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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142181
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】撹拌機
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/80 20220101AFI20220922BHJP
   B01F 23/41 20220101ALI20220922BHJP
   B01F 23/57 20220101ALI20220922BHJP
   B01F 27/808 20220101ALI20220922BHJP
   B01F 27/90 20220101ALI20220922BHJP
【FI】
B01F7/16 K
B01F3/08 A
B01F3/14
B01F7/16 G
B01F7/16 H
B01F7/16 E
B01F7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042248
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】591011384
【氏名又は名称】株式会社パウレック
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】堀田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】土井 尚俊
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB38
4G035AB40
4G035AB46
4G035AE01
4G078AA26
4G078AA30
4G078AB01
4G078AB05
4G078AB09
4G078AB20
4G078BA05
4G078BA09
4G078CA01
4G078CA08
4G078CA13
4G078DA01
4G078DA21
4G078DA28
4G078EA08
(57)【要約】
【課題】プロセス中における被処理物への剪断力のコントロール幅を大きくすることが可能なホモジナイザを備えた撹拌機を提供する。
【解決手段】撹拌機は、軸線が同軸に配設されたステータ5及びロータ6を有するホモジナイザと、ステータ5とロータ6を前記軸線の方向に相対的に移動させる移動機構とを備える。半径方向クリアランスCを介して相対向するステータ5のステータ歯部5bのステータ対向面10と、ロータ6のロータ歯部6bのロータ対向面11は、半径方向クリアランスCがステータ5とロータ6の前記軸線の方向の相対的移動に応じて変化する形状に形成され、前記移動機構により、半径方向クリアランスCが可変で調整可能である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を収容する撹拌槽と、前記撹拌槽内の被処理物を撹拌する撹拌翼と、前記撹拌槽の内部に配置され、軸線が同軸に配設されたステータ及びロータを有し、前記ロータの回転に伴うタービュランス効果により被処理物の吸い込み・押し出しを行うホモジナイザと、前記ステータと前記ロータを前記軸線の方向に相対的に移動させる移動機構とを備え、
前記ステータは、ステータ基部と、該ステータ基部の周方向に沿って形成され、該ステータ基部から前記軸線方向の一方側に延びるステータ歯部を有し、前記ロータは、ロータ基部と、該ロータ基部の周方向に沿って形成され、該ロータ基部から前記軸線方向の他方側に延び、前記ステータ歯部と半径方向のクリアランスを介して組み合わされるロータ歯部を有し、
前記半径方向クリアランスを介して相対向する前記ステータ歯部と前記ロータ歯部の対向面は、前記半径方向クリアランスが前記ステータと前記ロータの前記軸線方向の相対的移動に応じて変化する形状に形成され、前記移動機構により、前記半径方向クリアランスが可変で調整可能であることを特徴とする撹拌機。
【請求項2】
前記ステータ歯部と前記ロータ歯部のうち少なくとも一方の歯部の前記対向面は、前記軸線を含む断面において、前記歯部の先端側に向かって、該歯部の前記対向面と反対側の側面の側に漸次変位するように傾斜した傾斜面に形成されている請求項1に記載の撹拌機。
【請求項3】
前記ステータ歯部と前記ロータ歯部の双方の前記対向面が、前記傾斜面に形成されている請求項2に記載の撹拌機。
【請求項4】
前記軸線を含む断面において、前記傾斜面が直線状である請求項2又は3に記載の撹拌機。
【請求項5】
前記軸線を含む断面において、前記ステータ歯部と前記ロータ歯部は、それぞれ、前記軸線に平行な直線を対称軸とする線対称形状である請求項3又は4に記載の撹拌機。
【請求項6】
被処理物に関する情報を計測するセンサが設けられ、該センサに計測された前記情報に基づき、前記移動機構が、前記ステータと前記ロータを前記軸線方向に相対的に移動させ、前記半径方向クリアランスを可変で調整する請求項1~5の何れか1項に記載の撹拌機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、化粧品、ファインケミカル、電池、食品等の製造工程において、粘性の液体や粉体等の混合、乳化、分散、脱泡等の処理に使用される撹拌機に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、化粧品、ファインケミカル、食品等の製造工程において、粘性の液体や粉体等の混合、乳化、分散、脱泡等の処理に使用される撹拌機として、被処理物を収容する撹拌槽と、前記撹拌槽内の被処理物を撹拌する撹拌翼と、前記撹拌槽の内部に配置され、軸線が同軸に配設されたステータ及びロータを有し、前記ロータの回転に伴うタービュランス効果により被処理物の吸い込み・押し出しを行うホモジナイザとを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-300280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されているように、この種の撹拌機では、前記ステータは、ステータ基部と、該ステータ基部の周方向に沿って形成され、該ステータ基部から前記軸線の方向の一方側に延びるステータ歯部を有する。また、前記ロータは、ロータ基部と、該ロータ基部の周方向に沿って形成され、該ロータ基部から前記軸線方向の他方側に延び、前記ステータ歯部と半径方向のクリアランスを介して組み合わされるロータ歯部を有する。
【0005】
被処理物は、ステータ歯部とロータ歯部によって剪断力が掛けられるが、その剪断力は、ステータ歯部とロータ歯部とのクリアランス(特に、半径方向クリアランス)と、ロータの回転速度とによってコントロールされる。
【0006】
しかしながら、ステータ歯部とロータ歯部とのクリアランスを変更する場合には、一旦撹拌機を停止して、分解・組立を行う必要がある。そのため、プロセス中には、剪断力は、ロータの回転速度のみでコントロールされることになり、コントロール幅が小さい。従って、プロセス中に剪断力の変更を行う場合に十分に対応できない事態が生じる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、プロセス中における被処理物への剪断力のコントロール幅を大きくすることが可能なホモジナイザを備えた撹拌機を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る撹拌機は、被処理物を収容する撹拌槽と、前記撹拌槽内の被処理物を撹拌する撹拌翼と、前記撹拌槽の内部に配置され、軸線が同軸に配設されたステータ及びロータを有し、前記ロータの回転に伴うタービュランス効果により被処理物の吸い込み・押し出しを行うホモジナイザと、前記ステータと前記ロータを前記軸線の方向に相対的に移動させる移動機構とを備え、前記ステータは、ステータ基部と、該ステータ基部の周方向に沿って形成され、該ステータ基部から前記軸線方向の一方側に延びるステータ歯部を有し、前記ロータは、ロータ基部と、該ロータ基部の周方向に沿って形成され、該ロータ基部から前記軸線方向の他方側に延び、前記ステータ歯部と半径方向のクリアランスを介して組み合わされるロータ歯部を有し、前記半径方向クリアランスを介して相対向する前記ステータ歯部と前記ロータ歯部の対向面は、前記半径方向クリアランスが前記ステータと前記ロータの前記軸線方向の相対的移動に応じて変化する形状に形成され、前記移動機構により、前記半径方向クリアランスが可変で調整可能であることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ステータとロータを軸線の方向に相対的に移動させることにより、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスを可変で調整可能である。ステータとロータを軸線方向に相対的に移動させることは、プロセス中であっても可能である。従って、プロセス中であっても、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスが可変で調整可能である。このため、プロセス中であっても、被処理物への剪断力を可変で調整可能である。これにより、プロセス中の剪断力は、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスによってもコントロール可能になり、ロータの回転速度のみでコントロールされる従来の場合よりも、コントロール幅を大きくすることが可能である。すなわち、本発明に係る撹拌機によれば、プロセス中における被処理物への剪断力のコントロール幅を大きくすることが可能なホモジナイザを備えた撹拌機を提供することが可能である。
【0010】
また、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスを可変で調整することにより、被処理物がホモジナイザーに入る際の抵抗を可変で調整でき、単位時間当たりの被処理物の流量(処理流量)を可変で調整できる。従って、プロセス中に、被処理物の処理流量を可変で調整可能である。
【0011】
また、洗浄工程において、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスを大きくし、ロータの回転で洗浄液を循環させてステータとロータを洗浄することによって、ステータとロータの洗浄性を高めることができる。これにより、ステータとロータの分解洗浄を不要とすることが可能である。
【0012】
また、ステータとロータの摩耗の具合に合わせて常にステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスを調整することが可能である。
【0013】
また、排出工程において、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスを大きくすることによって剪断力を加えずに被処理物を撹拌機から排出することにより、仕上がり状態を維持して被処理物を撹拌機から排出することが可能である。
【0014】
上記の構成において、前記ステータ歯部と前記ロータ歯部のうち少なくとも一方の歯部の前記対向面は、前記軸線を含む断面において、前記歯部の先端側に向かって、該歯部の前記対向面と反対側の側面の側に漸次変位するように傾斜した傾斜面に形成されていてもよい。
【0015】
この構成であれば、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスがステータとロータの軸線方向の相対的移動に応じて変化する形状の対向面を、容易に得ることができる。
【0016】
上記の構成において、前記ステータ歯部と前記ロータ歯部の双方の前記対向面が、前記傾斜面に形成されていてもよい。
【0017】
上記の構成において、前記軸線を含む断面において、前記傾斜面が直線状であってもよい。
【0018】
上記の構成において、前記軸線を含む断面において、前記ステータ歯部と前記ロータ歯部は、それぞれ、前記軸線に平行な直線を対称軸とする線対称形状であってもよい。
【0019】
上記の構成において、被処理物に関する情報を計測するセンサが設けられ、該センサに計測された前記情報に基づき、あるいは、製造パラメータを統計学的に解析して得られたその時点の指標値に基づき、前記移動機構が、前記ステータと前記ロータを前記軸線方向に相対的に移動させ、前記半径方向クリアランスを可変で調整してもよい。
【0020】
この構成であれば、リアルタイムでダイレクトに検出した被処理物に関する情報、あるいは、製造パラメータを統計学的に解析して得られたその時点の指標値を、半径方向クリアランスにフィードバックすることができ、これにより、生産の効率化(工程歩進、終点決定)と、安定した製品品質を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プロセス中における被処理物への剪断力のコントロール幅を大きくすることが可能なホモジナイザを備えた撹拌機を提供することができる。また、本発明に係る撹拌機によれば、被処理物への剪断力の調整と被処理物の処理流量の調整が可能なことから、次のような効果を享受できる。例えば粘性の高い被処理物については、プロセスの初期には、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスを広くして抵抗を少なくすることによって処理流量を上げ、被処理物全体を短時間で処理する。その後、被処理物の粘性が低下してステータ歯部とロータ歯部のクリアランスに入りやすくなってきてから、プロセス中に、ステータとロータを軸線方向に相対的に移動させることにより、ステータ歯部とロータ歯部の半径方向クリアランスを極小にすることによって被処理物全体に高い剪断力を加える。結果としてプロセス全体として短い処理時間で、効率よく被処理物に剪断力を与え、目的とする製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る撹拌機の概略縦断面(軸線を含む断面)図である。
図2】撹拌機の撹拌槽の下部周辺の概略拡大縦断面(軸線を含む断面)図である。
図3】ステータ歯部とロータ歯部の概略拡大縦断面(軸線を含む断面)図である。
図4】ステータを斜め下方から見た概略斜視図である。
図5】ステータの概略平面図である。
図6】ステータの概略縦断面(軸線を含む断面)図である。
図7】ステータの概略底面図のうち、ステータ歯部の周辺を示した図である。
図8】ステータの概略側面図である。
図9】ロータを斜め上方から見た概略斜視図である。
図10】ロータの概略平面図である。
図11】ロータの概略縦断面(軸線を含む断面)図である。
図12】ロータの概略側面図である。
図13】切換バルブの状態を示す模式図である。
図14】ステータ歯部とロータ歯部の変形例を示す概略縦断面(軸線を含む断面)図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~14に基づいて、本発明の実施形態に係る撹拌機1について説明する。図1、2に示すように、撹拌機1は、被処理物を収容する撹拌槽2と、上下方向に沿って延びる回転軸3に設けられ、撹拌槽2内の被処理物を撹拌する撹拌翼4と、撹拌槽2の内部の下方に配置され、軸線が同一の軸線Aとなるように配設されるステータ5及びロータ6を有し、ロータ6の回転に伴うタービュランス効果により被処理物の吸い込み・押し出しを行うホモジナイザ7と、ステータ5とロータ6を軸線Aの方向に相対的に移動させる移動機構8とを主要な構成要素として備える。なお、本実施形態では軸線Aの方向は、上下方向に沿っている。
【0024】
撹拌槽2内には、内壁に固定されたバッフル9が配置されている。撹拌翼4は、回転軸3を介して、不図示の駆動モータに回転駆動される。撹拌槽2は、内部に撹拌翼4やバッフル9が配置される本体部2aと、本体部2aの下方に形成され、内部にホモジナイザ7が配設される下部2bとを有する。なお、ホモジナイザ7のステータ5及びロータ6は、回転軸3と同軸に配設されている。
【0025】
図4~8に示すように、ステータ5は、環状のステータ基部5aと、ステータ基部5aの周方向に沿って連続して形成され、ステータ基部5aから下方に延びるステータ歯部5bを2個有する。ステータ歯部5bは、外周側と内周側にステータ側面5cを有する。ステータ歯部5bには、半径方向に貫通するステータ貫通孔5dが周方向等間隔に形成されている。ステータ貫通孔5dは、貫通方向に沿って見た場合に、上下方向に対して傾斜した長穴形状である。2個のステータ歯部5bで、ステータ貫通孔5dの形状、寸法、個数、周方向位置は同じである。
【0026】
図9~12に示すように、ロータ6は、円板状のロータ基部6aと、ロータ基部6aの周方向に沿って連続して形成され、ロータ基部6aから上方に延びるロータ歯部6bを1個有する。ロータ歯部6bは、外周側と内周側にロータ側面6cを有する。ロータ歯部6bには、半径方向に貫通するロータ貫通孔6dが周方向等間隔に形成されている。ロータ貫通孔6dは、貫通方向に沿って見た場合に、上下方向に沿って延びる長穴形状である。ロータ貫通孔6dの個数は、1つのステータ歯部5bのステータ貫通孔5dの個数と同じである。
【0027】
また、ロータ6のロータ歯部6bの内周側には、ロータ基部6aから上方に延びる複数の羽根部6eが形成されている。羽根部6eは、平面視で、外周側に向かって、ロータ基部6aの周方向の一方側に漸次変位する形状となっている。また、ロータ基部6aの中央には上方に延びるボス部6fが形成されている。羽根部6eの内周端は、ボス部6fに対して径方向に所定距離で離隔している。また、ロータ基部6aの中央には下方に延びる軸部6gが形成されている。
【0028】
図3に示すように、ロータ6のロータ歯部6bは、ステータ5のステータ歯部5bと半径方向のクリアランスCを介して組み合わされる。半径方向クリアランスCを介して相対向するステータ歯部5bのステータ側面5c(以下、ステータ対向面10)とロータ歯部6bのロータ側面6c(以下、ロータ対向面11)は、半径方向クリアランスCがステータ5とロータ6の上下方向の相対的移動に応じて変化する形状に形成されている。従って、移動機構8により、ステータ5とロータ6を上下方向に相対的に移動させることにより、ステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCを可変で調整可能である。
【0029】
なお、内周側のステータ歯部5bの内周側のステータ側面5cと、ロータ6の羽根部6eの外周側端面6hも、所定の半径方向のクリアランスを介して相対向する。
【0030】
ステータ歯部5bのステータ対向面10は、軸線Aを含む断面において、ステータ歯部5bの先端側に向かって、ステータ歯部5bにおけるステータ対向面10と反対側のステータ側面5cの側に漸次変位するように傾斜した傾斜面に形成されている。軸線Aを含む断面において、この傾斜面は直線状である。
【0031】
また、軸線Aを含む断面において、ステータ歯部5bは、軸線Aに平行な直線Sを対称軸とする線対称形状である。
【0032】
本実施形態では、ロータ歯部6bのロータ側面6cの双方が、ロータ対向面11となっている。ロータ歯部6bのロータ対向面11の一方は、軸線Aを含む断面において、ロータ歯部6bの先端側に向かって、ロータ歯部6bにおけるロータ対向面11と反対側のロータ側面6c(他方のロータ対向面11)の側に漸次変位するように傾斜した傾斜面に形成されている。軸線Aを含む断面において、この傾斜面は直線状である。
【0033】
また、軸線Aを含む断面において、ロータ歯部6bは、軸線Aに平行な直線Sを対称軸とする線対称形状である。
【0034】
なお、軸線Aを含む断面において、ロータ対向面11の傾斜面と、ステータ対向面10の傾斜面は、平行である。換言すれば、軸線Aを含む断面において、ロータ対向面11の傾斜面の軸線Aに対する傾斜角度と、ステータ対向面10の傾斜面の軸線Aに対する傾斜角度は同一である。このため、ロータ対向面11とステータ対向面10の半径方向クリアランスCは、軸線Aの方向で均一である。このことは、ステータ5とロータ6を軸線Aの方向に相対的に移動させても変わらない。
【0035】
本実施形態では、ロータ6は上下方向の位置を固定されており、移動機構8は、ロータ6に対してステータ5を上下動させるものである。図1に示すように、移動機構8は、棒状部材8aと送りねじ機構8bと上下動用モータ8cを有する。ステータ5の下面の外周側の部位が棒状部材8aの上端に固定されている。ステータ5と棒状部材8aとは一体的に上下動する。ステータ5と棒状部材8aには、上下動用モータ8cの回転駆動力を送りねじ機構8bによって変換した上下駆動力が入力される。ステータ5の上下動は、例えば0.1mm単位で行う。なお、上下動用モータ8cの回転駆動軸は、ステータ5と同軸に配設されている。
【0036】
ロータ6の軸部6gが回転駆動軸12の上端部に挿入された状態で、ロータ6が回転駆動軸12に対して固定されている。ロータ6は回転駆動軸12と一体に回転する。回転駆動軸12には、その斜め下方に配置された回転駆動用モータ13からベルトやチェーン等の適宜の動力伝達手段を介して回転動力が入力される。なお、回転駆動軸12は、ロータ6と同軸に配設されている。
【0037】
撹拌機1は、撹拌槽2の外部に配設される切換バルブ14を備える。切換バルブ14は、撹拌槽2の下部2bに接続してホモジナイザ7(外周側のステータ歯部5b)の外周側の空間に連通する流通路R1と、撹拌槽2の本体部2aの底部に接続する帰還路R2と、撹拌槽2の本体部2aの上部に接続する外部循環路R3とに接続している。また、外部循環路R3には、開閉バルブ15が配設された排出路R4が接続している。
【0038】
切換バルブ14は、図13(A)に示す流通路R1と帰還路R2を接続した状態と、図13(B)に示す流通路R1と外部循環路R3を接続した状態とに切り換わる。
【0039】
図1に模式的に示すように、撹拌槽2の本体部2aの周壁には、被処理物に関する情報を計測する本体部センサ16が配設されている。また、外部循環路R3にも、被処理物に関する情報を計測する外部循環路センサ17が配設されている。
【0040】
本体部センサ16、外部循環路センサ17に計測された被処理物に関する情報に基づき、移動機構8が、ロータ6に対してステータ5を上下方向に移動させ、半径方向クリアランスCを可変で調整する。
【0041】
本体部センサ16、外部循環路センサ17に計測される被処理物に関する情報としては、例えば、被処理物の粘度、電気伝導度、粒子径分光情報、温度、流量等が挙げられる。
【0042】
撹拌機1の運転中は、ホモジナイザ7のロータ6が回転すると、ロータ6の回転に伴うタービュランス効果によって、撹拌槽2内の被処理物がホモジナイザ7の内部に吸い込まれ(図2の白矢印参照)、さらに遠心力により、ステータ歯部5bのステータ貫通孔5dとロータ歯部6bのロータ貫通孔6dから押し出され、この時のステータ歯部5b、ロータ歯部6bによる剪断作用で被処理物の混合、乳化、分散が促進される。
【0043】
切換バルブ14が図13(A)の状態の場合には、ホモジナイザ7からその外周側空間に押し出された被処理物は、流通路R1、切換バルブ14、帰還路R2を通って撹拌槽2の本体部2a内に戻り、撹拌翼4で撹拌されて、再びホモジナイザ7に吸い込まれる。
【0044】
また、切換バルブ14が図13(B)の状態の場合には、開閉バルブ15が閉の状態の時には、ホモジナイザ7からその外周側空間に押し出された被処理物は、流通路R1、切換バルブ14、外部循環路R3を経由して撹拌槽2の本体部2a内に入り、撹拌翼4で撹拌されて、再びホモジナイザ7に吸い込まれる。開閉バルブ15が開の状態の時には、ホモジナイザ7からその外周側空間に押し出された被処理物は、流通路R1、切換バルブ14、外部循環路R3の一部、排出路R4を通って撹拌機1の外部に排出される。
【0045】
以上のように構成された撹拌機1では、以下の効果を享受できる。
【0046】
ステータ5とロータ6を軸線Aの方向に相対的に移動させることにより、ステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCを可変で調整可能である。ステータ5とロータ6を軸線Aの方向に相対的に移動させることは、プロセス中であっても可能である。従って、プロセス中であっても、ステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCが可変で調整可能である。このため、プロセス中であっても、被処理物への剪断力を可変で調整可能である。これにより、プロセス中の剪断力は、ステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCによってもコントロール可能になり、ロータ6の回転速度のみでコントロールされる従来の場合よりも、コントロール幅を大きくすることが可能である。すなわち、本実施形態に係る撹拌機1によれば、プロセス中における被処理物への剪断力のコントロール幅を大きくすることが可能なホモジナイザを備えた撹拌機を提供することが可能である。
【0047】
また、ステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCを可変で調整することにより、被処理物がホモジナイザ7に入る際の抵抗を可変で調整でき、単位時間当たりの被処理物の流量(処理流量)を可変で調整できる。従って、プロセス中に、被処理物の処理流量を可変で調整可能である。
【0048】
また、洗浄工程において、図1図2に二点鎖線で示すように、ステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCを大きくし、ロータ6の回転で洗浄液を循環させてステータ5とロータ6を洗浄することによって、ステータ5とロータ6の洗浄性を高めることができる。これにより、ステータ5とロータ6の分解洗浄を不要とすることが可能である。
【0049】
また、ステータ5とロータ6の摩耗の具合に合わせて常にステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCを調整することが可能である。
【0050】
また、排出工程において、ステータ歯部5bとロータ歯部6bの半径方向クリアランスCを大きくすることによって剪断力を加えずに被処理物を撹拌機1から排出することにより、仕上がり状態を維持して被処理物を撹拌機1から排出することが可能である。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでは無く、その技術的思想の範囲内で、様々な変形が可能である。例えば、ステータ歯部5bのステータ対向面とロータ歯部6bのロータ対向面11は、半径方向クリアランスCがステータ5とロータ6の軸線Aの方向の相対的移動に応じて変化する形状に形成されていればよい。例えば、上記実施形態では、軸線Aを含む断面において、ステータ歯部5bのステータ対向面10とロータ歯部6bのロータ対向面11の双方が、軸線Aに対して傾斜した傾斜面に形成されていたが、図14(A)に示すように、一方(図示例ではロータ対向面11)が、軸線Aを含む断面において、軸線Aに平行になるように形成されていてもよい。また、図14(B)に示すように、ステータ歯部5bのステータ対向面10とロータ歯部6bのロータ対向面11の双方が、軸線Aを含む断面で軸線Aに平行な直線となる面10a,11aに、軸線Aを含む断面でコ字状となる環状溝10b,11bを形成することにより、設けられたものであってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、移動機構8に、送りねじ機構8bを利用していたが、ステータ5とロータ6を軸線Aの方向に相対的に移動させる機構を利用すればよく、例えばシリンダ機構等を利用してもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、本体部センサ16、外部循環路センサ17に計測された被処理物に関する情報に基づき、移動機構8が、ロータ6に対してステータ5を上下方向に移動させ、半径方向クリアランスCを可変で調整するようにしていたが、被処理物以外の情報に基づき、移動機構8が、ロータ6に対してステータ5を上下方向に移動させ、半径方向クリアランスCを可変で調整するようにしてもよい。例えば、ロータ6のトルク値に基づき、移動機構8が、ロータ6に対してステータ5を上下方向に移動させ、半径方向クリアランスCを可変で調整するようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、ステータ5のステータ貫通孔5dは、貫通方向に沿って見た場合に、上下方向に対して傾斜した長穴形状であったが、貫通方向に沿って見た場合に、上下方向に沿って延びる長穴形状であってもよい。また、上記実施形態では、ロータ6のロータ貫通孔6dは、貫通方向に沿って見た場合に、上下方向に沿って延びる長穴形状であったが、貫通方向に沿って見た場合に、上下方向に対して傾斜した長穴形状であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、ステータ歯部5bは、ステータ基部5aの周方向に沿って連続して形成されていたが、ステータ歯部5bが、ステータ基部5aの周方向に沿って断続的に形成されてもよい。また、上記実施形態では、ロータ歯部6bも、ロータ基部6aの周方向に沿って連続して形成されていたが、ロータ歯部6bも、ロータ基部6aの周方向に沿って断続的に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 撹拌機
2 撹拌槽
4 撹拌翼
5 ステータ
5a ステータ基部
5b ステータ歯部
5c ステータ側面
6 ロータ
6a ロータ基部
6b ロータ歯部
6c ロータ側面
7 ホモジナイザ
8 移動機構
10 ステータ対向面
11 ロータ対向面
16 本体部センサ
17 外部循環路センサ
A 軸線
C 半径方向クリアランス
S 直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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