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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142106
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】建築材料及びそれを用いた施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/02 20060101AFI20220922BHJP
   C04B 41/63 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
E04F13/02 A
E04F13/02 F
C04B41/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042121
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】390025612
【氏名又は名称】富士川建材工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】熊野 康子
(72)【発明者】
【氏名】上村 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 真佑
【テーマコード(参考)】
4G028
【Fターム(参考)】
4G028CB01
(57)【要約】
【課題】左官材料と水とを混合・混練し、流動化しようとすると、固形物の「だま」(フロック)が多数生じ、左官材料を均一に混合することが困難である。この現象は、とくに珪藻土、ゼオライト等の調湿材料を使用したときに顕著であり、現場では大型の電動ミキサーを準備する等の必要があり、素人がDIYで行うには適さない。
【解決手段】ホタテ貝焼成粉末5~40質量%、無機質粉体5~50質量%、および無機質骨材10~90質量%を含む粉末混合物からなる建築材料によって、上記課題を解決した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテ貝焼成粉末5~40質量%、無機質粉体5~50質量%、および無機質骨材10~90質量%を含む粉末混合物からなることを特徴とする建築材料。
【請求項2】
前記粉末混合物は、有機質繊維、再乳化型粉末樹脂、および添加剤の一以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の建築材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建築材料に対して所定量の水を加えて混練する工程と、得られた混練物を下地上に塗布する工程を有することを特徴とする施工方法。
【請求項4】
前記下地上にコテを用いて混練物を塗布することを特徴とする請求項3に記載の建築材料の施工方法。
【請求項5】
前記下地上にローラを用いて混練物を塗布することを特徴とする請求項3に記載の建築材料の施工方法。
【請求項6】
前記塗布により、前記下地上を表面仕上げすることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の施工方法。
【請求項7】
前記粉末混合物は、有機質繊維、再乳化型粉末樹脂、および添加剤の一以上を含むことを特徴とする請求項3~6のいずれかに記載の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材料及びそれを用いた施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の仕上塗材としてセメントモルタル等の左官材料が広く使用されている。このような左官材料としてのセメントモルタルは一般的に、微細な土、砂等の細骨材、セメント、水を混合・混練することにより得られる。
【0003】
また昨今では、健康面および環境面に優れ、調湿機能を有する珪藻土やシラス等の多孔性物質も左官材料として利用されている。
【0004】
左官材料の施工は、現場にて上記各種材料と水とを混合・混練し、流動化した材料を直ちに左官職人が施工面にコテ塗りすることにより行われる。このコテ塗り技術は左官職人の経験に依存するものであるとともに、現場での専門的な装置を導入する必要があり、素人がDIYで行うことは一般的に困難な事項であると認識されてきた。
【0005】
実際、上記各種材料と水とを混合・混練し、流動化しようとすると、固形物の「だま」(フロック)が多数生じ、左官材料を均一に混合することが困難である。この現象は、とくに珪藻土、ゼオライト等の調湿材料を使用したときに顕著であり、現場では専門の電動ミキサーを準備する等の必要があり、素人がDIYで行うには適さない。なお、仮に固形物のだまを有する状態で左官作業を行うと、施工面にもだまが浮き出ることになり外観を悪化させるという問題がある。
【0006】
また、上述のように、健康面および環境面に優れ、調湿機能を有する珪藻土やシラスバルーン等の多孔性物質も左官材料として利用されているが、当業界ではさらなる調湿機能の向上が求められている。
【0007】
なお、下記で説明するホタテ貝焼成粉末を用いた建築材料は、例えば下記特許文献1に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-371685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の目的は、水と混練した際にだまを発生させず、調湿機能に優れ、熟練した技術を必要とすることなく施工性に優れた建築材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ホタテ貝焼成粉末5~40質量%、無機質粉体5~50質量%、および無機質骨材10~90質量%を含む粉末混合物からなることを特徴とする建築材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水と混練した際にだまを発生させず、調湿機能に優れ、熟練した技術を必要とすることなく施工性に優れた建築材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本発明で使用されるホタテ貝焼成粉末は、ホタテ貝の貝殻を焼成した後に粉砕してなるものであることができ、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムを主に含むものである。なお本発明でいうホタテ貝とは、Mizuhopecten 属に分類され、その種は特に限定されない。
【0014】
ホタテ貝の貝殻の焼成は、公知の焼成炉を用いて、例えば800℃~1600℃の温度で、0.5時間~8時間の条件で行うことができる。
【0015】
本発明で使用されるホタテ貝焼成粉末の粒径はとくに制限されないが、公知の粉砕機を用いて1μm~100μmの範囲で調節することができる。
【0016】
本発明で使用されるホタテ貝焼成粉末は、多孔性物質であり、その孔径としては、だまの発生を抑制する観点から、例えば0.05μm~10μmが好ましい。
【0017】
本発明の建築材料は、建築材料全体を100質量%としたときに、上記のようなホタテ貝焼成粉末を5~40質量%、無機質粉体5~50質量%、および無機質骨材10~90質量%を含む粉末混合物からなるものである。さらに好ましいホタテ貝焼成粉末の割合は、5~20質量%である。ホタテ貝焼成粉末の上記割合が5質量%未満では、添加量が少なすぎて本発明の効果を奏することができず、逆に40質量%を超えると施工後の施工面にヒビ割れ等の不具合が出やすいため好ましくない。
【0018】
本発明の建築材料は、内装または外装の仕上塗料として使用するのが好ましい。以下、本発明の建築材料を仕上塗料として使用する形態について説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0019】
本発明における仕上塗料は、ホタテ貝焼成粉末を5~40質量%含有し、さらにその他の材料を含むことができる。その他の材料としては制限されず、施工面の条件等に応じて適宜選択することができるが、本発明では、その効果をさらに向上できるという観点から、必要に応じて、有機質繊維、再乳化型粉末樹脂および添加剤の一以上をさらに含むことが好ましい。
【0020】
本発明では、有機質繊維、再乳化型粉末樹脂、および添加剤の一以上を含むことが好ましく、これらの配合量は、建築材料全体を100質量%としたときに、有機質繊維0~5質量%、再乳化型粉末樹脂0~20質量%、および添加剤0~10質量%が例示される。有機質繊維を使用する場合、その下限値は0.3質量%であるのが好ましい。再乳化型粉末樹脂を使用する場合、その下限値は5質量%であるのが好ましい。添加剤を使用する場合、その下限値は1質量%であるのが好ましい。
【0021】
または、本発明における仕上塗料は、仕上塗料全体を100質量%としたときに、ホタテ貝焼成粉末5~30質量%、無機質粉体5~40質量%、無機質骨材10~80質量%、有機質繊維0~5質量%、再乳化型粉末樹脂0~20質量%、および添加剤0~10質量%からなる粉末混合物を含むことが好ましい。なお、有機質繊維を使用する場合、その下限値は0.3質量%であるのが好ましく、再乳化型粉末樹脂を使用する場合、その下限値は5質量%であるのが好ましく、添加剤を使用する場合、その下限値は1質量%であるのが好ましい。このような割合の粉末混合物を含むことで、コテを用いて塗布する際に、施工性を高めることができる。
【0022】
または、本発明における仕上塗料は、仕上塗料全体を100質量%としたときに、ホタテ貝焼成粉末5~30質量%、無機質粉体5~40質量%、無機質骨材20~90質量%、有機質繊維0~5質量%、再乳化型粉末樹脂0~20質量%、および添加剤0~10質量%からなる粉末混合物を含むことが好ましい。なお、有機質繊維を使用する場合、その下限値は0.3質量%であり、再乳化型粉末樹脂を使用する場合、その下限値は5質量%であり、添加剤を使用する場合、その下限値は1質量%である。このような割合の粉末混合物を含むことで、ローラを用いて塗布する際に、施工性を高めることができる。
【0023】
無機質粉体としては、例えば粒径約150μm以下の各種無機質粉体を用いることができ、例えば珪藻土、シラス、消石灰、ドロマイトプラスター、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ゼオライト、クレー等を用いることができる。これらの無機質粉体は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
無機質粉体として、珪藻土またはシラスを用いることで、建築材料の湿度の制御をすることが可能である。珪藻土は当業者により知られているものであり詳しい説明は省略するが、単細胞ソウ類であるケイソウの遺骸からなるケイ質の堆積物であり、粘土、火山灰、有機物等が混合されている場合もある。そしてその主体は、含水非晶質二酸化ケイ素である。
【0025】
珪藻土又はシラスを使用する場合、建築材料全体に対して1~25質量%の粉体を含むことが好ましい。
【0026】
無機質骨材としては、他の材料との比重が近似する軽量骨材を用いることが分散性の観点から好ましいが、重量骨材と併用してもよい。なお、軽量骨材の嵩比重は、1.1以下であることが好ましい。重量骨材は、珪砂、砂、寒水石などのことを指し、それらの嵩比重は1.3前後以上のものが多い。
【0027】
軽量骨材としては、粒径約1.2mm以下の公知の建築用壁材に用いられる各種の骨材を用いることができ、例えばゼオライト、パーライト、炭酸カルシウム等を用いることができる。これらの軽量骨材は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
重量骨材としては、粒径約1mm以下の公知の建築用壁材に用いられる各種の骨材を用いることができ、例えば砂、寒水石、色砂等を用いることができる。これらの重量骨材は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
無機質粉体を使用する場合、粉体の割合は、建築材料の全体に対して無機質粉体5~50質量%が好ましい。
【0030】
有機質繊維としては、アクリル、ビニロン、パルプ等を用いることができる。これらの繊維は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
結合材として、再乳化型粉末樹脂を用いることができる。再乳化型粉末樹脂としては、酢酸ビニル-ベオバ共重合体、エチレン酢酸ビニル、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの再乳化型粉末樹脂は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。または、無機質粉体として消石灰を用いた場合、消石灰が表面において空気と接して炭酸カルシウムとなる気硬化反応を用いて、建築材料に含まれる粉体を結合させてもよい。
【0032】
添加剤としては、必要に応じて、作業性を良くするための作業性改良材、天然のホウ酸カルシウム(コレマナイト)等の防黴剤、ホルムアルデヒド等の有害ガスを吸着するためのガス吸着剤、着色するための顔料、難燃性をより向上させるための難燃剤(ハロゲン化合物系、リン系、窒素系、シリコーン化合物、無機化合物、イントメッセント系等)、難燃助剤等を適宜用いることができる。
【0033】
本発明における仕上塗料は、上記各種材料を水とともに混練することにより調製できる。その際、水の配合量は、上記各種材料(水を除く)に対し、30~70質量%が好ましい。本発明によれば、この混練の際にだまが発生せず、また、例えば珪藻土を使用する形態では珪藻土とホタテ貝焼成粉末とが調湿機能を相乗的に高めることが可能となる。さらに、本発明における仕上塗料を施工する際には、熟練した技術を必要とすることなく、素人でも優れた外観の施工面を形成することができ、施工性に優れる。
【0034】
得られた仕上げ塗料は、下地上にコテまたはローラを用いて塗布することが可能であり、前記塗布により、下地上を表面仕上げすることが可能となる。当該作業は、素人がDIYで行うことができる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0036】
(1)比較例における仕上塗料の準備
珪藻土粉末20質量%、ゼオライト粉末50質量%および炭酸カルシウム30質量%の合計100質量%を構成材料とした。
(2)実施例における仕上塗料の準備
珪藻土粉末20質量%、ゼオライト粉末45質量%、炭酸カルシウム30質量%およびホタテ貝焼成粉末5質量%の合計100質量%を構成材料とした。
【0037】
(3)仕上塗料の調製
上記比較例および実施例の構成材料をそれぞれ500g計り取り、それぞれに水500gを加え、専用のへらで5分間手練りし、比較例の仕上塗料および実施例の仕上塗料をそれぞれ調製した。
【0038】
(4)評価
(4-1)だまの発生
上記比較例および実施例で調製した仕上塗料に対し、だまの発生の有無を観察した。その結果、比較例の仕上塗料ではだまが20個発生したのに対し、実施例の仕上塗料ではだまが1個も発生しなかった。
【0039】
(4-2)施工性
上記比較例および実施例で調製した仕上塗料のそれぞれを用い、1mの面積を有する平らな石膏ボード上に鏝で施工を行った。その結果、比較例の施工面ではだまが15個観察されたが、実施例の施工面ではだまが1個も観察されなかった。なお、施工は左官経験のない50才の女性が、左官技術者の指導のもとに行ったものである。この結果から、熟練した技術を必要とすることなく、素人でも優れた外観の施工面を形成できることが分かった。
【0040】
(4-3)調湿機能
上記石膏ボードを一般室内に設置し、黒カビ(クロドスポリウム)の発生を調査した。23℃、相対湿度80%の条件で1か月経過後、比較例の施工面では黒カビの発生が見られたが、実施例の施工面では黒カビは発生しなかった。なお、実施例の施工面では6か月を経過しても黒カビ並びにその他のカビは観察されず、実施例の仕上塗料の優れた調湿機能が認められた。