(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142275
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】ヘッドバーユニット及びそれを備える印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220922BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/01 401
B41J2/165 101
B41J2/165 301
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042395
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】岩間 紀貴
(72)【発明者】
【氏名】恒岡 佑哉
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA09
2C056EC07
2C056EC35
2C056FA13
2C056HA07
2C056HA11
2C056HA12
2C056HA29
2C056JA01
2C056JA04
2C056JB04
2C056JB07
(57)【要約】
【課題】高出力のモータを用いることなく、ヘッドバーの上下位置を調整できる技術を提供する。
【解決手段】
ヘッドバーユニットは、少なくとも1つのヘッドバー10と、移動機構50と、調整機構60とを備えている。移動機構50は、ヘッドバー10及びヘッドバー10に支持された調整機構60を上下方向に動かすように構成されている。調整機構60は、モータ62と、モータ62により回転する回転体70と、回転体70のロッド72~76と当接するストッパ65とを備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のヘッドを有するヘッドバーと、
前記ヘッドバーに支持されて、前記複数のヘッドの上下方向の位置を調整する調整機構と、
前記ヘッドバーと前記調整機構とを前記上下方向に移動させる移動機構とを備え、
前記調整機構は、
モータと、
前記上下方向の位置がそれぞれ異なる複数の当接部を有し、前記モータによって前記上下方向に平行な回転軸の周りに回転する回転体と、
前記回転体と前記上下方向において対向する位置に配置され、前記複数の当接部の1つと当接することによって前記回転体の前記上下方向の位置を位置決めするストッパとを備える、ことを特徴とするヘッドバーユニット。
【請求項2】
前記回転体は、
ベースと、
前記ベースから前記上下方向に延びる第1ロッドとを備え、
前記第1ロッドの、前記ストッパに近い側の端部には、前記複数の当接部に含まれる第1当接部が形成されている請求項1に記載のヘッドバーユニット。
【請求項3】
前記ベースには、前記複数の当接部に含まれる第2当接部が形成され、
前記ベースの前記第2当接部と前記ストッパとの間の前記上下方向の距離は、前記第1ロッドの前記第1当接部と前記ストッパとの間の前記上下方向の距離よりも長い請求項2に記載のヘッドバーユニット。
【請求項4】
前記回転体は、さらに、前記ベースから前記上下方向に延びる第2ロッドを備え、
前記第2ロッドの、前記ストッパに近い側の端部には、前記複数の当接部に含まれる第3当接部が形成されており、
前記第1ロッドの前記第1当接部と、前記第2ロッドの前記第3当接部の前記上下方向の位置は互いに異なる、請求項2又は3に記載のヘッドバーユニット。
【請求項5】
前記ベースは、
前記第1ロッドの、前記ストッパから遠い側の端部が当接する第1部分と、
前記第2ロッドの、前記ストッパから遠い側の端部が当接する第2部分であって、前記上下方向の位置が前記第1部分と異なる第2部分と、を有し、
前記第1ロッドの前記第上下方向の長さと、前記第2ロッドの前記上下方向の長さとが同じである請求項4に記載のヘッドバーユニット。
【請求項6】
前記ストッパの硬度は、前記回転体が有する前記複数の当接部の硬度よりも高い請求項1~5のいずれか一項に記載のヘッドバーユニット。
【請求項7】
前記複数のヘッドは、前記上下方向と交差する交差方向に沿って並び、
前記移動機構は、前記交差方向に離れた少なくとも2点で前記ヘッドバーを支持し、
前記ストッパは、前記交差方向において前記2点の中央に位置する請求項1~6のいずれか一項に記載のヘッドバーユニット。
【請求項8】
前記複数の当接部には、それぞれ凹部が形成されており、
前記ストッパの、前記当接部と当接する部分には、前記複数の当接部の前記凹部に嵌合する凸部が形成されている請求項1~7のいずれか一項に記載のヘッドバーユニット。
【請求項9】
さらに、前記モータを制御するコントローラを備え、
前記回転体の前記複数の当接部は、前記回転体と前記ストッパとが前記上下方向において最も離間するように前記移動機構を駆動した場合において、前記ストッパとの間の前記上下方向の距離が、それぞれ、L1、L2、L3(L1>L2>L3)である3つの当接部を有し、
前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態から前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態に変化させる場合において、前記コントローラは、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを前記上下方向において離間させ、
前記距離がL1である前記当接部と前記ストッパとが対面しないように、前記モータを駆動して前記回転体を回転させて、前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを対面させ、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを当接させる、請求項1~8のいずれか一項に記載のヘッドバーユニット。
【請求項10】
前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態から前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態に変化させる場合において、前記コントローラは、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを前記上下方向において離間させ、
前記距離がL1である前記当接部と前記ストッパとが対面しないように、前記モータを駆動して前記回転体を回転させて、前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを対面させ、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを当接させる、請求項9に記載のヘッドバーユニット。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヘッドバーユニットと
前記モータを制御するコントローラと、を備え、
前記回転体の前記複数の当接部は、前記回転体と前記ストッパとが前記上下方向において最も離間するように前記移動機構を駆動した場合において、前記ストッパとの間の前記上下方向の距離が、それぞれ、L1、L2、L3(L1>L2>L3)である3つの当接部を有し、
前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態から前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態に変化させる場合において、前記コントローラは、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを前記上下方向において離間させ、
前記距離がL1である前記当接部と前記ストッパとが対面しないように、前記モータを駆動して前記回転体を回転させて、前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを対面させ、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを当接させる印刷装置。
【請求項12】
前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態から前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを当接させている状態に変化させる場合において、前記コントローラは、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL3である前記当接部と前記ストッパとを前記上下方向において離間させ、
前記距離がL1である前記当接部と前記ストッパとが対面しないように、前記モータを駆動して前記回転体を回転させて、前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを対面させ、
前記移動機構を駆動して、前記距離がL2である前記当接部と前記ストッパとを当接させる、請求項11に記載の印刷装置。
【請求項13】
請求項3に記載のヘッドバーユニットと、
前記複数のヘッドがそれぞれ有するノズル面の状態を維持するためのメンテナンス処理を行うメンテナンスユニットとを備え、
前記ベースの前記第2当接部と前記ストッパとが当接しているときには、前記ノズル面と前記メンテナンスユニットとは、前記上下方向において重なっており、
前記第1ロッドの前記第1当接部と前記ストッパとが当接しているときには、前記ノズル面と前記メンテナンスユニットとは、前記上下方向において隙間を有して離間していることを特徴とするヘッドバーシステム。
【請求項14】
請求項4に記載のヘッドバーユニットと、
前記複数のヘッドがそれぞれ有するノズル面の状態を維持するためのメンテナンス処理を行うメンテナンスユニットとを備え、
前記メンテナンスユニットは、前記ノズル面を覆うキャップと、前記ノズル面をワイプするワイパーとを有し、
前記回転体と前記ストッパとが前記上下方向において最も離間するように前記移動機構を駆動した場合において、前記第1ロッドの前記第1当接部と前記ストッパとの間の前記上下方向の距離は、前記第2ロッドの前記第3当接部と前記ストッパとの間の前記上下方向の距離よりも長く、
前記第1ロッドの前記第1当接部と前記ストッパとが当接しているときには、前記ノズル面と前記キャップとが当接し、
前記第2ロッドの前記第3当接部と前記ストッパとが当接しているときには、前記ノズル面と前記ワイパーとが当接することを特徴とするヘッドバーシステム。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載のヘッドバーユニットと、
前記ヘッドバーユニットに向けてシートを搬送するように構成された搬送装置と、を備える印刷装置。
【請求項16】
請求項13又は14に記載のヘッドバーシステムと、
前記ヘッドバーシステムが備えるヘッドバーユニットに向けてシートを搬送するように構成された搬送装置と、を備える印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のヘッドを有するヘッドバーを上下方向に移動させる機構を含むヘッドバーユニット、及びそれを含む印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ある公知の印刷装置は、複数のインクジェットヘッドを有するヘッドバーを、エアシリンダで上下動させる機構を備えている(例えば、特許文献1参照)。当該公知の印刷装置においては、エアシリンダを駆動させることによってヘッドバーを下方に大きく移動させることができる。さらに、当該公知の印刷装置は、下方に移動した後のヘッドバーの上下位置を微調整する機構として、ヘッドバーの下方において下方に延びる第1係合部材と、ヘッドバーの下方において上方に延びて第1係合部材と係合する第2係合部材とを備えている。第1係合部材と第2係合部材とが係合することにより、ヘッドバーが上下方向に位置決めされる。ここで、第1係合部材は、雌ネジ部材に螺合する雄ネジ部材の先端に設けられており、モータが雄ネジ部材を回転させることにより、第1係合部材を上下方向に移動させることができる。このようにして、第1係合部材をモータで上下方向に移動させることにより、ヘッドバーの上下位置を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の公知の印刷装置において、モータが雄ネジ部材を回転させることにより、第1係合部材を上下方向に移動させている。なお、第1係合部材の移動に伴って、ヘッドバーも上下方向に移動する。そのため、ヘッドバーの重量が大きい場合には、雄ネジ部材を回転させるためのモータとして高出力のモータを選定する必要があった。このような高出力のモータ、及び高出力のモータに接続されるギアヘッドなどの駆動系は、非常にコストが高くなるため、印刷装置のコスト高に繋がる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、高出力のモータを用いることなく、ヘッドバーの上下位置を調整できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、複数のヘッドを有するヘッドバーと、
前記ヘッドバーに支持されて、前記複数のヘッドの上下方向の位置を調整する調整機構と、
前記ヘッドバーと前記調整機構とを前記上下方向に移動させる移動機構とを備え、
前記調整機構は、
モータと、
前記上下方向の位置がそれぞれ異なる複数の当接部を有し、前記モータによって前記上下方向に平行な回転軸の周りに回転する回転体と、
前記回転体と前記上下方向において対向する位置に配置され、前記複数の当接部の1つと当接するストッパとを備える、ことを特徴とするヘッドバーユニットが提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記構成において、調整機構に含まれるモータは、回転体を回転させるために用いられているので、例えばヘッドバーを上下に移動させるのに必要な高出力のモータである必要は無い。上記構成においては、ヘッドバーを上下に移動させる移動機構として、例えばエアシリンダなどを用いることができるため、モータを用いてヘッドバーを上下に移動させる場合と比べてコストを下げることができる。また、モータによって回転される回転体に含まれる複数の当接部は、上下方向の位置が互いに異なっている。いずれの当接部とストッパとを当接させるかを選択することにより、ヘッドバーの上下方向の位置を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は印刷装置1の概略を示す平面図である。
【
図2】
図2はヘッドバー10の概略を示す平面図である。
【
図3】
図3はヘッドバー10とメンテナンスユニット20を説明するための概略図である。
【
図4】
図4はメンテナンスユニット20の斜視図である。
【
図5】
図5は、ヘッドバー10が下降している状態を示す説明図である。
【
図6】
図6は、ヘッドバー10を側面から見た状態を示す説明図である。
【
図7】
図7は、ヘッドバー10が上昇している状態を示す説明図である。
【
図8】
図8(a)は、調整機構60を側面から見た状態を示す説明図であり、
図8(b)は、回転体70を説明するための斜視図である。
【
図9】
図9(a)は、待避位置にあるヘッドバー10を第2印刷位置に移動させる場合を説明するための説明図であり、
図9(b)は、第2印刷位置にあるヘッドバー10を待避位置に移動させる場合を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る印刷装置1を、図面に基づいて説明する。
図1は、印刷装置1を略示する平面図である。
図1において、記録媒体Mの搬送方向は印刷装置1の前後方向に対応する。また記録媒体Mの幅方向は印刷装置1の左右方向に対応する。また前後方向及び左右方向と直交する方向、即ち
図1における紙面に垂直な方向は印刷装置1の上下方向に対応する。
【0010】
図1に示すように、印刷装置1は、筐体2内に収容されたプラテン3、4つのヘッドバー10、二つの搬送ローラ5A、5B、コントローラ7等を備える。また、
図1には図示されていないが、印刷装置1は後述のメンテナンスユニット20(
図3参照)、移動機構50(
図5参照)、調整機構60(
図5参照)等を備える。本明細書においては、少なくとも1つのヘッドバー10と、移動機構50と、調整機構60とを総称して、ヘッドバーユニットと称する。また、ヘッドバーユニットとメンテナンスユニット20とを総称して、ヘッドバーシステムと称する。
【0011】
図1に示されるように、プラテン3の上面には、記録媒体Mが載置される。4つのヘッドバー10は、プラテン3の上方において、プラテン3に対向するように配置されている。各ヘッドバー10には、インクタンク13(
図3参照)から異なる色のインクが供給される。ヘッドバー10の構造については後ほど詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、二つの搬送ローラ5A、5Bは、プラテン3の前方及び後方にそれぞれ配置されている。二つの搬送ローラ5A、5Bは、図示しないモータによってそれぞれ駆動され、プラテン3上の記録媒体Mを搬送方向の下流側(前方)へ搬送する。
【0013】
コントローラ7は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備える。なおコントローラ7はCPU(Central Processing Unit)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を備えてもよい。コントローラ7は、PC等の外部装置9とデータ通信可能に接続されており、外部装置9から送られた印刷データに基づいて、印刷装置1の各部を制御する。
【0014】
図2は、4つのヘッドバー10のうちの1つを略示する平面図である。
図3は、印刷装置1の略示断面図である。
図2に示すように、ヘッドバー10は、複数のヘッド11(本実施形態では10個のヘッド11)と、複数のヘッド11を保持するホルダバー12を備えている。ホルダバー12は、左右方向に長い矩形の板状の形状を有している。複数のヘッド11は前後方向に並んだ2つのヘッド列を構成している。各ヘッド列には、それぞれ、左右方向に並ぶ5つのヘッド11が含まれている。なお、2つのヘッド列に含まれるヘッド11の位置は、左右方向にずれている。つまり、10個のヘッド11は千鳥状に配置されている。
【0015】
各ヘッド11の下面11bは複数のノズル11aが形成されたノズル面である。
図2に示すように、ヘッド11の複数のノズル11aは、ヘッドバー10(ホルダバー12)の長手方向である、左右方向に沿って列状に並んでいる。
【0016】
図3に示すように、リザーバ14が複数のヘッド11の上方に配置されている。リザーバ14は、インクタンク13にチューブ16を介して接続されている。チューブ16には加圧ポンプ15が設けられている。リザーバ14には、インクタンク13から供給されたインクが一時的に貯留される。リザーバ14の下部は複数のヘッド11に接続されている。複数のヘッド11には、リザーバ14からインクが供給される。
【0017】
コントローラ7は、搬送ローラ5A、5Bを駆動するモータを制御して、二つの搬送ローラ5A、5Bに記録媒体Mを搬送方向に搬送させる。また、これとともに、コントローラ7は、4つのヘッドバー10を制御し、ノズル11aから記録媒体Mに向けてインクを吐出させる。これにより、記録媒体Mに画像が印刷される。
【0018】
図3において矢印で示されるように、ヘッドバー10は後述の移動機構50により上下方向に移動可能である。ヘッドバー10の右方にメンテナンスユニット20が配置されている。メンテナンスユニット20は左右方向に移動可能であり、右位置と左位置との間を移動可能である。右位置はヘッドバー10から右側に離れた位置であり、ヘッドバー10と対向しない位置である。左位置はヘッドバー10の下方位置であり、ヘッドバー10に対向する位置である。メンテナンスユニット20は、例えばボールねじ機構によって左右移動する。
【0019】
図4は、メンテナンスユニット20を示す斜視図である。メンテナンスユニット20は、廃液パン21と、廃液パン21の内部に配置された複数(本実施形態では10個)の吸引ユニット22とを備える。廃液パン21は矩形の箱形をなし、上面が開口している。10個の吸引ユニット22はヘッド11に対応して、千鳥状に配置されている。メンテナンスユニット20が左位置にあるとき、吸引ユニット22がヘッド11と上下方向において対向する。各吸引ユニット22は、キャップ23を有している。キャップ23は、例えばゴムのような可撓性のある材料によって形成されている。キャップ23は上面が開口した矩形の箱形の形状を有している。10個のキャップ23は、不図示の吸引ポンプ及び廃液タンクと接続されている。吸引ユニット22がヘッド11と上下方向において対向した状態で、後述の移動機構50によりヘッドバー10を所定の位置まで下降させることにより、キャップ23は、ヘッド11のノズル11aを覆うようにヘッド11に接触する。
【0020】
キャップ23が複数のノズル11aを覆うようにヘッド11の下面11bに接触した状態で、不図示の吸引ポンプを駆動することにより、キャップ23とヘッド11の下面11bとの間の空間を減圧することができる。これにより、複数のノズル11aからそれぞれインクを吸引して排出させる、吸引パージを行なうことができる。吸引パージを行うことにより、ノズル11a内の高粘度化したインクをノズル11aから強制的に排出することができ、ヘッド11の吐出特性の回復等を行うことができる。吸引パージによって排出されたインクは、不図示の廃液タンクに貯留される。
【0021】
図4に示されるように、左右方向に並ぶ二つの吸引ユニット22の間、及び、最も左側の吸引ユニット22の左側には、それぞれワイパ24が設けられている。ワイパ24は、ゴムや布などの弾性体で構成されている。ワイパ24は、ヘッド11のノズル11aが形成されたノズル面に対して摺動することによって、ノズル面をワイプする。
【0022】
次に、ヘッドバーユニットの構造について、
図5、6を参照しつつ詳細に説明する。上述の通り、ヘッドバーユニットは、少なくとも1つのヘッドバー10と、移動機構50と、調整機構60と、を有する。ヘッドバーユニットは、さらに、一対のアーム41と、第1フレーム42と、第2フレーム43と、2本のシャフト44とを備える。一対のアーム41は、4つのヘッドバー10のうち少なくとも1つを支持する。第1フレーム42は、板状の部材であり、且つ一対のアーム41が取り付けられている。第2フレーム43は、第1フレーム42の下方に位置している。2本のシャフト44は、第2フレーム43の左右方向両端部から上方に延びている。なお、図面を簡略化するため、
図5においては、ヘッドバー10とアーム41が省略されている。
【0023】
一対のアーム41のうち、1つ目のアーム41は第1フレーム42の左右方向における一方の端部に固定され、2つ目のアーム41は、他方の端部に固定されている。
図6に示されるように、一対のアーム41は、それぞれ、前後方向に延在する第1腕部41aと、第1腕部41aの前方端部から上向きに延在する傾斜部41bと、傾斜部41bの上端から前方に延在する第2腕部41cとを有する。第2腕部41cの前端は、第1フレーム42に固定されている。一対のアーム41は第1フレーム42の左右方向の両端部に固定されているので、2つのアーム41の第1腕部41aは、左右方向に間隔を空けて対向している。2つのアーム41の第1腕部41aの間にヘッドバー10が架け渡された状態で、ヘッドバー10が2つのアーム41のそれぞれの第1腕部41aに固定されている。
【0024】
2本のシャフト44のうち、1つ目のシャフト44の下端は、第2フレーム43の左右方向における一方の端部に固定され、2つ目のシャフト44の下端は第2フレーム43の左右方向における他方の端部に固定されている。各シャフト44は第1フレーム42に形成された不図示の貫通孔を通って、さらに上方に向かって延在している。後述の移動機構50により、第1フレーム42が上方に移動する際に、第1フレーム42は2本のシャフト44に沿って上方に移動する。つまり、2本のシャフト44は、第1フレーム42が上方に移動する際のガイドとして機能する。
【0025】
図5に示されるように、第1フレーム42には、移動機構50と調整機構60とが設けられている。移動機構50は、ヘッドバー10を上下方向に移動させる。調整機構60は、移動機構50によって上下方向に移動したヘッドバー10の上下方向の位置を調整する。移動機構50は、一対のエアシリンダ51と、エアシリンダ51にエアを供給する不図示のエア供給システムを備えている。一対のエアシリンダ51は、左右方向において、2本のシャフト44の間であって、調整機構60から等間隔に離れた位置に配置されている。なお、調整機構60は、左右方向における、ヘッドバー10のほぼ中央に配置されている。一対のエアシリンダ51は、それぞれ、筒状の本体51aと、エア圧によって本体51aから下方に突出するロッド51bとを有する。一対の本体51aは、それぞれ、第1フレーム42に固定されており、一対のロッド51bの先端は、それぞれ、第2フレーム43に固定されている。ロッド51bが本体51aから突出するようにエアシリンダ51を駆動すると、その反力によって、一対の本体51b及び一対の本体51bを固定している第1フレーム42が、一対のシャフト44に沿って上方に移動する(
図7参照)。第1フレーム42には一対のアーム41が固定されており、一対のアーム41にはヘッドバー10が固定されている。そのため、第1フレーム42が一対のシャフト44に沿って上方に移動することにより、ヘッドバー10も上方に移動する。逆に、ロッド51bが本体51aに入るようにエアシリンダ51を駆動するとき、第1フレーム42は一対のシャフト44に沿って下方に移動する。これにより、ヘッドバー10を下方に移動させることができる。
【0026】
調整機構60は、第1フレーム42に固定された架台61と、モータ62と、モータ62の回転軸に取り付けられた回転体70と、第2フレーム43に固定されたストッパ65とを備える。架台61の下端は第1フレーム42に固定されており、架台61の上部にはモータ62が固定されている。モータ62の回転軸には、カップリングを介して回転体70が取り付けられている。第1フレーム42には不図示の貫通孔が形成されており、回転体70は貫通孔を通って第1フレーム42の下方に延びている。モータ62を駆動することにより、回転体70をモータ62の回転軸の周りに回転させることができる。
【0027】
図8(a)、8(b)に示されるように、回転体70は、円筒形状のベース71と、ベース71の下面に設けられた5本のロッド72~76を備える。5本のロッド72~76は、互いに長さが異なる円柱形状の部材であり、この順番に長くなっている。ロッド72~76は、ベース71の下面において、この順番で周方向に並んで配置されている。
【0028】
図5、7に示されるように、ストッパ65の下端は第2フレーム43に固定されている。ストッパ65は回転体70と上下方向に対向する位置に配置されている。モータ62を駆動して、回転体70をモータ62の回転軸の周りに回転させることにより、ロッド72~76のいずれか1つを、ストッパ65に対向させることができる。後述のように、エアシリンダ51を駆動して、第1フレーム42をシャフト44に沿って最も上方に移動させた状態で、ロッド72~76のいずれか1つが、ストッパ65に対向するように、回転体70を回転させる。その後、エアシリンダ51を駆動して、ロッド72~76の1つとストッパ65とが当接するように第1フレーム42をシャフト44に沿って下方に移動させる。これにより、第1フレーム42の上下方向の位置を精確に位置決めすることができ、換言すれば、ヘッドバー10の上下方向の位置を精確に位置決めすることができる。なお、本実施形態において、ロッド72~76は、ステンレス鋼により形成されており、ストッパ65は焼き入れされたステンレス鋼により形成されている。そのため、ストッパ65の硬度はロッド72~76の硬度よりも高い。
【0029】
本実施形態において、ロッド72の下端は回転体70のベース71の下面から下方にX2mm離れた位置にある。以下の説明においては、ロッド72の下端の高さ位置がX2mmであると表現する。ロッド72の下端がストッパ65の表面と当接した場合には、ヘッドバー10が最も下方に位置づけられる。以下の説明においては、ロッド72の下端をロッド72の当接部と呼ぶ。他のロッドについても同様である。以下の説明では、ロッド72とストッパ65とが当接している場合における、ヘッドバー10の上下方向の位置を、第1印刷位置と呼ぶ。記録媒体Mが普通紙のような薄手のシートである場合には、記録媒体Mへの印刷の際に、ヘッドバー10が第1印刷位置に位置づけられる。
【0030】
本実施形態において、ロッド73の当接部の高さ位置はX3mmである。ロッド73の当接部がストッパ65と当接した場合には、ヘッドバー10の下面(ノズル面)とプラテン3の上面との間の間隔が、ヘッドバー10が第1印刷位置にあるときのヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔よりもX3-X2mm大きくなる。以下の説明では、ロッド73の当接部とストッパ65とが当接している場合の、ヘッドバー10の上下方向の位置を、第2印刷位置と呼ぶ。記録媒体Mへの印刷の際、記録媒体Mが普通紙よりも厚手のシートである場合には、ヘッドバー10が第2印刷位置に位置づけられる。したがって、ロッド73の当接部の高さ位置は、ロッド72の当接部の高さ位置よりも大きく(X3>X2)、X3-X2は(厚手のシートの厚み)-(薄手のシートの厚み)に対応する。
【0031】
本実施形態において、ロッド74の当接部の高さ位置はX4mmである。ロッド74の当接部がストッパ65と当接した場合には、ヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が、ヘッドバー10が第1印刷位置にあるときのヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔よりも約2.5X2(=X4-X2)mm大きくなる。以下の説明では、ロッド74の当接部とストッパ65とが当接している場合の、ヘッドバー10の上下方向の位置を、キャップ位置と呼ぶ。ヘッドバー10がキャップ位置にあるとき、キャップ23の先端がヘッドバー10の下面に当接する。キャップ23の先端がヘッドバー10の下面(ノズル面)に当接しているときのキャップ23の高さ(上下方向の長さ)が、約2.5X2mmである。これにより、キャップ23を用いてヘッドバー10の下面をキャッピングすることができ、ヘッド11のノズル11a内のインクの乾燥を防ぎ、ノズル11内に異物が混入することを防ぐことができる。
【0032】
本実施形態において、ロッド75の当接部の高さ位置はX5mmである。ロッド75の当接部がストッパ65と当接した場合には、ヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が、ヘッドバー10が第1印刷位置にあるときのヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔よりも約2.6X2(=X5-X2)mm大きくなる。以下の説明では、ロッド75の当接部とストッパ65とが当接している場合の、ヘッドバー10の上下方向の位置を、ワイプ位置と呼ぶ。ヘッドバー10がワイプ位置にあるとき、ワイパ24の先端がヘッドバー10の下面に当接する。ワイパ24の先端がヘッドバー10の下面(ノズル面)に当接いているときのワイパ24の高さ(上下方向の長さ)が、約2.6X2mmである。この状態でメンテナンスユニット20を左右方向に移動させることにより、ワイパ24でヘッドバー10のノズル面をワイピングすることができる。なお、ロッド75の当接部の高さ位置は、ロッド74の当接部の高さ位置よりも大きい(X5>X4)。また、ワイパ24の先端がヘッドバー10のノズル面に当接しているときのワイパ24の先端の高さ位置は、キャップ23の先端がヘッドバー10のノズル面に当接しているときのキャップ23の上端の高さ位置よりも大きい。つまり、X5-X4は、ワイパ24の先端がヘッドバー10のノズル面に当接しているときのワイパ24の先端の高さ位置から、キャップ23の先端がヘッドバー10のノズル面に当接しているときのキャップ23の上端の高さ位置を引いた値に略対応する。
【0033】
本実施形態において、ロッド76の当接部の高さ位置はX6mmである。ロッド76の当接部がストッパ65と当接した場合には、ヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が、ヘッドバー10が第1印刷位置にあるときのヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔よりも約3X2(=X6-X2)mm大きくなる。以下の説明では、ロッド75の当接部とストッパ65とが当接している場合の、ヘッドバー10の上下方向の位置を、待避位置と呼ぶ。ヘッドバー10が待避位置にあるとき、ヘッドバー10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が充分大きくなるため、ヘッドバー10の下方に向けてメンテナンスユニット20を左右方向に移動させるときに、ヘッドバー10とメンテナンスユニット20が互いに干渉しない。ヘッドバー10を待避位置に位置づけることにより、メンテナンスユニット20は、ヘッドバー10と干渉することなく、ヘッドバー10と上下方向に対向する位置まで、左右方向に移動することができる。なお、ロッド76の当接部の高さ位置は、ロッド75の当接部の高さ位置よりも大きい(X6>X5)。また、ワイパ24の先端がヘッドバー10のノズル面に当接していない状態のワイパ24の先端の高さ位置は、ワイパ24の先端がヘッドバー10のノズル面に当接しているワイパ24の上端の高さ位置よりも大きい。つまり、X6-X5は、ワイパ24の先端がヘッドバー10のノズル面に当接していない状態のワイパ24の先端の高さ位置から、ワイパ24の先端がヘッドバー10ノズル面に当接しているワイパ24の上端の高さ位置を引いた値に、メンテナンスユニット20が移動する際に発生する上下のガタ分と若干の値を加えた値に対応する。
【0034】
次に、調整機構60を用いたヘッドバー10の上下方向の位置の調整方法について説明する。まず、印刷装置1に電源を投入した後などの初期状態において実行される、モータの原点調整について説明する。モータの原点調整を行う際には、コントローラ7はエアシリンダ51を駆動して、第1フレーム42が第2フレーム43から最も遠ざかるように、第1フレーム42を上方に移動させる。これにより、ヘッドバー10もプラテン3から最も遠ざかるように上方に移動する。このとき、ロッド72~76の先端(当接部)とストッパ65の上面とは互いに当接せず、上下方向に隙間を有している。そのため、モータ62を用いて回転体70を回転させる際に、モータ62にかかる負荷は非常に小さい。なお、上述の公知の印刷装置においては、モータが雄ネジ部材を回転させることにより、ヘッドバーに連結された第1係合部材を上下方向に移動させていた。このように、モータが重量の大きいヘッドバーを移動させる場合には、モータにかかる負荷は大きくなる。これに対して、本実施形態では、モータ62はヘッドバー10そのものを移動させるのではなく、回転体70を回転させる。そのため、上述の公知の印刷装置のモータにかかる負荷に比べて、モータ62にかかる負荷を小さくすることができる。次に、ロッド76がストッパ65と上下方向において対向するように、モータ62を駆動して回転体70を回転させる。本実施形態においては、ロッド76とストッパ65とが上下方向において対向する位置が、回転体70を回転させるモータ62の制御における制御原点となる。この状態で、エアシリンダ51を駆動して、ロッド76とストッパ65とが当接するように、第1フレーム42を下方に移動させることにより、ヘッドバー10が待避位置に位置づけられる。なお、以下の説明においては、ロッド76がストッパ65と対向した状態から、ロッド75がストッパ65と対向した状態になる向きに回転体70が回転する方向を順方向と呼び、ロッド76がストッパ65と対向した状態から、ロッド72がストッパ65と対向した状態になる向きに回転体70が回転する方向を逆方向と呼ぶ(
図9(a)、9(b)参照)。
【0035】
次に、待避位置にあるヘッドバー10を第2印刷位置に移動させる場合を例に挙げて、調整機構60を用いたヘッドバー10の上下方向の位置の調整方法を説明する。
【0036】
まず、コントローラ7は、エアシリンダ51を駆動して、第1フレーム42が第2フレーム43から最も遠ざかるように、第1フレーム42を上方に移動させる。このとき、
図9(a)、9(b)に示されるように、ロッド76とストッパ65との間の上下方向の距離はL1であり、ロッド73とストッパ65との間の上下方向の距離はL2であり、ロッド72とストッパ65との間の上下方向の距離はL3である(L1<L2<L3)。
【0037】
次に、コントローラ7は、ロッド76とストッパ65とが上下方向において対向している状態から、ロッド73とストッパ65とが上下方向において対向している状態になるように、モータ62を駆動して回転体70を回転させる。この場合には、以下のような2通りの方法が考えられる。第1に、ストッパ65が、ロッド75、ロッド74、に対向した後、ロッド73に対向するように、順方向に回転体70を回転させることが考えられる(
図9(a)参照)。第2に、ストッパ65がロッド72に対向した後、ロッド73に対向するように、逆方向に回転体70を回転させることが考えられる(
図9(b)参照)。モータ62の駆動量、すなわち、回転体70をどれだけ大きく回転させなければならないかという観点からすると、後者のように、逆方向に回転体70を回転させる方が、順方向に回転体70を回転させるよりも効率的である。しかしながら、このような逆方向に回転体70を回転させた場合、ストッパ65との間の距離がL2であるロッド73がストッパ65と対向する前に、ストッパ65との間の距離がL3(L3>L2)であるロッド72がストッパ65と対向することになる。万が一、ロッド72とストッパ65とが対向しているときに、エアシリンダ51のエアが抜けるなどのトラブルが発生した場合、エアシリンダ51が第1フレーム42を支えきれなくなって、第1フレーム42及びヘッドバー10が下降する恐れがある。この場合、ヘッドバー10が当初予定していた第2印刷位置を超えてさらに下降する恐れがあるため、記録媒体Mの厚さによってはヘッドバー10に当接してヘッドバー10の下面を傷つける恐れがある。また、エアシリンダ51のエアが抜けるなどして、第1フレーム42及びヘッドバー10が下降した場合の、ロッドとストッパとの衝突による衝撃の大きさは、下降量(すなわち、ロッドとストッパとの間の距離)が大きいほど大きくなる。
【0038】
そこで、本発明においては、ヘッドバー10が当初予定していた第2印刷位置を超えて下降してしまう恐れが無いように、さらに、第1フレーム42及びヘッドバー10が、あるロッドとストッパとが当接するまで下降した場合に受ける衝撃の大きさを小さくするために、ストッパ65が、ロッド75及びロッド74に対向した後、ロッド73に対向するような向きである順方向に回転体70を回転させている。そのため、仮に、ストッパ65がロッド75又はロッド74と対向しているときにエアシリンダ51のエアが抜けるなどのトラブルが発生した場合であっても、ヘッドバー10が当初予定していた第2印刷位置を超えて下降する恐れが無い。また、ロッド72とストッパ65とが対向しているときに、第1フレーム42及びヘッドバー10が下降した場合の衝撃の大きさに比べて、ロッド75(74)とストッパ65とが対向しているときに、第1フレーム42及びヘッドバー10が下降した場合の衝撃の大きさは小さくなる。これにより、第2印刷位置を超えて下降することによるヘッドバー10の破損や、ロッドとストッパとの衝突による衝撃によるヘッドバー10の破損(例えば、ヘッドバー10の下面の破損)を抑制することができる。
【0039】
同様の理由により、第2印刷位置にあるヘッドバー10を待避位置に移動させる場合においては、ストッパ65が、ロッド74及びロッド75に対向した後、ロッド76に対向するような向きである順方向に回転体70を回転させる。これにより、ストッパ65との間の距離がL3(L3>L2)であるロッド72がストッパ65と対向することを避けることができるため、ヘッドバー10が当初予定していた第2印刷位置を超えて下降する恐れが無い。これにより、ヘッドバー10の破損、例えば、ヘッドバー10の下面が破損すること等を抑制することができる。また、上述のように、ロッドとストッパとの衝突による衝撃を抑えることができる。
【0040】
以上をまとめると、本発明においては、ストッパ65がロッド72~76の1つのロッド(スタート位置のロッド)と対向している状態から、ストッパ65がロッド72~76の別のロッド(ストップ位置のロッド)と対向している状態になるように、回転体70を回転させる場合には、ストッパ65がスタート位置のロッド及びストップ位置のロッドよりも短いロッドと対向しないように、回転体70を回転させる。これにより、想定していた位置よりもヘッドバー10が下降してしまう恐れがなく、それに伴うヘッドバー10の破損、例えば、ヘッドバー10の下面が破損すること等を抑制することができる。また、上述のように、ロッドとストッパとの衝突による衝撃を抑えることができる。
【0041】
次に、回転体の別の態様について説明する。上記の説明においては、回転体70のロッド72~76の長さは、互いに異なっていた。本発明において、回転体70は上記のような態様には限られない。例えば、
図10(a)、10(b)に示されるような回転体170を採用することができる。
【0042】
図10(a)、10(b)に示されるように、回転体170は、円筒形状のベース171と、ベース171の下面に設けられた3本のロッド172~174を備える。ロッド172~174は、ロッド72~76と同様のステンレス鋼により形成されている。3本のロッド172~174は互いに長さの等しい六角柱形状の部材である。
図10(a)に示されるように、ロッド172~174の下端(ストッパ65と当接する当接面)には、凹部が形成されている。それに伴って、ストッパ65の上面には、ロッド172~174の当接面の凹部に嵌合する凸部が形成されている。なお、
図8(a)、8(b)に示されるベース71と比較して分かるように、ベース171の厚さはベース71の厚さよりも大きい。ベース171の下面には、扇形状の凹部175(本発明の第2当接部に対応)が形成されており、凹部175の高さ位置が、回転体70のロッド72の当接部の高さ位置と同じである。そのため、ストッパ65をベース171の凹部175に当接させることにより、ヘッドバー10を第1印刷位置に位置づけることができる。
【0043】
ベース171の下面の、扇形状の凹部175が形成されていない部分の高さ位置は、回転体70のロッド73の当接部の高さ位置と同じである。そのため、ストッパ65をベース171の凹部175が形成されていない部分に当接させることにより、ヘッドバー10を第2印刷位置に位置づけることができる。
【0044】
ベース171の下面の、ロッド172と当接する部分には、切り込みCT1が形成されている。ロッド172の当接部の高さ位置が、回転体70のロッド74の当接部の高さ位置と同じとなるように、切り込みCT1の深さが調整されている。そのため、ストッパ65をロッド172の当接部に当接させることにより、ヘッドバー10をキャップ位置に位置づけることができる。また、ベース171の下面の、ロッド173の端部と当接する部分にも、切り込みCT1よりも浅い切り込みが形成されている。ロッド173の先端の高さ位置が、回転体70のロッド75の先端の高さ位置と同じとなるように、切り込みの深さが調整されている。そのため、ストッパ65をロッド173の先端に当接させることにより、ヘッドバー10をワイプ位置に位置づけることができる。さらに、ベース171の下面の、ロッド174の端部と当接する部分には、切り込みは形成されていない。ロッド174の先端の高さ位置は、回転体70のロッド76の先端の高さ位置と同じである。そのため、ストッパ65をロッド174の先端に当接させることにより、ヘッドバー10を待避位置に位置づけることができる。
【0045】
<実施形態の作用効果>
本実施形態に係る印刷装置1において、ヘッドバーユニットは、少なくとも1つのヘッドバー10と、移動機構50と、調整機構60とを備えている。上述のように、ヘッドバーユニットは、さらに、一対のアーム41と、一対のアーム41が取り付けられた板状の第1フレーム42と、第1フレーム42の下方に設けられた第2フレーム43と、2本のシャフト44とを備えている。調整機構60のモータ62及び回転体70(回転体170)は、架台61を介して第1フレーム42に支持されており、ストッパ65は第2フレーム43に支持されている。
【0046】
上記構成において、移動機構50は、ヘッドバー10及びヘッドバー10に支持された調整機構60を上下方向に動かすように構成されている。調整機構60に設けられているモータ62は、ヘッドバー10及び調整機構60を上下方向に動かすための移動機構50に設けられているものではなく、回転体70(回転体170)を回転させるために設けられている。そのため、移動機構50にモータを設ける場合と比べて、出力の小さいモータを採用することができ、安価なモータを利用することができる。また、移動機構50とは別に、ヘッドバー10の上下方向の位置を調節する調節機構60が設けられているので、移動機構50が細かい位置制御を行う必要がない。そのため、移動機構50において、モータを用いる必要は無く、例えばエアシリンダ51のような細かい位置制御には不向きであるが、モータを用いるよりも安価な機構を採用することができる。
【0047】
回転体70は、ベース71と、ベース71から延びるロッド72~76を備えている。ロッド72~76の下端は、ストッパ65の上端と当接する。回転体170は、ベース171と、ベース171から延びるロッド172~174を備えている。ロッド172~174の下端は、ストッパ65の上端と当接する。本発明においては、回転体を、一体の部品として、1つの部材から削り出して製造することも可能である。これに対して、本実施形態においては、上記のように回転体70はベース71にロッド72~76を固定した構造を有し、回転体170はベース171にロッド172~174を固定した構造を有している。この場合には、回転体70(回転体170)を、一体の部品として、1つの部材から削り出して製造する場合と比べて、回転体70(回転体170)の製造を容易に行うことができる。
【0048】
回転体170のベース171の下面には、凹部175が形成されている。上下方向に関して、凹部175とストッパ65の上面との間の距離は、ロッド172~174の下端とストッパ65の上面との間の距離よりも長い。凹部175を形成する場合における、凹部175の深さに対する公差は、ロッド172~174を形成する場合における、これらの長さに対する公差よりも小さくすることができる。つまり、ストッパ65の上面をロッド172~174の下端に当接させたときよりも、凹部175に当接させたときの方が、精確にヘッドバー10の位置決めを行うことができる。
【0049】
上記実施形態において、回転体70は、ベース71から延びるロッド72~76を備えており、上下方向における、ロッド72~76の当接部の位置は互いに異なる。同様に、回転体170は、ベース171から延びるロッド172~174を備えており、上下方向における、ロッド172~174の当接部の位置は互いに異なる。このように、複数のロッドの当接部の位置が互いに異なっているため、1つの回転体を用いて容易に複数の位置での位置決めを行うことができる。
【0050】
上記実施形態において、ベース171の下面の、ロッド172と当接する部分には、切り込みCT1が形成されている。これに対して、ベース171の下面の、ロッド173と当接する部分には、切り込みCT1よりも浅い切り込みが形成されているこのように、ベース171の下面の、ロッド172、173と当接する部分には、それぞれ、深さの異なる切り込みが形成されているので、ベース171の下面の、ロッド172、173と当接する部分の上下方向における位置は互いに異なる。そのため、ロッド172、173として同じ長さのロッドを用いた場合であっても、ロッド172、173の先端(当接部)の上下方向の位置が異なる位置になる。そのため、ロッド172、173として、サイズが同じである汎用品を用いることができ、コストを削減することができる。
【0051】
上記実施形態において、ロッド72~76は、ステンレス鋼により形成されており、ストッパ65は焼き入れされたステンレス鋼により形成されている。そのため、ストッパ65の硬度はロッド72~76の硬度よりも高い。これにより、ロッドと当接することによって、ストッパが破損してしまうことを抑制することができる。
【0052】
上記実施形態において、ヘッド11は、ヘッドバー10において、上下方向と交差する左右方向に列状に並んでいる。また、調整機構60は、左右方向における、ヘッドバー10のほぼ中央に配置されている。さらに、一対のエアシリンダ51は、調整機構60から左右方向に等間隔に離れた位置において、第1フレーム42及び第2フレーム43に固定されている。このように、移動機構50が少なくとも2点でヘッドバー10を支持して移動させているので、ヘッドバー10が傾く恐れがなく、バランスよくヘッドバー10を支持することができる。また、調整機構60が左右方向におけるヘッドバー10のほぼ中央に配置されているので、調整機構60がヘッドバー10の上下位置を調整する際にも、ヘッドバー10が傾く恐れがない。なお、調整機構60は、精確にヘッドバー10の左右方向の中央に配置されることには限られないが、できる限り中央に配置されることが好ましい。また、調整機構60の配置されている位置において、ヘッドバー10の左右両側の荷重が同じであることが好ましい。
【0053】
上記実施形態において、ロッド172~174の当接面には凹部が形成され、ストッパ65の上面には、ロッド172~174の当接面の凹部に嵌合する凸部が形成されている。これにより、ロッドとストッパとを確実に当接させることができる。なお、ロッド172~174の当接面に凸部が形成され、ストッパ65の上面にロッド172~174の当接面の凸部に嵌合す凹部が形成されていてもよい。
【0054】
今回開示した実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではない。上記実施形態で示された各構成は、全てが必須のものではなく、必要に応じて構成を省略することができる。例えば、ヘッドバー10の数や配置、1つのヘッドバーに含まれるヘッド11の数や配置等は適宜変更しうる。また、各ヘッド11に含まれるノズル11aの数や配置等も適宜変更しうる。また、上記実施形態においては、1つのヘッドバー10に対して、1つの移動機構50及び1つの調整機構60が設けられていたが、本発明はそのような態様には限られない。例えば、複数のヘッドバー10に対して、1つの移動機構50及び調整機構60が設けられていてもよい。また、2つのヘッドバー10に対して、1つの移動機構50及び調整機構60が設けられていてもよい。また、上記実施形態においては、印刷装置1にコントローラ7が設けられていたが、本発明はそのような態様には限られない。例えば、ヘッドバーユニットにコントローラ7が設けられていてもよい。
【0055】
上記実施形態において、移動機構50、調整機構60の構造、形状、材質等は適宜変更しうる。例えば、上記実施形態において、調整機構の回転体は5本または3本のロッドを備えており、回転体のベースに形成された当接部を含めて5つの当接部を有していた。しかしながら、本発明はこのような態様には限られず、回転体が4つ以下、又は6つ以上の当接部を有していてもよい。また、上記実施形態においては、回転体のロッドはステンレス鋼で形成され、ストッパは焼き入れされたステンレス鋼で形成されていた。しかしながら、本発明はこのような態様には限られない。ロッド及びストッパは適宜の材料で形成することができる。但し、ストッパの硬度はロッドの硬度よりも大きいことが好ましい。
【0056】
また、本発明はインクを吐出するインクジェット形式の印刷装置には限られない。また、画像等の印刷以外の様々な用途で使用される印刷装置においても本教示は適用されうる。例えば、基板に導電性の液体を吐出して、基板表面に導電パターンを形成する印刷装置にも、本教示を適用することは可能である。
本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
1 印刷装置
10 ヘッドバー
50 移動機構
60 調整機構
70、170 回転体