(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142135
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】紙製容器
(51)【国際特許分類】
B65D 3/06 20060101AFI20220922BHJP
B65D 3/04 20060101ALI20220922BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220922BHJP
B32B 1/02 20060101ALI20220922BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20220922BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220922BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B65D3/06 B
B65D3/04
B65D65/40
B32B1/02
B32B27/10
B32B27/32 Z
B32B29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042160
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 順一
(72)【発明者】
【氏名】陣内 裕継
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA22
3E086AD06
3E086BA15
3E086BB74
3E086CA01
3E086CA11
3E086DA08
4F100AK04B
4F100AK04C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DA01A
4F100DA01B
4F100DA01C
4F100DB07C
4F100DG10A
4F100GB08
4F100GB23
4F100JA04B
4F100JA04C
4F100JB01A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】紙製容器において、内容物の滲みを抑制する技術を提供する。
【解決手段】紙製容器は胴部と底部とから構成される。胴部は扇形状ブランクを丸めて両端部を接合することにより形成される。原紙1内側は耐油性処理され、耐油層2が形成されている。原紙1内側(内容物に接する側)には、高融点ポリエチレン層3が被覆されている。高融点ポリエチレン層3の内側には低融点ポリエチレン層4が被覆されている。ブランクの一端部では、低融点ポリエチレン層4が端面5を被覆するよう折り返されている。接合部では低融点ポリエチレン層4同士が熱溶着される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランクをまるめてブランク端部同士を接合して形成される胴部と、前記胴部下端に接合される底部とからなる紙製容器であって、
内側に耐油性処理された原紙と、
前記原紙内側に被覆された高融点ポリエチレン層と
から形成され、
前記高融点ポリエチレン層の融点は115℃以上である
ことを特徴とする紙製容器。
【請求項2】
前記高融点ポリエチレン層の内側に被覆された低融点ポリエチレン層
から形成され、
前記低融点ポリエチレン層の融点は、前記高融点ポリエチレン層の融点より低い
ことを特徴とする請求項1記載の紙製容器。
【請求項3】
前記低融点ポリエチレン層の融点は、前記高融点ポリエチレン層の融点より10℃以上低い
ことを特徴とする請求項2記載の紙製容器。
【請求項4】
前記ブランクの一端部では、前記低融点ポリエチレン層が端面を被覆するよう折り返されている
ことを特徴とする請求項2または3記載の紙製容器。
【請求項5】
油分を含む内容物を収容する
ことを特徴とする請求項1~4いずれか記載の紙製容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性が要求される紙製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
油分を多量に含む食材を収納する紙製容器には耐油性が求められている(特許文献1および特許文献2)。
【0003】
とくに、最近は、食材を電子レンジにおいて加熱することが多く、耐油性がより重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-056127号公報
【特許文献2】特開2009-030192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙製容器の例として、紙コップがある。紙コップは、円形の底部と、底部より逆円錐台形状または円筒形状に立設される胴部とを備える。適宜、胴部上縁にフランジや蓋を備えていてもよい。
【0006】
紙コップ胴部は扇形ブランクを丸め、一方端を下側にし、他方端をその上側に配置し、両端を重ね合わせて接合(たとえば熱溶着)する。
【0007】
容器成型時、ブランクを変形させる際にピンホールが発生するおそれがある。また、接合部熱溶着に伴いピンホールが発生するおそれがある。
【0008】
電子レンジ加熱時、容器内は100℃超となり、水分発泡や被覆層軟化により、ピンホールが発生するおそれがある。
【0009】
これらのピンホールは油滲みの原因となる。また、一般的に、接合部では特に不具合が発生しやすい。
【0010】
一般に、市販されている食品包装用の紙製容器の外面には種々のデザインが印刷されている。油滲みは美観を大きく損なう。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、紙コップ等の紙製容器において、内容物の滲みを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成する本発明の紙製容器は、ブランクをまるめてブランク端部同士を接合して形成される胴部と、前記胴部下端に接合される底部とからなる。紙製容器は、内側に耐油性処理された原紙と、前記原紙内側に被覆された高融点ポリエチレン層とから形成される。前記高融点ポリエチレン層の融点は115℃以上である。
【0013】
高融点ポリエチレン層を用いることで、レンジ加熱時のピンホール発生を抑制できる。また、耐油性処理により、仮にピンホールが発生したとしても、ピンホールからの滲みを抑制できる。
【0014】
好ましくは、前記高融点ポリエチレン層内側に被覆された低融点ポリエチレン層から形成され、前記低融点ポリエチレン層の融点は、前記高融点ポリエチレン層の融点より低い。
【0015】
好ましくは、前記低融点ポリエチレン層の融点は、前記高融点ポリエチレン層の融点より10℃以上低い。
【0016】
これにより、接合性が担保される。その結果、接合部からの漏れを改善できる。
【0017】
好ましくは、前記ブランクの一端部では、前記低融点ポリエチレン層が端面を被覆するよう折り返されている。
【0018】
これにより、ブランク端面から内容物が浸透するおそれを抑制できる。また、低融点ポリエチレン層同士が熱溶着されるため接合性がさらに向上する。
【0019】
好ましくは、油分を含む内容物を収容する。
【0020】
本発明の紙製容器によれば、油分を含む内容物の滲みを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、内容物の滲みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
~基本構成~
図1は紙コップの成型方法の概要を示す図である。本実施形態の紙製容器は紙コップを含む。紙コップ胴部は扇形状ブランクより形成される。
【0024】
ブランクを丸め、一端部を下側にし、他端部をその上側に配置し、接合面が対向するようにし、両端部を重ね合わせて所定の接合幅にて接合する。これにより紙コップ胴部が形成される。
【0025】
紙コップ底部は円形である。紙コップ胴部と紙コップ底部とを接合することで紙コップが形成される。
【0026】
~特徴的構成~
本実施形態は、適宜、下記の特徴的構成を有する(
図2参照)。
【0027】
原紙1内側(内容物に接する側)は耐油性処理され、耐油層2が形成されている。詳細には、原紙1は複数層(例えば5層)のパルプ層から抄紙されており、その最内面側のパルプ層にのみ耐油性処理が施されている。なお、外側はデザイン印刷のため耐油性処理されていないことが好ましい。底部において印刷不要の場合は、両側において耐油性処理されていてもよい。
【0028】
さらに、原紙1内側には、高融点ポリエチレン層3が被覆されている。
【0029】
高融点ポリエチレン層3の内側には低融点ポリエチレン層4が被覆されている。
【0030】
ブランクの一端部では、低融点ポリエチレン層4が端面5を被覆するよう折り返されている(エッジプロテクト(EP)処理)。その結果、一端部の低融点ポリエチレン層と他端部の低融点ポリエチレン層とが接合される。
【0031】
なお、比較のため、一般的な紙カップ接合部の断面図を
図2に追加する。
【0032】
~検証試験~
上記特徴的構成の検証試験のために作成した複数のサンプル例について説明する(
図3参照)。
【0033】
一般例:胴部、底部とも耐油性処理されていない。高融点ポリエチレン層はない。低融点ポリエチレン層は15μmである。EP処理はされていない(
図2参照)。
【0034】
サンプルA:底部のみ耐油性処理されている。高融点ポリエチレン層は20μmである。低融点ポリエチレン層は20μmである。EP処理されている。
【0035】
サンプルB:底部のみ耐油性処理されている。高融点ポリエチレン層は20μmである。低融点ポリエチレン層はない。EP処理されている。
【0036】
サンプルC:底部のみ耐油性処理されている。高融点ポリエチレン層は40μmである。低融点ポリエチレン層はない。EP処理されている。
【0037】
サンプルD:胴部・底部に耐油性処理されている。高融点ポリエチレン層は20μmである。低融点ポリエチレン層はない。EP処理されていない。
【0038】
サンプルE:胴部・底部に耐油性処理されている。高融点ポリエチレン層は20μmである。低融点ポリエチレン層は20μmである。EP処理されている(
図2参照)。
【0039】
なお、上記サンプルは例示であり、本願発明は上記サンプルに限定されない。
【0040】
上記サンプル例に対し、2つの検証試験を行った。
【0041】
麻婆豆腐レンジ加熱:麻婆豆腐を紙コップに収納し、1520Wで20秒間、レンジ加熱をおこない、油滲みを観察した。
【0042】
エビチリ10時間放置:エビチリを紙コップに収納し、10時間放置し油滲みを観察した。
【0043】
なお、上記試験は、紙製容器が油分を多量に含む食材を収納する場合の課題の例示であり、本願発明はこれらの課題に限定されない。
【0044】
なお、上記サンプルの原紙については、胴部には坪量250~260g/m2、底部には坪量200~220g/m2の紙を用いた。
【0045】
以下、検証試験結果の比較により各論点について説明する。
【0046】
~論点1~
油分の多い内容物をレンジ加熱した場合、内容物が100℃を超え、水分発泡及びポリエチレン層の軟化により、ピンホールが発生し、油滲みが発生するおそれがある。この課題に対し、高融点ポリエチレン層を用いる。
【0047】
一般例とサンプルAおよびサンプルBの検証結果を比較する。いずれも胴部に耐油性処理されていない。一般例は低融点ポリエチレン層を有するのに対し、サンプルAおよびサンプルBは内層に高融点ポリエチレン層を有する。
【0048】
麻婆豆腐レンジ加熱の試験結果を比較すると、一般例では、容器外面全周に滲みが発生しているのに対し、サンプルAおよびサンプルBでは、滲みは見られなかった。
【0049】
低融点ポリエチレン層を高融点ポリエチレン層とすることで、耐油性処理の有無にかかわらず、レンジ加熱時のピンホール発生を抑制できる。また、サンプルBでの結果より、低融点ポリエチレン層がなくとも、レンジ加熱時のピンホール発生を抑制できる。
【0050】
なお、低融点ポリエチレンには低密度ポリエチレンLDPEを用いる。低密度ポリエチレンの融点は100~115℃程度である。上記サンプルでの低融点ポリエチレンの融点は108℃であった。
【0051】
高融点ポリエチレンには高密度ポリエチレンHDPEや、高密度ポリエチレンやエチレン・プロピレン共重合体などを含有させて融点を上げた低密度ポリエチレンなどを用いる。高密度ポリエチレンの融点は120~140℃程度である。上記サンプルでの高融点ポリエチレンの融点は128℃であった。高融点ポリエチレンは低融点ポリエチレンにエチレン・プロピレン共重合体などを含有させることにより融点が上がる。
【0052】
本願では、融点115℃未満のポリエチレンを低融点ポリエチレンとし、融点115℃以上のポリエチレンを高融点ポリエチレンとする。
【0053】
また、低融点ポリエチレン層の融点は、高融点ポリエチレン層の融点より10℃以上低いことが好ましい。上記サンプルでは20℃の差がある。
【0054】
~論点2~
原紙内側に高融点ポリエチレン層が被覆されることで、容器成型時の接合部熱溶着が不十分になるおそれがある。その結果、底部の未着箇所より内容物の漏れが発生するおそれがある。加熱温度をあげることで、確実に熱溶着できるが、焦げ等、原紙が損傷するおそれがある。この課題に対し、低融点ポリエチレン層を用いる。
【0055】
サンプルAとサンプルCの検証結果を比較する。いずれも胴部に耐油性処理されていない。サンプルCはサンプルBと同じ構成であるが、ポリエチレン層厚がサンプルA(層厚40μm)と同じになるようにしている。サンプルAでは低融点ポリエチレン層が被覆されているのに対しサンプルCでは低融点ポリエチレン層が被覆されていない。
【0056】
エビチリ10時間放置の試験結果を比較すると、サンプルCでは、10試験のうち1試験において、底部に漏れが発生しているのに対し、サンプルAでは、10試験の全てにおいて底部に漏れは見られなかった。
【0057】
低融点ポリエチレン層が確実に熱溶着されることで、接合性が担保される。その結果、未着部からの漏れを改善できる。
【0058】
参考に一般例とサンプルDの検証結果を比較する。一般例では耐油性処理されていないのに対し、サンプルDでは耐油性処理されている。一般例では高融点ポリエチレン層が被覆されていないのに対し、サンプルDでは高融点ポリエチレン層が被覆されている。
【0059】
エビチリ10時間放置の試験結果によれば、程度の差はあれ、底部より漏れが見られた。
【0060】
すなわち、高融点ポリエチレン層被覆と耐油性処理だけでは底部の漏れに係る課題に対し不十分であることを示唆している。
【0061】
~論点3~
容器成型時に紙コップ胴部は扇形ブランクを丸める。ブランク変形によりピンホールが発生するおそれがある。また、容器成型時に接合部は熱溶着されるため、接合部にピンホールが発生するおそれがある。この課題に対し、耐油性処理する。
【0062】
サンプルAとサンプルEの検証結果を比較する。サンプルAでは胴部に耐油性処理されていないのに対し、サンプルEでは胴部に耐油性処理されている。その他の構成は同じである。
【0063】
エビチリ10時間放置の試験結果を比較すると、接合部端面においてサンプルAではわずかに滲みが見られたのに対し、サンプルEでは全く滲みは見られなかった。
【0064】
仮に、ピンホールが発生したとしても、耐油性処理によりピンホールからの滲みを抑制できる。
【0065】
耐油性(=撥油性)は固体表面(原紙表面)の表面張力が液体(油分)より低い場合に発現する。原紙表面にフッ素化合物等が存在している場合、原紙と油分の界面において原紙から油分が受ける分子間力が弱いため、界面において油分は不安定化し、油分の表面張力が働きやすくなるため撥油性が発現する。すなわちピンホールがあっても、ピンホールからの滲みを抑制できる。
【0066】
耐油剤としてはフッ素系化合物やアクリル系化合物、シリコン系化合物などが挙げられる。耐油剤の加工方法としては抄紙する際に添加する方法(内添法)と抄紙後に含浸や表面にコーティングする方法(外添法)がある。一般的にフッ素系化合物を使用し、内添法にて抄紙されている。
【0067】
耐油性処理された原紙とポリエチレン層との接着性を向上させるため、AC剤(アンカーコート剤)を使用してもよい。
【0068】
~論点4~
さらに、ブランク端面から内容物が浸透するおそれがある。この課題に対し、エッジプロテクト(EP)処理する。
【0069】
サンプルDとサンプルEの検証結果を比較する。サンプルDではEP処理されていないのに対し、サンプルEではEP処理されている。
【0070】
エビチリ10時間放置の試験結果を比較すると、サンプルDでは一般例と同程度の滲みが見られたのに対し、サンプルEでは全く滲みは見られなかった。
【0071】
特に、サンプルEでは、EP処理により一端部の低融点ポリエチレン層と他端部の低融点ポリエチレン層とが熱溶着されるため接合性がさらに向上する(論点2参照)。
【0072】
EP処理では、原紙の端部の一部を削り、低融点ポリエチレン層および高融点ポリエチレン層とともに折戻す。EP処理相当箇所の厚さと積層厚とが同じになるようにする。これにより、端面が被覆層により保護される。
【符号の説明】
【0073】
1 原紙
2 耐油層
3 高融点ポリエチレン層
4 低融点ポリエチレン層
5 端面