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特開2022-142197制御装置、制御方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142197
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
G05B13/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042277
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真也
(72)【発明者】
【氏名】松山 蓮
(72)【発明者】
【氏名】深澤 淳基
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA17
5H004GA28
5H004GB08
5H004KD31
5H004KD62
(57)【要約】
【課題】機械学習モデルを用いた産業機械の制御において幅広い入力データに対して好適な制御を行うことが可能な制御装置、制御方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、前記産業機械に関する第1制御量を取得する第1処理部と、前記機械学習モデルにおいて、前記状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する第2処理部と、前記状態量が前記外挿のデータである場合、前記第1制御量の補正に用いる補正値を算出する第3処理部と、前記補正値を用いて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力する補正部と、を備える、制御装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、前記産業機械に関する第1制御量を取得する第1処理部と、
前記機械学習モデルにおいて、前記状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する第2処理部と、
前記状態量が前記外挿のデータである場合、前記第1制御量の補正に用いる補正値を算出する第3処理部と、
前記補正値を用いて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力する補正部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記第3処理部は、エキスパートシステムであって、前記産業機械の操作者によって入力される補正情報に基づき、前記機械学習モデルに入力された前記状態量ごとに前記補正値を算出する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第2処理部は、
前記状態量と、前記機械学習モデルの学習に用いられた学習用データとの乖離度合を示す乖離度合情報を取得する乖離度合情報取得部と、
前記乖離度合情報に基づき、前記機械学習モデルへ入力された状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する判定部と、
を備える、請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第2処理部は、前記学習用データを学習したオートエンコーダであって、
前記乖離度合情報取得部は、入力された前記状態量と、前記状態量を再構成した再構成データとの差分を示す再構成誤差を前記乖離度合情報として取得する、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第2処理部は、入力された前記状態量の基準値に対する大小関係を示す情報を前記乖離度合情報として出力する、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第1処理部は、前記センシング情報を変換または加工して得られる状態量を前記機械学習モデルへ入力する、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記機械学習モデルは、LSTM(Long Short Term Memory)を用いて学習したモデルである、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
第1処理部が、センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、前記産業機械に関する第1制御量を取得する過程と、
第2処理部が、前記機械学習モデルにおいて、前記状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する過程と、
第3処理部が、前記状態量が前記外挿のデータである場合、前記第1制御量の補正に用いる補正値を算出する過程と、
補正部が、前記補正値を用いて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力する過程と、
を含む、制御方法。
【請求項9】
コンピュータを、
センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、前記産業機械に関する第1制御量を取得する第1処理手段と、
前記機械学習モデルにおいて、前記状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する第2処理手段と、
前記状態量が前記外挿のデータである場合、前記第1制御量の補正に用いる補正値を算出する第3処理手段と、
前記補正値を用いて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力する補正手段と、
として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機械の制御において、AI(Artificial Intelligence)を用いた制御を行う技術が各種提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、機械学習によって生成される2つの計算モデルを用いて、水処理プラントに設けられた水処理装置を制御する技術が開示されている。当該技術では、演算装置における画像用計算モデルの使用と、センサ用計算モデルの使用とを切り替えて、水処理装置の制御のための出力情報を演算装置に演算させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6541913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の計算モデルは、どちらもニューラルネットワークであり、学習時に使用したデータに応じた出力情報を出力する。そのため、学習に使用したデータと乖離したデータ(外挿のデータ)が入力された場合、当該計算モデルは、水処理装置を安定して制御可能な出力情報とは乖離した出力情報を出力する場合がある。例えば、計算モデルに入力されるデータは天候や季節変動によって変動する場合があり、この場合に学習に使用したデータと乖離したデータが入力され得る。2つの計算モデルを用いて演算した場合であっても、例えば処理水に添加する凝集剤が過剰に供給されるなど、水処理装置の制御が必ずしも最適なものとならない状況が生じ得る。この状況に対応すべく、想定される運転状態を全て補うような学習データを取得すること、又コンピュータシミュレーションにて学習データを生成・取得することは、多くの時間とコストを要する。そのため、データが少ない中でも安定して制御が可能なシステムを構築する必要がある。
【0006】
上述の課題を鑑み、本発明の目的は、機械学習モデルを用いた産業機械の制御において幅広い入力データに対して好適な制御を行うことが可能な制御装置、制御方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明の一態様に係る制御装置は、センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、前記産業機械に関する第1制御量を取得する第1処理部と、前記機械学習モデルにおいて、前記状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する第2処理部と、前記状態量が前記外挿のデータである場合、前記第1制御量の補正に用いる補正値を算出する第3処理部と、前記補正値を用いて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力する補正部と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係る制御方法は、第1処理部が、センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、前記産業機械に関する第1制御量を取得する過程と、第2処理部が、前記機械学習モデルにおいて、前記状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する過程と、第3処理部が、前記状態量が前記外挿のデータである場合、前記第1制御量の補正に用いる補正値を算出する過程と、補正部が、前記補正値を用いて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力する過程と、を含む。
【0009】
本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータを、センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、前記産業機械に関する第1制御量を取得する第1処理手段と、前記機械学習モデルにおいて、前記状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する第2処理手段と、前記状態量が前記外挿のデータである場合、前記第1制御量の補正に用いる補正値を算出する第3処理手段と、前記補正値を用いて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力する補正手段と、として機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械学習モデルを用いた産業機械の制御において幅広い入力データに対して好適な制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る乾燥設備の構成の一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る機械学習モデルに内挿のデータが入力された場合の第1制御量の一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る機械学習モデルに外挿のデータが入力された場合の第1制御量の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る再構成誤差の一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る補正情報の一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る補正部が出力する制御量の一例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る制御装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施例における比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0013】
本発明は、産業機械に関する制御を行う制御装置に関する。産業機械とは、多様な産業分野で利用される機械である。産業機械は、例えば、エンジン、エンジン発電、印刷機械、紙工機械、工作機械、製鐵機械、ゴム・タイヤ機械、コンプレッサ、油圧機器、ポンプ、ロボット、半導体製造装置、及び医療機器等を含む。また、産業機械には、上述の各種産業機械を組み合わせたもの含まれる。
【0014】
また、本発明における産業機械には、各種プラントを構成する機械を含み、必ずしも動力を必要としない結晶缶、蒸留塔、吸収塔などの塔槽類、加熱炉、工業用炉、集塵装置などの装置を含む。各種プラントは、例えば、水処理プラント、焼却プラント、化学プラント、石油プラント、発電プラント、衣料品プラント、医薬プラント、及び食品プラント等を含む。産業機械の一例として、水処理プラントの場合、脱水機、焼却炉、熱交換器、乾燥機、集塵機、冷却塔、送風機等が相当する。
【0015】
産業機械に関する制御には、例えば、産業機械の動作を制御するものを含む。制御の一例として、乾燥設備の乾燥機が回転乾燥機(ロータリー乾燥機)である場合、当該乾燥機の回転数制御が挙げられる。この場合、制御対象は、乾燥機である。具体的に、乾燥機が回転する攪拌機を有する場合、制御対象は、乾燥機の撹拌機である。また、産業機械に関する制御とは、産業機械に影響を与えるほかの装置、機器、機構の制御であってもよい。一例として、乾燥機3を対象とする場合の制御として、乾燥機3の内部へ供給される脱水汚泥や熱風の量を調整するためのバルブの制御が相当する。この場合、制御対象は、バルブである。なお、制御対象は、かかる例に限定されない。
【0016】
以下では、本実施形態に係る制御装置を、水処理施設において乾燥処理を行う乾燥設備に適用する例について説明する。当該乾燥設備は、上流工程の設備から供給される脱水汚泥を乾燥させ、乾燥汚泥を下流工程の設備へ供給する設備である。当該乾燥設備は回転乾燥機を備え、当該回転乾燥機は回転する撹拌機を有するものとする。そのため、本実施形態に係る制御対象は、当乾燥機の撹拌機であるとする。
【0017】
<1.乾燥設備の構成>
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る脱水汚泥を乾燥処理する乾燥設備の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る乾燥設備1の構成の一例を示す図である。
【0018】
図1に示すように、乾燥設備1は、その構成の一部に、熱風炉2、乾燥機3、入口流量センサ10、入口水分センサ11、出口水分センサ12、入口温度センサ13、出口温度センサ14、制御装置20、及び回転制御装置30を備える。
【0019】
熱風炉2は、乾燥機3へ高温の空気を連続的に供給するための設備である。熱風炉2は、例えば、乾燥機3にて脱水汚泥の乾燥に用いられて排出された乾燥排ガスを加熱する。そして、当該乾燥排ガスを加熱して得られる熱風を乾燥機3へ供給する。
【0020】
乾燥機3は、熱風炉2から供給される熱風を用いて、上流から供給される脱水汚泥を乾燥し、乾燥脱水汚泥を排出する設備である。図1に示すように、乾燥機3は、撹拌機4と回転駆動装置5を備える。撹拌機4は、回転することで乾燥機3の内部の脱水汚泥を攪拌する。撹拌機4は、回転駆動装置5により所定の速度で回転駆動される。回転駆動装置5は、例えばモータである。
【0021】
入口流量センサ10は、対象の流量を測定するセンサ装置である。例えば、入口流量センサ10は、乾燥機3の脱水汚泥の入口における脱水汚泥の流量(入口汚泥流量)を測定する。図1に示すように、入口流量センサ10は、乾燥機3の脱水汚泥の入口へ流入する脱水汚泥の流量を測定可能に設けられる。
【0022】
入口水分センサ11は、対象の含水率を測定するセンサ装置である。例えば、入口水分センサ11は、乾燥機3の脱水汚泥の入口における脱水汚泥の含水率(入口汚泥含水率)を測定する。図1に示すように、入口水分センサ11は、乾燥機3の脱水汚泥の入口へ流入する脱水汚泥の含水率を測定可能に設けられる。
【0023】
出口水分センサ12は、対象の含水率を測定するセンサ装置である。例えば、出口水分センサ12は、乾燥機3の乾燥汚泥の出口における乾燥汚泥の含水率(出口汚泥含水率)を測定する。図1に示すように、出口水分センサ12は、乾燥機3の脱水汚泥の出口から流出する乾燥汚泥の含水率を測定可能に設けられる。
【0024】
入口温度センサ13は、対象の温度を測定するセンサ装置である。例えば、入口温度センサ13は、乾燥機3の熱風の入口における温度(入口温度)を測定する。図1に示すように、入口温度センサ13は、乾燥機3の熱風の入口から流入する熱風の温度を入口温度として測定可能に設けられる。
【0025】
出口温度センサ14は、対象の温度を測定するセンサ装置である。例えば、出口温度センサ14は、乾燥機3の乾燥排ガスの出口における温度(出口温度)を測定する。図1に示すように、出口温度センサ14は、乾燥機3の乾燥排ガスの出口から排出される乾燥排ガスの温度を出口温度として測定可能に設けられる。
【0026】
入口流量センサ10、入口水分センサ11、出口水分センサ12、入口温度センサ13、及び出口温度センサ14の各センサ装置は、制御装置20と通信可能に接続されている。各センサ装置は、測定した情報(センシング情報)を通信によって制御装置20へ送信することができる。
【0027】
制御装置20は、各種センサ装置が取得するセンシング情報に基づく乾燥機3に関する状態量に基づき、乾燥機3を制御する。本実施形態では、各種センサ装置によって取得されるセンシング情報が、乾燥機3に関する状態量としてそのまま用いられるものとする。よって、以下では、各センサ装置が取得するセンシング情報が状態量であるものとして説明する。例えば、制御装置20は、各センサ装置が取得した乾燥機3に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、乾燥機3の第1制御量を取得する。ここで、乾燥機3に関する状態量とは、入口流量センサ10から取得される入口汚泥流量、入口水分センサ11から取得される入口汚泥含水率、出口水分センサ12から取得される出口汚泥含水率、入口温度センサ13から取得される入口温度、及び出口温度センサ14から取得される出口温度の少なくとも一つを含む。また、制御装置20は、各センサ装置が取得した乾燥機3に関する状態量に応じて、第1制御量を補正した第2制御量を取得する。そして、制御装置20は、状態量に応じて、第1制御量又は第2制御量のいずれか一方を、乾燥機3に関する制御に用いる。
【0028】
回転制御装置30は、回転駆動装置5を制御して、撹拌機4の回転数を制御する。撹拌機4の回転数を変更することにより、乾燥機3の内部の脱水汚泥の攪拌状態や脱水汚泥の滞留時間を制御することが可能となる。なお、回転制御装置30は、回転駆動装置5と一体化されていてもよい。
【0029】
以下では、一例として、乾燥機3の安定乾燥を目的として、制御装置20が乾燥機3の撹拌機4の回転数を制御する場合について説明する。この場合、第1制御量及び第2制御量は、それぞれ撹拌機4の回転数を示す。回転数が制御されることで、乾燥機3の内部の脱水汚泥の滞留時間が調整される。これにより、乾燥機3で乾燥される脱水汚泥を安定的に乾燥させることができる。
【0030】
例えば、脱水汚泥の供給量が多い場合、制御装置20は、乾燥機3の内部の脱水汚泥がより攪拌されるように撹拌機4の回転数を大きくする。一方、脱水汚泥の供給量が少ない場合は、制御装置20は、乾燥機3の内部の脱水汚泥の攪拌を抑制するよう撹拌機4の回転数を小さくする。
【0031】
<2.制御装置の機能構成>
以上、本発明の実施形態に係る乾燥設備1の構成について説明した。
続いて、図2から図6を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置20の機能構成について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、制御装置20は、通信部210、制御部220、及び記憶部230を備える。
【0032】
(1)通信部210
通信部210は、外部装置と通信を行う機能を有する。通信部210は、外部装置から受信する情報を制御部220へ出力する。例えば、通信部210は、センサ装置から受信した状態量を制御部220の入力制御部221へ出力する。ここで外部装置とは、制御装置の外部に設けられた装置である。外部装置には、センサ装置、制御対象となる装置等が含まれる。
【0033】
通信部210は、制御部220から入力される情報を外部装置へ送信する。例えば、通信部210は、制御部220の出力制御部226から入力される制御信号を回転制御装置30へ送信する。
【0034】
なお、通信部210による通信は、有線通信又は無線通信のいずれによって実現されてもよい。
【0035】
(2)制御部220
制御部220は、制御装置20全般の動作を制御する機能を有する。制御部220は、例えば、制御装置20がハードウェアとして備えるCPU(Central Processing Unit)にプログラムを実行させることによって実現される。
当該機能を実現するために、制御部220は、入力制御部221、第1処理部222、第2処理部223、第3処理部224、補正部225、及び出力制御部226を含む。
【0036】
(2-1)入力制御部221
入力制御部221は、制御部220における、通信部210から入力される情報の入力先を制御する。例えば、入力制御部221は、通信部210から入力される状態量を、第1処理部222及び第2処理部223の各々へ入力する。なお、入力制御部221は、各処理部へ同一の状態量を入力してもよいし、異なる状態量を入力してもよい。
【0037】
(2-2)第1処理部222
第1処理部222は、入力制御部221から入力される状態量に基づき、第1制御量を取得する機能を有する。例えば、第1処理部222は、状態量を機械学習モデルへ入力し、産業機械に関する第1制御量を取得する。具体的に、第1処理部222は、乾燥機3に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、乾燥機3に関する第1制御量を取得する。
【0038】
機械学習モデルは、例えば、LSTM(Long Short Term Memory)により長期の時系列データを学習するモデル(以下、「LSTMモデル」とも称される)である。LSTMモデルは、時系列が長いデータに対応できるため、高い精度で回帰ができる。
【0039】
第1処理部222は、機械学習モデルを用いることで、人が予測(予見)できていないケースもパラメータとして総合的に加味した第1制御量を取得(予測)できる。制御装置20は、当該第1制御量を用いて産業機械を制御することで、産業機械の制御の精度を向上することができる。
【0040】
LSTMモデルは、学習時に複数のパラメータ(状態量)を学習用データとして用いる。学習済みのLSTMモデル(以下、「学習済みモデル」とも称される)は、複数のパラメータが入力データ(状態量)として入力されると、入力された複数のパラメータに基づき類推した結果を、出力データ(第1制御量)として出力する。本実施形態のLSTMモデルは、例えば、乾燥機3の入口汚泥流量、入口汚泥含水率、入口温度、及び出口温度を入力データとして、乾燥機3の回転数を出力データとして出力するように学習する。
【0041】
学習済みモデルの生成では、例えば、教師有り学習が行われる。教師有り学習では、学習モデルに学習用のデータセットを用いた学習を行わせる。データセットは、入力データと、当該入力データ(説明変数)と対応する教師データ(目的変数)のセットである。
【0042】
入力データは、学習時の入力となるデータである。本実施形態に係る入力データは、例えば、乾燥機3の入口汚泥流量、入口汚泥含水率、入口温度、及び出口温度である。
【0043】
教師データは、入力データに基づき出力される出力データの正解を示すデータである。本実施形態に係る教師データは、例えば、乾燥機3の回転数である。当該回転数は、乾燥機3の状態が入力データの示す状態にある場合に、乾燥機3の出口汚泥含水率が目標とする値となるように設定される値である。
【0044】
ここで、図3及び図4を参照して、本実施形態に係る第1処理部222が予測する第1制御量の一例について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る機械学習モデルに内挿のデータが入力された場合の第1制御量の一例を示す図である。図4は、本発明の実施形態に係る機械学習モデルに外挿のデータが入力された場合の第1制御量の一例を示す図である。図3及び図4に示すグラフの横軸は時間を示し、縦軸は制御量を示す。また、図3及び図4において、実線のグラフは設定値である制御量の時系列変化を示すグラフであり、一点鎖線のグラフは予測値である第1制御量の時系列変化を示すグラフである。設定値は、例えば産業機械の操作者が状態量に基づき設定した値である。予測値は、機械学習モデルが状態量に基づき予測した値である。
【0045】
機械学習モデルに内挿のデータが入力された場合、図3に示す制御量の時系列変化では、設定値と予測値の間にほぼ差分が生じていないことが分かる。これより、機械学習モデルにおいて、内挿のデータが入力された場合には第1制御量の予測の精度が高いといえる。一方、機械学習モデルに外挿のデータが入力された場合、図4に示す制御量の時系列変化では、設定値と予測値の間に、全体的にほぼ差分が生じていることが分かる。これより、機械学習モデルにおいて、外挿のデータが入力された場合には第1制御量の予測の精度が低下するといえる。なお、図4に示すグラフにおける絶対誤差率は6.34%であった。
【0046】
(2-3)第2処理部223
第2処理部223は、機械学習モデルにおいて、状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する機能を有する。第2処理部223の機能は、例えば、オートエンコーダにより実現される。オートエンコーダは、入力層の値を出力層にて再構成することができるニューラルネットワークの手法の1つである。オートエンコーダは、ニューラルネットワークの構造や隠れ層の段数を限定せず、入力と同じ出力を可能とするよう調整されたモデルを示す。
【0047】
オートエンコーダは、例えば、正常データのみを学習させておくことで、異常データ(未学習の入力データ)の入力を検知することができる。これは、オートエンコーダが、正常データ(学習済みの入力データ)を再現することはできるが、未学習の入力データは再現する際に誤差が大きくなることを利用している。本実施形態では、オートエンコーダに、LSTMモデル(機械学習モデル)の学習用データを正常データとして学習させる。これにより、未学習の入力データがオートエンコーダへ入力された場合、オートエンコーダは、当該入力データを異常データとして検知することができる。
【0048】
第2処理部223は、当該機能を実現するために、図2に示すように乖離度合情報取得部2231及び判定部2232を備える。
【0049】
(2-3-1)乖離度合情報取得部2231
乖離度合情報取得部2231は、各センサ装置が検出する状態量と、機械学習モデルの学習に用いられた学習用データとの乖離度合を示す乖離度合情報を取得する機能を有する。乖離度合とは、例えば、状態量と学習用データとの類似度がどれだけ乖離しているかを示す情報である。
【0050】
オートエンコーダは、入力データとして入力された状態量(入力層の値)に基づき、当該状態量を再構成する。オートエンコーダが再構成した状態量を示すデータは、以下では、「再構成データ」とも称される。さらに、オートエンコーダは、入力データである状態量と、再構成データとの差分を示す再構成誤差を算出する。入力データが学習済みの入力データである場合、オートエンコーダは、入力された状態量と同一の状態量を再構成できる。よって、再構成誤差は非常に小さくなるよう調整されている。
【0051】
一方、入力データが学習済みの入力データでない場合、オートエンコーダは、入力された状態量と同一の状態量を再構成する際に誤差が大きくなる。よって、再構成誤差が生じる。具体的に、入力データと学習済みの入力データの類似度が低くなるほど、入力された状態量と再構成された状態量との類似度も低くなり、再構成誤差も大きくなる。即ち、再構成誤差は、入力データと学習済みの入力データの類似度がどれだけ乖離しているかを示す情報といえる。よって、オートエンコーダは、算出した再構成誤差を乖離度合情報として出力する。即ち、乖離度合情報取得部2231は、入力された状態量と、状態量を再構成した再構成データとの差分を示す再構成誤差を乖離度合情報として取得する。
【0052】
なお、オートエンコーダに入力される入力データには、センサ装置が検出した状態量がそのままの値で用いられてもよいし、当該状態量を標準化した値が用いられてもよい。標準化により、各種状態量間のスケールを合わせることができる。また、再構成誤差にて判断される機能は入力の学習データから取得した上下限値などの値によるしきい値などにより判定を行ってもよい。
【0053】
ここで、図5を参照して、本実施形態に係る再構成誤差について説明する。図5は、本発明の実施形態に係る再構成誤差の一例を示す図である。図5に示すグラフの横軸は時間tを示す。縦軸は、オートエンコーダへ入力される状態量を標準化した値である標準化値zを示す。また、図5に示す実線のグラフは、オートエンコーダに入力された入力データに関するグラフである。また、一点鎖線のグラフは、オートエンコーダに入力された入力データが再構成された再構成データに関するグラフである。
【0054】
図5に示すように、時間0から時間t1の間と、時間t2から時間t3の間では、状態量と再構成データの間に、大きな差分はほぼ生じていない。しかしながら、時間t1から時間t2の間と、時間t3以降では、状態量と再構成データの間に大きな差分が生じている。これは、時間t1から時間t2の間と、時間t3以降に入力されたデータが学習済みの入力データではないためである。よって、当該差分が、再構成誤差として算出される。
【0055】
(2-3-2)判定部2232
判定部2232は、機械学習モデルへ入力された状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する機能を有する。例えば、判定部2232は、第1制御量を取得する際に機械学習モデルへ入力された状態量と、機械学習モデルの学習に用いられた学習用データとの関係に応じて判定を行う。一例として、判定部2232は、乖離度合情報に基づき、判定を行う。具体的に、判定部2232は、乖離度合情報が所定の閾値以上であるか否かに基づき、判定を行う。所定の閾値には、例えば、当該所定の閾値を境に、入力データが内挿のデータ又は外挿のデータであるか否かを判定可能な値が設定される。
【0056】
より具体的に、乖離度合情報が再構成誤差である例について説明する。再構成誤差が所定の閾値以上でない場合、再構成誤差が小さく、入力データと学習済みの入力データとの類似度が高いことを意味する。これより、LSTMモデルが当該入力データに基づき出力した第1制御量の精度が良い可能性が高い。よって、判定部2232は、機械学習モデルへ入力された状態量が内挿のデータであると判定する。
【0057】
一方、再構成誤差が所定の閾値以上である場合、再構成誤差が大きく、入力データと学習済みの入力データとの類似度が低いことを意味する。これより、LSTMモデルが当該入力データに基づき出力した第1制御量の精度が悪い可能性が高い。よって、判定部2232は、機械学習モデルへ入力された状態量が外挿のデータであると判定する。
【0058】
(2-4)第3処理部224
第3処理部224は、第1制御量の補正に用いる補正値を算出する機能を有する。第3処理部224は、状態量が外挿のデータである場合、第1制御量の補正に用いる補正値を算出する。第3処理部の機能は、例えば、エキスパートシステムによって実現される。エキスパートシステムは、専門知識のない素人あるいは初心者でも専門家と同じレベルの問題解決が可能となるよう、対象に関する専門知識に対応する情報をもとに動作するコンピュータシステムである。
【0059】
本実施形態に係るエキスパートシステムは、産業機械の操作者によって入力される補正情報(専門知識に対応する情報)に基づき、機械学習モデルに入力された状態量ごとに補正値を算出する。産業機械の操作者は、例えば、経験や勘に基づき補正情報を決定し、入力する。操作者は、産業機械の操作経験の浅い者よりも操作経験の豊富な者の方が、入力する補正情報をより精度高く決定でき得る。よって、補正情報を入力する操作者は、産業機械の操作(運転)により熟練した者(エキスパート)であることが好ましい。
【0060】
ここで、図6を参照して、本実施形態に係る補正情報の一例について説明する。図6は、本発明の実施形態に係る補正情報の一例を示す図である。図6に示すように、補正情報は、例えば状態量、条件、及び制御内容で構成される。図6に示す状態量は、機械学習モデルに入力された状態量である。図6に示す条件は、制御内容が示す内容の補正値を算出するか否かを判定するための条件である。一例として、条件には「高い」又は「低い」が示されている。これは、状態量が高い値と低い値のどちらであるかを示す。状態量が高い値であるか低いあたいであるかは、例えば所定の基準値との大小関係に基づき判定される。図6に示す制御内容は、撹拌機4(制御対象)の制御内容、即ち、第1制御量をどのように補正するかを示す。なお、図6に示す補正情報は一例であり、補正情報は図6に示す例に限定されない。
【0061】
図6に示す表の1レコード目には、状態量が「入口汚泥含水率」、条件が「高い」、制御内容が「回転数増」である例が示されている。これは、機械学習モデルに入力された状態量の内、入口汚泥含水率が高い値である場合に、撹拌機4の回転数を増加させることを示している。即ち、エキスパートシステムは、撹拌機4の回転数が増加するように、第1制御量を補正する補正値を算出する。これは、入口汚泥含水率が高くなることで、乾燥機3における水分負荷が上がるためである。
図6に示す表の2レコード目には、状態量が「入口汚泥流量」、条件が「低い」、制御内容が「回転数減」である例が示されている。これは、機械学習モデルに入力された状態量の内、入口汚泥流量が低い値である場合に、撹拌機4の回転数を減少させることを示している。即ち、エキスパートシステムは、撹拌機4の回転数が減少するように、第1制御量を補正する補正値を算出する。これは、入口汚泥流量が低くなることで、乾燥機3における水分負荷が下がるためである。
図6に示す表の3レコード目には、状態量が「入口温度」、条件が「高い」、制御内容が「回転数減」である例が示されている。これは、機械学習モデルに入力された状態量の内、入口温度が高い値である場合に、撹拌機4の回転数を減少させることを示している。即ち、エキスパートシステムは、撹拌機4の回転数が減少するように、第1制御量を補正する補正値を算出する。これは、入口温度が高くなることで、乾燥機3における水分負荷が低くなるためである。
図6に示す表の4レコード目には、状態量が「出口温度」、条件が「低い」、制御内容が「回転数増」である例が示されている。これは、機械学習モデルに入力された状態量の内、出口温度が低い値である場合に、撹拌機4の回転数を増加させることを示している。即ち、エキスパートシステムは、撹拌機4の回転数が増加するように、第1制御量を補正する補正値を算出する。これは、出口温度が低くなることで、乾燥機3における水分負荷が上がるためである。
このように、エキスパートシステムでは、各状態量の種別毎に補正値を算出する。
ところで、取得する状態量の種別によっては、同じ再構成誤差であっても制御対象である機器の制御に与える影響が異なる場合がある。そこで、状態量の種別毎に、乾燥機の運転への影響度合いを示す重み係数を定めておき、エキスパートシステムによって算出された補正値を、当該補正値の算出対象となった状態量に対応する重み係数で補正することが好ましい。具体的に、図6に示した例のようにエキスパートシステムによって算出された補正値を、対応する状態量の種別に応じた重み係数を用いて修正し、修正後の補正値を第1制御量の補正に用いる補正値として出力することが好ましい。例えば、脱水汚泥の含水率は、機器の制御に与える影響が大きいため、重み係数を大きめの値に設定しておくことで補正値が大きく補正されるようにする。一方、脱水汚泥の流量は、機器の制御に与える影響が小さいため、重み係数を小さめの値に設定しておくことで補正値が小さく補正されるようにする。
なお、重み係数は、状態量の種別1つに対して複数の数値を設定しておき、再構成誤差の大きさに応じて選択することも可能である。例えば、大、中、小の3段階に分類した重み係数を設定しておき、再構成誤差の大きさに応じて大、中、小のいずれかの重み係数を選択可能とする。
【0062】
(2-5)補正部225
補正部225は、第1制御量の補正を制御する機能を有する。例えば、補正部225は、補正値を用いて第1制御量を補正した第2制御量を出力する。即ち、補正部225は、機械学習モデルに入力された状態量が外挿のデータである場合は補正値を用いて第1制御量の補正を行う。なお、補正部225は、機械学習モデルに入力された状態量が内挿のデータである場合(即ち補正値が算出されていない場合)、第1制御量をそのまま出力してもよいし、補正値以外の情報を用いて第1制御量を補正した制御量を出力してもよい。
【0063】
ところで、第1制御量の算出には、人が予測した範囲における制御量を安定して出力可能な数式モデルを用いることも考えられる。数式モデルの場合、外挿のデータに対しても線形的に表現できるため値の傾向を捉えることはできる。しかしながら、内挿のデータに対しては非線形表現ができる機械学習モデルと比較して予測精度が良くないといった欠点がある。そのため、より精度の高い予測結果を得るためには機械学習モデルを常に用いることが好ましい。
機械学習モデルを用いた制御では、モデルの生成に使用された学習データの傾向に近い傾向の入力データ(即ち内挿のデータ)が入力された場合、機械学習モデルの特性上、産業機械を制御する上でより好ましい第1制御量が出力され得る。一方、モデルの生成に使用された学習データの傾向とは異なる傾向の入力データ(即ち外挿のデータ)が入力された場合、機械学習モデルの特性上、産業機械を制御する上で必ずしも好ましい第1制御量が出力されるとは限らない。例えば、産業機械の設計者や運転管理者が想定してない制御量が出力され得る。このように好ましくない制御量を産業機械の制御に用いると、例えば産業機械の設計者や運転管理者が想定していた制御とは異なる制御が行われる場合が考えられる。
しかし、機械学習モデルは人が予測し得なかった第1制御量を出力する場合もあり、当該第1制御量を用いた制御では、人が予測し得なかったより最適な制御が行われることもあり得る。この場合、機械学習モデルに外挿のデータが入力された場合であっても、数式モデルを用いるよりも精度の高い第1制御量が出力される場合がある。
以上より、産業機械の第1制御量の算出において常に機械学習モデルを用いる場合に、機械学習モデルに内挿データが入力された場合には第1制御量をそのまま利用でき、機械学習モデルに外挿のデータが入力された場合には第1制御量の精度の低下を補った制御量を利用できることが望まれる。
【0064】
そこで、上述のように、補正部225は、機械学習モデルに入力された状態量が内挿のデータである場合に第1制御量を補正せずに出力し、機械学習モデルに入力された状態量が外挿のデータである場合に補正値を用いて第1制御量を補正した第2制御量を出力する。このように、本実施形態では、機械学習モデルに入力された状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかに応じて、第1制御量を補正するか否かを決定するようにした。
これにより、制御装置20は、機械学習モデルにより出力された第1制御量の精度が高い場合(状態量が内挿のデータである場合)には、当該第1制御量をそのまま制御対象の制御に用いることができ、制御対象に対して精度の低い制御量が出力される頻度を減少することができる。また、制御装置20は、機械学習モデルにより出力された第2制御量の精度が低い場合(状態量が外挿のデータである場合)には、当該第1制御量を補正値で補正した第2制御量を取得することができ、第1制御量よりも精度の高い第2制御量を用いることで制御対象の制御の精度も高めることができる。
【0065】
ここで、図7を参照して、本実施形態に係る補正部225が出力する制御量の一例について説明する。図7は、本発明の実施形態に係る補正部225が出力する制御量の一例を示す図である。図7に示すグラフの横軸は時間を示し、縦軸は制御量を示す。また、図7において、実線のグラフは設定値である制御量の時系列変化を示すグラフであり、一点鎖線のグラフは予測値である制御量の時系列変化を示すグラフである。設定値は、例えば産業機械の操作者が状態量に基づき設定した値である。予測値は、機械学習モデルが状態量に基づき予測した値である。
【0066】
機械学習モデルに内挿のデータが入力された場合であっても、図7に示す制御量の時系列変化では、設定値と予測値の間に差分が生じている。しかしながら、図7に示すグラフにおける絶対誤差率は3.41%であり、図4に示した例における絶対誤差率6.34%と比較して小さく、差分の大きさが小さいことが分かる。これより、機械学習モデルにおいて、外挿のデータが入力された場合には、第1制御量を補正値で補正して第2制御量を取得した方が制御量の予測の精度が高いといえる。これより、機械学習モデルにおいて、外挿のデータが入力された場合には、制御量の予測の精度を高めるためにエキスパートシステムを用いて第1制御量を補正した方がよいといえる。
【0067】
(2-6)出力制御部226
出力制御部226は、制御量の出力を制御する機能を有する。出力制御部226は、補正部225から入力される制御量を、通信部210から制御対象へ送信させる。例えば、出力制御部226は、制御量を含む制御信号を通信部210から回転制御装置30へ送信させる。
【0068】
(3)記憶部230
記憶部230は、各種情報を記憶する機能を有する。例えば、記憶部230は、各種モデルを記憶する。具体的に、記憶部230は、機械学習モデルを記憶する。なお、記憶部230は、オートエンコーダに関するモデルを記憶してもよい。
【0069】
記憶部230は、記憶媒体、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、RAM(Random Access read/write Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはこれらの記憶媒体の任意の組み合わせによって構成される。
【0070】
<3.処理の流れ>
以上、本発明の実施形態に係る制御装置20の機能構成について説明した。続いて、図8を参照して、本発明の実施形態に係る制御装置20における処理の流れについて説明する。図8は、本発明の実施形態に係る制御装置20における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0071】
図8に示すように、まず、通信部210は、センサ装置との通信により、センサ装置が検出した状態量を取得する(ステップS101)。
次いで、入力制御部221は、通信部210が取得した状態量を、第1処理部222及び第2処理部223へ入力する(ステップS102)。
【0072】
第1処理部222は、入力された状態量を機械学習モデルへ入力し、第1制御量を取得する(ステップS103)。
第2処理部223の乖離度合情報取得部2231は、入力された状態量をオートエンコーダへ入力し、再構成誤差を取得する(ステップS104)。
【0073】
再構成誤差の取得後、第2処理部223の判定部2232は、再構成誤差に基づき、入力された状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する(ステップS105)。具体的に、判定部2232は、再構成誤差が所定の閾値以上であるか否かを判定する。再構成誤差が所定の閾値以上でない場合、判定部2232は、入力された状態量が内挿のデータであると判定する(ステップS105/内挿)。一方、再構成誤差が所定の閾値以上である場合、判定部2232は、入力された状態量が外挿のデータであると判定する(ステップS105/外挿)。なお、ステップS105の処理は、ステップS103の処理の終了を待たずに実行されてもよい。
【0074】
入力された状態量が内挿のデータである場合、補正部225は、第1制御量の補正を行わずに第1制御量を出力する。
そして、出力制御部226は、補正部225が出力した第1制御量を通信部210から制御対象へ送信(出力)させる(ステップS106)。
【0075】
入力された状態量が外挿のデータである場合、第3処理部224は、補正値を算出する(ステップS107)。
補正部225は、第3処理部224が算出した補正値を用いて第1制御量を補正し、第2制御量を算出する(ステップS108)。
そして、出力制御部226は、補正部225が算出した第2制御量を通信部210から制御対象へ送信(出力)させる(ステップS109)。
【0076】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る制御装置20は、第1処理部222、第2処理部223、第3処理部224、及び補正部225を備える。
第1処理部222は、センサ装置が取得するセンシング情報に基づく産業機械に関する状態量を機械学習モデルへ入力し、産業機械に関する第1制御量を取得する。
第2処理部223は、機械学習モデルにおいて、状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する。
第3処理部224は、状態量が外挿のデータである場合、第1制御量の補正に用いる補正値を算出する。
補正部225は、補正値を用いて第1制御量を補正した第2制御量を出力する。
【0077】
かかる構成により、本発明の実施形態に係る制御装置20は、機械学習モデルに入力データとして入力された状態量が外挿のデータであったとしても、出力される第1制御量を補正値で補正することで当該第1制御量よりも予測精度の高い第2制御量を取得することができる。即ち、制御装置20は、入力データが内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであっても、精度高く制御量の予測を行うことができる。
【0078】
よって、本発明の実施形態に係る制御装置20は、機械学習モデルを用いた産業機械の制御において幅広い入力データに対して好適な制御を行うことを可能とする。
【0079】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明した。続いて、本発明の実施形態の変形例について説明する。なお、以下に説明する各変形例は、単独で本発明の実施形態に適用されてもよいし、組み合わせで本発明の実施形態に適用されてもよい。また、各変形例は、本発明の実施形態で説明した構成に代えて適用されてもよいし、本発明の実施形態で説明した構成に対して追加的に適用されてもよい。
【0080】
(1)第1の変形例
上述した実施形態では、第2処理部223がオートエンコーダにより再構成誤差を乖離度合情報として出力する例について説明したが、かかる例に限定されない。第2処理部223は、入力された状態量の基準値に対する大小関係を示す情報を乖離度合情報として出力してもよい。例えば、第2処理部223は、状態量が所定の閾値以上であるか否かを判定し、その判定結果を乖離度合情報として出力してもよい。ここで、所定の閾値には、例えば、状態量が学習済みの入力データ又は未学習の入力データのどちらに該当するかを区別可能な値が設定される。一例として、学習済みの入力データと未学習の入力データの境界を示す値が所定の閾値に設定される。これにより、第2処理部223は、オートエンコーダを用いずに、乖離度合情報を出力することができる。
【0081】
(2)第2の変形例
上述した実施形態では、第2処理部223がオートエンコーダである例について説明したが、かかる例に限定されない。第2処理部223は、MTS(Maharanobis Taguchi System)法を採用することが可能な構成であってもよい。
MTS法では、まず、産業機械から、正常な運転状態における複数種類の情報からなる組情報(正常データ)を取得する。そして、これら正常データを数多く収集して正常データ群を構築する。その後、産業機械の運転状態を示す情報を適宜取得する。それらの情報について、予め構築しておいた正常データ群による多次元空間内でどのような相対位置関係にあるのかを示すマハラノビスの距離を求め、その結果に基づいて機械学習モデルにより得られた第1制御量を補正するか否かを判断する。本システムにTMS法を適用した場合には組情報(正常データ)は学習データを示し、マハラノビス距離により過去の運転状態などの学習データとの乖離度(入力データと学習済みの入力データの類似度がどれだけ乖離しているか)を得ることができる。
【0082】
(3)第3の変形例
上述した実施形態では、判定部2232が乖離度合情報に基づき、状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定する例について説明したが、かかる例に限定されない。判定部2232は、例えば、外部情報に基づく判定を行ってもよい。外部情報は、例えば、図1に示すセンサ装置以外の装置から入力される情報、及び産業機械の周囲の環境に関する環境情報(例えば、天気、気温、湿度等)等である。
【0083】
(4)第4の変形例
上述した実施形態では、乖離度合情報が所定の閾値以上であるか否かに基づき、判定部2232によって状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかが判定される例について説明したが、かかる例に限定されない。判定部2232は、入力データと再構成データの時系列変化を示すグラフの各々の形状(波形)が一致しているか否かに基づき、状態量が内挿のデータ又は外挿のデータのいずれであるかを判定してもよい。
【0084】
例えば、図5に示したグラフの時間t1と時間t2の間の時間において、入力データのグラフの形状と再構成データのグラフの形状は、一致していない。そのため、判定部2232は、時間t1と時間t2の間に入力された入力データが外挿のデータであると判定する。
【0085】
一方、図5に示したグラフの時間t2と時間t3の間の時間において、入力データのグラフの形状と再構成データのグラフの形状は、一致している。そのため、判定部2232は、時間t2と時間t3の間に入力された入力データが内挿のデータであると判定する。
【0086】
(5)第5の変形例
上述した実施形態では、第1処理部222が、センサ装置によって取得されるセンシング情報を、産業機械に関する状態量として機械学習モデルへ直接入力する例について説明したが、かかる例に限定されない。第1処理部222は、例えば、センサ装置によって取得されるセンシング情報を変換または加工して得られる2次的な状態量を機械学習モデルに入力してもよい。一例として、第1処理部222は、カメラ等のセンサ装置によって撮像された乾燥機内の画像を変換し、得られた数値データを2次的な状態量として機械学習モデルに入力する。
【0087】
<5.実施例>
以上、本発明の変形例について説明した。続いて、本発明の実施例について説明する。以下では、図1に示した乾燥設備1における実施例について説明する。
本実施例にて用いたLSTMモデル(学習済みモデル)の生成における入力データは、乾燥機3の入口汚泥流量、乾燥機3の入口汚泥含水率、乾燥機3の入口温度(熱風の温度)、乾燥機3の出口温度(乾燥排ガスの温度)、乾燥機3の出口汚泥含水率である。また、当該LSTMモデルの生成における教師データは、乾燥機3の回転数である。なお、使用したデータ数は、2754点である。
本実施例では、従来のように上記入力データと教師データに基づき生成されたLSTMモデルのみを用いる方法と、本発明のようにLSTMモデルとエキスパートシステムの両方を用いる方法の各々によって乾燥機3の回転数を出力した。そして、出力された各回転数を比較し、出力精度の評価を行った。
出力精度の評価は、各回転数の精度指標を算出し、算出した各精度指標を比較することによって行った。具体的に、平均絶対パーセント誤差(MAPE:Mean Absolute Percentage Error)と平均二乗偏差(RMSE:Root Mean Square Error )を算出して精度指標として用いた。
【0088】
ここで、図9を参照して、本実施例における比較結果について説明する。図9は、本発明の実施例における比較結果を示す図である。
図9には、本実施例において、LSTMモデルのみを用いて出力された乾燥機3の回転数のMAPEが6.83であり、LSTMモデルとエキスパートシステムの両方を用いて出力された乾燥機3の回転数のMAPEが3.65であったことが示されている。
また、図9には、本実施例において、LSTMモデルのみを用いて出力された乾燥機3の回転数のRMSEが5.90であり、LSTMモデルとエキスパートシステムの両方を用いて出力された乾燥機3の回転数のRMSEが3.54であったことが示されている。
図9に示す結果より、いずれの精度指標においても本発明のようにLSTMモデルとエキスパートシステムの両方を用いて乾燥機3の回転数を出力する方が、その精度が優れていることが分かる。
【0089】
以上、本発明について説明した。なお、上述した実施形態における制御装置20が備える構成の一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0090】
また、上述した実施形態における制御装置20は、制御対象の産業機械が設置されているプラント等に設けられる。なお、制御装置20が設けられる場所はかかる例に限定されず、クラウド上に設けられてもよい。例えば、制御装置20がサーバ装置である場合、制御装置20はプラントに設けられたサーバ装置であってもよいし、クラウド上に設けられたサーバ装置(即ちクラウドサーバ)であってもよい。
また、制御装置20を構成する各部の機能は、全ての機能がプラントに設けられた装置によって実現されてもよいし、クラウド上に設けられた装置によって実現されてもよい。また、制御装置20を構成する各部の機能は、一部の機能がプラントに設けられた装置によって実現され、残りの機能がクラウド上に設けられた装置によって実現されてもよい。
【0091】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 乾燥設備
2 熱風炉
3 乾燥機
4 撹拌機
5 回転駆動装置
10 入口流量センサ
11 入口水分センサ
12 出口水分センサ
13 入口温度センサ
14 出口温度センサ
20 制御装置
30 回転制御装置
210 通信部
220 制御部
221 入力制御部
222 第1処理部
223 第2処理部
224 第3処理部
225 補正部
226 出力制御部
230 記憶部
2231 乖離度合情報取得部
2232 判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9