(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142124
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】塗膜の剥離方法及び塗膜用剥離剤
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220922BHJP
C09D 9/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
C09D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042145
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮平
(72)【発明者】
【氏名】則竹 慎也
(72)【発明者】
【氏名】政田 翔大
【テーマコード(参考)】
2E176
4J038
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB04
2E176BB36
4J038HA236
4J038JA35
4J038JC13
4J038NA10
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】コンクリート又はモルタルからなる外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜を、塗膜用剥離剤を用いて容易に剥離することを可能にした塗膜の剥離方法及び塗膜用剥離剤を提供する。
【解決手段】塗膜の剥離方法は、基材と塗膜とを有する構造物の塗膜を剥離する方法である。基材は、コンクリート又はモルタルからなる外面を有する。塗膜は、基材の外面に設けられたセメント系硬化層を有する。塗膜の剥離方法は、pHが1以上、5以下の範囲内の塗膜用剥離剤を塗膜に塗布した後に塗膜を剥離する剥離工程を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート又はモルタルからなる外面を有する基材と、前記外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜とを備える構造物の前記塗膜を剥離する塗膜の剥離方法であって、
前記剥離方法は、pHが1以上、5以下の範囲内の塗膜用剥離剤を前記塗膜に塗布した後に前記塗膜を剥離する剥離工程を備える、塗膜の剥離方法。
【請求項2】
前記塗膜用剥離剤は、有機酸と無機酸とを含有する、請求項1に記載の塗膜の剥離方法。
【請求項3】
前記塗膜は、前記セメント系硬化層の外面に設けられた樹脂系塗膜層をさらに有し、
前記塗膜用剥離剤は、前記樹脂系塗膜層を溶解又は膨潤し得る有機溶剤を含有する、請求項1に記載の塗膜の剥離方法。
【請求項4】
前記塗膜用剥離剤は、無機酸を含有しないか、又は12質量%以下の無機酸を含有する、請求項3に記載の塗膜の剥離方法。
【請求項5】
前記塗膜用剥離剤は、有機酸と無機酸とを含有し、前記無機酸の含有量が12質量%以下である、請求項3に記載の塗膜の剥離方法。
【請求項6】
コンクリート又はモルタルからなる外面を有する基材と、前記外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜とを備える構造物の前記塗膜を剥離する用途に用いられる塗膜用剥離剤であって、
pHが1以上、5以下の範囲内である、塗膜用剥離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の剥離方法及び塗膜用剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の構造物において、コンクリート又はモルタルからなる外面に塗膜が設けられる場合がある。建造物の塗膜が経年劣化した場合、劣化した塗膜に重ねるように塗料を塗布する補修作業が行われる。このような補修作業が繰り返されると、塗膜の重量が増大するため、構造物の躯体等に負荷がかかる。このような負荷を低減するという観点から、補修作業において、劣化した塗膜をコンクリート又はモルタルからなる外面から剥離した後に、新たに塗膜を設けることが好ましい。
【0003】
劣化した塗膜の剥離方法としては、ブラスト処理、グラインダ処理、高圧水洗等の物理的な剥離方法が知られている。塗膜の物理的な剥離方法では、塗膜の粉砕物である粉塵が発生するため、作業環境や周辺環境の保護の観点から、粉塵を回収する吸引回収装置が用いられる。このような粉塵の吸引回収装置は、比較的大型であるため、補修作業に手間を要することになる。
【0004】
一方、上述した物理的な剥離方法以外の剥離方法として、塗膜用剥離剤を用いた化学的な剥離方法が知られている。例えば、特許文献1には、有機溶剤に粉末状増粘剤を混和した塗膜用剥離剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート又はモルタルからなる外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜を、塗膜用剥離剤を用いて容易に剥離する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する塗膜の剥離方法は、コンクリート又はモルタルからなる外面を有する基材と、前記外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜とを備える構造物の前記塗膜を剥離する塗膜の剥離方法であって、前記剥離方法は、pHが1以上、5以下の範囲内の塗膜用剥離剤を前記塗膜に塗布した後に前記塗膜を剥離する剥離工程を備える。
【0008】
上記塗膜の剥離方法において、前記塗膜用剥離剤は、有機酸と無機酸とを含有してもよい。
上記塗膜の剥離方法において、前記塗膜は、前記セメント系硬化層の外面に設けられた樹脂系塗膜層をさらに有し、前記塗膜用剥離剤は、前記樹脂系塗膜層を溶解又は膨潤し得る有機溶剤を含有してもよい。
【0009】
上記塗膜の剥離方法において、前記塗膜用剥離剤は、無機酸を含有しないか、又は12質量%以下の無機酸を含有してもよい。
上記塗膜の剥離方法において、前記塗膜用剥離剤は、有機酸と無機酸とを含有し、前記無機酸の含有量が12質量%以下であってもよい。
【0010】
上記課題を解決する塗膜用剥離剤は、コンクリート又はモルタルからなる外面を有する基材と、前記外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜とを備える構造物の前記塗膜を剥離する用途に用いられる塗膜用剥離剤であって、pHが1以上、5以下の範囲内である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート又はモルタルからなる外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜を、塗膜用剥離剤を用いて容易に剥離することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、塗膜用剥離剤、及び塗膜の剥離方法の第1実施形態について説明する。
塗膜用剥離剤は、構造物の塗膜を剥離する用途に用いられる。構造物は、コンクリート又はモルタルからなる外面を有する基材と、基材の外面に設けられたセメント系硬化層を有する塗膜とを備えている。第1実施形態の塗膜のセメント系硬化層のみから構成されている。すなわち、セメント系硬化層は、構造物の最外面を構成している。セメント系硬化層は、セメント系塗材を上記基材の外面に塗布し、硬化させることで形成される。セメント系塗材は、結合剤としてセメントを含有し、塗膜性能や作業性を改善するために、樹脂等を含有する。セメント系塗材は、例えば、セメント系下地調整材、セメント系仕上塗材等が挙げられる。
【0013】
塗膜用剥離剤のpHは、1以上、5以下の範囲内である。塗膜用剥離剤のpHは、有機酸及び無機酸の少なくとも一方を水に配合することにより調整することができる。塗膜用剥離剤のpHは、3以下であることが好ましくは、より好ましくは、2以下である。
【0014】
塗膜用剥離剤は、有機酸を含有することが好ましく、有機酸と無機酸とを含有することがより好ましい。
有機酸としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸等が挙げられる。有機酸は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。有機酸は、パラトルエンスルホン酸を含むことが好ましい。塗膜用剥離剤における有機酸の含有量は、剥離性能をより高めるという観点から、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、5質量%以上であり、さらに好ましくは、7質量%以上である。塗膜用剥離剤における有機酸の含有量は、より安価な塗膜用剥離剤を得るという観点から、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、25質量%以下であり、さらに好ましくは、20質量%以下である。
【0015】
無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、フッ酸、硫酸等が挙げられる。無機酸は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。無機酸は、塩酸を含むことが好ましい。塗膜用剥離剤における無機酸の含有量は、剥離性能をより高めるという観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.5質量%以上であり、さらに好ましくは、1質量%以上である。塗膜用剥離剤における無機酸の含有量は、より安価な塗膜用剥離剤を得るという観点から、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、25質量%以下であり、さらに好ましくは、20質量%以下である。
【0016】
塗膜用剥離剤には、必要に応じて、例えば、増粘剤、有機溶剤等を含有させることもできる。
増粘剤としては、例えば、アマイド、シリカ、ヘクトライト、ベントナイト、セルロース系増粘剤等が挙げられる。増粘剤は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。塗膜用剥離剤における増粘剤の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。塗膜用剥離剤における増粘剤の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、25質量%以下であり、さらに好ましくは、20質量%以下である。
【0017】
有機溶剤としては、例えば、アルコール、複素環化合物、二塩基酸エステル、カーボネート化合物等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、低級アルコール、芳香族アルコール等が挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、2-エチルベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。複素環化合物としては、例えば、5員複素環化合物等が挙げられる。5員複素環化合物として、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、N-メチルピロリドン、及び1-エチル-2-ピロリドン等が挙げられる。二塩基酸エステルとしては、例えば、炭素数4~6の二塩基酸と、アルキルアルコールとの縮合反応で得られるエステルが挙げられる。炭素数4~6の二塩基酸としては、例えば、アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジエチル等が挙げられる。カーボネート化合物としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
【0018】
塗膜用剥離剤は、撹拌機を用いて各原料を混合することで調製することができる。撹拌機としては、例えば、ディゾルバー、バタフライミキサー、プロペラミキサー、プラネタリーミキサー等が挙げられる。撹拌機の中でも、塗膜用剥離剤の均一性を容易に高めることができることからディゾルバーを用いることが好ましい。
【0019】
次に、塗膜の剥離方法について主な作用とともに説明する。
塗膜の剥離方法は、上記塗膜用剥離剤をセメント系硬化層からなる塗膜に塗布した後に、その塗膜を剥離する剥離工程を備えている。このとき、塗膜用剥離剤のpHは、1以上、5以下であるため、セメント系硬化層に塗布された塗膜用剥離剤は、セメント系硬化層を侵食する。また、このとき、セメント系硬化層を浸透した塗膜用剥離剤が基材の外面であるコンクリート又はモルタルも浸食すると推測される。
【0020】
塗膜用剥離剤は、例えば、ローラー、刷毛、スプレー等を用いて塗膜に塗布することができる。塗膜の剥離には、スクレーパーを用いることが好ましい。
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0021】
(1-1)塗膜の剥離方法は、コンクリート又はモルタルからなる外面を有する基材と、この外面に設けられたセメント系硬化層からなる塗膜とを備える構造物の塗膜を剥離する。塗膜の剥離方法は、pHが1以上、5以下の範囲内の塗膜用剥離剤をセメント系硬化層からなる塗膜に塗布した後に塗膜を剥離する剥離工程を備えている。この方法によれば、上述したように、塗膜用剥離剤がセメント系硬化層を侵食する。また、塗膜用剥離剤が基材の外面であるコンクリート又はモルタルも浸食すると推測される。これにより、コンクリート又はモルタルからなる外面に設けられたセメント系硬化層からなる塗膜を、塗膜用剥離剤を用いて容易に剥離することが可能となる。
【0022】
(1-2)塗膜用剥離剤は、有機酸と無機酸とを含有することが好ましい。この場合、塗膜用剥離剤が上記セメント系硬化層を剥離する剥離性能をより高めることが可能となる。
【0023】
(第2実施形態)
次に、塗膜用剥離剤、及び塗膜の剥離方法の第2実施形態について第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0024】
第2実施形態の構造物における塗膜は、セメント系硬化層と、セメント系硬化層の外面に設けられた樹脂系塗膜層とを有している。第2実施形態の塗膜用剥離剤は、樹脂系塗膜層を溶解又は膨潤し得る有機溶剤を含有する。有機溶剤の具体例としては、上記第1実施形態で例示したものが挙げられる。有機溶剤は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。有機溶剤は、ベンジルアルコールを含むことが好ましい。
【0025】
塗膜用剥離剤における有機溶剤の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、5質量%以上であり、さらに好ましくは、10質量%以上である。塗膜用剥離剤における有機溶剤の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、35質量%以下であり、さらに好ましくは、30質量%以下である。
【0026】
第2実施形態の塗膜用剥離剤は、樹脂系塗膜層の剥離性能を高めるという観点から、無機酸を含有しないことが好ましい。また、第2実施形態の塗膜用剥離剤に無機酸を含有させる場合、樹脂系塗膜層の剥離性能を高めるという観点から、無機酸の含有量は、12質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、10質量%以下であり、さらに好ましくは9質量%以下であり、最も好ましくは、7質量%以下である。第2実施形態の塗膜用剥離剤における無機酸の含有量は、セメント系硬化層の剥離性能を高めるという観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上であり、最も好ましくは、3質量%以上である。
【0027】
塗膜の剥離方法は、セメント系硬化層の外面に樹脂系塗膜層が設けられた塗膜に上記塗膜用剥離剤を塗布した後に、その塗膜を剥離する剥離工程を備えている。
次に、第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0028】
(2-1)塗膜の剥離方法は、構造物の上記基材の外面に設けられたセメント系硬化層と、セメント系硬化層の外面に設けられた樹脂系塗膜層とを有する塗膜を剥離する。塗膜の剥離方法は、樹脂系塗膜層とセメント系硬化層とを有する塗膜に塗膜用剥離剤を塗布した後に塗膜を剥離する剥離工程を備えている。塗膜用剥離剤のpHは、1以上、5以下の範囲内である。塗膜用剥離剤は、樹脂系塗膜層を溶解又は膨潤し得る有機溶剤を含有している。この方法によれば、塗膜用剥離剤が樹脂系塗膜層を浸食し、さらにセメント系硬化層を侵食する。また、塗膜用剥離剤が基材の外面であるコンクリート又はモルタルを浸食すると推測される。これにより、コンクリート又はモルタルからなる外面に設けられたセメント系硬化層と、セメント系硬化層の外面に設けられた樹脂系塗膜層とを有する塗膜を、塗膜用剥離剤を用いて容易に剥離することが可能となる。
【0029】
(2-2)塗膜用剥離剤は、無機酸を含有しないか、又は12質量%以下の無機酸を含有することが好ましい。この場合、セメント系硬化層の外面に設けられた樹脂系塗膜層を剥離する剥離性能を高めることが可能となる。
【0030】
(2-3)塗膜用剥離剤は、有機酸と無機酸とを含有し、無機酸の含有量が12質量%以下であることが好ましい。この場合、塗膜用剥離剤が有機酸と無機酸とを含有することで、セメント系硬化層を剥離する剥離性能を高めることができる。また、無機酸の含有量が12質量%以下であることで、セメント系硬化層の外面に設けられた樹脂系塗膜層を剥離する剥離性能を高めることが可能となる。
【0031】
(変更例)
上記実施形態を次のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0032】
・第1実施形態及び第2実施形態における塗膜の剥離方法において、上述した剥離工程を繰り返してもよい。このように剥離工程を繰り返すことで、比較的厚さ寸法の大きい塗膜であっても剥離することが可能となる。
【0033】
・第1実施形態における塗膜の剥離方法は、セメント系硬化層の厚さ方向の一部を剥離する方法に変更することもできる。すなわち、まず、第1実施形態の塗膜用剥離剤を用いる剥離方法以外の剥離方法によって、セメント系硬化層の厚さ方向の一部を剥離することで、セメント系硬化層の厚さ寸法を予め小さくする。次に、第1実施形態の塗膜用剥離剤を用いて、残りのセメント系硬化層を剥離する。
【0034】
・第2実施形態における塗膜の剥離方法は、樹脂系塗膜層の厚さ方向の一部を剥離する方法に変更することもできる。すなわち、まず、第2実施形態の塗膜用剥離剤を用いる剥離方法以外の剥離方法によって、樹脂系塗膜層の厚さ方向の一部を剥離することで、樹脂系塗膜層の厚さ寸法を予め小さくする。次に、第2実施形態の塗膜用剥離剤を用いて、残りの樹脂系塗膜層と、セメント系硬化層とを剥離する。
【0035】
・第2実施形態の構造物における塗膜、すなわち、セメント系硬化層と樹脂系塗膜層とを有する塗膜は、次のように剥離することもできる。まず、上記第1実施形態及び第2実施形態の塗膜用剥離剤を用いる剥離方法以外の剥離方法によって、樹脂系塗膜層を剥離する。次に、上記第1実施形態又は第2実施形態の塗膜用剥離剤を用いてセメント系硬化層を剥離する。
【実施例0036】
次に、実施例及び比較例を説明する。
(実施例1~6、及び比較例1)
表1に示す各原材料を、ディゾルバーを用いて撹拌することにより塗膜用剥離剤を調製した。各例の塗膜用剥離剤を用いて以下の剥離試験を行った。
【0037】
<剥離試験1>
コンクリートからなる外面を有する基材にセメントリシンを吹き付けることで塗布した。次に、セメントリシンの塗布層を硬化させることで、コンクリートからなる外面を有する基材と、外面に設けられたセメント系硬化層を有するサンプルS1を作製した。サンプルS1におけるセメント系硬化層の厚さは、約1mmである。
【0038】
サンプルS1のセメント系硬化層にウールローラーを用いて実施例1~6及び比較例1の塗膜用剥離剤を塗布量が一定となるように塗布した。各例の塗膜用剥離剤の塗布量は、約1.0kg/m2である。各例の塗膜用剥離剤を塗布したサンプルS1を24時間放置後、スクレーパーを用いてセメント系硬化層を剥離する剥離工程を行った。1回の剥離工程でセメント系硬化層の全体が剥離できなかった場合、塗膜用剥離剤を再度塗布し、同様の剥離工程を繰り返した。
【0039】
<剥離試験2>
コンクリートからなる外面を有する基材にセメントスタッコを吹き付けることで塗布した。次に、セメントスタッコの塗布層を硬化させることで、コンクリートからなる外面を有する基材と、外面に設けられたセメント系硬化層を有するサンプルS2を作製した。サンプルS2におけるセメント系硬化層の厚さは、約5mmである。
【0040】
サンプルS2のセメント系硬化層にウールローラーを用いて実施例1~6及び比較例1の塗膜用剥離剤を塗布量が一定となるように塗布した。各例の塗膜用剥離剤の塗布量は、約1.0kg/m2である。各例の塗膜用剥離剤を塗布したサンプルS2を24時間放置後、スクレーパーを用いてセメント系硬化層を剥離する剥離工程を行った。1回の剥離工程でセメント系硬化層の全体を剥離できなかった場合、塗膜用剥離剤を再度塗布し、同様の剥離工程を繰り返した。
【0041】
<剥離試験1,2の評価基準>
上記の剥離試験1,2において、実施例1~6及び比較例1の塗膜用剥離剤を以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
1回の剥離工程でセメント系硬化層の全体を剥離できた場合:A
2回の剥離工程でセメント系硬化層の全体を剥離できた場合:B
3回の剥離工程でセメント系硬化層の全体を剥離できた場合:C
3回の剥離工程ではセメント系硬化層の全体を剥離できなかった場合:D
<剥離試験3>
コンクリートからなる外面を有する基材にセメント系下地調整材を吹き付けることで塗布した。セメント系下地調整材は、樹脂を5質量%含有する。次に、セメント系下地調整材の塗布層を硬化させることで、セメント系硬化層を形成した。セメント系硬化層の厚さは、約2mmである。次に、セメント系硬化層に樹脂系塗料を塗布することで、樹脂系塗膜層をさらに形成した。樹脂系塗料としては、JIS A6909:2014に規定される外装合成樹脂エマルション系薄付け仕上塗材(外装薄塗材E)を用いた。
【0043】
以上により、コンクリートからなる外面を有する基材と、外面に設けられたセメント系硬化層と、セメント系硬化層に設けられた樹脂系塗膜層とを有するサンプルS3を作製した。
【0044】
サンプルS3の樹脂系塗膜層にウールローラーを用いて実施例1~5及び比較例1の塗膜用剥離剤を塗布量が一定となるように塗布した。実施例1~5及び比較例1の塗膜用剥離剤の塗布量は、約1.0kg/m2である。各例の塗膜用剥離剤を塗布したサンプルS3を24時間放置後、スクレーパーを用いて樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層を剥離する剥離工程を行った。1回の剥離工程で樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層の全体を剥離できなかった場合、塗膜用剥離剤を再度塗布し、同様の剥離工程を繰り返した。
【0045】
<剥離試験3の評価基準>
上記の剥離試験3において、実施例1~5及び比較例1の塗膜用剥離剤を以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
1回の剥離工程で樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層の全体を剥離できた場合:A
2回の剥離工程で樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層の全体を剥離できた場合:B
3回の剥離工程で樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層の全体を剥離できた場合:C
3回の剥離工程で樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層の全体を剥離できるが、樹脂系塗膜層の剥離に手間を要する場合:C-
3回の剥離工程ではセメント系硬化層の全体を剥離できなかった場合:D
【0047】
【表1】
表1に示されるように、剥離試験1,2において、実施例1~6の塗膜用剥離剤を用いた場合、セメント系硬化層の全体を1~3回の剥離工程で剥離できることが分かる。また、剥離試験1,2において、実施例1~3,5,6の塗膜用剥離剤を用いた場合、1回又は2回の剥離工程でセメント系硬化層の全体を剥離できることが分かる。一方、剥離試験1,2において、比較例1の塗膜用剥離剤を用いた場合、3回の剥離工程では、セメント系硬化層の全体を剥離できないことが分かる。
【0048】
剥離試験3において、実施例1~5の塗膜用剥離剤を用いた場合、1~3回の剥離工程で樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層の全体を剥離できることが分かる。また、剥離試験3において、実施例1~3の塗膜用剥離剤を用いた場合、1回又は2回の剥離工程で樹脂系塗膜層及びセメント系硬化層の全体を剥離できることが分かる。