(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142245
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】浸漬型濾過カートリッジ用濾材
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20220922BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20220922BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D04H1/4382
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042354
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】能登 愛
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
【テーマコード(参考)】
4D019
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB05
4D019BC12
4D019BC13
4D019BC20
4D019BD01
4D019CB03
4D019CB06
4D019DA01
4D019DA03
4D019DA04
4D019DA06
4L047AA14
4L047AA22
4L047AA28
4L047AB08
4L047BA09
4L047BA21
4L047CA12
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】浸漬型濾過カートリッジ用濾材であって、濾過効率に優れ低圧損であることで透水性能に優れ、かつ耐ファウリング性に優れた浸漬型濾過カートリッジ用濾材を提供する。
【解決手段】平均繊維径が100~300nmのナノファイバーを主な成分として含有するとともに、平均繊維径が5μm以下のバインダー繊維を含有してなる濾過層を含む濾材であって、濾過層において前記ナノファイバーが50重量%以上を占め、濾過層の表面における最大孔径/平均孔径の比が5以下であり、かつ濾過層の表面粗さRaが150nm以下であることを特徴とする、浸漬型濾過カートリッジ用濾材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が100~300nmのナノファイバーを主な成分として含有するとともに、平均繊維径が5μm以下のバインダー繊維を含有してなる濾過層を含む濾材であって、濾過層において前記ナノファイバーが50重量%以上を占め、濾過層の表面における最大孔径/平均孔径の比が5以下であり、かつ濾過層の表面粗さRaが150nm以下であることを特徴とする、浸漬型濾過カートリッジ用濾材。
【請求項2】
濾過層のナノファイバーが芳香族ポリエステルまたはポリオレフィンからなる、請求項1に記載の浸漬型濾過カートリッジ用濾材。
【請求項3】
濾過層が湿式不織布である、請求項1または2に記載の浸漬型濾過カートリッジ用濾材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の浸漬型濾過カートリッジ用濾材を用いた浸漬型濾過カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬型濾過カートリッジ用濾材およびそれを用いた浸漬型濾過カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離活性汚泥法(MBR)は、下水や工業排水などの有機排水を、生物処理槽において活性汚泥処理し、生物処理槽内に浸漬した浸漬型膜分離装置で活性汚泥混合液を固液分離する方法である。この方法は、従来の沈殿法と比べて、処理フローが簡単であり、小さいスペースで濾材により確実に汚泥を除去できるため、広く普及しつつある。
この膜分離活性汚泥法に用いられる濾材として、これまで有機繊維からなる多孔質膜が多く用いられてきた。
【0003】
しかし、従来の濾材では、孔径が小さいために圧力損失が大きく、透水性能が低いという問題があった。圧力損失が小さく処理量が大きい膜としては、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布などがあるが、繊維径が不均一であり、大きな孔が存在するため、捕集効率に問題があった。これを解決するために、カレンダー加工により孔径を小さくすることも試みられているが、孔径が均一にならず、密度が高くなるためにかえって圧力損失が大きくなり、透水性能を損なう問題がある。
【0004】
また、膜分離活性汚泥法では、ファウリングと呼ばれる現象、すなわち、活性汚泥および活性汚泥に含まれる物質が、濾材の膜表面および細孔内に付着することにより、透過流束が低下する現象が発生する。この耐ファウリング性を向上する方法として、濾材の多孔質膜の表面にアニオン性基を修飾し、膜表面のゼータ電位を一定の範囲とすることで表面に汚泥が付きにくくする方法(特許文献1)や、被処理液に粒状体を添加し、被処理液を撹拌し、さらに、浸漬型膜モジュールを振動させながらろ過処理することにより、膜の洗浄効果を高める方法(特許文献2)が提案されている。しかし、いずれもファウリングを抑制する効果が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-063783号公報
【特許文献2】特開2017-056371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、浸漬型濾過カートリッジ用濾材であって、濾過効率に優れ低圧損であることで透水性能に優れ、かつ耐ファウリング性に優れた浸漬型濾過カートリッジ用濾材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均繊維径が100~300nmのナノファイバーを主な成分として含有するとともに、平均繊維径が5μm以下のバインダー繊維を含有してなる濾過層を含む濾材であって、濾過層において前記ナノファイバーが50重量%以上を占め、濾過層の表面における最大孔径/平均孔径の比が5以下であり、かつ濾過層の表面粗さRaが150nm以下であることを特徴とする、浸漬型濾過カートリッジ用濾材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、浸漬型濾過カートリッジ用濾材であって、濾過効率に優れ低圧損であることで透水性能に優れ、かつ耐ファウリング性に優れた浸漬型濾過カートリッジ用濾材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
〔濾過層〕
本発明における濾過層は、平均繊維径が100~300nmのナノファイバーを主な成分として含有するとともに、平均繊維径が5μm以下のバインダー繊維を含有してなる。そして、濾過層の表面における最大孔径/平均孔径の比は5以下であり、かつ濾過層の表面粗さRaは150nm以下である。
【0011】
本発明ではこれらの条件を満足することにより、濾材内部にファウリングの原因となる物質が侵入しにくく、濾材表面にケーキ層が形成されるため、洗浄により汚れを除去しやすい、高い洗浄性を備える濾材を得ることができる。
【0012】
本発明の浸漬型濾過カートリッジ用濾材において濾過層の表面における最大孔径/平均孔径の比が5を超えると大きい孔が存在することにより、捕集効率が下がる。濾過層の表面粗さRaが150nmを超えると、バブリングによる濾材表面の洗浄効果が下がり、汚れが除去しにくくなる。
【0013】
この濾過層は、好ましくは湿式不織布からなる。湿式不織布は、スパンボンド法やメルトブロー法、エレクトロスピニング法により作製された不織布と比較して、目付け、繊維径および通気度のばらつきが小さく、濾過効率に優れる。
【0014】
濾過層は、平均繊維径100~300nmのナノファイバーを主な成分、すなわち主体繊維として含有する。これは濾過層において、平均繊維径100~300nmのナノファイバーが、濾過層の全重量の50重量%以上を占めることを意味する。このナノファイバーは、濾過層の全重量あたり、好ましくは50~90重量%を占める。50重量%未満であると、孔径が大きくなる恐れがあるのと、繊維どうしの接着点が少なくなり、強度が低下するおそれがあるため、好ましくない。他方、90重量%を超えると、バインダーによる接着効果がなくなり強度が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0015】
濾過層には、さらにバインダー繊維が含有される。このバインダー繊維は、濾過層の全重量あたり、好ましくは10~50重量%を占める。10重量%未満であると、バインダーによる接着効果が無くなり強度が低下するおそれがあるため好ましくなく、他方、50重量%を超えると、ナノファイバーの比率が下がり、繊維どうしの接着点が少なくなり、強度が低下するおそれがあり好ましくない。
【0016】
〔ナノファイバー〕
本発明において濾過層に用いられるナノファイバーは、単繊維の平均繊維径が100~300nm、好ましくは100~200nmの繊維である。平均繊維径が300nmを超えると濾過層の表面粗さが大きくなる恐れがある。他方、平均繊維径が100nm未満であるとナノファイバーの分散性が低下し、濾材の均一性が不足し、濾過効率が低下するおそれがある。
【0017】
ナノファイバーの平均繊維径は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて倍率30000倍で単繊維断面写真を撮影して測定された値である。その際、測長機能を有する透過型電子顕微鏡(TEM)では、測長機能を用いて測定することができる。測長機能の無い透過型電
子顕微鏡(TEM)では、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定する。
【0018】
なお、単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、平均繊維径は単繊維の横断面の外接円の直径を用いる。
【0019】
ナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは0.1~1.0mmである。平均繊維長が0.1mm未満であると工程性が低下するおそれがあり好ましくない。他方、平均繊維長が1.0mmを超えると、分散性不良により凝集繊維塊となり、濾過効率や強度が低下するおそれがあり好ましくない。
【0020】
ナノファイバーの平均繊維径Dに対する平均繊維長Lの比L/Dは、好ましくは200~4000、さらに好ましくは800~2500である。L/Dが200未満であると、繊維長が短いために繊維が網から抜けてしまい、工程性が低下するおそれがあり好ましくなく、他方、4000を超えると、分散性不良により凝集繊維塊となり、濾過効率や強度が低下するおそれがあり好ましくない。
【0021】
ナノファイバーを構成するポリマーとして、芳香族ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、脂肪族ポリアミドを例示することができる。なかでも、芳香族ポリエステルまたはポリオレフィンが好ましい。芳香族ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートやその共重合ポリマー、ポリブチレンテレフタレートやその共重合体を例示することができる。ポリオレフィンとして、ポリプロピレン、ポリエチレンを例示することができる。
【0022】
〔バインダー繊維〕
バインダー繊維は、熱接着性繊維、すなわち、熱により融着する性質を持つ繊維である。これは、不織布を製造する抄紙工程において、不織布を構成する繊維同士を融着させることができる性質を持つ。
【0023】
バインダー繊維は、ナノファイバーと同じポリマーからなる未延伸性繊維であってもよく、ナノファイバーを構成するポリマーと相溶性がありこれに融着性を示す他のポリマーを鞘成分にもつ芯鞘型複合繊維であってもよい。
【0024】
本発明では、特にバインダー繊維として平均繊維径が5μm以下のものを用いることにより、濾過層の表面の最大孔径/平均孔径の比を5以下であり、孔径分布がシャープな濾過層を得ることができる。濾過層にこのバインダー繊維が含まれることにより、不織布の強度が向上し、ネットワーク構造および収縮により高い嵩を得ることができる。
【0025】
バインダー繊維の平均繊維長は、好ましくは3~10mmである。平均繊維長が3mm未満であると、工程性が低下するため好ましくなく、他方、10mmを超えると、分散性が悪くなるため好ましくない。
【0026】
バインダー繊維として未延伸糸を用いる場合、紡糸速度600~1500m/分間で紡糸された未延伸芳香族ポリエステル繊維であることが好ましい。芳香族ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレタレート、ポリブチレンテレフタレートを例示することができ、生産性や水への分散性などの理由から、好ましくはポリエチレンテレフタレートやそれを主成分とする共重合ポリエステルを用いる。
【0027】
バインダー繊維として芯鞘型複合繊維を用いる場合、不織布を抄紙する時のドライヤー温度により融着接着の効果を発現するポリマー成分、たとえば非結晶性共重合ポリエステ
ルが鞘部に配置され、このポリマー成分より融点が20℃以上高い他のポリマー成分が芯部に配置された芯鞘型複合繊維であることが好ましい。
芯鞘型複合繊維の形態は、同心円状の芯鞘型複合繊維であってもよく、偏心芯鞘型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維であってもよい。
【0028】
非結晶性共重合ポリエステルは、テレフタル酸および/またはイソフタル酸をジカルボン酸成分とし、エチレングリコールおよびジエチレングリコールをジオール成分としてなることがコスト面から好ましい。
【0029】
〔添加材〕
濾過層には、ナノファイバーの分散を助けるとともに空隙率の向上にも寄与する非バインダー繊維でありナノファイバーよりも平均繊維径の大きい繊維が、さらに含有されていてもよい。その場合の含有量は、濾過層の全重量あたり例えば高々40重量%、さらに例えば高々20重量%である。
【0030】
ナノファイバーよりも平均繊維径の大きい繊維として、繊維径が均一で分散性のよいポリエステル繊維を用いることができる。このポリエステル繊維以外にも、紙用の繊維素材が配合されていてもよく、例えば木材パルプ、天然パルプ、アラミドやポリエチレンを主成分とする合成パルプ、ナイロン、アクリル、ビニロン、レーヨンといった成分を含む合成繊維または半合成繊維を配合されていてもよい。
【0031】
〔支持層〕
本発明の浸漬型濾過カートリッジ用濾材において、濾過層を支持する層である支持層が含まれることが好ましい。支持層は、好ましくは不織布であり、その不織布の密度は好ましくは0.1~0.7g/cm3である。密度が0.1g/cm3未満であると、取扱い性が悪くなるおそれがあり好ましくない。他方、密度が0.7g/cm3を超えると、高い水処理量が得られなくなるおそれがあり好ましくない。
【0032】
支持層の厚みは、好ましくは0.2~2.0mmである。厚みが0.2mm未満であると、支持層として強度が小さく、曝気などに対する物理的耐久性が得られない可能性があり、さらに、濾材を支持層に接着した浸漬型濾過カートリッジを曝気や吸引する際に、破けたり孔が開いたりする可能性があり好ましくない。他方、厚みが2.0mmを超えると高い水処理量が得られなくなる恐れがあり好ましくない。
【0033】
支持層が不織布である場合、湿式不織布であってもよく、スパンボンド法やメルトブロー法、エレクトロスピニング法により作製された不織布であってもよい。
支持層を構成する繊維として、ポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、脂肪族ポリアミド繊維を例示することができる。
【0034】
濾過層を支持層に貼り合わせることで本発明の濾材とする場合には、濾材の平均孔径は0.3μm以下であることが好ましい。
【0035】
〔製造方法〕
本発明において濾過層に用いられるナノファイバーは、例えば国際公開第2005/095686号パンフレットや国際公開第2008/130019号パンフレットに開示された方法で製造することができる。
【0036】
すなわち、アルカリ水溶液に対して相対的に溶解しづらい難溶解性ポリマーである繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる島成分と、該繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカ
リ水溶液に対して溶解し易いポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」という。)からなる海成分とからなる海島型複合繊維に、アルカリ減量加工を施し、海成分を溶解除去することにより製造することができる。
【0037】
海成分を形成する易溶解性ポリマーの、島成分を形成する繊維形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比は、好ましくは200以上、さらに好ましくは300~3000である。この範囲であると、島成分が海成分から分離しやすく好ましい。
【0038】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとして、繊維形成性の良いポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリエチレンやポリスチレンといったポリオレフィンを例示することができる。
【0039】
具体例をあげれば、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが、アルカリ水溶液に対して溶解しやすく好ましい。アルカリ水溶液として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液を挙げることができる。
【0040】
これ以外にも、海成分を形成する易溶解性ポリマーと、該海成分を溶解する溶液の組合せとして、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶媒、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0041】
海成分の易溶解性ポリマーとしてポリエステルを用いる場合、ポリエステルとしては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸6~12モル%と分子量4000~12000のポリエチレングリコールを3~10重量%共重合させた固有粘度が0.4~0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0042】
ここで、5-ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じるおそれがある。また、共重合量が10重量%以上になると、溶融粘度が低下するおそれがあり好ましくない。
【0043】
島成分を形成する難溶解性ポリマーは、最終的にナノファイバーを形成するポリマーである。この難溶解性ポリマーとして、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を例示することができる。
【0044】
具体的には、機械的強度や耐熱性を要求される用途では、ポリエステルでは、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と称することもある。)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。
【0045】
ポリアミドでは、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が好ましい。
ポリオレフィンは、酸やアルカリ等に侵され難いことや、比較的低い融点のために極細繊維として取り出した後のバインダー成分として使える等の特徴があり、高密度ポリエチ
レン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸などのビニルモノマーのエチレン共重合体を例示することができる。
島成分は丸断面であってもよいが、三角断面や扁平断面などの異型断面であってもよい。
【0046】
海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後の極細繊維の物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤、等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0047】
海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分のポリマーの溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。この場合には、海成分の重量比率が40重量%未満と少なくなっても島同士の接合を防止しやすい。
【0048】
溶融粘度比(海成分/島成分)は、好ましくは1.1~2.0、さらに好ましくは1.3~1.5である。この溶融粘度比が1.1倍未満であると溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり好ましくなく、他方2.0倍を越えると、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすく好ましくない。
【0049】
海島型複合繊維における島数は、好ましくは100以上、さらに好ましくは500~2000である。また、その海島複合重量比率(海成分:島成分)は、好ましくは20:80~80:20である。この範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分のナノファイバーへの転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80重量%を越えると海成分の厚みが厚くなりすぎて好ましくなく、他方20重量%未満であると海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなるおそれがあり好ましくない。
【0050】
海島型複合繊維を得るための溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群(ピンレス)を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ未延伸糸を得る。この場合、未延伸糸の複屈折率Δnが0.05以下であることが好ましい。
【0051】
この引き取り速度は、好ましくは200~5000m/分間である。200m/分間未満であると生産性が低下するおそれがあり好ましくない。他方、5000m/分を超えると紡糸安定性が低下するおそれがあり好ましくない。
【0052】
得られた未延伸糸は、必要に応じてそのままカット工程あるいはその後の抽出工程(アルカリ減量加工)に供してもよいし、延伸工程や熱処理工程を経由して延伸糸とした後、カット工程あるいはその後の抽出工程(アルカリ減量加工)に供してもよい。その際、延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもよい。カット工程と抽出工程の順番は逆にしてもよい。
【0053】
かかるカットは、未延伸糸または延伸糸をそのまま、または数十本~数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットすることが好ましい。
【0054】
海島型複合繊維にアルカリ減量加工を施してナノファイバーとする際、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は、好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.4~3重量%である。0.1重量%未満であると繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがあり好ましくない。他方、5重量%を越えると繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがあり好ましくない。なお、浴比は下記式にて定義される。
浴比(重量%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr))×100
【0055】
また、アルカリ減量加工の処理時間は、好ましくは5~60分間、さらに好ましくは10~30分間である。5分間未満であるとアルカリ減量が不十分となるおそれがあり好ましくない。他方、60分間を越えると島成分までも減量されるおそれがあり好ましくない。
【0056】
アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は好ましくは2~10重量%である。2重量%未満であるとアルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがあり好ましくない。他方、10重量%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがあり好ましくない。
【0057】
アルカリ減量の方法としては、海島型複合繊維をアルカリ液に投入し、所定の条件、時間でアルカリ減量処理した後に一度、脱水工程を経てから、再度、水中に投入し、酢酸、シュウ酸などの有機酸を使用して中和、希釈を進め最終的に脱水する方法や、または、所定の時間アルカリ減量処理した後に、先に中和処理を施し、さらに水を注入し希釈を進めその後脱水をする方法を挙げることができる。前者では、バッチ式に処理する為、少量での製造(加工)を行えることができるものの、中和処理に時間を要するため少し生産性が悪い。後者は半連続生産が可能であるが、中和処理時に多くの酸系水溶液及び希釈のために多くの水を必要とする。処理設備は何ら制限されるものではないが、脱水時に繊維脱落を防止する観点から、特許第3678511号公報に開示されているような開口率(単位面積当たりの開口部分の面積比率)が10~50%であるメッシュ状物(例えば非アルカリ加水分解性袋など)を使用することが好ましい。該開口率が10%未満であると水分の抜けが極めて悪く好ましくなく、50%を超えると繊維の脱落が発生するおそれがあり好ましくない。
【0058】
海島型複合繊維のアルカリ減量加工の後、島成分の繊維の分散性を高めるために分散剤(例えば、高松油脂(株)製の型式YM-81)を繊維表面に、繊維重量に対して0.1~5.0重量%付着させることが好ましい。
【0059】
〔濾材の製造方法〕
ナノファイバーと、バインダー繊維とを混合撹拌し、抄紙機を用いて抄紙して不織布を得ることで濾過層を得ることができる。抄紙には湿式抄紙法を用いることが好ましい。抄紙機には、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機などを用いることができる。
浸漬型濾過カートリッジ用濾材を濾過層と支持層で構成する場合、支持層は、湿式抄紙法により製造することができる。濾過層は常法で支持層に貼り合わせることができる。
【実施例0060】
本発明の実施例および比較例を詳述する。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。「重量%」を「wt%」と表記することがある。
【0061】
(1)平均繊維径
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)(日立製作所製H-7650)を使用し、倍率
30000倍で繊維断面写真を撮影し測定した。繊維径には、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた。サンプル数(n数)は5とし平均値をとり平均繊維径とした。
【0062】
(2)平均繊維長
走査型電子顕微鏡SEM(日本電子製JSM 6330F)により、海成分溶解除去前の海島型複合繊維を基盤上に寝かせた状態とし、20~500倍で繊維長Lを測定した。サンプル数(n数)は5とし、それらの平均値をとり平均繊維長とした。繊維長Lを測定はSEMの測長機能を用いて行った。
【0063】
(3)目付け
JIS P8124(紙のメートル坪量測定方法)に基づいて目付を測定した。
【0064】
(4)平均厚み
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の測定方法)に基づいて厚みを測定した。測定荷重は75g/cm2にて、サンプル数(n数)を5としてそれらの平均値を平均厚みとした。
【0065】
(5)平均孔径、最大孔径
PMI社製パームポロメーターにより測定した。
【0066】
(6)透水性能
47mmφのサイズに濾材をカットし、水を0.036MPa減圧下で250ml濾過するのにかかる時間を計測した。150秒間以下であるものを「◎」、150秒を超え300秒間以下であるものを「〇」、300秒を超え450秒間以下を「△」、450秒を超えるものを「×」とした。
【0067】
(7)耐ファウリング性
47mmφのサイズに濾材をカットし、ファウリングの原因物質であるフミン酸50ppmを水に分散させ、0.036MPa減圧下で250ml濾過するのにかかる時間を計測した。1回濾過した後、スポンジで表面の堆積している粒子を拭き取り、濾過するという動作を10回繰り返した。横軸に積算流量(L)を、縦軸に250ml濾過するのにかかった時間をプロットし、直線の傾きを求めた。
【0068】
なお、傾きが大きいことは濾過に係る時間が増大していることを示しており、表面の凹凸や孔内に粒子が入り込んで流路を塞いでいっていることが示唆される。
傾きが100以下のものを「◎」、100を超え150未満を「〇」、150を超え200以下のものを「△」、200を超えるものを「×」とし、耐ファウリング性を評価した。
【0069】
〔実施例1〕
海島型複合繊維の島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=30:70の重量比率で島数400の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/分で引き取ることで未延伸海島型複合繊維とした。なお、用いた海成分と島成分とのアルカリ減量速度差は1000倍であった。
【0070】
得られた未延伸海島型複合繊維を延伸倍率3.9倍で延伸した後、ギロチンカッターで繊維長0.2mmにカットすることで、カット長(平均繊維長)0.2mmの短カット延
伸海島型複合繊維を得た。これを4wt%のNaOH水溶液で75℃にて30wt%減量し、平均繊維径200nmかつ平均繊維長0.2mmのポリエチレンテレフタレートのナノファイバーを得た。このナノファイバーを濾過層の主体繊維として用いた。
【0071】
他方、濾過層のバインダー繊維として、ポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸して一定長にカットすることで、平均繊維径1.2μm、平均繊維長0.4mmの未延伸ポリエステル繊維を用意した。
【0072】
次いで、主体繊維として前記ナノファイバー(60wt%)と、バインダー繊維として平均繊維径1.2μmかつ平均繊維長0.4mmの未延伸ポリエステル繊維(40wt%)とを混合撹拌した後、傾斜短網抄紙機で湿式抄紙を行いヤンキードライヤー140℃で乾燥し、濾過層となる湿式不織布を得た。この湿式不織布の目付は20g/m2であった。
【0073】
その後、平均繊維径1.7dtex、平均繊維長5mmの延伸ポリエステル繊維(60wt%)と、平均繊維径1.2dtex、平均繊維長5mmの未延伸ポリエステル繊維(40wt%)からなる湿式不織布を支持層とし、カレンダー熱処理185℃で、前記濾過層と貼り合せ、浸漬型濾過カートリッジ用濾材を得た。得られた浸漬型濾過カートリッジ用濾材の評価結果を表1に示す。
【0074】
〔実施例2〕
濾過層の構成繊維に、主体繊維として実施例1の前記ナノファイバー(60wt%)と、バインダー繊維として平均繊維径1.2μmかつカット長(平均繊維長)0.4mmの未延伸ポリエステル繊維(30wt%)および繊維径4.3μmかつカット長(平均繊維長)3mmの未延伸ポリエステル繊維(10wt%)とを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0075】
〔実施例3〕
濾過層の構成繊維に、主体繊維として実施例1の前記ナノファイバー(60wt%)と、バインダー繊維として平均繊維径4.3μmかつ平均繊維長3mmの未延伸ポリエステル繊維(40wt%)とを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0076】
〔比較例1〕
実施例2において、ナノファイバーの平均繊維径を400nmに変更した以外は実施例2と同様に実施した。
【0077】
〔比較例2〕
実施例2において、濾過層を構成するナノファイバーの比率を40wt%とし、平均繊維径1.2μmかつカット長(平均繊維長)0.4mmの未延伸ポリエステル繊維の比率を60wt%とした以外は実施例2と同様に実施した。
【0078】
〔比較例3〕
実施例1において、濾過層をバインダー繊維に用いる未延伸ポリエステル繊維の平均繊維径を6.8μmとした以外は実施例2と同様に実施した。
【0079】