能である。
データ集積表の一例として示した図6は、熱中症の発症リスクが高まる暑さ指数(WBGT値)28℃以上の厳しい環境条件下における、複数の作業者Wの深部体温(C)の変動状況をグラフ表示したものである。右上から時計回りして左上に至るまでが作業開始から終了までの周期的な時間軸であり、複数の作業者Wの深部体温(C)の移動平均値の推移を示す折れ線が重ねてプロットされている。同じ条件下でも、作業内容の相違や個人差もあるため、深部体温(C)の変動は様々であるが、これにより深部体温(C)の推移に関する全体的な傾向性を捉え、項目評価表に基づく作業負荷判定において、安全幅を考慮する際の有用な情報を得ることができる。本システムでは、評価項目の深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)毎に、暑さ指数(WBGT値)25℃未満又はそれ以上、或いは、図6のように28℃未満又はそれ以上など、複数の異なる作業環境に対応するデータ集積表が用意される。
また、例えば、0.8(80%)や1.2(120%)などのように、異なる運動強度の作業内容に対応した複数のデータ集積表が用意される。更には、個人毎の生体データの変動状況、警告データ、作業者Wが体調異常を自覚した時や警告発令時にサーバ3経由で管理者Mに送信する報告データを紐付けて集積管理する個人毎のデータ集積表を用意することもある。アプリの仕様に応じて、複数のデータ集積表が組み込まれて、作業負荷の評価項目となる4種の生体データの変動状況と、警告点数として一元的に集約化される過剰負荷リスクとの関連性を多面的に分析し、より妥当な加点条件を決定し、これを設定及び修正する際に用いられる。
そして、本システムの仕様によっては、管理者Mがサーバ3のデータ集積表から提示される安全幅を選択することで、評価点の加点条件となる生体データの変化率、即ち項目評価表の比較値を任意に設定し変更することが可能なシステムとすることができる。例えば、暑さ指数(WBGT値)が高く危険な作業条件下で運動強度が高く厳しい業務に従事する作業者Wに関しては、所定の設定画面から最適なデータ集積表を選択することで、それと連動する適切な項目評価表に切り替えることを可能とする。また他の仕様として、生体データの変動と、それを警告点数アルゴリズム及びデータ集積表に基づきリスク評価した評価点や警告点との関連性に関し、サーバ3に集積される大規模なデータを基に機械学習を実行させ、加点条件となる比較値の設定を自動化することも考えられる。
【0034】
また図4には、警告点数アルゴリズムの精度を向上させるため、これを補正する仕組みについても図示している。本システムは、より十分な安全幅を確保した警報の発令を行わせるため、又は、作業内容に比較して過剰と思われる警報の発令を抑制するため、作業時の運動強度に基づく作業負荷判定の補正機能を必要に応じて搭載する。これは、予め作業者Wの年齢に対応して設定された最大心拍数と、センサ1で測定した作業者Wの心拍数(H)とから、作業の運動強度を算定し、その運動強度の所定単位時間当たりの移動平均値の変化率が増加傾向で所定回数連続し、かつ、呼吸数(R)の移動平均値の変化率が減少傾向で同じ所定回数連続するときに、1を超える所定の補正係数を評価点に乗じる。警告発令の緊急性や必要性を担保させるための運動強度補正機能であり、本システムにおいて運動強度アルゴリズムと称するものである。
即ち、作業時の運動強度が上昇する局面においては、一般的に、作業者Wの呼吸数(R)も運動強度に伴って増加する傾向が高い。それとは逆に、運動強度が強まる一方で、呼吸数(R)が低下し続ける状態に関しては、作業者Wの身体が運動強度による負荷上昇に適応できていない虞が強く、評価点に1を超える補正係数を乗じることで、予備的に早期の警告発令を行わせて作業者Wの安全保護を強化しようとする意味がある。なお、運動強度の高まりに伴い、呼吸数(R)の移動平均値が増加して項目評価表の比較値に達する場合には、通常の警告点数アルゴリズムによって評価点の加算が行われる。一方で、運動強度の変化率に対応して、呼吸数(R)の移動平均値の変化率がなだらかに変動している場合には、想定範囲内のデータ変動として、評価点に1未満の係数を乗じることで加点速度を緩やかにし、作業負荷の実態から乖離した過敏な警告発令が頻発する事態を回避させることも考えられる。
また、他の仕様においては、運動強度と呼吸数(R)が共に上昇傾向の局面において、これらのデータと同時に、作業者Wが横臥や静止の状態にあることを示す活動データが継続的に確認される場合にも、1を超える補正係数を評価点に乗じるものとする。更に、運動強度が下降傾向の局面で、深部体温(C)又は呼吸数(R)が上昇傾向となる場合にも、評価点に1を超える補正係数を乗じる運動強度補正機能が追加される。
【0035】
このようなことから、本発明の健康管理システムに使用する作業負荷判定用のプログラムは、基本的に次のようなものとなる。
始めに、センサ装着者である作業者Wの深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に関する4種の生体データから、各々の時系列データを得る第一過程がある。次に、その時系列データから、各々の所定単位時間当たりの移動平均値を得る第二過程がある。第三過程は、同期化されて実行される次の二つの手順がある。一つは、深部体温(C)、心拍数(H)及びストレス指数(L)毎に、所定時間前と現在時の移動平均値を比較して得た変化率を項目評価表に基づき評価点に換算する手順である。もう一つは、呼吸数(R)の所定時間前における移動平均値と設定された基準値とを比較して得た差数を、項目評価表に基づき評価点に換算する手順である。更に、第三過程で得た深部体温(C)、心拍数(H)、ストレス指数(L)及び呼吸数(R)に係る4種の評価点を合計した警告点数が、第一閾値を超えるときに第一警告を、そして、第二閾値を超えるときに第二警告を発令する第四過程を有する。
また仕様により、次のような緊急通知の過程を備えた作業負荷判定プログラムとなる。深部体温(C)と心拍数(H)に関し、それらの移動平均値の変化率が、増加又は減少のいずれか同傾向を示すデータとして連続的に計測されるときに、各々の評価点に加点を行う。そして、これが更に所定の回数を超えるときに、第二警告を発令する過程が第五過程である。また、センサ装着者の姿勢データを得て、横臥状態を示す姿勢データが所定時間を超えるときに、警告点数に加点を行う第六過程がある。そして、呼吸数(R)の移動平均値が所定回数を超えるときに、その評価点に加点を行う第七過程がある。なお、これらの過程は、第三過程及び第四過程と同期化されて同時並行的に実行される。
更に、この作業負荷判定プログラムは、センサ装着者の年齢に対応する最大心拍数と測定される心拍数(R)とから運動強度を解析し、その運動強度の移動平均値の変化率が増加傾向で所定回数連続し、呼吸数(R)の移動平均値の変化率が減少傾向で同じ所定回数連続するときに1を超える所定係数を評価点に乗じる第八過程を備えた運動強度補正機能を搭載する。
【0036】
最後に、これまで実証試験を実施してきた警備業を事例に採り、アプリの動作や機能と共に、本システムの具体的な利用方法について説明する。但し、これは一例であるため、本システムの有り様はこれに限定されない。
以下、管理所長は管理者Mであり、センサ1を装着する警備員は作業者Wとなる。
管理事務所の管理所長は、多くの警備員を束ね、労務や安全衛生の管理などの様々な業務を行っている。両者の間では指示や報告等の業務連絡が日常的に行われるが、作業現場は管理事務所から遠地にあり、始業前の警備員は必ずしも管理事務所に立ち寄らず、自宅から現場に直行して、現場から自宅に直帰することも多い。
本システムは、管理所長の管理業務の適切な遂行を支援し、警備員の健康管理を適正化するために導入され、管理所長はインターネット経由で本システムにアクセスし、提供される様々な情報を管理事務所で入手することが可能になる。警備員も管理事務所に立ち寄らずとも、現場において様々な報告等を行うことができる。
【0037】
管理所長は、自社の業務に本システムを最適化させるため、必要に応じてシステムの初期設定を行う。管理所長はインターネットに接続したアクセス用端末5でブラウザを立ち上げて、本システムのログイン画面を表示させ、IDとパスワードを入力してログインする。ログイン後、図7のようなホーム画面が表示され、「作業情報」や「警告」(図7では「警報」と表示)及び「緊急呼出」の状況を確認できる。
ホーム画面の上部には、ホームボタン(図7では「コアット」と表示)や、複数のプルダウンメニューが並び、その中のマスターメンテナンスメニューから必要な管理メニューを選択して、システムの初期設定を行うことができる。
管理所長は、図8のユーザー管理メニューでユーザー登録を行うが、識別コード(ID)・パスワード・氏名・生年月日・電話番号やメールアドレス等の連絡先・ユーザーの権限・センサ1の測定パラメータ等を設定することができる。管理所長は、更に、図9の作業場所管理メニューで作業現場の識別コードや住所等を設定し、図10の作業内容管理メニューで、例えば、事務作業・環境管理・交通誘導警備のように作業内容とそれらの識別コードを設定することになる。また、これらの作業内容については、データ集積表や運動強度アルゴリズムと関連付けられることもある。図11の測定パラメータ管理メニューでは、例えば、センサ1での生体データ取得精度を向上させるため、警備員の体型に対応した補正係数等を設定することができる。図12の勤怠設定メニューでは、勤務表などの帳票や日毎の作業時間及び休憩時間等を設定できる。図13のメール設定メニューでは、管理所長や警備員の電話番号等の連絡先、サーバ3から両者の端末に警告データを送信する際のメールアドレス等を設定する。
以上で初期設定は完了するが、これらの内容はリスト等で確認することが可能であり、設定内容の変更や削除も可能である。
【0038】
現場に到着した警備員は、作業に従事する前に、装着用固定装具によりセンサ1を自己の胸部に密着させて装着する。ゲートウェイ端末2のアイコンをタップしてアプリを起動し、ログイン画面からIDとパスワードを入力すると、本システムへのログインが完了する。ゲートウェイ端末2には、図14のような作業開始画面が表示されるので、警備員は就労データや報告データを入力する。ここでの就労データは、作業の「開始時刻」の他、「作業場所」及び「作業内容」と表示された部分から選択する作業場所となる市町村名や現場名、及び、そこでの作業内容である。これらは先ほどの初期設定で登録されたものであり、警備員はその中から該当するものを選ぶ。報告データは、「体調」と表示された箇所の右にある5つのアイコンから、作業開始時の自己の体調に該当するものをタップすることで選択する。なお、図14のアイコンは、左から「とても良い・良い・ふつう・あまり良くない・良くない」の5段階表示となっている。
これらのゲートウェイ端末2の初期操作により、センサ1とゲートウェイ端末2とが自動的にペアリングされて、データ通信が可能となる。同時に、センサ1で取得されて継続的に送信される生体データに併せて、作業の開始時刻・作業場所・作業内容を示す就労データと、体調に関する報告データも、ゲートウェイ端末2からサーバ3に送信される。
【0039】
警備員は、センサ1を装着した状態で交通整理や巡回警備などを行う。休憩時にはゲートウェイ端末2を操作して本システムとのデータ通信を一時的に解除することもできる。中断後の作業再開時には、警備員は、センサ1とゲートウェイ端末2を再度ペアリングして作業再開の就労データを入力する。
一般的に、作業開始直後の生体データでは変動幅が大きく不安定であることも多い。しかし、作業開始から短時間で警備員の心身状態は落ち着き始め、センサ1から送信される生体データの数値も安定する。その目安は、就労開始から大凡10~20分程度経過した頃となることが、実証実験の結果から得られている。なお、個人別又は作業環境や内容別に大量のデータが集積されたデータ集積表により、複数の異なる条件下や反復される時間軸の中での生体データの推移傾向を推測することが可能になるため、新たに取得した生体データを評価する精度も時間を追って向上することになる。
【0040】
センサ1が取得した警備員の生体データは、無線通信によりゲートウェイ端末2に送信される。この時の生体データは、体表温度、深部体温(C)、心電、心拍数(H)、ストレス指数(L)、呼吸数(R)などである。生体データと併せて、環境温度や相対湿度等の環境データや、歩数や起居等を示す活動データもセンサ1で取得され、ゲートウェイ端末2に送信される。作業中の警備員は、ゲートウェイ端末2の作業画面からそれらを確認できる。図15の画面中央には、サーバ3から送信された警告点数と、それに対応する作業負荷判定の結果(「安全」・「注意」・「警告」)が表示され、この例では警告点数が6点のため、その左方のマークは「安全」となっている。その下には、センサ1から送信された最新の心拍数(H)や深部体温(C)の数値が表示されている。その心拍数(H)や深部体温(C)の表示部で下線付きの「グラフ表示」部をタップすると、これとリンクする図16のような画面に切り替わり、生体データの推移がグラフ化されて表示される。なお、図15の画面上部では、センサ1との通信状況やバッテリー残量も確認できる。上部左側の「測定中」の表示はセンサ1との通信状況等を示し、上部右側の電池型アイコンがセンサ1のバッテリー残量を表示している。
現場の警備員は、警告発令時や体調不良時に、画面右下の「体調報告」をタップして表示される報告メニュー(「救護要請」(×)・「作業中断」(△)・「作業継続」(〇))から自己の状態に適するものを選択し、サーバ3経由で報告や要請のための報告データを管理所長に送信することができる。これらの報告データは、例えば、救護要請を「3」、作業継続を「1」のように数値化するなどして、サーバ3のデータ集積表と紐付けされて管理される。
【0041】
センサ1が取得してゲートウェイ端末2に送信されたデータ、ゲートウェイ端末2から入力されたデータは、ゲートウェイ端末2から多くの場合に常時稼働しているサーバ3に送信され、警告点数アルゴリズムによる作業負荷判定などの解析処理が実行される。この時、センサ1の加速度センサによる警備員の起居情報や、ゲートウェイ端末2のGPSによる作業現場の位置情報も併せて送信されている。また、就労データの受信により、警備員の現場到着や作業開始を直ちに確認することもできる。
管理所長は、初期設定時と同様にして、本システムに何時でもアクセスすることが可能である。これは日々の業務を開始する都度に行っても良いし、常時接続としても良い。アクセス直後には、データの取得や通信等のシステム稼働状況、警備員の生体データに異常が無いかをアクセス用端末5で確認する。もし異常等が無ければ、その後は必要に応じてアクセス用端末5を確認すれば良く、これを常時注視している必要はない。
【0042】
管理所長がログインした後、アクセス用端末5の画面に表示される図7のホーム画面の上部には、左側からホームボタン・作業ビューアー・作業管理・マスターメンテナンスのメニュー表示を確認できる。
作業ビューアーのプルダウンメニューからは、サーバ3から送信された警告や、ゲートウェイ端末2から送信された報告データの一つである緊急呼出の内容を確認することが可能である。これらは、ホーム画面の下側に表示された「警告」及び「緊急呼出」の両パネルのリンク部から確認することもできる。「作業情報」のパネルには、作業中の警備員数が表示され、「警告」及び「緊急呼出」の両パネルには、それらの件数と共に管理所長が未確認の件数も表示される。この時、未確認の件数表示が点滅するなど、管理所長が遅滞なく警告発令を認知できるような工夫がなされている。そして、管理所長が警報の確認画面にアクセスすると、図17のようにして、発生時刻毎の作業者名・連絡先・警告種別・確認者がリスト表示される。同様に、緊急呼出の確認画面でも、送信時刻毎の送信者・連絡先・内容・確認者が一覧表示される。
【0043】
ホーム画面上部の「作業ビューアー」メニューを直接クリックするか、「作業情報」パネル内の「作業ビューアーへ」のリンク部をクリックすると、図18のように複数の警備員の作業状況を地図上で即時に把握できる作業ビューアーが表示される。画面の左上部には未確認の緊急呼出と警告の件数が表示され、管理所長は警備員の異常を速やかに認知できる。その下、画面左側には警備員がリスト表示され、右側の地図上には個別の警備員毎の作業者タブが表示される。
左側の作業者リストには、作業者名・深部体温(C)・心拍数(H)・作業開始や作業終了等の表示があり、作業者リストの右側に表示される作業者タブをクリックすると、画面右側の地図表示が、その警備員が就労中の作業現場を中心とした地図表示に切り替わる。作業者タブの更に右側に表示されるセンサタブをクリックすると、その警備員の生体データを一覧して確認できるセンサ情報画面が、図19のように表示される。この画面には、作業日・作業者名・連絡先・作業場所・作業時間・作業内容・体調等のデータが表示される。更に、警備員の体温データ(表面体温及び深部体温(C))・環境データ(環境温度、相対湿度)・ストレス指数(L)、呼吸数(R)、心拍数(H)等のセンサ1で取得される生体データを、グラフ形式やリスト形式の表示によって確認することができる。
なお、図19のセンサ情報画面では、体温データ以下のグラフ表示は省略されているが、心拍数(H)等の生体データのグラフ表示がこれに続く。そして、それらの複数のグラフ表示の更に下方には、これも1分間移動平均値とされた生体データを時系列順に一覧できる、図20のようなリスト表示画面が続いている。なお、この図20に表示されている情報は、データの送信時刻・警告点数・運動強度・転倒を推測させる起居情報・深部体温(C)・心拍数(H)・ストレス指数(L)・呼吸数(R)・歩数・表面温度・環境温度・相対湿度・評価点数の内訳(C/H/L/R)である。
【0044】
サーバ3から警告が発令された時、管理所長は、これを受信したアクセス用端末5のホーム画面において、画面の点滅や警告音等により直ちに警告の発令を知ることができる。この時、ほぼ同時に作業現場の警備員もサーバ3からの警告をゲートウェイ端末2で受信しており、警告音等により警告の発令を速やかに認知する。この時、管理所長と警備員は相互に確認や連絡を行うことになるが、警備員はゲートウェイ端末2の画面右下にある「体調報告」バナーをタップすることで、警告発令の対応に関する報告データをサーバ3経由で管理所長宛に送信することができる。その報告は、報告メニューの表示(「救護要請」(×)・「作業中断」(△)・「作業継続」(〇))から妥当なものを選択すれば良く、画面のタッチ操作のみで要請や報告を迅速に行うことができ、作業中止や一時中断などの対応について協議することができる。また、警告の発令時に、警備員に対し確認及び対応を促すポップアップ表示がゲートウェイ端末2の画面上に表示されるものとし、それに警備員が対応することで警告音が停止する仕様としても良い。
一方、このような警告発令による作業中止等も無く、一日の警備作業が無事に終了した時には、警備員は、画面左下の作業終了バナーをタップする。その後、サーバ3に作業終了時刻を伝達するための就労データが送信されて、勤務表にその旨の記録がなされ、管理所長は警備員の業務完了を確認することができる。警備員は、センサ1を取り外し、ゲートウェイ端末2の電源を落としてから、作業現場を離れる。一方、業務完了後の管理所長がログアウト処理を行う場合、図7のホーム画面右端に表示されているユーザーステータス表示(ユーザー:システム管理者)右側のプルダウンメニューからログアウトを選択して実行することができる。
【0045】
これまで説明してきたように、本システムの利用を通じて、過酷な作業現場における熱中症などの健康リスクを早期かつ効果的に低減し、より良い労働安全衛生環境を実現することができる。また、警備員の就労状況と健康状況とを併せて管理することで、管理所長と警備員との間に存在する報告や書類作成等の煩雑な事務手続の負担も軽減できる。
そして、警備員の生体データ・報告データ・活動データ・就労データや、作業現場の環境データ、警告発令時や体調不良時の報告データ等の多様なデータは、本システムにおいて一括管理される。
図21は、ホーム画面から作業管理メニューをクリックすると表示される管理画面である。画面左側に、選択した警備員の作業者コード・作業者名・年齢・測定パラメータが表示されている。その下の「作業者の選択」のプルダウン表示部からは、確認したい他の警備員を選択することができる。その右側には、その警備員の作業場所・開始時刻・終了時刻・作業確認・工事番号等が日付毎に表示されている。更に右側のセンサ情報タブをクリックすると、その日の警備員のセンサ情報が図19図21のように表示されるので、管理所長は必要な情報を適宜に確認することができる。この管理画面において、警備員の就労管理と健康管理が一元的に統合されており、勤務表タブをクリックすると労務管理と労働安全衛生管理に必要となる帳票を出力することも可能である。そのようにして出力された帳票様式の一例が図22の勤務表である。
また、サーバ3のデータ集積表に蓄積された大規模なデータに基づき機械学習が実行されることにより、新たに取得される生体データに関する本システムの作業負荷判定機能の精度は、時間を追って改良されることになる。
【符号の説明】
【0046】
1 センサ
2 ゲートウェイ端末
3 サーバ
4 情報可視化システム
5 アクセス用端末
M 管理者
W 作業者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図18
図19
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図21
図22